説明

樹脂積層体及び樹脂積層シート

【課題】発泡樹脂層の樹脂成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を用いた場合に、発泡樹脂層の樹脂製膜性を良好に維持しながら、発泡壁紙等の表面強度を更に向上させることができ、そして、生産性を良好に維持できる樹脂積層体及び樹脂積層シートを提供する。
【解決手段】発泡剤含有樹脂層の片面又は両面に金属化合物含有樹脂層が積層された層構成を有する未発泡中間体を熱処理し、前記発泡剤含有樹脂層を発泡樹脂層にすることにより得られる樹脂積層体であって、
(1)前記発泡剤含有樹脂層が、樹脂成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含み、
(2)前記金属化合物含有樹脂層の樹脂成分は、水素結合が含まれないモノマーからなる共重合体であり、
(3)前記熱処理又は別途の熱処理により、前記発泡剤含有樹脂層と前記金属化合物含有樹脂層とが複合化されている、
ことを特徴とする樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡壁紙、各種装飾材等として有用な、発泡樹脂層を有する樹脂積層体及び樹脂積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発泡壁紙としては、繊維質シートに塩化ビニル樹脂の発泡樹脂層を形成し、更に絵柄模様層を形成したもの知られている。近年では、環境に配慮し、発泡樹脂層にはエチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂等の、ハロゲン非含有樹脂が用いられてきている(特許文献1〜3等)。
【0003】
発泡壁紙の発泡樹脂層の表面強度(耐スクラッチ性等)を向上させる目的で、発泡樹脂層の発泡樹脂としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を用いることが知られている。また、発泡壁紙の物性を向上させる目的で、発泡樹脂層上に非発泡樹脂層を設けることも知られている。
【0004】
しかしながら、発泡壁紙の更なる表面強度向上を目指し、発泡樹脂層を形成する樹脂を硬くすると(重合度等を調整)、発泡樹脂層の製膜性が悪く(発泡剤が発泡しない温度領域で製膜できない等)、生産性が劣ることに繋がる問題があった。また、たとえ製膜できたとしても、発泡体形成が難しい(発泡し難い等)という問題があった。
【0005】
従って、発泡樹脂層の発泡樹脂としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を用いた場合に、発泡樹脂層の樹脂製膜性を良好に維持しながら、発泡壁紙等の表面強度を更に向上させることができ、そして、生産性を良好に維持できる樹脂積層体及び樹脂積層シートの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−47875号公報
【特許文献2】特開2000−255011号公報
【特許文献3】特開2001−347611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、発泡樹脂層の樹脂成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を用いた場合に、発泡樹脂層の樹脂製膜性を良好に維持しながら、発泡壁紙等の表面強度を更に向上させることができ、そして、生産性を良好に維持できる樹脂積層体及び樹脂積層シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、樹脂成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層及び金属化合物含有樹脂層が複合化した樹脂積層体によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。これは、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層と金属化合物含有樹脂層が接しているため、熱処理時に両樹脂層が複合化して、発泡樹脂層の強靭性が増加するためである。
【0009】
即ち、本発明は、下記の樹脂積層体及び樹脂積層シートに関する。
項1. 発泡剤含有樹脂層の片面又は両面に金属化合物含有樹脂層が積層された層構成を有する未発泡中間体を熱処理し、前記発泡剤含有樹脂層を発泡樹脂層にすることにより得られる樹脂積層体であって、
(1)前記発泡剤含有樹脂層が、樹脂成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含み、
(2)前記金属化合物含有樹脂層の樹脂成分は、水素結合が含まれないモノマーからなる共重合体であり、
(3)前記熱処理又は別途の熱処理により、前記発泡剤含有樹脂層と前記金属化合物含有樹脂層とが複合化されている、
ことを特徴とする樹脂積層体。
項2. 前記金属化合物が、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び金属石鹸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂積層体。
項3. 前記金属化合物含有樹脂層が、前記金属化合物を5重量%以上含有する、請求項1又は2に記載の樹脂積層体。
項4. 繊維質シート上に、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂積層体を積層してなる樹脂積層シート。
【0010】
以下、本発明の樹脂積層体及び樹脂積層シートについて詳細に説明する。
≪樹脂積層体≫
本発明の樹脂積層体は、
発泡剤含有樹脂層の片面又は両面に金属化合物含有樹脂層が積層された層構成を有する未発泡中間体を熱処理し、前記発泡剤含有樹脂層を発泡樹脂層にすることにより得られる樹脂積層体であって、
(1)前記発泡剤含有樹脂層が、樹脂成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含み、
(2)前記金属化合物含有樹脂層の樹脂成分は、水素結合が含まれないモノマーからなる共重合体であり、
(3)前記熱処理又は別途の熱処理により、前記発泡剤含有樹脂層と前記金属化合物含有樹脂層とが複合化されている、
ことを特徴とする。
【0011】
上記特徴を有する本発明の樹脂積層体は、樹脂成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層及び金属化合物含有樹脂層を、熱処理により複合化して得られるので、発泡樹脂層の樹脂製膜性を良好に維持しながら、発泡壁紙等の表面強度を更に向上させることができ、そして、生産性を良好に維持できる。この効果は、熱処理により、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂が溶融し、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂に起因するイオン性基(−COO等)が隣接する金属化合物含有樹脂層中の金属化合物とイオン性の架橋構造(擬似架橋構造)を形成すること(複合化)により表面強度が向上することに基づくと考えられている。
【0012】
未発泡中間体
本発明の樹脂積層体では、熱処理により発泡剤含有樹脂層を発泡樹脂層にする前に、発泡剤含有樹脂層の片面又は両面に金属化合物含有樹脂層を積層させた層構成を有する未発泡中間体を形成する。そして、その未発泡中間体を熱処理して、発泡剤含有樹脂層を発泡樹脂層にすることにより、本発明の樹脂積層体を得る。
【0013】
発泡剤含有樹脂層
発泡剤含有樹脂層とは、熱処理する前の未発泡状態の発泡樹脂層である。
【0014】
樹脂成分として、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を用いる。これは、アクリル酸(CH=CHCOOH)及びメタクリル酸(CH=C(CH)COOH)の少なくとも1種をモノマーとして得られる重合体であり、例えばアクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも1種をモノマーとエチレンとの組み合わせにより得られる共重合体である。このような樹脂成分を用いることで、樹脂中の水素結合等に起因する強固な層を形成することができるので、優れた耐スクラッチ性、耐摩耗性等を得ることができる。
【0015】
なお、本発明では、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂と表記するとき、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂及びエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂の両方を意味する。
【0016】
上記エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂以外の樹脂を併用してもよい。例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン及びエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体樹脂(ABS)、アクリロニトリル−スチレン系共重合体樹脂、ナイロン、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びポリ塩化ビニル系樹脂等の少なくとも1種が挙げられる。
【0017】
上記の他の樹脂を併用する場合には、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂含有樹脂層の樹脂成分中のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂の含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、100質量%であっても良い。エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂含有樹脂層の樹脂成分として、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を主成分として用いることで、発泡壁紙の発泡樹脂層の表面強度を向上させることができる。
【0018】
エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体のメルトフローレート値(MFR)(JIS K7210:190℃,2.16kg)は、用いる重合体の種類等によるが、通常は100g/10分以下とすることが好ましい。加工性及び以下に説明する発泡樹脂層とした場合の発泡状態を考慮すると10〜60g/10分の範囲に設定することが好ましい。このような数値範囲のものを使用することにより、より優れた耐スクラッチ性、摩耗性等を得ることができる。MFRが上記範囲内の場合には、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂含有樹脂層を押出し製膜により形成する際の温度上昇が少なく、非発泡状態で製膜できるため、後に絵柄模様層を形成する際に平滑な面に印刷処理をすることができて柄抜け等が少ない。また、MFRが大きすぎる場合は、樹脂が軟らかすぎることにより、発泡樹脂層として形成した場合の耐傷性が不十分となるおそれがある。
【0019】
発泡剤含有樹脂層は発泡剤を含有する。
【0020】
発泡剤としては熱分解型発泡剤を用いることが好ましい。熱分解型発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、アゾビスホルムアミド等のアゾ系;オキシベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、パラトルエンスルホニルヒドラジド等のヒドラジド系などが挙げられる。熱分解型発泡剤の含有量は、発泡剤の種類、発泡倍率等に応じて適宜設定できる。発泡倍率の観点からは、1.5倍以上、好ましくは3〜7倍程度であり、熱分解型発泡剤は、樹脂成分100重量部に対して、1〜20重量部程度とすることが好ましい。
【0021】
発泡剤含有樹脂層を形成する樹脂組成物には、更に、発泡助剤を使用することができる。発泡助剤は、例えばヒドラジド系化合物が好適に用いられる。
【0022】
ヒドラジド系化合物として、一般式(1):
R−CO−NHNH (1)
に示されるモノヒドラジド化合物、及び一般式(2):
NHN−X−NHNH (2)
に示されるジヒドラジド化合物を好適に使用することができる。
【0023】
前記一般式(1)のヒドラジド化合物としては、より具体的には、ラウリル酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、p−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド、ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド等を例示できる。
【0024】
前記一般式(2)のジヒドラジド化合物は、具体的には、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン−2酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ダイマー酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド等の2塩基酸ジヒドラジド等が挙げられる。更に、特公平2−4607号公報に記載の各種2塩基酸ジヒドラジド化合物、2,4−ジヒドラジノ−6−メチルアミノ−sym−トリアジン等も本発明のジヒドラジドとして用いることができる。
【0025】
発泡助剤の含有量は、樹脂成分100重量部に対して、0.3〜10重量部程度が好ましく、1〜6重量部程度がより好ましい。
【0026】
発泡剤含有樹脂層を形成する樹脂組成物には、上記エチレン−メタクリル酸共重合体を主成分とする樹脂成分、発泡剤及び発泡助剤以外にも、例えば、無機充填剤、顔料、架橋助剤、安定剤及び滑剤等を使用することができる。
【0027】
無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、モリブデン化合物等が挙げられる。無機充填剤を含むことにより、目透き抑制効果、表面特性向上効果等が得られる。無機充填剤の含有量は、樹脂成分100重量部に対して0〜100重量部程度が好ましく、20〜70重量部程度がより好ましい。
【0028】
顔料については、無機顔料として、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、黄鉛、モリブデートオレンジ、カドミウムイエロー、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、カドミウムレッド、群青、紺青、コバルトブルー、酸化クロム、コバルトグリーン、アルミニウム粉、ブロンズ粉、雲母チタン等が挙げられる。また、有機顔料として、例えば、アニリンブラック、ペリレンブラック、アゾ系(アゾレーキ、不溶性アゾ、縮合アゾ)、多環式(イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ペリノン、フラバントロン、アントラピリミジン、アントラキノン、キナクリドン、ペリレン、ジケトピロロピロール、ジブロムアンザントロン、ジオキサジン、チオインジゴ、フタロシアニン、インダントロン、ハロゲン化フタロシアニン)等が挙げられる。顔料の含有量は、樹脂成分100重量部に対して3〜50重量部程度が好ましく、15〜30重量部程度がより好ましい。
【0029】
発泡剤含有樹脂層に対して電子線を照射してもよい。その方法としては、後記の製造方法に記載された方法に従って実施すればよい。
【0030】
なお、発泡剤含有樹脂層の厚さは40〜100μm程度が好ましい。
【0031】
金属化合物含有樹脂層
本発明の樹脂積層体は、前記発泡剤含有樹脂層の片面又は両面に、金属化合物含有樹脂層が形成されている。
【0032】
本発明では、該金属化合物含有樹脂層は、非発泡樹脂層を形成する。
【0033】
金属化合物含有樹脂層を構成する樹脂成分は、添加される金属化合物がイオン系架橋構造形成に寄与しないという理由から、当該樹脂層に水素結合が含まれないようなモノマーの組み合わせから得られる樹脂を用いる。
【0034】
従って、例えばエチレンとOH基又はCOOH基を有しないモノマーとの組み合わせから得られるエチレン共重合体樹脂を好適に用いることができる。前記エチレン共重合体樹脂としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体樹脂(EMMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体樹脂(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体樹脂(EMA)、エチレン−αオレフィン共重合体を用いることができる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の樹脂単体からなるポリオレフィン系樹脂を用いることもできる。エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂含有樹脂層(特に、発泡剤含有樹脂層)との共押出し性を考慮して、融点・流動特性を合せ易いという理由から、この中でも、特にポリエチレン、EVA及びEMMA樹脂を用いることが好ましい。
【0035】
金属化合物含有樹脂層は、金属化合物を含有する。
【0036】
金属化合物としては、前述のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂含有樹脂層の樹脂成分として用いられるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂に起因するイオン性基(−COO等)とイオン性の架橋構造(擬似架橋構造)を形成し得るものであればよく、例えば、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び金属石鹸からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0037】
金属石鹸としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、及び、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、オクチル酸亜鉛等の脂肪酸金属塩が好ましい。
【0038】
この中でも、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛の少なくとも1種が好ましい。
【0039】
金属化合物の粒子径は限定されないが、3.5μm以下が好ましく、イオン性の観点からは0.6μm以下がより好ましい。下限値としては0.02μm程度である。ただし、金属石鹸の場合は、層形成時または複合時に溶融状態となるため、粒径の下限値としては特に制限されない。
【0040】
また、金属化合物含有樹脂層中の金属化合物の含有量は、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、上限値としては40重量%程度である。
【0041】
金属化合物含有樹脂層の厚さは限定的ではないが、5〜50μm程度が好ましい。
【0042】
接着樹脂層
更に、発泡樹脂層の裏面(後記の繊維質シートが積層される面)には、繊維質シートとの接着力を向上させる目的で接着樹脂層を有してもよい。
【0043】
接着樹脂層の樹脂成分としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が好ましい。EVAは特に限定されず、公知又は市販のものを使用することができる。特に、酢酸ビニル成分(VA成分)が10〜30重量%であるものが好ましく、15〜30質量%であるものがより好ましい。
【0044】
接着樹脂層の厚さは限定的ではないが、5〜50μm程度が好ましい。
【0045】
絵柄模様層
エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層と金属化合物含有樹脂層の間、若しくは金属化合物含有樹脂層の上には、絵柄模様層が形成されていてもよい。なお、絵柄模様層をエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層と金属化合物含有樹脂層の間に形成する場合は、上記金属化合物含有樹脂層に含有する金属化合物と同様の金属化合物を結着材樹脂中に添加することが好ましい。
【0046】
絵柄模様層は、樹脂積層体に意匠性を付与する。絵柄模様としては、例えば木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様等が挙げられる。絵柄模様は、発泡壁紙の種類に応じて選択できる。
【0047】
絵柄模様層は、例えば、絵柄模様を印刷することで形成できる。印刷手法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷等が挙げられる。印刷インキとしては、着色剤、結着材樹脂、溶剤を含む印刷インキが使用できる。これらのインキは公知又は市販のものを使用してもよい。
【0048】
着色剤としては、例えば、前記の発泡剤含有樹脂層で使用されるような顔料を適宜使用することができる。
【0049】
結着材樹脂は、基材シートの種類に応じて設定できる。例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキド系樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、繊維素誘導体、ゴム系樹脂等が挙げられる。
【0050】
溶剤(又は分散媒)としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸−2−メトキシエチル、酢酸−2−エトキシエチル等のエステル系有機溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤、;ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤;水などが挙げられる。これらの溶剤は単独、又は混合物として用いられる。
【0051】
絵柄模様層の厚みは、絵柄模様の種類より異なるが、一般には0.1〜10μm程度とすることが好ましい。
【0052】
エンボス
本発明の樹脂積層体は、おもて面からエンボス加工されていてもよい。エンボス加工は、エンボス版等の公知の手段により実施することができる。例えば、複合型表面樹脂層のおもて面を加熱軟化後、エンボス版を押圧することにより所望のエンボス模様を賦型できる。エンボス模様としては、例えば、木目板導管溝、石板表面凹凸、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝等がある。
【0053】
≪樹脂積層シート≫
本発明の樹脂積層体を繊維質シート上に積層することにより樹脂積層シートとすることができる。
【0054】
繊維質シートとしては限定されず、公知の壁紙基材(裏打紙)などが利用できる。
【0055】
具体的には、壁紙用一般紙(パルプ主体のシートを既知のサイズ剤でサイズ処理したもの);難燃紙(パルプ主体のシートをスルファミン酸グアニジン、リン酸グアジニン等の難燃剤で処理したもの);水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機添加剤を含む無機質紙;上質紙;薄用紙などが挙げられる。
【0056】
紙質基材の坪量は限定的ではないが、50〜300g/m程度が好ましく、50〜120g/m程度がより好ましい。
【0057】
≪樹脂積層体の製造方法≫
本発明の樹脂積層体は、(i)樹脂成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層の片面又は両面に、樹脂成分が水素結合が含まれないモノマーからなる共重合体である金属化合物含有樹脂層を積層させ、(ii)この様に層構成を有する未発泡中間体を熱処理し、前記発泡剤含有樹脂層を発泡樹脂層にし、(iii)前記熱処理又は別途の熱処理により、前記発泡剤含有樹脂層と前記金属化合物含有樹脂層を複合化することにより、製造できる。
【0058】
この様に、発泡剤含有樹脂層を熱処理し発泡させることにより、発泡樹脂層を得ることができる。発泡樹脂層の発泡状態(例えば、発泡セルの大きさ、発泡セル密度等)は限定されず、樹脂積層体及び樹脂積層シートの種類、用途等に応じて適宜設計できる。
【0059】
発泡剤含有樹脂層を熱処理した後の発泡後の発泡樹脂層の厚さは、300〜700μm程度が好ましい。
【0060】
この複合化のための熱処理は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層が溶融する条件であればよい。従って、発泡剤含有樹脂層を発泡樹脂層にする(発泡させる)ための熱処理により、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層が溶融するのであれば、発泡のための熱処理を複合化のための熱処理として利用することができる。
【0061】
本発明では、この様な熱処理により、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層が溶融し、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂に起因するイオン性基(−COO等)が、隣接する金属化合物含有樹脂層中の金属化合物とイオン性の架橋構造(擬似架橋構造)を形成することにより表面強度が向上すると考えられる。
【0062】
樹脂積層体の製造方法としては、前述の通り、例えば、繊維質シート上に、(I)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層と金属化合物含有樹脂層を同時に形成した後、或いは、(II)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層及び金属化合物含有樹脂層を順に形成した後、この樹脂層を熱処理(加熱溶融)させること(溶融押出し製膜)により製造できる。この様に、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層及び金属化合物含有樹脂層は別々に積層してもよく、同時押出し製膜により積層してもよい。同時押出し製膜の場合には、例えば、両面に金属化合物含有樹脂層を有する場合には、3つの層に対応する溶融樹脂を同時に押出すことにより3層の同時製膜(3層同時押出し製膜)が可能なマルチマニホールドタイプのTダイを用いることができる。
【0063】
前記エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層を製膜後、発泡前に電子線照射を行うことができる。これにより樹脂成分を架橋して発泡樹脂層の表面強度、発泡特性等を調整することができる。電子線のエネルギーは、150〜250kV程度が好ましく、175〜200kV程度がより好ましい。照射量は、10〜100kGy程度が好ましく、10〜50kGy程度がより好ましい。電子線源としては、公知の電子線照射装置が使用できる。この電子線照射は、後述の絵柄模様層の形成後でもよい。
【0064】
次に金属化合物含有樹脂層上に、絵柄模様層を形成する。
【0065】
次いで、発泡剤含有樹脂層を加熱することにより発泡樹脂層を形成する。加熱条件は、熱分解型発泡剤の分解により発泡樹脂層が形成される条件ならば限定されない。加熱温度は210〜240℃程度が好ましく、加熱時間は20〜80秒程度が好ましい。また、この熱処理により、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂含有樹脂層と金属化合物含有樹脂層とが複合化する。
【発明の効果】
【0066】
本発明の樹脂積層体は、樹脂成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含む発泡剤含有樹脂層及び金属化合物含有樹脂層を、熱処理により複合化しているため、発泡樹脂層の樹脂製膜性を良好に維持しながら、発泡壁紙等の表面強度を更に向上させることができ、そして、生産性を良好に維持できる。この効果は、熱処理により、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂が溶融し、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂に起因するイオン性基(−COO等)が隣接する金属化合物含有樹脂層中の金属化合物とイオン性の架橋構造(擬似架橋構造)を形成することにより表面強度が向上することに基づくと考えられている。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0068】
実施例1
3種3層マルチマニホールドTダイ押出し機を用いて、以下の表1の配合にて、i)非発泡樹脂層(金属化合物含有樹脂層)/ii)発泡剤含有樹脂層/iii)非発泡樹脂層の順に厚み10μm/70μm/10μmになるように製膜した。
【0069】
製膜後、90℃に加熱した裏打紙(WK−665DO、興人製)に前記iii)層の面を積層し、i)層上から電子線(195kV,30kGy)を照射して、積層樹脂層を樹脂架橋した。これにより、積層樹脂シート原反を作製した。
【0070】
次いで、i)層上にコロナ放電処理を行い、グラビア印刷機により絵柄印刷として水性インキ(「ハイドリック」、大日精化工業製)を用いて布目絵柄を印刷した。
【0071】
次に、オーブンにて加熱(220℃×35秒)し、樹脂層を溶融させると同時に、発泡剤含有樹脂層に含有する発泡剤を発泡させ発泡樹脂層にするとともに、前記発泡剤含有樹脂層及び金属化合物含有樹脂層を複合化して、樹脂積層シートを形成した。
【0072】
次に、その発泡体に対して布目パターンの凹凸エンボスを施し樹脂積層シートを得た。
【0073】
各層は、それぞれ以下の成分を用いて形成した。
【0074】
実施例2
実施例1のi)非発泡樹脂層(金属化合物含有樹脂層)の金属化合物を、酸化亜鉛(粒子径0.6μm)に替えた以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0075】
実施例3
実施例1のiii)非発泡樹脂層のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂100部に酸化マグネシウム(粒子径0.5μm)30部を添加し、金属化合物含有樹脂層とした以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0076】
比較例1
実施例1のi)非発泡樹脂層(金属化合物含有樹脂層)に金属化合物を、含まない以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0077】
比較例2
実施例1のii)発泡剤含有樹脂層のエチレン−メタクリル酸共重合樹脂を、「ポリエチレン樹脂(ペトロセン208 東ソー製)」に替えた以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0078】
比較例3
実施例1のi)非発泡樹脂層(金属化合物含有樹脂層)のポリエチレン樹脂を「エチレン−メタクリル酸共重合樹脂(ニュクレルN1560 三井・デュポン ポリケミカル製)」層にして作製した。他は同じである。
【0079】
【表1】

【0080】
試験例1
実施例及び比較例で得られた樹脂積層シートについて、耐スクラッチ性及び樹脂製膜性を調べた。
【0081】
各試験方法及び評価基準は次の通りである。
(樹脂製膜性)
壁紙の最表層の樹脂層(単層または2層)の押出し製膜形成時の製膜状態を観察した。評価基準は次のとおり。○:樹脂切れ、穴開きなし。 ×:樹脂切れ、穴開きで製膜できない。
【0082】
(耐スクラッチ性)
壁紙工業会制定の表面強化壁紙の性能評価方法に準じて行った。評価基準としては次のとおり。○:表面に変化なし。 △:表層のみ傷付く。 ×:傷が発泡樹脂層まで達する。
【0083】
評価結果は下記表2の通りである。
【0084】
【表2】

【0085】
実施例1〜3は、発泡樹脂層としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂含有樹脂層を使用し、非発泡樹脂層として金属化合物含有樹脂層を使用したものである。このため、実施例1〜3では、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂含有樹脂層と金属化合物含有樹脂層が、熱処理(加熱溶融)により複合化(一体化)して、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂と金属化合物含有非発泡樹脂層が反応して発泡樹脂層が硬くなり、従来のエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂を含む発泡樹脂層よりも強靭な樹脂層が形成された。その結果、耐スクラッチ性が優れた樹脂積層シートを作成することができ、また、押出し製膜時にも不具合なく製膜できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡剤含有樹脂層の片面又は両面に金属化合物含有樹脂層が積層された層構成を有する未発泡中間体を熱処理し、前記発泡剤含有樹脂層を発泡樹脂層にすることにより得られる樹脂積層体であって、
(1)前記発泡剤含有樹脂層が、樹脂成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂を含み、
(2)前記金属化合物含有樹脂層の樹脂成分は、水素結合が含まれないモノマーからなる共重合体であり、
(3)前記熱処理又は別途の熱処理により、前記発泡剤含有樹脂層と前記金属化合物含有樹脂層とが複合化されている、
ことを特徴とする樹脂積層体。
【請求項2】
前記金属化合物が、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び金属石鹸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記金属化合物含有樹脂層が、前記金属化合物を5重量%以上含有する、請求項1又は2に記載の樹脂積層体。
【請求項4】
繊維質シート上に、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂積層体を積層してなる樹脂積層シート。

【公開番号】特開2012−166350(P2012−166350A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26468(P2011−26468)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】