説明

樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法

【課題】極微量であっても所定濃度の赤リンの均一分散が保証された標準試料の作成方法、及び、熱分解GCMSによる樹脂中の赤リンの定量方法であって、前記標準試料を用いることを特徴とする分析方法を提供する。
【解決手段】赤リンを所定量秤量して樹脂中に均一混合し赤リン含有コンパウンドを作成する工程、前記赤リン含有コンパウンドを粉砕し、5μm以上の最大径を有する粒子数を、1μm以上5μm未満の最大径を有する粒子数の1/20以下とする工程、及び粉砕された赤リン含有コンパウンドを0.05〜10mg、好ましくは、0.1〜0.5mg程度秤量して標準試料とする工程を有することを特徴とする樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法、及び、熱分解GCMSによる樹脂中の赤リンの定量方法であって、前記標準試料を用いることを特徴とする分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂(樹脂組成物)中の赤リンを定量分析する際に必要な標準試料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題への配慮から、難燃性樹脂組成物として、ノンハロゲンの樹脂に赤リン系難燃剤を配合したノンハロゲン樹脂組成物が用いられている(特許文献1)。そこで、赤リン系難燃剤を含有した製品の製造時や出荷時における品質管理や、製品の購入者にとっての受け入れ検査等に有用な赤リンの分析法の開発が望まれている。
【0003】
赤リンは、各種溶剤に溶けず分離回収が困難であることに加え、赤リン自体には赤外分光装置における赤外吸収もない。樹脂中に配合された赤リンを、ラマン分光装置を用いて分析しても赤リンに関する情報を識別することができない。又、元素分析、例えばエネルギー分散型蛍光X線装置を用いたEDX元素分析では、赤リンと有機リンの識別はできないので、リン酸エステル等の有機リンの含有が考えられる場合は赤リンのみの分析はできない。従って、これらの方法では樹脂中の赤リンを分析することができない。
【0004】
そこで、本発明者等は、赤リン、特に樹脂中に難燃剤として含まれている赤リンを、簡便、迅速かつ確実に分析する方法として、熱分解ガスクロマトグラフにより試料をガス化した後ガスクロマトグラフィーによる測定をし、さらにガスクロマトグラフィーの分画の検出手段として質量分析器を用いる方法、すなわち熱分解GCMSによる分析法を開発し、特願2007−326840号として提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−161924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱分解GCMS等による樹脂中の赤リンの定量は、予め所定濃度の赤リンを含有した標準物質について、赤リンの保持時間に対応するピークの面積値を算出して検量線を作成し、この検量線と被測定試料の同じ保持時間におけるピーク面積値との比較により行われる。従って、正確に定量するためには標準試料を整備し正確な検量線を作成する必要がある。しかしながら、熱分解GCMSを用いる分析に関しては、この標準試料の整備が困難であった。
【0007】
すなわち、熱分解GCMSによる分析では試料量が多くなると検出器を汚染する等の問題が生じるので、試料量は多くとも10mgであり、通常0.5mg以下である。又、標準試料も固体試料であるので、希釈による濃度調整が可能な溶液の標準試料と異なり、均一分散性の確保および保証が困難である。すなわち、試料量が100mg程度である場合が多い元素分析と異なり試料量が極微量の固体試料であるので、均一分散性の確保および保証は、従来の如何なる混練技術を有しても極めて困難であった。
【0008】
本発明は、従来技術のこの問題を解決するためになされたもので、0.05〜10mg、好ましくは0.1〜0.5mg程度の極微量であっても所定濃度の赤リンの均一分散が保証された標準試料の作成方法を提供することを課題とする。本発明は、又、熱分解GCMSによる樹脂中の赤リンの定量方法であって、この標準試料を用いることを特徴とし、正確な定量を可能とする分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、赤リンを所定量樹脂中に混練して赤リン含有コンパウンドを作成し、このコンパウンドを微細粉砕することにより、0.05〜10mg、好ましくは、0.1〜0.5mg程度の極微量であっても所定濃度の赤リンの均一分散が保証された標準試料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、その請求項1として、
赤リンを所定量秤量して樹脂中に均一混合し赤リン含有コンパウンドを作成する工程、
前記赤リン含有コンパウンドを粉砕し、5μm以上の最大径を有する粒子数を、1μm以上5μm未満の最大径を有する粒子数の1/20以下とする工程、及び
粉砕された赤リン含有コンパウンドを0.05〜10mg秤量して標準試料とする工程
を有することを特徴とする樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法を提供する。
【0011】
赤リン含有コンパウンドの作製のためには、赤リンが樹脂中に十分均一になるように混合(混練)する必要がある。又、混合(混練)中の赤リンが昇華しない条件で行う必要がある。従って、混合温度は、赤リンの昇華温度である400℃以下であり、かつ樹脂が溶融可能な温度(融点)以上とする必要がある。均一な混練が確保され得られたコンパウンドを粉砕して熱分解GCMSの試料として使用できる限りは、用いられる樹脂の種類及び混合方法は特に限定されない。
【0012】
樹脂中に混練される赤リンの量は、試料中の赤リン濃度の測定範囲に応じて適宜選択される。例えば、測定対象の試料中の赤リン濃度が100〜1000ppmの範囲にあると考えられる場合は、100〜1000ppmの範囲での検量線が作製できるように、この範囲内の数点(例えば、100、300、500、700、1000ppm)のそれぞれに対応する赤リンの量を選択する。
【0013】
前記赤リン含有コンパウンドを粉砕する工程は所謂微細粉砕であり、赤リン含有コンパウンドを、5μm以上の最大径を有する粒子数が、1μm以上5μm未満の最大径を有する粒子数の1/20以下となるまで粉砕する。より正確な定量のためには、5μm以上の最大径を有する粒子数はより少ない方が好ましく、特に好ましくは5μm以上の最大径を有する粒子を含まない場合である。粉砕された微細粒子の形状が球状でない場合、粒子径は測定方向により異なるが、最大径とは、あらゆる方向について測定した場合における径の中の最大のものを言う。
【0014】
このようにして微細粉砕された赤リン含有コンパウンドを0.05〜10mg秤量して標準試料とする。微細粉砕されたものは最大径が5μm未満の微細粒子が主体であるので、0.05〜10mgとの微量であっても標準試料中の赤リンの均一分散が保証される。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記標準試料とする工程において、粉砕された赤リン含有コンパウンドを0.1〜0.5mg秤量することを特徴とする請求項1に記載の樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法である。赤リン含有コンパウンドの量は、検出器の汚染等を抑制するためには0.5mg以下が好ましく、又、より正確な検量線を得るためには、0.1mg以上が好ましい。微細粉砕されたものは最大径が5μm未満の微細粒子が主体であるので、0.1〜0.5mgとの極微量であっても標準試料中の赤リンの均一分散が保証される。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記赤リン含有コンパウンドの粉砕が、前記コンパウンドに打撃及び剪断力を加えて行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法である。
【0017】
従来、樹脂コンパウンドの粉砕は、ハンマーによる打撃や乳鉢による破砕等により行われていたが、この方法では、最大径が5μm未満の微細粒子が主体となるまで粉砕することはできない。しかし、樹脂コンパウンドに打撃を加えるとともに剪断力を加えることにより、最大径が5μm未満の微細粒子が主体となるまで微細粉砕することが可能になる。特に、立体8の字運動による打撃・剪断力を樹脂コンパウンドに与え、破砕・粉砕する方法が好ましい。
【0018】
本発明は、前記の標準試料の製造方法に加えて、この標準試料を用いることを特徴とする樹脂中の赤リンの定量方法を提供する。すなわち、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法により、赤リンの含有量を変えた複数の標準試料を製造する工程、
得られた標準試料を熱分解してガス化しガスクロマトグラフィーにより各分画に分離し、赤リンに相当する保持時間の分画について得られたピーク面積値を試料重量で除してピーク強度比を得る工程、
得られたピーク強度比と赤リンの含有量との関係を表す検量線を作成する工程、
測定対象資料を熱分解してガス化しガスクロマトグラフィーにより各分画に分離し、赤リンに該当する分画についてのピーク強度比Aを得る工程、及び
前記検量線より、前記ピーク強度比Aに対応する赤リンの含有量を得る工程
からなることを特徴とする樹脂中の赤リンの定量方法(請求項4)である。
【0019】
ここでピーク面積値とは、検出器により得られたピーク面積又はピーク高さの値である。検出器としては、GCに用いられる一般的な検出器が適用可能で、特に限定されないが、好ましくは質量分析器(MS)が用いられる。検出器が、質量分析器の場合、ピーク面積値とは、イオンクロマトグラムにおける全イオンの又は選択された1つ若しくは複数のイオンのピーク面積又はピーク高さの値である。
【0020】
赤リンに相当する保持時間は、測定条件により変動するので、予め、同条件における赤リン単体の測定を行って求めておくことが好ましい。この定量方法では、前記本発明の標準試料の製造方法により得られた標準試料、すなわち赤リンの均一分散性が確保された標準試料が用いられるので、正確な検量線が作製され、樹脂中の赤リンを正確に定量することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法によれば、0.05〜10mg、好ましくは0.1〜0.5mg程度の極微量であっても所定濃度の赤リンの均一分散が保証された標準試料が得られる。従って、試料の量が0.05〜10mg、好ましくは、0.1〜0.5mg程度の極微量である熱分解GCMSの標準試料の製造方法として好適である。又、このようにして得られた標準試料を用いた本発明の樹脂中の赤リンの定量方法により、樹脂中の赤リンを正確に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】赤リン含有量とGC/MSスペクトルのピーク強度比との関係を示すグラフである。
【図2】実施例で得られた粉砕物のSEM写真である。
【図3】比較例で得られた粉砕物のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
赤リン含有コンパウンドを作製する工程で使用される混合方法は特に限定されないが、例えば、加圧ニーダー、ロール混合機、二軸混合機、バンバリーミキサーを用いる方法を挙げることができる。使用できる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム等の各種樹脂を挙げることができる。
【0025】
ここで熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、結晶性ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリブタジエン、スチレンブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA,AS,ABS,アイオノマー,AAS,ACS)、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンポリテトラフルオロエチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート(Uポリマー)、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシベンゾイル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、酢酸セルロース,酢酪酸セルロース、セロファン、セルロイド等を挙げることができる。又、スチレン−ブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等のエラストマーも使用可能である。
【0026】
熱硬化性樹脂としては、ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂,メラミン樹脂,ベンゾグアナミン樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂エポキシ樹脂、ウレタン樹脂(ポリウレタン)、ケイ素樹脂(シリコーン)等を挙げることができる。
【0027】
赤リン含有コンパウンドの微細粉砕としては、前記のように、立体8の字運動による打撃・剪断力を各サンプルに与え、破砕・粉砕する方法が好ましい。又、破砕度・破砕能力は、破砕媒体の種類、振動数、破砕時間等により変動するので、振動数、破砕時間等の条件を自由に調節できる装置を用いることが好ましい。このような装置としては、例えば、マルチビーズショッカーとの商品名で市販されている多検体精密試料粉砕機(安井器械社製)を挙げることができる。
【0028】
本発明の樹脂中の赤リンの定量方法における、標準試料や被測定試料を熱分解してガス化する工程は、試料がガス化する温度以上に試料を加熱することにより行われる。従って、加熱温度は赤リンの昇華温度(416℃)以上であるが、赤リンを確実に昇華し精度の高い分析を行うためには、樹脂の分解温度以上の温度で加熱する必要がある。好ましい加熱温度は600〜800℃程度である。
【0029】
又、加熱時間は、試料が完全にガス化するために必要な時間以上であり、加熱温度や試料の量等により変動し特に限定されない。加熱手段は特に限定されず、通常の熱分解ガスクロマトグラフに使用されている加熱手段を使用することができる。
【0030】
熱分解されガス化した試料は、ガスクロマトグラフのカラムに導入され、試料中の各成分が、固定相との分配平衡定数の差異により分離され、成分毎により異なった時間(保持時間)で流出してくる。このガスクロマトグラフィーの諸条件は、樹脂の分析に使用される通常の熱分解ガスクロマトグラフィーの条件と同等である。
【0031】
カラムとしては、パックドカラム、キャピラリーカラムのいずれも使用できるが、定性分析にはキャピラリーカラムが好ましく使用される。
【0032】
ガスクロマトグラフのカラムより流出した試料は、検出器に導入され、保持時間に応じた流出(分画)の有無が検出される。赤リンの分析は、赤リンに相当する保持時間の分画の検出により行われる。例えば、赤リンに相当する保持時間に、検出のピーク(分画)が有れば、試料中の赤リンの存在が確認される。
【0033】
赤リンに相当する保持時間は、熱分解ガスクロマトグラフの運転条件、カラムの種類等により変動する。そこで、試料の測定に先立ち、上記と同様の分析を赤リンの標準試料を用いて行い、予め赤リンに相当する保持時間を得ておく。
【0034】
前記のように、検出器としては質量分析器(MS)が好ましく用いられる。質量分析によれば、赤リンはm/z=31、62、93及び124に特徴的なピークを示す。標準試料について得られたピークの面積又はピークの高さに基づいて検量線を作成し、その後被測定試料の測定を行い、検量線と、試料の測定により得られたピークの面積により定量分析をする。
【0035】
質量分析器は、ガスクロマトグラフのカラムと結合する部分であるインターフェイス、試料のイオン化を行うイオン源、質量分離部、検出器等からなる。イオン源でのイオン化方法としては、EI法、CI法のいずれも使用することができ、質量分離部のアナライザーとしても、磁場型、四重極型等のいずれも使用することができる。又、検出器における測定モードとしても、SCANモード、SIMモードのいずれも使用することができる。
【0036】
次に、本発明を実施するための形態について実施例により説明するが、本発明の範囲はこの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
[赤リン含有コンパウンドの作製]
赤リンとしては関東化学社製の試薬を用いた。この赤リンを、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA、商品名:エバフレックスA701)に、赤リン含有量が、100、250、500又は1000ppmとなるように加え、それぞれ、ロール混合機を用いて200℃で5分間混合し、赤リン含有量が異なる4つの赤リン含有コンパウンドを作製した。
【0038】
[赤リン含有コンパウンドの微細粉砕]
得られた赤リン含有コンパウンドを、多検体精密試料粉砕機(商品名:マルチビーズショッカー、安井器械社製)を用いて微細粉砕した。具体的には、得られた4つの赤リン含有コンパウンドのそれぞれについて1gを40mlのチタン製粉砕容器に入れ、液体窒素条件下、振動数3000rpmで、60秒粉砕した。その結果、5μm以上の最大径を有する粒子数が、1μm以上5μm未満の最大径を有する粒子数の1/20以下である粉砕物が得られた。その粉砕物のSEM写真を図2に示す。
【0039】
[熱分解GCMS測定、検量線の作製]
このようにして得られた粉砕物を約0.5mg秤量し、それぞれの試料を、以下に示す熱分解装置、熱分解条件により熱分解(ガス化)し、ガス化した試料を、以下に示すガスクロマトグラフ/マススペクトロメトリー(GC/MS装置)により測定し、保持時間4.2分の位置のピークについてのピーク面積値を求め、ピーク面積値/測定試料重量(以下「ピーク強度比」と言う。)を計算した。なお、この条件で測定したガスクロマトグラフの保持時間4.2分のピークについて質量分析(MS)測定をしたところm/z=62、93及び124の位置にピークが得られたので、保持時間4.2分のピークは、赤リンのピークであると同定した。又、赤リン単体について同じ条件で熱分解GCMS測定を行ったところそのピークは、保持時間4.2分であった。
【0040】
(熱分解条件)
フロンティアラボ社製を用いた。熱分解条件は、600℃×0.2分である。
【0041】
(GC/MS装置)
アジレント社製:Agilent6890を用いた。本装置の運転条件を以下に示す。
カラム:HP−5MS(内径:0.25mm、膜厚:0.25μm、長さ:30m)
カラム流量:Heガス 1.0ml/分
昇温条件:50℃から320℃まで25℃/分で昇温し、320℃で5分間維持
MS温度:230℃(MS Source)、150℃(MS Quad)
インターフェイス温度:280℃
測定モード:SCANモード
なお、質量分析(MS)の測定は、酸素のピークを避けるため、m/z=33〜550の範囲で行った。
【0042】
測定はそれぞれの試料について3回行った。その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示されるように、3回の測定におけるピーク強度比のバラツキ(cv)は4.5%(赤リン配合量1000ppmの場合)〜9.8%(赤リン配合量100ppmの場合)であった。図1は、樹脂中の赤リン含有量(赤リン配合量)とピーク強度比の3回の測定における平均値との関係を示したグラフである。図1より明らかなように、樹脂中の赤リン含有量とGC/MS分析におけるピーク強度比には良好な相関があり、その相関係数は0.9965であった。この結果より、本発明の定量分析方法により、精度の高い定量分析も行えることが示された。
【0045】
(比較例)
赤リン含有コンパウンドの微細粉砕を行った粉砕物を用いる代わりに、赤リン含有コンパウンドを従来型粉砕機にて粉砕した粉砕物を用いた以外は、実施例と同様にして熱分解GCMS測定を行った。その粉砕物のSEM像を図3に示す。又、それぞれの試料について3回測定を行った結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示されるように、3回の測定におけるピーク強度比のバラツキ(cv)は47.2%(赤リン配合量100ppmの場合)〜65.6%(赤リン配合量250ppmの場合)であり、実施例(本発明例)に比べてはるかに大きかった。実施例と比較例の比較より、本発明によれば、樹脂中の赤リンの定量を従来技術よりはるかに精度の高い精度で行えることが示されている。
【0048】
(参考例1)
赤リン含有コンパウンドの代わりに、試料量約0.1mgの赤リン試薬単体を用い、熱分解GCMS測定を行った。3回測定を行った結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3が示すように、赤リン単体の測定でもバラツキ(cv)は、4.3%であり、この分析手法自体、5%程度のバラツキを生じることが示されている。この結果と表1の結果との比較から、実施例における標準試料中の濃度のバラツキは非常に小さいことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤リンを所定量秤量して樹脂中に均一混合し赤リン含有コンパウンドを作成する工程、
前記赤リン含有コンパウンドを粉砕し、5μm以上の最大径を有する粒子数を、1μm以上5μm未満の最大径を有する粒子数の1/20以下とする工程、及び
粉砕された赤リン含有コンパウンドを0.05〜10mg秤量して標準試料とする工程
を有することを特徴とする樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法。
【請求項2】
前記標準試料とする工程において、粉砕された赤リン含有コンパウンドを0.1〜0.5mg秤量することを特徴とする請求項1に記載の樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法。
【請求項3】
前記赤リン含有コンパウンドの粉砕が、前記コンパウンドに打撃及び剪断力を加えて行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の樹脂中の赤リン定量用標準試料の製造方法により、赤リンの含有量を変えた複数の標準試料を製造する工程、
得られた標準試料を熱分解してガス化しガスクロマトグラフィーにより各分画に分離し、赤リンに相当する保持時間の分画について得られたピーク面積値を試料重量で除してピーク強度比を得る工程、
得られたピーク強度比と赤リンの含有量との関係を表す検量線を作成する工程、
測定対象資料を熱分解してガス化しガスクロマトグラフィーにより各分画に分離し、赤リンに該当する分画についてのピーク強度比Aを得る工程、及び
前記検量線より、前記ピーク強度比Aに対応する赤リンの含有量を得る工程
からなることを特徴とする樹脂中の赤リンの定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−281632(P2010−281632A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134086(P2009−134086)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】