説明

樹脂棒引張装置、及び熱固定方法

【課題】樹脂棒に所定の張力を加えることができ、しかも簡素な構造の樹脂棒引張装置、及び熱固定方法を提供する。
【解決手段】樹脂棒引張装置1は、生分解性樹脂棒3の両端部5を着脱自在に把持する一対の把持手段7と、一対の把持手段7を相対的に接近、又は引き離す向きに移動自在に支持する支持手段11と、一対の把持手段7の移動する向きに出力部13を動作させる駆動手段15と、把持手段7に駆動手段15の出力部13を連結する弾性部材17と、把持手段7と駆動手段15の出力部13との間隔を規定する可変スペーサ69とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を延伸成形して得られた棒体に張力を加える樹脂棒引張装置、及び熱固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手術用骨ピン等の材料となる生分解性樹脂棒を製造するには、先ず結晶性の原料であるポリ乳酸を可塑化する温度まで加熱し、これを棒状に延伸成形して得られる生分解性樹脂棒を所望の長さに延伸する。生分解性樹脂棒の延伸工程は、ポリ乳酸のガラス転移点に近い温度の浸漬液に生分解性樹脂棒を沈め、これに所定の張力を加えることにより行われる。続いて、生分解性樹脂棒を熱固定し、その緩和工程を終えた生分解性樹脂棒に螺子を切削により形成する。これに所定温度の加熱による滅菌処理を施したものが製品となる。特許文献1は、プラスチック成形品を熱固定する装置を開示している。
【0003】
上記の熱固定は、ポリ乳酸の結晶化ピーク温度以上の温度の浸漬液に生分解性樹脂棒を沈め、これに所定の張力を加えることにより、生分解性樹脂棒に残留する内部応力を除去し、又は結晶組織を調整するための工程である。緩和工程は、浸漬液の温度を結晶化ピーク温度以下に設定する点で熱固定と異なる。以上に述べた張力は、生分解性樹脂棒の両端部をチャック等から成る一対の把持手段で把持し、これらの把持手段に相対的に反対向きの力を加えることにより発生される。
【0004】
しかしながら、生分解性樹脂棒は熱固定の進行に従い収縮し、その後で伸長に転じる。生分解性樹脂棒がその両端部をチャック等に固定された状態で伸縮すると、生分解性樹脂棒に反りが生じる。このような反りは、生分解性樹脂棒を旋盤等の主軸に取付け回転させたときの振れの原因になるので、生分解性樹脂棒に切削される螺子の加工精度を損なうことになる。
【0005】
また、生分解性樹脂棒の収縮率、又は膨張率に基づき把持手段に加える力を制御するには、生分解性樹脂棒の張力を計測するためのセンサー類、及び把持手段の動作を制御するコンピューター等の制御装置が不可欠である。これらを付加することが樹脂棒引張装置の複雑化と製造コストの高騰を招くことになる。また、複数の生分解性樹脂棒を一度に熱固定する場合、総ての生分解性樹脂棒の張力が互いに均等になるよう制御するのは容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−36125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、樹脂棒に所定の張力を加えることができ、しかも簡素な構造の樹脂棒引張装置、及び熱固定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂棒の長手方向の両端部を着脱自在に把持する一対の把持手段と、前記一対の把持手段を前記長手方向に移動自在に支持する支持手段と、前記長手方向に出力部を動作させる駆動手段と、前記駆動手段の出力部に前記一対の把持手段の少なくとも一方を連結する弾性部材とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、樹脂棒の両端部を着脱自在に把持する一対の把持手段と、前記一対の把持手段を相対的に接近、又は引き離す向きに移動自在に支持する支持手段と、前記把持手段の移動する向きに出力部を動作させる駆動手段と、前記駆動手段の出力部と前記把持手段との間隔を前記弾性部材の伸長する長さに規定する可変スペーサと、前記駆動手段の出力部に前記一対の把持手段の少なくとも一方を連結する弾性部材とを備え、前記駆動手段の出力部が、前記一対の把持手段を相対的に引き離す向きに動作する過程で、前記弾性部材を介して前記把持手段を牽引することにより、前記一対の把持手段に両端を把持された樹脂棒に張力を発生させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記一対の把持手段が、複数の樹脂棒を受け止める複数の受持部材と、前記複数の受持部材の上方に配置された複数の挟着部材と、前記受持部材に対して前記挟着部材を昇降させる開閉手段とを備え、前記開閉手段が、前記複数の挟着部材を下降することにより、前記受持部材と前記挟着部材との間に樹脂棒を挟着し、前記複数の挟着部材を上昇させることにより樹脂棒を解放することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記駆動手段の出力部と、前記弾性部材により前記出力部に連結された把持手段との間隔を検知する検知手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記一対の把持手段を昇降させる昇降手段と、前記一対の把持手段の下方に配置され樹脂棒に熱を伝導する浸漬液を貯留する貯留槽とを備え、前記一対の把持手段が樹脂棒の両端部を把持し、前記昇降手段が、前記貯留槽の浸漬液に樹脂棒が沈む高さに、前記一対の把持手段を下降させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、樹脂棒の長手方向の両端部を相対的に引き離す向きの牽引力によって前記樹脂棒に張力を発生させた状態で、前記樹脂棒を一定の温度に保つ熱固定方法において、前記樹脂棒の両端部の少なくとも一方に、前記長手方向に伸縮する弾性部材を介して牽引力を加えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記樹脂棒に熱を伝導する気体、又が液体の中で前記樹脂棒の温度が一定に保たれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る樹脂棒引張装置によれば、駆動手段の出力部が一対の把持手段を相対的に引き離す向きに動作することにより、一対の把持手段に両端部を把持された樹脂棒に張力を発生させ、樹脂棒の熱固定、又は緩和を良好に行うことができる。しかも、樹脂棒の全長が伸縮しても、その分、駆動手段の出力部と把持手段との間に介在する弾性部材が伸縮するので、樹脂棒に反りの生じることはない。このように直線状の樹脂棒を旋盤等の主軸に取付け、樹脂棒に適正な螺子を研削することができる。
【0016】
また、上記の弾性部材の伸縮によって樹脂棒に発生する張力の不要な増減を抑制できるので、当該樹脂棒引張装置は、樹脂棒に残留する内部応力の除去、又はその結晶組織の調整を良好に行うことができる。このため、滅菌処理の段階で樹脂棒が加熱されても、その寸法、又は螺子の形状に狂いが生じないので、樹脂棒は製品としての品質を満たすことができる。また、樹脂棒の張力を計測するためのセンサー類、及び把持手段の動作を制御するコンピューター等が不要であるので、当該樹脂棒引張装置は、その構造を簡素化し製造コストを低減するのに有利である。
【0017】
本発明に係る樹脂棒引張装置によれば、複数の樹脂棒を複数の受持部材でそれぞれ受け止め、開閉手段が複数の挟着部材を下降することにより、複数の樹脂棒を複数の受持部材と複数の挟着部材との間に挟着できる。この状態で、駆動手段が出力部を上記のように動作させるだけで、総ての樹脂棒に等しい張力を発生させ、総ての樹脂棒を均等に熱固定、又は緩和することができる。ここに述べた効果は、複数の樹脂棒のそれぞれの全長が製造時の誤差等に起因して相互に違えていても、当該樹脂棒引張装置によって達成される。また、開閉手段が挟着部材を上昇させることにより、受持部材と挟着部材との間から樹脂棒を速やかに解放できるので、複数の樹脂棒を把持手段に着脱するのが容易である。
【0018】
本発明に係る樹脂棒引張装置によれば、駆動手段の出力部と把持手段との間隔を検知手段で検知し、樹脂棒が張力により伸長する長さに照らして、樹脂棒の良否を判定することができる。例えば、樹脂棒の重量平均分子量が小さい程、樹脂棒の伸長する長さが増大する傾向があるので、製品としての品質を有する樹脂棒が張力により伸長する長さを予め測定し、この測定値と、駆動手段が出力部を上記のように動作させたときに樹脂棒が実際に伸長した長さとを比較しても良い。
【0019】
更に、本発明に係る樹脂棒引張装置によれば、昇降手段が一対の把持手段を昇降させることができ、一対の把持手段の下方に浸漬液を貯留する貯留槽を配置しているので、延伸成形された直後の樹脂棒の両端部を一対の把持手段で把持し、昇降手段が一対の把持手段を下降することにより、樹脂棒を貯留槽の浸漬液に沈ませることができる。これにより浸漬液の中で樹脂棒の温度を一定に保ち、樹脂棒の熱固定、又は緩和を進行させることができる。続いて、昇降手段が一対の把持手段を上昇することにより、樹脂棒を貯留槽から引き揚げたところで、一対の把持手段が熱固定、又は緩和済みの樹脂棒の両端部を解放することができる。
【0020】
本発明に係る熱固定方法によれば、樹脂棒の両端部の少なくとも一方に、弾性部材を介して、樹脂棒の長手方向の両端部を相対的に引き離す向きの牽引力を加え、樹脂棒に張力を発生させることができる。また、樹脂棒を上記のように浸漬液に沈ませ、或いは樹脂棒に熱を伝導する気体の中に樹脂棒を置くことにより、樹脂棒の温度を一定に保つことができる。これによる効果は既述の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る樹脂棒引張装置を破断した側面図。
【図2】本発明の実施形態に係る樹脂棒引張装置を破断した正面図。
【図3】図1のA−A線断面図。
【図4】本発明の実施形態に係る樹脂棒引張装置の要部を破断した側面図。
【図5】本発明の実施形態に係る樹脂棒引張装置に適用した検知手段の取付例を示す側面図。
【図6】本発明の実施形態に係る樹脂棒引張装置の要部の動作を説明する側面図。
【図7】本発明の他の実施形態に係る樹脂棒引張装置の要部を破断した側面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図3に示すように、樹脂棒引張装置1は、水平方向に延びる姿勢の生分解性樹脂棒3の両端部5を着脱自在に把持する一対の把持手段7,9と、一対の把持手段7,9を相対的に接近、又は引き離す向きに移動自在に支持する支持手段11と、一対の把持手段7,9の移動する向きに出力部13を動作させる駆動手段15と、駆動手段15の出力部13を把持手段7に連結する弾性部材17と、後述の可変スペーサとを備える。
【0023】
以下に記す駆動源、及び案内手段は自明の要素であるので、その詳しい説明を省略する。例えば、駆動源として、モーターで回転する螺子軸にボールナットを螺合した送りねじ機構を適用し、ボールナットを出力部としても良い。或いは、ピストンロッドを出力部とするエアシリンダー、又は油圧シリンダーを駆動源としても良い。案内手段は、駆動源の動作する方向に延びるガイドレールにスライダを係合したものであっても良い。
【0024】
生分解性樹脂棒3はポリ乳酸を主成分とし、両端部5のフランジは既に結晶化した部位である。支持手段11は、4本の脚部19で横架材21,23を支持し、可動フレーム25を横架材23に案内手段27を介して幅方向に移動自在に取付け、昇降フレーム29を可動フレーム25に案内手段31を介して昇降自在に取付けたものである。ここで、幅方向とは生分解性樹脂棒3の長手方向に直交する水平方向である。駆動源33は、可動フレーム25と共に昇降フレーム29を支持手段11の幅方向に移動させるものである。
【0025】
把持手段7は、複数の支持体35の下端に固定された複数の受持部材37と、複数の受持部材37の上方に配置された複数の挟着部材39と、受持部材37に対して挟着部材39を昇降させる開閉手段41とを備える。把持手段9は把持手段7と同様に構成され、把持手段7,9は互いに対向している。挟着部材39は、支持体35に固定された一対のガイドブロック43の間に昇降自在に挿入されている。開閉手段41は、支持体35に取付けた駆動源であり、その出力部45を挟着部材39に接合している。符号47は、生分解性樹脂棒3を支持体35に挿通させる開口部を指している。
【0026】
把持手段7の個々の支持体35は、吊持棒49、互いに幅方向に隔たる複数条のスリット51が形成された吊持板53、吊持板53にガイドレール55が固定された案内手段57、及び吊持板53のスリット51を貫き案内手段57のスライダ59に接合された移動部材61を介して、昇降フレーム29に取付けられている。案内手段57は、支持体35を可動フレーム25に対して生分解性樹脂棒3の長手方向に移動自在に案内するものである。個々の移動部材61は当接板63を取付けている。
【0027】
駆動手段15は、図3,4に示すように、昇降フレーム29の下面に取付けられた駆動源であり、その出力部13を生分解性樹脂棒3の長手方向に進退させる。出力部13に垂下部材65,67が連結され、垂下部材65に可変スペーサ69が取付けられている。可変スペーサ69は、垂下部材65に固定したシリンダー70から出力部71を突出させた駆動源である。垂下部材67は、ガイドレール55に係合したスライダ74に接合されている。
【0028】
垂下部材65,67は、スライダ73と共に生分解性樹脂棒3の長手方向に進退することができる。弾性部材17として、把持手段7の支持体35と垂下部材67との間に掛け渡した引張コイルスプリングを適用しても良い。図中に弾性部材17は一つ表れているが、弾性部材17を2つ以上設けても良い。
【0029】
更に、樹脂棒引張装置1は、一対の把持手段7,9を昇降させる昇降手段75と、一対の把持手段7,9に下方に配置されグリセリン等の浸漬液77を貯留するための貯留槽78,79,80と、検知手段88とを備える。図1に示すように、昇降手段75は、可動フレーム25に取付けられた駆動源であり、その出力部81を昇降フレーム29に連結している。図2に示すように、貯留槽78,79,80は、互いに支持手段11の幅方向に並列し、それぞれの浸漬液を加熱するためのヒーターが内装されている。
【0030】
図5は、検知手段88を表すために弾性部材17の一部を省略している。検知手段88は、駆動手段15の垂下部材67にステー82を介して超音波センサー84を固定し、把持手段7のガイドブロック43に、超音波センサー84の頭部に対向する被検知部材86を固定したものである。超音波センサー84は、その頭部から被検知部材86までの距離を検知できるものであれば良い。被検知部材86は曲折された鋼板である。超音波センサー84に代えて光電センサーを検知手段88に適用しても良い。
【実施例1】
【0031】
樹脂棒引張装置1を用いた生分解性樹脂棒3の熱固定方法について次に述べる。生分解性樹脂棒3として直径が約3.8〜8.5[mm]のものを選択する。浸漬液77の温度はポリ乳酸の結晶化ピーク温度以上(例えば120℃)であれば良い。弾性部材17のばね定数は0.093[N/mm]であるとする。樹脂棒引張装置1が駆動手段15の出力部13を矢印Fの向きに動作させ、一対の把持手段7,9の互いに対向する間隔が後述の初期寸法に達するように、出力部13に連結した垂下部材65,67と共に把持手段7を移動させる。初期寸法とは、生分解性樹脂棒3の全長を超える寸法であれば良く、特に限定される値でない。
【0032】
垂下部材65から可変スペーサ69の出力部71の突出する寸法を規定する。即ち、図6に示すように、可変スペーサ69が出力部71を矢印Fの反対向きに動作させ、図3に表れた総ての当接板63に出力部71を突き当てる。可変スペーサ69が出力部71を更に矢印Fの反対向きに移動させ、垂下部材67と把持手段7の支持体35との間隔が弾性部材17の自由長さよりも広くなったところで、可変スペーサ69が出力部71を停止させる。この時点で弾性部材17は適度に緊張する。
【0033】
駆動手段15が出力部13を矢印Fの反対向きに動作し、一対の把持手段7,9を相対的に接近する向きに移動させる。これにより、把持手段7が図4の仮想線で表した位置へ移動し、一対の把持手段7,9の互いに対向する間隔が生分解性樹脂棒3の全長よりも少し狭くなったところで、駆動手段15が出力部13を停止させる。或いは、上記のように可変スペーサ69が出力部71を矢印Fの反対向きに動作させることにより弾性部材17を緊張させた時点で、一対の把持手段7,9の互いに対向する間隔が生分解性樹脂棒3の全長よりも少し狭くなるように、上記の初期寸法を予め設定しても良い。
【0034】
開閉手段41が出力部45と共に挟着部材39を受持部材37から上昇させた状態で、複数の受持部材37に複数の生分解性樹脂棒3のそれぞれの両端部5を受け止めさせる。上記のように総ての当接板63に出力部71が突き当たられた時点で、図3に表れた総ての支持体35は、生分解性樹脂棒3の長手方向に直交する水平方向に沿って真っ直ぐに整列する。このため、生分解性樹脂棒3の両端部5を受持部材37に受け止めさせる毎に、個々の受持部材37の配置を逐一調整しなくて済むという利点がある。
【0035】
開閉手段41が出力部45と共に挟着部材39を下降させ、受持部材37と挟着部材39との間に複数の生分解性樹脂棒3のそれぞれの両端部5を挟着する。これにより総ての生分解性樹脂棒3の両端部5が把持手段7,9に把持されたところで、可変スペーサ69が出力部71を矢印Fの向きに動作させ、移動部材61の当接板63から後退させる。この過程で、出力部71は当接板63から離脱するが、把持手段7,9に把持された生分解性樹脂棒3が弾性部材17の弾性力を受け止めるので、垂下部材65と支持体35との間で弾性部材17の緊張が保たれる。
【0036】
開閉手段41が出力部45と共に挟着部材39を受持部材37から上昇させた状態で、複数の受持部材37に複数の生分解性樹脂棒3のそれぞれの両端部5を受け止めさせる。上記のように総ての当接板63に出力部71が突き当たられた時点で、図3に表れた総ての支持体35は、生分解性樹脂棒3の長手方向に直交する水平方向に沿って真っ直ぐに整列する。このため、生分解性樹脂棒3の両端部5を受持部材37に受け止めさせる毎に、個々の受持部材37の配置を逐一調整しなくて済むという利点がある。
【0037】
開閉手段41が出力部45と共に挟着部材39を下降させ、受持部材37と挟着部材39との間に複数の生分解性樹脂棒3のそれぞれの両端部5を挟着する。これにより総ての生分解性樹脂棒3の両端部5が把持手段7,9に把持されたところで、可変スペーサ69が出力部71を矢印Fの向きに動作させ、移動部材61の当接板63から後退させる。この過程で、出力部71は当接板63から離脱するが、把持手段7,9に把持された生分解性樹脂棒3が弾性部材17の弾性力を受け止めるので、垂下部材65と支持体35との間で弾性部材17の緊張が保たれる。
【0038】
続いて、駆動手段15が出力部13を矢印Fの向きに動作し、一対の把持手段7,9を相対的に引き離す向きに移動させる。昇降手段75が、一対の把持手段7,9を下降させ、生分解性樹脂棒3を貯留槽79の浸漬液77に沈ませる。上記のように駆動手段15が出力部13を矢印Fの向きに動作した状態で、駆動手段15の出力部13は弾性部材17を介して把持手段7を矢印Fの向きに牽引し続ける。これにより、一対の把持手段7,9に両端部5をそれぞれ把持された複数の生分解性樹脂棒3に張力が発生するので、複数の生分解性樹脂棒3を浸漬液77の中で一様に熱固定することができる。このとき、個々の生分解性樹脂棒3に発生する張力が約0.3〜1.5[kg/mm]になるように、弾性部材17の弾性力を設定するのが好ましい。
【0039】
生分解性樹脂棒3の熱固定が完了したところで、昇降手段75が一対の把持手段7,9を上昇することにより、貯留槽79から生分解性樹脂棒3を貯留槽79から引き揚げる。駆動手段15が出力部13を矢印Fの反対向きに動作し、一対の把持手段7,9を相対的に接近する向きに動作させる。これにより生分解性樹脂の張力が絶たれる。最後に、開閉手段41が出力部45を上昇させることにより、生分解性樹脂棒3を把持手段7,9から解放することができる。
【実施例2】
【0040】
樹脂棒引張装置1の可変スペーサを省略しても良い。この場合の熱固定方法について、実施例1と相違する点を次に述べる。一対の把持手段7,9の互いに対向する間隔が生分解性樹脂棒3の全長よりも少し狭くなるように、樹脂棒引張装置1が把持手段7を移動させる。受持部材37に複数の生分解性樹脂棒3のそれぞれの両端部5を受け止めさせ、把持手段7,9に総ての生分解性樹脂棒3の両端部5を把持させる。
【0041】
続いて、駆動手段15が出力部13を矢印Fの向きに動作させる。これにより、把持手段7の支持体35と垂下部材67との間隔を広げ、両者の間で弾性部材17を緊張させる。昇降手段75が一対の把持手段7,9を下降させ、生分解性樹脂棒3を貯留槽79の浸漬液77に沈ませる。上記のように弾性部材17を緊張させた状態で、生分解性樹脂棒3に弾性部材17の弾性力に基づく張力が発生するので、生分解性樹脂棒3を浸漬液77の中で熱固定することができる。
【実施例3】
【0042】
図7に示すように、支持手段11の昇降フレーム29に、その下方へ延出する保持部材30を固定し、駆動手段15、及び弾性部材17を保持部材30に取り付けても良い。この場合の熱固定方法について、実施例2と相違する点を次に述べる。
【0043】
駆動手段15が出力部13を矢印Fの反対向きに動作させる。これにより、移動部材61の当接板63に出力部13が突き当たり、把持手段7の支持体35と保持部材30との間隔が広げられる。そして、把持手段7が図7の仮想線で表した位置まで移動したところで、駆動手段15が出力部13を停止させる。この時点で、把持手段7の支持体35と保持部材30との間で弾性部材17が適度に緊張し、一対の把持手段7,9の互いに対向する間隔は生分解性樹脂棒3の全長よりも少し狭くなる。
【0044】
受持部材37に複数の生分解性樹脂棒3のそれぞれの両端部5を受け止めさせ、把持手段7,9に総ての生分解性樹脂棒3の両端部5を把持させる。続いて、駆動手段15が出力部13を矢印Fの向きに動作させる。これにより、出力部13が移動部材61の当接板63から離脱するが、把持手段7の支持体35と保持部材30との間で弾性部材17の緊張は保たれる。この状態で、矢印Fの向きの牽引力が弾性部材17を介して生分解性樹脂棒3に加わるので、生分解性樹脂棒3を熱固定するのに必要な張力が生分解性樹脂棒3に発生する。
【0045】
以上に述べた実施例において、生分解性樹脂棒3の熱固定が進行するに従い生分解性樹脂棒3の全長が伸縮するが、その分、弾性部材17が生分解性樹脂棒3の長手方向に伸縮するので、生分解性樹脂棒3に反りの生じることはない。このように直線状の生分解性樹脂棒3を旋盤等の主軸に取付け、生分解性樹脂棒3に適正な螺子を研削することができる。
【0046】
上記の弾性部材17の伸縮により、生分解性樹脂棒3の張力の不要な増減を抑制できるので、生分解性樹脂棒3に残留する内部応力の除去、又はその結晶組織の調整を良好に行うことができる。このため、生分解性樹脂棒3が滅菌処理の段階で加熱されても、その寸法、又は螺子の形状に狂いが生じることがなく、生分解性樹脂棒3は製品としての品質を満たすことができる。
【0047】
また、生分解性樹脂棒3の張力を計測するためのセンサー類、及び駆動手段15の動作を制御するコンピューター等が不要であるので、樹脂棒引張装置1は構造が簡素であり、製造コストが安価である。また、複数の生分解性樹脂棒3の両端部5を複数の受持部材37と複数の挟着部材39との間に挟着した状態で、把持手段7が上記のように動作するので、複数の生分解性樹脂棒3の全長がそれぞれの製造時の誤差等に起因して相互に違えていても、総ての生分解性樹脂棒3に等しい張力を発生させることができる。
【0048】
また、樹脂棒引張装置1によれば、駆動手段15が出力部13を矢印Fの向きに動作させる以前に弾性部材17を上記のように緊張させておくことにより、駆動手段15が出力部13の動作を開始した時点で、直ちに生分解性樹脂棒3に張力を発生させることができる。生分解性樹脂棒3の収縮率を考慮して、弾性部材17の弾性力を所望に設定する必要のある場合、可変スペーサ69が出力部71を動作させるストロークを調整することにより、垂下部材67と把持手段7の支持体35との間隔を増減するようにしても良い。
【0049】
上記の張力が生分解性樹脂棒3に加えられたとき、その重量平均分子量が小さい程、生分解性樹脂棒3の伸長する長さが増大する傾向がある。そこで、製品としての品質を有する生分解性樹脂棒が熱固定されるときに伸長する長さを予め測定する。この測定値と、検知手段88が検知する駆動手段15と把持手段7との間隔の変化した量、言い換えると生分解性樹脂棒3が実際に伸長した長さとを比較すれば、生分解性樹脂棒3の良否を判定することができる。
【0050】
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施することができる。生分解性樹脂棒3を浸漬液77の中で熱固定することは必須でなく、所定の温度に加熱された気体の中で、生分解性樹脂棒3を熱固定するようにしても良い。
【0051】
把持手段7,9は受持部材37に対して挟着部材39を昇降させる例を述べたが、挟着部材39が水平方向に移動することにより、受持部材37と挟着部材39との間が開閉されるようにしても良い。また、生分解性樹脂棒3の姿勢は限定される事項でなく、一対の把持手段7,9を互いに上下方向から対向させ、これらが起立した生分解性樹脂棒3の両端部5を把持しても良い。把持手段7を可動フレーム25に固定し、把持手段9を可動フレーム25に移動自在に取付け、駆動手段15が把持手段9を生分解性樹脂棒3の長手方向に移動させるようにしても良い。
【0052】
また、樹脂棒引張装置1が生分解性樹脂棒3に加える張力を利用して、生分解性樹脂棒3の延伸成形、又は緩和を行っても良い。この場合、貯留槽78,80に貯留する浸漬液は、延伸成形、又は緩和に適した温度になるよう個別に設定することができる。駆動源33が昇降フレーム29を貯留槽78の真上で停止させ、昇降手段75が一対の把持手段7,9を下降させれば、生分解性樹脂棒3を貯留槽78の浸漬液に沈ませることができる。或いは、駆動源33が昇降フレーム29を貯留槽80の真上で停止させ、昇降手段75が一対の把持手段7,9を下降させれば、生分解性樹脂棒3を貯留槽80の浸漬液に沈ませることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る樹脂棒引張装置によって延伸、熱固定、又は緩和される樹脂棒の用途は医療用の限定されることはない。また、本発明は生分解性樹脂に限らず、あらゆる素材の延伸、熱固定、又は緩和工程に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1...樹脂棒引張装置、3...生分解性樹脂棒、5...両端部、7,9...把持手段、11...支持手段、13,45,71,81...出力部、15...駆動手段、17...弾性部材、19...脚部、21,23...横架材、25...可動フレーム、27,31,57...案内手段、29...昇降フレーム、30...保持部材、33...駆動源、35...支持体、37...受持部材、39...挟着部材、41...開閉手段、43...ガイドブロック、47...開口部、49...吊持棒、51...スリット、53...吊持板、55...ガイドレール、59,73,74...スライダ、61...移動部材、63...当接板、65,67...垂下部材、69...可変スペーサ、70...シリンダー、75...昇降手段、77...浸漬液、78、79、80...貯留槽、82...ステー、84...近接センサー、86...被検知部材、88...検知手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂棒の長手方向の両端部を着脱自在に把持する一対の把持手段と、前記一対の把持手段を前記長手方向に移動自在に支持する支持手段と、前記長手方向に出力部を動作させる駆動手段と、前記駆動手段の出力部に前記一対の把持手段の少なくとも一方を連結する弾性部材とを備えることを特徴とする樹脂棒引張装置。
【請求項2】
樹脂棒の両端部を着脱自在に把持する一対の把持手段と、前記一対の把持手段を相対的に接近、又は引き離す向きに移動自在に支持する支持手段と、前記把持手段の移動する向きに出力部を動作させる駆動手段と、前記駆動手段の出力部と前記把持手段との間隔を前記弾性部材の伸長する長さに規定する可変スペーサと、前記駆動手段の出力部に前記一対の把持手段の少なくとも一方を連結する弾性部材とを備え、
前記駆動手段の出力部が、前記一対の把持手段を相対的に引き離す向きに動作する過程で、前記弾性部材を介して前記把持手段を牽引することにより、前記一対の把持手段に両端を把持された樹脂棒に張力を発生させることを特徴とする樹脂棒引張装置。
【請求項3】
前記一対の把持手段が、複数の樹脂棒を受け止める複数の受持部材と、前記複数の受持部材の上方に配置された複数の挟着部材と、前記受持部材に対して前記挟着部材を昇降させる開閉手段とを備え、
前記開閉手段が、前記複数の挟着部材を下降することにより、前記受持部材と前記挟着部材との間に樹脂棒を挟着し、前記複数の挟着部材を上昇させることにより樹脂棒を解放することを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂棒引張装置。
【請求項4】
前記駆動手段の出力部と、前記弾性部材により前記出力部に連結された把持手段との間隔を検知する検知手段とを備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の樹脂棒引張装置。
【請求項5】
前記一対の把持手段を昇降させる昇降手段と、前記一対の把持手段の下方に配置され樹脂棒に熱を伝導する浸漬液を貯留する貯留槽とを備え、
前記一対の把持手段が樹脂棒の両端部を把持し、前記昇降手段が、前記貯留槽の浸漬液に樹脂棒が沈む高さに、前記一対の把持手段を下降させることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の樹脂棒引張装置。
【請求項6】
樹脂棒の長手方向の両端部を相対的に引き離す向きの牽引力によって前記樹脂棒に張力を発生させた状態で、前記樹脂棒を一定の温度に保つ熱固定方法において、前記樹脂棒の両端部の少なくとも一方に、前記長手方向に伸縮する弾性部材を介して牽引力を加えることを特徴とする熱固定方法。
【請求項7】
前記樹脂棒に熱を伝導する気体、又は液体の中で前記樹脂棒の温度が一定に保たれることを特徴とする請求項6に記載の熱固定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−944(P2012−944A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140644(P2010−140644)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】