説明

樹脂積層体およびその製造方法

【課題】強い衝撃を受けて破損した際にも破片が飛散し難い耐衝撃性に加え、優れた透明性や視認性を有する樹脂積層体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂積層体は、少なくとも透明樹脂層、中間層および透明樹脂層がこの順に積層され、前記透明樹脂層が、JIS K7206のB50法により、荷重50Nおよび昇温速度50℃/時の条件で測定されたビカット軟化温度が60℃以上であり、かつ全光線透過率が70%以上である透明樹脂で形成された層であり、前記中間層が、架橋ポリロタキサンで形成された層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂積層体およびその製造方法に関する。より詳細には、例えば高速道路、幹線道路などに設置される遮音板として用いられる樹脂積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路、幹線道路などに設置される遮音板には、強い衝撃を受けて破損した際に破片が飛散しにくい耐衝撃性に加え、透明性や視認性も要求されている。
【0003】
かかる遮音板として、例えば特許文献1には、透明樹脂板内に単繊維プラスティックフィラメントを埋設したものが記載されている。しかし、このような樹脂板からなる遮音板は、単繊維プラスティックフィラメントが埋設されているため、透明性や視認性の点で十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−526802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、強い衝撃を受けて破損した際にも破片が飛散し難い耐衝撃性に加え、優れた透明性や視認性を有する樹脂積層体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)少なくとも透明樹脂層、中間層および透明樹脂層が、この順に積層された樹脂積層体であって、
前記透明樹脂層が、JIS K7206のB50法により、荷重50Nおよび昇温速度50℃/時の条件で測定されたビカット軟化温度が60℃以上であり、かつ全光線透過率が70%以上である透明樹脂で形成された層であり、
前記中間層が、架橋ポリロタキサンで形成された層である、
ことを特徴とする樹脂積層体。
(2)両表層に透明樹脂層が積層された、(1)に記載の樹脂積層体。
(3)前記透明樹脂層が、アクリル樹脂層である、(1)または(2)に記載の樹脂積層体。
(4)前記架橋ポリロタキサンが、シクロデキストリンを環状分子とするポリロタキサンまたは擬ポリロタキサンを、架橋剤を介して架橋させたものである、(1)〜(3)のいずれかの項に記載の樹脂積層体。
(5)前記シクロデキストリンの少なくとも1つの水酸基が、疎水基で修飾されている、(4)に記載の樹脂積層体。
(6)60%以上の全光線透過率を有する、(1)〜(5)のいずれかの項に記載の樹脂積層体。
(7)少なくとも透明樹脂層、中間層および透明樹脂層が、この順に積層された樹脂積層体の製造方法であって、
JIS K7206のB50法により、荷重50Nおよび昇温速度50℃/時の条件で測定されたビカット軟化温度が60℃以上であり、かつ全光線透過率が70%以上である透明樹脂を用いて、前記透明樹脂層を形成し、
前記透明樹脂層間に架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを介在させた後、架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを架橋させることによって前記中間層を形成する、
ことを特徴とする樹脂積層体の製造方法。
(8)前記架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンの介在が、前記架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを前記透明樹脂層に塗布することによって行われる、(7)に記載の製造方法。
(9)前記架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンの介在が、前記透明樹脂層間に架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを注液することによって行われる、(7)に記載の製造方法。
(10)両表層が透明樹脂層となるように積層される、(7)〜(9)のいずれかの項に記載の製造方法。
(11)上記(1)〜(6)のいずれかの項に記載の樹脂積層体を加工して得られる、遮音板。
(12)架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを含む、(7)に記載の製造方法に使用するための樹脂用接着剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂積層体は、強い衝撃を受けて破損した際にも破片が飛散し難い耐衝撃性に加え、優れた透明性や視認性を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の樹脂積層体は、少なくとも透明樹脂層、中間層および透明樹脂層がこの順に積層された積層構造を有する。以下、本発明の樹脂積層体について、詳細に説明する。
【0009】
(透明樹脂層)
本発明に用いられる透明樹脂層は、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、フルオレン系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ乳酸樹脂、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などの透明樹脂で形成されている。本発明では、これらの透明樹脂の中でも、JIS K7206のB50法により、荷重50Nおよび昇温速度50℃/時の条件で測定されたビカット軟化温度(VST)が60℃以上であり、かつ全光線透過率が70%以上である透明樹脂が用いられる。透明樹脂が、特定のVSTおよび全光線透過率を有することによって、優れた透明性および視認性が発揮される。VSTは、好ましくは60〜200℃、より好ましくは60〜150℃であり、全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。なお、本発明において、全光線透過率は、JIS7361−1に準拠して測定された値である。
【0010】
本発明では、透明樹脂としてアクリル樹脂を用いることが好ましい。アクリル樹脂としては、アクリル酸エステル系樹脂やメタクリル酸エステル系樹脂が挙げられ、中でも、長時間屋外で使用しても劣化しにくいという耐候性や、透明性および視認性の観点から、メタクリル酸エステル系樹脂が好ましく、メタクリル酸エステル系樹脂の中でも、メタクリル酸メチル系樹脂が好ましい。
【0011】
メタクリル酸メチル系樹脂は、50質量%以上のメタクリル酸メチルを含む単量体を重合して得られる重合体であり、メタクリル酸メチルの単独重合体であってもよいし、50質量%以上のメタクリル酸メチルを含み、かつ50質量%以下のメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体を含む単量体を共重合して得られる共重合体であってもよい。共重合体である場合には、メタクリル酸メチルの割合は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0012】
メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体としては、以下の化合物が挙げられる。これら他の単量体は、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0013】
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシルなどの、エステル部分が1〜12個の炭素原子を有する鎖状アルキル、3〜12個の炭素原子を有する環状アルキル、または6〜12個の炭素原子を有するアリールであるアクリル酸エステル化合物。
【0014】
メタクリル酸エチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシルなどの、エステル部分が2〜12個の炭素原子を有する鎖状アルキル、3〜12個の炭素原子を有する環状アルキル、または6〜12個の炭素原子を有するアリールであるメタクリル酸エステル化合物。
【0015】
スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、α−クロロスレン、p−クロロスレン、p−メトキシスチレン、p−アミノスチレン、p−アセトキシスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム、α−ビニルナフタレン、1−ビニルナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2−ビニルフルオレン、2−ビニルピリジン、4−ビニルビリジンなどの芳香族ビニル化合物。
【0016】
アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−メトキシアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロメタクリロニトリル、α−メトキシメタクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどのシアン化ビニル化合物。
【0017】
ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステル化合物。
【0018】
アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシエチルアクリルアミド、N−ブトキシエチルメタクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−n−プロピオキシメチルアクリルアミド、N−n−プロピオキシメチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミドなどのエチレン性不飽和カルボン酸アミド化合物。
【0019】
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、無水フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸のようなエチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸などのエチレン性不飽和酸化合物。
【0020】
ビニルスルホン酸アルキル、イソプレンスルホン酸アルキルなどのエチレン性不飽和スルホン酸エステル化合物。
【0021】
アリルアルコール、メタアリルアルコール、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸アリル、カプロン酸メタアリル、ラウリン酸アリル、安息香酸アリル、アルキルスルホン酸ビニル、アルキルスルホン酸アリル、アリールスルホン酸ビニルなどのエチレン性不飽和アルコールおよびそのエステル化合物。
【0022】
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテルなどのエチレン性不飽和エーテル化合物。
【0023】
ビニルジメチルアミン、ビニルジエチルアミン、ビニルジフェニルアミン、アリルジメチルアミン、メタアリルジエチルアミンなどのエチレン性不飽和アミン化合物。
【0024】
ビニルトリエチルシラン、メチルビニルジクロロシラン、ジメチルアリルクロロシラン、ビニルトリクロロシランなどのエチレン性不飽和シラン化合物。
【0025】
塩化ビニル、塩化ビニリデン、1,2−ジクロロエチレン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、1,2−ジブロモエチレンなどのハロゲン化ビニル。
【0026】
1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−ネオペンチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,2ジクロロ−1,3ブタジエン、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−シアノ−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、直鎖および側錯共役ヘキサジエンなどの脂肪族共役ジエン系化合物。
【0027】
アクリル樹脂は、50質量%以上のアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを含む単量体を、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、注液重合法(キャスト重合法)などの重合方法に供することによって得られる。なお、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルを併用する場合は、その合計含有量が50質量%以上であればよい。重合は、光照射や重合開始剤を用いて行われ、アゾ系開始剤(例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)など)、過酸化物系開始剤(ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなど)、有機過酸化物とアミン類とを組み合わせたレドックス系開始剤などの重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤は、アクリル樹脂を構成する単量体100質量部に対して、通常0.01〜1質量部、好ましくは0.01〜0.5質量部の割合で用いられる。
【0028】
透明樹脂層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その製造時に一般的に用いられる各種の添加剤が含まれてもよい。添加剤としては、例えば、耐候性向上のための紫外線吸収剤(ヒンダードアミン系化合物など)、変色や黄変防止のための酸化防止剤(フェノール系化合物、リン系化合物など)、分子量制御のための連鎖移動剤(メチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタンのような直鎖または分岐したアルキルメルカプタン化合物など)、耐衝撃性付与のためのゴム状重合体、難燃性付与のための難燃剤、架橋剤や着色剤などが挙げられる。
【0029】
本発明において、透明樹脂層がアクリル樹脂で形成される場合、添加剤として用いられるゴム状重合体としては、アクリル樹脂のゴム状重合体以外の部分と屈折率が略同等のものが用いられ、アクリルゴム粒子が特に好ましい。アクリルゴム粒子は、アクリル酸エステルを主体とする弾性重合体からなる層(弾性重合体層)を有するものであり、弾性重合体のみからなる単層の粒子であってもよいし、弾性重合体層と硬質重合体からなる層(硬質重合体層)とによって構成される多層構造(例えば、2〜4層構造)の粒子であってもよい。アクリルゴム粒子における弾性重合体部は、好ましくは40〜800nmの平均粒子径を有する。
【0030】
ゴム状重合体としては、例えば、特開2011−137312号公報や特開2011−140774号公報などに記載のアクリルゴム粒子が挙げられる。ゴム状重合体は、透明樹脂を構成する単量体およびゴム状重合体の総量に対して、好ましくは0.1〜60質量%、より好ましくは5〜25質量%の割合で含有される。ゴム状重合体は、1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明においては、難燃性が付与できる点で、透明樹脂層に添加される添加剤として難燃剤を用いることが好ましい。難燃剤としては、合成樹脂用として公知のもののうち、透明樹脂層の透明性を阻害しないものであればよく、例えば、リン酸エステル、シリコーン、ハロゲン系化合物、無機化合物などが挙げられる。リン酸エステルを樹脂積層板の上下両面のうち少なくとも1層のアクリル樹脂に含有することが好ましい。リン酸エステルは、特にアクリル樹脂との相溶性に優れるので、透明樹脂としてアクリル樹脂を用いる場合、アクリル樹脂層の透明性を維持しつつ、難燃性を付与することが出来る。また、難燃剤によっては、アクリル樹脂層が硬化する恐れがあるが、リン酸エステルを採用することで、アクリル樹脂の硬化も抑制できる。
【0032】
リン酸エステルとしては、例えば、ハロゲン化リン酸エステル、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、芳香族ポリホスフェートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、ハロゲン化リン酸エステルが好ましく、例えば、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)オクチルホスフェートなどのハロゲン原子を含有するリン酸エステル;ハロゲン化アルキルポリホスフェートなどのハロゲン原子を含有するポリリン酸エステル(含ハロゲン縮合リン酸エステル)などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、特にハロゲン原子が塩素である塩素化アルキルポリホスフェートが好ましい。
【0033】
これらのハロゲン化リン酸エステルとしては、市販のものを用いることができ、例えば、「TMCPP」、「CRP」、「CR−504L」、「CR−570」、「DAIGUARD−540」(いずれも大八化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0034】
リン酸エステルは、アクリル樹脂を構成する単量体およびリン酸エステルの総量に対して、0.1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%の割合で含有される。リン酸エステルの含有量が少なすぎると、十分な難燃性が得られない場合がある。また、リン酸エステルの含有量が多すぎると、耐熱性が低下する場合がある。
【0035】
また、難燃剤を用いる代わりに、アクリル樹脂など透明樹脂の合成の際に、難燃性の単量体を使用してもよい。このような難燃性の単量体としては、例えば、ハロゲン化フェニルモノ(メタ)アクリレート、ハロゲン化スチレンなどが挙げられる。難燃性の単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明において、透明樹脂層の添加剤として用いられる架橋剤は、分子中に複数の重合性不飽和結合を有する化合物が挙げられる。架橋剤を用いることによって、透明樹脂の表面硬度、耐溶剤性および難燃性が向上する。架橋剤は、透明樹脂を構成する単量体100質量部に対して、好ましくは20質量部以下の割合で用いられる。なお、透明樹脂における架橋の度合いは、例えば、クロロホルムに対する膨潤度で示すことができる。透明樹脂層の添加剤として用いられる架橋剤としては、分子中に複数個の重合性不飽和結合を含むものが用いられ、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0037】
膨潤度は、試料をクロロホルムに所定時間浸漬し、吸収したクロロホルムと浸漬前の試料との体積比(吸収したクロロホルム/浸漬前の試料)で示される。好ましくは、膨潤度は2〜8である。
【0038】
(中間層)
本発明に用いられる中間層は、架橋ポリロタキサンまたは擬ポリロタキサンで形成された層である。
【0039】
また、「ロタキサン」とは、環状分子の環部分に、鎖状分子(棒状分子)が貫通した化合物のことであり、通常、環状分子が鎖状分子から脱離しないように鎖状分子の両末端には封鎖基が結合し、ストッパーの役割を果たしている。また、「ポリロタキサン」とは、鎖状分子が複数の環状分子の環部分を貫通しているロタキサンのことであり、「擬ポリロタキサン」とは、ポリロタキサンの鎖状分子の両末端が封鎖基で封鎖されていないポリロタキサンのことをいう。
【0040】
架橋ポリロタキサンの原料となるポリロタキサンまたは擬ポリロタキサンは、特に限定されないが、環状分子が脱離しにくい点で、ポリロタキサンを使用することが好ましい。環状分子としては、例えば、シクロデキストリン、クラウンエーテル、シクロファン、カリックスアレーン、環状アミドなどが挙げられる。また、鎖状分子は実質的に直鎖状であり、その長さは特に限定されず、回転子である環状分子が回動可能であれば、分岐鎖を有していてもよい。
【0041】
環状分子としてはシクロデキストリンが好ましく、例えば、α−シクロデキストリン(グルコース6個)、β−シクロデキストリン(グルコース7個)、γ−シクロデキストリン(グルコース8個)、ジメチルシクロデキストリン、グルコシルシクロデキストリン、これらの誘導体および変性体などが挙げられる。なお、1つの鎖状分子中には、同一の環状分子(例えば、α−シクロデキストリンのみ)が貫通していてもよく、異なる環状分子(例えば、α−シクロデキストリンおよびβ−シクロデキストリン)が貫通していてもよい。
【0042】
さらに、環状分子がシクロデキストリンの場合、シクロデキストリンの少なくとも1つの水酸基が疎水基で修飾されていることが好ましい。親水基である水酸基の一部を疎水基で修飾することによって、有機溶剤への溶解性を高めることができる。水酸基を疎水基で修飾する割合(修飾率)は、シクロデキストリンの全ての水酸基を疎水基で修飾した場合の修飾率を100%とした場合、好ましくは2%以上、より好ましくは10%以上である。疎水基としては、例えば、アルキル基、ベンジル基、ベンゼン誘導体含有基、アシル基、シリル基、トリチル基、ウレタン結合、エステル結合およびエーテル結合などが挙げられる。複数の水酸基を修飾する場合、単一の疎水基で修飾するだけでなく、2種以上の疎水基で修飾してもよい。
【0043】
鎖状分子は、特に限定されず、例えば、ポリアルキレン類、ポリカプロラクトンなどのポリエステル類、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル類、ポリアミド類、アクリル樹脂、ベンゼン環を有する直鎖状化合物などが挙げられる。これらの中でも、ポリエチレングリコールやポリカプロラクトンが好ましい。
【0044】
また、鎖状分子は、1000〜500000の重量平均分子量を有することが好ましく、10000〜300000の重量平均分子量を有することがより好ましく、10000〜100000の重量平均分子量を有することがさらに好ましい。
【0045】
ポリロタキサンにおいては、鎖状分子の両末端は、環状分子が脱離しにくくするために、封鎖基が結合している。封鎖基としては、嵩高さ、イオン性などを有する分子基および高分子基を包含する種々の基が挙げられる。
【0046】
嵩高い基としては、例えば球状の基、側壁状の基などが挙げられる。また、イオン性を有する基の場合、イオン性を有する基のイオン性と環状分子のイオン性とが相互に影響して、例えば反発し合うことにより、環状分子の脱離を防止することができる。封鎖基としては、具体的には、ジニトロフェニル基類(2,4−ジニトロフェニル基、3,5−ジニトロフェニル基など)、ジアルキルフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、これらの誘導体または変性体などが挙げられる。
【0047】
本発明において、中間層を形成する架橋ポリロタキサンは、上述のポリロタキサンまたは擬ポリロタキサンの架橋体である。架橋ポリロタキサンは、ポリロタキサンまたは擬ポリロタキサンと架橋剤とを混合し、得られた架橋剤含有ポリロタキサン中のポリロタキサン同士または得られた架橋剤含有擬ポリロタキサン中の擬ポリロタキサン同士を化学的および/または物理的に架橋、好ましくは化学架橋させることによって得られる。
【0048】
架橋剤としては、特に限定されず、1分子中に複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物、1分子中に複数のブロック化イソシアネート基を有するブロックポリイソシアネート化合物、1分子中に複数の水酸基を有するポリオール化合物、1分子中に複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸化合物などが挙げられる。また、架橋剤として、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる化合物や、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる化合物のイソシアネート基をブロック剤で保護したブロックポリイソシアネート化合物も使用可能である。
【0049】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートなどが挙げられる。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンダイマーなどが挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、ビシクロヘプタントリイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。ポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。また、ポリイソシアネート化合物は、アダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などを用いることができる。
【0050】
ブロックポリイソシアネート化合物とは、イソシアネート基がブロック剤との反応によって保護され、一時的に不活性化されたブロック化イソシアネート基を複数有する化合物である。ブロック剤は、所定温度に加熱すると解離させることが可能である。このようなブロックポリイソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート化合物とブロック剤との付加反応生成物が用いられる。ブロック剤と反応し得るポリイソシアネート化合物としては、イソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体などが挙げられる。このポリイソシアネート化合物としては、上述のポリイソシアネート化合物として例示した化合物が挙げられる。ブロックポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0051】
ブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノール、エチルフェノールなどのフェノール系ブロック剤;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤;アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系ブロック剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルエーテル、グリコール酸メチル、グリコール酸ブチル、ジアセトンアルコール、乳酸メチル、乳酸エチルなどのアルコール系ブロック剤;ホルムアルデヒドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系ブロック剤;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系ブロック剤;アセトアミド、ベンズアミドなどの酸アミド系ブロック剤;コハクさんイミド、マレイン酸イミドなどのイミド系ブロック剤;キシリジン、アニリン、ブチルアミン、ジブチルアミンなどのアミン系ブロック剤;イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール系ブロック剤;メチレンイミン、プロピレンイミンなどのイミン系ブロック剤などが挙げられる。ブロック剤は、単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0052】
ブロックポリイソシアネート化合物は、市販のものを用いてもよく、例えば、スミジュールBL−3175、BL−4165、BL−1100、BL−1265、デスモジュールTPLS−2957、TPLS−2062、TPLS−2078、TPLS−2117、デスモサーム2170、デスモサーム2265(以上、住友バイエルウレタン(株)製)、コロネート2512、コロネート2513、コロネート2520(以上、日本ポリウレタン工業(株)製)、B−830、B−815、B−846、B−870、B−874、B−882(以上、三井武田ケミカル(株)製)、TPA−B80E、17B−60PX、E402−B80T(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)などが挙げられる。なお、スミジュールBL−3175およびBL−4165は、ブロック剤としてメチルエチルケトキシムを用いたものである。
【0053】
ポリオール化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオールなどが挙げられる。ポリオール化合物は、単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0054】
ポリカルボン酸化合物としては、例えば、芳香族ポリカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸などが挙げられる。ポリカルボン酸化合物は、単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0055】
さらに、架橋反応を促進するために、触媒を使用することができる。架橋剤としてポリイソシアネート化合物またはブロックポリイソシアネート化合物を使用する場合、触媒としては、例えば、スズ化合物、金属塩化物、金属アセチルアセトネート塩、金属硫酸塩、アミン化合物などが挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。架橋剤としてポリオール化合物またはポリカルボン酸化合物を使用する場合、触媒としては、アルカリ金属化合物、スズ化合物、チタン化合物、p−トルエンスルホン酸などが挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0056】
(樹脂積層体)
本発明の樹脂積層体は、上記のように、少なくとも透明樹脂層、中間層および透明樹脂層がこの順に積層された積層構造を有する。本発明の樹脂積層体は、両表層に透明樹脂層が積層されていることが好ましい。また、このような積層構造を有していれば、積層数は特に限定されない。樹脂積層体の透明性や厚みを考慮すると、3層構造(透明樹脂層/中間層/透明樹脂層)が好ましい。
【0057】
本発明の樹脂積層体が3層構造の場合、透明樹脂層は、2層とも同一の透明樹脂で形成されていてもよく、異なる透明樹脂で形成されていてもよい。透明樹脂層は、好ましくは1〜15mm、より好ましくは2〜10mmの厚みを有する。透明樹脂層の厚みは、樹脂積層体の用途に応じて適宜設定され、2層とも同一の厚みであってもよく、異なる厚みであってもよい。また、中間層は、好ましくは0.1〜8mm、より好ましくは0.5〜4mmの厚みを有する。
【0058】
本発明の樹脂積層体の厚みは、例えば遮音板など成形品の成形性、透明性などを損なわない範囲であれば、特に限定されない。通常、2〜38mm程度、好ましくは5〜30mm程度である。さらに、本発明の樹脂積層体は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上の全光線透過率を有する。
【0059】
(樹脂積層体の製造方法)
本発明の樹脂積層体は、少なくとも透明樹脂層、中間層および透明樹脂層がこの順に積層されるように製造できれば、その製造方法は特に限定されず、例えば両表層が透明樹脂層となるように積層されるのが好ましい。本発明の樹脂積層体は、JIS K7206のB50法により、荷重50Nおよび昇温速度50℃/時の条件で測定されたビカット軟化温度が60℃以上であり、かつ全光線透過率が70%以上である透明樹脂を用いて透明樹脂層を形成し、この透明樹脂層間に架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを介在させた後、架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを架橋させることによって中間層を形成することによって得られる。
【0060】
架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを介在させる方法としては、例えば以下の(I)または(II)の方法が挙げられる。
(I)架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを透明樹脂層に塗布する方法。
(II)透明樹脂層間に架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを注液する方法。
【0061】
(I)の方法は、まず、一方の表層となる透明樹脂層(板)に、所望の厚みとなるように架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを塗布し、その上にもう1枚の透明樹脂板を置き、架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを架橋させて樹脂積層体を得る方法である。
【0062】
架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンは、好ましくは周囲に枠板(例えば、ガスケットなど)が設置された透明樹脂板に塗布される。すなわち、ガスケットのような枠板で囲まれた部分に塗布することによって、均一な厚みで塗布することができる。
【0063】
(II)の方法は、2枚の透明樹脂板とガスケットとから構成されるセルに、架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを注液して、架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを架橋させて樹脂積層体を得る方法である。架橋ポリロタキサン(中間層)の層厚は、2枚の透明樹脂板によって形成される空隙の幅で調節される。
【0064】
また、本発明の樹脂積層体は、「透明樹脂層、中間層および透明樹脂層」の構造を有していれば、3層構造以外にも、5層構造(透明樹脂層/中間層/透明樹脂層/中間層/透明樹脂層)や7層構造(透明樹脂層/中間層/透明樹脂層/中間層/透明樹脂層/中間層/透明樹脂層)、あるいはこれ以上の積層構造を有するものであってもよい。
【0065】
このような3層以上の積層構造を有する樹脂積層体において、透明樹脂層は、全て同一の透明樹脂で形成されていてもよく、一部が同一で残りが異なっていてもよく(例えば、両表層が同一の透明樹脂で形成され、他の透明樹脂層が他の透明樹脂で形成されているなど)、あるいはそれぞれが異なる透明樹脂で形成されていてもよい。中間層も同様に、全て同一の架橋ポリロタキサンで形成されていてもよく、一部が同一で残りが異なっていてもよく、あるいはそれぞれが異なる架橋ポリロタキサンで形成されていてもよい。
【0066】
透明樹脂層の厚みは、樹脂積層体の用途に応じて適宜設定され、全て同一の厚みであってもよく、一部が同一の厚みで残りが異なる厚みであってもよく(例えば、両表層が同一の厚みで、他の透明樹脂層は異なる厚みなど)、あるいはそれぞれ異なる厚みでもよい。また、中間層の厚みは、樹脂積層体の用途に応じて適宜設定され、全て同一の厚みであってもよく、一部が同一の厚みで残りが異なる厚みであってもよく、あるいはそれぞれ異なる厚みでもよい。
【0067】
3層以上の積層構造を有する樹脂積層体についても、基本的には、3層構造の樹脂積層体と同様の方法で得られる。例えば、上記(I)の方法を採用する場合、架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンの塗布および架橋反応を、所望の層数となるまで繰り返して行えばよい。あるいは、透明樹脂板の上に架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを塗布し、さらに透明樹脂板を置き、これを所望の層数となるまで繰り返し、一度に架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを架橋させてもよい。
【0068】
また、上記(II)の方法を採用する場合、架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンの注液および架橋反応を、所望の層数となるまで繰り返して行えばよい。あるいは、3枚以上の透明樹脂板とガスケットとを用いて、各透明樹脂板間に形成される複数の空隙を有するセルを形成し、複数の空隙に架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを注液して、一度に架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを架橋させてもよい。
【0069】
上述のように、架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンは、透明樹脂層と透明樹脂層との間に介在させて架橋させることにより、接着剤(接着層)としての挙動も示すため、本発明に係る樹脂積層体の製造方法において、好適に使用することができる。
【0070】
本発明の樹脂積層体は、遮音板以外に、例えば、鉄道車両や自動車などが走行する橋梁の側部に設置される防風板などの用途にも使用可能である。本発明の樹脂積層体を、高速道路や幹線道路に設置される遮音板として用いる場合、その表面には、必要に応じて、例えば、ハードコート、撥水加工、親水加工、光触媒加工などの表面加工を施してもよく、さらに鳥衝突防止用の表示などを設けてもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、積層樹脂板の耐衝撃性および全光線透過率を、以下の方法によって評価した。
【0072】
<耐衝撃性>
得られた樹脂積層板を、150mm×150mmの大きさに切断して試験片を作製した。試験片の2辺を固定した状態で、試験片の上方0.85mから3kgの鋼球を3回続けて自由落下させた。その際の試験片の状態を以下の基準で評価した。
◎:3回連続して鋼球を落下させても、試験片表裏のメタクリル酸メチル系樹脂板の飛散が認められなかった。
○:3回連続して鋼球を落下させた後、試験片表裏のメタクリル酸メチル系樹脂板の飛散が初めて認められた。
△:2回連続して鋼球を落下させた後、試験片表裏のメタクリル酸メチル系樹脂板の飛散が初めて認められた。
×:1回鋼球を落下させた後、試験片表裏のメタクリル酸メチル系樹脂板の飛散が認められた。
【0073】
<ビカット軟化温度>
得られたメタクリル酸メチル系樹脂板を、20mm×20mmの大きさに切断して試験片を作製した。得られた試験片についてJIS K7206のB50法に準拠して、荷重50Nおよび昇温速度50℃/時の条件でビカット軟化温度を測定した。
【0074】
<全光線透過率>
得られた樹脂積層板について、透過率計((株)村上色彩技術研究所製の「HR−100」)を用い、JIS K7361−1に準拠して、全光線透過率Ttを測定した。この数値が大きいほど光線の透過が大きい、すなわち透明性が高いことを示す。
【0075】
(実施例1)
(透明樹脂層(メタクリル酸メチル系樹脂板)の製造)
メタクリル酸メチルが重合してなるポリメタクリル酸メチルを5質量%含有するメタクリル酸メチル部分重合体シロップ87.9質量部、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.1質量部、および塩素化アルキルポリホスフェート(大八化学工業(株)製の「CR570」)12質量部の合計100質量部に、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.07質量部を添加し、混合した。次いで、2枚のガラス板と軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとから構成される空隙の間隔が6mmのセルに、得られた混合物を流し込み、空気を熱媒とする重合槽中で、60℃にて8時間、次いで110℃にて1時間加熱して、重合させ、メタクリル酸メチル系樹脂板(ビカット軟化温度:95℃、全光線透過率:92.5%)を得た。
【0076】
(樹脂積層板の製造)
得られたメタクリル酸メチル系樹脂板(厚み6mm、200mm×200mm)2枚を、真空条件下、90℃で12時間乾燥させた。次いで、乾燥させたメタクリル酸メチル系樹脂板の1枚に、1mmの厚みを有するシリコーン製ガスケットを置き、130℃に加熱した架橋剤含有ポリロタキサンを塗布した。なお、架橋剤含有ポリロタキサンとしては、予め、130℃で加熱しながら真空下で8時間脱気したセルムTM・エラストマーS−1000(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製)を用いた。次いで、架橋剤含有ポリロタキサンを塗布した面を、もう1枚のメタクリル酸メチル系樹脂板で覆い、クランプで固定して、150℃で7時間架橋反応を行い、透明樹脂層(6mm)/中間層(1mm)/透明樹脂層(6mm)の3層構造を有する樹脂積層板を得た。得られた樹脂積層板について、耐衝撃性および全光線透過率を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
2mmの厚みを有するシリコーン製ガスケットを用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で、透明樹脂層(6mm)/中間層(2mm)/透明樹脂層(6mm)の3層構造を有する樹脂積層板を得た。得られた樹脂積層板について、耐衝撃性および全光線透過率を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例3)
3mmの厚みを有するシリコーン製ガスケットを用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で、透明樹脂層(6mm)/中間層(3mm)/透明樹脂層(6mm)の3層構造を有する樹脂積層板を得た。得られた樹脂積層板について、耐衝撃性および全光線透過率を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
(比較例1)
上記実施例1で用いたメタクリル酸メチル系樹脂板2枚を、真空条件下、90℃で12時間乾燥させた。次いで、この2枚のメタクリル酸メチル系樹脂板を、クロロホルムで接着してメタクリル酸メチル系樹脂積層板を得た。得られたメタクリル酸メチル系樹脂積層板について、耐衝撃性および全光線透過率を評価した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1に示すように、実施例1〜3および比較例1で得られた樹脂積層板は、いずれも全光線透過率は90%であった。しかし、耐衝撃性については、実施例1〜3で得られた樹脂積層板は、3回連続して鋼球を落下させても、メタクリル酸メチル系樹脂板の飛散が認められなかったのに対し、比較例1で得られた樹脂積層板は、1回鋼球を落下させた後、メタクリル酸メチル系樹脂板の飛散が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも透明樹脂層、中間層および透明樹脂層が、この順に積層された樹脂積層体であって、
前記透明樹脂層が、JIS K7206のB50法により、荷重50Nおよび昇温速度50℃/時の条件で測定されたビカット軟化温度が60℃以上であり、かつ全光線透過率が70%以上である透明樹脂で形成された層であり、
前記中間層が、架橋ポリロタキサンで形成された層である、
ことを特徴とする樹脂積層体。
【請求項2】
両表層に透明樹脂層が積層された、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記透明樹脂層が、アクリル樹脂層である、請求項1または2に記載の樹脂積層体。
【請求項4】
前記架橋ポリロタキサンが、シクロデキストリンを環状分子とするポリロタキサンまたは擬ポリロタキサンを、架橋剤を介して架橋させたものである、請求項1〜3のいずれかの項に記載の樹脂積層体。
【請求項5】
前記シクロデキストリンの少なくとも1つの水酸基が、疎水基で修飾されている、請求項4に記載の樹脂積層体。
【請求項6】
60%以上の全光線透過率を有する、請求項1〜5のいずれかの項に記載の樹脂積層体。
【請求項7】
少なくとも透明樹脂層、中間層および透明樹脂層が、この順に積層された樹脂積層体の製造方法であって、
JIS K7206のB50法により、荷重50Nおよび昇温速度50℃/時の条件で測定されたビカット軟化温度が60℃以上であり、かつ全光線透過率が70%以上である透明樹脂を用いて、前記透明樹脂層を形成し、
前記透明樹脂層間に架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを介在させた後、架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを架橋させることによって前記中間層を形成する、
ことを特徴とする樹脂積層体の製造方法。
【請求項8】
前記架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンの介在が、前記架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを前記透明樹脂層に塗布することによって行われる、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンの介在が、前記透明樹脂層間に架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを注液することによって行われる、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
両表層が透明樹脂層となるように積層される、請求項7〜9のいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかの項に記載の樹脂積層体を加工して得られる、遮音板。
【請求項12】
架橋剤含有ポリロタキサンまたは架橋剤含有擬ポリロタキサンを含む、請求項7に記載の製造方法に使用するための樹脂用接着剤。

【公開番号】特開2013−78875(P2013−78875A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219102(P2011−219102)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】