説明

樹脂成形体の表面改質方法および樹脂成形体

【課題】低コストで多様な表面性質を付与可能な樹脂成形体の表面改質方法およびその表面改質方法により改質された樹脂成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】上記の課題は、アルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物を含む燃料ガスの火炎を樹脂成形体表面に放射する工程、該樹脂成形体表面にオルガノシランを含む樹脂組成物を塗工し、改質層を形成する工程を備えることを特徴とする表面改質方法により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体の表面改質方法および樹脂成形体に関し、より詳細には、防汚等の撥水性および親水性表面、ビニル基、アクリロキシ基、アミノ基、イソシアネート基等の反応性表面を簡便に樹脂成形体表面に形成させる表面改質方法および該表面改質方法により改質された膜を少なくとも1層含む樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状、フィルム状の樹脂成形体の表面改質方法としては、乾式処理、湿式処理が知られており、乾式処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等の樹脂表面近傍のみを改質する方法、蒸着、スパッタリング等により無機膜を形成させる方法があり、特許文献1、特許文献2に開示されている。しかしながら、コロナ処理等の改質する方法では、親水性表面の形成のみに限られ、またその改質効果は低く、さらには外部環境により改質効果が著しく悪化するといった問題があった。
【0003】
また、フレーム処理では、改質効果が持続するとしてケイ酸化炎処理が、特許文献3に開示されている。しかしながら、この方法においても、親水性表面のみの形成に限られ、樹脂成形体の表面改質方法として汎用性が低い。スパッタリング等の無機膜を形成させる方法では、真空中での処理であることから、大面積での処理が困難であり、また処理時間も長いため高コストな改質方法であり、さらに改質膜と樹脂基板との密着性が低く、容易に改質膜が剥離してしまうといった問題があった。
【0004】
湿式処理では、酸・アルカリ・溶剤等による薬品処理による改質方法、無機酸化物コーティング、ポリマーコーティング等によりコーティング膜を形成させる方法、活性化した樹脂成形体表面へポリマーのグラフト鎖を導入する方法があり、特許文献4、特許文献5に開示されている。しかしながら、薬品処理では、親水性表面の形成のみであり、また改質効果が低い等の問題があり、コーティング膜を形成させる方法では、コーティング膜と樹脂基板の密着性が低く使用環境下で剥離してしまう、または液体中での使用では溶出してしまう等の問題があった。ポリマーグラフト方法では、グラフトを行うために樹脂成形体を活性化する工程が煩雑であること、大面積での処理が困難であること等の問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−286561公報
【特許文献2】特開2004−107564公報
【特許文献3】特開2003−238710公報
【特許文献4】特開平05−310979公報
【特許文献5】特開平07−138394公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した問題を解決するものであり、親水性のみならず撥水性、反応性基を有する等の多様な機能を有する表面改質膜を該樹脂成形体に低コストで大面積に付与可能な表面改質方法を提供することを目的とする。また、該改質膜と樹脂成形体基板とが高い密着性を有する改質された樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物を含む燃料ガスの火炎を樹脂成形体表面に放射することによりナノサイズのシリカ粒子が樹脂成形体表面に強固に結合させ、さらに、該樹脂成形体表面にオルガノシランを含む樹脂組成物を塗工し、オルガノシランを含む表面改質膜を該樹脂成形体表面に形成することにより、親水性表面、撥水性表面および/または反応性表面を有する部材が低コストに得られることおよび該改質膜と樹脂成形体基板とが高い密着性を示し、液中での長時間の使用に対する耐久性を有することを見出し、上記の課題が解決できる本発明に到った。
【0008】
すなわち本発明は、アルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物を含む燃料ガスの火炎を樹脂成形体表面に放射する工程に次いで、該樹脂成形体表面にオルガノシランを含む樹脂組成物を塗工し、表面改質膜を該樹脂成形体表面に形成する工程を備えることを特徴とする表面改質方法である。
【0009】
また、本発明は、上記アルキルシラン化合物および/またはアルコキシシランを含む燃料ガスの火炎を表面に放射した後の樹脂成形体表面の表面自由エネルギーが30〜80mJ/cmである上記の表面改質方法である。
【0010】
また、本発明は、上記のオルガノシランが下記の一般式(1)
【数2】

(式中、Xは、2個存在する時は同一または異なり、Rは同一または異なり、エーテル結合あるいはエステル結合を有してもよい炭素数1〜8の直鎖型または分岐型アルキル基を示し、R、Rは、同一または異なり炭素数1〜10の直鎖型アルキル基または分岐型アルキル基を示し、aは0〜3の整数、bは0〜3の整数である。)
で表され、式中Xがビニル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、スチリル基、アミノ基、メルカプト基、パーフルオロアルキル基、ウレイド基、クロロアルキル基、イソシアネート基、アセトキシ基、フェニル基からなる群より選択される少なくとも1つのアルコキシシランであることを特徴とする上記の表面改質方法である。
【0011】
さらに本発明は、上記の方法により表面が改質された樹脂成形体であり、さらに、該樹脂成形体表面に存在する反応性基と反応しうる反応性基を有する化合物を含む樹脂組成物層を該樹脂成形体の上に備えた樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、アルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物を含む燃料ガスの火炎を表面に放射した樹脂成形体に対して、オルガノシランを含む樹脂組成物を塗工し、樹脂成形体基板に強固に結合した表面改質膜を該樹脂成形体に形成可能である。この表面改質方法は、オルガノシランを含む樹脂組成物により、親水性表面、撥水性表面、および反応性表面を有する樹脂成形体を低コスト・大面積で形成可能であり、多様な表面性質を付与する樹脂成形体の表面改質方法として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照にしつつ、本発明を詳細に説明する。以下の説明は、本発明の好適な実施の形態を示すものであって、本発明の範囲が以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、各図中、同一符号は同一または同等の構成要素を表している。
本発明の樹脂成形体の表面改質方法は、アルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物を含む燃料ガスの火炎を樹脂成形体基板1表面に放射してナノサイズのシリカ粒子が樹脂成形体基板1表面に強固に結合されてなる層2を形成させる工程、次にオルガノシランを含む樹脂組成物を塗工し、乾燥後、オルガノシランを含む樹脂組成物からなる表面改質膜3を形成させる工程を含む(図1参照)。
【0014】
本発明で使用する樹脂成形体基板1は、合成高分子あるいは/および天然高分子からなり自己支持性のあるものであれば特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン等のオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のビニル樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等のエステル樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;ポリジメチルシロキサン等のシリコン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアミド樹脂;ポリブタジエン、ポリイソプレン等の不飽和結合含有樹脂が挙げられる。これらの樹脂は単独重合体であっても、他モノマーとの共重合体であってもよい。また、これらの樹脂には、着色剤、拡散剤、増粘剤、機微粒子等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0015】
アルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物を含む燃料ガスの火炎を放射する樹脂成形体基板1は、上述の樹脂基板であるのが好ましいが、樹脂基板上に1部あるいは全面に改質されやすいプライマー層、意匠用等のインキ層、保護目的のハードコート層等を少なくとも1層含む積層膜をあらかじめ形成させていてもよい。
【0016】
樹脂成形体基板1の形状は、特に制限されないが、改質工程の簡便さを考慮すると、シート状、フィルム状が好ましく、またその表面は平らであっても、ランダムあるいは規則的な凹凸が賦型されてあっても、ランダムあるいは規則的な孔、穴があってもよい。
【0017】
樹脂成形基板1の厚みは、特に制限されないが、コストを考慮すると、0.5μm〜30mmが好ましい。
【0018】
本発明において、樹脂成形体基板1表面に放射する火炎の燃料ガスは、プロパンガス等の炭化水素ガスや圧縮空気等の引火性ガスおよびアルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物を主成分とするものである。
【0019】
燃料ガス中の引火性ガスの使用割合は、80mol%以上99.9mol%以下で、85mol%以上90mol%以下が好ましい。使用割合80mol%未満では、他の含有ガスとの混合性が低下し、燃焼効率が低下するためであり、99.9mol%を超えると、火炎処理の効果が著しく低下してしまうためである。
【0020】
燃料ガスに含有されるアルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物の具体例は、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、1、2−ジクロロテトラメチルシラン、1、2、3−テトラメチルシラン、1、2−ジクロロテトラエチルシラン、1、2−ジフェニルテトラメチルシラン、1、2−ジフェニルテトラエチルシラン、ジメチルジエチルテトラシラン等のアルキルシラン化合物;メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物が挙げられる。これらの化合物は1種類のみあるいは2種類以上を混合して使用することができる。
【0021】
燃料ガス中のアルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物の成分使用割合は、1×10−10mol%以上10mol%以下で、1×10−9mol%以上5mol%以下が好ましい。使用割合が1×10−10mol%未満では、火炎処理の効果が著しく低下してしまうためであり、10mol%を超えると空気との混合性が低下してしまうためである。
【0022】
燃料ガス中には、燃料ガスの混合性を向上させるために、空気等のキャリアガスを用いることができる。
【0023】
本発明で使用される、火炎処理した樹脂成形基板に塗工して表面改質膜3を形成する樹脂組成物に含まれるオルガノシランとしては種々のものを用い得るが、樹脂組成物の安定性および反応性の点においてアルコキシシランを含有することが好ましい。
【0024】
アルコキシランは、下記一般式(1)
【数3】

で表され、一般式(1)中、Xはビニル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、スチリル基、アミノ基、メルカプト基、パーフルオロアルキル基、ウレイド基、クロロアルキル基、イソシアネート基、アセトキシ基、フェニル基を示す。一般式(1)中にXが複数個存在するときは、同一であっても異なってもよい。
【0025】
のエーテル結合あるいはエステル結合を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基は、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、i−プロピレン基等が挙げられる。
【0026】
およびRの炭素数1〜10の1価のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。一般式(1)中に複数個存在するときは、同一であっても異なってもよい。Rはこれらの基の置換誘導体を挙げることができる。Rの置換誘導体における置換基として、例えば、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基等を挙げることができる。一般式(1)中に複数個存在するときは、同一であっても異なってもよい。
【0027】
このようなアルコキシシランの具体例は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン;ビニル官能性アルコキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等のスチリル官能性アルコキシシラン;β−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β−アクリロキシエチルメチルジメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルメチルジメトキシシラン、β−アクリロキシエチルメチルジエトキシシラン、β−メタクリロキシエチルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−アクリロキシエチルエチルジメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルエチルジメトキシシラン、β−アクリロキシエチルエチルジエトキシシラン、β−メタクリロキシエチルエチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン等のアクリロキシおよびメタクリロキシ官能性アルコキシシラン;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ官能性アルコキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド官能性アルコキシシラン;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート官能性アルコキシシラン;アセトキシメチルトリメトキシシラン、アセトキシメチルトリエトキシシラン等のアセトキシ官能性アルコキシシラン;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のフェニル官能性アルコキシシラン;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、ヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカトリフルオロデシルトリエトキシシラン等のフルオロアルキルアルコキシシラン;3−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロアルキルアルコキシシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルメトキシシラン、デシルエトキシシラン等のアルコキシシランが挙げられる。
【0028】
アルコキシシラン以外のオルガノシランとしては、メチルクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリフルオロプロピルトリクロロシラン、ヘプタデカフルオロデシルクロロシラン等のクロロシランが挙げられる。これらのオルガノシランは1種類のみを使用してもあるいは2種類以上を併用してもよい。
【0029】
撥水性表面を与える表面改質膜3を樹脂成形体基板に形成させる場合は、例えばヘプタデカトリフルオロメトキシシランを含む樹脂組成物が好ましい。また、親水性かつアミノ基を有する表面を樹脂成形体に形成させる場合は、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシランを含む樹脂組成物が好ましく利用できる。あるいは、光反応性を有する表面を樹脂成形体に形成させる場合は、例えばγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを含む樹脂組成物が好ましく利用できる。このように、表面の改質目的に適合したオルガノシランを適宜選択可能である。
【0030】
火炎処理した樹脂成形基板に塗工する樹脂組成物中には、アルコキシシランを加水分解させるために、塩酸、硫酸、酢酸等の酸;あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを含むことができ、さらに、加水分解後、縮合反応した部分縮合物を含むことができる。
【0031】
樹脂組成物中のアルコキシシランの濃度は、形成させる表面改質膜3の膜厚とコーティング方法により便宜調製するが、その際、希釈剤を使用する。また、組成物の分散安定性を向上させるような希釈剤を使用する。
【0032】
このような希釈剤としては、一般の樹脂塗料に用いられている希釈剤であって、組成物を均一に混合できるものであれば、特に制限はないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジオキサン等のエーテル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族類;塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルムなどのハロゲン系炭化水素類;メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類;水などを挙げられる。これらの希釈剤は、1種類のみあるいは2種類以上を混合して使用することができる。
【0033】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、増粘剤、顔料、染料、非反応性ポリマー等を、目的表面の改質効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0034】
前記樹脂組成物は必要に応じて配合される他の成分とを、常法に従って均一に混合することにより製造することができる。
【0035】
本発明で使用する樹脂組成物は火炎処理した樹脂成形体基板に、ディップコート等の含浸法;スピンコート法;凸版印刷、平板印刷、凹版印刷等で用いられるロールを用いた塗工法;基材に噴霧するようなスプレーコート法;カーテンフローコート法等により塗工し、必要に応じて希釈剤等の低沸点物質を加熱炉、遠赤外炉又は超遠赤外炉等を用いて加熱蒸発除去することにより表面改質膜3を形成する(図1)。
【0036】
表面改質膜3の膜厚は目的に応じ便宜決定できるが、コストを考慮すると0.5nm〜10μmが好ましい。
【0037】
反応性基を有するオルガノシランを含有する表面改質膜4(下層)を形成させた本発明の樹脂成形体は、その反応性基と反応しうる反応性基を有する化合物からなる樹脂組成物層5(上層)をさらに積層させることが可能である(図2参照)。ここで、下層と上層の反応性基は目的に応じ便宜決定できる。例えば、アクリロキシ官能性シランにより改質した樹脂成形体表面上に、アクリレートおよび光重合開始剤からなる樹脂組成物を塗工、乾燥後、紫外線照射することにより、下層と上層の界面で反応した積層膜を形成可能である。
【0038】
また、イソシアネート官能性シランにより改質した樹脂成形体表面上に、ヒドロキシル基を有する化合物を含む樹脂組成物を塗工、乾燥することで、下層と上層の界面で反応した積層膜を形成可能であるし、アミノ官能性シランにより改質した樹脂成形体表面上に、カルボキシル基を有する化合物とカルボジイミド等の触媒を含む樹脂組成物を塗工、乾燥することで、下層と上層の界面で反応した積層膜を形成可能である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に限定されるものではない。また、実施例中、各成分の配合量等は特に記載のない限り質量部を意味している。
【0040】
(表面自由エネルギー)
火炎放射後の樹脂成形板の表面自由エネルギーγ(分散力成分γと極性力成分γとの和)は、以下により求めた。まず、水、ヨウ化メチレンを用いて接触角計により樹脂成形板上のそれぞれの接触角(θおよびθ)を測定する。次いで、下式(2)に前記接触角の値と水またはヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの値とを代入し、得られた2つの式からなる連立方程式を解いてγおよびγを求める。そして、γとγの和が樹脂成形板の表面自由エネルギーγである。
{(1+cosθ)・γ}/2=(γ・γ1/2+(γ・γ1/2 (2)
(式中、γは液体の表面自由エネルギーであり、γ、γは各々分散力および極性力成分であって、γ=γ+γである。)
なお、水の表面自由エネルギーの分散力成分、極性力成分は各々21.8、51.0mJ/m、ヨウ化メチレンの表面自由エネルギーの分散力成分、極性力成分は各々48.5、2.3mJ/mとして計算した。
【0041】
<実施例1>
厚み2mmのポリメタクリル酸メチル(以下、PMMA)板に、プロパンガスとテトラメチルシランガスを燃料ガスとする火炎をバーナー高さ15mmの距離から放射した。PMMA板はコンベアによりバーナー下へ供給し、コンベア速度は20mm/minとし処理を行った。火炎放射したPMMA板の表面自由エネルギーは71.3mJ/mであった。次に、火炎放射したPMMA板に対して、ヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン0.5部、0.1mol/l塩酸水溶液2.9部、メタノール1.5部、イソプロピルアルコール95.1部からなる樹脂組成物をディップコート法により塗工し、75℃、1時間乾燥させ、撥水性表面を有するPMMA板を得た。
【0042】
<比較例1>
厚み2mmのPMMA板に実施例1と同様のヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン0.5部、0.1mol/l塩酸水溶液2.9部、メタノール1.5部、イソプロピルアルコール95.1部からなる樹脂組成物をディップコート法により塗工し、75℃、1時間乾燥させ、撥水性表面を有するPMMA板を得た。
【0043】
<比較例2>
厚み2mmのPMMA板に、電極とPMMA板の距離は5mmとし、出力330W、2m/minの速度でコロナ処理を行った。次に、実施例1と同様のヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン0.5部、0.1mol/l塩酸水溶液2.9部、メタノール1.5部、イソプロピルアルコール95.1部からなる樹脂組成物をディップコート法により塗工し、75℃、1時間乾燥させ、撥水性表面を有するPMMA板を得た。
【0044】
実施例および比較例について、以下の評価を行った。
【0045】
(接触角) 改質したPMMA板表面の水との接触角を接触角計にて測定した。
【0046】
(耐久性) 改質したPMMA板をイソプロピルアルコールに浸漬させ、超音波中で5分間洗浄を行い、洗浄後のPMMA板表面の水との接触角により、改質膜が剥離したと考えられる場合は×、改質膜が剥離していないと考えられる場合は○とした。
【0047】
結果を表1に示す。
【表1】

【0048】
表1より、アルキルシランを含む燃料ガスの火炎を放射した後にフルオロアルキルアルコシキシランからなる樹脂組成物を塗工した実施例1では、高い疎水性表面をPMMA板に形成できている。さらに、イソプロピルアルコール洗浄後の接触角も高い疎水性を維持しており、良好な耐久性を示している。
【0049】
これに対して、未処理のPMMA板にフルオロアルキルアルコシキシランからなる樹脂組成物を塗工した比較例1では、処理前(PMMA板の接触角:75°)よりは疎水性であるが、改質樹脂層はイソプロピルアルコール洗浄により完全に剥離している。コロナ処理後のPMMA板にフルオロアルキルアルコキシシランからなる樹脂組成物を塗工した比較例2では、PMMA板よりは疎水性であるが、改質樹脂層はイソプロピルアルコール洗浄により完全に剥離している。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】火炎放射後オルガノシラン樹脂組成物を塗工した樹脂成形体
【図2】反応性基を有するオルガノシランを含有する樹脂組成物層とその反応性基と反応しうる反応基を有する化合物からなる樹脂組成物層を積層した樹脂成形体
【符号の説明】
【0051】
1 樹脂成形体基板
2 ナノサイズのシリカ粒子が強固に結合されてなる層
3 表面改質膜層
4 反応性基を有するオルガノシランを含有する表面改質膜
5 上記反応性基と反応しうる反応性基を有する化合物からなる樹脂組成物層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物を含む燃料ガスの火炎を樹脂成形体表面に放射する工程に次いで、該樹脂成形体表面にオルガノシランを含む樹脂組成物を塗工し、表面改質膜を該樹脂成形体表面に形成する工程を備えることを特徴とする表面改質方法。
【請求項2】
アルキルシラン化合物および/またはアルコキシシラン化合物を含む燃料ガスの火炎を表面に放射した後の樹脂成形体の表面自由エネルギーが30〜80mJ/cmであることを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
オルガノシランが下記の一般式(1)
【数1】

(式中、Xは、2個存在する時は同一または異なり、Rは同一または異なり、エーテル結合あるいはエステル結合を有してもよい炭素数1〜8の直鎖型または分岐型アルキル基を示し、R、Rは、同一または異なり炭素数1〜10の直鎖型アルキル基または分岐型アルキル基を示し、aは0〜3の整数、bは0〜3の整数である。)
で表され、式中Xがビニル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、スチリル基、アミノ基、メルカプト基、パーフルオロアルキル基、ウレイド基、クロロアルキル基、イソシアネート基、アセトキシ基、フェニル基からなる群より選択される少なくとも1つのアルコキシシランであることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の表面改質方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により表面が改質された樹脂成形体。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂成形体の上に、該樹脂成形体表面に存在する反応性基と反応しうる反応性基を有する化合物を含む樹脂組成物からなる樹脂層を備えた樹脂成形体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−199880(P2006−199880A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14997(P2005−14997)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】