説明

樹脂モールドロータ、キャンドモータ、及びキャンドモータポンプ

【課題】簡単な構成、低コストで且つ確実に気密性を保持できる樹脂モールドロータ、該樹脂モールドロータを用いたキャンドモータ、及び該キャンドモータとポンプを一体化したキャンドモータポンプを提供すること。
【解決手段】磁石(永久磁石9)と、複数の鋼板を積層して構成され磁石を備えたロータ10と、ロータ10を装着し外部へ動力を伝達する主軸7とを備え、主軸7のロータ端面から軸方向所定寸法離れた位置の外周に溝を形成して負荷側溝部7−1、反負荷側溝部7−2を設け、ロータ10の外周及び該ロータから溝部までの主軸7の外周に樹脂モールド11を形成して樹脂モールドロータとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータコア及び磁石と主軸とを樹脂で一体モールドした構成の樹脂モールドロータ、該樹脂モールドロータを用いたキャンドモータ、及び該キャンドモータとポンプを一体化したキャンドモータポンプに関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
キャンドモータポンプのキャンドモータはロータに備えられた回転軸をメカニカルシールでシールすることなく、ロータを収納したロータ室をステータキャンにより隔離した構成であり、ポンプ取扱液のステータへの漏洩の心配が無く安全で且つ長寿命であるという特徴を有している。
【0003】
一方で、モータロータはポンプ取扱い液に曝されるので、ポンプ取扱い液に腐食性がある場合、モータロータを構成する主軸、ロータコア、永久磁石等は耐食性を考慮しなくてはならない。図1は従来のモータロータの構成例を示す図であり、図1(a)は正面断面、図1(b)は左側面図である。モータロータの主軸101等には耐食性の材料を使用することができるが、ロータコア102は一般に電磁鋼板、また永久磁石103は希土類元素等で構成され、耐食性が低いため、これらの部材が直接接液しないよう、図示するように、主軸101の材料と同等の材料、例えばステンレス材からなるロータキャン104、負荷側ロータキャン側板106−1、及び反負荷側ロータキャン側板106−2にてロータコア102や永久磁石103を覆い、ロータキャン104と負荷側ロータキャン側板106−1の接合部105−1、ロータキャン104と反負荷側ロータキャン側板106−2の接合部105−2、主軸101と負荷側ロータキャン側板106−1の接合部107−1、及び主軸101と反負荷側ロータキャン側板106−2の接合部107−2を溶接して密封していた。なお、主軸101の中心部には貫通穴101aが形成されている。
【0004】
上記従来のモータロータの製造工程は下記のようである。
(1)主軸101にロータコア102を嵌入する(焼嵌め、圧入等)。
(2)永久磁石103をロータコア102に挿入し、接着固定する。
(3)主軸101と同じステンレス製の負荷側ロータキャン側板106−1、及び反負荷側ロータキャン側板106−2をロータコア102の両側面に突き当て、それぞれ主軸7と周溶接する。
(4)ステンレス材からなるロータキャン104をロータコア102に被せ、両端面を負荷側ロータキャン側板106−1、及び反負荷側ロータキャン側板106−2とそれぞれ周溶接する。
(5)完成したモータロータを着磁ヨークに挿入し、着磁する。
【0005】
上記の従来のモータロータの構成及び製造工程には下記(a)〜(d)に示すような問題があった。
(a)ロータキャン104、負荷側ロータキャン側板106−1、及び反負荷側ロータキャン側板106−2に高価な部材を必要とした。
(b)部品の固定に接着や溶接を多用するため、製造工程に非常に時間を要し、製造コストが高くなる。
(c)溶接時の入熱により上記製造工程(2)の永久磁石103とロータコア102との接着固定に使用した接着剤が気化し、接着の健全性、及びガス発生によりロータキャン104の膨れ等が発生しやすい。
(d)ロータキャン104を構成する材料が金属材料であるので永久磁石が発生する磁界の通過及び回転時の磁束の変化に伴う渦電流が発生し、該渦電流が流れることによる熱の発生により、モータ効率を低下させていた。
【0006】
上記問題を解決するため、永久磁石を備えたロータと軸材とを樹脂モールとにより一体に主軸として構成したものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−312852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図2、図3に示すように、永久磁石103を備えたロータコア102と主軸101とを樹脂モールド層110で一体化し、主軸101として構成した従来例にあっては、高速時の遠心力や高トルク時のトルクに耐えうる強固な機械的強度を得ることができるが、気密性、特に樹脂硬化時の樹脂収縮によって、線膨張係数の異なる金属部材と樹脂との間に生じる隙間からの漏洩に関して何ら考慮されていない。特に主軸101を構成する金属材料と樹脂モールド層110を構成する樹脂材料との間の隙間への漏洩、取扱液の熱による膨張等の原因で樹脂モールド層110が破壊され、ついにはロータ部材・永久磁石103が接液することになり、モータ破損に至るという問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたもので、簡単な構成、低コストで且つ確実に気密性を保持できる樹脂モールドロータ、該樹脂モールドロータを用いたキャンドモータ、及び該キャンドモータとポンプを一体化したキャンドモータポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、磁石と、複数の鋼板を積層して構成され前記磁石を備えたロータと、前記ロータを装着し外部へ動力を伝達する主軸とを備え、前記主軸の前記ロータ端面から軸方向所定寸法離れた位置の外周に溝を形成し、前記ロータの外周及び該ロータから前記溝が形成された部分までの前記主軸外周に樹脂モールドを形成したことを特徴とする樹脂モールドロータにある。
【0011】
上記のように、ロータの外周及び該ロータから溝が形成された部分までの主軸外周に樹脂モールドを形成したことで、高速時の遠心力や高トルク時のトルクに耐えうる強固な強度を得ると共に、樹脂モールドのみの一体構成の樹脂モールドロータであっても、低コストで且つ確実に気密性を保持することができる。
【0012】
また、本発明は、上記樹脂モールドロータにおいて、前記溝は前記主軸の前記ロータより負荷側、及び反負荷側の両側にそれぞれ1以上設けたことを特徴とする。
【0013】
上記のように、主軸のロータより負荷側、及び反負荷側の両側にそれぞれ1以上の溝を設けたので、樹脂モールドと主軸の密着性が向上すると共に、溝部間における「ひけ」による変形を相殺し、安定した樹脂成形形状を得ることができる。
【0014】
また、本発明は、上記樹脂モールドロータにおいて、前記溝の少なくとも前記ロータに近い側の面は、前記主軸に直交する面から傾斜していることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記樹脂モールドロータと、前記樹脂モールドロータの主軸を回転支持する軸受と、前記ロータを取囲み、前記ロータに回転磁界を作用させるキャンド構造のステータとを備えたことを特徴とするキャンドモータにある。
【0016】
また、本発明は、上記キャンドモータと、主軸に固定された羽根車と、羽根車を取り囲むポンプケーシングとを備えたことを特徴とするキャンドモータポンプにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、主軸のロータ端面から軸方向所定寸法離れた位置の外周に溝を形成し、ロータの外周及び該ロータから溝が形成された部分までの主軸外周に樹脂モールドを形成したことにより、簡単な構成で樹脂モールドとロータ及び主軸の間に良好な密封状態を保つことができる樹脂モールドロータを提供することができる。
【0018】
また、キャンドモータにこの樹脂モールドロータを用いてキャンドモータを構成することより、長寿命のキャンドモータを簡便な構成で且つ低コストで提供できる。
【0019】
また、キャンドモータと、主軸に固定された羽根車と、羽根車を取り囲むポンプケーシングとでキャンドモータポンプを構成することにより、長寿命のキャンドモータポンプを簡単な構成で且つ低コストで提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来のキャンドモータのキャンドロータの概要構造を示す図である。
【図2】従来の一般的な樹脂モールドロータの概要構造を示す図である。
【図3】従来の一般的な樹脂モールドロータの概要構造を示す図である。
【図4】本発明に係るキャンドモータポンプの概要構造を示す断面図である。
【図5】本発明に係る樹脂モールドロータの概要構造を示す図である。
【図6】本発明に係る樹脂モールドロータの一部概要構造例を示す図である。
【図7】本発明に係る樹脂モールドロータの一部概要構造例を示す図である。
【図8】本発明に係る樹脂モールドロータの一部概要構造例を示す図である。
【図9】本発明に係る樹脂モールドロータの一部概要構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図面において同一又は相当する部材には同一符号を付す。
【0022】
図4は本発明に係るキャンドモータポンプの概要構造を示す断面図である。図示するように本キャンドモータポンプは、モータフレーム13の内周面に焼嵌め等で固定したステータ14と、該ステータ14内に回転自在に配置したロータ10と、該ロータ10の主軸7の先端部分に装着固定された羽根車1とを備えた構成である。ステータ14は、中央部に円形状の穴が形成された磁性板材を積層し内部に内周が略円筒状の貫通空間が形成されたステータコア15と、該ステータコア15に巻回した導体(巻線)16と、該ステータコア15の内周面に固着した例えばステンレス鋼等からなる略円筒状のステータキャン18を有する構成である。ロータ10は、内部に永久磁石9を埋設したロータコア12と、該ロータコア12の外周面と主軸7のロータコア12の装着範囲外の両軸端側外周に溝を形成した部分である負荷側溝部7−1と反負荷側溝部7−2までをロータ樹脂モールド11で覆った構成である。ロータコア12の外周に形成されたロータ樹脂モールド11の表面とステータキャン18の内周の間は均一の空隙δとなっている。
【0023】
なお、本実施形態例では、ロータ10の内部に永久磁石9を有するIPM(Internal Permanent Magnet)をモータに適用した例を示しているが、ロータ10の表面に永久磁石を有するSPM(Surface Permanent Magnet)を適用したモータやロータに電磁石を有するモータにも適用できることは勿論である。
【0024】
ステータキャン18の反負荷側(図1の左側)の端部18−2はモータフレーム13に当接させ、両者の当接部を溶接することによって固着している。また、ステータキャン18の負荷側(図1の右側)の端部18−1には、円板状の板材の中心に貫通穴を設けた負荷側ステータキャン側板19が、該負荷側ステータキャン側板19の貫通穴の内部にステータキャン18の端部18−1を嵌入し、両者の当接部を端面側から溶接することによって固着している。
【0025】
モータフレーム13は、反負荷側端部を反負荷側軸受ブラケット4で閉塞し、負荷側端部を開放する有底円筒状に形成されており、反負荷側軸受ブラケット4には、主軸7の軸方向に沿って内方に円筒状に突出した円筒状突出部4aを設け、該円筒状突出部4aに主軸7を回転自在に支持する反負荷側軸受6を設けている。モータフレーム13と反負荷側軸受ブラケット4との間を密閉する、例えばゴム製のOリング等からなる密閉部材20−3を介装しポンプ取扱液が外部へ漏れることを防ぐと共に、反負荷側軸受ブラケット4はボルト22を締め付けることで、モータフレーム13へ固定する構成となっている。更に反負荷側軸受6とロータ10との間に反負荷側スラストディスク8−2が主軸7に固定されて配置されている。
【0026】
一方、モータフレーム13の負荷側端部には、負荷側軸受ブラケット3が配置され、この負荷側軸受ブラケット3に、主軸7の出力側(図1の右側)に配置されて該主軸7を回転自在に支持する負荷側軸受5が固定されている。更に負荷側軸受5とロータ10との間に負荷側スラストディスク8−1が主軸7に固定されて配置されている。
【0027】
モータフレーム13と負荷側軸受ブラケット3との間には空間が形成され、この空間内に負荷側ステーキャン側板19の外周部を挟み込み、ポンプケーシング2を固定するボルト21を締め付けることで、負荷側ステータキャン側板19がその外周部をモータフレーム13と負荷側軸受ブラケット3とで挟持して固定するように構成している。更に、負荷側軸受ブラケット3はその外周部をモータフレーム13とポンプケーシング2で挟持して固定するように構成している。
【0028】
負荷側軸受ブラケット3と負荷側ステータキャン側板19との間には、例えばゴム製のOリング等からなる密閉部材20−2を介装し、負荷側軸受ブラケット3と負荷側ステータキャン側板19との間を密閉する、負荷側軸受ブラケット3とポンプケーシング2との間には、例えばゴム製のOリング等からなる密閉部材20−1が介装を介装し、負荷側軸受ブラケット3とポンプケーシング2の間を密閉する。
【0029】
上記のように負荷側ステータキャン側板19と負荷側軸受ブラケット3の間及び負荷側軸受ブラケット3とポンプケーシング2の間にそれぞれ間密閉部材20−2、20−1を介装させることにより、ポンプ取扱液が外部に漏洩することを防ぐことができる。
【0030】
図5はロータ樹脂モールド11を形成した樹脂モールドロータの全体構成を示す図で、図5(a)は正面断面図、図5(b)は左側面図である。また、図6はロータ10と主軸の一部拡大断面図である。上記のようにステータキャン18の内周面と外周面の間に均一の空隙δ(図4参照)を設けて配置されているロータ10は図示するように、内部に永久磁石9を埋設したロータコア12と、該ロータコア12の外周面と主軸7のロータ10の装着範囲外の両軸端側外周に設けた負荷側溝部7−1と反負荷側溝部7−2までをロータ樹脂モールド11で覆った構成となっている。
【0031】
ロータ樹脂モールド11には、耐食性の高い材料(PPS材、フッ素樹脂PFA等)を用いる。ロータキャンに相当するロータ樹脂モールド11の樹脂膜厚さは、おおよそ0.5mm〜1.0mm程度とすることで、機械的強度ならびに耐食性・耐液性を向上させることは可能であるが、必要以上に材料を使うことによる経済性の低下や材料の「ひけ」等による形状変化が発生し易くなり、生産性を損なう等の別の視点からの問題が生じる。
【0032】
また、従来のロータキャン側板部(図1の負荷側ロータスキャン側板106−1及び反負荷側ロータスキャン側板106−2を参照)に相当するロータ樹脂モールド11の両軸端側11−1、11−2の厚みは軸方向の位置決め精度等を考慮して約2〜3mmの厚みとするのが適している。これは、ロータキャンに相当するロータ樹脂モールド11の樹脂膜厚さの機械的強度ならびに耐食性、耐液性に関する仕様寸法に加え、主軸7にロータコア12を装着する時のロータコア12の軸方向位置決め精度寸法公差等を考慮して決定する。
【0033】
更に、主軸7はロータ10の装着範囲外の両軸端側外周に溝を形成した負荷側溝部7−1と反負荷側溝部7−2を設けており、ロータ樹脂モールド11は、ロータ10の装着範囲外の両軸端側に設けた負荷側溝部7−1と反負荷側溝部7−2までを覆った構成となっている。溝部7−1、7−2は、それぞれが主軸7の外周面を円周方向に一周するように設けられた環状の溝である。
【0034】
上記のようにロータ樹脂モールド11を負荷側溝部7−1と反負荷側溝部7−2まで覆った構成とすることで、ロータ樹脂モールド11は確実に主軸7に密着し、樹脂モールド成形後の自然冷却後も密着・密閉作用を持続することができる。また、主軸7の外周に設ける負荷側溝部7−1と反負荷側溝部7−2の溝の断面形状については、図7に示すようにクサビ形状、図8に示すように傾斜溝形状にしたり、図9に示すように溝の本数を複数本とすることにより、密着・密閉作用を向上させることができる。
【0035】
図2、図3に示す従来の樹脂モールドロータには図7、図8、図9に示す構造の負荷側溝部7−1及び反負荷側溝部7−2、若しくは相当する溝部は形成されていない。そのため、溶融樹脂材を射出して形成した樹脂モールド層110は、金属材料からなるロータコア102や主軸101よりも線膨張係数が大きく、射出成形後自然冷却去される過程において、ロータコア102を基準とし、ロータコア102の外径側へ収縮する。そのため、樹脂モールド層110の主軸101への密着部分も外径側に収縮する力が作用し、密着力が低下することになる。その結果、ロータコア102の内径側の露出や主軸101との間に隙間を生じる等、密閉効果を十分に得ることができない。
【0036】
本発明に係る樹脂モールドロータでは、図7、図8、図9に示すように負荷側溝部7−1及び反負荷側溝部7−2を有するので、型内に射出成形されたロータ樹脂モールド11は、金属材料からなるロータコア12や主軸7よりも線膨張係数が大きく、射出後自然冷却される過程において、負荷側溝部7−1と反負荷側溝部7−2によって、長手方向の収縮を利用し、ロータ樹脂モールド11を溝の側面に密着させることで、ロータコア12の外径及び永久磁石9は外部に露出することなく密閉されるのである。具体的には下記(1)乃至(4)に示すことができる。
【0037】
(1)1本溝の場合:図6に示すように、負荷側溝部7−1及び反負荷側溝部7−2に1本の溝を形成した場合、矢印Aに示すようにロータ樹脂モールド11の長手方向への収縮変化を利用して、ロータ樹脂モールド11を溝側面に押し付けることで密閉性を向上させている。
【0038】
(2)クサビ形状溝の場合:図7に示すように、負荷側溝部7−1及び反負荷側溝部7−2に形成した溝の断面形状がクサビ型である場合、矢印Aに示すようにロータ樹脂モールド11の長手方向への収縮変化だけでなく矢印Bに示すように外径方向への収縮変化も利用してロータ樹脂モールド11が溝側面のテーパ形状面に押し付けられることで密閉性を向上させることができる。
【0039】
(3)傾斜溝形状の場合:図8に示すように、負荷側溝部7−1及び反負荷側溝部7−2に形成する溝をクサビ型にする溝加工が複雑であることから、刃物に角度をつけて主軸7を加工することにより、傾斜した溝形状とした場合、(2)と同様にロータ樹脂モールド11の長手方向への収縮変化と外径方向への収縮変化も利用してロータ樹脂モールド11を溝側面のテーパ形状面に押し付けることで密閉性を向上させている。
【0040】
(4)複数本溝の場合:図9に示すように、負荷側溝部7−1及び反負荷側溝部7−2に複数本の溝(図では2本の溝)形成した場合、矢印C、Dに示すように隣り合った溝の間を繋ぐロータ樹脂モールド11の樹脂の長手方向の収縮を利用して、ロータ樹脂モールド11を溝側面に押し付けることで密閉性を向上させている。この場合、樹脂を押え付ける溝側面の数が増加することにより密閉性の信頼性が向上する。
【0041】
なお、図示は省略するが、上記(1)乃至(4)の各々の組合せた構成としてもよいことは勿論である。
【0042】
樹脂モールドロータに上記構成を採用することにより、図1に示す従来構成の樹脂モールドロータにより下記のように製造工程も簡略化できる。
(a)主軸7にロータコア10を嵌入する。
(b)上記製造工程(a)で得られたロータを主軸を案内にして射出成形型内に位置決めする。
(c)永久磁石9をロータコア10に装着する。
(d)ロータコア10及び永久磁石9が露出しないように樹脂材をモールド(射出成形)する。
(e)出来上がったモータロータを着磁ヨークに挿入し、着磁する。
【0043】
本実施形態では、温度管理は下記の温度で実施した。
・樹脂の溶融温度:約300℃
・成形型 :約100〜200℃
【0044】
上記のように、キャンドモータにおいて、ロータキャン材にステンレス材等の金属材料を用いず、耐食性のよい樹脂材にてロータ樹脂モールドとすることにより、本来の目的であるロータコアや磁石材を防食することができる。また、安価であるばかりか、従来の金属材からキャンのように運転中の渦電流の発生を防止することができ、効率のよいキャンドモータを提供できる。
【0045】
次に、図4に示すキャンドモータポンプの動作を説明する。出口線17に三相交流電源を接続し、ステータ14の導体(巻線)16に三相交流を通電することにより、発生する回転磁界がロータ10に作用し、羽根車1が回転する。羽根車1の回転によりポンプケーシング2の吸込口2aから吸い込まれたポンプ取扱液はポンプケーシング2内に流入し、吐出ボリュート24を通って吐出口(図示せず)から吐き出されると共に、一部は負荷側軸受ブラケット3に設けた穴3aを通ってステータキャン18で囲まれたロータ室内に流入する。ロータ室内に流入したポンプ取扱液はロータ樹脂モールド11とステータキャン18の間の隙間δを通って、反負荷側軸受ブラケット4の有底円筒状の円筒状突出部4a内に流入し、ここから主軸7の中心部に設けられた貫通穴7aを通って、羽根車1内に流れ込み、吸い込んだポンプ取扱液に合流する。
【0046】
上記のようにポンプ取扱液はステータキャン18で囲まれたロータ室内に流入し、ロータ樹脂モールド11とステータキャン18の間の隙間δを通って流れるが、ロータ10の外周及び主軸7のロータ10端面から負荷側溝部7−1及び反負荷側溝部7−2にロータ樹脂モールド11を形成しているから、ロータ樹脂モールド11とロータ10及び主軸7の間が良好な密封状態に保たれ、ロータ10にポンプ取扱液に接触することがない。よって、樹脂モールドロータの長寿命化が図れる。
【0047】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、磁石と、複数の鋼板を積層して構成され磁石を備えたロータと、ロータを装着し外部へ動力を伝達する主軸とを備え、主軸のロータ端面から軸方向所定寸法離れた位置の外周に溝を形成し、ロータの外周及び該ロータから溝が形成された部分までの主軸外周に樹脂モールドを形成したことにより、簡単な構成で樹脂モールとロータの外周及び主軸外周の間に良好な密封状態を保つことができる長寿命の樹脂モールドロータとして、キャンモータやキャンドモータポンプのモータロータとして利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 羽根車
2 ポンプケーシング
3 負荷側軸受ブラケット
4 反負荷側軸受ブラケット
5 負荷側軸受
6 反負荷側軸受
7 主軸
7−1 負荷側溝部
7−2 反負荷側溝部
8−1 負荷側スライドディスク
8−2 反負荷側スライドディスク
9 永久磁石
10 ロータ
11 ロータ樹脂モールド
12 ロータコア
13 モータフレーム
14 ステータ
15 ステータコア
16 導体(巻線)
17 出口線
18 ステータキャン
19 負荷側ステータキャン側板
20−1 密閉部材
20−2 密閉部材
20−3 密閉部材
21 ボルト
22 ボルト
23 羽根止ナット
δ 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石と、
複数の鋼板を積層して構成され前記磁石を備えたロータと、
前記ロータを装着し外部へ動力を伝達する主軸とを備え、
前記主軸の前記ロータ端面から軸方向所定寸法離れた位置の外周に溝を形成し、
前記ロータの外周及び該ロータから前記溝が形成された部分までの前記主軸外周に樹脂モールドを形成したことを特徴とする樹脂モールドロータ。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂モールドロータにおいて、
前記溝は前記主軸の前記ロータより負荷側、及び反負荷側の両側にそれぞれ1以上設けたことを特徴とする樹脂モールドロータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂モールドロータにおいて、
前記溝の少なくとも前記ロータに近い側の面は、前記主軸に直交する面から傾斜していることを特徴とする樹脂モールドロータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂モールドロータと、
前記樹脂モールドロータの主軸を回転支持する軸受と、
前記ロータを取囲み、前記ロータに回転磁界を作用させるキャンド構造のステータとを備えたことを特徴とするキャンドモータ。
【請求項5】
請求項4に記載のキャンドモータと、
前記主軸に固定された羽根車と、
前記羽根車を取り囲むポンプケーシングとを備えたことを特徴とするキャンドモータポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−139070(P2012−139070A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291152(P2010−291152)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】