説明

樹脂発泡体

【課題】 安全で環境への負荷が少なく、しかも高発泡で柔軟性に優れた樹脂発泡体を得る。
【解決手段】 樹脂発泡体は、下記の(イ)及び(ロ)成分を含有することを特徴とする。
(イ)熱可塑性ポリマー
(ロ)下記式(1)で表される多面体形状の複合化金属水酸化物
m(Mab)・n(Qde)・cH2O (1)
[上記式中、MとQは互いに異なる金属元素であり、Qは周期律表のIVa、Va、VIa、VIIa、VIII、Ib及びIIbから選択された族に属する金属元素である。m、n、a、b、c、d、eは正数であって、互いに同一の値であってもよく、異なる値であってもよい]
Mとして、例えば、マグネシウムなどが好ましく、Qとして、例えば、ニッケル、亜鉛などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性及び難燃性に優れた樹脂発泡体に関するものである。この樹脂発泡体は、例えば、電子機器等の内部絶縁体、緩衝材、遮音材、断熱材、食品包装材、衣用材、建材用など、柔らかさやクッション性の要求される用途に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
電子機器等の内部絶縁体、緩衝材、遮音材、断熱材、衣用材、建材用等として用いられる発泡体には、部品として組み込まれている場合にそのシール性という観点から、柔らかさ、クッション性および断熱性等に優れるという特性が要求される。これまでこのような特性を有する樹脂発泡体が種々提案されている。
【0003】
しかし、樹脂発泡体は熱可塑性ポリマーで構成されているため燃えやすいという欠点を有している。そのため、特に電子機器用途など難燃性の付与が不可欠な用途には、各種の難燃剤を配合することで上記問題に対処してきた。従来、前記難燃剤として、例えば、臭素系樹脂や塩素系樹脂、リン系、アンチモン系などの難燃剤が用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記難燃化付与技術に関して以下の問題があった。すなわち、塩素系や臭素系などの難燃剤は、燃焼時に人体に対して有害で機器類に対して腐食性を有するガスが発生する。またリン系やアンチモン系の難燃剤においても有害性や爆発性などの問題があった。
【0005】
上記の問題点を解決するために、難燃剤としてノンハロゲン−ノンアンチモン系である金属水酸化物を無機難燃剤として添加する方法が提案されている。しかしながら、この方法では大量の金属水酸化物を使用せねばならず、その結果、新たな問題が生じることとなる。すなわち、このような系では、発泡時に樹脂の流動性が低下するため気泡の成長が妨げられ、十分な発泡倍率が得られない。
【0006】
従って、本発明の目的は、安全で環境への負荷が少なく、しかも高発泡で柔軟性に優れた樹脂発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、特殊な形状の難燃剤、すなわち多面体形状の複合化金属水酸化物を樹脂に配合すると、安全で環境への負荷が少ないだけでなく、発泡時において樹脂の流動性が確保され、その結果、高発泡で柔軟性に優れた樹脂発泡体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の(イ)及び(ロ)成分を含有することを特徴とする樹脂発泡体を提供する。
(イ)熱可塑性ポリマー
(ロ)下記式(1)で表される多面体形状の複合化金属水酸化物
m(Mab)・n(Qde)・cH2O (1)
[上記式中、MとQは互いに異なる金属元素であり、Qは周期律表のIVa、Va、VIa、VIIa、VIII、Ib及びIIbから選択された族に属する金属元素である。m、n、a、b、c、d、eは正数であって、互いに同一の値であってもよく、異なる値であってもよい]
【0009】
なお、本明細書では、「熱可塑性ポリマー」を通常の熱可塑性樹脂のほか、ゴム・エラストマーや熱可塑性エラストマーをも含む広い意味に用いる。また、ホウ素(B)も金属元素に含めるものとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂発泡体は、安全で環境への負荷が少なく、しかも高発泡で柔軟性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[(イ)熱可塑性ポリマー]
本発明の樹脂発泡体を構成する(イ)熱可塑性ポリマーとしては、発泡体を形成可能なポリマーであれば特に限定されない。このような熱可塑性ポリマーとしては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン又はプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体などのポリオレフィン系ポリマー;ポリスチレン、ABS樹脂等のポリスチレン系ポリマー;ポリメチルメタクリレート;ポリ塩化ビニル;ポリフッ化ビニル;アルケニル芳香族樹脂;6−ナイロン、66−ナイロン、12−ナイロンなどのポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ビスフェノールA系ポリカーボネートなどのポリカーボネート;ポリアセタール;ポリフェニレンスルフィド;エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ビニルアルコール等との共重合体(エチレン系共重合体);エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、ポリイソブチレン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー;スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン共重合体、それらの水素添加物ポリマーなどのスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーなどの各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの熱可塑性ポリマーは単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0012】
これらの中でも、(i)熱可塑性エラストマー、(ii)ポリプロピレンなどのポリオレフィン系ポリマー、(iii)ゴム(エラストマー)又は熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性ポリマー(例えば、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系エラストマーと、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマーとの混合物)などが好適である。
【0013】
[多面体形状の複合化金属水酸化物]
前記式(1)で表される多面体形状の複合化金属水酸化物において、金属元素を示すMとしては、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ホウ素(B)等があげられる。中でも、マグネシウムなどが好ましい。前記Mは1種の金属元素で構成されていてもよく、2種以上の金属元素で構成されていてもよい。
【0014】
また、前記式(1)で表される多面体形状の複合化金属水酸化物中のもう一つの金属元素を示すQは、周期律表のIVa、Va、VIa、VIIa、VIII、Ib及びIIbから選ばれた族に属する金属である。例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)等が挙げられる。中でも、ニッケル、亜鉛等が好ましい。前記Qは1種の金属元素で構成されていてもよく、2種以上の金属元素で構成されていてもよい。
【0015】
このような結晶形状が多面体形状を有する複合化金属水酸化物は、公知の方法により製造できる(特開2000−53875号公報等参照)。例えば、複合化金属水酸化物の製造工程における各種条件等を制御することにより、縦、横とともに厚み方向(c軸方向)への結晶成長が大きい、所望の多面体形状、例えば、略12面体、略8面体、略4面体等の形状を有する複合化金属水酸化物を得ることができる。
【0016】
多面体形状の複合化金属水酸化物として、結晶外形が略8面体の多面体構造を示すものが特に好ましい。また、多面体形状の複合化金属水酸化物のアスペクト比は1〜8程度、好ましくは1〜7程度、特に1〜4程度に調整されたものが好ましい。ここでいうアスペクト比とは、複合化金属水酸化物の長径と短径との比を意味する。また、多面体形状の複合化金属水酸化物の平均粒径は、0.5〜10μm程度、好ましくは0.6〜6μm程度である。平均粒径は、例えばレーザー式粒度測定器により測定できる。アスペクト比が8を超えたり、平均粒径が10μmを超えると、高発泡の樹脂発泡体が得られ難くなる。
【0017】
上記多面体形状を有する複合化金属水酸化物の具体的な代表例としては、sMgO・(1−s)NiO・cH2O[0<s<1、0<c≦1]、sMgO・(1−s)ZnO・cH2O[0<s<1、0<c≦1]、sA123・(1−s)Fe23・cH2O[0<s<1、0<c≦3]等が挙げられる。これらのなかでも、sMgO・(1−s)Q1O・cH2O[但し、Q1はNi又はZnを示し、0<s<1、0<c≦1である]で表される複合化金属水酸化物、例えば、酸化マグネシウム・酸化ニッケルの水和物、酸化マグネシウム・酸化亜鉛の水和物が特に好ましく用いられる。
【0018】
本発明においては、多面体形状を有する複合化金属水酸化物とともに、従来の薄平板形状等の複合化金属水酸化物を併用することができる。複合化金属水酸化物全体中に前記式(1)で表される多面体形状の複合化金属水酸化物の占める割合は、例えば10〜100重量%程度、好ましくは30〜100重量%程度である。多面体形状の複合化金属水酸化物の占める割合が10重量%未満では、高発泡の樹脂発泡体が得られ難くなる。
【0019】
上記多面体形状を有する複合化金属水酸化物の含有量は、樹脂発泡体全体の10〜70重量%程度、好ましくは25〜65重量%程度である。この含有量が少なすぎると難燃化効果が小さくなり、逆に多すぎると、高発泡の樹脂発泡体が得られ難くなる。
【0020】
本発明の樹脂発泡体は、前記(イ)成分及び(ロ)成分のほか、必要に応じて、加硫剤、顔料、染料、表面処理剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、核剤、界面活性剤、可塑剤などを適宜な量含んでいてもよい。
【0021】
[樹脂発泡体の製造]
本発明の樹脂発泡体を製造する方法としては、物理的方法、化学的方法等、発泡成形に通常用いられる方法が採用できる。一般的な物理的方法は、クロロフルオロカーボン類または炭化水素類などの低沸点液体(発泡剤)をポリマーに分散させ、次に加熱し発泡剤を揮発させることにより気泡を形成させるものである。また化学的方法は、ポリマーベースに添加された化合物(発泡剤)の熱分解により生じたガスによりセルを形成し、発泡体を得る方法である。最近の環境問題などに鑑みると、物理的手法が好ましい。特に、セル径が小さくセル密度の高い発泡体が得られることから、窒素や二酸化炭素等の気体を高圧にてポリマー中に溶解させた後、圧力を開放し、例えばポリマーのガラス転移温度や軟化点付近まで加熱することにより気泡を形成させる方法が好ましい。この場合、超臨界状態の二酸化炭素等のガスを用いるのが好適である。
【0022】
こうして得られる樹脂発泡体は、一般的な形状(薄平板形状等)の金属水酸化物を用いた場合と比較して、発泡時に樹脂の流動性が確保され、気泡の成長が阻害されないためか、十分な発泡倍率が得られ、高い柔軟性が付与される。例えば、相対密度が、0.01〜0.10程度、好ましくは0.01〜0.06程度の樹脂発泡体が得られる。相対密度とは下記式により算出される値をいう。
相対密度(−)=(発泡体の密度)÷[発泡させる前のシート(樹脂成形 体)の密度]
【0023】
また、本発明の樹脂発泡体は、従来の塩素系樹脂やアンチモン系等の難燃剤を含有する発泡体と比較して安全性が高く、環境への負荷も少ない。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0025】
実施例
密度が0.9g/cm3、230℃のメルトフローレートが4であるポリプロピレン50重量部とJIS−A硬度が69のエチレンプロピレン系エラストマー50重量部及び多面体状のMgO・ZnO・H2O(平均粒径1.0μm、アスペクト比4)100重量部を、ローラ型の翼を設けたラボプラストミル(東洋精機製作所製)により170℃の温度で混練した後、180℃に加熱した熱板プレスを用いて厚さ0.5mm、φ80mmのシート状に成型した。このシートを耐圧容器に入れ、150℃の雰囲気中、15MPaの加圧下で、10分間保持することにより、二酸化炭素を含浸させた。次いで、急激に減圧することにより、発泡体を得た。発泡体の相対密度は0.028であった。
本発泡体を1mmの厚さにスライスし、UL94HF−1の規格に準じて難燃性を評価したところ合格となった。
【0026】
比較例
密度が0.9g/cm3、230℃のメルトフローレートが4であるポリプロピレン50重量部とJIS−A硬度が69のエチレンプロピレン系エラストマー50重量部及び六角板状のMgO・H2O(平均粒径0.7μm)100重量部を、ローラ型の翼を設けたラボプラストミル(東洋精機製作所製)により170℃の温度で混練した後、180℃に加熱した熱板プレスを用いて厚さ0.5mm、φ80mmのシート状に成型した。このシートを耐圧容器に入れ、150℃の雰囲気中、15MPaの加圧下で、10分間保持することにより、二酸化炭素を含浸させた。次いで、急激に減圧することにより、発泡体を得た。発泡体の相対密度は0.102であった。
本発泡体を1mmの厚さにスライスし、UL94HF−1の規格に準じて難燃性を評価したところ合格となった。
【0027】
上記の結果より明らかなように、本発明に相当する実施例の樹脂発泡体は、比較例の樹脂発泡体と比較して相対密度が極めて小さく、高発泡で柔軟性に優れるとともに、優れた難燃性を示すことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(イ)及び(ロ)成分を含有することを特徴とする樹脂発泡体。
(イ)熱可塑性ポリマー
(ロ)下記式(1)で表される多面体形状の複合化金属水酸化物
m(Mab)・n(Qde)・cH2O (1)
[上記式中、MとQは互いに異なる金属元素であり、Qは周期律表のIVa、Va、VIa、VIIa、VIII、Ib及びIIbから選択された族に属する金属元素である。m、n、a、b、c、d、eは正数であって、互いに同一の値であってもよく、異なる値であってもよい]
【請求項2】
式(1)で表される複合化金属水酸化物中の金属元素を示すMが、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、コバルト、スズ、亜鉛、銅、鉄、チタン及びホウ素からなる群から選択された少なくとも一つの金属である請求項1記載の樹脂発泡体。
【請求項3】
式(1)で表される複合化金属水酸化物中の金属元素を示すQが、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、銅及び亜鉛からなる群から選択された少なくとも一つの金属である請求項1又は2記載の樹脂発泡体。
【請求項4】
式(1)で表される複合化金属水酸化物の平均粒径が0.5〜10μmである請求項1〜3の何れかの項に記載の樹脂発泡体。
【請求項5】
式(1)で表される複合化金属水酸化物のアスペクト比が1〜8である請求項1〜4の何れかの項に記載の樹脂発泡体。
【請求項6】
複合化金属水酸化物全体中に、式(1)で表される多面体形状を有する複合化金属水酸化物の占める割合が10〜100重量%の範囲である請求項1〜5の何れかの項に記載の樹脂発泡体。
【請求項7】
式(1)で表される複合化金属水酸化物が、sMgO・(1−s)Q1O・cH2O[但し、Q1はNi又はZnを示し、0<s<1、0<c≦1である]である請求項1〜6の何れかの項に記載の樹脂発泡体。
【請求項8】
(イ)成分である熱可塑性ポリマーが、(i)熱可塑性エラストマー、(ii)ポリオレフィン系ポリマー、及び(iii)ゴム又は熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性ポリマーから選択されたポリマーである請求項1〜7の何れかの項に記載の樹脂発泡体。
【請求項9】
相対密度が0.01〜0.10である請求項1〜8の何れかの項に記載の樹脂発泡体。

【公開番号】特開2007−146186(P2007−146186A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62316(P2007−62316)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【分割の表示】特願2000−305567(P2000−305567)の分割
【原出願日】平成12年10月4日(2000.10.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】