説明

樹脂レンズ及び光学樹脂組成物

【課題】半導体とレンズとを一体化したカメラモジュールをリフロー工程で実装可能な耐熱性を有するとともに、ガラスに匹敵する高アッベ数を有し、曲げ強度にも優れる樹脂レンズ等の樹脂製光学部品、及び該部品を金型成形するのに適した金型離型性に優れた光学樹脂組成物を提供する。
【解決手段】炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を含有するトリアルコキシシラン(イ)とエポキシ基を含有するトリアルコキシシラン(ロ)とをモル比1:99〜90:10で加水分解・縮合することによって得られる重量平均分子量1000〜30000のランダム型構造及び/又はラダー型構造を70重量%以上含有するシルセスキオキサン誘導体、脂環式骨格含有エポキシ樹脂及び硬化剤を含有する光学樹脂組成物を硬化してなるアッベ数vが55以上である光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂レンズ等の樹脂製光学部品及び光学樹脂組成物に関し、詳細には半導体とレンズとを一体化したカメラモジュールに好適に使用可能な、光学特性、機械強度、耐熱性に優れる樹脂レンズ等の樹脂製光学部品、及び該部品を金型成形するのに適した光学樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ付き携帯電話やデジタルカメラ等において、カメラ機能はCCDやCMOS等のイメージセンサにレンズを装着したカメラモジュールにより達成されている。このようなカメラモジュールにおいては樹脂レンズが使用されている。従来、樹脂レンズの材料としては、脂環式ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性透明樹脂が用いられており、樹脂レンズはこれらをレンズ形状に射出成形して製造されている。
【0003】
近年、携帯電話、デジタルカメラ等の電子機器の実装コスト削減の観点から、カメラモジュールの実装においてリフロー工程に適応可能なレンズ材料が強く望まれている。しかしながら、脂環式ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂レンズは耐熱性が不充分であり、それらから構成されるカメラモジュールは、260〜300℃程度の処理温度に達するリフロー工程で実装することが出来ないという問題があった。
【0004】
一方、ハンダリフロー工程に耐えうるレンズとして、特許文献1にはカゴ型構造のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分とするシリコーン樹脂を硬化させてなるレンズが開示されている。また、特許文献2にはシリコーン樹脂をオルガノハイドロジェンシロキサンで硬化させるシリコーン樹脂組成物をレンズ用途に使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−109579号公報
【特許文献2】特開2010−109034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたシリコーン樹脂はカゴ型構造を有するポリオルガノシロキサンを主たる成分とするため、耐熱性に優れるものの、曲げ強度が充分ではなく、また、高屈折率ではあるが、アッベ数については全く言及がなく、光の分散に関する指標であって良好な光学性能のために要求される高アッベ数達成ということが課題として認識されていない。実際、後述するように、本発明者が検討した結果、カゴ型構造樹脂製品においては、アッベ数は要求される程度に高くない。また、特許文献2に記載されたシリコーン樹脂組成物はヒートサイクルにおける耐クラック性を謳うものであるが、やはり曲げ強度やアッベ数に関する言及はない。
【0007】
従って、本発明は、半導体とレンズとを一体化したカメラモジュールをリフロー工程で実装可能な耐熱性を有するとともに、高屈折率でしかもクラウンガラスに匹敵する高アッベ数を有し、曲げ強度にも優れた樹脂レンズ等の樹脂製光学部品、及び該部品を金型成形するのに適した金型離型性に優れた光学樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を含有するトリアルコキシシラン(イ)とエポキシ基を含有するトリアルコキシシラン(ロ)とをモル比1:99〜90:10で加水分解・縮合することによって得られるランダム型構造及び/又はラダー型構造のシルセスキオキサン誘導体、並びに、
脂環式骨格含有エポキシ樹脂
を硬化してなるアッベ数vが55以上である光学部品である。
本発明はまた、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を含有するトリアルコキシシラン(イ)とエポキシ基を含有するトリアルコキシシラン(ロ)とをモル比1:99〜90:10で加水分解・縮合することによって得られる重量平均分子量1000〜30000の、ランダム型構造及び/又はラダー型構造を70重量%以上含有するシルセスキオキサン誘導体、
脂環式骨格含有エポキシ樹脂、並びに、
硬化剤を含有する光学樹脂組成物である。
本発明はまた、上記光学樹脂組成物を金型成形、硬化してなるアッベ数vが55以上である光学部品である。
【発明の効果】
【0009】
上述の構成により、本発明の光学部品は、リフロー工程で実装可能な耐熱性を有し、高屈折率でありながらクラウンガラスに匹敵する高アッベ数を有する。とくに、従来高屈折率と高アッベ数とは背反するとされていたにもかかわらず、高屈折率でむしろ高アッベ数となる特質は予想外である。更に、高い曲げ強度を発揮する。
また、本発明の光学樹脂は、リフロー工程で実装可能な耐熱性を有し、クラウンガラスに匹敵する高アッベ数を有するとともに、高い曲げ強度を発揮する光学部品を成形することができ、とくに金型離型性に優れているので、樹脂レンズ等の樹脂製光学部品を金型成形する用途に好適に使用可能である。また、離型剤を使用した場合には、離型剤との相溶性に優れているので、離型剤の効果を充分に発揮させることができてさらに離型性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の光学部品は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を含有するトリアルコキシシラン(イ)とエポキシ基を含有するトリアルコキシシラン(ロ)とをモル比1:99〜90:10で加水分解・縮合することによって得られるランダム型構造及び/又はラダー型構造のシルセスキオキサン誘導体、並びに、脂環式骨格含有エポキシ樹脂を硬化してなるアッベ数vが55以上である光学部品である。
【0011】
上記アッベ数は、D線(589nm光)に対する屈折率を用いて算定した値vである。測定は、アッベ屈折計を用いて通常は温度25℃で行うことができる。アッベ数は55以上であると、低アッベレンズと組み合わせ、高画素用カメラモジュールに好適に使用することが出来る。
【0012】
本発明の光学部品は、屈折率nが1.50以上であり得る。さらには1.55以上、さらに1.58以上でありうる。本発明においては特定構造のシルセスキオキサン誘導体と脂環式骨格含有エポキシ樹脂とを組み合わせることにより、上記高屈折率と上記高アッベ数とをバランスさせることができる。
【0013】
本発明の光学部品は、ASTM−D790に基づいて測定された曲げ強度が30MPa以上である。本発明においては特定構造のシルセスキオキサン誘導体と脂環式骨格含有エポキシ樹脂とを組み合わせることにより、上記曲げ強度が達成される。
【0014】
本発明の光学部品は、その耐熱性としては、260℃、10分間の熱処理後の波長450nm光の透過率が85%以上である。本発明においては特定構造のシルセスキオキサン誘導体と脂環式骨格含有エポキシ樹脂とを組み合わせることにより、上記高耐熱性が達成される。
【0015】
本発明の光学部品としては、例えば、レンズ、フィルター、プリズム、ビームスプリッター等を挙げることができる。上記レンズとしては、例えば、球面レンズ、非球面レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、カマボコ型レンズ、シリンドリカルレンズ等を挙げることができる。これらのレンズは、例えば、レンズ付き携帯電話、デジタルカメラ、DVD、光通信機器、車載カメラ、Webカメラ、プロジェクター等に使用される。また、レンズ付き携帯電話、デジタルカメラ等の用途に広く使用されているカメラモジュールに組み込まれるレンズであってもよい。
【0016】
本発明の光学部品を製造するための光学樹脂としては、好ましくは、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を含有するトリアルコキシシラン(イ)とエポキシ基を含有するトリアルコキシシラン(ロ)とをモル比1:99〜90:10で加水分解・縮合することによって得られる、重量平均分子量1000〜30000の、ランダム型構造及び/又はラダー型構造を70重量%以上含有するシルセスキオキサン誘導体、脂環式骨格含有エポキシ樹脂、並びに、硬化剤を含有する光学樹脂組成物(本明細書では本発明の樹脂組成物とも言う。)を挙げることができる。
【0017】
上記トリアルコキシシラン(イ)において、炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、例えば、分枝鎖又は直鎖の、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルであり、炭素数6〜12のアリール基としては、例えば、フェニル、ナフチルである。上記トリアルコキシシラン(イ)としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等を好ましく挙げることができ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。さらに好ましくは、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランの1種又は2種以上である。
【0018】
上記トリアルコキシシラン(ロ)としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシルエチルトリエトキシシラン等を好ましく挙げることができ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。さらに好ましくは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシルエチルトリメトキシシランの1種又は2種以上である。
【0019】
本発明の樹脂組成物において、シルセスキオキサン誘導体は、上記トリアルコキシシラン(イ)と上記トリアルコキシシラン(ロ)とをモル比1:99〜90:10で加水分解・縮合することによって得られる。モル比がこの範囲内であると優れた機械強度、耐熱性を有する。好ましくはモル比1:99〜75:25である。
【0020】
加水分解・縮合反応(hydrolytic condensation)の条件としては、30〜120℃、1〜24時間が好ましく、より好ましくは、40〜90℃、2〜12時間であり、さらに好ましくは50〜70℃、3〜8時間である。
【0021】
上記反応には触媒を使用してもよく、上記触媒としては、例えば、塩基性触媒、酸性触媒を挙げることができる。
【0022】
上記塩基性触媒としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。
【0023】
上記のなかでも、触媒活性が高いことからテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが好ましく用いられる。
【0024】
上記酸性触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、ホウ酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルフォン酸、p−トルエンスルホン酸等を挙げることが出来る。
【0025】
上記の中でも、触媒活性の観点から、塩酸、硝酸、酢酸が好ましく用いられる。
【0026】
上記反応には必要に応じて溶媒を使用することができる。このような溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチル−1−アセテートなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルアミルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類を挙げることができる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
上記シルセスキオキサン誘導体は、重量平均分子量が1000〜30000のものである。重量平均分子量がこの範囲であると優れた機械強度、例えば、曲げ強度、が得られる。好ましくは3000〜15000である。重量平均分子量はポリスチレンを標準としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。
【0028】
上記シルセスキオキサン誘導体は、ランダム型構造及び/又はラダー型構造を70重量%以上含有する。この含有量がこの範囲であると充分な機械強度が得られる。好ましくは80重量%以上である。ランダム型構造又はラダー型構造の含有量を求めるには、液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)により、シルセスキオキサン誘導体中のカゴ型構造体に由来するm/zピーク面積からカゴ型構造体(カゴ型構造体の一部が開環した不完全なカゴ型構造体を含む)の含有量を求めて残部をランダム型構造又はラダー型構造であると考えて求める方法で求めることができる。
【0029】
上記脂環式骨格含有エポキシ樹脂としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂等を好ましく挙げることができ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。さらに好ましくは、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂及び水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂の1種又は2種以上である。
【0030】
上記シルセスキオキサン誘導体と上記脂環式骨格含有エポキシ樹脂の配合量としては、上記シルセスキオキサン誘導体と上記脂環式骨格含有エポキシ樹脂との合計100重量部に対して上記シルセスキオキサン誘導体を5〜90重量部含有することが好ましい。シルセスキオキサン誘導体の配合量が上記範囲であると金型との離型性が良好である。より好ましくは10〜80重量部である。
【0031】
上記硬化剤としては、例えば、カチオン重合触媒、ルイス酸触媒等を好ましく挙げることができ、さらに好ましくはカチオン重合触媒である。
【0032】
上記カチオン重合触媒(開始剤とも称される。)としては、例えば、四級アンモニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩を挙げることができる。
【0033】
上記四級アンモニウム塩としては、具体的には例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロアンチモネート、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラブチルアンモニウムハイドロジェンサルフェート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムp−トルエンスルホネート等を挙げることができる。
【0034】
上記スルホニウム塩としては、例えば、旭電化工業(株)製のオプトマーSP150、オプトマーSP170、オプトマーSP172、アデカオプトンCP−66、アデカオプトンCP−77、三新化学(株)製のサンエイドSI−80L、サンエイドSI−100L、サンエイドSI−150L等が挙げられる。
【0035】
上記ジアゾニウム塩としては、例えば、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、フェニルジアゾニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0036】
上記ヨードニウム塩としては、例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、ビス(4−クロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、ビス(4−ブロモフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、フェニル(4―メトキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアルシネート等が挙げられる。
【0037】
上記カチオン重合触媒としては、耐熱性の観点からスルホニウム塩、アンモニウム塩が好ましく、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記硬化剤の配合量は、上記シルセスキオキサン誘導体中のエポキシ基の量にも依るが、一般には、上記シルセスキオキサン誘導体と上記脂環式骨格含有エポキシ樹脂との合計100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜2重量部がより好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、さらに離型剤を含有してもよい。上記離型剤としては、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノ12−ヒドロキシステアレート、グリセリントリ12−ヒドロキシステアレート、グリセリンモノベヘネート、プロピレングリコールモノパルミテート、プロピレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールモノベヘネート等を挙げることができる。
【0040】
上記離型剤の配合量は、上記シルセスキオキサン誘導体と上記脂環式骨格含有エポキシ樹脂との合計100重量部に対して0.05〜5重量部が好ましく、0.1〜1.0重量部がより好ましい。
【0041】
本発明の組成物の硬化条件としては、例えば、60〜180℃、1〜120分が好ましく、より好ましくは、80〜160℃、5〜60分であり、さらに好ましくは100〜140℃、10〜30分である。
【0042】
本発明の組成物を用いて光学部品、好ましくは本発明の光学部品を、好ましくは、金型成形することにより製造することができる。本発明の組成物は金型からの離型性が良好である。従って、精密金型成形品を歩留りよく製造することができる。なお、金型成形方法はそれ自体公知であるから、従来公知の方法で実施することができる。
【実施例】
【0043】
以下に合成例、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
合成例1
シルセスキオキサン誘導体1の合成
撹拌機及び温度計を設置した反応容器に、MIBK50g、水酸化テトラメチルアンモニウムの20%水溶液3.0g(水酸化テトラメチルアンモニウム6.7mmol)、蒸留水8.6(610.0mmol)gを仕込んだ後、メチルトリメトキシシラン0.3g(2.0mmol)、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシルエチルトリメトキシシラン49.7g(202.0mmol)を50〜55℃で徐々に加え、3時間撹拌放置した。反応終了後、MIBK50gを加え、さらに25gの蒸留水で水層のpHが中性になるまで水洗した。次に減圧下でMIBKを留去して目的の化合物(SQ−1)を得た。Mwは3840であった。液体クロマトグラフ質量分析によるm/Zピーク面積比を算出した結果、ランダム又はラダー型構造の含量は84重量%であった。
【0045】
合成例2
シルセスキオキサン誘導体2の合成 撹拌機及び温度計を設置した反応容器に、MIBK50g、水酸化テトラメチルアンモニウムの20%水溶液3.6g(水酸化テトラメチルアンモニウム7.9mmol)、蒸留水10.1(720.0mmol)gを仕込んだ後、エチルトリメトキシシラン16.4g(121.0mmol)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン33.6g(121.0mmol)を50〜55℃で徐々に加え、3時間撹拌放置した。反応終了後MIBK50gを加え、さらに25gの蒸留水で水層のpHが中性になるまで水洗した。次に減圧下でMIBKを留去して目的の化合物(SQ−2)を得た。Mwは5170であった。液体クロマトグラフ質量分析によるm/Zピーク面積比を算出した結果、ランダム又はラダー型構造の含量は86重量%であった。
【0046】
合成例3
シルセスキオキサン誘導体3の合成
撹拌機及び温度計を設置した反応容器に、MIBK50g、水酸化テトラメチルアンモニウムの20%水溶液3.4g(水酸化テトラメチルアンモニウム7.6mmol)、蒸留水9.7(690.0mmol)gを仕込んだ後、ヘキシルトリメトキシシラン35.8g(173.0mmol)、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシルエチルトリメトキシシラン14.2g(58.0mmol)を50〜55℃で徐々に加え、3時間撹拌放置した。反応終了後MIBK50gを加え、さらに25gの蒸留水で水層のpHが中性になるまで水洗した。次に減圧下でMIBKを留去して目的の化合物(SQ−3)を得た。Mwは6180であった。液体クロマトグラフ質量分析によるm/Zピーク面積比を算出した結果、ランダム又はラダー型構造の含量は86重量%であった。
【0047】
合成例4
シルセスキオキサン誘導体4の合成
撹拌機及び温度計を設置した反応容器に、MIBK50g、水酸化テトラメチルアンモニウムの20%水溶液3.1g(水酸化テトラメチルアンモニウム6.8mmol)、蒸留水8.7(620.0mmol)gを仕込んだ後、フェニルトリメトキシシラン4.1g(21.0mmol)、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシルエチルトリメトキシシラン45.9g(186.0mmol)を50〜55℃で徐々に加え、3時間撹拌放置した。反応終了後MIBK50gを加え、さらに25gの蒸留水で水層のpHが中性になるまで水洗した。次に減圧下でMIBKを留去して目的の化合物(SQ−4)を得た。Mwは4730であった。液体クロマトグラフ質量分析によるm/Zピーク面積比を算出した結果、ランダム又はラダー型構造の含量は91重量%であった。
【0048】
合成例5
シルセスキオキサン誘導体5の合成
撹拌機及び温度計を設置した反応容器に、MIBK50g、水酸化テトラメチルアンモニウムの20%水溶液3.6g(水酸化テトラメチルアンモニウム7.8mmol)、蒸留水10.0(720.0mmol)gを仕込んだ後、ヘキシルトリメトキシシラン44.4g(215.0mmol)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン5.6g(24.0mmol)を50〜55℃で徐々に加え、3時間撹拌放置した。反応終了後MIBK50gを加え、さらに25gの蒸留水で水層のpHが中性になるまで水洗した。次に減圧下でMIBKを留去して目的の化合物(SQ−5)を得た。Mwは7210であった。液体クロマトグラフ質量分析によるm/Zピーク面積比を算出した結果、ランダム又はラダー型構造の含量は90重量%であった。
【0049】
合成例6
シルセスキオキサン誘導体6の合成
撹拌機及び温度計を設置した反応容器に、MIBK50g、水酸化テトラメチルアンモニウムの20%水溶液4.6g(水酸化テトラメチルアンモニウム10.1mmol)、蒸留水10.0(920.0mmol)gを仕込んだ後、アリルトリメトキシシラン50.0g(308.0mmol)を50〜55℃で徐々に加え、3時間撹拌放置した。反応終了後MIBK50gを加え、さらに25gの蒸留水で水層のpHが中性になるまで水洗した。次に減圧下でMIBKを留去して目的の化合物(SQ−6)を得た。Mwは3680であった
【0050】
実施例1〜5、比較例1〜4
表1の配合によりそれぞれ各成分を混合し、目的の組成物を得た。この組成物を、10分間脱泡撹拌した後、140℃、20分の条件で硬化させ、厚み1mm、10mm×30mmの大きさの試験片を作成した。また、SUS304鋼板上に注型して硬化させた直径10mm、厚さ10mmのサンプルの離型性を評価した。
【0051】
評価
各サンプルを以下の方法で評価した。結果を表1に示した。測定は室温(25℃)で行った。
屈折率:アタゴ社製多波長アッベ屈折計DR−M2を用いて、589nmにおける屈折率を測定した。
アッベ数v:アタゴ社製多波長アッベ屈折計DR−M2を用いて、アッベ数を算出した。
初期透過率(%):日立製分光光度計U−2000を用いて、450nmにおける透過率T(%)を測定した。
耐熱性(%):日立製分光光度計U−2000を用いて、260℃、10分曝露後の450nm波長光の透過率T(%)を求めた。
曲げ強度(MPa):オリエンテック社製RTC−1350Aを用いて、ASTM−D790に準拠して曲げ強度の測定を行った。
離型性:SUS304鋼板上で硬化させた所定の試験片(直径10mm、厚み10mm)を作成し、離型性を観察した。評価基準は以下のとおり。
○;容易に離型する。
△;指に力を入れれば離型する。
×;離型不可。
【0052】
表1中の略号の意味は以下のとおり。
2021P:脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業株式会社製)
EP−3150:固形の脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業株式会社製)
YX−8000:水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製)
EP−4088:ジシクロヘンタジエン骨格含有エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製)
OX−SQ:かご型シルセスキオキサン樹脂(東亜合成株式会社製)
ZEONEX−480R:シクロオレフィンポリマー樹脂(日本ゼオン株式会社)
SI−100:熱カチオン重合触媒(三新化学工業株式会社製)
パーブチルO:熱ラジカル重合触媒(日本油脂株式会社製)
【0053】
【表1】

【0054】
表1の実施例から判るように、本発明の硬化物はクラウンガラスに匹敵する高アッベ数であり、耐熱性、曲げ強度、離型性において比較例より優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を含有するトリアルコキシシラン(イ)とエポキシ基を含有するトリアルコキシシラン(ロ)とをモル比1:99〜90:10で加水分解・縮合することによって得られるランダム型構造及び/又はラダー型構造のシルセスキオキサン誘導体、並びに、
脂環式骨格含有エポキシ樹脂
を硬化してなるアッベ数vが55以上である光学部品。
【請求項2】
ASTM−D790に基づく曲げ強度が30MPa以上である請求項1記載の光学部品。
【請求項3】
260℃、10分間の熱処理後の波長450nm光の透過率が85%以上である請求項1又は2記載の光学部品。
【請求項4】
レンズである請求項1〜3のいずれか記載の光学部品。
【請求項5】
炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を含有するトリアルコキシシラン(イ)とエポキシ基を含有するトリアルコキシシラン(ロ)とをモル比1:99〜90:10で加水分解・縮合することによって得られる、重量平均分子量1000〜30000の、ランダム型構造及び/又はラダー型構造を70重量%以上含有するシルセスキオキサン誘導体、
脂環式骨格含有エポキシ樹脂、並びに、
硬化剤を含有する光学樹脂組成物。
【請求項6】
硬化剤は、カチオン重合触媒である請求項5記載の光学樹脂組成物。
【請求項7】
トリアルコキシシラン(イ)は、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である請求項5又は6記載の光学樹脂組成物。
【請求項8】
トリアルコキシシラン(ロ)は、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン及び2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシルエチルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である請求項5〜7のいずれか記載の光学樹脂組成物。
【請求項9】
脂環式骨格含有エポキシ樹脂は、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂及び水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項5〜8のいずれか記載の光学樹脂組成物。
【請求項10】
シルセスキオキサン誘導体と脂環式骨格含有エポキシ樹脂との合計100重量部に対してシルセスキオキサン誘導体を10〜80重量部含有する請求項5〜9のいずれか記載の光学樹脂組成物。
【請求項11】
さらに離型剤を含有する請求項5〜10のいずれか記載の光学樹脂組成物。
【請求項12】
請求項5〜11のいずれか記載の光学樹脂組成物を金型成形、硬化してなるアッベ数vが55以上である光学部品。
【請求項13】
ASTM−D790に基づく曲げ強度が30MPa以上である請求項12記載の光学部品。
【請求項14】
260℃、10分間の熱処理後の波長450nm光の透過率が85%以上である請求項12又は13記載の光学部品。
【請求項15】
レンズである請求項12〜14のいずれか記載の光学部品。


【公開番号】特開2012−116989(P2012−116989A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269647(P2010−269647)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】