説明

樹脂用X線造影剤、構造変化検出方法、及び内部構造決定方法

【課題】樹脂用X線造影剤、当該樹脂用X線造影剤を用いて樹脂成形体の内部構造の変化を検出する方法、及び当該樹脂用X線造影剤を用いて樹脂成形体の内部構造を決定する方法を提供する。
【解決手段】特定の炭化水素系化合物を樹脂用X線造影剤として用いる。樹脂用X線造影剤とは、樹脂成形体に浸透させて、上記樹脂成形体の内部構造を分析するための樹脂用X線造影剤であり、上記樹脂成形体を構成する樹脂の質量吸収係数よりも高い質量吸収係数を有する、炭化水素系化合物から構成される。ハロゲン系炭化水素化合物を樹脂用X線造影剤として使用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂用X線造影剤、構造変化検出方法、及び内部構造決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体が有する機械的強度等の物性は、樹脂成形体の内部の構造の影響を受けて変動することが知られている。例えば、同じ原料を成形してなる樹脂成形体において、結晶化度が異なると、物性が異なることが知られている。また、樹脂成形体が充填剤を含む場合には、充填剤の分散状態等の影響を受けて、樹脂成形体の物性が変動することもある。
【0003】
そこで、特許文献1には、樹脂成形体の結晶化度及び配向度を用いた、樹脂成形体の機械的強度を予測する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法は、先ず、樹脂成形体の結晶化度及び配向度と樹脂成形体の機械的強度との重相関データを実測により作成する。次いで、樹脂成形体の成形条件、形状及び樹脂の特性を含む成形諸元に基づく解析によって、樹脂成形体の結晶化度と配向度を求める。最後に、結晶化度及び配向度と、重相関データとから射出成形品の機械的強度を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−156885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、樹脂用X線造影剤、当該樹脂用X線造影剤を用いて樹脂成形体の内部構造の変化を検出する方法、及び当該樹脂用X線造影剤を用いて樹脂成形体の内部構造を決定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の炭化水素系化合物を樹脂用X線造影剤として用いれば、樹脂成形体の内部構造の変化を検出することができること、及び樹脂成形体の内部構造を決定できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) 樹脂成形体に浸透させて、前記樹脂成形体の内部構造を分析するための樹脂用X線造影剤であって、前記樹脂成形体を構成する樹脂の質量吸収係数よりも高い質量吸収係数を有する、炭化水素系化合物から構成される樹脂用X線造影剤。
【0008】
(2) 前記炭化水素系化合物は、ハロゲン系炭化水素化合物である(1)に記載の樹脂用X線造影剤。
【0009】
(3) 前記炭化水素系化合物は、ハロゲン系芳香族炭化水素化合物である(2)に記載の樹脂用X線造影剤。
【0010】
(4) 前記炭化水素系化合物は、ヨウ素、臭素のいずれかを含む化合物である(3)に記載の樹脂用X線造影剤。
【0011】
(5) 前記炭化水素系化合物は、ヨードベンゼン、ブロモトルエンのいずれかである(4)に記載の樹脂用X線造影剤。
【0012】
(6) (1)から(5)のいずれかに記載の樹脂用X線造影剤を、樹脂成形体に浸透させ、2以上の浸透時間の条件で撮影された、前記樹脂成形体の断面に対応するX線透過画像から、前記樹脂用X線造影剤が浸透する方向の深さ毎の浸透速度を導出し、前記浸透速度の変化に基づいて前記樹脂成形体の内部構造の変化を検出する構造変化検出方法。
【0013】
(7) X線透過画像がX線CT画像である(6)に記載の構造変化検出方法。
【0014】
(8) 前記樹脂成形体は、結晶性熱可塑性樹脂から構成される(6)又は(7)に記載の構造変化検出方法。
【0015】
(9) (1)から(5)のいずれかに記載の樹脂用X線造影剤を、樹脂成形体に浸透させ、2以上の浸透時間の条件で撮影された、前記樹脂成形体の断面に対応するX線透過画像から、前記樹脂用X線造影剤が浸透する方向の深さ毎の浸透速度を導出し、前記浸透速度毎に、前記樹脂成形体の内部構造に関する情報を分析することで、前記浸透速度と前記内部構造との関係を導出し、該関係を導出するために使用した樹脂用X線造影剤を、前記樹脂成形体を構成する樹脂と同様の樹脂から構成される分析用樹脂成形体に浸透させ、2以上の浸透時間の条件で撮影された、前記分析用樹脂成形体のX線透過画像から、前記樹脂用X線造影剤が浸透する方向の深さ毎の浸透速度を導出し、該浸透速度と前記関係とに基づいて、前記分析用樹脂成形体の内部構造を決定する内部構造決定方法。
【0016】
(10) X線透過画像がX線CT画像である(9)に記載の内部構造決定方法。
【0017】
(11) 前記樹脂成形体は結晶性熱可塑性樹脂から構成され、前記内部構造に関する情報は、前記深さ毎の、前記分析用樹脂成形体の結晶化度又は前記分析用樹脂成形体の配向度である(10)に記載の内部構造決定方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の樹脂用X線造影剤を用いれば、樹脂用X線造影剤の樹脂成形体への浸透速度の変化から樹脂成形体の内部構造の変化を容易に検出することができる。また、予め上記浸透速度と樹脂成形体内部の構造との関係を明らかにしておくことで、樹脂成形体の内部構造を容易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、X線CT装置の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、浸透時間と浸透距離との関係を示すX線CT画像の例を示す模式図である。
【図3】図3は、浸透速度と浸透距離との関係を示す図である。
【図4】図4は、内部構造に関する情報と浸透速度との関係を示す図である。
【図5】図5は、実施例、比較例で使用したサンプルの形状を示す図である。
【図6】図6は、初期重量を100%としたときの増加重量(%)と、サンプルを金属製耐圧容器に投入してからの時間との関係を示す図である。
【図7】図7は、図6の結果を得るために採用した評価条件とは異なる条件で行った場合の、初期重量を100%としたときの増加重量(%)と、サンプルを金属製耐圧容器に投入してからの時間との関係を示す図である。
【図8】図8(a)は、図6及び7の結果を得るために採用した評価条件とは異なる条件で行った場合の、初期重量を100%としたときの増加重量(%)と、サンプルを金属製耐圧容器に投入してからの時間との関係を示す図である。図8(b)は、X線透過画像から求めた浸透距離と上記時間との関係を示す図である。
【図9】図9(a)は金型温度が60℃の条件で成形した樹脂成形体を用いた場合の、FT−IRスペクトルのピーク強度比と測定箇所の深さとの関係を示す図であり、図9(b)は金型温度が140℃の条件で成形した樹脂成形体を用いた場合の、FT−IRスペクトルのピーク強度比と測定箇所の深さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0021】
<樹脂用X線造影剤>
樹脂用X線造影剤は、熱可塑性樹脂の質量吸収係数よりも高い質量吸収係数を有する炭化水素系化合物である。樹脂用X線造影剤は樹脂成形体に浸透する必要があるため、液体又は気体である。
【0022】
熱可塑性樹脂は、炭素、酸素を含み、樹脂の種類によっては酸素、硫黄等のヘテロ原子を含む。「熱可塑性樹脂の質量吸収係数よりも高い質量吸収係数」とは、熱可塑性樹脂に含まれる原子の中で最も質量吸収係数の高い原子の持つ質量吸収係数よりも高い質量吸収係数を持つ原子を含む炭化水素系化合物を指す。
【0023】
樹脂用X線造影剤としては、例えば、ハロゲン原子が導入された炭化水素系化合物や有機金属化合物を使用することができる。本発明においては、ハロゲン原子が導入された炭化水素系化合物の使用が樹脂に浸透しやすく、質量吸収係数が高いという理由で好ましい。
【0024】
炭化水素系化合物に導入されるハロゲン原子は、特に限定されず、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれでもよい。本発明においては、比較的高温までの広い温度範囲で液体状態であるため試験が行いやすいという理由から、臭素やヨウ素が導入された炭化水素系化合物の使用が好ましい。特に、ヨウ素は、質量吸収係数も非常に大きいため、特に好ましい。なお、炭化水素系化合物には、複数種類のハロゲン原子が導入されていてもよい。
【0025】
なお、炭化水素系化合物には、本発明の効果を害さない範囲で、ハロゲン原子以外の官能基が導入されていてもよい。
【0026】
ハロゲン原子が導入された炭化水素系化合物は、特に限定されず、例えば、ハロゲン原子が導入された芳香族炭化水素系化合物、ハロゲン原子が導入された脂肪族炭化水素系化合物のいずれも使用可能である。
【0027】
芳香族炭化水素系化合物は、芳香族炭化水素系化合物、芳香族複素環化合物のいずれであってもよい。また、芳香族炭化水素系化合物は、単環であっても多環であってもよい。
【0028】
本発明において、ハロゲン原子が導入された芳香族炭化水素系化合物としては、入手しやすく樹脂への浸透速度の変化を観察しやすいという理由で、ヨードベンゼン、ブロモトルエン等の使用が好ましい。
【0029】
脂肪族炭化水素系化合物は、鎖式炭化水素系化合物、脂環式炭化水素系化合物のいずれであってもよい。また、鎖式炭化水素系化合物は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよい。
【0030】
樹脂用X線造影剤は、樹脂成形体に浸透する必要があるため、通常、液体状又は気体状である。この浸透は、絡み合う高分子の分子鎖の隙間に樹脂用X線造影剤が入り込むことで生じる。したがって、上記隙間が小さければ、小さな炭化水素系化合物から構成される樹脂用X線造影剤を使用することが好ましく、隙間が大きければやや大きい炭化水素系化合物から構成される樹脂用X線造影剤を使用することもできる。このように、上記浸透のしやすさは、樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の種類、樹脂用X線造影剤の分子量に依存すると考えられる。
【0031】
したがって、例えば、樹脂用X線造影剤の分子量が100以上400以下の範囲を目安に、樹脂成形体に浸透しやすいものを適宜選択すればよい。
【0032】
<構造変化検出方法>
本発明の構造変化検出方法は、以下の(a)〜(c)の工程を有する。
(a)上記の樹脂用X線造影剤を、樹脂成形体に浸透させる工程、
(b)2以上の浸透時間の条件で撮影された、上記樹脂成形体の断面に対応するX線透過画像から、上記樹脂用X線造影剤が浸透する方向の深さ毎の浸透速度を導出する工程、
(c)上記浸透速度の変化に基づいて上記樹脂成形体の内部構造の変化を検出する工程。
【0033】
本発明の方法を適用する対象となる樹脂成形体は、特に、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物から構成されることが好ましい。熱可塑性樹脂は、特に限定されず、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、液晶性樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂等を例示することができる。
【0034】
樹脂組成物は、複数の熱可塑性樹脂を含んでもよいし、充填剤、酸化防止剤、安定剤、顔料等の一般的な添加剤を含んでもよい。ただし、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク等の浸透の妨げになるものを含む場合には、浸透しやすい樹脂用X線造影剤を選択することが好ましい。
【0035】
樹脂成形体は、上記の樹脂組成物を従来公知の方法で成形することで製造することができる。例えば、射出成形法、押出成形法等を挙げることができる。また、樹脂成形体の形状は特に限定されない。
【0036】
以下、直方体状の樹脂成形体を用いる場合を例に、本発明の構造変化検出方法について説明する。
【0037】
[(a)工程]
樹脂成形体に樹脂用X線造影剤を浸透させる。浸透させる方法は特に限定されないが、例えば、X線造影剤中に樹脂成形体を浸漬させることで、樹脂成形体にX線造影剤を浸透させることができる。浸透速度は特に限定されないが、浸透速度の変化を観察しやすい範囲に調整することが好ましい。また、上記の浸透速度は、圧力、温度、造影剤の選択等により調整することができる。
【0038】
樹脂成形体の内部に樹脂用X線造影剤が充分に浸透していることは重量変化等で確認することができる。
【0039】
[(b)工程]
先ず、樹脂用X線造影剤の樹脂成形体への浸透時間がt1になったときに、樹脂成形体のX線透過画像を取得する。
【0040】
X線透過画像の測定は、従来公知のX線回折装置を用いて行うことができる。具体的には、先ず、その樹脂成形体にX線を照射する。次いで、X線照射に伴う樹脂成形体のX線透過量をX線検出器で検出する。最後に、検出されたX線透過量に基づいて画像処理を行い、X線透過画像を得る。
【0041】
上記の通り、X線透過画像を撮影する方法は特に限定されないが、本発明においては、X線CT装置によりX線CT画像を得る方法が好ましい。そこで、X線CT装置を用いる場合を例に、X線透過画像の取得方法についてさらに説明する。
【0042】
図1にはX線CT装置の一例を示す。X線CT装置1は、樹脂成形体2にX線を照射するためのX線照射部11と、樹脂成形体2を透過したX線を投影データとして検出するX線検出部12と、樹脂成形体2を保持する試料台13と、試料台13を上下移動(図1中の矢印方向の移動)及び回転移動(図1中の白抜き矢印方向の移動)させるための回転駆動部14と、複数の角度方向の投影データをX線CT画像として再構成する画像処理部15とを備える。
【0043】
X線照射部11は、樹脂成形体2にX線を照射させるための部位である。X線を照射できるものであれば特に限定されず、従来公知のX線照射装置を使用することができる。例えば、X線管等が挙げられる。X線照射部11では、樹脂成形体2に照射するX線の照射条件を調整することができる。X線の照射条件としては、例えば、管電圧、管電流、X線照射時間等がある。本発明では、X線の照射条件は特に限定されず、予測の対象となる樹脂成形体の形状、含まれる樹脂の種類等に応じて適宜変更できる。
【0044】
X線検出部12は、樹脂成形体2を透過したX線を電気信号に変換した後、投影データとして検出する部位である。X線検出部12は、樹脂成形体2を間に挟んでX線照射部11に対向するように配置される。
【0045】
試料台13は、樹脂成形体2にX線が照射されるように樹脂成形体2を保持するための部位である。試料台はX線照射部11とX線検出部12との間に配置される。
【0046】
回転駆動部14は、試料台13を上下移動及び回転移動させて、樹脂成形体2に複数の角度方向からX線を照射させるための部位である。回転駆動部14は、試料台13に接続されている。回転駆動部14により、樹脂成形体2内の様々な位置に対して複数の方向からX線を照射できる。その結果、様々な角度から樹脂成形体2を透過したX線について、それぞれの投影データを得ることができる。
【0047】
画像処理部15は、複数の角度方向の投影データをX線CT画像として再構成する部位である。画像処理部15はX線検出部12に接続されている。X線検出部12で検出された投影データが画像処理部15に送られ、従来公知の画像処理を行うことでX線CT画像が得られる。従来公知の画像処理方法とは、例えば、各方向の投影データを一次元フーリエ変換し、これらを合成して二次元フーリエ変換像を作成してこれを逆フーリエ変換して再構成画像を得る方法が挙げられる。
【0048】
次いで、X線CT画像に基づいて、浸透深さ毎の浸透速度を、例えば以下の手順で導出する。図2(a)には、X線CT画像の一例を示す。実線で描かれた長方形が樹脂成形体の断面の輪郭である。点線は、樹脂成形体の左側の面から浸透した樹脂用X線造影剤が、浸透時間t1の時間で浸透した位置を表す。ここで樹脂用X線造影剤が浸透する方向は、上記左側の面(X線造影剤が浸透する面)に対して垂直な方向(x方向)である。このため、浸透時間t1での浸透距離L1は、図2(a)に示す通り、樹脂成形体の左側の面を表す実線と点線との間の距離になる。L1をt1で割ることで、浸透距離L1の深さまでの平均の浸透速度v1を導出できる。この浸透速度v1を浸透距離L1の深さでの浸透速度とする。なお、浸透速度v1を、浸透距離L1の中間であるL1/2の位置での浸透速度とする等の他の定義であってもよい。もしくは、浸透速度v1はフィックの拡散則に則り、L1を(t1)1/2で割ったものであってもよい。
【0049】
浸透時間t2(t2>t1)の場合についても同様にX線CT画像を取得し、浸透距離L2を導出し、浸透速度v2((L2−L1)/t2)を導出する。さらに、浸透時間t3(t3>t2)、浸透時間t4(t4>t3)の場合についても同様にしてX線CT画像を取得し、浸透距離L3及び浸透速度v3、浸透距離L4及び浸透速度v4を導出する。L1、L2、L3、L4を併せて図1(b)に示した。
【0050】
[(c)工程]
浸透速度と浸透距離との関係が、例えば、図3のようになったとする。図3からV1とV2との差が小さく、V2とV3との差が大きく、V3とV4との差が小さいことが確認できる。この浸透速度の相違から、L1とL2との間、L3とL4との間には小さな構造変化があり、L2とL3との間に大きな構造変化があることが確認できる。
【0051】
本発明の構造変化検出方法によれば、樹脂成形体内部の構造変化を、樹脂成形体を破壊することなく確認することができる。なお、上記の説明では4つの浸透時間におけるX線CT画像を取得する場合について説明したが、二点のデータ(例えば、浸透時間t2、t3のX線CT画像)から構造変化を検出できるため、最低2つの浸透時間におけるX線CT画像を確認すれば、構造変化を検出することができる。
【0052】
<内部構造決定方法>
本発明の内部構造決定方法は、以下の(A)〜(F)の工程を有する。
(A)上記の樹脂用X線造影剤を、樹脂成形体に浸透させる工程、
(B)2以上の浸透時間の条件で撮影された、上記樹脂成形体の断面に対応するX線透過画像から、上記樹脂用X線造影剤が浸透する方向の深さ毎の浸透速度を導出する工程、
(C)上記浸透速度毎に、上記樹脂成形体の内部構造に関する情報を分析することで、上記浸透速度と上記内部構造との関係を導出する工程、
(D)該関係を導出するために使用した樹脂用X線造影剤を、上記樹脂成形体を構成する樹脂と同様の樹脂から構成される分析用樹脂成形体に浸透させる工程、
(E)2以上の浸透時間の条件で撮影された、上記分析用樹脂成形体のX線透過画像から、上記樹脂用X線造影剤が浸透する方向の深さ毎の浸透速度を導出する工程、
(F)該浸透速度と上記関係とに基づいて、上記分析用樹脂成形体の内部構造を決定する工程。
【0053】
内部構造決定方法に用いられる樹脂成形体は、構造変化検出方法で説明した樹脂成形体と同様であるため説明を省略する。
【0054】
[(A)工程]
上記の樹脂用X線造影剤を樹脂成形体に浸透させる工程については、上記構造変化検出方法の(a)工程と同様の方法で行うことができるため説明を省略する。
【0055】
[(B)工程]
2以上の浸透時間の条件で撮影された、上記樹脂成形体の断面に対応するX線透過画像から、前記樹脂用X線造影剤が浸透する方向の深さ毎の浸透速度を導出する工程についても、構造変化検出方法の(b)工程と同様の方法で行うことができるため説明を省略する。
【0056】
[(C)工程]
図3に示すような、浸透時間t1のときの浸透距離がL1であり、浸透距離L1における浸透速度がv1、浸透時間t2のときの浸透距離がL2であり、浸透距離L2における浸透速度がv2、浸透時間t3のときの浸透距離がL3であり、浸透距離L3における浸透速度がv3、浸透時間t4のときの浸透距離がL4であり、浸透距離L4における浸透速度がv4、の結果が(A)工程〜(B)工程で得られたとして(C)工程について説明する。
【0057】
上記浸透速度毎に、上記樹脂成形体の内部構造に関する情報を分析する。具体的には、各浸透距離L1〜L4における樹脂成形体の内部構造に関する情報を分析する。
【0058】
樹脂成形体の内部構造に関する情報とは、例えば、密度、結晶化度、配向等に関する情報である。内部構造が異なれば、浸透速度が異なるため、上記情報と上記浸透速度との相関関係を予め導出しておけば、浸透速度に基づいて、樹脂成形体の内部構造を決定することができる。したがって、樹脂成形体の内部構造に関する情報と、浸透速度とは、一対一の一義的対応関係があることが好ましい。なお、一対一の一義的対応関係が無い場合には、浸透速度から一つの情報に決めることができないが、他の物性情報を考慮する等して決定できる。なお、密度、結晶化度、配向等の情報は、浸透速度と一対一の一義的対応関係があるといえる。
【0059】
上記の樹脂成形体の内部構造に関する情報は、各情報の種類に応じて、従来公知の方法で測定することができる。ここで、L1での上記情報がI1、L2での上記情報がI2、L3での上記情報がI3、L4での上記情報がI4であったとする。
【0060】
例えば、密度、結晶化度が高いほど、また、配向が大きいほど、高分子が密にパッキングされることになるため、樹脂用X線造影剤の樹脂成形体への浸透速度は遅くなる傾向にある。例えば、図4に示すような関係を導出することができる。図4の4つのデータに基づいて、I=f(v)の近似式を導出することが好ましい。なお、Iは樹脂成形体の内部構造に関する情報を表し、vは上記浸透速度を表す。
【0061】
[(D)工程]
(D)工程では、分析対象となる分析用樹脂成形体に樹脂用X線造影剤を浸透させる。分析用樹脂成形体は、(A)工程で用いた樹脂成形体を構成する樹脂組成物と同様の樹脂組成物から構成される。また、樹脂用X線造影剤も(A)工程で使用したものと同様のものを使用する。具体的な浸透方法は(A)と同様である。
【0062】
[(E)工程]
(E)工程では、(B)工程と同様に、複数の浸透時間の条件での、X線透過画像から、深さ毎の浸透速度を導出する。
【0063】
[(F)工程]
(F)工程では、(E)工程で導出した浸透速度と、(C)工程で導出した関係であるI=f(v)とに基づいて、分析用樹脂成形体の内部構造を決定する。具体的には、(E)工程で導出した浸透速度を、I=f(v)に代入してIを求めればよい。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0065】
<材料>
樹脂用X線造影剤1:ヨードベンゼン
樹脂用X線造影剤2:ブロモトルエン
樹脂組成物1:ポリアセタール樹脂組成物(ポリプラスチックス社製、「ジュラコン(登録商標)M90−44」)
樹脂組成物2:ガラス繊維を25質量%含むポリアセタール樹脂組成物(ポリプラスチックス社製、「ジュラコン(登録商標)GH−25」)
樹脂組成物3:ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(ウィンテックポリマー社製、「ジュラネックス(登録商標)2002」)
樹脂組成物4:ガラス繊維を30質量%含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(ウィンテックポリマー社製、「ジュラネックス(登録商標)3300」)
樹脂組成物5:ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物(ポリプラスチックス社製、「フォートロン(登録商標)0220A9」)
樹脂組成物6:ガラス繊維を30質量%含むポリフェニレンサルファイド樹脂組成物(ポリプラスチックス社製、「フォートロン(登録商標)1130A1」)
樹脂組成物7:ガラス繊維と無機フィラーを65質量%含むポリフェニレンサルファイド樹脂組成物(ポリプラスチックス社製、「フォートロン(登録商標)6165A61」)
【0066】
<樹脂成形体>
樹脂組成物1〜7のそれぞれを、原料として、樹脂成形体を一般的な条件設定のもと射出成形法で製造した。上記の各樹脂成形体から図5に示すようなサンプル1〜7を切り出した。サンプルの寸法は図5に示す通り13mm×4.5mm×3.2mmである。図5中の「金型接触面」とは射出成形時に金型に接触していた部分を指す。また、「切り出し面」とは、サンプルを切り出すことによって形成された部分を指す。
【0067】
<樹脂用X線造影剤の評価>
サンプル1〜7の初期重量を測定した。初期重量を測定後、サンプル1〜7をヨードベンゼンとともに金属製耐圧容器に入れた。サンプル1〜7を、80℃の金属製耐圧容器に入れた後、一時的に取り出し、サンプルの重量を測定した。初期重量を100%としたときの増加重量(%)と、サンプルを金属製耐圧容器に投入してからの時間との関係を図6に示した。
【0068】
また、樹脂組成物2、4、6から構成されるサンプル2、4、6を、初期重量測定後、ブロモトルエンとともに70℃の金属製耐圧容器に入れた。その後、一時的にサンプルを金属製耐圧容器から取り出し、重量を測定した。初期重量を100%としたときの増加重量(%)と、サンプルを金属製耐圧容器に投入してからの時間との関係を図7(a)に示した。また、ブロモトルエンをヨードベンゼンに変更して同様の測定を行った。測定結果を図7(b)に示した。
【0069】
図6、7から、70℃〜80℃の温度において、上記の種類の樹脂組成物が原料の場合には、ヨードベンゼン、ブロモベンゼンのいずれも、樹脂成形体に浸透することが確認できた。
【0070】
また、図6からガラス繊維を含むことで、樹脂用X線造影剤が樹脂成形体内に浸透しにくくなることが確認された。
【0071】
また、図6、図7(b)から、温度の条件が異なることで、樹脂用X線造影剤の樹脂成形体への浸透しやすさが異なることが確認された。
【0072】
また、図7(a)、(b)の比較から、上記の条件においては、ヨードベンゼンの方がブロモトルエンよりも樹脂成形体に浸透しやすいことが確認された。
【0073】
<構造変化の検出>
サンプル6(金型温度140℃)ならびに、金型温度を60℃にして成形したサンプル6’の初期重量を測定した。次いで、サンプルをヨードベンゼンとともに、80℃の金属製耐圧容器に入れた。次いで、3時間、6時間、9時間、12時間で一時的にサンプルを金属製耐圧容器から取り出し、重量測定、X線透過画像の取得を行った。X線透過画像の取得は以下の方法で行った。なお、金型接触面に対して直交する断面のX線透過画像を取得した。
(X線透過画像の取得)
撮影装置には市販のX線CT装置(株式会社 日鉄エレックス製 ELE SCAN mini)を用いた。樹脂試験片をX線CT装置の試料台に乗せ定法により撮影した。
【0074】
初期重量を100%としたときの増加重量(%)と、サンプルを金属製耐圧容器に投入してからの時間との関係を図8(a)に示した。X線透過画像から求めた浸透距離と上記時間との関係を図8(b)に示した。
【0075】
図8(b)から、浸透速度の減少が確認された。したがって、金型接触面から約180μmの深さの間に樹脂成形体の構造変化があることが確認された。
【0076】
<内部構造の決定>
図8(b)に示す各浸透距離における結晶化度の変化を以下の方法で測定した。
(測定方法)
各サンプルを用いて、各サンプルの表層から20μmの厚みの薄膜をミクロトームで削り出し、透過型FT−IR装置を用いてIRスペクトルを測定した。結晶化度はIRスペクトル中の1074cm−1付近のピーク(非晶成分に由来するピーク)と、1093cm−1付近のピーク(結晶成分に由来するピーク)の強度比(1093/1074)から算出した。金型温度が60℃の条件で成形した樹脂成形体を用いた場合の結果を図9(a)に示し、金型温度が140℃の条件で成形した樹脂成形体を用いた場合の結果を図9(b)に示した。
【0077】
図9(a)のFT−IRスペクトルのピーク強度比と測定箇所の深さとの関係から、140μm〜220μmの間で結晶化度が大きく変化していることが確認された。図9(b)のFT−IRスペクトルのピーク強度比と測定箇所の深さとの関係から、結晶化度の変化が見られないことが確認された。図8及び図9の結果から、樹脂用X線造影剤の樹脂成形体への浸透挙動に基づいて、結晶化度を指標として、内部構造の変化を確認したり、内部構造を決定したりできることが確認された。
【符号の説明】
【0078】
1 X線CT装置
11 X線照射部
12 X線検出部
13 試料台
14 回転駆動部
15 画像処理部
2 樹脂成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体に浸透させて、前記樹脂成形体の内部構造を分析するための樹脂用X線造影剤であって、
前記樹脂成形体を構成する樹脂の質量吸収係数よりも高い質量吸収係数を有する、炭化水素系化合物から構成される樹脂用X線造影剤。
【請求項2】
前記炭化水素系化合物は、ハロゲン系炭化水素化合物である請求項1に記載の樹脂用X線造影剤。
【請求項3】
前記炭化水素系化合物は、ハロゲン系芳香族炭化水素化合物である請求項2に記載の樹脂用X線造影剤。
【請求項4】
前記炭化水素系化合物は、ヨウ素、臭素のいずれかを含む化合物である請求項3に記載の樹脂用X線造影剤。
【請求項5】
前記炭化水素系化合物は、ヨードベンゼン、ブロモトルエンのいずれかである請求項4に記載の樹脂用X線造影剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の樹脂用X線造影剤を、樹脂成形体に浸透させ、
2以上の浸透時間の条件で撮影された、前記樹脂成形体の断面に対応するX線透過画像から、前記樹脂用X線造影剤が浸透する方向の深さ毎の浸透速度を導出し、
前記浸透速度の変化に基づいて前記樹脂成形体の内部構造の変化を検出する構造変化検出方法。
【請求項7】
X線透過画像がX線CT画像である請求項6に記載の構造変化検出方法。
【請求項8】
前記樹脂成形体は、結晶性熱可塑性樹脂から構成される請求項6又は7に記載の構造変化検出方法。
【請求項9】
請求項1から5のいずれかに記載の樹脂用X線造影剤を、樹脂成形体に浸透させ、
2以上の浸透時間の条件で撮影された、前記樹脂成形体の断面に対応するX線透過画像から、前記樹脂用X線造影剤が浸透する方向の深さ毎の浸透速度を導出し、
前記浸透速度毎に、前記樹脂成形体の内部構造に関する情報を分析することで、前記浸透速度と前記内部構造との関係を導出し、
該関係を導出するために使用した樹脂用X線造影剤を、前記樹脂成形体を構成する樹脂と同様の樹脂から構成される分析用樹脂成形体に浸透させ、
2以上の浸透時間の条件で撮影された、前記分析用樹脂成形体のX線透過画像から、前記樹脂用X線造影剤が浸透する方向の深さ毎の浸透速度を導出し、
該浸透速度と前記関係とに基づいて、前記分析用樹脂成形体の内部構造を決定する内部構造決定方法。
【請求項10】
X線透過画像がX線CT画像である請求項9に記載の内部構造決定方法。
【請求項11】
前記樹脂成形体は結晶性熱可塑性樹脂から構成され、
前記内部構造に関する情報は、前記深さ毎の、前記分析用樹脂成形体の結晶化度又は前記分析用樹脂成形体の配向度である請求項10に記載の内部構造決定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−233751(P2012−233751A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101542(P2011−101542)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】