説明

樹脂成形体へのめっき方法

【課題】自動車部品等として使用し得る十分な性能を有する樹脂成形体に対して、簡単な処理工程によって、外観や物性に優れためっき皮膜を形成できる方法を提供する。
【解決手段】下記(i)〜(iii)の工程を含む、ポリアミド系樹脂又はポリアミドアロイ系樹脂を樹脂成分とする樹脂成形体へのめっき方法:
(i)界面活性剤、無機酸及び有機酸を含有するエッチング処理用組成物を、上記樹脂成形体に接触させるエッチング工程、
(ii)上記(i)工程でエッチング処理された樹脂成形体を、貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液に接触させた後、パラジウム化合物を含有する水溶液に接触させる触媒付与工程、
(iii)上記(ii)工程で処理された樹脂成形体を、銅化合物、還元性を有する糖類、錯化剤及びアルカリ金属水酸化物を含有する無電解銅めっき液に接触させる無電解銅めっき工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体へのめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を軽量化する目的等から、自動車用部品として、樹脂成形体が使用されている。この様な目的では、例えば、ABS樹脂、ポリアミド樹脂等が用いられており、高級感や美観を付与するために、銅、ニッケルなどのめっきが施されることが多い。
【0003】
樹脂成形体に電気めっき皮膜を形成する方法としては、脱脂、エッチングを行った後、必要に応じて、中和及びプリディップを行い、次いで、錫化合物及びパラジウム化合物を含有するコロイド溶液を用いて無電解めっき用触媒を付与し、その後必要に応じて活性化処理(アクセレーター処理)を行った後、無電解めっき及び電気めっきを順次行う方法が一般的な方法である(下記非特許文献1参照)。
【0004】
この場合、エッチング処理液としては、例えば、ABS樹脂を被被処理物とする場合には、三酸化クロムと硫酸の混合液からなるクロム酸混液が広く用いられている。しかしながら、この処理液は、有毒な6価クロムを含むために作業環境に悪影響があり、しかも廃水を安全に処理するために、6価クロムを3価クロムイオンに還元した後、中和沈殿させる処理を行うことが必要であり、非常に煩雑な処理が要求される。このため、現場での作業時の安全性や廃水による環境への影響を考慮すると、クロム酸を含むエッチング処理液を使用しないことが望ましいが、その場合には、ABS樹脂等からなる樹脂成形体に対してめっき層の密着強度を十分に高めることは困難である。
【0005】
また、樹脂成形体へのめっき処理では、無電解めっき液としては、ポラホルムアルデヒドなどの強い還元力を持つ還元剤を含有する無電解銅めっき液を用いることが多い。しかしながら、この様な無電解銅めっき液を用いる場合には、めっきの初期には、触媒として付着させた錫・パラジウムコロイドの皮膜の内で、強い触媒能を有するパラジウムの上に銅が析出するものの、その後強い還元力を有する還元剤の働きにより銅の還元析出が持続して生じ、パラジウムの付着した部分だけではなく、横方向にも銅皮膜が成長して、本来触媒能を持たない錫の上にも皮膜が析出するブリッジ析出が生じて、スポンジ状の皮膜が形成され易くなる。そして、この様なブリッジ析出が生じた無電解めっき表面に電気めっきを行うと、スターダストと称される部分的な細かいピット状の集合体が多数析出し、不均一なめっき皮膜となり易く、金属素材上にめっき皮膜を形成した場合と比較すると外観が劣る場合が多い。
【0006】
この様な外観不良を防止するために、無電解銅めっきを行った後、電気めっきの前に、被めっき物の表面を刷毛でブラッシングする工程が取り入れられているが、処理工程が非常に煩雑になる。
【0007】
更に、上記無電解銅めっき液で還元剤として用いるパラホルムアルデヒドは、毒性が高く、発ガン性物質の疑いもある物質である。また、銅イオンを可溶化させるために、EDTA等の強力な錯化剤を使用しているために、廃液処理において金属イオンの除去に相当の労力を要するという問題点等もある。
【0008】
無電解銅めっきに代えて無電解ニッケルめっきを行う場合には、ブリッジ析出が少なくスターダストが発生し難いために、無電解銅めっきを行う場合と比べて良好な外観の電気めっき皮膜を形成できるが、無電解銅めっき液の場合と比較すると多量の触媒を付着させる必要があり、コストが高くなるという欠点がある。更に、無電解ニッケルめっきを行った後、電気銅めっきを行う方法では、銅皮膜よりもニッケル皮膜の方が卑な電位を有する為に、電池作用によってニッケルの腐食が進行して、めっき層が素地から剥離して、腐食ふくれが生じやすいという問題点がある。
【0009】
又、貴金属を含有するコロイド溶液中に浸漬して被処理物に貴金属のコロイド皮膜を付着させた後、無電解めっきを行うことなく、電気めっきを直接行う方法も知られているが(下記特許文献1参照)、この方法では、皮膜の導電性が不十分で電気めっきの析出速度が非常に遅いために、面積の大きなプラスチック成形品などに電気めっきを行う場合には、給電部に大きな面積を必要とする上に、全面を被覆するためにかなりの時間を要し、均一なめっき皮膜を形成することは非常に難しい。しかも処理条件が極めて狭い範囲に限定されるので、処理液や作業条件の管理が非常に煩雑である。
【非特許文献1】林忠夫,松岡政夫,縄舟秀美;電気鍍金研究会編「無電解めっき−基礎と応用」、日刊工業新聞社(1994)、pp.133
【特許文献1】特開平3−367393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、自動車部品等として使用し得る十分な性能を有する樹脂成形体に対して、簡単な処理工程によって、外観や物性に優れためっき皮膜を形成できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、自動車部品用等として優れた特性を有するポリアミド系樹脂又はポリアミドアロイ系樹脂を樹脂成分とする樹脂成形体を被めっき物とする場合に、エッチング処理、触媒付与処理及び無電解銅めっき処理の各工程について、特定の処理方法を採用することにより、比較的簡単な処理工程によって、良好なめっき皮膜を形成することができることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の樹脂成形体へのめっき方法を提供するものである。
1.下記(i)〜(iii)の工程を含む、ポリアミド系樹脂又はポリアミドアロイ系樹脂を樹脂成分とする樹脂成形体へのめっき方法:
(i)界面活性剤、無機酸及び有機酸を含有するエッチング処理用組成物を、上記樹脂成形体に接触させるエッチング工程、
(ii)上記(i)工程でエッチング処理された樹脂成形体を、貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液に接触させた後、パラジウム化合物を含有する水溶液に接触させる触媒付与工程、
(iii)上記(ii)工程で処理された樹脂成形体を、銅化合物、還元性を有する糖類、錯化剤及びアルカリ金属水酸化物を含有する無電解銅めっき液に接触させる無電解銅めっき工程。
2.エッチング処理用組成物が、界面活性剤0.1〜10g/l、無機酸20〜60g/l及び有機酸0.1〜50g/lを含有する水溶液であり、
貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液が、白金化合物、金化合物、パラジウム化合物及び銀化合物から成る群から選ばれた少なくとも一種の貴金属化合物を金属量として50〜500mg/lと、第一錫化合物を錫金属量として10〜50g/l含有するpH1以下の水溶液であり、
パラジウム化合物を含有する水溶液が、パラジウム化合物をパラジム金属量として0.01〜0.5g/l含有する水溶液であり、
無電解銅めっき液が、銅化合物を銅金属量として0.1〜5g/l、還元性を有する糖類を3〜50g/l、錯化剤を2〜50g/l及びアルカリ金属水酸化物を10〜80g/l含有する水溶液である
上記項1に記載の方法。
3.上記項1又は2の方法によって無電解銅めっき皮膜を形成した後、更に、電気めっきを行うことを特徴とする樹脂成形体へのめっき方法。
【0013】
以下、本発明のめっき方法について具体的に説明する。
【0014】
被めっき物
本発明の処理対象とする被めっき物は、自動車部品等として十分な機械的特性を有する、ポリアミド系樹脂又はポリアミドアロイ系樹脂を樹脂成分とする樹脂成形体である。本発明のめっき方法によれば、この様な樹脂成形体に対して、優れためっき外観を有し、且つ高い密着強度を有するめっき皮膜を形成することができる。
【0015】
ポリアミド系樹脂としては、特に限定的ではなく、公知のポリアミド系樹脂を用いることができる。
【0016】
例えば、ジアミンとジカルボン酸とから形成されるポリアミド樹脂、これらの原料を共重合して得られる共重合体等を用いることができる。このようなポリアミド樹脂の具体例としては、ナイロン66、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカナミド(ナイロン6・12)、ポリドデカメチレンドデカナミド(ナイロン1212)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)等の各種ポリアミド樹脂を挙げることができる。これらの単量体成分を用いて得られる共重合体として、ナイロン6/66、6T成分が50モル%以下であるナイロン66/6T(6T:ポリヘキサメチレンテレフタラミド)、6I成分が50モル%以下であるナイロン66/6I(6I:ポリヘキサメチレンイソフタラミド)、ナイロン6T/6I/66、ナイロン6T/6I/610等を挙げることができる。 更に、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)テレフタルアミド(ナイロンM5T)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)イソフタルアミド(ナイロンM5I)等や、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/M5T等の共重合体を用いることもできる。そのほかアモルファスナイロンのような共重合ナイロンを用いても良い。アモルファスナイロンとしてはテレフタル酸とトリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合物等を挙げることができる。
【0017】
更に、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、これらの成分を用いた共重合体等も用いることができる。具体的には、ナイロン6、ポリ−ω−ウンデカナミド(ナイロン11)、ポリ−ω−ドデカナミド(ナイロン12)等の脂肪族ポリアミド樹脂を用いることができる。これらの原料を用いた共重合体やこれらの原料と、ジアミン、ジカルボン酸とからなるポリアミドとの共重合体:例えば、ナイロン6T/6、ナイロン6T/11、ナイロン6T/12、ナイロン6T/6I/12、ナイロン6T/6I/610/12等も用いることができる。更に、上記した各種ポリアミド樹脂の混合物も用いることができる。
【0018】
本発明の処理対象とする樹脂成形体を形成する他の樹脂成分であるポリアミドアロイ系樹脂は、上記した各種のポリアミド系樹脂をその他の各種樹脂とポリマーアロイ化したものである。例えば、従来から化学めっき用として広く用いられているスチレン系などの汎用プラスチック、耐熱温度150℃以下のポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変形ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの汎用エンジニアプラスチック、耐熱温度200℃を超えるポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)などのスーパーエンジニアリングプラスチック等を、ポリアミド系樹脂とポリマーアロイ化した樹脂を用いることができる。
【0019】
特にポリアミド系樹脂とスチレン系樹脂を混合してポリマーアロイ化した樹脂が好ましい。この場合のスチレン系樹脂としては、スチレン;α置換、核置換スチレン等のスチレン誘導体等を単量体成分とする重合体を挙げることができる。また、これら単量体を主成分として、これらと、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸等のビニル化合物;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン化合物等の他の単量体とから構成される共重合体もスチレン系樹脂として用いることができる。
【0020】
スチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン−メタクリレート共重合体(MS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBS樹脂)等を挙げることができる。
【0021】
また、スチレン系樹脂として、ポリアミド系樹脂との相溶性をあげるためにカルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体を用いても良い。カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体は、ゴム質重合体の存在下に、カルボキシル基含有不飽和化合物及び必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を重合してなる共重合体である。
【0022】
この成分を具体的に例示すると、1)カルボキシル基含有不飽和化合物を共重合したゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニルモノマーを必須成分とする単量体あるいは芳香族ビニルとカルボキシル基含有不飽和化合物とを必須成分とする単量体を重合して得られたグラフト重合体、2)ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニルとカルボキシル基含有不飽和化合物とを必須成分とする単量体を共重合して得られたグラフト共重合体、3)カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されていないゴム強化スチレン系樹脂と、カルボキシル基含有不飽和化合物と芳香族ビニルとを必須成分とする単量体の共重合体との混合物、4)上記1),2)と、カルボキシル基含有不飽和化合物と芳香族ビニルとを必須とする共重合体との混合物、5)上記1)、2)、3)、4)と芳香族ビニルを必須成分とする共重合体との混合物等がある。
【0023】
上記1)〜5)において、芳香族ビニルとしてはスチレンが好ましく、また芳香族ビニルと共重合する単量体としてはアクリロニトリルが好ましい。カルボキシル基含有不飽和化合物は、スチレン系樹脂中、好ましくは0.1〜8質量%程度であり、より好ましくは0.2〜7質量%程度である。
【0024】
ポリアミド系樹脂とスチレン系樹脂を含むポリアミドアロイ系樹脂では、該ポリアミドアロイ系樹脂中のポリアミド系樹脂の割合は、好ましくは90〜10質量%程度、より好ましくは80〜20質量%程度、更に好ましくは70〜30質量%程度であり、スチレン系樹脂の割合は、好ましくは10〜90質量%程度、より好ましくは20〜80質量%程度、更に好ましくは30〜70質量%程度である。
【0025】
本発明の処理対象とする樹脂成形体は、上記したポリアミド系樹脂又はポリアミドアロイ系樹脂を樹脂成分とする樹脂成形体であれば良い。該成形体を得るための成形方法については、特に限定されず、射出成形などの公知の方法を採用できる。該樹脂成形体の形状などについても特に限定はなく、用途に応じて適宜選択することができる。特に、本発明の処理対象とする樹脂成形体は、バンパー、エンブレム、ホイルキャップ、内装部品、外装部品等の自動車部品用途として好適に用いることができる。
【0026】
前処理方法
(1)エッチング処理
本発明のめっき方法では、まず、エッチング処理として、処理対象の樹脂成形体を、界面活性剤、無機酸及び有機酸を含有するエッチング処理用組成物に接触させる。この様な界面活性剤、無機酸及び有機酸を含有するエッチング処理用組成物は、クロム酸などの有害性の高い成分を含んでおらず、比較的安全性の高いエッチング処理液であって、ポリアミド系樹脂又はポリアミドアロイ系樹脂を樹脂成分とする樹脂成形体に対するエッチング処理剤として優れた性能を有するものである。よって、該エッチング処理用組成物を用いてエッチング処理を施した後、無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解めっきを行うことによって、ポリアミド系樹脂又はポリアミドアロイ系樹脂を樹脂成分とする樹脂成形体に対して、高い密着性を有する良好な無電解めっき皮膜を形成することができる。
【0027】
上記エッチング処理用組成物における有効成分の内で、界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の各種の界面活性剤を用いることができる。
【0028】
これらの界面活性剤の内で、カチオン性界面活性剤としては、下記に示したものを用いることができる。
*脂肪族アミン塩:
R−NHX(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、Xは無機酸又は有機酸である。)
【0029】
【化1】

【0030】
(式中、R及びXは上記と同じである。)
【0031】
【化2】

【0032】
(式中、R及びXは上記と同じである。)
*脂肪族4級アンモニウム塩:
【0033】
【化3】

【0034】
(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、Rは炭素数12〜18のアルキル基又はCH、XはCl又はBrである。)
*芳香族4級アンモニウム塩:
【0035】
【化4】

【0036】
(式中、Rは炭素数12〜24のアルキル基、XはCl又はBrである。)
*複素環4級アンモニウム塩:
【0037】
【化5】

【0038】
(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、XはCl又はBrである。)
【0039】
【化6】

【0040】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数12〜24のアルキル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、XはCl又はBrである。)
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピルアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩等のエーテルエステル型界面活性剤;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤;脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の含窒素型界面活性剤などを用いることができる。
【0041】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸の炭素数12〜18のカルボン酸の塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、炭素数12〜18のN-アシルアミノ酸、N-アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、炭素数12〜18のアシル化ペプチド等のカルボン酸塩:アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン重縮合物、スルホコハク酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルスルホン酸塩等のスルホン酸塩;硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩等の硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩等を用いることができる。
【0042】
両性界面活性剤としては、下記式で表されるカルボキシベタイン型界面活性剤、アミノカルボン酸塩の他、イミダゾリウムベタイン、レシチン等を用いることができる。
*カルボキシベタイン型界面活性剤:
【0043】
【化7】

【0044】
(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、R、RはCH等、nは1〜2である。)
*アミノカルボン酸塩:
RNH(CH)COOH
(式中、Rは炭素数12〜18のアルキル基、nは1〜2である)。
【0045】
上記した界面活性剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0046】
これらの内で、ノニオン性界面活性剤が好ましく、エーテル型のノニオン性界面活性剤がより好ましい。特に、式:HO−(CO)−(CO)−(CO)−Hで表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーが好ましい。
【0047】
上記エッチング処理用組成物では、界面活性剤の含有量は、0.1〜10g/l程度とし、0.5〜5g/l程度とすることが好ましい。
【0048】
上記エッチング処理用組成物における有効成分の内で、無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、亜硫酸、亜硝酸、亜リン酸、亜ホウ酸、過酸化水素、過塩素酸、過酸化窒素等を用いることができる。これらの内で、特に、硫酸、塩酸等が好ましい。これらの無機酸は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0049】
上記エッチング処理用組成物では、無機酸の含有量は、20〜600g/l程度とし、50〜500g/l程度とすることが好ましい。
【0050】
上記エッチング処理用組成物における有効成分の内で、有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、ピバル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、アクリル酸、プロピオール酸、メタクリル酸、クロトン酸、オレイン酸等の脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸;安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トルイル酸、ナフトエ酸、ケイ皮酸等の芳香族カルボン酸;2-フル酸、ニコチン酸、イソニコチン酸等の複素環カルボン酸;グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α-オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等の脂肪族オキシカルボン酸;サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロバ酸等の芳香族オキシカルボン酸;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオリン、システイン、シスチン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギリン等の脂肪族アミノカルボン酸;フェニルアラニン、チロシン等の芳香族核をもつアミノカルボン酸;ヒスチジン、トリブトファン、プロリン、オキシプロリン等の複素環をもつアミノ酸等を用いることができる。
【0051】
これらの有機酸の内で、脂肪族カルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸等が好ましく、特に、脂肪族オキシカルボン酸が好ましい。これらの有機酸は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0052】
有機酸の含有量は、0.1〜50g/l程度とし、0.5〜10g/l程度とすることが好ましい。
【0053】
本発明で用いるエッチング処理用組成物の好ましい具体例として、エーテル型のノニオン性界面活性剤;硫酸及び塩酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機酸;並びに脂肪族カルボン酸及び脂肪族オキシカルボン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の有機酸を含有する水溶液からなる組成物を挙げることができる。この場合、特に、有機酸としては、脂肪族オキシカルボン酸が好ましい。
【0054】
エッチング処理用組成物による処理方法としては、処理対象物である樹脂成形体の被処理面を該エッチング処理用組成物に接触させればよい。具体的な方法については、特に限定はなく、被処理物の表面を該組成物に十分接触させることができる方法であれば良い。例えば、該エッチング処理用組成物を被処理物に噴霧する方法等も適用可能であるが、通常は、該組成物中に被処理物を浸漬する方法によれば、効率の良い処理が可能である。
【0055】
処理条件については特に限定的ではなく、目的とするエッチング処理の程度に応じて適宜決めればよい。例えば、浸漬法によって処理を行う場合には、エッチング処理用組成物の液温を20〜50℃程度とすることが好ましく、30〜40℃程度とすることがより好ましい。浸漬時間についても、特に限定はなく、エッチング処理の進行の程度によって適宜決めれば良い。通常、3〜20分程度、好ましくは5〜10分間程度の浸漬時間とすればよい。
【0056】
尚、被処理物である樹脂成形体の表面の汚れがひどい場合には、エッチング処理に先立って、常法に従って脱脂処理を行えばよい。
【0057】
また、上記エッチング処理用組成物による処理を行った後、通常、付着しているエッチング処理用組成物を除去するために樹脂成形体を十分に洗浄する。この際、無機酸を含む水溶液を用いて洗浄することによって、効率よく洗浄することができる。これは、一般にポストエッチングと称される処理である。無機酸の種類については、エッチング処理用組成物と後述する触媒付与用の処理液に含まれている酸の種類を考慮して適宜決めればよい。例えば、35%塩酸を用いる場合には、50〜120g/l程度の濃度の水溶液をポストエッチングに用いることができる。
【0058】
(2)触媒付与処理
上記した方法でエッチング処理を行った後、無電解めっき用触媒を付与する。本発明では、触媒付与のための処理として、エッチング処理された樹脂成形体を、貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液に接触させた後、パラジウム化合物を含有する水溶液に接触させる処理からなる二段階の処理を行う。この様な二段階の処理方法を採用することによって、樹脂成形体の表面に均一な触媒膜を付着させることができ、無電解めっきの析出性やめっき外観を向上させることができる。
【0059】
貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液としては、無電解めっき用の触媒液として公知のものを使用できる。この様な公知の触媒液は、通常、無電解めっきに対する触媒能を有する化合物として知られている白金化合物、金化合物、パラジウム化合物、銀化合物等の貴金属化合物を含有するものである。この様な触媒液に配合される白金化合物の具体例としては塩化白金塩等、金化合物の具体例としては塩化金塩、亜硫酸金塩等、パラジウム化合物の具体例としては塩化パラジウム、硫酸パラジウム等、銀化合物の具体例としては硝酸銀、硫酸銀等を挙げることができる。
【0060】
貴金属化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。本発明では、特に、貴金属化合物としてパラジウム化合物を含有する触媒液を用いることが好ましい。貴金属化合物の配合量については、特に限定的ではないが、通常、金属量として50〜500mg/l程度の範囲が好適である。
【0061】
上記コロイド溶液に配合する第一錫化合物としては、塩化第一錫、硫酸第一錫等が好ましく、これらを一種単独又は適宜混合して配合することができる。特に、塩化第一錫が好ましい。第一錫化合物の配合量は、通常、錫金属量として10〜50g/l程度で、貴金属量の50〜120重量倍程度とすればよい。
【0062】
上記コロイド溶液は、一般に、pH1程度以下の強酸性のコロイド溶液であり、常法に従って製造することができる。例えば、貴金属化合物と第一錫化合物を、それぞれ別個に酸溶液に溶解し、これらの溶液を混合してコロイド溶液とし、使用時に適度な濃度に調整して用いることができる。この際に用いる酸溶液としては、塩酸溶液、硫酸溶液、塩酸と硫酸の混酸、塩化ナトリウムを含有する塩酸、塩化ナトリウムを含有する硫酸、塩化ナトリウムを含有する塩酸と硫酸の混酸等が挙げられる。
【0063】
上記コロイド溶液には、更に、必要に応じて、低級脂肪族モノカルボン酸銅、臭化銅等を配合してもよい。特に、銅化合物については、溶解性が良好であること等から、2価の銅化合物を用いることが好ましい。また、低級脂肪族モノカルボン酸銅のうちでは、ギ酸銅、酢酸銅等が好ましく、これらを用いることによって、安定なコロイド溶液が形成されて、均一なコロイド膜として被処理物に付着させ易くなる。銅化合物の配合量は、銅金属量として0.2〜3g/l程度が好ましく、0.5〜2g/l程度がより好ましい。
【0064】
特に、本発明では、触媒液として用いるコロイド溶液としては、パラジウム化合物をパラジウム金属量として150〜300ppm程度含有し、第一錫化合物を錫金属量として10〜22g/l程度含有する塩酸水溶液を用いることが好ましい。
【0065】
特に、触媒液として用いるコロイド溶液としては、パラジウム化合物をパラジウム金属量として150〜300ppm程度含有し、第一錫化合物を錫金属量として10〜22g/l程度含有し、35%塩酸を10〜250g/l程度含有する水溶液を用いることが好ましい。
【0066】
パラジウム化合物を含む水溶液に配合するパラジウム化合物の具体例としては塩化パラジウム、硫酸パラジウム等が挙げられる。パラジウム化合物の配合量としては、パラジム金属量として0.01〜0.5g/l程度が好ましい。
【0067】
パラジウム化合物を含む水溶液には、更に、無機酸が添加されていても良い。無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、亜硫酸、亜硝酸、亜リン酸、亜ホウ酸、過酸化水素、過塩素酸、過酸化窒素等を用いることができる。これらの内で、特に、塩酸が好ましい。これらの無機酸は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。無機酸の配合量としては0.5〜40g/l程度が好ましい。
【0068】
本発明では、触媒付与方法としては、被めっき物である樹脂成形体を、上記した貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液に接触させた後、パラジウム化合物を含有する水溶液に接触させる処理からなる二段階の処理を行う。
【0069】
被めっき物を各処理液に接触させる方法については特に限定はなく、被めっき物の表面を各処理液に十分に接触させることができる方法であれば良い。例えば、処理液を被めっき物に噴霧する方法等も適用可能であるが、通常は、処理液中に被めっき物を浸漬する方法によれば、効率の良い処理が可能である。
【0070】
処理条件については特に限定的ではないが、例えば、浸漬法によって処理する場合には、貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液については、通常、10〜50℃、好ましくは25〜45℃程度のコロイド溶液中に被めっき物を1〜10分程度、好ましくは1〜6分程度浸漬すればよい。パラジウム化合物を含有する水溶液による処理については、10〜50℃、好ましくは25〜45℃程度の水溶液中に被めっき物を1〜5分程度、好ましくは1〜3分程度浸漬すればよい。
【0071】
無電解銅めっき処理
本発明では、無電解めっき液として、銅化合物、還元性を有する糖類、錯化剤及びアルカリ金属水酸化物を含有する無電解銅めっき液を用いる。この無電解銅めっき液を用いることによって、ブリッジ析出が生じることなく、被めっき物の表面に、均一性の良い薄い膜厚の導電性皮膜を密着性よく形成できる。
【0072】
上記無電解銅めっき液では、銅化合物としては、硫酸銅、塩化銅、炭酸銅、酸化銅、水酸化銅等を使用できる。銅化合物の含有量は、銅金属量として0.1〜5g/l程度、好ましくは0.8〜1.2g/l程度とすればよい。銅金属量が0.1g/lを下回ると、無電解銅めっき皮膜の形成が不十分となるので好ましくない。一方、銅金属量が5g/lを上回ると、銅濃度を上げた効果がなく、銅濃度に比例して必要な錯化剤量が増加し、経済的に不利であり、排水処理性も悪くなる。
【0073】
上記無電解銅めっき液に配合する還元性のある糖類の具体例としては、ブドウ糖、グルコース、ソルビット、セルロース、ショ糖、マンニット、グルコノラクトン等を挙げることができる。糖類の含有量は3〜50g/l程度とし、好ましくは10〜20g/l程度とする。糖類の含有量が3g/l未満では無電解銅めっき皮膜の形成が不十分となるので好ましくない。一方、50g/lを上回ると、無電解銅めっき液の安定性が低下すると共に、無電解銅めっき皮膜を形成した後、電気めっきを行う場合には、電気めっき皮膜の外観不良を発生し易くなるので好ましくない。
【0074】
該無電解銅めっき液に配合する錯化剤としては、ヒダントイン類、有機カルボン酸類等を用いることができる。ヒダントイン類の具体例としては、ヒダントイン、1−メチルヒダントイン、1,3−ジメチルヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、アラントイン等を挙げることができ、有機カルボン酸類の具体例としては、クエン酸、酒石酸、コハク酸及びこれらの塩類等を挙げることができる。錯化剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0075】
錯化剤の配合量は、2〜50g/l程度とし、好ましくは10〜40g/l程度とする。錯化剤の量が2g/l未満では錯化力が不十分となって銅の溶解力が不足するので好ましくない。一方、50g/lを上回ると、銅の溶解性は向上するが、経済的に不利であり、排水処理性も悪くなるので好ましくない。
【0076】
上記無電解めっき液では、還元力の弱い糖類を還元剤として用いることにより、めっき液の安定性を低下させることなく、比較的弱い錯化力を有するヒダントイン類を錯化剤として用いることができる。この様な比較的弱い錯化力を有するヒダントイン類を錯化剤として配合しためっき液は、析出性が良好となり、又排水処理も容易となる。
【0077】
このため、本発明では、錯化剤としては、ヒダントイン類を単独で用いるか、或いは、ヒダントイン類と有機カルボン酸類とを混合して用いる場合には、有機カルボン酸類の配合量をヒダントイン類の配合量の50重量%以下、好ましくは20重量%以下とすることが特に好適である。
【0078】
上記無電解銅めっき液には、更に、アルカリ金属水酸化物を配合する。アルカリ金属水酸化物としては、入手の容易性、コストなどの点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を用いることが適当である。アルカリ金属水酸化物は、一種単独又は適宜混合して用いることができる。アルカリ金属水酸化物の配合量は、10〜80g/l程度とし、好ましくは30〜50g/l程度とする。アルカリ金属水酸化物の配合量が10g/l未満では、無電解銅めっき皮膜の形成が不十分であり、次工程で電気めっきを行う場合には、低電流密度域のめっきの析出性が悪くなるので好ましくない。一方、アルカリ金属水酸化物の配合量が80g/lを上回ると、濃度の上昇に従って銅の溶解性が低下し、めっき液の安定性が悪くなるので好ましくない。
【0079】
尚、該無電解銅めっき液では、上記した各成分の配合割合の範囲内において、めっき浴のpHが10〜14の範囲、好ましくは11.5〜13.5の範囲となるように、使用成分の組み合わせ、具体的な配合割合などを適宜調整することが好ましい。
【0080】
上記無電解めっき液には、更に、必要に応じて、安定剤として黄血塩、ロダン塩等を配合できるが、特に、該無電解めっき液は、安定性が非常に良好であるので、安定剤を使用しないか、又は安定剤を使用する場合にも、非常に弱い安定剤であるタンニン酸、ロダニン等を数mg/l程度の少量配合するだけで、良好な安定性を維持できる。
【0081】
無電解めっき液による処理工程では、無電解銅めっき液の液温を、20〜70℃程度、好ましくは35〜50℃程度とし、このめっき液中に被めっき物を30秒〜20分程度、好ましくは1〜5分程度浸漬すればよい。めっき液の液温が20℃未満では無電解めっき皮膜の形成が不十分であり、一方70℃を上回るとめっき液の安定性が低下するので好ましくない。また、めっき液中への浸漬時間が30秒未満では、無電解銅めっき皮膜の形成が不十分であり、一方、20分を上回っても、最適範囲以上の効果が認められず、生産性が低下するので好ましくない。
【0082】
この工程により、被めっき物である樹脂成形体の表面に非常に薄い膜厚の密着性の良好な導電性皮膜が形成される。この導電性皮膜は、全体が完全に銅めっき皮膜となったものでなく、皮膜を王水で溶解し、これをICPを用いて分析した結果によれば、表面析出物中には、銅、パラジウム及び錫の存在が確認された。
【0083】
電気めっき処理
本発明のめっき方法では、上記した方法で無電解銅めっき皮膜を形成した後、必要に応じて、電気めっき処理を行うことができる。
【0084】
上記した方法によって形成される無電解銅めっき皮膜は、均一性に優れた密着性の良好な導電性皮膜であり、この上に電気めっき皮膜を形成することによって、密着性に優れた良好な外観の電気めっき皮膜を形成することができる。
【0085】
電気めっき液の種類は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの電気めっき液も使用可能である。又、めっき処理の条件も常法に従えばよい。
【0086】
電気めっき処理の例として、銅めっき、ニッケルめっき、及びクロムめっきを順次行うことによる装飾用電気めっきプロセスについて具体的に説明する。
【0087】
硫酸銅めっき液としては、公知の光沢硫酸銅めっき液を用いることができる。例えば、硫酸銅100〜250g/l程度、硫酸20〜120g/l程度、及び塩素イオン20〜70ppm程度を含有する水溶液に、公知の光沢剤を添加しためっき浴を使用できる。硫酸銅めっきの条件は、通常と同様で良く、例えば、液温25℃程度、電流密度3A/dm2程度でめっきを行い、所定の膜厚までめっきを行えばよい。
【0088】
ニッケルめっき液としては、通常のワット浴を用いることができる。すなわち、硫酸ニッケル200〜350g/l程度、塩化ニッケル30〜80g/l程度、及びホウ酸20〜60g/l程度を含有する水溶液に、市販のニッケルめっき浴用光沢剤を添加したものを使用できる。めっき条件は通常と同様で良く、例えば、液温55〜60℃程度、電流密度3A/dm2程度で電解して所定の膜厚までめっきすればよい。
【0089】
クロムめっき液としては、通常のサージェント浴を用いることができる。すなわち、無水クロム酸200〜300g/l程度、及び硫酸2〜5g/l程度を含有する水溶液を使用でき、めっき条件は、液温45℃程度、電流密度20A/dm2程度として所定の膜厚までめっきを行えばよい。
【0090】
本発明のめっき方法によって、めっき皮膜を形成した樹脂成形体は、その使用目的に応じて、めっき層の種類、膜厚等を適宜選択することによって、各種用途に利用することができる。特に、バンパー、エンブレム、ホイルキャップ、内装部品、外装部品等の自動車用部品として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0091】
本発明めっき方法によれば、下記の様な顕著な効果が奏される。
(1)自動車部品として適した機械的特性を有するポリアミド系樹脂又はポリアミドアロイ系樹脂を樹脂成分とする樹脂成形体に対して、比較的簡単な処理工程によって、外観、密着性、各種物性等に優れためっき皮膜を形成できる。
(2)使用するエッチング処理液は、クロム酸などの有害性の高い成分を含有しない安全性の高い処理液であり、廃水処理が容易であり、重金属による環境汚染がなく、作業環境も良好である。
(4)従来のプラスチック上へのめっき方法の無電解めっき工程において生じやすかったブリッジ析出がないので、ブラッシングなどの煩雑な処理を要することなく、スターダストのない良好な外観の電気めっき皮膜を形成できる。
(5)形成される無電解銅めっき皮膜は、適度な良好な導電性を有するものであり、この皮膜上には短時間で均一な電気めっき皮膜を形成できる。このため、大型の被処理物に対しても簡単なめっき方法で良好な外観の電気めっき皮膜を形成できる。
(6)従来のめっき方法において触媒付与後に行われることの多かった活性化処理(アクセレーター処理)を行う必要がないので、処理工程が簡素化される。
(7)無電解めっき液として無電解ニッケルめっき液を用いた場合に生じやすい腐食ふくれの発生を防止できる。
(8)本発明の方法で用いる無電解銅めっき液は、還元力が比較的弱い糖類を還元剤として含有するために、めっき液が分解し難く安定性が良好であり、従来の無電解めっき液に配合されている安定剤を使用しないか、又は安定剤を使用する場合にも、非常に弱い安定剤で十分な効果を得ることが出来る。このため、安定剤の過剰によるめき停止や安定剤の不足によるめっき液の分解が生じ難く、めっき液の管理が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0092】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0093】
実施例1
ポリアミド系樹脂からなる樹脂成形体(表面積1dm)を被めっき物として、下記の方法によってめっき処理を行った。
【0094】
まず、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー2g/l、クエン酸3g/l、98%硫酸24g/l、及び35%塩酸240g/lを含有する水溶液からなるエッチング処理用組成物を用い、この水溶液中に被めっき物を浸漬して、エッチング処理を行った。液温は35℃とし、浸漬時間は10分とした。
【0095】
次いで、ポストエッチングとして、35%塩酸水溶液(浴温25℃)60g/l中に被めっき物を浸漬した。浸漬時間は2分間とした。
【0096】
次いで、水洗を行い、塩化パラジウム0.25g/l、塩化第一錫50g/l、塩化ナトリウム200g/l及び35%塩酸36g/lを含有する液温30℃のコロイド溶液(触媒液1)に被めっき物を5分間浸漬し、その後、水洗を行い、塩化パラジウム0.2g/l、及び35%塩酸10g/lを含有する水溶液(触媒液2)に、30℃で1分間被めっき物を浸漬して、被めっき物に均一に触媒を付与させた。
【0097】
次いで、被めっき物を水洗し、硫酸銅4g/l、1−メチノール−5,5−ジメチルヒダントイン20g/l、ショ糖10g/l、水酸化ナトリウム25g/l及び水酸化リチウム40g/lを含有するpH13の液温45℃の無電解銅めっき液中に被めっき物を3分浸漬して、無電解銅めっきを行った。
【0098】
その後、充分水洗し、治具を変えることなく次工程の電気銅めっきに移行した。電気銅めっき液としては、硫酸銅250g/l、硫酸50g/l及び塩素イオン50ppmを含有する水溶液に、光沢剤として奥野製薬工業(株)製のCRPカッパーMU 5ml/l、及びCRPカッパーA 0.5ml/lを添加しためっき液を用い、含リン銅板を陽極とし、被めっき物を陰極として、ゆるやかなエアー撹拌を行いながら、液温25℃、電流密度3A/dmで20分間電気銅めっきを行った。
【0099】
比較例1
実施例1におけるエッチング処理に代えて、クロム酸400g/l及び硫酸400g/lを含むクロム酸混液からなるエッチング処理液中に、65℃で10分間浸漬する方法によってエッチング処理を行い、これ以外は、実施例1と同様にして、ポリアミド系樹脂からなる樹脂成形体に電気銅めっき皮膜を形成した。
【0100】
実施例2
ポリアミド系樹脂60質量%及びスチレン系樹脂40質量%からなるポリアミドアロイ系樹脂成形体(表面積1dm)を被めっき物として、実施例1と同様の処理工程によって電気銅めっきを行った。
【0101】
比較例2
実施例1におけるエッチング処理に代えて、クロム酸400g/l及び硫酸400g/lを含むクロム酸混液からなるエッチング処理液中に、65℃で10分間浸漬する方法によって、エッチング処理を行い、それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2と同様のポリアミドアロイ系樹脂からなる樹脂成形体に電気銅めっき皮膜を形成した。
【0102】
実施例3及び4
塩化パラジウム、塩化第一錫、塩化ナトリウム及び塩酸を含有するコロイド溶液からなる触媒液1中の塩化パラジウム濃度を0.15g/l(実施例3)、又は0.5g/l(実施例4)とし、それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2と同様のポリアミドアロイ系樹脂からなる樹脂成形体に電気銅めっき皮膜を形成した。
【0103】
比較例3
塩化パラジウム0.2g/l及び35%塩酸10g/lを含有する水溶液からなる触媒液2に浸漬する処理を行うことなく、それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2と同様のポリアミドアロイ系樹脂からなる樹脂成形体に電気銅めっき皮膜を形成した。
【0104】
比較例4及び5
塩化パラジウム0.2g/l及び35%塩酸10g/lを含有する水溶液からなる触媒液2に浸漬する処理を行うことなく、また、塩化パラジウム、塩化第一錫、塩化ナトリウム及び塩酸を含有するコロイド溶液からなる触媒液1中の塩化パラジウム濃度を0.5g/l(比較例4)、又は0.8g/l(比較例5)とし、それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2と同様のポリアミドアロイ系樹脂からなる樹脂成形体に電気銅めっき皮膜を形成した。
【0105】
めっき皮膜評価試験
以上の方法で形成された実施例1〜4及び比較例1〜5の各電気銅めっき皮膜について、被覆率、外観、密着性及びピール強度を下記の方法によって評価した。結果を下記表1に示す。
(1)被覆率:
被めっき物表面の電気銅めっき皮膜が形成された面積の割合を被覆率とする。試験片の全面が被覆された場合を被覆率100%とする。
(2)外観:
電気銅めっき皮膜の外観を目視で評価した。
(3)密着性試験:
めっき皮膜の表面に粘着テープを貼り付けた後、テープをめっき面に対して垂直に引っ張った場合のめっき皮膜の剥離の有無を調べた。
(4)ピール強度:
無電解銅めっき皮膜を形成した段階の各試験片について、電気銅めっき浴を用いて、電流密度3A/dm、温度25℃で電気めっき処理を120分間行い、ピール強度測定用の試料を作製した。この様にして得られた試料について、80℃で120分間乾燥させ、室温になるまで放置した後、めっき皮膜に10mm幅の切り目を入れ、引張り試験器((株)島津製作所製、オートグラフSD−100−C)を用いて、樹脂に対して垂直にめっき皮膜を引張り、ピール強度を測定した。
【0106】
【表1】

【0107】
以上の結果から明らかなように、本発明めっき方法によって得られた実施例1〜4の各試料は、試料表面の全面に良好な外観の電気銅めっき皮膜が形成されており、めっき皮膜のピール強度も高く、良好な密着性を有するものであった。また、触媒液1中の塩化パラジウム濃度を増加させた実施例4においても電気銅めっき皮膜が治具に析出せず、良好な電気銅めっき皮膜が得られた。
【0108】
これに対して、クロム酸−硫酸混液を用いてエッチング処理を行って得られた比較例1及び2の試料については、電気銅めっき皮膜の被覆率が非常に低く、良好な電気銅めっき皮膜を形成することは出来なかった。したがって、ポリアミド系樹脂又はポリアミドアロイ系樹脂から形成された成形体への前処理としては、クロム酸−硫酸エッチング処理は不適切であると判断できた。
【0109】
また、塩化パラジウム及び塩酸を含有する水溶液からなる触媒液2による処理を行わない場合(比較例3〜5)には、電気銅めっき皮膜の被覆率が低く、めっき外観にムラが生じた。また、触媒液1中の塩化パラジウム濃度を増加させた場合(比較例4及び5)であっても、電気銅めっき皮膜の被覆率は低い結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)〜(iii)の工程を含む、ポリアミド系樹脂又はポリアミドアロイ系樹脂を樹脂成分とする樹脂成形体へのめっき方法:
(i)界面活性剤、無機酸及び有機酸を含有するエッチング処理用組成物を、上記樹脂成形体に接触させるエッチング工程、
(ii)上記(i)工程でエッチング処理された樹脂成形体を、貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液に接触させた後、パラジウム化合物を含有する水溶液に接触させる触媒付与工程、
(iii)上記(ii)工程で処理された樹脂成形体を、銅化合物、還元性を有する糖類、錯化剤及びアルカリ金属水酸化物を含有する無電解銅めっき液に接触させる無電解銅めっき工程。
【請求項2】
エッチング処理用組成物が、界面活性剤0.1〜10g/l、無機酸20〜600g//l及び有機酸0.1〜50g/lを含有する水溶液であり、
貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液が、白金化合物、金化合物、パラジウム化合物及び銀化合物から成る群から選ばれた少なくとも一種の貴金属化合物を金属量として50〜500mg/lと、第一錫化合物を錫金属量として10〜50g/l含有するpH1以下の水溶液であり、
パラジウム化合物を含有する水溶液が、パラジウム化合物をパラジム金属量として0.01〜0.5g/l含有する水溶液であり、
無電解銅めっき液が、銅化合物を銅金属量として0.1〜5g/l、還元性を有する糖類を3〜50g/l、錯化剤を2〜50g/l及びアルカリ金属水酸化物を10〜80g/l含有する水溶液である
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法によって無電解銅めっき皮膜を形成した後、更に、電気めっきを行うことを特徴とする樹脂成形体へのめっき方法。

【公開番号】特開2006−299366(P2006−299366A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125388(P2005−125388)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】