説明

樹脂改質用共重合体及びそれを含有する樹脂組成物

【課題】樹脂に含有させることによって、耐衝撃性及び加工性を向上させることが可能な樹脂改質用共重合体を提供する。
【解決手段】少なくとも(a−1)不飽和ニトリル単量体、及び(a−2)共役ジエン単量体を重合させて得られる(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体存在下で、(b−1)不飽和ニトリル単量体、(b−2)(メタ)アクリル酸系単量体、及び(b−3)芳香族ビニル単量体からなる群より選択される少なくとも一種を含む(B)単量体成分を重合させて得られる(C)共重合体からなり、この(C)共重合体のα(=[tanδ(150℃)−tanδ(60℃)]/tanδ(60℃))の値が、1.0以下である樹脂改質用共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体を用いて得られる樹脂改質用共重合体、及びそれを含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂やフェノール樹脂は、機械強度が高く、耐熱性に優れた樹脂であるため、樹脂製品として各種用途に使用されている。しかし、このような樹脂は、硬度が高く、耐衝撃性が劣るものであるため、このような特性を改良するために多くの研究がなされている。
【0003】
例えば、塩化ビニル樹脂については、硬度を低下させるために可塑剤が用いられたり、耐衝撃性の改質剤(改良剤ともいう)として粉末のアクリロニトリル・ブタジエンゴム(以下、「NBR」ということがある)が用いられたりしている(例えば、非特許文献1参照)。同様に、フェノール樹脂についても、耐衝撃性の改良剤として上述した粉末のNBRが用いられている。
【0004】
このようなNBRを塩化ビニル樹脂等に加えて樹脂組成物を調製することにより、樹脂組成物にゴムのような特性(例えば、ゴム弾性)を付与することができ、その耐衝撃性を向上させることが可能となる。但し、このような効果は、樹脂とNBRとの相溶性に大きく影響を受けるものであり、実際の樹脂組成物の調製においては、上記相溶性の範囲が限定されてしまうため、限られた改質効果しか得ることができなかった。
【0005】
例えば、NBRを塩化ビニル樹脂の改良剤とする場合には、耐衝撃性を向上させるのに最適なアクリロニトリル含有割合が決まっている。一般的には、樹脂組成物中のアクリロニトリル含有割合が30〜40質量%で最適な効果が得られ、50質量%を超えると効果が減少してしまう。このようなことは、電子顕微鏡によっても確認されている。
【0006】
その他、塩化ビニル樹脂等の樹脂を改質した樹脂組成物としては、例えば、特定のメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂又はアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂と、アクリロニトリル−スチレン共重合体と、を加えた塩化ビニル系樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平5−32863号公報
【特許文献2】特開平6−322209号公報
【非特許文献1】後藤邦夫・垣内弘・林寿雄,「高分子改質技術II」,化学工業社,1972年,p.31〜39
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような従来の方法では、塩化ビニル樹脂やフェノール樹脂等の樹脂の脆さの改質効果は十分なものではなく、更に耐衝撃性を向上させることが可能な樹脂改質剤の開発が望まれている。
【0009】
また、上述した従来の樹脂組成物は、混練り時のまとまりやロール加工時の巻き付き性等の加工特性が悪いという問題もあった。例えば、樹脂組成物をシート状に成形する場合には、成形用のロールに樹脂組成物からなるシートが巻き付きにくく、加工作業が極めて困難になることがある。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、塩化ビニル樹脂やフェノール樹脂等の樹脂に含有させることによって、耐衝撃性及び加工性を向上させることが可能な樹脂改質用共重合体、及びそれを含有する樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、樹脂改質用共重合体として、その損失係数(tanδ)が特定の関係を満たす共重合体を用いることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、以下に示す樹脂改質用共重合体、及び樹脂組成物が提供される。
【0013】
[1] 少なくとも(a−1)不飽和ニトリル単量体、及び(a−2)共役ジエン単量体を重合させて得られる(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体存在下で、(b−1)不飽和ニトリル単量体、(b−2)(メタ)アクリル酸系単量体、及び(b−3)芳香族ビニル単量体からなる群より選択される少なくとも一種を含む(B)単量体成分を重合させて得られる(C)共重合体からなり、前記(C)共重合体の、下記式(1)で表されるαの値が、1.0以下である樹脂改質用共重合体。
【0014】
α=[tanδ(150℃)−tanδ(60℃)]/tanδ(60℃) (1)
【0015】
前記式(1)中、tanδ(150℃)は、前記(C)共重合体の150℃における損失係数を示し、tanδ(60℃)は、前記(C)共重合体の60℃における損失係数を示す。
【0016】
[2] 前記(C)共重合体が、前記(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体の水分散体に、(B)単量体成分を添加し、その系内に存する全単量体に対する共役ジエン単量体の比率を、10モル%以下とした状態で重合させたものである前記[1]に記載の樹脂改質用共重合体。
【0017】
[3] 前記(b−1)不飽和ニトリル単量体がアクリロニトリルであるとともに、前記(b−3)芳香族ビニル単量体がスチレンである前記[1]又は[2]に記載の樹脂改質用共重合体。
【0018】
[4] 前記(C)共重合体が、前記(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体20〜98質量部と、前記(B)単量体成分2〜80質量部(但し、(A)+(B)=100質量部)と、を重合させたものである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂改質用共重合体。
【0019】
[5] 前記(a−1)不飽和ニトリル単量体がアクリロニトリルであるとともに、前記(a−2)共役ジエン単量体がブタジエンであり、前記(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体が、前記(a−1)不飽和ニトリル単量体に由来する構造単位(i)を10〜60質量%、前記(a−2)共役ジエン単量体に由来する構造単位(ii)を10〜90質量%、及び(a−3)その他の単量体に由来する構造単位(iii)を0〜80質量%(但し、(i)+(ii)+(iii)=100質量%)を有するものである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂改質用共重合体。
【0020】
[6] 前記(C)共重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)が、10〜200である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂改質用共重合体。
【0021】
[7] 塩化ビニル樹脂又はフェノール樹脂のいずれか一方の樹脂と、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の樹脂改質用共重合体と、を含有する樹脂組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂改質用共重合体は、樹脂の耐衝撃性の改良剤として用いることができ、例えば、塩化ビニル樹脂やフェノール樹脂等の樹脂に含有させることによって、耐衝撃性及び加工性を向上させることができる。また、本発明の樹脂組成物は、上述した樹脂改質用共重合体を含有した樹脂組成物であり、耐衝撃性及び加工性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0024】
1.樹脂改質用共重合体:
本発明の樹脂改質用共重合体の一の実施形態は、少なくとも(a−1)不飽和ニトリル単量体、及び(a−2)共役ジエン単量体を重合させて得られる(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体存在下で、(b−1)不飽和ニトリル単量体、(b−2)(メタ)アクリル酸系単量体、及び(b−3)芳香族ビニル単量体からなる群より選択される少なくとも一種を含む(B)単量体成分を重合させて得られる(C)共重合体からなり、この(C)共重合体の、下記式(1)で表されるαの値が1.0以下のものである。以下、その詳細について説明する。
【0025】
α=[tanδ(150℃)−tanδ(60℃)]/tanδ(60℃) (1)
【0026】
但し、上記式(1)中、tanδ(150℃)は、(C)共重合体の150℃における損失係数を示し、tanδ(60℃)は、(C)共重合体の60℃における損失係数を示す。
【0027】
本発明の樹脂改質用共重合体は、このような(C)共重合体からなるものであり、例えば、塩化ビニル樹脂やフェノール樹脂と混合して用いることにより、耐衝撃性及び加工性を向上させた樹脂の改質体(樹脂組成物)を得ることができる。
【0028】
1A.(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体:
(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体(以下、「(A)成分」ともいう)は、少なくとも(a−1)不飽和ニトリル単量体と、(a−2)共役ジエン単量体を重合させて得られる共重合体であり、(a−1)不飽和ニトリル単量体に由来する構造単位(i)と、(a−2)共役ジエン単量体に由来する構造単位(ii)とを含む共重合体である。上述した(C)共重合体は、この(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体を、上記(B)単量体成分によって改質した共重合体である。このような(A)成分を用いることにより、耐衝撃性を向上させることが可能な樹脂改質用共重合体を得ることができる。
【0029】
1A−1.(a−1)不飽和ニトリル単量体:
本明細書にいう「不飽和ニトリル単量体」とは、重合性二重結合とニトリル基(シアノ基)とを一分子内に有する化合物をいう。(a−1)不飽和ニトリル単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、メチルα−イソプロピルアクリロニトリル、メチルα−n−ブチルアクリロニトリル等の(メタ)アクリロニトリル類;2−シアノエチル(メタ)アクリレート、2−(2−シアノエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、3−(2−シアノエトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、4−(2−シアノエトキシ)ブチル(メタ)アクリレート、2−〔2−(2−シアノエトキシ)エトキシ〕エチル(メタ)アクリレート等のシアノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類の他、フマロニトリル、2−メチレングルタロニトリル等を挙げることができる。
【0030】
(a−1)不飽和ニトリル単量体の種類について特に制限はないが、アクリロニトリルが好ましい。なお、(A)成分は、(a−1)不飽和ニトリル単量体に由来する一種の構造単位(i)のみを含む共重合体であってもよいし、二種以上の構造単位(i)を含む共重合体であってもよい。
【0031】
1A−2.(a−2)共役ジエン単量体:
本明細書にいう「共役ジエン単量体」とは、2つの炭素−炭素二重結合が1つの炭素−炭素単結合により結合された構造を含む化合物をいう。(a−2)共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、クロロプレン(2−クロロ−1,3−ブタジエン)等を挙げることができる。
【0032】
(a−2)共役ジエン単量体の種類について特に制限はないが、1,3−ブタジエン、イソプレン、1、3−ペンタジエンが好ましく、1,3−ブタジエン、イソプレンが更に好ましい。なお、(A)成分は、(a−2)共役ジエン単量体に由来する一種の構造単位(ii)のみを含む共重合体であってもよいし、二種以上の構造単位(ii)を含む共重合体であってもよい。
【0033】
1A−3.(a−3)その他の単量体:
(A)成分は、不飽和ニトリル単量体、共役ジエン単量体以外の(a−3)その他の単量体に由来する構造単位(iii)を含むものであってもよい。この(a−3)その他の単量体は、重合性二重結合を有し、(a−1)不飽和ニトリル単量体及び(a−2)共役ジエン単量体と共重合可能な化合物であればよい。(a−3)その他の単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン等の芳香族ビニル化合物;後述する(b−2)(メタ)アクリル酸系単量体等を挙げることができる。なお、(A)成分は、(a−3)その他の単量体に由来する一種の構造単位(iii)のみを含む共重合体であってもよいし、二種以上の構造単位(iii)を含む共重合体であってもよい。
【0034】
(A)成分が、構造単位(i)と構造単位(ii)のみによって構成されている場合において、全構造単位中の構造単位(i)の含有割合は、10〜60質量%であることが好ましく、10〜55質量%であることが更に好ましい。構造単位(i)の含有割合が10質量%以上であると、樹脂改質用共重合体を樹脂に混合して樹脂組成物とした場合に、耐衝撃性を良好に向上させることができる。一方、構造単位(i)の含有割合が60質量%を超えると、耐衝撃性を向上させる効果が低下することがあり、また、樹脂組成物の加工性が低下することがある。
【0035】
このように、(A)成分を構造単位(i)と構造単位(ii)のみによって構成する場合には、(a−1)不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリル、(a−2)共役ジエン単量体としてブタジエンを選択することが好ましい。即ち、(A)成分は、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)であることが好ましい。
【0036】
(A)成分が、構造単位(i)と構造単位(ii)に加えて、構造単位(iii)を含んで構成されている場合において、全構造単位中の構造単位(iii)の含有割合は、80質量%以下であることが好ましい。構造単位(iii)の含有割合を80質量%以下とすると、耐衝撃性を向上させる効果を更に高めることができる。即ち、構造単位(i+ii)に由来する特性(優れた耐衝撃性)を得ることができる。
【0037】
(A)成分が、構造単位(i)と構造単位(ii)に加えて、構造単位(iii)を含んで構成されている場合においては、樹脂組成物の耐衝撃性を向上させるという観点から、全構造単位中の構造単位(i)の含有割合は、10〜60質量%であることが好ましく、10〜55質量%であることが更に好ましい。
【0038】
このように、(A)成分を構造単位(i)、構造単位(ii)、及び構造単位(iii)により構成する場合には、(a−1)不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリル、(a−2)共役ジエン単量体としてブタジエン、(iii)その他の単量体として(メタ)アクリル酸エステルを選択することが好ましい。即ち、(A)成分は、アクリロニトリル・ブタジエン・(メタ)アクリル酸エステルゴムであることが好ましい。
【0039】
1A−4.(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体の調製:
(A)成分は、例えば、(a−1)不飽和ニトリル単量体、及び(a−2)共役ジエン単量体、並びに必要に応じて(a−3)その他の単量体を重合させることで調製することができる。この(A)成分の調製を行う際の重合反応については特に制限はなく、従来公知の重合方法を採用することができる。例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合等を挙げることができ、特に、ラジカル重合開始剤の存在下で共重合することにより調製するラジカル重合が好ましい。以下、(A)成分の調製方法について、ラジカル重合を例に具体的に説明する。
【0040】
ラジカル重合に用いるラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、パラメンタンヒドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物;過硫酸カリウム等の無機過酸化物;前記過酸化物と還元剤(硫酸第一鉄等)とを組み合わせたレドックス系触媒等を挙げることができる。これらのラジカル重合開始剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
ラジカル重合開始剤の使用量は、単量体の全量100質量部に対し、0.001〜2質量部とすることが好ましい。重合方法としては塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の方法を採用することができる。なかでも、乳化重合が特に好ましい。
【0042】
乳化重合に使用する乳化剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等を挙げることができ、フッ素系の界面活性剤を使用してもよい。前記乳化剤のなかでも、アニオン系界面活性剤を好適に用いることができる。より具体的には、スルホン酸塩、炭素数10以上の長鎖脂肪酸塩、ロジン酸塩等を用いることが好ましく、これらの塩のなかでもカリウム塩、ナトリウム塩、又はこれらを組み合わせて用いることが更に好ましい。その他の乳化剤についても、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
重合に際しては、得られる(A)成分の分子量を調節するために、連鎖移動剤を用いることもできる。この連鎖移動剤としては、例えば、tert−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、四塩化炭素、チオグリコール類、ジテルペン、ターピノーレン、γ−テルピネン類等を用いることができる。
【0044】
(a−1)不飽和ニトリル単量体及び(a−2)共役ジエン単量体等の単量体、乳化剤、ラジカル重合開始剤、並びに連鎖移動剤等は、反応容器に全量を一括投入してから重合を開始してもよいし、反応継続中に連続的に又は間欠的に追加投入してもよい。重合方式は、連続式であっても回分式であってもよい。また、重合反応は、酸素を除去した反応器を用いて行うことが好ましい。重合反応温度は、0〜100℃とすることが好ましく、0〜80℃とすることが更に好ましい。重合反応途中で、原料の添加法、温度、撹拌等の条件等を適宜変更してもよい。
【0045】
重合反応時間は、通常、0.01〜30時間程度である。重合反応の停止は、所定の重合転化率に達した時点で、重合停止剤を添加する等によって行うことができる。重合停止剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン等のアミン化合物;ヒドロキノン等のキノン化合物等を用いることができる。
【0046】
重合反応停止後、得られた乳化液(ラテックス)から必要に応じて水蒸気蒸留等の方法により未反応単量体を除去し、その後、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等の塩;塩酸、硝酸、硫酸等の酸を添加して重合体を凝固させる。次いで、この重合体を水洗及び乾燥することにより、目的とする(A)成分を得ることができる。
【0047】
なお、後述するように、(A)成分存在下で、(B)単量体成分を重合させて(A)成分の改質を行う際には、(A)成分の水分散体中で行うことが可能である。従って、(A)成分として、(A)成分の乳化液(ラテックス)をそのまま使用してもよい。
【0048】
1B.(B)単量体成分:
(B)単量体成分は、(A)成分を(C)共重合体に改質するための単量体成分である。この(B)単量体成分(以下、「(B)成分」ともいう)には、(b−1)不飽和ニトリル単量体、(b−2)(メタ)アクリル酸系単量体、及び(b−3)芳香族ビニル単量体からなる群より選択される少なくとも一種が含まれる。
【0049】
1B−1.(b−1)不飽和ニトリル単量体:
(b−1)不飽和ニトリル単量体の具体例としては、先に例示した「(a−1)不飽和ニトリル単量体」の具体例と同様のものを挙げることができる。なかでも、アクリロニトリルが好ましい。
【0050】
1B−2.(b−2)(メタ)アクリル酸系単量体:
(b−2)(メタ)アクリル酸系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸とアルコールのエステル((メタ)アクリル酸エステル)を挙げることができる。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸又はメタクリル酸」のことをいう。この(メタ)アクリル酸エステルの具体例を以下に示す。
【0051】
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;
【0052】
2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、3,3,3,2,2−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、4,4,4,3,3,2,2−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート等のフルオロアルキル(メタ)アクリレート類;
【0053】
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;
【0054】
メトキシポリエチレングリコール、エトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、エトキシポリプロピレングリコール等のアルコキシポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数:2〜23程度)の(メタ)アクリレート類;2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
【0055】
フェノキシポリエチレングリコール、フェノキシポリプロピレングリコール等のアリーロキシポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数:通常2〜23)のモノ(メタ)アクリレート類;2−シアノエチル(メタ)アクリレート、2−シアノプロピル(メタ)アクリレート、3−シアノプロピル(メタ)アクリレート等のシアノアルキル(メタ)アクリレート類;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のアルキレングリコールのモノ−(メタ)アクリレート類又はジ−(メタ)アクリレート類;
【0056】
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数:通常2〜23)のモノ−又はジ−(メタ)アクリレート類;グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールアルカン(アルカンの炭素数:通常1〜3)、テトラメチロールアルカン(アルカンの炭素数:通常1〜3)等の3価以上の多価アルコール類のモノ−又はオリゴ−(メタ)アクリレート類;前記3価以上の多価アルコールのポリアルキレングリコール付加物(アルキレングリコール単位数:通常2〜23)のモノ−(メタ)アクリレート類又はオリゴ−(メタ)アクリレート類;
【0057】
4−シクロヘキサンジオール、1,4−ベンゼンジオール、1,4−ジ−(2−ヒドロキシエチル)ベンゼン等の環式ポリオールのモノ−(メタ)アクリレート類又はオリゴ−(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、3−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、3−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;
【0058】
2−(ジメチルアミノエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(ジエチルアミノエトキシ)エチル(メタ)アクリレート等の(ジアルキルアミノアルコキシ)アルキル(メタ)アクリレート類等のカルボキシル基のエステル化されたもの;ラクトン変性(メタ)アクリレート。
【0059】
なかでも、炭素数1〜4のアルコキシ基を有するアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、炭素数2〜6のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数2〜6のアルキル(メタ)アクリレートが更に好ましい。これらの(b−2)(メタ)アクリル酸系単量体は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
1B−3.(b−3)芳香族ビニル単量体:
(b−3)芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、o一メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン等を挙げることができる。なかでも、スチレンが好ましい。これらの(b−3)芳香族ビニル単量体は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、(b−1)不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリルを用いるとともに、(b−3)芳香族ビニル単量体としてスチレンを用いることが好ましい。
【0061】
1C.(C)共重合体:
(C)共重合体は、(A)成分存在下で、(B)成分を重合させることで得られる共重合体であり、(A)成分を改質した共重合体である。この(C)共重合体は、上記した式(1)で表されるαの値が1.0以下のものである。
【0062】
このように、このαの値が1.0以下であることによって、塩化ビニル樹脂やフェノール樹脂等の樹脂に含有させることによって、耐衝撃性及び加工性を向上させることができる。なお、このαの値は、0.8以下であることが更に好ましく、0.6以下であることが特に好ましい。また、αの値の下限値は特に限定されるものではない。
【0063】
1C−1.(C)共重合体の調製方法:
このような(C)共重合体は、(A)成分、例えば、(a−1)不飽和ニトリル単量体、及び(a−2)共役ジエン単量体等を乳化重合して得られる(A)成分の乳化液(水分散体)に、(B)成分を添加して重合させる(以下、「改質反応」ともいう)ことによって得ることができる。なお、この水分散体としては、水蒸気蒸留等により未反応単量体を除去したものを用いてもよいし、未反応単量体を除去していないもの(未反応単量体が残存したままの状態のもの)を用いてもよい。
【0064】
なお、この改質反応は、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合等がある。また、改質方法としては、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等がある。
【0065】
この改質反応を行う際には、(A)成分に対して(B)成分を添加した状態において、その系内に存する全単量体に対する共役ジエン単量体の比率を、10モル%以下とした状態で改質反応を行うことが好ましく、5モル%以下とした状態で改質反応を行うことが更に好ましい。この比率が10モル%超であると、(A)成分の改質が不十分となり、(C)共重合体のαの値が1.0超となる場合がある。なお、系内(反応系内)に存する全単量体に対する共役ジエン単量体の比率は、例えば、乳化重合反応終了時における乳化液中の未反応の共役ジエン単量体の残留量と、この乳化液に添加する(B)成分に含まれる共役ジエン単量体の量から算出することができる。
【0066】
ここで、この「系内に存する全単量体」には、(A)成分に対して添加した(B)成分の他、(A)成分の系内に残存する未反応の単量体も含む。このように改質反応を行う際の共役ジエン単量体の比率を精密に制御することによって、(C)共重合体を良好に得ることができる。
【0067】
なお、上記したように、共役ジエン単量体の比率を10モル%以下に制御するためには、例えば、乳化重合して得られる(A)成分の乳化液から、水蒸気蒸留等の方法により未反応単量体を除去する方法を挙げることができる。このように、(A)成分中の未反応共役ジエン単量体の量を減少させることで、(A)成分を添加した際に、共役ジエン単量体の量を10モル%以下に制御することができる。
【0068】
(C)共重合体は、(A)成分20〜98質量部と、(B)成分2〜80質量部(但し、(A)+(B)=100質量部)とを重合させたものであることが好ましく、(A)成分50〜95質量部と、(B)成分5〜50質量部(但し、(A)+(B)=100質量部)とを重合させたものであることが更に好ましい。(B)成分を2質量部以上とすることで、耐衝撃性及び加工性を良好に向上させることが可能な樹脂改質用共重合体とすることができる。一方、80質量部以下とすることで、加工性向上の効果をより高めることができる。
【0069】
(A)成分と(B)成分の反応は、通常の乳化重合で行うことができ、0〜50℃の温度条件下、酸素を除去した反応器中で行うことが好ましい。重合方式は、連続式、回分式のいずれであってもよい。単量体、乳化剤、開始剤、分子量調節剤及びその他の重合薬剤は反応開始前に全量添加してもよく、また反応開始後任意に分割添加してもよく、また反応途中に温度や撹拌等の操作条件を任意に変更することもできる。
【0070】
以上のようにして、(A)成分である共重合体を(B)成分によって改質した(C)共重合体を調製することができる。なお、本発明の樹脂改質用共重合体を構成する(C)共重合体は、上記式(1)で表されるαの値が1.0以下であるため、上述のように、共役ジエン単量体の比率を10モル%以下に制御し、得られる(C)共重合体の前記αの値が1.0以下となるようにする。
【0071】
本明細書における、60℃及び150℃における損失係数(tanδ(60℃)及びtanδ(150℃))は、共重合体(生ゴム、未架橋ゴム)を測定対象とし、周波数10Hz、歪5.02%の条件下、所定のゴム加工性解析装置を使用してそれぞれの温度で測定した値である。なお、このtanδは、例えば、アルファテクノロジーズ社製のゴム加工性解析装置(商品名「RPA2000」)を用いて、上記条件にて測定することができる。
【0072】
(C)共重合体(樹脂改質用共重合体)のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、10〜200であることが好ましく、20〜200であることが更に好ましく、50〜150であることが特に好ましい。ムーニー粘度を10以上とすることにより、樹脂改質用共重合体として十分な衝撃強度を付与することができる。一方、ムーニー粘度を200以下とすることにより、樹脂改質用共重合体を混練して樹脂組成物を得る際の加工性を良好に向上させることができる。
【0073】
2.樹脂組成物:
次に、本発明の樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物の一の実施形態は、塩化ビニル樹脂又はフェノール樹脂のいずれか一方の樹脂と、これまでに説明した樹脂改質用共重合体と、を含有するものである。
【0074】
この樹脂組成物は、上記樹脂改質用共重合体が耐衝撃性を改良するための改良剤となるため、樹脂の脆さが改良され、耐衝撃性に優れている。また、この樹脂組成物は加工性にも優れているため、例えば、各種成形方法によって成形品を成形した際に、表面の平滑性に優れた成形品を得ることができる。
【0075】
本発明の樹脂組成物は、上記のような特性を生かし、例えば、各種製品の外層部を構成する成形材料として利用することができる。
【0076】
なお、樹脂組成物における樹脂改質用共重合体の含有量は、1〜50質量%であることが好ましく、3〜40質量%であることが更に好ましく、5〜30質量%であることが特に好ましい。
【0077】
なお、樹脂改質用共重合体の含有量が1質量%未満であると、耐衝撃性の向上効果が十分に得られないことがある。一方、50質量%を越えると、樹脂本来の性能、即ち、ベースとなる塩化ビニル樹脂又はフェノール樹脂のいずれか一方の樹脂が有する性能が得られにくくなってしまうことがある。
【0078】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、充填剤、紫外線吸収剤、加工助剤、可塑剤、老化防止剤、難燃剤、防菌・防かび剤、着色剤等の添加剤を必要に応じて更に添加することができる。
【0079】
安定剤としては、例えば、塩化ビニル樹脂に配合されるのであれば特に制限はなく、ラウレート系、マレート系、メルカプタイト系等の有機スズ安定剤;カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)等の金属石鹸安定剤;三塩基性硫酸鉛、けい酸鉛等の安定剤を挙げることができる。これらは一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。このような安定化を用いることによって、樹脂の衝撃改質以外の耐熱性改良の効果を期待することができる。
【0080】
また、上記安定剤を用いた場合には、安定化助剤として、エポキシ化合物、ホスファイト系化合物を併用することもできる。
【0081】
安定剤の配合量は、添加する安定剤の種類に応じて適宜選択することができるが、例えば、特に限定されることはないが、樹脂組成物100質量部に対して、0〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることが更に好ましい。
【0082】
充填剤の具体例としては、カーボンブラック、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、極微細活性化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、カオリンクレー、焼成クレー、パイロフライトクレー、シラン処理クレー、合成ケイ酸カルシウム、合成ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、カオリン、セリサイト、タルク、微粉タルク、ウォラスナイト、ゼオライト、ゾーノトナイト、アスベスト、PMF(Processed Mineral Fiber)、胡粉、セピオライト、チタン酸カリウム、エレスタダイト、石膏繊維、ガラスバルン、シリカバルン、ハイドロタルサイト、フライアシュバルン、シラスバルン、カーボン系バルン、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン等を挙げることができる。これらの充填剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
老化防止剤の具体例としては、ナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、p−フェニレンジアミン系、キノリン系、ヒドロキノン誘導体系、モノ、ビス、トリス、ポリフェノール系、チオビスフェノール系、ヒンダードフェノール系、亜リン酸エステル系、イミダゾール系、ジチオカルバミン酸ニッケル塩系、リン酸系の老化防止剤等を挙げることができる。これらの老化防止剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
紫外線吸収剤の具体例としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、サリチル酸エステル類、金属錯塩類等を挙げることができる。これらの紫外線吸収剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
2−1.樹脂組成物の製造方法:
本発明の樹脂組成物を製造する際には、まず、塩化ビニル樹脂又はフェノール樹脂のいずれか一方の樹脂と、これまでに説明した樹脂改質用共重合体とを混ぜて混合物を得、得られた混合物を、高速ミキサーなどの通常の手段を用いて更に混合する。このようにして、例えば、粉末状やペレット状の樹脂組成物を得ることができる。
【0086】
こうして得られた樹脂組成物は、例えば、カレンダー成形、押出し成形、射出成形、プロー成形等によって成形加工することによって、所望の形状の成形品とすることができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0088】
[単量体成分に由来する構造単位の含有割合]:アクリロニトリル単位の含有割合(AN含有割合)については、元素分析により測定した窒素含有量から算出した。また、スチレン単位の含有割合(ST含有割合)については、熱分解ガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0089】
[ムーニー粘度(ML1+4,100℃)]:JIS K6300に準拠し、Lローターを使用して、予熱1分、ローター作動時間4分、温度100℃の条件で測定した。
【0090】
[tanδ]:ゴム加工性解析装置(型番「RPA2000」、アルファテクノロジーズ社製)を使用し、周波数10Hz、歪5.02%の条件で、60℃及び150℃における樹脂改質用共重合体を構成する(C)共重合体のtanδ(tanδ(60℃)及びtanδ(150℃))を測定した。
【0091】
[αの値]:上記tanδの測定によって得られたtanδ(tanδ(60℃)及びtanδ(150℃))の値から、上記式(1)に従って、αを算出した。
【0092】
[ロール加工性]:6インチロールを使用して、樹脂組成物の混練り時における作業性を、以下の基準に従って評価した。なお、混練り時の温度条件は180℃とした。
良好;ロールに樹脂組成物が巻き付き、作業が容易である。
不良;ロールに樹脂組成物が巻き付き難く、作業が困難である。
【0093】
[表面平滑性]:ロール加工性評価における混錬り終了後、樹脂組成物からなるシートを取り出して、その表面状態を観察し、以下の基準に従って評価した。
◎;シートの両端にささくれがなく、表面に光沢がありツルツルしている。
○;表面に光沢がありツルツルしているが、シートの両端にささくれがある。
△;表面に光沢がなく凸凹が少し見られ、シートの両端にささくれがある。
×;表面に光沢がなく凸凹が大きく見られ、シートの両端に大きくささくれがある。
【0094】
[耐衝撃性]:混錬りによって得られた樹脂組成物からなるシートを、170℃に加熱した3mmシート金型に仕込み、6分間予熱し、更に4分間加圧した。その後、金型を冷却し、樹脂組成物からなるシートを取出し、このシートから厚さ3mmの耐衝撃性試験用の試料を作製した。このようにして得られた試料の耐衝撃性を、JIS K7110に準拠して測定した。
【0095】
(合成例1:(C1)共重合体)
アクリロニトリル70部、ブタジエン30部、ラウリル硫酸ナトリウム4部、過硫酸カリウム0.2部、及び水200部を窒素置換したステンレス製反応器に仕込み、40℃で重合させた。重合転化率がほぼ60%に達したところで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.5部を反応系に添加して反応を停止させ、ラテックス((A)成分)を得た(反応時間:8時間)。
【0096】
得られたラテックスにスチームを投入して残ったモノマーを留出させた。窒素置換した後、(B)成分としてアクリロニトリル16.8部とスチレン8.4部、及び過硫酸カリウム0.2部を添加して、40℃で重合させた。重合転化率がほぼ60%に達したところで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.5部を反応系に添加して反応を停止させた(反応時間:4時間)。0.25%塩化カルシウム水溶液を添加して共重合体を凝固させ、凝固物を得た。得られた凝固物を十分に水洗した後、約90℃で3時間乾燥させることにより、(C1)共重合体を得た。
【0097】
得られた(C1)共重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は80、AN含有割合は50%、ST含有割合は10%、αは−0.4であった。
【0098】
(合成例2:(C2)共重合体)
アクリロニトリル46部、ブタジエン54部、ラウリル硫酸ナトリウム4部、過硫酸カリウム0.2部、及び水200部を窒素置換したステンレス製反応器に仕込み、40℃で重合させた。重合転化率がほぼ70%に達したところで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.5部を反応系に添加して反応を停止させ、ラテックス((A)成分)を得た(反応時間:8時間)。
【0099】
得られたラテックスにスチームを投入して残ったモノマーを留出させた。窒素置換した後、(B)成分としてアクリロニトリル19.5部とスチレン9.7部、及び過硫酸カリウム0.2部を添加して、40℃で重合させた。重合転化率がほぼ60%に達したところで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.5部を反応系に添加して反応を停止させた(反応時間:4時間)。0.25%塩化カルシウム水溶液を添加して共重合体を凝固させ、凝固物を得た。得られた凝固物を十分に水洗した後、約90℃で3時間乾燥させることにより、(C2)共重合体を得た。
【0100】
(C2)共重合体の配合処方を表1に示す。また、得られた(C2)共重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)、AN含有割合、ST含有割合、及びαを表2に示す。
【0101】
(合成例3:(C3)共重合体)
アクリロニトリル46部、ブタジエン54部、ラウリル硫酸ナトリウム4部、過硫酸カリウム0.2部、及び水200部を窒素置換したステンレス製反応器に仕込み、40℃で重合させた。重合転化率がほぼ70%に達したところで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.5部を反応系に添加して反応を停止させ、ラテックス((A)成分)を得た(反応時間:8時間)。
【0102】
得られたラテックスにスチームを投入して残ったモノマーを留出させた。窒素置換した後、ブタジエン5部と(B)成分としてアクリロニトリル19.5部とスチレン9.7部、及び過硫酸カリウム0.2部を添加して、40℃で重合させた。重合転化率がほぼ60%に達したところで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.5部を反応系に添加して反応を停止させた(反応時間:4時間)。0.25%塩化カルシウム水溶液を添加して共重合体を凝固させ、凝固物を得た。得られた凝固物を十分に水洗した後、約90℃で3時間乾燥させることにより、(C3)共重合体を得た。
【0103】
(C3)共重合体の配合処方を表1に示す。また、得られた(C3)共重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)、AN含有割合、ST含有割合、及びαを表2に示す。
【0104】
(合成例4:(C4)共重合体)
アクリロニトリル70部、ブタジエン30部、ラウリル硫酸ナトリウム4部、過硫酸カリウム0.2部、及び水200部を窒素置換したステンレス製反応器に仕込み、40℃で重合させた。重合転化率がほぼ60%に達したところで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.5部を反応系に添加して反応を停止させた(反応時間:8時間)。0.25%塩化カルシウム水溶液を添加して共重合体を凝固させ、凝固物を得た。得られた凝固物を十分に水洗した後、約90℃で3時間乾燥させることにより、(C4)共重合体を得た。
【0105】
(C4)共重合体の配合処方を表1に示す。また、得られた(C4)共重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)、AN含有割合、及びαを表2に示す。
【0106】
(NBR(1))
JSR社製の耐油性NBR(商品名「NBR N215SL」、AN含有割合:48%、ムーニー粘度:45)を「NBR(1)」として使用した。
【0107】
(粉末NBR)
JSR社製の粉末ニトリル(商品名「JSR PN20HA」、AN含有割合:41%、)を「粉末NBR」として使用した。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
(実施例1)
ポリ塩化ビニル(商品名「TK1000」、大洋塩ビ社製)90部に、樹脂改質用共重合体として(C1)共重合体10部を加え、更に、有機スズ安定剤(商品名「T−17MJ」、勝田化工社製)1部と、安定助剤としてステアリン酸カルシウム0.7部を添加して混合物を得、得られた混合物を混練りして樹脂組成物を得た。
【0111】
次に、得られた樹脂組成物を用いて、上述した耐衝撃試験の方法に従って、耐衝撃性試験用の試料を作製し、その試料を用いて耐衝撃試験を行った。
【0112】
また、ロール取り出し後の樹脂組成物からなるシートの表面状態(表面平滑性)を観察したところ、平滑なシート肌であり、良好な評価結果(◎)を得ることができた。また、樹脂組成物の混練り時におけるロール加工性についても優れたものであった。
【0113】
(実施例2,3、及び比較例1〜3)
表3に示す配合処方としたこと以外は、上記実施例1の場合と同様にして樹脂組成物を調製した。ロール加工性、表面平滑性、及び耐衝撃性の評価結果を表3に示す。
【0114】
【表3】

【0115】
表3に示すように、実施例1〜3の樹脂組成物は、表面平滑性に優れたものであった。また、この樹脂組成物からなるシートは、耐衝撃性に優れるものであり、また、樹脂組成物のロール加工時における加工性(ロール加工性)についても良好なものであった。
【0116】
一方、比較例1及び2の樹脂組成物は、耐衝撃性が低く、表面平滑性も十分なものではなかった。また、樹脂組成物のロール加工性についても良好なものではなかった(具体的には、比較例1は△、比較例2は×)。この原因としては、比較例2の樹脂組成物は、(A)成分のみからなる(C4)共重合体を改質剤として含んだものであり、また、比較例1の樹脂組成物は、単一成分のNBRを含んだものであるため、樹脂とゴム(共重合体)との相溶性が劣っていたためと推測される。
【0117】
比較例3の樹脂組成物は、粉末NBRを改質剤として含有したものであり、加工性(ロール加工性)、及び表面平面性については一定の改良効果が得られているものの、樹脂組成物からなるシートの耐衝撃性が悪いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の樹脂改質用共重合体は、樹脂の改質剤として好適に用いることができる。このような樹脂改質用共重合体を樹脂と混合して樹脂組成物を得ることによって、樹脂組成物の耐衝撃性及び加工性を向上させることができる。
【0119】
また、本発明の樹脂組成物は、耐衝撃性に優れるとともに、加工性に優れているため、例えば、各種製品の外層部を構成する成形材料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(a−1)不飽和ニトリル単量体、及び(a−2)共役ジエン単量体を重合させて得られる(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体存在下で、
(b−1)不飽和ニトリル単量体、(b−2)(メタ)アクリル酸系単量体、及び(b−3)芳香族ビニル単量体からなる群より選択される少なくとも一種を含む(B)単量体成分を重合させて得られる(C)共重合体からなり、
前記(C)共重合体の、下記式(1)で表されるαの値が、1.0以下である樹脂改質用共重合体。
α=[tanδ(150℃)−tanδ(60℃)]/tanδ(60℃) (1)
(前記式(1)中、tanδ(150℃)は、前記(C)共重合体の150℃における損失係数を示し、tanδ(60℃)は、前記(C)共重合体の60℃における損失係数を示す)
【請求項2】
前記(C)共重合体が、
前記(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体の水分散体に、(B)単量体成分を添加し、その系内に存する全単量体に対する共役ジエン単量体の比率を、10モル%以下とした状態で重合させたものである請求項1に記載の樹脂改質用共重合体。
【請求項3】
前記(b−1)不飽和ニトリル単量体がアクリロニトリルであるとともに、前記(b−3)芳香族ビニル単量体がスチレンである請求項1又は2に記載の樹脂改質用共重合体。
【請求項4】
前記(C)共重合体が、前記(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体20〜98質量部と、前記(B)単量体成分2〜80質量部(但し、(A)+(B)=100質量部)と、を重合させたものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂改質用共重合体。
【請求項5】
前記(a−1)不飽和ニトリル単量体がアクリロニトリルであるとともに、前記(a−2)共役ジエン単量体がブタジエンであり、
前記(A)不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体が、前記(a−1)不飽和ニトリル単量体に由来する構造単位(i)を10〜60質量%、前記(a−2)共役ジエン単量体に由来する構造単位(ii)を10〜90質量%、及び(a−3)その他の単量体に由来する構造単位(iii)を0〜80質量%(但し、(i)+(ii)+(iii)=100質量%)を有するものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂改質用共重合体。
【請求項6】
前記(C)共重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)が、10〜200である請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂改質用共重合体。
【請求項7】
塩化ビニル樹脂又はフェノール樹脂のいずれか一方の樹脂と、請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂改質用共重合体と、を含有する樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−215341(P2009−215341A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57327(P2008−57327)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】