説明

樹脂封止シート

【課題】従来の樹脂封止シートの特徴である透明性、接着性、耐クリープ特性を維持したまま、安価に、かつ、シート幅方向のばらつきが少ない樹脂封止シートの製造方法を提供する。また、従来問題とされている残留有機過酸化物の問題やその分解による太陽電池セル等の他の部材に対する悪影響、真空ラミネートの真空機械に酢酸等の揮発成分による機械へのダメージ等の問題を解決することができる樹脂封止シートの製造方法を提供する。
【解決手段】有機過酸化物の架橋剤を含まない密度0.860〜0.930g/cmのポリエチレン系ポリマーを、環状ダイを用いて製膜する工程、及び電離性放射線で照射する工程を含む太陽電池用樹脂封止シートの製造方法であって、電離性放射線を照射した後の前記ポリマーのゲル分率が2−65wt%である製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂封止シートに関する。本発明の樹脂シートは環状ダイを使用して製膜することが特徴であり、従来の樹脂封止シートの特徴である透明性、接着性、耐クリープ特性を維持したまま、安価に、かつ、シート幅方向のばらつきが少ない樹脂封止シートを作製できる。また、従来使用されている有機過酸化物を使用した樹脂架橋に比べ、本発明では電離性放射線を架橋反応に使用することで、従来問題とされている残留有機過酸化物の問題やその分解物による太陽電池セル等の他の部材に対する悪影響、真空ラミネートの真空系機械部品に対する酢酸等の揮発成分によるダメージ等を低減できる。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な温暖化現象により環境に対する意識が高まり、炭酸ガス等の温暖化ガスを発生しない新しいエネルギーシステムが関心を集めている。太陽電池発電や風力発電等の環境にやさしい再生可能なエネルギーは炭酸ガス等の温暖化を誘発するといわれているガスを排出しないため、クリーンなエネルギーとして研究開発が盛んに行われており、なかでも安全性や扱いやすさより太陽電池発電が家庭用エネルギー源だけでなく、産業用エネルギーとして注目を浴びている。資源に乏しい日本では各家庭の消費電力をまかなうため、屋根に太陽電池発電システムを乗せて電気を発電し、家庭用電力と消費し、余剰の電力を売電したりすることが近年、盛んになってきている。なかでもドイツを中心としたヨーロッパでは家庭用のみならず、広大な敷地に太陽電池を配して大規模発電をして、産業用電力としても、投資の対象としても注目されている。
【0003】
この様に注目されている太陽電池には、いろいろな発電方式があり、代表的な発電方法としては単結晶もしくは多結晶のシリコンセル(結晶系シリコンセル)を用いたものやアモルファスシリコンを用いたものや化合物半導体を用いたもの(薄膜系セル)等が挙げられるが、いずれの発電方法を用いても、かなりの長期間、屋外で風雨にさらされるため、発電部分を長期にわたって保護する目的でガラス板やバックシート等で貼り合せをしてモジュール化することによって、外部より水分の流入を防止し、発電部分の保護、漏電防止等の対策を施して、長期にわたって安定したモジュールの保護を達成している。長期間、発電部分を保護する構造は一般的に発電面には発電に必要な光源を透過する必要があるため、透明なガラスや透明樹脂を使用し、非発電面はバックシートといわれるアルミ箔、フッ化ポリビニル樹脂(PVF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やそのシリカ等のバリアーコート加工の積層シートを使用する。モジュール化は発電部分を樹脂封止シートで挟んだ後、ガラスやバックシートでさらに外部を被覆して樹脂封止シートを高温にすることで樹脂封止シートを溶融し、すべてを一体化封止(モジュール化)する。
【0004】
このような樹脂封止シートは<1>ガラス、発電部分、バックシートとの接着性、<2>高温状態での樹脂封止シートの溶融に起因する発電部分の流動防止(耐クリープ性)<3>太陽光を阻害しない透明性等が要求特性として挙げられる。通常、樹脂封止シートはエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)に紫外線劣化対策として耐光剤や紫外線吸収材、ガラスとの接着性向上のためカップリング剤、架橋のため有機過酸化物等の添加剤を配合し、カレンダー成形やTダイキャストにより製膜されて供給される。単結晶や多結晶シリコンセルを用いた太陽電池モジュールでは、ガラス/樹脂封止シート/結晶系シリコンセル等の発電部分/樹脂封止シート/バックシートの順で重ね合わせ、ガラス面を下にして専用の太陽電池真空ラミネーターを用いて、用いられる樹脂の溶融温度以上(EVAの場合は150℃の温度条件)で余熱工程とプレス工程を経て、樹脂封止シートを溶融させて貼り合わせるのである。この際、最初の余熱工程で樹脂封止シートの樹脂が溶融し、プレス工程で溶融した樹脂に接着する部材が接触して真空ラミネートされるのである。ラミネート工程では(i)樹脂封止シートに含有している有機過酸化物がその温度によって分解し、EVAの架橋を促進させ、(ii)樹脂封止シートに含有しているカップリング剤が接触している部材と共有結合して部材との接着性を向上させることで、高温状態での樹脂封止シートの溶融に起因する発電部分の流動を防止(耐クリープ性)し、ガラス、発電部分、バックシートとの接着性を向上させているのである。また、樹脂封止シートは長期によって太陽光に暴露するため、樹脂の劣化による光学特性の低下を防止する観点で耐光剤等の添加剤を配合する。これによって長期にわたる太陽光を阻害しないレベルの透明性を維持できるのである。
【0005】
例えば、特許公報特開昭58−60579号公報(特許文献1)には架橋剤として有機過酸化物を含有し、Tダイより樹脂を溶融し、押出して製膜する樹脂封止シートが開示されている。
【0006】
この樹脂封止シートは、太陽電池を構成する部材を積層して真空ラミネーターで積層体を一体化する(モジュール化)際に、有機過酸化物を使用して真空ラミネートのラミネート温度を利用して架橋する点で優れている。
【0007】
また、特許公報特開2000−84967号公報(特許文献2)には架橋剤として有機過酸化物を含有し、カレンダー製膜方法より製膜する封止シートが開示されている。
【0008】
この樹脂封止シートは、特許文献1と同様の技術をカレンダー製膜方法にて作製し、特許文献1と同様の優れた樹脂封止シートが開示されている。カレンダー製膜装置は数本のロールによりできており、ロールの回転によって溶融樹脂にいわゆるずり変形を与え、押し伸ばして、シート状製品を作る方法である。カレンダー製膜方法は膜厚精度の高いシートを製造できる点で優れている。
【0009】
さらに、特許公報特開平6−334207号公報(特許文献3)には電子線照射によって架橋された有機高分子樹脂封止シートがアモルファスシリコン太陽電池に積層したモジュールが開示されている。この有機高分子樹脂封止シートにはエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)やエチレン−メチルアクリレート(EMA)共重合体等が挙げられ、これらに熱酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、シランカップリング剤を配合し、スリットから押出成形をすることでシート成形している。この樹脂封止シートを、発電部分やバックシートと150℃にて真空ラミネートし、作製したモジュールの受光面より加速電圧500kVで照射線量300kGyにて照射して架橋処理をするか、予め電子線照射して架橋処理をしてある樹脂封止シートを用いることで、耐クリープ性・耐候性に優れた太陽電池モジュールを提供できるとある。
【0010】
【特許文献1】特開昭58−60579号公報
【特許文献2】特開2000−84967号公報号公報
【特許文献3】特開平6−334207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、従来の開示されている公報でTダイ製膜方法やカレンダー製膜方法で有機過酸化物を添加したエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)に代表されるエチレンビニル共重合体樹脂封止シートが開示され、夏場の太陽にさらされ太陽電池モジュールが高温状態になった場合に樹脂封止シートが流動することを防止(耐クリープ性)することができるのであるが、有機過酸化物の未反応物が樹脂封止シート内に残留する問題や有機過酸化物が樹脂を架橋する際の反応で生産される酢酸によって真空系に腐食等のダメージを生じる問題等が残されている。
【0012】
特に特許文献1においてはTダイを使用した製膜方法であり、この製膜方法では、Tダイ内の滞留部が多く、特にシート幅方向においては、Tダイ内の温度履歴や滞留時間がシート中心部と違うため、添加剤の性能のばらつきや、シートの膜厚に関するばらつきの問題も残されている。また、製膜時においては所望のシート幅に合わせてダイの交換を頻繁に行う必要があり、様々な大きさのTダイを準備する等の煩雑な作業や設備の準備や工程管理等が必要であるなどの問題が残されている。
【0013】
また、特許文献2においては、カレンダー製膜方法では樹脂の溶融粘度が製膜方法に対してかなり影響するため、使用できる樹脂が限られる上、多層構成のシートを製膜することができない等の問題も残されている。
【0014】
さらに、特許文献3においては実施例の条件として加速電圧300〜500kV、照射線量300kGyと開示されているが、これらの条件では、照射処理後の樹脂封止シートのゲル分率は85%以上とかなり高くなるため、樹脂封止シートの流動性は阻害される。また、耐クリープ性に優れている一方で、電子線照射処理が受光面より行われるため、発電部分が単・多結晶シリコンセルの場合、電子線がシリコンセルの裏面まで到達できず、樹脂封止シートが架橋されない場所ができてしまう。そのため、高温環境においてはモジュール内の樹脂封止シートには部分的に不均一なゲル分率が存在してしまい、安定してシリコンセルを保持することが不可能な場合がある。さらに肝心な発電部分が流動してしまう問題も残されている。また、真空ラミネートする前にこのような照射条件で電子線照射処理をした樹脂封止シートを使用した場合、太陽電池用ガラス自身に形成された凹凸や配線や発電セルの厚さから生じる凹凸を、樹脂封止シートで確実に隙間なく封止することができず、結果としてラミネート条件を変更する必要がある。多くの場合、ラミネート温度を約30℃高くする必要があり、発電部分に過剰なダメージを与え発電効率を低下させてしまう場合がある。
【0015】
本発明は樹脂封止シートに関する。本発明の樹脂シートは環状ダイを使用して製膜することが特徴であり、従来の樹脂封止シートの特徴である透明性、接着性、耐クリープ特性を維持したまま、安価に、かつ、シート幅方向のばらつきが少ない樹脂封止シートを提供することである。また、従来使用されている有機過酸化物を使用した樹脂架橋に比べ、本発明では電離性放射線を架橋反応に使用することにより、従来問題とされている残留有機過酸化物の問題やその分解物による太陽電池セル等の他の部材に対する悪影響、真空ラミネートの真空系機械部品に対する酢酸等の揮発成分によるダメージ等の問題を解決することである。
【0016】
樹脂封止シートに使用する樹脂を押出機にて溶融して環状ダイに樹脂を導入し、すぐさま吹き出してシート化する。これにより設備的には安価な設備で高速に製膜ができる上、様々な種類や密度やMFR等の物性の違う樹脂を用いることができ、しかもTダイ製膜方法やカレンダー製膜方法時のシート端面部等のスリットロスを最小限にできるため、効率的な生産が可能である。また電離性放射線を照射して架橋するシートの場合、押出されたシートには有機過酸化物等の易分解物が混入していないため、再度、スリットロス等の部分も再ペレット化して再生利用することによって製膜したシートのコストを削減できる。さらに製膜したシートは環状ダイを使用しているため、ダイ内の滞留部が少なく、Tダイを使用したときに比べ、添加剤の分布ばらつきや厚さばらつき等のシート幅方向の製品ばらつきがなく、製膜時のシート幅や厚さもTダイを使用した場合、シート幅に合わせてダイの交換を頻繁にしたり、種々のTダイを準備する等の煩雑な作業や設備の準備必要であるが、環状ダイを使用したときは、環状ダイより溶融した樹脂の空間に導入する空気の量で比較的容易に変更できる等の製膜上のメリットを有するのである。さらにまた、太陽電池作製時に使用する真空ラミネート機械の真空系に対し、樹脂架橋により発生した、酢酸等の揮発物や添加剤等によるダメージを軽減し、設備のメンテナンス頻度を削減することによって格段に向上することができる。本発明はこのようなメリットを有する樹脂封止シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を達成する為に鋭意検討した結果、本発明の目的を達成する樹脂封止シートを発明するに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1) 有機過酸化物の架橋剤を含まない密度0.860〜0.930g/cmのポリエチレン系ポリマーを、環状ダイを用いて製膜する工程、及び電離性放射線で照射する工程を含む太陽電池用樹脂封止シートの製造方法であって、電離性放射線を照射した後の前記ポリマーのゲル分率が2−65wt%である製造方法。
(2) 前記環状ダイが多層環状ダイであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
(3) 請求項1又は2に記載の製造方法により得られる樹脂封止シートを備えた太陽電池モジュール。
以下本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の樹脂を軟化させて密着させる樹脂封止シートとは、シートを構成する樹脂に直接、熱等のエネルギーを与えたり、樹脂に固有の振動を与え、樹脂自身を発熱させることによって、樹脂を軟化させ、その軟化状態を利用することで他の物質を密着させて封止するシートである。樹脂にエネルギーを与える方法は樹脂に直接熱を与える方法の他、輻射熱等の間接熱や超音波等の振動発熱等の公知の方法を使用することができる。太陽電池のガラスやバックシートとの封止は、専用の真空ラミネーターを用いて封止する場合、通常、樹脂封止シート、ガラス、バックシート、シリコン系のセル等の発電部分を積層し、専用の真空ラミネーター内に積層したものをセットし、真空状態にして内部の気泡等を排除し、加熱して樹脂を軟化させ、その後貼り合わせるのである。
【0019】
本発明の樹脂封止シートは公知の方法を用いて作製することもできるが、環状ダイを用いての製膜は、優れた効果を発揮する。ここでいう環状ダイは市販されている公知の環状ダイを使用することができる。環状ダイの製膜は例えば、樹脂を溶融して環状ダイより溶融樹脂を押出し、冷却固化したのち1対のニップロールにて円筒形の樹脂チューブを封止し、その円筒形の樹脂チューブに空気を入れて、製膜することで、チューブ状にほぼ一定の厚さの樹脂封止シートを製膜する。また、十分に押出機の能力が高い場合、樹脂チューブの径は十分な量の溶融樹脂を環状ダイより押出し、樹脂チューブを環状ダイの径とほぼ同じ大きさ又は環状ダイの径よりも大きくすると、冷却固化されるまでの間で厚さが厚い部分が優先的に引き伸ばされるため、樹脂封止シートの膜厚精度が格段に向上し、均一な厚さの樹脂封止シートが得られるのである。さらに、樹脂自身の耐候性を向上する目的で耐光剤、紫外線吸収剤等の添加剤等をマスターバッチ化して押出機のホッパーに樹脂と共に仕込んだり、押出機のスクリュー部に添加穴を作製し、その穴より液注したりすることで添加剤を混合することができる。
【0020】
さらに、このような環状ダイを使用した場合、設備的にはTダイを使用した製膜方法やカレンダー製膜方法に比べ、格段に設備コストを抑えることができ、安価な設備で高速に均一の樹脂封止シートを作製できるので、高いコストメリットが得られるのである。さらに、このような環状ダイを使用した製膜方法は様々な種類の樹脂や、同じ樹脂でも、異なる密度や異なるMFRの樹脂を用いることができるので同じ設備で様々な樹脂封止シートを作製できるのである。しかも、樹脂封止シートの製膜時のロスやシートの端面部等のスリットロスを最小限にできるため、効率的な生産が可能であり、スリットロス等の部分も再度ペレット化して再生利用することによって樹脂封止シートのコスト低下を達成できるため画期的な方法である。
【0021】
この様に作製された樹脂封止シートに添加剤を添加する場合、環状ダイより押出し製膜された樹脂封止シートは、樹脂封止シートのどの位置であってもほぼ同様の熱履歴であるため、結果としてほぼ均一な添加剤機能を発揮することができる。また、有機過酸化物のような熱履歴によって著しく添加剤の効果がかわる場合であっても、環状ダイで作製された樹脂封止シートは、樹脂の滞留部が少なく、しかも熱履歴がほぼ同じ条件であるため、樹脂封止シートのどの部分でもほぼ均一な物性を得ることができるのである。さらに環状ダイが多層環状ダイである場合は、多層構造の樹脂封止シートを作製できるため、表面層では表面層の接着性向上、内層ではクッション性向上等の機能分割が可能であり、より高性能の樹脂封止シートを作製することができるのである。
【0022】
この様に製膜された樹脂チューブの一部分を切ることでシート状の樹脂封止シートを得ることができるのである。樹脂封止シートの利用方法に応じて、樹脂封止シートにエンボス加工や印刷加工等の公知の方法を用いて、他の機能を付与することもできる。
【0023】
本発明の環状ダイからの溶融樹脂の押出し及び冷却固化して樹脂チューブを作製する方法は、環状ダイより上向きに樹脂を吹き出しても下向きに樹脂を吹き出しても樹脂チューブを製膜できればいずれの方向であってもよい。また、冷却方法は、樹脂を冷却固化することができれば空冷、水冷、又は空冷と水冷の併用であってもよい。
【0024】
後処理は、例えば寸法安定化のためのヒートセット、コロナ処理、プラズマ処理の他、他種樹脂封止シート等とのラミネーションが行われてもよい。更に、本発明の樹脂封止シートは表面層が十分に架橋されていることが好ましく、架橋処理は上記の電離性放射線(電子線、γ線、紫外線等)の照射やパーオキサイドの利用等の従来公知の方法が用いられ、その架橋処理はエンボス加工の前後どちらでもよい。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂について説明する。環状ダイを使用する本発明の樹脂封止シートの製膜方法で、使用する樹脂は熱可塑性樹脂が好ましい。より好ましくは、接着性や封止性能の観点より熱可塑性樹脂がエチレンモノマーと、酢酸ビニル、脂肪族不飽和カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸エステルのいずれかより選択される少なくとも1種類以上のモノマーとの共重合により得られるポリマー、ポリエチレン系ポリマー、又はポリプロピレン系ポリマーのいずれかを少なくとも1種類以上含む樹脂、又はそれらの混合物である。本発明の樹脂封止シートが太陽電池の樹脂封止シートとして使用される場合は、少なくとも樹脂封止シートの1層が架橋状態であることが好ましく、表面層が架橋状態であることがより好ましい。
【0026】
本発明でいう表面層が架橋状態である樹脂とは、公知の方法によって樹脂を構成する高分子を物理的、化学的に架橋した結果、ゲル分率が5wt%以上となった状態をいう。架橋の方法は表面層の樹脂に有機過酸化物等の化合物を含ませて架橋してもよく、また電離性放射線を用いて架橋してもよい。表面層に用いられる樹脂が表面層のゲル分率が5wt%以上であることは、表面層の樹脂が十分に架橋状態であり、その架橋状態によって夏場等の高温状態においても樹脂が融解して被封止物が流動することなく安定する。また、少なくとも一方の表面層とは、樹脂封止シートを構成する表裏の2面の表面層のうち、被封止物の流動をさせたくない少なくとも一方のみ表面層を示し、太陽電池の樹脂封止シートとして使用する場合は、樹脂封止シートを構成する両表面層であってもよい。
【0027】
また、架橋方法が電離性放射線等を封止前にあらかじめシートに照射してラミネーションする場合、表面層の架橋が高すぎると結晶系シリコンセルや配線等の段差を隙間なく封止することができないことがある。このため、好ましい表面層のゲル分率は3〜90wt%であり、より好ましくは5〜85wt%、さらにより好ましくは8〜80wt%である。
【0028】
さらに、結晶系シリコンセル等の発電部分や配線等の段差を隙間なく封止する場合、表面層の架橋状態によって表面層の厚さが影響する傾向がある。表面層の架橋度が高い場合には表面層の厚さは薄いほうが好ましい。一方、結晶系シリコンセル等をしっかり安定して保持するためには、ある程度の厚さが必要であり、表面層の好ましい厚さは10〜150μm、より好ましくは15〜140μm、さらに好ましくは20〜120μmである。
【0029】
本発明における樹脂封止シートを構成する樹脂として以下のものが挙げられる。
【0030】
本発明の樹脂封止シートは単層であっても多層であってもよい。単層の場合、電離性放射線架橋型樹脂に電離性放射線を照射することによって生じるゲル分率の違いによって表面層と内層と区別するのであるが、明確に区別できない場合もある。
【0031】
本発明の表面層に使用される樹脂は非接着物の接着性の観点よりエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体、又はポリオレフィン樹脂が好ましい。また、本発明の表面層に用いられる樹脂は上記樹脂から選ばれる樹脂が単独に含まれる層(単独層)であっても、上記樹脂同士又は他の樹脂と混合した層(混合層)であってもよい。さらに、共重合で用いられるモノマーの極性基による分極によって、ガラス等の被接着体との付着性機能が発揮することができたり、樹脂封止シートの透明性を確保することができる。極性基を有するポリマーは添加剤等を含有しやすいので、例えば、表面層がエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体より選ばれる少なくとも1種類の樹脂の単独層またはこれらの樹脂を含んだ混合層が、接着性の観点より好ましい。また、電離性放射線を照射して架橋させる場合では極性基を有する樹脂の方が架橋されやすく、この点においても上記樹脂が好ましい。
【0032】
本発明のエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体とは、エチレンモノマーと、酢酸ビニル、脂肪族不飽和カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸エステル等のいずれかより選択される少なくとも1種類との共重合により得られたポリマーを示す。共重合の時の重合は高圧法、溶融法等いずれの公知の方法により重合されたものでもよく、さらにマルチサイト触媒やシングルサイト触媒によるものでも支障はない。また、各モノマーの重合時の接合形状は、ランダム結合、ブロック結合等であっても支障はないが、光学特性の観点より、高圧法を用いてランダム結合により重合したエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体が好ましい。
【0033】
また、エチレンモノマーと酢酸ビニル、脂肪族不飽和カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸エステルの共重合比は酢酸ビニルの場合、光学特性と接着性と柔軟性の観点より、共重合体全体に対する酢酸ビニルの割合は、10〜40wt%が好ましく、より好ましくは13〜35wt%、さらに好ましくは15〜30wt%がよい。さらに樹脂封止シート加工性の観点よりMFR(190℃、2.16kg:以下、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体については同条件。)が0.3〜30のものが好ましく、より好ましくは0.5〜30、さらに好ましくは0.8〜25である。
【0034】
上記エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体は、EVAと同様な役割をもつが、具体的にはエチレン−アクリル酸共重合体(以下、EAAと記す。)、エチレン−メタクリル酸共重合体(以下、EMAAと記す。)、エチレン−アクリル酸エステル(メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1〜8のアルコールの成分より選ばれる。)共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル(メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1〜8のアルコールの成分より選ばれる。)共重合体等が挙げられ、これらは更にその他の成分を加えた3成分以上の多元共重合体(例えば、エチレンと脂肪族不飽和カルボン酸および同エステルより適宜選ばれる3元以上の共重合体等)であってもよい。これらのカルボン酸又はカルボン酸エステル基の含有量は、通常3〜35重量%のものが用いられ、またMFR(190℃、2.16kg:以下、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体については同条件。)はEVAと同様である。
【0035】
多層構成の場合、上記の重合体を表面層に使用することができ、内層には、いかなる他の樹脂を用いてもよい。本発明の内層にはさらに新たな層として単一樹脂層または樹脂同士の混合物や樹脂と添加物との混合物の樹脂層を導入してもよい。新たにクッション性を向上する目的で導入される新たな層として熱可塑性エラストマーを含む層が挙げられる。熱可塑性エラストマーとは、常温でゴム弾性を示し、かつ熱可塑性を有するものであり、共重合体ゴムと重合体が任意の重量比で配合されたものをいう。共重合体ゴムは、熱可塑性エラストマー中において未架橋、部分架橋、全体架橋などの状態で存在することができる。
【0036】
本発明に用いる熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系、スチレン系、塩ビ系、ポリエステル系、ウレタン系、塩素系エチレンポリマー系、ポリアミド系等が挙げられ、生分解性を有したもの、または植物由来原料系のもの等も含まれる。本発明においては、結晶性ポリプロピレン系樹脂との相溶性がよく、透明性が良好な水素添加ブロック共重合体エラストマー、プロピレン系共重合エラストマー、エチレン系共重合体エラストマーが好ましく、より好ましくは水素添加ブロック共重合体エラストマー、プロピレン系共重合エラストマーである。水素添加ブロック共重合体エラストマーとしては、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロック共重合体が好ましい。ビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。これらは1種又は2種以上混合してもよい。共役ジエンとは、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上混合してもよい。プロピレン系共重合体エラストマーとしては、プロピレンとエチレン又は炭素原子数4〜20のα−オレフィンとから得られる共重合体が好ましい。そのエチレンまたは炭素原子数4〜20のα−オレフィンの含有量としては6〜30重量%が好ましい。ここで炭素原子数4〜20のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコサン等が挙げられる。プロピレン系共重合体エラストマーは、マルチサイト系触媒、シングルサイト系触媒、その他、いずれの触媒を用いて重合されたものでもよい。さらにポリマーの結晶/非晶構造(モルフォロジ−)をナノオーダーで制御したプロピレン系共重合体を使用することもできる。エチレン系共重合体エラストマーは、マルチサイト系触媒、シングルサイト系触媒、その他、いずれの触媒で重合されたものでもよい。また、ポリマーの結晶/非晶構造(モルフォロジ−)をナノオーダーで制御したエチレン系共重合体を使用することもできる。上記の樹脂以外にもアイオノマー等の公知の樹脂を単層又は混合して導入してもよい。
【0037】
本発明でいうポリオレフィン樹脂とはエチレンの重合体又はエチレンと他の単量体とのポリエチレン系樹脂やプロピレン又はプロピレンと他の単量体とのポリプロピレン系樹脂等である。
【0038】
本発明のポリエチレン系樹脂は、従来から市販されている長鎖分岐を有するエチレンの単独重合体、又は小量のαーオレフィンで変成した共重合体を含むものを示す。また、エチレンと10重量%未満の共重合可能な以下のコモノマーと共重合した通常改質ポリエチレンとして使用されているもの、例えば酢酸ビニル基含有量10重量%未満のEVA等も含むものである。例えば、ポリエチレン系樹脂とは、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(「VLDPE」、「ULDPE」と呼ばれているもの)、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体、αーオレフィン共重合体よりなる軟質重合体(例えば、エチレン及び/又はプロピレンと炭素数が4〜12のαーオレフィンから選ばれる1種、又はそれ以上のαーオレフィン又は自由な組み合わせからなる軟質の共重合体が挙げられ、そのX線法による結晶化度が一般に30%以下のもの)、等が挙げられる。エチレン−α−オレフィン系共重合体には、シングルサイト系触媒、又はマルチサイト系触媒と呼ばれる触媒を用いて重合するものが一般的であるが、その中でもシングルサイト系触媒により重合されたものが好ましい。より好ましくはエチレンコモノマー、ブテンコモノマー、ヘキセンコモノマー、及びオクテンコモノマーから選ばれるいずれか一つのコモノマーとの共重合体が、一般に樹脂メーカーも多く入手し易いのでより好ましい。
【0039】
ポリエチレン系樹脂の好ましい密度は、クッション性の観点より、0.860〜0.930g/cmの範囲のものであり、より好ましくは0.870〜0.923g/cm、さらに好ましくは0.870〜0.915g/cmである。また、密度が低いほうがクッション性は向上する。一方、密度が0.930g/cm以上のものは内部層とした場合でも透明性が悪くなる傾向にある。透明性の改善として高密度の樹脂を使用する際は30wt%程度低密度ポリエチレンを加えることで改善することができる。
【0040】
また樹脂封止シート加工性の観点よりMFR(190℃、2.16kg:以下、ポリエチレン系樹脂については同条件。)は0.5〜30のものが好ましく、より好ましくは0.8〜30、さらに好ましくは1.0〜25である。溶融張力の関係より一概には言えないが、表面層がエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体より選ばれる少なくとも1種類の樹脂の表面層に隣接する内層のMFRは、樹脂封止シート加工の観点より表面層のMFRより低いことが加工しやすい傾向がある。
【0041】
ポリプロピレン系共重合体樹脂としては、プロピレンとエチレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等のα−オレフィンとの共重合体、プロピレンとエチレンとブテン、ヘキセン、オクテン等のα−オレフィンとの3元共重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体等のいずれでもよく、好ましくはプロピレンとエチレンとのランダム共重合体、プロピレンとエチレンとブテンとのランダム3元共重合体である。上記ポリプロピレン系樹脂は、樹脂封止シートの硬さや腰を高めたり、耐熱性を上げたりする等の役割がある。ポリプロピレン共重合体樹脂には、ホモのPP、プロピレン含量が70重量%以上のプロピレンと他のα−オレフィン(エチレンの他、炭素数4〜8のもの)の1種または2種以上との共重合体であって、チーグラー・ナッタ触媒のような従来の触媒で重合されたものだけでなく、前述のメタロセン系触媒等で重合されたシンジオタクチックPPやアイソタクチックPPも含まれる。更にポリプロピレン系樹脂は50重量%程度までの高濃度のゴム成分を均一微分散したものであってもよく、これらのうち少なくとも1種が用いられる。また、ポリプロピレン系共重合体樹脂中のプロピレンの含有量は60〜90重量%が好ましい。更に、ポリプロピレン系共重合体樹脂が3元共重合体であり、プロピレン含有量が60〜80重量%、エチレン含有量が10〜30重量%、ブテン含有量が5〜20重量%のものは熱収縮性が良くなるのでより好ましい。
【0042】
さらに、ポリブテン系樹脂は、樹脂封止シートの硬さや腰の調整の他、ポリプロピレン系樹脂との相溶性が特に優れるため、好ましくはポリプロピレン系樹脂と併用することもできる。上記ポリブテン系樹脂としては、ブテン−1含量70モル%以上の結晶性で他の単量体(エチレン、プロピレンの他、炭素数5〜8のオレフィン系)の1種または2種以上との共重合体をも含む高分子量のものが用いられる。これは、液状およびワックス状の分子量のものとは異なり、MFR(190℃、2.16kg:以下、ポリブテン系樹脂については同条件。)が、通常0.1〜10のものである。好ましいポリブテン系樹脂としては、ビカット軟化点が40〜100℃の共重合体である。ここで、ビカット軟化点はJIS K7206−1982に従って測定される値である。
【0043】
ポリプロピレン系共重合体樹脂のJIS−K−7210に準じて測定されるメルトフローレートの値(230℃、2.16kgf:以下、ポリプロピレン系共重合体樹脂については同条件)は、0.3〜15.0が好ましく、より好ましくは0.5〜12、さらに好ましくは0.8〜10である。
【0044】
本発明の樹脂封止シートには、その本来の特性を損なわない範囲で、カップリング剤、防曇剤、可塑剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、結晶核剤、滑剤、アンチブロッキング剤、無機フィラー、架橋調整剤等を添加してもよく、添加の方法は液体を溶融樹脂に添加しても、直接対象樹脂層に練り込み添加しても、シーティング後に塗布しても添加剤の効果が発揮できるように公知の方法で樹脂に導入すればよい。
【0045】
本発明の樹脂封止シートには安定した接着性を確保する目的でカップリング剤を添加してもよい。添加は所望の接着性の度合いや被接着物の種類によるが、添加量で0.01−5wt%が好ましく、より好ましくは0.03−4wt%、さらに好ましくは0.05−3wt%である。カップリング剤はエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体より選ばれる少なくとも1種類の樹脂であるエチレン系共重合体中において太陽電池セルやガラス等に良好な接着性を付与する物質が好ましい。具体的には有機シラン化合物、有機シラン過酸化物、有機チタネート化合物が挙げられる。また、これらのカップリング剤は押出機内にて樹脂に注入混合したり、押出機ホッパー内に混合して導入したり、事前にマスターバッチ化して混合して添加したり、公知の添加方法であれば支障ない。しかしながら、押出機を経由するため、押出機内の熱や圧力などにより、本来の機能を阻害される場合があり、カップリング剤の種類によっては添加量を増減する必要がある場合がある。また、カップリング剤の種類は樹脂と混合した場合、樹脂の透明性や分散具合や押出機への腐食や押出安定性の観点から適宜選択すればよい。好ましいカップリング剤は、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エトキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラングリシドキシプロピルトリエトキシシラン等の不飽和基やエポキシ基を有するものが挙げられ、公知のカップリング剤より適宜選択すればよい。
【0046】
さらに、上記以外にも、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤等を添加することができる。特に長期の透明や接着性維持が必要な場合、エチレン系共重合体に対して0〜10wt%、好ましくは、0〜5wt%である。公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤等を添加しても良い。好ましくは紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−5−スルホベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等が挙げられ、酸化防止剤としては、フェノール系、イオウ系、リン系、アミン系、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、ヒドラジン系等を挙げることができる。
【0047】
これらの紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤等はエチレン系共重合体のみではなく他の樹脂層にも添加してよく、各樹脂層を構成する樹脂に対して0〜10wt%、好ましくは、0〜5wt%である。
【0048】
本発明でいう架橋とは、樹脂封止シートにα線、β線、γ線、中性子線、電子線等の電離性放射線を照射し、シートを構成するポリマーを架橋させることである。α線、β線、γ線、中性子線、電子線等の電離性放射線を照射させて架橋することで、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体の共重合体の側鎖部分の脱離による有機酸やパーオキサイド等の未反応成分を樹脂中に残留させることを防止し、未反応成分による太陽電池セルや導電性機能層または配線への悪影響を防止するのである。好ましくは樹脂封止シートにα線、β線、γ線、中性子線、電子線等の電離性放射線を照射する方が好ましい。
【0049】
電子線等の電離性放射線の加速電圧は樹脂封止シートの厚さによって決まり、樹脂封止シートの厚さによって、適宜選択すればよいが、500μmの厚さの場合、全層に架橋するときには300kV以上が必要である。
【0050】
電子線等の電離性放射線照射線量は3−500kGyが好ましいが、所望のゲル分率やゲル分布を達成するため、照射密度や照射強度を調整してもよい。
【0051】
電離性放射線の照射線量は使用される樹脂によって異なるが、一般的に3kGy未満の場合、均一な架橋樹脂封止シートを得られなくなる。また、電離性放射線の照射量が500kGyを越えると樹脂封止シートのゲル分率が大きくなりすぎ、太陽電池セルのあるところとないところの段差を埋める性能が乏しくなる場合がある。電離性放射線の加速電圧や照射線量は所望のゲル分率やゲル分布を達成するため、適宜変化させてもよい。また、電離性放射線の加速電圧や照射線量によって発生する架橋はゲル分率によって示されるが、本発明の架橋後の樹脂のゲル分率2−65wt%が好ましく、より好ましくは本発明の樹脂封止シートのゲル分率が2〜70wt%、更に好ましくは3〜65wt%である。本発明のゲル分布を達成するために、同じ照射量であっても、樹脂種類による架橋具合の調整、又は転移化剤による架橋促進や架橋抑制による架橋具合の調整をしてもよい。
【0052】
樹脂封止シートの光学特性について説明する。本発明におけるヘイズは光学測定機械を使用して測定される値(後述)であるが、ヘイズが10.0%以下であると被包装物を目で見て確認できるため安心感が得られるため、好ましい。10.0%を越えると太陽電池の発電効率が低下する場合がある。より好ましくは9.5%以下、さらに好ましくは9.0%以下である。全光線透過率が、85%以上が好ましく、より好ましくは87%以上、さらに好ましくは88%以上である。
【0053】
本発明の樹脂封止シートの厚みは通常50〜1500μmが好ましい。より好ましくは100〜1000μm、さらに好ましくは150〜800μmの薄肉の領域である。50μm未満では樹脂封止シートのクッション性が乏しい場合や作業性の観点で問題が生ずる。また1500μmを越えると生産性の低下や密着性の低下が問題となる場合がある。
【0054】
本発明で開示される樹脂封止シートは、太陽電池のモジュールを構成する樹脂封止シートとして使用した場合、従来の樹脂封止シートの特徴である透明性、接着性、耐クリープ特性を維持したまま、架橋反応を誘発する有機過酸化物やその分解による太陽電池セル等の他の部材に対する悪影響を排除することができる。本発明は、従来難しかった従来の架橋工程の排除により工程を高速化し、太陽電池用ガラスや配線や発電セルの厚さ等の凹凸を樹脂封止シートで確実に隙間なく封止することができ、廃棄の際にはガラスやシリコンセル等を剥離分別できるリサイクル性を有する。
【発明の効果】
【0055】
本発明は樹脂封止シートに関する。本発明の樹脂シートは環状ダイを使用して製膜することが特徴であり、従来の樹脂封止シートの特徴である透明性、接着性、耐クリープ特性を維持したまま、安価に、かつ、シート幅方向のばらつきが少ない樹脂封止シートを作製できるのである。また、従来使用されている有機過酸化物を使用した樹脂架橋に比べ、本発明では電離性放射線を架橋反応に使用することにより、従来問題とされている残留有機過酸化物の問題やその分解物による太陽電池セル等の他の部材に対する悪影響、真空ラミネートの真空系機械部品に対する酢酸等の揮発成分によるダメージ等の問題を解決することができるのである。
【0056】
本発明の技術は、樹脂を押出機にて溶融し環状ダイに樹脂を導入した直後に、樹脂を吹き出してシート化することで安価な設備で高速に製膜ができる上、様々な種類、密度及びMFR等の物性が異なる樹脂を用いることができる。しかもTダイ製膜方法やカレンダー製膜方法時のシート端面部等のスリットロスを最小限にできるため、効率的な生産が可能である。さらに、電離性放射線を照射して架橋するシートの場合、押出されたシートには有機過酸化物等の易分解物が混入していないため、再度、スリットロスの部分も再ペレット化して再生利用することによって製膜したシートのコストを削減できるのである。また、製膜したシートは環状ダイを使用しているため、ダイ内の滞留部が少なく、Tダイを使用したときに比べ、添加剤の分布のばらつきやシートの厚さばらつき等のシート幅方向の製品ばらつきがない。製膜時のシート幅や厚さを変更する時はTダイを使用した場合、シート幅に合わせてダイの交換を頻繁にしたり、種々のTダイを準備する等の煩雑な作業や設備の準備をしたりする必要があるが、環状ダイを使用したときは、環状ダイより溶融した樹脂の空間に導入する空気の量で比較的容易に変更できるので製膜上のメリットがある。さらにまた、太陽電池作製時に使用する真空ラミネート機械に対し、樹脂架橋により発生した、酢酸等の揮発物や添加剤等によるダメージを軽減し、設備のメンテナンス頻度を削減することによってコスト削減を格段に向上することができるのである。
【実施例】
【0057】
以下に実施例、比較例に基づき、発明を詳細に説明する。なお、本発明で用いる評価方法は下記の通りである。
【0058】
<下向き製膜性>
2台(表面層用、内層用)の押出機に接続された多層環状ダイ(直径250φmm、スリット厚さ1mm)から下向き方向にて樹脂をチューブ状に溶融押出し、引き取りながら1対のゴムロールにて封じ、この溶融押出にて形成されたチューブに空気を入れて、所望のシート厚さ、シート折幅になるように水冷リングを用いて急冷固化した。
〇:安定して樹脂チューブを形成。(良好)
×:樹脂チューブに厚薄があり、安定して樹脂チューブを形成できない(不良)
【0059】
<上向き製膜性>
2台(表面層用、内層用)の押出機に接続された多層環状ダイ(直径250φmm、スリット厚さ1mm)から上向き方向にて樹脂をチューブ状に溶融押出し、引き取りながら1対のゴムロールにて封じ、この溶融押出にて形成されたチューブに空気を入れて、所望のシート厚さ、シート折幅になるように空冷リングを用いて急冷固化した。
〇:安定して樹脂チューブを形成。(良好)
×:樹脂チューブに厚薄があり、安定して樹脂チューブを形成できない(不良)
【0060】
<照射処理>
樹脂封止シートに電子線処理をEPS−300又はEPS−800の電子線照射装置(日新ハイボルテージ社製)を用いて種々の加速電圧、照射密度で処理した。
【0061】
<ゲル分率>
沸騰p−キシレン中で試料を12時間抽出し、不溶解部分の割合を次式により表示したもので、樹脂封止シートの架橋度の尺度として用いた。
ゲル分率(wt%)=(抽出後の試料重量/抽出前の試料重量)×100
また、表面層のゲル分率は表面層の厚さと同じ樹脂封止シートを作製し、その樹脂封止シートに電線照射処理を施して、上記方法にて表面層ゲル分率とした。
【0062】
<エチレン系重合体の密度>
JIS−K−7112に準拠して測定した。
【0063】
<エチレン系重合体のMFR>
JIS−K−7210に準拠して測定した。
【0064】
<ヘイズおよび全光線透過率>
ASTM D−1003に準拠して測定した。サンプルは太陽電池用ガラス板(AGC社製白板ガラス5cmX10cm角:厚さ3mm)/樹脂封止シート/太陽電池用ガラス板の順に重ね、LM50型真空ラミネート装置(NPC社)を用いて真空ラミネートし、測定に使用した。
【0065】
<ガラスとの剥離強度>
サンプルは太陽電池用ガラス板(AGC社製白板ガラス5cmX10cm角:厚さ3mm)/樹脂封止シート/太陽電池用ガラス板の順に重ね、LM50型真空ラミネート装置(NPC社)を用いて真空ラミネートした。ラミネート後、2枚の太陽電池用ガラス板を手ではがして評価を行った。
〇:強固に接着して剥離しない。(良好)
×:簡単に手で剥離する(不良)
【0066】
<太陽電池発電部分隙間埋め評価>
太陽電池用ガラス板(AGC社製白板ガラス5cmX10cm角:厚さ3mm)/樹脂封止シート/発電部分(単結晶シリコンセル(厚さ250μm)/樹脂封止シート/太陽電池用ガラス板の順に重ね、LM50型真空ラミネート装置(NPC社)を用いて真空ラミネートし、発電部分の単結晶シリコンセルの樹脂封止シートとの接触状況を目視にて確認した。
〇:単結晶シリコンセルと樹脂封止シートとの接触部分がすべて良好。(隙間なし)
×:単結晶シリコンセルと樹脂封止シートとの接触部分に隙間が生じた。(ほぼすべてに隙間あり)
実施例1〜20
表1〜4に示すような樹脂を用いて、2台の押出機(表面層押出機、内層押出機械)を使用して樹脂を溶融し、その押出機に接続された環状ダイから樹脂をチューブ状に溶融押出し、溶融押出にて形成されたチューブを水冷リングを用いて急冷し、表1〜4記載の樹脂封止シートを得た。
【0067】
この得られた樹脂封止シートを表1〜4記載の条件にて電子線架橋処理を行った。
それぞれの樹脂封止シートを評価して、その結果を表1〜4に示す。
【0068】
表1〜4の結果より、本発明の樹脂封止シートは優れた特性を有し、非常に良いものであった。また、環状ダイを使用した製膜方法は様々な樹脂を製膜することができる上、多層構成、シートの厚さ等応用性の高い製膜方法であった。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】


比較例1〜6
製膜方法が特許文献に記載のTダイ製膜方法およびカレンダー製膜方法である他は実施例と同等の評価方法にて行った。結果を表5および表6に示す。
【0073】
比較例1〜4は特許文献(特開昭58−60579号公報)に記載のあったTダイ製膜方法にて製膜を行った。また、比較例5および6は特許文献(特開2000−84967号公報)に記載のあったカレンダー製膜方法にて製膜を行った。
【0074】
比較例1、2および5はゲル分率が本発明の範囲外であるため、シートの製膜は可能であったが、隙間埋めの観点で不十分であった。比較例3はTダイ製膜としては低MIの樹脂のため、押出機およびTダイとの適性が悪く、安定した樹脂量を押出そうとすると、押出し機の負荷が高くなり、安定した製膜は困難であった。また、比較例4は実施例2と同じ樹脂組成であるが、Tダイ製膜方法としては高MIの樹脂のため、押出機およびTダイとの適性が悪い上、樹脂のメルトテンションが低く、安定したシート製膜は困難であった。比較例6は多層構成のためカレンダー製膜方法ではできない層構成であった。
【0075】
【表5】

【0076】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機過酸化物の架橋剤を含まない密度0.860〜0.930g/cmのポリエチレン系ポリマーを、環状ダイを用いて製膜する工程、及び電離性放射線で照射する工程を含む太陽電池用樹脂封止シートの製造方法であって、電離性放射線を照射した後の前記ポリマーのゲル分率が2−65wt%である製造方法。
【請求項2】
前記環状ダイが多層環状ダイであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により得られる樹脂封止シートを備えた太陽電池モジュール。

【公開番号】特開2011−155305(P2011−155305A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103090(P2011−103090)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【分割の表示】特願2008−101122(P2008−101122)の分割
【原出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】