説明

樹脂加工品の残留溶剤除去方法および同方法を用いた残留溶剤除去装置

【課題】
物品に樹脂を付着させた樹脂加工品の同樹脂に残留する有機溶剤が使用者に及ぼす手荒れ等の皮膚障害等の発生を防ぎ、安心して前記樹脂加工品を使用することができるようにする残留溶剤の除去方法と同方法を用いた残留溶剤除去装置を提供する。
【解決手段】
樹脂加工品の少なくとも樹脂加工部に対し、処理用蒸気5たる水蒸気もしくは過熱水蒸気を噴射ノズル2aから所定の時間噴射させ、前記樹脂加工部の樹脂に残留する溶剤を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂加工品、主に物品に樹脂を付着させた樹脂加工品の同樹脂に残留する溶剤の除去方法に関し、また、この除去方法を用いた残留溶剤の除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品に樹脂を付着させた樹脂加工品は、例えば、木綿等の繊維からなる手袋本体にポリウレタン樹脂でコーティングした防水手袋等が知られている。
【0003】
ポリウレタン樹脂の付着は、浸漬等の方法によって手袋本体にポリウレタン樹脂を付着させ、その後に所定の乾燥を行って定着させている。
【0004】
しかしながら、定着したポリウレタンには溶剤たる有機溶剤が高濃度で残留している場合が多かった。
【0005】
このため、同ポリウレタンを付着させた防水手袋を使用した者が、手荒れ等の皮膚障害を生じる恐れがあった。
【0006】
そして、国外、特にヨーロッパ圏においては、残留溶剤の残留量を規制する動きが見られ、同残留溶剤を除去することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−116840号公報(第1〜6頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、国外における残留溶剤の残留量規制を考慮し、同残留量規制が国内で実施された際にもスムーズな対応ができるようにするため、残留溶剤を除去する方法の確立のため実験を重ねた。
【0009】
その結果、本体基材に樹脂を定着させた樹脂加工品の少なくとも樹脂加工部に対し水蒸気あるいは過熱水蒸気を所定時間当てることで、樹脂加工部の樹脂に残留する溶剤を同樹脂加工品の使用者に対し皮膚障害等の影響が出ないレベルまで除去できることを発見した。
【0010】
すなわち、本発明は、樹脂加工品、主に物品に樹脂を付着させた樹脂加工品の同樹脂に残留する溶剤の除去方法と、この除去方法を用いた残留溶剤の除去装置を提供できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明に係る樹脂加工品における残留溶剤の除去方法は、樹脂加工品に対し水蒸気もしくは過熱水蒸気を所定の時間接触させ、樹脂加工品の樹脂に残留する溶剤を除去するものとしてある。
【0012】
また前記樹脂加工品は、本体基材に樹脂を定着させたものであって、同樹脂加工品の少なくとも樹脂加工部の樹脂に残留する溶剤を除去するものとしてある。
【0013】
そして、前記本体基材は繊維素材からなるものであり、また前記本体基材が手袋であるものとしてある。
【0014】
また、前記手袋の内部に、水蒸気もしくは過熱水蒸気を所定の時間噴射してなるものとしてある。
【0015】
本発明に係る樹脂加工品における残留溶剤の除去方法を用いた残留溶剤の除去装置は、少なくとも、水蒸気もしくは過熱水蒸気を発生させる蒸気発生手段と、蒸気を被処理体に噴射する噴射手段と、被処理体をセットする処理体セット部より構成したものとしてある。
【0016】
また、前記処理体セット部を、少なくとも手袋をセットできるように構成したものとしてある。
【0017】
さらに、前記手袋の内部に、水蒸気もしくは過熱水蒸気を所定の時間噴射するように構成したものとしてある。
【0018】
また、前記蒸気の噴射を終えた後、所定の後処理用エアを被処理体に噴射して同被処理体を乾燥するものとしてある。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る樹脂加工品における残留溶剤除去方法によれば、樹脂加工品の少なくとも樹脂加工部の樹脂に水蒸気もしくは過熱水蒸気を所定時間接触させることで、同樹脂に残留する溶剤を除去することができる。
【0020】
したがって、樹脂加工製品の樹脂に残留する溶剤(有機溶剤)による使用者における皮膚障害等の発生を防ぐことができるので、例えば、使用者は手荒れ等に悩ませられることなく樹脂加工が行われた製品を安心して使用できる。
【0021】
そして、国外における残留溶剤の残留量規制が国内に導入された際も、同規制への対応をスムーズに行うことができるので、企業の生産活動に支障を生じさせる恐れを極めて低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る残留溶剤除去装置の一例を示す概略構成図。
【図2】残留溶剤の除去処理状態の一例を示した概略透視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る樹脂加工品における残留溶剤除去方法は、樹脂加工品に対し水蒸気もしくは過熱水蒸気を所定の時間接触させることによって同樹脂加工品の樹脂に残留する溶剤を除去する方法である。
以下、同方法を用いた残留溶剤の除去装置を添付図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本発明の残留溶剤除去方法を用いた残留溶剤の除去装置の一例を示している。
本実施例においては、前記樹脂加工品として、本体基材が繊維素材からなる手袋に樹脂を定着させたものを使用する。
【0025】
除去装置には、少なくとも、蒸気発生部1、噴射部2、処理体セット部3を備えているとともに、残留溶剤の除去処理を終えた後、少なくともとも温度調整を行った乾燥などの後処理用エアを被処理体に噴射して、同被処理体を乾燥するための乾燥用エア発生部4も備えている。
【0026】
蒸気発生部1は、例えば、ボイラ1aから構成され、発生させた処理用蒸気5たる水蒸気もしくは過熱水蒸気を送気管6によって噴射部2の噴射ノズル2aに供給している。
【0027】
また、処理用蒸気5の供給を制御する所定の開閉弁7を、蒸気発生部1と噴射部2の間に、例えば送気管6の途中に配設している。
【0028】
実施例に示した除去装置は、樹脂コーティングを行った木綿手袋用に構成しているので、噴射部2の噴射ノズル2aが被処理体たる木綿手袋をセットする処理体セット部3を兼用している。
【0029】
したがって、図2に示すように、木綿手袋8は開口9から噴射ノズル2aに被せられてセットされる。
【0030】
そして、所定の起動操作により、蒸気発生部1から供給された処理用蒸気5が噴射ノズル2aから噴射され、木綿手袋8にコーティングしている樹脂10に残留する残留溶剤を除去していく。
【0031】
以下に、財団法人産業保健協会にて、本発明の残留溶剤除去方法を用いてN,N−ジメチルホルムアミド残留溶剤の除去試験を行った結果を示す。
また、除去試験は以下の条件にて試料1、試料2として2回実施した。
【0032】
除去試験に用いた試験サンプルは、木綿100%で厚み約1mmのメリヤス生地の本体基材に、ポリウレタンの0.2〜0.5mm厚のポーラス状発泡層をディッピングしてなる二重構造の手袋を用い、この手袋の開口9(図2参照)内に噴射ノズル2aを挿入して摂氏160度の処理用蒸気5を30秒間噴射した。
【0033】
そして、この手袋における「中指先」「手の平」「親指の付け根」の各部分を10mm×10mm寸法に切断してこの3片を検査用の試料とし、ガスクロマトグラフィーで測定した各部分の樹脂に残留する溶剤の濃度と、残留溶剤を除去させる前に同ガスクロマトグラフィーで測定した同各部の樹脂に残留する溶剤の濃度とを比較した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
試験結果は、上記表1に示すように、手袋における「中指先」「手の平」「親指の付け根」の各部分において残留溶剤の濃度が顕著に減少することを確認することができた。
【0037】
上記除去試験では、試験サンプルとして本体基材が繊維からなる手袋の樹脂加工品を使用したが、樹脂だけで製作した樹脂加工品においてもほぼ同等の試験結果が得られた。
【0038】
実施例における図1中の符号11は、蒸気発生部1からの処理用蒸気5と乾燥用エア発生部4からの乾燥などの後処理用エア(図示は省略)を切り替えるための切り替え弁、符号12は、送気管6内の水分を排出するためのドレン弁である。
【符号の説明】
【0039】
1 蒸気発生部
1a ボイラ
2 噴射部
2a 噴射ノズル
3 処理体セット部
4 乾燥用エア発生部
5 処理用蒸気
6 送気管
7 開閉弁
8 木綿手袋
9 開口
10 コーティングされた樹脂
11 切り替え弁
12 ドレン弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂加工品に対し水蒸気もしくは過熱水蒸気を所定の時間接触させ、同樹脂加工品の樹脂に残留する溶剤を除去する残留溶剤の除去方法。
【請求項2】
前記樹脂加工品は、本体基材に樹脂を定着させたものであって、同樹脂加工品の少なくとも樹脂加工部の樹脂に残留する溶剤を除去する請求項1に記載の残留溶剤の除去方法。
【請求項3】
前記本体基材が繊維素材からなる請求項2に記載の残留溶剤の除去方法。
【請求項4】
前記本体基材が手袋である請求項2に記載の残留溶剤の除去方法。
【請求項5】
前記手袋の内部に、水蒸気もしくは過熱水蒸気を所定の時間噴射してなる請求項4に記載の残留溶剤の除去方法。
【請求項6】
少なくとも、水蒸気もしくは過熱水蒸気を発生させる蒸気発生手段と、蒸気を被処理体に噴射する噴射手段と、被処理体をセットする処理体セット部より構成してなる残留溶剤の除去装置。
【請求項7】
前記処理体セット部を、少なくとも手袋をセットできるように構成してなる請求項6に記載の残留溶剤の除去装置。
【請求項8】
前記手袋の内部に、水蒸気もしくは過熱水蒸気を所定の時間噴射するように構成してなる請求項7に記載の残留溶剤の除去装置。
【請求項9】
前記蒸気の噴射を終えた後、所定の後処理用エアを被処理体に噴射して同被処理体を乾燥してなる請求項6に記載の残留溶剤の除去装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−127255(P2011−127255A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287840(P2009−287840)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(390027454)協全商事株式会社 (13)
【Fターム(参考)】