説明

樹脂系複合材料の製造方法及び架橋樹脂成形体の製造方法

【課題】架橋性の樹脂中にナノフィラーを容易に均一分散することができ、その結果優れた機能を付与することができる樹脂系複合材料の製造方法、及びその樹脂系複合材料を用いることを特徴とする架橋樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】ナノフィラーを液状の分散剤中にナノ分散して作製した分散液を、架橋性の樹脂と均一に混合する工程を有することを特徴とする樹脂系複合材料の製造方法、及び、ナノフィラーを液状の分散剤中にナノ分散して作製した分散液を、架橋性の樹脂と均一に混合して得られた樹脂系複合材料を成形した後、樹脂を架橋することを特徴とする架橋樹脂成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径が1μmよりはるかに小さいナノ粒子からなるフィラー(ナノフィラー)を、架橋性の熱可塑性樹脂中に均一に分散させて樹脂系複合材料を製造する方法、及び、得られた樹脂系複合材料を用い架橋樹脂成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂中にナノフィラーを均一分散させ種々の機能を付与した機能性材料の開発が検討されている。例えば、非特許文献1には、ナノフィラーの均一分散により、粒径のより大きいフィラーを用いた場合と比べて少ない分散量で、優れた難燃性や高い熱伝導率を付与できることが述べられている(非特許文献1第58頁)。又、ナノフィラーの均一分散により、透明性を維持しつつ高弾性率、低線膨張率が得られることも記載されている(非特許文献1第59頁)。
【0003】
一方、樹脂を架橋することにより、樹脂の機械的強度、耐熱性や剛性等を向上させる方法も知られている。例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂を含有する成形材料を、コンパウンド化し成形するとともに前記熱可塑性樹脂を架橋する方法、及びこの方法により得られる透明樹脂成形体が開示されている。そして、樹脂を架橋することにより耐熱性、リフロー耐熱性、耐光性が向上するとともに、優れた剛性や優れた耐クリープ性、耐摩耗性等の機械的強度も得やすくなることが記載されている。
【0004】
そこで、架橋性の樹脂(架橋できる樹脂)にナノフィラーを均一に分散させて所望の機能を付与するとともに樹脂を架橋して、種々の優れた物性を有する樹脂系複合材料の製造方法の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−037475号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】プラスチックスエージ 2011年4月号、58−59頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ナノフィラーの分散により所望の機能を付与するためには、ベースの樹脂中へナノフィラーを、微小粒子として分散することが望まれる。そこで、樹脂中にナノフィラーを微小粒子として分散できる分散方法が望まれていた。本発明は、架橋性の樹脂中にナノフィラーを容易に微小粒子として分散することができその結果優れた機能を付与することができる樹脂系複合材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討の結果、ナノフィラーを液状の分散剤中に微小粒子として均一分散した分散液を作製し、この分散液を架橋性の樹脂と混合することにより、樹脂中にナノフィラーを容易に微小粒子として分散(ナノ分散)でき、優れた機能が付与された樹脂系複合材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
請求項1の発明は、液状の分散剤中にナノフィラーをナノ分散して作製した分散液を、架橋性の樹脂と均一に混合する工程を有することを特徴とする樹脂系複合材料の製造方法である。
【0010】
本発明においてナノ分散とは、分散されている粒子の(平均)径が400nm以下となるように、分散媒中に均一に分散されていることを意味する。すなわち、(平均)粒子径が400nm以下の一次粒子が凝集せずに分散され二次粒子(凝集粒子)が形成されていない分散状態、又は一次粒子の凝集物(凝集粒子)の(平均)径が400nm以下となる分散状態を言う。従って、本発明に使用されるナノフィラーは、(平均)粒子径が400nm以下の粒子である。(平均)粒子径が400nm以下のフィラーの分散であっても、フィラーが凝集し径が400nmを超える凝集物が生成する場合は、ナノ分散ではない。なお、(平均)粒子径は、電子顕微鏡(SEM等)により測定した値である。
【0011】
この製造方法では、先ず、ナノフィラーが液状の分散剤中にナノ分散された分散液が作製される。液状の分散剤とは、分散液と樹脂を混合する際の温度で液状であり、ナノフィラーをその中にナノ分散させることができる分散剤である。通常、分散液と樹脂との混合は、樹脂のガラス転移点より50℃以上高い温度で行われるので、樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状であればよい。
【0012】
上記のようにして作製された分散液は、架橋性の樹脂(マトリックス樹脂)と混合され、架橋性の樹脂中にナノフィラーがナノ分散された樹脂系複合材料が製造される。
【0013】
架橋性の樹脂(マトリックス樹脂)としては、加熱や電離放射線の照射等により樹脂を構成する高分子間を架橋させることができる熱可塑性樹脂、エラストマーを挙げることができる。ナノフィラーをナノ分散することにより各種機能を付与することができる樹脂を、本発明の対象である架橋性の樹脂(マトリックス樹脂)として選択することができる。具体的には、ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエステル、塩化ビニル、ポリスチレン等の各種熱可塑性樹脂、ポリオレフィンエラストマー、フッ素エラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等の各種エラストマー等を挙げることができる。
【0014】
本発明の方法によりナノフィラーをマトリックス樹脂中に容易にナノ分散することができる。すなわち、ナノフィラーを液状の分散剤に分散せずに直接マトリックス樹脂中に混合すると、二次粒子が形成しやすく又樹脂の粘度が高いため、分散性の向上に限界があったが、液状の分散剤中にナノフィラーをナノ分散させた後、樹脂と混合する方法により、優れた分散性となり樹脂中にナノ分散されるのである。
【0015】
又、液状の分散剤を用いずにナノフィラーを樹脂中に分散すると得られた樹脂系複合材料の流動性が低下する。しかし、本発明の樹脂系複合材料の製造方法では、液状の分散剤が用いられるので、得られた樹脂系複合材料の流動性が向上し、この材料を使用して成形体を製造する際に射出成形がし易くなる等の優れた効果も得られる。
【0016】
このようにして、ナノフィラーをマトリックス樹脂中に優れた分散性でナノ分散することにより、樹脂に各種の優れた機能を付与することができる。本発明の樹脂系複合材料の製造方法により樹脂に付与することができる機能としては、吸水率の低下、膨張率の低下、熱伝導率の向上、屈折率の向上、導電性の向上(電磁波シールド性の向上)、難燃性の付与等を挙げることができる。
【0017】
請求項2の発明は、前記分散剤が、マトリックス樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状である、架橋助剤、可塑剤、又は紫外線若しくは電子線照射により重合するモノマー(以下、UV・EBモノマーと言う。)であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂系複合材料の製造方法である。
【0018】
樹脂系複合材料には、発明の趣旨を損ねない範囲で、種々の機能や物性を付与、向上させるための他の成分を含有させることができる。この他の成分としては、架橋助剤、可塑剤、及びUV・EBモノマー等が含まれる。例えば、樹脂を架橋する場合には、架橋を促進するため架橋助剤を添加することが好ましい。
【0019】
そして、架橋助剤、可塑剤及びUV・EBモノマーが、マトリックス樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状であり、ナノフィラーをナノ分散できる場合は、これらを、ナノフィラーをナノ分散して前記分散液を作製するための分散剤として用いることができる。この場合は、樹脂系複合材料の種々の物性向上のために好ましく用いられる成分を、そのまま分散剤として利用することができ、物性の向上に特に必要でない成分を加えるわけでないので好ましい。
【0020】
分散剤となる架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート(以下、TAICとする。)が好ましい。TAICは融点23℃程度であり液体となりやすい。又、TAICは、三官能のため架橋性に優れ、TAICを含有させることにより樹脂の耐熱性やリフロー耐熱性を電離放射線照射等により容易に向上できる。さらに、放射線照射や熱による変色が比較的少ない、人体に対する毒性が低い、等の点でも好ましい。
【0021】
特に、マトリックス樹脂が後述するような透明樹脂の場合、TAICは、透明樹脂との相溶性に優れるので好ましい。例えばTAICは、透明ポリアミド樹脂(特に、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体)との相溶性に優れ透明ポリアミドに対して50重量%程度の高濃度まで溶解させることができる。従って、多量のナノフィラーを透明ポリアミド樹脂中にナノ分散しやすく、その結果より優れた機能を付与することができる。請求項3は、この好ましい態様に該当し、前記分散剤が、TAICであることを特徴とする請求項2に記載の樹脂系複合材料の製造方法である。
【0022】
上記の方法により製造された樹脂系複合材料は、通常成形され、好ましくは、加熱又は電離放射線の照射等による架橋が施されて優れた物性と機能を有する成形品となる。特に、透明樹脂に熱伝導性フィラーをナノ分散させた樹脂系複合材料を成形してなり、優れた透明性、耐光性を有する光学レンズの製造に好適に適用される。以下、本発明の方法の適用例としての、光学レンズの製造について説明する。
【0023】
透明ポリアミド樹脂やフッ素樹脂等の透明樹脂を用いた光学レンズは、無機ガラスからなる光学レンズと比べて、軽量であり、破損しにくく、又成形が容易であるとの特徴を有するので各種の光学機器に広く用いられている。この樹脂製光学レンズには、ガラス製光学レンズに匹敵する高い透明性とともに、使用時の光照射により変色しない性質(耐光性)が求められる。
【0024】
特に、キセノンランプ、LED、青紫レーザー等を光源とし光の照射量が高い所謂ストロボ等の発光装置に用いられる場合は、樹脂製光学レンズに、変色、変形、老化等を生じやすい。さらに、近年のストロボにおいては、光量の増大、発光間隔の短縮が望まれており、又ストロボの内蔵化、小型化に対応するために光源とレンズ間の近接化が望まれている。従って、より大きな光量で多数回の照射がされた場合でも、発泡や変色が生じないような優れた耐光性を有する樹脂性の光学レンズが望まれている。
【0025】
優れた透明性と優れた耐光性を有する光学レンズを与える樹脂材料として、特開平9−137057号公報に開示された透明ポリアミド樹脂やフッ素樹脂、特に、WO2009/084690公報に開示された1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体の透明ポリアミド樹脂等を挙げることができる。
【0026】
そして、これらの透明樹脂に、熱伝導性フィラーをナノ分散させて放熱性を向上させることにより上記のような近年の要請を充足する優れた耐光性を有する光学レンズを得ることができる。従って、本発明の製造方法は、透明樹脂に熱伝導性フィラーをナノ分散させて、近年の要請を充足する光学レンズを製造する場合に好適に適用され、下記の請求項4又は5の発明は、光学レンズを製造する場合に好適に適用される態様である。
【0027】
請求項4の発明は、前記架橋性の樹脂が透明ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の樹脂系複合材料の製造方法である。
【0028】
光学レンズの製造に用いられる透明樹脂としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリアミド、シリコーン、エポキシ、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエステル等からなり透明な樹脂を挙げることができる。中でも、透明ポリアミド樹脂が好ましい。請求項4の発明は、請求項1の樹脂系複合材料の製造方法を、樹脂が透明ポリアミド樹脂である場合に適用したものである。
【0029】
請求項5の発明は、前記ナノフィラーが熱伝導性フィラーであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の樹脂系複合材料の製造方法である。
【0030】
熱伝導性フィラーを樹脂中に分散させることにより、得られた樹脂系複合材料からなる成形体(透明樹脂成形体)の放熱性を向上させることができる。本発明の製造方法によれば、熱伝導性フィラーを透明樹脂中に優れた分散性で高濃度に分散することができるので、放熱性をより向上させることができる。
【0031】
従って、この製造方法を光学レンズの製造に適用した場合、得られた光学レンズは放熱性に優れている。その結果、より大きな光量で多数回の照射がされた場合でも温度上昇を抑制でき、変色や発泡しにくい優れた耐光性を有する成形体(光学レンズ)を得ることができる。
【0032】
請求項6の発明は、ナノフィラーを液状の分散剤中にナノ分散して作製した分散液を、架橋性の樹脂と均一に混合して樹脂系複合材料を得る工程、及び得られた樹脂系複合材料を成形する工程を有することを特徴とする樹脂成形体の製造方法である。
【0033】
本発明の樹脂系複合材料の製造方法により製造された樹脂系複合材料を成形することにより、ナノフィラーのナノ分散による優れた機能を有する樹脂成形体を得ることができる。例えば、吸水率の低下、膨張率の低下、熱伝導率の向上、屈折率の向上、導電性の向上(電磁波シールド性の向上)、難燃性等の機能が付与された樹脂成形体を得ることができる。そして、吸水率の低下により優れた寸法安定性、線膨張率の低下により物性や寸法の優れた安定性、環境変化に対する優れた安定性が得られるとともに、金属のインサート品との密着性に優れた成形体を製造することができる。
【0034】
請求項7の発明は、ナノフィラーを液状の分散剤中にナノ分散して作製した分散液を、架橋性の樹脂と均一に混合して得られた樹脂系複合材料を成形した後、樹脂を架橋することを特徴とする架橋樹脂成形体の製造方法である。
【0035】
本発明の樹脂系複合材料の製造方法により製造された樹脂系複合材料を成形し、マトリックス樹脂を架橋することにより、ナノフィラーのナノ分散による優れた機能を有するとともに、耐熱性、リフロー耐熱性や高温時の剛性に優れた成形体を製造することができる。
【0036】
さらに、架橋により液体のブリードアウトを防ぐことができる。すなわち、樹脂系複合材料に分散剤等の液体が含まれている場合は、その樹脂系複合材料から得られた成形体の使用中に液体がブリードアウトする問題があるが、マトリックス樹脂を架橋することによりこのブリードアウトが抑制される。従って、樹脂系複合材料の製造において、より大量の分散剤(液体)を混合でき、マトリックス樹脂中にナノ分散されるナノフィラーの濃度を高めることができ、その結果所望の機能をより向上させることができる。
【0037】
なお、樹脂系複合材料の成形は、好ましくは樹脂の架橋前に行われる。架橋前は樹脂系複合材料の剛性が小さいので成形が容易である。そして、架橋により耐熱性や剛性を向上させることができるので、耐熱性や高温での剛性に優れた成形体が得られる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の樹脂系複合材料の製造方法により、架橋性の樹脂中にナノフィラーを容易にナノ分散することができ、その結果優れた機能が付与された樹脂系複合材料を容易に得ることができる。本発明の架橋樹脂成形体の製造方法により、ナノフィラーのナノ分散により付与された優れた機能を有するとともに、耐熱性や剛性等に優れた成形体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、本発明を実施するための具体的な形態を説明する。なお、本発明は、ここに述べる形態に限定されるものではない。
【0040】
本発明の製造方法に使用される液状の分散剤としては、架橋助剤、可塑剤、UV・EBモノマー等を挙げることができる。又、液状の分散剤として使用できる架橋助剤としては、TAIC以外にも、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート、トリメタクリルイソシアヌレート等のアクリレート又はメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等のアリル化合物類;N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等を挙げることができる。TAIC及びこれらの架橋助剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することもできる。
【0041】
架橋性の樹脂として透明ポリアミドを用い、架橋助剤のTAICを分散剤として用いる場合、TAICの使用量は、透明ポリアミド100重量部に対して25重量部未満が好ましく、より好ましくは1〜20重量部である。TAICの使用量が多い程、架橋を促進しリフロー耐熱性等を向上させる効果が大きいが、その使用量が前記の範囲以上となると、成形の際の固化が遅くなりすぎて成形性が低下し、成形品の良い外観が得にくくなる場合がある。
【0042】
液状の分散剤として使用できる可塑剤としては、シリコーン、エステル油等、樹脂の既知の可塑剤を挙げることができる。
【0043】
液状の分散剤として使用できるUV・EBモノマーとしては、アクリレート系モノマー、メタクリレート系モノマー、イミド系モノマー、シリコーン系モノマー、ウレタン系モノマー、イソシアネート系モノマー、エポキシ系モノマー等を挙げることができる。
【0044】
本発明の方法を光学レンズの製造に適用する場合用いられる透明ポリアミド樹脂としては、WO2009/084690公報等に例示されているもの等を挙げることができる。中でも、WO2009/084690公報で説明、例示されているような非晶性でかつガラス転位点の高い透明ポリアミド樹脂が好適である。
【0045】
このような透明ポリアミド樹脂としては、例えば、特定のジアミンと特定のジカルボン酸とを縮合して得たもの、ラクタムの開環重合やω−アミノカルボン酸の縮合により得たものを挙げることができる。中でも、芳香環、脂環等を有するものが好ましく、特に、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体は、変色や変形等を生じにくいので好ましい。
【0046】
透明ポリアミド樹脂としては、配合物自体が透明であれば、多数の異なるポリアミドの配合物であってよく、結晶性のものが含まれていてもよい。さらに、透明ポリアミドとしては、その合成反応(重合)を、原料モノマーとともに後述する安定剤、補強材等の存在下行って製造したものでもよい。
【0047】
透明ポリアミドとしては市販品を用いることもできる。例えば、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体からなるポリアミドは、グリルアミドTR−90(エムスケミー・ジャパン社)等の商品名で市販されている。
【0048】
その他、本発明に使用される透明ポリアミドの具体的商品例としては、トロガミドCX7323、トロガミドT、トロガミドCX9701(商品名、以上、ダイセル・デグサ社)、グリルアミドTR−155、グリボリーG21、グリルアミドTR−55LX、グリロンTR−27(以上、エムスケミー・ジャパン社)、クリスタミドMS1100、クリスタミドMS1700(以上、アルケマ社)、シーラー3030E、シーラーPA−V2031、イソアミドPA−7030(以上、デュポン社)等を挙げることができる。
【0049】
本発明の方法を光学レンズの製造に適用する場合に、ナノフィラーとして好適に用いられる熱伝導性フィラーとは、熱伝導率が1W/m・K以上であるフィラーを言い、好ましくは、熱伝導率が20W/m・K以上のフィラーであり、より好ましくは、熱伝導率が50W/m・K以上のフィラーである。熱伝導率が1W/m・K未満のナノフィラーの場合は、透明樹脂に対し多量に配合しても優れた耐光性が得られず、キセノンランプ、LED、(青紫)レーザー等による大きな光量での多数回の照射がされると、発泡や変色が生じる。
【0050】
熱伝導性フィラーとしては、アルミナ、(結晶性)シリカ、窒化アルミニウム、窒化硼素、窒化ケイ素、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等のカーボン材料、合成マグネサイト等を挙げることができる。熱伝導性フィラーの形状は、必ずしも球状である必要は無く、棒状、板状、粉砕フィラーであってもよい。さらにこれらの熱伝導性フィラーは、そのナノ分散を容易にするために、界面活性剤等による表面処理等が施されたものでもよい。
【0051】
光学レンズを形成する樹脂系複合材料を製造する場合、熱伝導性フィラーの配合量は、透明ポリアミド樹脂の重量に対して1重量%以上が好ましい。配合量が1重量%未満の場合は、放熱性の向上が不十分であり優れた耐光性を有する光学レンズが得られず、キセノンランプ、LED、レーザー等による大きな光量での多数回の照射がされると、発泡や変色が生じる。一方、配合量が50重量%を超える場合は透明性が低下する場合があるので50重量%以下が好ましく、より優れた透明性を得るためには20重量%以下である。
【0052】
透明樹脂に熱伝導性フィラーをナノ分散する場合、フィラーのナノ分散の程度と透明性は強い相関がある。そこで、フィラーのナノ分散の程度は、得られた樹脂系複合材料や成形材料の透明度(全光線透過率)により表わすことができる。そして、マトリックス樹脂として透明ポリアミド樹脂を用いた場合、本発明により、成形体の厚さを2mmとしたときの全光線透過率が30%以上となるように熱伝導性フィラーをナノ分散させることができる。
【0053】
本発明の樹脂系複合材料の製造方法において、ナノフィラーを前記の分散剤にナノ分散する方法としては、ボールミル、三本ロール又は撹拌プロペラを用いて分散する方法等を挙げることができる。
【0054】
本発明の樹脂系複合材料の製造方法において、ナノフィラーをナノ分散してなる分散液を架橋性の樹脂に混合する方法としては、樹脂と液体の混合に採用されている公知の方法を挙げることができる。例えば、分散液、マトリックス樹脂及び必要により加えられる後述の他の成分を、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダー等の公知の混合機により混合する方法を挙げることができる。又、分散液と、樹脂を構成するモノマー及び重合開始剤、並びに必要により加えられる後述の他の成分を混合し、モノマーを重合する方法も、本発明の一工程としての、分散液と架橋性の樹脂の混合に含まれる。
【0055】
前記の混合機の中では、光学レンズの製造に適用する場合は、二軸押出機が好ましく、透明ポリアミド樹脂に熱伝導性フィラーを分散させる場合は、230℃〜300℃程度の混合温度、2秒〜15分程度の混合時間が一般に好ましく採用される。
【0056】
本発明により製造される樹脂系複合材料には、ナノフィラー、液状の分散剤、マトリックス樹脂の他に、必要により本発明の趣旨を損ねない範囲で他の成分を加えてもよい。例えば、安定剤、銅害防止剤、難燃剤、滑剤、導電剤、メッキ付与剤等を配合することができる。
【0057】
特に、光学レンズを形成するための透明ポリアミド樹脂に熱伝導性フィラーを分散させてなる樹脂系複合材料の場合は、安定剤を含有することが好ましい。安定剤を含有することにより、光学レンズの変色をより効率的に抑制することができる。安定剤として具体的には、ヒンダードアミン光安定剤、紫外線吸収剤、リン系安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒドロキノン系酸化防止剤等を挙げることができる。2種以上の安定剤を併用すると、安定剤としての機能が向上しより優れた効果が得られる場合がある。
【0058】
安定剤としては、市販されているものを用いることができる。例えば、ヒンダードアミン光安定剤はアデカスタブLA68、LA62(商品名、旭電化社)等として、紫外線吸収剤はアデカスタブLA36(商品名、旭電化社)等として、リン系安定剤はイルガフォス168(商品名、BASF社)等として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤はイルガノックス245、イルガノックス1010(商品名、BASF社)等として、ヒドロキノン系酸化防止剤は、メトキノン(商品名:精工化学社)等として市販されており、これらを用いることができる。
【0059】
本発明の架橋樹脂成形体の製造方法における、成形工程での成形方法は特に制限されず、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、プレス成形法、押出成形法、ブロー成形法、真空成形法等が挙げられるが、成形の容易さ及び成形の精度の観点から射出成形法が好ましい。
【0060】
本発明の架橋樹脂成形体の製造方法における、樹脂の架橋は、樹脂の加熱や樹脂に電離放射線を照射する方法等により行われる。中でも電離放射線照射する方法は、制御が容易な点で好ましい。又、電離放射線としては、安全性や装置の入手し易さ等から電子線が好ましい。
【0061】
前記のように、樹脂の架橋により、樹脂の剛性を向上させることができる。架橋樹脂成形体を光学レンズとして用いる場合は、架橋により成形体の270℃での貯蔵弾性率を0.1MPa以上とすることが好ましい。270℃での貯蔵弾性率を0.1MPa以上とすることにより、室温から高温まで満足する剛性が得られ、光学レンズを、鉛フリー半田を用いた半田付けや半田リフローにより実装する場合や使用環境が高温になる場合でも、熱変形の問題を生じにくく、所謂リフロー耐熱性が高いので好ましい。
【0062】
ここで、貯蔵弾性率とは、粘弾性体に正弦的振動ひずみを与えたときの応力と、ひずみの関係を表わす複素弾性率を構成する一項(実数項)であり、粘弾性測定器(DMS)により測定した値である。より具体的には、アイティー計測制御社製DVA−200による粘弾性測定器により、室温(25℃)よりの10℃/分の昇温速度にて測定される値である。
【実施例】
【0063】
次に、本発明を実施例に基づき説明する。なお、本発明は、ここに述べる実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り他の形態への変更も可能である。先ず、実施例及び比較例で使用した原料について述べる。
【0064】
[透明ポリアミド] 1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体(商品名:グリルアミドTR−90、エムスケミー・ジャパン社製)
[架橋助剤] トリアリルイソシアヌレート(TAIC:日本化成社製)
[熱伝導性フィラー] 酸化チタン(商品名:TTO−51A、石原産業社製)
【0065】
実施例
表1に示す組成の樹脂組成物を次に示すようにして得た。すなわち、TAIC(液状)と熱伝導性フィラーをアルミナのボールミルで混合して、熱伝導性フィラーがTAIC中にナノ分散した分散液を得る。この分散液を、二軸混合機(東芝機械TEM58BS)にサイドフィードして前記透明ポリアミドと混合し、本発明の樹脂系複合材料を得た。
【0066】
このようにして得られた樹脂系複合材料、SE−18(住友重機社製、電動射出成形機)により射出成形をして、40mm×40mm×2mm(厚さ)の成形体試料を作製した。射出成形は、樹脂温度280℃、金型温度80℃、サイクル30秒の条件で行った。
【0067】
得られた成形体試料に300kGyの電子線を照射し架橋を行い、本発明の架橋樹脂成形体を得た。照射後の成形体について、下記の方法で、全光線透過率、耐光テスト後の外観を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0068】
比較例1
表1に示す組成で、TAICを二軸混合機(東芝機械TEM58BS)にサイドフィードして前記透明ポリアミドと混合した。その後、SE−18(住友重機社製、電動射出成形機)により、実施例と同じ条件にて射出成形をして、40mm×40mm×2mm(厚さ)の成形体試料を作製した。さらに、実施例と同じ条件にて、得られた成形体試料に電子線を照射して架橋を行い架橋樹脂成形体を得た。照射後の成形体について、下記の方法で、全光線透過率、耐光テスト後の外観を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0069】
比較例2
表1に示す組成で、TAIC、熱伝導性フィラー及び前記透明ポリアミドを、二軸混合機(東芝機械TEM58BS)のトップからフィードして混合した。その後、SE−18(住友重機社製、電動射出成形機)により、実施例と同じ条件にて射出成形をして、40mm×40mm×2mm(厚さ)の成形体試料を作製した。さらに、実施例と同じ条件にて、得られた成形体試料に電子線を照射して架橋を行い、架橋樹脂成形体を得た。照射後の成形体について、下記の方法で、全光線透過率、耐光テスト後の外観を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0070】
[全光線透過率]
JIS K 7361に準拠して測定した。可視光線の範囲(波長400〜800nmの範囲)における入射光量Tと試験片を通った全光量Tとの比を百分率で示す。
【0071】
[耐光テスト後の外観]
市販の外付ストロボ(ニコン社製)を用い、架橋樹脂成形体の表面と光源(キセノンランプ)との距離を2mmとし、次に示す条件の閃光を、10秒に1回又は2秒に1回のサイクルで200サイクル繰返した。
閃光時間:(1/800)秒、色温度:5600K
【0072】
200サイクル後のレンズの変色を評価し、その評価結果を、レンズに変色が見られないものを○、レンズの中央部が変色したものを×として表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
表1の結果より明らかなように、熱伝導性フィラーをTAICにナノ分散させた分散液を作製し、この分散液を透明ポリアミド樹脂に混合した実施例1では、全光線透過率は80%であり、熱伝導性フィラーが透明ポリアミド樹脂中にナノ分散されていることが示されている。又、閃光が2秒に1回の場合の耐光テスト後の外観も良好である。熱伝導性フィラーがナノ分散されているので放熱性が向上したためと考えられる。
【0075】
一方、熱伝導性フィラーを分散しなかった比較例1では、閃光が2秒に1回の場合の耐光テスト後の外観は不良である。放熱性が向上していないので、多数回の閃光による温度上昇が大きかったためと考えられる。又、熱伝導性フィラーを分散しているものの、分散液を作製せずに、熱伝導性フィラーを、TAICとともに、直接マトリックス樹脂中に混合した比較例2では、全光線透過率は20%であり、熱伝導性フィラーの分散性が低いことが示されている。又、閃光が2秒に1回の場合の耐光テスト後の外観は不良である。熱伝導性フィラーの分散性が低いため放熱性が向上せず、多数回の閃光による温度上昇が大きかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、架橋性の樹脂中にナノフィラーをナノ分散させて、種々の物性が向上された架橋樹脂及びその成形体を製造するために利用できる。特に、ストロボ用レンズ(例えば、ストロボ用フレネルレンズ)等の用途に好適に用いられる光学レンズを製造するために利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフィラーを液状の分散剤中にナノ分散して作製した分散液を、架橋性の樹脂と均一に混合する工程を有することを特徴とする樹脂系複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記分散剤が、マトリックス樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状である、架橋助剤、可塑剤、又は紫外線若しくは電子線照射により重合するモノマーであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂系複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記分散剤が、トリアリルイソシアヌレートであることを特徴とする請求項2に記載の樹脂系複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記架橋性の樹脂が透明ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の樹脂系複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記ナノフィラーが熱伝導性フィラーであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の樹脂系複合材料の製造方法。
【請求項6】
ナノフィラーを液状の分散剤中にナノ分散して作製した分散液を、架橋性の樹脂と均一に混合して樹脂系複合材料を得る工程、及び得られた樹脂系複合材料を成形する工程を有することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
ナノフィラーを液状の分散剤中にナノ分散して作製した分散液を、架橋性の樹脂と均一に混合して得られた樹脂系複合材料を成形した後、樹脂を架橋することを特徴とする架橋樹脂成形体の製造方法。

【公開番号】特開2013−60482(P2013−60482A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198123(P2011−198123)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】