説明

樹脂組成物、その製造方法及び成型体

【課題】蒸着等の高温処理においても変形せず、透明性が高い、脂環式構造含有重合体樹脂組成物、成型体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(i)極性基を有する繰り返し単位を30mol%以上含有する脂環式構造含有重合体及び(ii)アスペクト比30以上の層状結晶化合物を含む樹脂組成物であって式(I)の条件を満たす樹脂組成物及びその成型体:
TgT−TgA≧10 (I)
(但し、TgTは前記樹脂組成物のガラス転移温度(℃)を表し、TgAは(i)脂環式構造含有重合体のガラス転移温度(℃)を表す);並びに(i)の重合体、(ii)の化合物及び(iii)沸点が50℃〜200℃の有機化合物を含む混合物を混練装置を用いて比エネルギー0.1〜0.4kW・hr/kgの条件下で、混練後の(iii)有機化合物の残存量が5000ppm以下になるまで混練する、上記樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関し、特に、耐熱性等が良好で、光学材料等として有用な樹脂組成物に関する。また、本発明は、当該樹脂組成物の製造方法及び当該樹脂組成物を成型してなる成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環式構造含有重合体は、光学材料として有利な種々の特性を有し、また吸水性が低い等の特徴を有しているため、光学材料、電子部品材料などの様々な分野における材料として利用されている。しかしながら、脂環式構造含有重合体は、その用途によっては耐熱性等の熱特性が不十分な場合がある。
【0003】
そこで、熱特性を向上させるために、脂環式構造含有重合体を無機化合物と配合し組成物とすることが、例えば特許文献1〜3において提案されている。また、機械的、熱的、物理的性質を向上させ、またはその光学的性質を向上させた樹脂組成物として、脂環式構造含有重合体に特定の層状結晶化合物を配合した樹脂組成物が、例えば特許文献4〜5において提案されている。しかしながら、これらにおいても、熱特性等の特性の更なる向上が求められている。
【0004】
また、無機化合物として特に特許文献4及び5に記載されたもののように層状結晶化合物を採用した樹脂組成物の場合、熱変形温度は向上する。この樹脂組成物を成型してなる成型体を蒸着等の処理に供する際には成型体が高温の条件化に曝される。その際、成型体に残留応力の負荷があると、熱変形温度が高い組成物の成型体であっても、大きく変形してしまい、好適に使用できない。
【0005】
【特許文献1】特開平4−183744号公報
【特許文献2】特開2002−179875号公報
【特許文献3】特開2003−212927号公報
【特許文献4】特開2001−181483号公報
【特許文献5】特開2004−29634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、蒸着等の高温処理においても変形せず、透明性が高い、脂環式構造含有重合体樹脂組成物、成型体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の高い割合の極性基を有する脂環式構造含有重合体と、特定のアスペクト比を有する層状結晶化合物とを含み、ガラス転移温度が該脂環式構造含有重合体のガラス転移温度よりも10℃以上高い樹脂組成物とすることにより、透明性を低下させることなく耐熱変形性を向上させることができ、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、
(1)(i)極性基を有する繰り返し単位を30mol%以上含有する脂環式構造含有重合体、及び(ii)アスペクト比が30以上の層状結晶化合物を含む樹脂組成物であって、下記式(I)の条件を満たすことを特徴とする樹脂組成物:
TgT−TgA≧10 (I)
(但し、TgTは前記樹脂組成物のガラス転移温度(℃)を表し、TgAは(i)脂環式構造含有重合体のガラス転移温度(℃)を表す);
(2)1mm厚の成型体とした際のヘイズが10%以下であることを特徴とする、前記(1)の樹脂組成物;
(3)前記(ii)層状結晶化合物が、分散剤で処理されてから(i)脂環式構造含有重合体と配合されてなることを特徴とする、前記(1)又は(2)の樹脂組成物;
(4)前記(1)〜(3)のいずれかの樹脂組成物の製造方法であって、(i)極性基を有する繰り返し単位を30mol%以上含む脂環式構造含有重合体、(ii)アスペクト比が30以上の層状結晶化合物、及び(iii)沸点が50℃〜200℃の有機化合物を含む混合物を、混練装置を用いて混練する工程を含み、前記混練装置の比エネルギーが0.1〜0.4kW・hr/kgとなる条件下で、混練後の組成物中の前記(iii)有機化合物の残存量が5000ppm以下になるまで混練することを特徴とする製造方法;及び
(5)前記(1)〜(3)のいずれかの樹脂組成物を成型してなる成型体
がそれぞれ提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物及び成型体は、特定の脂環式構造含有重合体と特定の層状結晶化合物を含み特定の物性的条件を満たすことにより、耐熱変形性に優れる樹脂組成物とすることができ、液晶表示装置等の画像表示装置用の光学材料及び他の機械部品や包装材料等の材料に有利に用いることができる。特に、成型体を延伸フィルム等の状態にした際においても良好な熱安定性を示すため、耐熱性が要求される画像表示装置などにおいても有利に用いることができる。
【0010】
本発明の製造方法は、上記樹脂組成物の材料を含む混合物を特定条件で混練する工程を含むため、上記樹脂組成物、ひいては上記成型体を簡便に製造でき、光学材料及び他の機械部品や包装材料等の材料の製造に有利に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、(i)極性基を有する繰り返し単位を30mol%以上含有する脂環式構造含有重合体、及び(ii)アスペクト比が30以上の層状結晶化合物を含む。
【0012】
前記脂環式構造含有重合体は、その重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を含有する重合体である。この脂環式構造としては、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造を挙げることができる。これら脂環式構造の中でも、この発明に係る樹脂組成物から得られる成形体の熱安定性を向上させることを目的とするのであれば、シクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を形成する炭素数は、通常は4〜30、好ましくは、5〜20、より好ましくは、5〜15である。炭素数がこの範囲にあると、優れた耐熱性と柔軟性を有する成形体を得ることができる。この脂環式構造は、重合体の主鎖、側鎖のいずれに存在していてもよい。
【0013】
前記脂環式構造含有重合体における脂環式構造を含有する繰り返し単位の含有割合に制限はなく、得られる樹脂組成物の性状、物性等に応じて適宜、選択されるが、通常は50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%とすることができる。この繰り返し単位の含有割合が少量過ぎると、得られる樹脂組成物の耐熱性が低下することがある。なお、この発明に用いる脂環式構造含有重合体は、脂環式構造を含有する繰り返し単位以外の繰り返し単位を含有していてもよい。
【0014】
前記脂環式構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、及びこれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体及びその水素化物が耐熱性、機械強度の点から好ましい。
【0015】
前記ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能な他のモノマーとの開環共重合体、およびこれら開環重合体又は開環共重合体の水素化物、並びにノルボルネン系モノマーの付加重合体、およびノルボルネン系モノマーとこれと付加共重合可能な他のモノマーとの付加共重合体を挙げることができる。
【0016】
これら重合体および共重合体の中でも、得られる樹脂組成物の耐熱性、機械的強度の観点からすると、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体の水素化物が特に好ましい。
【0017】
前記ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体(環に置換基を有するもの、以下、同じ。)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)およびその誘導体、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)およびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体等を挙げることができる。
【0018】
前記置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、アルキレン基、ビニル基、フェニル基、ビフェニル基を挙げることができる。前記ノルボルネン系モノマーは、これら置換基を一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0019】
これら置換基を有するノルボルネン系モノマーとしては、8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−(ビフェニル)−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン等を挙げることができる。これらノルボルネン系単量体は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0020】
前記ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能な他のモノマーとしては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の炭素数5〜20、好ましくは5〜10の単環の環状オレフィン単量体または環状ジオレフィン単量体を例示することができる。ノルボルネン系モノマーの開環重合体及びノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能な他のモノマーとの開環共重合体は、これらのモノマーを開環重合触媒の存在下に溶媒中または無溶媒で、通常、−50℃〜100℃の重合温度、0.01〜5MPaの重合圧力で重合することにより得ることができる。重合時間は、使用する単量体の重合転化率に応じて適宜調整すればよい。
【0021】
開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と硫酸塩若しくはアセチルアセトン化合物、および還元剤とからなる触媒、又はチタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物若しくはアセチルアセトン化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒などが挙げられる。
【0022】
重合反応用溶媒としては生成する重合体を溶解し、かつ重合反応を阻害しない溶媒であれば限定なく使用されうる。例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素系炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、安息香酸メチルなどのエステル類、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類、ケトン類又はエステル類が好ましい。溶媒の量は、重合反応液中の単量体濃度が、1〜50質量%、好ましくは2〜45質量%、より好ましくは5〜40質量%になる範囲で適宜調整される。
【0023】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素化物及びノルボルネン系モノマーと開環共重合可能な他のモノマーとの開環共重合体の水素化物は、これらの開環重合体又は開環共重合体の反応溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、通常−10〜+250℃、好ましくは0〜200℃の反応系に水素を、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.05〜8MPaの圧力で導入して、通常、0.1〜50時間反応させることにより得られる。水素化率は、主鎖の炭素−炭素不飽和結合については90%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。
【0024】
前記ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、炭素数4〜20のモノ環状オレフィン又は環状共役ジエン、1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン及びそれらの誘導体などの炭素数5〜20の非共役ジエン、ビニルシクロヘキセンなどのビニルシクロアルケン、ビニルシクロヘキサンなどのビニルシクロアルカンなどのビニル脂環式炭化水素化合物、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン及びこれらの誘導体などの炭素数2〜20のエチレンまたはα−オレフィンなどが挙げられる。これら単量体の中でも、α−オレフィン、特にエチレンが好ましい。これらの単量体は1種単独で、又は2種以上を併せて用いることができる。
【0025】
前記ノルボルネン系モノマーの付加重合体およびノルボルネン系モノマーとこれと付加共重合可能な他のモノマーとの付加共重合体は、これらのモノマーを付加重合触媒の存在下に溶媒中で−50℃〜100℃の重合温度、0.01〜5MPaの重合圧力で重合することにより得ることができる。重合時間は、モノマーの重合転化率に応じて適宜調整すればよい。付加重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウム、バナジウムなどの金属の化合物と有機アルミニウム化合物からなる触媒などを用いることができる。重合反応用溶媒は、上記の開環重合と同様の溶媒が使用される。
【0026】
ノルボルネン系モノマーとこれに対して共重合可能な他のモノマーとを付加共重合するにあたっては、得られる付加共重合体中のノルボルネン系モノマーに由来する構造単位と、付加共重合可能な他のモノマーに由来する構造単位との割合が、質量比で、好ましくは50:50〜99:1、より好ましくは70:30〜97:3の範囲となるよう、各モノマーの使用量が選択される。
【0027】
前記単環の環状オレフィン系重合体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環を有する環状オレフィン系モノマーの付加重合体を挙げることができる。
【0028】
前記環状共役ジエン系重合体としては、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系モノマーの1,2−または1,4−付加重合体およびその水素化物を挙げることができる。
【0029】
前記ビニル脂環式炭化水素重合体としては、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン等のビニル脂環式炭化水素系モノマーの重合体およびその水素化物、スチレン、α−メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素系モノマーを重合してなる重合体に含まれる芳香族部分を水素化してなる水素化物、ビニル脂環式炭化水素系モノマーまたはビニル芳香族炭化水素系モノマーとこれらビニル芳香族炭化水素系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体等の共重合体およびその芳香環の水素化物等を挙げることができる。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロックまたはそれ以上のマルチブロック、傾斜ブロック共重合体等を挙げることもできる。
【0030】
本発明に用いる(i)脂環式構造重合体は、極性基を有する繰り返し単位を30mol%以上、好ましくは40mol%以上含有する。重合体中の繰り返し単位を上記範囲にすることにより、脂環式構造重合体と層状結晶化合物間の相互作用が増し、組成物の耐熱性を大きく向上させることができる。極性基を有する繰り返し単位の割合の上限は特に限定されず必要に応じ100mol%までの間で調製することができる。
【0031】
前記極性基としては、ヘテロ原子またはヘテロ原子を有する原子団等を挙げることができ、ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、ハロゲン原子等を挙げることができる。これらヘテロ原子の中でも、層状結晶化合物との分散性および相溶性の観点からすると、酸素原子および窒素原子が好ましい。前記極性基として、具体的には、ヒドロキシル基、カルボキシル基、オキシ基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、カルボニル基、アミノ基、エステル基、ハロゲン基、シアノ基、アミド基、イミド基、スルホニル基、カルボニルオキシカルボニル基を挙げることができる。これらの中でも、層状結晶化合物との分散性及び相溶性の観点から、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、カルボニル基、アミド基、イミド基、カルボニルオキシカルボニル基が好ましい。
【0032】
極性基を有するノルボルネン系モノマーとしては、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−シアノテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−ジエチルアミノテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−N,N’−ジメチルアミノカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、N−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−カルボキシイミド、8−フェニルスルホニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボキシアルデヒド、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−カルボン酸無水物などが挙げられる。
【0033】
(i)脂環式構造含有重合体を得る方法としては特に制限はないが、例えば、ノルボルネン系重合体の場合、(a)極性基を有しないノルボルネン系モノマーを重合して得られる未変性重合体に、極性基を有する化合物を反応(変性反応)させる方法、(b)極性基を有するノルボルネン系モノマーのみを重合させるか、又は極性基を有しないノルボルネン系モノマーと極性基を有するノルボルネン系モノマーとを共重合させる方法を挙げることができる。ノルボルネン系重合体以外の脂環式構造含有重合体についても、ノルボルネン系重合体の場合と同様である。
【0034】
前記(a)の方法で得られる(i)脂環式構造含有重合体としては、例えば、未変性の脂環式構造含有重合体を塩素化物、クロロスルホン化物、極性基含有不飽和化合物などでグラフト変性した物等を挙げることができ、中でも、極性基含有不飽和化合物でグラフト変性した物が好ましい。
【0035】
前記極性基含有不飽和化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、p−スチリルカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテルのグリシジルエーテル等の不飽和エポキシ化合物;アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸等の不飽和カルボン酸化合物;マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレート等の不飽和エステル化合物;アリルアルコール、2−アリル−6−メトキシフェノール、4−アリロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン等の不飽和アルコール酸化合物等を挙げることができる。
【0036】
これら極性基含有不飽和化合物の中でも、層状結晶化合物の分散性の観点からすると、不飽和エポキシ化合物および不飽和カルボン酸化合物が特に好ましい。
【0037】
前記(a)を行う場合において、変性反応を効率よく行うために、ラジカル開始剤の存在下に反応を実施することが好ましい。ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物やアゾ化合物が挙げられる。有機過酸化物としては、ジアシルパーオキサイド類;パーオキシジカーボネート類;パーオキシエステル類;パーオキシケタール類;ジアルキルパーオキサイド類;並びにジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類を挙げることができる。
【0038】
アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル及びジメチルアゾイソブチレートを挙げることができる。これらの中でも、変性時における変性効率の観点から、ラジカル開始剤として、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類が好ましく、ジアルキルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類がさらに好ましい。
【0039】
これらのラジカル開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。ラジカル開始剤の使用量は、変性前の脂環式構造含有重合体とラジカル開始剤との組み合わせ等により適宜選ばれる。ラジカル開始剤は、変性前の脂環式構造含有重合体100質量部に対して、通常0.01〜10質量部、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.1〜2.5質量部の範囲で用いられる。変性反応は反応温度0〜400℃、好ましくは60〜350℃で、反応時間1分〜24時間、好ましくは30分〜10時間の範囲で行う。
【0040】
変性反応に用いる溶媒としては脂環式構造含有重合体を溶解できるものであれば格別制限はなく、例えば、トルエン、キシレン、t−ブチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド化合物;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル化合物;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物などが挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素類や脂環式炭化水素類が特に好ましい。これらの溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合せて用いることができる。
【0041】
本発明においては、(i)脂環式構造含有重合体の質量平均分子量(Mw)は好ましくは500〜500,000、より好ましくは1,000〜200,000、特に好ましくは2,000〜100,000の範囲である。(i)脂環式構造含有重合体の質量平均分子量(Mw)がこの範囲である時に、機械的強度や成形加工性が高度にバランスされ好適である。なお、前記分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。また、変性前の脂環式構造含有重合体の分子量分布は、上記条件のGPCにより測定される質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、通常4以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である時に、機械的強度が高く好適である。
【0042】
本発明においては、用いる(i)脂環式構造含有重合体のガラス転移温度(Tg)は、通常80℃以上、好ましくは130〜250℃である。ガラス転移温度がこの範囲にあることにより、重合体は高温下の使用に耐え、熱変形、応力集中等を生じることなく、優れた耐久性を発現することができる。ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0043】
本発明に用いる(ii)層状結晶化合物は、アスペクト比が30以上、好ましくは30〜10,000、さらに好ましくは30〜1,000のものである。アスペクト比が30未満である場合、得られる樹脂組成物の低ヘイズ化が困難になる。アスペクト比は、層状結晶化合物の短軸に対する長軸の比をいう。ここで層状結晶化合物の長軸は、層状結晶化合物の同一平面内における最も長い差し渡し長さを言い、短軸は、層状結晶化合物を、層面に平行な方向から見たときの層面に垂直な方向の厚みを言う。これら長軸および平均アスペクト比の測定は、層状結晶化合物を電子顕微鏡により観察し、化合物の長軸、短軸を決定した後、計算により得ることができる。
【0044】
本発明に用いる(ii)層状結晶化合物は、その原料となる、層状構造を有する結晶化合物に、有機化剤により有機化処理を行うことにより得られるものが好ましい。有機化処理を行うことにより、もとの層状構造を有する結晶化合物そのものとは異なり、結晶化合物の層間の引力を低減して、層間距離を拡大させて各層が分離して微細な板状の粒子を形成させることができる。
【0045】
この発明で、(ii)層状結晶化合物の原料として用いる、層状構造を有する結晶化合物は、その化合物が平面的に配列されたシート構造を有する状態(層状)にあり、その垂直方向にシート構造の繰り返しが見られる、多結晶層構造を有する化合物である。この結晶化合物は、結晶層が相互にイオン結合または水素結合力により結合されているものと、各結晶層間に陽イオンが介在していて、負電荷に荷電した結晶層が相互に前記陽イオンを介して微弱な静電力により結合されているものとに大別することができる。
【0046】
有機化処理に供される、層状構造を有する結晶化合物としては、グラファイト、TiS2、NbSe2、MoS2等の遷移金属ジカルコゲン化物;CrPS4等の二価金属リンカルコゲン化物;MoO3、V25等の遷移金属の酸化物;FeOCl、VOCl、CrOCl等のオキシハロゲン化物;Zn(OH)2、Cu(OH)2等の水酸酸化物;Zr(HPO42・nH2O、Ti(HPO43・nH2O、Na(UO2PO43・nH2O等のリン酸塩;Na2Ti37、KTiNbO5、RbxMnxTi2-x4等のチタン酸塩;Na227、K227等のウラン酸塩;KV38、K3514、CaV616・nH2O、Na(UO239)・nH2O等のバナジン酸塩;KNb33、K4Nb617等のニオブ酸塩;Na2413、Ag41013等のタングステン酸塩;Mg2Mo27、Cs2Mo516、Cs2Mo722、Ag4Mo1033等のモリブデン酸塩;モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ヘクトライト、ノントロナイト、スティブンサイト等のスメクタイト系粘度鉱物、トリオクタヘドラルバーミキュライト、ハロイサイト、ジオクタヘドラルバーミキュライト、マスコバイト、フィロゴバイト、バイオタイト、レピドライト、バラゴナイト、テトラシリシックマイト、カオリナイト、ハロイサイト、ディッカイト、H2SiO5、H2Si1429・5H2O等の珪酸塩またはこの珪酸塩により構成される鉱物類等を挙げることができる。
【0047】
これら層状構造を有する結晶化合物の中でも、前記樹脂への分散性、得られる樹脂組成物の耐熱性、機械的強度の観点から、珪酸塩、リン酸塩およびモリブデン酸塩が好ましく、さらには、珪酸塩が特に好ましい。
【0048】
有機化処理に供される層状構造を有する結晶化合物の大きさは、長径として、1nm〜100μm、好ましくは1nm〜10μm、さらに好ましくは1nm〜1μmである。前記結晶化合物の大きさが上記範囲にあることにより、熱変形、応力集中等を生じることなく、優れた耐久性を発現する組成物を得ることができる。
【0049】
前記有機化処理は、例えば、後述する有機化剤を用いて行うことができる。
【0050】
前記有機化剤として、陽イオン性界面活性剤を挙げることができる。陽イオン性界面活性剤の具体例として、R1234+-で表される第四級アンモニウム塩を挙げることができる。
【0051】
前記R1234+-において、有機オニウムイオンR1234+中のR1、R2、R3およびR4は、炭素数1〜30の飽和または不飽和炭化水素基を表し、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。この炭素数1〜30の飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等の飽和脂肪族炭化水素基;ラウリル基、オレイル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基を挙げることができる。
【0052】
前記R1234+-における有機オニウムイオンR1234+としては、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ステアリルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、又はラウリン酸アンモニウムイオン等を用いることができる。
【0053】
前記R1234+-におけるX-としては、Cl-、Br-、NO3-、OH-、CH3COO-等の陰イオンを挙げることができる。
【0054】
層状構造を有する結晶化合物の有機化処理は、例えば、層状構造を有する結晶化合物を水に分散させて結晶化合物の分散液を調製し、この分散液に前記陽イオン性界面活性剤を添加し、常温または加熱下で撹拌することによって行うことができる。このときの結晶化合物の分散液における結晶化合物の濃度は、0.01〜70質量%に調整することが好ましい。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、そのガラス転移温度(℃)、及び(i)脂環式構造含有重合体のガラス転移温度(℃)をそれぞれTgT及びTgAとすると、TgT−TgA≧10の条件を満たす。即ちTgT−TgAの値は10以上であり、好ましくは20以上とすることができる。このような条件は、具体的には例えば後述する製造方法により(i)脂環式構造含有重合体及び(ii)層状結晶化合物を含む混合物を混練することにより達成することができる。
【0056】
本発明の樹脂組成物においては、1mm厚の成型体とした際のヘイズが好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。このような低いヘイズを与える樹脂組成物は、上記特定の(ii)層状結晶化合物を配合することなどにより達成することができる。当該ヘイズの下限は特に限定されないが、0%以上とすることができる。
【0057】
本発明の樹脂組成物において、(i)脂環式構造含有重合体及び(ii)層状結晶化合物の配合割合は、(i)脂環式構造含有重合体100質量部に対して、(ii)層状結晶化合物が好ましくは1〜100質量部、より好ましくは1〜50質量部、さらに好ましくは5〜20質量部とすることができる。前記配合割合にすることにより、耐熱性や、機械強度に優れる成型体を得ることができる。また、本発明の樹脂組成物は、後述するとおり、5000ppm以下の濃度において、製造工程において加えられる有機化合物を含有することができる。
【0058】
また、本発明の樹脂組成物は、(ii)層状結晶化合物の分散剤をさらに含むことができる。当該分散剤としては、脂肪酸、界面活性剤、及びカップリング剤が挙げられる。脂肪酸の例としては、ステアリン酸などの炭素数4〜30の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸などの炭素数4〜30の不飽和脂肪酸が挙げられる。界面活性剤の例としては、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤;N−ラウリルエタノールアミン、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル、ソルビタンステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステル等のノニオン界面活性剤;アルキルアミノカルボン酸、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル、イミダゾリンスルホン酸などの両性界面活性剤;フッ素系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;(メタ)アクリル酸系界面活性剤;などが挙げられる。カップリング剤の例としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシラン系カップリング剤;トリイソステアロイルイソプロピルチタネート、ジ(ジオクチルホスフェート)ジイソプロピルチタネート等のチタネート系カップリング剤;モノイソプロポキシアルミニウムモノメタクリレートモノオレイルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート等のアルミナート系カップリング剤;が挙げられる。中でも、炭素数6以上のアルキル基を有するものが好ましい。当該分散剤の配合割合は、層状結晶化合物100質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは5〜50重量部、特に好ましくは5〜20質量部である。
【0059】
本発明の樹脂組成物には、さらに所望により、フェノール系やリン系などの老化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリルニトリル系紫外線吸収剤などを用いることができる。各種添加剤の量は、通常10〜10,000ppm、好ましくは100〜5,000ppmである。また、本発明の樹脂組成物を溶液流延法で成形する場合には、表面粗さを小さくするため、レベリング剤の添加も好ましい。レベリング剤は、例えば、フッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤など塗料用レベリング剤を用いることができ、それらの中でも溶媒との相溶性の良いものが好ましく、添加量は、通常5〜10,000ppm、好ましくは10〜5,000ppmである。
【0060】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、(i)極性基を有する繰り返し単位を30mol%以上含む脂環式構造含有重合体、(ii)アスペクト比が30以上の層状結晶化合物、及び(iii)沸点が50〜200℃の有機化合物を含む混合物を、混練装置を用いて混練する工程を含む方法により製造することができる。以下、この方法を「本発明の製造方法」という。
【0061】
前記(iii)有機化合物は、(i)脂環式構造含有重合体及び(ii)層状結晶化合物を得るのに用いられた有機化剤の極性部に対して不活性で、かつ常温において液体であり、かつ沸点が50〜200℃であれば良く、特に限定されるものではない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状又は環状の脂肪族炭化水素系、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン系、エチルアセテート、プロピオラクトン等のエステル系、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類系、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール等のアルコール系、その他ニトロベンゼン、スルホラン等を挙げることが出来る。これらは単独で用いるか又は混合物として使用できるが、中でも層状結晶化合物の分散性をさらに良くすることができる点で、芳香族炭化水素系又はエーテル系の有機化合物が好ましい。
【0062】
前記好ましい有機化合物の中でも、(ii)層状結晶化合物を膨潤させる有機化合物が特に好ましい。ここで挙げた膨潤とは、(ii)層状結晶化合物が有機溶剤を吸収して、その体積を増大させる現象を言い、膨潤度が1cc/g以上の(ii)層状結晶化合物と有機化合物の組み合わせが好ましい。膨潤度の測定法としては沈降容積法(粘土ハンドブック513頁)により測定することができる。また、(ii)層状結晶化合物と有機化合物の膨潤性が非常に良好な場合には有機化合物中で層状結晶化合物が無限膨潤してしまい、沈降せず測定不能になる。しかしながら、該状態は非常に良く膨潤する最も好ましい組み合わせとなる。
【0063】
混練装置としては特に制限がなく、例えばスクリュー押出機、バンバリーミキサー、ミキシングロールなどを用いて行うことができるが、操作の簡便さのためスクリュー押出機が好ましく、2軸混練押出機が特に好ましい。二軸混練押出機を用いる場合は、押出機のバレル中で溶液を加熱しつつ、ベント口を減圧状態にして樹脂組成物中の有機化合物を除去することができる。混練温度やベント口の圧力は、用いる有機化合物の沸点に応じて適宜調整することができる。より具体的には、混練温度は、150〜300℃、好ましくは200〜270℃の範囲とすることができる。また、ベント口の圧力は、1〜700Torr、好ましくは5〜200Torrの範囲とすることができる。
【0064】
本発明の製造方法においては、前記混練は、混練装置の比エネルギーが0.1〜0.4kW・hr/kg、好ましくは0.15〜0.35kW・hr/kgとなる条件下で行う。混練装置の比エネルギーとは、樹脂を溶融混練する際に、単位質量当り(1kg)の樹脂に混練設備から混練の効果の為に与えられるエネルギーをいい、数値が大きい場合が練りの効果が高い事になる。例えば、押出機の場合、1kgの樹脂を押し出すのに必要なスクリュー駆動用モーターの消費電力で近似的に表わされる。
【0065】
例えば、バンバリーミキサー等のロール式混練機の場合は、樹脂1kg処理するのに必要なロールの駆動用モーターの消費電力で近似的に表わされる。具体的には、押出機のモーターに電流計、電圧計等を取り付け、これからモーターの電力消費量を得、これにモーターの力率(通常0.85程度)を掛け、1kgの樹脂に加えられる混練力(W・hr/kg)を得る。
【0066】
本発明の製造方法では、前記混練を、混練後の組成物中に残留する(iii)有機化合物の含有量が5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下にまで除去することが好ましい。残留する有機化合物含有量が多すぎると、成形体にシルバーストリークやボイド、及び発泡などの成形不良や着色が生じるため好ましくない。前記有機化合物の含有量は、混練後の組成物を溶剤に分散し、これをガスクロマトグラフィーを用いて内部標準法に供することにより求めることができる。
【0067】
本発明の製造方法において、成分(i)〜(iii)を含む混合物を混練装置を用いて混練する具体的手順としては、例えば、下記の2種の手順が挙げられる:
【0068】
(手順1)(1-A)(i)脂環式構造含有重合体と(ii)層状結晶化合物と(iii)有機化合物とを混合し混合物(1a)を得る工程;及び(1-B)前記混合物(1a)を混練装置で混練する工程、を含む手順
(手順2)(2-A)予め(iii)有機化合物と(ii)層状結晶化合物とを混合し混合物(2a)を得る工程;及び(2-B)前記混合物(2a)と(i)脂環式構造含有重合体とを混合し混練装置で混練する工程、を含む手順
【0069】
上記手順1の工程(1-A)の混合物(1a)において、各成分の配合割合は、(i)脂環式構造含有重合体100質量部に対して、好ましくは(ii)層状結晶化合物1〜100質量部及び(iii)有機化合物1〜200質量部、より好ましくは、(ii)層状結晶化合物1〜50質量部及び(iii)有機化合物1〜150質量部、さらに好ましくは、(ii)層状結晶化合物5〜20質量部及び(iii)有機化合物5〜100質量部とすることができる。また混合物(1a)は、必要に応じて、上に述べた分散剤、老化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、レべリング剤等の各種添加剤を含むことができる。前記工程(1-A)における各成分の混合方法は、撹拌槽を用いて各成分を混合する方法:ブレンダーを用いて各成分を混合する方法:ヘンシェルミキサー等の高速ミキサーを用いて各成分を混合する方法:などが挙げられる。その際、超音波を加えたり、溶剤の沸点以下の温度に加温したりしてもよい。
【0070】
工程(1-B)における混練は、上に述べた通りの混練方法で行うことができる。これにより、(iii)有機化合物を除去しながらの混練が達成できる。
【0071】
上記手順2の工程(2-A)の混合物(2a)において、各成分の配合割合は、(ii)層状結晶化合物100質量部に対して、好ましくは(iii)有機化合物10〜1000質量部、より好ましくは20〜700質量部、さらに好ましくは、有機化合物50〜500質量部とすることができる。また、混合物(2a)は、必要に応じて、上に述べた分散剤、老化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、レべリング剤等の各種添加剤を含むことができる。特に、(ii)層状結晶化合物の分散のために、この時点で分散剤を添加することが好ましい。工程(2-A)における各成分の混合は、前記工程(1-A)と同様の方法で行うことができる。このように、予め(iii)有機化合物と(ii)層状結晶化合物とを混合することにより、層状結晶化合物を膨潤させてから、次の工程に供することができる。
【0072】
工程(2-B)における混練は、フィーダーを用いて、混合物(2a)と(i)脂環式構造含有重合体とを所望の配合比になるように混練装置内に導入し、上に述べた通りの混練方法で行うことができる。これにより、(iii)有機化合物を除去しながらの混練が達成できる。上記各種添加剤は、必要に応じて、この混練の時点においても添加することができる。
【0073】
本発明の成型体は、本発明の樹脂組成物を成型してなる。具体的には例えば、前記本発明の製造方法によりペレット等の形で得られた樹脂組成物を、加熱溶融成型法、溶液流延法等の成型法により板状、フィルム状等の成型体とすることができる。前記加熱溶融成型法としてはより具体的には押出成型法、プレス成型法、インフレーション成型法、射出成型法、ブロー成型法等が挙げられる。また、当該板状、フィルム状等の成型体をさらに延伸処理し、延伸フィルムとすることもできる。
【0074】
本発明の樹脂組成物及び成型体の用途は、特に限定されないが、液晶表示装置等の光学表示装置における、基板、偏光板、保護フィルム、光学補償フィルム、及びその他の光学異方性材料等の光学材料として用いることができる他、耐熱性等の熱特性及び透明性等の特性を利用できる各種の機械部品、包装材料や電子部品材料等の材料に有利に用いることができる。
【実施例】
【0075】
本発明を、実施例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。
【0076】
(製造例1)有機化処理サポナイトの調製
層状構造を有する結晶化合物であるサポナイト(長径平均値:0.05μm、アスペクト比:50)100部を60℃の蒸留水1000部に均一に分散させ、サポナイト分散液を得た。次いで、前記サポナイト分散液を攪拌しながら、ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド20部を蒸留水300部に溶解させた溶液をゆっくり添加し、60℃で3時間攪拌を続けた後、ろ過により固形物を取り出した。
【0077】
得られた固形物を60℃の蒸留水500部に加えて再分散させた後、再度ろ過により固形物を取り出した。再分散及びろ過の操作を3回繰り返した後、凍結乾燥法により水分を除去して、層状結晶化合物である有機化処理サポナイトを得た。この層状結晶化合物のアスペクト比は50であった。
【0078】
(実施例1)
製造例1で得た有機化処理サポナイト10部、トルエン50部からなる混合物をミキサーで攪拌し有機化処理サポナイトを膨潤させた後、脂環式構造含有重合体(ベース樹脂)であるARTON FX4726(ジェイエスアール製、ガラス転移温度:125℃、熱変形温度:129℃、極性基を有する繰り返し単位含有割合:100mol%)90部を加え、ミキサーで攪拌した。その後、ニーディング部より下流に設置したベント口で減圧(ベント口圧力 10Torr)しながら二軸混練押出機(東芝機械社製TEM-35、スクリュー径Dは37mm、スクリュー有効長さLとスクリュー径Dとの比L/D=45)にて、混練温度250℃、比エネルギー0.310kW・h/kgの条件で溶融混練してストランド状に押し出し、ストランドカッターで切断することにより脂環式構造含有重合体組成物(以下、組成物1という。)のペレットを得た。得られた組成物1中の残留トルエン量をガスクロマトグラフィーを用いて内部標準法(溶剤はテトラヒドロフラン、内部標準液はキシレンを用いた。)により測定したところ、300ppmであった。その後、得られたペレットを220℃で熱プレスすることにより、1mm厚の、組成物1の成型体を作製した。得られた成型体のヘイズをヘイズメータ(NDH2000、日本電色工業製)を用いて測定したところ5.7%であり、良好な光学特性を示すことが確認された。また、得られた組成物1のガラス転移温度、熱変形温度を測定したところガラス転移温度は167℃、また熱変形温度は173℃であり、ガラス転移温度、熱変形温度共にベース樹脂よりも向上していることが確認された。
【0079】
次いで、組成物1のペレットを空気を流通させた熱風乾燥機を用いて70℃で2時間乾燥して水分を除去した後、65mmΦのスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式フィルム溶融押出成形機を使用し、溶融樹脂温度250℃、Tダイの幅300mmの成形条件で、厚さ100μmのフィルムを押出成型し、組成物1のフィルムを得た。このフィルムを160℃、延伸倍率1.3倍で1軸延伸処理(1軸延伸機 型式:UTM−10TPL、東洋ボールドウィン製)して、延伸フィルムを得た。この延伸フィルムを140℃に調温したオーブンで30分放置後、フィルムの外観を目視により観察したところ、この組成物1の延伸フィルムは全く変化が見られなかった。
【0080】
(実施例2)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1−ヘキセン0.82部、ジブチルエーテル0.15部及びトリイソブチルアルミニウム0.30部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−ドデカ−3−エン(以下「ETCD」と略記する)100部と、六塩化タングステン0.7wt%トルエン溶液40部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06部及びイソプロピルアルコール0.52部を加えて重合触媒を不活性化し、重合反応を停止させることにより開環重合体を含有する反応溶液を得た。さらに得られた開環重合体を含有する反応溶液100部に対して、シクロヘキサン270部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル−アルミナ触媒(日揮化学社製)5部を加え、水素により5MPaに加圧した後、攪拌しながら温度200℃まで加温し、4時間反応させることにより、ETCD開環共重合体水素化物を20%含有する反応溶液を得た。ろ過により水素化触媒を除去した後、円筒型濃縮乾燥機(日立製作所製)を用いて温度270℃、圧力1kPa以下で、溶媒であるシクロヘキサン、及び他の揮発成分を除去しつつ水素化物を溶融状態で押出機からストランド状に押出し、冷却後ペレット化してETCD開環共重合体水素化物ペレットを回収した。得られたETCD開環共重合体水素化物の質量平均分子量は40,000、水素化率は99.9%であった。
【0081】
次いで、先に得たETCD開環重合体水素化物100部に対して、無水マレイン酸30部、ジクミルパーオキシド5部及びtert−ブチルベンゼン250部を混合し、オートクレーブ中にて135℃、6時間反応を行った後、多量のアセトン中に加えることにより樹脂を析出させ、ろ過することにより樹脂を回収した。回収した樹脂を100℃、1Torr以下で48時間乾燥させ、無水マレイン酸変性脂環式構造含有重合体(以下、重合体2という。)121部をベース樹脂として得た。得られた重合体2の質量平均分子量は65,000、ガラス転移温度は134℃、熱変形温度は143℃であり、無水マレイン酸変性量を1H−NMRで測定したところ34mol%(これは極性基を有する繰り返し単位の割合に該当する)であった。
【0082】
製造例1で得た有機化処理サポナイト10部、ステアリン酸1部、トルエン50部からなる混合物をミキサーで攪拌し有機化処理サポナイトを膨潤させた後、重合体2 90部を加え、ミキサーで攪拌した。その後、ニーディング部より下流に設置したベント口で減圧(ベント口圧力 10Torr)しながら二軸混練押出機(東芝機械社製TEM-35、スクリュー径Dは37mm、スクリュー有効長さLとスクリュー径Dとの比L/D=45)にて、混練温度250℃、比エネルギー0.260kW・h/kgの条件で溶融混練してストランド状に押し出し、ストランドカッターで切断することにより脂環式構造含有重合体組成物(以下、組成物2という。)のペレットを得た。得られた組成物2中の残留トルエン量をガスクロマトグラフィーを用いて内部標準法(溶剤はテトラヒドロフラン、内部標準液はキシレン)にて測定したところ、450ppmであった。その後、得られたペレットを220℃で熱プレスすることにより、1mm厚の、組成物2の成型体を作製した。得られた成型体のヘイズをヘイズメータ(NDH2000、日本電色工業製)を用いて測定したところ4.6%であり、良好な光学特性を示すことが確認された。また、得られた組成物2のガラス転移温度、熱変形温度を測定したところガラス転移温度は149℃、また熱変形温度は153℃であり、ガラス転移温度、熱変形温度共にベース樹脂よりも向上していることが確認された。
【0083】
次いで、得られた組成物2のペレットを、実施例1と同様にして、厚さ100μmのフィルムを押出成型して得、次いでこのフィルムを延伸温度150℃の条件下、延伸倍率1.3倍で1軸延伸処理することにより、組成物2の延伸フィルムを作製し、140℃に調温したオーブンで30分放置した。その後、フィルムの外観を目視により観察したところ、組成物2の延伸フィルムは全く変化が見られなかった。
【0084】
(比較例1)
実施例2で得たETCD開環重合体水素化物100部に対して、無水マレイン酸10部、ジクミルパーオキシ3及びtert−ブチルベンゼン250部を混合し、オートクレーブ中にて135℃、6時間反応を行った後、多量のアセトン中に加えることにより樹脂を析出させ、ろ過することにより樹脂を回収した。回収した樹脂を100℃、1Torr以下で48時間乾燥させ、無水マレイン酸変性脂環式構造含有重合体(以下重合体3という。)103部を得た。得られた重合体3の質量平均分子量は55,000、ガラス転移温度は135℃、熱変形温度は145℃であり、無水マレイン酸変性量を1H−NMRで測定したところ8mol%(これは極性基を有する繰り返し単位の割合に該当する)であった。
【0085】
次いで、得られた重合体3から実施例2と同様の手法により層状結晶化合物との組成物(以下、組成物3という)のペレットを得た。得られた組成物3中の残留トルエン量をガスクロマトグラフィーを用いて内部標準法(内部標準液はキシレン)により測定したところ、280ppmであった。その後、得られたペレットを220℃で熱プレスすることにより、1mm厚の、組成物3の成型体を作製した。得られた成型体のヘイズをヘイズメータ(NDH2000、日本電色工業社製)を用いて測定したところ、4.9%であり、良好な光学特性を示すことが確認された。また、得られた組成物3のガラス転移温度、熱変形温度を測定したところガラス転移温度は132℃、また熱変形温度は150℃であり、ガラス転移温度はベース樹脂よりも3℃低下していることが確認された。
【0086】
次いで、得られたペレットを、実施例1と同様にして、厚さ100μmのフィルムを押出成型して得、次いでこのフィルムを延伸温度150℃の条件下、延伸倍率1.3倍で1軸延伸処理することにより組成物3の延伸フィルムを作製し、これを140℃に調温したオーブンで30分放置した。その後、フィルムの外観を目視により観察したところ、比較例の組成物3の延伸フィルムはフィルム全面に渡って波状のシワが観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)極性基を有する繰り返し単位を30mol%以上含有する脂環式構造含有重合体、及び(ii)アスペクト比が30以上の層状結晶化合物を含む樹脂組成物であって、下記式(I)の条件を満たすことを特徴とする樹脂組成物:
TgT−TgA≧10 (I)
(但し、TgTは前記樹脂組成物のガラス転移温度(℃)を表し、TgAは(i)脂環式構造含有重合体のガラス転移温度(℃)を表す)。
【請求項2】
1mm厚の成型体とした際のヘイズが10%以下であることを特徴とする、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(ii)層状結晶化合物が、分散剤で処理されてから(i)脂環式構造含有重合体と配合されてなることを特徴とする、請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物の製造方法であって、(i)極性基を有する繰り返し単位を30mol%以上含む脂環式構造含有重合体、(ii)アスペクト比が30以上の層状結晶化合物、及び(iii)沸点が50℃〜200℃の有機化合物を含む混合物を、混練装置を用いて混練する工程を含み、前記混練装置の比エネルギーが0.1〜0.4kW・hr/kgとなる条件下で、混練後の組成物中の前記(iii)有機化合物の残存量が5000ppm以下になるまで混練することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物を成型してなる成型体。

【公開番号】特開2006−137803(P2006−137803A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326613(P2004−326613)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】