説明

樹脂積層板

【課題】リン系および窒素系難燃剤量を低減することができ、耐熱性を低下させることなく難燃性を向上させた樹脂積層板を提供する。
【解決手段】樹脂組成物を含浸乾燥し得たプリプレグを積層することによって得られる樹脂積層板において、樹脂組成物が、乾性油変性レゾール型フェノール樹脂と下記一般式(1)で示されるリン含有ポリオール化合物を含有し,且つ樹脂組成物の固形量中のリン含有ポリオール化合物の配合量が5〜25重量%である樹脂積層板。


(式中,Rは炭素数1〜4のアルキル基,R,Rは炭素数1〜4のアルキレン基)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,難燃性が良好な樹脂積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は電気・電子機器に使用されており,紙基材フェノール樹脂積層板は,打抜加工性に優れ,且つ安価であるため民生用電子機器のプリント配線板用基板として多く使われている。紙基材フェノール樹脂積層板は,フェノール類とアルデヒド類とをアルカリ触媒下で反応させて得られたフェノール樹脂を溶剤で調整し,紙基材に含浸乾燥して得られるプリプレグ所定枚数重ね合わせ片面または両面に金属箔を構成後加熱加圧して製造される。このようにして得られた積層板の金属箔をエッチングすることにより回路を形成してプリント配線板とする。主材料である紙基材,フェノール樹脂は可燃物であるため,難燃性を付与させるために,ハロゲン系,リン系,窒素系,無機系の難燃剤を配合する必要がある。
【0003】
【特許文献1】特開平3−138137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紙基材フェノール樹脂積層板の中でも特にハロゲンフリー紙基材フェノール樹脂積層板は,ハロゲン系難燃剤を使用しないため,多量のリン系,窒素系難燃剤を使用することで難燃性を付与することが多く,このことが耐熱性等の特性を低下させる原因になっていた。特開平3−138137号公報のように,リン含有ポリオール化合物を1次含浸用のメラミン樹脂変性フェノール樹脂に添加する方法があるが,ハロゲンフリーの樹脂系では十分な難燃性を得ることは難しい。また,1次含浸用メラミン樹脂変性フェノール樹脂の固形分に対して15重量部以上添加すると,2次含浸用フェノール樹脂の含浸性が低下し,難燃性,耐熱性にばらつきが発生し,積層板の外観も劣化する。
【0005】
本発明は、リン系および窒素系難燃剤量を低減することができ、耐熱性を低下させることなく難燃性を向上させた樹脂積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に関する。
(1)樹脂組成物を含浸乾燥し得たプリプレグを積層することによって得られる樹脂積層板において、樹脂組成物が、乾性油変性レゾール型フェノール樹脂と下記一般式(1)で示されるリン含有ポリオール化合物を含有し,且つ樹脂組成物の固形量中のリン含有ポリオール化合物の配合量が5〜25重量%である樹脂積層板。
【0007】
【化1】


(式中,Rは炭素数1〜4のアルキル基,R,Rは炭素数1〜4のアルキレン基)
(2)樹脂組成物が、前記一般式(1)で示されるリン含有ポリオール化合物を,乾性油変性レゾール型フェノール樹脂の合成段階で配合した樹脂組成物である、項(1)記載の樹脂積層板。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、乾性油変性レゾール型フェノール樹脂の合成時に,リン含有ポリオールを配合することにより,樹脂系内にリン及び窒素を均一に組込むことができ,その後配合するリン系および窒素系難燃剤量を低減することができるため、耐熱性を低下させることなく難燃性を向上させた樹脂積層板を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用する乾性油については,桐油,アマニ油等を使用し,変性率は5〜25重量%であることが好ましい。変性率は5重量%未満であると打抜加工性が不十分となり,25重量%を超えると,難燃性が不十分となるおそれがある。
【0010】
本発明で使用する乾性油変性レゾール型フェノール樹脂は,例えば、フェノール,クレゾール,ノニルフェノール,ビスフェノールA等のフェノール類とパラホルムアルデヒド,ホルマリン水溶液等のホルムアルデヒドとをアンモニア,トリメチルアミン,トリエチルアミン等の塩基触媒下で反応させる。また、下記一般式(1)で示されるリン含有ポリオールを、樹脂組成物の固形量中、5〜25重量%配合する。更に乾性油変性レゾール型フェノール樹脂の合成時に,リン含有ポリオールを配合することが好ましい。このことにより樹脂系内にリン及び窒素を均一に組込むことができ,その後配合するリン系および窒素系難燃剤量を低減することができるため耐熱性の低下を防ぐことができる。リン含有ポリオールの配合量が5重量%未満であると充分な難燃性が得られず,25重量%を超えると樹脂の効果反応を阻害するため好ましくない。この反応物を一定時間脱水縮合して乾性油変性レゾール型フェノール樹脂を得ることができる。
【0011】
【化2】


(式中,Rは炭素数1〜4のアルキル基,R,Rは炭素数1〜4のアルキレン基)
【0012】
更に安定した難燃性を得るため,リン酸エステル等のリン系難燃剤,メラミン樹脂,メラミン変性ノボラック型フェノール樹脂等の窒素系難燃剤を配合すると効果的である。リン系難燃剤の配合量は、樹脂組成物の固形量中、30重量%以下が好ましく,30重量%を超え配合すると耐熱性が低下する傾向にある。窒素系難燃剤については窒素含有量が3〜20重量%が好ましく,3重量%未満であると難燃剤としての効果は得られず,20重量%を超えると耐熱性が低下する。配合量は5〜20重量%が好ましく,5重量%未満であると難燃剤としての効果は得られず,20重量%を超えると打抜加工性,耐熱性が低下する。
【0013】
この樹脂を、例えば、メタノール,トルエン,アセトン等の溶剤で希釈してワニスとし,予め水溶性フェノール樹脂,メラミン樹脂等で前処理をおこなったクラフト紙,リンター紙等の紙基材に含浸,乾燥させて得たプリプレグを所定枚数重ね,その片側及び両面に金属箔を重ね,所定の温度,圧力,時間で加熱,加圧して積層板を得た。
【0014】
このように,乾性油変性レゾール型フェノール樹脂の合成時に,一般式で示されるリン含有ポリオールを配合して得られた樹脂に,リン系および窒素系難燃剤配合することによって,難燃性,耐熱性が良好な積層板を得ることができる。
【0015】
従来ハロゲンフリー紙基材フェノール樹脂積層板は,難燃性を付与するため,TPP,CDP等のリン酸エステルに多量に使用しており,この影響で耐熱性が低かった。本発明では乾性油変性レゾール型フェノール樹脂の合成時に,一般式で示されるリン含有ポリオールを配合することにより,樹脂系内にリン及び窒素を均一に組込むことができ,その後配合するリン系および窒素系難燃剤量を低減することができるため耐熱性を低下させることなく難燃性を向上させることができる。
【実施例】
【0016】
以下,本発明の実施例およびその比較例によって本発明をさらに具体的に説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。これらの例において,部は重量部,配合の%は重量%を表す。
【0017】
水溶性フェノール樹脂の合成
フェノール1モルを反応釜に仕込み、ホルムアルデヒド換算で1.2モルのホルマリンを加え、これにトリメチルアミン0.4モル相当の30重量%トリメチルアミン水溶液を加え、70℃で6時間反応させ、これに、メタノールと水の等重量混合溶剤を加えて固形分20重量%の下塗り用水溶性フェノール樹脂Aを製造した。
【0018】
実施例1
桐油160部とメタクレゾール520部を混合し,p−トルエンスルホン酸0.2部を加えて,90℃1時間反応させた,パラホルムアルデヒド200部,28%アンモニア水30部,リン含有ポリオール(商品名FC−450旭電化工業株式会社製)5重量部を配合し,75℃2時間反応させ,その後反応釜内部80kPa(600Torr)以下に減圧して2時間縮合水の除去をおこなった。得られた樹脂にメラミン樹脂(商品名メラン357A日立化成工業株式会社製)を10部配合し,メタノールにて50%に希釈しワニスを得た。以下得られたワニスをB1と略記する。
【0019】
クラフト紙に,水溶性フェノール樹脂Aを,付着量17〜25%になるように含浸し,乾燥させた後,ワニスB1を,付着量が50〜55%になるように含浸し,乾燥させてプリプレグを得た。このプリプレグ8枚に,接着剤付銅箔を両側に2枚重ね,170℃,10MPaに60分加温加圧し,板厚1.6mmの両面銅張積層板を作製した。
【0020】
実施例2
桐油160部とメタクレゾール520部を混合し,p−トルエンスルホン酸0.2部を加えて,90℃1時間反応させた,パラホルムアルデヒド200部,28%アンモニア水30部リン含有ポリオール(商品名FC−450旭電化工業株式会社製)25重量部を配合し,75℃2時間反応させ,その後反応釜内部80kPa(600Torr)以下に減圧して2時間縮合水の除去をおこなった。得られた樹脂にメラミン樹脂(商品名メラン357A日立化成工業製)を10部配合し,メタノールにて50%に希釈しワニスを得た。以下得られたワニスをB2と略記する。
【0021】
実施例1と同様に処理をおこなったクラフト紙に,ワニスB2を,付着量が50〜55%になるように含浸し,乾燥させてプリプレグを得た。このプリプレグを用いて,実施例1と同様の条件により,板厚1.6mmの両面銅張積層板を作製した。
【0022】
実施例3
桐油160部とメタクレゾール520部を混合し,p−トルエンスルホン酸0.2部を加えて,90℃1時間反応させた,パラホルムアルデヒド200部,28%アンモニア水30部,リン含有ポリオール(商品名FC−450旭電化工業株式会社製)3重量部を配合し,75℃2時間反応させ,その後反応釜内部80kPa(600Torr)以下に減圧して2時間縮合水の除去をおこなった。得られた樹脂にメラミン樹脂(商品名メラン357A日立化成工業株式会社製)を10部配合し,メタノールにて50%に希釈しワニスを得た。以下得られたワニスをB3と略記する。
【0023】
実施例1と同様に処理をおこなったクラフト紙に,ワニスB3を,付着量が50〜55%になるように含浸し,乾燥させてプリプレグを得た。このプリプレグを用いて,実施例1と同様の条件により,板厚1.6mmの両面銅張積層板を作製した。
【0024】
実施例4
桐油160部とメタクレゾール520部を混合し,p−トルエンスルホン酸0.2部を加えて,90℃1時間反応させた,パラホルムアルデヒド200部,28%アンモニア水30部,リン含有ポリオール(商品名FC−450旭電化工業株式会社製)30重量部を配合し,75℃2時間反応させ,その後反応釜内部80kPa(600Torr)以下に減圧して2時間縮合水の除去をおこなった。得られた樹脂にメラミン樹脂(商品名メラン357A日立化成工業株式会社製)を10部配合し,メタノールにて50%に希釈しワニスを得た。以下得られたワニスをB4と略記する。
【0025】
実施例1と同様に処理をおこなったクラフト紙に,ワニスB4を,付着量が50〜55%になるように含浸し,乾燥させてプリプレグを得た。このプリプレグを用いて,実施例1と同様の条件により,板厚1.6mmの両面銅張積層板を作製した。
【0026】
比較例1
桐油160部とメタクレゾール520部を混合し,p−トルエンスルホン酸0.2部を加えて,90℃1時間反応させた,パラホルムアルデヒド200部,28%アンモニア水30部を配合し,75℃2時間反応させ,その後反応釜内部80kPa(600Torr)以下に減圧して2時間縮合水の除去をおこなった。得られた樹脂にメラミン樹脂(商品名メラン357A日立化成工業株式会社製)を10部配合し,メタノールにて50%に希釈しワニスを得た。以下得られたワニスをB5と略記する。
【0027】
実施例1と同様に処理をおこなったクラフト紙に,ワニスB5を,付着量が50〜55%になるように含浸し,乾燥させてプリプレグを得た。このプリプレグを用いて,実施例1と同様の条件により,板厚1.6mmの両面銅張積層板を作製した。
【0028】
比較例2
桐油160部とメタクレゾール520部を混合し,p−トルエンスルホン酸0.2部を加えて,90℃1時間反応させた,パラホルムアルデヒド200部,28%アンモニア水30部を配合し,75℃2時間反応させ,その後反応釜内部80kPa(600Torr)以下に減圧して2時間縮合水の除去をおこなった。得られた樹脂にリン含有ポリオール(商品名FC−450旭電化工業株式会社製)25重量部,メラミン樹脂(商品名メラン357A日立化成工業株式会社製)を10部配合し,メタノールにて50%に希釈しワニスを得た。以下得られたワニスをB6と略記する。
【0029】
実施例1と同様に処理をおこなったクラフト紙に,ワニスB6を,付着量が50〜55%になるように含浸し,乾燥させてプリプレグを得た。このプリプレグを用いて,実施例1と同様の条件により,板厚1.6mmの両面銅張積層板を作製した。
【0030】
比較例3
桐油160部とメタクレゾール520部を混合し,p−トルエンスルホン酸0.2部を加えて,90℃1時間反応させた,パラホルムアルデヒド200部,28%アンモニア水30部を配合し,75℃2時間反応させ,その後反応釜内部80kPa(600Torr)以下に減圧して2時間縮合水の除去をおこなった。得られた樹脂にリン含有ポリオール(商品名FC−450旭電化工業株式会社製)25重量部,メラミン樹脂(商品名メラン357A日立化成工業株式会社製)を10部,TPP40重量部を配合し,メタノールにて50%に希釈しワニスを得た。以下得られたワニスをB7と略記する。
【0031】
実施例1と同様に処理をおこなったクラフト紙に,ワニスB7を,付着量が50〜55%になるように含浸し,乾燥させてプリプレグを得た。このプリプレグを用いて,実施例1と同様の条件により,板厚1.6mmの両面銅張積層板を作製した。
【0032】
実施例1〜4および比較例1〜3の両面銅箔張積層板について,はんだ耐熱性,打抜加工性,難燃性を評価した。その結果を表1、2に示す。
なお,試験方法は以下の通りとした。
(1)はんだ耐熱性:260℃のはんだ槽に,それぞれ銅箔面が接するように試験片を浮かべ,ふくれが発生するまでに要した時間を測定した。
(2)打抜加工性:試験片の表面温度(60℃、90℃)を変えて,ポンチ径1.0〜1.2mm,穴間ピッチ2.54mm,24穴の試験用金型を用いて打抜加工した。
打抜加工した試験片の穴周辺の目視観察し,その状態を記号で示した。
評価基準 ○:はくり,目白なし
△:はくり,目白若干あり
×:はくり,目白あり
(3)難燃性:UL規格に基づいて評価をおこなった。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
乾性油変性レゾール型フェノール樹脂にメラミン樹脂のみを配合した比較例1は,はんだ耐熱性,打抜加工性は良好だが,難燃性については不十分である。比較例2のようにFC−450を合成後に配合するだけでは,難燃化効果は低いため最大値が大きく,94V−0を満足することができない。比較例3のように,FC−450を合成後に配合する他にTPPを40部配合すると,難燃性は94V−0を満足するが,はんだ耐熱性,打抜加工性が低下する。実施例1,2のように乾性油変性レゾール型フェノール樹脂合成時にFC−450を5〜25部の範囲内で配合すると,難燃性が94V−0を満足し,はんだ耐熱性,打抜加工性が良好な積層板を得ることができる。実施例3のように乾性油変性レゾール型フェノール樹脂合成時に配合するFC−450量が5部より少ないと難燃性が不充分となり,実施例4のように25部以上であると難燃性は94V−0を満足するが,はんだ耐熱性,打抜加工性が低下する。
【0036】
本発明では乾性油変性レゾール型フェノール樹脂の合成時に,リン含有ポリオールを配合することにより,樹脂系内にリン及び窒素を均一に組込むことができ,その後配合するリン系および窒素系難燃剤量を低減することができるため耐熱性を低下させることなく難燃性を向上させることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物を含浸乾燥し得たプリプレグを積層することによって得られる樹脂積層板において、樹脂組成物が、乾性油変性レゾール型フェノール樹脂と下記一般式(1)で示されるリン含有ポリオール化合物を含有し,且つ樹脂組成物の固形量中のリン含有ポリオール化合物の配合量が5〜25重量%である樹脂積層板。
【化1】


(式中,Rは炭素数1〜4のアルキル基,R,Rは炭素数1〜4のアルキレン基)
【請求項2】
樹脂組成物が、前記一般式(1)で示されるリン含有ポリオール化合物を,乾性油変性レゾール型フェノール樹脂の合成段階で配合した樹脂組成物である、請求項1記載の樹脂積層板。




【公開番号】特開2008−18557(P2008−18557A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190349(P2006−190349)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】