説明

樹脂粒子分散体、その製造方法、およびその用途

【課題】 樹脂粒子が沈降することなく、懸濁重合で得られた分散体の形態のまま樹脂粒子含有組成物に用いることができる樹脂粒子分散体と、その製造方法とを提供する。
【解決手段】 樹脂粒子分散体は、水媒体中に樹脂粒子が分散してなり、前記樹脂粒子が水と相溶しない比重1以下の貧溶媒を含有しているものである。樹脂粒子分散体の製造方法は、水を媒体として単量体成分を懸濁重合させることにより水媒体中に樹脂粒子が分散してなる樹脂粒子分散体を得る方法において、水と相溶しない比重1以下の貧溶媒の存在下で前記懸濁重合を行うとともに、該懸濁重合は、前記単量体成分の一部を重合させる初期重合工程と、初期重合工程における反応率が80%以上になった時点で引き続き前記単量体成分の残部を添加して重合を行う本重合工程とにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性に優れた樹脂粒子分散体と、該分散体を得るのに適した製造方法と、該分散体を用いた樹脂粒子含有組成物とに関する。詳しくは、本発明は、懸濁重合により樹脂粒子分散体を得、これを濾過および乾燥を要することなくそのまま樹脂粒子含有組成物に用いることを可能にするものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む単量体成分を懸濁重合させることにより得られるアクリル系樹脂粒子のような樹脂粒子は、例えば、塗料、コーティング剤、光学部品材料、電子材料等の各種用途における艶消し剤や光拡散剤等として汎用されている。
ところで、これまで、前述したような樹脂粒子は、通常、水を媒体とした懸濁重合により水性分散体の形で樹脂粒子を得たのちに濾過および乾燥を施し、粉末状の乾燥粒子の形態で前述した用途の樹脂粒子含有組成物に用いられていた。しかし、用途によっては、粉末状の乾燥粒子として供給された樹脂粒子は再度水性媒体に分散して使用されることになるので、懸濁重合後に行う濾過および乾燥の工程を省き分散体の形態で樹脂粒子を用いることができれば、大幅な低コスト化を図ることができると考えられる。なお、近年、懸濁重合後に濾過工程のみを施し、乾燥工程を省いて濾過後の湿体の形態のままで樹脂粒子含有組成物に用いることにより、低コスト化を図る試みもなされているが、湿体の形態で得られた樹脂粒子は、ハードケーキ化しやすいため水性媒体に再分散して使用する際に上手く分散させることができないという欠点があった。そのため、やはり濾過および乾燥の両方を省き、懸濁重合で得られた分散体の形態のまま樹脂粒子含有組成物に用いることが最も望ましいと考えられている。
【0003】
しかしながら、樹脂粒子を懸濁重合により得られた分散体の形態のまま用いるようにすると、例えば、運搬時や保存時など分散体を得てから使用されるまでの間に樹脂粒子が沈降し、場合によっては沈降した樹脂粒子が強固な固まりとなってしまうため、使用時に非常に高いシェアを要して再分散させなければならず、作業性や生産効率が悪化したり、使用自体が困難になったりするという問題が生じていた。
これまでから、分散体中の樹脂粒子の沈降を抑制する方法としては、一般に、分散体中に増粘剤を添加してその粘度を向上させておくことが知られており、本発明者もこの技術を利用した分散体を提案している(特願2003−345732号)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、分散体中に増粘剤を添加すると、例えば耐水性等が低下するなどの別の問題が生じることがあるため、塗料等の用途においては使用が制限される場合があった。このため、増粘剤の添加によらずとも樹脂粒子が沈降することのない分散体が要望されている。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、樹脂粒子が沈降することなく、懸濁重合で得られた分散体の形態のまま樹脂粒子含有組成物に用いることができる樹脂粒子分散体と、該分散体を得るのに適した製造方法と、前記分散体を用いた樹脂粒子含有組成物とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、水媒体中に樹脂粒子が分散してなる分散体において、分散体中の樹脂粒子に比重1以下の貧溶媒を含有させることにより、樹脂粒子の沈降を防ぐことができることを見出した。そして、さらに検討を重ねたところ、分散体中の樹脂粒子が前記貧溶媒を含有する形態として、1)前記貧溶媒が樹脂に内包された状態で含有されている形態と、2)前記樹脂粒子が多孔質構造を有していてその孔内に前記貧溶媒を含有する形態、3)前記樹脂粒子が粒子表面に凹凸を有していてその凹部内に前記貧溶媒を含有する形態、とがあり、いずれも粒子の沈降を抑制するという目的を達することができるが、2)および3)の形態であると、分散体を塗料組成物として用いたときに経時的に増粘を起こすことになるという別の問題を生じることを突き止めた。このことから、1)の形態で樹脂粒子に前記貧溶媒を含有させることが最も良いとの結論に達し、そのような樹脂粒子の分散体を得る方法として、水を媒体として単量体成分を懸濁重合させるにあたり、重合を、水と相溶しない比重1以下の貧溶媒の存在下で行うとともに、単量体成分の一部を懸濁重合させる初期重合工程と該初期重合工程における反応率が一定以上になった時点で引き続き単量体成分の残部を添加して懸濁重合を行う本重合工程とに分けて行う方法が適していることを見出した。本発明は、これらの知見により完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明にかかる樹脂粒子分散体は、水媒体中に樹脂粒子が分散してなり、前記樹脂粒子が水と相溶しない比重1以下の貧溶媒を含有しているものである。
本発明にかかる樹脂粒子分散体の製造方法は、水を媒体として単量体成分を懸濁重合させることにより水媒体中に樹脂粒子が分散してなる樹脂粒子分散体を得る方法において、水と相溶しない比重1以下の貧溶媒の存在下で前記懸濁重合を行うとともに、該懸濁重合は下記2つの工程により行う、ことを特徴とする。
(1)前記単量体成分の一部を重合させる初期重合工程。
(2)初期重合工程における反応率が80%以上になった時点で、引き続き前記単量体成分の残部を添加して重合を行う本重合工程。
【0007】
本発明にかかる樹脂粒子含有組成物は、樹脂粒子とベースポリマーとを含む樹脂粒子含有組成物であって、前記樹脂粒子を、前記本発明の樹脂粒子分散体の形で含有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂粒子が沈降することなく、懸濁重合で得られた分散体の形態のまま樹脂粒子含有組成物に用いることができる樹脂粒子分散体と、該分散体を得るのに適した製造方法と、前記分散体を用いた樹脂粒子含有組成物とを提供することができ、その結果、樹脂粒子を用いる各種用途において該樹脂粒子にかかるコストの大幅な低減を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明にかかる樹脂粒子分散体、樹脂粒子分散体の製造方法、および樹脂粒子含有組成物について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔樹脂粒子分散体〕
本発明の樹脂粒子分散体においては、前記樹脂粒子が水と相溶しない比重1以下の貧溶媒を含有していることが重要である。樹脂粒子が前記貧溶媒を含有しているとは、詳しくは、下記1)〜3)のいずれかを意味するものである。
1)前記貧溶媒が樹脂に内包された状態で含有されていること。さらに詳しくは、例えば、図1に示すように、樹脂粒子1が中空構造を有していて、前記貧溶媒が、樹脂粒子1の中空部2a内に存在している状態(すなわち、貧溶媒が樹脂で包まれている状態)で樹脂粒子に含有されていること、もしくは、図2に示すように、樹脂粒子1が閉ざされた多孔質構造を有していて、前記貧溶媒が、樹脂粒子1の閉ざされた孔2b内に存在している状態(すなわち、貧溶媒が樹脂で包まれている状態)で樹脂粒子に含有されていること。
【0010】
2)前記樹脂粒子が、多孔質構造を有していて、その孔内に前記貧溶媒を含有するものであること。さらに詳しくは、例えば図3に示すように、樹脂粒子1が開かれた多孔質構造を有していて、前記貧溶媒が、樹脂粒子1の開かれた孔2c内に存在している状態で樹脂粒子に含有されていること。
3)前記樹脂粒子が、粒子表面に凹凸を有していて、その凹部内に前記貧溶媒を含有するものであること。さらに詳しくは、例えば図4に示すように、樹脂粒子1がその表面に凹凸を有していて、前記貧溶媒が、樹脂粒子1の凹部2dの窪みに入り込んだ状態で樹脂粒子に含有されていること。
前記1)、前記2)、前記3)のいずれであっても、本発明においては、粒子が含有する貧溶媒の比重が1以下であることで、樹脂粒子の沈降を抑制することができる。なお、図1〜図4の断面図は、いずれも、孔や凹凸等について理解が容易なよう誇張して表したイメージ図である。水と相溶しない比重1以下の貧溶媒については、後述する〔本発明の樹脂粒子分散体の製造方法〕の項で詳しく説明する。
【0011】
本発明の樹脂粒子分散体においての好ましい態様は、前記1)のように前記貧溶媒が樹脂に内包された状態で存在していることである。これは、前記2)や前記3)のような態様であると、前記貧溶媒が徐々に樹脂粒子の外に漏れ出す(すなわち、分散体の媒体である水と混ざり合う)ことがあり、分散体を塗料組成物等として用いたときに、経時的に増粘を起こすという別の問題を生じることとなるが、前記1)の態様であると、前記貧溶媒は樹脂に内包されているため粒子の外に漏れ出すおそれがなく、経時的に増粘するという問題を招くことがないからである。
なお、本発明においては、前記1)〜3)のうちの少なくとも1つの態様により樹脂粒子が前記貧溶媒を含有するようになっていればよいのであるが、前記1)〜3)のうちの2つ以上の態様をとることにより、樹脂粒子が前記貧溶媒を含有していてもよい。具体的には、例えば、樹脂粒子が中空構造を有するとともに粒子表面に凹凸を有していて、前記貧溶媒が、樹脂粒子内の中空部に存在している状態であると同時に、粒子表面の凹部の窪みに入り込んだ状態となって、樹脂粒子に含有されている等であってもよいのである。
【0012】
本発明の樹脂粒子分散体において、前記樹脂粒子が水と相溶しない比重1以下の貧溶媒を含有しているか否かは、例えば、濾過等により樹脂粒子を取り出し、取り出した樹脂粒子を直ちに熱分解GC−MASSで分析することにより溶媒の存在とその組成(種類)を確認し、併せて、ミクロトームで取り出した樹脂粒子の断面を切り出してSEM観察を行うことにより粒子に前記貧溶媒が存在しうるための空隙が認められること(詳しくは、前記1)の態様においては、周囲が樹脂で覆われた閉ざされた空間(図1における中空部2aや図2における孔2bなど)が粒子内部に存在することであり、前記2)および前記3)の態様においては、粒子に孔や凹部(図3における孔2cや図4における凹部2dなど)が存在することである)を確認することによって、判定することができる。なお、前記貧溶媒が存在しうるための空隙は、例えば蟻の巣における空洞のように、複雑に繋がって存在していてもよい。
【0013】
前記樹脂粒子が含有する前記貧溶媒の量は、特に制限されないが、該樹脂粒子の樹脂分に対して5〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜70質量%、さらに好ましくは30〜55質量%であるのがよい。前記貧溶媒の量が前記範囲よりも少ないと、浮遊効果が不充分となって沈降を充分に抑制できないおそれがあり、一方、前記貧溶媒の量が前記範囲よりも多いと、塗料等として用いた場合に耐候性が劣化する恐れがある。なお、樹脂粒子が含有している前記貧溶媒の量は、例えば、濾過等により樹脂粒子を取り出し、取り出した樹脂粒子を直ちに熱分解GC−MASSで分析し定量することにより測定することができる。
【0014】
本発明の樹脂粒子分散体においては、前記樹脂粒子の表面が平滑でない(すなわち、粗面状である)ことが好ましい。これにより、より大きい艶消し効果や光拡散効果を発現させることができるからである。本発明の樹脂粒子分散体における樹脂粒子は、前述したように前記1)〜3)のうちの少なくとも1つの態様をとるものであるが、前記2)または前記3)の態様をとる場合には、樹脂粒子は多孔質構造であるかもしくは粒子表面に凹凸を有するものであるので、必然的に樹脂粒子の表面は平滑ではなく、前記艶消し効果や光拡散効果が得られるものである。他方、前記1)の態様のみをとる場合においては、樹脂粒子の表面は平滑であってもよいのであるが、前記効果を得るためには、前記樹脂粒子が、多孔質状の粒子形態および粒子表面形状が凹凸状である粒子形態のいずれか一方または両方の形態であることが好ましいのである。例えば、粗い多孔質状(孔の大きい多孔質状)の樹脂粒子を所望の場合には、後述する本発明の樹脂粒子分散体の製造方法において用いる貧溶媒として、単量体成分から生じる樹脂に対する溶解性が比較的低い溶媒を選択すればよく、一方、緻密な多孔質状(孔の小さい多孔質状)の樹脂粒子を所望の場合には、後述する本発明の樹脂粒子分散体の製造方法において用いる貧溶媒として、単量体成分から生じる樹脂に対する溶解性が比較的高い溶媒を選択すればよい。また、粒子表面形状が凹凸状である樹脂粒子を所望の場合には、後述する本発明の樹脂粒子分散体の製造方法において、初期重合工程においてのみ貧溶媒を用いるようにすればよい。なお、前記樹脂粒子が多孔質状や粒子表面形状が凹凸状である粒子形態であると、樹脂の架橋密度が小さくなり、その結果、耐候性を低下させる恐れがあるので、耐候性を所望の用途に用いる場合には、前記単量体成分として耐候性向上効果のあるものを選択して用いることが望ましい。
【0015】
本発明の樹脂粒子分散体において、前記樹脂粒子は、コアシェル構造の樹脂粒子であることが好ましい。分散体中に含まれる樹脂粒子をコアシェル構造とするには、後述する初期重合工程と本重合工程において、初期重合工程で用いる単量体成分の一部と、本重合工程で用いる単量体成分の残部とが、異なる組成を有するようにすればよい。このようにしてコアシェル構造の樹脂粒子とすることにより、初期重合工程で用いる単量体成分の一部によって形成されるコア部分と、本重合工程で用いる単量体成分の残部によって形成されるシェル部分とにそれぞれ異なる物性を付与することができ、これら各部分の物性とその割合とを調整することで、用途に応じて所望の特性を発現する樹脂粒子を設計することが可能となる。例えば、コア部分のガラス転移温度を高く、シェル部分のガラス転移温度を低く設計し、両者の比率をコア部分よりもシェル部分の方が質量比で多くなるようにすることで、良好な耐凍害性を発現させることができる。
【0016】
本発明の樹脂粒子分散体においては、前記樹脂粒子の平均粒子径が3〜100μmであることが好ましく、より好ましくは5〜80μm、さらに好ましくは10〜50μmであるのがよい。樹脂粒子の平均粒子径が3μm未満であると、例えば、艶消し剤として用いた場合の艶消し効果や光拡散剤として用いた場合の光拡散効果が不充分となり、一方、100μmを超えると、樹脂粒子の沈降が起こりやすい傾向があるため、いずれも好ましくない。
本発明の樹脂粒子分散体における前記樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を必須とする単量体成分を重合させて得られたものであることが、塗料等の樹脂粒子含有組成物として用いる際に優れた耐候性や耐水性を発揮しうる点から好ましい。前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、具体的には、例えば、
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸とC1〜C18(脂肪族、脂環族、芳香族を含む)のアルコールとのエステルである(メタ)アクリル酸エステル類;
(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリプロピレングリコールとのモノエステル等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニルメタクリレート(市販品では、例えば、共栄社化学社製「ライトエステルIB−X」など)、イソボルニルアクリレート(市販品では、例えば、日立化成工業社製「FA−544A」、共栄社化学社製「ライトアクリレートIB−XA」など)、ジシクロペンタニルメタクリレート(市販品では、例えば、日立化成工業社製「FA−513M」など)、ジシクロペンタニルアクリレート(市販品では、例えば、日立化成工業社製「FA−513A」など)、4−メチロールシクロヘキシルメチルアクリレート(市販品では、例えば、日立化成工業社製「CHDMMA」など)、4−メチルシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基(好ましくは、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘブチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロペンタデシル基、シクロヘキサデシル基、シクロヘプタデシル基、シクロオクタデシル基など)を有する(メタ)アクリル酸エステル類;
メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸t−ブチル等のt−ブチル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;
等が挙げられる。これらの中でも、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、t−ブチル基を有する(メタ)アクリル酸類が好ましく、より好ましくはシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸類がよい。特に、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸類の中でも、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−メチルシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートが耐候性や耐水性の点で最も好ましい。なお、(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。前記単量体成分に占める(メタ)アクリル酸エステル系単量体の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5〜99質量%、より好ましくは30〜90質量%であるのがよい。
【0017】
本発明の樹脂粒子分散体における前記樹脂粒子は、紫外線安定基(本発明において「紫外線安定基」とは、紫外線安定化作用を有する基を意味する。)および/または紫外線吸収基を有する不飽和単量体を含む単量体成分を重合させて得られたものであることが好ましい。これにより、さらに耐候性を向上させることができる。紫外線安定基および/または紫外線吸収基を有する不飽和単量体としては、具体的には、例えば、
2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンまたは2,2’,4−トリヒドロキシベンゾフェノンとグリシジル(メタ)アクリレートとを反応させて得られる2−ヒドロキシ−4−〔3−(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−〔3−(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系単量体や、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ─5’−(メタクリロイルオキシプロピル〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシヘキシル〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ─3’−t−ブチル−5’−(メタクリロイルオキシエチル〕フェニル〕−2−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチル−3’−(メタクリロイルオキシエチル〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕−5−メトキシ−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕−5−シアノ−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕−5−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕−5−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系単量体等の紫外線吸収能を有する単量体;
4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトイル−4−クロトイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のピペリジン系重合性単量体等の紫外線安定化能を有する単量体;
等が挙げられる。なお、紫外線安定基および/または紫外線吸収基を有する不飽和単量体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。前記単量体成分に占める紫外線安定基および/または紫外線吸収基を有する不飽和単量体の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%であるのがよい。
【0018】
本発明の樹脂粒子分散体における前記樹脂粒子を得る際に用いる前記単量体成分は、さらに、多官能架橋性単量体をも含有することが好ましい。多官能架橋性単量体としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコールとのエステル;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物;(メタ)アクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸とアリルエステル類;等が挙げられる。なお、多官能架橋性単量体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。前記単量体成分に占める多官能架橋性単量体の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%であるのがよい。
【0019】
本発明の樹脂粒子分散体における前記樹脂粒子を得る際に用いる前記単量体成分は、さらに、必要に応じて、上記の単量体と共重合可能なその他の重合性単量体を含有していてもよい。その他の重合性単量体としては、特に制限はないが、具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、イタコン酸の不飽和多価カルボン酸類;マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノエチル等のエチレン性不飽和多価モノカルボン酸の部分エステル化合物等のカルボキシル基を有する重合性単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−メチルグリシジル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基を有する重合性単量体;メタアクリロイルアジリジン、(メタ)アクリル酸2−アジリジニルエチル等のアジリジニル基を有する重合性単量体;2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン等のオキサゾリン基を有する重合性単量体;(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルピロリドン等の塩基性重合性単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−プトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の架橋性(メタ)アクリルアミド類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルメチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基を有する重合性単量体;(メタ)アクリル酸2−スルホン酸エチルおよびその塩、ビニルスルホン酸およびその塩等のスルホン酸基を有する重合性単量体;ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルアリルアミン等の有機珪素基を有する不飽和単量体:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化単量体類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;エチレン、プロピレン、プテン類のオレフィン類;等が挙げられる。なお、その他の重合性単量体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。前記単量体成分に占めるその他の重合性単量体の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0〜70質量%、より好ましくは0〜30質量%であるのがよい。
【0020】
本発明の樹脂粒子分散体は、水媒体中に前記樹脂粒子が分散されてなるものであり、例えば、水を媒体として前述した単量体成分を前記貧溶媒の存在下に懸濁重合させることにより得ることができる。なお、本発明の樹脂粒子分散体は、水を媒体とするものであるが、必要に応じて、媒体としての水に、低級アルコールやケトン等の親水性溶媒を本発明の効果を損なわない範囲で含有させることもできる。
前記単量体成分を水を媒体として懸濁重合させる方法については、例えば、〔本発明の樹脂粒子分散体の製造方法〕の項で後述する方法で行えばよいのであるが、これに限定されるわけではない。例えば、後述する方法においては、懸濁重合を初期工程と本重合工程とに分けて行うことを必須としているが、初期重合工程を行うことなく本重合工程のみで懸濁重合を完結させる方法を採用することもできる(この場合、前述した2)または3)の態様の樹脂粒子の分散体が得られることとなる)。
【0021】
本発明の樹脂粒子分散体においては、水媒体中に分散している全ての樹脂粒子の平均比重が、0.95〜1.05であることが好ましい。本発明においては、前述したように樹脂粒子が前記貧溶媒を含むものであるので、容易に前記範囲の平均比重を達成することができ、これにより、樹脂粒子の沈降をより効率よく防ぐことが可能となる。水媒体中に分散している全ての樹脂粒子の平均比重(樹脂粒子の平均比重)は、浮ひょう法(JIS−K0061)にて、樹脂粒子を含む分散体全体の比重Dtと、分散体から樹脂粒子を除いた水媒体の比重Dwとを求め、樹脂粒子を含む分散体全体の量をWt(g)、分散体から樹脂粒子を除いた水媒体の量をWw(g)として、下記式により算出することができる。詳しくは、例えば、実施例で後述する方法にて測定、算出すればよい。
【0022】
樹脂粒子の平均比重=(Dt×Wt−Dw×Ww)/(Wt−Ww)
本発明の樹脂粒子分散体の固形分濃度(分散体質量に対する樹脂質量の割合)は、10〜45質量%であることが好ましく、25〜40質量%であることがより好ましい。固形分濃度が10質量%未満であると、例えば塗料等の樹脂粒子含有組成物に用いた際に組成物中に占める樹脂粒子の含有量が極端に低くなってしまうため、分散体の形態のまま樹脂粒子含有組成物に用いることが困難になる場合があり、一方、45質量%を超えると、ペーストに近い状態となるため、ベースポリマー等と混合して樹脂粒子含有組成物とする際に非常に高いシェアを要することになり、作業性や生産効率が悪化するおそれがある。
【0023】
本発明の樹脂粒子分散体に占める樹脂粒子の含有率(分散体質量に対する樹脂粒子質量(すなわち、樹脂質量と粒子が含有する貧溶媒の質量との合計)の割合)は、20〜50質量%であることが好ましく、35〜50質量%であることがより好ましい。樹脂粒子の含有率が20質量%未満であると、例えば塗料等の樹脂粒子含有組成物に用いた際に組成物中に占める樹脂粒子の含有量が極端に低くなってしまうため、分散体の形態のまま樹脂粒子含有組成物に用いることが困難になる場合があり、一方、50質量%を超えると、ペーストに近い状態となるため、ベースポリマー等と混合して樹脂粒子含有組成物とする際に非常に高いシェアを要することになり、作業性や生産効率が悪化するおそれがある。
【0024】
〔樹脂粒子分散体の製造方法〕
本発明の樹脂粒子分散体の製造方法(以下「本発明の製造方法」と称することもある)は、水を媒体として単量体成分を懸濁重合させることにより水媒体中に樹脂粒子が分散してなる樹脂粒子分散体を得る方法において、水と相溶しない比重1以下の貧溶媒の存在下で前記懸濁重合を行うとともに、該懸濁重合は下記2つの工程により行うものである。
(1)前記単量体成分の一部を重合させる初期重合工程。
(2)初期重合工程における反応率が80%以上になった時点で引き続き、前記単量体成分の残部を添加して重合を行う本重合工程。
本発明の製造方法においては、このように、懸濁重合を、水と相溶しない比重1以下の貧溶媒の存在下で、前記初期重合工程と前記本重合工程とに分けて複数段で行うことにより、まず、初期重合工程で内部に貧溶媒を取り込んだ粒子が生成し、次いで、本重合工程で前記粒子の表面が樹脂で覆われることとなり、その結果、本発明の樹脂粒子分散体の好ましい態様(前記1)の態様)として前述した、前記貧溶媒が樹脂に内包された状態で粒子の内部に存在してなる樹脂粒子を容易に得ることができるのである。
【0025】
本発明の製造方法においては、前記貧溶媒は、比重が1以下であるとともに、水と相溶しないもの、言い換えれば、水に難溶(具体的には、20℃の水に対する溶解度が6質量%以下)もしくは不溶のものでなければならない。水に可溶の貧溶媒であると、単量体成分から生じた樹脂の内部に取り込まれなくなるからである。また、前記貧溶媒は、単量体成分から生じる樹脂を溶解しにくいものであることが好ましい。単量体成分から生じる樹脂に対する溶解性が高い貧溶媒を用いると、粒子の表面を覆っている樹脂が粒子内部の貧溶媒に徐々に溶解してしまうおそれがあり、例えば、得られた分散体で形成された塗膜が平滑なものとなり、艶消し効果や光拡散効果が得られにくくなるといった問題を招くことがあるからである。さらに、前記貧溶媒が前記単量体成分を溶解するものであると、得られる樹脂粒子の組成を均一にできるので好ましい。このような貧溶媒は、用いる単量体成分の種類等に応じて選択すればよいのであるが、具体的には、脂環式炭化水素系溶剤および/または脂肪族炭化水素系溶剤から選択されるのが好ましい。なお、前記貧溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記脂環式炭化水素系溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等のほか、市販品では、C9高沸点芳香族炭化水素系溶剤の水素添加物である「リカソルブ900」新日本理化(株)製、C10高沸点芳香族炭化水素系溶剤の水素添加物である「ナフトール150」丸善石油化学(株)製等が挙げられる。また、前記脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、n−ペンタン等のほか、市販品では、「ロース」オランダ国シエル社製、「アイソパーEまたはG」米国エクソン・ケミカル社製、「ナフサ5号または6号」米国エクソン・ケミカル社製、「IPソルベント1620」出光石油化学(株)製、「ホワイトゾール」共同石油化学(株)製、「ニューソルDX」日石三菱(株)製等が挙げられる。
【0027】
前記貧溶媒の使用量は、特に制限されないが、前記単量体成分に対して5〜100質量%とすることが好ましく、より好ましくは15〜70質量%、さらに好ましくは30〜55質量%とするのがよい。前記貧溶媒の量が前記範囲よりも少ないと、浮遊効果が不充分となって沈降を充分に抑制できないおそれがあり、一方、塗料等として用いた場合に耐候性が劣化する恐れがある。
前記単量体成分としては、〔樹脂粒子分散体〕の項で前述した単量体成分が好ましく挙げられる。
前記初期重合工程においては、前記単量体成分の一部、すなわち〔樹脂粒子分散体〕の項で前述した単量体成分(これは、初期重合工程で用いる分と本重合工程で用いる分の合計である)のうちの一部を用いる。具体的には、前記単量体成分(初期重合工程で用いる分と本重合工程で用いる分の合計)の30〜70質量%を用いることが好ましい。
【0028】
前記本重合工程においては、前記単量体成分の残部、すなわち〔樹脂粒子分散体〕の項で前述した単量体成分(これは、初期重合工程で用いる分と本重合工程で用いる分の合計である)のうち初期重合工程で用いていない分を用いる。具体的には、前記単量体成分(初期重合工程で用いる分と本重合工程で用いる分の合計)の30〜70質量%を用いることが好ましい。なお、前記初期重合工程で用いる前記単量体成分の一部と、前記本重合工程で用いる前記単量体成分の残部との比率は、特に制限されない。
前記初期重合工程において前記単量体成分の一部(もしくは前記単量体成分の一部と後述する乳化剤とのプレエマルション)を添加するにあたっては、一括投入してもよいし、一定時間をかけて滴下するなど逐次投入してもよい。
【0029】
前記本重合工程は、前記初期重合工程における反応率が80%以上になった時点で引き続き前記単量体成分の残部を添加して行う。好ましくは、前記初期重合工程における反応率が85%以上になった時点で前記単量体成分の残部を添加するのがよい。これにより、初期重合工程で樹脂粒子の内部に前記貧溶媒が入り込んだ粒子を生成させ、本重合工程において初期重合で生成した粒子の表面を覆う樹脂を形成することができ、その結果、前記貧溶媒を樹脂粒子に内包させることができるのである。なお、前記初期重合工程における反応率は、実施例で後述する方法により測定することができる。
前記本重合工程において前記単量体成分の残部(もしくは前記単量体成分の残部と後述する乳化剤とのプレエマルション)を添加するにあたっては、一括投入してもよいし、一定時間をかけて滴下するなど逐次投入してもよい。好ましくは、一定時間をかけて滴下する方がよい。
【0030】
前記初期重合工程および前記本重合工程においては、良好な重合安定性を得るための分散剤として、乳化剤を用いることが好ましい。具体的には、前記単量体成分と反応性乳化剤とをあらかじめ混合してプレエマルションとして用いることが望ましい。前記乳化剤としては、特に制限はなく、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤、反応性乳化剤等を用いることができる。これらの中でも、反応性乳化剤が、より少量で良好な重合安定性を得ることができる点で好ましい。なお、乳化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、アルカリ金属アルキルサルフェート(例えば、ナトリウムドデシルサルフェート、カルシウムドデシルサルフェートなど)、アンモニウムアルキルサルフェート(例えば、アンモニウムドデシルサルフェートなど)、ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート、ナトリウムスルホリシノエート、アルキルスルホネート(例えば、スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩、スルホン化パラフィンのアンモニウム塩など)、脂肪酸塩(例えば、ナトリウムラウリレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテートなど)、アルキルアリールスルホネート(例えば、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェートなど)、高アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(市販品では、例えば、第一工業製薬(株)製「ハイテノールN−08」)など)等が挙げられる。
【0032】
前記ノニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド(例えば、グリセロールのモノラウレートなど)、ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体、エチレンオキサイドと脂肪族のアミン、アミドまたは酸との縮合生成物等が挙げられる。
前記カチオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、アルキルピリジニルクロライド、アルキルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
前記両性界面活性剤の具体例としては、例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0033】
前記高分子界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、これらの重合体の構成単位である重合性モノマーの2種以上の共重合体や他のモノマーとの共重合体、クラウンエーテル類のような相関移動触媒等が挙げられる。
前記反応性乳化剤は、重合系内の単量体と共重合し得る二重結合を分子内に有するとともに、乳化能を発揮する分子構造を有しているものであり、該反応性乳化剤としてはアニオン性の反応性乳化剤を使用することが好ましい。より好ましくは、反応性基として(メタ)アクリロイル基を有する反応性乳化剤を使用するのがよい。
【0034】
前記反応性乳化剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレン−1−(アリルアキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(市販品では、例えば、第一工業製薬(株)製「アクアロンKH−10」など)、ポリオキシエチレンノニルプロペニルエーテル硫酸エステル塩(市販品では、例えば、第一工業製薬(株)製「アクアロンHS」、「アクアロンBC−10」など)、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテル硫酸エステル塩(市販品では、例えば、旭電化(株)製「アデカリアソープSE」など)、アルキルアリルスルホコハク酸ソーダ(市販品では、例えば、三洋化成工業(株)製「エレミノールJS−2」など)、メタクリル酸ポリオキシアルキレン硫酸エステル塩(市販品では、例えば、三洋化成工業(株)製「エレミノールRS−30」など)、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート硫酸エステル塩(市販品では、例えば、日本乳化剤(株)製「アントックスMS−60」など)、エチレングリコールメタクリレート硫酸エステル塩(市販品では、例えば、日本乳化剤(株)製「アントックスMS−2N」、「アントックスMS−NH4」など)、その他の構造をもつもの(市販品では、例えば、花王(株)製「ラテムル」、第一工業製薬(株)製「ニューフロンティア」、日本乳化剤(株)製「RA−1823」、「RA−2320」など)等の、プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、アクリレート基、メタクリレート基等の反応性基を有するアニオン性反応性乳化剤;ポリオキシエチレンノニルプロペニルエーテル(市販品では、例えば、第一工業製薬(株)製「アクアロンRN」など)、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテル(市販品では、例えば、旭電化(株)製「アデカリアソープNE」など)、ポリオキシアルキレングリコールモノアクリレート(市販品では、例えば、日本油脂(株)製「プレンマーAET」、「プレンマーAPT」など)、ラウロキシポリエチレンクリコールモノアクリレート(市販品では、例えば、日本油脂(株)製「プレンマーALE」など)、ラウロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(市販品では、例えば、日本油脂(株)製「プレンマーPSE」など)、ステアロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(市販品では、例えば、日本油脂(株)製「プレンマーPSE」など〉、ステアロキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート(市販品では、例えば、日本油脂(株)製「プレンマーASEP」など)、アリロキシポリアルキレシグリコールモノメタクリレート(市販品では、例えば、日本油脂(株)製「プレンマーPNEP」、「プレンマーPNPE」など)、ノニルフェノキシポリオキシアルキレングリコールモノアクリレート(市販品では、例えば、日本油脂(株)製「プレンマー43ANEP−500」、「プレンマー70ANEP−550」など)、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールジメタクリレート(市販品では、例えば、日本油脂(株)製「プレンマー80PDC」など〉、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールジアクリレート(市販品では、例えば、日本油脂(株)製「プレンマー30ADC」など〉等の、プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、アクリレート基、メタクリレート基等の反応性基を有するノニオン性反応乳化剤;等が挙げられる。
【0035】
前記乳化剤を用いるにあたっては、前記初期重合工程と前記本重合工程の両方で添加するようにしてもよいし、初期重合工程においてのみ添加するようにしてもよいが、両工程において前記単量体成分と乳化剤とをあらかじめ混合してプレエマルションとしておき、添加することが好ましい。
前記初期重合工程および前記本重合工程で用いる乳化剤の使用量は、合計で、前記単量体成分(初期重合工程で用いる分と本重合工程で用いる分の合計)の使用量に対し、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%であるのがよい。乳化剤の使用量が0.01質量%未満であると、その効果を充分に発揮できず、重合安定性を損なう恐れがあり、一方、10質量%を超えると、得られた分散体を例えば塗料等の樹脂粒子含有組成物に用いた際に耐水性等を低下させる恐れがある。
【0036】
前記初期重合工程および前記本重合工程における重合には、油溶性の重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えば、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルケキサノエート、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−2−メチルシクヘキサン等の過酸化物系開始剤;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤;等が挙げられる。なお、重合開始剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記重合開始剤を用いるにあたっては、前記初期重合工程と前記本重合工程の両方で添加するようにしてもよいし、初期重合工程においてのみ添加するようにしてもよい。また、前記重合開始剤は、前述した前記単量体成分の一部もしくは残部と乳化剤とのプレエマルションに一緒に加えるようにしてもよいし、別途加えるようにしてもよい。
【0037】
前記重合開始剤の使用量は、特に限定はされないが、前記単量体成分(初期重合工程で用いる分と本重合工程で用いる分の合計)100質量部に対し、好ましくは0.01〜5質量部であり、より好ましくは0.5〜3質量部であるのがよい。重合開始剤の使用量が多すぎると、耐水性を低下させる原因となり、一方、少なすぎると、重合速度が遅くなり未反応の単量体が残存しやすくなるので、いずれも好ましくない。
懸濁重合の際には、前記重合開始剤のほかに、必要に応じて、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤を用いる場合、その添加時機は特に限定されないが、初期重合工程において単量体成分とともに添加することが好ましい。連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン等のチオール基を有する化合物や、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。なお、連鎖移動剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、連鎖移動剤の添加時機や添加方法、さらにその使用量については、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定すればよい。
【0038】
前記初期重合工程および前記本重合工程における重合温度は、同じであってもよいし、異なっていてもよく、それぞれ特に限定されないが、通常は、両工程とも50〜100℃とするのが好ましく、より好ましくは60〜90℃でとするのがよい。なお、反応温度は、各重合工程の間、常に一定であってもよいし、工程途中で変化させてもよい。
前記初期重合工程および前記本重合工程における重合時間については、それぞれ特に限定はなく、反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、初期重合工程の開始から本重合工程の終了まで、通常、1〜10時間とするのが好ましく、より好ましくは2〜5時間とするのがよい。
【0039】
前記初期重合工程および前記本重合工程における懸濁重合は、水を媒体として行うものであるが、必要に応じて、水とともに、低級アルコールやケトン等の親水性溶媒を、水を含む全媒体中の20質量%以下の割合で併用することもできる。なお、水を必須とする媒体の使用量は、得られる樹脂粒子分散体の固形分濃度が前述した範囲になるように用いることが好ましい。
〔樹脂粒子含有組成物〕
本発明の樹脂粒子含有組成物は、樹脂粒子とベースポリマーとを含む樹脂粒子含有組成物であって、前記樹脂粒子を、前記本発明の樹脂粒子分散体の形で含有するものである。
【0040】
前記ベースポリマーは、用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。例えば、塗料やコーティング剤に用いる場合には、前記ベースポリマーとして、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などの水分散性樹脂等を用いることができ、特に、アクリルエマルションを用いることが好ましい。また、光学部品や電子材料に用いる場合には、前記ベースポリマーとして、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミドなどの水分散性樹脂等を用いることができる。
本発明の樹脂含有組成物における樹脂粒子(前記本発明の樹脂粒子分散体)とベースポリマーとの割合は、用途に応じて適宜設定すればよく、特に限定はされない。
【0041】
本発明の樹脂含有組成物は、増粘剤を添加することなく充分に樹脂粒子の沈降を抑制することができるものであるが、必要に応じ、耐水性等を損なわない範囲で、増粘剤を含有させてもよい。
前記増粘剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、水溶性高分子、会合性増粘剤、アクリル系会合性増粘剤が好ましく挙げられる。
前記水溶性高分子の具体例として、例えば、メチルセルロース、セルロースエーテル類(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセスロース等)、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0042】
前記会合性増粘剤は、一般的には、親水性の高分子主鎖の末端や途中に高級アルキル基等の疎水性ペンダント基をグラフトしたものである。会合性増粘剤の増粘作用の発現メカニズムは、疎水性ペンダント基の二次的結合力(例えば、疎水結合力)による会合性によることが知られている。会合性増粘剤の具体例としては、例えば、ポリエチレングリコールの両端に疎水性ペンダント基を結合せしめたもののようなポリエチレングリコール系会合性増粘剤や、アクリル系会合性増粘剤等が挙げられる。
前記アクリル系会合性増粘剤は、親水性のアクリル系高分子主鎖の末端や途中に高級アルキル基等の疎水性ペンダント基をグラフトしたものである。アクリル系会合性増粘剤の具体例としては、例えば、アクリル系モノマーと、高級アルキル基等の疎水性ペンダント基を有する会合性モノマー(例えば、アルキル基、アラルキル基などの疎水ペンダント基を有し、かつ、アクリル系モノマーと共重合し得るエチレン性不飽和単量体である反応性界面活性剤等)との共重合体等が挙げられる。具体的には、特開2001−240633号公報に開示されている増粘剤が好ましい。
【0043】
本発明の樹脂含有組成物が増粘剤を含有する場合、その含有量は、前記本発明の樹脂粒子分散体100質量部に対し0.05〜2質量部、好ましくは0.1〜1.5質量部、さらに好ましくは0.1〜0.7質量部であるのがよい。増粘剤が少なすぎると、増粘効果が発現できず、一方、多すぎると、耐水性が低下する。
本発明の樹脂含有組成物は、その用途に応じて、種々の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有するものであってもよい。添加剤としては、例えば、溶媒、顔料、成膜助剤、充填剤(フィラー)、トナー、湿潤剤、帯電防止剤、顔料分散剤、可塑剤、酸化防止剤、流れコントロール剤、粘度調整剤等が挙げられる。これら添加剤の中で、特に、顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化カルシウム、三酸化アンチモン、亜鉛華、リトポン、鉛白等の白色顔料や、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、ベンガラ、黄色酸化鉄、黄華等の着色顔料のような無機顔料;ベンジジン、ハンザイエロー等のアゾ化合物や、フタロシアニンブルー等のフタロシアニン類のような有機顔料;等が挙げられる。なお、添加剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0044】
本発明の樹脂粒子含有組成物は、例えば、塗料、コーティング剤、光学部品、電子材料等として好適に用いられるものであるが、とりわけ、本発明の樹脂粒子含有組成物は、水性塗料として用いられるものであることが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、特に断りのない限り、「質量部」を単に「部」と、「質量%」を単に「%」と記すこととする。
実施例および比較例において得られた分散体の分析および評価は、下記の方法で行った。
<分散体中の樹脂粒子の平均粒子径>
コールターカウンター(ベックマンコールター社製「コールターマルチサイザーII」)にて測定した。
【0046】
<分散体の固形分濃度>
均一に攪拌した状態の分散体から約1gをサンプリングし、質量(g)を測定した(この質量をXとする)。これに100ppmのハイドロキノンを溶解させたトルエン溶液0.1gを添加したのち、150℃のオーブンで3時間加熱乾燥させ、乾燥後の質量(g)を測定した(この質量をYとする)。そして、下記式により算出した。
固形分濃度(%)=〔Y(g)/X(g)〕×100
<樹脂粒子の平均比重>
得られた分散体の比重(樹脂粒子を含む分散体全体の比重)をJIS−K0061に記載の浮ひょう法にて測定するとともに、その質量(g)も測定した(この比重をDtとし、質量をWtとする)。次に、樹脂粒子分散体を吸引濾過することにより分散体から樹脂粒子を除き、濾液として得られた水媒体の質量を測定した(この質量をWwとする)。そして、この分散体から樹脂粒子を除いた水媒体(濾液)の比重Dwを0.998として、下記式により算出した。
【0047】
樹脂粒子の平均比重=(Dt×Wt−Dw×Ww)/(Wt−Ww)
<分散体の沈降性>
均一に攪拌した状態の分散体100gを100mLメスシリンダーに入れ、室温で静置した。24時間静置すると、メスシリンダーの下部に沈降した樹脂粒子で形成されたハードケーキ層が生じるので、該ハードケーキ層を残して上澄み層(沈降していない樹脂粒子を含む)を除去した。そして、得られたハードケーキ層をメタノールで3回洗浄し、吸引濾過したのち、150℃で3時間乾燥し、乾燥後の残留物の質量(g)を測定した。この質量を沈降分質量とし、下記式にて沈降率を算出した。
沈降率(%)=〔沈降分質量(g)/分散体100g中の固形分量(g)〕×100
ここで、分散体100g中の固形分量は、上記固形分濃度(%)から下記式にて算出するものとする。
【0048】
分散体100g中の固形分量(g)=〔100g×固形分濃度(%)〕/100
<塗料組成物としたときの経時増粘性>
分散体100部をディスパーで攪拌しながら、これに、アクリルエマルション((株)日本触媒製「アクリセットEX−41」:不揮発分44%)300部を添加し、次いで、攪拌下で、25%アンモニア水溶液0.3部およびアルカリ可溶型会合性増粘剤(ローム・アンド・ハース(株)製「プライマルTT−615」:不揮発分15%として使用)0.5部を添加した。さらに、これに、成膜助剤としてブチルセロソルブ/2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ(株)製「CS−12」)=1/1(質量比)の混合液30部を添加したのち30分間攪拌を行い、塗料組成物を得た。そして、直ちに、得られた塗料組成物の粘度(mPa・s)を測定して、これを初期粘度とした。次に、該塗料組成物を50℃に保持したオーブン中で1ヶ月間放置する加熱促進試験に供し、試験後の塗料組成物の粘度(mPa・s)を測定して、これを試験後粘度とした。そして、得られた初期粘度と試験後粘度から試験後粘度/初期粘度の値を求め、この値により経時増粘性を評価した。すなわち、試験後粘度/初期粘度の値が小さいほど経時増粘性に優れると言える。なお、塗料組成物の粘度の測定は、BM型粘度計(東京計器(株)製)を用い、粘度に応じて使用するローターを選定して、30rpm、25℃にて測定した。
【0049】
〔実施例1〕
反応容器中で、乳化剤としての(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化硫酸エステルアンモニウム塩(日本乳化剤(株)製「アントックスMS−60」)の25%水溶液6部を脱イオン水430部に溶解させ、次いで、この反応容器の中に、単量体成分としてのメチルメタクリレート(MMA)22部、およびトリメチロールプロパントリメタクリレート((株)日本触媒製「TMPTMA」)15部と、貧溶媒としての脂肪族炭化水素系溶剤(「ニューソルDX」日石三菱(株)製:比重0.75であり、水と相溶しない)110部と、開始剤としてのラウロイルパーオキサイド(LPO)1.5部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(日本油脂(株)製「パーブチルO」)1.5部とをあらかじめ混合したものを添加し、攪拌機で均一に攪拌、混合して、分散液を得た。
【0050】
次に、上記で得られた分散液の全量を2リットルセパラブルフラスコに仕込み、フラスコ内を窒素雰囲気に置換したのち、200rpmで攪拌しながら85℃に昇温して初期重合を開始した。その後、同温度を30分間維持したのち、重合液をサンプリングして反応率を測定したところ、反応率は93%になっていた。そこで、引き続き、85℃を維持したまま、乳化剤としての(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化硫酸エステルアンモニウム塩(日本乳化剤(株)製「アントックスMS−60」)の25%水溶液7.8部と、脱イオン水67部と、単量体成分としてのメチルメタクリレート(MMA)172部およびトリメチロールプロパントリメタクリレート((株)日本触媒製「TMPTMA」)24部とをあらかじめ均一に混合した本重合用プレエマルションを、滴下ロートから1時間かけて均一に滴下して、本重合を開始した。滴下終了後、脱イオン水10部を用いて滴下ロートを洗浄し、この洗浄水も本重合用プレエマルションとしてフラスコに投入した。その後、85℃で1時間維持したのち本重合を終了した。重合後、室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過して、樹脂粒子分散体を得た。
【0051】
得られた分散体を濾過して樹脂粒子を取り出し、取り出した樹脂粒子を熱分解GC−MASSで分析したところ、貧溶媒(「ニューソルDX」)が存在することが確認でき、他方、取り出した樹脂粒子の断面をミクロトームで切り出してSEM観察を行ったところ、粒子内部に周囲が樹脂で覆われた空間が存在していることが確認できた。このことから、該分散体中の樹脂粒子は、重合で用いた貧溶媒を内包しているものであることが判った。該分散体の分析および評価結果は表1に示す。
なお、初期重合開始後、サンプリングした重合液の反応率は、以下のようにして測定した。すなわち、均一に攪拌した状態の重合液から約1gをサンプリングし、質量(g)を測定した(この質量をXとする)。これに100ppmのハイドロキノンを溶解させたトルエン溶液0.1gを添加したのち、150℃のオーブンで3時間加熱乾燥させ、乾燥後の質量(g)を測定した(この質量をYとする)。そして、下記式に基づき反応率を算出した。
【0052】
反応率(%)=〔実測固形分濃度(%)/理論固形分濃度(%)〕×100
ここで、実測固形分濃度(%)=〔Y(g)/X(g)〕×100
理論固形分濃度(%)=〔理論生成樹脂量(g)/全仕込み量(g)〕×100
ただし、上記式において、理論生成樹脂量とは、重合液のサンプリング時点より前に仕込んだ単量体成分の全てが反応したときに生成する樹脂の質量のことであり、重合液のサンプリング時点より前に仕込んだ単量体成分の仕込み量から理論的に算出される値である。また、上記式において、全仕込み量とは、重合液のサンプリング時点でフラスコ内に存在する重合液の質量のことであり、重合液のサンプリング時点より前に仕込んだ全ての原料の質量を合計して算出される値である。
【0053】
〔実施例2〜6〕
実施例1で用いた各成分の種類と量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂粒子の分散体を得た。なお、本重合用プレエマルション滴下直前の反応率(初期重合開始から30分後に重合液をサンプリングし、実施例1と同様の方法で測定したときの反応率)は、それぞれ表1に示す通りであった。
上記各実施例で得られた分散体を濾過して樹脂粒子を取り出し、実施例1と同様に分析したところ、いずれも、熱分解GC−MASSにより貧溶媒(「ニューソルDX」)が存在することが確認でき、SEM観察により粒子内部に周囲が樹脂で覆われた空間が存在していることが確認できた。このことから、上記各実施例で得られた分散体中の樹脂粒子は、いずれも、重合で用いた貧溶媒を内包しているものであることが判った。各実施例において得られた分散体の分析および評価結果は表1に示す。
【0054】
〔比較例1〕
反応容器中で、乳化剤としての(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化硫酸エステルアンモニウム塩(日本乳化剤(株)製「アントックスMS−60」)の25%水溶液6部を脱イオン水430部に溶解させ、次いで、この反応容器の中に、単量体成分としてのメチルメタクリレート(MMA)132部、およびトリメチロールプロパントリメタクリレート((株)日本触媒製「TMPTMA」)15部と、開始剤としてのラウロイルパーオキサイド(LPO)1.5部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(日本油脂(株)製「パーブチルO」)1.5部とをあらかじめ混合したものを添加し、攪拌機で均一に攪拌、混合して、分散液を得た。
【0055】
次に、上記で得られた分散液の全量を2リットルセパラブルフラスコに仕込み、フラスコ内を窒素雰囲気に置換したのち、200rpmで攪拌しながら85℃に昇温して初期重合を開始した。その後、同温度を30分間維持したのち、重合液をサンプリングして反応率を測定したところ、反応率は93%になっていた。そこで、引き続き、85℃を維持したまま、乳化剤としての(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化硫酸エステルアンモニウム塩(日本乳化剤(株)製「アントックスMS−60」)の25%水溶液7.8部と、脱イオン水67部と、単量体成分としてのメチルメタクリレート(MMA)172部およびトリメチロールプロパントリメタクリレート((株)日本触媒製「TMPTMA」)24部とをあらかじめ均一に混合した本重合用プレエマルションを、滴下ロートから1時間かけて均一に滴下して、本重合を開始した。滴下終了後、脱イオン水10部を用いて滴下ロートを洗浄し、この洗浄水も本重合用プレエマルションとしてフラスコに投入した。その後、85℃で1時間維持したのち本重合を終了した。重合後、室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過して、樹脂粒子分散体を得た。
【0056】
得られた分散体を濾過して樹脂粒子を取り出し、実施例1と同様に分析したところ、熱分解GC−MASSにより貧溶媒(「ニューソルDX」)の存在が認められないことが確認できた。このことから、該分散体中の樹脂粒子は、貧溶媒を含有していないものであることが判った。該分散体の分析および評価結果は表1に示す。なお、沈降性の評価結果が悪かったので、塗料組成物としたときの経時増粘性については評価しなかった。
【0057】
【表1】

【0058】
なお、表1においては、下記の略号を用いた。
<単量体成分>
・MMA:メチルメタクリレート
・CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
・t−BMA:t−ブチルメタクリレート
・2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
・St:スチレン
・TMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート((株)日本触媒製「TMPTMA」)
・LA−82:4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(アデカ(株)製「アデカスタブLA−82」)
<乳化剤(反応性乳化剤)>
・MS−60:(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化硫酸エステルアンモニウム塩(日本乳化剤(株)製「アントックスMS−60」)の25%水溶液
・RS−30:メタクリル酸ポリオキシアルキレン硫酸エステル塩(三洋化成工業(株)製「エレミノールRS−30」)の25%水溶液
・BC−10:ポリオキシエチレンノニルプロペニルエーテル硫酸エステル塩(第一工業製薬(株)製「アクアロンBC−10」)の25%水溶液
<乳化剤(非反応性乳化剤)>
・N−08:ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬(株)製「ハイテノールN−08」)の25%水溶液
<開始剤>
・LPO:ラウロイルパーオキサイド
・パーブチルO:t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(日本油脂(株)製「パーブチルO」)
〔実施例7〕
反応容器中で、乳化剤としての(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化硫酸エステルアンモニウム塩(日本乳化剤(株)製「アントックスMS−60」)の25%水溶液6部を脱イオン水430部に溶解させ、次いで、この反応容器の中に、単量体成分としてのメチルメタクリレート(MMA)90部、およびトリメチロールプロパントリメタクリレート((株)日本触媒製「TMPTMA」)13部と、貧溶媒としての脂肪族炭化水素系溶剤(「ニューソルDX」日石三菱(株)製:比重0.75であり、水と相溶しない)44部と、開始剤としてのラウロイルパーオキサイド(LPO)1.5部とをあらかじめ混合したものを添加し、攪拌機で均一に攪拌、混合して、分散液を得た。
【0059】
次に、上記で得られた分散液の全量を2リットルセパラブルフラスコに仕込み、フラスコ内を窒素雰囲気に置換したのち、200rpmで攪拌しながら85℃に昇温して重合を開始し、同温度を2時間維持したのち重合を終了した。重合後、室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過して、樹脂粒子分散体を得た。
得られた分散体を濾過して樹脂粒子を取り出し、取り出した樹脂粒子を熱分解GC−MASSで分析したところ、貧溶媒(「ニューソルDX」)が存在することが確認でき、他方、取り出した樹脂粒子の断面をミクロトームで切り出してSEM観察を行ったところ、粒子内部に周囲が樹脂で覆われた空間は存在しないが、粒子は、表面が凹凸状および多孔質構造を有するものであり、凹部および多孔質の孔を有していた。このことから、該分散体中の樹脂粒子は、貧溶媒を内包するものではないが、凹部もしく多孔質の孔に貧溶媒が入り込んだものではあることが判った。該分散体の分析および評価結果を表2に示す。
【0060】
〔実施例8〜9〕
実施例7で用いた各成分の種類と量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例7と同様にして、樹脂粒子の分散体を得た。
上記各比較例で得られた分散体を濾過して樹脂粒子を取り出し、取り出した樹脂粒子を熱分解GC−MASSで分析したところ、いずれも、貧溶媒(「ニューソルDX」)が存在することが確認でき、他方、取り出した樹脂粒子の断面をミクロトームで切り出してSEM観察を行ったところ、いずれも、粒子内部に周囲が樹脂で覆われた空間は存在しないが、粒子は、表面が凹凸状および/または多孔質構造を有するものであり、凹部および/または多孔質の孔を有していた。このことから、上記各実施例で得られた分散体中の樹脂粒子は、いずれも、貧溶媒を内包するものではないが、凹部もしく多孔質の孔に貧溶媒が入り込んだものではあることが判った。各実施例において得られた分散体の分析および評価結果を表2に示す。
【0061】
〔比較例2〕
反応容器中で、乳化剤としての(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化硫酸エステルアンモニウム塩(日本乳化剤(株)製「アントックスMS−60」)の25%水溶液6部を脱イオン水430部に溶解させ、次いで、この反応容器の中に、単量体成分としてのメチルメタクリレート(MMA)132部、およびトリメチロールプロパントリメタクリレート((株)日本触媒製「TMPTMA」)15部と、開始剤としてのラウロイルパーオキサイド(LPO)1.5部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(日本油脂(株)製「パーブチルO」)1.5部とをあらかじめ混合したものを添加し、攪拌機で均一に攪拌、混合して、分散液を得た。
【0062】
次に、上記で得られた分散液の全量を2リットルセパラブルフラスコに仕込み、フラスコ内を窒素雰囲気に置換したのち、200rpmで攪拌しながら85℃に昇温して重合を開始し、同温度を2時間維持したのち重合を終了した。重合後、室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過して、樹脂粒子分散体を得た。
得られた分散体を濾過して樹脂粒子を取り出し、実施例1と同様に分析したところ、熱分解GC−MASSにより貧溶媒(「ニューソルDX」)の存在が認められないことが確認できた。このことから、該分散体中の樹脂粒子は、貧溶媒を含有していないものであることが判った。該分散体の分析および評価結果を表2に示す。なお、沈降性の評価結果が悪かったので、塗料組成物としたときの経時増粘性については評価しなかった。
【0063】
【表2】

【0064】
なお、表2においては、下記の略号を用いた。
<単量体成分>
・MMA:メチルメタクリレート
・CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
・t−BMA:t−ブチルメタクリレート
・TMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート((株)日本触媒製「TMPTMA」)
<乳化剤(反応性乳化剤)>
・MS−60:(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化硫酸エステルアンモニウム塩(日本乳化剤(株)製「アントックスMS−60」)の25%水溶液
・RS−30:メタクリル酸ポリオキシアルキレン硫酸エステル塩(三洋化成工業(株)製「エレミノールRS−30」)の25%水溶液
<乳化剤(非反応性乳化剤)>
・N−08:ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬(株)製「ハイテノールN−08」)の25%水溶液
<開始剤>
・LPO:ラウロイルパーオキサイド
・パーブチルO:t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(日本油脂(株)製「パーブチルO」)
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明にかかる樹脂粒子分散体は、例えば、艶消し剤、光拡散剤等として好適に用いることができるものであり、前記分散体を用いた本発明にかかる樹脂粒子含有組成物は、例えば、塗料、コーティング剤、光学部品、電子材料等の用途に有用であり、とりわけ水性塗料として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明にかかる樹脂粒子分散体における樹脂粒子の一形態をイメージで示す断面図である。
【図2】本発明にかかる樹脂粒子分散体における樹脂粒子の他の一形態をイメージで示す断面図である。
【図3】本発明にかかる樹脂粒子分散体における樹脂粒子の他の一形態をイメージで示す断面図である。
【図4】本発明にかかる樹脂粒子分散体における樹脂粒子の他の一形態をイメージで示す断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 樹脂粒子
2a 中空部
2b 閉ざされた孔
2c 開かれた孔
2d 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水媒体中に樹脂粒子が分散してなり、前記樹脂粒子が水と相溶しない比重1以下の貧溶媒を含有している、樹脂粒子分散体。
【請求項2】
前記貧溶媒は樹脂に内包された状態で含有されている、請求項1に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項3】
前記樹脂粒子は、多孔質状の粒子形態および粒子表面形状が凹凸状である粒子形態のいずれか一方または両方の形態である、請求項2に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項4】
前記樹脂粒子は、多孔質構造を有していてその孔内に前記貧溶媒を含有するか、および/または、粒子表面に凹凸を有していてその凹部内に前記貧溶媒を含有するものである、請求項1に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項5】
前記樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を必須とする単量体成分を重合させて得られたものである、請求項1から4までのいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【請求項6】
前記樹脂粒子は、紫外線安定基および/または紫外線吸収基を有する不飽和単量体を含む単量体成分を重合させて得られたものである、請求項1から5までのいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【請求項7】
水を媒体として単量体成分を懸濁重合させることにより水媒体中に樹脂粒子が分散してなる樹脂粒子分散体を得る方法において、水と相溶しない比重1以下の貧溶媒の存在下で前記懸濁重合を行うとともに、該懸濁重合は下記2つの工程により行う、ことを特徴とする樹脂粒子分散体の製造方法。
(1)前記単量体成分の一部を重合させる初期重合工程。
(2)初期重合工程における反応率が80%以上になった時点で、引き続き前記単量体成分の残部を添加して重合を行う本重合工程。
【請求項8】
樹脂粒子とベースポリマーとを含む樹脂粒子含有組成物であって、前記樹脂粒子を、請求項1から6までのいずれかに記載の樹脂粒子分散体の形で含有する、ことを特徴とする樹脂粒子含有組成物。
【請求項9】
水性塗料として用いられる、請求項8に記載の樹脂粒子含有組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−28309(P2006−28309A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207704(P2004−207704)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】