説明

樹脂モルタル組成物、および被覆物

【課題】高強度、かつ上塗り層との密着性に優れた塗膜を形成できる樹脂モルタル組成物、および被覆物の提供。
【解決手段】炭素数2〜12のヒドロキシアルキル基を分子中に1個以上有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単量体(A)を10〜30質量%、分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(B)(単量体(A)を除く)を40〜75質量%、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(C)(単量体(A)を除く)を0.5〜15質量%、可塑剤(D)を15質量%以下、ガラス転移温度が20〜155℃の樹脂(E)を10〜30質量%含むシラップ (x)100質量部に対して芳香族3級アミン(F)0.3〜4質量部と、ワックス(G)0.1〜2.5質量部とを含有するシラップ組成物(X)に、シラップ(x)100質量部に対して骨材(H)150〜800質量部を配合した樹脂モルタル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂モルタル組成物、および被覆物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやアスファルトなどによる床面、道路、壁面等には、メチルメタクリレート等の単官能モノマー、3級アミン、およびワックスを含むシラップ組成物からなる塗膜が被覆されている場合が多い。
また、塗膜の耐久性を向上させる目的で、シラップ組成物に骨材を配合した組成物(樹脂モルタル組成物)が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
さらに、シラップ組成物や樹脂モルタル組成物からなる塗膜上に、意匠や保護等を目的として上塗り層が設けられていたり、該塗膜と床面、道路、壁面等との間に、これらの密着性を向上させるための下塗り層(プライマー層)が設けられていたりするのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−265521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂モルタル組成物などからなる塗膜には、強度に優れることが求められており、一般的に、高強度の塗膜を形成するには、メチルメタクリレート等の単官能モノマーの含有量を増やせばよいとされている。
しかしながら、特許文献1に記載の組成物では、メチルメタクリレートの含有量を増やすと、高強度の塗膜は得られるものの、上塗り層との密着性が低下しやすかった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、高強度、かつ上塗り層との密着性に優れた塗膜を形成できる樹脂モルタル組成物、および被覆物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の種類および量のモノマーを含むシラップと、特定量のワックスとを含有するシラップ組成物に、骨材を配合することで、高強度、かつ上塗り層との密着性に優れた塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の樹脂モルタル組成物は、炭素数2〜12のヒドロキシアルキル基を分子中に1個以上有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単量体(A)を10〜30質量%、分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(B)(ただし、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単量体(A)を除く。)を40〜75質量%、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(C)(ただし、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単量体(A)を除く。)を0.5〜15質量%、可塑剤(D)を15質量%以下、ガラス転移温度が20〜155℃である樹脂(E)を10〜30質量%含むシラップ(x)と、該シラップ(x)100質量部に対して、芳香族3級アミン(F)0.3〜4質量部と、ワックス(G)0.1〜2.5質量部とを含有するシラップ組成物(X)に、該シラップ組成物(X)中のシラップ(x)100質量部に対して骨材(H)150〜800質量部を配合したことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の被覆物は、分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(B)を50〜85質量%、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(C)を20質量%以下、ガラス転移温度が20〜155℃である樹脂(E’)を10〜35質量%含むシラップ(y)と、該シラップ(y)100質量部に対して、芳香族3級アミン(F)0.3〜4質量部と、ワックス(G)0.1〜2.5質量部とを含有するシラップ組成物(Y)の硬化物よりなる下塗り層と、前記樹脂モルタル組成物の硬化物よりなる中塗り層と、前記シラップ組成物(Y)の硬化物よりなる上塗り層とが順次積層したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高強度、かつ上塗り層との密着性に優れた塗膜を形成できる樹脂モルタル組成物、および被覆物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの総称である。「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称である。「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基とメタクリロイル基の総称であり、一般式CH=C(R)−C(=O)−[Rは水素原子またはメチル基を示す。]で表される。
【0011】
[樹脂モルタル組成物]
本発明の樹脂モルタル組成物は、シラップ(x)と、芳香族3級アミン(F)と、ワックス(G)とを含有するシラップ組成物(X)に、骨材(H)が配合してなる。
【0012】
<シラップ組成物(X)>
(シラップ(x))
シラップ(x)は、炭素数2〜12のヒドロキシアルキル基を分子中に1個以上有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単量体(A)(以下、「単量体(A)」という。)と、分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(B)(ただし、単量体(A)を除く。)(以下、「単量体(B)」という。)と、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(C)(ただし、単量体(A)を除く。)(以下、「単量体(C)」という。)と、可塑剤(D)と、ガラス転移温度が20〜155℃である樹脂(E)とを含む。
【0013】
単量体(A);
単量体(A)は、塗膜に付着性と強度を付与する成分である。
単量体(A)としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘプチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシノニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシウンデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
これら単量体(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
単量体(A)の含有量は、シラップ(x)100質量%中、10〜30質量%であり、10〜20質量%が好ましい。単量体(A)の含有量が10質量%以上であれば、後述する上塗り層との密着性に優れ、高強度な塗膜を形成できる。一方、単量体(A)の含有量が30質量%以下であれば、作業に適した可使時間(組成物が流動性を有し、塗装作業可能な時間)を得られるとともに、塗膜の耐水性が良好となる。
【0015】
単量体(B);
単量体(B)は、本発明の樹脂モルタル組成物より形成される塗膜に強度を付与する成分である。
単量体(B)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、単量体(B)としては、ヘテロ環を有する単量体、オリゴエチレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレートを用いることができる。
【0016】
ヘテロ環を有する単量体としては、具体的に、フラン環、ヒドロフラン環、ピラン環およびヒドロピラン環からなる群より選ばれるヘテロ環を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
フラン環を有する(メタ)アクリレートとしては、フリル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロフラン環を有する(メタ)アクリレートとしては、テトラヒドロフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ピラン環を有する(メタ)アクリレートとしては、ピラニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロピラン環を有する(メタ)アクリレートとしては、ジヒドロピラニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロピラニル(メタ)アクリレート、ジメチルジヒドロピラニル(メタ)アクリレート、ジメチルテトラヒドロピラニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
オリゴエチレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコールモノメチルエーテルメタアクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、2−エトキシレーテッド2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
また、単量体(B)としては、上述した単量体以外の他の単量体を用いることができる。
他の単量体としては、例えばポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(エチレングリコールの繰り返し数が4以下)、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(ポリプロピレングリコールの繰り返し数が2以下)等の水酸基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロエチル(メタ)アクリレート、オクタフルオロエチルアクリレート等のフッ素原子含有(メタ)アクリレート;ジメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のジまたはトリアルキルシクロヘキシル基含有(メタ)アクリレート;ジメチルフェニル(メタ)アクリレート、トリメチルフェニル(メタ)アクリレート等のジまたはトリアルキルフェニル基含有(メタ)アクリレート;ベンジルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)クリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0019】
これらの中でも、単量体(B)としてはメチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
これら単量体(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
単量体(B)の含有量は、シラップ(x)100質量%中、40〜75質量%である。単量体(B)の含有量が40質量%以上であれば、十分な強度を有する塗膜を形成できる。一方、単量体(B)の含有量が75質量%以下であれば、後述する上塗り層との密着性に優れた塗膜を形成できる。
【0021】
単量体(C);
単量体(C)としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
これら単量体(C)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
単量体(C)の含有量は、シラップ(x)100質量%中、0.5〜15質量%であり、0.5〜10質量%が好ましい。単量体(C)の含有量が0.5質量%以上であれば、塗膜の機械的強度を向上させることができる。一方、単量体(C)の含有量が15質量%以下であれば、硬化するまでの時間が短くなりすぎず、作業性が良好となる。
【0023】
可塑剤(D);
可塑剤(D)は、樹脂モルタル組成物の柔軟性の向上を目的として配合されるものである。
可塑剤(D)としては、例えばジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、オクチルデシルフタレート、ジ−n−デシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル類;ジ−2−エチルヘキシルアジペート、オクチルデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、アセチルクエン酸トリブチル、ポリプロピレングリコール、アルカンスルフォン酸エステル類、塩素化パラフィン;アジピン酸系、アゼライン酸系、セバチン酸系、フタル酸系のポリエステル系高分子可塑剤;エポキシ化油、エポキシ化脂肪酸エステル等のエポキシ系高分子可塑剤などが挙げられる。
これら可塑剤(D)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
可塑剤(D)の含有量は、シラップ(x)100質量%中、15質量%以下である。可塑剤(D)の含有量が15質量%以下であれば、塗膜の表面に可塑剤(D)が滲出するのを抑制できるとともに、塗膜の付着性を向上できる。
なお、可塑剤(D)の含有量の下限値については特に制限されないが、樹脂モルタル組成物に十分な追随性を付与するには、5質量%以上が好ましい。
【0025】
樹脂(E);
樹脂(E)は、樹脂モルタル組成物の粘度調整および硬化性の向上を目的として配合されるものである。
樹脂(E)は、ガラス転移温度(Tg)が20〜155℃である。また、単量体(A)、(B)、(C)に可溶であることが好ましい。
【0026】
樹脂(E)のTgが20℃以上であれば、樹脂モルタル組成物の表面硬化性が良好となる。一方、樹脂(E)のTgが155℃以下であれば、樹脂モルタル組成物を調製する際、樹脂(E)の単量体(A)、(B)、(C)への溶解性が良好となる。
なお、樹脂(E)のTgは、示差走査熱量計(DSC)の測定により求めた値である。
【0027】
また、樹脂(E)の質量平均分子量(以下、「Mw」と記す。)は、5,000〜200,000が好ましく、10,000〜180,000がより好ましい。Mwが5,000以上であれば、樹脂モルタル組成物の塗膜強度をより向上させることができる。一方、Mwが200,000以下であれば、樹脂モルタル組成物を調製する際、樹脂(E)の単量体(A)、(B)、(C)への溶解性が良好となる。
樹脂(E)のMwは、樹脂を溶剤(テトラヒドロフラン)に溶解し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ(以下、「GPC」と記す。)により測定した分子量をポリスチレン換算したものである。
【0028】
このような樹脂(E)としては、例えばアルキル(メタ)アクリレートの単独重合体または共重合体、エポキシ樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体または共重合体、セルロースアセテートブチレート樹脂が好ましい。これら樹脂(E)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体または共重合体を構成する単量体としては、上述した単量体(B)などが挙げられる。
【0029】
樹脂(E)の含有量は、シラップ(x)100質量%中、10〜30質量%である。樹脂(E)の含有量が10質量%以上であれば、樹脂モルタル組成物の粘度バランスが良好となるとともに、硬化性が向上する。一方、樹脂(E)の含有量が30質量%以下であれば、樹脂モルタル組成物の可使時間を十分に確保しつつ、硬化時間を短縮できる。
【0030】
(芳香族3級アミン(F))
芳香族3級アミン(F)は、硬化反応を促進させる硬化促進剤の役割を果たす。
芳香族3級アミン(F)としては、少なくとも1個の芳香族残基が窒素原子に直接結合しているものが好ましい。このような芳香族3級アミンとしては、例えばN,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N−(2−ヒドロキシエチル)N−メチル−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン;N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジンまたはN,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。また、p(パラ)体に限定されず、o(オルト)体、m(メタ)体でもよい。これらの中でも、樹脂モルタル組成物の反応性、硬化性の観点から、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンが好ましい。
芳香族3級アミン(F)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
シラップ組成物(X)中の芳香族3級アミン(F)の含有量は、シラップ(x)100質量部に対して、0.3〜4質量部であり、0.3〜2質量部が好ましい。芳香族3級アミン(F)の含有量が0.3質量部以上であれば、樹脂モルタル組成物の表面硬化性が良好となる。一方、特に低温で硬化させるとき、芳香族3級アミン(F)の含有量を4質量部以下に調節することで、適切な可使時間とすることができる。
【0032】
(ワックス(G))
ワックス(G)は、空気遮断作用を利用した表面硬化性向上等の作用を奏する。
ワックス(G)としては、固形ワックス類が挙げられる。固形ワックス類としては、パラフィン類、ポリエチレン類、ステアリン酸等の高級脂肪酸類等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン類が好ましい。
【0033】
パラフィンワックスは、融点の異なる2種以上を併用することが好ましい。パラフィンワックスの融点は、40〜80℃が好ましい。融点が40℃以上であれば、樹脂モルタル組成物を塗装硬化させた際に十分な空気遮断作用が得られ、表面硬化性が良好となる。一方、融点が80℃以下であれば、樹脂モルタル組成物を調製する際、パラフィンワックスの単量体(A)、(B)、(C)への分散性が良好となる。また、パラフィンワックスを併用することによって、樹脂モルタル組成物を塗装硬化させるときに、下地温度が変わったときであっても、十分な空気遮断作用が得られ、表面硬化性が良好となる。併用する際には、融点の差が5℃〜20℃程度のものを併用することが好ましい。
【0034】
ワックス(G)としては、表面硬化性を向上させる点で、有機溶剤に分散したワックスを用いてもよい。ワックスが有機溶剤に分散状態にあり、微粒子化されていることにより、空気遮断作用を効果的に発現するとともに、塗膜に優れた付着性を付与することができる。
分散状態のワックスとしては、ヒドロキシポリエステルとパラフィンワックスの混合物などが挙げられる。また、分散状態のワックスとしては市販品を用いることができ、例えばビックケミー・ジャパン株式会社製の「BYK−S740」などが好適である。
なお、ワックス(G)として分散状態のワックスを用いる場合、本発明の樹脂モルタル組成物は有機溶剤も含有することになる。
また、分散状態のワックスとしては、有機溶剤を含有せずに、単量体(A)、(B)、(C)にワックスが分散しているものであってもよい。
【0035】
シラップ組成物(X)中のワックス(G)の含有量は、シラップ(x)100質量部に対して、0.1〜2.5質量部であり、0.1〜1質量部が好ましい。ワックス(G)の含有量が0.1質量部以上であれば、樹脂モルタル組成物を塗装硬化させた際に十分な空気遮断作用が得られ、表面硬化性が良好となる。一方、ワックス(G)の含有量が2.5質量部以下であれば、骨材を含まない樹脂組成物中にワックスが凝集することなく安定して分散させることができるとともに、樹脂モルタル組成物を塗装硬化させた際の耐汚染性が良好となる。
【0036】
(その他の成分)
シラップ組成物(X)は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外のその他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、多価金属石鹸、重合開始剤、シランカップリング剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤又は耐光安定剤、消泡剤等が挙げられる。
【0037】
多価金属石鹸;
多価金属石鹸としては、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、アセトアセチル酸コバルト、ナフテン酸マンガン、オクチル酸ニッケル等が挙げられる。
多価金属石鹸としては、適度な可使時間および良好な硬化性を得ることができるなどの観点から、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルトが好ましい。
多価金属石鹸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
シラップ組成物中の多価金属石鹸の含有量は、シラップ組成物(X)100質量%中、0〜0.5質量%が好ましい。多価金属石鹸を配合することで、さらに良好な硬化性を得ることができる。
ただし、多価金属石鹸の含有量が多すぎると、多価金属石鹸を分散溶解している溶剤量が多くなることから硬化性が低下したり、硬化塗膜の強度が低下したりする傾向にある。従って、多価金属石鹸の含有量の上限値は、0.5質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がより好ましい。
なお、本発明において、「多価金属石鹸の含有量」とは、多価金属石鹸に由来する金属の含有量のことである。
【0039】
重合開始剤;
本発明の樹脂モルタル組成物を硬化させるには、芳香族3級アミン(F)や上述した多価金属石鹸と、硬化剤とを組み合わせたレドックス触媒を用いることが好ましい。
硬化剤としては、ラジカル重合を開始させることができる公知の重合開始剤が挙げられる。重合開始剤としては、ジアシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、アルキルパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、アゾ化合物等が挙げられる。これらの中でも、ジアシルパーオキサイドが好ましく、ベンゾイルパーオキサイドが特に好ましい。ベンゾイルパーオキサイドは、取扱性の点から、不活性の液体または固体によって濃度が30〜55質量%程度に希釈された液状、ペースト状または粉末状のものが好ましい。
硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
硬化剤の添加量は、樹脂モルタル組成物の可使時間が10〜60分となるように適宜調整することが好ましい。該範囲で硬化剤を添加すれば、添加後すみやかに重合反応が開始され、樹脂モルタル組成物の硬化が進行する。
ベンゾイルパーオキサイドの含有量は、シラップ(x)100質量部に対して、0.25〜5質量部が好ましく、0.25〜4質量部がより好ましい。ベンゾイルパーオキサイドの含有量が0.25質量部以上であれば、硬化性が良好となる傾向にある。特に低温で硬化させるとき、ベンゾイルパーオキサイドの含有量を5質量部以下に調節すれば、樹脂モルタル組成物の塗工作業性、得られる塗膜の各種物性が向上する傾向にある。
【0041】
シランカップリング剤;
シランカップリング剤は、後述する下塗り層に対する密着性、配合する骨材との接着力を向上させる効果を有し、骨材を配合したときの破壊強度を向上させる役割を果たす。
シランカップリング剤としては、例えば3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0042】
また、上述した以外のシランカップリング剤としては、分子内に1個のビニル基を有するシランカップリング剤、分子内にエポキシ基を有するシランカップリング剤、分子内にアミノを有するシランカップリング剤、分子内にウレイド有するシランカップリング剤、分子内にメルカプト有するシランカップリング剤、分子内にスルフィド有するシランカップリング剤、分子内にイソシアネート有するシランカップリング剤などを用いることができる。
分子内に1個のビニル基を有するシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
分子内にエポキシ基を有するシランカップリング剤としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
シランカップリング剤の含有量は、シラップ(x)100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、硬化性、コストの点から、5質量部以下がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が10質量部以下であれば、樹脂モルタル組成物の下塗り層への密着性の安定化を保持しつつ、表面硬化性が良好となる。
【0044】
重合禁止剤;
重合禁止剤は、樹脂モルタル組成物の貯蔵安定性の向上、重合反応の調整の目的で配合されるものである。
重合禁止剤としては、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2−6−ジーt−ブチル4ーメチルフェノール等が挙げられる。
重合禁止剤の含有量は、シラップ(x)100質量部に対して、0.001〜0.2質量部が好ましく、0.002〜0.1質量部がより好ましい。
【0045】
紫外線吸収剤又は耐光安定剤;
紫外線吸収剤としては、例えば2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−オクチルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−デシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4,4’ −ジブトキシベンゾフェノンなどの2−ヒドロキシベンゾフェノンの誘導体或いは2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリイブチルフェニル)ベンゾトリアゾール或いはこれらのハロゲン化物或いはフェニルサリシレート、p−ターシャリイブチルフェニルサリシレートなどが挙げられる。これら紫外線吸収剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
一方、耐光安定剤としては、例えばビス(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6,−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジンなどが挙げられる。これら耐光安定剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
消泡剤;
消泡剤としては、公知の消泡剤が挙げられる。具体的には、特殊アクリル系重合物を溶剤に溶解させたアクリル系消泡剤、特殊ビニル系重合物を溶剤に溶解させたビニル系消泡剤等を挙げることができ、楠本化成株式会社から市販されているディスパロンシリーズ(製品名:OX−880EF、OX−881、OX−883、OX−77EF、OX−710、OX−8040、1922、1927、1950、P−410EF、P−420、P−425、PD−7、1970、230、230HF、LF−1980、LF−1982、LF−1983、LF−1984、LF−1985等。)等がより好ましく、ディスパロンシリーズのうち、230、230HF、LF−1980、LF−1985がさらに好ましく、230、LF−1985が特に好ましい。また、ビックケミー・ジャパン株式会社から市販されているBYK−052、BYK−1752を用いることもできる。
【0047】
その他;
また、シラップ組成物(X)は、酸化防止剤、レベリング剤、アエロジル等の揺変剤を任意の割合で含有してもよい。
さらには、酸化クロム、ベンガラ、酸化鉄等の無機顔料、フタロシアニンブルー等の有機顔料を任意の割合で添加してもよく、炭酸カルシウムなどの耐質顔料を用いてもよい。
【0048】
<骨材(H)>
本発明の樹脂モルタル組成物は、上述したシラップ組成物(X)に骨材(H)を配合したものである。
骨材(H)は、樹脂モルタル組成物から得られる塗膜に強度を付与する成分である。
骨材(H)としては、例えば砂、硅砂、川砂、寒水石、エメリー、大理石などの天然無機鉱石、アルミナ、スラグ、ガラス、セラミック骨材、陶器、磁器、タイル、ガラスビーズ、着色骨材などが挙げられる。
これら骨材(H)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
骨材(H)の配合量は、シラップ組成物(X)中のシラップ(x)100質量部に対して、150〜800質量部であり、150〜700質量部が好ましい。骨材(H)の配合量が150質量部以上であれば、塗膜に十分な強度を付与できるとともに、塗膜の形状安定性を良好に維持できる。一方、骨材(H)の含有量が800質量部以下であれば、樹脂モルタル組成物の塗工作業性を良好に維持できる。
【0050】
<作用効果>
以上説明した本発明の樹脂モルタル組成物は、特定量の単量体(A)、(B)、(C)を含むシラップ(x)に、特定量の芳香族3級アミン(F)およびワックス(G)を組み合わせたシラップ組成物に、骨材を配合しているため、高強度、かつ上塗り層との密着性に優れた塗膜を形成できる。
【0051】
<用途>
本発明の樹脂モルタル組成物は、コンクリートやアスファルトなどによる床面、壁面、道路の舗装面等の被覆材として好適である。
本発明の樹脂モルタル組成物は、上述した床面、壁面、道路の舗装面等の塗工面上に直接塗装してもよいし、予め塗工面上に下塗り層を設けておき、該下塗り層上に塗装してもよい。さらに、本発明の樹脂モルタル組成物からなる塗膜上には、意匠や保護を目的として上塗り層を設けてもよい。
【0052】
[被覆物]
本発明の被覆物は、下塗り層と、中塗り層と、上塗り層とを有する。
【0053】
<下塗り層>
下塗り層は、シラップ(y)と、芳香族3級アミン(F)と、ワックス(G)とを含有するシラップ組成物(Y)の硬化物よりなる。
シラップ(y)は、単量体(B)と、単量体(C)と、ガラス転移温度が20〜155℃である樹脂(E’)とを含む。
シラップ(y)に含まれる単量体(B)および単量体(C)としては、シラップ(x)の説明において先に例示した単量体(B)および単量体(C)が挙げられる。
また、シラップ(y)に含まれる樹脂(E’)としては、単量体(B)および単量体(C)に可溶である樹脂が好ましく、このような樹脂としては、例えばシラップ(x)の説明において先に例示した樹脂(E)が挙げられる。
【0054】
単量体(B)の含有量は、シラップ(y)100質量%中、50〜85質量%であり、60〜85質量%が好ましい。単量体(B)の含有量が50質量%以上であれば、シラップ組成物(Y)の粘度が十分低くなり、塗工作業性が良好となる。一方、単量体(B)の含有量が85質量%以下であれば、シラップ組成物(Y)の硬化性が良好となり、下塗り層に十分な強度を付与できる。
【0055】
単量体(C)の含有量は、シラップ(y)100質量%中、20質量%以下であり、15質量%以下が好ましい。単量体(C)の含有量が20質量%以上であれば、硬化するまでの時間が短くなりすぎず、作業性が良好となる。
なお、単量体(C)の含有量の下限値については特に制限されないが、0.5質量%以上が好ましい。
【0056】
樹脂(E’)の含有量は、シラップ(y)100質量%中、10〜35質量%であり、15〜35質量%が好ましい。樹脂(E’)の含有量が10質量%以上であれば、シラップ組成物(Y)の硬化性が良好となる。一方、樹脂(E’)の含有量が35質量%以下であれば、シラップ組成物(Y)の粘度が十分低くなり、塗工作業性が良好となる。
【0057】
シラップ組成物(Y)に含まれる芳香族3級アミン(F)としては、シラップ組成物(X)の説明において先に例示した芳香族3級アミン(F)が挙げられる。
シラップ組成物(Y)中の芳香族3級アミン(F)の含有量は、シラップ(y)100質量部に対して、0.3〜4質量部であり、0.3〜2質量部が好ましい。芳香族3級アミン(F)の含有量が0.3質量部以上であれば、シラップ組成物(Y)の表面硬化性が良好となる。一方、特に低温で硬化させるとき、芳香族3級アミン(F)の含有量を4質量部以下に調節することで、適切な可使時間とすることができる。
【0058】
シラップ組成物(Y)に含まれるワックス(G)としては、固形ワックス類が挙げられる。固形ワックス類としては、パラフィン類、ポリエチレン類、ステアリン酸等の高級脂肪酸類等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン類が好ましい。
パラフィンワックスとしては、シラップ組成物(X)の説明において先に例示したパラフィンワックスが挙げられる。
【0059】
シラップ組成物(Y)中のワックス(G)の含有量は、シラップ(y)100質量部に対して、0.1〜2.5質量部であり、0.1〜1質量部が好ましい。ワックス(G)の含有量が0.1質量部以上であれば、シラップ組成物(Y)を塗装硬化させた際に十分な空気遮断作用が得られ、表面硬化性が良好となる。一方、ワックス(G)の含有量が2.5質量部以下であれば、骨材を含まないシラップ組成物(Y)の樹脂組成物中にワックスが凝集することなく安定して分散させることができるとともに、シラップ組成物(Y)を塗装硬化させた際の耐汚染性が良好となる。
【0060】
シラップ組成物(Y)は、上述した成分以外のその他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、シラップ組成物(X)の説明において先に例示した多価金属石鹸、重合開始剤、シランカップリング剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤又は耐光安定剤、消泡剤等が挙げられる。
【0061】
<中塗り層>
中塗り層は、上述した本発明の樹脂モルタル組成物の硬化物(塗膜)よりなる。
【0062】
<上塗り層>
上塗り層は、上述したシラップ組成物(Y)の硬化物よりなる。上塗り層を構成するシラップ組成物(Y)は、下塗り層を構成するシラップ組成物(Y)と同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。また、上塗り層は、最外層に位置することから、上塗り層を構成するシラップ組成物(Y)は、その他の成分として紫外線吸収剤を含有することが好ましい。
【0063】
<被覆物の形成方法>
本発明の被覆物は、コンクリートやアスファルトなどによる床面、壁面、道路の舗装面等への被覆物として用いる。
床面、壁面、道路の舗装面等の施工面への被覆方法としては、例えば塗工面にシラップ組成物(Y)を塗工して下塗り層を形成し、該下塗り層上に本発明の樹脂モルタル組成物を塗工して中塗り層を形成し、該中塗り層上にシラップ(y)またはシラップ組成物(Y)等を塗工して上塗り層を形成する方法が挙げられる。
シラップ組成物(Y)や樹脂モルタル組成物などを塗工する際は、下塗り層が0.1〜1mm、中塗り層が1〜100mm、上塗り層が0.1〜2mmとなるように塗工するのが好ましい。
【0064】
塗工手段としては、ローラー、金ゴテ、刷毛、自在ボウキ、塗装機(スプレー塗装機等)等を用いる公知の塗工方法が挙げられる。
なお、芳香族3級アミン(F)や多価金属石鹸は、シラップ組成物(Y)や樹脂モルタル組成物を硬化させる直前に添加してもよく、予めシラップ組成物(Y)や樹脂モルタル組成物に添加しておいてもよい。
また、重合開始剤は、シラップ組成物(Y)や樹脂モルタル組成物を硬化させる直前に添加するのが好ましい。
【0065】
<作用効果>
本発明の被覆物は、本発明の樹脂モルタル組成物の硬化物よりなる中塗り層を備えるので、上塗り層との密着性に優れる。また、中塗り層は高強度であるため、被覆物全体としての強度も向上する。
【0066】
本発明の被覆物においては、施工面と下塗り層との間、下塗り層と中塗り層との間、上塗り層上に、他の層が設けられていてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について実施例および比較例により説明する。なお、以下の例における「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0068】
[シラップ組成物の調製]
<シラップ組成物(Y−1)の調製>
攪拌機、温度計、冷却管付きの1Lフラスコに、単量体(B)としてメチルメタクリレート(以下「MMA」と略す)58.0部、および2−エチルヘキシルアクリレート(以下「2−EHA」と略す)10.0部と、単量体(C)としてトリエチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製、商品名:アクリエステル3ED(以下「アクリエステル3ED」と略す))2.0部と、重合禁止剤として2−6−ジ−t−ブチル4−メチルフェノール(以下「BHT」と略す)0.026部と、ワックス(G)としてパラフィン−115(日本精蝋株式会社製、パラフィンワックス(以下「P−115」と略す))0.4部、パラフィン−130(日本精蝋株式会社製、パラフィンワックス(以下「P−130」と略す))0.3部、およびパラフィン−150(日本精蝋株式会社製、パラフィンワックス(以下「P−150」と略す))0.2部と、消泡剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名:BYK−1752)0.5部と、芳香族3級アミン(F)としてN,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン(以下「PTEO」と略す)1.0部を投入した後、攪拌しながら、樹脂(E)としてMMA/n−ブチルメタクリレート(以下「n−BMA」と略す)=60/40の共重合体(Tg=64℃、Mw=40,000)30.0部を投入した。引き続き、60℃で2時間加熱して、溶解した。溶解を確認後、冷却し、下塗り層用のシラップ組成物(Y−1)を得た。得られたシラップ組成物(Y−1)の配合組成を表1に示す。
【0069】
<シラップ組成物(X−1)の調製>
攪拌機、温度計、冷却管付きの1Lフラスコに、単量体(A)として2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(以下「2−HPMA」と略す)15.5部と、単量体(B)としてMMAを33.3部、および2−EHAを16.4部と、単量体(C)としてポリブチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製、商品名:アクリエステルPBOM(以下「PBOM」と略す))2.0部と、可塑剤(D)としてビニサイザー85(花王株式会社製、フタル酸エステル系可塑剤)5.4部、およびビニサイザー105(花王株式会社製、フタル酸エステル系可塑剤)1.4部と、重合禁止剤としてBHTを0.1部と、ワックス(G)としてP−130を0.2部と、芳香族3級アミン(F)としてN,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン(以下「DIPT」と略す)1.0部を投入した後、攪拌しながら、樹脂(E)としてMMA/n−BMA=60/40の共重合体(Tg=64℃、Mw=40,000)26.0部を投入した。引き続き、60℃で2時間加熱して、溶解した。溶解を確認後、冷却し、中塗り層用のシラップ組成物(X−1)を得た。得られたシラップ組成物(X−1)の配合組成を表1に示す。
【0070】
<シラップ組成物(X−2)〜(X−6)の調製>
表1に記載の配合組成にすること以外は、シラップ組成物(X−1)の調製と同様にしてシラップ組成物(X−2)〜(X−6)を得た。
【0071】
<シラップ組成物(Y−2)の調製>
攪拌機、温度計、冷却管付きの1Lフラスコに、単量体(B)としてMMAを42.1部、およびn−BMAを31.6部と、単量体(C)としてポリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステル14G(以下、「NKエステル14G」と略す)5.3部と、重合禁止剤としてBHTを0.025部と、ワックス(G)としてP−115を0.5部、P−130を0.3部、P−150を0.2部と、消泡剤としてBYK−1752を0.5部と、芳香族3級アミン(F)としてDIPTを1.0部と、酸化防止剤としてトリデシルホスファイト(城北化学工業株式会社製、商品名JP−310(以下「JP−310」と略す))0.25部と、紫外線吸収剤として2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(城北化学工業株式会社製、商品名JF−77(以下「JF−77」と略す))0.2部を投入した後、攪拌しながら、樹脂(E)としてMMA/n−BMA=60/40の共重合体(Tg=64℃、Mw=160,000)21.0部を投入した。引き続き、60℃で2時間加熱して、溶解した。溶解を確認後、冷却し、上塗り層用のシラップ組成物(Y−2)を得た。得られたシラップ組成物(Y−2)の配合組成を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1中の記号は以下の通りである。
・2−HPMA:2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、
・2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート、
・6−HHMA:6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート、
・MMA:メチルメタクリレート、
・n−BMA:n−ブチルメタクリレート、
・2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート、
・PBOM:ポリブチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製、商品名:アクリエステルPBOM)、
・アクリエステル3ED:トリエチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製、商品名:アクリエステル3ED)、
・NKエステル14G:ポリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステル14G)、
・ビニサイザー85:フタル酸系エステル可塑剤(花王株式会社製、商品名:ビニサイザー85)、
・ビニサイザー105:フタル酸系エステル可塑剤(花王株式会社製、商品名:ビニサイザー105)、
・トヨパラックス150:塩素化パラフィン(東ソー株式会社製、商品名:トヨパラックス150)、
・ポリマー1:MMA/n−BMA=60/40の共重合体(Tg=64℃、Mw=40,000)、
・ポリマー2:MMA/n−BMA=60/40の共重合体(Tg=64℃、Mw=160,000)、
・ポリマー3:MMA/MA=92.5/7.5の共重合体(Tg=87℃、Mw=80,000)、
・DIPT:N,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、
・PTEO:N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、
・DMPT:N,N−ジメチル−p−トルイジン、
・P−115:パラフィンワックス(日本精蝋株式会社製)、
・P−130:パラフィンワックス(日本精蝋株式会社製)、
・P−150:パラフィンワックス(日本精蝋株式会社製)、
・BHT:2−6−ジ−t−ブチル4−メチルフェノール、
・BYK−1752:消泡剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名:BYK−1752)、
・JP−310:トリデシルホスファイト(城北化学工業株式会社製、商品名:JP−310)、
・JF−77:2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(城北化学工業株式会社製、商品名:JF−77)。
【0074】
[実施例1]
<樹脂モルタル組成物の調製>
シラップ組成物(X−1)の100部に対して、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド50%顆粒品(化薬アクゾ株式会社製、商品名:パーカドックスCH−50L(以下「CH−50L」と略す))2部加えて、撹拌、混合した後、シラップ組成物(X−1)中のシラップ(x)100部に対して、骨材(株式会社菱晃製、商品名:KM−17A)を400部加え、十分に撹拌して樹脂モルタル組成物を得た。
得られた樹脂モルタル組成物について、以下のようにして粘度および硬化時間の測定、塗装作業性、硬化性、および密着性の評価、圧縮強度の測定を行った。結果を表2に示す。なお、粘度および硬化時間は骨材の添加有無には影響を受けにくいので、これらの測定については、シラップ組成物(X−1)について測定した。
【0075】
<測定・評価方法>
(粘度の測定)
シラップ組成物(X−1)を23℃の恒温水槽中で2時間放置した後、JIS K 6901に記載のブルックフィールド型粘度計における、タイプ1のBM型粘度計を用いて、シラップ組成物(X−1)の粘度を測定した。
【0076】
(硬化時間の測定)
シラップ組成物(X−1)を23℃の恒温水槽中にて2時間放置した後、シラップ組成物(X−1)の100部に対して、重合開始剤としてCH−50Lを2部加え、十分に撹拌した後、これを内径10mmの試験管(長さ12cm)の下部より7cmの位置まで投入した。ついで、再度、23℃の恒温水槽中に試験管を投入し、その中心部に熱電対を投入し、重合発熱による温度変化を記録した。このとき、重合開始剤を加えてから最大発熱温度に到達するまでに要した時間を硬化時間(分)とした。
硬化時間が120分以内であるものは、塗り重ねをする場合において作業上好ましく、硬化時間が60分以内であるものがより好ましい。
【0077】
(塗装作業性の評価)
シラップ組成物(Y−1)の100部に対して、重合開始剤としてCH−50Lを2部加えて、撹拌、混合した。これを塗膜の厚さが0.3mmになるように、23℃の雰囲気下、基材としてJISモルタル板(30cm×30cm×厚さ6cm)上にローラーを用いて塗装し、基材上に下塗り層を形成した。1時間後経過した後、塗膜(下塗り層)表面にべたつきがなく、硬化していることを確認した。
ついで、下塗り層上に、樹脂モルタル組成物を、塗膜の厚さが5mmになるように、コテを用いて塗装し、下塗り層上に中塗り層を形成した。なお、樹脂モルタル組成物は、下塗り層上へ塗装する直前に調製した。
下塗り層上に樹脂モルタル組成物を塗装したときの塗装作業性を下記評価基準に基づき評価した。
○:良好。
×:塗工ムラが発生。
【0078】
(硬化性の評価)
塗装作業性の評価と同様にして、下塗り層上に樹脂モルタル組成物を塗装してから1時間経過した後の塗膜(中塗り層)の表面の硬化性を指触にて確認し、下記評価基準に基づき評価した。
○:タックなし。
×:タックあり。
【0079】
(密着性の評価)
塗装作業性の評価と同様にして、下塗り層上に樹脂モルタル組成物を塗装して硬化させ、中塗り層を形成した。
ついで、シラップ組成物(Y−2)の100部に対して、重合開始剤としてCH−50Lを3部加えて、撹拌、混合したものを、塗膜の厚さが0.3mmになるように、直ちに中塗り層上にローラーを用いて塗装し、硬化させ、下塗り層、中塗り層、上塗り層が順次積層した被覆物で基材表面が被覆された試験片を得た。
得られた試験片を23℃の環境下で24時間以上放置し、JIS−K5600−5−6に準拠して、4mm幅でカットしてガムテープ(日東電工株式会社製、商品名:布粘着テープNo.750)を用いて付着性試験を実施した。そして、JIS−K5600−5−6に記載の基準に基づき、試験結果を0〜5に分類して、密着性の評価を行った。
【0080】
(圧縮強度の測定)
JIS−R5201記載の三連型枠に、樹脂モルタル組成物を流し込んで硬化させ、樹脂モルタル組成物の硬化物を得た。
得られた硬化物を長さ約8cmの部分で割り、20℃の恒温槽中にて4時間放置した後、JIS−R5201記載の圧縮試験を行い、圧縮強度を測定した。
【0081】
[実施例2〜4、比較例1〜2]
シラップ組成物(X−1)を、シラップ組成物(X−2)〜(X−6)に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂モルタル組成物を調製し、各種測定、評価を行った。結果を表2に示す。
なお、表2中の骨材の量は、シラップ組成物中のシラップ(x)100部に対する量である。
【0082】
【表2】

【0083】
表2中の記号は以下の通りである。
・CH−50L:ベンゾイルパーオキサイド50%顆粒品(化薬アクゾ株式会社製、商品名:パーカドックスCH−50L)、
・KM−17A:骨材(株式会社菱晃製、商品名:KM−17A)。
【0084】
表2から明らかなように、実施例1〜4で得られた樹脂モルタル組成物は、塗装作業性、および硬化性に優れていた。また、この樹脂モルタル組成物に用いられたシラップ組成物(X−1)〜(X−4)は、硬化時間が23〜30分であり、作業に適したものであった。
さらに、各樹脂モルタル組成物から形成された中塗り層は、上塗り層との密着性に優れていた。また、各樹脂モルタル組成物の硬化物は、高圧縮強度であった。
従って、本発明の樹脂モルタル組成物であれば、高強度、かつ上塗り層との密着性に優れた塗膜を形成できることが示された。
【0085】
一方、単量体(A)を含まないシラップ(x)を含有するシラップ組成物(X−5)、(X−6)を用いた比較例1、2で得られた樹脂モルタル組成物は、その硬化物の圧縮強度が低かった。特に、シラップ(x)100質量%中の可塑剤(D)の含有量が20質量%と多いシラップ組成物(X−6)を用いた比較例2の場合、樹脂モルタル組成物から形成された中塗り層は、上塗り層との密着性に劣っていた。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2〜12のヒドロキシアルキル基を分子中に1個以上有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単量体(A)を10〜30質量%、分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(B)(ただし、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単量体(A)を除く。)を40〜75質量%、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(C)(ただし、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単量体(A)を除く。)を0.5〜15質量%、可塑剤(D)を15質量%以下、ガラス転移温度が20〜155℃である樹脂(E)を10〜30質量%含むシラップ(x)と、
該シラップ(x)100質量部に対して、芳香族3級アミン(F)0.3〜4質量部と、ワックス(G)0.1〜2.5質量部とを含有するシラップ組成物(X)に、
該シラップ組成物(X)中のシラップ(x)100質量部に対して骨材(H)150〜800質量部を配合した樹脂モルタル組成物。
【請求項2】
分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(B)を50〜85質量%、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(C)を20質量%以下、ガラス転移温度が20〜155℃である樹脂(E’)を10〜35質量%含むシラップ(y)と、
該シラップ(y)100質量部に対して、芳香族3級アミン(F)0.3〜4質量部と、ワックス(G)0.1〜2.5質量部とを含有するシラップ組成物(Y)の硬化物よりなる下塗り層と、
請求項1に記載の樹脂モルタル組成物の硬化物よりなる中塗り層と、
前記シラップ組成物(Y)の硬化物よりなる上塗り層とが順次積層した被覆物。

【公開番号】特開2013−7000(P2013−7000A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142047(P2011−142047)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】