樹脂構造体の生体適合化処理方法、生体適合化処理された樹脂構造体

【課題】微小な3次元樹脂構造体の可視光透過性を良好に維持しつつ生体適合化処理を行う手段を提供する。
【解決手段】可視光透過性で微小な3次元樹脂構造体に対する加熱処理を不活性ガス中又は真空中で行い、その3次元樹脂構造体を可視光透過性を維持しつつ生体適合化させる生体適合化処理方法。この方法により得られる生体適合化処理された樹脂構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂構造体の生体適合化処理方法と生体適合化処理された樹脂構造体に関する。更に詳しくは本発明は、可視光透過性で微小な3次元樹脂構造体に対し、その可視光透過性を良好に維持しつつ加熱による生体適合化処理を行う処理方法と、この処理により得られる可視光透過性で生体適合性の微小な3次元樹脂構造体に関する。
【0002】
本発明が主として関連する技術分野は、光造形法が属する固体自由形状製造法分野、光硬化性樹脂材料分野、高分子化合物分野、材料の細胞適合性付与分野、可視光透過性樹脂を材料として用いられることの多いマイクロTASやMEMSデバイスの分野、及びそれらを加工するための微細加工分野である。
【背景技術】
【0003】
マイクロ光造形法は、光硬化性樹脂にレーザー照射して任意の立体的なマイクロ構造体を作製可能な微細加工の手法である。この手法に関しては、本願発明者である生田らが1992年に5μmの3次元分解能を達成して以来、多くの研究が展開されてきた。更に、サブミクロンの分解能を有したナノ光造形法も開発されている。近年では、微細流路内で化学反応や分析を行うマイクロTASやMEMSデバイスの開発への応用も試みられ始めている。
【0004】
しかし、光硬化性材料は、硬化反応時の不均一性もあって、光硬化性材料そのものに含有されているモノマー、オリゴマー、光重合開始剤、フリーラジカル、ポリオールや安定剤などが細胞毒性を示すことが知られている。従って、光硬化性樹脂で成形された3次元物体は、その細胞毒性のために製品としての応用範囲が限定され、生体や細胞に直接に接触するデバイスには使用できないという根本的な問題があった。
【0005】
そのため、生体や細胞への接触を伴うデバイスに細胞毒性のある材料を利用する場合、毒性除去のプロセスを施す必要がある。その点から、従来、後露光法、加熱処理、有機溶媒への有毒物質の抽出処理、有機もしくは無機溶媒の蒸気中への有毒物質の抽出処理等が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−10312号公報
【特許文献2】特開2007−284550号公報
【特許文献3】特開2010−104285号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takehisa Matsuda,Manabu Mizutani, “Liquid acrylate-endcapped biodegradable poly(ε-caprolactone-co-trimethylene carbonate). II. Computer-aidedstereolithographic microarchitectural surface photoconstructs”,Journal of Biomedical Materials Research,2003;3:pp395-403。
【0008】
【非特許文献2】Malcolm N. Cooke,John P. Fisher, David Dean, Clare Rimnac, Antonios G. Mikos, “Use ofStereolithography to Manufacture Critical-Sized 3D Biodegradable Scaffolds forBone Ingrowth”Journal of biomedical materials research. Part B,Applied biomaterials,2003;2:pp65-69。
【0009】
【非特許文献3】生田幸士、田中訓史、安藤豊、井上佳則 「マイクロ光造形法への細胞適合性付与プロセスの開発」日本コンピュータ外科学会誌 10,4,pp507-512(2008)。
【0010】
上記の特許文献1〜2は光硬化性樹脂の無毒化法について言及している。上記の非特許文献1では細胞毒性の高い光重合開始剤を避け、カプロラクトンやポリ(プロピレンフマレート)等の生分解性高分子を素材に使用して光造形を行う手法を開示している。上記の非特許文献2は再生医療用の生分解性の足場作製に関するもので、皮膚接触性毒性試験や、ゼラチンコートを施した表面上での毒性試験等の特定の使用状況に応じた毒性試験について述べている。
【0011】
しかし、これらの従来技術では、例えば樹脂の合成工程や調合工程からの対策が必要であったり、生分解性高分子を使用するため非分解性の樹脂構造体デバイスには適用できなかったり、あるいは樹脂構造体の使用状況に応じた特殊な毒性対策のみを求めたりする技術である。そのため、マイクロTASやMEMSデバイスの開発への応用も視野に入れた微小な3次元樹脂構造体を無毒化する方法としては、必ずしも十分ではない。
【0012】
一方、本願発明者らは、上記の特許文献3及び非特許文献3において、光造形された3次元樹脂構造体に対して適切な温度及び時間で加熱処理すれば、培養細胞が接触しても支障がないような生体適合性を付与できる旨を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、光硬化性樹脂には、透明性(可視光透過性)を有し、その光硬化性樹脂で構成された構造物の内部の様子が観察可能であるものが既に提供されており、このような可視光透過性の光硬化性樹脂からなる構造物に生体適合性を付与することができれば、マイクロTAS等に用いる微小構造物として有効に利用できる。
【0014】
しかし、特許文献3及び非特許文献3に開示された手法は、もっぱら光硬化性樹脂を無毒化することを目的としているため、大気中での加熱時間、加熱温度のみをパラメータにしており、材料の可視光透過性について検討していない。又、高分子を無毒化するため、材料のガラス転移点を超える温度で大気中での加熱処理を行っているが、このような加熱処理を行うと樹脂構造体の可視光透過性が著しく低下していた。更に、上記の特許文献1〜2や非特許文献1〜2も光硬化性樹脂の無毒化における材料の可視光透過性について検討していない。
【0015】
そこで本発明は、可視光透過性で微小な3次元樹脂構造体に対し、その可視光透過性を良好に維持しつつ加熱による生体適合化処理を行う処理方法と、この処理により得られる可視光透過性で生体適合性の微小な3次元樹脂構造体を提供することを、解決すべき課題とする。
【0016】
本願発明者は、可視光透過性の樹脂構造体の加熱処理を無酸素条件下で、具体的には不活性ガス中もしくは真空中で行うことにより、その可視光透過性を良好に維持したままで生体適合化が可能であることを突き止めて、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、可視光透過性で微小な3次元樹脂構造体に対する加熱処理を不活性ガス中又は真空中で行うことにより、その3次元樹脂構造体を、可視光透過性を維持しつつ生体適合化させる、樹脂構造体の生体適合化処理方法である。
【0018】
第1発明において「生体適合化」とは、樹脂構造体を生体、生体組織あるいは生細胞に対して無毒化することをいう。より具体的には、例えば培養細胞に対して市販の細胞培養皿と同等の水準の細胞適合性を示し、培養細胞に対する毒性を示さないようにすることをいう。
【0019】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る樹脂構造体の生体適合化処理方法において、3次元樹脂構造体が光硬化性樹脂を用いて光造形されたものである。
【0020】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る樹脂構造体の生体適合化処理方法において、加熱処理を下記(1)又は(2)に該当する環境下で行う。
(1)ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン及び窒素から選ばれる1種以上の不活性気体が90vol.%以上を占める不活性ガス中。
(2)10Pa以下に減圧された真空中。
【0021】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第1発明〜第3発明のいずれかに係る樹脂構造体の生体適合化処理方法において、加熱処理の条件が以下(3)〜(5)に従うものである。
(3)175℃〜250℃の温度での6時間の加熱である。
(4)3次元樹脂構造体を構成する樹脂のガラス転移点以上の温度での加熱である。
(5)3次元樹脂構造体を構成する樹脂の炭化を招かない加熱条件である。
【0022】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに記載の生体適合化処理方法で処理された3次元樹脂構造体であって、可視光透過性を維持し、かつ生体適合化されたものである、生体適合化処理された樹脂構造体である。
【発明の効果】
【0023】
第1発明によれば、可視光透過性で微小な3次元樹脂構造体に対し、その可視光透過性を良好に維持しつつ加熱による生体適合化処理を行う処理方法が提供される。
【0024】
生体適合化処理の対象となる微小な3次元樹脂構造体は、第2発明に規定するように光硬化性樹脂を用いて光造形されたものが特に好適であるが、後述するように、これに限定されない。3次元樹脂構造体が光硬化性樹脂を用いて光造形されたものである場合においても、その3次元樹脂構造体が市販されている細胞培養皿と同等の水準の細胞適合性を持つことが確認され、更に可視光透過性を維持することが示された。従って、無毒化された光硬化性樹脂を内部観察可能な状態で使用することが可能になり、マイクロTASやMEMSデバイス等の分野で新たな応用範囲が拓かれる。
【0025】
不活性ガス中又は真空中で行う加熱処理としては、第3発明の(1)に規定する不活性ガス中、あるいは、第3発明の(2)に規定するような真空中で行う加熱処理が特に好ましい。
【0026】
加熱処理の具体的な条件としては、3次元樹脂構造体を可視光透過性を維持しつつ、生体適合化させるという効果が確保される限りにおいて限定されないが、第4発明の(3)に規定するように、175℃〜250℃の温度での6時間の加熱であることが好ましい。又、第4発明の(4)に規定するように、3次元樹脂構造体を構成する樹脂の熱軟化温度の指標であるガラス転移点以上の温度での加熱も可能である。即ち3次元樹脂構造体が微小であるため、熱処理した際の自重による変形が寸法則によって減少される結果、3次元樹脂構造体の寸法及び構造は、加熱処理の前後でほとんど変化しない。なお、第4発明の(5)に規定するように、加熱処理は、3次元樹脂構造体の可視光透過性を損なわないように、3次元樹脂構造体を構成する樹脂の炭化を招かない加熱温度/加熱時間の範囲内で行う必要がある。
【0027】
第5発明によって、可視光透過性を維持しており、かつ生体適合化された3次元樹脂構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】生体適合化処理された細胞培養容器の透視性を示す写真である。
【図2】生体適合化処理された細胞培養容器の可視光透過性を吸光度を用いて評価した結果を示すグラフである。
【図3】生体適合化処理された細胞培養容器の生体適合性を細胞増殖率を用いて評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0030】
〔樹脂構造体〕
本発明に係る生体適合化処理方法において、処理の対象となる樹脂構造体は、可視光透過性(即ち、透明)で微小な3次元樹脂構造体であり、光造形法等の手法で成形された微細構造を持つ。
【0031】
樹脂構造体の具体例としては、可視光透過性と生体適合性が併せ求められる微小なデバイスが挙げられ、マイクロTASやMEMSデバイスの分野で使用され得るデバイス、例えば、細胞培養チップ、細胞ソーティングチップ、血液分析チップ、PCRチップ、等を例示することができる。
【0032】
(樹脂構造体のサイズ)
3次元樹脂構造体が「微小」であることは、本発明の効果を得るための条件ではなく、3次元樹脂構造体の用途として想定される各種マイクロデバイスの関係から規定しているに過ぎず、従って「微小」の具体的サイズを特段に明示する必要はないが、例えば最長径部の寸法が10cm以下であり、より好ましくは、最長径部の寸法が10cm以下であって、少なくとも一部にx,y,z座標方向の寸法がいずれも1mm未満である成形部分を有するものである。
【0033】
但し、後述する加熱処理において、樹脂構造体をその構成材料のガラス転移点以上に加熱する場合には、寸法則の効果により加熱時の樹脂構造体の寸法変化や変形を防止するために、樹脂構造体の全体がx,y,z座標方向の寸法においていずれも1mm未満であることが好ましい。
【0034】
(樹脂構造体の構成材料)
樹脂構造体としては、元々可視光透過性を有することを条件として、後述する光硬化性樹脂を用いて光造形されたものが代表的であるが、必ずしもこのような樹脂構造体に限定されず、例えば、光硬化性樹脂を含む複合材を構成材料として成形された樹脂構造体も包含される。「光硬化性樹脂を含む複合材」とは、光硬化性樹脂と、シランカップリング剤、両親媒性高分子、ハイドロキシアパタイト等の他種材料とを硬化前に混合してから硬化させた複合材をいう。樹脂構造体としては、更に、光硬化性樹脂を用いた光硬化反応によらずに、公知の各種熱硬化性樹脂を熱硬化させた樹脂構造体や、2種類以上の化合物の反応で硬化させた樹脂構造体も包含される。
【0035】
(光硬化性樹脂)
光硬化性樹脂とは、未硬化状態では液体であるが、紫外線や可視光線等の光を照射することにより重合が開始され、硬化する樹脂のことを言う。
【0036】
一般的に、光硬化性樹脂は、液状のモノマーあるいはオリゴマーに、光重合開始剤、希釈剤、停止剤、光吸収剤、フィラー等を混合したものである。このようなモノマーあるいはオリゴマーとしては、ウレタンアクリレ−ト系、エポキシアクリレ−ト系、アクリレ−ト系、エポキシ系、ビニルエーテル系、オキセタン系が挙げられる。本発明においては、特に主剤をアクリレート、エポキシ、アクリレート・エポキシ複合体、オキセタンからなる群より選択した光硬化性樹脂が好ましい。
【0037】
(光造形法)
光造形法とは、液状の光硬化性樹脂に光を照射して硬化させることにより、3次元構造体を作製する手法である。3次元構造体における任意の形状・構造を形成する手法は限定されないが、一般的には、液状の光硬化性樹脂に光を照射して硬化させ、硬化部分の上に新たな液状の樹脂を積層して順次硬化させていくことで、任意の3次元構造体を作製する手法が挙げられる。このような積層法として、光硬化性樹脂をスキージ方式で1層ごとに形成する方式や、光硬化性樹脂の低粘度液をインクジェットにより噴射して1層ごとに形成する方式を例示することができる。又、多光子吸収の利用によって積層工程を省く光造形法も利用することができる。
【0038】
光造形法は、更に詳細には、光吸収の様式と、光の走査手法と、光硬化性樹脂の積層手法によって区別される。光吸収の様式による分類としては緑〜紫外領域の波長の1光子を吸収して硬化するタイプが一般的であるが、赤外領域のパルスレーザーを照射することにより同時に2個以上の多光子吸収を発生させ、波長以下の微小な分解能で硬化させる多光子吸収マイクロ光造形法もある。光の走査手法による分類としては、集光した点状の光をガルバノミラーや音響光学素子を用いて走査して硬化させる手法、マスクシートや、液晶フィルター、デジタルミラーデバイスにより、平面的に光のパターンを作り出し、面的に露光して硬化させる手法がある。
【0039】
〔生体適合化処理方法〕
本発明の生体適合化処理方法は、可視光透過性で微小な3次元樹脂構造体に対して、不活性ガス中又は真空中で加熱処理を行うことにより、その3次元樹脂構造体を、可視光透過性を維持しつつ生体適合化させる方法である。生体適合化処理を行うに当たり、予め3次元樹脂構造体を1時間程度UVランプ等の紫外線で照射して硬化を促進させておくことが、より好ましい。
【0040】
(加熱処理)
生体適合化処理方法における加熱処理の条件は、3次元樹脂構造体の可視光透過性を維持しつつ生体適合化させるという目的を達成できる限りにおいて限定されない。3次元樹脂構造体を構成する樹脂の種類ごとに生体適合化を達成できる加熱条件が異なり、しかもガラス転移点や樹脂の炭化を招く加熱条件も異なる。又、一般的に、加熱の温度が高温になるほど加熱時間を短縮できるという関係にある。従って、目的を達成できる加熱処理の条件を一律に規定することは困難である。
【0041】
あえて述べれば、加熱処理の条件は、例えば以下の(3)〜(5)に従うものであることが好ましい。
(3)175℃〜250℃の温度での6時間の加熱である。
(4)3次元樹脂構造体を構成する樹脂のガラス転移点以上の温度での加熱である。
(5)3次元樹脂構造体を構成する樹脂の炭化を招かない加熱条件である。
【0042】
3次元樹脂構造体を構成する樹脂の種類によって、以下の(6)〜(8)に従う加熱処理の具体的条件も例示できる。
(6)175℃以上の温度での24時間以上の加熱時間であること。
(7)200℃以上の温度での6時間以上の加熱時間であること。
(8)3次元樹脂構造体を構成する樹脂のガラス転移点よりも50℃以上高い温度での加熱であること。
【0043】
(不活性ガス中又は真空中での処理)
生体適合化処理を不活性ガス中で行う場合において、不活性ガスとしては、限定はされないが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン又は窒素を好ましく用いることができる。あるいは、これらの不活性気体の内の任意の2種類以上の混合ガスを好ましく用いることもできる。これらの1種類の不活性気体又は2種類以上の不活性気体の混合ガスに例えば空気等が僅かに混入していても良いが、その場合でも不活性気体が90vol.%以上を占めることが好ましい。
【0044】
生体適合化処理を真空中で行う場合において、完全な真空を実現することは困難であって、可及的に高い真空度のもとで生体適合化処理を行うことが好ましいが、例えば、100Pa以下に減圧された真空中、より好ましくは10Pa以下に減圧された真空中、特に好ましくは1Pa以下に減圧された真空中での生体適合化処理を例示することができる。
【0045】
〔生体適合化処理された樹脂構造体〕
生体適合化処理された樹脂構造体は、上記の生体適合化処理方法で処理された3次元樹脂構造体であって、その可視光透過性を維持し、かつ生体適合化されたものである。
【0046】
可視光透過性は、樹脂構造体が生体適合化処理前に示していた可視光透過性を必ずしも完全に維持する必要はなく、可視光の少なくとも一部を透過して、マイクロTASやMEMSデバイス等の樹脂構造体の応用デバイスにおいてその内部観察が可能な程度に可視光透過性を維持していれば足りる。
【0047】
又、「生体適合化された」とは、樹脂構造体が生体、生体組織あるいは生細胞に対して無毒化されていることをいう。具体的には、例えば培養細胞に対して市販の細胞培養皿と同等の水準の細胞適合性を示し、培養細胞に対する毒性を示さないことをいう。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されない。
【0049】
〔実施例1:生体適合化処理された樹脂構造体の作製〕
光硬化性樹脂材料SCR751(ガラス転移温度108℃、株式会社ディーメック製)を用いて、光造形法により、外径16mm、内径15mm、壁面高さ2mm、底面厚さ0.8mmであるウェル形状の透明な細胞培養容器を4個(番号1〜4)成形した。
【0050】
番号1の細胞培養容器は、成形後、そのまま未処理とした。番号2〜4の細胞培養容器については、成形後に、それぞれ異なる雰囲気中で200℃、6時間の加熱処理に供した。即ち、番号2の細胞培養容器は大気中で上記の加熱処理に供した。番号3の細胞培養容器は窒素ガス雰囲気中(純度99.9%の窒素ガス)で上記の加熱処理に供した。番号4の細胞培養容器は真空中で上記の加熱処理に供した。真空の実現にはロータリーポンプ方式の真空ポンプ(最大真空到達6.7×10−2Pa)を用いた。
【0051】
〔実施例2:生体適合化処理された樹脂構造体の可視光透過性評価(1)〕
以上の番号1〜4の細胞培養容器を文字列が印刷された白い紙の上に載置し、文字列に対する透視性を比較した写真が図1である。図1の上段に番号1の細胞培養容器を、図1の下段の左側に番号2の細胞培養容器を、図1の下段の中央に番号3の細胞培養容器を、図1の下段の右側に番号4の細胞培養容器を、それぞれ示す。
【0052】
図1より、大気中で加熱処理した番号2の細胞培養容器では、文字列をほとんど透視できないことが分かる。一方、窒素ガス雰囲気中又は真空中で加熱処理した番号3,4の細胞培養容器では、加熱処理していない番号1の細胞培養容器と余り変わらない程度に文字列を透視でき、可視光透過性が良好に維持されていることが分かる。
【0053】
〔実施例3:生体適合化処理された樹脂構造体の可視光透過性評価(2)〕
次に、番号1〜4の細胞培養容器について、吸光度を用いた透明度の評価を行った。吸光度を使用するのは、細胞培養容器における光吸収成分の濃度が吸光度と比例するからである。吸光度はShimazu製のBioSpec1600で測定し、細胞培養容器の底面(厚さ0.8mm)を測定箇所とした。それぞれの吸光度を図2に示す。図2において、図の右側に「真空」と注記したグラフ線が番号4の細胞培養容器についてのもの、「窒素」と注記したグラフ線が番号3の細胞培養容器についてのもの、「空気」と注記したグラフ線が番号2の細胞培養容器についてのもの、「非加熱」と注記したグラフ線が番号1の細胞培養容器についてのものである。
【0054】
図2の結果は図1に示す透視性の比較とほぼ対応しており、番号2の細胞培養容器では大気中での加熱処理によって可視光領域(およそ380〜750nm)において吸光度が増大していることが確認された。又、窒素ガス雰囲気中又は真空中で加熱処理した番号3,4の細胞培養容器では、番号2の細胞培養容器と比較して吸光度の増大が抑制されていることが確認された。
【0055】
〔実施例4:生体適合化処理された樹脂構造体の生体適合性評価〕
番号2〜4の細胞培養容器について、同形状の市販の細胞培養容器をコントロールとして、細胞増殖率(%)を用いた生体適合性の評価を行った。
【0056】
即ち、市販の細胞培養容器と番号2〜4の細胞培養容器にPC12細胞(ラット褐色種由来細胞株)を播種し、48時間後の細胞数を比較したところ、番号2〜4の細胞培養容器は、市販の細胞培養容器と同程度の細胞増殖率を示した。この結果を図3に示す。なお、細胞増殖率は、細胞播種48時間後の細胞密度を細胞播種1時間後の細胞密度で除し100倍した値と定義した。
【0057】
図3において、「TCPS」と表記したグラフは市販の細胞培養容器についての結果である。又、「窒素6h」と表記したグラフは番号3の細胞培養容器についての結果、「大気6h」と表記したグラフは番号2の細胞培養容器についての結果、「真空6h」と表記したグラフは番号4の細胞培養容器についての結果である。因みに「窒素6h」等の表記における「6h」とは、前記したように6時間の加熱処理に供したものであることの注意的な付記である。
【0058】
図3の結果から、前記の特許文献3及び非特許文献3において大気中での加熱処理についてのみ確認されていた光硬化性樹脂の生体(細胞)適合化の効果は、窒素ガス中での加熱処理においても、真空中での加熱処理においても確保されることが示された。
【0059】
〔考察〕
上記の各実施例において、番号3と番号4の細胞培養容器が共に可視光透過性を良好に維持しつつ十分に生体適合化された理由は、直接的には窒素ガス雰囲気中又は真空中で適正な加熱処理に供された点にある。しかし、光硬化性樹脂の加熱処理による無毒化のメカニズム等を考慮すると、「無酸素状態における適正な加熱処理」に供された点に本質的な理由を求めることが可能である。
【0060】
従って、窒素ガス以外の、例えばヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンからなる不活性ガス、あるいは、これらの内の2種類以上の混合からなる不活性ガス中で同様に加熱処理しても、同様な効果が得られることは容易に推察される。
【0061】
更に、本発明に係る生体適合化処理は、光硬化性樹脂の成形体に対して汎用的に適用可能であるため、光硬化性樹脂を含む複合材を構成材料とする成形体はもちろんであるが、熱硬化性樹脂を熱硬化させた成形体や、2種類以上の化合物の反応で硬化させた成形体に対しても適用可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によって、微小な3次元樹脂構造体の可視光透過性を良好に維持しつつ加熱による生体適合化処理を行う処理方法と、この処理により得られる可視光透過性で生体適合性の微小な3次元樹脂構造体が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光透過性で微小な3次元樹脂構造体に対する加熱処理を不活性ガス中又は真空中で行うことにより、その3次元樹脂構造体を、可視光透過性を維持しつつ生体適合化させることを特徴とする樹脂構造体の生体適合化処理方法。
【請求項2】
前記3次元樹脂構造体が光硬化性樹脂を用いて光造形されたものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂構造体の生体適合化処理方法。
【請求項3】
前記加熱処理を下記(1)又は(2)に該当する環境下で行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂構造体の生体適合化処理方法。
(1)ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン及び窒素から選ばれる1種以上の不活性気体が90vol.%以上を占める不活性ガス中。
(2)10Pa以下に減圧された真空中。
【請求項4】
前記加熱処理の条件が以下(3)〜(5)に従うものであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の樹脂構造体の生体適合化処理方法。
(3)175℃〜250℃の温度での6時間の加熱である。
(4)3次元樹脂構造体を構成する樹脂のガラス転移点以上の温度での加熱である。
(5)3次元樹脂構造体を構成する樹脂の炭化を招かない加熱条件である。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の生体適合化処理方法で処理された3次元樹脂構造体であって、可視光透過性を維持し、かつ生体適合化されたものであることを特徴とする生体適合化処理された樹脂構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−31269(P2012−31269A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171467(P2010−171467)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】