説明

樹脂成形体に対するエッチングの後処理剤、該後処理剤を用いる後処理方法、及び樹脂成形体に対するめっき方法

【課題】樹脂成形体に対する無電解めっき処理において、マンガン酸塩を含むエッチング液を用いてエッチング処理を行う場合に、十分な密着性を有するめっき層を形成することが可能な新規な処理方法、及び該処理方法に使用できる処理剤を提供する。
【解決手段】樹脂成形体に対する無電解めっきの前処理工程において、マンガン酸塩を含むエッチング液を用いて樹脂成形体に対してエッチング処理を行った後、還元性化合物及びアミン化合物を含む水溶液からなる後処理剤に該樹脂成形体を接触させることを特徴とする樹脂成形体に対するエッチングの後処理方法、並びに
上記方法によって樹脂成形体に対するエッチングの後処理を行った後、該樹脂成形体に無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解めっきを行い、必要に応じて、電気めっきを行うことを特徴とする樹脂成形体に対するめっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理後に用いる後処理剤、該後処理剤を用いる後処理方法、及び該後処理方法を含む処理工程による樹脂成形体に対するめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を軽量化する目的等から、自動車用部品として樹脂成形体が使用されている。この様な目的では、例えば、ABS樹脂、PC/ABS樹脂、PPE樹脂、ポリアミド樹脂等が用いられており、高級感や美観を付与するために、銅、ニッケルなどのめっきが施されることが多い。
【0003】
樹脂成形体に電気めっき皮膜を形成する方法としては、脱脂及びエッチングを行った後、必要に応じて、中和及びプリディップを行い、次いで、錫化合物及びパラジウム化合物を含有するコロイド溶液を用いて無電解めっき用触媒を付与し、その後必要に応じて活性化処理(アクセレーター処理)を行い、無電解めっき及び電気めっきを順次行う方法が一般的な方法である。
【0004】
この場合、エッチング処理液としては、例えば、ABS樹脂を被処理物とする場合には、三酸化クロムと硫酸の混合液からなるクロム酸混液が広く用いられている。しかしながら、クロム酸混液は、有毒な6価クロムを含むために作業環境に悪影響があり、しかも廃水を安全に処理するためには、6価クロムを3価クロムイオンに還元した後、中和沈殿させることが必要であり、廃水処理のために煩雑な処理が要求される。このため、現場での作業時の安全性や廃水による環境への影響を考慮すると、クロム酸を含むエッチング処理液を用いないことが望まれる。
【0005】
クロム酸混液に替わり得るエッチング液としては、マンガン酸塩を有効成分として含むエッチング液が知られている。この様なエッチング液としては、過マンガン酸塩とアルカリ金属水酸化物を含むアルカリ性のエッチング液(下記非特許文献1参照)、過マンガン酸塩と無機酸を含む酸性のエッチング液(下記非特許文献2参照)等が知られている。しかしながら、これらのエッチング液を用いて樹脂成形体のエッチング処理を行う場合には、触媒付与後に無電解めっきを行う際に、無電解めっきの析出不良が生じることがあり、更に、触媒付与液にマンガン成分が持ち込まれて、無電解めっきの析出性に悪影響を及ぼす等の問題点も知られている。従って、マンガン酸塩を含むエッチング液を用いたエッチング処理によって、良好な無電解めっき皮膜を形成することを可能とするために、処理工程の改良が望まれている。
【非特許文献1】表面技術便覧,(社)表面技術協会,pp.329,1998
【非特許文献2】無電解めっき 基礎と応用,電気鍍金研究会,pp.133,1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされてものであり、その主な目的は、樹脂成形体に対する無電解めっき処理において、マンガン酸塩を含むエッチング液を用いてエッチング処理を行う場合に、十分な密着性を有するめっき層を形成することが可能な新規な処理方法、及び該処理方法に使用できる処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、樹脂成形体に対してマンガン酸塩を有効成分として含むエッチング液を用いてエッチング処理を行った後、還元性化合物とアミン化合物を含む処理剤によって後処理を行うことによって、エッチング処理によって樹脂成形体の表面に付着したマンガン塩をほぼ完全に除去して触媒液中へのマンガン成分の持ち込みを防止でき、更に、触媒吸着量が増加して、安定して良好なめっき皮膜を形成することが可能となることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記のマンガン酸塩を含むエッチング液によるエッチング処理後に用いる後処理剤、該後処理剤を用いる後処理方法、及び該後処理方法を含む処理工程による樹脂成形体に対するめっき方法を提供するものである。
1. 還元性化合物及びアミン化合物を含む水溶液からなる、マンガン酸塩を含むエッチング液による樹脂成形体のエッチング処理後に用いる後処理剤。
2. 更に、無機酸を含む水溶液からなる、上記項1に記載の後処理剤。
3. アミン化合物が、一般式:HN(CHCHNH)H(式中、nは1〜5の数値である)で表されるエチレンアミン類、ポリエチレンイミン類、及び一般式:
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは、プロピル基又は窒素原子上に置換基を有することのあるアミノプロピル基であり、Rは、プロピル基、窒素原子上に置換基を有することのあるアミノプロピル基又は水素原子である。)で表されるプロピルアミン類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である上記項1又は2に記載の後処理剤。
4. アミン化合物が、数平均分子量が、5,000〜200,000のポリエチレンンイミン類である上記項3に記載の後処理剤。
5. 樹脂成形体に対する無電解めっきの前処理工程において、マンガン酸塩を含むエッチング液を用いて樹脂成形体に対してエッチング処理を行った後、上記項1〜4のいずれかに記載の後処理剤に該樹脂成形体を接触させることを特徴とする樹脂成形体に対するエッチングの後処理方法。
6. マンガン酸塩を含むエッチング液が、無機酸を20〜1200g/L、マンガン酸塩を0.01〜40g/L、並びにハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を1〜200g/L含有する水溶液である上記項5に記載の後処理方法。
7. 上記項5又は6の方法によって樹脂成形体に対するエッチングの後処理を行った後、該樹脂成形体に無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解めっきを行うことを特徴とする樹脂成形体に対する無電解めっき方法。
8. 上記項7の方法によって無電解めっきを行った後、電気めっきを行うことを特徴とする樹脂成形体に対するめっき方法。
【0011】
以下、本発明の後処理剤を用いる後処理工程を含む樹脂成形体に対するめっき方法について詳細に説明する。
【0012】
被処理物
本発明の後処理剤における処理対象は、樹脂成形体である。樹脂の種類については、特に限定的ではなく、特に、従来からクロム酸−硫酸の混酸によってエッチング処理が行われている各種の樹脂材料に対して良好な無電解めっき皮膜を形成することができる。例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がアクリルゴム成分に置き換わった樹脂(AAS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がエチレン−プロピレンゴム成分に置き換わった樹脂(AES樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂(AS),ポリスチレン樹脂(PS)等のスチレン系樹脂を処理対象物として良好な無電解めっき皮膜を形成することが可能である。また、上記スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂(例えば、PC樹脂の混合比率が30〜70重量%程度のアロイ樹脂)等も好適に使用できる。更に、ポリアクリロニトリル樹脂(PAN)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアミド樹脂(PA)、耐熱性、物性に優れたノニル、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂なども同様に使用可能である。
【0013】
樹脂成形体の形状、大きさなどについては特に限定はなく、表面積の広い大型の被処理物に対しても、装飾性、物性等に優れた良好なめっき皮膜を形成できる。このような大型の樹脂製品としては、ラジエターグリル、ホイールキャップ、中・小型のエンブレム、ドアーハンドルなどの自動車関連部品や、電気・電子分野での外装品、水廻りなどで使用されている水栓金具、パチンコ部品などの遊技機関係品等が挙げられる。
【0014】
エッチング処理工程
本発明では、エッチング処理としては、マンガン酸塩を有効成分として含むエッチング液を用いて処理を行う。
【0015】
マンガン酸塩を有効成分として含むエッチング処理液としては、過マンガン酸塩とアルカリ金属水酸化物を有効成分として含むアルカリ性のエッチング液、過マンガン酸塩と無機酸を有効成分として含む酸性のエッチング液等が知られており、本発明では、これらの公知のエッチング液をいずれも用いることができる。
【0016】
例えば、アルカリ性エッチング液としては、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の過マンガン酸塩を40〜70g/L程度と水酸化ナトリウムを10〜30g/L程度含む水溶液を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0017】
また、酸性エッチング液としては、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の過マンガン酸塩を0.1〜50g/L程度と硫酸、リン酸、塩酸、硝酸などの無機酸を100〜600g/L程度含む水溶液を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0018】
これらのエッチング液を用いたエッチング処理は、公知の方法に従えばよい。
【0019】
本発明では、特に、無機酸を20〜1200g/L程度、マンガン酸塩を0.01〜40g/L程度、並びにハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を1〜200g/L程度含有する水溶液からなるエッチング液を用いることが好ましい。この様なエッチング液を用いて樹脂成形体にエッチング処理を施した後、無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解めっきを行うことによって、高い密着性を有する良好な無電解めっき皮膜を形成することが可能となる。
【0020】
上記したエッチング液における有効成分の内で、無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、亜硫酸、亜硝酸、亜リン酸、亜ホウ酸、過酸化水素、過塩素酸等を用いることができる。これらの内で、特に、硫酸、塩酸等が好ましい。これらの無機酸は、一種単独または二種以上混合して用いることができる。無機酸の含有量は、20〜1200g/L程度とすることが必要であり、300〜1000g/L程度とすることが好ましい。
【0021】
上記エッチング液における有効成分の内で、マンガン酸塩としては、特に過マンガン酸塩が好ましい。過マンガン酸塩としては、水溶液の塩であれば良く、その具体例としては、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等を例示できる。マンガン酸塩は、一種単独または二種以上混合して用いることができる。マンガン酸塩の含有量は、0.01〜40g/L程度とすることが必要であり、0.1〜10g/L程度とすることが好ましい。
【0022】
上記エッチング液における有効成分の内で、ハロゲンオキソ酸の具体例としては、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、ハロゲン酸、過ハロゲン酸等を挙げることができる。ハロゲンオキソ酸塩としては、上記したハロゲンオキソ酸の水溶性塩を用いることができ、例えば、ハロゲンオキソ酸ナトリウム、ハロゲンオキソ酸カリウム等を用いることができる。過硫酸塩としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性の過硫酸塩を用いることができる。また、ビスマス酸塩としては、ビスマス酸ナトリウム、ビスマス酸カリウム等の水溶性のビスマス酸塩を用いることができる。ハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。特に、過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸等の過ハロゲン酸、該過ハロゲン酸の塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を用いることが好ましい。
【0023】
上記したエッチング液では、ハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の含有量は、1〜200g/L程度とすることが必要であり、10〜100g/L程度とすることが好ましい。
【0024】
上記エッチング液の好ましい具体例として、硫酸及び塩酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機酸、過マンガン酸塩から選ばれた少なくとも一種のマンガン酸塩、並びに過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のハロゲンオキソ酸類を含有する水溶液を挙げることができる。
【0025】
上記したエッチング液を用いてエッチング処理を行うには、処理対象物である樹脂成形体の被処理面を該エッチング液に接触させればよい。具体的な方法については、特に限定はなく、被処理面の表面を該エッチング液に充分接触させることができる方法であればよい。例えば、該エッチング液を被処理物に噴霧する方法等も適用可能であるが、通常は、該エッチング液中に被処理物を浸漬する方法によれば、効率の良い処理が可能である。
【0026】
エッチング処理条件については、特に限定的ではなく、目的とするエッチング処理の程度に応じて適宣決めればよい。例えば、エッチング液中に被処理物を浸漬してエッチング処理を行う場合には、エッチング液の液温を30℃〜70℃程度とし、浸漬時間を3〜30分程度とすればよい。
【0027】
尚、被処理物である樹脂成形体の表面の汚れがひどい場合には、エッチング処理に先立って、常法に従って脱脂処理を行えばよい。
【0028】
エッチングの後処理方法
本発明では、上記したマンガン酸塩を有効成分として含むエッチング液を用いてエッチング処理を行った後、還元性化合物及びアミン化合物を有効成分として含む水溶液からなる後処理剤を用いて、エッチングの後処理を行う。
【0029】
この後処理によって、樹脂表面に付着したマンガンを効率良く除去することができる。その結果、触媒液中へのマンガンの持ち込みを防止すると共に、無電解めっきの析出性を向上させることができ、均一で良好な無電解めっき皮膜を形成することが可能となる。特に、上記した無機酸、マンガン酸塩、並びにハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む水溶液からなるエッチング液を用いてエッチング処理を行う場合には、本発明の後処理剤を用いることによって、樹脂表面に付着したマンガンだけでなく、ハロゲン系化合物もほぼ完全に除去することができ、上記したエッチング液の優れた性能を十分に発揮して、高い密着性を有し、均一性に優れた良好な無電解めっき皮膜を形成することができる。
【0030】
更に、本発明の後処理剤にアミン化合物が含まれることによって、後述する触媒付与工程において、被処理物である樹脂成形体表面の触媒吸着量を増加させることができ、安定して良好なめっき皮膜を形成することが可能となる。特に、触媒付与方法として、キャタリスト−アクセレーター法、即ち、塩化パラジウムと塩化第一錫を含む酸性混合コロイド溶液(キャタリスト液)によって触媒化処理を行った後、活性化処理を行う方法を採用する場合には、上記した後処理剤を行うことによって、キャタリスト液中のパラジウム濃度が低い場合であっても、触媒吸着量を増加させることができ、無電解めっきの析出性が向上して、その後の電気めっきによって良好な外観のめっき皮膜を形成することが可能となる。
【0031】
また、本発明の後処理剤によれば、樹脂表面に付着したマンガン塩の除去と、触媒の付着量を増加させるための表面調整を一回の処理によって行うことができるので、無電解めっきのための前処理工程が簡略化される。
【0032】
本発明の後処理液に含まれる還元性化合物としては、例えば、塩化スズ、硫酸スズ、塩化鉄、硫酸鉄等の還元作用を有する多価金属化合物;フルクトース、マルトース、ラクトース、フルクトース、マルトース、ラクトース等の糖類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ペリルアルデヒド等のアルデヒド化合物;アスコルビン酸、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L-アスコルビン酸エーグルコシド等のアスコルビン酸類;ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン、二臭化水素ヒドラジン等のヒドラジン類;ギ酸、酢酸、酪酸、アクリル酸、パルミチン酸、オレイン酸、グリオキシル酸等のモノカルボン酸およびこれらの塩;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、レパルギル酸、セバシン酸、マレイン酸等のジカルボン酸およびこれらの塩;乳酸、酒石酸、クエン酸等の脂肪族ヒドロキシ酸およびこれらの塩;硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、リン酸ヒドロキシルアミン等のヒドロキシルアミン類;亜硫酸、チオ硫酸、硫化水素等の含硫黄化合物;ヨウ化銀、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等の含ヨウ素化合物等を挙げることができる。上記した還元性化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。特に、塩化スズ、硫酸スズ、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、チオ硫酸等を用いることが好ましい。
【0033】
後処理液における還元性化合物の濃度は、0.5〜100g/L程度とすることが好ましく、5〜30g/L程度とすることがより好ましい。
【0034】
上記後処理剤に含まれるアミン化合物としては、例えば、一般式:HN(CHCHNH)H(式中、nは1〜5の数値である)で表されるエチレンアミン類、ポリエチレンイミン類、及び一般式:
【0035】
【化2】

【0036】
(式中、Rは、プロピル基又は窒素原子上に置換基を有することのあるアミノプロピル基であり、Rは、プロピル基、窒素原子上に置換基を有することのあるアミノプロピル基又は水素原子である。)で表されるプロピルアミン類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を用いることができる。
【0037】
上記一般式において、プロピル基は、n−プロピル基、イソプロピル基のいずれであっても良い。窒素原子上に置換基を有することのあるアミノプロピル基において、置換基としては、メチル基等の低級アルキル基を例示できる。
【0038】
これらのアミン化合物の内で、エチレンアミン類としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等を例示できる。
【0039】
ポリエチレンイミン類は、エチレンイミンを重合した水溶性ポリマーであり、数平均分子量が300〜500,000程度のものを好適に用いることができ、更に好ましくは数平均分子量が5,000〜200,000程度のものを用いることができる。
【0040】
プロピルアミン類としては、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジアミノプロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等を例示できる。これら内で、特に好ましいアミン化合物として、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジアミノプロピルアミン等を挙げることができる。これらのアミン化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0041】
本発明では、特に、アミン化合物として、数平均分子量が5,000〜200,000程度のポリエチレンイミン類を用いることが好ましい。この様なアミン化合物を上記した還元性化合物と共に含む後処理剤を用いることによって、特に、樹脂表面に付着したマンガンの効率良い除去と同時に、樹脂表面の触媒吸着量を増加させることができ、無電解めっきの析出性が向上して、安定して良好なめっき皮膜を形成することが可能となる。
【0042】
アミン化合物の濃度は、0.01〜50g/L程度とすることが好ましく、0.02〜10g/L程度とすることがより好ましい。
【0043】
本発明の後処理剤には、更に、無機酸を加えることが好ましい。これにより、樹脂表面に付着したマンガンをより効率良く除去できる。
【0044】
無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、炭酸、亜硝酸、亜リン酸、亜ホウ酸、過酸化水素、過塩素酸、過酸化窒素等を用いることができる。これらの無機酸は一種単独又は二種以上混合して用いることができる。特に、硫酸、塩酸等を用いることが好ましい。
【0045】
後処理液における無機酸の濃度は、5〜500g/L程度とすることが好ましく、30〜100g/L程度とすることがより好ましい。
【0046】
後処理液による処理方法については、特に限定的ではなく、被処理物と後処理液とを十分に接触させることができる方法であればよい。通常は、後処理液中に被処理物を浸漬する方法によれば、効率の良い処理が可能である。この場合、例えば、後処理液の液温を20〜60℃程度として、被処理物を1〜10分程度浸漬すればよい。
【0047】
触媒付与工程
上記したエッチング処理と後処理を行った後、無電解めっき用の触媒を付与する。
【0048】
無電解めっき用触媒の付与方法については、特に限定はなく、パラジウム、銀、ルテニウム等の無電解めっき用触媒を公知の方法に従って付与すればよい。パラジウム触媒の付与方法としては、例えば、いわゆる、キャタリスト−アクセレーター法、センシタイザー−アクチベーティング法、アルカリキャタリスト法などの公知の方法を採用することができる。
【0049】
これらの方法の内で、特に、キャタリスト−アクセレーター法は、樹脂成形品に均一にめっき皮膜が析出しやすい点で好ましい方法である。
【0050】
キャタリスト液としては、通常用いられている塩化パラジウム及び塩化第一錫を含む酸性の混合コロイド水溶液を用いることができる。例えば、塩化パラジウムを0.01〜0.6g/L程度、塩化第一錫を1〜50g/L程度、35%塩酸を100〜400ml/L程度含む混合コロイド溶液を用いることができる。キャタリスト液による処理方法としては、例えば、20〜40℃程度の液中に1〜10分程度浸漬する方法を採用できる。キャタリスト処理後には、常法に従って、硫酸水溶液、塩酸水溶液、アルカリ金属水酸化物水溶液等のアクセレーター液を用いて活性化処理を行えばよい。これらの方法の具体的な処理方法、処理条件等については、公知の方法に従えばよい。
【0051】
尚、触媒付与の前に、常法に従って、塩酸水溶液によるプリディップ処理を行うことができる。これにより、触媒付与液への前処理液の持ち込みを防止することができる。
【0052】
プリディップ処理としては、例えば、35%塩酸を20〜300ml/L程度含む水溶液中に15〜30℃程度の液温で被処理物を0.5〜3分程度浸漬すればよいが、この条件に限定されるものではない。
【0053】
めっき処理工程
上記した方法で触媒を付与した後、無電解めっきを行うことによって、樹脂成形体の表面に、良好な密着性を有し、均一性に優れた無電解めっき皮膜を形成することができる。
【0054】
無電解めっき液としては、公知の自己触媒型無電解めっき液をいずれも用いることができる。この無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解ニッケル−コバルト合金めっき液、無電解金めっき液等を例示できる。
【0055】
無電解めっきの条件についても、公知の方法と同様にすれば良い。また、必要に応じて、無電解めっき皮膜を二層以上形成しても良い。
【0056】
更に、無電解めっき後、電気めっきを行っても良い。この場合、無電解めっきの後、必要に応じて、酸、アルカリ等の水溶液によって活性化処理を行い、その後、電気めっきを行えば良い。電気めっき液の種類についても特に限定はなく、公知の電気めっきから目的に応じて適宣選択すればよい。
【0057】
上記した方法によれば、樹脂成形体上に非常に密着強度が高く、均一性に優れためっき皮膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0058】
マンガン酸塩を含むエッチング剤による樹脂成形体に対するエッチング処理を行った後、本発明の後処理剤を用いて後処理を行う工程を含むめっき方法によって、下記のような顕著な効果が奏される。
(1)安全性の高いエッチング処理剤であるマンガン酸塩含有エッチング液によるエッチング処理を行う際に、エッチング液による残留物を効率的に除去して、均一性に優れためっき皮膜を形成することが可能となる。また、触媒液へのマンガンの持ち込みも防止できる。更に、被処理物である樹脂成形体への触媒吸着量が増加して、安定して良好なめっき皮膜を形成できる。
(2)本発明の後処理剤を用いることによって、エッチング液による残留物の除去と、触媒吸着量を増加させるための表面調整を一回の処理によって行うことができる。このため、無電解めっきのための前処理工程が簡略化される。
(3)特に、触媒付与方法としてキャタリスト−アクセレーター法を採用する場合には、アミン化合物を含む本発明の後処理剤を用いることによって、樹脂成形体に均一性に優れためっき皮膜を形成することができる。
(4)エッチング液として、無機酸、マンガン酸塩、並びにハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含有する水溶液を用いる場合には、特に、密着性に優れためっき皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0060】
実施例1
被処理物として、ABS樹脂(UMG ABS(株)製、商標名:サイコラック3001M)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm)を用いて、下記表1に記載した処理工程に従って浸漬法によって処理を行い、無電解めっき及び電気めっきを行った。後処理剤としては、下記表2に記載した各処理剤を用いた。尚、各工程の間には、水洗を行った。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
以上の各後処理剤を用いて、表1に記載した工程によって無電解銅めっき及び電気銅めっきを行った後、被処理物である樹脂成形体表面に形成された電気めっき皮膜の割合を測定して、電気めっきの析出性を評価した。また、触媒付与工程後に、樹脂表面に吸着したPd量をICP発光分光分析法により測定した。更に、無電解銅めっき後の樹脂表面の表面抵抗値(kΩ)を測定した。結果を下記表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
以上の結果から明らかなように、マンガン酸塩を含有するエッチング液を用いてエッチング処理を行う工程を含む前処理方法において、還元性化合物とアミン化合物を有効成分とする水溶液を用いてエッチングの後処理を行うことによって、樹脂表面に十分な量の触媒を吸着させることができ、均一な電気めっき皮膜を形成することが可能となる。
【0067】
これに対して、還元性化合物及びアミン化合物のいずれか一方のみを含む後処理剤を用いる場合には、樹脂表面への触媒の吸着量が不足して、無電解めっきの析出性が劣るものとなり、電気銅めっき皮膜は殆ど析出しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性化合物及びアミン化合物を含む水溶液からなる、マンガン酸塩を含むエッチング液による樹脂成形体のエッチング処理後に用いる後処理剤。
【請求項2】
更に、無機酸を含む水溶液からなる、請求項1に記載の後処理剤。
【請求項3】
アミン化合物が、一般式:HN(CHCHNH)H(式中、nは1〜5の数値である)で表されるエチレンアミン類、ポリエチレンイミン類、及び一般式:
【化1】

(式中、Rは、プロピル基又は窒素原子上に置換基を有することのあるアミノプロピル基であり、Rは、プロピル基、窒素原子上に置換基を有することのあるアミノプロピル基又は水素原子である。)で表されるプロピルアミン類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である請求項1又は2に記載の後処理剤。
【請求項4】
アミン化合物が、数平均分子量が、5,000〜200,000のポリエチレンンイミン類である請求項3に記載の後処理剤。
【請求項5】
樹脂成形体に対する無電解めっきの前処理工程において、マンガン酸塩を含むエッチング液を用いて樹脂成形体に対してエッチング処理を行った後、請求項1〜4のいずれかに記載の後処理剤に該樹脂成形体を接触させることを特徴とする樹脂成形体に対するエッチングの後処理方法。
【請求項6】
マンガン酸塩を含むエッチング液が、無機酸を20〜1200g/L、マンガン酸塩を0.01〜40g/L、並びにハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を1〜200g/L含有する水溶液である請求項5に記載の後処理方法。
【請求項7】
請求項5又は6の方法によって樹脂成形体に対するエッチングの後処理を行った後、該樹脂成形体に無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解めっきを行うことを特徴とする樹脂成形体に対する無電解めっき方法。
【請求項8】
請求項7の方法によって無電解めっきを行った後、電気めっきを行うことを特徴とする樹脂成形体に対するめっき方法。

【公開番号】特開2010−121143(P2010−121143A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293036(P2008−293036)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】