説明

樹脂成形品及びその製造方法

【課題】 成形性及び溶着性が良好であり、燃料バリア性、機械的特性も良好な樹脂成形品、特に燃料タンクを得る。
【解決手段】 樹脂で複数の部分成形体を射出成形し、該部分成形体をそれらの接合面で溶着して樹脂成形品を製造する方法であって、前記樹脂がPPS系樹脂であり、前記射出成形は少なくとも接合面の前記樹脂の結晶化度が30%未満となるようPPS樹脂のTg以下の型温度にて行い、前記溶着は前記射出成形後の前記結晶化度の状態から行い、前記溶着後に樹脂成形品全体の前記樹脂の結晶化度が30〜60%となるようにアニールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品(特に燃料タンク)及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂は、最も一般的なプラスチックとして日用雑貨、玩具、機械部品、電気・電子部品および自動車部品などに幅広く用いられている。しかし、近年、安全性、保存安定性、更には環境汚染防止性を確保するために内容物の漏洩防止、外気の混入防止等の目的でガスバリア性(耐透過性)が要求される樹脂製品が増加してきている。中でも、自動車用燃料タンクなどにおいては軽量性、成形加工のし易さ、デザインの自由度、取扱いの容易さなどの点から金属製からプラスチック製への転換が活発に検討されているが、安全性、保存安定性、更には環境汚染防止性を確保するために内容物の漏洩防止、外気の混入防止が重要となり、耐透過性を有する材料が求められている。しかし、最も一般的なプラスチック容器であるポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製容器は、ガソリンや特定のオイルに対するバリア性が不十分であるために、その使用範囲を制約されることが多い状況にあり、その改善が望まれている。
【0003】
このような樹脂製燃料タンクに代表されるガスバリア性容器としては、特許文献1に中空容器に要求されるバリア性や機械的特性の点から高密度ポリエチレン/接着層/ポリアミドや、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のバリア性樹脂/接着層/高密度ポリエチレンの3種5層からなる多層ブロー成形品の例が記載されている。しかしながら、多層ブロー成形では設備が大型化し初期投資が多い、近年急速に進みつつあるモジュール化対応が困難であること、肉厚の均一性に欠ける等の問題点があった。
【0004】
一方、自動車部品をはじめ多くの工業用部品の分野において、良好な加工性および経済性を有することから、樹脂の成形に射出成形法が広く用いられている。しかしながら、燃料タンクのような高い燃料バリア性や機械的特性が要求される製品おいては、従来の熱可塑性樹脂材料を通常に射出成形しても、バリア性多層中空容器の有するバリア性、耐衝撃性などの諸性能をバランス良く発現するのが困難であるという問題があった。
【0005】
このように、従来の多層ブロー成形に代わる生産性、バリア性、機械的特性が良好な燃料タンクが求められているのである。特許文献2には、射出成形が可能でガスバリア性と靭性が良好な樹脂組成物としてPPS樹脂とオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物が提案されている。また特許文献3には前記樹脂組成物を使用した溶着部を有する高圧タンクやパイプ、容器類に関する記載がなされている。しかしながら、自動車用の燃料タンクのような大型で形状の複雑な成形品は、金型からの離型性が悪い、成形サイクルが長い等の問題があり、その改良が求められていた。
【特許文献1】USP5849376
【特許文献2】特開2002−226706公報
【特許文献3】特開2002−226604公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、射出成形で生産性、ガスバリア性、機械的特性が良好で且つ軽量な樹脂成形品(特に燃料タンク)を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは前記の目的を達成すべく検討した結果、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSという)系樹脂からなる部分成形体を低温型で射出成形した後、溶着により接合し、アニールによりPPS系樹脂の結晶化度を特定の範囲とすることによって、これらの課題を克服する樹脂成形品が得られることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成からなる。
【0008】
(1)樹脂で射出成形した複数の部分成形体をそれらの接合面で溶着してなる樹脂成形品であって、前記樹脂がポリフェニレンスルフィド系樹脂であり、前記射出成形後であって溶着前の状態における少なくとも接合面の前記樹脂の結晶化度が30%未満であり、前記溶着後且つアニール後の状態における樹脂成形品全体の前記樹脂の結晶化度が30〜60%であることを特徴とする樹脂成形品。
【0009】
ここで、樹脂成形品は、特に限定されず、自動車の部品・内装品、電気電子装置の部品・ケース、機械装置の部品・ケース、室内装置品の本体・ケースなど、各種用途の樹脂成形品として実施することができる。とりわけ、使用するPPS系樹脂が耐衝撃性と流動性に優れることから、大型の樹脂成形品の射出成形体に特に有用である。大型の樹脂成形品としては、特に限定されないが、燃料タンク、揮発油タンク、ボート、浴槽等を例示できる。さらに、使用するPPS系樹脂が燃料バリア性に優れることから、特に燃料タンクに適する。すなわち、樹脂成形品が燃料タンクであり、前記完成状態における樹脂成形品全体の前記樹脂の40℃×FuelC(トルエン/イソオクタン=50/50v%)の透過係数が50mg/m2・day以下である態様が好ましい。
【0010】
また、前記PPS系樹脂が、(a)PPS樹脂85〜60重量%、および(b)オレフィン系樹脂15〜40重量%からなり、前記(a)PPS樹脂のASTM−D1238に従って測定したMFR(以下、MFRという。:315.5℃、5000g荷重)が100〜400g/10分であり、前記(b)オレフィン系樹脂が、(b−1)オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体、および(b−2)エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られるエチレン・α−オレフィン系共重合体の2種の共重合体を主要成分として含有するオレフィン系樹脂である態様を例示できる。
【0011】
(2)樹脂で複数の部分成形体を射出成形し、該部分成形体をそれらの接合面で溶着して樹脂成形品を製造する方法であって、前記樹脂がPPS系樹脂であり、前記射出成形は少なくとも接合面の前記樹脂の結晶化度が30%未満となる型温度にて行い、前記溶着は前記射出成形後の前記結晶化度の状態から行い、前記溶着後に樹脂成形品全体の前記樹脂の結晶化度が30〜60%(より好ましくは40〜60%)となるようにアニールすることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【0012】
ここで、前記型温度が、前記PPS系樹脂中のPPS樹脂のTg(ガラス転移温度)以下である態様を例示できる。PPS樹脂のTgは約90℃であるから、型温度は90℃以下が好ましく、70℃未満・40℃以上がより好ましい。型温度が70℃未満であると、接合面の樹脂の結晶化度を十分に(例えば20%前後に)抑えることができ、40℃以上であると、流動性への影響を抑えることができる。
【0013】
また、前記溶着の具体的方法は、特に限定されないが、射出溶着、熱板溶着、振動溶着、誘電加熱溶着およびレーザー溶着の内から選ばれる少なくとも一種である態様を例示できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、PPS系樹脂からなる樹脂成形品(特に燃料タンク)であり、成形性及び溶着性が良好であるばかりでなく、燃料バリア性、機械的特性が良好で且つ軽量であり、成形サイクルがこれまでよりも格段に高いため、安価に製造することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0016】
本発明においては、PPS系樹脂を、少なくとも接合面の結晶化度が30%未満となる低い型温度(例えばPPS樹脂のTg以下)で射出成形して得られた部分成形体を用いる。ここで、PPS樹脂のTgは以下の方法により測定することができる。PPS樹脂を320℃に昇温したプレス成形機にて、厚さ約0.1mmのフイルムを得る。得られたフイルムから巾8mm長さ20mの試験片を切り出し、セイコーインスツルメンツ社製:DMS6100を用い、昇温速度2℃/分、温度23〜150℃間の動的弾性率と貯蔵弾性率の比であるtanδのピーク温度をPPS樹脂のTgとした。
【0017】
上記部分成形体は、図1に示すようにPPS系樹脂の射出成形により製造されるが、射出成形は既知の射出成形機であればいずれも使用可能であり、特に制限されるものではない。本発明は大型の射出成形体に適するが、一般的に用いられる型温度である130℃以上とした場合には、後で溶着する接合面の溶着性が良くない。本発明のPPS系樹脂からなる部分成形体を射出成形する型温度は、後で溶着する接合面の溶着性を高めるために、少なくとも接合面のPPS樹脂の結晶化度が30%未満となる型温度とし、例えばPPS樹脂のTg以下とする事が好ましい。更に好ましくは70℃以下である。型温度を低くすることは、型を歪み無く均一な温度としやすいこと、また成形サイクルを短縮できることからも好ましい。
【0018】
本発明の樹脂成形品に用いるPPS系樹脂は、(a)PPS樹脂80〜60重量%、および(b)オレフィン系樹脂20〜40重量%からなるPPS系樹脂組成物が好ましい。ここで使用するPPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【化1】

耐熱性の観点からは前記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。
【0019】
またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【化2】

【0020】
本発明で用いられるPPS樹脂の粘度はASTM−D1238に従って測定したMFR(315.5℃、5000g荷重)が100〜400g/10分であることが好ましく、更に好ましくは100〜300g/10分のPPS樹脂である。MFRが500g/10分以上のPPSでは燃料タンクとして必要とする耐衝撃性が発現せず、100g/10分未満では大型成形品を射出成形することが困難となることがある為好ましくない。
【0021】
かかるPPS樹脂は通常公知の方法、即ち特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによって製造できる。本発明において、前記の様に得られたPPS樹脂を空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など種々の処理を施した上で使用することももちろん可能である。
【0022】
PPS樹脂の加熱による架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法が例示できる。加熱処理温度は通常、170〜280℃が選択され、好ましくは200〜270℃である。また、加熱処理時間は通常0.5〜100時間が選択され、好ましくは2〜50時間であるが、この両者をコントロールすることにより目標とする粘度レベルを得ることができる。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0023】
PPS樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間は0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間加熱処理する方法が例示できる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0024】
本発明に用いるPPS樹脂は脱イオン処理を施されたPPS樹脂であることが好ましい。かかる脱イオン処理の具体的方法としては酸水溶液洗浄処理、熱水洗浄処理および有機溶媒洗浄処理などが例示でき、これらの処理は2種以上の方法を組み合わせて用いても良い。
【0025】
PPS樹脂を有機溶媒で洗浄する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、洗浄に用いる有機溶媒としては、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はないが、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド、スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール、フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。これらの有機溶媒のなかでN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミド、クロロホルムなどの使用が好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上を混合して使用される。
【0026】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。また、有機溶媒洗浄を施されたPPS樹脂は残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0027】
PPS樹脂を熱水で洗浄処理する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多いほうが好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0028】
PPS樹脂を酸処理する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。用いられる酸はPPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などがあげられる。中でも酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するために、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
【0029】
本発明でPPS系樹脂に用いられるオレフィン系樹脂は、(b−1)オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体、および、(b−2)エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られるエチレン・α−オレフィン系共重合体の2種の共重合体を主要成分として含有するオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0030】
本発明で用いる(b−1)エポキシ基含有オレフィン共重合体は、オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体である。オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入するための官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
【0031】
これらエポキシ基含有成分を導入する方法は特に制限なく、前述の如きα−オレフィンなどとともに共重合せしめたり、オレフィン(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。エポキシ基を含有する単量体成分の導入量はエポキシ基含有オレフィン系共重合体全体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが適当である。
【0032】
本発明で特に有用な(b−1)エポキシ基含有オレフィン共重合体としては、α−オレフィンとα、β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン系共重合体が好ましく挙げられる。上記α−オレフィンとしては、エチレンが好ましく挙げられる。また、これら共重合体にはさらに、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル等を共重合することも可能である。
【0033】
本発明においては特にα−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須成分とするオレフィン系共重合体の使用が好ましく、中でも、α−オレフィン60〜99重量%とα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル1〜40重量%を必須共重合成分とするオレフィン系共重合体が特に好ましい。上記α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルとしては、
【化3】

(Rは水素原子または低級アルキル基を示す)で示される化合物であり、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルおよびエタクリル酸グリシジルなどが挙げられるが、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
【0034】
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。中でも、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が好ましく用いられる。
【0035】
また、本発明のPPS系樹脂に好ましく用いる(b−2)エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンからなるエチレン・α−オレフィン系共重合体は、エチレンおよび炭素数3〜20を有する少なくとも1種以上のα−オレフィンを構成成分とする共重合体である。上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとして、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも炭素数6から12であるα−オレフィンを用いた共重合体が機械強度の向上、改質効果の一層の向上が見られるためより好ましい。
【0036】
本発明で好ましく用いられる(b)オレフィン系樹脂のMFR(ASTM D1238、190℃、2160g荷重)は0.01〜70g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜60g/10分である。MFRが0.01g/10分未満の場合は流動性が悪く、70g/10分を超える場合は成形品の形状によっては衝撃強度が低くなる場合もあるので注意が必要である。
【0037】
本発明で好ましく用いられる(b)オレフィン系樹脂の密度は800〜870kg/m3が好ましい。密度が870kg/m3を越えると低温靭性が発現し難く、800kg/m3未満ではハンドリング性が低下するため好ましくない。
【0038】
本発明に用いる(a)PPS樹脂と(b)オレフィン系樹脂の配合割合は、PPS樹脂85〜60重量%、オレフィン系樹脂15〜40重量%であり、好ましくは、PPS樹脂80〜70重量%、オレフィン系樹脂20〜30重量%である。オレフィン系樹脂が15重量%より小さすぎると柔軟性及び耐衝撃性の改良効果が得にくく、逆に、40重量%より多すぎるとPPS樹脂本来の熱安定性、バリア性が損なわれるばかりでなく、溶融混練時の増粘が大きくなり、射出成形性が損なわれる傾向が生じるため、好ましくない。
【0039】
更に、本発明においては、上記の如く(b)オレフィン系樹脂として(b−1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体と(b−2)エチレン・α−オレフィン系共重合体を併用して用いることが好ましく、その併用割合は、両者の合計に対し、(b−1)成分が5〜60重量%、(b−2)成分が95〜40重量%であることが好ましく、さらに好ましくは(b−1)成分が10〜50重量%、(b−2)成分が90〜50重量%であり、更に好ましくは(b−1)成分が10〜40重量%、(b−2)成分が90〜60重量%である。(b−1)成分が、5重量%より小さすぎると目的のモルホロジーが得られにくい傾向にあり、また、60重量%より多すぎると溶融混練時の増粘が大きくなる傾向にある。
【0040】
本発明の樹脂成形品(特に燃料タンク)は溶着(例えば、射出溶着、熱板溶着、振動溶着、熱線溶着およびレーザー溶着の内から選ばれる少なくとも一種)により相互に接合されたものであることが必要である。溶着により接合することによって、ガスバリア性、剛性等を損なうことなく、樹脂成形品(特に燃料タンク)とすることができるからである。また、これら溶着方法のなかでも、熱板溶着が溶着部の強度や成形加工性から特に好ましい。
【0041】
また、本発明の樹脂成形品はPPS系樹脂の結晶化度が30〜60%であることが必要である。ここで、結晶化度はPPSの結晶密度と非晶密度から算出した結晶化度であり、以下の方法によって測定することができる。燃料タンクの平坦部(図1(b−1)の2点鎖線で示す部位)から縦30mm、長さ70mmの試験片を切り出し、株式会社リガク製RINT2000/PCを用いて広角X線回析法により回析角(2θ)が5゜から40゜までの回析ピーク強度を測定し、ベース散乱を除去した後、非晶ピーク(積分強度Ia)とそれ以外の結晶ピーク(積分強度Ic)を分離し、それぞれの面積比から式Ic/(Ic+Ia)×100(%)により結晶化度(xc)を求めることによってPPS系樹脂の結晶化度を測定する。
【0042】
この結晶化度30〜60%とするためには、上記のように低温型で射出成形した部分成形体を熱溶着した後、アニールしてPPS系樹脂の結晶化度をアップさせることによって達成することができる。また、部分成形体を熱処理した後、熱溶着する方法により上記結晶化度を得ることもできるが、低温型で射出成形した部分成形体をアニールした後に熱溶着すると、部分成形体の収縮や変形により溶着面の面だしが正確に出来ず、溶着強度の低下に繋がる恐れがあり好ましくない。PPSの結晶化度が30%より低いと燃料のバリア性が十分発現せず、60%以上とするためには高温・長時間のアニールが必要となり製品の劣化の原因となるため好ましくない。また、アニールした後のPPSの結晶化度は40〜60%が、燃料バリア性の観点からさらに好ましい。
【0043】
また、樹脂成形品が特に燃料タンクの場合は、40℃×FuelC(トルエン/イソオクタン=50/50v%)の透過係数が50mg/m2・day以下であることが好ましい。この透過係数は重量減少方法によって測定した値である。透過係数を50mg/m2・day以下とすることによって、燃料タンクに燃料を充填した際に、燃料が揮発し外界に放出される割合が小さい、燃料バリア性の良好な燃料タンクとして使用することができる。
【0044】
燃料タンクは射出成形せしめて得られた部分成形体を、溶着により相互に接合せしめて得られる為、軽量化を目的とし薄肉化が可能である。しかし薄肉構造とした場合、容器に燃料を入れると容器が燃料の重みで変形しシール部分等から燃料の透過が多くなる可能性がある、そこでタンクの内面又は外面をリブ構造として製品剛性をアップすることが好ましい。
【0045】
本発明の樹脂成形品の製造方法は、PPS系樹脂を用いた射出成形により樹脂成形品を構成する2つ以上の部分成形体を各々成形する射出成形工程と、前記射出成形工程で形成された部分成形体を相互に溶着させて樹脂成形品を形成する接合工程、PPS樹脂の結晶化度が30〜60%となるようにアニールする工程からなる。
【0046】
本発明に用いる部分成形体の製造法である射出成形工程で用いられる射出成形は、既知の射出成形機であればいずれも使用可能であり、特に制限されるものではない。射出成形工程の型温度は、PPS樹脂の場合、一般的には材料の持つ特性を十分に引き出す為、130℃以上とする。しかしながら、本発明においては、後で溶着する接合面の溶着性を高めるために、少なくとも接合面のPPS樹脂の結晶化度が30%未満となる型温度とし、例えばPPS樹脂のTg以下とする事が好ましい。更に好ましくは70℃以下である。型温度を低くすることは、型を歪み無く均一な温度としやすいこと、また成形サイクルを短縮できることからも好ましい。
【0047】
本発明の製造法である接合工程で用いられる溶着方法としては、好ましくは射出溶着、熱板溶着、振動溶着、熱線溶着およびレーザー溶着が例示でき、中空容器の部分成形体の接合面どうしを溶着する工程は、例えば、次のようにして行なうことができる。
【0048】
1.射出溶着法の場合、部分成形体を型内にインサートし、又は型内で位置変更した後に、接合面を合わせた状態で保持し、その接合部の周縁に新たに溶融樹脂を射出して各部分成形体を互いに溶着させて容器を成形する。この際の射出溶着条件としては通常の条件をとればよく、例えば、樹脂温度300〜320℃、射出圧力10〜150MPa、型締め力100〜4000トン、型温度30〜80℃を採用することができる(尚、前記記載の型内で位置変更して行なう方法は、ダイスライド成形や、ダイ回転成形などともいわれている)。
【0049】
2.熱板溶着法の場合、部分成形体の接合面を熱板により溶融させ、素早く部分成形体の接合面どうしを圧接させて溶着させる。この際の熱板条件としては、通常の条件をとればよく、例えば接触法の場合、例えば熱板温度290〜350℃、溶融時間10〜60秒、押し込みシロ0.1〜2mmを採用することができる。
【0050】
3.振動溶着法の場合、部分成形体の接合面どうしを上下に圧接させた状態とし、この状態で横方向に振動を与えて発生する摩擦熱によって溶着させる。この際の振動条件としては通常の条件をとればよく、例えば、振動数100〜300Hz、振幅0.5〜2.0mmを採用することができる。
【0051】
4.熱線溶着法の場合、例えば鉄−クロム製の線材を部分成形体の接合部に埋め込んだ状態で接合面どうしを圧接し、線材に電流をかけジュール熱を発生させその発熱によって接合面を溶着させる。
【0052】
5.レーザー溶着法の場合、レーザー光に対して非吸収性の部分成形体とレーザー光に対して吸収性の部分成形体を接合面で重ね合わせた状態で、非吸収性の部分成形体側からレーザー光を照射して溶着させる(例えば、燃料タンク1において部分成形体1をレーザー光非吸収性、部分成形体2をレーザー光吸収性として、部分成形体1側からレーザー光を照射する)。また、レーザー光吸収性とするためには、カーボンブラックを添加する手法を例示することができる。カーボンブラックを添加することで照射されるレーザー光の透過率を5%以下とすることができ、レーザー光のエネルギーを効率的に熱に変換することが可能となる。この際のレーザー溶着条件としては通常の条件をとればよく、例えば、レーザー光として、YAGレーザー、レーザー光波長800〜1060nm、レーザー光出力5〜30Wを採用することができる。
【0053】
これら接合工程で用いられる溶着方法のなかでも、熱板溶着が溶着部の強度や成形加工性から特に好ましい。
【0054】
また、本発明の樹脂成形品は上記部分成形体を上記の方法によって溶着・接合した後、PPS系樹脂の結晶化度が30〜60%となるようにアニールする工程をとる。溶着により接合した樹脂成形品のアニールは、樹脂成形品を所定の温度にコントロールしたオーブンに入れる方法や、樹脂成形品内に熱風を吹き込む方法を用いる事により行うことができる。また、アニール条件は下記数式を満足する温度と時間を任意に選定可能である。
30≦8Ln(t)+T/9≦60
t:アニール時間(分)
T:アニール温度(℃)
【0055】
好ましいアニール条件としては経済性、物性の観点から150℃〜230℃の5〜30分の範囲である。アニール条件はPPS系樹脂の結晶化度が30〜60%となるように設定する。
【0056】
上記製造方法により得られた本発明の樹脂成形品(特に燃料タンク)は優れたガスバリア性を有するため、例えば自動車用の燃料タンクとして実用的に用いることができ、かつ、PPS系樹脂により構成されるため、軽量である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を自動車の燃料タンクに具体化した実施例について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0058】
(1)PPS樹脂のガラス転移点(Tg)
PPS樹脂を320℃に昇温したプレス成形機にて、厚さ約0.1mmのフイルムを得た。得られたフイルムから巾8mm長さ20mの試験片を切り出し、セイコーインスツルメンツ社製:DMS6100を用い、昇温速度2℃/分、温度23〜150℃間の動的弾性率と貯蔵弾性率の比であるtanδのピーク温度をPPS樹脂のTgとした。
【0059】
(2)アッパタンク及びロアタンクの成形性
図1に示すように、分割金型2,3よりなる金型装置を用い、PPS系樹脂6の樹脂温度310℃、射出率400ml/sec、金型温度60℃で部分成形体としてのアッパタンク10を射出成形した。同様に、分割金型4,5よりなる金型装置を用い、同条件で部分成形体としてのロアタンク20を射出成形した。金型のキャビティ内に完全充填されたものを○、ショートショットとなったものを×として、大型成形性を判定した。なお、図1において、11,21はアッパタンク10及びロアタンク20のそれぞれフランジ部であり、接合面12,22は該フランジ部11,21の相対向する接合面である。また、2点鎖線で概念的に外内に区分けしたうちの、6aは接合面12,22を含むPPS系樹脂6の表面部であり、6bはPPS系樹脂6の内部である。
【0060】
(3)金型温度
アッパタンク10及びロアタンク20をそれぞれ20ショット連続して射出成形した後、金型を開き金型中央部を接触温度計で測定した温度を金型温度とした。
【0061】
(4)機械的特性
23℃アイゾット衝撃強度:射出成形により長さ60mm、巾12.7mm、厚み3.2mmの試験片を成形し、ノッチカッターでノッチを付け、ASTM−D256に従ってノッチ付アイゾット衝撃強度を測定した。
−40℃アイゾット衝撃強度:温度雰囲気を−40℃にした以外はASTM−D256に従ってノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。
【0062】
(5)アッパタンク及びロアタンクの熱溶着
図2に示すように、射出成形により得られたアッパタンク10とロアタンク20を、それらのフランジ部11,21の対向する接合面12,22同士において突き合わせて熱溶着した。具体的には、熱板溶着機にセットし、熱板温度310℃、溶融シロ2mm、溶融時間60sec、中間時間10sec、押し込みシロ1.5m、冷却時間30secで熱溶着し、燃料タンク1を得た。なお、図2において、7は接合面12,22が溶融し合ってできた溶着部である。
【0063】
(6)アニール
図3に示すように、得られた燃料タンク1を熱風オーブン30内に入れ、表2に示す条件でアニールし、PPS系樹脂の結晶化度をアップさせた燃料タンク1を得た。
【0064】
(7)燃料タンクの重量
以上により得られた燃料タンク1の重量を、燃料タンクの重量とした。
【0065】
(8)結晶化度
前記燃料タンクの平坦部(図1、図2に2点鎖線で示す部位)から縦30mm、長さ70mmの試験片8を切り出し、(株)リガク製RINT2000/PCを用いて広角X線回析法により回析角(2θ)が5゜から40゜までの回析ピーク強度を測定し、ベース散乱を除去した後、非晶ピーク(積分強度Ia)とそれ以外の結晶ピーク(積分強度Ic)を分離し、それぞれの面積比から式Ic/(Ic+Ia)×100(%)により結晶化度(xc)を求めた。
【0066】
(9)燃料バリア性
得られた燃料タンク1(内容積:約40L、PPS系樹脂層厚み:3mm)中に内容積の50%のモデルガソリン(トルエン//イソオクタン=50//50体積%)を入れ、開口部を封じて40℃で処理した際の重量減量挙動からそのバリア性を評価した。燃料透過量が50mg/m2・day以下を合格と判定した。
【0067】
<PPS系樹脂組成物の作成>
表1に示す組成でPPS樹脂、ポリオレフィン樹脂および変性ポリオレフィン樹脂を溶融混練し、ペレット状のPPS系樹脂組成物を得た。
【表1】

【0068】
(表1の各部の説明)
PPS1〜5:参考例1〜5に記載のPPS樹脂
b−1:エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12重量%共重合体 MFR=3g/10分
b−2:エチレン/1−ブテン共重合体 密度864Kg/m3 MFR=3.5g/10分
フェノール系:3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン
リン系:ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト
【0069】
<PPS樹脂の製法>
参考例1(PPS―1の製法):攪拌機付き反応槽に硫化ナトリウム9水塩60.05kg(250モル)、酢酸ナトリウム7.95kg(97モル)およびN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)50kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水36リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後1,4−ジクロロベンゼン37.27kg(253.5モル)ならびにNMP37kgを加えて、窒素下に密閉し225℃まで昇温して5時間反応後、270℃まで昇温し3時間反応した冷却後、反応生成物を温水で5回洗浄した。次に100℃に加熱されたNMP100kg中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、更に熱湯で数回洗浄した。これを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液250リットル中に投入し、約1時間攪拌し続けた後、濾過し、濾液のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24hr減圧乾燥して、MFR80g/10分のPPS―1を得た。
【0070】
参考例2(PPS―2の製法):攪拌機付き反応槽に仕込む酢酸ナトリウム量を6.56kg(80モル)とした以外は参考例1と同様にしMFR110g/10分のPPS―2を得た。
【0071】
参考例3(PPS―3の製法):攪拌機付き反応槽に仕込む酢酸ナトリウム量を6.56kg(80モル)1,4−ジクロロベンゼン量を37.39kg(254.3モル)とした以外は参考例1と同様にしMFR200g/10分のPPS―3を得た
【0072】
参考例4(PPS―4の製法):攪拌機付き反応槽に硫化ナトリウム9水塩60.05kg(250モル)、酢酸ナトリウム6.56kg(80モル)およびN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)50kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水36リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後1,4−ジクロロベンゼン37.56kg(255.5モル)ならびにNMP37kgを加えて、窒素下に密閉し270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応した。冷却後、反応生成物を温水で5回洗浄した。次に100℃に加熱されたNMP100kg中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、更に熱湯で数回洗浄した。これを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液250リットル中に投入し、約1時間攪拌し続けた後、濾過し、濾液のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24hr減圧乾燥して、MFR300g/10分のPPS―4を得た。
【0073】
参考例5(PPS―5の製法):攪拌機付き反応槽に仕込む酢酸ナトリウム量を3.90kg(47.5モル)とした以外は参考例4と同様にしMFR500g/10分のPPS―5を得た。
【0074】
<ポリオレフィン系樹脂の製造>
オレフィン−1:エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12重量%共重合体 MFR=3g/10分(ASTM D 1238、190℃、2160g荷重)を使用した。
オレフィン−2:エチレン/1−ブテン共重合体 密度864Kg/m3 MFR=3.5g/10分(ASTM D 1238、190℃、2160g荷重)を使用した。
【0075】
<酸化防止剤>
本発明では以下の酸化防止剤を使用した。
フェノール系:アデカ・アーガス社製“A0−80”(3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)を使用した。
リン系:アデカ・アーガス社製“PEP36”(ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト)を使用した。
【0076】
<PPS系樹脂組成物の製法>
表1に示す組成で、前記PPS樹脂、ポリオレフィン樹脂および変性ポリオレフィン樹脂を、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機のメインフィダーから供給する方法で混練温度300℃、スクリュー回転数200rpmで溶融混練を行った。得られたペレットを乾燥し、燃料タンク用のPPS系樹脂組成物を得た。
【0077】
[実施例1(材料射出例)]
融点280℃、ASTM−D1238に従って測定したMFR(315.5℃、5000g荷重)が110g/10分のPPSとポリオレフィン樹脂(エチレン/1−ブテン共重合体 密度864Kg/m3 MFR=3.5g/10分)および変性ポリオレフィン樹脂(エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12重量%共重合体 MFR=3g/10分)を表1に示す配合で、上記PPS系樹脂組成物の製法でPPS系樹脂を得た。得られたペレットの特性を表1に示す。得られたペレットを用いて、上記の条件で、図1に示すアッパタンク10及びロアタンク20を射出成形した。アッパタンク10及びロアタンク20は共に完全に充填しており射出成形可能であった。
【0078】
[実施例2〜7(材料射出例)]
表1に示すPPSとポリオレフィン樹脂および変性ポリオレフィン樹脂の配合比を変えた以外は、実施例1と同様にした。その結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1、2(材料射出例)]
MFR80および500g/10分のPPSを使用した以外は、実施例4と同様とした。比較例1は得られたPPS系樹脂の流動性が低く、アッパタンク10及びロアタンク20がショートショットとなった。比較例2は低温衝撃が低く、燃料タンクとして必要な耐衝撃性が得られなかった。
【0080】
[比較例3,4(材料射出例)]
変性ポリオレフィン樹脂の配合量を変えた以外は、実施例1と同様とした。比較例3は衝撃強度が得られず、比較例4は流動性が低くアッパタンク10及びロアタンク20がショートショットとなった。
【0081】
[実施例8(溶着アニール例)]
表2に示すように、実施例4で作成したアッパタンク10及びロアタンク20を、上記の条件で熱板溶着した後、上記の条件(熱風オーブンで200℃にて5分)でアニール処理し、取り出し自然冷却して、実施例8の燃料タンク1を得た。まず、熱板溶着前(射出成形後)の状態におけるアッパタンク10及びロアタンク20の広角X線で測定したPPS系樹脂6の結晶化度は、図1に示す接合面12,22を含む表面部6aで10%であった。これは低い金型温度の影響によるもの考えられる。このため、溶着時における接合面12,22での溶着性が高く、溶着部7の強度が高かった。なお、射出成形後の状態における内部6bは、型温度の影響がより小さいため、結晶化度はより高いと考えられる。そして、アニール後の状態においては、燃料タンク1全体のPPS系樹脂6の結晶化度は35%であり、表面部と内部との差異はなかった。そして、燃料タンク1にトルエンを封入し、65℃にて2000時間静置した後の体積変化を測定したところ10%であった。また、燃料透過係数は45mg/m2・dayであった。
【表2】

【0082】
[比較例5(溶着アニール例)]
表2に示すように、実施例4で作成したアッパタンク10及びロアタンク20を、上記の条件で熱板溶着して、比較例5の燃料タンクを得た。すなわち、熱板溶着後のアニールは行わないものである。そして、トルエン封入時の体積変化は30%であり、燃料透過係数は90mg/m2・dayと大きかった。
【0083】
[実施例9(引張試験例)]
表3に示すように、実施例4と同一のPPS系樹脂を用いて、型温度60℃にて図4(a)に示すような試験片(TP)の分割体を射出成形し、該分割体の接合端面を熱板溶着して図4(b)に示すような試験片とした後、200℃にて5分のアニール処理したものを実施例9とした。アニール後の試験片の表面部のPPS系樹脂の結晶化度は55%であった。図4(c)に示すように、この試験片を引張試験にかけたところ、表3に示すように溶着部以外の一般部で破断し(図4(d)の破断パターン1)、破断強度も破断伸びも大きかった。
【表3】

【0084】
[比較例6(引張試験例)]
溶着後のアニールを行わなかった以外は、実施例9と同様とした。比較例6は、一般部で破断し、破断伸びは大きかったが、実施例9より破断強度が低くなった。
【0085】
[比較例7(引張試験例)]
射出成形時の型温度を130℃とし、また溶着後のアニールを行わなかった以外は、実施例9と同様とした。比較例7は、溶着部で破断し(図4(d)の破断パターン2)、破断強度は大きかったが、実施例9より破断伸びが低くなった。
【0086】
[比較例8(引張試験例)]
溶着後ではなく溶着前にアニールを行った以外は、実施例9と同様とした。比較例8も、溶着部で破断し、破断強度は同程度であったが、実施例9より破断伸びが低くなった。
【0087】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施例に係る燃料タンクの射出成形を示し、(a−1)はアッパタンクの射出成形時の断面図、(b−1)は射出成形後のアッパタンクの斜視図、(a−2)はロアタンクの射出成形時の断面図、(b−2)は射出成形後のロアタンクの斜視図である。
【図2】同燃料タンクの溶着時を示し、(a)は断面図、(b)は斜視図である。
【図3】同燃料タンクのアニール時を示す断面図である。
【図4】引張試験及び試験片を説明する概略図である
【符号の説明】
【0089】
1 燃料タンク
2〜5 分割金型
6 PPS系樹脂
6a 表面部
6b 内部
7 溶着部
10 アッパタンク
11 フランジ部
12 接合面
20 ロアタンク
21 フランジ部
22 接合面
30 熱風オーブン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂で射出成形した複数の部分成形体をそれらの接合面で溶着してなる樹脂成形品であって、前記樹脂がポリフェニレンスルフィド系樹脂であり、前記射出成形後であって溶着前の状態における少なくとも接合面の前記樹脂の結晶化度が30%未満であり、前記溶着後且つアニール後の状態における樹脂成形品全体の前記樹脂の結晶化度が30〜60%であることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
樹脂成形品が燃料タンクであり、前記完成状態における樹脂成形品全体の前記樹脂の40℃×FuelC(トルエン/イソオクタン=50/50v%)の透過係数が50mg/m2・day以下である請求項1記載の樹脂成形品。
【請求項3】
前記ポリフェニレンスルフィド系樹脂が、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂85〜60重量%、および(b)オレフィン系樹脂15〜40重量%からなり、
前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂のASTM−D1238に従って測定したメルトフローレート(315.5℃、5000g荷重)が100〜400g/10分であり、
前記(b)オレフィン系樹脂が、(b−1)オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体、および(b−2)エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られるエチレン・α−オレフィン系共重合体の2種の共重合体を主要成分として含有するオレフィン系樹脂である請求項1又は2記載の樹脂成形品。
【請求項4】
樹脂で複数の部分成形体を射出成形し、該部分成形体をそれらの接合面で溶着して樹脂成形品を製造する方法であって、前記樹脂がポリフェニレンスルフィド系樹脂であり、前記射出成形は少なくとも接合面の前記樹脂の結晶化度が30%未満となる型温度にて行い、前記溶着は前記射出成形後の前記結晶化度の状態から行い、前記溶着後に樹脂成形品全体の前記樹脂の結晶化度が30〜60%となるようにアニールすることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記型温度が、前記ポリフェニレンスルフィド系樹脂中のポリフェニレン樹脂のTg以下である請求項4記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記溶着が、射出溶着、熱板溶着、振動溶着、誘電加熱溶着およびレーザー溶着の内から選ばれる少なくとも一種である請求項4又は5記載の樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−205619(P2006−205619A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22723(P2005−22723)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(502148037)株式会社エフティエス (34)
【Fターム(参考)】