説明

樹脂用添加剤及び当該添加剤を含有する重合性組成物

【課題】 樹脂の使用時あるいは成型加工時における熱分解温度を高めることにより樹脂の耐熱性を向上させ、かつ、イオウのような臭気発生へテロ元素を有しない樹脂用添加剤並びに当該樹脂用添加剤を含有する重合性組成物及び樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示される化合物を含有する樹脂用添加剤。
【化1】


(一般式(1)において、R1はアリル基、アラルキル基、アルキル基のいずれかを表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種樹脂組成物の使用時や成型加工時における樹脂の熱分解の防止に有効な樹脂用添加剤並びに当該樹脂用添加剤を含有する重合性組成物及びその重合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂の用途分野で各種樹脂組成物の使用時や成型加工時における耐熱性向上が求められている。使用時における耐熱性では、たとえば、集積回路、発光素子等発熱デバイスの高密度化、電子部品の車載化等、使用環境の広範化、過酷化により耐熱性が求められる。一方、成型加工時では高温粘度低減化による精密溶融成型が重要となってきている。また、プリント基板などの電子部品ではリフローはんだが用いられ、基板樹脂などの耐はんだリフロー性が求められている。また環境保護の観点から樹脂がリサイクルされているが、熱可塑性樹脂の溶融リサイクル性の向上という観点からも、樹脂の耐熱性向上が求められている。
【0003】
使用時、成型加工時いずれにおいても熱分解温度の向上、すなわち熱分解温度を高めることにより耐熱性を高めることができる。一般に、このような樹脂の熱分解温度を高めるには、樹脂組成物に安定剤を添加する方法と樹脂自体を改良する方法が用いられる。
【0004】
安定剤を添加する方法のひとつとして従来、樹脂に混練り等で無機添加剤を加えることが行われてきた(特許文献1)。しかしこの手法では樹脂の透明性、成形性、軽量性、表面平滑性等の物性を損なう欠点がある。従って樹脂の物性を損なうことなく熱分解温度を高める手法が求められてきた。
【0005】
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などの各種酸化防止剤を樹脂に添加することも試みられている。しかし、特に問題となる成型加工時の熱分解温度を高めるには、このような酸化防止剤は効果が少ないといわれている。その原因は、このような酸化防止剤は、樹脂中に生成したパーオキシラジカルを捕捉し、安定化するものであるが、成型加工機内等では、酸素濃度は低いため、熱分解によって生成した炭素ラジカルは酸素と結合してパーオキシラジカルになることなく存在しているからである。よって、加工機内等における安定化を図るためには、炭素ラジカルの安定化を考える必要がある。このような炭素ラジカルにも効果のあるフェノール系酸化防止剤として、住友化学工業社製「スミライザーGM」および「スミライザーGS」が知られている(スミライザーは、住友化学工業社の登録商標)(特許文献2)。
【0006】
このものは、分子内にアクリル基とフェノール基を有し、アクリル基で捕捉された炭素ラジカルが活性なエノレートラジカルとなり、分子内水素結合を通して隣接するフェノール性OH基により安定化されるものである。しかし、この場合も、炭素ラジカルによるポリマーからの水素引き抜きなどの劣化反応が競争的に起こっているため、アクリル基の反応性、ポリマー中でのラジカル捕捉剤の分布状態などが熱分解温度に大きく影響することが知られている。
【0007】
一方、樹脂の熱分解機構についての研究も進められてきた。一般に、樹脂の熱分解は、ポリマー中の弱い結合部分から始まる。加熱に対して樹脂は、自ら分子運動により、外部エネルギーを吸収して緩和するが、この分子運動が最も激しいのは末端である。よって、末端の弱い結合部分から熱分解が起こることが多い。非特許文献1には、ラジカル重合により合成された樹脂の熱分解の引き金は重合停止反応の際の不均化に伴い生成する末端二重結合によることが示されている。すなわち、末端二重結合を有する樹脂はそこが分解開始点となり300℃以下で発熱を伴う分解反応を起こし、熱分解温度を低下させることが明らかにされた。一方、末端二重結合のない樹脂は300℃以下の分解開始点が存在しないため、熱分解温度の向上が見られることも確認された。末端二重結合の有無はDTA測定等による300℃以下の発熱ピークの有無に対応することも明らかになった。そして、通常のラジカル重合では重合停止反応の不均化に伴う末端二重結合が不可避であることも示されている。
【0008】
これらの研究を鑑み、末端基を安定な基に変える方法など樹脂自体を改良する種々の熱分解温度を高める手法の検討もなされてきた。たとえば、非特許文献1は原理的に末端二重結合の残らないイオン重合を提案している。確かにこの手法により、熱分解温度を高めることができる。しかし、イオン重合はその重合条件管理の煩雑さ、適応できる重合性化合物が制限される、更に製造コストが高い等の欠点を有するため、イオン重合自体、スチレン系の一部を除いて工業化されていないのが実情である。
【0009】
特許文献3にはチオール添加系、また非特許文献2にはラクタム/チオール系で熱分解温度向上の提案がある。しかしながらこの手法は生成物にチオール由来の臭気、腐食性が避けられないという欠点を有する。
【0010】
また、活性水素を有するポリフェニレンエーテルやポリブタジエンがラジカル捕捉剤としてポリスチレンを熱安定化することが知られている (特許文献4)。
【0011】
ポリスチレンの熱分解によって生じた炭素ラジカルがポリフェニレンエーテルのベンジル水素、あるいはポリブタジエンのアリル位の水素を引き抜くことにより、ベンジルあるいはアリルラジカルとなり安定化するためと考えられる(非特許文献3)。しかし、これらの方法も熱安定化が十分ではなく、また汎用性のある方法ではない。
【0012】
【特許文献1】特開2007−39675号公報
【特許文献2】特開平6−172602号公報
【特許文献3】特開平9−165486号公報
【特許文献4】特開平6−345935号公報
【非特許文献1】「マクロモレキュールズ (Macromolecules)」、1986 年、第19巻、第2160頁〜2168頁
【非特許文献2】「ポリマー デグラディション アンド スタビリティ (Polymer Degradation and Stability)、2004年、第84巻、第50 5頁〜514頁
【非特許文献3】「ジャーナル オブ アプライド ポリマー サイエンス(J.Appl. Polm.Sci.)、1994年、第53巻、第121頁〜129頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明の目的は、樹脂の使用時あるいは成型加工時における熱分解温度を高めることにより樹脂の耐熱性を向上させ、かつ、イオウのような臭気発生へテロ元素を有しない樹脂用添加剤並びに当該樹脂用添加剤を含有する重合性組成物及び樹脂組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、アントロン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物の存在下で重合させることにより製造された樹脂の熱分解温度が上昇することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明の第1の要旨は、下記一般式(1)で示される樹脂用添加剤に存する。
【0016】
【化1】

【0017】
(一般式(1)において、R1はアリル基、アラルキル基、アルキル基のいずれかを表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。)
【0018】
本発明の第2の要旨は、上記の樹脂用添加剤及び重合性化合物を含有する重合性組成物に存する。
【0019】
発明の第3の要旨は、重合性化合物がラジカル重合性化合物である上記の重合性組成物に存する。
【0020】
本発明の第4の要旨は、上記の重合性組成物を重合してなる樹脂組成物に存する。
【0021】
本発明の第5の要旨は、上記の重合性組成物を熱又は活性エネルギー線により重合させることを特徴とする樹脂組成物の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の効果は、重合、特にラジカル重合によって得られる樹脂の熱分解温度を向上させることのできる樹脂用添加剤を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の樹脂用添加剤は、下記一般式(1)で表される、アントロン骨格を有する(メタ)アクリレート誘導体を有効成分として含有するものである。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の樹脂用添加剤には、溶媒その他の成分が含まれてもよい。なお、本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを総称し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及びメタクリロイルを総称し、(メタ)アクリロイルオキシとは、アクリロイルオキシ及びメタクリロイルオキシを総称したものである。
【0024】
【化2】

【0025】
(一般式(1)において、R1はアリル基、アラルキル基、アルキル基のいずれかを表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。)
【0026】
一般式(1)において、R1で表されるアリル基としては、アリル基、メタリル基、クロチル基が挙げられ、アラルキル基としては、ベンジル基、p−メチルベンジル基、o−メチルベンジル基、p−クロロベンジル基、o−クロロベンジル基、p−メトキシベンジル基、o−メトキシベンジル基、フェネチル基、等が挙げられ、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。
XまたはYで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシルなどが挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基などが挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、o−メチルフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、o−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基、o−ヒドロキシフェノキシ基などが挙げられる。
【0027】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては次の化合物が挙げられる。すなわち、9−アリル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−メタリル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−ベンジル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−フェネチル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−シクロヘキシル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−(2−エチルヘキシル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−(n−ブチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−(i−ブチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−(n−プロピル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−(i−プロピル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−エチル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−メチル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−(2−メトキシエチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−(2−エトキシエチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−(2−ヒドロキシエチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−(2−クロロエチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−アリル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−メタリル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−ベンジル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−フェネチル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−シクロヘキシル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−(2−エチルヘキシル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−(n−ブチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−(i−ブチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−(n−プロピル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−(i−プロピル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−エチル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−メチル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−(2−メトキシエチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−(2−エトキシエチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−(2−ヒドロキシエチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレート、9−(2−クロロエチル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルメタクリレートである。
【0028】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物を、有機ハロゲン化物と反応させ、下記一般式(2)で表される10−置換−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン化合物とする下記第1反応、および、下記一般式(2)で示される10−置換−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン化合物を、アクリル化剤とを反応させる下記第2反応により製造することができる。なお、下記第1反応式を示す構造式における、R1、XおよびYは、下記一般式(2)のものと同じ意味であり、下記第2反応式を示す構造式における、R1、R2、XおよびYは、一般式(1)のものと同じ意味である。
【0029】
【化3】

【0030】
(一般式(2)において、R1はアリル基、アラルキル基、アルキル基のいずれかを表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基のいずれかを表す。)
【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
上記第1反応において原料として用いられる9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物は、通常、9,10−アントラキノン化合物を、触媒の存在下に水素ガスを用いて還元する他、各種の還元剤を用いて還元することによって得られる。使用されるアントラキノン化合物としては、例えば、9,10−アントラキノン、2−メチル−9,10−アントラキノン、1−メチル−0,10−アントラキノン、2−エチル−9,10−アントラキノン、2−(t−ブチル)−9,10−アントラキノン、2−(i−アミル)−9,10−アントラキノン、2−(4−メチルペンチル)−9,10−アントラキノン、2−(4−メチル−3−ペンテニル)−9,10−アントラキノン、2−クロロ−9,10−アントラキノン、1−クロロ−9,10−アントラキノン、2−ブロモ−9,10−アントラキノン、1−ブロモ−9,10−アントラキノン、2,6−ジクロロー9,10−アントラキノン、2,7−ジクロロー9,10−アントラキノン、2−ヒドロキシ−9,10−アントラキノン、1−ヒドロキシ−9,10−アントラキノン、2−メトキシ−9,10−アントラキノン、2−エトキシ−9,10−アントラキノン、2−フェノキシ−9,10−アントラキノン、1−フェノキシ−9,10−アントラキノンなどが挙げられる。
【0034】
アントラキノン化合物の還元反応において使用される還元剤としては、9,10−アントラキノンのカルボニル基を還元するものであれば良く、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム、亜ジチオン酸ナトリウム、過酸化チオ尿素などが挙げられる。また、1,4−ナフトキノンと1,3−ブタジエンとのディールス・アルダー反応によって得られる、1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン、およびそのアルカリ塩である1,4−ジヒドロ−9,10−アントラセンジオールのアルカリ塩は、9,10−アントラキノン化合物の還元剤として有用である。これら還元剤の添加量は、9,10−アントラキノン化合物に対して2モル倍以上で、通常は2〜4モル倍である。
【0035】
アントラキノン化合物の還元反応において使用される触媒は、主として貴金属触媒である。貴金属触媒の具体例としては、パラジウム担持活性炭、パラジウム担持アルミナ、白金担持活性炭などが挙げられる。特に、担持率5重量%のパラジウム担持活性炭が好適である。アントラキノン化合物に対する貴金属触媒の添加量は、通常、0.01〜5重量%の範囲で選ばれる。触媒の添加量が0.01重量%未満であると水素化速度が遅く、5重量%を超えると副反応で芳香環の水素化が併発し好ましくない。触媒のより好ましい添加量は、0.2〜2重量%である。
【0036】
アントラキノン化合物の還元反応を遂行する際に使用できる溶媒は、特に種類が制約されるものではなく、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒、メタノール、エタノールのようなアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのようなエーテル系溶媒が好適である。このほか、水または水と水混和性の溶媒、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフランなどの水溶性エーテル系溶媒などの水との混合溶媒も使用可能である。溶媒中の、9,10−ジヒドロキシアントラセンの濃度は、溶媒に対する溶解度によるが、通常、5〜20重量%程度である。
【0037】
アントラキノン化合物の還元反応を遂行する際の反応温度は、原料の種類、溶媒の種類、溶媒中の原料濃度、触媒の種類、触媒の量などに依存する。通常は、0〜120℃の範囲で選ばれる。反応温度が0℃より低いと反応が遅く、また120℃より高いと副反応が起き易く、製品の純度が低下する。反応時間は、原料の種類、溶媒の種類、溶媒中の原料濃度、触媒の種類、触媒の量、反応温度などに依存する。通常は0.5〜3時間の範囲で選ばれる。得られた、9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物は、通常単離せずに、次の有機ハロゲン化物との反応に供することができる。水素によって還元する際の水素の圧力は、通常、1〜10Paの範囲が好ましい。水素による還元終了後、触媒を濾別して除き、濾液を第1反応における有機ハロゲン化物との反応に供する。
【0038】
上記第1反応おいて使用される有機ハロゲン化物としては、ハロゲン化アリル類、ハロゲン化アラルキル類、ハロゲン化アルキル類などが挙げられる。ハロゲン化アリル類としては、例えば、臭化アリル、臭化メタリル、臭化クロチル、塩化アリル、塩化メタリル、塩化クロチルなどが挙げられる。ハロゲン化アラルキル類としては、臭化ベンジル、塩化ベンジル、臭化フェネチル、塩化フェネチル、臭化−p−ヒドロキシベンジル、臭化−o−ヒドロキシベンジル、臭化−p−メトキシベンジル、臭化−p−クロロベンジルなどが挙げられる。ハロゲン化アルキル類としては、臭化メチル、臭化エチル、臭化−n−プロピル、臭化−i−プロピル、臭化−n−ブチル、臭化−i−ブチル、臭化−n−アミル、臭化−i−アミル、臭化−n−ヘキシル、臭化シクロヘキシル、臭化−2−エチルヘキシル、2−ブロモエタノール、3−ブロモエタノール、塩化メチル、塩化エチル、塩化−n−プロピル、塩化−i−プロピル、塩化−n−ブチル、塩化−i−ブチル、塩化−n−アミル、塩化−i−アミル、塩化−n−ヘキシル、塩化シクロヘキシル、塩化−2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0039】
9,10−アントラヒドロキノン化合物に対する有機ハロゲン化物の添加モル比率は、1.0〜3.0の範囲とするのが好ましい。前者に対する後者(有機ハロゲン化物)の添加モル比率が1.0未満では、9,10−アントラヒドロキノン化合物が未反応のままで残り、3.0を超えると、生成する10−置換−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン化合物の反応液に対する溶解度が高くなり、反応生成物から結晶化し難くなり収率が低下する。特に好ましい前者に対する後者の添加モル比率は、1.2〜2.0の範囲である。
【0040】
上記第1反応での反応温度は、原料の種類、溶媒の種類、溶媒中の原料濃度、触媒の種類、触媒の量などに依存する。通常は、0〜100℃の範囲で選ばれる。反応温度が0℃より低いと反応速度が遅すぎて、反応に時間がかかりすぎ、100℃より高いと、副反応が起きて生成物の純度が低下する。特に好ましい反応温度は、20℃〜60℃である。反応時間は、原料の種類、溶媒の種類、溶媒中の原料濃度、触媒の種類、触媒の量などに依存し、通常は0.5〜3時間の範囲で選ばれる。反応終了後は、反応液に貧溶媒、例えば水を加え、析出した結晶またはオイル状物質を取り出し、アルコールに溶解し、冷蔵庫などの冷所中に静置して結晶化させる。
【0041】
第2反応では、第1反応で得られた10−置換−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン化合物を、塩基性化合部物の存在または非存在下、溶媒の存在または非存在下で、塩化アクリロイルまたは塩化メタクリロイルと反応させることにより、相当する9−置換−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート化合物が得られる。第2反応において、原料として使用できるものは、第1反応において、アントラキノン化合物を還元した後、有機ハロゲン化物と反応させて得られた、10−置換−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン化合物である。
【0042】
第2反応で原料として使用できる化合物としては、例えば、次の化合物が挙げられる。すなわち、10−アリル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−メタリル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−クロチル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−ベンジル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−フェネチル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(p−メチルベンジル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(o−メチルベンジル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(p−クロロベンジル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(o−クロロベンジル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−メチル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−エチル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(n−プロピル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(i−プロピル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(n−ブチル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(i−ブチル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(n−アミル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(i−アミル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(n−ヘキシル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−シクロヘキシル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(2−エチルヘキシル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オンなどである。
【0043】
第2反応を遂行する際、10−置換−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン化合物に対する、塩化アクリロイルまたは塩化メタアクリロイルの添加モル比は、1.0〜3.5の範囲で選ばれる。前者に対する後者(アクリル化剤)の添加モル比率が1.0未満では、未反応のヒドロキシ化合物が残り、また添加比率が3.5を超えると、第2反応で使用した塩化アクリロイルまたは塩化メタアクリロイル自体が重合するため、目的物の9−置換−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート化合物の分離が困難で、目的物の純度が低下するので好ましくない。
【0044】
第2反応を塩基の存在下で遂行する場合、使用できる塩基は、有機塩基、無機塩基のいずれでもよく、これらの混合物であってもよい。有機塩基の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、ピリジン、α−ピコリン、γ−ピコリンなどが挙げられる。無機塩基の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。塩化アクリロイルまたは塩化メタアクロイルに対する塩基の添加モルは、好ましくは1.0〜3.5である。前者に対する後者(塩基)の添加モル比が1.0未満では、ヒドロキシ化合物が未反応のまま残存し、3.5を超えると、生成物の反応液に対する溶解性が高くなって結晶化し難くなるので好ましくない。添加モル比のより好ましい範囲は、1.0〜1.5である。
【0045】
第2反応を溶媒の存在下で遂行する場合、使用できる反応溶媒としては、塩化アクリロイルまたは塩化メタアクリロイルなどと反応しないものであれば、特に種類を選ばない。具体的には、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、エチルベンゼン、i−プロピルベンゼン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、メチルナフタレン、クロルナフタレンなどの芳香族系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロルエタン、1,2−ジクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒などが挙げられる。溶媒に対する反応物の濃度は、特に制限はなく、溶媒に溶解し難い場合には、反応物をスラリー状態に分散させて反応させることもできる。
【0046】
反応温度は、塩基の種類、塩基の添加量、反応溶媒の種類などに依存する。通常は、0〜80℃の範囲で選ぶのが好ましい。温度が0℃以下であると、反応速度が遅く時間がかかりすぎ、また80℃以上であると、塩化アクリロイルまたは塩化メタアクリロイル自体の重合が進行し、生成物の純度が低下するため好ましくない。より好ましい反応温度は、20〜50℃の範囲である。
【0047】
(樹脂用添加剤)
本発明の樹脂用添加剤は他の化合物、組成物、資材に配合したり、施すことによって被配合物の熱分解温度を高めることができ、樹脂の熱分解を防止する熱分解防止剤として作用するものである。特に、樹脂を調製する際に、重合性組成物中に本発明の樹脂用添加剤をあらかじめ配合しておくことが望ましい。本発明のアントロン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物は、分子内に(メタ)アクリロイルオキシ基を持ち、その基の反応性、あるいは他化合物、他資材と親和性等の化学特性を活用することにより、組成物、重合物中での固定化が可能であり、単に添加した場合と異なりブリードアウト防止も期待できる。反応性としては(メタ)アクリロイルオキシ基固有の反応を活用することができる。たとえば重合反応、マイケル付加反応、ディールス・アルダー反応等が挙げられる。化学特性の中でも、反応性、特に重合反応性を用いることが好ましい。用いる重合機構としては、ラジカル重合、イオン重合等の連鎖重合が好ましい。特にラジカル重合が好ましい。通常、以下で述べる重合性化合物と配合して重合性組成物として用いることができる。
【0048】
本発明の化合物が樹脂の熱分解温度を高める作用機構は明確ではないが、樹脂中の高分子鎖に取り込まれた本発明の化合物が、熱分解によって生じた炭素ラジカルをナフトキシラジカルとして、ラジカルを安定化するためではないかと推測している。なお、本発明の樹脂用添加剤は、熱分解防止剤としての作用を有するものであるが、重合物の屈折率を高めたり、芳香環の導入による難燃性の向上、機械的強度の向上といった作用も期待されるものである。
【0049】
(重合性化合物)
本発明の樹脂用添加剤は重合性の化合物に適用できる。重合性化合物とは、本発明の一般式(1)で表される樹脂用添加剤以外の重合性化合物であり、少なくとも1つのエチレン不飽和基を有する化合物のことをいう。例えば、(メタ)アクリレート化合物、脂肪酸ビニル化合物、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物、環状オレフィン、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。これらは単独で使用しても複数併用してもよい。
【0050】
重合性化合物中、(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物、脂肪酸ビニル化合物は共重合性が良好なので良く用いられる。中でも、(メタ)アクリレート化合物とスチレンが好ましい。
【0051】
さらに樹脂に耐熱性が求められ場合、熱分解温度が高いとともに、熱変形を開始する温度が高いことが要求される場合が多く、特に実用上は、温水や蒸気で変形しないことが求められる。一方、この樹脂の熱変形はガラス転移点(Tg)近傍で開始することも知られている。この観点から、温水に耐えうる樹脂のガラス転移点は70℃以上であることが好まく、90℃以上であることがより好ましい。工業的に生産されている、そのような重合性化合物はメチルメタクリレート(樹脂のガラス転移温度:105℃(プラスチック・機能性高分子材料辞典(プラスチック・機能性高分子材料辞典編集委員会、2005年)866ページ))とスチレン(樹脂のガラス転移温度:100℃(プラスチック・機能性高分子材料辞典(プラスチック・機能性高分子材料辞典編集委員会、2005年)866ページ))が挙げられ、好ましく用いられる。
【0052】
中でも(メタ)アクリレート化合物は対候性が優れ、耐熱性と機械特性のバランスが良好なため特に好ましい。
【0053】
(メタ)アクリレート化合物としては、具体的に次の化合物が挙げられる。すなわち、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート化合物、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、トリシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
【0054】
さらに、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートのトリ(メタ)アクリレート化合物、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。これら(メタ)アクリレート化合物の中でモノ(メタ)アクリレート化合物、ジ(メタ)アクリレート化合物が好ましく用いられる。特にメチルメタクリレートが好ましい。
【0055】
脂肪酸ビニル化合物としては、酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、へキサン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられる。
【0056】
ビニル化合物としては、塩化ビニル、酢酸アリル、アリルアルコール、アリルベンゼン、シアン化アリル等のアリル化合物、シアン化ビニル、ビニルシクロヘキサン、ビニルメチルケトン、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン等が挙げられる。ビニリデン化合物としては塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等が挙げられる。これらビニル化合物のなかでスチレンが好ましく用いられる。
【0057】
ビニルエーテル化合物としては、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、シクロヘキサンモノビニルエーテル、エチルシクロヘキサノールビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシペンチルビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル等が挙げられる。
【0058】
また、上記重合性化合物に加えて、分子内に重合性不飽和二重結合を有する、比較的分子量の大きな化合物(オリゴマー、ポリマー)も本発明の重合性化合物として用いることができる。具体的にはマクロモノマー、不飽和ポリエステル、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリブテン等があげられる。
【0059】
(重合性組成物)
樹脂用添加剤の重合性組成物中の含有量は下記数式(3)で表される。重合性組成物中樹脂用添加剤の含有量は重合性化合物の種類にもよるが、0.1〜50%が好ましく、0.2〜25%がより好ましく、0.3〜15%が最も好ましい。0.1%未満では、十分な効果が発揮できず、反対に50%を超過してもそれ以上の効果は発現しない。なお、樹脂用添加剤配合モル量は、樹脂用添加剤中の有効成分である上記一般式(1)で示される化合物のモル量であり、以下の記載において、樹脂用添加剤の含有量については、同様に有効成分である上記一般式(1)で示される化合物の量を基準とする。
【0060】
【数1】

【0061】
(添加剤)
本発明の重合性組成物は、さらに必要に応じて各種添加剤を含有してもよい。例えば、顔料、染料、タルク、石膏及びシリカ等の無機質充填剤;ヒンダードフェノール系や亜リン酸エステル系等の酸化防止剤;増感剤、難燃化剤、難燃化助剤、離型剤、帯電防止剤、重合禁止剤等が挙げられる。
【0062】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂用添加剤を含有する重合性組成物を重合させることによって樹脂組成物を得ることができる。
【0063】
また、本発明の樹脂用添加剤の有効成分は単独で重合させることもできるので、当該樹脂用添加剤の重合物を他の樹脂とブレンドしたり、アロイ化等することにより、樹脂用添加剤を含有する樹脂組成物を調製することもできる。
【0064】
この場合における、樹脂用添加剤の樹脂組成物中の含有量は下記数式(4)で表される。樹脂組成物中樹脂用添加剤の含有量は重合性化合物の種類にもよるが、0.1〜50%が好ましく、0.2〜25%がより好ましく、0.3〜15%が最も好ましい。0.1%未満では、十分な効果が発揮できず、反対に50%を超過してもそれ以上の効果は発現しない。
【0065】
【数2】

【0066】
なお、数式(4)中での「単位」なる語句は、樹脂組成物中の樹脂用添加剤や重合性化合物の重合後の対応する残基の単位を示し、樹脂用添加剤については、樹脂用添加剤中の有効成分である上記一般式(1)で示される化合物に対応する残基の量を用いる。
【0067】
数式(4)式の樹脂組成物中の樹脂用添加剤の含有量は、実施例の項で後述する「樹脂組成物中樹脂用添加剤含有量測定法」により求めることができる。
【0068】
(熱分解温度)
本発明の樹脂組成物中の樹脂用添加剤の含有量を好ましい範囲に制御することにより、無配合のものに対して樹脂組成物の熱分解温度を5℃以上、好ましくは、10℃以上、より好ましくは15℃以上向上できる。
【0069】
熱分解温度の数℃程度の向上でも樹脂を溶融再成型する際の焼け、フィッシュアイ、分子量変化等の樹脂の劣化を防止抑制することができ工業的に有用である。さらに熱分解温度の数℃程度の向上でも熱分解温度よりはるかに低い使用時温度下での耐久性が向上することも期待できる。
【0070】
なお、本発明での熱分解温度は実施例の項で後述する「熱分解温度測定法」で求めることができる。
【0071】
(重合開始エネルギー源)
重合開始のエネルギー源として、開始反応のエネルギーを与えるもの用いることができる。具体的なエネルギー源としては熱及び/又は光、電子線(EB)、マイクロ波、放射線等の活性エネルギー線が挙げられ、用いるエネルギー源に応じて、熱重合、活性エネルギー線重合(光重合、電子線重合、マイクロ波重合、放射線重合)等と呼ばれる。またそれぞれの重合に際して重合開始剤や増感剤を用いることができる。
【0072】
熱重合の場合、用いる重合性化合物、様態にもよるが、重合に用いる温度範囲は通常−20〜200℃で、好ましくは0〜150℃、より好ましくは10〜120℃である。
【0073】
さらに熱重合の一種として酸化還元(レドックス)開始剤(後述)を用いるレドックス重合が挙げられる。この際、用いられる温度範囲は通常の熱重合より低く、−40〜100℃で、好ましくは−20〜80℃、より好ましくは0〜60℃である。
【0074】
光重合は、照射する光としては紫外線、可視光線、赤外線等を用いることができる。光ラジカル重合開始剤あるいは増感剤を用いることもできる。紫外線、可視光線の場合具体的には、たとえば300〜800nmの波長範囲の光線である。光源としては、300〜800nmの範囲の波長の光線を照射できるLED(発光ダイオード)やランプを使用する。LEDとしては、UV−LED、青色LED、白色LED等が挙げられる。ランプとしては、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0075】
電子線重合は電子線照射が行われる。電子線照射には、前記の電子線重合化合物に作用し重合性物質の重合を起こすことができる方法であれば、特に制限なく使用することができる。照射する電子線量は、吸収線量として1から300kGy程度の範囲で調節するのが望ましい。1kGy未満では十分な照射効果が得られず、300kGyを超えるような照射は基材を劣化させる恐れがあるため好ましくない。電子線の照射方法としては、例えばスキャニング方式、カーテンビーム方式、ブロードビーム方式などが用いられ、電子線を照射する際の加速電圧は、照射する側の基材の厚さによりコントロールする必要があるが、20から100kV程度が適当である。
【0076】
マイクロ波重合はStraussら(Aust. J. Chem.,48,1665〜1692(1995))の公知の手法を用いることが出来る。マイクロ波は、マイクロ波技術において既知の種々の方法のいずれかによって発生させることができる。一般に、これらの方法は、マイクロ波発生源として作用するクライストロンまたはマグネトロンに依存している。一般に、発生の周波数は約300MHz〜30GHzの範囲であり、対応する波長は約1m〜1mmである。理論的には、この範囲のいずれの周波数も、効果的に使用することができるが、約850〜950MHzまたは約2300〜2600MHzを包含する商業的に利用可能な範囲の周波数を使用するのが好ましい。
【0077】
放射線重合はγ線、X線、α線、β線を照射して重合を行う。通常、コバルト60のγ線照射が用いられることが多い。
【0078】
更に、重合開始のエネルギー源を併用することもできる。たとえば電子線と赤外線の併用等である。
【0079】
また、熱重合以外は通常、常温近傍で重合することが多いが、加熱しながら実施することも可能である。この場合重合の促進が期待できる。
【0080】
(重合開始剤)
上記重合開始エネルギー源に対してそれぞれ重合開始剤を用いることができる。特に熱重合には熱重合開始剤、活性エネルギー線重合のうち特に光重合には光重合開始剤を用いることが一般的である。
【0081】
(熱重合開始剤)
熱重合に用いる重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート類、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のアルキルパーエステル類、過酸化水素等のパーオキシド(過酸化物)、ジチオカーバメート等のイオウ化合物等が挙げられる。
【0082】
また酸化剤と還元剤を反応させて用いるレドックス重合開始剤も用いることができる。
【0083】
酸化剤としては、上記過酸化物の他、分子状酸素、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、セリウム(IV)塩のような酸化性金属塩、Cl2、Br2、I2等のハロゲン分子、四塩化炭素、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化合物等が挙げられる。
【0084】
還元剤としては、硫酸鉄、硫酸銅等の金属化合物、ジメチルアニリン等のアミン化合物、アスコルビン酸(ビタミンC)等が挙げられる。中でも過酸化水素/アスコルビン酸、過酸化水素/鉄塩等の組み合わせが好ましく用いられる。
【0085】
(光重合開始剤)
用いることのできる光重合開始剤としてはベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類等が挙げられる。有機合成化学協会誌66,458(2008)等公知文献に紹介されている光重合開始剤も用いることができる。
【0086】
また、具体的には、市場より、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティケミカルズ社製イルガキュア184、イルガキュアはチバスペシャリティケミカルズ社の登録商標)、(2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−(4−モルフォリニル)−1−プロパノン)(イルガキュア907)、またビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−ジフェニル−ホスフィンオキサイド(イルガキュア819)等のアシルホスフィンオキサイド化合物;ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(イルガキュア784)等のチタノセン化合物;6,12−ビス(トリメチルシリルオキシ)−1,11−ナフタセンキノン等のナフタセンキノン化合物等を容易に入手出来る。また、これらは、単独又は2種以上を混合して使用しても良い。
【0087】
なお、一般に前記の熱重合開始剤は光重合開始剤として用いることも可能である。
【0088】
重合開始剤の使用量は、本発明の樹脂用添加剤と他の重合性化合物の合計に対して0.1〜5.0重量%の範囲、好ましくは0.2〜3.0重量%、より好ましくは0.3〜1.0重量%である。0.1重量%未満だと重合速度が遅く、効率が悪く、一方5.0重量%を超えると、製造した樹脂の耐熱性が低下、臭気の発生、着色、白濁等、物性が悪化するため好ましくない。
【0089】
(重合様態)
重合様態はバルク、溶液、分散、エマルション、懸濁状態で行うことができる。使用できる溶媒としては、重合性化合物を溶解しそれ自身重合の素反応(開始、成長、連鎖移動、停止)に関与しないものが好ましい。具体的にはトルエン、キシレン等の芳香族、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のカルボン酸エステル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル等が挙げられる。
【0090】
縣濁重合に用いられる媒体としては重合性化合物を溶解しないものが選ばれる。具体的には水あるいはヘキサン等の炭化水素が挙げられる。
【0091】
また、重合は事実上空気存在下でも可能な場合があるが、通常酸素による重合阻害を避けるため、窒素やアルゴン等の不活性ガス存在下ですることが好ましい。
【0092】
本発明の樹脂用添加剤並びに当該樹脂用添加剤を含有する重合性組成物及び樹脂組成物は耐熱性の求められる樹脂の用途に好ましく用いることができる。
【0093】
具体的には自動車等の車両用部品、家電等の電気部品、食器等の日用品、包装用品等が挙げられる。
【実施例】
【0094】
(熱分解温度測定法)
粉末にした重合物10mgの試料を示差熱・熱重量同時測定装置(島津製作所製 DTG−50)にて窒素雰囲気(窒素流量:100ml/分)、昇温速度10℃/分での5%重量減温度を求める。
【0095】
(樹脂組成物中樹脂用添加剤の含有量測定法)
樹脂組成物を溶媒に溶解して、紫外線分光光度計にて樹脂用添加剤中の有効成分である上記一般式(1)で示される化合物の特性吸収ピーク強度を測定し、あらかじめ同様に測定していた既知濃度の当該化合物の特性吸収ピーク強度と比較して、樹脂組成物中の樹脂用添加剤含有量を求める。
測定した特性吸収ピーク:
9−ベンジル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−(n−プロピル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート、9−シクロヘキシル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート=270nm
【0096】
生成物の確認は下記の機器による測定により行った。
(1)融点:ゲレンキャンプ社製の融点測定装置、型式MFB−595(JIS K0064に準拠)
(2)核磁気共鳴装置(NMR):日本電子社製、型式GSX FT NMR Spectorometer
(3)赤外線(IR)分光光度計:日本分光社製、型式IR−810
(4)紫外線(UV)分光光度計:島津製作所製、型式UV−2200
【0097】
(合成例1)9−ベンジル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレートの合成:
<第1反応>
攪拌機、温度計、原料仕込み口を装備した容量が100mlのオートクレーブに、水18g、9,10−アントラキノン2.4g(11.4ミリモル)、1,4,4a,9a―テトラヒドロアントラキノン2.5g(11.4ミリモル)、水酸化ナトリウム1g(25ミリモル)を仕込み、攪拌しつつ、窒素雰囲気下、110℃のオイルバスに浸漬し1時間加熱した。1時間経過後、オートクレーブを室温まで冷却し、9,10−アントラセンジオールのジナトリウム塩の深紅な水溶液20mlを得た。
次に、攪拌機、温度計を装備した容量が300mlの三口フラスコに、上の反応で得られた9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩20mlの水溶液(アントラキノン換算で20重量%、22.6ミリモル)を仕込んだ。フラスコ内容物を攪拌しつつ、窒素雰囲気下、メタノール26mlを加え、最後に臭化ベンジル3.8g(28ミリモル)のメタノール4ml溶液を仕込んだ。フラスコ内温を23℃に調節しながら、攪拌を継続したところ、次第に反応生成物の析出が認められた。内温を23℃に維持しならが、2時間反応させた後、フラスコ内のスラリーに水20mlを加えて良く攪拌した。ついで、スラリーをロータリーエバポレーターに移し、これによってスラリー量を、最初の量の2/3程度になるまで減圧濃縮した。濃縮によって沈殿した結晶を吸引濾過し、水洗いし、乾燥して、無色の結晶を5.97g(19.7ミリモル)得た。原料の9,10−アントラヒドロキノンに対する生成物の収率は、87mol%であった。
【0098】
得られた化合物の分析結果は以下の通りであり、1H−NMR、IRより化合物の構造を同定した。無色の結晶は、10−ベンジル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オンであることが確認された。
(1)融点:142〜144℃。
(2)IR(KBr,cm−1):3360、3060、3030、2910、1668、1645、1595、1450、1370、1320、1280、1170、1025、925、780、762、698、694。
(3)1H−NMR(CDCl3,270MHz):δ2.60(s,1H)、3.25(s,2H)、6.14(d,J=8Hz,2H)、6.90(t,J=8Hz,2H)、7.06(t,J=8Hz,1H)、7.46(t,J=8Hz,2H)、7.68(t,J=8Hz,2H)、7.90(t、J=8Hz,2H)、8,04(t,J=8Hz,2H)。
【0099】
<第2反応>
攪拌機、温度計を装備した容量が100mlの四つ口フラスコに、上記第1反応で得られた10−ベンジル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オンを2.0g(6.7ミリモル)入れ、次いでアセトニトリル30ml、トリエチルアミン2.0g(19.9ミリモル)を仕込んだ。四つ口フラスコを氷浴に浸し、フラスコの内容物を攪拌・混合した後、塩化アクリロイル1.8g(19.9ミリモル)を、アセトニトリル10mlに溶解した溶液として仕込み、仕込み後に室温で3時間攪拌を継続した。このフラスコに純水20mlを加え、10分間攪拌を継続した後、さらに飽和食塩水40ml、酢酸エチル80mlを加えた。得られた反応生成物に純水20mlを加えて洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返した。純水によって洗浄した後の液から、有機層を分離した。分離した有機層を濃縮して得られた油状物質を、ヘキサン、酢酸エチルを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィー法によって精製し、白色結晶の9−ベンジル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート0.9g(2.5ミリモル)を得た。生成物の10−ベンジル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オンに対する収率は、37mol%であった。
【0100】
得られた化合物の分析結果は以下の通りであり、1H−NMR、IRより化合物の構造を同定した。白色結晶は9−ベンジル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレートであることが確認された。
(1)融点:133〜134℃。
(2)IR(KBr,cm−1):690、975、1030、1170、1280、1600、1650、1720。
(3)1H−NMR(CDCl3,270MHz):δ3.43(s,2H)、5.93(dd,J1=2Hz,J2=10Hz,1H)、6.15(d,J=8Hz,2H)、6.28(dd,J1=10Hz,J2=17Hz,1H)、6.47(dd,J1=2Hz,J2=10Hz,1H)、6.83−7.68(m,9H)、8.12(dd,J1=1Hz,J2=8Hz,2H)。
【0101】
(合成例2)9−(n−プロピル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレートの合成:
<第1反応>
攪拌機、温度計、原料仕込み口を装備した容量が100mlのオートクレーブに、9,10−アントラキノン2.4g(11.4ミリモル)、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン2.5g(11.4ミリモル)、水酸化ナトリウム1g(25ミリモル)、水18gを仕込み、攪拌しつつ、窒素雰囲気下、110℃のオイルバスに浸漬し1時間加熱した。1時間経過後、オートクレーブを室温まで冷却し、9,10−アントラセンジオールのジナトリウム塩の深紅な水溶液20mlを得た。
次に、攪拌機、温度計を装備した容量300mlの三口フラスコに、上の反応で得られた9,10−ジヒドロキシアントラセンのナトリウム塩20mlの水溶液(アントラキノン換算で20重量%、22.6ミリモル)を窒素雰囲気下仕込み、次いでメタノール26mlを添加し、最後に臭化−n−プロピル3.4g(27.6ミリモル)のメタノール4ml溶液を仕込んだ。反応液の温度を23℃に調節しつつ、攪拌を継続すると反応生成物の析出が認められた。内温を23℃に維持しならが、2時間反応させた後、フラスコ内のスラリーに水20mlを加えて良く攪拌した。スラリー中に沈殿した結晶を吸引濾過、水洗い、乾燥し、無色の結晶を4.64g(18.4ミリモル)得た。生成物の9,10−アントラヒドロキノンに対する収率は、81mol%であった。
【0102】
得られた化合物の分析結果は以下の通りであり、1H−NMR、IRより化合物の構造を同定した。無色結晶は10−(n−プロピル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オンであることが確認された。
(1)融点:172〜174℃。
(2)IR(KBr,cm−1):3260、3060、2950、2930、1660、1596、1450、1314、1280、1034、1020、922、772、696。
(3)1H−NMR(CDCl3,270MHz):δ1.66(t,J=7Hz,3H)、1.64−1.76(m、2H)、1.96−2.06(m,2H)、2.50(s,1H)、7.47(t,J=8Hz,2H)、7.68(t,J=8Hz,2H)、7.92(d,J=8Hz,2)、8.24(d,J=8Hz,2H)。
【0103】
<第2反応>
攪拌機、温度計を装備した容量が100mlの四つ口フラスコに、上記第1反応で得られた10−(n−プロピル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン1.0g(4.0ミリモル)を仕込み、次いでアセトニトリル15ml、トリエチルアミン1.2g(11.8ミリモル)を仕込んだ。四つ口ラスコを氷浴中に浸漬し、フラスコの内容物を攪拌・混合した後、塩化アクリロイル1.0g(11.0ミリモル)を、アセトニトリル5mlに溶解した溶液として添加し、室温で3時間攪拌を継続した。このフラスコに純水10mlを加え、10分間攪拌を継続した後、さらに飽和食塩水20ml、酢酸エチル40mlを加えた。得られた反応生成物に純水10mlを加えて洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返した。純水によって洗浄した後の液から、有機層を分離した。分離した有機層を濃縮して得られた油状物質を、ヘキサン、酢酸エチルを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィー法によって精製し、白色結晶の9−プロピル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート0.5g(1.6ミリモル)を得た。生成物の10−(n−プロピル)−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オンに対する収率は、42mol%であった。
【0104】
得られた化合物の分析結果は以下の通りであり、1H−NMR、IRより化合物の構造を同定した。白色結晶は9−(n−プロピル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレートであることが確認された。
(1)融点:77〜78℃。
(2)IR(KBr,cm−1):700、1185、1318、1598、1660、1727。
(3)1H−NMR(CDCl3,270MHz):δ0.66(t,J=5Hz,2H)、0.63−0.78(m,2H)、2.17−2.23(m,2H)、5.87(dd,J1=1Hz,J2=11Hz,1H),6.19(dd,J1=11Hz,J2=17Hz,1H)、6.38(dd,J1=1Hz,J2=17Hz,1H)、7.45−7.66(m,6H)、8.31(dd,J1=1Hz,J2=8Hz,2H)。
【0105】
(合成例3)9−シクロヘキシル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレートの合成:
<第1反応>、
攪拌機、温度計を装備した容量が100mlのオートクレーブに、9,10−アントラキノン2.4g(11.4ミリモル)、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン2.5g(11.4ミリモル)、水酸化ナトリウム1g(25ミリモル)、水18gを仕込み、攪拌しつつ、窒素雰囲気下、110℃のオイルバスに浸漬し、1時間加熱した。1時間経過後、オートクレーブを室温まで冷却し、9,10−アントラセンジオールのジナトリウム塩の深紅な水溶液20mlを得た。
窒素雰囲気下、得られた9,10−ジヒドロキシアントラセンのナトリウム塩20mlの水溶液(アントラキノン換算で20重量%、22.6ミリモル)にメタノール16mlを添加し、ついで臭化シクロヘキシル4.4g(27.3ミリモル)のメタノール4ml溶液を添加した。50℃に調節した油浴に浸漬して3時間攪拌を継続した。3時間経過後、反応液を室温まで冷却し、析出した結晶状生成物を吸引濾過し、水洗いして乾燥し、薄い肌色の粉末5.68g(19.2ミリモル)を得た。生成物の9,10−アントラヒドロキノンに対する収率は、84mol%であった。
【0106】
得られた化合物の分析結果は以下の通りであり、1H−NMR、IRより化合物の構造を同定した。薄い肌色の粉末は10−シクロヘキシル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オンであることが確認された。
(1)融点:153〜154℃。
(2)IR(KBr、cm-1):3440、2910、2845、1640、1594、1450、1340、1320、1260、1162、1022、945、922、890、762、758、695、618、522、504。
(3)1H−NMR(CDCl3,270MHz):δ0.52(2H,dt,J1=J2=12Hz)、0.80(1H,t,J=12Hz)、1.01(2H,dt,J1=J2=12Hz)、1.40−1.80(5H,m)、7.48(2H,t、J=9Hz)、7.63(2H,t,J−9Hz)、7.88(2H,d,J=9Hz)、8.17(2H,d,J=9Hz)。
【0107】
<第二反応>
攪拌機、温度計を装備した容量が100mlの三口フラスコに、10−シクロヘキシル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オン2.1g(7.2ミリモル)のアセトン28ml溶液を仕込み、そこに塩化アクリロイル1.9g(21.0ミリモル)を加え、ついで、反応液を氷浴に浸漬して冷却し、そこにトリエチルアミン3.0g(29.6ミリモル)のアセトン12ml溶液を仕込んだ。フラスコ内は、トリエチルアミンを添加した後直ちに、白い結晶の析出が観察された。フラスコ内容物を氷浴中で1時間攪拌した後、水10ml加え、沈殿物を溶解させた。さらに、水を20ml加えスラリー状にし、実施例1におけると同様の手順でスラリーを濃縮したところ、結晶が析出した。析出した結晶を吸引濾過し、水洗,乾燥して、薄い黄色の結晶600mg(1.7ミリモル)を得た。生成物の10−シクロヘキシル−10−ヒドロキシアントラセン−9(10H)−オンに対する収率は、24mol%であった。
【0108】
得られた化合物の分析結果は以下の通りであり、1H−NMR、IRより化合物の構造を同定した。薄い肌色の粉末は9−シクロヘキシル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレートであることが確認された。
(1)融点:141〜142℃。
(2)IR(KBr、cm−1):2925、2850、1730、1660、1595、1400、1316、1270、1180、981、922、800、704。
(3)1H−NMR(CDCl3,270MH):δ0.61(2H,dt,j1=J2=11Hz)、0.86(1H,t,J=11Hz)、1.08(2H,dt,j1=J2=11Hz)、1.46−1.72(5H,m)、5.93(1H,d,J=11Hz)、6.28(1H,dd,J1=11Hz,J2=17Hz)、6.43(1H,d,J=17Hz)、7.46(2h、t、J=9Hz)、7.59(2h、t、J=9Hz)、7.82(2H,d,J=9Hz)、8.28(2H,d,J=10Hz)。
【0109】
(実施例1)
樹脂用添加剤として、合成例1と同様にして合成した9−ベンジル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート4.6mg(0.01ミリモル)、重合性化合物としてメタクリル酸メチル396mg(3.96ミリモル)および熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル10mg(0.06ミリモル)を30mlの試験管中のトルエン2gと混合させ、2分間窒素置換した後、密封してオイルバスにて65℃で5時間加温した。加温後、試験管中の溶液を室温まで冷却し、室温のメタノール30mlへ攪拌下少しずつ投入して再沈殿させた。沈殿物をロ別し、60℃で4時間減圧乾燥させ表1の収率で重合物を得た。上記「樹脂組成物中樹脂用添加剤含有量測定法」により、重合物中の樹脂用添加剤の含有量を求めた。また、上記「熱分解温度測定法」にて熱分解温度を求め、それぞれ表1に示した。
【0110】
(実施例2〜4)
樹脂用添加剤及びメタクリル酸メチルの配合量を表1のように変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、その結果を表1に示す。
【0111】
(比較例1)
重合性化合物としてメタクリル酸メチル400mg(4.06ミリモル)および熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル10mg(0.06ミリモル)を30mlの試験管中のトルエン2gと混合させ、2分間窒素置換した後、密封してオイルバスにて65℃で5時間加温した。加温後、試験管中の溶液を室温まで冷却し、室温のメタノール30mlへ攪拌下少しずつ投入して再沈殿させた。沈殿物をロ別し、60℃で4時間減圧乾燥させ表1の収率で重合物を得た。上記「熱分解温度測定法」にて熱分解温度を求め、表1、表2、表3に示した。
【0112】
【表1】

【0113】
(実施例5)
樹脂用添加剤として、合成例2と同様にして合成した9−(n−プロピル)−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレートの合成4.4mg(0.01ミリモル)、重合性化合物としてメタクリル酸メチル396mg(3.96ミリモル)および熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル10mg(0.06ミリモル)を30mlの試験管中のトルエン2gと混合させ、2分間窒素置換した後、密封してオイルバスにて65℃で5時間加温した。加温後、試験管中の溶液を室温まで冷却し、室温のメタノール30mlへ攪拌下少しずつ投入して再沈殿させた。沈殿物をロ別し、60℃で4時間減圧乾燥させ表2の収率で重合物を得た。上記「樹脂組成物中樹脂用添加剤含有量測定法」により、重合物中の樹脂用添加剤の含有量を求め、表2に示した。また上記熱分解温度測定法にて熱分解温度を求め、表2に示した。
【0114】
(実施例6〜8)
樹脂用添加剤及びメタクリル酸メチルの配合量を表2のように変更した以外は実施例9と同様の操作を行い、その結果を表2に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
(実施例9)
樹脂用添加剤として、合成例3と同様にして合成した9−シクロヘキシル−10−オキソ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−イルアクリレート4.4mg(0.01ミリモル)、重合性化合物としてメタクリル酸メチル399mg(3.99ミリモル)および熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル10mg(0.06ミリモル)を30mlの試験管中のトルエン2gと混合させ、2分間窒素置換した後、密封してオイルバスにて65℃で5時間加温した。加温後、試験管中の溶液を室温まで冷却し、室温のメタノール30mlへ攪拌下少しずつ投入して再沈殿させた。沈殿物をロ別し、60℃で4時間減圧乾燥させ表1の収率で重合物を得た。上記「樹脂組成物中樹脂用添加剤含有量測定法」により、重合物中の樹脂用添加剤の含有量を求め、表3に示した。また、上記「熱分解温度測定法」にて熱分解温度を求め、表3に示した。
【0117】
(実施例10〜12)
樹脂用添加剤及びメタクリル酸メチルの配合量を表3のように変更した以外は実施例13と同様の操作を行い、その結果を表3に示す。
【0118】
【表3】

【0119】
表1、表2および表3より、本発明の樹脂添加剤を含む重合物は、当該添加剤の少量添加で熱分解温度が上昇していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物を含有する樹脂用添加剤。
【化1】

(一般式(1)において、R1はアリル基、アラルキル基、アルキル基のいずれかを表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂用添加剤及び重合性化合物を含有する重合性組成物。
【請求項3】
重合性化合物が、ラジカル重合性化合物である請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の重合性組成物を重合してなる樹脂組成物。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の重合性組成物を、熱又は活性エネルギー線により重合させることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−126657(P2010−126657A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303710(P2008−303710)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】