説明

樹脂ライニング鋼管およびその製造方法

【課題】 複雑な工程や特殊な設備を必要とすることなく、ポリ塩化ビニルの代わりに腐食因子である酸素の透過が大きいポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂を内面ライニングする場合でも、従来の内外面溶融金属めっき鋼管にポリ塩化ビニルを内面ライニングした樹脂ライニング鋼管の代わりに使用することができ、長い期間に渡って鋼管と内面樹脂ライニング層との密着性に優れた給水、給湯、空調、消火、排水等の配管等に用いる樹脂ライニング鋼管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 鋼管の内面に接着層を有し、さらにその内側にポリオレフィン樹脂層または架橋ポリオレフィン樹脂層を有し、鋼管が予め下地処理した鋼管であり、下地処理として、結晶粒微細化処理を行ったリン酸塩の化成処理皮膜を施し、好ましくは鋼管と接着層との間にエポキシプライマー層を有し、鋼管の外面には金属溶射皮膜を有する樹脂ライニング鋼管およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給水、給湯、空調、消火、排水等の配管等に用いる樹脂ライニング鋼管およびその製造方法に関し、詳しく言えば、複雑な工程や特殊な設備を必要とすることなく、ポリ塩化ビニルの代わりに腐食因子である酸素の透過が大きいポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂を内面ライニングする場合でも、従来の内外面溶融金属めっき鋼管にポリ塩化ビニルを内面ライニングした樹脂ライニング鋼管の代わりに使用することができ、長い期間に渡って鋼管と内面樹脂ライニング層との密着性に優れた樹脂ライニング鋼管およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水等を輸送する配管材料としては鍛接鋼管や電縫鋼管等の鋼管の他に、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンやポリブテン等の熱可塑性の樹脂管が単体で使用されている。鋼管は、これらの樹脂管に比較して機械的強度が大きいので施工時の耐衝撃性や交通の激しい道路下の埋設等でも耐圧縮性が優れ、輸送する流体の温度が高い場合でも樹脂管に比較すると耐圧強度は十分大きく優れ、樹脂管と異なり燃焼し難いので屋内の用途に使用しても火災で延焼することもなく優れる。
【0003】
しかし、鋼の腐食による流体の濁り防止や管路の閉塞防止が必要な用途では、腐食が起こらない樹脂管が使用される。両者の良い点を合わせ持つ配管材料としては、鋼管の内面に樹脂管を挿入して防食した樹脂と鋼の複合管が知られている。例えば給水管や排水管としては安価なポリ塩化ビニルを活用した鋼と軟質ポリ塩化ビニルの複合管が、給湯管としては鋼と硬質ポリ塩化ビニルの複合管が各々広く使用されている。
【0004】
しかしながら、ポリ塩化ビニル材料を使用する場合、現地配管工事で発生した複合管残材の焼却廃棄処理時にダイオキシンが発生するという問題もある。従って、給水管、給湯管、排水管等に使用される複合管としてはポリ塩化ビニルを使用しないものが望まれていた。そこで、ポリ塩化ビニルの代わりにダイオキシン発生という問題がないポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂を内面ライニングした、給水、給湯、空調、消火、排水等の配管等に用いる樹脂ライニング鋼管が提案されている。
【0005】
ところが、上記樹脂ライニング鋼管のうち屋内配管や屋外露出配管として使用するものについては、従来のポリ塩化ビニルのように鉄を犠牲防食する金属を内外面溶融めっきした鋼管にポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂を内面ライニングすると、ポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂はポリ塩化ビニルと比べ腐食因子である酸素の透過がはるかに大きいので長い期間に渡って給水、給湯、空調、消火、排水等の配管に使用すると鋼管内面の溶融金属めっきが腐食し、鋼管と内面樹脂ライニング層の接着界面が劣化して接着力が弱まるため、内面樹脂ライニング層が鋼管から剥離することがわかった。
【0006】
そこで、剥離防止のためには、例えば特開2003−294174号公報(特許文献1)や国際公開WO2004−011231号公報(特許文献2)に開示されているような、内面に溶融金属めっきを施さず外面のみに溶融金属めっきを施した鋼管にポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂を内面ライニングした鋼管がある。しかし、鋼管外面のみ溶融金属めっきを施すには複雑な工程や特殊な設備が必要となり、製造や設備にかかるコストが高くなる。一方、従来の溶融金属めっき設備を使用して、一旦鋼管内外面に溶融金属めっきを施し、その後鋼管内面のみの溶融金属めっきを除去することも考えられるが、ブラスト処理では溶融金属めっきを完全に除去することが難しい。また、鋼管内面のみ酸洗して除去することも考えられるが、これも複雑な工程や特殊な設備が必要となる。
【0007】
このように鋼管外面のみ溶融金属めっきを施す方法では複雑な工程や特殊な設備が必要となり、製造や設備にかかるコストが高くなってしまう。さらに、前述のようにポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂はポリ塩化ビニルと比べ酸素の透過がはるかに大きいので、鋼管内面の腐食進行による内面樹脂ライニング層の剥離を抑制するためには鋼管に下地処理として化成処理皮膜を施すことが必要となるが、鋼管内面のみ化成処理皮膜を施すには、やはり複雑な工程や特殊な設備が必要となるといった問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−294174号公報
【特許文献2】国際公開WO2004−011231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、ポリ塩化ビニルの代わりに腐食因子である酸素の透過が大きいポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂を内面ライニングする場合でも、従来の内外面溶融金属めっき鋼管にポリ塩化ビニルを内面ライニングした樹脂ライニング鋼管の代わりに使用することができ、長い期間に渡って鋼管と内面樹脂ライニング層との密着性に優れた給水、給湯、空調、消火、排水等の配管等に用いる樹脂ライニング鋼管およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、ポリ塩化ビニルの代わりにダイオキシン発生という問題がないポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂を内面ライニングした、屋内配管や屋外露出配管として使用する樹脂ライニング鋼管について、鉄を犠牲防食する金属を内外面溶融めっきした鋼管に内面ライニングしないことを発明した。すなわち、ポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂はポリ塩化ビニルと比べ腐食因子である酸素の透過がはるかに大きいので、長い期間に渡って給水、給湯、空調、消火、排水等の配管に使用すると鋼管内面の溶融金属めっきが腐食し、鋼管と内面樹脂ライニング層の接着界面が劣化して接着力が弱まるため、内面樹脂ライニング層が鋼管から剥離する。
【0011】
本発明は、内外面溶融金属めっき鋼管の代わりに結晶粒微細化処理を行ったリン酸塩の化成処理皮膜を施した鋼管を用い、接着層を介してポリオレフィン樹脂層または架橋ポリオレフィン樹脂層を内面ライニングし、必要に応じエポキシプライマー層を設け、さらに外面には金属溶射皮膜を設けることによって、複雑な工程や特殊な設備を必要とすることなく、ポリ塩化ビニルの代わりに腐食因子である酸素の透過が大きいポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂を内面ライニングする場合でも、従来の内外面溶融金属めっき鋼管にポリ塩化ビニルを内面ライニングした樹脂ライニング鋼管の代わりに使用することができ、長い期間に渡って鋼管と内面樹脂ライニング層との密着性に優れた給水、給湯、空調、消火、排水等の配管等に用いる樹脂ライニング鋼管が可能なことを見出すことによりなされたもので、その要旨とするところは次のとおりである。
【0012】
(1)鋼管の内面に接着層を有し、さらにその内側にポリオレフィン樹脂層または架橋ポリオレフィン樹脂層を有し、前記鋼管が予め下地処理した鋼管であり、前記下地処理として、結晶粒微細化処理を行ったリン酸塩の化成処理皮膜を施し、前記鋼管の外面には金属溶射皮膜を有することを特徴とする樹脂ライニング鋼管。
【0013】
(2)前記接着層が、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水イタコン酸変性ポリオレフィン、エチレン・無水マレイン酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマーのうち1つまたは2つ以上よりなり、且つ、当該接着層の融解終了温度が、前記ポリオレフィン樹脂層または架橋ポリオレフィン樹脂層の使用温度超で融解開始温度未満であることを特徴とする前記(1)に記載の樹脂ライニング鋼管。
【0014】
(3)前記鋼管と前記接着層との間にエポキシプライマー層を有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の樹脂ライニング鋼管。
(4)前記樹脂ライニング鋼管を製造するに際し、鋼管に下地処理を施し、あるいは鋼管に下地処理を施し次にエポキシプライマー層を施し、鋼管内径よりも小さい外径の外面に接着層を有したポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプを前記鋼管に挿入し、当該鋼管を絞ることによりポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプを鋼管内面に密着せしめ、そして接着層の融解終了温度以上で且つポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの融解開始温度未満で加熱して接着することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の樹脂ライニング鋼管の製造方法。
【0015】
(5)前記鋼管を絞る際に、ポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの外径が0.5〜10%縮径されるように当該鋼管を絞ることを特徴とする前記(4)に記載の樹脂ライニング鋼管の製造方法にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内外面溶融金属めっき鋼管の代わりに結晶粒微細化処理を行ったリン酸塩の化成処理皮膜を施した鋼管を用い、接着層を介してポリオレフィン樹脂層または架橋ポリオレフィン樹脂層を内面ライニングし、必要に応じエポキシプライマー層を設け、さらに外面には金属溶射皮膜を設けることによって、複雑な工程や特殊な設備を必要とすることなくポリ塩化ビニルの代わりに腐食因子である酸素の透過が大きいポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂を内面ライニングする場合でも、従来の内外面溶融金属めっき鋼管にポリ塩化ビニルを内面ライニングした樹脂ライニング鋼管の代わりに使用することができ、長い期間に渡って鋼管と内面樹脂ライニング層との密着性に優れた給水、給湯、空調、消火、排水等の配管等に用いる樹脂ライニング鋼管を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の樹脂ライニング鋼管は、その製造に際し、まず、鋼管表面を脱脂し、酸洗やブラスト処理して清浄にする。外径は10〜2000mm程度、通常20〜170mm程度のものを用いる。次に、鋼管の下地処理として、結晶粒微細化処理を行い密着力を強化したリン酸塩の化成処理皮膜を施すと、長い期間に渡って給水、給湯、空調、消火、排水等の配管に使用しても内面樹脂ライニング層が鋼管から剥離することがないばかりか、寒冷地でさらに内面樹脂ライニング層が収縮しようとして剥離力が大きくなってもそれに化成処理皮膜が耐えきれず破壊してしまうことがないことを見出した。
【0018】
また、化成処理皮膜のリン酸塩の結晶が細粒であるほど接合強度が向上することを見出した。化成処理液としては、例えばリン酸、硝酸、酸化亜鉛、炭酸カルシウムと水からなり、水酸化ナトリウムでpHを調整した混合物(リン酸亜鉛カルシウム処理液)を用いる。リン酸亜鉛カルシウムは耐熱性に優れるため製造に加熱を伴う本発明に好適である。これらの添加量はリン酸イオンとして8〜15g/L、硝酸イオンとして30〜60g/L、亜鉛イオンとして2〜4g/L、カルシウムイオンとして5〜10g/L、pHは2.0〜2.5の範囲で、良好な耐水密着性が得られる。上記組成に該当する代表的なリン酸亜鉛カルシウム処理液としてはパルボンドP(日本パーカライジング社製)がある。
【0019】
化成処理皮膜の塗布は、鋼管の表面に上記化成処理液を浸漬塗布やスプレー塗装した後、鋼管を水洗・湯洗し熱風加熱や高周波誘導加熱等で加熱・乾燥して行うと良い。この化成処理皮膜の付着量は1〜10g/m2 程度が良い。その付着量が1g/m2 未満では化成処理皮膜が鉄表面を完全に覆っていないため、内面樹脂ライニング層の耐水接着力が低下する。また、その付着量が10g/m2 超では化成処理皮膜に脆弱な二次結晶粒が成長しているため、内面樹脂ライニング層の密着力や耐水接着力が低下する。
【0020】
結晶粒微細化処理は、化成処理皮膜を塗布する前に、鋼管の表面に例えばチタンコロイドを水に1〜5g/Lの範囲で分散させた処理液(代表的なものとしてはプレパレンZ(日本パーカライジング社製)がある)を浸漬塗布もしくはスプレー塗装すること、および/または、上記化成処理液に例えば塩基性炭酸ニッケルをニッケルイオンとして0.2〜1.0g/Lの範囲で添加することにより行う。チタンやニッケルはリン酸塩の結晶粒析出の核となり、鉄表面に緻密に付着して結晶粒を微細化するため、結晶粒と鉄との接触面積が増大し、密着力が向上する。結晶粒微細化処理を行わないと10μm超の大きさの結晶粒が発生するが、結晶粒微細化処理を行うと結晶粒の大きさが10μm以下に微細化されるため、密着力が3倍以上向上する。これらの添加量が下限値未満では結晶粒微細化の効果が低下し、上限値超では経済性が悪くなる。
【0021】
その後、鋼管内径より小さい外径を持ち、さらに鋼管の長さより長いポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプを鋼管に挿入し、ポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの外径が0.5〜10%縮径されるように鋼管をロール絞り、たたき絞りまたはダイス絞りすることにより、鋼管内面にポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプを密着させる。このポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの縮径率が0.5%未満であると、鋼管の内径に対してポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの外径が大きくなろうとする膨張力が小さくなるため、鋼管内面に密着させようとする力が弱まって、内面樹脂ライニング層の接着力が低下する。ポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの縮径率が10%超であると、ポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプが変形するため、鋼管内面への密着性が悪くなる。
【0022】
ポリオレフィン樹脂としては、エチレン単独重合体、あるいはエチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィンを共重合したエチレン−α−オレフィン共重合体、またはこれらの混合物に、本発明の性能を損なわない範囲で、必要に応じ酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、充填剤、滑剤、帯電防止剤等の添加剤、および他の樹脂等を混合した混合物を用いる。
【0023】
架橋ポリオレフィン樹脂としては、ラジカル発生剤を用いて上記ポリオレフィン樹脂を架橋したもの、またはシラン変性した上記ポリオレフィン樹脂を水架橋(シラン架橋)したものを用いる。ラジカル発生剤としては、例えばジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等の有機過酸化物を使用する。
【0024】
また、上記有機過酸化物以外にもアゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物を使用することもできる。シラン変性は、ラジカル発生剤存在化でエチレン性不飽和シラン化合物を上記ポリオレフィン樹脂にグラフト反応させることにより行われる。ここで、エチレン性不飽和シラン化合物は、下記一般式で表されるものである。
RSiR’n 3-n
(式中、Rはエチレン性不飽和炭化水素基または炭化水素オキシ基、R’は脂肪族飽和炭化水素基、Yは加水分解し得る有機基、nは0〜2を表す)
【0025】
具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等を使用する。このシラン変性は、予め押出機等で行っても良いし、成形時にホッパーより各原料成分を投入し、成形機の混練機部分で行うこともできる。架橋反応は押し出し成形時、および/または、成形後に、熱処理、水処理等により行う。シラン変性ポリオレフィン樹脂の場合は架橋速度を向上させるために、シラノール縮合触媒を併用することが望ましい。これは成形時に配合しても成形後に塗布しても良い。シラノール縮合触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ナフテン酸コバルト、トルエンスルホン酸等が使用できる。本発明に使用する架橋ポリオレフィン樹脂は、本発明の性能を損なわない範囲で、必要に応じ酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、充填剤、滑剤、帯電防止剤等の添加剤、および他の樹脂等を加えることができる。
【0026】
本発明に使用するポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの作製方法としては、ライニングしようとする鋼管の内径より小さな外径を有する丸ダイスより、パイプ状に樹脂を、押出機等を用いて押し出し、その後、冷やし、形状を固定する。このポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの厚みは必要に応じて任意に設定することができ、特に制限されるものではないが、通常0.3mm以上10mm以下、好ましくは、0.5mm以上5mm以下が用いられる。さらに、接着層との接着力を向上させるため、ポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプを成形した後必要に応じ、外面に市販プライマー塗布、酸化処理、または面粗しを施しても良い。
【0027】
鋼管とポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプとはあまり接着性がないため、間に接着層を有することが望ましい。特に、接着層は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水イタコン酸変性ポリオレフィン、エチレン・無水マレイン酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマーのうち1つまたは2つ以上よりなり、融解終了温度がポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの融解開始温度未満使用温度超である材料で形成することにより、他のものよりも格段に優れた接着力を発現することを見出した。
【0028】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンよりなる接着層のポリオレフィンとしては、例えば融解終了温度100℃の低結晶性エチレン系重合体等を使用する。これらの融解終了温度がポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの融解開始温度以上であると、接着力を発現させるための加熱をポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの融解開始温度以上で行う必要があるため、ポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプが軟化して膨張力が失われるとともに冷却工程では再結晶化による収縮力が生じ、鋼管内面に密着させようとする力が弱まって、内面樹脂ライニング層の接着力が低下する。また、これらの融解終了温度がポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの使用温度以下であると、使用中に接着層が完全に融解するため、内面樹脂ライニング層の接着力が低下する。
【0029】
上記接着層の塗布は、ポリオレフィン樹脂パイプ外面または架橋ポリオレフィン樹脂パイプ外面にライニングしようとする鋼管の内径より小さな外径を有する二層丸ダイスを用い、ポリオレフィン樹脂パイプ成形時または架橋ポリオレフィン樹脂パイプ成形時に接着層を共押し出し被覆する、あるいは丸ダイスやTダイスを用い、ポリオレフィン樹脂パイプ成形後または架橋ポリオレフィン樹脂パイプ成形後に接着層を押し出し被覆して行う。
【0030】
さらに、接着力を発現させるため、鋼管をロール絞り、たたき絞りやダイス絞りした後、熱風加熱や高周波誘導加熱等により接着層の融解終了温度以上ポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの融解開始温度未満で加熱する。加熱温度が接着層の融解終了温度未満であると、接着層が完全に融解しないため、内面樹脂ライニング層の接着力が発現しない。
【0031】
また、加熱温度がポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの融解開始温度以上であると、ポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプが軟化して膨張力が失われるとともに冷却工程では再結晶化による収縮力が生じ、鋼管内面に密着させようとする力が弱まって内面樹脂ライニング層の接着力が低下する。この接着層の厚みは必要に応じて任意に設定することができ、特に制限されるものではないが、通常1μm以上3mm以下、好ましくは、10μm以上1.5mm以下が用いられる。
【0032】
鋼管と接着層との間にエポキシプライマー層を有すると良好な耐水密着性が得られるので望ましい。エポキシプライマー層としては、例えばエポキシ、顔料、添加剤と硬化剤からなる混合物(エポキシ樹脂粉体プライマー)を用いる。エポキシとしては、例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテルやフェノールノボラック型またはクレゾールノボラック型のグリシジルエーテル等を使用する。
【0033】
これらのエポキシは単独での使用も可能であるが、それぞれの樹脂を目的に応じ混合して使用することもできる。顔料にはシリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体質顔料類や酸化チタン、カーボンブラック等の着色顔料類の微粒子粉末を利用する。これらの顔料の添加量はエポキシ100重量部に対して3〜50重量部の範囲で良好な耐水密着性が得られる。添加剤はアクリルオリゴマーや微粉末シリカ等を用いることができる。
【0034】
硬化剤には、ジシアンジアミド、デカンジカルボン酸等の2塩基酸、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジン類、テトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルにビスフェノールAを付加したフェノール系硬化剤やビスフェノールAのジグリシジルエーテルにジアミドジフェニルメタンを付加したアミンアダクト類等が使用できる。硬化剤に2塩基酸、ヒドラジン類やフェノール系硬化剤を使用する場合は、エポキシのエポキシ当量と硬化剤の活性水素当量の比で、硬化剤量を決定する。当量比としてはエポキシ当量1.0に対して活性水素当量0.6〜1.2が良好である。
【0035】
硬化剤にジシアンジアミドを使用する場合は硬化温度を低減するために、硬化促進剤として変性イミダゾールを添加する。この変性イミダゾールとしては、例えば2−メチルイミダゾールや2−フェニルイミダゾール等が利用できる。この場合の硬化剤の配合は、エポキシ100重量部に対してジシアンジアミドを3〜10重量部、変性イミダゾールを0.1〜3重量部範囲で添加すると良好な耐水密着性が得られる。同様にフェノール系硬化剤を使用する場合も、硬化促進剤として変性イミダゾールを使用するのが有効である。上記組成に該当する代表的なエポキシ樹脂粉体塗料としてはパウダックスE(日本ペイント社製)がある。
【0036】
上記エポキシプライマー層の塗布は、鋼管の内面に常温〜80℃程度でエポキシプライマー層を静電スプレー塗装や流動吸引塗装した後、鋼管を熱風加熱や高周波誘導加熱等で140〜220℃程度に加熱・硬化して行うと良い。このエポキシプライマー層の厚みは40〜600μm程度が良い。その膜厚が40μm未満では粉体塗料の造膜限界以下になる可能性があるので連続被膜にならないため、内面樹脂ライニング層の耐水接着力が低下する。また、作業性と経済性の点から、該膜厚の上限は600μm程度が良い。
【0037】
内面樹脂ライニング鋼管の外面には、従来の溶融金属めっきの代わりに金属溶射皮膜を施す。金属溶射皮膜としては、例えば鉄を犠牲防食する金属である亜鉛、アルミニウム、亜鉛・アルミニウム合金、アルミニウム・マグネシウム合金を用いる。金属溶射皮膜の塗布は、まず、鋼管外面を脱脂し、ブラスト処理して清浄にする。この際、鋼管外面の結晶粒微細化処理を行ったリン酸塩の化成処理皮膜が残っていても鉄との密着力が大きいため、金属溶射皮膜の密着性を低下させることがないことを見出した。
【0038】
その後、鋼管の外面に上記金属溶射皮膜をガス式フレーム溶射、電気式アーク溶射または電気式プラズマ溶射する。この金属溶射皮膜の厚さは100〜400μm程度が良い。その膜厚が100μm未満では、従来の溶融金属めっきより耐食性が低下する。これは両者の密度の違いから、一般的に溶融金属めっきの通常の厚さ85μmは金属溶射皮膜の厚さ100μmに相当すると言われていることによる。しかし、溶融金属めっきでは鋼管との界面に鉄を含む耐食性に劣る合金層が必ず存在し、その分耐食性に優れる純金属層が金属溶射皮膜より薄くなるため、金属溶射皮膜の厚さ100μmは溶融金属めっきの厚さ85μmより耐食性が向上する可能性がある。また、作業性と経済性の点から、該膜厚の上限は400μm程度が良い。さらに、耐食性を向上させるため、金属溶射皮膜を塗布した後必要に応じ、白錆防止塗料や封孔処理剤等を塗装しても良い。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例にもとづいて具体的に説明する。
(実施例1)
外径50.8mm、厚さ3.3mm、長さ3930mmの鋼管表面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、酸洗して除錆した後、チタンコロイドを水に分散させた処理液(日本パーカライジング社製プレパレンZ)、リン酸亜鉛カルシウム処理液(日本パーカライジング社製パルボンドP)に順次鋼管を浸漬し、熱風加熱により乾燥して化成処理皮膜を形成した。該化成処理皮膜の付着量は4g/m2 であり、その平均粒径は5μm程度であった。次に、二層丸ダイスを用い、外径42.4mm、厚さ1.5mm、長さ4040mmのポリエチレン樹脂パイプ(融解開始温度120℃)成形時に外面に無水マレイン酸変性ポリエチレンよりなる接着剤(融解終了温度100℃)を共押し出し法によって被覆し、接着層を形成した。該接着層の厚みは200μmであった。
【0040】
その後、上記ポリエチレン樹脂パイプを上記鋼管に挿入し、ポリエチレン樹脂パイプの外径が1.4%縮径されるように鋼管をロール絞りすることにより、鋼管内面にポリエチレン樹脂パイプを密着させた後、熱風加熱炉内で全体を115℃に加熱して接着した。鋼管端部よりはみ出したポリエチレン樹脂パイプは切断した。この内面樹脂ライニング鋼管の外面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、グリットブラスト処理して除錆した後、亜鉛(85%)・アルミニウム(15%)合金を電気式アーク法によって厚さ100μm溶射し、さらに、白錆防止塗料を厚さ10μm塗装した。
【0041】
(実施例2)
外径50.8mm、厚さ3.3mm、長さ3930mmの鋼管表面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、酸洗して除錆した後、チタンコロイドを水に分散させた処理液(日本パーカライジング社製プレパレンZ)、リン酸亜鉛カルシウム処理液(日本パーカライジング社製パルボンドP)に順次鋼管を浸漬し、熱風加熱により乾燥して化成処理皮膜を形成した。該化成処理皮膜の付着量は4g/m2 であり、その平均粒径は5μm程度であった。次に、鋼管内面に常温でエポキシ樹脂粉体プライマー(日本ペイント社製パウダックスE)を静電スプレー法によって塗装し、熱風加熱炉内で全体を155℃に加熱してエポキシプライマー層を形成した。該エポキシプライマー層の厚みは100μmであった。さらに、二層丸ダイスを用い、外径42.4mm、厚さ1.5mm、長さ4040mmのポリエチレン樹脂パイプ(融解開始温度120℃)成形時に外面に無水マレイン酸変性ポリエチレンよりなる接着剤(融解終了温度100℃)を共押し出し法によって被覆し、接着層を形成した。該接着層の厚みは200μmであった。
【0042】
その後、上記ポリエチレン樹脂パイプを上記鋼管に挿入し、ポリエチレン樹脂パイプの外径が1.4%縮径されるように鋼管をロール絞りすることにより、鋼管内面にポリエチレン樹脂パイプを密着させた後、熱風加熱炉内で全体を115℃に加熱して接着した。鋼管端部よりはみ出したポリエチレン樹脂パイプは切断した。この内面樹脂ライニング鋼管の外面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、グリットブラスト処理して除錆した後、亜鉛を電気式アーク法によって厚さ100μm溶射し、さらに、白錆防止塗料を厚さ10μm塗装した。
【0043】
(実施例3)
金属溶射皮膜として、アルミニウム溶射を用いた以外は実施例2と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0044】
(実施例4)
金属溶射皮膜として、亜鉛(85%)・アルミニウム(15%)合金溶射を用いた以外は実施例2と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0045】
(実施例5)
金属溶射皮膜として、アルミニウム(95%)・マグネシウム(5%)合金溶射を用いた以外は実施例2と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0046】
(実施例6)
接着層として、無水イタコン酸変性ポリエチレンよりなる接着剤(融解終了温度100℃)を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0047】
(実施例7)
接着層として、エチレン・無水マレイン酸共重合体よりなる接着剤(融解終了温度100℃)を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0048】
(実施例8)
接着層として、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸共重合体よりなる接着剤(融解終了温度100℃)を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0049】
(実施例9)
接着層として、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸エステル共重合体よりなる接着剤(融解終了温度100℃)を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0050】
(実施例10)
接着層として、エチレン・アクリル酸共重合体よりなる接着剤(融解終了温度100℃)を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0051】
(実施例11)
接着層として、エチレン・アクリル酸エステル共重合体よりなる接着剤(融解終了温度100℃)を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0052】
(実施例12)
接着層として、エチレン・メタクリル酸共重合体よりなる接着剤(融解終了温度100℃)を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0053】
(実施例13)
接着層として、エチレン・酢酸ビニル共重合体よりなる接着剤(融解終了温度100℃)を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0054】
(実施例14)
接着層として、アイオノマーよりなる接着剤(融解終了温度100℃)を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂ライニング鋼管を得た。
【0055】
(実施例15)
外径50.8mm、厚さ3.3mm、長さ3930mmの鋼管表面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、酸洗して除錆した後、チタンコロイドを水に分散させた処理液(日本パーカライジング社製プレパレンZ)、リン酸亜鉛カルシウム処理液(日本パーカライジング社製パルボンドP)に順次鋼管を浸漬し、熱風加熱により乾燥して化成処理皮膜を形成した。該化成処理皮膜の付着量は4g/m2 であり、その平均粒径は5μm程度であった。次に、二層丸ダイスを用い、外径42.4mm、厚さ1.5mm、長さ4040mmのポリプロピレン樹脂パイプ(融解開始温度155℃)成形時に外面に無水マレイン酸変性ポリプロピレンよりなる接着剤(融解終了温度145℃)を共押し出し法によって被覆し、接着層を形成した。該接着層の厚みは200μmであった。
【0056】
その後、上記ポリプロピレン樹脂パイプを上記鋼管に挿入し、ポリプロピレン樹脂パイプの外径が1.4%縮径されるように鋼管をロール絞りすることにより、鋼管内面にポリプロピレン樹脂パイプを密着させた後、熱風加熱炉内で全体を150℃に加熱して接着した。鋼管端部よりはみ出したポリプロピレン樹脂パイプは切断した。この内面樹脂ライニング鋼管の外面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、グリットブラスト処理して除錆した後、亜鉛(85%)・アルミニウム(15%)合金を電気式アーク法によって厚さ100μm溶射し、さらに、白錆防止塗料を厚さ10μm塗装した。
【0057】
(実施例16)
外径50.8mm、厚さ3.3mm、長さ3930mmの鋼管表面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、酸洗して除錆した後、チタンコロイドを水に分散させた処理液(日本パーカライジング社製プレパレンZ)、リン酸亜鉛カルシウム処理液(日本パーカライジング社製パルボンドP)に順次鋼管を浸漬し、熱風加熱により乾燥して化成処理皮膜を形成した。該化成処理皮膜の付着量は4g/m2 であり、その平均粒径は5μm程度であった。次に、鋼管内面に常温でエポキシ樹脂粉体プライマー(日本ペイント社製パウダックスE)を静電スプレー法によって塗装し、熱風加熱炉内で全体を155℃に加熱してエポキシプライマー層を形成した。該エポキシプライマー層の厚みは100μmであった。さらに、二層丸ダイスを用い、外径42.4mm、厚さ1.5mm、長さ4040mmのポリプロピレン樹脂パイプ(融解開始温度155℃)成形時に外面に無水マレイン酸変性ポリプロピレンよりなる接着剤(融解終了温度145℃)を共押し出し法によって被覆し、接着層を形成した。該接着層の厚みは200μmであった。
【0058】
その後、上記ポリプロピレン樹脂パイプを上記鋼管に挿入し、ポリプロピレン樹脂パイプの外径が1.4%縮径されるように鋼管をロール絞りすることにより、鋼管内面にポリプロピレン樹脂パイプを密着させた後、熱風加熱炉内で全体を150℃に加熱して接着した。鋼管端部よりはみ出したポリプロピレン樹脂パイプは切断した。この内面樹脂ライニング鋼管の外面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、グリットブラスト処理して除錆した後、亜鉛(85%)・アルミニウム(15%)合金を電気式アーク法によって厚さ100μm溶射し、さらに、白錆防止塗料を厚さ10μm塗装した。
【0059】
(実施例17)
外径50.8mm、厚さ3.3mm、長さ3930mmの鋼管表面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、酸洗して除錆した後、チタンコロイドを水に分散させた処理液(日本パーカライジング社製プレパレンZ)、リン酸亜鉛カルシウム処理液(日本パーカライジング社製パルボンドP)に順次鋼管を浸漬し、熱風加熱により乾燥して化成処理皮膜を形成した。該化成処理皮膜の付着量は4g/m2 であり、その平均粒径は5μm程度であった。次に、二層丸ダイスを用い、外径42.4mm、厚さ1.5mm、長さ4040mmの架橋ポリエチレン樹脂パイプ(融解開始温度120℃)成形時に外面に無水マレイン酸変性ポリエチレンよりなる接着剤(融解終了温度100℃)を共押し出し法によって被覆し、接着層を形成した。該接着層の厚みは200μmであった。
【0060】
その後、上記架橋ポリエチレン樹脂パイプを上記鋼管に挿入し、架橋ポリエチレン樹脂パイプの外径が1.4%縮径されるように鋼管をロール絞りすることにより、鋼管内面に架橋ポリエチレン樹脂パイプを密着させた後、熱風加熱炉内で全体を115℃に加熱して接着した。鋼管端部よりはみ出した架橋ポリエチレン樹脂パイプは切断した。この内面樹脂ライニング鋼管の外面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、グリットブラスト処理して除錆した後、亜鉛(85%)・アルミニウム(15%)合金を電気式アーク法によって厚さ100μm溶射し、さらに、白錆防止塗料を厚さ10μm塗装した。
【0061】
(実施例18)
外径50.8mm、厚さ3.3mm、長さ3930mmの鋼管表面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、酸洗して除錆した後、チタンコロイドを水に分散させた処理液(日本パーカライジング社製プレパレンZ)、リン酸亜鉛カルシウム処理液(日本パーカライジング社製パルボンドP)に順次鋼管を浸漬し、熱風加熱により乾燥して化成処理皮膜を形成した。該化成処理皮膜の付着量は4g/m2 であり、その平均粒径は5μm程度であった。次に、鋼管内面に常温でエポキシ樹脂粉体プライマー(日本ペイント社製パウダックスE)を静電スプレー法によって塗装し、熱風加熱炉内で全体を155℃に加熱してエポキシプライマー層を形成した。該エポキシプライマー層の厚みは100μmであった。さらに、二層丸ダイスを用い、外径42.4mm、厚さ1.5mm、長さ4040mmの架橋ポリエチレン樹脂パイプ(融解開始温度120℃)成形時に外面に無水マレイン酸変性ポリエチレンよりなる接着剤(融解終了温度100℃)を共押し出し法によって被覆し、接着層を形成した。該接着層の厚みは200μmであった。
【0062】
その後、上記架橋ポリエチレン樹脂パイプを上記鋼管に挿入し、架橋ポリエチレン樹脂パイプの外径が1.4%縮径されるように鋼管をロール絞りすることにより、鋼管内面に架橋ポリエチレン樹脂パイプを密着させた後、熱風加熱炉内で全体を115℃に加熱して接着した。鋼管端部よりはみ出した架橋ポリエチレン樹脂パイプは切断した。この内面樹脂ライニング鋼管の外面を市販のアルカリ脱脂剤で脱脂し、グリットブラスト処理して除錆した後、亜鉛(85%)・アルミニウム(15%)合金を電気式アーク法によって厚さ100μm溶射し、さらに、白錆防止塗料を厚さ10μm塗装した。
【0063】
(比較例1)
二層丸ダイスを用い、外径42.4mm、厚さ1.5mm、長さ4040mmのポリ塩化ビニルパイプ(融解開始温度120℃)成形時に外面にエチレン・酢酸ビニル共重合体よりなる接着剤(融解終了温度100℃)を共押し出し法によって被覆し、接着層を形成した。該接着層の厚みは200μmであった。次に、上記ポリ塩化ビニルパイプを内外面に溶融亜鉛めっき(厚さ85μm)が施された外径50.8mm、厚さ3.3mm、長さ3930mmの鋼管に挿入し、ポリ塩化ビニルパイプの外径が1.4%縮径されるように鋼管をロール絞りすることにより、鋼管内面にポリ塩化ビニルパイプを密着させた後、熱風加熱炉内で全体を115℃に加熱して接着した。鋼管端部よりはみ出したポリ塩化ビニルパイプは切断した。この内面樹脂ライニング鋼管の外面には白錆防止塗料を厚さ10μm塗装した。
【0064】
(比較例2)
二層丸ダイスを用い、外径42.4mm、厚さ1.5mm、長さ4040mmのポリエチレン樹脂パイプ(融解開始温度120℃)成形時に外面に無水マレイン酸変性ポリエチレンよりなる接着剤(融解終了温度100℃)を共押し出し法によって被覆し、接着層を形成した。該接着層の厚みは200μmであった。次に、上記ポリエチレン樹脂パイプを内外面に溶融亜鉛めっき(厚さ85μm)が施された外径50.8mm、厚さ3.3mm、長さ3930mmの鋼管に挿入し、ポリエチレン樹脂パイプの外径が1.4%縮径されるように鋼管をロール絞りすることにより、鋼管内面にポリエチレン樹脂パイプを密着させた後、熱風加熱炉内で全体を115℃に加熱して接着した。鋼管端部よりはみ出したポリエチレン樹脂パイプは切断した。この内面樹脂ライニング鋼管の外面には白錆防止塗料を厚さ10μm塗装した。
【0065】
(比較例3)
二層丸ダイスを用い、外径42.4mm、厚さ1.5mm、長さ4040mmのポリプロピレン樹脂パイプ(融解開始温度155℃)成形時に外面に無水マレイン酸変性ポリプロピレンよりなる接着剤(融解終了温度145℃)を共押し出し法によって被覆し、接着層を形成した。該接着層の厚みは200μmであった。次に、上記ポリプロピレン樹脂パイプを内外面に溶融亜鉛めっき(厚さ85μm)が施された外径50.8mm、厚さ3.3mm、長さ3930mmの鋼管に挿入し、ポリプロピレン樹脂パイプの外径が1.4%縮径されるように鋼管をロール絞りすることにより、鋼管内面にポリプロピレン樹脂パイプを密着させた後、熱風加熱炉内で全体を150℃に加熱して接着した。鋼管端部よりはみ出したポリプロピレン樹脂パイプは切断した。この内面樹脂ライニング鋼管の外面には白錆防止塗料を厚さ10μm塗装した。
【0066】
(比較例4)
二層丸ダイスを用い、外径42.4mm、厚さ1.5mm、長さ4040mmの架橋ポリエチレン樹脂パイプ(融解開始温度120℃)成形時に外面に無水マレイン酸変性ポリエチレンよりなる接着剤(融解終了温度100℃)を共押し出し法によって被覆し、接着層を形成した。該接着層の厚みは200μmであった。次に、上記架橋ポリエチレン樹脂パイプを内外面に溶融亜鉛めっき(厚さ85μm)が施された外径50.8mm、厚さ3.3mm、長さ3930mmの鋼管に挿入し、架橋ポリエチレン樹脂パイプの外径が1.4%縮径されるように鋼管をロール絞りすることにより、鋼管内面に架橋ポリエチレン樹脂パイプを密着させた後、熱風加熱炉内で全体を115℃に加熱して接着した。鋼管端部よりはみ出した架橋ポリエチレン樹脂パイプは切断した。この内面樹脂ライニング鋼管の外面には白錆防止塗料を厚さ10μm塗装した。
【0067】
実施例1〜18、比較例1〜4の樹脂ライニング鋼管について、鋼管と内面の樹脂パイプとの剪断接着力を測定した。剪断接着力の測定は、製造した樹脂ライニング鋼管を20mm長さに切断し、治具を用いて鋼管部分のみ支え、内面の樹脂ライニング層のみを10mm/minの条件で押し抜くことにより行い、この時の押し抜き力より剪断接着力を求めた。サンプルは各樹脂ライニング鋼管から3個ずつ採取し、平均値を求めた。剪断接着力の単位はMPaである。測定中の温度は一律23℃とした。樹脂ライニング鋼管に40℃の温水や90℃の熱水を1年間通水した後の剪断接着力も併せて測定した。各例の条件と測定結果を表1に示す。
【0068】
実施例1〜18の40℃温水を1年間通水した後の剪断接着力は、従来の内外面溶融亜鉛めっき鋼管にポリ塩化ビニルを内面ライニングした比較例1と同等の値を示しており、比較例2〜4に比べては高いことがわかる。また、実施例1〜18の90℃熱水を1年間通水した後の剪断接着力は、従来の内外面溶融亜鉛めっき鋼管にポリ塩化ビニルを内面ライニングした比較例1に比べて高い値を示しており、比較例2〜4に比べては著しく高いことがわかり、長い期間に渡って給湯配管にも使用することができる。
【0069】
さらに、実施例、比較例の樹脂ライニング鋼管について、外面の耐食性を調べるため塩水噴霧試験を行った。塩水噴霧試験は、製造した樹脂ライニング鋼管を150mm長さに切断し、外面にねじ切り機のチャック爪で鋼管に達する疵をつけた後、JIS Z 2371で規定されている方法により行い、上記疵部から赤錆が発生するまでの時間を測定した。その測定結果も表1に示す。
実施例1〜18の疵部から赤錆が発生するまでの時間は、従来の外面に溶融亜鉛めっきを施した比較例1〜4に比べていずれも長く、耐食性に優れていることがわかる。
【0070】
【表1】

【0071】
この表から、本発明の樹脂ライニング鋼管については、複雑な工程や特殊な設備を必要とすることなく、ポリ塩化ビニルの代わりに腐食因子である酸素の透過が大きいポリオレフィン樹脂や架橋ポリオレフィン樹脂を内面ライニングする場合でも、従来の内外面溶融金属めっき鋼管にポリ塩化ビニルを内面ライニングした樹脂ライニング鋼管の代わりに使用することができ、長い期間に渡って鋼管と内面樹脂ライニング層との密着性に優れていることが判明した。


特許出願人 新日本製鐵株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊 他1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の内面に接着層を有し、さらにその内側にポリオレフィン樹脂層または架橋ポリオレフィン樹脂層を有し、前記鋼管が予め下地処理した鋼管であり、前記下地処理として、結晶粒微細化処理を行ったリン酸塩の化成処理皮膜を施し、前記鋼管の外面には金属溶射皮膜を有することを特徴とする樹脂ライニング鋼管。
【請求項2】
前記接着層が、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水イタコン酸変性ポリオレフィン、エチレン・無水マレイン酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマーのうち1つまたは2つ以上よりなり、且つ、当該接着層の融解終了温度が、前記ポリオレフィン樹脂層または架橋ポリオレフィン樹脂層の使用温度超で融解開始温度未満であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂ライニング鋼管。
【請求項3】
前記鋼管と前記接着層との間にエポキシプライマー層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂ライニング鋼管。
【請求項4】
前記樹脂ライニング鋼管を製造するに際し、鋼管に下地処理を施し、あるいは鋼管に下地処理を施し次にエポキシプライマー層を施し、鋼管内径よりも小さい外径の外面に接着層を有したポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプを前記鋼管に挿入し、当該鋼管を絞ることによりポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプを鋼管内面に密着せしめ、そして接着層の融解終了温度以上で且つポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの融解開始温度未満で加熱して接着することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂ライニング鋼管の製造方法。
【請求項5】
前記鋼管を絞る際に、ポリオレフィン樹脂パイプまたは架橋ポリオレフィン樹脂パイプの外径が0.5〜10%縮径されるように当該鋼管を絞ることを特徴とする請求項4に記載の樹脂ライニング鋼管の製造方法。

【公開番号】特開2006−144038(P2006−144038A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332259(P2004−332259)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】