樹脂成形体の処理方法
【課題】樹脂成形体の形状を問わず、成形品表層の全てに着色剤や機能性剤が注入されるとともに、人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を抽出除去することができ、樹脂成形体の表層に分子レベルやナノレベルの大きさを有する着色剤や機能性剤を注入することで、均一性の高い着色や機能性付与ができる。また溶剤を使用することなく樹脂成形体から人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を除去できるため、環境に優しく、中古の樹脂成形体表層に着色や機能性を付与することで、中古の樹脂成形体を再利用することができる。
【解決手段】添加剤が含まれる樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤の一方又は双方を付与する。
【解決手段】添加剤が含まれる樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤の一方又は双方を付与する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色剤や機能性剤の付与、添加剤の抽出など樹脂成形体を処理する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、樹脂成形体は様々な産業に利用されている。この樹脂成形体に様々な着色を施す場合には、成形に用いる樹脂自体に着色してから成形加工する材料着色法や、無着色の樹脂の成形加工を行った後に、成形体表層にスプレーコートやディッピング、静電塗装等の方法により塗装を施す表面塗装法が知られている。材料着色法では成形加工後に着色する煩雑さがないため一般的に用いられている。材料着色法は、マスターバッチと呼ばれる各種無機系、有機系の顔料や染料を練り込んだ着色用の樹脂を成形用の樹脂に溶融混合して着色しそれを成形加工する方法である。
また、樹脂成形体は、抗菌性や吸水性、撥水性、UV吸収性、発熱性、静電性、難燃性、導電性など、用途に併せた機能性を付与して商品価値を高めることで、その利用分野を拡げている。樹脂成形体への機能性付与は、樹脂を成形加工して樹脂成形体とした後、得られた樹脂成形体の表面に化学処理、コーティング、塗装、メッキなどの方法を用いることにより施される。
【0003】
しかし、材料着色法による樹脂成形体への着色では、成形前の樹脂に染料や顔料を練り込むことによって着色するので、樹脂成形体全体に染料や顔料の成分が含まれ、高価な染料や顔料が過剰に使用されていた。特に厚みのある形状を有する成形体である場合は、表層以外の成形体内部に染料や顔料が多く含まれるため、製造コストを底上げする要因となっていた。また、染料や顔料の練り込みによる樹脂成形体への着色では、樹脂に数十ナノ〜数ミクロンの染料粒子や顔料粒子を練り込むことで着色しているが、樹脂に広い粒径範囲の粒子を練り込んでいるため不均一な分散となって、樹脂成形体の着色度や透明性に劣る問題があった。
表面塗装法では作業者の塗料に関する専門的知識や熟練が要求され、作業者の熟練度合いにより塗り残しなど仕上がりが左右されたり、塗装ブースなど特別な設備を設ける必要があった。
【0004】
樹脂成形体への機能性剤の付与では、樹脂成形体が多孔質等のような複雑な形状をとる場合、成形体表層をコーティング、塗装など物理的な方法によっては、機能性剤の付与をすることができない箇所が生じたり、効果的かつ均一な機能性付与ができない問題があった。また、表面塗装法などにより樹脂成形体へ機能性剤を付与する際は、通常、強度や加工性を高めるため、エッチングやコロナ放電、プラズマ放電、サンドブラストなどの方法により樹脂成形体の表層を粗化、活性化させることが一般に行われている。これらの粗化、活性化では、処理装置が必要になること、また使用した溶剤等の処理によって製造コストが高くなるという問題があった。更に樹脂成形体に化学処理を用いて機能性を付与する場合では、化学処理に必要な溶媒や試薬を表層に付与するよりも多量に使用するので、試薬コストや作業に生じる薬液を処理するコストにより製造コストが高くなる問題があった。
また樹脂成形体には、品質保持のためや、成形加工し易くするように、酸化防止剤や可塑剤などの成分を添加している。これらの添加剤は、上記成形体を長期間使用したり、室温より高温或いは有機又は無機溶剤の存在する場で使用することによっても、徐々に環境中に放出や抽出され、人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染があるので、予め除去されていることが望ましい。
【0005】
樹脂成形体への着色に関する上記諸問題を解決する方策として、染料で染色された樹脂粒子の製造方法であって、樹脂粒子と染料を超臨界流体中或いは亜臨界流体中で混合させる混合工程と、混合工程終了後、減圧する減圧工程とを備え、樹脂粒子は超臨界流体中或いは亜臨界流体中で溶解しない樹脂であり、染料は油溶性染料であることを特徴とする着色樹脂粒子の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維を含む構造物を媒体中で分散染料を用いて染色する方法において、媒体として、超臨界二酸化炭素を用い、臨界点以上の温度及び圧力条件下で染色を行った後、媒体を臨界点未満の温度及び圧力に低下させ、染料を回収することを特徴とする繊維構造物の染色方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。上記特許文献1や特許文献2に示される方法では、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体を用いた無水での着色が提案され、環境負荷が少なくかつ表層のみを着色する成形品が得られることが記載されている。
【0006】
また、樹脂成形体への機能性剤付与に関する上記諸問題を解決する方策として、熱可塑性樹脂から成形品を製造する方法であって、金型が形成するキャビティに軟化した熱可塑性樹脂を注入するステップと、キャビティの少なくとも一部を開放するステップと、キャビティの解放された一部から熱可塑性樹脂上に、超臨界流体に溶解された機能性有機材料を注入するステップと、キャビティ内の熱可塑性樹脂と機能性有機材料を加圧するステップとを有することを特徴とする成形品の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、超臨界流体、亜臨界流体又は液状態の物質を含む高圧流体並びに、それらに添加剤を加えた流体を用いて、有機及び無機物質をマイクロコーティング又はカプセル化する技術が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。上記特許文献3や特許文献4に示される方法では、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体を用いた機能性剤付与が提案されている。
【0007】
更に、樹脂成形体に含まれる添加剤を除去する方策として、オレフィン重合体中の有機添加剤を二酸化炭素の超臨界流体抽出により抽出する方法において、超臨界流体として二酸化炭素とアルコールの混合物を用いることを特徴とするオレフィン重合体中の有機添加剤の抽出方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。特許文献5では二酸化炭素にアルコールを添加することで、添加剤の抽出効率を向上させている。
【特許文献1】特開2004−161824号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2002−339266号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2004−330720号公報(請求項7)
【特許文献4】特開平11−197494号公報(段落[0016])
【特許文献5】特開平6−279319号公報(請求項1、段落[0006])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
医療用品や食品用具、精密機器、半導体部品など特別な用途に使用されるような樹脂成形体では、着色や機能性剤の付与が施されるのが現状であり、また樹脂成形体に含まれる添加剤による人体への悪影響や食品、半導体部品への汚染についても考慮されている。
しかしながら、上記特許文献1〜5に示される方法では、樹脂成形体への着色や機能性剤付与、樹脂成形体中の添加剤の抽出が個別の技術として開示され、それぞれの技術を個別に行わなければならない。樹脂成形体に対して着色や機能性剤付与を個別に処理する場合、処理工程が煩雑となり、処理時間も長く、昇温や冷却、加圧や減圧を頻繁に行う必要があるため、処理コストが高くなる問題があった。従って、処理圧力や処理温度を変化させず、超臨界流体により同一装置により1バッチ処理で処理することができる低コストでの処理方法が望まれていた。
【0009】
また、上記樹脂成形体は所定期間の使用や保管によって、着色を施した表層が退色したり、表層に付与した機能性が低下するなどの問題を生じるが、樹脂成形体はその用途においては未だ十分に耐用性を保持しているにも係わらず、表層の退色や機能性低下だけの問題で、樹脂成形体そのものの利用価値、商品価値が大幅に低下して廃棄処分されることが多く、資源の浪費が大きいという問題があった。
【0010】
本発明の第1の目的は、樹脂成形体の形状を問わず、成形品表層の全てに着色剤や機能性剤が注入されるとともに、人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を抽出除去することができる樹脂成形体の処理方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、樹脂成形体の表層に分子レベルやナノレベルの大きさを有する着色剤や機能性剤を注入することで、均一性の高い着色や機能性付与ができる樹脂成形体の処理方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、溶剤を使用することなく樹脂成形体から人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を除去できるため、環境に優しい樹脂成形体の処理方法を提供することにある。
本発明の第4の目的は、中古の樹脂成形体表層に着色や機能性を付与することで、中古の樹脂成形体を再利用することができる樹脂成形体の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、添加剤が含まれる樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与することを特徴とする樹脂成形体の処理方法である。
請求項2に係る発明は、添加剤が含まれる樹脂成形体に超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、樹脂成形体を膨潤させる第1処理工程と、第1処理工程の超臨界状態を維持した状態で、超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させ、膨潤した樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与する第2処理工程とを含み、第1処理工程と第2処理工程とが連続的に行われることを特徴とする樹脂成形体の処理方法である。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方とともに助剤を更に添加する処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂成形体の処理方法によれば、樹脂成形体の形状を問わず、成形品表層の全てに着色剤や機能性剤が注入されるとともに、人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を抽出除去することができ、樹脂成形体の表層に分子レベルやナノレベルの大きさを有する着色剤や機能性剤を注入することで、均一性の高い着色や機能性付与ができる。また溶剤を使用することなく樹脂成形体から人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を除去できるため、環境に優しく、中古の樹脂成形体表層に着色や機能性を付与することで、中古の樹脂成形体を再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
本発明の処理対象となる樹脂成形体は、無着色のまま成形された成形体に機能性剤が付与されていないもの、無着色のまま成形された成形体に機能性剤が付与されたもの、既に所定の着色が施された樹脂が成形された成形体に機能性剤が付与されていないもの、或いは既に所定の着色が施された樹脂が成形された成形体に機能性剤が付与されたものであって、樹脂成形体に添加剤が含まれているものである。また、着色を施した表層の一部又は全部が退色したり、表層に付与した機能性が低下したような樹脂成形体も処理対象となる。
【0014】
樹脂成形体の樹脂材料は、特に制限されないが、例えば、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、メタクリル、ゼオネックス、シクロポリオレフィン、セルロース系、不飽和ポリエステル、フェノール、ポリウレタン、シリコーン、フッ素系樹脂等の樹脂が挙げられる。本発明の樹脂成形体は、上記樹脂材料を用いて作製された粉末微粒子、パイプ、タンク、プレート、繊維等の様々な形状の製品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
樹脂成形体には、保存安定性や成形加工性を高めるために酸化防止剤や可塑剤などの添加剤が含まれている。具体的には、亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、アルキルホスフィン類、アルキルホスホネート類など有機リン化合物系の酸化防止剤、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤、アルキルチオール、アルキルチオエーテルなどの有機硫黄化合物系の酸化防止剤、BHA(Butyl Hydroxy Anisol)、BHT(Butyl Hydroxy Toluene)等の酸化防止剤、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、ポリエステル系などの可塑剤が挙げられる。
【0015】
本発明の第1の処理方法は、添加剤が含まれる樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与することを特徴とする。
また、本発明の第2の処理方法は、添加剤が含まれる樹脂成形体に超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、樹脂成形体を膨潤させる第1処理工程と、第1処理工程の超臨界状態を維持した状態で、超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させ、膨潤した樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与する第2処理工程とを含み、第1処理工程と第2処理工程とが連続的に行われることを特徴とする。
【0016】
本発明の処理方法で使用される超臨界流体は、物理的又は化学的に安定な流体であって、臨界温度及び臨界圧力がそれぞれ低く、樹脂成形体の材料である樹脂の軟化点より低い臨界温度を有する、環境に優しい物質が選定される。超臨界流体とは、臨界温度及び臨界圧力以上に維持された流体であり、気体の性質と液体の性質との両方の性質を示し、気体のように拡散し易くかつ液体の溶解性を示す。本発明の処理方法に超臨界流体として用いられる流体の種類としては、二酸化炭素、二酸化窒素、エタン、エチレン、プロパン、ブタンなどが挙げられる。このうち、特に二酸化炭素が比較的穏和な条件で超臨界流体となり、しかも毒性を有さず、不燃性であるため好ましい。本発明の処理方法では、上記流体を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0017】
本発明で用いられる着色剤としては、樹脂成形体の表層を着色させることが可能なあらゆる有色物質を意味し、分散染料、酸性染料、酸性媒染染料、塩基性染料、直接染料、建設染料、反応性染料、ナフトール染料などの通常の染料以外に、有機顔料、無機顔料等の顔料をも含む広い概念が含まれる。このうち樹脂の通常の染色に用いられている分散染料が好ましい。但し、超臨界流体に二酸化炭素を用いる場合は、二酸化炭素は無極性であるため、超臨界二酸化炭素への溶解性が低いことから、水に不溶な分散染料以外の染料は使用が困難である。分散染料としては、ディスパースイエロー54、ディスパースイエロー122、ディスパースイエロー124、ディスパースイエロー128、ディスパースイエロー134、ディスパースイエロー140、ディスパースオレンジ5、ディスパースオレンジ37、ディスパースオレンジ93、ディスパースオレンジ103、ディスパースオレンジ112、ディスパースオレンジ134、ディスパースオレンジ370、ディスパースグリーン7、ディスパースバイオレット61、ディスパースバイオレット63、ディスパースブラウン1、ディスパースブラウン13、ディスパースブルー14、ディスパースブルー27、ディスパースブルー54、ディスパースブルー56、ディスパースブルー176、ディスパースブルー182、ディスパースブルー193、ディスパースレッド60、ディスパースレッド146、ディスパースレッド199、ディスパースレッド202、ディスパースレッド204、ディスパースレッド291などが挙げられ、これらの染料を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。なお、一般の分散染料には、分散染料を水に安定に分散させるために分散剤を含ませて使用するが、本発明の処理方法のように染色媒体として超臨界流体を用いる場合には分散剤は不要である。そのため、分散剤が含まれていない分散染料をそのまま着色剤として使用することができる。
【0018】
また本発明で用いられる機能性剤は、樹脂成形体の物理化学的特性に応じて適宜選択される。また実使用環境下で基材から溶出しないことが必要であり、かつ常態において基材には実質的に溶解しないか、溶解したとしても極微量のものが選択される。具体的には、紫外線吸収剤、強度増加剤、親水性や親油性を付与する界面活性剤、酸化剤、中和剤、金属又は触媒奪活剤、スリップ剤、光安定剤、粘着防止剤、着色剤、滑剤、難燃剤、カップリング剤、加工助剤、帯電防止剤、核剤、発泡剤、抗菌剤等が使用できる。
例えば、紫外線吸収剤としては共同薬品社製のViosorb550、580、582、583、590及び591や、住友化学工業社製のスミソーブ250、旭電化工業社製のアデカスタブLA−31等のベンゾトリアゾール系、LA−51等のベンゾフェノン系が挙げられる。この紫外線吸収剤は紫外線透過率をコントロールする目的として付与される。また強度増加剤としては信越シリコーン社製のシリコーンオイルが挙げられる。この強度増加剤は樹脂成形体の機械的強度を改良する目的として付与される。また、強度増加剤と親水性を付与する界面活性剤の機能を併せ持つ機能性剤としては、信越シリコーン社製のKF355、615、353、945、6004等のポリエーテル変性シリコーンオイルが挙げられる。この機能性剤は機械的強度とともに樹脂成形体表層に親水性を付与することができる。中和剤や触媒奪活剤としては酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、脂肪族アミン及び脂肪族アミドが挙げられる。スリップ剤としてはエルクアミド、オレアミド及びエチレンビスステアラミドが挙げられる。光安定剤としてはベンゾフェノン系が挙げられる。発泡剤としてはアゾジカルボンアミド及び重炭酸ナトリウムが挙げられる。粘着防止剤としては珪藻土シリカ、クレー及びタルクが挙げられる。潤滑剤としては有機改質ポリジメチルシロキサンが挙げられる。加工助剤としてはステアリン酸カルシウム及び有機改質ポリジメチルシロキサンが挙げられる。帯電防止剤としてはグリセロールモノステアレート、エトキシル化アミン類、ポリエチレングリコールエステル及び第4級アンモニウム化合物が挙げられる。抗菌剤としてはカテキン、キトサン、フラボン、アクリロニトリル、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基又はリン酸基であるアニオン性官能基を1分子中に複数個有するポリアニオンが挙げられる。これらの機能性剤は単独で或いは2種以上組み合わせて使用される。
【0019】
また本発明の処理方法では、超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方とともに、助剤を更に添加してもよい。超臨界流体に助剤を添加することにより、着色剤や機能性剤の超臨界流体への溶解度が向上したり、樹脂成形体が膨潤し易くなって着色剤や機能性剤の樹脂成形体への注入を促進することができる。助剤としてはケトン類、アルコール類、有機酸類、脂肪族類、芳香族類などの溶剤が挙げられる。
【0020】
次に本発明の第1の処理方法を、超臨界流体として二酸化炭素を用い、樹脂成形体の表層に着色剤と機能性剤の双方を付与する例で説明する。
図1に示すように、本発明の樹脂成形体の処理方法に好適な処理装置10は、その内部に添加物を含む樹脂成形体を封入して、樹脂成形体に超臨界二酸化炭素を接触させる処理槽11と、超臨界二酸化炭素を処理槽11、吸着槽15を通じて循環させる第1循環経路12と、超臨界二酸化炭素に着色剤を溶解させる着色剤溶解槽13と、超臨界二酸化炭素に機能性剤を溶解させる機能性剤溶解槽14と、超臨界二酸化炭素を処理槽11、着色剤溶解槽13及び機能性剤溶解槽14を通じて循環させる第2循環経路16と、超臨界二酸化炭素に溶解した着色剤、機能性剤並びに抽出した添加剤を分離する分離槽17とを備える。
【0021】
第1循環経路12は、処理槽11に超臨界二酸化炭素を供給するための供給側管路18と、供給側管路18とともに第1循環経路12を形成し処理槽11から超臨界二酸化炭素を排出するための排出側管路19から構成される。排出側管路19には第1バルブ21、抽出した添加剤を吸着剤や活性炭により除去する吸着槽15が設けられ、処理槽11と第1バルブ21の間の排出側管路19には超臨界二酸化炭素中の着色剤、機能性剤並びに抽出した添加剤の濃度を測定する検出器22が、供給側管路18には流体を所定の温度に調節する温度調節器23と、超臨界二酸化炭素を所定の流量で循環させる循環ポンプ24がそれぞれ設置される。
第2循環経路16は、供給側管路18と、処理槽11から検出器22と第1バルブ21の間までの排出側管路19の一部と、一端が検出器22と第1バルブ21の間に接続し着色剤溶解槽13を通って他端が供給側管路18に接続する第1接続管路26と、一端が検出器22と第1バルブ21の間に接続し機能性剤溶解槽14を通って他端が着色剤溶解槽13と供給側管路18の間の第1接続管路26に接続する第2接続管路27から構成される。着色剤溶解槽13の前後の第1接続管路26には第2バルブ28及び第3バルブ29が、機能性剤溶解槽14の前後の第2接続管路27には第4バルブ31及び第5バルブ32がそれぞれ設けられる。
【0022】
また、分離槽17は分離用管路33により第3バルブ29と供給側管路18の間の第1接続管路26に接続される。分離用管路33には減圧弁34が設けられる。温度調節器23には、二酸化炭素供給管路36の一端が接続され、この二酸化炭素供給管路36の他端は二酸化炭素貯蔵槽37に接続され、二酸化炭素供給管路36に設けられた二酸化炭素供給ポンプ38により二酸化炭素が供給されるよう配設される。温度調節器23と二酸化炭素供給ポンプ38の間の二酸化炭素供給管路36には、開閉バルブ39が設けられる。また、温度調節器23には、助剤供給管路41の一端が接続され、この助剤供給管路41の他端は助剤貯蔵槽42に接続され、助剤供給管路41に設けられた助剤供給ポンプ43により助剤が供給されるよう配設される。温度調節器23と助剤供給ポンプ43の間の助剤供給管路41には、開閉バルブ44が設けられる。
【0023】
先ず、このような構成を有する処理装置10の第1バルブ21、開閉バルブ39を解放し、第2〜第5バルブ28,29,31,32、減圧弁34並びに開閉バルブ44を閉じておく。次いで、処理槽11内に添加剤を含む樹脂成形体を収容する。この状態で、二酸化炭素供給ポンプ38を駆動して二酸化炭素貯留槽37から二酸化炭素を温度調節器23を通じて処理槽11、供給側管路18、排出側管路19を含む第1循環経路12を所定の圧力まで加圧する。第1循環経路12に二酸化炭素を加圧した後、循環ポンプ24を駆動して二酸化炭素を第1循環経路12に循環させながら温度調節器23により二酸化炭素を所定温度まで昇温して超臨界二酸化炭素とし、この超臨界二酸化炭素を処理槽11内の樹脂成形体と接触させ、樹脂成形体の温度が所定温度になるまで保持する。このときに樹脂成形体に含まれる添加剤の抽出が行われる。抽出された添加剤は吸着槽15の吸着剤等により除去する。
【0024】
次に、第1バルブ21を閉じ、第2〜第5バルブ28,29,31,32を解放して第1循環経路12を循環していた超臨界二酸化炭素を第2循環経路16に循環させる。第2循環経路16では超臨界二酸化炭素が着色剤溶解槽13及び機能性剤溶解槽14にそれぞれ流し込まれ、この着色剤溶解槽13及び機能性剤溶解槽14で超臨界二酸化炭素に着色剤及び機能性剤がそれぞれ溶解される。着色剤及び機能性剤を溶解した超臨界二酸化炭素は循環ポンプ24により処理槽11に送られて樹脂成形体表層と接触し、処理槽11内において樹脂成形体表層への着色と機能性剤の付与が行われる。
【0025】
超臨界二酸化炭素中の着色剤及び機能性剤の濃度は常に所定の範囲内に維持するように制御する必要がある。そのため、処理槽11から排出された超臨界二酸化炭素を、着色剤溶解槽13の入口手前に設置された検出器22によって超臨界二酸化炭素中の着色剤及び機能性剤の濃度を測定する。この検出器22では紫外可視分光光度法又は赤外吸収法によって各濃度が測定される。制御方法としては、第2〜第5バルブ28,29,31,32の開閉度を調節することによって、着色剤溶解槽13及び機能性剤溶解槽14への超臨界二酸化炭素の流入量を制御したり、循環ポンプ24によって循環流量を制御する。具体的には、超臨界二酸化炭素への着色剤並びに機能性剤の溶解量が、所定の濃度範囲より少ないときは着色剤溶解槽13及び機能性剤溶解槽14の前後に設置した第2〜第5バルブ28,29,31,32の開度をあげて、超臨界二酸化炭素への着色剤と機能性剤の溶解を促進する。逆に超臨界二酸化炭素への着色剤並びに機能性剤の溶解量が、所定の濃度範囲より多いときは第2〜第5バルブ28,29,31,32の開度を絞り、超臨界二酸化炭素への着色剤と機能性剤の溶解を抑制する。また循環中の超臨界二酸化炭素に助剤を添加して、着色剤や機能性剤の超臨界二酸化炭素への溶解度を向上させることにより、超臨界二酸化炭素への着色剤並びに機能性剤の溶解量を制御してもよい。助剤の供給に際しては、助剤貯留槽42から助剤供給ポンプ43により所定量の助剤が循環ラインに流れ込むようにする。検出器22において、超臨界二酸化炭素中の着色剤、機能性剤の量が所定の濃度になったときに、助剤の供給は停止する。
【0026】
このように、超臨界二酸化炭素への着色剤並びに機能性剤の溶解量を制御しながら第2循環経路16での循環状態を所定時間保持して、樹脂成形体表層への着色と機能性剤付与を行う。これらの処理を終えた後は、着色剤溶解槽13と機能性剤溶解槽14の前後の第2〜第5バルブ28,29,31,32を閉じ、第1バルブ21、減圧弁34を解放し、分離槽17へのラインを繋ぐ。分離槽17において超臨界二酸化炭素の圧力を減圧弁34により臨界圧力より低い圧力にまで減圧して超臨界二酸化炭素を二酸化炭素ガスに態変化させることにより、超臨界二酸化炭素中に溶解していた着色剤、機能性剤を二酸化炭素から分離する。分離した二酸化炭素は二酸化炭素貯留槽37に戻され、リサイクルされる。
【0027】
このように本発明の樹脂成形体の処理方法を施すことで、樹脂成形体の形状がどのような形状を有していても、成形品表層の全てに着色剤や機能性剤が注入され、かつ人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を容易に抽出除去することができる。また、樹脂成形体の表層に分子レベルやナノレベルの大きさを有する着色剤や機能性剤を注入することで、均一性の高い着色や機能性付与ができる。また溶剤を使用することなく樹脂成形体から人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を除去できるため、環境にも優しい。更に、本発明の処理方法を中古の樹脂成形体に対して行えば、中古の樹脂成形体を再利用することができる。
【実施例】
【0028】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
添加剤として酸化防止剤が含まれ、材料着色法によりオレンジ色の顔料が練り込まれた樹脂を所定の形状に加工した樹脂成形体を用意した。また、着色剤としてディスパースレッドを、機能性剤としてカテキンをそれぞれ用意し、ディスパースレッドは着色剤溶解槽に、カテキンは機能性剤溶解槽に供給することが可能となるように準備した。
図1に示す処理装置10の処理槽に樹脂成形体を収容し、第1循環経路12に二酸化炭素を加圧して、圧力を20MPa、温度を90℃に保つことにより、第1循環経路12に満たした二酸化炭素を超臨界二酸化炭素とし、樹脂成形体が上記温度になるまで超臨界二酸化炭素を第1循環経路12に循環させて樹脂成形体に含まれる添加剤を抽出し、抽出した添加剤を吸着槽15で除去した。次に、各バルブを切り替えて第1循環経路12を循環していた超臨界二酸化炭素を第2循環経路16に循環させ、超臨界二酸化炭素を着色剤溶解槽13と機能性剤溶解槽14に流し込んで、超臨界二酸化炭素にディスパースレッドとカテキンを溶解させた。超臨界二酸化炭素中のディスパースレッド等の濃度を所定の濃度に制御しながら、第2循環経路16での循環状態を2時間保持し、樹脂成形体にディスパースレッド及びカテキンの付与を施した。
【0029】
<実施例2>
助剤としてエタノールを5重量%の割合で超臨界二酸化炭素に添加し、超臨界二酸化炭素の圧力を10MPaとした以外は実施例1と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
<実施例3>
超臨界二酸化炭素の圧力を20MPaとした以外は実施例2と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
<実施例4>
超臨界二酸化炭素の圧力を30MPaとした以外は実施例2と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
<実施例5>
超臨界二酸化炭素の圧力を20MPa、超臨界二酸化炭素の温度を110℃とした以外は実施例2と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
<比較例1>
流体の圧力を1MPaとした以外は実施例2と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
【0030】
<比較試験1>
実施例1〜5及び比較例1で処理した樹脂成形体の着色性、機能性剤注入量及び添加剤抽出率を求めた。着色性は処理した樹脂成形体について拡散反射測定装置を用いて反射率Rを求め、反射率Rを次の式(1)に示すKubelka-Munk式に代入することでK/S値を算出した。このK/S値を着色性評価指標とした。
【0031】
【数1】
【0032】
機能性剤注入量並びに添加剤抽出率は溶媒抽出法により算出した。
【0033】
得られた結果を表1にそれぞれ示す。なお、表1中のK/S値は、処理前の樹脂成形体、即ちオレンジ色の顔料が着色されただけの樹脂のK/S値を100としたときの相対値である。
【0034】
【表1】
【0035】
表1より明らかなように、処理圧力が低い比較例1では処理前のK/S値から大きく変化しておらず、機能性剤も殆ど注入されていなかった。また添加剤も抽出されていない。これに対して、実施例1〜実施例5では高いK/S値を示し、機能性剤も実用上十分な割合にまで注入されていた。特に実施例2〜実施例5では助剤を添加することで、着色性並びに機能性剤の注入量が向上し、添加剤の抽出率も高くなっていた。また処理圧力が高いほど、或いは処理温度が高いほど、着色性並びに機能性剤の注入量が向上する傾向が見られた。
【0036】
<比較例2>
樹脂成形体に着色剤を付与した後に処理装置から取り出し、その後、機能性剤の付与を施した以外は実施例4と同様の条件で樹脂成形体を処理した。即ち、2種類の処理を個別に行った。
【0037】
<比較例3>
機能性剤の付与を行った後に、着色剤を付与した以外は比較例2と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
【0038】
<比較試験2>
実施例4、比較例2及び比較例3で処理した樹脂成形体について、上記比較試験1と同様に樹脂成形体の着色性、機能性剤注入量及び添加剤抽出率を求めた。得られた結果を表2にそれぞれ示す。なお、表2中のK/S値は、処理前の樹脂成形体、即ち着色前樹脂のK/S値を100としたときの相対値である。
【0039】
【表2】
【0040】
表2より明らかなように、実施例4、比較例2及び比較例3では樹脂成形体に含まれる添加剤は高い割合で抽出されていた。しかし、比較例2では着色剤を付与した後に機能性剤の付与を行っているため、機能性剤の付与を行った際に、先に付与した着色剤の一部が抽出されてしまい、着色性に劣る結果となった。同様に比較例3では機能性剤を付与した後に着色剤の付与を行っているため、着色剤の付与を行った際に、先に付与した機能性剤の一部が抽出されてしまい、機能性剤の注入量が低下する結果となった。これに対して、実施例4では着色性並びに機能性剤の注入量がバランスよく行われていることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施の形態における樹脂成形体の処理方法に好適な処理装置を示す図。
【符号の説明】
【0042】
10 処理装置
11 処理槽
12 第1循環経路
13 着色剤溶解槽
14 機能性剤溶解槽
15 吸着槽
16 第2循環経路
17 分離槽
22 検出器
23 温度調節器
24 循環ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色剤や機能性剤の付与、添加剤の抽出など樹脂成形体を処理する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、樹脂成形体は様々な産業に利用されている。この樹脂成形体に様々な着色を施す場合には、成形に用いる樹脂自体に着色してから成形加工する材料着色法や、無着色の樹脂の成形加工を行った後に、成形体表層にスプレーコートやディッピング、静電塗装等の方法により塗装を施す表面塗装法が知られている。材料着色法では成形加工後に着色する煩雑さがないため一般的に用いられている。材料着色法は、マスターバッチと呼ばれる各種無機系、有機系の顔料や染料を練り込んだ着色用の樹脂を成形用の樹脂に溶融混合して着色しそれを成形加工する方法である。
また、樹脂成形体は、抗菌性や吸水性、撥水性、UV吸収性、発熱性、静電性、難燃性、導電性など、用途に併せた機能性を付与して商品価値を高めることで、その利用分野を拡げている。樹脂成形体への機能性付与は、樹脂を成形加工して樹脂成形体とした後、得られた樹脂成形体の表面に化学処理、コーティング、塗装、メッキなどの方法を用いることにより施される。
【0003】
しかし、材料着色法による樹脂成形体への着色では、成形前の樹脂に染料や顔料を練り込むことによって着色するので、樹脂成形体全体に染料や顔料の成分が含まれ、高価な染料や顔料が過剰に使用されていた。特に厚みのある形状を有する成形体である場合は、表層以外の成形体内部に染料や顔料が多く含まれるため、製造コストを底上げする要因となっていた。また、染料や顔料の練り込みによる樹脂成形体への着色では、樹脂に数十ナノ〜数ミクロンの染料粒子や顔料粒子を練り込むことで着色しているが、樹脂に広い粒径範囲の粒子を練り込んでいるため不均一な分散となって、樹脂成形体の着色度や透明性に劣る問題があった。
表面塗装法では作業者の塗料に関する専門的知識や熟練が要求され、作業者の熟練度合いにより塗り残しなど仕上がりが左右されたり、塗装ブースなど特別な設備を設ける必要があった。
【0004】
樹脂成形体への機能性剤の付与では、樹脂成形体が多孔質等のような複雑な形状をとる場合、成形体表層をコーティング、塗装など物理的な方法によっては、機能性剤の付与をすることができない箇所が生じたり、効果的かつ均一な機能性付与ができない問題があった。また、表面塗装法などにより樹脂成形体へ機能性剤を付与する際は、通常、強度や加工性を高めるため、エッチングやコロナ放電、プラズマ放電、サンドブラストなどの方法により樹脂成形体の表層を粗化、活性化させることが一般に行われている。これらの粗化、活性化では、処理装置が必要になること、また使用した溶剤等の処理によって製造コストが高くなるという問題があった。更に樹脂成形体に化学処理を用いて機能性を付与する場合では、化学処理に必要な溶媒や試薬を表層に付与するよりも多量に使用するので、試薬コストや作業に生じる薬液を処理するコストにより製造コストが高くなる問題があった。
また樹脂成形体には、品質保持のためや、成形加工し易くするように、酸化防止剤や可塑剤などの成分を添加している。これらの添加剤は、上記成形体を長期間使用したり、室温より高温或いは有機又は無機溶剤の存在する場で使用することによっても、徐々に環境中に放出や抽出され、人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染があるので、予め除去されていることが望ましい。
【0005】
樹脂成形体への着色に関する上記諸問題を解決する方策として、染料で染色された樹脂粒子の製造方法であって、樹脂粒子と染料を超臨界流体中或いは亜臨界流体中で混合させる混合工程と、混合工程終了後、減圧する減圧工程とを備え、樹脂粒子は超臨界流体中或いは亜臨界流体中で溶解しない樹脂であり、染料は油溶性染料であることを特徴とする着色樹脂粒子の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維を含む構造物を媒体中で分散染料を用いて染色する方法において、媒体として、超臨界二酸化炭素を用い、臨界点以上の温度及び圧力条件下で染色を行った後、媒体を臨界点未満の温度及び圧力に低下させ、染料を回収することを特徴とする繊維構造物の染色方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。上記特許文献1や特許文献2に示される方法では、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体を用いた無水での着色が提案され、環境負荷が少なくかつ表層のみを着色する成形品が得られることが記載されている。
【0006】
また、樹脂成形体への機能性剤付与に関する上記諸問題を解決する方策として、熱可塑性樹脂から成形品を製造する方法であって、金型が形成するキャビティに軟化した熱可塑性樹脂を注入するステップと、キャビティの少なくとも一部を開放するステップと、キャビティの解放された一部から熱可塑性樹脂上に、超臨界流体に溶解された機能性有機材料を注入するステップと、キャビティ内の熱可塑性樹脂と機能性有機材料を加圧するステップとを有することを特徴とする成形品の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、超臨界流体、亜臨界流体又は液状態の物質を含む高圧流体並びに、それらに添加剤を加えた流体を用いて、有機及び無機物質をマイクロコーティング又はカプセル化する技術が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。上記特許文献3や特許文献4に示される方法では、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体を用いた機能性剤付与が提案されている。
【0007】
更に、樹脂成形体に含まれる添加剤を除去する方策として、オレフィン重合体中の有機添加剤を二酸化炭素の超臨界流体抽出により抽出する方法において、超臨界流体として二酸化炭素とアルコールの混合物を用いることを特徴とするオレフィン重合体中の有機添加剤の抽出方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。特許文献5では二酸化炭素にアルコールを添加することで、添加剤の抽出効率を向上させている。
【特許文献1】特開2004−161824号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2002−339266号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2004−330720号公報(請求項7)
【特許文献4】特開平11−197494号公報(段落[0016])
【特許文献5】特開平6−279319号公報(請求項1、段落[0006])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
医療用品や食品用具、精密機器、半導体部品など特別な用途に使用されるような樹脂成形体では、着色や機能性剤の付与が施されるのが現状であり、また樹脂成形体に含まれる添加剤による人体への悪影響や食品、半導体部品への汚染についても考慮されている。
しかしながら、上記特許文献1〜5に示される方法では、樹脂成形体への着色や機能性剤付与、樹脂成形体中の添加剤の抽出が個別の技術として開示され、それぞれの技術を個別に行わなければならない。樹脂成形体に対して着色や機能性剤付与を個別に処理する場合、処理工程が煩雑となり、処理時間も長く、昇温や冷却、加圧や減圧を頻繁に行う必要があるため、処理コストが高くなる問題があった。従って、処理圧力や処理温度を変化させず、超臨界流体により同一装置により1バッチ処理で処理することができる低コストでの処理方法が望まれていた。
【0009】
また、上記樹脂成形体は所定期間の使用や保管によって、着色を施した表層が退色したり、表層に付与した機能性が低下するなどの問題を生じるが、樹脂成形体はその用途においては未だ十分に耐用性を保持しているにも係わらず、表層の退色や機能性低下だけの問題で、樹脂成形体そのものの利用価値、商品価値が大幅に低下して廃棄処分されることが多く、資源の浪費が大きいという問題があった。
【0010】
本発明の第1の目的は、樹脂成形体の形状を問わず、成形品表層の全てに着色剤や機能性剤が注入されるとともに、人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を抽出除去することができる樹脂成形体の処理方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、樹脂成形体の表層に分子レベルやナノレベルの大きさを有する着色剤や機能性剤を注入することで、均一性の高い着色や機能性付与ができる樹脂成形体の処理方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、溶剤を使用することなく樹脂成形体から人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を除去できるため、環境に優しい樹脂成形体の処理方法を提供することにある。
本発明の第4の目的は、中古の樹脂成形体表層に着色や機能性を付与することで、中古の樹脂成形体を再利用することができる樹脂成形体の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、添加剤が含まれる樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与することを特徴とする樹脂成形体の処理方法である。
請求項2に係る発明は、添加剤が含まれる樹脂成形体に超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、樹脂成形体を膨潤させる第1処理工程と、第1処理工程の超臨界状態を維持した状態で、超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させ、膨潤した樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与する第2処理工程とを含み、第1処理工程と第2処理工程とが連続的に行われることを特徴とする樹脂成形体の処理方法である。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方とともに助剤を更に添加する処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂成形体の処理方法によれば、樹脂成形体の形状を問わず、成形品表層の全てに着色剤や機能性剤が注入されるとともに、人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を抽出除去することができ、樹脂成形体の表層に分子レベルやナノレベルの大きさを有する着色剤や機能性剤を注入することで、均一性の高い着色や機能性付与ができる。また溶剤を使用することなく樹脂成形体から人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を除去できるため、環境に優しく、中古の樹脂成形体表層に着色や機能性を付与することで、中古の樹脂成形体を再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
本発明の処理対象となる樹脂成形体は、無着色のまま成形された成形体に機能性剤が付与されていないもの、無着色のまま成形された成形体に機能性剤が付与されたもの、既に所定の着色が施された樹脂が成形された成形体に機能性剤が付与されていないもの、或いは既に所定の着色が施された樹脂が成形された成形体に機能性剤が付与されたものであって、樹脂成形体に添加剤が含まれているものである。また、着色を施した表層の一部又は全部が退色したり、表層に付与した機能性が低下したような樹脂成形体も処理対象となる。
【0014】
樹脂成形体の樹脂材料は、特に制限されないが、例えば、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、メタクリル、ゼオネックス、シクロポリオレフィン、セルロース系、不飽和ポリエステル、フェノール、ポリウレタン、シリコーン、フッ素系樹脂等の樹脂が挙げられる。本発明の樹脂成形体は、上記樹脂材料を用いて作製された粉末微粒子、パイプ、タンク、プレート、繊維等の様々な形状の製品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
樹脂成形体には、保存安定性や成形加工性を高めるために酸化防止剤や可塑剤などの添加剤が含まれている。具体的には、亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、アルキルホスフィン類、アルキルホスホネート類など有機リン化合物系の酸化防止剤、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤、アルキルチオール、アルキルチオエーテルなどの有機硫黄化合物系の酸化防止剤、BHA(Butyl Hydroxy Anisol)、BHT(Butyl Hydroxy Toluene)等の酸化防止剤、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、ポリエステル系などの可塑剤が挙げられる。
【0015】
本発明の第1の処理方法は、添加剤が含まれる樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与することを特徴とする。
また、本発明の第2の処理方法は、添加剤が含まれる樹脂成形体に超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、樹脂成形体を膨潤させる第1処理工程と、第1処理工程の超臨界状態を維持した状態で、超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させ、膨潤した樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与する第2処理工程とを含み、第1処理工程と第2処理工程とが連続的に行われることを特徴とする。
【0016】
本発明の処理方法で使用される超臨界流体は、物理的又は化学的に安定な流体であって、臨界温度及び臨界圧力がそれぞれ低く、樹脂成形体の材料である樹脂の軟化点より低い臨界温度を有する、環境に優しい物質が選定される。超臨界流体とは、臨界温度及び臨界圧力以上に維持された流体であり、気体の性質と液体の性質との両方の性質を示し、気体のように拡散し易くかつ液体の溶解性を示す。本発明の処理方法に超臨界流体として用いられる流体の種類としては、二酸化炭素、二酸化窒素、エタン、エチレン、プロパン、ブタンなどが挙げられる。このうち、特に二酸化炭素が比較的穏和な条件で超臨界流体となり、しかも毒性を有さず、不燃性であるため好ましい。本発明の処理方法では、上記流体を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0017】
本発明で用いられる着色剤としては、樹脂成形体の表層を着色させることが可能なあらゆる有色物質を意味し、分散染料、酸性染料、酸性媒染染料、塩基性染料、直接染料、建設染料、反応性染料、ナフトール染料などの通常の染料以外に、有機顔料、無機顔料等の顔料をも含む広い概念が含まれる。このうち樹脂の通常の染色に用いられている分散染料が好ましい。但し、超臨界流体に二酸化炭素を用いる場合は、二酸化炭素は無極性であるため、超臨界二酸化炭素への溶解性が低いことから、水に不溶な分散染料以外の染料は使用が困難である。分散染料としては、ディスパースイエロー54、ディスパースイエロー122、ディスパースイエロー124、ディスパースイエロー128、ディスパースイエロー134、ディスパースイエロー140、ディスパースオレンジ5、ディスパースオレンジ37、ディスパースオレンジ93、ディスパースオレンジ103、ディスパースオレンジ112、ディスパースオレンジ134、ディスパースオレンジ370、ディスパースグリーン7、ディスパースバイオレット61、ディスパースバイオレット63、ディスパースブラウン1、ディスパースブラウン13、ディスパースブルー14、ディスパースブルー27、ディスパースブルー54、ディスパースブルー56、ディスパースブルー176、ディスパースブルー182、ディスパースブルー193、ディスパースレッド60、ディスパースレッド146、ディスパースレッド199、ディスパースレッド202、ディスパースレッド204、ディスパースレッド291などが挙げられ、これらの染料を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。なお、一般の分散染料には、分散染料を水に安定に分散させるために分散剤を含ませて使用するが、本発明の処理方法のように染色媒体として超臨界流体を用いる場合には分散剤は不要である。そのため、分散剤が含まれていない分散染料をそのまま着色剤として使用することができる。
【0018】
また本発明で用いられる機能性剤は、樹脂成形体の物理化学的特性に応じて適宜選択される。また実使用環境下で基材から溶出しないことが必要であり、かつ常態において基材には実質的に溶解しないか、溶解したとしても極微量のものが選択される。具体的には、紫外線吸収剤、強度増加剤、親水性や親油性を付与する界面活性剤、酸化剤、中和剤、金属又は触媒奪活剤、スリップ剤、光安定剤、粘着防止剤、着色剤、滑剤、難燃剤、カップリング剤、加工助剤、帯電防止剤、核剤、発泡剤、抗菌剤等が使用できる。
例えば、紫外線吸収剤としては共同薬品社製のViosorb550、580、582、583、590及び591や、住友化学工業社製のスミソーブ250、旭電化工業社製のアデカスタブLA−31等のベンゾトリアゾール系、LA−51等のベンゾフェノン系が挙げられる。この紫外線吸収剤は紫外線透過率をコントロールする目的として付与される。また強度増加剤としては信越シリコーン社製のシリコーンオイルが挙げられる。この強度増加剤は樹脂成形体の機械的強度を改良する目的として付与される。また、強度増加剤と親水性を付与する界面活性剤の機能を併せ持つ機能性剤としては、信越シリコーン社製のKF355、615、353、945、6004等のポリエーテル変性シリコーンオイルが挙げられる。この機能性剤は機械的強度とともに樹脂成形体表層に親水性を付与することができる。中和剤や触媒奪活剤としては酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、脂肪族アミン及び脂肪族アミドが挙げられる。スリップ剤としてはエルクアミド、オレアミド及びエチレンビスステアラミドが挙げられる。光安定剤としてはベンゾフェノン系が挙げられる。発泡剤としてはアゾジカルボンアミド及び重炭酸ナトリウムが挙げられる。粘着防止剤としては珪藻土シリカ、クレー及びタルクが挙げられる。潤滑剤としては有機改質ポリジメチルシロキサンが挙げられる。加工助剤としてはステアリン酸カルシウム及び有機改質ポリジメチルシロキサンが挙げられる。帯電防止剤としてはグリセロールモノステアレート、エトキシル化アミン類、ポリエチレングリコールエステル及び第4級アンモニウム化合物が挙げられる。抗菌剤としてはカテキン、キトサン、フラボン、アクリロニトリル、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基又はリン酸基であるアニオン性官能基を1分子中に複数個有するポリアニオンが挙げられる。これらの機能性剤は単独で或いは2種以上組み合わせて使用される。
【0019】
また本発明の処理方法では、超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方とともに、助剤を更に添加してもよい。超臨界流体に助剤を添加することにより、着色剤や機能性剤の超臨界流体への溶解度が向上したり、樹脂成形体が膨潤し易くなって着色剤や機能性剤の樹脂成形体への注入を促進することができる。助剤としてはケトン類、アルコール類、有機酸類、脂肪族類、芳香族類などの溶剤が挙げられる。
【0020】
次に本発明の第1の処理方法を、超臨界流体として二酸化炭素を用い、樹脂成形体の表層に着色剤と機能性剤の双方を付与する例で説明する。
図1に示すように、本発明の樹脂成形体の処理方法に好適な処理装置10は、その内部に添加物を含む樹脂成形体を封入して、樹脂成形体に超臨界二酸化炭素を接触させる処理槽11と、超臨界二酸化炭素を処理槽11、吸着槽15を通じて循環させる第1循環経路12と、超臨界二酸化炭素に着色剤を溶解させる着色剤溶解槽13と、超臨界二酸化炭素に機能性剤を溶解させる機能性剤溶解槽14と、超臨界二酸化炭素を処理槽11、着色剤溶解槽13及び機能性剤溶解槽14を通じて循環させる第2循環経路16と、超臨界二酸化炭素に溶解した着色剤、機能性剤並びに抽出した添加剤を分離する分離槽17とを備える。
【0021】
第1循環経路12は、処理槽11に超臨界二酸化炭素を供給するための供給側管路18と、供給側管路18とともに第1循環経路12を形成し処理槽11から超臨界二酸化炭素を排出するための排出側管路19から構成される。排出側管路19には第1バルブ21、抽出した添加剤を吸着剤や活性炭により除去する吸着槽15が設けられ、処理槽11と第1バルブ21の間の排出側管路19には超臨界二酸化炭素中の着色剤、機能性剤並びに抽出した添加剤の濃度を測定する検出器22が、供給側管路18には流体を所定の温度に調節する温度調節器23と、超臨界二酸化炭素を所定の流量で循環させる循環ポンプ24がそれぞれ設置される。
第2循環経路16は、供給側管路18と、処理槽11から検出器22と第1バルブ21の間までの排出側管路19の一部と、一端が検出器22と第1バルブ21の間に接続し着色剤溶解槽13を通って他端が供給側管路18に接続する第1接続管路26と、一端が検出器22と第1バルブ21の間に接続し機能性剤溶解槽14を通って他端が着色剤溶解槽13と供給側管路18の間の第1接続管路26に接続する第2接続管路27から構成される。着色剤溶解槽13の前後の第1接続管路26には第2バルブ28及び第3バルブ29が、機能性剤溶解槽14の前後の第2接続管路27には第4バルブ31及び第5バルブ32がそれぞれ設けられる。
【0022】
また、分離槽17は分離用管路33により第3バルブ29と供給側管路18の間の第1接続管路26に接続される。分離用管路33には減圧弁34が設けられる。温度調節器23には、二酸化炭素供給管路36の一端が接続され、この二酸化炭素供給管路36の他端は二酸化炭素貯蔵槽37に接続され、二酸化炭素供給管路36に設けられた二酸化炭素供給ポンプ38により二酸化炭素が供給されるよう配設される。温度調節器23と二酸化炭素供給ポンプ38の間の二酸化炭素供給管路36には、開閉バルブ39が設けられる。また、温度調節器23には、助剤供給管路41の一端が接続され、この助剤供給管路41の他端は助剤貯蔵槽42に接続され、助剤供給管路41に設けられた助剤供給ポンプ43により助剤が供給されるよう配設される。温度調節器23と助剤供給ポンプ43の間の助剤供給管路41には、開閉バルブ44が設けられる。
【0023】
先ず、このような構成を有する処理装置10の第1バルブ21、開閉バルブ39を解放し、第2〜第5バルブ28,29,31,32、減圧弁34並びに開閉バルブ44を閉じておく。次いで、処理槽11内に添加剤を含む樹脂成形体を収容する。この状態で、二酸化炭素供給ポンプ38を駆動して二酸化炭素貯留槽37から二酸化炭素を温度調節器23を通じて処理槽11、供給側管路18、排出側管路19を含む第1循環経路12を所定の圧力まで加圧する。第1循環経路12に二酸化炭素を加圧した後、循環ポンプ24を駆動して二酸化炭素を第1循環経路12に循環させながら温度調節器23により二酸化炭素を所定温度まで昇温して超臨界二酸化炭素とし、この超臨界二酸化炭素を処理槽11内の樹脂成形体と接触させ、樹脂成形体の温度が所定温度になるまで保持する。このときに樹脂成形体に含まれる添加剤の抽出が行われる。抽出された添加剤は吸着槽15の吸着剤等により除去する。
【0024】
次に、第1バルブ21を閉じ、第2〜第5バルブ28,29,31,32を解放して第1循環経路12を循環していた超臨界二酸化炭素を第2循環経路16に循環させる。第2循環経路16では超臨界二酸化炭素が着色剤溶解槽13及び機能性剤溶解槽14にそれぞれ流し込まれ、この着色剤溶解槽13及び機能性剤溶解槽14で超臨界二酸化炭素に着色剤及び機能性剤がそれぞれ溶解される。着色剤及び機能性剤を溶解した超臨界二酸化炭素は循環ポンプ24により処理槽11に送られて樹脂成形体表層と接触し、処理槽11内において樹脂成形体表層への着色と機能性剤の付与が行われる。
【0025】
超臨界二酸化炭素中の着色剤及び機能性剤の濃度は常に所定の範囲内に維持するように制御する必要がある。そのため、処理槽11から排出された超臨界二酸化炭素を、着色剤溶解槽13の入口手前に設置された検出器22によって超臨界二酸化炭素中の着色剤及び機能性剤の濃度を測定する。この検出器22では紫外可視分光光度法又は赤外吸収法によって各濃度が測定される。制御方法としては、第2〜第5バルブ28,29,31,32の開閉度を調節することによって、着色剤溶解槽13及び機能性剤溶解槽14への超臨界二酸化炭素の流入量を制御したり、循環ポンプ24によって循環流量を制御する。具体的には、超臨界二酸化炭素への着色剤並びに機能性剤の溶解量が、所定の濃度範囲より少ないときは着色剤溶解槽13及び機能性剤溶解槽14の前後に設置した第2〜第5バルブ28,29,31,32の開度をあげて、超臨界二酸化炭素への着色剤と機能性剤の溶解を促進する。逆に超臨界二酸化炭素への着色剤並びに機能性剤の溶解量が、所定の濃度範囲より多いときは第2〜第5バルブ28,29,31,32の開度を絞り、超臨界二酸化炭素への着色剤と機能性剤の溶解を抑制する。また循環中の超臨界二酸化炭素に助剤を添加して、着色剤や機能性剤の超臨界二酸化炭素への溶解度を向上させることにより、超臨界二酸化炭素への着色剤並びに機能性剤の溶解量を制御してもよい。助剤の供給に際しては、助剤貯留槽42から助剤供給ポンプ43により所定量の助剤が循環ラインに流れ込むようにする。検出器22において、超臨界二酸化炭素中の着色剤、機能性剤の量が所定の濃度になったときに、助剤の供給は停止する。
【0026】
このように、超臨界二酸化炭素への着色剤並びに機能性剤の溶解量を制御しながら第2循環経路16での循環状態を所定時間保持して、樹脂成形体表層への着色と機能性剤付与を行う。これらの処理を終えた後は、着色剤溶解槽13と機能性剤溶解槽14の前後の第2〜第5バルブ28,29,31,32を閉じ、第1バルブ21、減圧弁34を解放し、分離槽17へのラインを繋ぐ。分離槽17において超臨界二酸化炭素の圧力を減圧弁34により臨界圧力より低い圧力にまで減圧して超臨界二酸化炭素を二酸化炭素ガスに態変化させることにより、超臨界二酸化炭素中に溶解していた着色剤、機能性剤を二酸化炭素から分離する。分離した二酸化炭素は二酸化炭素貯留槽37に戻され、リサイクルされる。
【0027】
このように本発明の樹脂成形体の処理方法を施すことで、樹脂成形体の形状がどのような形状を有していても、成形品表層の全てに着色剤や機能性剤が注入され、かつ人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を容易に抽出除去することができる。また、樹脂成形体の表層に分子レベルやナノレベルの大きさを有する着色剤や機能性剤を注入することで、均一性の高い着色や機能性付与ができる。また溶剤を使用することなく樹脂成形体から人体への悪影響や食品、半導体部品等への汚染がある添加剤を除去できるため、環境にも優しい。更に、本発明の処理方法を中古の樹脂成形体に対して行えば、中古の樹脂成形体を再利用することができる。
【実施例】
【0028】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
添加剤として酸化防止剤が含まれ、材料着色法によりオレンジ色の顔料が練り込まれた樹脂を所定の形状に加工した樹脂成形体を用意した。また、着色剤としてディスパースレッドを、機能性剤としてカテキンをそれぞれ用意し、ディスパースレッドは着色剤溶解槽に、カテキンは機能性剤溶解槽に供給することが可能となるように準備した。
図1に示す処理装置10の処理槽に樹脂成形体を収容し、第1循環経路12に二酸化炭素を加圧して、圧力を20MPa、温度を90℃に保つことにより、第1循環経路12に満たした二酸化炭素を超臨界二酸化炭素とし、樹脂成形体が上記温度になるまで超臨界二酸化炭素を第1循環経路12に循環させて樹脂成形体に含まれる添加剤を抽出し、抽出した添加剤を吸着槽15で除去した。次に、各バルブを切り替えて第1循環経路12を循環していた超臨界二酸化炭素を第2循環経路16に循環させ、超臨界二酸化炭素を着色剤溶解槽13と機能性剤溶解槽14に流し込んで、超臨界二酸化炭素にディスパースレッドとカテキンを溶解させた。超臨界二酸化炭素中のディスパースレッド等の濃度を所定の濃度に制御しながら、第2循環経路16での循環状態を2時間保持し、樹脂成形体にディスパースレッド及びカテキンの付与を施した。
【0029】
<実施例2>
助剤としてエタノールを5重量%の割合で超臨界二酸化炭素に添加し、超臨界二酸化炭素の圧力を10MPaとした以外は実施例1と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
<実施例3>
超臨界二酸化炭素の圧力を20MPaとした以外は実施例2と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
<実施例4>
超臨界二酸化炭素の圧力を30MPaとした以外は実施例2と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
<実施例5>
超臨界二酸化炭素の圧力を20MPa、超臨界二酸化炭素の温度を110℃とした以外は実施例2と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
<比較例1>
流体の圧力を1MPaとした以外は実施例2と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
【0030】
<比較試験1>
実施例1〜5及び比較例1で処理した樹脂成形体の着色性、機能性剤注入量及び添加剤抽出率を求めた。着色性は処理した樹脂成形体について拡散反射測定装置を用いて反射率Rを求め、反射率Rを次の式(1)に示すKubelka-Munk式に代入することでK/S値を算出した。このK/S値を着色性評価指標とした。
【0031】
【数1】
【0032】
機能性剤注入量並びに添加剤抽出率は溶媒抽出法により算出した。
【0033】
得られた結果を表1にそれぞれ示す。なお、表1中のK/S値は、処理前の樹脂成形体、即ちオレンジ色の顔料が着色されただけの樹脂のK/S値を100としたときの相対値である。
【0034】
【表1】
【0035】
表1より明らかなように、処理圧力が低い比較例1では処理前のK/S値から大きく変化しておらず、機能性剤も殆ど注入されていなかった。また添加剤も抽出されていない。これに対して、実施例1〜実施例5では高いK/S値を示し、機能性剤も実用上十分な割合にまで注入されていた。特に実施例2〜実施例5では助剤を添加することで、着色性並びに機能性剤の注入量が向上し、添加剤の抽出率も高くなっていた。また処理圧力が高いほど、或いは処理温度が高いほど、着色性並びに機能性剤の注入量が向上する傾向が見られた。
【0036】
<比較例2>
樹脂成形体に着色剤を付与した後に処理装置から取り出し、その後、機能性剤の付与を施した以外は実施例4と同様の条件で樹脂成形体を処理した。即ち、2種類の処理を個別に行った。
【0037】
<比較例3>
機能性剤の付与を行った後に、着色剤を付与した以外は比較例2と同様の条件で樹脂成形体を処理した。
【0038】
<比較試験2>
実施例4、比較例2及び比較例3で処理した樹脂成形体について、上記比較試験1と同様に樹脂成形体の着色性、機能性剤注入量及び添加剤抽出率を求めた。得られた結果を表2にそれぞれ示す。なお、表2中のK/S値は、処理前の樹脂成形体、即ち着色前樹脂のK/S値を100としたときの相対値である。
【0039】
【表2】
【0040】
表2より明らかなように、実施例4、比較例2及び比較例3では樹脂成形体に含まれる添加剤は高い割合で抽出されていた。しかし、比較例2では着色剤を付与した後に機能性剤の付与を行っているため、機能性剤の付与を行った際に、先に付与した着色剤の一部が抽出されてしまい、着色性に劣る結果となった。同様に比較例3では機能性剤を付与した後に着色剤の付与を行っているため、着色剤の付与を行った際に、先に付与した機能性剤の一部が抽出されてしまい、機能性剤の注入量が低下する結果となった。これに対して、実施例4では着色性並びに機能性剤の注入量がバランスよく行われていることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施の形態における樹脂成形体の処理方法に好適な処理装置を示す図。
【符号の説明】
【0042】
10 処理装置
11 処理槽
12 第1循環経路
13 着色剤溶解槽
14 機能性剤溶解槽
15 吸着槽
16 第2循環経路
17 分離槽
22 検出器
23 温度調節器
24 循環ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加剤が含まれる樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、前記樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、前記樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与することを特徴とする樹脂成形体の処理方法。
【請求項2】
添加剤が含まれる樹脂成形体に超臨界流体を接触させることにより、前記樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、前記樹脂成形体を膨潤させる第1処理工程と、
前記第1処理工程の超臨界状態を維持した状態で、前記超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させ、前記膨潤した樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、前記樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与する第2処理工程と
を含み、前記第1処理工程と前記第2処理工程とが連続的に行われることを特徴とする樹脂成形体の処理方法。
【請求項3】
超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方とともに助剤を更に添加する請求項1又は2記載の処理方法。
【請求項1】
添加剤が含まれる樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、前記樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、前記樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与することを特徴とする樹脂成形体の処理方法。
【請求項2】
添加剤が含まれる樹脂成形体に超臨界流体を接触させることにより、前記樹脂成形体から添加剤を抽出するとともに、前記樹脂成形体を膨潤させる第1処理工程と、
前記第1処理工程の超臨界状態を維持した状態で、前記超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させ、前記膨潤した樹脂成形体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を溶解させた超臨界流体を接触させることにより、前記樹脂成形体の表層に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方を付与する第2処理工程と
を含み、前記第1処理工程と前記第2処理工程とが連続的に行われることを特徴とする樹脂成形体の処理方法。
【請求項3】
超臨界流体に着色剤又は機能性剤のいずれか一方又はその双方とともに助剤を更に添加する請求項1又は2記載の処理方法。
【図1】
【公開番号】特開2007−91805(P2007−91805A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280057(P2005−280057)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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