説明

樹脂成形品

【課題】より確実にボンディング可能な、導電部材をインサート部品として使用した樹脂成形品を提供する。
【解決手段】導電部材1と、この導電部材1の一部を埋設した絶縁樹脂成形部2とを備え、導電部材1の絶縁樹脂成形部2への埋設部分に凹部3を有し、この凹部3内にも絶縁樹脂成形部2が挿入されている。好ましくは、導電部材1が、凹部3を設けた面の反対側面に、凸部4を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー等の導電部材をインサート部品として使用した樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子制御装置のコンパクト化が急速に進んでいる。
より具体的には、回路基板以外の部分、すなわち、信号及び動力用の電流を流す導電部材を小型化したことによる寄与が大きなものとなっている。
【0003】
導電部材については、筐体となる樹脂成形品の内部に、導電部材の一部が埋設されると共に、樹脂成形品の外部に他の部分が露出するように配設する技術が、特許文献1に開示されている。
また、導電部材が樹脂成形品の外部に露出した箇所には、ワイヤボンディング又はテープボンディングを行い、導電部材と、制御基板又は半導体素子等とを、電気的に接続させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−245437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、より確実にボンディングするための技術的な開示がなく、接続信頼性について難がある。
より詳細に述べると、ボンディングにおいては、導電性のワイヤ又はテープを、被着体である導電部材の露出部分に接触させ、振動溶着を行っている。そのため、振動エネルギーのロスは少ない程良いが、導電部材は、露出部分の周囲を絶縁体である樹脂成形品にて覆われているので、樹脂部分との間に隙間が生じると、この隙間にて「がたつき」が発生して、振動エネルギーをロスさせ、確実なボンディングを行い難くする。
更に、導電部材と樹脂成形品とは、その界面に隙間を生じやすく、より一層「がたつき」が発生し易い。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑み、より確実にボンディング可能な、導電部材をインサート部品として使用した樹脂成形品を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のものに関する。
(1)導電部材と、この導電部材の一部を埋設した絶縁樹脂成形部とを備え、前記導電部材の絶縁樹脂成形部への埋設部分に凹部を有し、この凹部内にも前記絶縁樹脂成形部が挿入される樹脂成形品。
(2)項(1)において、導電部材が、凹部を設けた面の反対側面に、凸部を有する樹脂成形品。
(3)項(2)において、凹部及び凸部が、その中心位置を、同一軸芯上に配置され、平面視形状を相似形状とする樹脂成形品。
(4)項(1)乃至(3)の何れかにおいて、凹部が、複数設けられる樹脂成形品。
(5)項(1)乃至(4)の何れかにおいて、凹部が、平面視形状を、多角形状とする樹脂成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、導電部材の絶縁樹脂成形部への埋設部分に凹部を有し、この凹部にも絶縁樹脂成形部を挿入する。射出成形等により絶縁樹脂成形部を成形する際、前記凹部内では成形圧力が充分に確保できる。このため、導電部材と絶縁樹脂成形部との間に隙間が生じ難い。また、凹部の深さ方向と直角な平面方向の振動が凹部で制限されるため、振動溶着時の振動ロスを排除することができる。これにより、より確実な接続を行うことができる。
【0009】
導電部材が、凹部を設けた面の反対側面に、凸部を有する場合は、凹部に加えて凸部においても、平面方向の振動を制限することができ、より確実な接続を行うことができる。
凹部及び凸部が、その中心位置を、同一軸芯上に配置され、平面視形状を相似形状とした場合は、凹部と凸部とを、導電部材の打ち抜き加工(半抜き加工)を行うことで、同時に形成することができ、加工時間を大幅に短縮することができる。
【0010】
凹部が、複数設けられる場合は、平面方向の振動を制限する凹部の面積が広くなり、より確実な接続を行うことができる。
凹部が、平面視形状を、多角形状とする場合は、内周の直線部が壁となり、平面方向の振動をより確実に制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る樹脂成形品の説明図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A’線に沿う断面図である。
【図2】本発明に使用される導電部材の説明図(断面図)である。
【図3】本発明に係る他の樹脂成形品の説明図(断面図)である。
【図4】本発明に係る他の樹脂成形品の説明図(平面図)である。
【図5】従来の樹脂成形品の説明図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B’線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る樹脂成形品は、例えば、図1に示すように、導電部材1と、この導電部材1の一部を埋設した絶縁樹脂成形部2とを備えている。そして、導電部材1の絶縁樹脂成形部2への埋設部分に凹部3を有し、この凹部3内にも絶縁樹脂成形部2が挿入されている。尚、図1では、凹部3をボンディング面(図1において、導電部材1が樹脂成形品の外部に露出した面)の反対側面に設けているが、ボンディング面と同じ面に設けることもできる。
【0013】
<導電部材>
本発明にて述べる導電部材1は、後述する絶縁樹脂成形部2への埋設部分に凹部3を有しており、この凹部3内にも前記絶縁樹脂成形部2が挿入されている。
【0014】
(導電部材の材質)
導電部材1の材質は、電気を通すものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム、銅、真鍮等を用いることができ、導電部材1をバスバーとして使用するのであれば、軽量化を行い易い、アルミニウムを用いることが好ましい。
【0015】
(導電部材の大きさ・形状)
導電部材1の大きさは、特に制限されるものではなく、使用される部位に合わせた大きさ及び形状とすることができる。
但し、導電部材1は、絶縁性樹脂成形部2への埋設部分に、少なくとも1箇所の凹部3を有する。
【0016】
(凹部)
本発明にて述べる凹部3は、導電部材1の外表面よりも内部側に凹みを有するものであり、内部に絶縁性樹脂成形部2が挿入可能であれば、他に限定されるものではない。
凹部3を設ける個数は、1つでも複数でも良く、凹部3を複数設けた場合には、凹部3の深さ方向と直角な平面方向の振動を制限する凹部3の面積が広くなり、より確実な接続を行うことができるため、好ましい。尚、より軽量化を考えるのであれば、成形に無理がない範囲でより多く設けることが好ましい。
また、複数の凹部を設ける場合は、図1(a)に示すように、ボンディング位置(図1においては、導電部材1が樹脂成形品の外部に露出した箇所)に対向して配置することが好ましい。これにより、平面方向の振動を充分に制限することができ、より確実な接続を行うことができる。
【0017】
凹部3の平面視形状は、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、自由閉曲線等の曲線形状、三角形、四角形、五角形等の多角形状、曲線形状と多角形状を組み合わせたもの等、製品形状により適宜選択できるが、凹部の周縁に直線部がある多角形状が、特に好ましい。多角形状であれば、直線部が壁となり、平面方向の振動をより確実に制限することができる。
上記平面視形状において、その周縁は、角部としても円弧としても良いが、凹部3を形成する場合の製造のし易さや治工具の寿命の観点から、円弧形状とすることが好ましい。例えば、座繰り加工では、治具の半径分だけ円弧となることから、角部の形成が難しい。また、プレス加工では、金型における角部は摩耗し易いことから、金型の寿命が短くなるという問題がある。尚、円形、楕円形の場合には、凹部を形成する際の治具に、市販品が使用できることから、導電部材1の凹部3を安価に製造することができる。
【0018】
凹部3の厚みは、導電部材1の凹部3とは反対側の外表面(後述する凸部がある場合は凸部の最高部)から凹部3の最深部迄の最短距離を意味するものであり、この距離を任意に設定することができる。
具体的には、凹部3の厚み(図2におけるt1)を、凹部3を設けていない他の部分の厚み(図2におけるt2)と比較して、(a)同等厚み(t1=t2)、(b)より厚く(t1>t2)、(c)より薄く(t1<t2)から選択して、設定することができる。
【0019】
凹部3の形成は、特に限定されるものではなく、例えば、座繰り加工、プレス加工、打ち抜き加工(半抜き加工、プッシュバック加工)、鍛造加工等により形成することができる。特に、打ち抜き加工、鍛造加工を用いることが、凹部3及び後述する凸部を同時に形成できることから好ましい。
【0020】
(凸部)
本発明にて述べる凸部4は、先に述べた凹部を設けた面の反対側面に形成される。
凸部4を設けた場合には、凹部3に加えて凸部4においても、平面方向の振動を制限することができ、より確実な接続を行うことができるため、好ましい。
【0021】
凸部4を設ける位置は、特に限定されるものではないが、凹部3及び凸4部が、その中心位置を、同一軸芯上に配置され、平面視形状を相似形状とすることが好ましい。
これは、凹部3及び凸部4が、それを形成する際に、ポンチ等により圧力をかけることで、ポンチに当接する面を凹部3となし、反対側の面を凸部4となし、凹部3と凸部4を一度に形成できることによる。尚、凹部3と凸部4の数は、必ずしも同数である必要はない。
凹部及び凸部の平面視での面積は、ポンチ等により、凹部3と凸部4とを一度に形成した場合、大凡同じ面積となるが、個別に形成することで、異なる面積にすることができる。
【0022】
凸部4の平面視形状は、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、自由閉曲線等の曲線形状、三角形、四角形、五角形等の多角形状、曲線形状と多角形状を組み合わせたもの等、製品形状により適宜選択できるが、外周に直線部がある多角形状が、特に好ましい。多角形状であれば、直線部が壁となり、平面方向の振動をより確実に制限することができる。
上記平面視形状において、その周縁は、角部としても円弧としても良いが、治工具の寿命の観点から、円弧形状とすることが好ましい。例えば、プレス加工では、金型における角部は摩耗し易いことから、金型の寿命が短くなるという問題がある。尚、円形、楕円形の場合には、凹部3を形成する際の治具に、市販品が使用できることから、導電部材の凸部を安価に製造することができる。
【0023】
凹部及び凸部は、凹部3の底面と、凸部4の頂部とを平行にすることが好ましい。これは、凹部及び凸部が、それを形成する際に、ポンチ等により圧力をかけることで、ポンチに当接する面を凹部3となし、反対側の面を凸部4となし、凹部3と凸部4を一度に形成できることによる。このとき、凹部の底面と凸部の頂部は、大凡平行となる。
【0024】
<絶縁樹脂成形部>
本発明にて述べる絶縁樹脂成形部2は、先に述べた導電部材1の一部を埋設するとともに、導電部材1の凹部3内にも挿入されている。前記埋設とは、導電部材1の一部を覆っていればよい。
絶縁樹脂成形部2は、絶縁樹脂を射出成形等により成形することができる。使用する樹脂は、絶縁性があるものであれば、特に制限されるものではないが、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレン−エチレンテレフタレート(PBT−PET共重合樹脂)、ポリエーテル・エーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、6ナイロン(PA6)、6−6ナイロン(PA66)、ポリカーボネート(PC)等である。これらを単独又は混合して使用してもよい。また、これらの樹脂に、耐熱性や寸法安定性を向上させる目的で、ガラス繊維、ガラスビーズ、タルク等の無機充填材を適宜配合してもよい。
【実施例】
【0025】
<実施例1>
導電部材として、アルミニウム板(材質:A6101−T6、厚さ:2mm×縦:25mm×横:35mm)を準備し、このアルミニウム板の所定位置に、座繰り加工により、凹部(四角柱形状、縦:5mm×横:5mm×深さ:1.5mm)を2箇所形成した。尚、前記座繰り加工は、φ1mmのエンドミルを使用して行った。
上記の導電部材をインサート部品として、導電部材の一部を埋設する絶縁樹脂成形部(材質:PPS樹脂)を備えた樹脂成形品を作製した。この樹脂成形品は、図1(a)に示すように、外形寸法として、厚さ:8mm×縦:30mm×横:40mmとなし、アルミニウム板の一部を露出させている。露出している部分の大きさは、縦:10mm×横:20mmである。
【0026】
<実施例2>
導電部材に、凹部の反対面に凸部を設けた以外は、実施例1と同様にして樹脂成形品(図3参照)を作製した。
凸部は、導電部材の、凹部を設けた面の反対側の対応する面に設けてあり、その突出した部分の大きさを、縦:5mm×横:5mm×高さ:1.5mmとしている。
凸部の位置は、凹部の直上であり、打ち抜き加工(半抜き加工)により、凹部及び凸部を形成した。
【0027】
<実施例3>
導電部材に設けた凹部と凸部の形状を平面視円形に変えた以外は、実施例2と同様にして樹脂成形品(図4参照)を作製した。
凹部は、直径:4mm×高さ:1.5mmの円柱形状のものを2箇所設けており、この各々の凹部の直上に、直径:4mm×深さ:1.5mmの円柱形状の凸部を設けている。
【0028】
<比較例1>
導電部材として、アルミニウム板(材質:A6101−T6、厚さ:2mm×縦:25mm×横:35mm)を、凹凸を設けることなく、そのまま用いた。
この導電部材をインサート部品として、導電部材の一部を埋設する絶縁樹脂成形部(材質:PPS樹脂)を備えた樹脂成形品を作製した。この樹脂成形品は、図5に示すように、外形寸法として、厚さ:8mm×縦:30mm×横:40mmとなし、アルミニウム板の一部を露出させている。露出している部分の大きさは、縦:10mm×横:20mmである。
【0029】
上記各実施例と比較例における樹脂成形品の露出させたアルミニウム板に、アルミワイヤ(φ400μm)を超音波ボンディングした。尚、超音波ボンダーは、Orthodyne社製M360Cを使用し、ボンディング条件は、超音波周波数:60kHz、ボンディング荷重:3.4〜11.8N(350〜1200gf)、時間:130msで行った。
【0030】
そして、ボンドテスター(Dage社製Series4000)を使用し、ボンディング状態の良否を確認した。このボンドテスターは、ウエッジボンドされたアルミワイヤと基盤(アルミニウム板)との接合面を、シェアツールで横から水平方向に押して、接合面が破断された時の強度(シェア強度)を測定するものである。
【0031】
上記のシェア強度が20.6N(2100gf)以上のものを「良」、18.6N(1900gf)以上20.6N(2100gf)未満のものを「可」、18.6N(1900gf)未満のものを「不良」としたときの構成比率を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、本発明に係る樹脂成形品は、導電部材が、絶縁樹脂成形部への埋設部分に凹部を有し、この凹部にも絶縁樹脂成形部を挿入することにより、ボンディング状態「不良」の構成比率が低減し、より確実に接続できることが理解できる(各実施例と比較例の対比)。
【0034】
また、導電部材が、凹部を設けた面の反対側面に、凸部を有する場合は、ボンディング状態「良」の構成比率が増加し、より確実に接続できることが理解できる(実施例2と実施例1の対比)。
さらに、凹部の平面視形状は、凹部の周縁に直線部がある多角形状が好ましい(実施例2と実施例3の対比)。
【符号の説明】
【0035】
1…導電部材、2…絶縁樹脂成形部、3…凹部、4…凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電部材と、この導電部材の一部を埋設した絶縁樹脂成形部とを備え、前記導電部材の絶縁樹脂成形部への埋設部分に凹部を有し、この凹部内にも前記絶縁樹脂成形部が挿入される樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1において、導電部材が、凹部を設けた面の反対側面に、凸部を有する樹脂成形品。
【請求項3】
請求項2において、凹部及び凸部が、その中心位置を、同一軸芯上に配置され、平面視形状を相似形状とする樹脂成形品。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、凹部が、複数設けられる樹脂成形品。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかにおいて、凹部が、平面視形状を、多角形状とする樹脂成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−148524(P2012−148524A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10343(P2011−10343)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【出願人】(390017617)新神戸プラテックス株式会社 (9)
【Fターム(参考)】