説明

樹脂成型体を含む複合材料の製造方法

【課題】高圧二酸化炭素を用いて金属錯体をポリマーに浸透させるメッキ前処理のバッチ処理法において、低温度の処理においても安定に金属錯体をポリマーに浸透、かつ固定化する方法を提供する。
【解決手段】還元剤を上記樹脂成型体200に接触させて、上記還元剤を上記樹脂成型体200内に浸透させることと(S21)、上記還元剤が浸透した上記樹脂成型体200に、有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を接触させて、上記還元剤により上記有機金属錯体を上記樹脂成型体200内に固定化すること(S22)とを特徴とする樹脂成型体200を含む複合材料の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成型体を含む複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマー部材(ポリマー成形品)などの樹脂成型体に安価に金属膜を形成する方法としては、無電解メッキ法が知られている。また、無電解メッキ法では、メッキ膜の密着性を確保するために、六価クロム酸や過マンガン酸等の酸化剤を用いて、無電解メッキの前処理としてポリマー部材表面をエッチングし、ポリマー部材の表面を粗化する必要がある。しかしながら、六価クロム酸や過マンガン酸等の酸化剤は、環境負荷が大きい。
【0003】
また、このようなエッチング液で浸漬されるポリマー、すなわち、無電解メッキが適用可能なポリマーとしては、ABS等の一部の材質のポリマーに限定されていた。これは、ABSにはブタジエンゴム成分が含まれており、この成分がエッチング液に選択的に浸漬されることでポリマー部材の表面に凹凸を形成することができるのに対して、他のポリマー材料ではこのようなエッチング液に選択的に酸化される成分が少なく、表面に凹凸が形成され難いためである。それゆえ、ABS以外のポリマーであるポリカーボネート等では、無電解メッキを可能にするためにABSやエラストマーを混合したものがメッキグレードとして市販されている。しかしながら、そのようなメッキグレードのポリマー材料においては、主材料のみである場合に比べて耐熱性が低下してしまう等の物性の劣化を避けることができず、耐熱性が要求される成形品などで使用し難かった。
【0004】
このような化学的な前処理方法の代替方法として、従来、超臨界二酸化炭素等の高圧二酸化炭素を用いた表面改質方法が提案されている(例えば特許文献1)。特許文献1では、バッチ処理(高圧容器内での非連続処理)の手法において、高圧二酸化炭素に金属錯体を溶解させ、該金属錯体の溶解した高圧二酸化炭素をポリマー部材に接触させている。これにより、ポリマー部材の表面内部に、金属錯体が浸透する。
【0005】
また、特許文献2では、ポリマー内部に浸透させた金属錯体を熱還元することで、金属錯体がポリマー内部で金属化して固定され、この金属をメッキの触媒核として機能させる手法を開示する。
【0006】
さらに、本発明者らは、高圧二酸化炭素を用いて、金属触媒をポリマー内部に浸透させた後、高圧二酸化炭素を混合させた無電解メッキ液を用いて、ポリマー部材に対して密着性の高い無電解メッキ膜を形成する方法を開示している(特許文献3)。メッキ反応が起こらない低温度で、無電解メッキ液と高圧二酸化炭素との混合液をポリマー内部に浸透させた後、ポリマーの温度をメッキ反応可能な温度まで上昇させる方法である。本発明者らの検討によれば、金属錯体が熱還元されてなる触媒核がポリマー内部に予め浸透していることにより、この触媒核を利用してポリマー内部から無電解メッキ反応が成長し、従来のエッチング法と同等以上の密着強度のメッキ膜が得られると考えられる。
【0007】
【特許文献1】特開2001−316832号公報
【特許文献2】特開2007−56287号公報
【特許文献3】特許第3926835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、従来の樹脂成型体のメッキ方法では、環境負荷の大きい前処理を行う必要があり、また、選択できるポリマー材料の種類も限定されていた。
【0009】
また、特許文献1の超臨界流体等の高圧二酸化炭素を用いたポリマー部材の表面改質方法を用いて、ポリマー部材にメッキ触媒となる金属微粒子をバッチ処理により浸透させた場合には、それを熱還元することにより、ポリマー部材の表部にメッキ触媒となる金属微粒子が存在するポリマー部材が得られる。
【0010】
ところで、発明者らの研究により、こうした超臨界状態等の高圧二酸化炭素を用いた前処理法において、高圧二酸化炭素に溶解させる金属錯体として、フッ素を含有する金属錯体が有効であることが明らかとなってきた。フッ素を含有する金属錯体は、高圧二酸化炭素に対する溶解度が高いため、高圧容器内において錯体を高い濃度とすることができ、高濃度の錯体を浸透させることにより浸透処理時間を短縮とすることができる。以下、それについて詳細に説明する。
【0011】
例えば、フッ素を含有しない金属錯体であるアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体の高圧液体二酸化炭素(温度40℃、圧力15MPa)に対する溶解度は数十mg/Lであり、溶解度が著しく低い。そのため、この金属錯体をポリマー内部に高濃度で浸透させために30分から1時間あるいはそれ以上の時間が必要であった。また、この金属錯体は熱安定性が高いため、熱還元に長時間を要し、しかも、熱還元温度を200℃以上と高温にしなければならなかった。
【0012】
それに対し、フッ素を含有する金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体の同様な高圧二酸化炭素に対する溶解度は数十g/Lであり、前述の金属錯体と比べて溶解度が二桁高い。そのため、数〜数十分で高圧容器内の金属錯体を高い濃度とすることができ、前述の金属錯体の場合よりも浸透時間を短くできる。
【0013】
ただし、こうしたフッ素を含有する金属錯体は、高圧二酸化炭素に対する溶解度が著しく高い反面、ポリマー部材に対する親和性が低い。ポリマー内部に浸透した金属錯体が高圧二酸化炭素側へ戻ってしまう。そのため、ポリマー内部に浸透させただけでは、思うように固定化されない。ポリマー内部での金属錯体の濃度は上がり難い。
【0014】
そこで、発明者らは独自の研究により、金属錯体をポリマー内部へ浸透した直後に、高温度の高圧二酸化炭素中にて熱還元処理することにより、ポリマー内部での金属錯体の濃度を上げることができた。上記フッ素を含有する金属錯体は熱的に安定性が低いため、150℃程度の温度で完全に熱分解して還元することができる。
【0015】
ただし、熱還元は、金属錯体を浸透するために用いた高圧容器内で行わないと、ポリマー内で金属錯体は固定化されにくい。なぜなら、第一に、金属錯体は二酸化炭素に対して親和性が高いために、還元処理前に二酸化炭素を排気してしまうと、その排気二酸化炭素とともにポリマー内部に浸透していた金属錯体も排出されてしまうからであり、第二に、それが故に、金属錯体を高圧二酸化炭素で浸透させた後に、高圧容器からポリマーを取り出して熱的あるいは化学的な還元処理をする場合には、その処理前に金属錯体がポリマーから抜けてしまうからである。
【0016】
また、本発明者らは、さらにこの高圧容器を用いたバッチ処理によるメッキ前処理について鋭意検討した結果、下記問題が顕在化することが明らかとなってきた。
【0017】
第一に、1つの高温容器内で複数のポリマー成形体を一括して処理する場合、ポリマー内部に浸透する前に金属錯体が熱分解してしまうことがあり、メッキの成長性や密着強度の悪い場所や成形品が存在することがあった。つまり、品質にばらつきが生じていた。
【0018】
第二に、低温度で金属錯体と二酸化炭素をポリマー内部に浸透させた後、浴内の温度を上昇させ、ポリマー内部の金属錯体を熱分解および還元させた場合には、上記品質ばらつきは抑制されるものの、高圧容器内の金属錯体は、ポリマー成形体に浸透せずに余剰に滞留しているものも含めてすべてが分解してしまうことになるため、高価な金属錯体を回収できない。なお、浴内の温度を上昇させる替わりに、高圧容器内にアルコール等の還元剤を高圧下で導入することも考えられるが、この場合にも未浸透の余剰の金属錯体を回収することはできない。このように金属錯体は高圧容器に仕込んだうちのごく一部の量しかポリマー内部へ浸透しないものであるが、従来の熱還元法ではその余剰の金属錯体は回収できずに容器内部で熱分解もしくは還元されてしまうので、大きなロスとなる。よって不経済となり工業化する上で大きな障害となった。
【0019】
第三に、上記超臨界状態等の高圧二酸化炭素を用いたメッキ前処理に、上記高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法に適用した場合、下記問題が明らかとなった。すなわち、上記高圧容器内で金属錯体を浸透させ、次いで熱還元し金属化して固定化した方法の場合、樹脂成型体の表面側から金属錯体が還元されて固定化されていくため図4(a)の模式図のように、樹脂成型体の表層ほど金属微粒子もしくは金属錯体の濃度が高くなる。そのため、高圧二酸化炭素を混合させたメッキ液をポリマー内部に浸透させた後にポリマー内部よりメッキ反応させた場合、この表層の触媒活性が高くなり、ポリマー内部よりメッキが成長しにくくなる。そして図4(b)に模式的に示すように、成形品の場所によってメッキ膜の浸透深さが浅くなり、高い密着強度が得られるものの、その値が変動することがあった。
【0020】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、本発明の第一の目的は、高圧二酸化炭素を用いて金属錯体をポリマーに浸透させるメッキ前処理のバッチ処理法において、低温度の処理においても安定に金属錯体をポリマーに浸透、かつ固定化する方法を提供し、かつ余剰の金属錯体を高圧容器内部より回収できる前処理法を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、特に高圧二酸化炭素を用いたポリマー内部でメッキ反応させる無電解メッキ法において、密着強度をより向上し、安定化させる手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の第1の態様に従えば、樹脂成型体を含む複合材料の製造方法であって、還元剤を上記樹脂成型体に接触させて、上記還元剤を上記樹脂成型体内に浸透させることと、上記還元剤が浸透した上記樹脂成型体に、有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を接触させて、上記還元剤により上記有機金属錯体を上記樹脂成型体内に固定化することを含むことを特徴とする樹脂成型体を含む複合材料の製造方法が提供される。
【0022】
この第1の態様によれば、樹脂成型体内に浸透する有機金属錯体は、予め樹脂成型体内に浸透した還元剤との還元反応により樹脂成型体内に固定化される。したがって、有機金属錯体を樹脂成型体内に固定化するために、温度を有機金属錯体の熱還元温度以上にする必要が無い。すなわち、上記有機金属錯体が溶解した上記高圧二酸化炭素を、上記有機金属錯体の熱還元温度より低い温度雰囲気にて上記樹脂成型体と接触すればよい。これに対して、熱還元反応で有機金属錯体を固定化する場合、樹脂成型体などを熱還元反応となる温度まで加熱したり、常温へ冷却したりしなければならず、これにより前処理プロセスのスループットが制限されていた。また、たとえば射出により成形された樹脂成型体などにあっては、成形時にスキン層と内部とで残留応力に差が生じており、これを加熱冷却をすると、発泡したり、表面が割れたり、内割れが生じたりしてしまうことがある。第1の態様では、これらの課題を解決することができる。
【0023】
なお、この第1の態様において、還元剤は、たとえばOH基を有する材料であればよく、そのような還元剤としてはアルコール、フェノールなどがある。また、還元剤は、溶媒に溶解されて樹脂成型体に接触してもよい。このような溶媒としては、二酸化炭素であっても、水またはアルコールであってもよい。アルコールを溶媒とした場合、その還元処理はウェット処理になる。そして、還元剤を含む溶媒を上記樹脂成型体に接触させることは、たとえば、高圧二酸化炭素の雰囲気中で接触させたり、超音波洗浄により接触させたりすればよい。
【0024】
また、この第1の態様は、さらに、上記還元剤が浸透した上記樹脂成型体は、その表層から上記還元剤が除去された後に、上記有機金属錯体が溶解した上記高圧二酸化炭素と接触してもよい。これにより、還元剤は、単に樹脂成型体内に浸透しただけでなく、さらに樹脂成型体の表層から除去した状態で浸透したものとなるので、有機金属錯体は、樹脂成型体の表層より内側の深いところで固定化される。したがって、低温度の処理においても安定に金属錯体をポリマーに浸透、かつ固定化することができる。
【0025】
なお、表層とは、たとえば樹脂成型体の表面から深さ50nm以下の範囲内をいい、この範囲内では、還元剤を除去することなく有機金属錯体を接触させ、さらに無電解めっきをした場合に、メッキ膜が形成されてしまう。このメッキ膜は、樹脂成型体との密着性が全体的に低く、且つ、その部位毎の密着度のばらつきが大きい。
【0026】
また、樹脂成型体の表層から除去したといえるためには、少なくとも表層に浸透している有機金属錯体が減少すればよいが、好ましくは、表層の残存数(濃度)が表層より深い部位の数(濃度)より小さくなったり、あるいは、所定の単位深さ毎の有機金属錯体の数(濃度)が表層より深い部位において最大(ピーク)となったりする程度に、表層に浸透している有機金属錯体を減少させることが望ましい。
【0027】
つまり、樹脂成型体の表層から還元剤を敢えて除去することにより、樹脂成型体の内部のみで選択的に金属錯体の還元反応がおき、固定化される。樹脂成型体の表層における還元剤濃度は低いため金属錯体が還元されにくいが、還元剤濃度の高い内部では金属錯体が還元されやすくなる。結果、樹脂の表層よりも内部の金属錯体の分散濃度が高まる。そのため、後述するように高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ法により樹脂内部でメッキ反応を行った際、樹脂の表層ではメッキ膜が成長しにくく、内部より確実にメッキ膜が成長しやすくなる。そのため、メッキの密着性およびその安定性が高まる。
【0028】
なお、樹脂成型体の表層から還元剤を除去する処理は、たとえば、還元剤を浸透させた樹脂成型体を所定時間内で水で洗浄したり、還元剤を浸透させた樹脂成型体にエアーを所定時間内で吹き付けたりすればよい。これにより、樹脂成型体の表層から還元剤を除去することができる。樹脂成型体に浸透させた還元剤の一部を除去することができる。特に、還元剤がアルコールなどである場合には、アルコールなどは揮発し易いので、所定時間内で大気中に放置するだけで、樹脂成型体の表層から還元剤を除去することができる。
【0029】
また、この第1の態様は、さらに、上記有機金属錯体が固定化された上記樹脂成型体上に、高圧二酸化炭素を含む無電解メッキ法によりメッキ膜を形成してもよい。この場合、樹脂成型体の表層より内側の深いところに固定化された有機金属錯体からメッキを成長させ、樹脂成型体に高い密着度で密着するメッキ膜を形成することができる。しかも、樹脂成型体の表層における有機金属錯体が無いあるいは少ないので、表層からメッキ膜が成長しなくなり、メッキ膜の密着度は高い値において安定する。
【0030】
これに対して、たとえば、単に、有機金属錯体を付与した樹脂成型体に対して、高圧二酸化炭素を含む無電解メッキ法によりメッキ膜を形成しようとした場合には、樹脂成型体の温度は表面から内側に向かって温度勾配をもったまま表面側から上昇し、且つ、樹脂成型体には内側より表面側ほど高濃度に有機金属錯体が付与されているので、メッキ膜はその表層に高濃度で存在している有機金属錯体から成長してしまうこととなり、メッキ膜の樹脂成型体に対する密着度は高くできなかった。また、表層内においても、その中の表面側の部位からメッキ膜が成長している箇所と、内側の部位からメッキ膜が成長している箇所とが混在し、メッキ膜の密着度が低い箇所が発生し、しかも、この密着度は不安定になる。
【0031】
また、この第1の態様は、さらに、上記有機金属錯体を固定化した後であって且つ上記メッキ膜の形成前に、上記樹脂成型体を上記有機金属錯体の熱還元温度より高い温度にて加熱してもよい。このように有機金属錯体を樹脂成型体の表層より内側の深い部位に固定化した後に、有機金属錯体の熱還元温度より高い温度に加熱すると、有機金属錯体は表面側へ移動し、樹脂成型体の表層より内側の深い部位における有機金属錯体の濃度を高めることができる。したがって、加熱による前処理(アニール処理)をしない直前の段落の場合に比べて、樹脂成型体の表層より内側の深い部位における触媒核が増量され、その分、メッキ膜の樹脂成型体に対する密着度をさらに高くすることができる。また、所定の深さに有機金属錯体が高濃度で存在することになるので、メッキ膜はこの所定の深さから安定的に成長するようになり、メッキ膜の密着度の安定性がさらに高まる。
【0032】
また、この第1の態様において、上記有機金属錯体は、上記樹脂成型体とともに高圧容器内に収容されることにより上記樹脂成型体に固定化され、且つ、上記樹脂成型体を上記有機金属錯体の熱還元温度より高い温度に加熱する処理は、上記高圧容器から上記有機金属錯体を回収した後にするようにしてもよい。これにより、有機金属錯体は、樹脂成型体と接触する際に熱還元反応せず、しかも、接触処理後に高圧二酸化炭素から分離して回収することができる。回収した有機金属錯体は、再利用することができる。
【0033】
また、この第1の態様において、上記有機金属錯体は、フッ素を含んでもよい。フッ素を含む有機金属錯体は二酸化炭素によく溶解するので、高圧二酸化炭素に高濃度で溶解して樹脂成型体に接触させることができる。しかも、フッ素を含む有機金属錯体は樹脂成型体に入り込み難い特性を有するものであるが、樹脂成型体には予め還元剤を浸透させてあるので、高濃度の有機金属錯体が樹脂成型体内に浸透して効率よく樹脂成型体内に有機金属錯体を固定化することができる。
【0034】
また、この第1の態様において、上記有機金属錯体は、メッキ用触媒として機能する金属元素であるPd、Pt、Ni、CuおよびAgのうちの、少なくとも1種類の金属元素を含んでもよい。これにより、樹脂成型体の表層より内側の深い部位に、メッキ用触媒を固定化することができる。
【0035】
また、この第1の態様において、上記高圧二酸化炭素は、超臨界状態であってもよい。
【0036】
ところで、本発明に用いることのできる還元剤の種類は任意であるが、たとえばジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム、次亜燐酸ナトリウム等の還元剤を用いることができる。こうした固体の還元剤の場合、水やアルコール等の溶媒に溶解させた溶液を調合し、熱可塑性樹脂を該溶液に浸漬させることで還元剤を樹脂内部に浸透させることができる。熱可塑性樹脂への浸透性を高めるため、超音波を溶液に印加したり、溶液を加温したり、還元剤の種類によってpHを調整してもよい。例えば、水素化ホウ素ナトリウムを用いた場合、溶液をアルカリ性に調整し、次亜燐酸ナトリウムを用いた場合、中性から酸性に調整することが望ましい。水溶液を用いた場合、表面張力を低減し浸透力を高めるため、エタノール等表面張力の低い溶媒を混合したり、ラウリル硫酸ナトリウム等添加剤を溶解させてもよい。
【0037】
また、還元作用のあるヒドロキシル基を有するアルコールやポリアルキルグリコール、フェノール等を還元剤として用いることができる。特にエタノールは表面張力が低く樹脂内部に浸透しやすいので好適である。アルコールの種類は任意であるが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール等を用いることができる。ポリエチレングリコール等、高分子量のポリアルキルグリコールを用いることにより樹脂内部から還元剤が抜けきって、効果が消失してしまうのを抑制することができる。さらに、これら還元剤は2種類以上組み合わせて用いても良い。
【0038】
また、本発明においては、これら還元剤および還元剤の溶解した溶液を高圧流体と混合させることにより、より還元剤の浸透性を向上させることができる。特に高圧二酸化炭素や超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素)を用いることで樹脂表面を膨潤させ還元剤を樹脂内部に深く浸透させることができる。
【0039】
また、本発明において用いることのできる樹脂材料は特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の場合、通常、非晶質、結晶性を問わず、その種類は任意である。具体的には、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリルなどのポリビニル、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシドなどのポリエーテル、その他、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ乳酸などの高分子材料を用いることができる。さらに、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリテレフタルアミド等の芳香族アミド、ポリ4フッ化エチレン等のフッ素系高分子を用いることができる。熱硬化性樹脂の場合、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、シリコーン樹脂等を用いることができる。光硬化性樹脂の場合、感光性エポキシ樹脂、感光性アクリル樹脂、感光性ポリイミド等を用いることができる。これら樹脂材料に、ガラス繊維、炭素繊維、無機化合物、セラミック等のフィラーを含有したものを用いてもよい。
【0040】
また、本実施の形態において用いることのできる有機金属錯体としては、高圧二酸化炭素にある程度の溶解度を有し、メッキ用触媒となる金属元素Pd、Pt、Ni、Cu、Agをいずれかの少なくとも1種類は含有する材料が好ましい。例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)等を用いることができる。特にフッソを配位子に有する金属錯体は高圧二酸化炭素に相溶しやすいので好適である。
【発明の効果】
【0041】
本発明では、第一に、高圧二酸化炭素を用いて金属錯体をポリマーに浸透させるメッキ前処理のバッチ処理法において、低温度の処理においても安定に金属錯体をポリマーに浸透、かつ固定化することができ、かつ余剰の金属錯体を高圧容器内部より回収できる。また、本発明では、第二に、メッキ膜の密着強度をより向上し、安定化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法の実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0043】
本実施例では、メッキ前処理において、還元剤を含む溶媒および有機金属錯体を高圧流体に溶解させ、これを樹脂材料に接触させるために所定の高圧装置を用いた。本実施例では、高圧流体として二酸化炭素を使用した。初めに、本実施例で使用した高圧装置について説明する。
【0044】
図1は、本実施の形態が適用されるメッキ前処理および無電解メッキを実施するための高圧装置100を説明する概略図である。図1に示すように、高圧装置100は、主に、樹脂材料(樹脂成型体)200を収容する第一高圧容器6と、第一高圧容器6に供給する二酸化炭素を収容する液体二酸化炭素ボンベ1と、二酸化炭素を昇圧するシリンジポンプ3と、図示しないカトーリッジヒーターで温調可能で、有機金属錯体を収容する第二高圧容器(高圧容器)13と、高圧二酸化炭素に溶解した有機金属錯体を分離回収するための分離回収機9、回収した有機金属錯体を入れる回収槽11とを有する。また、高圧装置100の各構成要素間には、図1に示すように、高圧二酸化炭素の圧力や流動を制御するためのバルブ2、4、5、8、10、12、14と、圧力計15、16が適宜所定の箇所に設置されている。
【0045】
なお、第一高圧容器6は、図示しない冷却回路を流動する冷却水によって冷却可能である。また、第一高圧容器6には、還元剤を含む溶媒と高圧二酸化炭素との混合媒体と、有機金属錯体と高圧二酸化炭素との混合媒体とが供給可能である。また、第一高圧容器6には無電解メッキ液を満たすことができる。
【0046】
本実施例では、還元剤を含む溶媒として、エチレングリコールとエタノールの混合溶媒を用い、樹脂材料200として、ガラス繊維が10%混合されたポリアミド6(PA6)の縦70mm、横15mm、厚み1mmの基板を用い、有機金属錯体としては、メッキ用触媒Pdを含有するヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。また、メッキ膜として、高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキによりニッケルリン膜を形成し、更にその上に電解メッキによりニッケル膜を積層した。
【0047】
本実施例では、図2に示す手順で樹脂材料200の表面にメッキ膜を形成した。
【0048】
まず、エタノール100mlとエチレングリコール100mlの混合液を調製し、この混合液を該樹脂材料200とともに、内容積が300mlの第一高圧容器6に仕込んだ。第一高圧容器6は、密閉状態で80℃に温調した。次に、液体二酸化炭素ボンベ1より供給した液体二酸化炭素をシリンジポンプ(ISCO社製 260D)3にて加圧し、圧力計15が15MPaになるように昇圧し、超臨界二酸化炭素にした。更に、逆止弁4を介し、手動ニードルバルブ5を開き、第一高圧容器6の内部を15MPaに昇圧し、超臨界二酸化炭素を充満させた。昇圧後、手動ニードルバルブ5を閉鎖した。第一高圧容器6の内部を60分間圧力保持したまま、超臨界二酸化炭素を樹脂材料200に接触させ、エタノールおよびエチレングリコールを樹脂材料200内に浸透させた(図2中の工程S21)。
【0049】
なお、本実施例では、この還元剤を含む溶媒を樹脂材料200に付与する工程を超臨界条件で行ったが、この工程での第一高圧容器6の温度、圧力はこれに限定されない。ただし、第一高圧容器6のシールが困難になることから、温度、圧力はそれぞれ200℃以下、30MPa以下であることが望ましい。また、本実施例では第一高圧容器6の内部で撹拌をしなかったが、撹拌機17などを用いて撹拌しても構わない。また、本実施例では第一高圧容器6の圧力保持時間を60分間にしたが、還元剤を含む溶媒が樹脂材料200に浸透する時間であればよく、還元剤を含む溶媒や樹脂材料200の種類、第一高圧容器6内の温度、圧力等で最適時間は変わってくる。
【0050】
次に、手動ニードルバルブ7を開き、更に背圧弁8を開き、第一高圧容器6を大気開放した。次に、第一高圧容器6から樹脂材料200およびエタノールとエチレングリコールの混合液を取り出し、樹脂材料200を水洗し、樹脂材料200の表面についたエタノールとエチレングリコールが蒸発するまで大気中にて常温で乾燥させた。これにより、樹脂材料200内に浸透した還元剤のうち、樹脂材料200の表層(最表面の部位)の還元剤を樹脂材料200から除去することができる。
【0051】
次に、乾燥後の前記樹脂材料200を第一高圧容器6に仕込んで密閉するとともに、有機金属錯体100mgを内容積が100mlの第二高圧容器13に仕込んで密閉し、50℃に温調した。次に、液体二酸化炭素ボンベ1より供給した液体二酸化炭素をシリンジポンプ3にて加圧し、圧力計15が15MPaになるように昇圧し、超臨界二酸化炭素にした。次に、逆止弁4を介し、手動ニードルバルブ14を開き、第二高圧容器13内部を15MPaに昇圧し、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させた。次に、手動ニードルバルブ15を開き、有機金属錯体を含む超臨界二酸化炭素を樹脂材料200に45分間接触させ、樹脂材料200に有機金属錯体を浸透させた(図2中の工程S22)。
【0052】
なお、第一高圧容器6において高圧二酸化炭素と有機金属錯体とは攪拌機17等を用いて均一相にするのが望ましい。そのため、本実施例では、常時、攪拌機17により第一高圧容器6内の混合溶媒を攪拌した。
【0053】
また、第一高圧容器6の温度、圧力は、超臨界条件を満たし、かつ、有機金属錯体が熱還元しない温度であることが望ましい。これにより、超臨界状態であると表面張力が下がり、有機金属錯体が樹脂材料200へ浸透しやすくなる。また、有機金属錯体が熱還元されない温度雰囲気であることにより、樹脂材料200内に浸透せずに第一高圧容器6内に残留する有機金属錯体が分解しなくなり、その後に回収、再利用が可能となる。また、樹脂材料200の表面付近にのみ有機金属錯体および還元された金属微粒子の濃度が高くなることを防いで、従来よりも深い所まで浸透することができるので、後述するように、メッキ膜の密着力向上が期待できる。二酸化炭素を使用する場合、超臨界条件となる、温度、圧力はそれぞれ31℃、7.1MPa以上である。第一高圧容器6の図示外のシールによる密閉性を確保するために、それぞれは200℃、30MPa以下であることが望ましい。
【0054】
また、本発明において、高圧二酸化炭素に金属錯体を溶解させ、樹脂材料200に接触させる第一高圧容器6の内部温度は、金属錯体の熱分解温度をあらかじめ示差走査熱量計(DSC)により測定し、大気もしくは窒素雰囲気における金属錯体の熱分解開始温度よりも10℃以上低い温度に制御することが望ましい。また、金属錯体の耐熱温度が高い場合においても、あらかじめ樹脂材料200に浸透させた還元剤が変質、昇華、沸騰等しない温度雰囲気にて高圧処理することが望ましい。本実施例では、有機金属錯体にヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、本錯体の窒素雰囲気における熱分解開始温度は約73℃以上であるので、処理温度は63℃以下の50度であった。
【0055】
また、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させ、樹脂材料200に接触させている時間は、有機金属錯体が樹脂材料200に浸透する時間であればよく、有機金属錯体や樹脂材料200の種類、や第一高圧容器6内の温度、圧力等で最適時間は変わってくる。
【0056】
有機金属錯体を樹脂材料200に浸透させた後、手動ニードルバルブ7を開き、更に背圧弁8を開いて分離回収機器9を通して、第一高圧容器6を大気開放し、樹脂材料200を取り出した。回収槽11には、二酸化炭素と分離された有機金属錯体が回収された。金属錯体の回収量は後述の表1に示す。
【0057】
ところで、本発明の樹脂材料200のメッキ前処理方法では、有機金属錯体を樹脂材料200に浸透させた時に、樹脂材料200内で有機金属錯体が還元剤を含む溶媒によってメッキ用触媒核となる金属微粒子に還元される。そのため、本発明では、次に、高圧二酸化炭素で処理を行った後、樹脂材料200内の金属錯体を追加還元および表面内部に偏析させるため、還元処理や熱処理を行うことが望ましい。実際、本発明者らは、樹脂材料200に有機金属錯体を浸透させた後、第一高圧容器6から取り出した樹脂材料200を加熱したところ、メッキ膜の密着性がさらに向上することを確認した。
【0058】
この熱処理により密着性の向上する原因は定かでないが、次のようなメカニズムであると考えられる。高圧二酸化炭素を用い無電解メッキ膜を熱可塑性樹脂等の樹脂200の内部より成長させるメッキの場合、メッキが樹脂200内に浸透する深さは50〜200nm以下が適当であり、より望ましくは50〜100nm程度であることが判明している。それ以上のメッキの浸透深さになると、樹脂200の最表面の膨潤および応力が大きくなり樹脂200の強度が劣化すると考えられる。そのため、金属錯体および金属微粒子の浸透深さは、樹脂200の表面より50〜200nmの深さが適当である。しかしながら、実際に浸透処理を実施すると、金属錯体および金属微粒子は、1μm以上の深さに浸透してしまう場合がある。
【0059】
そして、このような状況において熱処理を行うことにより、樹脂200に深く浸透しかつ樹脂200に相溶しない金属微粒子が樹脂200の表面近傍内部の適当な深さ領域に集中し、それが樹脂200内部のメッキ反応性向上に寄与すると考えられる。あるいは、還元剤と反応せず、かつ高圧二酸化炭素の減圧排気時に表面により排気されず樹脂200内部に深く浸透した金属錯体が、残存しているとも考えられる。いずれにせよ、熱還元処理により、これら金属錯体が表面にブリードアウトしようとするため、表面近傍内部の適当な深さ領域に金属微粒子が集中するものと考えられる。
【0060】
このため、本実施例では、有機金属錯体を樹脂材料200に浸透させた後、次に、触媒が浸透した熱可塑性樹脂200を、大気雰囲気中にて150℃の温度で1時間にわたり熱処理した。上記のようにして、本実施例における樹脂材料200のメッキ前処理を行なった。
【0061】
次に、メッキ前処理を終えた樹脂材料200に無電解メッキ膜を形成した(図2の工程S23)。本実施例では、無電解メッキ液の原液として、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤が含まれる奥野製薬社製ニコロンDKを用いた。また、本実施例では無電解メッキ液に水とアルコールを混合させた。アルコールの種類は任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができるが、本実施例ではエタノールを用いた。
【0062】
メッキ膜形成工程では、まず、樹脂材料200と前記Ni−P無電解メッキ液を、図1の第一高圧容器6内に仕込んで密閉した。第一高圧容器6およびNi−P無電解メッキ液の温度は、メッキの反応温度(70℃〜85℃)以下である50℃に調整した。この条件化では、該樹脂材料200はメッキの反応温度以下の低温(メッキ反応の起こらない温度)の無電解メッキ液と接触しているため、該樹脂材料200の表面にメッキ膜は成長しない。
【0063】
次に、メッキ反応が起こらない低温度に温調されている第一高圧容器6内に、高圧二酸化炭素を導入した。なお、本実施例では、高圧二酸化炭素として超臨界二酸化炭素を用いた。具体的には、液体二酸化炭素ボンベ1より供給した液体二酸化炭素をシリンジポンプ(ISCO社製 260D)3にて加圧し、圧力計15が15MPaになるように昇圧し、超臨界二酸化炭素にした。更に逆止弁4を介し、手動ニードルバルブ5を開き、第一高圧容器6内部を15MPaに昇圧し、超臨界二酸化炭素を充満させ、超臨界二酸化炭素を樹脂材料200に接触させた。
【0064】
この際、導入された超臨界二酸化炭素により、樹脂材料200の表面は膨潤する。また、超臨界二酸化炭素の混合したメッキ液は表面張力が低くなるので、無電解メッキ液が超臨界二酸化炭素とともに樹脂材料200に効率よく浸透する。その結果、樹脂材料200の内部に存在する金属微粒子まで無電解メッキ液が到達することになる。なお、この例では無電解メッキ液にアルコールを含ませているので、無電解メッキ液の表面張力が一層低下しており、無電解メッキ液が樹脂材料200の内部へより浸透し易くなっている。また、この例では、超臨界二酸化炭素導入後に撹拌を行わなかったが、超臨界二酸化炭素とメッキ液との相溶性を上げるために撹拌機17等により撹拌しても構わない。
【0065】
次に、第一高圧容器6の温度を85℃に昇温する。これにより、第一高圧容器6内でメッキ反応が起きる。樹脂材料200の表面には、無電解メッキ反応が起き、メッキ膜が形成された。この際、この例のメッキ膜の形成方法では、前述のように樹脂材料200の内部に存在する金属微粒子まで無電解メッキ液が浸透しているので、樹脂材料200の表面だけでなく、その内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜が成長した。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法では、樹脂材料200内部の自由体積内にもメッキ膜が成長することとなり、メッキ膜は樹脂材料200の内部に食い込んだ状態で高い密着性で形成される。
【0066】
メッキ終了後、手動ニードルバルブ7を開き、更に背圧弁8を開いて、第一高圧容器6内の二酸化炭素を排気した。次いで、第一高圧容器6を開けて、樹脂材料200を第一高圧容器6から取り出した。次に、第一高圧容器6から取り出した樹脂材料200の内部から二酸化炭素および無電解メッキ液を脱気させるために、樹脂材料200をしばらく乾燥した。
【0067】
次に、樹脂材料200に対して、常圧で無電解メッキと電解メッキを行った(図2の工程S24)。まず、前記樹脂材料200の酸化されたメッキ膜表面を塩酸で活性化した。その後、大気中で従来の無電解ニッケル−リン液を用いて、常圧で無電解メッキを施し、厚さ1μmのメッキ膜を積層した。さらに、無電解メッキ法により形成されたメッキ膜を電極として、大気中で従来の電解メッキ法により、膜厚40μmのニッケル膜を積層した。以上の方法により、全表面が金属膜により覆われた樹脂材料200を得た。
【0068】
比較例1.
本比較例では、図3に示す手順で樹脂材料200の表面にメッキ膜を形成した。すなわち、本比較例では、還元剤を含む溶媒を樹脂材料200に接触させ、浸透させる工程(図2の工程S21)を行わなかった。それ以外は、実施例1と同様にして樹脂材料200の表面にメッキ膜を形成した。
【0069】
しかしながら、高圧二酸化炭素下で無電解メッキを行う工程(図3の工程S32)で、樹脂材料200にメッキ膜がほとんど形成されなかった。これは、金属錯体が樹脂に対する相溶性が低いため、一旦樹脂内に浸透したものの、高圧二酸化炭素の排気時に同時に排出されてしまい、樹脂200内部に殆ど残存しなかったためと考えられる。
【0070】
比較例2.
本比較例では、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体を溶解させた超臨界二酸化炭素を、樹脂材料200に接触させ、浸透させる時の第一高圧容器6の温度を150℃にした。それ以外は、比較例1と同様の処理により樹脂材料200の表面にメッキ膜を形成した。これにより、全表面が金属膜で覆われた樹脂材料200を得た。
【実施例2】
【0071】
本実施例では、実施例1と同様に図2に示す手順で樹脂材料200にメッキ膜を形成した。ただし、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体を溶解させた超臨界二酸化炭素を樹脂材料200に接触させ、浸透させる処理(図2の工程S22)を行った後に、実施例1のように熱処理することなく、大気中にて常温で1時間乾燥させた。また、その後、メッキ膜を形成した(図2の工程S23〜S24)。これにより、全表面が金属膜で覆われた樹脂材料200を得た。
【実施例3】
【0072】
本実施例では、実施例1と同様に図2に示す手順で樹脂材料200にメッキ膜を形成した。ただし、還元剤を含む溶媒を樹脂材料に接触させ、浸透させる工程(図2の工程S21)を、図1に示す高圧装置を使用せずに、大気中で行った。具体的には、エタノール100mlとエチレングリコール100mlの混合液を入れた図示外の密閉容器に樹脂材料200を入れ、常圧下、80℃で60分間超音波をかけ、その後取り出して、表面のエタノールとエチレングリコールが蒸発するまで乾燥させた。それ以外は、実施例1と同様にして樹脂材料200にメッキ膜を形成した(図2の工程S22〜S24)。これにより、全表面が金属膜で覆われた樹脂材料200を得た。
【0073】
なお、本実施例では、常圧下、80℃で60分間超音波をかけたが、還元剤が樹脂材料200に浸透すればよく、この圧力、温度、時間、超音波の有無などは、これに限定されない。
【実施例4】
【0074】
本実施例では、実施例3と同じ方法により、樹脂材料表面にメッキ膜を形成した。ただし、エタノール100mlとエチレングリコール100mlの混合液の代わりに、エタノール100mlと水100mlに次亜燐酸ナトリウム500mgを溶解させた溶液を使用した。これにより、全表面が金属膜で覆われた樹脂材料200を得た。
【実施例5】
【0075】
本実施例では、実施例3と同様に図2に示す手順で樹脂材料200の表面にメッキ膜を形成した。ただし、エタノール100mlとエチレングリコール100mlの混合液の代わりに、2−メトキシエタノール90mlと水90mlと次亜燐酸20mlの混合液を使用した。それ以外は実施例3と同様にして、全表面が金属膜で覆われた樹脂材料200を得た。
【実施例6】
【0076】
本実施例では、実施例1と同様に図2に示す手順で、樹脂材料200にメッキ膜を形成した。ただし、還元剤を含む溶媒を樹脂材料200に接触させ、浸透させる工程(図2の工程S21)において、還元剤としてエタノールを使用した。そして、80℃に温調した第二高圧容器2に10ml入れ、手動ニードルバルブ5は開かずに閉じたまま、手動ニードルバルブ14を開き、超臨界二酸化炭素とエタノールを混合したガス状態にした。その後、手動ニードルバルブ12を開き、前記混合ガスを樹脂材料200の入った第一高圧容器6に入れて、樹脂材料200に接触させた。それ以外は、実施例1と同様にして樹脂材料200にメッキ膜を形成した(図2の工程S22〜S24)。これにより、全表面が金属膜で覆われた樹脂材料200を得た。
【0077】
以上の実施例1〜6および比較例1〜2のメッキ膜の品質を評価した。品質評価項目としては、環境試験および密着力評価を行った。環境試験の条件は、温度80℃、湿度80%で100h、それぞれ10枚ずつ行った。また、密着力評価は、引っ張り試験機(島津製作所社製 AGS−J 100N)でそれぞれ10枚ずつ、引っ張り強度を測定した(JISH8630)。これらの結果に加え、メッキ膜の外観評価と、回収できた有機金属錯体の量とを、表1に示す。引っ張り強度は、測定した10枚の最小値、最大値、平均値を示す。なお、従来のエッチング法を用いたABS樹脂を用いたメッキの引っ張り強度の目標値は10N/cm以上である。
【0078】
【表1】

【0079】
表1から、実施例1〜6で形成したメッキ膜は、実使用上全く問題のない十分な密着力があることが分かった。一方、還元剤を含む溶媒を樹脂材料200に接触させて浸透させる工程(図2の工程S21)を行わなかった比較例1では、メッキ膜が上手く形成されなかったことから、実施例1〜6では樹脂材料200内に浸透させた還元剤によって、樹脂材料200内に有機金属錯体がメッキ用触媒核となる金属微粒子に還元されて固定化されていることが分かる。
【0080】
また、従来法である比較例2に比べ、実施例1〜6の方が引っ張り強度のばらつきが小さく、平均値も高くなっている。さらに、比較例2では有機金属錯体の回収が全くできなかったのに比べ、実施例1〜6では有機金属錯体の回収ができた。
【0081】
これは、比較例2では、熱還元により、第一高圧容器6内で樹脂材料200内に有機金属錯体を浸透させて固定化させているため、図4(A)に示すように、樹脂材料200の最表面ほど金属微粒子もしくは金属錯体51の濃度が高くなっており、そのために、高圧二酸化炭素を混合させたメッキ液を樹脂材料200内部に浸透させた後に樹脂材料200内部よりメッキ反応させた場合、図4(B)に示すように、最表面の触媒活性が高くなり、樹脂材料200内部よりメッキ成長しにくくなっているためであると考えられる。なお、図4において、51は、金属微粒子もしくは金属錯体であり、52は、メッキ膜である。
【0082】
一方、本発明の実施例1〜6の場合、有機金属錯体51が熱還元しない温度において、第一高圧容器6内で有機金属錯体51を樹脂材料200内へ浸透させ、図5(A)に示すように、予め浸透させておいた還元剤61により還元して金属化して固定化させているため、図5(B)に示すように、従来法よりも表面から離れた深い所において金属微粒子もしくは金属錯体51の濃度が高くなり、そのため、高圧二酸化炭素を混合させたメッキ液を樹脂材料200内部に浸透させた後に樹脂材料200内部よりメッキ反応させた場合、図5(C)に示すように、従来法よりも樹脂材料200の内部からメッキ膜52が成長するようになっており、そのため密着強度が向上し、ばらつきが小さくなっているものと考えられる。
【0083】
また、表1から、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体を溶解させた超臨界二酸化炭素を樹脂材料200に接触させ、浸透させる処理を行った後、実施例1では大気雰囲気中にて150℃の温度で1時間、触媒の浸透した熱可塑性樹脂に熱処理を行い、一方、実施例2では熱処理は行わず、大気中にて常温で1時間乾燥させたが、熱処理を行った実施例1の方が、密着力が高いことが分かる。この事から、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体を溶解させた超臨界二酸化炭素を樹脂材料200に接触させ、浸透させる処理を行った後に、追加で還元処理(実施例1では熱還元)を行うと、密着力向上の効果があることが分かる。
【0084】
図6は、樹脂材料200内での金属微粒子の濃度分布を定性的に示す分布図である。図6(A)は、比較例2における金属微粒子の濃度分布であり、表層において金属微粒子の濃度分布が最大となっている。この場合、メッキ液は、表層で高密度に存在し且つ活性化された金属微粒子を触媒核として成長し、図4(B)のようなメッキ膜が形成される。これに対して、図6(B)は、表層から還元剤を除去した上で金属錯体を付与した場合の金属微粒子の濃度分布であり、表層より深い部位で金属微粒子の濃度分布が最大となっている。この場合、メッキ液は、表層より奥に入り込んで金属微粒子から成長し、図5(C)のようなメッキ膜が形成される。
【0085】
また、図6(C)は、表層から還元剤を除去した上で金属錯体を付与し、さらに加熱処理をした場合の金属微粒子の濃度分布であり、図6(B)と同様に表層より深い部位で金属微粒子の濃度分布が最大となっている。しかも、図6(B)と比べて、深い部位での金属微粒子が減り、且つ、先の最大濃度となる深さ部分において、金属微粒子が増加している。このため、図6(C)でのメッキ膜は、図6(B)の場合と比べて、適当な深さに存在するより多くの金属微粒子から成長することとなり、メッキ膜の密着度が増すことになる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法では、密着性が高く、しかも、その高い密着性において安定したメッキ膜を、樹脂成型体に形成することができる。したがって、高圧二酸化炭素を用いたメッキ膜をバッチ処理で形成する際に、生産安定性、メッキ品質向上、低ランニングコスト化などを図るために好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本実施例で使用する高圧装置の概略構成を示す。
【図2】図2は、実施例でのメッキ膜形成までのフローチャートを示す。
【図3】図3は、比較例でのメッキ膜形成までのフローチャートを示す。
【図4】図4は、比較例での金属微粒子の浸透状態と、メッキ膜の形成状態とを示す。
【図5】図5は、実施例での金属微粒子の浸透状態と、メッキ膜の形成状態とを示す。
【図6】図6は、実施例と比較例での金属微粒子の濃度分布を模式的に示す。
【符号の説明】
【0088】
1 二酸化炭素ボンベ
3 シリンジポンプ
6 第一高圧容器
9 分離回収機
11 回収槽
13 第二高圧容器(高圧容器)
51 金属微粒子
52 メッキ膜
61 還元剤
100 高圧装置
200 樹脂材料(樹脂成型体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成型体を含む複合材料の製造方法であって、
還元剤を上記樹脂成型体に接触させて、上記還元剤を上記樹脂成型体内に浸透させることと、
上記還元剤が浸透した上記樹脂成型体に、有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を接触させて、上記還元剤により上記有機金属錯体を上記樹脂成型体内に固定化することを含むことを特徴とする樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項2】
上記還元剤が浸透した上記樹脂成型体は、その表層から上記還元剤が除去された後に、上記有機金属錯体が溶解した上記高圧二酸化炭素と接触する請求項1記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項3】
上記有機金属錯体が溶解した上記高圧二酸化炭素を、上記有機金属錯体の熱還元温度より低い温度雰囲気にて上記樹脂成型体と接触させる請求項1または2記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項4】
さらに、上記有機金属錯体が固定化された上記樹脂成型体上に、高圧二酸化炭素を含む無電解メッキ法によりメッキ膜を形成することとを含む請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項5】
さらに、上記有機金属錯体を固定化した後であって且つ上記メッキ膜の形成前に、上記樹脂成型体を上記有機金属錯体の熱還元温度より高い温度にて加熱することを含む請求項4記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項6】
上記有機金属錯体は、上記樹脂成型体とともに高圧容器内に収容されることにより上記樹脂成型体に固定化され、且つ、上記樹脂成型体を上記有機金属錯体の熱還元温度より高い温度に加熱する処理は、上記高圧容器から上記有機金属錯体を回収した後にする請求項5記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項7】
上記還元剤は、溶媒に溶解されて上記樹脂成型体に接触する請求項1〜6のいずれか1項記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項8】
上記溶媒は、高圧二酸化炭素である請求項7記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項9】
上記溶媒は、水またはアルコールである請求項7記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項10】
上記有機金属錯体は、フッ素を含む請求項1〜9のいずれか1項記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項11】
上記有機金属錯体は、メッキ用触媒として機能する金属元素であるPd、Pt、Ni、CuおよびAgのうちの、少なくとも1種類の金属元素を含む請求項1〜10のいずれか1項記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。
【請求項12】
上記有機金属錯体が溶解する上記高圧二酸化炭素は、超臨界状態である請求項1〜11のいずれか1項記載の樹脂成型体を含む複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−215496(P2009−215496A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62767(P2008−62767)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】