説明

樹脂及びシート

【課題】
本発明は、炭化水素系樹脂またはそのシ−トに対し、無機材料、例えばガラス板等との効率的で安定な接着性を工業的に有利な方法で付与させる方法を提供し、さらに無機材料、例えばガラス板等への接着性が優れた樹脂またはそのシートを提供することである。
【解決手段】
炭化水素系樹脂に対し、アミノ基含有シランカップリング剤をラジカル開始剤の存在下でグラフト処理することで、無機材料、特にガラスとの接着性に優れた樹脂またはそのシートを提供することができ、例えば太陽光発電装置の封止材、液晶やEL表示、発光装置の封止、接着用樹脂として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物、例えばガラス板、ガラス繊維や無機フィラ−との接着性、充填性に優れる炭化水素系樹脂及びそのシートである。
【背景技術】
【0002】
炭化水素系樹脂及びそのシ−トは、無機物、例えばガラス板との接着性が乏しく、効率的な接着性向上法が求められてきた。
【0003】
従来、EVA系樹脂やポリオレフィン系樹脂にシラン系カップリング剤を添加し混練及び架橋を行ってシラン変性する方法(特許文献1〜4)が提案されているが、用いられているビニルシラン類やメタクリロキシシラン類では接着力は十分とは言えない。さらに、樹脂自身をエポキシあるいはカルボン酸変性することでシランカップリング剤との相互作用を増大させ、接着力を付与する方法(特許文献5、6)が提案されているが、樹脂の変性に手間がかかるという課題がある。
【0004】
【特許文献1】特公昭62−14111号公報
【特許文献2】特開2004−214641号公報
【特許文献3】特開2006−36875号公報
【特許文献4】特開2007−318008号公報
【特許文献5】特開2002−235049号公報
【特許文献6】特開2002−235047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、炭化水素系樹脂及びそのシ−トと無機物、例えばガラス板等との効率的で安定な接着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
炭化水素系樹脂に対し、アミノ基含有シランカップリング剤をラジカル開始剤の存在下でグラフト処理することを特徴とする無機材料との接着性に優れた樹脂及びそのシートである。
【発明の効果】
【0007】
炭化水素系樹脂に対し、アミノ基含有シランカップリング剤をラジカル開始剤の存在下でグラフト処理することで、無機材料、特にガラスとの接着性に優れた樹脂またはそのシートを得ることができ、例えば太陽光発電装置の封止材、液晶やEL表示、発光装置の封止、接着用樹脂として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、炭化水素系樹脂に対し、アミノ基含有シランカップリング剤をラジカル開始剤の存在下でグラフト処理することを特徴とする、無機材料との接着性に優れた樹脂またはそのシートである。本発明におけるシ−トはフィルムの概念を包含し、その厚さに特に制限はなく、一般的には1μmから3mmの範囲である。
【0009】
本発明において炭化水素系樹脂とは、実質的にオレフィン及び/または炭化水素系ビニル化合物モノマーから得られる樹脂である。すなわち、オレフィン及び/または炭化水素系ビニル化合物モノマーから誘導されるユニットの合計質量が樹脂全体の質量の90質量%以上、好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上占める樹脂を示す。本樹脂の製造方法は任意である。ここでオレフィンとは、エチレン、炭素数3〜20のα−オレフィン、炭素数4〜20の環状オレフィンである。また、本明細書においては炭素数4〜20のジオレフィンもオレフィンの範疇に含まれる。
【0010】
炭化水素系ビニル化合物とは、炭素数8〜20の芳香族ビニル化合物や、炭素数6〜20の環状ビニル化合物である。炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が例示でき、炭素数4〜20の環状オレフィンとしては、シクロペンテン、シクロブテン、ノルボルネンやその誘導体が例示でき、炭素数4〜20のジオレフィンとしては、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、ノルボルナジエン、ビニルシクロヘキセン等が例示できる。炭素数8〜20の芳香族ビニル化合物としては、スチレンおよび各種の置換スチレン、例えばp−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、o−t−ブチルスチレン、m−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等が挙げられる。工業的には好ましくはスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、特に好ましくはスチレンが用いられる。炭素数6〜20の環状ビニル化合物としては、ビニルシクロヘキサンやビニルシクロブタンが挙げられる。
【0011】
本発明において炭化水素系樹脂とは、好ましくは、エチレン重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−芳香族ビニル化合物共重合体が用いられ、最も好ましくはエチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−芳香族ビニル化合物共重合体が用いられる。この様な重合体または共重合体としては、好ましい例として高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−スチレン共重合体等が示される。
【0012】
次いで、オレフィン及び/または炭化水素系ビニル化合物モノマーと極性モノマー共重合体の範疇であってもオレフィン及び/または炭化水素系ビニル化合物モノマーから誘導されるユニットの含量が上記条件を満たす樹脂であれば用いることが出来る。ここで極性モノマーとは、酸素、窒素等の、炭素や水素以外の元素を含むモノマーである。本オレフィンと極性モノマー共重合体としては例えばエチレンとビニルエステル、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルの共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸エステル、例えばアクリル酸メチル,アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸ジメチル等の共重合体、またはエチレンと不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸との共重合体、さらにはその金属塩との共重合体が例示される。
【0013】
エチレン−芳香族ビニル化合物共重合体としてはエチレンとスチレンの共重合体が好ましい。本発明に用いられるエチレンと芳香族ビニル化合物の共重合体としては、EP0416815A2、JP3659760、EP872492B1公報記載の共重合体が例示できる。エチレン−芳香族ビニル化合物共重合体として最も好ましくはクロス共重合体が用いられる。クロス共重合体とは配位重合により得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体及び芳香族ビニル化合物モノマーの共存下でアニオン重合を行うことにより得られる共重合体であり、オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体鎖(主鎖と記載される場合もある)と芳香族ビニル化合物重合体鎖(側鎖と記載される場合もある)を有する共重合体である。本クロス共重合体及びその製造方法はWO2000-37517、USP6559234、またはWO2007-139116に記載されており、芳香族ビニル化合物とオレフィンモノマーから誘導されるユニットの含量が全体の共重合体質量の70質量%以上、好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上占めるクロス共重合体を示す。本発明に用いられるクロス共重合体では、芳香族ポリエンから誘導されるユニットの含量は好ましくは共重合体質量の5質量%未満0.01質量%以上、さらに好ましくは1質量%未満0.01質量%以上である。ここで芳香族ポリエンとは、10以上30以下の炭素数を持ち、複数の二重結合(ビニル基)と単数または複数の芳香族基を有し配位重合可能なモノマーであり、二重結合(ビニル基)の1つが配位重合に用いられて重合した状態において残された二重結合がアニオン重合可能な芳香族ポリエンである。好ましくは、オルトジビニルベンゼン、パラジビニルベンゼン及びメタジビニルベンゼンのいずれか1種または2種以上の混合物が好適に用いられる。本発明においては好ましくはオレフィンがエチレンであり、芳香族ビニル化合物がスチレンであり、芳香族ポリエンがジビニルベンゼンであるクロス共重合体が用いられる。すなわち、主鎖がエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体であり、かつ側鎖がポリスチレン鎖であるクロス共重合体が最も好ましく用いられる。
【0014】
本発明における無機材料とは、ガラス、セラミックス、金属等が挙げられるが、特に好ましくはガラスである。ガラスとしては、粉末状、繊維状、板状等の形態は任意であるが、好ましくは板状のガラスである。
【0015】
炭化水素系樹脂に対し、アミノ基含有シランカップリング剤をラジカル開始剤の存在下でグラフト処理する方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、炭化水素系樹脂にシランカップリング剤を添加し、少なくともラジカル開始剤の存在下、加熱、混練を行う。加熱混練はラジカル開始剤が実質的に分解する温度と時間で行う。本混練方法やその条件は通常樹脂に添加剤を添加、混練するための公知の方法を用いることができる。工業的には例えば二軸押し出し機やバンバリ式の混合機、ロール成形機等を用いることが出来る。混練はラジカル開始剤が実質的に分解を完了する温度と時間を選択する。
また、炭化水素系樹脂からなるシ−トにシランカップリング剤及びラジカル開始剤を塗布する場合、任意の公知の方法を用いることが出来る。塗布方法として例えばグラビアコーティング法、ロールコーティング法あるいはディップコーティング法、噴霧法等公知の方法が例示できる。この際、カップリング剤は適当な溶媒に希釈して用いても、希釈せずに用いても良い。本手法の場合、塗布後ラジカル開始剤が実質的に分解を完了する温度と時間で加熱処理を行う。
【0016】
一般にシランカップリング剤とは分子内に官能基と加水分解縮合性基を有するシラン化合物である。本発明においては官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤を用いる。アミノ基は単数でも複数でもよく、また他の官能基を有してもよい。加水分解縮合性基としてはメトキシ基、エトキシ基、イソプロピキシ基等のアルコキシ基やアセトキシ基が例示できる。官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤の具体例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルエチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)アミン、N−(n−ブチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのカップリング剤は1種または2種以上を用いることができる。
以上は加水分解縮合性基としてメトキシ基、エトキシ基を有する例であるが、トリイソプロポキシ基やアセトキシ基も使用できる。
シランカップリング剤の使用量に特に制限はないが、樹脂に混練等で添加する場合、一般的には樹脂に対し0.05質量%〜10質量%の範囲で用いられる。塗布する場合、一般的に0.1g/m〜20g/mの範囲で用いられる。
【0017】
本発明に用いられるラジカル開始剤は公知のラジカル開始剤である。例えば過酸化物系(パ−オキサイド)、アゾ系重合開始剤等用途、条件に応じて自由に選択することが出来る。
そのような例は、日本油脂カタログ有機過酸化物organic peroxides第10版がhttp://www.nof.co.jp/business/chemical/pdf/product01/Catalog_all.pdfからダウンロ−ド可能である。和光純薬社カタログ等にも記載されている。本発明に用いられる硬化剤はこれらの会社より入手することが出来る。また公知の光、紫外線、放射線、あるいは電子線に感応する硬化剤を用いることも出来る。
ラジカル開始剤の使用量に特に制限はないが、樹脂に混練等で添加する場合、一般的には樹脂に対し0.1質量%〜3質量%の範囲で用いられる。塗布する場合、一般的に0.1g/m〜10g/mの範囲で用いられる。
【0018】
本発明においては、ラジカル開始剤によるグラフト反応の効率を上げるために必要に応じて架橋助剤をさらに添加または塗布することができる。使用できる架橋助剤は公知の架橋助剤であり、例えばトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、N,N’−フェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの架橋助剤は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。架橋助剤を配合する場合、その含有量に特に制限はないが、通常、合計質量に対して0.01〜5質量%の範囲であるのが好ましい。
【0019】
本発明に置いて、炭化水素系樹脂にシランカップリング剤、ラジカル開始剤及びその他の添加物を添加、混練する方法は通常樹脂に添加剤を添加するための公知の方法を用いることができる。工業的には例えば二軸押し出し機やバンバリ式の混合機、ロール成形機等を用いることが出来る。
本発明の樹脂またはそのシートは、無機材料特にガラスとの接着性が良好であるため、液晶、EL表示部材、EL発光装置の封止、接着用樹脂として有用である。以下、本発明の樹脂またはそのシートの好ましい用途である太陽光発電装置(太陽電池)の各種封止用部材について詳細に説明する。
【0020】
本発明の樹脂シートを太陽光発電装置(太陽電池)の各種封止用部材、特に封止用シートとして用いる場合、その好ましい物性は、A硬度50以上95以下であり、全光線透過率は厚さ1mmのシートにおいて75%以上である。また、A硬度50以上95以下、さらに衝撃や変形からのシリコン結晶セル等の保護の関連からは、好ましくはA硬度50以上90以下である。
【0021】
本条件を満足するための好ましい炭化水素系樹脂は、エチレン−αオレフィン共重合体またはエチレン−芳香族ビニル化合物共重合体である。その密度は概ね0.86〜1.1g/cm3の範囲である。封止材として用いる場合、原料樹脂のMFR値(200℃、加重98N)は特に規定されることはないが、一般的に0.1g/10分以上300g/10分以下である。これより低いと封止の際、充填不良による空隙が発生しやすく、これより高いと耐熱性の不足、すなわち環境下における太陽電池セルや配線のクリ−プ現象が懸念される。本MFR値は、用いる樹脂の公知文献から当業者らは容易に推定することが可能で、また少量のオイルや可塑剤を添加することで調整することも出来る。
【0022】
本条件を満足するスチレン−エチレン共重合体は、スチレン含量5モル%以上40モル%以下の組成を有する。また、クロス共重合体は本発明に好適に用いることができる。本条件を満足するクロス共重合体は、例えばWO2007−139116号公報、特開2009−120792号公報、特開2010−150442号公報にその組成、製造法及び全光線透過率、A硬度が記載されているので、当業者らはこれらを参考に若干の試行を行うことで容易に製造することが出来る。具体的に本条件を満足するクロス共重合体は、芳香族ビニル化合物がスチレン、オレフィンがエチレンである場合、以下の条件を満たすことで達成することが可能である。例えば、クロス共重合体の製造に用いられるエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量が5モル%以上40モル%以下、ジビニルベンゼン含量が0.01モル%以上3モル%以下、重量平均分子量が3万以上15万以下、最終的に得られるクロス共重合体に占める本エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の質量割合が40質量%以上95質量%以下、好ましくは40質量%以上90質量%以下である。封止材として用いる場合、夏期直射日光にさらされる等の条件下で太陽光発電セルや配線を安定に保持するために相当の耐熱性が必要とされる。本封止材を用い、実質的に樹脂の架橋を行わず、熱可塑性を利用して封止を行う場合、好ましくは120℃における樹脂の貯蔵弾性率が1×10Pa以上、さらに好ましくは5×10Pa以上である必要がある。本貯蔵弾性率は、公知の粘弾性測定装置を用いて簡便に求めることが出来る。封止材として好ましいA硬度は50以上95以下、さらに衝撃や変形からのシリコン結晶セル等の保護の関連からはより軟質であることが求められ、好ましくはA硬度50以上90以下である。上記クロス共重合体は、熱可塑性樹脂でありながらこれら耐熱性と軟質性を満たすことが可能であり、本発明に最も好適に用いることが出来る。
【0023】
封止材として用いる場合、グラフト化処理した樹脂のMFR値(200℃、加重98N)は特に規定されることはないが、一般的に0.1g/10分以上300g/10分以下、好ましくは1g/10分以上100g/10分以下である。これより低いと封止の際、充填不良による空隙が発生しやすく、これより高いと耐熱性の不足、すなわち環境下における太陽電池セルや配線のクリ−プ現象が懸念される場合がある。本MFR値は、用いる樹脂の公知文献から当業者らは容易に推定することが可能で、また少量のオイルや可塑剤を添加することで調整することも出来る。本発明の樹脂シートを太陽光発電装置(太陽電池)の各種封止用部材、特に封止用シートとして用いる場合、信頼性確保の点から特にガラスとの接着性が重要である。浮動ローラー法剥離試験による90°剥離試験において、25N/25mm以上の剥離強度(接着強度)を示すことが好ましい。
太陽光発電装置(太陽電池)の封止用シートとして用いる場合、工程の簡略化の観点からは架橋は行わず、シート本体は実質的に熱可塑性であることが好ましい。本発明の樹脂及びシ−トは、樹脂とシランカップリング剤をラジカル開始剤存在下でグラフト処理を行った後においても、そのゲル分は好ましくは30%以下である。本ゲル分は、ASTM D−2765−84により求められる。
【0024】
本発明の樹脂またはそのシートは、配線用金属やシリコン、あるいはガラス等の無機材料との接着性が優れるため、太陽光発電装置(太陽電池)の封止材として好適に用いることが出来る。
本発明の樹脂シートを太陽光発電装置(太陽電池)の封止材として用いる場合、光エネルギーを無害な熱エネルギーに変換する紫外線吸収剤と光酸化で生成するラジカルを捕捉するヒンダードアミン系光安定剤から構成される耐光剤を配合する。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、蓚酸アニリド系、あるいはマロン酸エステル系が例示できる。紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の質量比は1:100〜100:1の範囲で、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の質量の合計量を耐光剤質量とし、その使用量は、樹脂質量100質量部に対し、0.05〜5質量部の範囲である。以上のような耐光剤は、例えば株式会社ADEKAよりアデカスタブLAシリーズとして、あるいは住化ケムテックス社よりスミソーブシリーズとして、入手することが出来る。
【0025】
本発明の樹脂あるいはそのシートを熱可塑性の太陽光発電装置用封止材として用いるには、封止材としての特性向上を目的として、必要に応じて下記「可塑剤」や「老化防止剤」を加える事ができる。
【0026】
<可塑剤>
本発明の樹脂あるいはそのシートには従来塩ビや他の樹脂に用いられる公知の任意の可塑剤を配合することが出来る。好ましく用いられる可塑剤はオイルまたは含酸素または含窒素系可塑剤であり、好ましくは、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、エ−テル系可塑剤、またはアミド系可塑剤から選ばれる可塑剤である。
【0027】
これらの可塑剤は、相溶性が比較的良好でブリ−ドし難く、またガラス転移温度が低下する度合いで評価できる可塑化効果も大きく、好適に用いることが出来る。
【0028】
可塑剤の配合量は、本発明の樹脂またはそのシート100質量部に対して、可塑剤1質量部以上20質量部以下、好ましくは1質量部以上10質量部以下である。1質量部未満では上記効果が不足し、20質量部より高いとブリ−ドや、過度の軟化、それによる過度のべたつきの発現等の原因となる場合がある。また可塑剤を配合することで、封止材の流動性を向上させることができる。特に用いられる樹脂のMFR値が低い場合、上記の範囲で可塑剤を添加することにより封止材として適当なMFR値に調整することが可能となる。
【0029】
<老化防止剤>
適当な老化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ビタミンE系熱安定剤、イオウ系熱安定剤等が挙げられる。その使用量は、樹脂組成物100質量部に対して3量部以下である。
【0030】
<フィルム、シ−ト>
本発明の樹脂からなるシ−トを太陽光発電装置の封止材用シ−トとして用いる場合、その厚みに特に制限はないが、一般に30μm〜1mm、好ましくは100μm〜0.5mmである。本発明の樹脂シ−トを製造するには、インフレーション成形、押し出し成形、Tダイ成形、カレンダ−成形、ロ−ル成形などの公知の成形法を採用することができる。
【0031】
<架橋>
本発明の樹脂シートからなる封止材は、封止工程の簡略化と太陽光発電装置のリサイクル性を考慮すると実質的に樹脂とシランカップリング剤のグラフト処理が好ましく、上記のように樹脂の架橋度は低いことが好ましい。しかしシ−ト自身へのより高度な耐熱性を要求される場合や封止後にはこれ以上の架橋処理を行うことも可能である。架橋処理は、一般には本熱可塑性封止材に架橋材、架橋助剤を添加し、架橋温度以下の条件でフィルム、シートを成形し、太陽電池セルの封止後に所定の架橋条件にて架橋を行う。本発明の熱可塑性封止材の熱可塑性は封止工程で溶融、流動により太陽電池セルを封止する工程で重要である。その後の架橋条件は、用いられる架橋材、架橋助剤により任意に決定される。本熱可塑性封止材に使用可能な架橋材、架橋助剤は、通常エチレン系樹脂、スチレン系樹脂やスチレン−エチレン共重合体に用いられるものであり公知である。好ましい架橋材、架橋助剤、架橋条件は例えば、特表平10−505621(WO96/07681)、特開平08−139347号公報、特開2000−183381号公報に記載されている。このような架橋処理を行った本発明の封止材はリサイクル性という使用のメリットは無くなるが、高い水蒸気バリア性(低い水蒸気透過率)、高い体積抵抗率、及び酢酸等の腐食性物質を遊離しない点は、太陽電池の信頼性向上の面から有利である。
【0032】
本封止材を用いた太陽電池としては、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系、化合物系、有機系の各形式の太陽電池が挙げられる。薄膜太陽電池等、太陽電池セルが表面ガラスに密着し、封止材に透明性が求められない形式においても、高い水蒸気バリア性(低い水蒸気透過率)、高い体積抵抗率、及び酢酸等の腐食性物質を遊離しない点は、太陽電池の信頼性向上の面から有利である。本発明の樹脂あるいはその樹脂からなるシートには、他に、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、通常の樹脂に用いられる添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤、着色剤、滑剤、防曇剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤等を添加しても良い。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により、本発明を説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0034】
<原料樹脂>
実施例、比較例に用いた原料樹脂は以下の通りである。
下記クロス共重合体は、WO2000/37517、またはWO2007139116号公報記載の製造方法で製造したもので、下記組成は、同様にこれら公報記載の方法で求めた。これらのクロス共重合体は配位重合により得られるエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体とスチレンモノマーの共存下でアニオン重合を行うことにより得られる、エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖を有する共重合体である。以下、クロス共重合体を規定するために、用いられるエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量、ジビニルベンゼン含量、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、クロス共重合体中のエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の含量、ポリスチレン鎖の分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を示す。また、全スチレン含量は、クロス共重合体に含まれるエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖に含まれるスチレン含量を合計した含量である。
【0035】
<クロス共重合体1>
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量25モル%、ジビニルベンゼン含量0.035モル%、Mw=90000、Mw/Mn=2.3
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の含量67質量%、
ポリスチレン鎖のMw=44000、Mw/Mn=1.2
全スチレン含量70質量%、
<クロス共重合体2>
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量15モル%、ジビニルベンゼン含量0.040モル%、Mw=70000、Mw/Mn=2.2、
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の含量67質量%、
ポリスチレン鎖のMw=35000、Mw/Mn=1.2
全スチレン含量60質量%
<クロス共重合体3>
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量24モル%、ジビニルベンゼン含量0.030モル%、Mw=115000、Mw/Mn=2.2
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の含量77質量%、
ポリスチレン鎖のMw=26000、Mw/Mn=1.2
<エチレン−スチレン共重合体1>
スチレン含量41質量%(16モル%)、Mw=120000、Mw/Mn=2.2
上記エチレン−スチレン共重合体はJP3659760号公報記載の製造方法で製造した。
<LLDPE(直鎖低密度ポリエチレン)1>
ダウケミカル社製AFFINITY PL1880 密度0.902g/cm3
【0036】
<シランカップリング剤>
以下の信越化学工業社製シランカップリング剤を用いた。
3−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE−903)
3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−903)
N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM−602)
ビニルトリメトキシシラン
さらに、以下のエボニック社製シランカップリング剤を用いた。
ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミン
【0037】
<ラジカル開始剤>
パ−クミルD:(日本油脂株式会社製)
パーヘキサ25B:(日本油脂株式会社製)
【0038】
<引張試験>
JIS K−6251に準拠し、得られたフィルムを2号1/2号型テストピース形状にカットし、島津製作所AGS−100D型引張試験機を用い、引張速度500mm/minにて初期引張弾性率、破断点伸び、破断強度を測定した。
【0039】
【表1】



【0040】
<混練法>
ブラベンダ−プラスチコ−ダ−(ブラベンダ−社製PL2000型)を使用し、樹脂と添加物の合計約45gを180℃、100rpm、5分間混練し樹脂組成物を作製した。
【0041】
<シート作成>
サンプルシートは加熱プレス法(温度180℃、時間3分間、圧力50kg/cm2)により成形した厚さ0.4mmのシ−トを用いた。
【0042】
<ガラスとの圧着>
幅25mm、長さ60mmのガラス板の表面をアセトンで洗浄し、よく乾燥させた。
シ−トを幅25mm、長さ60mmにカットし、気泡が入らないようにガラス板上に密着させた。その後、加熱オーブン内で0.03MPaの荷重をかけ、160℃、15分間圧着させた。
【0043】
<接着強度測定>
島津製作所AGS−100D型引張試験機を用い、浮動ローラー法にて90°剥離条件下、引張速度100mm/minにて測定した。A硬度70以下の原料樹脂を用いる場合、本試験中、樹脂シートの伸びや早期の破断(材料破壊)を防ぐ目的でガラスに圧着した樹脂シートに補強用テープを貼り付けて測定した。
【0044】
<実施例1>
クロス共重合体1に対し、株式会社ADEKA製耐候剤LA−52、LA−36各0.2質量部、酸化防止剤としてチバ・ジャパン社製イルガノックス1076を0.1質量部添加し、さらに、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−903)1質量部、パ−クミルD0.1質量部を添加し、
上記のようにブラベンダーを用いて混練し、グラフト処理を行った。得られたグラフト物を上記加熱プレス法にて0.4mm厚さのシ−トを作成した。得られたグラフト物のMFR値(200℃、98N)は1g/10分以上100g/10分の範囲であった。
上記にしたがってガラスとの圧着をおこなった。翌日、接着強度測定を行ったところ、接着強度が高くシ−ト樹脂の材料破壊となった。材破に至る際に測定された接着強度は35N/25mm以上であった。
【0045】
<実施例2〜10>
実施例1と同様に、但し、樹脂シ−ト、シランカップリング剤を変えて試験を行った。試験条件及び結果を表2に示す。また、本実施例1〜10で得られたグラフト物のゲル分をASTM D−2765−84に従い求めたが、いずれも10質量%以下であった。
【0046】
<比較例1〜5>
実施例と同様に、ただしシランカップリング剤を添加せず、またはシランカップリング剤を添加しラジカル開始剤を添加せず、または本発明の範囲外のシランカップリング剤を用いガラスとの接着試験を行った。
【0047】
<実施例8>
実施例1と同様にして得られた試験片を恒温恒湿装置にて温度85℃、湿度85%の条件下で500時間放置した後に同様に接着強度の測定を行ったところ、35N/25mm以上の接着強度を示し材料破壊となり、実質的に同等の接着強度を示した。
【0048】
【表2】



【0049】
以上の結果より、クロス共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−スチレン共重合体にアミノ基含有シランカップリング剤をラジカル開始剤の存在下でグラフト処理することで、ガラスとの接着性が著しく増加することが示される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系樹脂にアミノ基含有シランカップリング剤をラジカル開始剤の存在下でグラフト処理することを特徴とする樹脂。
【請求項2】
炭化水素系樹脂がエチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−芳香族ビニル化合物共重合体から選ばれる樹脂であることを特徴とする請求項1記載の樹脂。
【請求項3】
エチレン−芳香族ビニル化合物共重合体が芳香族ビニル化合物とエチレンからなるクロス共重合体であることを特徴とする請求項2記載の樹脂。
【請求項4】
ラジカル開始剤が過酸化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の樹脂を用いたシート。
【請求項6】
請求項5記載のシートを用いた封止材。
【請求項7】
請求項6記載の封止材を構成要素として含む太陽光発電装置。


【公開番号】特開2012−92197(P2012−92197A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239507(P2010−239507)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】