説明

樹脂成形体に対するエッチング処理用組成物

【課題】自動車部品等として使用し得る十分な性能を有する樹脂成形体に対して、めっき層の密着強度を充分高めることが可能なエッチング処理用組成物であって、現場での作業時の安全性や廃水による環境への影響を考慮した無電解めっき用のエッチング処理用組成物を提供する。
【解決手段】界面活性剤0.1〜10g/l、無機酸20〜600g/l及び有機酸0.1〜50g/lを含有する水溶液からなる、スチレン系樹脂及びポリアミド系樹脂を含む樹脂成分から形成される樹脂成形体用のエッチング処理用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体に対するエッチング処理用組成物、該組成物を用いたエッチング処理方法及び無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を軽量化する目的等から、自動車部品として樹脂成形体が使用されている。この様な目的では、ABS樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂成形体が用いられており、該樹脂成形体には、高級感や美観を付与するため、銅、ニッケル等のめっきが施されることが多い。
【0003】
従来、ABS樹脂等の成形体にめっきを施す場合、樹脂成形体とめっき層との密着強度を高めるために、脱脂工程の後に樹脂成形体を粗面化するエッチング処理が行われており、エッチング処理液として、三酸化クロムと硫酸の混合液からなるクロム酸混液が用いられている。
【0004】
しかしながら、この様な従来の処理液を用いる場合には、有毒な6価クロムを含むために作業環境が悪く、しかも、廃水を安全に処理するために、6価クロムを3価クロムイオンに還元した後、中和沈殿させる処理を行うことが必要であり、非常に煩雑な処理が要求される。
【0005】
このため、現場での作業時の安全性や廃水による環境への影響を考慮すると、クロム酸を含むエッチング処理液を使用しないことが望ましいが、その場合には、ABS樹脂等からなる樹脂成形体に対してめっき層の密着強度を十分に高めることは困難である。
【非特許文献1】林忠夫,松岡政夫,縄舟秀美;電気鍍金研究会編「無電解めっき−基礎と応用」、日刊工業新聞社(1994)、pp.133
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、自動車部品等として使用し得る十分な性能を有する樹脂成形体に対して、めっき層の密着強度を充分高めることが可能なエッチング処理用組成物であって、現場での作業時の安全性や廃水による環境への影響を考慮した無電解めっき用のエッチング処理用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、スチレン系樹脂とポリアミド系樹脂を含む樹脂成分から形成される樹脂成形体に対して、界面活性剤、無機酸および有機酸を特定の割合で含む組成物を用いてエッチング処理を施すことによって、重金属を含む酸によるエッチング処理を行うことなく、密着性に優れた無電解めっき皮膜を形成することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の樹脂成形体をエッチング処理するための組成物、該組成物を用いたエッチング処理方法及び無電解めっき方法を提供するものである。
1. 界面活性剤0.1〜10g/l、無機酸20〜600g/l及び有機酸0.1〜50g/lを含有する水溶液からなる、スチレン系樹脂及びポリアミド系樹脂を含む樹脂成分から形成される樹脂成形体用のエッチング処理用組成物。
2. 無機酸が、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、亜硫酸、亜硝酸、亜リン酸、亜ホウ酸、過酸化水素、過塩素酸及び過酸化窒素からなる群から選ばれた少なくとも一種であり、有機酸が、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、芳香族カルボン酸、複素環カルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸、脂肪族アミノカルボン酸、芳香族核をもつアミノカルボン酸及び複素環をもつアミノ酸からなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項1に記載のエッチング処理用組成物。
3. 界面活性剤がエーテル型ノニオン性界面活性剤であり、無機酸が硫酸及び塩酸からなる群から選ばれた少なくとも一種であり、有機酸が脂肪族カルボン酸及び脂肪族オキシカルボン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項2に記載のエッチング処理用組成物。
4. 樹脂成形体が、スチレン系樹脂10〜90質量%とポリアミド系樹脂90〜10質量%含有するものである上記項1〜3のいずれかに記載のエッチング処理用組成物。
5. スチレン系樹脂及びポリアミド系樹脂を含む樹脂成分から形成される樹脂成形体を、上記項1〜4のいずれかに記載されたエッチング処理用組成物に接触させることを特徴とするエッチング処理方法。
6. 上記項5の方法によって、スチレン系樹脂及びポリアミド系樹脂を含む樹脂成分から形成される樹脂成形体にエッチング処理を施した後、無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解めっき処理を行うことを特徴とする、無電解めっき方法。

以下、本発明のエッチング処理用組成物、処理対象の樹脂成形体、エッチング処理方法及び無電解めっき方法について、具体的に説明する。
【0009】
エッチング処理用組成物
本発明のエッチング処理用組成物は、界面活性剤0.1〜10g/l、無機酸20〜600g/l及び有機酸0.1〜50g/lを含有する水溶液からなるものである。この様な界面活性剤、無機酸及び有機酸を特定の割合で含有する組成物は、後述するスチレン系樹脂及びポリアミド系樹脂を含む樹脂成分から形成される樹脂成形体に対するエッチング処理剤として優れた性能を有するものである。よって、本発明組成物を用いて該樹脂成形体にエッチング処理を施した後、無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解めっきを行うことによって、高い密着性を有する良好な無電解めっき皮膜を形成することが可能となる。
【0010】
本発明のエッチング処理用組成物における有効成分の内で、界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の各種の界面活性剤を用いることができる。
【0011】
これらの界面活性剤の内で、カチオン性界面活性剤としては、下記に示したものを用いることができる。
*脂肪族アミン塩:
R−NH2X(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、Xは無機酸又は有機酸である。)
【0012】
【化1】

(式中、R及びXは上記と同じである。)
【0013】
【化2】

(式中、R及びXは上記と同じである。)
*脂肪族4級アンモニウム塩:
【0014】
【化3】

(式中、R1は炭素数12〜18のアルキル基、R2は炭素数12〜18のアルキル基又はCH3、XはCl又はBrである。)
*芳香族4級アンモニウム塩:
【0015】
【化4】

(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、XはCl又はBrである。)
*複素環4級アンモニウム塩:
【0016】
【化5】

(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、XはCl又はBrである。)
【0017】
【化6】

(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基、R2は炭素数12〜24のアルキル基、R3は炭素数1〜5のアルキル基、XはCl又はBrである。)
【0018】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピルアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩等のエーテルエステル型界面活性剤;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤;脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の含窒素型界面活性剤などを用いることができる。
【0019】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸の炭素数12〜18のカルボン酸の塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、炭素数12〜18のN-アシルアミノ酸、N-アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、炭素数12〜18のアシル化ペプチド等のカルボン酸塩:アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン重縮合物、スルホコハク酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルスルホン酸塩等のスルホン酸塩;硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩等の硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩等を用いることができる。
【0020】
両性界面活性剤としては、下記式で表されるカルボキシベタイン型界面活性剤、アミノカルボン酸塩の他、イミダゾリウムベタイン、レシチン等を用いることができる。
*カルボキシベタイン型界面活性剤:
【0021】
【化7】

(式中、R1は炭素数12〜18のアルキル基、R2、R3はCH3等、nは1〜2である。)
*アミノカルボン酸塩:
R(CH2)nCOOH
(式中、R1は炭素数12〜18のアルキル基、nは1〜2である。)
【0022】
上記した界面活性剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0023】
これらの内で、ノニオン性界面活性剤が好ましく、エーテル型のノニオン性界面活性剤がより好ましい。特に、式:HO−(C24O)n−(C36O)m−(C24O)n−Hで表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーが好ましい。
【0024】
本発明のエッチング処理用組成物では、界面活性剤の含有量は、0.1〜10g/l程度とし、0.5〜5g/l程度とすることが好ましい。
【0025】
本発明のエッチング処理用組成物における有効成分の内で、無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、亜硫酸、亜硝酸、亜リン酸、亜ホウ酸、過酸化水素、過塩素酸、過酸化窒素等を用いることができる。これらの内で、特に、硫酸、塩酸等が好ましい。これらの無機酸は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0026】
本発明のエッチング処理用組成物では、無機酸の含有量は、20〜600g/l程度とし、100〜500g/l程度とすることが好ましい。
【0027】
本発明のエッチング処理用組成物における有効成分の内で、有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、ピバル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、アクリル酸、プロピオール酸、メタクリル酸、クロトン酸、オレイン酸等の脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸;安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トルイル酸、ナフトエ酸、ケイ皮酸等の芳香族カルボン酸;2-フル酸、ニコチン酸、イソニコチン酸等の複素環カルボン酸;グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α-オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等の脂肪族オキシカルボン酸;サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロバ酸等の芳香族オキシカルボン酸;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオリン、システイン、シスチン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギリン等の脂肪族アミノカルボン酸;フェニルアラニン、チロシン等の芳香族核をもつアミノカルボン酸;ヒスチジン、トリブトファン、プロリン、オキシプロリン等の複素環をもつアミノ酸等を用いることができる。
【0028】
これらの有機酸の内で、脂肪族カルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸等が好ましく、特に、脂肪族オキシカルボン酸が好ましい。これらの有機酸は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0029】
有機酸の含有量は、0.1〜50g/l程度とし、0.5〜10g/l程度とすることが好ましい。
【0030】
本発明のエッチング処理用組成物の好ましい具体例として、エーテル型のノニオン性界面活性剤、硫酸及び塩酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機酸、並びに脂肪族カルボン酸及び脂肪族オキシカルボン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の有機酸を含有する水溶液からなる組成物を挙げることができる。この場合、特に、有機酸としては、脂肪族オキシカルボン酸が好ましい。
【0031】
樹脂成形体
本発明のエッチング処理用組成物の処理対象物は、スチレン系樹脂とポリアミド系樹脂を含む樹脂成分を用いて得られる成形体である。この様な特定の樹脂成分からなる樹脂成形体は、自動車部品等として使用するための十分な機械的特性を有するものであり、本発明のエッチング処理用組成物に接触させることによって、優れた外観を有し、且つ高い密着強度を有する無電解めっき皮膜を形成することができる。
【0032】
スチレン系樹脂としては、スチレン;α置換、核置換スチレン等のスチレン誘導体等を単量体成分とする重合体を挙げることができる。また、これら単量体を主成分として、これらと、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸等のビニル化合物;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン化合物等の他の単量体とから構成される共重合体もスチレン系樹脂として用いることができる。
【0033】
スチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン−メタクリレート共重合体(MS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBS樹脂)等を挙げることができる。
【0034】
また、ポリスチレン系樹脂として、ポリアミド系樹脂との相溶性をあげるためにカルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体を用いても良い。カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体は、ゴム質重合体の存在下に、カルボキシル基含有不飽和化合物及び必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を重合してなる共重合体である。
【0035】
この成分を具体的に例示すると、1)カルボキシル基含有不飽和化合物を共重合したゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニルモノマーを必須成分とする単量体あるいは芳香族ビニルとカルボキシル基含有不飽和化合物とを必須成分とする単量体を重合して得られたグラフト重合体、2)ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニルとカルボキシル基含有不飽和化合物とを必須成分とする単量体を共重合して得られたグラフト共重合体、3)カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されていないゴム強化スチレン系樹脂とカルボキシル基含有不飽和化合物と芳香族ビニルとを必須成分とする単量体の共重合体との混合物、4)上記1),2)とカルボキシル基含有不飽和化合物と芳香族ビニルとを必須とする共重合体との混合物、5)上記1)、2)、3)、4)と芳香族ビニルを必須成分とする共重合体との混合物がある。
【0036】
上記1)〜5)において、芳香族ビニルとしてはスチレンが好ましく、また芳香族ビニルと共重合する単量体としてはアクリロニトリルが好ましい。カルボキシル基含有不飽和化合物は、スチレン系樹脂中、好ましくは0.1〜8質量%程度であり、より好ましくは0.2〜7質量%程度である。
【0037】
ポリアミド系樹脂としては、特に限定的ではなく、公知のポリアミド系樹脂を用いることができる。
【0038】
例えば、ジアミンとジカルボン酸とから形成されるポリアミド樹脂、これらの原料を共重合して得られる共重合体等を用いることができる。このようなポリアミド樹脂の具体例としては、ナイロン66、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカナミド(ナイロン6・12)、ポリドデカメチレンドデカナミド(ナイロン1212)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)等の各種ポリアミド樹脂を挙げることができる。これらの単量体成分を用いて得られる共重合体として、ナイロン6/66、6T成分が50モル%以下であるナイロン66/6T(6T:ポリヘキサメチレンテレフタラミド)、6I成分が50モル%以下であるナイロン66/6I(6I:ポリヘキサメチレンイソフタラミド)、ナイロン6T/6I/66、ナイロン6T/6I/610等を挙げることができる。 更に、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)テレフタルアミド(ナイロンM5T)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)イソフタルアミド(ナイロンM5I)等や、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/M5T等の共重合体を用いることもできる。そのほかアモルファスナイロンのような共重合ナイロンを用いても良い。アモルファスナイロンとしてはテレフタル酸とトリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合物等を挙げることができる。
【0039】
更に、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、これらの成分を用いた共重合体等も用いることができる。具体的には、ナイロン6、ポリ−ω−ウンデカナミド(ナイロン11)、ポリ−ω−ドデカナミド(ナイロン12)等の脂肪族ポリアミド樹脂を用いることができる。これらの原料を用いた共重合体やこれらの原料と、ジアミン、ジカルボン酸とからなるポリアミドとの共重合体:例えば、ナイロン6T/6、ナイロン6T/11、ナイロン6T/12、ナイロン6T/6I/12、ナイロン6T/6I/610/12等も用いることができる。更に、上記した各種ポリアミド樹脂の混合物も用いることができる。
【0040】
スチレン系樹脂とポリアミド系樹脂を含む樹脂成分を用いて得られる樹脂成形体では、樹脂成形体中のスチレン系樹脂の含有量は、好ましくは10〜90質量%程度、より好ましくは20〜80質量%程度、更に好ましくは30〜70質量%程度であり、ポリアミド系樹脂の含有量は、好ましくは90〜10質量%程度、より好ましくは80〜20質量%程度、更に好ましくは70〜30質量%程度である。
【0041】
本発明の処理対象とする樹脂成形体は、上記したスチレン系樹脂とポリアミド系樹脂を含む樹脂成分を用いて得られるものであれば良い。該成形体を得るための成形方法については、特に限定されず、射出成形などの公知の方法に従って得られたものを用いることができる。成形体の形状などについても特に限定はなく、用途に応じて適宜選択することができる。特に、本発明の処理対象とする樹脂成形体は、バンパー、エンブレム、ホイルキャップ、内装部品、外装部品等の自動車部品用途として好適に用いることができる。
【0042】
エッチング処理方法
本発明のエッチング処理用組成物を用いてエッチング処理を行うには、処理対象物である樹脂成形体の被処理面を本発明組成物に接触させればよい。具体的な方法については、特に限定はなく、被処理物の表面を本発明組成物に十分接触させることができる方法であれば良い。例えば、本発明組成物を被処理物に噴霧する方法等も適用可能であるが、通常は、本発明組成物中に被処理物を浸漬する方法によれば、効率の良い処理が可能である。
【0043】
処理条件については特に限定的ではなく、目的とするエッチング処理の程度に応じて適宜決めればよい。例えば、浸漬法によって処理を行う場合には、本発明組成物の液温を20〜50℃程度とすればよく、30〜40℃程度とすることが好ましい。浸漬時間についても、特に限定はなく、エッチング処理の進行の程度によって適宜決めれば良い。通常、3〜20分程度、好ましくは5〜10分間程度の浸漬時間とすればよい。
【0044】
尚、被処理物である樹脂成形体の表面の汚れがひどい場合には、エッチング処理に先立って、常法に従って脱脂処理を行えばよい。
【0045】
めっき方法
上記した方法で前処理を行った後、常法に従って無電解めっき用触媒を付与して、無電解めっき処理を行う。尚、本発明ではエッチング処理後に触媒付与を行う場合、エッチング処理用組成物を触媒付与水溶液中に持ち込むことを防ぐために、触媒付与前に、水洗、酸洗等を行うことが出来る。酸洗としては、例えば、塩酸を50〜150g/l程度含有する、液温20〜30℃程度の処理液中に被めっき物を1〜2分間程度浸漬すればよい。
【0046】
(1)触媒付与方法:
無電解めっき用触媒の付与方法については、特に限定はなく、パラジウム、銀、ルテニウム等の無電解めっき用触媒を公知の方法に従って付与すればよい。パラジウム触媒の付与方法としては、例えば、いわゆる、センシタイジング−アクチべーティング法、キャタライジング法などと称される方法が代表的な方法である。
【0047】
これらの方法の内で、センシタイジング−アクチべーティング法は、塩化第一錫と塩酸を含む水溶液で感受性化処理(センジタイジング)を行った後、塩化パラジウム等のパラジウム塩を含む水溶液を用いて活性化(アクチベーティング)する方法である。また、キャタライジング法は、塩化パラジウムと塩化第一錫を含む混合コロイド溶液によって被めっき物を触媒化処理(キャタライジング)した後、硫酸水溶液、塩酸水溶液等を用いて活性化する方法である。これらの方法の具体的な処理方法、処理条件等については、公知の方法に従えばよい。
【0048】
(2)めっき方法:
無電解めっき液としては、公知の自己触媒型無電解めっき液をいずれも用いることができる。この様な無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解ニッケル−コバルト合金めっき液、無電解金めっき液等を例示できる。
【0049】
無電解めっきの条件についても、公知の方法と同様とすればよい。また、必要に応じて、無電解めっき皮膜を二層以上形成しても良い。
【0050】
更に、無電解めっき後、電気めっきを行っても良い。この場合、無電解めっきの後、必要に応じて、酸、アルカリ等の水溶液によって活性化処理を行い、その後、電気めっきを行えばよい。電気めっき液の種類についても特に限定はなく、公知の電気めっき液から目的に応じて適宜選択すればよい。
【0051】
上記した方法によれば、上記した特定の樹脂成形体上に非常に密着強度の高いめっき皮膜を形成することができる。
【0052】
本発明のエッチング処理用組成物によってエッチング処理を行った後めっき皮膜を形成した樹脂成形体は、その使用目的に応じて、めっき層の種類、膜厚等を適宜選択することによって、各種用途に適用することができる。特に、バンパー、エンブレム、ホイルキャップ、内装部品、外装部品等の自動車用部品として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明のエッチング処理用組成物を用いてエッチング処理を行うことより、下記の様な顕著な効果が奏される。
(1)クロム酸などの有害性の高い処理液を用いること無く、比較的安全性の高いエッチング処理用組成物を用いてエッチング処理を行うことによって、高い密着性を有するめっき皮膜を形成することができる。
(2)エッチング処理の対象となる樹脂形成体は、機械的強度等に優れ、自動車部品等の用途に使用するための十分な性能を有するものである。従って、本発明組成物を用いることによって、斯かる優れた特性を有する樹脂成形体に対して密着性の良好なめっき皮膜を形成することが可能となる。
(3)クロム酸等の有害性の高い重金属成分を含む処理液を用いないので、廃水処理が容易であり、重金属による環境汚染がなく、作業環境も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0055】
実施例1〜8
スチレン系樹脂40質量%及びポリアミド系樹脂60質量%からなる樹脂成形体(表面積1dm2)を被めっき物として、下記の方法によってめっき処理を行った。
【0056】
まず、下記表1に示す各組成の界面活性剤、無機酸及び有機酸を含有する水溶液からなるエッチング処理用組成物用い、これらの水溶液中に被めっき物を浸漬した。浸漬温度及び浸漬時間は、下記表1に示す通りである。
【0057】
次いで、35%塩酸水溶液(浴温25℃)60g/l中に被めっき物を浸漬した。浸漬時間は2分間とした。
【0058】
次いで、塩化パラジウム7.5g/l、塩化第一錫50g/l、塩化ナトリウム200g/l及び35%塩酸36g/lを含有する液温25℃の触媒溶液に被めっき物を3分間浸漬した。その後、水洗を行い、98%硫酸を100g/l含有する水溶液(液温40℃)中に3分間浸漬した。次いで、水洗を行い、水酸化ナトリウムを20g/l含有する水溶液(液温40℃)中に被めっき物を2分間浸漬した。
【0059】
その後、硫酸ニッケル10g/l、次亜リン酸ナトリウム10g/l、クエン酸20g/l及び塩化アンモニウム5g/lを含有する液温40℃の無電解ニッケルめっき液中に被めっき物を10分間浸漬して、無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。
【0060】
一方、比較例1〜7として、実施例1と同じ被めっき物に対して、実施例1で用いたエッチング処理用組成物に代えて、下記表2に示すクロム酸―硫酸混液を用いてエッチング処理を行った。その後、実施例1と同様にして、無電解めっき用触媒を付与し、無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

以上の方法で形成された各無電解ニッケルめっき皮膜の被覆率、外観評価、および密着性を下記の方法によって評価した。
【0063】
(1)被覆率:
被めっき物表面の無電解ニッケルめっき皮膜が形成された面積の割合を被覆率とする。試験片の全面が被覆された場合を被覆率100%とする。
【0064】
(2)外観:
めっき皮膜の外観を目視で評価した。
【0065】
(3)密着性試験:
めっき皮膜の表面に粘着テープを貼り付けた後、テープをめっき面に対して垂直に引っ張った場合のめっき皮膜の剥離の有無を調べた。
【0066】
更に、無電解めっき皮膜を形成した試験片について、硫酸銅めっき浴を用いて、電流密度3A/dm2、温度25℃で電気めっき処理を120分間行い、銅めっき皮膜を形成した。この様にして得られた試料について、80℃で120分間乾燥させ、室温になるまで放置した後、めっき皮膜に10mm幅の切り目を入れ、引張り試験器((株)島津製作所製、オートグラフSD−100−C)を用いて、樹脂に対して垂直にめっき皮膜を引張り、ピール強度を測定した。
【0067】
以上の試験結果を下記表3に示す。
【0068】
【表3】

以上の結果から明らかなように、無電解ニッケルめっきに先立って行うエッチング処理として、界面活性剤、無機酸及び有機酸を特定の割合で含有する本発明のエッチング処理組成物に浸漬する処理を行って得られた各試料については、試料表面の全面に良好な外観の無電解ニッケルめっき皮膜が形成されており、めっき皮膜のピール強度は全て1kgf/cm以上であり、良好な密着性を有するものであった。
【0069】
これに対して、クロム酸―硫酸混液を用いてエッチング処理を行って得られた試料については、エッチング条件を各種変化させても、めっき皮膜の被覆率が非常に低く良好な無電解めっき皮膜を形成することができなかった。従って、スチレン系樹脂及びポリアミド系樹脂を含む樹脂成分から形成された成形体への無電解めっきの前処理としては、クロム酸―硫酸混液を用いたエッチング処理は不適切であると判断できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤0.1〜10g/l、無機酸20〜600g/l及び有機酸0.1〜50g/lを含有する水溶液からなる、スチレン系樹脂及びポリアミド系樹脂を含む樹脂成分から形成される樹脂成形体用のエッチング処理用組成物。
【請求項2】
無機酸が、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、亜硫酸、亜硝酸、亜リン酸、亜ホウ酸、過酸化水素、過塩素酸及び過酸化窒素からなる群から選ばれた少なくとも一種であり、有機酸が、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、芳香族カルボン酸、複素環カルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸、脂肪族アミノカルボン酸、芳香族核をもつアミノカルボン酸及び複素環をもつアミノ酸からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項1に記載のエッチング処理用組成物。
【請求項3】
界面活性剤がエーテル型ノニオン性界面活性剤であり、無機酸が硫酸及び塩酸からなる群から選ばれた少なくとも一種であり、有機酸が脂肪族カルボン酸及び脂肪族オキシカルボン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項2に記載のエッチング処理用組成物。
【請求項4】
樹脂成形体が、スチレン系樹脂10〜90質量%とポリアミド系樹脂90〜10質量%含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載のエッチング処理用組成物。
【請求項5】
スチレン系樹脂及びポリアミド系樹脂を含む樹脂成分から形成される樹脂成形体を、請求項1〜4のいずれかに記載されたエッチング処理用組成物に接触させることを特徴とするエッチング処理方法。
【請求項6】
請求項5の方法によって、スチレン系樹脂及びポリアミド系樹脂を含む樹脂成分から形成される樹脂成形体にエッチング処理を施した後、無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解めっき処理を行うことを特徴とする、無電解めっき方法。




【公開番号】特開2006−152337(P2006−152337A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341784(P2004−341784)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】