説明

樹脂成形品の製造方法および製造装置ならびに樹脂成形品

【課題】短い成形サイクルで光学鏡面や微細なパターンが高精度に転写され、かつ内部歪みの小さい樹脂成形品を提供する。
【解決手段】樹脂4が軟化温度以下のキャビティ3の温度まで冷却される途中で、少なくともキャビティ3内の樹脂4の中心温度が樹脂の軟化温度以上、あるいは表層部温度が樹脂の軟化温度以下かつ樹脂の平均温度が軟化温度以上であるタイミングにて、可動入子2を樹脂4から離反する方向に移動させ、転写面5と樹脂4の間に断熱層としての空隙15を形成する。この空隙15において、樹脂4自体の温度にて表層部温度が軟化温度以上になるタイミングで、樹脂4から離反させた可動入子2を樹脂4と密着する方向に再移動させ、樹脂4と転写面5を再密着させて、樹脂4の表面に転写面5の形状を転写させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に高精度な光学鏡面や微細パターンを有する光学素子などの樹脂成形品に適用され、その製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機あるいはレーザービームプリンターなどの光走査系に用いられるfθレンズあるいはプロジェクションに用いられる投射レンズなどの光学素子は、製品のコストダウンの要求からガラスから樹脂製のものへと変化している。これらの光学素子は、複数の機能を最小限の素子にて補うために、その転写面形状も球面のみならず複雑な非球面形状を有するようになってきている。
【0003】
また、レンズの場合には、その形状はレンズ厚が厚く、レンズ厚が一定ではない偏肉形状である構成のものが多くなってきている。その製造方法は、製造コストが低く大量生産に適した射出成形法を用いることが一般的となっている。しかしながら、レンズ厚みが偏肉形状のレンズを射出成形法で製造した場合、レンズ厚みの偏差によって、充填された樹脂の冷却速度が長手方向の各部で異なるため部位による収縮率差が生じ、精度良く成形することができない。特に、薄肉部やゲート近傍では熱応力が発生し、レンズ内部に複屈折が発生するといった問題があった。
【0004】
このような射出成形法の問題を改善する方法として、金型内で樹脂をガラス転移温度以上に加熱し、その後、ゆっくりと冷却して成形品を取り出すことによって、内部歪みが小さく、形状精度の良い成形品を得る方法がいくつか提案されている。
【0005】
特許文献1:予め作製した樹脂母材を金型に挿入し、ガラス転移温度以上に加熱溶融して、樹脂内圧を発生させた後にゆっくり冷却する。
【0006】
特許文献2:樹脂のガラス転移温度以上に加熱された金型に、樹脂を射出・充填し、一定時間保持した後、ガラス転移温度以下まで冷却して成形品を取り出す。
【0007】
特許文献3:キャビティ間に樹脂を保持した状態で、そのガラス転移温度以上に加熱保持し、樹脂が受ける圧力が変化しないように、外部からの圧力を調節しながら樹脂のガラス転移温度近傍まで冷却する。
【0008】
これらのいずれの方法においても、樹脂のガラス転移温度以上まで金型を加熱し、その後、冷却するといった工程を必要とするため、非常に成形サイクルが長くなる上、1サイクルごとに金型全体をガラス転移温度以上まで加熱することが必要となるために、多大な消費電力を要するといった問題が生じる。
【0009】
一方、本出願人は、図15(a)に示すように、金型101,102の一方に、転写面103以外の面104に対応させて、摺動自在に入子105を設け、金型101,102内へ溶融した樹脂106を射出充填し、次いで、前記転写面103に樹脂圧力を発生させて樹脂106を転写面103に密着させた後、該樹脂106を軟化温度以下に冷却し、次いで、型開きして取り出す樹脂成形品の成形方法において、図15(b)に示すように、前記溶融した樹脂106を軟化温度未満まで冷却するときに、入子105を樹脂106から離隔するように摺動させることにより、樹脂106と入子105の間に強制的に空隙107を画成する樹脂成形品の成形方法を提案している(特許文献4参照)。
【0010】
前記樹脂成形品の成形方法は、溶融した樹脂106を金型101,102内へ射出充填した後、該樹脂106が軟化温度未満まで冷却する間に、非転写面104に対して設けられている摺動可能な入子105を樹脂106から離隔する方向に移動させ、入子105と樹脂106との間に強制的に空隙107を形成する成形方法である。
【0011】
そして前記樹脂成形品の成形方法によれば、空隙107に接している部分の非転写面104では、金型壁面との密着力が作用しないことにより、樹脂106が移動しやすくなり、図15(b)に示すように、非転写面104に優先的にひけ(凹形状または凸形状またはその両方の場合も有り)を発生させることができる。
【0012】
その結果、転写面103にひけが生じるのを防ぐことができ、高い形状精度の成形品を得ることができる。また、金型温度を樹脂のガラス転移温度以上まで加熱する必要がないため、成形サイクルも短くなり、消費電力も小さくなる。
【0013】
しかしながら、前記樹脂成形品の成形方法では、図16に示す投射レンズ110のように、転写面111が非常に大きく、非転写面112で前記空隙107を形成できる部位(面積)が非常に小さいものの場合には、十分にひけを誘導することができず、転写面111にひけが発生するといった問題が生じる。
【0014】
近年では、前記光学素子において、光学面に微細パターンを形成させ、新たな光学的機能を付加することが試みられている。例えば、光学面に波長の数倍の回折パターンを形成し、この回折を利用してレンズ効果をもたせる回折レンズがある。このように光学鏡面に回折レンズを形成することにより、光学系の収差特性の改善および波長選択性を備えることができる。
【0015】
また、光の波長より小さいピッチの格子や柱、あるいはピットなどが配列された微細構造を光学面に施すことが、ある屈折率を有する薄膜が存在することと等価となるため、前記微細構造の配列や構造を工夫することによって、反射防止機能が得られることが知られている。
【0016】
従来、光学鏡面からの反射光がゴーストあるいはフレアの原因となり、画像品質を劣化させるため、それを抑制するために、成形後に真空蒸着などを施して反射防止膜を設けるようにしていたが、前記微細構造を光学表面に形成させることにより、成形後の後工程(真空蒸着処理)が不要となり、生産コストを大幅に低減させることができる。
【0017】
一般的な樹脂成形品の製造方法である射出成形では、成形サイクルを速くするため、使用する樹脂の軟化温度以下に保持した金型に、溶融した樹脂を射出充填し,急冷固化させることにより成形品を作製している。
【0018】
しかし、前記のように表面に回折パターン、あるいは波長以下の微細なパターン形状を有する光学素子を射出成形で製造した場合には、金型内に溶融樹脂を充填した瞬間に、その表層部が軟化温度以下に保持された金型表面に接触して急冷されるため,前記パターンへ樹脂を完全に充填することができないという不具合が生じる。
【0019】
このような微細パターンへの転写に対しては、下記のような方法が提案されている。
【0020】
特許文献5:樹脂温度を、その樹脂のガラス転移温度+10℃から+150℃の範囲にし、プレスして転写する。
【0021】
特許文献6:金型に熱伝導率が低い(20W/m・K)以下の材料を用いることによって、樹脂の冷却を遅くさせる。
【0022】
特許文献7:金型内に樹脂を充填した後、金型を、樹脂のガラス転移温度以上に上げて転写面を押圧する。
【0023】
特許文献8:金型を透光性材質で構成し、エネルギ線を照射することにより、樹脂をそのガラス転移温度以上に上げて転写させる。
【特許文献1】特許第2799239号公報
【特許文献2】特許第3530613号公報
【特許文献3】特開2000−25120号公報
【特許文献4】特許第3512595号公報
【特許文献5】特開2003−211475号公報
【特許文献6】特開2004−284110号公報
【特許文献7】特開2005−049829号公報
【特許文献8】特開2005−205860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、前記従来技術において、特許文献5,7に関しては、特許文献1〜3と同様に、金型を樹脂のガラス転移温度以上に加熱後、冷却するといった熱サイクルが必要であるため、成形時間が長くなると同時に、温度安定性が確保しづらく、転写性がばらつくといった問題が生じる。
【0025】
特許文献6に関しては、樹脂が冷却されにくくなり転写が促進されるとしているが、金型温度は樹脂の軟化温度以下に維持されているため、樹脂は金型内を流動しながら冷却が進み、特に、ゲートから離れた位置(末端)では温度が下がるため、波長以下といったミクロンオーダー以下のピッチの微細形状にまで十分に樹脂を充填することができない(特許文献4についても同様の問題が生じる)。また、母材全てを熱電導率の低い部材で構成しているので、樹脂の冷却が遅くなり、成形時間が長くなる。これは成形品肉厚が大きくなる程、顕著である。
【0026】
特許文献8に関しては、型材がサファイア,シリコンなどの透光材料に限定されるが、それらの材料は一般的に使用される金属より高価であり、かつ強度が低いため、負荷圧力が限定され、十分な転写ができない場合がある。また、大面積や曲面上の成形品に対しては均一に加熱することが難しく、成形品精度にばらつきが生じるという問題がある。
【0027】
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、短い成形サイクルで光学鏡面や微細なパターンが高精度に転写され、かつ内部歪みの小さい樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の本発明は、少なくとも1つ以上の転写面を有するキャビティを形成する金型を用い、樹脂の軟化温度以下に加熱された前記キャビティ内に軟化温度以上に加熱された溶融樹脂を充填して前記転写面に密着させ、その後、前記樹脂を軟化温度以下まで冷却して金型から離型させる樹脂成形品の製造方法であって、前記キャビティ内に溶融樹脂を充填した後、前記キャビティ内の金型面に接触して冷却された樹脂の表層部と、前記キャビティ内の前記転写面との間に断熱層を形成し、この状態にて、まだ軟化温度以上である前記樹脂内部の熱によって該樹脂の表層部を再溶融させ、その後、該樹脂の表層部に前記転写面を再密着させることを特徴とし、この方法によって、断熱層を形成し、樹脂自体の熱によって樹脂表層部を再溶融させ、その後、転写面を再密着させて転写させることにより、金型温度を上げることなく、短い成形サイクルで精度良く、光学鏡面や微細パターンなどを樹脂に転写させることができる。また、樹脂を充填した後に、断熱層を形成するため転写面と樹脂を離反させることにより、キャビティ内の樹脂の応力が緩和され、歪みを低減させることができる。
【0029】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の樹脂成形品の製造方法において、断熱層として空気層を形成することを特徴とし、断熱層を空気層とすることにより、断熱層を容易に形成することができる。
【0030】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の樹脂成形品の製造方法において、断熱層を転写面を移動させることにより形成することを特徴とし、この構成によって、断熱層である空気層などをキャビティ内に容易に形成が設けることが可能になる。
【0031】
請求項4に記載の発明は、請求項1記載の樹脂成形品の製造方法において、金型として、転写面の一部または全部を成す移動可能な入子を設けた金型を用いたことを特徴とし、この方法によって、金型全体でなく、入子により必要な部位に断熱層を形成することが可能になる。
【0032】
請求項5に記載の発明は、請求項1記載の樹脂成形品の製造方法において、金型として、少なくとも第1の転写面と、それと対向する第2の転写面を有し、第1の転写面および第2の転写面に、該転写面の全部または一部を成し、かつ移動することによって断熱層を形成する入子を設けた金型を用いたことを特徴とし、この方法によって、樹脂の両表面層に断熱層が形成されることにより、成形時の樹脂における温度分布が低減し、偏肉に伴う収縮率差に対して、より十分に緩和することができる。
【0033】
請求項6に記載の発明は、請求項1記載の樹脂成形品の製造方法において、金型として、少なくとも第1の転写面と、それと対向する第2の転写面を有し、第1の転写面と第2の転写面とのいずれか一方に、転写面の全部または一部を成す移動可能な入子を設け、他方に転写面の全部または一部を成す固定入子を設けた金型を用いたことを特徴とし、この方法によって、転写面全てを可動入子とする必要がなくなるため、金型構造が簡素化され、製造コストを安価にすることができる。
【0034】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法において、キャビティ内における樹脂において、少なくとも樹脂の内部温度が該樹脂の軟化温度以上のとき、あるいは樹脂の表層部温度が該樹脂の軟化温度以下かつ該樹脂の平均温度が軟化温度以上のときに、転写面を移動させて断熱層を形成することを特徴とし、この方法によって、断熱層に面する樹脂表面が軟化温度以上に再溶融したときに、転写面に再密着させることにより、精度良く光学鏡面や微細パターンを転写させることができる。
【0035】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法において、断熱層を形成した後、少なくとも転写面と再密着させる樹脂の表層部の温度が該樹脂の軟化温度以上のときに、転写面を移動させて該転写面と樹脂を再密着させることを特徴とし、この方法によって、再密着させるときの樹脂の表層部の粘度が低いため、波長以下の微細なパターンに対して、良好に樹脂を充填させることが可能となる。
【0036】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法において、キャビティ内における樹脂の圧力が0.5MPa以上のときに、転写面を移動させ、断熱層を形成させることを特徴とし、この方法によって、適正な圧力下で断熱層を形成することにより、断熱層を形成させる前に樹脂と転写面が剥離して、ひけが発生することを防ぐことができる。
【0037】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法において、キャビティ内に断熱層を形成させる際に、樹脂の表層部と転写面との間へ圧縮気体を注入することを特徴とし、この方法によって、転写面と樹脂界面に気体が侵入し、両者の密着力が低減するため、確実に転写面と樹脂の間に断熱層を形成することができる。
【0038】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法は、キャビティ内に断熱層を形成させた後に、断熱層へ任意の温度に制御された圧縮気体を注入することを特徴とし、この方法によって、断熱層における温度を任意にコントロールすることが可能になり、より安定して精度良く、転写面を樹脂表面に転写させることができる。
【0039】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜11いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法において、転写面の移動に際してキャビティ内における樹脂を移動させないように、該樹脂を転写面の移動領域外の部位で固定させることを特徴とし、この方法によって、所望の位置、数の断熱層を確実に形成させることができる。
【0040】
請求項13に記載の発明は、請求項1〜12いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法において、断熱層を形成するときの転写面の移動距離L1と、樹脂と再密着するときの転写面の移動距離L2との関係が、L1<L2であることを特徴とし、この方法によって、再密着時に転写面と樹脂を完全に密着させることができ、転写面の樹脂表面への転写が精度良く行われる。
【0041】
請求項14に記載の発明は、少なくとも1つ以上の転写面を有するキャビティを形成する金型を設置し、前記キャビティ内を樹脂の軟化温度以下に加熱し、該キャビティ内に軟化温度以上に加熱された溶融樹脂を充填して前記転写面に密着させ、その後、前記樹脂を軟化温度以下まで冷却して前記金型から離型させる構成の樹脂成形品の製造装置であって、前記キャビティ内に充填され該キャビティ内の金型面に接触して冷却された樹脂の表層部と前記キャビティ内の前記転写面との間に、まだ軟化温度以上である前記樹脂内部の熱によって該樹脂の表層部を再溶融させるための断熱層を形成させ、再溶融した該樹脂の表層部に前記転写面を再密着させる制御手段を備えたことを特徴とし、この構成によって、断熱層を形成し、樹脂自体の熱によって樹脂表層部を再溶融させ、その後、転写面を再密着させて転写させることにより、金型温度を上げることなく、短い成形サイクルで精度良く、光学鏡面や微細パターンなどを樹脂に転写させることができる。また、樹脂を充填した後に、断熱層を形成するため転写面と樹脂を離反させることにより、キャビティ内の樹脂の応力が緩和され、歪みを低減させることができる。
【0042】
請求項15記載の発明は、請求項14記載の樹脂成形品の製造装置において、移動手段が、転写面を樹脂の表層部から離し、断熱層として空気層を形成することを特徴とし、この構成によって、断熱層を空気層とすることにより、断熱層を形成するための構成を簡単な構成なものにすることができる。
【0043】
請求項16に記載の発明は、請求項14または15記載の樹脂成形品の製造装置において、金型のキャビティ内の樹脂の各部の温度を検知する温度センサと、転写面を移動させる移動手段とを備え、制御手段により、温度センサの検知温度情報を受けて移動手段を駆動させて、転写面と樹脂の表層部とを接離させることを特徴とし、この構成によって、断熱層の形成および転写面への樹脂表層部の接離が容易かつ確実に行われる。
【0044】
請求項17に記載の発明は、請求項14〜16いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置において、金型として、転写面の一部または全部を成す移動可能な入子を設けた金型を用いたことを特徴とし、この構成によって、金型全体でなく、入子により必要な部位に断熱層を形成することが可能になる。
【0045】
請求項18に記載の発明は、請求項14〜16いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置において、金型として、少なくとも第1の転写面と、それと対向する第2の転写面を有し、第1の転写面および第2の転写面に、該転写面の全部または一部を成し、かつ移動することによって断熱層を形成する入子を設けた金型を用いたことを特徴とし、この構成によって、樹脂の両表面層に断熱層が形成することにより、成形時の樹脂における温度分布が低減し、偏肉に伴う収縮率差に対して、より十分に緩和することができる。
【0046】
請求項19に記載の発明は、請求項14〜16いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置において、金型として、少なくとも第1の転写面と、それと対向する第2の転写面を有し、前記第1の転写面と前記第2の転写面とのいずれか一方に、転写面の全部または一部を成す移動可能な入子を設け、他方に転写面の全部または一部を成す固定入子を設けた金型を用いたことを特徴とし、この構成によって、転写面全てを可動入子とする必要がなくなるため、金型構造が簡素化され、製造コストを安価にすることができる。
【0047】
請求項20に記載の発明は、請求項14〜19いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置において、温度センサにて、金型の前記キャビティ内における樹脂において、少なくとも樹脂の内部温度が該樹脂の軟化温度以上、あるいは樹脂の表層部温度が該樹脂の軟化温度以下かつ該樹脂の平均温度が軟化温度以上であることを検知したときに、制御手段が移動手段を駆動して、転写面を移動させて断熱層を形成することを特徴とし、この構成によって、断熱層に面する樹脂表面が軟化温度以上に再溶融したときに、転写面に再密着させることにより、精度良く光学鏡面や微細パターンを転写させることができる。
【0048】
請求項21に記載の発明は、請求項14〜20いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置において、断熱層を形成した後、温度センサにて、少なくとも転写面と再密着させる樹脂の表層部の温度が該樹脂の軟化温度以上であることを検知したときに、制御手段が移動手段を駆動して、転写面を移動させて該転写面と樹脂を再密着させることを特徴とし、この構成によって、再密着させるときの樹脂の表層部の粘度が低くなるため、波長以下の微細なパターンに対して、良好に樹脂を充填させることができる。
【0049】
請求項22に記載の発明は、請求項14〜21いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置において、キャビティ内における樹脂の圧力を検知する圧力センサを備え、この圧力センサが0.5MPa以上を検知したときに、制御手段が移動手段を駆動して、転写面を移動させて断熱層を形成させることを特徴とし、この構成によって、適正な圧力下で断熱層を形成することができ、断熱層を形成させる前に樹脂と転写面が剥離して、ひけが発生することを防ぐことができる。
【0050】
請求項23に記載の発明は、請求項14〜22いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置において、キャビティ内に断熱層を形成させる際に、樹脂の表層部と転写面との間へ圧縮気体を注入する手段を備えたことを特徴とし、この構成によって、転写面と樹脂界面に気体が侵入し、両者の密着力が低減するため、確実に転写面と樹脂の間に断熱層を形成することができる。
【0051】
請求項24に記載の発明は、請求項14〜23いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置において、キャビティ内に断熱層を形成させた後に、断熱層へ任意の温度に制御された圧縮気体を注入する手段を備えたことを特徴とし、この構成によって、断熱層における温度を任意にコントロールすることが可能になり、より安定して精度良く、転写面を樹脂表面に転写させることができる。
【0052】
請求項25に記載の発明は、請求項14〜24いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置において、転写面の移動に際してキャビティ内における樹脂を移動させないように保持する保持手段を、転写面の移動領域外の部位に設けたことを特徴とし、この構成によって、所望の位置、数の断熱層を確実に形成させることができる。
【0053】
請求項26に記載の発明は、請求項14〜25いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置において、断熱層を形成するときの転写面の移動距離L1と、樹脂と再密着するときの転写面の移動距離L2との関係が、L1<L2であるように設定したことを特徴とし、この構成によって、再密着時に転写面と樹脂を完全に密着させることができ、転写面の樹脂表面への転写が精度良く行われる。
【0054】
請求項27に記載の発明は、請求項1〜13いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法あるいは請求項14〜26いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置により製造される樹脂成形品であって、前記再密着させた転写面以外の面の少なくとも一部に不完全転写面を有することを特徴とし、この構成によって、成形品において再密着時に発生する応力を不完全転写部で吸収することができ、その結果、樹脂内部の応力を緩和させ、歪を小さくすることができる。
【0055】
請求項28に記載の発明は、請求項27記載の樹脂成形品において、不完全転写面が、再密着させた転写面に隣接する外周部の一部もしくは外周部全周に存在することを特徴とし、この構成によって、不完全転写部が再密着させる転写面と隣接するため、再密着時の余剰樹脂が容易に不完全転写部に移動することができ、その結果、より確実に樹脂内部の応力を緩和させ、歪を小さくすることができ、また、低温となる再密着面の隅面を避けて圧縮するため、圧縮面前面に瞬時に密着させることができ、均一高精度な転写ができる。
【0056】
請求項29に記載の発明は、請求項1〜13いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法において、請求項27または28に記載の不完全転写面を形成する際に、樹脂をキャビティ内に完全充填せず、その後、転写面を形成する移動可能な入子を移動させ、前記断熱層を形成させることを特徴とし、この方法によって、特別な装置を用いることなく不完全転写面を形成することができるため、金型構造を簡素化できる。
【0057】
請求項30に記載の発明は、請求項29記載の樹脂成形品の製造方法において、キャビティを構成する面の一部に移動可能な入子を設け、移動可能な入子を樹脂から離反させる方向に移動させることによって空隙を形成し、不完全転写面を形成させることを特徴とし、この方法によって、不完全転写部に空隙を形成することにより断熱層が形成され、その部分に樹脂表面温度が上昇し、再密着面に余剰樹脂を容易に移動させることができ、また、樹脂と入子を離反させることにより、所望の場所に確実に不完全転写面を形成することができる。
【0058】
請求項31に記載の発明は、請求項29または30記載の樹脂成形品の製造方法において、転写面の一部または全部をなす移動可能な入子を移動させることによって断熱層を形成した後、移動可能な入子の一部を樹脂の表層部に再密着させ、再密着させない部位を不完全転写面とすることを特徴とし、この方法によって、再密着部と不完全転写部の両部位に同時に断熱層を形成させることが可能であり、さらに両部位を樹脂から移動させる手段を共通化することができるため、金型構造を簡素化することができる。
【0059】
請求項32に記載の発明は、請求項29〜31いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法において、不完全転写面を形成するために移動させる入子を移動させるタイミングを、転写面を再密着させる時間と同時またはそれより早い時間に設定したことを特徴とし、この方法によって、再密着時には既に不完全転写部が既に形成されている状態となり、再密着時に確実にその余剰樹脂を不完全転写面に移動させることができる。
【0060】
請求項33に記載の発明は、請求項1〜13,29〜32いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法あるいは請求項14〜26いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置により製造される樹脂成形品、あるいは請求項27または28記載の樹脂成形品であって、当該樹脂成形品が、転写面に光学鏡面を有する光学素子であることを特徴とし、この光学素子は、少なくとも断熱層が形成される部位において、内部歪みが小さくなり、例えば、プロジェクタ用投射レンズやレーザプリンタ用fθ用レンズのように、光学鏡面を有する光学素子を、高精度、低歪み、低コストで提供することができる。
【0061】
請求項34に記載の発明は、請求項1〜13,29〜32いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法あるいは請求項14〜26いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置により製造される樹脂成形品、あるいは請求項27または28記載の樹脂成形品であって、当該樹脂成形品が、転写面に凹凸パターンが形成される光学素子であることを特徴とし、この光学素子は、少なくとも断熱層が形成される部位において、内部歪みが小さくなり、例えば、表面に無反射機能を有する表面に微細な凹凸パターンが形成された光学素子を、高精度、低歪み、低コストで提供することができる。
【0062】
請求項35に記載の発明は、請求項1〜13,29〜32いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法あるいは請求項14〜26いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置により製造される樹脂成形品、あるいは請求項27または28記載の樹脂成形品であって、当該樹脂成形品が、転写面に光学鏡面および凹凸パターンが形成される光学素子であることを特徴とし、この光学素子は、少なくとも断熱層が形成される部位において、内部歪みが小さくなり、例えば、ピックアップ用回折レンズのように、高精度な鏡面、かつその裏面に微細な回折パターンが形成された光学素子を、高精度、低歪み、低コストで提供することができる。
【0063】
請求項36に記載の発明は、請求項1〜13,29〜32いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法あるいは請求項14〜26いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置により製造される樹脂成形品、あるいは請求項27または28記載の樹脂成形品であって、当該樹脂成形品が、転写面に高精度な転写面を有する外装部品であることを特徴とし、この外装部品は、少なくとも断熱層が形成される部位において、しぼ加工などの微細な意匠パターンが高精度に転写されるため、外装部品を低コストで提供することができる。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、溶融樹脂を金型に充填後、軟化温度未満まで冷却するときに、転写面と樹脂の間に空隙などによる断熱層を形成させることにより、樹脂品中心部の熱が金型へ伝達されず断熱層にこもるようにし、その結果、樹脂自体の熱によって、一旦冷却された樹脂表層部を再溶融させることができ、この状態で転写面と樹脂表層部とを再密着させることにより、転写面形状を樹脂表面に高精度に転写させることが可能になる。このため、金型温度を上げる必要なく、非常に短い成形サイクルで、光学鏡面もしくは微細パターンが形成された転写面を高精度に樹脂表面に転写できる。また、充填後に空隙(断熱層)を形成したときに圧力が開放されることにより、キャビティ内の樹脂の圧力偏在(応力)が緩和され、内部歪みを低減させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0066】
(実施形態1)
図1(a)〜(d)は本発明の実施形態1であるプラスチック成形装置の構成および動作を説明するための概略構成図であり、1は上下一対の金型、2は各金型1にそれぞれ摺動可能に設けられた可動入子、3は各金型1および各可動入子2の対向面間に形成されるキャビティ、4はキャビティ3内に充填された樹脂、5は各可動入子2に形成された転写面、6は各可動入子2を上下動をコントロールする移動手段としての圧力制御/駆動装置、7は圧縮気体注入装置、8は圧縮気体注入装置7からキャビティ3に圧縮空気を導出する連通孔、9は樹脂4の各部の温度を検知する温度センサ、10は金型1内の各部(キャビティ)の圧力を検知する圧力センサ、11は、温度センサ9,圧力センサ10などの検知データあるいは動作情報などを受けて、圧力制御/駆動装置6および圧縮気体注入装置7などの各部をコントロールするCPU(中央演算処理ユニット)などからなる制御装置である。
【0067】
図1(a)において、所定容積のキャビティ3を画成する可動入子2のキャビティ面に、成形品の入射面と出射面を転写する鏡面加工された転写面5が形成されている。転写面5が加工された各可動入子2は移動可能なようになっており、圧力制御/駆動装置6にそれぞれ連結されている。
【0068】
また、可動入子2の摺動面には、金型1外部と連通する連通孔8を介して、圧縮気体を注入することが可能なように圧縮気体注入装置7が接続されている。キャビティ3を形成する金型1は図示しないヒーター,温調媒体などによって、使用される樹脂の軟化温度以下に加熱維持されている。
【0069】
実施形態1では、図2(a),(b)に示すようなプロジェクタ投射用のレンズ12を作製する例を説明する。
【0070】
図2(a)は正面図、図2(b)は側面断面図であって、レンズ12の入射面13と出射面14との両面に、それぞれ凹面と凸面からなる高精度な光学鏡面を有している。本例では、作製したレンズ12は、直径70mm、中心部肉厚3mmに対して外周部肉厚8mmの偏肉形状の丸レンズである。樹脂素材としては、軟化温度110℃のPMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂を使用した。
【0071】
次に、前記構成の実施形態1の成形装置による成形方法について説明する。
【0072】
まず、キャビティ3内にPMMA樹脂の溶融した樹脂4を、図示しないゲートを介して射出充填させる。このとき、可動入子2は、充填時の圧力によって移動しないように、圧力制御/駆動装置6によって固定されている(図1(a))。
【0073】
樹脂4が軟化温度以下のキャビティ3の温度まで冷却される途中で、圧縮気体注入装置7から連通孔8を通して転写面5と樹脂4との界面に圧縮気体を注入する。その後、温度センサ9が、少なくともキャビティ3内の樹脂4の中心温度が樹脂の軟化温度以上、あるいは表層部温度が樹脂の軟化温度以下かつ樹脂の平均温度が軟化温度以上であることを検知したタイミングにて、圧力制御/駆動装置6は、可動入子2を樹脂4から離反する方向に移動(後退)させ、転写面5と樹脂4の間に断熱層としての空隙(空気層)15を形成する(図1(b))。
【0074】
前記空隙15において、樹脂4自体の温度にて表層部温度が軟化温度以上になっていることを温度センサ9が検知したタイミングで、圧力制御/駆動装置6は、樹脂4から離反された可動入子2を樹脂4と密着する方向に再移動(前進)させ、樹脂4と転写面5を再密着させ、樹脂4の表面に転写面5の形状を転写させる(図1(c))。
【0075】
そして、樹脂4が金型1(キャビティ3)の温度まで冷却した後、作製されたレンズ12を離型させる(図1(d))。
【0076】
前記成形工程において、キャビティ3内に樹脂4を充填した後、転写面5を樹脂4から一旦離反させることによって、空隙15を形成させている。この空隙15に面した部分の樹脂4は、キャビティ3の壁面に拘束されない自由面となり、他の部分より動きやすくなるため,偏肉形状に起因して生じる冷却時の圧力偏在を緩和することができる。
【0077】
図3は従来の射出成形の場合における成形時のキャビティ内の樹脂の温度変化を示す説明図、図4(a)〜(d)は本実施形態の場合における成形時のキャビティ内の樹脂の温度変化を示す説明図である。ここで、図中の(イ)は樹脂の内部中央部の温度変化、(ロ)は樹脂における表層部の温度の変化、(ハ)は樹脂の軟化温度、(ニ)は金型温度を示している。
【0078】
図3に示す従来の通常の射出成形の場合を図1を参照して説明すると、樹脂4をキャビティ3内に充填した直後に、樹脂4の表層部温度(ロ)は、軟化温度以下に加熱された金型1のキャビティ3表面に接触して急冷されるが、樹脂4の熱伝達率が小さいため、内部中央部の温度(イ)は、まだ高く軟化温度以上である。その後、樹脂4の中央部の熱が温度の低い樹脂4の表層部から、軟化温度以下に維持されているキャビティ3の壁面へと伝熱され、徐々に樹脂4の中心部の温度が、軟化温度以下に加熱されたキャビティ3の温度まで冷却されて固化する。
【0079】
一方、図4(a)〜(d)に示す本実施形態の場合、樹脂4をキャビティ3内に充填した直後では、従来の射出成形の場合と同様に、樹脂4における表層部の表面温度(ロ)は、軟化温度以下に加熱された金型1のキャビティ3表面に接触して急冷されるが(図4(b))、樹脂4の熱伝達率が小さいため、内部中央部の温度(イ)は、まだ高く軟化温度以上である。その後、樹脂4と転写面5を離反させて空隙15を形成させると、この空隙15が断熱層となって、樹脂4の中心部の熱が表層部まで伝達された後、断熱層となった空隙15にこもる。その結果、充填時にキャビティ3の壁面に接触して冷却された樹脂4の表層部が、樹脂4自体の熱によって再溶融する(図4(a)のA部,図4(c))。
【0080】
次いで、樹脂4の表層部と転写面5を再密着させることで(図4(d))、樹脂4が軟化温度以下に維持されているキャビティ3の壁面へと伝達され、従来の射出成形の場合と同様、成形品(レンズ12)の全体が、その軟化温度以下に維持された金型1(キャビティ3)の温度まで冷却されて固化する。
【0081】
本実施形態において、樹脂4の表面が再溶融したタイミングで、転写面5と樹脂4の表層部とを再密着させることにより、自由面となった樹脂4の表層部の形状を、光学鏡面としての転写面5の形状に忠実に精度良く転写させることができる。さらに、金型1の温度を軟化温度以上に上げる必要がないため、成形サイクルは短くなり、製造時の消費電力も少なくすることができる。
【0082】
本実施形態では、転写面5と樹脂4を離反する前に、圧縮気体注入装置7から連通孔8を通して、転写面5と樹脂4との界面に圧縮気体を注入させている。これによって、転写面5と樹脂4との密着力が低減され、離反時に転写面5に樹脂4が引っ張られることなく、確実に空隙15を形成することができる。前記連通孔8が形成される場所は、本実施形態のように、入子摺動面に限定されるものではないが、最終成形品に痕跡が残るため、転写面5の有効面以外の場所に形成するようにすることが望ましい。なお、連通孔8が大き過ぎると樹脂4が侵入してバリとなるため、連通孔8は100μm以下、可能であれば20μm以下であることが望ましい。
【0083】
また、空隙15を形成した後に、圧縮気体注入装置7にて任意の温度に制御された圧縮気体を連通孔8から空隙15に注入させることによって、空隙15内の温度を任意にコントロールすることが可能になり、より安定して精度良く転写面5を樹脂4の表面に転写させることができる。
【0084】
なお、空隙15を形成する前に、樹脂4と転写面5との界面に圧縮気体を注入するための連通孔と、空隙15を形成した後に温度制御された圧縮気体を注入するための連通孔は、必ずしも共通する必要はなく、別に設けてもよい。
【0085】
また、前記成形工程において、転写面を含むキャビティ壁面全体を移動させるようにしてもよいが、図5(a),(b)に示すように、相対する2つの面に可動入子2を設けて移動させる場合は、その移動タイミングがずれると、樹脂4が片面にずれ、空隙15を形成することができないといった不具合が生じる。これを回避するため、図5(a’),(b’)に示すように、金型1における有効範囲外の部分に、成形時に樹脂4を移動させずに固定する固定部16を設けることが考えられる。
【0086】
本実施形態における可動入子2の移動量としては特に限定されるものでないが、空隙15の温度を安定させるためには、空隙15が形成される範囲で極力小さくすることが望ましい。一方、可動入子2を移動させて空隙15を形成させるときの可動入子2の移動距離L1と、可動入子2を移動させて樹脂4と再密着させるときの可動入子2の移動距離L2の関係においては、L1<L2になるようにしている。
【0087】
この理由は、L1≧L2の場合には、樹脂4と転写面5とを離反させたときに樹脂4の表面が再溶融して変形するため、転写面5と樹脂4が完全に再密着できず、転写面5を樹脂4の表面に精度良く転写できないといった問題が生じるからである。
【0088】
(実施形態2)
次に、図6(a),(b)に示すようなレーザービームプリンターの光走査に用いられるfθレンズ21を作製するための本発明の実施形態2であるプラスチック成形装置の概略構成を図7を参照して説明する。なお、以下の説明において、図1〜図5にて説明した部材に対応する部材には同一符号を付した。
【0089】
図6において、(a)は正面図、(b)は側面断面図であって、fθレンズ21のレンズ面には、本例ではピッチ400nmの円錐状の微細パターン22が形成されている。該微細パターン22の構造をレンズ面に形成させることにより、真空蒸着などによる無反射膜を形成することなく表面反射を低くすることができる。作製したfθレンズ21は、長さ150mm、幅8mmで、中心部肉厚20mmに対して端部肉厚5mmの偏肉形状の矩形レンズである。樹脂素材としては、軟化温度135℃のアモルファスポリオレフィン樹脂を使用した。
【0090】
図7に示す実施形態2のプラスチック成形装置の断面図において、所定容積のキャビティ3を画成する可動入子2のキャビティ面に、微細パターンを形成する転写面5が形成されている。転写面5が加工された可動入子2は移動可能になっており、それを移動させるための圧力制御/駆動装置6と連結されている。
【0091】
また、可動入子2の摺動面には金型1外部と連通する連通孔8が設けられており、連通孔8には、金型内部に圧縮気体を注入することが可能なように、圧縮気体注入装置7が接続されている。キャビティ3を形成する金型1は図示しないヒーター、温調媒体などによって、本例ではアモルファスポリオレフィン樹脂の軟化温度以下である130℃に加熱維持されている。
【0092】
前記構成の実施形態2の動作については実施形態1と同様であるため詳細説明を省略する。
【0093】
図8(a)〜(c)の要部を示す断面図を参照して実施形態2の作用効果について説明する。
【0094】
実施形態2では、樹脂4をキャビティ内に充填した時点では、樹脂4が急冷固化するため微細パターンの転写面5に樹脂4を完全に充填することができない(図8(a))。その後、可動入子2を樹脂4と離反する方向に移動させることにより、樹脂4と微細パターンの転写面5の間に空隙15を形成させると、実施形態1で説明したように、樹脂4の表層部が再溶融する(図8(b)。そして、樹脂4の表層部が再溶融したときに、微細パターンの転写面5を再密着させることによって、転写面5の微細パターンに樹脂4が良好に充填し、精度良く転写することができる(図8(c))。
【0095】
実施形態2においては、微細パターンの転写面5を樹脂4の表層部に転写させるときに、従来の射出成形のように樹脂4が流動していないため、流動時の冷却による樹脂表面の温度変化の影響を受けることはない。
【0096】
また、従来の通常の射出成形では樹脂4の流動方向と微細パターンの転写面5への充填の方向が異なる(直交する)ため、十分に微細パターンの転写面5へ樹脂を充填することができないといった問題があるが、本実施形態においては、再密着時に可動入子2を移動させる方向と微細パターンの転写面5へ樹脂4を充填させる方向が一致するため、樹脂4は微細パターンの転写面5に充填しやすく、より確実に転写させることができる。
【0097】
さらに、実施形態2では、少なくとも再溶融した樹脂4が、その軟化温度以下に降温される前に転写面5に再密着させている。すなわち、樹脂4の粘度が低い状態のときに充填させることにより、微細パターンの転写面5に樹脂4を完全に充填させることが可能になる。
【0098】
(実施形態3)
次に、図9(a),(b)に示すような光ピックアップ装置用の回折レンズ31を作製するための本発明の実施形態3であるプラスチック成形装置の概略構成を図10(a)〜(d)を参照して説明する。
【0099】
図9において、(a)は正面図、(b)は側面断面図であって、回折レンズ31のレンズ面の一方は凸面の高精度な光学鏡面32を有し、他方は複数の輪帯構造を有する微細な回折パターン33が形成されている。本例では、作製した回折レンズ31は、直径15mm、肉厚約3mmの略均肉形状の丸レンズである。樹脂素材としては、軟化温度145℃のポリカーボネート樹脂を使用した。
【0100】
図10(a)〜(d)において、所定容積のキャビティ3を画成するキャビティ面に、光学鏡面の転写面34と回折パターンの転写面35とが配設されている。回折パターンの転写面35が加工された入子は、可動入子36であって、金型に対して移動可能になっており、該可動入子36を移動させるための圧力制御/駆動装置6と連結されている。また、光学鏡面の転写面34が加工された入子は、固定入子37であって、金型1に固定されて成形時に移動しないようにしている。キャビティ3を形成する金型1は、図示しないヒーター、温調媒体などによって、本例ではポリカーボネート樹脂の軟化温度以下である140℃に加熱維持されている。
【0101】
次に、前記構成の実施形態3の成形装置による成形方法について説明する。
【0102】
キャビティ3内に溶融したポリカーボネート樹脂4を図示しないゲートを介して射出充填させ、キャビティ3内に発生する樹脂圧力によって、図9に示すレンズ樹脂面に光学鏡面32を固定入子37の転写面34にて転写する。
【0103】
このとき、回折パターンの転写面35が加工された可動入子36は、連結されている圧力制御/駆動装置6によって、キャビティ3内に溶融した樹脂4を射出充填する際に、キャビティ3内に発生する最大樹脂圧力以上の押圧力が付与され、射出圧力によって移動しないように固定されている(図10(a))。
【0104】
樹脂4が金型1の温度まで冷却される途中で、少なくともキャビティ3内の樹脂4の最高温度が、樹脂の軟化温度以上かつキャビティ3内の圧力が0.5MPa以上のときに、可動入子36を樹脂4から離反する方向に移動(後退)させ、回折パターンの転写面35と樹脂4との間に空隙15を形成する(図10(b))。
【0105】
前記空隙15において、樹脂4から離反された可動入子36を、表層部温度が軟化温度以上になっている樹脂4と密着する方向に再移動(前進)させて、樹脂4と回折パターンの転写面35を再密着させ、図9に示すレンズ樹脂面に回折パターン33を転写させる(図10(c))。
【0106】
樹脂4が金型1(キャビティ3)の温度まで冷却した後、作製されたレンズ31を離型させる(図10(d))。
【0107】
実施形態3では、キャビティ3内に樹脂4を射出充填したときに、キャビティ3内に発生する圧力によって、まず樹脂面に光学鏡面32を転写する。このとき、樹脂4は急冷されるため、回折パターンの転写面35には十分樹脂が充填しない。その後、回折パターンの転写面35を樹脂4から離反させることによって空隙15を形成させる。この空隙15に面した部分の樹脂4がキャビティ3の壁面に拘束されない自由面となり、他の部分より動きやすくなり、冷却時の圧力偏在を緩和することができる。さらに、実施形態1で説明したように、空隙15に面する樹脂4の表層部が再溶融される。この再溶融したタイミングで回折パターンの転写面35と樹脂4の表層部を再密着させることにより、溶融している樹脂4が回折パターンの転写面35へ充填され転写することができる。
【0108】
本実施形態3においても、実施形態1,2と同様、金型1の温度を軟化温度以上に加熱する必要なく、短い成形サイクルで、樹脂面に光学鏡面32および回折パターン33を転写することができる。さらに実施形態3の場合は、入子の一方を固定入子37とし、転写面に対して移動させる可動入子36の数を減したため、金型構造が簡素化され、その製造コストを安価にすることができる。
【0109】
また、実施形態3のように、樹脂4から離反させない転写面34がある場合、空隙15を発生させるタイミングは、キャビティ3内の樹脂4の圧力が少なくとも0.5MPa以上のときであることが望ましい。それ以下の圧力になってしまうと、空隙15を発生させる前に、樹脂4から離反させない光学鏡面の転写面34において、樹脂4と光学鏡面の転写面34とが剥離して、ひけを生じさせる場合がある。
【0110】
実施形態3のように、転写面34により光学鏡面32を形成する場合には、樹脂4の表面を再溶融させなくても、充填時の樹脂4の圧力によって転写させることができるが、少なくとも一箇所以上の他の転写面35を、一旦、樹脂4から離反させることにより、成形品の圧力偏在を緩和させ歪みを低減させることができる。
【0111】
したがって、実施形態1で作製した両側に光学鏡面を有するレンズの成形においても、実施形態3のように片側だけを樹脂4から離反させるようにすれば、高精度かつ低歪みのレンズを作製することができる。
【0112】
ただし、成形品が、肉厚・偏肉度が大きい場合、片側だけの空隙15の形成では、偏肉に伴う収縮率差を十分に緩和することができずに、形状精度を十分に確保することができないなどの問題が発生することがある。その場合は、実施形態1のように両側に空隙15を形成させた方が望ましい。
【0113】
なお、実施形態3においても、実施形態1と同様、可動入子2を樹脂4から離反させる前後に圧縮気体を注入し、樹脂4と可動入子36の転写面35との密着性を弱めるようにする。さらに、空隙15内の温度をコントロールするようにすることにより、より安定した加工が可能である。
【0114】
このように本実施形態によれば、金型温度を変化させることなく、非常に短い成形サイクルで、低歪みかつ高精度に光学鏡面を転写することができる。また、流動を伴わずに溶融した樹脂を密着させることができるため、回折パターンや無反射構造のような、微細な凹凸形状の転写面への充填に対しても、より確実に精度良く転写することができる。
【0115】
前述したように、本実施形態において、樹脂4の表層部を再溶融させるため、可動入子2を移動させて空隙15を形成させるときの可動入子2の移動距離をL1とし、可動入子2を移動させて樹脂4と再密着させるときの可動入子2の移動距離をL2とした場合、L1<L2になるようにすることにより、再溶融して変形した樹脂4の表面に完全密着させることが可能となり、高精度な転写面が得られる。この場合には、図11に示すように、再密着時のキャビティ容積(S2)は充填時のキャビティ容積(S1)より小さくなる。
【0116】
その結果、より高品質(高精度転写/低内部歪み)が求められる場合には、下記の問題が生じる。
【0117】
・再密着時に樹脂の逃げ場(移動先)がないため、樹脂内部の応力が増大し、歪が大きくなる。
【0118】
・空隙15を形成するときの摺動面近傍(ヒケ面の隅)はヒケ量が少なく、その部分に再溶融温度も低いため、そのまま再密着しても再密着時の圧力が隅に取られて、必要な転写面に圧力がタイミング良く発生せずに転写できない。
【0119】
このため、下記実施形態のようにして前記問題を解決している。
【0120】
(実施形態4)
実施形態4においては、実施形態1と同様に、図2(a),(b)に示すようなプロジェクタ投射用のレンズ12を作製する例について説明する。また、本例において用いるプラスチック成形装置は図1に示す実施形態1に係るものと同様であり、図12(a)〜(d)を参照して実施形態4について説明する。なお、図12において、連通孔8,温度センサ9,圧力センサ10,制御装置11は図示しない。
【0121】
実施形態4では、樹脂4をキャビティ3内に充填するときに射出圧力を小さくする、もしくは保圧を加えないことによって、キャビティ3内に樹脂4を完全には充填せず、不完全転写面38を形成する。このとき、不完全転写面38とキャビティ面の間には空隙15aが形成されている(図12(a))。そのため、可動入子2を樹脂4から離反する方向に移動(後退)させて、転写面5と樹脂4との間に断熱層としての空隙(空気層)15bを形成すると、実施形態1にて説明したように、樹脂4の表層部が再溶融することになる(図12(b))。
【0122】
そして、樹脂4の表層部が再溶融したときに転写面5を再密着させる。このとき、不完全転写面38に形成される空隙15aにおいて、再密着面からの余剰樹脂が移動(矢印方向)することができる(図12(c))。樹脂4が金型1(キャビティ3)の温度まで冷却した後、作製されたレンズ12を離型させる。作製されたレンズ12における再密着される転写面5は、高精度に転写されていると同時に、それ以外の部位に不完全転写面38が形成されている(図12(d))。
【0123】
実施形態4においては、樹脂4をキャビティ3内に完全充填していないため、前述したような再密着時にキャビティ面積が小さくなっても、不完全転写部38に樹脂が移動することができる余地があるため、再密着時に発生する応力を低減することができる。また、本実施形態を実施するにあたって、特別な装置を必要としない。
【0124】
(実施形態5)
実施形態5では、実施形態3と同様に、図9(a),(b)に示すような光ピックアップ装置用の回折レンズ31を作製する例について説明する。また、本例で用いるプラスチック成形装置は図10に示す実施形態3に係るものと同様であり、図13(a)〜(e)を参照して実施形態5について説明する。なお、図13において、温度センサ9,圧力センサ10,制御装置11は図示しない。
【0125】
図13(a)〜(e)において、所定容積のキャビティ3を画成するキャビティ面に、光学鏡面の転写面34と回折パターンの転写面35とが配設されている。回折パターンの転写面35が加工された入子は可動入子36であって、金型に対して移動可能になっており、該可動入子36を移動させるための圧力制御/駆動装置6と連結されている。また、光学鏡面の転写面34が加工された入子は固定入子37であって、金型1に固定されて成形時に移動しないようにしている。
【0126】
さらに、転写面34,35以外の非有効面である側面部を構成する側面入子39も移動することが可能になっており、該側面部を構成する側面入子39は圧力制御/駆動装置(図示しない)に連結されて移動される。キャビティ3を形成する金型1は、図示しないヒーター,温調媒体などによって、使用樹脂の軟化温度以下に加熱維持されている。
【0127】
次に、前記構成の実施形態5の成形装置による成形方法について説明する。
【0128】
キャビティ3内に溶融した樹脂4を図示しないゲートを介して射出充填させ、キャビティ3内に発生する樹脂圧力によって、図9に示すレンズ樹脂面に光学鏡面32を固定入子37の転写面34にて転写する。このとき、回折パターン33の転写面35が加工された可動入子36および側面部を構成する側面入子39とも、連結されている圧力制御/駆動装置6によって、キャビティ3内に溶融した樹脂4を射出充填する際に、キャビティ3内に発生する最大樹脂圧力以上の押圧力が付与され、射出圧力によって移動しないように固定されている(図13(a))。
【0129】
樹脂4が金型1の温度まで冷却される途中で、少なくともキャビティ3内の樹脂4の最高温度が、樹脂の軟化温度以上かつキャビティ3内の圧力が0.5MPa以上のときに、回折パターンが形成された可動入子36を樹脂4から離反する方向に移動(後退)させ、回折パターンの転写面35と樹脂4との間に空隙15を形成する(図13(b))。次いで、側面部を構成する側面入子39を樹脂4から離反する方向に移動(後退)させ、空隙15を形成させる。このとき側面部を構成する側面入子39と接触していた樹脂表面との間には、キャビティ3から離反される断熱層が形成され、再溶融するため不完全転写部40が形成される(図13(c))。
【0130】
前記空隙15において、樹脂4から離反された可動入子36を、表層部温度が軟化温度以上になっている樹脂4と密着する方向に再移動(前進)させて、樹脂4と回折パターンの転写面35を再密着させ、図9に示すレンズ樹脂面に回折パターン33を転写させる。このとき、側面部を構成する側面入子39では樹脂4と再密着させずに、不完全転写部40が形成されたままの状態とする(図13(d))。樹脂4が金型1(キャビティ3)の温度まで冷却した後、作製されたレンズ31を離型させる(図13(e))。
【0131】
実施形態5においては、レンズ31における非有効面である成形品側部に不完全転写部40が形成されているため、前述したような再密着時にキャビティ面積が小さくなっても、不完全転写部40に樹脂が移動することができ、再密着時に発生する応力を低減することができる。
【0132】
図13に示す例では、金型の動作として「転写面移動(後退)」⇒「側面部移動(後退)」⇒「転写面再移動(前進)」の順にしているが、側面部に空隙15を形成する(側面部を構成する入子39を移動(後退)する)タイミングは、転写面再移動と同時、あるいはそれ以前であればよい(再密着時よりタイミングが遅いと、樹脂4を移動させることができない)。
【0133】
また、実施形態5においては、側面部を構成する側面入子39を可動入子として不完全転写部40を形成させたが、これに限定されるものではなく、可動入子の位置を変えることによって、任意の場所に不完全転写部40を形成させることが可能である。
【0134】
したがって、転写面34,35の外周部に不完全転写部40を形成させることができる。この場合、前述したような、空隙15形成時の摺動面近傍(ヒケ面の隅)はヒケ量が少なく、その部分に再溶融温度も低いため、そのまま再密着しても再密着時の圧力が隅に取られて必要な転写面に圧力がタイミングよく発生できず転写できないと、といった問題に対して、隅を避けて再密着させることができるため、高精度な転写を実現することができる。
【0135】
(実施形態6)
実施形態6では、転写面5の外周部に不完全転写部41を形成する場合について説明する。実施形態6の説明において、図14(a)〜(d)を参照して、実施形態5と同様に図9(a),(b)に示すような光ピックアップ装置用の回折レンズ31を作製するためのプラスチック成形装置の概略構成に基づき、実施形態5との相違点のみを説明する。なお、図14において、温度センサ9、圧力センサ10、制御装置11は図示しない。
【0136】
図14(a)〜(d)において、所定容積のキャビティ3を画成するキャビティ面に、光学鏡面の転写面34と回折パターンの転写面35とが配設されている。回折パターンの転写面35が加工された入子は、可動入子36であって、金型に対して移動可能になっており、該可動入子36を移動させるための圧力制御/駆動装置6と連結されている。ここで、前記可動入子36は、中央部入子36aと側部入子36bとの2重構造になっており、実際には中央部入子36aの表面に回折パターンが加工され、側部入子36bの表面は回折パターンの外周面を形成し、かつ、その部分は非有効面となっている。なお、中央部入子36aと側部入子36bは各々独立して移動可能なように構成されている。
【0137】
次に、前記構成の実施形態6の成形装置による成形方法について説明する。
【0138】
キャビティ3内に溶融した樹脂4を図示しないゲートを介して射出充填させ、キャビティ3内に発生する樹脂圧力によって、図9に示すレンズ樹脂面に光学鏡面32を固定入子37の転写面34にて転写する。このとき、回折パターンの転写面35が加工された可動入子36(中央部入子36aおよび側部入子36b)は連結されている圧力制御/駆動装置6によって、キャビティ3内に溶融した樹脂4を射出充填する際に、キャビティ3内に発生する最大樹脂圧力以上の押圧力が付与され、射出圧力によって移動しないように固定されている(図14(a))。樹脂4が金型1の温度まで冷却される途中で、少なくともキャビティ3内の樹脂4の最高温度が、樹脂の軟化温度以上かつキャビティ3内の圧力が0.5MPa以上のときに、回折パターンが形成された可動入子36(中央部入子36aおよび側部入子36b)を樹脂4から離反する方向に移動(後退)させ、回折パターンの転写面35と樹脂4との間に空隙15を形成する(図14(b))。
【0139】
前記空隙15において、樹脂4から離反された可動入子36の中央部入子36aのみを、表層部温度が軟化温度以上になっている樹脂4と密着する方向に再移動(前進)させて、樹脂4と回折パターンの転写面35を再密着させ、図9に示すレンズ樹脂面に回折パターン33を転写させる。このとき、側部入子36bの部分は再密着せずに、不完全転写部41が形成されたままの状態とする(図14(c))。樹脂4が金型1(キャビティ3)の温度まで冷却した後、作製されたレンズ31を離型させる(図14(d))。
【0140】
実施形態6においては、回折パターンが形成された中央部入子36aを樹脂4に再密着させたときに、その外周部に空隙15が形成されているため、前記空隙15に樹脂4が移動し、樹脂内部の応力を著しく低減することができる。また、ヒケ不足でかつ低温の隅面を避けて圧縮するため、圧縮面前面に瞬時に密着させることができ、均一かつ高精度な転写が行われる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明は、表面に高精度な光学鏡面や微細パターンを有する光学素子などの樹脂成形品に適用され、また、本発明が適用できる樹脂としては、本実施形態にて用いたものに限定されるものではなく、また、成形される成形品も、本実施形態にて説明した投射レンズ,fθレンズ,回折レンズなどに限定されず、例えば導光板,導波路,光ディスクなどの微細な凹凸を有する光学素子やプリズムなど、非常に被転写面の小さい光学素子の成形においても顕著な効果がある。さらには表面にシボ加工などの意匠が形成された外装部品への適用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】(a)〜(d)は本発明の実施形態1のプラスチック成形装置の構成および動作を説明するための概略構成図
【図2】(a),(b)は実施形態1にて作製する光学素子の一例であるプロジェクタ投射用のレンズの構成図
【図3】従来の射出成形の場合における成形時のキャビティ内の樹脂の温度変化を示す説明図
【図4】(a)〜(d)は本実施形態の場合における成形時のキャビティ内の樹脂の温度変化を示す説明図
【図5】(a),(b),(a’),(b’)は本実施形態における樹脂面と金型との支持,固定の関係を示す説明図
【図6】(a),(b)は本発明の実施形態2にて作製する光学素子の一例であるレーザービームプリンターの光走査に用いられるfθレンズの構成図
【図7】本発明の実施形態2のプラスチック成形装置の概略構成図
【図8】(a)〜(c)は実施形態2の要部を示す断面図
【図9】(a),(b)は本発明の実施形態3にて作製する光学素子の一例である光ピックアップ装置用の回折レンズの構成図
【図10】(a)〜(d)は実施形態3のプラスチック成形装置の構成および動作を説明するための概略構成図
【図11】転写面を再密着させたときの問題点を説明するための金型部分を示す説明図
【図12】(a)〜(d)は本発明の実施形態4のプラスチック成形装置の構成および動作を説明するための概略構成図
【図13】(a)〜(e)は本発明の実施形態5のプラスチック成形装置の構成および動作を説明するための概略構成図
【図14】(a)〜(d)は本発明の実施形態6のプラスチック成形装置の構成および動作を説明するための概略構成図
【図15】従来の樹脂成形品の成形方法の一例を示す説明図
【図16】従来の樹脂成形品の成形方法の問題点を説明するための投射レンズの断面図
【符号の説明】
【0143】
1 金型
2 可動入子
3 キャビティ
4 樹脂
5 転写面
6 圧力制御/駆動装置
7 圧縮気体注入装置
8 連通孔
9 温度センサ
10 圧力センサ
11 制御装置
12 レンズ
13 入射面
14 出射面
15,15a,15b 空隙(断熱層)
16 固定部
21 fθレンズ
22 微細パターン
31 回折レンズ
32 光学鏡面
33 回折パターン
34 光学鏡面の転写面
35 回折パターンの転写面
36 可動入子
36a 中央部入子
36b 側部入子
37 固定入子
38,40,41 不完全転写部
39 側面入子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上の転写面を有するキャビティを形成する金型を用い、樹脂の軟化温度以下に加熱された前記キャビティ内に軟化温度以上に加熱された溶融樹脂を充填して前記転写面に密着させ、その後、前記樹脂を軟化温度以下まで冷却して金型から離型させる樹脂成形品の製造方法であって、
前記キャビティ内に溶融樹脂を充填した後、前記キャビティ内の金型面に接触して冷却された樹脂の表層部と、前記キャビティ内の前記転写面との間に断熱層を形成し、この状態にて、まだ軟化温度以上である前記樹脂内部の熱によって該樹脂の表層部を再溶融させ、その後、該樹脂の表層部に前記転写面を再密着させることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記断熱層として空気層を形成することを特徴とする請求項1記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記断熱層を前記転写面を移動させることにより形成することを特徴とする請求項1または2記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記金型として、転写面の一部または全部を成す移動可能な入子を設けた金型を用いたことを特徴とする請求項1記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記金型として、少なくとも第1の転写面と、それと対向する第2の転写面を有し、前記第1の転写面および前記第2の転写面に、該転写面の全部または一部を成し、かつ移動することによって前記断熱層を形成する入子を設けた金型を用いたことを特徴とする請求項1記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記金型として、少なくとも第1の転写面と、それと対向する第2の転写面を有し、前記第1の転写面と前記第2の転写面とのいずれか一方に、転写面の全部または一部を成す移動可能な入子を設け、他方に転写面の全部または一部を成す固定入子を設けた金型を用いたことを特徴とする請求項1記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記キャビティ内における前記樹脂において、少なくとも前記樹脂の内部温度が該樹脂の軟化温度以上のとき、あるいは前記樹脂の表層部温度が該樹脂の軟化温度以下かつ該樹脂の平均温度が軟化温度以上のときに、前記転写面を移動させて前記断熱層を形成することを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
前記断熱層を形成した後、少なくとも前記転写面と再密着させる前記樹脂の表層部の温度が該樹脂の軟化温度以上のときに、前記転写面を移動させて該転写面と前記樹脂を再密着させることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
前記キャビティ内における前記樹脂の圧力が0.5MPa以上のときに、前記転写面を移動させ、前記断熱層を形成させることを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
前記キャビティ内に前記断熱層を形成させる際に、前記樹脂の表層部と前記転写面との間へ圧縮気体を注入することを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
前記キャビティ内に前記断熱層を形成させた後に、前記断熱層へ任意の温度に制御された圧縮気体を注入することを特徴とする請求項1〜10いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項12】
前記転写面の移動に際して前記キャビティ内における前記樹脂を移動させないように、該樹脂を前記転写面の移動領域外の部位で固定させることを特徴とする請求項1〜11いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項13】
前記断熱層を形成するときの前記転写面の移動距離L1と、前記樹脂と再密着するときの前記転写面の移動距離L2との関係が、L1<L2であることを特徴とする請求項1〜12いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項14】
少なくとも1つ以上の転写面を有するキャビティを形成する金型を設置し、前記キャビティ内を樹脂の軟化温度以下に加熱し、該キャビティ内に軟化温度以上に加熱された溶融樹脂を充填して前記転写面に密着させ、その後、前記樹脂を軟化温度以下まで冷却して前記金型から離型させる構成の樹脂成形品の製造装置であって、
前記キャビティ内に充填され該キャビティ内の金型面に接触して冷却された樹脂の表層部と前記キャビティ内の前記転写面との間に、まだ軟化温度以上である前記樹脂内部の熱によって該樹脂の表層部を再溶融させるための断熱層を形成させ、再溶融した該樹脂の表層部に前記転写面を再密着させる制御手段を備えたことを特徴とする樹脂成形品の製造装置。
【請求項15】
前記移動手段が、前記転写面を前記樹脂の表層部から離し、前記断熱層として空気層を形成することを特徴とする請求項14記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項16】
前記金型の前記キャビティ内の前記樹脂の各部の温度を検知する温度センサと、前記転写面を移動させる移動手段とを備え、前記制御手段により、前記温度センサの検知温度情報を受けて前記移動手段を駆動させて、前記転写面と前記樹脂の表層部とを接離させることを特徴とする請求項14または15記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項17】
前記金型として、転写面の一部または全部を成す移動可能な入子を設けた金型を用いたことを特徴とする請求項14〜16いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項18】
前記金型として、少なくとも第1の転写面と、それと対向する第2の転写面を有し、前記第1の転写面および前記第2の転写面に、該転写面の全部または一部を成し、かつ移動することによって断熱層を形成する入子を設けた金型を用いたことを特徴とする請求項14〜16いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項19】
前記金型として、少なくとも第1の転写面と、それと対向する第2の転写面を有し、前記第1の転写面と前記第2の転写面とのいずれか一方に、転写面の全部または一部を成す移動可能な入子を設け、他方に転写面の全部または一部を成す固定入子を設けた金型を用いたことを特徴とする請求項14〜16いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項20】
前記温度センサにて、前記金型の前記キャビティ内における前記樹脂において、少なくとも前記樹脂の内部温度が該樹脂の軟化温度以上、あるいは前記樹脂の表層部温度が該樹脂の軟化温度以下かつ該樹脂の平均温度が軟化温度以上であることを検知したときに、前記制御手段が前記移動手段を駆動して、前記転写面を移動させて前記断熱層を形成することを特徴とする請求項14〜19いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項21】
前記断熱層を形成した後、前記温度センサにて、少なくとも前記転写面と再密着させる前記樹脂の表層部の温度が該樹脂の軟化温度以上であることを検知したときに、前記制御手段が前記移動手段を駆動して、前記転写面を移動させて該転写面と前記樹脂を再密着させることを特徴とする請求項14〜20いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項22】
前記キャビティ内における前記樹脂の圧力を検知する圧力センサを備え、この圧力センサが0.5MPa以上を検知したときに、前記制御手段が前記移動手段を駆動して、前記転写面を移動させて前記断熱層を形成させることを特徴とする請求項14〜21いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項23】
前記キャビティ内に前記断熱層を形成させる際に、前記樹脂の表層部と前記転写面との間へ圧縮気体を注入する手段を備えたことを特徴とする請求項14〜22いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項24】
前記キャビティ内に前記断熱層を形成させた後に、前記断熱層へ任意の温度に制御された圧縮気体を注入する手段を備えたことを特徴とする請求項14〜23いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項25】
前記転写面の移動に際して前記キャビティ内における前記樹脂を移動させないように保持する保持手段を、前記転写面の移動領域外の部位に設けたことを特徴とする請求項14〜24いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項26】
前記断熱層を形成するときの前記転写面の移動距離L1と、前記樹脂と再密着するときの前記転写面の移動距離L2との関係が、L1<L2であるように設定したことを特徴とする請求項14〜25いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置。
【請求項27】
請求項1〜13いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法あるいは請求項14〜26いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置により製造される樹脂成形品であって、前記再密着させた転写面以外の面の少なくとも一部に不完全転写面を有することを特徴とする樹脂成形品。
【請求項28】
前記不完全転写面が、前記再密着させた転写面に隣接する外周部の一部もしくは外周部全周に存在することを特徴とする請求項27記載の樹脂成形品。
【請求項29】
請求項27または28に記載の不完全転写面を形成する際に、樹脂をキャビティ内に完全充填せず、その後、転写面を形成する移動可能な入子を移動させ、前記断熱層を形成させることを特徴とする請求項1〜13いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項30】
前記キャビティを構成する面の一部に前記移動可能な入子を設け、前記移動可能な入子を樹脂から離反させる方向に移動させることによって空隙を形成し、前記不完全転写面を形成させることを特徴とする請求項29記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項31】
前記転写面の一部または全部をなす前記移動可能な入子を移動させることによって前記断熱層を形成した後、前記移動可能な入子の一部を樹脂の表層部に再密着させ、再密着させない部位を前記不完全転写面とすることを特徴とする請求項29または30記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項32】
前記不完全転写面を形成するために移動させる前記入子を移動させるタイミングを、転写面を再密着させる時間と同時またはそれより早い時間に設定したことを特徴とする請求項29〜31いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項33】
請求項1〜13,29〜32いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法あるいは請求項14〜26いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置により製造される樹脂成形品、あるいは請求項27または28記載の樹脂成形品であって、当該樹脂成形品が、転写面に光学鏡面を有する光学素子であることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項34】
請求項1〜13,29〜32いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法あるいは請求項14〜26いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置により製造される樹脂成形品、あるいは請求項27または28記載の樹脂成形品であって、当該樹脂成形品が、転写面に凹凸パターンが形成される光学素子であることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項35】
請求項1〜13,29〜32いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法あるいは請求項14〜26いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置により製造される樹脂成形品、あるいは請求項27または28記載の樹脂成形品であって、当該樹脂成形品が、転写面に光学鏡面および凹凸パターンが形成される光学素子であることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項36】
請求項1〜13,29〜32いずれか1項記載の樹脂成形品の製造方法あるいは請求項14〜26いずれか1項記載の樹脂成形品の製造装置により製造される樹脂成形品、あるいは請求項27または28記載の樹脂成形品であって、当該樹脂成形品が、転写面に高精度な転写面を有する外装部品であることを特徴とする樹脂成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2007−283752(P2007−283752A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22755(P2007−22755)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】