説明

樹脂成形品の製造方法

【課題】第1層及び第2層を射出成形によって製造する場合において、第2層の端末処理作業を廃止することができる樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】第1型40と第2型50とを型閉じするとともに、中子60を第1型40及び第2型の双方に当接させた状態とすることで、基材11を成形するための基材成形空間15を形成する第1型閉じ工程と、基材成形空間15に樹脂を射出して基材11を成形する第1層成形工程と、第1型40と第3型70とを型閉じすることで、表皮材本体部22を成形するための本体部成形空間25Aを形成するとともに、中子60を第1型40及び第3型70の双方に当接させた状態とし、表皮材折返部23を成形するための折返部成形空間25Bを形成する第2型閉じ工程と、本体部成形空間25A及び折返部成形空間25Bに樹脂を射出して表皮材21を成形する第2層成形工程と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第1層を覆う形で第2層が設けられた構成の樹脂成形品として、例えば、下記特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1では、樹脂成形品として車両用内装材が例示されており、第1層として基材、第2層として基材を覆う表皮材が例示されている。このような基材を表皮材で覆う構成においては、一般的に表皮材の端末処理が行われる。
【0003】
特許文献1においては、表皮材によって、基材の一方の面(表側の面)を覆うとともに、専用の治具を用いて、表皮材の端部を基材の他方の面(裏面)側に折り返す(巻き込む)作業を行っている。このような表皮材の端末処理を行うことで、表皮材の端末が、表側から目視される事態を防止し、車両用内装材の意匠性を高くすることができる。また、上述した表皮材の端末処理方法としては、例えば、基材の一方の面(表側の面)に表皮材を貼り付けた後、表皮材の周端部を基材の他方の面(裏面)側に折り返し、接着剤や熱風を吹き付けるなどの接着手段によって、表皮材の周端部を基材の他方の面に貼り付ける方法なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−197625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂成形品を製造する際の作業性をより高くするためには、上述した第2層(表皮材)の端末処理作業を廃止することが好ましい。このため、例えば、第1層及び第2層を共に射出成形によって成形する際には、第2層の成形時に、第2層の端部を第1層の他方の面に折り返した形で成形することができる製造方法が求められている。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、第1層及び第2層を射出成形によって製造する場合において、第2層の端末処理作業を廃止することができる樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の樹脂成形品の製造方法は、樹脂材料からなる第1層と、樹脂材料からなり、前記第1層を覆う第2層と、を備えた樹脂成形品の製造方法であって、前記第2層は、前記第1層における一方の面を覆う第2層本体部と、前記第1層の周端部を覆う形で前記第2層本体部に対して折り返された第2層折返部と、を有し、前記第1層は、前記第1層における他方の面の少なくとも一部を成形するための他方側成形面を有する第1型と、前記第1層における前記一方の面の少なくとも一部を成形するための一方側成形面を有し、前記第1型に対して型閉じ及び型開きが可能な第2型と、前記第2層折返部における前記第1層とは反対側の面の形状に倣った凹状をなす第2層折返部成形面を有する凹部が形成された中子と、を用いて成形されるものとされ、前記第2層は、前記第1層が配置された状態の前記第1型と、前記第2層本体部における前記第1層とは反対側の面を成形するための第2層本体部成形面を有し、前記第1型に対して型閉じ及び型開きが可能な第3型と、前記中子と、を用いて成形されるものとされ、前記第1型と前記第2型とを型閉じするとともに、前記中子を前記第1型及び前記第2型の双方に当接させた状態とすることで、前記他方側成形面と、前記一方側成形面と、前記中子において前記第2層折返部成形面の一部を構成する前記凹部の奥面によって、前記第1層を成形するための第1層成形空間を形成する第1型閉じ工程と、前記第1型閉じ工程の後に行われ、前記第1層成形空間に樹脂を射出して前記第1層を成形する第1層成形工程と、前記第1層成形工程の後に行われ、前記第1型に配置された状態の前記第1層における前記一方の面と、前記第3型の前記第2層本体部成形面とを対向配置させる型配置工程と、前記型配置工程の後に行われ、前記第1型と前記第3型とを型閉じすることで、前記第2層本体部成形面と前記第1層における前記一方の面との間に、前記第2層本体部を成形するための本体部成形空間を形成するとともに、前記中子を前記第1型及び前記第3型の双方に当接させた状態とし、前記中子における前記第2層折返部成形面と、前記第2層本体部成形面を連通させることで、前記第2層折返部を成形するための折返部成形空間を形成する第2型閉じ工程と、前記第2型閉じ工程の後に行われ、前記本体部成形空間及び前記折返部成形空間に樹脂を射出して前記第2層を成形する第2層成形工程と、を備えることに特徴を有する。
【0008】
本発明によれば、射出成形によって第1層及び第2層を製造することができる。ここで、第1型閉じ工程においては、中子における凹部の奥面によって、第1層を成形するための第1層成形空間を形成している。また、第2型閉じ工程においては、中子における第2層折返部成形面と第2層本体部成形面とを連通させることで、第2層折返部を成形するための折返部成形空間を形成している。
【0009】
このように、本発明によれば、第2層を成形する過程で、第2層折返部を成形することができる。これにより、従来行われていた第2層の端末処理作業、例えば、第2層の端末(第2層折返部に対応)を折り返す作業などを行う必要がなく、作業工数を低減することができる。
【0010】
そして、本発明においては、第1型閉じ工程及び第2型閉じ工程の両工程において共通の中子を用いて、各成形空間を形成することとしている。これにより、第1型閉じ工程及び第2型閉じ工程において、各々別の中子を用いる構成と比して、より少ない型数(中子の数)で第1層及び、第2層折返部を有する第2層を製造することができる。
【0011】
上記構成において、前記第2層折返部は、前記第1型及び前記第3型の型開き方向に対して交差する方向に延びるアンダーカット部とされ、前記第1型は、前記第2層折返部における前記第1層側の面を成形するための成形面を有するスライド型を備えており、前記第2層成形工程の後に行われ、前記スライド型を、前記第2層折返部の延設方向に沿って、前記第2層折返部から遠ざかる側に移動させるスライド型移動工程を備えるものとすることができる。
【0012】
2層成形工程の後、すなわち、第1層及び第2層が成形された後に、スライド型をアンダーカット部である第2層折返部から遠ざかる方向に移動させることで、第2層折返部ひいては、樹脂成形品の型抜きが容易となる。
【0013】
また、前記中子の前記第2層折返部成形面において、前記第2層折返部の基端側を成形する部分は、曲面状をなすものとすることができる。
【0014】
このようにすれば、第2層折返部成形面によって、第2層折返部の基端側(第2層本体部と連結される側)における表面(第2層折返部における第1層とは反対側の面)を曲面とすることができる。これにより、第2層折返部の基端側が例えば角部となる構成と比べて、意匠性をより高くすることができる。
【0015】
また、前記第1層は、車両用内装材を構成する基材とされ、前記第2層は、前記基材を覆う表皮材とされ、前記第1層における前記一方の面は、前記車両用内装材における車室内側の面とされるものとすることができる。
【0016】
本発明によれば、第1層(基材)の周端部を覆う形で、第2層折返部(表皮材の周端部)を形成することができる。これにより、表皮材の成形と同時に、表皮材の端末処理を行うことができ、見栄えの良好な車両用内装材を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第1層及び第2層を射出成形によって製造する場合において、第2層の端末処理作業を廃止することができる樹脂成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る成形型において、第1型閉じ工程を示す断面図
【図2】第1層成形工程を示す断面図(基材成形空間付近を拡大した図)
【図3】図2の状態から中子を後退位置に変位させた状態を示す断面図
【図4】型開き工程を示す断面図
【図5】型配置工程を示す断面図
【図6】第2型閉じ工程を示す断面図
【図7】第2層成形工程を示す断面図(表皮材成形空間付近を拡大した図)
【図8】スライド型駆動機構の一例及びスライド型移動工程を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を図1ないし図8によって説明する。本実施形態では、樹脂成形品として、車両用ドアトリムの上部を構成するアッパーボード10(車両用内装材)を例示する。なお、図1ないし図8における右側が、車両に設置された状態におけるアッパーボード10の車室外側に対応している。また、図1ないし図8における左側が、車両に設置された状態におけるアッパーボード10の車室内側に対応している。
【0020】
アッパーボード10は、図7に示すように、断面視において、上方に向かうにつれて車室外側(図7の右側に対応)に湾曲する形状をなしている。アッパーボード10は、板状をなす基材11(第1層)と、基材11を覆う表皮材21(第2層)から構成されている。また、アッパーボード10は、車両前後方向(図7における紙面貫通方向に対応)に延びる形状をなしている。基材11は、例えば、ポリプロピレン等の樹脂材料によって構成されており、上方に向かうにつれて車室外側(図7の右側に対応)に湾曲する形状をなしている。
【0021】
表皮材21は、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)などの樹脂材料から構成されている。表皮材21は、図7に示すように、基材11における車室内側の面11A(第1層における一方の面)を覆う表皮材本体部22(第2層本体部)と、基材11の上端部(周端部)を覆う形で表皮材本体部22に対して折り返された表皮材折返部23(第2層折返部)と、を有している。
【0022】
表皮材本体部22は、上方に向かうにつれて車室外側(図7の右側に対応)に湾曲する形状をなしており、基材11の湾曲形状に倣った形状をなしている。表皮材折返部23は、図7に示すように、表皮材本体部22から下方に延びており、表皮材折返部23の先端(下端)は、基材11の車室外側の面11B(第1層における他方の面)における上端部よりも下方に達している。これにより、表皮材折返部23によって、基材11の端面11D及び、車室外側の面11Bの上部が、車室外側から覆われる構成となっている。なお、表皮材折返部23は、図7に示すように、これを成形する型(後述する第1型40及び第3型70)の型開き方向(図7の左右方向)に対して直交(交差)する方向に延びるアンダーカット部とされる。
【0023】
次に、アッパーボード10を製造するための成形型30の構成について説明する。成形型30は、図1に示すように、第1型40と、第2型50と、第3型70と、第1型40に対して移動可能に取り付けられた中子60と、を備えている。
【0024】
第1型40は、図1及び図2に示すように、基材11における車室外側の面11Bを成形するための他方側成形面41を有している。第2型50は、基材11における車室内側の面11Aを成形するための一方側成形面51を有している。本実施形態では、基材11は、第1型40と、第2型50と、中子60と、を用いて成形されるものとされる。
【0025】
具体的には、図1及び図2に示すように、第1型40の他方側成形面41と、第2型50の一方側成形面51と、中子60の面(後述する凹部62の奥面63A)によって、基材11を成形するための基材成形空間15(第1層成形空間)を形成し、基材成形空間15に溶融する樹脂を射出することで基材11が成形される。
【0026】
第3型70は、表皮材本体部22の車室内側の面22A(第2層本体部における第1層とは反対側の面)を成形するための表皮材本体部成形面71(第2層本体部成形面)を有している。本実施形態では、表皮材21は、基材11が載置(配置)された状態の第1型40と、第3型70と、中子60を用いて成形されるものとされる。
【0027】
具体的には、図6及び図7に示すように、第1型40と、第3型70と、中子60によって、表皮材21を成形するための表皮材成形空間25(第2層成形空間)が形成され、表皮材成形空間25に溶融する樹脂を射出することで表皮材21が成形される。
【0028】
表皮材成形空間25は、図6及び図7に示すように、表皮材本体部22を成形するための本体部成形空間25Aと、表皮材折返部23を成形するための折返部成形空間25Bから構成されている。本体部成形空間25Aは、第3型70の表皮材本体部成形面71と、基材11における車室内側の面11Aとの間に形成される構成となっている。
【0029】
折返部成形空間25Bは、図6及び図7に示すように、基材11における端面11Dと、中子60の面(後述する凹部62の内周面63)、スライド型43(後述)の側面43Bの上部と、第1型40における中子60との対向面40Aの一部によって形成される構成となっている。なお、基材成形空間15及び表皮材成形空間25を構成する各面については、後で詳しく説明を行うものとする。
【0030】
なお、本実施形態の成形型30においては、例えば、第1型40側にゲート(図示せず)が形成されており、ゲートを介して射出装置(図示せず)から基材成形空間15又は表皮材成形空間25に対して個別に溶融樹脂を供給可能な構成となっている。
【0031】
第1型40は、第1スライドベース31に対して上下方向(第1スライドベース31及び第2スライドベース32の型閉じ方向と直交する方向)にスライド可能に取り付けられている。第1型40は、例えば、油圧シリンダ(図示せず)などの駆動装置によって、上下方向にスライド可能な構成となっている。これにより、第1型40は、第2型50と対向する位置(図1及び図4の位置)と、第3型70と対向する位置(図5及び図6の位置)との間で変位可能な構成となっている。
【0032】
第2型50と第3型70とは、上下方向に並ぶ形で、第2スライドベース32に対して固定されている。そして、第1スライドベース31及び第2スライドベース32は、図示しない駆動装置(油圧シリンダなど)によって、互いに接近又は離間(図1の左右方向に相対移動)が可能な構成となっている。
【0033】
これにより、第1スライドベース31と第2スライドベース32とを互いに接近させることで、第1型40に対して第2型50(又は第3型70)を型閉じすることができる。また、第1スライドベース31と第2スライドベース32とを互いに離間させることで、第1型40に対して第2型50(又は第3型70)を型開きすることができる。本実施形態においては、第1型40に対して、第2型50及び第3型70を順次型閉じすることで、基材11及び表皮材21を成形可能な構成とされる。
【0034】
第1型40は、スライド型43を備えている。スライド型43は、基材11の車室外側の面11Bの一部を成形するためのスライド型側成形面43Aを有している。つまり、スライド型側成形面43Aは、他方側成形面41の一部を構成している。
【0035】
また、スライド型43の側面43Bは、第1型40に対する第2型50(又は第3型70)の型閉じ方向と直交する方向に延びる面とされる。そして、スライド型43の側面43Bにおける上部は、図7に示すように、表皮材折返部23における車室内側の面23A(第2層折返部における第1層側の面)を成形するための成形面とされる。
【0036】
スライド型43は、第1型40の他部(第1型40におけるスライド型43以外の部分)に対して、上昇及び下降可能(表皮材折返部23の延設方向に沿った方向に相対移動可能)に取り付けられている。これにより、スライド型43を図7の状態から下方(表皮材折返部23から遠ざかる方向)にスライド移動させることで、成形後のアッパーボード10を図6の左側(第1型40から遠ざかる方向)へ変位させることが可能な状態となる。その結果、表皮材折返部23(アンダーカット部)を有するアッパーボード10の型抜きが可能となっている。
【0037】
図8は、スライド型43を、第1型40の他部に対して、上昇及び下降させるためのスライド型駆動機構80を示すものである。なお、図1ないし図7においては、当該駆動機構80を図示省略してある。
【0038】
スライド型駆動機構80は、第1型40内部に内蔵されたエジェクタプレート83の駆動力をロッド81を介して、スライド型43に伝達することで、スライド型43を上下動させる機構とされる。このエジェクタプレート83は、成形後のアッパーボード10を型抜きするためのもので、図示しないシリンダ装置によって、第2型50及び第3型70に対する第1型40の移動方向(型開き及び型閉じ方向)に沿って移動可能とされる。
【0039】
エジェクタプレート83には、複数のエジェクタピン(図示せず)が設けられている。エジェクタプレート83の前進(図8に左側に移動)に伴って、各エジェクタピンが、基材11の裏面(車室外側の面)を押圧することで、アッパーボード10を型抜き可能となっている。
【0040】
エジェクタプレート83には、上下方向に延びる取付孔83Aが形成されており、ロッド81の一端に設けられたヒンジ部84が取付孔83Aに取り付けられている。このヒンジ部84は、取付孔83A内を上下方向に移動可能とされる。また、ロッド81の他端は、ヒンジ部82を介して、スライド型43に連結されている。
【0041】
これにより、ロッド81は、その一端において、エジェクタプレート83に対して回転可能に取り付けられ、他端において、スライド型43に対して回転可能に取り付けられている。また、ロッド81は、エジェクタプレート83が後退位置にある状態(図8の実線で示す状態)において、スライド型43に向かうにつれて、わずかに下降傾斜する形で配されている。
【0042】
以上の構成から、図8に示す状態から、エジェクタプレート83が前進(図8の左側へ移動)すると、ヒンジ部84がエジェクタプレート83の前進方向と同方向に押圧されるとともに、取付孔83A内において上昇し、ロッド81の傾斜角度が大きくなっていく。これに伴って、エジェクタプレート83の駆動力が、ロッド81を介してスライド型43に伝達され、その結果、スライド型43が下方に移動する構成となっている。なお、図8においては、前進した状態のエジェクタプレート83と、エジェクタプレート83が前進した際のロッド81及びスライド型43を2点鎖線で示している。
【0043】
第2型50においては、図4に示すように、第1型40との対向面50Bの一部を、第1型40から遠ざかる方向(図4の左側)に凹設することで一方側成形面51が形成されている。一方側成形面51は、基材11における車室内側の面11Aに倣った曲面形状とされる。
【0044】
第3型70においては、図5に示すように、第1型40との対向面70Bの一部を、第1型40から遠ざかる方向(図5の左側)に凹設することで表皮材本体部成形面71が形成されている。表皮材本体部成形面71は、図7に示すように、表皮材本体部22の車室内側の面22Aに倣った曲面形状とされる。
【0045】
また、第3型70の表皮材本体部成形面71は、第2型50の一方側成形面51よりも、表皮材本体部22の厚さ分だけ深い凹状をなしている。なお、第3型70の対向面70Bは、図6に示すように、第2型50の対向面50Bに比して、第1型40に近い位置に配されている。図6においては、第3型70の対向面70Bと第2型50の対向面50Bとの間の型開き方向における距離をX1で示してある。
【0046】
中子60は、第1型40に対して移動可能に取り付けられており、具体的には、油圧シリンダ61によって、第1型40及び第2型50(又は第3型70)の型閉じ方向(図1の左右方向)に沿った方向に進退可能とされる。また、中子60は、図2に示すように、その下面60Bにおいて、第1型40における中子60との対向面40Aに対して隙間なく当接されている。なお、中子60の下面60Bと、第1型40における中子60との対向面40Aとの間には、例えば、滑り材(図示せず)が介在されており、両面60B,40Aは互いに摺動可能とされる。
【0047】
中子60の側面60A(図2における第2型50との対向面)は、図2に示すように、第2型50の対向面50Bに対して隙間なく当接可能となっている。また、中子60の側面60Aは、図6に示すように、第3型70の対向面70Bに対して隙間なく当接可能となっている。
【0048】
中子60の側面60Aにおける下部には、図3に示すように、第2型50(又は第3型70)から遠ざかる方向(図1の右側)に凹む凹部62が形成されている。凹部62は、図7に示すように、表皮材折返部23における車室外側の面23B(基材11とは反対側の面)の形状に倣った凹状をなす内周面63(第2層折返部成形面)から構成されている。なお、凹部62における内周面63の上部63B(表皮材折返部23の基端側を成形する部分)は、曲面状をなしている。
【0049】
また、凹部62の奥面63A(内周面63の一部)は、中子60の側面60Aに比して、第1型40に近い位置(第2型50及び第3型70から遠い位置)に配されている。つまり、凹部62は、第1型40に近い側が低くなっている段差状をなす段部とされる。
【0050】
また、第2型50の第1型40との対向面50Bにおいて、一方側成形面51の上方となる箇所には、図2示すように、第1型40に向けて突き出す嵌合突部52が形成されている。嵌合突部52の表面52Bは、凹部62における内周面63の上部63Bの形状に倣った形状をなしており、第1型40に向かうにつれて下降する湾曲面とされる。なお、嵌合突部52の表面52Bは、一方側成形面51の端部(上端部)と連通されている。嵌合突部52は、図1及び図2に示すように、中子60の側面60Aが第2型50の対向面50Bに当接した際には、凹部62の上部に嵌合する(隙間なく当接する)構成となっている。
【0051】
つまり、中子60の側面60A及び、凹部62における内周面63の上部63Bは、図2に示すように、第2型50に対する型合わせ面となる。また、図6に示すように、中子60の側面60Aは、第3型70に対する型合わせ面にもなる。
【0052】
なお、中子60は、断面視略方形状をなし、車両前後方向(図1における紙面貫通方向に対応)に長い形状をなしている。また、凹部62及び第2型50の嵌合突部52も車両前後方向に延びる形で形成されている。
【0053】
次に、成形型30によるアッパーボード10の製造方法について説明する。本実施形態におけるアッパーボード10の製造方法は、 第1型閉じ工程と、第1層成形工程と、型配置工程と、第2型閉じ工程と、第2層成形工程と、スライド型移動工程と、を備えている。第1型閉じ工程と第1層成形工程を経て、基材11が成形され、その後、型配置工程、第2型閉じ工程、第2層成形工程を経て、表皮材21が成形される。
【0054】
<第1型閉じ工程>
まず、第1型40と第2型50とが対向配置された状態において、第1スライドベース31に対して第2スライドベース32を接近させる。これにより、図1に示すように、第1型40と第2型50とが型閉じされる。
【0055】
また、中子60は、例えば、予め前進位置(図1に示す位置)に配しておく。中子60が前進位置にある状態で、第1型40と第2型50とが型閉じされると、中子60の側面60Aが、第2型50の対向面50Bに当接されるとともに、第2型50の嵌合突部52が凹部62の上部に嵌合される。また、凹部62の奥面63Aにおける下部が、スライド型43の側面43Bに当接される。なお、中子60は、第1型40と第2型50とが型閉じされた後に前進位置に配してもよい。
【0056】
つまり、中子60が前進位置にある状態で、第1型40と第2型50とが型閉じされると、中子60は第1型40及び第2型50の双方に当接された状態となる。これにより、他方側成形面41と、一方側成形面51と、中子60の凹部62における奥面63A(中子において第2層折返部成形面の一部を構成する面)によって、基材11を成形するための基材成形空間15(第1層成形空間)が形成される。
【0057】
<第1層成形工程(基材成形工程)>
次に、図2に示すように、上記工程において形成された基材成形空間15にゲート(図示せず)から溶融樹脂を射出することで、基材成形空間15内に溶融樹脂を充填する。やがて、基材成形空間15内の溶融樹脂が冷え固まると、基材11が成形される。
【0058】
次に、図3に示すように、油圧シリンダ61を駆動させ、中子60を、図2に示す前進位置から、距離X1と等しい距離(第3型70の対向面70Bと第2型50の対向面50Bとの間の距離)だけ後退(図3の右側へ移動)させる。これにより、中子60が、後退位置(図3の位置)に配される。その後、第1スライドベース31に対して第2スライドベース32を稼働させ、両スライドベース31,32を離間させる。これにより、第1型40と第2型50とが型開きされる(図4の状態)。
【0059】
<型配置工程>
第1型40と第2型50とを型開きした後、第1スライドベース31に対して第1型40を下方にスライド移動させ、第1型40を第3型70と対向配置させる(図5の状態)。具体的には、第1型40に載置(配置)された状態の基材11における車室内側の面11Aと、第3型70の表皮材本体部成形面71とを対向配置させる。
【0060】
<第2型閉じ工程>
次に、第1スライドベース31に対して第2スライドベース32を接近させ、第1型40と第3型70とを型閉じする(図6の状態)。これにより、表皮材本体部成形面71と基材11の車室内側の面11Aとの間に、表皮材本体部22を成形するための本体部成形空間25Aが形成される。
【0061】
また、第1型40と第3型70とを型閉じすることで、後退位置にある中子60の側面60Aが、第3型70の対向面70Bに当接する。つまり、中子60を第1型40及び第3型70の双方に当接させた状態とする。これにより、中子60における凹部62の内周面63(第2層折返部成形面)と、表皮材本体部成形面71が連通された状態となり、表皮材折返部23を成形するための折返部成形空間25Bが形成される。
【0062】
より詳しく説明すると、折返部成形空間25Bは、凹部62の内周面63(奥面63Aを含む)、基材11における端面11D、スライド型43の側面43B、第1型40における対向面40A(中子60との対向面)のスライド型43側の端部から構成される。
【0063】
<第2層成形工程(表皮材成形工程)>
次に、表皮材成形空間25(本体部成形空間25A及び折返部成形空間25B)にゲート(図示せず)から溶融樹脂を射出することで、表皮材成形空間25内に溶融樹脂を充填する。やがて、表皮材成形空間25内の溶融樹脂が冷え固まると、表皮材21が成形される。これと同時に、基材11と表皮材21との接触箇所において、両部品が接合された状態となる。以上の工程によって、基材11と表皮材21とが一体化されたアッパーボード10が製造される。
【0064】
<スライド型移動工程>
アッパーボード10が成形された後、エジェクタプレート83(図8参照)を駆動させ、スライド型43側に変位させる。これにより、ロッド81を介して、スライド型43が下方(表皮材折返部23から遠ざかる方向)に移動される。なお、図8においては、下方に移動した状態のスライド型43を2点鎖線で図示し、符号45を付してある。
【0065】
このように、スライド型43が下降することで、スライド型43の側面43Bが表皮材折返部23の左方(型抜き方向)から退避することとなり、アッパーボード10が第1型40から遠ざかる方向(図8の左側)に移動可能となる。また、スライド型43の下方と同時にエジェクタピン(図示せず)によって、アッパーボード10が押圧され、アッパーボード10が第1型40から型抜きされる。
【0066】
次に、本実施形態の効果について説明する。本実施形態においては、射出成形によって、基材11及び表皮材21を製造することができる。ここで、第1型閉じ工程においては、中子60における凹部62の奥面63Aによって、基材11を成形するための基材成形空間15を形成している。また、第2型閉じ工程においては、中子60における凹部62の内周面63と表皮材本体部成形面71とを連通させることで、表皮材折返部23を成形するための折返部成形空間25Bを形成している。
【0067】
このように、本実施形態によれば、表皮材21を成形する過程で、表皮材折返部23を成形することができる。つまり、表皮材21の端末である表皮材折返部23を、基材11の裏側に配する形で成形することができる。これにより、従来行われていた表皮材21の端末処理作業、例えば、表皮材21の端末(表皮材折返部23に対応)を折り返す作業などを行う必要がなく、作業工数を低減することができる。
【0068】
そして、本実施形態においては、第1型閉じ工程及び第2型閉じ工程の両工程において中子60(共通の中子)を用いて、各成形空間を形成することとしている。これにより、第1型閉じ工程及び第2型閉じ工程において、各々別の中子を用いる構成と比して、より少ない型数(中子の数)で基材11及び、表皮材折返部23を有する表皮材21を製造することができる。
【0069】
上記構成において、表皮材折返部23は、第1型40及び第3型70の型開き方向に対して交差(直交)する方向に延びるアンダーカット部とされ、第1型40は、表皮材折返部23における車室内側の面23Aを成形するための成形面(側面43B)を有するスライド型43を有しており、2層成形工程の後に行われ、スライド型43を、表皮材折返部23の延設方向(上下方向)に沿って、表皮材折返部23から遠ざかる側に移動させるスライド型移動工程を備えている。
【0070】
第2層成形工程の後、すなわち、基材11及び表皮材21が成形された後に、スライド型43をアンダーカット部である表皮材折返部23から遠ざかる方向に移動させることで、表皮材折返部23ひいては、アッパーボード10の型抜きが容易となる。
【0071】
また、中子60における内周面63の上部63B(表皮材折返部の基端側を成形する部分)は、曲面状をなしている。
【0072】
このようにすれば、中子60における内周面63によって、表皮材折返部23の基端側(表皮材本体部22と連結される側)における表面(第2層折返部における第1層とは反対側の面、車室外側の面23Bの上端部に対応)を曲面とすることができる。これにより、表皮材折返部23の基端側が例えば角部となる構成と比べて、意匠性をより高くすることができる。
【0073】
また、第1層は、アッパーボード10(車両用内装材)を構成する基材11とされ、第2層は、基材11を覆う表皮材21とされ、第1層における一方の面は、アッパーボード10における車室内側の面11Aとされる。
【0074】
本実施形態によれば、第1層(基材11)の周端部(上端部)を覆う形で、表皮材折返部23(表皮材の周端部)を形成することができる。言い換えると、図7に示すように、表皮材折返部23(表皮材の端末)を基材11における車室外側(基材11の裏側)に配することができる。これにより、表皮材21の成形と同時に、表皮材21の端末処理を行うことができ、見栄えの良好なアッパーボード10を容易に製造することができる。
【0075】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0076】
(1)上記実施形態においては、樹脂成形品、ひいては車両用内装材として、アッパーボード10を例示したが、これに限定されない。本発明は、第1層及び第2層を少なくとも備えた樹脂成形品に対して適用することができる。
【0077】
(2)基材11及び表皮材21の材質は、上記実施形態で例示した材質に限定されない。例えば、基材11を構成する樹脂材料に発泡剤が含有され、発泡成形によって基材11を成形するものであってもよい。
【0078】
(3)上記実施形態では、型配置工程において、第2型50と対向配置されている第1型40をスライドさせることで、第3型70と対向配置させる構成を例示したが、これに限定されない。例えば、第1型40を動かさずに、第2型50及び第3型70をスライドさせることで、第1型40と対向配置される型を入れ替えてもよい。しかしながら、第2型50及び第3型70の双方をスライド可能な構成とすれば、第1型40をスライド可能とする構成と比べて、成形型30全体のサイズが大きくなってしまう。このため、第1型40をスライドさせる構成がより好ましい。
【0079】
(4)上記実施形態においては、第1スライドベース31に対して第2スライドベース32を移動させることで型閉じ、型開きを行う構成としたが、これに限定されない。第2スライドベース32に対して第1スライドベース31を移動させる構成としてもよい。
【0080】
(5)上記実施形態においては、型開き工程の前に中子60を後退位置(図3の位置)に配する手順を例示したが、これに限定されない。例えば、第2型閉じ工程において、第1型40と第3型70を型閉じした後、中子60を後退位置に配してもよい。要するに、中子60は、第1層成形工程が完了した時点から、第2層成形工程を実施するまでの間に後退位置に配すればよい。
【0081】
(6)スライド型43を、第1型40におけるスライド型43以外の部分に対して移動させるための駆動機構は、上記実施形態で示すスライド型駆動機構80に限定されない。例えば、スライド型43にシリンダ装置を直接的に接続することでスライド型43を移動させる構成や、カムスライド機構を用いてスライド型43を移動させる構成としてもよい。また、スライド型43を備えていない構成であってもよい。
【符号の説明】
【0082】
10…アッパーボード(樹脂成形品)、11…基材(第1層)、11A…基材における車室内側の面(第1層における一方の面)、11B…基材における車室外側の面(第1層における他方の面)、15…基材成形空間(第1層成形空間)、21…表皮材(第2層)、22…表皮材本体部(第2層本体部)、22A…表皮材本体部の車室内側の面(第2層本体部における第1層とは反対側の面)、23…表皮材折返部(第2層折返部)、23A…表皮材折返部における車室内側の面(第2層折返部における第1層側の面)、23B…表皮材折返部の基端側における車室外側の面(第2層折返部における第1層とは反対側の面)、25A…本体部成形空間、25B…折返部成形空間、40…第1型、41…他方側成形面、43…スライド型、43B…スライド型の側面(第2層折返部における第1層側の面を成形するための成形面)、50…第2型、51…一方側成形面、60…中子、62…凹部、63…凹部の内周面(第2層折返部成形面)、63A…凹部の奥面(中子において第2層折返部成形面の一部を構成する面)、63B…凹部における内周面の上部(第2層折返部成形面において、第2層折返部の基端側を成形する部分)、70…第3型、71…表皮材本体部成形面(第2層本体部成形面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料からなる第1層と、樹脂材料からなり、前記第1層を覆う第2層と、を備えた樹脂成形品の製造方法であって、
前記第2層は、前記第1層における一方の面を覆う第2層本体部と、前記第1層の周端部を覆う形で前記第2層本体部に対して折り返された第2層折返部と、を有し、
前記第1層は、
前記第1層における他方の面の少なくとも一部を成形するための他方側成形面を有する第1型と、
前記第1層における前記一方の面の少なくとも一部を成形するための一方側成形面を有し、前記第1型に対して型閉じ及び型開きが可能な第2型と、
前記第2層折返部における前記第1層とは反対側の面の形状に倣った凹状をなす第2層折返部成形面を有する凹部が形成された中子と、を用いて成形されるものとされ、
前記第2層は、
前記第1層が配置された状態の前記第1型と、
前記第2層本体部における前記第1層とは反対側の面を成形するための第2層本体部成形面を有し、前記第1型に対して型閉じ及び型開きが可能な第3型と、
前記中子と、を用いて成形されるものとされ、
前記第1型と前記第2型とを型閉じするとともに、前記中子を前記第1型及び前記第2型の双方に当接させた状態とすることで、前記他方側成形面と、前記一方側成形面と、前記中子において前記第2層折返部成形面の一部を構成する前記凹部の奥面によって、前記第1層を成形するための第1層成形空間を形成する第1型閉じ工程と、
前記第1型閉じ工程の後に行われ、前記第1層成形空間に樹脂を射出して前記第1層を成形する第1層成形工程と、
前記第1層成形工程の後に行われ、前記第1型に配置された状態の前記第1層における前記一方の面と、前記第3型の前記第2層本体部成形面とを対向配置させる型配置工程と、
前記型配置工程の後に行われ、前記第1型と前記第3型とを型閉じすることで、前記第2層本体部成形面と前記第1層における前記一方の面との間に、前記第2層本体部を成形するための本体部成形空間を形成するとともに、
前記中子を前記第1型及び前記第3型の双方に当接させた状態とし、前記中子における前記第2層折返部成形面と前記第2層本体部成形面とを連通させることで、前記第2層折返部を成形するための折返部成形空間を形成する第2型閉じ工程と、
前記第2型閉じ工程の後に行われ、前記本体部成形空間及び前記折返部成形空間に樹脂を射出して前記第2層を成形する第2層成形工程と、を備えることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第2層折返部は、前記第1型及び前記第3型の型開き方向に対して交差する方向に延びるアンダーカット部とされ、
前記第1型は、前記第2層折返部における前記第1層側の面を成形するための成形面を有するスライド型を備えており、
前記第2層成形工程の後に行われ、前記スライド型を、前記第2層折返部の延設方向に沿って、前記第2層折返部から遠ざかる側に移動させるスライド型移動工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記中子の前記第2層折返部成形面において、前記第2層折返部の基端側を成形する部分は、曲面状をなすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第1層は、車両用内装材を構成する基材とされ、
前記第2層は、前記基材を覆う表皮材とされ、
前記第1層における前記一方の面は、前記車両用内装材における車室内側の面とされることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−250410(P2012−250410A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124115(P2011−124115)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】