説明

樹脂分散体、塗料、積層体及びその製造方法

【課題】分散粒子径が細かく安定で、ブリードアウトが抑制され、ポリオレフィン系基材に対する表面処理剤、接着剤あるいは塗料等として有用な、樹脂の水分散体を提供する。
【解決手段】プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に、親水性高分子(B)が結合してなるか又は酸性基が結合してなる重合体(C)を、50%粒子径0.5μm以下で水に分散させてなる樹脂分散体であって、前記共重合体(A)のプロピレン含量が50モル%以上100モル%未満であり、かつ共重合体(A)の重量平均分子量Mwが10000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下であり、樹脂分散体の界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下である樹脂分散体、及びこれを用いた塗料、積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系重合体を含む水性樹脂分散体、それを含有してなる塗料及び積層体、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン重合体やプロピレン−α−オレフィン共重合体などのポリオレフィンは安価であり、しかも、機械的物性、耐熱性、耐薬品性、耐水性などに優れていることから、広い分野で使用されている。しかしながら、こうしたポリオレフィンは、分子中に極性基を持たないため一般に低極性であり、塗装や接着が困難であり改善が望まれていた。このため、ポリオレフィンの成形体の表面を薬剤などで化学的に処理する方法、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理などの手法で成形体表面を酸化処理する方法、といった種々の方法が試みられてきている。しかるにこれらの方法では、特殊な装置が必要である上に、塗装性や接着性の改良効果が必ずしも十分ではなかった。
【0003】
そこで比較的簡便な方法でポリオレフィン、例えばプロピレン系重合体に良好な塗装性や接着性を付与するための工夫として、いわゆる塩素化ポリプロピレンや酸変性プロピレン−α−オレフィン共重合体、さらに酸変性塩素化ポリプロピレンが開発されてきた。このような変性ポリオレフィンを、ポリオレフィンの成形体表面に表面処理剤、接着剤或いは塗料等として塗布するのである。変性ポリオレフィンは通常、有機溶媒の溶液、又は水への分散体などの形態で塗布される。安全衛生及び環境汚染の低減の面から通常、水分散体が好ましく用いられる。
【0004】
このような水分散体の例として、酸変性塩素化ポリプロピレンを界面活性剤と塩基性物質を使用して水に分散させた樹脂分散体(特許文献1)または酸変性ポリオレフィンを界面活性剤と塩基性物質を使用して水に分散させた樹脂分散体(特許文献2)等がある。
しかしこれらの樹脂分散体では、分散粒子径を細かくするには界面活性剤を大量に添加する必要があり、結果として、このような樹脂分散体を用いた塗料は耐水性や耐薬品性に乏しいという課題があった。また塗布後に界面活性剤が塗装表面へブリードアウトして外観不良が起こる場合もあった。一方、界面活性剤の使用量を減らすと樹脂の分散粒子径の粗いものしかできず、貯蔵安定性に問題があった。界面活性剤を用いた乳化系ではこれら全てを満足させることは困難であり、さらなる改善が望まれていた。また特許文献1においては、樹脂の分散性を確保するために、比較的融点を低くした塩素化ポリプロピレンを用いているが、環境汚染防止の点からは塩素使用量低減が望ましい。
【0005】
他の例として、ポリプロピレンセグメントに官能性セグメントをブロック共重合した重合体を水分散した樹脂分散体(特許文献3)もあるが、エチレン系共重合体やポリプロピレンホモポリマーの分散粒子径が十分に細かいとは言えず、また界面活性剤を全く用いずに分散体とすることはできておらず、さらに改善の必要があった。
そこでプロピレン−α−オレフィン共重合体に不飽和カルボン酸を多量にグラフトさせたポリオレフィンを塩基存在下で分散させたポリオレフィン水分散体が提案されている(特許文献4)。しかしながら分子量分布が広く共重合性を制御していないプロピレン−α−オレフィン共重合体を使用しているため、分散粒子径を細かくするために耐圧容器を用い水や溶媒の沸点以上の温度で分散する特殊な方法を用いなければならない。
また塩素化プロピレン−エチレン共重合体を無水マレインで変性した無水マレイン化塩素化プロピレン−エチレン共重合体を塩基存在下で分散させた水分散体が提案されている(特許文献5)。しかしながら使用する原料の分子量が6,500と極めて低いため、ポリオレフィン基材への密着性、耐水性、耐薬品性に劣る。
【0006】
一方、使用されるプロピレン−α−オレフィン共重合体としては、チーグラー・ナッタ触媒で合成されるプロピレン−α−オレフィン共重合体に代わってメタロセン触媒で合成される、分子量分布が狭く共重合配列がランダムかつ均一に配列されたプロピレン−α−オレフィン共重合体の使用が提案されている(特許文献5)。これにより低温ヒートシール性に優れた水分散体が得られたことが記載されている。しかし、依然として界面活性剤の使用が必須であり、粒子径が大きく安定性が悪い上に、界面活性剤によるブリードアウトや、耐薬品性に乏しいなどの課題が残る。
【0007】
またα−オレフィンを用いず、ステレオブロック構造を有するポリプロピレンのみを使用した水分散体も提案されている(特許文献6)が、界面活性剤の使用が必須であり、やはりブリードアウト等の課題が残る。
【特許文献1】特開平10−231402
【特許文献2】特開平6−256592号(米国特許公報第5534577号)
【特許文献3】特開2001−288372(米国公開公報2003−055179号)
【特許文献4】特開2005−126482
【特許文献5】特開平3−182534号
【特許文献6】特開2000−344972
【特許文献7】特開2004−002842(米国公開公報2005−124753号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、分散粒子径が細かく安定であり、かつ界面活性剤によるブリードアウトが抑制され、耐薬品性・耐水性に優れ、結晶性を有するオレフィン系重合体に対する密着性に優れた表面処理剤、接着剤あるいは塗料等として有用な、樹脂の水分散体を提供するものである。またこれを含有してなる塗料、積層体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の性質を持つプロピレン−α−オレフィン共重合体に、親水性高分子を所定割合で結合させるか又は酸性基を結合させた重合体を、界面活性剤を用いず、或いはごく少量の界面活性剤とともに水に分散させることで、優れた特性の樹脂分散体が得られることを見いだし本発明に至った。
即ち本発明は、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に、親水性高分子(B)が結合してなるか又は酸性基が結合してなる重合体(C)を50%粒子径0.5μm以下で水に分散させてなる樹脂分散体であって、前記共重合体(A)のプロピレン含量が50モル%以上100モル%未満であり、かつ共重合体(A)の重量平均分子量Mwが10,000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下であり、樹脂分散体の界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下であることを特徴とする、樹脂分散体に関する。
【0010】
また本発明は、共重合体(A)がシングルサイト触媒を用いて製造された樹脂分散体に関する。
また本発明は、共重合体(A)がプロピレン−ブテン共重合体である樹脂分散体に関する。
更に本発明は、共重合体(A)が、融点Tmが100℃以下であり、結晶融解熱量ΔHが60J/g以下である樹脂分散体に関する。
更に本発明は、共重合体(A)が、昇温溶出分別法において60℃以下で95%以上が溶出する樹脂分散体に関する。
【0011】
また本発明は、共重合体(A)が実質的に塩素を含まない樹脂分散体に関する。
更に本発明は、重合体(C)が、50%粒子径0.3μm以下で水に分散されてなる樹脂分散体に関する。
また本発明は、重合体(C)が、共重合体(A)に、親水性高分子(B)が(A):(B)=100:1〜100:500(重量比)の割合で結合してなるか又は酸性基が結合してなる樹脂分散体に関する。
【0012】
また本発明は、重合体(C)が、共重合体(A)に親水性高分子(B)が結合してなる樹脂分散体に関する。
また本発明は、重合体(C)が、共重合体(A)に親水性高分子(B)がグラフト結合したグラフト共重合体である樹脂分散体に関する。
また本発明は、重合体(C)が、共重合体(A)1g当たり親水性高分子(B)が0.01〜5mmol結合してなる樹脂分散体に関する。
また本発明は、親水性高分子(B)がポリエーテル樹脂である樹脂分散体に関する。
【0013】
また本発明は、親水性高分子(B)が反応性基を1分子当たり1以上有してなる樹脂分散体に関する。
また本発明は、親水性高分子(B)が反応性基として少なくともアミノ基を有してなる樹脂分散体に関する。
また本発明は、実質的に界面活性剤を含まない樹脂分散体に関する。
【0014】
本発明はまた、重合体(C)を水に分散させてなり、かつ界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下である樹脂分散体の製造方法であって、重合体(C)、水、及び水以外の溶媒の混合物を調製したのち、該混合物から該溶媒を除去することにより樹脂分散体を得る樹脂分散体の製造方法に関する。
本発明はまた、重合体(C)と、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1以上の樹脂(D)、及び水からなる樹脂分散体であって、共重合体(A)と樹脂(D)との質量比が90:10〜10:90であり、重合体(C)及び樹脂(D)の合計量と水との質量比が5:95〜60:40であり、界面活性剤含有量が重合体(C)及び樹脂(D)の合計量100重量部に対し15重量部以下であることを特徴とする樹脂分散体に関する。
【0015】
また本発明は、重合体(C)からなる粒子と、樹脂(D)からなる粒子とが、それぞれ水に分散されてなる樹脂分散体に関する。
更に本発明は、前記樹脂分散体がさらに顔料を含んでなり、重合体(C)及び樹脂(D)の合計量と顔料との質量比が100:10〜100:400である樹脂分散体に関する。
【0016】
本発明はまた、重合体(C)及び樹脂(D)を水に分散させてなり、かつ界面活性剤含有量が重合体(C)及び樹脂(D)の合計量100重量部に対し15重量部以下である樹脂分散体を得るに当たり、重合体(C)を水に分散させてなる分散体と、樹脂(D)を水に分散させてなる分散体を混合させることを特徴とする、樹脂分散体の製造方法に関する。
【0017】
本発明はまた、前記樹脂分散体を含有する塗料に関する。
本発明は更に、熱可塑性樹脂成形体(F)上に、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に、親水性高分子(B)結合してなるか又は酸性基が結合してなる重合体(C)を含み、共重合体(A)のプロピレン含量が50モル%以上100モル%未満でありかつ共重合体(A)の重量平均分子量Mwが10,000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下であり、界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下である樹脂層を有する積層体に関する。
【0018】
また本発明は、熱可塑性樹脂成形体(F)に、前記樹脂分散体又は前記塗料を塗布し、加熱することにより樹脂層が形成されてなる積層体に関する。
本発明はまた、熱可塑性樹脂成形体(F)に、前記樹脂分散体又は前記塗料を塗布し、加熱して樹脂層を形成する、積層体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、重合体(C)は水への分散性に非常に優れるので、分散粒子径が細かく、なおかつ粒径分布を狭くでき、安定に分散できる利点がある。また界面活性剤をごく少量か又は実質的に添加することなく分散できるので、従来問題となっていた界面活性剤によるブリードアウトが抑制できる利点があり、ひいては優れた外観の塗布品が得られる。従って従来は有機溶剤の溶液として塗布していた用途にも水性分散体を使用でき、安全衛生面でも有利である。また有機溶剤溶液ではないのでVOC(揮発性有機化学物質)排出が低減でき環境面でも有利である。しかも実質的に塩素を含まないで優れた性質の水分散体を得ることができる。塩素を含まない場合、ダイオキシン等や毒性等の問題が無く、環境面で非常に有利である。
【0020】
更に、プロピレン−α−オレフィン共重合体(A)は同程度の立体規則性を持つプロピレンホモポリマーに比べて溶媒溶解性が高く水分散性に優れ、また融点が低いためこれを用いた樹脂分散体は塗装後の焼き付け温度を下げることができる利点がある。
また本発明の樹脂分散体の製造方法によれば、分散粒子径が細かく、粒径分布が狭く、かつ樹脂粒子が安定に分散した、優れた水性樹脂分散体を簡便に得ることができる。
【0021】
さらに、本発明の樹脂分散体を含む塗料を塗布して得られた塗装膜は耐水性、耐湿性、耐油性(耐ガソホール性)、耐薬品性に優れる。このため1回のみの塗装で仕上げられ、例えば溶剤系ラッカー型塗料を使用する塗装方法にも好適である。
そして得られる塗膜はポリオレフィン素材、もしくはポリオレフィン等を含有するプラスチック素材に対して良好な密着性を示し、通常塗装や接着が困難な未処理ポリプロピレンのような難接着性の基材上にも形成しうる。
【0022】
また本発明の樹脂分散体における重合体(C)を他の樹脂と併用して複合樹脂分散体とすれば、他の樹脂に由来する物性値の向上、具体的には塗膜の強度、耐水性、耐候性、耐擦性、耐溶剤性などを向上させることができる。
従って本発明の樹脂分散体は結晶性を有するオレフィン系重合体に対する表面処理剤、接着剤、コーティング剤、塗料等としてきわめて有用である。
【0023】
また本発明の積層体は、塗膜密着性に優れ、幅広い工業製品に適用可能である。
なお本発明においては必ずしもすべての効果を発現することを必須とするものではなく、上記した1以上の効果があればよいものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の水性樹脂分散体(以下、「水分散体」、「水性分散体」、「樹脂分散体」と称することもある。)は、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であって、プロピレン含量が50モル%以上100モル%未満であり、かつ重量平均分子量Mwが10,000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下である共重合体(A)に、親水性高分子(B)が結合してなるか又は酸性基が結合してなる重合体(C)を、50%粒子径0.5μm以下で水に分散させてなり、界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下である。即ち上記特定のオレフィン系共重合体(A)に親水性高分子を結合させるか酸性基を結合させた重合体(C)は水への分散性に非常に優れるので、界面活性剤を全く用いないかごく少量用いることで、分散粒子径が細かく、かつ粒径分布が狭く、粒子が安定的に分散した水性樹脂分散体を得ることができる。
【0025】
なお本発明において分散とは、分散粒子が極めて小さく単分子で分散している状態、実質的には溶解と言えるような状態を含む概念である。
以下、より詳細に説明する。
[1]プロピレン−α−オレフィン共重合体(A)
本発明におけるプロピレン−α−オレフィン共重合体(A)(以下、単に「共重合体(A)」ともいう。)は、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であって(以下、単に「プロピレン−α−オレフィン共重合体」と称する。)であって、プロピレン含量が50モル%以上100モル%未満であり、重量平均分子量Mwが10,000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下である。
【0026】
共重合体(A)としては、プロピレンと、プロピレン以外の1種または2種以上のα−オレフィンコモノマーとの共重合体であれば公知の各種共重合体を用いることができ、特に限定されない。α−オレフィンコモノマーとしては、例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、またはノルボルネンなどが挙げられる。α−オレフィンコモノマーとして好ましくは炭素数2〜6のα−オレフィンコモノマーが好ましく、エチレンまたは1−ブテン(以下、単に「ブテン」と称することがある。)が好ましく、1−ブテンが特に好ましい。本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、α−オレフィン以外の他のモノマーをさらに共重合してもよい。更に、これらプロピレン系重合体を塩素化した塩素化プロピレン系重合体も使用しうる。
【0027】
共重合体(A)として具体的には、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−ヘキセン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体、塩素化プロピレン−エチレン共重合体、塩素化プロピレン−ブテン共重合体などが挙げられる。なかでも、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、塩素化プロピレン−エチレン共重合体、又は塩素化プロピレン−ブテン共重合体が好ましく、プロピレン−エチレン共重合体、又はプロピレン−ブテン共重合体がより好ましく、プロピレン−ブテン共重合体が更に好ましい。市販品として入手できるものとしては、ウィンテックシリーズ(日本ポリプロ社製)、タフマーXMシリーズ(三井化学社製)、リコセンPPシリーズ(クラリアント社製)、スーパークロンシリーズの一部(日本製紙ケミカル社製)、ハードレンシリーズの一部(東洋化成工業社製)などが挙げられる。
【0028】
共重合体(A)のプロピレン含量は、α−オレフィンコモノマーの種類、立体規則性、塩素化度等が互いに関連して変化しうるが、おおよそ以下の通りである。
本発明におけるプロピレン−α−オレフィン共重合体(A)のプロピレンの含量は50モル%以上である。通常、プロピレン含量が高いほどポリプロピレン基材への密着性が増す傾向がある。プロピレン含量は、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上である。但しプロピレン含量は100%未満である。通常、プロピレン含量を低くすると共重合体の融点を下げることができ、例えば塗装後の焼き付け温度を下げることができる利点がある。
【0029】
なかでもプロピレン含量が70モル%以上100モル%未満、1−ブテン含量が30モル%以下であるプロピレン−ブテン共重合体が好ましい。
共重合体(A)はランダム共重合体でもブロック共重合体でもよいが、ランダム共重合体が好ましい。ランダム共重合体であれば、より効果的に共重合体の融点を下げることができる。また共重合体(A)は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0030】
塩素化プロピレン−α−オレフィン共重合体を用いる場合、その塩素化度は通常25重量%以下であり、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下である。塩素化度が高くなるにつれてポリマーの極性が高くなり、ポリオレフィンとの親和性が低くなり密着性が低下する傾向にある。従って塩素化度は低い方が好ましい。また環境負荷を低減する目的からは、共重合体(A)は実質的に塩素を含まないことが望ましい。実質的に塩素を含まないとは、例えば塩素化度が5重量%未満である。
【0031】
プロピレン−α−オレフィン共重合体の立体規則性としては、全体または部分的にアイソタクチック構造を有するものが好ましい。例えば通常のアイソタクチックプロピレン−α−オレフィン共重合体はもちろんのこと、特開2003−231714号公報やUS4,522,982号公報に記載されているような、アイソタクチックブロックポリプロピレンや、ステレオブロックポリプロピレン等にα−オレフィンコモノマーを共重合した共重合体も使用できる。
【0032】
共重合体(A)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)で測定し各々のポリオレフィンの検量線で換算した重量平均分子量Mwが10,000以上である。Mwが10,000未満ではべたつき度合いが大きく基材への密着性が不十分である。Mwの下限値のより好ましい値は15,000、更に好ましい値は30,000、特に好ましくは50,000である。Mwが下限値より高いほどべたつき度合いが小さくなる他、耐油性(耐ガソホール性)や耐薬品性が高まり、塗料として用いやすくなる。
重量平均分子量Mwは500,000以下であることが好ましい。Mwの上限値のより好ましい値は300,000、さらに好ましくは250,000、特に好ましくは200,000である。Mwが上限値より低いほど粘度が低くなり樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。なおGPC測定は、オルトジクロロベンゼンなどを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行うことができる。
【0033】
本発明における共重合体(A)は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比で表される分子量分布Mw/Mnが、3.5以下である。これは分子量分布が狭く、共重合体の分子量が均一に揃っていることを意味する。このような共重合体(A)を用いることで、水への分散時の粒径制御がしやすくなり、分散粒径が小さく、粒径分布が狭く、かつ安定に分散した樹脂分散体が得られる利点がある。Mw/Mnが3.0以下が好ましく、また、通常1.0以上である。
【0034】
共重合体(A)は融点Tmが100℃以下であることが好ましい。より好ましくは90℃以下である。融点Tmが100℃より低いほど、結晶性が低く溶媒への溶解性が向上し、乳化・分散作業が低温で行いやすくなるため好ましい。また、この樹脂分散体が例えば塗料や接着剤としての用途に使用される場合は、低い焼付け温度で溶融する点でも有利である。但し、共重合体(A)の融点Tmは通常、25℃以上であり、好ましくは35℃以上である。本発明の樹脂分散体から得られる層の高耐熱性、高硬度、べたつきのなさなどの点で有利であるためである。
【0035】
また共重合体(A)は結晶融解熱量ΔHが60J/g以下であることが好ましく、さらに50J/g以下が好ましい。ΔHが60J/gより小さいほど、結晶性が低く溶媒への溶解性が向上し、乳化・分散作業が低温で行いやすくなるため好ましい。ΔHは通常、0J/g以上であるが、密着性という観点からは10J/g以上であることが好ましい。10J/g以上であれば凝集破壊しにくくなる利点がある。ΔHは、より好ましくは20J/g以上、更に好ましくは30J/g以上である。
【0036】
また共重合体(A)は、昇温溶出分別法(Temperature Rising Elution Fractionation:TREF)において60℃以下で95重量%以上が溶出することが好ましい。95%以上とすることで、分子の乳化性が向上し、乳化の際に凝集物として析出しにくくなる。凝集物が析出すると収率が悪化するだけでなく、ろ過時にフィルターが目詰まりする問題がある。また好ましくは20℃以下で溶出する成分が20%以下、さらに好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。また好ましくは30℃以下で溶出する成分が20%以下、さらに好ましくは10%以下である。20℃もしくは30℃以下で溶出する成分が少ないほうが、常温もしくは温暖時における密着性および耐牛脂性、耐ガソホール性などの耐薬品性が向上する。
より好ましくは97重量%以上が溶出することがより好ましい。溶媒は通常、オルトジクロロベンゼンを使用する。昇温溶出分別法はポリマーを溶解温度の差を利用して分別する方法であり、ポリマー中のコモノマー濃度などポリオレフィンの結晶性に関与する構造不均一性を分析するのに有効な分析法である。
【0037】
TREFにおいては、まず高温で溶媒に溶解した試料を同温度でガラスビーズを充填したカラムに注入し、一定温度で冷却しポリマー成分を結晶化させて、ポリマーをビーズ表面に析出した形で保持させる。次に、カラムの温度を段階的に昇温すると、結晶化度の低いポリマー成分が溶出し検出器に到達し検出される。カラム温度が高温になるにつれ結晶化度の高い成分が順番に溶出していく。このようにして溶出温度と溶出量からポリマーの組成分布等が測定できる。またTREFにGPCを組み合わせたクロス分別クロマトグラフィー(CFC)を用いて測定する方法もある。
【0038】
共重合体(A)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また本発明の効果を著しく損なわない限り、共重合体(A)にポリプロピレンホモポリマーやポリエチレンホモポリマーなど他のポリオレフィンを併用してもよい。併用する場合、ポリプロピレンが好ましい。ポリプロピレンは塩素化されていてもよい。なかでも全体または部分的にアイソタクチック構造を有するポリプロピレンが好ましい。例えば通常のアイソタクチックポリプロピレンは勿論のこと、特開2003−231714号公報やUS4,522,982号公報に記載されているような、アイソタクチックブロックポリプロピレンや、ステレオブロックポリプロピレン等も使用しうる。アイソタクチックブロックとアタクチックブロックとを有するステレオブロックポリプロピレンが好ましい。アイソタクチック立体規則性を示す[mmmm]ペンタッドが10%〜90%の範囲であるのがより好ましい。ペンタッドは、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましい。またペンタッドは、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましく、55%以下が特に好ましい。ペンタッドの比率の測定方法は特開2003−231714号公報に記載の方法を用いることができる。下限値より高いほどべたつき度合いが小さくなる傾向があり、また上限値より低いほど結晶化度が低くなり樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。他のポリオレフィンを併用する場合、全ポリオレフィン中の5重量%以上は共重合体(A)であることが好ましく、より好ましくは10重量%以上であり、更に好ましくは15重量%以上である。
【0039】
共重合体(A)を2種以上を組み合わせる場合、プロピレン含有量、塩素化度、分子量分布等の値は、個々の重合体の値の重量平均値をとるものとする。
本発明の共重合体(A)の製法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる製法であってもよい。例えばラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合などが挙げられ、それぞれリビング重合的であってもよい。
【0040】
また配位重合の場合は、例えばチーグラー・ナッタ触媒により重合する方法又はシングルサイト触媒またはカミンスキー触媒により重合する方法が挙げられる。好ましい製法としては、シングルサイト触媒による製造方法を挙げることができる。この理由としては、一般にシングルサイト触媒はリガンドのデザインにより反応を精密に制御しやすく、分子量分布や立体規則性分布がシャープな重合体が得られ、チーグラー・ナッタ触媒による重合体に比べてシングルサイト触媒による重合体の融点が低いので、この重合体を用いた樹脂分散体は塗装後の焼き付け温度を下げることができるためである。シングルサイト触媒としては、例えばメタロセン触媒、ブルックハート型触媒を用いうる。メタロセン触媒ではC1対称型、C2対称型、C2V対称型、CS対称型など、重合するポリオレフィンの立体規則性に合わせて好ましい触媒を選択すればよい。C1対称型、C2対称型のメタロセン触媒を用いることが好ましい。
【0041】
また重合は溶液重合、スラリー重合、バルク重合、気相重合などいずれの重合形態でもよい。溶液重合やスラリー重合の場合、溶媒としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式脂肪族系炭化水素;塩化メチレン、四塩化炭素、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒類などが挙げられる。なかでも芳香族系炭化水素、脂肪族系炭化水素、又は脂環族系炭化水素が好ましく、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、又はシクロヘキサンが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
[2]プロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に酸性基が結合してなる重合体(C1)
本発明における酸性基とは電子対受容性の基を指し、特に限定されないが、例えば、カルボン酸基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)、スルフィノ基(−SO2H)、ホスホノ基(−PO2H)などが挙げられる。中でもカルボキシル基が好ましい。カルボン酸基は、水に分散される前はジカルボン酸無水物基(−CO−O−OC−)の状態でもよい。カルボン酸基としては、例えば、(メタ)アクリル酸基、フマル酸基、マレイン酸基又はその無水物基、イタコン酸基又はその無水物基、クロトン酸基などが挙げられる。
【0043】
酸性基の結合量は、共重合体(A)1g当たり0.4〜5mmol、即ち0.4〜5mmol/gの範囲にある事が好ましい。より好ましい下限値は0.6mmol/gであり、更に好ましい下限値は0.8mmol/gである。一方、より好ましい上限値は3mmol/gであり、更に好ましい上限値は1.6mmol/g、更に好ましい上限値は1.2mmol/gである。結合量は、下限値より高いほど重合体(C1)の極性が増し親水性が増すため分散粒子径が小さくなる傾向にあり、上限値より低いほど基材である結晶性のポリオレフィンに対する密着性が増す傾向にある。なお、ジカルボン酸無水物基は基中にカルボン酸基を2つ含むとみなせるので、ジカルボン酸無水物基1モルは酸性基2モルと数える。
【0044】
重合体(C1)の製法については、[3−1]で後述する、プロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に反応性基が結合してなる共重合体(A2)の製造方法と同様の方法を用いうる。
【0045】
[3]プロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に親水性高分子(B)が結合してなる重合体(C2)
共重合体(A)と親水性高分子(B)の比率は(A):(B)=100:1〜100:500(重量部)であることが好ましい。(A)100重量部に対して、(B)を1重量部以上とすることで、重合体(C2)の水中での分散性を高め、凝集や分離を起こさず分散粒子径を小さくすることができる。また、(A)100重量部に対して(B)を500重量部以下とすることで、ポリオレフィン基材との密着性を高めることができる。なかでも、(A):(B)=100:5〜100:500(重量部)がより好ましい。
【0046】
プロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に親水性高分子(B)が結合した重合体(C2)を製造する方法としては、通常、共重合体(A)存在下で親水性モノマーを重合して共重合体(A)に結合した親水性高分子(B)を形成する方法(R1)、又は予め重合した親水性高分子(B)をプロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に結合させる方法(R2)が挙げられ、プロピレン−α−オレフィン共重合体や親水性高分子の種類及び組合せ、目的とする重合体(C2)の特性等に応じて適宜選択すればよい。また共重合体(A)に直接親水性高分子(B)を結合させてもよいし、以下に述べる共重合体(A)に反応性基が結合してなる重合体(A2)を用い、これに親水性高分子(B)を結合させてもよい。
【0047】
[3−1]プロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に反応性基が結合してなる共重合体(A2)
反応性基を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体(A2)としては、例えば、重合時に反応性基を有しない不飽和化合物と反応性基を有する不飽和化合物とを共重合した共重合体(A2a)、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をプロピレン−α−オレフィン共重合体(A)にグラフト重合した重合体(A2b)、又は、不飽和末端基を持つプロピレン−α−オレフィン共重合体を13族〜17族の元素基等に変換した重合体(A2c)を用いることができる。
【0048】
共重合体(A2a)は、反応性基を有しない不飽和化合物と、反応性基を有する不飽和化合物とを共重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物が主鎖に挿入された共重合体である。例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のα−オレフィンと、アクリル酸、無水マレイン酸等のα、β−不飽和カルボン酸又はその無水物とを共重合して得られる。共重合体(A2a)として、例えばプロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体などが使用できる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。製造方法は[1]で述べた方法を同様に用いることができる。
【0049】
重合体(A2b)は、予め重合したプロピレン−α−オレフィン共重合体に、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物は主鎖にグラフトされている。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンに、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸又はその無水物、イタコン酸又その無水物、クロトン酸、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、又は(メタ)アクリル酸(2−イソシアナト)エチル等をグラフトした重合体である。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお(メタ)アクリル酸とはアクリル酸とメタクリル酸の総称であり、他もこれに準ずる。
【0050】
本反応のプロピレン−α−オレフィン共重合体としては、上述の共重合体(A)を使用することができる。
重合体(A2b)として、例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体又はその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体、アクリル酸変性プロピレン−エチレン共重合体又はその塩素化物、アクリル酸変性プロピレン−ブテン共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
グラフト重合に用いるラジカル重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤から適宜選択して使用することができ、例えば有機過酸化物、アゾニトリル等を挙げることができる。有機過酸化物としては、ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキシケタール類、クメンヒドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド類、ジ(t−ブチル)パーオキシドなどのジアルキルパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキサイド類、又はt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナートなどのパーオキシエステル類が使用できる。アゾニトリルとしてはアゾビスブチロニトリル、アゾビスイソプロピルニトリル等が挙げられる。なかでもベンゾイルパーオキシド又はt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナートが特に好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
ラジカル重合開始剤とグラフト共重合単位の使用割合は、通常、ラジカル重合開始剤:グラフト共重合単位=1:100〜2:1(モル比)の範囲である。好ましくは1:20〜1:1の範囲である。
反応温度は、通常50℃以上であり、好ましくは80〜200℃の範囲が好適である。反応時間は、通常2〜20時間程度である。
【0053】
重合体(A2b)の製法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる製法であってもよい。例えば、溶液中で加熱攪拌して反応する方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して反応する方法、押し出し機で加熱混練して反応する方法等が挙げられる。溶液中で製造する場合の溶媒としては、[1]で挙げた溶媒を同様に用いることができる。
これらの方法は1種類でも2種類以上を組み合わせても良い。例えば溶融変性した後に、さらに溶液中で変性することもできる。
これらの中でも溶融変性は分子量を減成し低分子量化でき、高分子量のプロピレン−α−オレフィンを使用するときには分子量を下げて乳化し易できる点で好ましい。
【0054】
重合体(A2c)としては、例えば、特開2001−288372号に記載されているように末端二重結合を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体の二重結合部をホウ素基、アルミニウム基のような13族元素基に変換したプロピレン−α−オレフィン共重合体(A2c1)や、特開2005−48172号に記載されているように末端二重結合を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体の二重結合部をハロゲン元素に変換したプロピレン−α−オレフィン共重合体(A2c2)や、特開2001−98140号に記載されているように末端二重結合を有するプロピレン系重合体の二重結合部をメルカプト基に変換したプロピレン−α−オレフィン共重合体(A2c3)を用いることができる。
【0055】
二重結合を持つプロピレン−α−オレフィン共重合体の製造方法は、例えば、オレフィン重合時にα−水素脱離を起こす方法や、プロピレン系重合体を高温で熱分解させる方法などが挙げられる。
二重結合部をホウ素基やアルミニウム基に変換する方法としては、例えば、二重結合に有機ホウ素化合物や有機アルミニウム化合物を溶媒中で二重結合に反応させる方法が挙げられる。
【0056】
二重結合部をハロゲン元素に変換する方法としては、例えば、上記有機ホウ素基を持つプロピレン−α−オレフィン共重合体(A2c1)に塩基と過酸化水素水を反応させることにより水酸基を持つプロピレン系重合体に変換した後、ハロゲン基含有酸ハロゲン化物を反応させて、ハロゲン基含有エステル基に変換する方法などがある。
二重結合部をメルカプト基に変換する方法としては、例えば、末端二重結合を有するプロピレン系重合体にチオ酢酸をラジカル重合開始剤存在下反応させた後、塩基で処理する方法などがある。
【0057】
重合体(A2c)の製法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる製法であってもよいが、溶液中で加熱攪拌して反応させる方法が好ましく用いられる。溶液中で製造する場合の溶媒としては、[1]で挙げた溶媒を同様に用いることができる。
なお、共重合体(A2a)に関しては、共重合体(A2a)を共重合体(A)と見なしてプロピレン含量及び分子量分布Mw/Mnの測定を行うものとする。
【0058】
共重合体(A2b)に関しては、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合する前の共重合体(A)に対してプロピレン含量及び分子量分布Mw/Mnの測定を行うものとする。
共重合体(A2c)に関しては、末端二重結合を変換する前の共重合体(A)に対してプロピレン含量及び分子量分布Mw/Mnの測定を行うものとする。
【0059】
反応性基を結合してなる共重合体(A2a)及び(A2b)中の反応性基の含有量は、ポリオレフィン1g当たり0.01〜5mmol、即ち0.01〜5mmol/gの範囲にあることが好ましい。より好ましい下限値は0.05mmol/gであり、さらに好ましくは0.1mmol/gであり、特に好ましくは0.15mmol/gである。より好ましい上限値は1mmol/gであり、更に好ましくは0.8mmol/gであり、特に好ましくは0.5mmol/gである。
【0060】
反応性基を結合してなる共重合体(A2c)中の反応性基の含有量は、その製法から通常ポリマー1分子当たり1反応性基以下となり、1/数平均分子量Mn(mol/g)以下であり、共重合体(A2a)及び(A2b)に比して低くなる傾向がある。従って、反応性基の含有量は、ポリオレフィン1g当たり0.004〜0.35mmol/gの範囲にあることが好ましい。より好ましい下限値は0.005mmol/gであり、一方より好ましい上限値は0.2mmol/gである。
上記反応性基の含有量は下限値より高いほど、親水性高分子(B)の結合量が増し重合体(C)の親水性が増すため分散粒子径が小さくなる傾向にあり、また、上限値より低いほど、基材である結晶性のポリオレフィンに対する密着性が増す傾向にある。なお、ジカルボン酸無水物基は基中にカルボン酸基を2つ含むとみなせるので、ジカルボン酸無水物基1モルは反応性基2モルと数える。
【0061】
なお共重合体(A2)は直鎖状であっても分岐状であってもよい。共重合体(A2)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、共重合体(A)そのものと反応性基を結合してなる共重合体(A2)の双方を、親水性高分子(B)との組合せや目的とする重合体(C)の特性等に応じて適宜用いうる。但し、反応性基を結合してなる共重合体(A2)を少なくとも含むことが好ましい。この場合、親水性高分子(B)の結合量の制御がしやすく、また結合に用いうる反応が多様であるなどの利点がある。反応性基を結合してなる共重合体(A2)のみを使用してもよい。
【0062】
反応性基としては、例えばカルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、又はジカルボン酸無水物モノエステル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、メルカプト基、ハロゲン基などが挙げられる。カルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、及びジカルボン酸無水物モノエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1種が、より好ましい。これらカルボン酸基等は反応性が高く、親水性高分子と結合が容易なだけでなく、これらの基を有する不飽和化合物も多く、ポリオレフィンへ共重合もしくはグラフト反応させることも容易である。
また重合体(A2a)、(A2b)、(A2c)のいずれも用いうるが、通常、好ましいのは重合体(A2b)である。重合体(A2b)は、親水性高分子(B)の結合量の制御がしやすいなどの利点がある。
【0063】
[3−2]親水性高分子(B)
以下においては、説明の簡略化のため共重合体(A)のみについて説明するが共重合体(A2)についても全く同様である。
本発明において親水性高分子とは、25℃の水に10重量%の濃度で溶解させたときに不溶分が1重量%以下の高分子を言う。親水性高分子(B)としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に限定されず用いることができ、合成高分子、半合成高分子、天然高分子のいずれも用いることができる。反応性基を有していてもよい。
合成高分子としては、特に限定されないが、例えばポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等が使用できる。天然高分子としては、特に限定されないが、例えばコーンスターチ小麦デンプン、かんしょデンプン、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、米デンプンなどのデンプン;ふのり、寒天、アルギン酸ソーダなどの海藻;アラビアゴム、トラガントゴム、こんにゃくなどの植物粘質物;にかわ、カゼイン、ゼラチンなどの動物性タンパク;プルラン、デキストリンなどの発酵粘質物、等が使用できる。半合成高分子としては、特に限定されないが、例えばカルボキシルデンプン、カチオンデンプン、デキストリンなどのデンプン質;ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース、等が使用できる。
【0064】
なかでも、親水性度合いの制御がしやすく、特性も安定している合成高分子が好ましい。ポリ(メタ)アクリル樹脂などのアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、又はポリビニルピロリドン樹脂、ポリエーテル樹脂が、より好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。親水性の高いポリエーテル樹脂が最も好ましい。
【0065】
本発明における親水性高分子(B)として用いるアクリル系樹脂は、通常、不飽和カルボン酸若しくはそのエステル又は無水物を、ラジカル重合、アニオン重合、又はカチオン重合により重合することで得られる。共重合体(A)との結合方法は限定はされないが、例えば、プロピレン−α−オレフィン共重合体の存在下でラジカル重合する方法、水酸基、アミノ基、グリシジル基、(無水)カルボン酸基等の反応性基を有するアクリル系樹脂を、反応性基を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体と反応させる方法、等が挙げられる。
【0066】
親水性を示す不飽和カルボン酸若しくはそのエステル又は無水物としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル四級化物、(メタ)アクリルアミドが、好ましい例として挙げられる。
また、親水性を示す範囲内で疎水性ラジカル重合性化合物を重合体(C)と共重合することができる。共重合可能な疎水性モノマーとしては、例えば炭素原子数1〜12のアルキル基、アリール基又はアリールアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーや、炭素原子数1〜12の炭化水素基を有する重合性ビニルモノマーなどが挙げられる。
【0067】
炭素原子数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。
【0068】
炭素原子数1〜12のアリール基又はアリールアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
炭素原子数1〜12の炭化水素基を有する重合性ビニルモノマーとしては酢酸ビニルやスチレンモノマー等が挙げられる。
【0069】
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニルが、好ましい例として挙げられる。
または、ラジカル重合性不飽和化合物をラジカル重合開始剤の存在下で重合して高分子を形成するとともに共重合体(A)に結合させ、次いで変性し親水性高分子(B)とする方法がある。例えば(メタ)アクリル酸−t−ブチルを重合後、酸性下で加水分解しポリ(メタ)アクリル酸に変性する方法、酢酸ビニルを重合後、ケン化してポリビニルアルコールに変性する方法などが挙げられる。共重合可能な疎水性モノマーとしては(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニルが挙げられる。この場合共重合体(A)としては反応性基を結合してなる共重合体(A2)も用いうるが、通常は反応性基を有しない共重合体(A)を用いる。
【0070】
本発明における親水性高分子(B)として用いるポリビニルアルコール樹脂は、通常、酢酸ビニルを重合させポリ酢酸ビニルを得た後、ケン化することで得られる。ケン化度は完全ケン化でも部分ケン化でもよい。
本発明における親水性高分子(B)として用いるポリビニルピロリドン樹脂は、通常、ビニルピロリドンを重合させることで得られる。
本発明における親水性高分子(B)として用いるポリエーテル樹脂は、通常、環状アルキレンオキサイド又は環状アルキレンイミンを開環重合することで得られる。共重合体(A)との結合方法は限定はされないが、例えば、反応性基を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体中で環状アルキレンオキサイドを開環重合する方法、開環重合等により得られたポリエーテルポリオールやポリエーテルアミンなどの反応性基を有する親水性高分子を、反応性基を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体と反応する方法、等が挙げられる。
【0071】
ポリエーテルアミンは、ポリエーテル骨格を有する樹脂の片末端又は両末端に、反応性基としての1級アミノ基を有する化合物である。ポリエーテルポリオールはポリエーテル骨格を有する樹脂の両末端に、反応性基としての水酸基を有する化合物である。
親水性を示すポリアルキレンオキサイドやポリアルキレンイミンとして好ましくは、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミンが挙げられる。
【0072】
また、ポリエーテルアミンとしては、ハンツマン社製ジェファーミンMシリーズ、Dシリーズ、EDシリーズなどを使用してもよい。
本発明に用いる親水性高分子(B)は共重合体(A)との結合前に、これと反応しうる反応性基を1以上有しているのが好ましい。反応性基としては、例えばカルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、及びジカルボン酸無水物モノエステル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基などが挙げられるが、少なくともアミノ基を有するのが好ましい。アミノ基はカルボン酸基、無水カルボン酸基、グリシジル基、イソシアネート基など多種の反応性基と反応性が高いのでポリオレフィンと親水性高分子を結合させることが容易である。アミノ基は1級、2級、3級のいずれでもよいが、1級アミノ基がより好ましい。
【0073】
反応性基は1以上あればよいが、より好ましくは反応性基を1つのみ有する。反応性基が2以上あると、共重合体(A)と結合させる際に3次元網目構造となりゲル化してしまう可能性がある。
ただし反応性基を複数有していても、他より反応性の高い反応性基が1つのみであればよい。例えば複数の水酸基と、それより反応性の高い1つのアミノ基を有する親水性高分子は好ましい例である。ここで反応性とは共重合体(A)の有する反応基との反応性である。
【0074】
本発明における親水性高分子(B)は、重合体(C)に十分な親水性を付与するためには高分子である必要があり、GPCで測定しポリスチレンの検量線で換算した重量平均分子量Mwが200以上のものとする。Mwは、300以上が好ましく、500以上がより好ましい。但し重量平均分子量Mwが200,000以下であることが好ましい。100,000以下がより好ましく、10,000以下がさらに好ましい。Mwが下限値より高いほど重合体(C)の親水性が増し分散粒子径が小さくなり安定に分散する傾向にあり、また上限値より低いほど粘度が低く樹脂分散体を調製しやすい傾向にある。なおGPC測定は、THFなどを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行われる。
また親水性高分子(B)がTHFに溶解しない場合、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、アセトン、クロロホルム、ジメチルスルホキシドなどの溶媒に溶解し、かつその溶媒の極性に合ったカラムを用い同じ溶媒でGPCを測定することができる。また硝酸ナトリウムなどのイオン性の物質を添加することで、特にイオン性の物質を良好に測定することができる。また溶媒の極性にあった標準物質で作成した検量線を用いることができ、例えばポリエチレンオキシドが好適に用いられる。
【0075】
共重合体(A)に結合している親水性高分子(B)の量は、共重合体(A)1g当たり0.01〜5mmol、即ち0.01〜5mmol/gの範囲にあることが好ましい。より好ましい下限値は0.05mmol/gであり、さらに好ましい下限値は0.1mmol/gであり、特に好ましい下限値は0.15mmol/gである。一方、より好ましい上限値は1mmol/gであり、更に好ましい上限値は0.8mmol/gであり、特に好ましい上限値は0.5mmol/gであり、最も好ましい上限値は0.3mmol/gである。
親水性高分子(B)の量は1/数平均分子量Mn(mol/g)で計算する。下限値より高いほど重合体(C)の親水性が増し分散粒子径が小さくなり安定に分散する傾向にあり、上限値より低いほど、基材である結晶性のポリオレフィンに対する密着性が増す傾向にある。
【0076】
共重合体(A)と親水性高分子(B)とは、共重合体(A)に親水性高分子(B)がグラフト結合したグラフト共重合体、共重合体(A)の片末端又は両末端に親水性高分子(B)が結合した状態を含む共重合体(A)と親水性高分子(B)とのブロック共重合体、とがあり得るが、好ましくはグラフト共重合体である。グラフト共重合体は、親水性高分子(B)の含有量が制御しやすく、またブロック共重合体に比べて親水性高分子(B)の含有量を上げやすい利点がある。
【0077】
親水性高分子(B)は共重合体(A)に対して、種々の反応形態により結合させることができる。その形態は特に限定されないが、例えば、ラジカルグラフト反応や反応性基を利用した反応が挙げられる。ラジカルグラフト反応によれば、炭素−炭素共有結合による結合が形成される。
反応性基を利用した反応は、共重合体(A)と親水性高分子(B)の双方に反応性基を有していてそれらを反応させて結合させるものであり、共有結合又はイオン結合が形成される。この反応としては、例えばカルボン酸基とヒドロキシル基のエステル化反応、カルボン酸基とエポキシ基との開環反応、1級又は2級アミノ基とエポキシ基との開環反応、カルボン酸基と1級又は2級アミノ基のアミド化反応、カルボン酸基と3級アミノ基の4級アンモニウム化反応、カルボン酸基とイソシアナート基のウレタン化反応、1級又は2級アミノ基とイソシアナート基のウレタン化反応等が挙げられる。各反応の反応率は1〜100%の間で任意に選べばよく、好ましくは50〜100%、さらに好ましくは70〜100%である。ここでいうカルボン酸基とはマレイン酸や無水マレイン酸のような、二塩基酸もしくはその無水物も含み、またその場合は、二塩基酸もしくはその無水物1モルを二当量と計算し、これに対して相手の基を一当量反応させても二当量反応させてもよい。
【0078】
[3−3]重合体(C2)の製造方法
共重合体(A)に親水性高分子(B)が結合した重合体(C2)を製造する方法としては、通常、プロピレン−α−オレフィン共重合体の存在下で親水性ラジカル重合性不飽和化合物を重合してプロピレン−α−オレフィン共重合体に結合した親水性高分子(B)を形成する方法(R1)、又は予め重合した親水性高分子(B)をプロピレン−α−オレフィン共重合体に結合させる方法(R2)がある。
【0079】
[3−3−1]重合体(C2)の製造方法(R1)
本方法では、プロピレン−α−オレフィン共重合体存在下で、親水性ラジカル重合性不飽和化合物(親水性モノマー)を重合することでプロピレン−α−オレフィン共重合体に結合した親水性高分子(B)を得る。親水性ラジカル重合性不飽和化合物の重合方法は、例えば付加重合、縮合重合、開環重合などを用いうる。このとき重合後に親水性高分子を形成しうる範囲であれば疎水性ラジカル重合性不飽和化合物を共重合させてもよい。いずれもプロピレン−α−オレフィン共重合体としては、反応性基を有しない共重合体(A)、又は反応性基を結合してなる共重合体(A2)、ともに用いうる。
【0080】
具体的には、例えば共重合体(A)とパーオキサイドやアゾ化合物などラジカル重合開始剤の存在下、親水性ラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合しプロピレン−α−オレフィン共重合体とポリアクリルのグラフト共重合体とする方法がある。また特開2001−288372号に記載されているように、ホウ素基、アルミニウム基のような13族元素基を末端に有するプロピレン−α−オレフィン共重合体(A2c1)と酸素の存在下、親水性ラジカル重合性不飽和化合物を重合しプロピレン−α−オレフィン共重合体とポリアクリルのブロック共重合体とする方法がある。更に特開2004−131620号や特開2005−48172号に記載されているように、ハロゲン原子を末端に有するプロピレン−α−オレフィン共重合体(A2c3)とハロゲン化銅、ハロゲン化ルテニウム等を用い、原子移動リビングラジカル法でプロピレン系重合体とポリアクリルのブロック共重合体とする方法がある。また特開2001−98140号に記載されているように、末端にメルカプト基を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体の存在下、ラジカル開始剤と親水性ラジカル重合性不飽和化合物を重合しプロピレン−α−オレフィン共重合体とポリアクリルのブロック共重合体とする方法、などがある。
【0081】
親水性ラジカル重合性不飽和化合物としては、特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル四級化物、ビニルピロリドンなどが挙げられる。
共重合可能な疎水性モノマーとしては、例えば炭素原子数1〜12のアルキル基、アリール基又はアリールアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーや、炭素原子数1〜12の炭化水素基を有する重合性ビニルモノマーなどが挙げられる。
【0082】
炭素原子数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。
【0083】
炭素原子数1〜12のアリール基又はアリールアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
炭素原子数1〜12の炭化水素基を有する重合性ビニルモノマーとしては酢酸ビニルやスチレンモノマー等が挙げられる。
【0084】
なかでも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニルが、好ましい例として挙げられる。
反応性界面活性剤や反応性乳化剤も、水性ラジカル重合性不飽和化合物として用いることができる。例えば、特開平4−53802号公報、特開平4−50204号公報に示されるアルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキシド付加体、アルキルジプロペニルフェノールポリエチレンオキシド付加体又はそれらの硫酸エステルの塩が挙げられる。その中でも、アルキルプロペニルフェノールエチレンオキシド20モル付加体、同30モル付加体、同50モル付加体(第一工業製薬製、アクアロンRN−20,RN−30,RN−50)、又はアルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキシド10モル付加体の硫酸エステルアンモニウム塩、同20モル付加体の硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬製、アクアロンHS−10,HS−20)が好適に用いられる。
【0085】
または、ラジカル重合性不飽和化合物をラジカル重合開始剤の存在下で重合して高分子を形成するとともに共重合体(A)に結合させ、次いで変性し親水性高分子(B)とする方法がある。例えば(メタ)アクリル酸−t−ブチルを重合後、酸性下で加水分解しポリ(メタ)アクリル酸に変性する方法、酢酸ビニルを重合後、ケン化してポリビニルアルコールに変性する方法などが挙げられる。共重合可能な疎水性ラジカル重合性不飽和化合物としては(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニルが挙げられる。この場合プロピレン−α−オレフィン共重合体としては反応性基を有する共重合体(A2)も用いうるが、通常は反応性基を有しない共重合体(A)を用いる。
【0086】
更に、反応性基を有する共重合体(A2)を用い、この反応性基を開始末端として、親水性開環重合モノマー等を重合して親水性高分子(B)を得る方法もある。
親水性開環重合モノマーとしてはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンイミンなどが挙げられる。共重合可能な疎水性モノマーとしては、トリメチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。
【0087】
これらはいずれも、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
反応方法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる方法であってもよい。例えば、溶液中で加熱攪拌して反応する方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して反応する方法、押し出し機で加熱混練して反応する方法等が挙げられる。反応温度は、通常0〜200℃の範囲であり、好ましくは30〜150℃の範囲である。溶液中で製造する場合の溶媒としては、[3−1]で挙げた溶媒を同様に用いることができる。
【0088】
[3−3−2]重合体(C2)の製造方法(R2)
本方法では、予め重合した親水性高分子(B)を共重合体(A)に結合させる。この場合親水性高分子(B)としては[3−2]で挙げたものを用いうる。
具体的には、例えば、まず親水性モノマーを重合して親水性高分子とする際に分子内に不飽和二重結合を残しておき、次いでラジカル重合性開始剤を用いてプロピレン−α−オレフィン共重合体にグラフト重合させる方法がある。この場合プロピレン−α−オレフィン共重合体としては反応性基を有する共重合体(A2)も用いうるが、通常は反応性基を有しない共重合体(A)を用いる。
【0089】
また、まず末端に反応性基を有する親水性高分子を重合し、次いでこれを反応性基を結合してなる共重合体(A2)に結合させる方法がある。末端に反応性基を有する親水性高分子は、開始剤や連鎖移動剤として反応性基を有する化合物を用いて親水性モノマーを重合することで得られる。もしくはエポキシ化合物等の親水性開環重合モノマーを開環重合することによっても得られる。
【0090】
このとき用いうる親水性モノマーとしては、[3−3−1]で挙げた各種親水性モノマーを同様に用いうる。
これらはいずれも、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
反応方法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる方法であってもよい。例えば、溶液中で加熱攪拌して反応する方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して反応する方法、押し出し機で加熱混練して反応する方法等が挙げられる。反応温度は、通常0〜200℃の範囲であり、好ましくは30〜150℃の範囲である。溶液中で製造する場合の溶媒としては、[3−1]で挙げた溶媒を同様に用いることができる。
【0091】
[4]重合体(C)の水性樹脂分散体の製造方法
本発明に係わる重合体(C)を含む樹脂分散体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、重合体(C)、水、及び水以外の溶媒の混合物を調製したのち、該混合物から該溶媒を除去することにより水分散体とする方法、重合体(C)が溶融する温度以上で溶融させた後に水を添加して分散体とする方法、などが挙げられる。好ましくは前者である。前者の方法によれば粒径の細かい樹脂分散体が得られやすい。
混合物を調製する際は必要に応じ加熱してもよい。温度は、通常30〜150℃である。樹脂分散体における水以外の溶媒の比率は、最終的には通常50%以下とする。好ましくは20%以下とし、さらに好ましくは10%以下とし、特に好ましくは1%以下とする。
【0092】
なかでも、重合体(C)に水以外の溶媒を加え、必要に応じ加熱して溶解させた後に水を添加する方法は、より粒径の細かい水分散体が作りやすく、更に好ましい。溶媒への溶解時、又は水の添加時の温度は、通常30〜150℃である。また水以外の溶媒に一旦溶解する場合は、水を添加した後に溶媒を留去してもよい。樹脂分散体における水以外の溶媒の比率は上述の通りである。
或いは、重合体(C)を溶媒に溶解させた溶液に水と水以外の他の溶媒を加え、必要に応じ加熱して溶解させた後に、溶媒を留去する方法によっても粒径の細かい水分散体が作りやすい。水の添加時の温度は、通常30〜150℃である。樹脂分散体における水以外の溶媒の比率は上述の通りである。
【0093】
本方法に用いられる水以外の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式脂肪族系炭化水素;塩化メチレン、四塩化炭素、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のアルコール類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−エトキシプロパノール、ジアセトンアルコール等の2以上の官能基を持つ有機溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒類などが挙げられる。
これらの溶媒は1種類でも2種類以上用いても良い。
【0094】
なかでも水に1重量%以上溶解する溶媒を少なくとも1種類以上用いるが好ましく、5重量%以上溶解するものがさらに好ましい。例えば、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノン、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフラン、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−エトキシプロパノール、ジアセトンアルコールが好ましい。
【0095】
溶媒に溶解した状態および溶融状態にしたのち、水を添加し樹脂分散体を製造する装置としては、特に限定されないが、例えば、撹拌装置付き反応釜、一軸または二軸の混練機などが使用できる。その際の攪拌速度は装置の選択に伴い多少異なるが、通常、10〜1,000rpmの範囲である。
【0096】
[5]水性樹脂分散体
本発明の重合体(C)は水への分散性に非常に優れ、また本発明の樹脂分散体の製造方法によれば分散粒子径の細かい水性樹脂分散体が得られるので、本発明の水性樹脂分散体は分散粒子径が細かく、かつ樹脂が安定に分散している利点がある。従ってこれを用いると優れた外観の塗布品が得られる。
【0097】
本発明の樹脂分散体における重合体(樹脂)の50%粒子径は0.5μm以下である。50%粒子径は好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.2μm以下である。また、好ましくは90%粒子径が1μm以下であり、特に好ましくは0.5μm以下である。分散粒子径を小さくすることで、分散安定性を向上させ、凝集が起きにくく、より安定に分散できる。また90%粒子径と50%粒子径の比が小さくなることは、粒度分布が狭くなることを意味し結果として分散安定性が向上する。なお、「50%粒子径」とは、体積換算で粒径が細かい方から累積で50%の粒子径であり、50%平均粒子径とも称する。同様に累積で90%の粒子径が90%粒子径である。
【0098】
なお、本発明において分散とは、分散粒子が極めて小さく単分子で分散している状態、実質的には溶解と言えるような状態を含む概念である。従って、分散粒子径の下限値については特に制限はない。
本発明の樹脂分散体における固形分は、全体に対して、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上である。また好ましくは70重量%以下であり、より好ましくは60重量%以下であり、更に好ましくは50重量%以下であり、特に好ましくは40重量%以下である。固形分の量が少ないほど粘度が低く種々の塗布方法に適用でき使用しやすく、また分散体としての安定性も高い傾向にある。ただし、例えばプライマーや接着剤として使用する際に、塗布後の水の乾燥にあまり多量のエネルギーと時間をかけないためには固形分が多い方が好ましい。
【0099】
また本発明の樹脂分散体は、界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下である。即ち樹脂の分散粒子径が非常に小さく、かつ界面活性剤をごく少量か又は実質的に含まない。これにより、本樹脂分散体を塗料として用いたときに、ブリードアウトを抑制でき外観に優れた塗装品が得られる利点があり、本樹脂分散体を塗装の最表面の塗料として用いることができる。また、塗装の耐水性や耐油性(耐ガソホール性)を向上させることができ、得られる樹脂分散体は密着性、耐水性、耐湿性、耐油性(耐ガソホール性)、耐薬品性のいずれにも優れたものとなる。
【0100】
界面活性剤量は少ない方が好ましく、樹脂分散体の界面活性剤含有量が、重合体(C)100重量部に対し10重量部以下であることが好ましい。より好ましくは5重量部以下、更に好ましくは2重量部以下である。界面活性剤を実質的に含まないこともできる。実質的に界面活性剤を含まないとは重合体(C)100重量部に対して1重量部未満であることを言う。界面活性剤を全く含まないことが最も好ましい。
【0101】
界面活性剤としては、例えばカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、反応性界面活性剤などを使用することができる。界面活性剤としては、通常、炭素数4以上のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基又はアルケニルアリール基を疎水基として有するものを用いる。好ましくは炭素数8以上であり、より好ましくは炭素数12以上である。ただし通常、炭素数30以下である。
【0102】
ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンセチルエ−テル、ポリオキシエチレンステアリエ−テル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエ−テル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテルナトリウムなどが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えばラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどが挙げられる。
【0103】
また、上記の界面活性剤がラジカル重合性官能基を有する、いわゆる反応性界面活性剤なども使用できる。反応性界面活性剤を用いた場合はこの樹脂分散体を用いて形成した皮膜の耐水性を向上できる。代表的な市販反応性界面活性剤としては、エレミノールJS−2(三洋化成工業社製)、ラテムルS−180(花王社製)が挙げられる。
なおノニオン性界面活性剤は他の界面活性剤に比べて耐水性を低下させにくいので、ノニオン性界面活性剤は多少多めに含んでもよい。例えば重合体(C)100重量部に対してノニオン性界面活性剤以外の界面活性剤は5重量部以下とすべき場合、ノニオン性界面活性剤は10重量部以下としてもよい。
【0104】
また本発明によれば、必ずしも塩素化ポリオレフィンを用いる必要がなく環境負荷を低減できる利点もある。
本発明の樹脂分散体には、必要に応じて酸性物質や塩基性物質を添加することができる。酸性物質としては例えば塩酸、硫酸などの無機酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。塩基性物質として例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、2−メチル−2−アミノ−プロパノール、モルホリンなどが挙げられる。また酸性基、塩基性基を含んだ高分子でも良い。
【0105】
本発明の樹脂分散体には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐候安定剤、耐熱防止剤等の各種安定剤;酸化チタン、有機顔料等の着色剤;カーボンブラック、フェライト等の導電性付与剤;顔料、染料、顔料分散剤、レべリング剤、消泡剤、増粘剤、防腐剤、防かび剤、防錆剤、濡れ剤、乾き防止剤等の各種添加剤を配合使用してもよい。
【0106】
消泡剤としては、例えばエアープロダクト社製のサーフィノール104PA又はサーフィノール440等が挙げられる。
乾き防止剤としては、例えばビックケミー社製のByketol−PCや上記にあげた界面活性剤等が挙げられる。
また耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を分散体中の樹脂100重量部に対して0.01〜100重量部添加することができる。架橋剤としては自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数固有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができる。このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。またこれらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。
【0107】
本発明の樹脂分散体をプライマー、塗料、インキ等の用途に使用した場合、乾燥速度を上げたり、或いは仕上がり感の良好な表面を得る目的で、水以外の親水性有機溶媒を配合することができる。親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類又はそのエーテル類、等が挙げられる。また樹脂分散体の安定性を損なわない範囲で、上記以外の有機もしくは無機の化合物を樹脂分散体に添加することもできる。
特に本発明の水分散体の特徴として、優れた溶媒の混合安定性がある。通常、界面活性剤を使用したポリオレフィン水分散体はアルコールなどの親水性有機溶媒を添加すると界面活性剤がポリオレフィンから脱離し、ゲル化する傾向がある。これに対し本発明の水分散体はポリオレフィン自身に水分散機能が備わっているため、親水性溶媒を添加してもゲル化や凝集を起こさず安定に存在し、一般に親水性有機溶媒を添加し使用するインクにも好適に使用される。
【0108】
[5−1]他の樹脂の併用
本発明の樹脂分散体には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、必要に応じて水溶性樹脂又は水に分散しうる樹脂を混合し使用することができる。例えば塗装外観の向上(光沢の付与、或いはツヤ消し)やタック性の低減などに効果がある。界面活性剤を用いて分散しうる樹脂でもよい。水溶性樹脂としては例えば、親水性高分子(B)として挙げたような樹脂が使用でき、例えばこれら樹脂を水に溶解した水溶液を本発明の樹脂分散体と混合して用いることができる。
【0109】
水に分散しうる樹脂としては例えば、アクリル樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂等が挙げられる。これら樹脂と重合体(C)を含む樹脂分散体の形態は特に限定されない。例えば、これら樹脂と重合体(C)とをそれぞれ乳化して混合する方法がある。この方法では、これら樹脂からなる粒子と重合体(C)からなる粒子とがそれぞれ別々に形成され、水に分散された水性樹脂分散体が得られる。
【0110】
また、これら樹脂と重合体(C)とを混合後、乳化する方法がある。この方法では、一粒子中にこれら樹脂と重合体(C)とが混ざり合った粒子が水に分散された水性樹脂分散体が得られる。例えば樹脂の重合時に重合体(C)を共存させることで両者を混合でき、水に乳化・分散させて一粒子内に樹脂と重合体(C)とを含む粒子を形成しうる。また樹脂と重合体(C)とを別々に合成後、溶融混練等することによっても両者を混合でき、水に乳化・分散させて一粒子内に樹脂と重合体(C)とを含む粒子を形成しうる。
【0111】
重合体(C)と樹脂それぞれの性質を有効に発揮するためには、重合体(C)からなる粒子と樹脂からなる粒子とが別々に存在する水性樹脂分散体が好ましい。このような水性樹脂分散体は、例えば、重合体(C)を水に乳化・分散させてなる分散体と、樹脂を水に乳化・分散させてなる分散体とを混合することで得られる。
樹脂の含有量は、共重合体(A)と上記他の樹脂との質量比が90:10〜10:90の範囲が好ましい。即ち共重合体(A)と他の樹脂との合計量を100重量部として、共重合体(A)の量が10重量部以上が好ましく、90重量部以下が好ましい。共重合体(A)の量が10重量部未満では、ポリオレフィン系基材に対する密着性が不十分となりやすい。より好ましくは15重量部以上とし、更に好ましくは20重量部以上とする。共重合体(A)の量が90重量部より大きいと、このような複合水性樹脂分散体から得られる塗膜の物性、具体的には塗膜の強度、耐水性、耐候性、耐擦性、耐溶剤性などが不十分となりやすい。より好ましくは85重量部以下とし、更に好ましくは80重量部以下とする。
【0112】
また、樹脂分散体中の全樹脂含有量としては、重合体(C)と上記他の樹脂の合計量と水との重量比が5:95〜60:40の範囲が好ましい。すなわち重合体(C)、他の樹脂及び水の総量を100重量部として、重合体(C)と他の樹脂の合計量が5重量部以上が好ましく、60重量部以下が好ましい。5重量部未満では、塗布、加熱硬化等の作業性が悪くなりやすい。より好ましくは10重量部以上とし、更に好ましくは15重量部以上とする。60重量部より大きいと、水性樹脂分散体の粘度が高くなりすぎ、塗布性が悪くなりやすく、均一な塗膜が形成しにくい。より好ましくは55重量部以下とし、更に好ましくは50重量部以下とする。
【0113】
上記他の樹脂を水性エマルジョン化し水性樹脂分散体とする場合も、必要により界面活性剤を用いうる。界面活性剤としては例えば[5]で挙げたようなものを用いうる。
また界面活性剤は、重合体(C)と樹脂を混合した後乳化する製造方法にも用いうる。
この場合、樹脂分散体の界面活性剤含有量は、全樹脂量(重合体(C)と上記他の樹脂との合計量)100重量部に対し15重量部以下であることが好ましい。より好ましくは10重量部以下、更に好ましくは5重量部以下、特に好ましくは2重量部以下である。界面活性剤を実質的に含まないこともできる。実質的に界面活性剤を含まないとは全樹脂量100重量部に対して1重量部未満であることを言う。界面活性剤を全く含まないことがもっとも好ましい。
【0114】
上記他の樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1以上の樹脂が好ましい。これらを含む樹脂分散体は塗料に適する。以下、これらを樹脂(D)と総称する。
【0115】
(D−1)アクリル樹脂
本発明における上記他の樹脂の一例としてのアクリル樹脂は、(メタ)アクリル系重合体であれば特に限定されないが、アクリル酸及び/又はそのエステルの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸及び/又はそのエステルの単独重合体又は共重合体である。なお(メタ)アクリルとはアクリル及び/又はメタクリルを指す。
【0116】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、炭素原子数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマ−、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等、又は、炭素原子数6〜12のアリ−ル基またはアラルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、例えば(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0117】
また、ヘテロ原子を含有する炭素原子数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、例えば(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸−2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリエチレンオキサイドの付加物等が挙げられる。さらに、フッ素原子を含有する炭素原子数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、例えば(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パ−フルオロエチルエチル等や、(メタ)アクリルアミド系モノマー、例えば(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジメチルアミド等が、それぞれ挙げられる。
【0118】
上記の(メタ)アクリル酸及び/又はそのエステル類に加えて、いわゆるマクロモノマーと称される分子の末端に二重結合を有するものも含まれる。これら(メタ)アクリル系マクロモノマー類は重量平均分子量が通常、数百〜50,000までの範囲にある。このような(メタ)アクリル系オリゴマーは、例えば、上記の(メタ)アクリル酸及び/又はそのエステル類100重量部あたり、通常1〜80重量部の範囲で用いられる。
【0119】
また上記のマクロモノマー以外に、カプロラクトン変性(メタ)アクリル系オリゴマー、末端水酸基含有(メタ)アクリル系オリゴマー、オリゴエステル(メタ)アクリル系オリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどもアクリル樹脂の例として挙げられる。
アクリル樹脂には、耐水性、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性を付与するために、架橋性官能基を導入し架橋剤を併用することができる。例えば(メタ)アクリル酸グリシジルのようなエポキシ基を有する共重合体と、架橋剤として多官能カルボン酸または多官能アミン;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルのような水酸基を有する共重合体と、多官能イソシアネート;または、ジアセトンアクリルアミド、アクロレインのようなカルボニル基を有する共重合体と、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドのような多官能ヒドラジンのような架橋系;を用いることができる。なかでも、カルボニル基と多官能ヒドラジンによる架橋系は、一液で保存が可能でありながら、常温でも硬化が可能であるため好ましい。これらの架橋性官能基はアクリル樹脂100重量部あたり0.5重量部以上有するのが好ましく、より好ましくは1重量部以上である。ただしアクリル樹脂100重量部あたり20重量部以下有するのが好ましく、より好ましくは10重量部以下である。下限値より高いほど十分な架橋効果が得られやすく、上限値より低いほど保存安定性等が高まる傾向がある。
【0120】
上述のようなアクリル樹脂を製造するための重合方法としては、特に限定されないが、例えば溶液重合、バルク重合、乳化重合、もしくは懸濁重合等の方法を用いうる。
溶液重合、バルク重合で得られたアクリル樹脂を水性エマルジョン化し水分散体とするためには、溶液の存在下もしくは不存在下で、コロイドミルなどの機械力により、乳化・分散を行い、その後に必要に応じて残留溶剤を減圧下もしくは大気圧下で留去すればよい。乳化重合又は懸濁重合を用いれば直接水性樹脂分散体としてポリマーが得ることができる。
【0121】
本発明において使用可能なアクリル樹脂の数平均分子量は、1,000以上が好ましく、より好ましくは20,000以上である。但し1,000,000以下が好ましく、より好ましくは500,000以下である。
本アクリル樹脂の水性樹脂分散体中のアクリル樹脂粒子の粒径は、0.01μm〜0.5μmが好ましい。またアクリル樹脂の水性樹脂分散体におけるアクリル樹脂固形分は、15〜70重量%であることが好ましい。アクリル樹脂の水性樹脂分散体の液粘度は1〜50,000mPa・sが好ましい。
【0122】
(D−2)ポリウレタン樹脂
本発明に使用可能なポリウレタン樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば(i)1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分と(ii)多価イソシアネート成分とを反応させて得られるウレタンポリマー、または、上記(i)成分及び(ii)成分をイソシアネート基過剰の条件下で反応させて得られるイソシアネート基含有プレポリマーと、ジオール等の鎖伸長剤とを反応させて得られるウレタンポリマーが挙げられる。これらのウレタン系重合体中には酸成分(酸残基)を含有させてもよい。
【0123】
なお、イソシアネート基含有プレポリマーの鎖伸長方法は公知の方法によればよく、例えば、鎖伸長剤として、水、水溶性ポリアミン、グリコール類などを使用し、イソシアネート基含有プレポリマーと鎖伸長剤成分とを、必要に応じて触媒の存在下で反応させればよい。
前記(i)成分の1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分としては、特に限定されるものではないが、水酸基性の活性水素を有するものが好ましい。このような化合物の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
【0124】
(1)ジオール化合物:エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、2,5−ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0125】
(2)ポリエーテルジオール:前記のジオール化合物のアルキレンオキシド付加物、又は、アルキレンオキシドや環状エーテル(テトラヒドロフランなど)の開環(共)重合体である。例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコールの(ブロックまたはランダム)共重合体、グリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリオクタメチレングリコール等が挙げられる。
【0126】
(3)ポリエステルジオール:アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等のジカルボン酸(無水物)と、上記(1)で挙げられたようなエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール等のジオール化合物とを、水酸基過剰の条件で重縮合させて得られたものが挙げられる。具体的には、エチレングリコール−アジピン酸縮合物、ブタンジオール−アジピン酸縮合物、ヘキサメチレングリコール−アジピン酸縮合物、エチレングリコール−プロピレングリコール−アジピン酸縮合物、或いはグリコールを開始剤としてラクトンを開環重合させたポリラクトンジオール等が例示できる。
【0127】
(4)ポリエーテルエステルジオール:エーテル基含有ジオール(前記(2)のポリエーテルジオールやジエチレングリコール等)または、これと他のグリコールとの混合物を上記(3)で例示したような(無水)ジカルボン酸に加えてアルキレンオキシドを反応させてなるものである。例えば、ポリテトラメチレングリコール−アジピン酸縮合物等が挙げられる。
【0128】
(5)ポリカーボネートジオール:一般式HO−R−(O−C(O)−O−R)x−OH(式中、Rは炭素原子数1〜12の飽和脂肪酸ジオール残基、xは分子の繰り返し単位の数を示し、通常5〜50の整数である。)で示される化合物等である。これらは、飽和脂肪族ジオールと置換カーボネート(炭酸ジエチル、ジフェニルカーボネートなど)とを水酸基が過剰となる条件で反応させるエステル交換法、あるいは、前記飽和脂肪族ジオールとホスゲンを反応させるか、または必要に応じて、その後さらに飽和脂肪族ジオールを反応させる方法などにより得ることができる。
【0129】
上記の(1)から(5)に例示したような化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
前記(i)成分と反応させる(ii)多価イソシアネート成分としては、1分子中に平均2個以上のイソシアネート基を含有する脂肪族、脂環族または芳香族の化合物が使用できる。
【0130】
脂肪族ジイソシアネート化合物としては、炭素原子数1〜12の脂肪族ジイソシアネートが好ましく、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環式ジイソシアネート化合物としては、炭素原子数4〜18の脂環式ジイソシアネートが好ましく、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネートなどが挙げられる。芳香族イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0131】
また、ウレタン系重合体中に酸残基を含むものは、界面活性剤を使用せずに、もしくはその量が少なくても、水中に分散させることが可能となるので塗膜の耐水性が良くなることが期待される。酸残基の含有量としては、ウレタン系重合体の酸価として、25〜150(mgKOH/g)、好ましくは、30〜100(mgKOH/g)の範囲であるのが好適である。酸価が25未満では水分散性を不十分となりやすく、界面活性剤の併用が必要となることが多い。一方、酸価が150より大きいと塗膜の耐水性が劣る傾向となる。
【0132】
ウレタン系重合体中に酸基を導入する方法は、従来から用いられている方法が特に制限なく使用できる。例えばジメチロールアルカン酸を前記(2)から(4)に記載したグリコール成分の一部もしくは全部と置き換えることによって、予めポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリエーテルエステルジオールなどにカルボキシル基を導入しておくことにより、酸基を導入する方法が好ましい。ここで用いられるジメチロールアルカン酸としては、例えば、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸などを挙げることができる。
【0133】
本発明に使用可能なポリウレタン樹脂としては、数平均分子量が1,000以上が好ましく、より好ましくは20,000以上である。但し1,000,000以下が好ましく、より好ましくは200,000以下である。
上記ポリウレタン樹脂の水分散体を製造する場合、その製造方法は特に限定されないが、前述のアクリル樹脂の水分散体の製造方法に準じて製造しうる。
上記ポリウレタン樹脂の水性樹脂分散体中の粒径は、0.01μm〜0.5μmが好ましい。またポリウレタン樹脂の水性樹脂分散体におけるポリウレタン樹脂固形分は、15〜70重量%であることが好ましい。ポリウレタン樹脂の水性樹脂分散体の液粘度は1〜10,000mPa・sが好ましい。
【0134】
(D−3)ポリエステル樹脂
本発明において使用可能なポリエステル樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばアジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等のジカルボン酸及び/又はその無水物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール等のジオール化合物又はエーテル基含有ジオール(ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)とを重縮合させて得られたものが挙げられる。
【0135】
具体的には、エチレングリコール−アジピン酸縮合物、ブタンジオール−アジピン縮合物、ヘキサメチレングリコール−コハク酸縮合物、エチレングリコール−プロピレングリコール−フタル酸縮合物、ポリエチレングリコール−アジピン酸縮合物などが挙げられる。
これらを界面活性剤の存在下または非存在下で水性エマルジョン化することによってポリエステル樹脂の水分散体が得られる。その製造方法は特に限定されないが、前述のアクリル樹脂の水分散体の製造方法に準じて製造しうる。市販品として入手可能なものとしては、東洋紡社製のバイロナールMD−1200、MD−1245などがあげられる。
【0136】
本発明において使用可能なポリエステル樹脂としては、数平均分子量が1,000以上が好ましく、より好ましくは5,000以上である。但し500,000以下が好ましく、より好ましくは100,000以下である。
上記ポリエステル樹脂の水性樹脂分散体中の粒径は、0.01μm〜0.5μmが好ましい。またポリエステル樹脂の水性樹脂分散体におけるポリエステル樹脂固形分は、15〜70重量%であることが好ましい。ポリエステル樹脂の水性樹脂分散体の液粘度は1〜10,000mPa・sが好ましい。
【0137】
(D−4)エポキシ樹脂
本発明において使用可能なエポキシ樹脂は、エポキシ基を1分子中に1個以上有する重合体であれば特に限定されず、例えば多価フェノールをアルカリの存在下にエピクロルヒドリンと反応させることにより製造することができるフェノールの多価グリシジルエーテルや、このようなフェノールの多価グリシジルエーテルと上記の多価フェノールとを反応させて得られるエポキシ基含有重合体などが挙げられる。
【0138】
ここで用いることができる多価フェノールとしては、例えばビス(4−ヒドロキシフエニル)−2,2−プロパン、4,4'−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
【0139】
これらの多価フェノールに代えて、そのフェニル核の二重結合の一部又は全部に対し水素を付加した水添化合物も使用できる。
また、エポキシ樹脂としては、フェノール系ノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル又は多価アルコールのポリグリシジルエーテルも用いることができる。上記の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−プロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセロール、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−2,2−プロパン、ソルビトール等が挙げられる。
【0140】
これらを界面活性剤の存在下または非存在下で水性エマルジョン化することによってエポキシ樹脂の水分散体が得られる。その製造方法は特に限定されないが、前述のアクリル樹脂の水分散体の製造方法に準じて製造しうる。
市販品として入手可能な代表的なものとしては、フェノールノボラック樹脂にエピクロヒドリンを付加して得られるノボラック型エポキシ樹脂を界面活性剤(乳化剤)で強制的にエマルション化した、長瀬ケムテック社製デコナールEM150、ジャパンエポキシレジン社製エピレッツ6006W70、5003W55、東都化成社製WEX−5100、等が挙げられる。
【0141】
また、ビスフェノールに同様にエピクロロヒドリンを付加して得られるビスフェノール型エポキシ樹脂を乳化剤で強制乳化した、長瀬ケムテック社製デコナールEM101、EM103、ジャパンエポキシレジン社製エピレッツ3510W60、3515W6、3522W60、3540WY55等が挙げられる。
さらに、ソルビトールやペンタエリスリトールやグリセリンなどのポリオールにエピクロヒドリンを付加したアルキルタイプのエポキシ樹脂として、長瀬ケムテック社製デコナールEX−611、EX−614、EX−411、EX−313などが挙げられる。
【0142】
[5−2]顔料の添加
本発明の樹脂分散体には顔料(E)を加えることができる。顔料(E)を含む水性樹脂分散体は塗料として好適である。
【0143】
使用しうる顔料は特に限定されないが、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、酸化クロム、紺青、ベンガラ、黄鉛、黄色酸化鉄等の無機顔料、あるいはアゾ系顔料、アントラセン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機顔料等の着色顔料;タルク、炭酸カルシウム、クレイ、カオリン、シリカ、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料;導電カーボン、アンチモンドープの酸化スズをコートしたウイスカー等の導電顔料;アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属または合金等の無着色或いは着色された金属製光輝材などを挙げることができ、1種または2種以上を併用してもよい。
【0144】
本発明の樹脂分散体に対する顔料(E)の添加量は、樹脂(重合体(C)と他の樹脂の合計量)100重量部に対して、10重量部以上が好ましい。より好ましくは50重量部以上である。但し400重量部以下が好ましく、より好ましくは200重量部以下である。下限値より添加量が多いほど発色性、隠蔽性が高くなる傾向にあり、上限値より少ないほど密着性、耐湿性、耐油性が高くなる傾向にある。
【0145】
このとき顔料分散剤を用いてもよい。例えば、ジョンソンポリマー社製のジョンクリルレジン等の水性アクリル系樹脂;ビックケミー社製のBYK−190等の酸性ブロック共重合体;スチレン−マレイン酸共重合体;エアプロダクツ社(エアープロダクト社)製のサーフィノールT324等のアセチレンジオール誘導体;イーストマンケミカル社製のCMCAB−641−0.5等の水溶性カルボキシメチルアセテートブチレート等を挙げることができる。これらの顔料分散剤を用いることで、安定な顔料ペーストを調製することが出来る。
【0146】
本発明の樹脂分散体はプライマー、プライマーレス塗料、接着剤、インキ等に使用することができる。本発明は特にプライマーや塗料、接着剤として有用に用いることができる。特にポリオレフィン基材に適する。例えば自動車内装用・外装用等の自動車用塗料、プライマー、携帯電話・パソコン等の家電用塗料、建築材料用塗料等に用いうる。
【0147】
[6]積層体
本発明の樹脂分散体又はこれを含む塗料を基材に塗布し、加熱することで樹脂層を形成し、積層体とすることができる。この樹脂層は、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に、親水性高分子(B)が結合してなるか又は酸性基が結合してなる重合体(C)を含み、前記共重合体(A)のプロピレン含量が50モル%以上100モル%未満であり、かつ共重合体(A)の重量平均分子量Mwが10,000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下であり、界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下である層である。
【0148】
この積層体は自動車用、家電用、建材用など各種用途に用いることができる。基材はフィルム、シート、板状体等、形状は問わない。
前記樹脂層の硬さは、用途に合わせて(A)と(B)の種類および量を選択することで、柔らかくも硬くもできる。例えば自動車外装用塗料では硬い性能が必要となるので硬くし、自動車内装用では柔らかい性能が必要となるので柔らかい選択をする。硬さとしては、引っ張り弾性や曲げ弾性などで評価することができる。
本発明の樹脂分散体は、結晶性を有するオレフィン系重合体の成形体(基材)に塗布し塗膜を形成することができる。基材としてのオレフィン系重合体としては、高圧法ポリエチレン、中低圧法ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、ポリ−1−ブテン、ポリスチレン等のオレフィン系重合体;エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体等のオレフィン共重合体等が挙げられる。これらのオレフィン共重合体のうち、プロピレン系重合体が好ましく用いられる。また、ポリプロピレンと合成ゴムとからなる成形体、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂等からなる成形体、例えば自動車用バンパー等の成形体、さらには鋼板や電着処理用鋼板等の表面処理にも用いることができる。
【0149】
また本発明の樹脂分散体が適用される成形体は、上記の各種重合体あるいは樹脂が、射出成形、圧縮成形、中空成形、押出成形、回転成形等の公知の成形法のいずれの方法によって成形されたものであってもよい。
これら成形体にタルク、亜鉛華、ガラス繊維、チタン白、硫酸マグネシウム等の無機充填剤や顔料等が配合されている場合にも、密着性の良い塗膜を形成することができる。
【0150】
[6−1]積層体の製造方法
基材上に樹脂層を形成する方法としては、特に限定されることなく公知の方法が使用しうるが、例えば、樹脂分散体又は塗料をスプレーで塗布する方法、ローラーで塗布する方法、刷毛で塗布する方法などが挙げられる。
【0151】
樹脂分散体又は塗料を塗布した後、通常、ニクロム線、赤外線、高周波等により加熱して塗膜を硬化させ、所望の塗膜を表面に有する積層体を得ることができる。塗膜の硬化条件は、基材の材質、形状、使用する塗料の組成等によって適宜選ばれる。硬化温度に特に制限はないが、実用性を考慮して通常、50℃以上、好ましくは60℃以上である。ただし通常150℃以下、好ましくは130℃以下とする。
【0152】
積層される樹脂層の膜厚(硬化後)は、基材の材質、形状、使用する塗料の組成等によって適宜選びうるが、通常0.1μm以上であり、好ましくは1μm以上、更に好ましくは5μm以上である。但し通常500μm以下であり、好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下である。
【0153】
[6−2]熱可塑性樹脂成形体(F)
本発明の積層体の基材としては熱可塑性樹脂成形体が望ましい。熱可塑性樹脂成形体(F)としては、特に限定されるものではないが、例えばポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂等からなる成形体である。なかでも本発明はポリオレフィン樹脂からなる熱可塑性樹脂成形体(F)(以下、ポリオレフィン成形体と称する。)に適用することが好ましい。
【0154】
ポリオレフィン成形体は通常、結晶性ポリオレフィンの成形体であり、公知の各種ポリオレフィンを用いることができ、特に限定されない。例えば、エチレン又はプロピレンの単独重合体、エチレン及びプロピレンの共重合体;エチレン又は/及びプロピレンと、その他のコモノマー、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、又はノルボルネンなどの炭素数2以上のα−オレフィンコモノマーとの共重合体;もしくはこれらコモノマーの2種類以上の共重合体を用いることができる。
【0155】
α−オレフィンコモノマーとしては、炭素数2〜6のα−オレフィンコモノマーが好ましい。またα−オレフィンモノマーと酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのコモノマーとの共重合体、もしくは芳香族ビニルモノマーなどのコモノマーとの共重合体、又はその水素添加体、共役ジエンブロック共重合体の水素添加体、なども用いることができる。なお単に共重合体という場合はランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。またポリオレフィンは必要に応じ変性されていてもよい。
【0156】
これらは用途に合わせて、単独でも混合物としても使用できる。
ポリオレフィンは、好ましくはメルトフローレート(MFR)が2g/10分以上であり、より好ましくは10g/10分以上、特に好ましくは25g/10分である。ただし好ましくは300g/10分以下、より好ましくは200g/10分以下である。MFRが下限値より高いとポリオレフィンの流れ性が高まる傾向にある。逆にMFRが上限値より低いと機械物性が高まる傾向にある。ポリオレフィンのMFRは、重合時に調整したものであってもよく、或いは重合後にジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド等の有機過酸化物で調整したものであってもよい。
【0157】
ポリオレフィンとして結晶性ポリプロピレンがより好ましい。結晶性ポリプロピレンとは、プロピレン単独重合体及び/又はプロピレン−エチレン共重合体である。ここでプロピレン−エチレン共重合体とは、プロピレン−エチレンランダム共重合体及び/又はプロピレン−エチレンブロック共重合体であり、好ましくはプロピレン−エチレンブロック共重合体である。
【0158】
ここで、プロピレン−エチレンブロック共重合体は、結晶性ポリプロピレン部(a単位部)とエチレン−プロピレンランダム共重合体部(b単位部)とからなる。
上記a単位部は、通常、プロピレンの単独重合、場合によってはプロピレンに少量の他のα−オレフィンを共重合することによって得られる。
a単位部のポリプロピレン単独重合体のMFRは、好ましくは10g/10分以上、より好ましくは15g/10分以上、更に好ましくは20g/10分以上であり、特に好ましくは40g/10分以上である。但し好ましくは500g/10分以下、より好ましくは400g/10分以下、更に好ましくは300g/10分以下である。
【0159】
このMFRが下限値より高いほど流れ性が高まる傾向にある。逆にMFRが上限値より低いほど機械物性が高まる傾向にある。
一方、b単位部はプロピレンとエチレンとのランダム共重合によって得られるゴム状成分である。
b単位部のプロピレン−エチレンランダム共重合体部のプロピレン含量は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上、更に好ましくは50重量%以上である。但し好ましくは85重量%以下、より好ましくは80重量%以下、更に好ましくは75重量%以下である。プロピレン含量がこの範囲である場合、その分散性や、ガラス転移温度が適切な範囲となり、衝撃特性が良好となる傾向がある。プロピレン含量は、プロピレン−エチレンランダム共重合体部の重合時にプロピレンとエチレンの濃度比を制御することにより調整できる。
【0160】
b単位部のプロピレン−エチレンランダム共重合体部の分子量は、特に制約はないが、分散性や耐衝撃性を考慮すれば、重量平均分子量(Mw)が好ましくは200,000〜3,000,000、より好ましくは300,000〜2,500,000、更に好ましくは400,000〜2,000,000である。
a単位部、b単位部の量については特に制限はないが、一般にa単位部は、好ましくは全体量の95重量%以下、より好ましくは50〜95重量%、更に好ましくは60〜90重量%、b単位部は、好ましくは全体量の5重量%以上、より好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは10〜40重量%となるように調整される。b単位部の量が下限値以上であるほど耐衝撃特性が高まる傾向があり、上限値以下であるほど剛性、強度及び耐熱性が高まる傾向がある。
【0161】
本発明において、b単位部の量は昇温溶出分別法を用いて測定するものとする。即ちa単位部はオルトジクロロベンゼンによる抽出において100℃以下で溶出しないが、b単位部は容易に溶出する。従って、製造後のプロピレン−エチレンブロック共重合体に対して上記オルトジクロロベンゼンによる抽出分析により組成を判定するものとする。
a単位部とb単位部の量の比率は、プロピレン単独重合体部の重合量とプロピレン−エチレンランダム共重合体部の重合量によって決まるので、それぞれの重合時間を制御すること等により調整できる。
【0162】
プロピレン単独重合体やプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造法は特に限定されるものではなく、公知の方法、条件の中から適宜に選択される。
プロピレンの重合触媒としては、通常、高立体規則性触媒が用いられる。例えば、四塩化チタンを有機アルミニウム化合物で還元し更に各種の電子供与体及び電子受容体で処理して得られた三塩化チタン組成物と、有機アルミニウム化合物及び芳香族カルボン酸エステルを組み合わせた触媒(特開昭56−100806号、特開昭56−120712号、特開昭58−104907号の各公報参照)、または、ハロゲン化マグネシウムに四塩化チタンと各種の電子供与体を接触させた担持型触媒(特開昭57−63310号、同63−43915号、同63−83116号の各公報参照)等を例示することができる。更にWO91/04257号公報等に示されるようなメタロセン系触媒も挙げられる。なおメタロセン系触媒は、アルモキサンを含まなくてもよいが、メタロセン化合物とアルモキサンとを組み合わせた触媒、いわゆるカミンスキー系触媒が好ましい。
【0163】
プロピレン−エチレンブロック共重合体は、まず上記触媒の存在下で気相重合法、液相塊状重合法、スラリー重合法等の製造プロセスを適用してプロピレンを単独で重合し、続いてプロピレンとエチレンをランダム重合することにより得られる。上記した溶融特性(MFR)等を有するプロピレン−エチレンブロック共重合体を得るためにはスラリー法や気相流動床法を用いて多段重合することが好ましい。或いはプロピレンの単独重合を多段で行い、続いてプロピレンとエチレンをランダム重合する方法で得ることもできる。b単位部の多いプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造する場合は気相流動床法が特に好ましい。
【0164】
プロピレン単独重合体は、上記触媒の存在下で相重合法、液相塊状重合法、スラリー重合法等の製造プロセスを適用してプロピレンを単独で重合することにより得られる。上記した溶融特性(MFR)を有するプロピレン単独重合体を得るためにはスラリー法や気相流動床法を用いて多段重合することが好ましい。
本発明の積層体の基材を構成するプロピレン単独重合体あるいはプロピレン−エチレンブロック共重合体は、構造材料として用いるためには機械的物性に優れ剛性や耐衝撃特性が高いことが好ましい。即ち曲げ弾性率が、好ましくは300MPa以上、より好ましくは500〜3000MPa、更に好ましくは1,000〜2,000MPaである。この範囲内とすることで剛性に優れ構造材料として適したものとなる。またIZOD衝撃強度は、好ましくは1kJ/m2以上、より好ましくは2〜100kJ/m2、更に好ましくは5〜80kJ/m2、特に好ましくは8〜60kJ/m2である。この範囲内とすることで耐衝撃特性に優れ構造材料として適したものとなる。
熱可塑性樹脂成形体は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0165】
[6−3]無機フィラー成分
本発明に用いられる熱可塑性樹脂成形体(F)は無機フィラー成分を含有することができる。
特に、結晶性ポリオレフィンに無機フィラー成分を配合することにより成形体の曲げ弾性率、剛性などの機械的性質を向上させることができる。
具体的には、タルク、マイカ、モンモリロナイト等の板状フィラー;短繊維ガラス繊維、長繊維ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ゾノライト等の繊維状フィラー;チタン酸カリウム、マグネシウムオキシサルフェート、窒化珪素、ホウ酸アルミニウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、ワラストナイト、炭酸カルシウム、炭化珪素等の針状(ウイスカー)フィラー;沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の粒状フィラー;ガラスバルーンのようなバルン状フィラー、等である。亜鉛華、チタン白、硫酸マグネシウム等の無機充填剤や顔料も使用できる。なかでも物性とコストのバランスからタルク、マイカ、ガラス繊維、ウイスカーが好ましく、タルク、マイカ、ガラス繊維がより好ましい。
【0166】
無機フィラー成分は、界面活性剤、カップリング剤等で表面処理を施されていてもよい。表面処理したフィラーは成形品の強度や耐熱剛性をさらに向上させる効果を有する。
無機フィラー成分の使用量は、成形品の目的や用途によって広い範囲から選択されるが、結晶性ポリオレフィン100重量部に対し、好ましくは1〜80重量部、より好ましくは2〜75重量部、更に好ましくは5〜60重量部である。
【0167】
無機フィラー成分を含有させることにより、結晶性ポリオレフィンの曲げ弾性率は、好ましくは1,000MPa以上、より好ましくは1,500〜10,000MPa、更に好ましくは2,000〜8,000MPaに改善することができる。またIZOD衝撃強度は、好ましくは1kJ/m2以上、より好ましくは2〜80kJ/m2、更に好ましくは4〜60kJ/m2に改善できる。
無機フィラー成分は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0168】
以下、好ましいフィラーについて詳述する。
(1)タルク
本発明で用いるタルクの平均粒径は、通常10μm以下、好ましくは0.5〜8μm、より好ましくは1〜7μmである。平均粒径値とは、レーザー回折法(例えば堀場製作所製LA920W)や液層沈降方式光透過法(例えば島津製作所製CP型等)による測定結果から粒度累積分布曲線を描き、これから読みとった累積量50重量%の粒径値である。本発明における値はレーザー回折法で測定した平均粒径値である。
【0169】
タルクとしては、天然に産出したタルクを機械的に微粉砕化したものを更に精密に分級して得られる微粒子状のものを用いる。一旦粗分級したものを更に分級してもよい。
機械的粉砕方法としては、例えばジョークラシャ−、ハンマークラシャ−、ロールクラシャー、スクリーンミル、ジェット粉砕機、コロイドミル、ローラーミル、振動ミル等の粉砕機を用いる方法が挙げられる。粉砕されたタルクは、上記平均粒径に調節するために、サイクロン、サイクロンエアセパレーター、ミクロセパレーター、シャープカットセパレター等の装置で1回又は繰り返し、湿式又は乾式分級される。
【0170】
本発明で用いるタルクの製造方法としては、特定の粒径に粉砕した後、シャープカットセパレターにて分級操作を行うことが好ましい。
これらのタルクは、重合体との接着性或いは分散性を向上させる目的で、各種の有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等によって表面処理されていてもよい。
【0171】
(2)ガラス繊維
ガラス繊維としてはガラスチョップドストランドを用いるのが一般的である。ガラスチョップドストランドの長さは通常3〜50mmであり、繊維の径は通常3〜25μm、好ましくは8〜14μmである。
ガラスチョップドストランドとしては、シラン系化合物による表面改質や、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、オレフィン系成分などの集束剤等による表面処理を施したものを用いることが好ましい。
【0172】
集束剤としてのオレフィン系成分としては、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンやポリオレフィン低分子量物などが挙げられる。
本発明においては、結晶性ポリオレフィンとガラス繊維との界面接着による機械的強度の向上を図るために、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性したポリオレフィンを配合してもよい。特にポリプロピレンを母体として変性したものが好ましく、変性率が0.1〜10重量%のものを用いることが好ましい。
【0173】
(3)マイカ
マイカは、平均粒径が2〜100μmで平均アスペクト比が10以上のものが好ましく、平均粒径が2〜80μmで平均アスペクト比が15以上のものがより好ましい。マイカの平均粒径が上記範囲内であることで、成形品の耐傷性、衝撃強度をより向上させ外観の低下が抑制できる。
【0174】
またマイカはいわゆる白マイカ、金マイカ、黒マイカ等いずれでも構わないが、金マイカ、白マイカが好ましく、白マイカがより好ましい。
マイカの製造方法は特に限定されず、前述のタルクに準じた方法で製造されるが、乾式粉砕・湿式分級又は湿式粉砕・湿式分級方式が好ましく、湿式粉砕・湿式分級方式がより好ましい。
【0175】
[6−4]エラストマー成分
本発明に用いられる熱可塑性樹脂成形体(F)が結晶性ポリオレフィン成形体である場合、更に、エラストマー成分を含有させることができる。これにより成形体の耐衝撃強度を向上させることができる。
【0176】
エラストマー成分としては、エチレン−α−オレフィンランダム共重合ゴム、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴム、スチレン含有熱可塑性エラストマー等が挙げられる。具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−1−ブテン共重合体ゴム、エチレン−1−ヘキセン共重合体ゴム、エチレン−1−オクテン共重合体ゴム等のエチレン−α−オレフィン共重合体ゴム;エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体ゴム(EPDM)等のエチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴム;スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック体の水素添加物(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)等のスチレン含有熱可塑性エラストマーが例示できる。
【0177】
これらのエラストマーは下記のように製造することができる。
これらエラストマー成分のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、本発明の主要用途の一つである自動車外装材を考慮した場合、好ましくは0.5〜150g/10分、より好ましくは0.7〜100g/10分、更に好ましくは0.7〜80g/10分である。
エラストマー成分は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0178】
[6−5]その他の成分
熱可塑性樹脂成形体(F)は、上記以外に、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、任意の添加剤や配合成分を含有することができる。具体的には、着色するための顔料、フェノール系、イオウ系、リン系などの酸化防止剤、帯電防止剤、ヒンダードアミン等光安定剤、紫外線吸収剤、有機アルミ・タルク等の各種核剤、分散剤、中和剤、発泡剤、銅害防止剤、滑剤、難燃剤、ポリエチレン樹脂等他の樹脂、などを挙げることができる。
【0179】
[6−6]熱可塑性樹脂成形体(F)の製造方法
以上述べた樹脂に、必要に応じて各種成分を配合し、混合及び溶融混練する。混練方法は特に限定されず、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の通常の混練機を用いて混練・造粒することによって、本発明の熱可塑性樹脂成形体(F)を構成する熱可塑性樹脂組成物が得られる。各成分の分散を良好にするためには、好ましくは二軸押出機を用いる。
【0180】
この混練・造粒の際には、上記各成分を同時に混練してもよく、また性能向上をはかるべく各成分を分割して混練する方法を採用することもできる。
次いで熱可塑性樹脂組成物を成形し熱可塑性樹脂成形体(F)を得るが、成形方法は公知の各種方法を用いることができる。
例えば射出成形(ガス射出成形も含む)、圧縮成形、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、中空成形、回転成形、カレンダー成形、インフレーション成形、一軸延伸フィルム成形、二軸延伸フィルム成形等が挙げられる。射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形を用いるのが好ましく、生産性等を考慮すると射出成形が特に好ましい。
【0181】
[6−7]積層体の用途
本発明の積層体は、塗膜の密着性に優れ、さらに剛性、耐衝撃性などに優れた物性バランスを有する。また積層体を構成する樹脂層が実質的に界面活性剤を含まない場合にはブリードアウトも生じないため外観にも優れる。また、塩素などのハロゲンを含有する必要がないため環境負荷を少なくすることができる。
従って本発明の積層体は、自動車、家電、建材など各種工業部品に用いることができ、特に、薄肉化、高機能化、大型化された部品・材料として実用に十分な性能を有している。また同様にフィルム、シートなどの生活資材としても用いることができる。
【0182】
例えば、バンパー、インストルメントパネル、トリム、ガーニッシュなどの自動車部品、テレビケース、洗濯機槽、冷蔵庫部品、エアコン部品、掃除機部品などの家電機器部品、便座、便座蓋、水タンクなどのトイレタリー部品、浴槽、浴室の壁、天井、排水パンなどの浴室周りの部品などの各種工業部品用成形材料や、包装材、農業用フィルム、ガスバリアフィルム、合成紙などの各種生活資材として用いることができる。
【実施例】
【0183】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下で単に「部」と書いた場合は「重量部」を指す。
<物性測定方法及び評価方法>
(1)立体規則性
プロピレン−ブテン共重合体におけるプロピレンの含量[P]は、NMR装置(日本電子社製、400MHz)にて13C−NMRスペクトル測定法により測定した。試料350〜500mgを、10mmφのNMR用サンプル管中で、約2.2mlのオルトジクロロベンゼンを用いて完全に溶解させた。次いで、ロック溶媒として約0.2mlの重水素化ベンゼンを加え、均一化させた後、130℃でプロトン完全デカップリング法により測定を行った。測定条件は、パルス角90°、パルス間隔パルス間隔10秒、積算回数6000回とした。
プロピレン及びブテンのケミカルシフト及び含量はJ.C.Randall, Macromolecules, 11, 592(1978)の記載を参考にして算出した。
【0184】
(2)重量平均分子量[Mw]および分子量分布[Mw/Mn]
(2)−1 ポリプロピレン換算での分子量の測定法
はじめに試料20mgを30mlのバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを0.04重量%含有するオルトジクロロベンゼン20gを添加した。135℃に加熱したオイルバスを用いて試料を溶解させた後、孔径3μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルターにて熱濾過を行い、ポリマー濃度0.1重量%の試料溶液を調製した。次に、カラムとしてTSKgel GM H−HT(30cm×4本)及びRI検出器を装着したウォーターズ(Waters)社製GPC150CVを使用し、GPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液のインジェクション量:500μl、カラム温度:135℃、溶媒:オルトジクロロベンゼン、流量:1.0ml/minを採用した。
【0185】
分子量の算出に際しては、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびポリプロピレンの粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、プロピレン−α−オレフィン共重合体の分子量の算出を行った。
粘度式としては[η]=K・Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E−4、α=0.70を、プロピレン−α−オレフィン共重合体に対してはK=1.03E−4、α=0.78を使用した。
また、得られた重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnの値から分子量分布Mw/Mnを算出した。
【0186】
(2)−2 ポリスチレン換算での分子量の測定法
はじめに試料5mgを10mlのバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHT250ppm含有のテトラヒドロフランを5g添加し50℃で完全に溶解させた。室温に冷却後孔径0.45μmのフィルターでろ過し、ポリマー濃度0.1重量%の試料溶液を調製した。次に、カラムとしてTSKgel GMHXL−L(30cm×2本)にガードカラムTSKguardcolumnHXL−Hを装着した東ソー社製GPC HLC−8020を使用しGPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液のインジェクション量:50μl、カラム温度:40℃、溶媒:テトラヒドロフラン、流量1.0ml/minを採用した。
分子量の算出に際しては、標準試料として市販の単分散のポリスチレン標準試料を測定し、標準試料の保持時間と分子量から検量線を作成し算出を行った。
【0187】
(3)昇温溶出分別法(TREF)
試料を140℃でオルトジクロロベンゼン(0.5mg/mlのBHT(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)含有)に溶解し溶液とした。これを140℃のTREFカラムに導入した後、8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、60分間保持した。その後、溶媒であるオルトジクロロベンゼン(0.5mg/mlのBHT含有)を1ml/minの流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のオルトジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させた。次に、昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温させ、0.1℃間隔で溶出量を検出した。得られた結果から、温度毎の積算溶出量(重量%)を算出した。
【0188】
以下に測定装置及び測定条件を示す。
・測定装置
(TREF部)
TREFカラム:4.3mmφ × 150mmステンレスカラム
カラム充填材:100μm表面不活性処理ガラスビーズ
加熱方式:アルミヒートブロック
冷却方式:ペルチェ素子(ペルチェ素子の冷却は水冷)
温度分布:±0.5℃
温調器:(株)チノー デジタルプログラム調節計KP1000
(バルブオーブン)
加熱方式:空気浴式オーブン
測定時温度:140℃
温度分布:±1℃
バルブ:6方バルブ、4方バルブ
(試料注入部)
注入方式:ループ注入方式
注入量:ループサイズ 0.1ml
注入口加熱方式:アルミヒートブロック
測定時温度:140℃
(検出部)
検出器:波長固定型赤外検出器 FOXBORO社製 MIRAN 1A
検出波長:3.42μm
高温フローセル:LC−IR用ミクロフローセル、光路長1.5mm、
窓形状2φ×4mm長丸、合成サファイア窓板
測定時温度:140℃
(ポンプ部)
送液ポンプ:センシュウ科学社製 SSC−3461ポンプ
・測定条件
溶媒:オルトジクロロベンゼン(0.5mg/ml BHT入り)
試料濃度:5mg/ml
試料注入量:0.1ml
溶媒流速:1ml/min
【0189】
(4)融点[Tm]および結晶融解熱量[ΔH]
セイコーインスツル社製 示差走査熱量計 DSC 220Cを使用して測定した。
試料5±1mgをAlパンに入れAl蓋をし、空のAlパンをリファレンスとして検出器にのせた。200℃まで100℃/分の速度で昇温した。同温度で5分間保持した後、10℃/分の速度で冷却し、−10℃まで0.5秒間隔で熱量を検出した。同温度で1分保持した後10℃/分の速度で200℃まで昇温させ、0.5秒間隔で熱量を検出した。
各試料とも冷却過程において発熱ピークが1つ、最後の昇温過程において吸熱ピークが1つ観測された。最後の昇温過程におけるピークのピークトップ時の温度を融点[Tm]とし、ピークの裾野を結んだ線により囲まれるピークの面積から結晶融解熱量[ΔH]を算出した。
【0190】
(5)グラフト率
重合体200mgとクロロホルム4800mgを10mlのサンプル瓶に入れて50℃で30分加熱し完全に溶解させた。材質NaCl、光路長0.5mmの液体セルにクロロホルムを入れ、バックグラウンドとした。次に溶解した重合体溶液を液体セルにいれて、日本分光社製FT−IR460plusを用い、積算回数32回にて赤外線吸収スペクトルを測定した。無水マレイン酸のグラフト率は、無水マレイン酸をクロロホルムに溶解した溶液を測定し検量線を作成したものを用いて計算した。そしてカルボニル基の吸収ピーク(1780cm-1付近の極大ピーク、1750〜1813cm-1)の面積から、別途作成した検量線に基づき、重合体中の酸成分含有量を算出し、これをグラフト率(重量%)とした。
【0191】
(6)分散粒子径
日機装社製マイクロトラック UPA(モデル9340 バッチ型 動的光散乱法/レーザードップラー法)を用いて測定した。分散体の密度を0.9g/cm3、粒子形状を真球形、粒子の屈折率を1.50、分散媒を水、分散媒の屈折率を1.33として、測定時間120秒にて測定し、体積換算として粒径が細かい方から累積で50%粒子径、90%粒子径を求めた。
【0192】
(7)密着性
(7)−1
自動車外装用グレードのポリプロピレンを70mm×150mm×3mmにインジェクション成型した基板(試験片)を作成し、基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。ここに、試料を、塗布量(塗布後の乾燥重量)が約15g/m2となるように噴霧塗布した。次にこの塗布後の試験片をセーフベンドライヤー中で、80℃で40分乾燥及び焼付けし塗装板を得た。
23℃で24時間放置後、JIS K 5400に記載されている碁盤目試験の方法に準じて2mm間隔で25マス(5×5)の碁盤目を付けた試験片を作成し、セロハンテープ(ニチバン(株)品)を貼り付けた後、90度方向に剥離し、25個の碁盤目のうち剥離されなかった碁盤目数にて評価した。
【0193】
(7)−2
自動車外装用グレードのポリプロピレンを70mm×150mm×3mmにインジェクション成型した基板(試験片)を作成し、基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。ここに、試料を、塗布量(塗布後の乾燥重量)が約10g/m2となるように噴霧塗布し、セーフベンドライヤー中で、80℃で5分乾燥した。次に、この塗布後の試験片の上に、所定量の硬化剤を配合し且つ専用シンナーで粘度調整を行ったアクリルポリオールウレタン塗料[レタン PG80III:関西ペイント社製]を、塗布量が25〜30g/mになるように噴霧塗布し、セーフベンドライヤー中において90℃で30分間焼付けし塗装板を得た。
【0194】
23℃で24時間放置後、JIS K 5400に記載されている碁盤目試験の方法に準じて2mm間隔で25マス(5×5)の碁盤目を付けた試験片を作成し、セロハンテープ(ニチバン(株)品)を貼り付けた後、90度方向に剥離し、25個の碁盤目のうち剥離されなかった碁盤目数にて評価した。
【0195】
(8)耐ガソホール性試験
密着性試験(7)−2と同様に作製した塗装板を、20℃に保ったレギュラーガソリンとエタノールとの混合溶液(重量比:レギュラーガソリン:エタノール=9:1)中に浸漬して、塗膜に剥離が生じるまでの時間を測定し、以下のように評価した。
◎:60分以上
○:15分以上60分未満
△:5分以上15分未満
×:5分未満
【0196】
(9)塗膜物性
密着性試験(7)−2で用いた基板を、基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。ここに、試料を、塗布量(塗布後の乾燥重量)が約10g/m2となるように噴霧塗布し、セーフベンドライヤー中で、80℃で30分乾燥し、試験片を得た。この試験片を40℃で3日間静置した後、ブリードアウト及びタック性の評価を行った。
・ ブリードアウト
塗装試験片を目視し、塗膜表面にブリードアウトした界面活性剤の状態を外観観察した結果、以下のように判定した。
○:界面活性剤のブリードアウト無し
△:界面活性剤がわずかにブリードアウトしている
×:界面活性剤がかなりブリードアウトしている
・ タック性
塗装試験片を指触し、表面状態を以下のように判定した。
○:指で触ってもタック無し
×:指で触るとタックあり
【0197】
(10)ヒートシール試験
・ 剥離強度
ホモポリプロピレン(日本ポリプロ社製、MA3U)を成形し厚み100μmのポリプロピレンフィルムを作成した。ここに、固形分濃度を25重量%に調整したエマルション10gに対してイソプロピルアルコール5gを加えて希釈し、塗布量(塗布後の乾燥重量)が約3g/m2となるようにバーコーター(16番)で塗工し、セーフベンドライヤー中で80℃で3分間乾燥した。次に、この上に、同じポリプロピレンフィルムを重ね、温度120℃、圧力2kg/cm、加圧時間5秒でヒートシールを行った。
ヒートシールした積層体を23℃で4時間放置後、15mm幅に切断して試験片とし、剥離速度300mm/分で180度T字剥離試験を行ない、剥離強度を評価した。
・ 耐ブロッキング性
剥離試験と同様にしてエマルションを塗布乾燥したフィルムの上に、同じポリプロピレンフィルムを重ね合わせ、23℃で0.1kg/cmの荷重をかけた後、フィルムを手で剥離しブロッキング性を以下のように評価した。
○:ブロッキングなし
△:わずかにブロッキングあり
×:ブロッキングがあり、フィルム同士が接着している
【0198】
以下、実施例及び比較例で用いた共重合体(A)及び他の重合体のプロピレン含量、Mw(ポリプロピレン換算)、Mw/Mn(ポリプロピレン換算)、融点Tm、結晶融解熱量ΔH、昇温溶出分別法における60℃以下での溶出量を表−1に示す。
【0199】
【表1】

【0200】
[実施例1]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、トルエン650g、プロピレン−ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070;共重合体1)350gを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後無水マレイン酸35gを加え、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製パーブチルI)10.7gを加え、10時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、系を室温付近まで冷却し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別した。さらにアセトンで沈殿・濾別を繰り返し、最終的に得られたポリマーをアセトンで洗浄した。洗浄後に得られたポリマーを減圧乾燥することにより、白色粉末状の無水マレイン酸変性ポリマーが得られた。この変性ポリマーの赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は、2.1重量%(無水マレイン酸基として0.21mmol/g、カルボン酸基として0.42mmol/g)であった。また重量平均分子量は110,000(ポリプロピレン換算)、171,000(ポリスチレン換算)、数平均分子量は90,000(ポリスチレン換算)であった。
【0201】
次に、還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、得られた無水マレイン酸変性ポリマー30g(無水マレイン酸基の含量6.3mmol)とトルエン70gを加え、温度を110℃に昇温し完全に溶解した。次いでメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン(ハンツマン社製ポリエーテルアミン;ジェファーミンM−1000、分子量1,000(公称値))6g(6mmol、共重合体(A)100重量部に対し親水性高分子(B)20重量部に相当)をトルエン6gに溶解した溶液を加え110℃で1時間反応させた。その後モルホリン0.53g(6mmol)を加え110℃で1時間反応させた。
【0202】
反応液から少量採取し、トルエンを減圧留去したのち赤外吸収スペクトル分析を行った結果、1784cm-1付近の無水マレイン酸に相当するピークは90%消滅し、無水マレイン酸変性ポリマーとポリエーテルアミンが結合していることが観察された。無水マレイン酸変性ポリマーにポリエーテルアミンがグラフト結合したグラフト共重合体を形成している。
【0203】
得られた反応液の温度を60℃に保ち、加熱・撹拌しながらイソプロパノール120gと水30gの混合液を1時間かけて滴下し、霞がかった淡黄色の液体を得た。更に、イソプロパノール30gと水160gの混合液を、反応液の温度を60℃に保ちながら1時間かけて滴下し、半透明の黄色溶液を得た。これを45℃に冷却し、減圧度0.02MPaから0.004MPaまで徐々に減圧度を下げてポリマー濃度25重量%になるまでトルエンとイソプロパノールと水を減圧留去し、淡黄色透明の水性樹脂分散体を得た。分散粒子径が細かいため透明に見えるものと思われる。
【0204】
分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.099μm、90%粒子径は0.184μmであった。得られた水性樹脂分散体の密着性の評価結果を表−2に示す。なお、密着性については、(7)−1の方法で評価を行った。併せて、用いたプロピレン−ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070)のプロピレン含量、Mw、Mw/Mn、融点Tm、結晶融解熱量ΔH、昇温溶出分別法における60℃以下での溶出量を示す。
【0205】
なお実施例1で用いたメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン(ハンツマン社製ポリエーテルアミン;ジェファーミンM−1000)は、25℃の水に10重量%の濃度で溶解させたときに不溶分が1重量%以下であり、親水性高分子である。
【0206】
[比較例1]
プロピレン−ブテン共重合体として、三井化学社製タフマーXR110T(共重合体6)を使用した以外は実施例1と同様にして無水マレイン酸変性ポリマーを得た。無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は、2.0重量%(無水マレイン酸基として0.20mmol/g、カルボン酸基として0.40mmol/g)であった。
次いで実施例1と同様にして水性樹脂分散体の調製を試みたが、粒径1mmを超える析出物が多量に見られ、樹脂分散体は得られなかった。
【0207】
【表2】

【0208】
[実施例2]
(溶融変性工程)
プロピレン−ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070;共重合体1)200kgと無水マレイン酸5kgをスーパーミキサーでドライブレンドした後、2軸押出機(日本製鋼所社製TEX54αII)を用い、プロピレン−ブテン共重合体100重量部に対し1重量部となるようにパーブチルIを液添ポンプで途中フィードしながら、ニーディング部のシリンダー温度200℃、スクリュー回転数125rpm、吐出量80kg/時間の条件下で混練し、ペレット状の製品を得た。
このようにして得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は0.8重量%(無水マレイン酸基として0.08mmol/g、カルボン酸基として0.16mmol/g)であった。また重量平均分子量は156,000、数平均分子量は84,000(ともにポリスチレン換算)であった。
【0209】
(溶液変性工程)
次に、底抜き出し弁とオイル循環式ジャケットヒーターのついた2Lガラスフラスコに還流冷却管、温度計、窒素ガス吹込み管、攪拌機を設置した後、上記無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体150gとトルエン150gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら110℃になるまで加温、撹拌した。
昇温後、無水マレイン酸2.25gを加えて溶解させた後、パーブチルIを0.75g加え、7時間同温度で撹拌を続けた。そののち溶液0.5gを抜き出し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別し、更にアセトンで沈殿・濾別を繰り返し、最終的に得られたポリマーを減圧乾燥した。この変性ポリマーの無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は1.5重量%(無水マレイン酸基として0.15mmol/g、カルボン酸基として0.30mmol/g)であった。また重量平均分子量は146,000、数平均分子量は77,000(ともにポリスチレン換算)であった。
【0210】
(乳化工程)
次に、溶液にトルエン129gを加え希釈した後、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’―ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバスペシャリティケミカル社製 イルガノックス1010)0.075g加えた。ジャケット温度(外温)を75℃に下げ、更にイソプロパノール15gを加えて1時間撹拌した後、70℃の温水600gを加え撹拌した。15分撹拌を続けた後、静置すると上部にトルエン溶液相、下部に温水相の二相に分離するので、底抜き出し弁より温水を抜き出した。温水での洗浄操作をもう1回繰り返した後、トルエン溶液に、ジェファーミンM−1000の15g(15mmol)をイソプロパノール390gに溶解した溶液を、1時間かけて滴下した。更に、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの90%水溶液(AMP90)1.5g(15mmol)を水90gに溶解した水溶液を加えた。
【0211】
還流冷却管とフラスコとの間にディーン・スターク管を設置し、得られた液体を減圧して溶媒を90g留去し、水90gを加える工程を5回繰り返した。その後さらに水60g加え、ポリマー濃度が30重量%になるまでトルエンとイソプロパノールと水を減圧留去し、白色の水分散体を得た。
得られた水性樹脂分散体の分散粒子径、塗膜物性、密着性及び耐ガソホール性の評価結果を表−3に示す。なお、密着性については、(7)−2の方法で評価を行った。
【0212】
[実施例3]
使用するジェファーミンM−1000の量を15gから22.5g(22.5mmol)に変更した以外は全て実施例2と同じように操作し、霞がかった淡黄色の水分散体を得た。
得られた水性樹脂分散体の評価結果を表−3に示す。
【0213】
[実施例4]
使用するジェファーミンM−1000の量を15gから30g(30mmol)に変更した以外は全て実施例2と同じように操作し、霞がかった淡黄色の水分散体を得た。
得られた水性樹脂分散体の評価結果を表−3に示す。
【0214】
[実施例5]
使用する親水性高分子をジェファーミンM−1000に代えてサーフォナミンL−200(ハンツマン社製ポリエーテルアミン、分子量2,000)を使用し、使用量を45g(22.5mmol)とした以外は全て実施例2と同じように操作し、乳白色の水分散体を得た。
得られた水性樹脂分散体の評価結果を表−3に示す。
【0215】
[実施例6]
実施例2と同様に溶融変性工程を行い、無水マレイン酸基含量0.8重量%、重量平均分子量156,000の無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体を得た。
次に、1Lガラスフラスコに還流冷却管、温度計、窒素ガス吹込み管、攪拌機を設置した後、上記無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体200gとトルエン200gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら110℃になるまで加温、撹拌した。
昇温後、無水マレイン酸10gとパーブチルI 3.0gを加え、その後30分ごとにこの操作を3回繰り返した(計4回)のち、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。
【0216】
反応終了後、反応液温度(内温)を50℃まで冷却し、アセトン600gを約1時間かけて滴下すると、薄赤色の懸濁液が得られた。吸引ろ過器で液体を除去した後、残った白色固体をアセトン500gに懸濁させ30分撹拌した。再度吸引ろ過器で液体を除去した後、テフロン(登録商標)コーティングしたバットに入れ、60℃の減圧乾燥器中で乾燥し変性ポリマーを得た。
この変性ポリマーの無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は5.8重量%(無水マレイン酸基として0.58mmol/g、カルボン酸基として1.16mmol/g)であり、重量平均分子量は89,000、数平均分子量は44,000(ともにポリスチレン換算)であった。
【0217】
この無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体150gとTHF500gを還流冷却管、温度計、攪拌機を設置した2Lガラスフラスコに仕込み、昇温し、65℃にて完全に溶解させた。得られた溶液にモルホリン33g(0.37mol)を加え、同温度で30分撹拌した。次に水500gを2時間かけて加え、淡黄色の溶液を得た。
ジャケット温度(外温)60℃で、得られた液体を減圧してTHFと一部の水を減圧留去し、ポリマー濃度が30重量%の水分散体を得た。
得られた水性樹脂分散体の評価結果を表−3に示す。
【0218】
[実施例7]
プロピレン−ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7080;共重合体2)を実施例2と同じ条件で溶融変性工程を行った。得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体は、無水マレイン酸基の含量(グラフト率)0.8重量%、重量平均分子量は158,000、数平均分子量91,000(ともにポリスチレン換算)であった。
【0219】
次に、実施例3と同じ条件で溶液変性工程及び乳化工程を行った。得られた変性ポリマーの無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は1.5重量%(無水マレイン酸基として0.15mmol/g、カルボン酸基として0.30mmol/g)、重量平均分子量は148,000、数平均分子量78,000(ともにポリスチレン換算)であり、得られた水分散体は霞がかった淡黄色であった。
得られた水性樹脂分散体の評価結果を表−3に示す。
【0220】
[実施例8]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついた1Lガラスフラスコ中に、トルエン150g、プロピレン−エチレン共重合体(クラリアント社製、リコセンPP1502;共重合体3)100gを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後、無水マレイン酸5.0gを加え、更にパーブチルI 2.0gを加え、10時間、同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、系を室温付近まで冷却し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別した。さらにアセトンで沈殿・濾別を繰り返し、洗浄後に得られたポリマーを減圧乾燥することにより、白色粉末状の無水マレイン酸変性ポリマーが得られた。この変性ポリマーの無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は、1.3重量%(無水マレイン酸基として0.13mmol/g、カルボン酸基として0.26mmol/g)であった。また重量平均分子量は45,000、数平均分子量は27,000(ともにポリスチレン換算)であった。
【0221】
次に、還流冷却管、温度計、攪拌機のついた1Lガラスフラスコ中に、得られた無水マレイン酸変性ポリマー40g(無水マレイン酸基の含量10.4mmol)、イルガノックス1010 0.02gとトルエン60gを加え、110℃に加熱し溶解した後、ジャケット温度(外温)を70℃に下げた。イソプロパノール200gにジェファーミンM−1000を6g(6mmol)溶解した溶液を1時間かけて滴下した。
【0222】
この後N,N−ジメチルエタノールアミン 0.4g(4mmol)を水40gに溶解した水溶液を加えた。次に還流冷却管とフラスコの間にディーン・スターク管を設置後、減圧し溶媒を40g留去し、水40gを加える工程を5回繰り返した。その後、ポリマー濃度が30重量%になるまでトルエンとイソプロパノールと水を減圧留去し、白色の水分散体を得た。
得られた水性樹脂分散体の評価結果を表−3に示す。
【0223】
[実施例9]
底抜き出し弁とオイル循環式ジャケットヒーターのついた2Lガラスフラスコに還流冷却管、温度計、窒素ガス吹込み管、攪拌機を設置した後、塩素化プロピレン−エチレン共重合体(共重合体4、塩素含有量27重量%)100gとトルエン150gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら110℃になるまで加温、撹拌した。
昇温後、無水マレイン酸5.0gを加えて溶解させた後、パーブチルIを2.0gを加え、7時間同温度で撹拌を続けた。そののち溶液0.5gを抜き出し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別し、更にアセトンで沈殿・濾別を繰り返し、最終的に得られたポリマーを減圧乾燥した。この変性ポリマーの無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は0.9重量%(無水マレイン酸基として0.09mmol/g、カルボン酸基として0.18mmol/g)であった。また重量平均分子量は93,000、数平均分子量は58,000(ともにポリスチレン換算)であった。
【0224】
次に、溶液にトルエン50gを加え希釈した後、イルガノックス1010 0.05g加えた。ジャケット温度(外温)を70℃に下げ、70℃の温水600gを加え撹拌した。15分撹拌を続けた後、静置し、底抜き出し弁より温水を抜き出した。温水での洗浄操作をもう1回繰り返した後、溶液に、イソプロパノール250gにジェファーミンM−1000を20g(20mmol)溶解した溶液を1時間かけて滴下した。更に、AMP90 1.0g(10mmol)を水60gに溶解した水溶液を加えた。
【0225】
還流冷却管とフラスコの間にディーン・スターク管を設置し、得られた液体を減圧して溶媒を60g留去し、水60gを加える工程を5回繰り返した。その後、ポリマー濃度が30重量%になるまでトルエンとイソプロパノールと水を減圧留去し、淡黄色の水分散体を得た。
得られた水性樹脂分散体の評価結果を表−3に示す。
【0226】
[比較例2]
ポリオレフィンとしてプロピレン−ブテン−エチレン共重合体(デグサジャパン社製、ベストプラスト708;共重合体5)を用いた以外は実施例9と同様にしてマレイン酸変性および乳化を行った。この変性ポリマーの無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は、1.3重量%(無水マレイン酸基として0.13mmol/g、カルボン酸基として0.26mmol/g)であった。また重量平均分子量は56,000、数平均分子量は22,000(ともにポリスチレン換算)であった。乳白色の水分散体が得られたが、乳化の途中で多量の凝集物が発生したため、400meshの金網でこれを取り除き性能評価に使用した。
得られた水性樹脂分散体の評価結果を表−3に示す。
【0227】
[比較例3]
実施例2の溶融変性工程で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体20gとトルエン60gとを容器に入れ、容器内を窒素ガスで置換し、75℃に昇温し、溶解した。溶解後、50℃まで冷却した後、ポリオキシエチレンセチルエーテル(ノニオン系界面活性剤、花王社製エマルゲン220、HLB=14.2)5gと、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ノニオン系界面活性剤、花王社製エマルゲン1118S70(70%水溶液)、HLB=16)7.1g(界面活性剤成分として5.0g)を加えて溶解した。
【0228】
50℃に温度を保ったまま、ここに蒸留水12gを加えた後、ホモミキサーにて12000rpmで5分間乳化を行った。続いて系内にAMP90 (0.4g)および水(150g)で希釈した水溶液を加え、pH8に調整した。この粗乳化物を温度50℃で徐々に減圧にして、トルエン及び水を留去し、ポリマー濃度25重量%の乳白色の樹脂分散体を得た。
得られた水性樹脂分散体の評価結果を表−3に示す。
【0229】
[比較例4]
(1)粘土鉱物の化学処理
300ml丸底フラスコに、脱塩水(125ml)、硫酸リチウム1水和物(19.3g)および硫酸(29.8g)を採取し、攪拌下に溶解させた。この溶液に、市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL,33.5g)を分散させ、10分間かけて沸騰するまで昇温し、沸点(105℃)で300分間攪拌を行った。その後、脱塩水200mlを加えて冷却し、得られたスラリーを濾過してウェットケーキを回収した。回収したケーキを1,000mlビーカーにて、脱塩水(800ml)を用いて再度スラリー化し、濾過を行った。この操作を2回繰り返した。最終的に得られたケーキを、空気下100℃で3時間乾燥し、化学処理モンモリロナイト(25.9g)を得た。
【0230】
(2)予備重合
上記(1)で得られた化学処理モンモリロナイト(2.0g)を200℃で2時間減圧乾燥した。これに、トリオクチルアルミニウムのトルエン溶液(0.5mmol/ml,5.7ml)を加え、60℃で40分間撹拌した。この懸濁液にトルエン(30ml)を加え、撹拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返して粘土スラリーを得た。
別のフラスコに、東ソー・アクゾ社製トリイソブチルアルミニウム(0.076mmol)と、ジクロロ{1,1’−ジメチルシリレン[2−メチル−1−インデニル][2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル]}ハフニウム(exo−syn/exo−anti=5/5(mol比)(製造方法:特開2005−48033公報参照)に調整したもの(26.7mg,37.9μmol)を加え、あらかじめ反応させてトルエン溶液とした。この錯体溶液全量を上記粘土スラリーに加え、室温で1時間撹拌した。この懸濁液にトルエン(15ml)を加え、撹拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返して触媒スラリーを得た。
次いで、内容積2リッターの誘導撹拌式オートクレーブ内に、上記触媒スラリーを全量導入した。トリイソブチルアルミニウム(0.35mmol)を含有するトルエン(100ml)を導入し、オートクレーブ内に、35℃で液化プロピレン(35ml)を導入して35℃で30分間予備重合を行った。得られた予備重合触媒スラリーを200ml丸底フラスコに回収し、上澄みを除いた後、トリイソブチルアルミニウム(0.016mmol)を含有したトルエン(80ml)で洗浄した。この予備重合触媒は、固体触媒成分1gあたり、ポリプロピレン5.1gを含有していた。
【0231】
(3)プロピレン重合
内容積2リッターの誘導撹拌式オートクレーブ内に、100℃で乾燥したアイソタクチックポリプロピレン105gを分散剤として導入し、減圧窒素置換した。その後、トリイソブチルアルミニウム(0.25mmol)を導入し、オートクレーブ内に装着した触媒フィーダー内に、上記予備重合触媒を固体触媒成分として83.7mgを導入した。オートクレーブを加熱し、50℃で触媒フィーダーから予備重合触媒をオートクレーブ内に導入し、プロピレンを導入しながらさらに加熱した。75℃まで昇温後、圧力を1.9MPaとし、同温度で60分間反応を継続した。反応中は、圧力一定となるようにプロピレンガスを導入した。反応終了後、未反応モノマーをパージして重合を停止し、初期に導入したアイソタクチックポリプロピレンを篩いで取り除き、表−1に示す物性のステレオブロックポリプロピレン(重合体7)53gを得た。このもののMFRは、28.2g/10分であった。
【0232】
(4)変性、乳化
還流冷却管、温度計、攪拌機のついた1Lガラスフラスコ中に、トルエン186g、ステレオブロックポリプロピレン(重合体7、立体規則性:アイソタクチックペンタッドが79モル%)100gを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後無水マレイン酸6gを加え、パーブチルIを2.0g加え、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、80℃に冷却し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別した。さらにアセトンで沈殿・濾別を繰り返した。洗浄後に得られたポリマーを減圧乾燥することにより、白色粉末状の無水マレイン酸変性ポリプロピレンが得られた。この無水マレイン酸変性ポリプロピレンはクロロホルムに溶解しなかったため、0.1mmのスペーサーを用い、200℃でフィルムを成型した。無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は1.5重量%(無水マレイン酸基として0.15mmol/g、カルボン酸基として0.3mmol/g)であった。
【0233】
次に、還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレン30g(無水マレイン酸基の含量4.5mmol)とトルエン70gを加えた。温度を70℃に昇温したが溶解しなかったため、110℃に昇温し完全に溶解させた。次いでジェファーミンM−1000 6g(6mmol)をトルエン6gに溶解した溶液を加え110℃で1時間反応させた。
【0234】
得られた反応液の温度を80℃に冷却したのち、イソプロパノール120gと水30gの混合液を1時間かけて滴下した。更に、イソプロパノール30gと水160gの混合液を、反応液の温度を80℃に保ちながら1時間かけて滴下すると、目視できる凝集物が多く析出した懸濁液を得た。これを同温度にて、減圧度0.02MPaから0.004MPaまで徐々に減圧度を下げてポリマー濃度30重量%になるまでトルエンとイソプロパノールと水を減圧留去し、白濁液を得た。
凝集物を400メッシュの金網でろ過し、80℃で4時間減圧乾燥すると25.8gの白色固体が得られ、白濁液のほとんどが10μm以上の粒子であった。
分子粒子径は測定不能であり、その後の評価も行えなかった。
【0235】
【表3】

【0236】
<ヒートシール試験>
実施例8、9及び比較例2、3で得られた水性樹脂分散体について、ヒートシール性の評価を行った。評価結果を表−4に示す。
実施例8及び9の水性樹脂分散体が剥離強度が大きく、耐ブロッキング性も良好で、ヒートシール接着剤として優れることが確認された。
【0237】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0238】
本発明の樹脂分散体は、結晶性を有するオレフィン系重合体に対する表面処理剤、接着剤、コーティング剤、塗料等としてきわめて有用である。また、本発明の積層体は、塗膜密着性に優れ、幅広い工業製品に適用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に、親水性高分子(B)又は酸性基が結合してなる重合体(C)を、50%粒子径0.5μm以下で水に分散させてなる樹脂分散体であって、
前記共重合体(A)のプロピレン含量が50モル%以上100モル%未満であり、かつ共重合体(A)の重量平均分子量Mwが10、000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下であり、
樹脂分散体の界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下であることを特徴とする、樹脂分散体。
【請求項2】
共重合体(A)がシングルサイト触媒を用いて製造されてなる、請求項1に記載の樹脂分散体。
【請求項3】
共重合体(A)がプロピレン−ブテン共重合体である、請求項1又は2に記載の樹脂分散体。
【請求項4】
共重合体(A)は、融点Tmが100℃以下であり、結晶融解熱量ΔHが60J/g以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
【請求項5】
共重合体(A)は、昇温溶出分別法において60℃以下で95重量%以上が溶出する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
【請求項6】
共重合体(A)が実質的に塩素を含まない、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
【請求項7】
重合体(C)が、50%粒子径0.3μm以下で水に分散されてなる、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
【請求項8】
重合体(C)は、共重合体(A)に、親水性高分子(B)が(A):(B)=100:1〜100:500(重量比)の割合で結合してなるか又は酸性基が結合してなる、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
【請求項9】
重合体(C)は、共重合体(A)に少なくとも親水性高分子(B)が結合してなる、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
【請求項10】
重合体(C)が、共重合体(A)に親水性高分子(B)がグラフト結合したグラフト共重合体である、請求項9に記載の樹脂分散体。
【請求項11】
重合体(C)が、共重合体(A)1g当たり親水性高分子(B)を0.01〜5mmol結合してなる、請求項9又は10に記載の樹脂分散体。
【請求項12】
親水性高分子(B)がポリエーテル樹脂である、請求項9乃至11のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
【請求項13】
親水性高分子(B)が反応性基を1分子当たり1以上有してなる、請求項9乃至12のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
【請求項14】
親水性高分子(B)が反応性基として少なくともアミノ基を有してなる、請求項13に記載の樹脂分散体。
【請求項15】
実質的に界面活性剤を含まない、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の樹脂分散体からなる、塗料。
【請求項17】
熱可塑性樹脂成形体(F)上に、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン−α−オレフィン共重合体(A)に、親水性高分子(B)が結合してなるか又は酸性基が結合してなる重合体(C)を含み、前記共重合体(A)のプロピレン含量が50モル%以上100モル%未満でありかつ共重合体(A)の重量平均分子量Mwが10、000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下であり、界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下である樹脂層を有する、積層体。
【請求項18】
熱可塑性樹脂成形体(F)に、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の樹脂分散体又は請求項16に記載の塗料を塗布し、加熱することにより樹脂層が形成されてなる、積層体。
【請求項19】
熱可塑性樹脂成形体(F)に、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の樹脂分散体又は請求項16に記載の塗料を塗布し、加熱して樹脂層を形成する、積層体の製造方法。

【公開番号】特開2007−270122(P2007−270122A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325899(P2006−325899)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】