説明

樹脂組成物、シート成形物および太陽電池封止材

【課題】エチレン系樹脂組成物を含む太陽電池封止材において、架橋処理をせずとも、柔軟性(段差の埋め込み性)と耐熱性に優れ、且つ接着性、電気絶縁性、透湿性、成形性、プロセスハンドリング性に優れた安価な太陽電池封止材を提供すること。
【解決手段】特定要件を満たすエチレン系重合体、またはそのエチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物である成分(A)と、酢酸ビニル含有量が10〜47質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体、またはそのエチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物である成分(B)とを含む樹脂組成物を提供する。成分(A)および成分(B)のいずれか一方または両方は、エチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物である。成分(A)と成分(B)の合計に対する成分(B)の含有率は5〜50質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物に関し、さらにそれを含むシート成形物および太陽電池封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題、エネルギー問題等が深刻さを増すなか、クリーンでかつ枯渇のおそれがないエネルギー源として、太陽光エネルギーが注目されており、当該エネルギーを利用した太陽電池による発電が今後の新しい電気の供給方法として注目されている。
【0003】
太陽電池を、建物の屋根部分などの屋外で使用する場合、一般的に太陽電池モジュールの形態で使用する。太陽電池モジュールは耐候性を有し、屋外での使用にも適する。前記太陽電池モジュールは、結晶型太陽電池モジュールと薄膜型太陽電池モジュールの大きく2つに分けられる。
【0004】
結晶型太陽電池モジュールは、多結晶シリコンや単結晶シリコン等により形成された結晶型太陽電池セルを含む。結晶型太陽電池モジュールは、太陽電池モジュール用保護シート(表面保護部材)/太陽電池用封止シート/結晶型太陽電池セル/太陽電池用封止シート/太陽電池モジュール用保護シート(裏面保護部材)の順に積層した積層体を、真空吸引して加熱圧着ラミネートすることにより製造されうる。
【0005】
薄膜型太陽電池モジュールは、ガラス等の基板上に、アモルファスシリコンや化合物半導体などの数μmの薄膜を成膜した薄膜型太陽電池セルを含む。薄膜型太陽電池モジュールは、薄膜型太陽電池セル/太陽電池用封止シート/太陽電池モジュール用保護シート(裏面保護部材)の順に積層した積層体を、真空吸引して加熱圧着ラミネートすることにより製造されうる。
【0006】
従来、太陽電池用封止剤を構成する材料(太陽電池封止材)は、その透明性、柔軟性等が要求される観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が広く用いられていた(例えば、特許文献1参照)。エチレン−酢酸ビニル共重合体を太陽電池封止材として使用する場合、十分な耐熱性を付与するために架橋処理を行うのが一般的である。しかしながら、架橋処理には0.2〜2時間程度の比較的長時間を要するため、太陽電池モジュールの生産速度、生産効率を低下させる原因となっていた。
【0007】
近年、太陽電池モジュールはコストダウンがより強く望まれており、プロセスの簡略化、部品点数の低減といった検討が行われている。モジュールの縁を金属(アルミ)フレームで固定するのが一般的であるが、金属フレームのコストは各部品の中でも高い比重を占めている。そこで、裏側保護部材としてガラスを用い、フレームを有さない、所謂、合わせガラスタイプのモジュールが広く用いられつつある。特に、薄膜太陽電池モジュールでその傾向が顕著である。
【0008】
合わせガラスタイプの薄膜型太陽電池モジュールの太陽電池封止材として、EVAの他にポリビニルブチラール(PVB)も広く使われているが、PVBのプロセスハンドリング性はタックにより非常に悪く、また材料コストが高価であるため代替材料が望まれていた。
【0009】
EVAやPVBの代替として、ハンドリング性に優れ、且つ架橋工程を必要としない安価な封止材として、熱可塑性のポリオレフィン(ポリエチレン)系の封止材が数多く提案されている。(特許文献2〜4を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−283696号公報
【特許文献2】特開2005−019975号公報
【特許文献3】特開2007−150069号公報
【特許文献4】特開2002−235048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の通り、特許文献2〜4には、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む主成分として含む太陽電池封止材が提案されているものの、太陽電池封止材としての好ましい特性(耐熱性、柔軟性、耐プロセス安定性等)を得るためのエチレン・α−オレフィン共重合体の物性についての具体的な指針を全く開示していない。
【0012】
特許文献3にも、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを含む太陽電池封止材が提案されているものの、太陽電池封止材としての好ましい特性を得るためのポリエチレンの物性について、密度以外には何らの具体的な指針も開示していない。また、特許文献3の太陽電池封止材は、耐熱性や耐湿性などが低くなるおそれがあった。
【0013】
合わせガラスタイプのモジュールの場合、取り出し電極の配線材厚みによる段差部分において、段差を埋め込む(封止材を充填する)と、ガラスがその形状に追従し、少なからず変形する。その変形したガラスは元の(平坦な)形状に戻ろうとする力が働き、残留応力が発生する。この残留応力は、封止材およびその接着界面に強くかかるため、ラミネート時もしくはラミネート後に、その残留応力に耐え切れない領域において剥離が発生する可能性があった。
【0014】
従って、封止材には、十分な接着力に加えて、柔軟性(ゴム弾性)が必要とされる。
しかし、一般に、柔軟性上げると、融点(軟化点)が下がるため、熱可塑材料では柔軟性と耐熱性を両立することは困難であった。
【0015】
熱可塑性のポリオレフィン(ポリエチレン)系の封止材に関して、耐久性や接着力に着目した検討は行われているものの、上記のような埋め込み性(柔軟性)と耐熱性を両立させるための検討は十分に行われていなかった。特許文献4においても、80℃における剪断弾性率を規定しているが、接着性と耐熱性に着目したもので、埋め込み性について記述されていなかった。
【0016】
本発明の目的は、上述の背景に鑑み、エチレン系樹脂組成物を含む太陽電池封止材において、架橋処理をせずとも、柔軟性(段差の埋め込み性)と耐熱性に優れ、且つ接着性、電気絶縁性、透湿性、成形性、プロセスハンドリング性に優れた安価な太陽電池封止材を提供することである。さらに、本発明の目的は、それを含む太陽電池モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、エチレン系共重合体とエチレン−酢酸ビニル共重合体を含む樹脂組成物であって、そのいずれか一方または両方がエチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性された変性物である樹脂組成物により、上記課題が解決されうることを見出して本発明に到達した。すなわち、本発明は以下に関する。
【0018】
[1] 以下の要件a)〜d)のいずれをも満たすエチレン系重合体、またはそのエチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物である成分(A)と、
酢酸ビニル含有量が10〜47質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体、またはそのエチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物である成分(B)と、を含む樹脂組成物であって、
前記成分(A)および前記成分(B)のいずれか一方または両方は、前記エチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物であり、かつ
前記成分(A)と前記成分(B)の合計に対する前記成分(B)の含有率は5〜50質量%である樹脂組成物。
a)密度が900〜940kg/m
b)DSCに基づく融解ピーク温度が90〜125℃
c)JIS K−6721に準拠して190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレ−ト(MFR2)が0.1〜100g/10分
d)Mw/Mnが1.2〜3.5
【0019】
[2]前記エチレン系重合体は、以下の要件e)を満たす、[1]に記載の樹脂組成物。
e)金属残渣量が0.1〜50質量ppm
[3]前記エチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性量は、前記成分(A)と前記成分(B)との合計100質量部に対して0.1〜5質量部である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
【0020】
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物からなるシート成形物。
[5]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物からなる太陽電池封止材。
【0021】
[6]以下の要件a)〜d)のいずれをも満たすエチレン系重合体と、酢酸ビニル含有量が10〜47質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、エチレン性不飽和シラン化合物(C)と、有機化酸化物とを含む混合物を用意する工程と、前記混合物を溶融押出成形することでシート成形物を得る工程とを含み、
前記溶融押出成形において、前記エチレン系重合体および/もしくは前記エチレン−酢酸ビニル共重合体を、前記エチレン性不飽和シラン化合物(C)でグラフト変性する、シート成形物の製造方法。
a)密度が900〜940kg/m
b)DSCに基づく融解ピーク温度が90〜125℃
c)JIS K−6721に準拠して190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレ−ト(MFR2)が0.1〜100g/10分
d)Mw/Mnが1.2〜3.5
[7]エチレン性不飽和シラン化合物(C)と有機過酸化物とを含む混合液を含浸された、酢酸ビニル含有量が10〜47質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、以下の要件a)〜d)のいずれをも満たすエチレン系重合体との混合物を、溶融押出成形することでシート成形物を得る工程を含み、
前記溶融押出成形において、前記エチレン系重合体および/もしくは前記エチレン−酢酸ビニル共重合体を、前記エチレン性不飽和シラン化合物(C)でグラフト変性する、シート成形物の製造方法。
a)密度が900〜940kg/m
b)DSCに基づく融解ピーク温度が90〜125℃
c)JIS K−6721に準拠して190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレ−ト(MFR2)が0.1〜100g/10分
d)Mw/Mnが1.2〜3.5
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、架橋処理を必要とせず、柔軟性(段差の埋め込み性)と耐熱性に優れ、且つ接着性、電気絶縁性、透湿性、成形性、プロセスハンドリング性に優れた安価な太陽電池封止材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の樹脂組成物は、成分(A)と成分(B)とを含む。成分(A)は、以下の要件a)〜d)のいずれをも満たすエチレン系重合体、またはそのエチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物である。一方、成分(B)は、酢酸ビニル含有量が10〜47質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体、またはそのエチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物である。ただし、成分(A)と成分(B)とのいずれか一方または両方は、エチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物である。
【0024】
成分(A)について
成分(A)は、要件a)〜d)のいずれをも満たすエチレン系重合体(以下において「エチレン系重合体(A')」ともいう)であるか、またはそれをエチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性した変性物である。エチレン系重合体(A')は、a)〜d)の要件を満たし、かつ、エチレンから導かれる構成単位を有するものであればよく、それ以外に特に制限はない。
【0025】
エチレン系重合体(A')は、例えば、エチレン単独重合体、または、エチレンと炭素原子数が3〜20のα-オレフィンの少なくとも1種との共重合体を挙げることができる。ここで、炭素原子数が3〜20のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられるが、炭素原子数が4〜10のα-オレフィンが好ましい。
【0026】
さらに、エチレンと環状オレフィンとの共重合体も挙げることができる。ここで、環状オレフィンとしては、ノルボルネン誘導体、トリシクロ-3-デセン誘導体、トリシクロ-3-ウンデセン誘導体、テトラシクロ-3-ドデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ-3-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ-3-ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ-4-ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ-5-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-4-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-5-ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ-5-ドコセン誘導体、ノナシクロ-5-ペンタコセン誘導体、ノナシクロ-6-ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3〜20のシクロアルキレン誘導体などが挙げられる。
【0027】
この中では、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン誘導体およびヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン誘導体が好ましく、特にテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンが好ましい。
【0028】
これらのα-オレフィンおよび環状オレフィンは、1種単独で用いても良く、α-オレフィンと環状オレフィンの2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのα-オレフィンおよび環状オレフィンは、エチレンとランダム共重合体を形成してもよく、ブロック共重合体を形成してもよい。
【0029】
前述の通り、エチレン系重合体(A')は、以下の要件a)〜d)を満たす。
a)密度:エチレン系重合体(A')の密度は900〜940kg/mであり、好ましくは905〜935kg/mであり、より好ましくは905〜930kg/mであり、さらに好ましくは900〜925kg/mであり、よりさらに好ましくは905〜925kg/mであり、905〜923kg/mであってもよい。
【0030】
エチレン系重合体(A')の密度が900kg/m未満であると、樹脂組成物の耐熱性が低下し、太陽電池封止材としての性能が十分でなくなることがある。例えば、太陽電池モジュールを傾けた状態で発電した場合に、太陽電池封止材の耐熱性が低いと、太陽電池封止材が軟化することで、太陽電池のガラス基板や電極が徐々にずれていき、ガラス基板が滑り落ちてしまう恐れがある。
【0031】
また、エチレン系重合体(A')の密度が900kg/m未満であると、本発明の樹脂組成物をシートとしたときに、ブロッキングが生じてシート巻き取り体からのシートの巻き出しがしにくくなったり、シート成形時にチルロールおよびエンボスロールへのベタツキが発生し、シートの厚み制御やシート成形が困難になったりする傾向にある。
【0032】
一方、エチレン系重合体(A')の密度が940kg/m超過であると、樹脂組成物の柔軟性が低下する。そのため、本発明の樹脂組成物からなる封止シートで、太陽電池モジュールをラミネートにより封止しようとするときに、シリコン結晶セルの割れや電極(例えば銀からなる表面電極)の剥離が生じる。
【0033】
また、エチレン系重合体(A')の密度が940kg/m超過であると、樹脂組成物が溶融しにくくなる。そのため、本発明の樹脂組成物からなる封止シートをラミネートしようとするときに、一般的なラミネーター温度150℃よりもラミネート温度を高くする必要が生じたり、一般的なラミネーター温度150℃での第1段階の真空・余熱時間を長時間にわたって行う必要が生じたりする。
【0034】
エチレン系重合体(A')の密度は、エチレン系重合体(A')のα-オレフィン等のコモノマー含量に依存する。すなわち、エチレン系重合体(A')におけるコモノマー含量が少ないほど密度は高く、コモノマー含量が多いほど密度は低くなる。このため、コモノマー/エチレンの組成比を調整することで、エチレン系重合体(A')の密度を調整することができる。
【0035】
また、エチレン系重合体(A')中のコモノマー含量は、重合系内におけるコモノマーとエチレンとの組成比(コモノマー/エチレン)により決定されることが知られている(例えばWalter Kaminsky, Makromol.Chem. 193, p.606(1992)を参照)。
【0036】
エチレン系重合体(A')の密度は、密度勾配管法により測定することができる。
【0037】
b)融解ピーク温度:エチレン系重合体(A')のDSCに基づく融解ピーク温度は90〜125℃であり、好ましくは90〜120℃であり、さらに好ましくは90〜115℃である。
【0038】
エチレン系重合体(A')の融解ピーク温度が90℃未満であると、樹脂組成物の耐熱性が低下し、太陽電池封止封止材としての性能が十分でなくなることがある。太陽電池封止材の耐熱性が十分でないと、前述したように、太陽電池のガラス基板や電極が徐々にずれていき、ガラス基板が滑り落ちてしまう恐れがある。また、エチレン系重合体(A')の融解ピーク温度が90℃未満であると、前述したように、本発明の樹脂組成物をシートとしたときにブロッキングが生じたり、シート成形時にシートの厚み制御やシート成形が困難になったりする傾向にある。
【0039】
エチレン系重合体(A')の融解ピーク温度が125℃超過であると、樹脂組成物の柔軟性が低下する。太陽電池封止材の柔軟性が十分でないと、前述したように、シリコン結晶セルの割れや電極(例えば銀からなる表面電極)の剥離が生じる。また、エチレン系重合体(A')の融解ピーク温度が125℃超過であると、樹脂組成物が溶融しにくくなる。そのため、前述したように、ラミネート温度を高くする必要が生じたり、第1段階の真空・余熱時間を長時間掛けて行う必要が生じたりする。
【0040】
エチレン系重合体(A')の融解ピーク温度も、密度と同様に、エチレン系重合体(A')のα-オレフィン等のコモノマー含量に依存する。すなわち、エチレン系重合体(A')におけるコモノマー含量が少ないほど融解ピークは高く、コモノマー含量が多いほど融解ピークは低くなる。このため、コモノマー/エチレンの組成比を調整することで、エチレン系重合体(A')の融解ピークを調整することができる。
【0041】
エチレン系重合体(A')の融解ピーク温度はDSCにより測定され、具体的に以下の条件で測定できる。すなわち、1)エチレン系重合体(A')の試料を5mg程度専用アルミパンに詰めたものを準備し、2)これをパーキンエルマー社製DSC7にセットして、0℃から200℃までを320℃/minで昇温し;200℃で5分間保持した後;200℃から0℃までを10℃/minで降温し;0℃でさらに5分間保持した後、10℃/minで昇温する。3)得られた吸熱曲線から、溶融ピークのピーク頂点を融解ピーク温度として求める。
【0042】
c)メルトフローレートMFR:エチレン系重合体(A')のJIS K−6721に準拠して、190℃,2.16kg荷重にて測定したメルトフローレ−ト(MFR2)は、0.1〜100g/10分であり、好ましくは0.5〜50g/10分であり、さらに好ましくは0.5〜20g/10分である。
【0043】
エチレン系重合体(A')のMFR2が0.1g/10分未満であると、樹脂組成物の流動性が低下し、シート押出成形時の生産性が低下する。エチレン系重合体(A')のMFR2が100g/10分超過であると、逆に流動性が高すぎるため、シート成形が困難である。また、シートの引張強度等の機械物性が低下する。
【0044】
エチレン系重合体(A')のメルトフローレート(MFR2)は、JIS K−6721に準拠して190℃、2.16kg荷重にて測定できる。
【0045】
d)分子量分布Mw/Mn:エチレン系重合体(A')のゲル浸透クロマトグラフ(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.2〜3.5であり、好ましくは1.2〜3.2であり、さらに好ましくは1.2〜2.8である。
【0046】
Mw/Mnが1.2未満のエチレン系重合体は、通常、リビング重合法で製造されなければならない。リビング重合法では、ポリマー単位重量当りの触媒量が増大するため、ポリマーの製造コストが高くなり、工業的に不利である。一方、エチレン系重合体のMw/Mnが3.5超過であると、得られるエチレン系樹脂組成物の衝撃強度が低下する。また、シートにベタツキが発生し、シートがブロッキングしてシートの巻き取り体からシートを巻き出しにくくなる。
【0047】
エチレン系重合体(A')の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、一般に組成分布の影響を受ける。例えば、エチレン系重合体(A')をバッチ式スラリー重合により製造する場合、コモノマーの転化率を低く保つとMw/Mnは小さくなり、コモノマーの転化率を高くするとMw/Mnは大きくなる傾向にある。コモノマーの転化率とは、コモノマーの仕込み量に対する、重合反応したコモノマーの量の割合である。また、重合時間を短くすることで、コモノマーの転化率は低くなり、重合触媒の活性種の変質も抑制できる。このため、組成分布も狭くなり、Mw/Mnは小さくなる傾向にある。一方で、重合時間を長くすることで、コモノマー転化率は高くなり、重合触媒の変質も発生する。このため、組成分布が広がり、Mw/Mnは大きくなる傾向にある。
【0048】
さらに、連続の気相重合または溶液重合では、平均滞留時間を短くすることで、重合触媒の変質を抑制し、組成分布も狭くなるため、Mw/Mnは小さくなる傾向にある。一方で、平均滞留時間を長くすることで、重合触媒の活性種の変質が発生し、組成分布が広くなるため、Mw/Mnは大きくなる傾向にある。
【0049】
エチレン系重合体(A')の分子量分布(Mw/Mn)は、Waters社製ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC−2000型を用いて測定できる。
【0050】
エチレン系重合体(A')は、さらに以下の要件e)を満たしていてもよい。
e)金属残渣量:エチレン系重合体(A')に含まれる金属残渣の量は、0.1〜50質量ppmであり、好ましくは0.1〜45質量ppmであり、さらに好ましくは0.1〜40質量ppmであり、特に好ましくは5〜40質量ppmである。エチレン系重合体(A')の金属残渣は、たとえば、その製造における重合触媒の活性種に由来しており、例えば、メタロセン化合物の遷移金属に由来しているが、特に限定されない。
【0051】
エチレン系重合体(A')の金属残渣の量を0.1質量ppm未満とするには、エチレン系重合体からの重合触媒の脱灰操作が必須となる。そのため、プラント固定費、用役費等が高くなることから製造コストが高くなる傾向にある。さらに、脱灰処理を行うには、酸あるいはアルカリ、キレート剤も多量必要となることから、それらの酸あるいはアルカリ、キレート化剤がエチレン系重合体(A')中に残存する可能性が高くなる。酸あるいはアルカリ、キレート化剤が残存したエチレン系重合体を太陽電池封止材の原料として用いると、残存した酸またはアルカリ、キレート化剤が、太陽電池モジュールの電極等を腐食させる可能性がある。
【0052】
また、エチレン系重合体(A')の金属残渣の量が0.1質量ppm未満であると、長期保存安定性が低下する。これは、金属残渣が酸やアルカリなどのキャッチャーとなり得ると考えられるところ、金属残渣が少なすぎると酸やアルカリなどを失活できず、これらがガラスと太陽電池封止材との結合を切断しやすくなると推測される。
【0053】
また、エチレン系重合体(A')に、重合触媒成分として一般的なメタロセン化合物に含まれる金属(Ti、Zr、Hfなど)が少量存在すると、これらが有機過酸化物を活性化する。そのため、エチレン系重合体(A')のエチレン性不飽和シラン化合物(C)によるグラフト変性を、有機過酸化物存在下で行うことでグラフト効率が向上する。詳細は後述するが、グラフト変性は、例えば押出変性により行えばよい。
【0054】
また、上記の金属(Ti、Zr、Hfなど)は、ラミネート加工時にエチレン系樹脂組成物中に極微量残存する有機過酸化物を活性化させるため、エチレン系樹脂組成物中に残存する遊離のエチレン性不飽和シラン化合物(C)をグラフト変性でき、接着強度が向上するものと推測される。
【0055】
一方、エチレン系重合体(A')の金属残渣の量が50質量ppm超過であると、樹脂組成物の体積固有抵抗性や絶縁破壊抵抗性が不十分となる。また、金属残渣の量が50質量ppm超過であると、樹脂組成物の長期保存安定性が低下する。例えば、成分(A)を太陽電池封止材の材料とした場合に、ガラスとの密着面に経時的に金属のイオンが溶け出し、ガラスと太陽電池封止材との結合を切断すると推測される。
【0056】
エチレン系重合体(A')の金属残渣の量は、その製造に用いられる重合触媒の重合活性の高低に依存する。すなわち、重合活性が高い重合触媒を用いてエチレン系重合体(A')を製造すると、モノマーに対する触媒量を少なくできるので、金属残渣量を少なくすることができる。そのため、重合活性の高い重合触媒を用いることが金属残査を少なくする上で好適な手法の一つとなる。また、用いられる重合触媒の最適重合温度で重合反応を行ったり、重合反応圧力をできる限り高くしたり、重合触媒当たりのモノマー濃度を高くすることも、重合活性を上げて金属残渣を少なくする好適な手法の一つである。
【0057】
また、エチレン系重合体(A')を製造するための重合触媒には、メタロセン化合物とともに、有機アルミニウムオキシ化合物、メタロセン化合物と反応してイオン対を形成する化合物、および有機アルミニウム化合物などを含みうる。これらの添加量を抑制することも、金属残渣を少なくする好適な手法の一つである。
【0058】
その他、様々な手法を用いて重合活性を向上させることも金属残渣を少なくする好適な手法となり得る。
【0059】
一方、エチレン系重合体に残存する金属残渣の量を、酸およびアルカリまたはアセト酢酸メチル等のキレート化剤を用いて、脱灰処理により減少させる手法も考えられる。しかしながら、エチレン重合体中(A')に、酸およびアルカリまたはキレート化剤が残留すると、薄膜電極の腐食を促進するため、好適な手法ではない場合がある。
【0060】
エチレン系重合体(A')に含まれる金属残渣の量は、以下のようにして測定できる。1)エチレン系重合体(A')を湿式分解した後、純水にて定容し、2)ICP発光分析装置(島津製作所社製、ICPS−8100)にて、金属元素を定量し、これらのトータル量を金属残渣とする。
【0061】
エチレン系重合体(A')の製造方法
エチレン系重合体(A')は、従来公知のエチレン系重合触媒を用いることにより、エチレンを単独重合させるか、またはエチレンと炭素原子数が3〜20のα-オレフィンの少なくとも1種もしくは環状オレフィンとを共重合させることで製造されうる。
【0062】
エチレン系重合触媒の例には、チーグラ・ナッタ触媒、メタロセン触媒などが含まれる。これらのエチレン系重合触媒のうち、単位遷移金属当たりの重合活性が高いメタロセン化合物を含むメタロセン触媒が好ましい。脱灰処理を施すことなく、金属残渣が少ないエチレン系重合体(A')を得ることができるからである。
【0063】
メタロセン化合物は、例えば、特開2006−077261号公報、特開2008−231265号公報、および特開2005−314680号公報等に記載のメタロセン化合物を用いることができる。また、a)〜e)の要件を満たすエチレン系重合体(A')が得られる限り、前記特許文献に記載のメタロセン化合物とは異なるメタロセン化合物を用いてもよい。メタロセン化合物は、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0064】
エチレン系重合体(A')は、メタロセン化合物を含む重合触媒(メタロセン触媒)を用いて、エチレンなどを(共)重合させて得られる。重合触媒(メタロセン触媒)には、メタロセン化合物とともに、助触媒が含まれていてもよい。好ましい助触媒は、(II−1)有機アルミニウムオキシ化合物、(II−2)メタロセン化合物と反応してイオン対を形成する化合物、および(II−3)有機アルミニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物などである。
【0065】
助触媒である(II−1)有機アルミニウムオキシ化合物、(II−2)前記メタロセン化合物(I)と反応してイオン対を形成する化合物、および(II−3)有機アルミニウム化合物については、例えば、特開2006−077261号公報、特開2008−231265号公報、特開2005−314680号公報等に記載の各種化合物を用いることができる。ただし、上記要件a)〜要件e)を満たすエチレン系重合体が得られる限り、これらの文献に記載の化合物に限定されない。
【0066】
重合触媒の各成分は、それぞれ別個に重合雰囲気に投入してもよく、あるいは予め接触させてから重合雰囲気に投入してもよい。さらに、上記メタロセン化合物および助触媒成分は、例えば特開2005−314680号公報等に記載の微粒子状無機酸化物担体に担持させて用いてもよい。
【0067】
エチレン系重合体(A')は、従来公知の気相重合法、あるいはスラリー重合法や溶液重合法などの液相重合法のいずれによっても得ることができる。好ましくは、高活性で金属残渣が少なくなる気相重合法またはスラリー重合法により製造される。
【0068】
スラリー重合法および溶液重合法は溶媒中で単量体を重合させる。溶媒の例には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素あるいはこれらの混合物などの不活性炭化水素溶媒が含まれる。これらの不活性炭化水素溶媒のうちでは、脂肪族炭化水素および脂環族炭化水素が好ましい。
【0069】
メタロセン化合物を含む重合触媒を用いてエチレン系重合体(A')を製造する場合、
メタロセン化合物の量は、反応容積1リットル当り10−9〜10−1モル、好ましくは10−8〜10−2モルとすることが好ましい。メタロセン化合物の量が10−9mol/lよりも少ない場合、重合反応の頻度が少なくなり、重合活性が低下する。一方、メタロセン化合物の量がm10−1mol/lを超えると、エチレン系重合体(A')の金属残渣が多くなることがある。
【0070】
(II−1)有機アルミニウムオキシ化合物の量は、化合物(II−1)とメタロセン化合物(I)との全遷移金属原子(M)とのモル比[(II−1)/M]が1〜10000、好ましくは10〜5000となるような量とする。化合物(II−2)の量は、メタロセン化合物(I)中の全遷移金属(M)とのモル比[(II−2)/M]が、0.5〜50、好ましくは1〜20となるような量とする。化合物(II−3)の量は、重合容積1リットル当り、通常0〜5ミリモル、好ましくは約0〜2ミリモルとする。
【0071】
エチレン系重合体(A')を溶液重合法により製造する場合、重合温度は0〜200℃、好ましくは20〜190℃、更に好ましくは40〜180℃とする。溶液重合において重合温度が0℃に満たない場合、重合活性が極端に低下するので生産性の点で実用的でない。また、0℃以上の重合温度領域では温度が高くなるに従い、重合時の溶液粘度が低下し、重合熱の除熱も容易となる。しかし、重合温度が200℃を超えると、重合活性が極端に低下するので生産性の点で実用的でない。
【0072】
溶液重合における重合圧力は、常圧〜10MPaゲージ圧、好ましくは常圧〜8MPaゲージ圧である。重合は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。反応時間(重合反応が連続法で実施される場合には平均滞留時間)は、触媒濃度、重合温度などの条件によっても異なり、適宜選択できるが、1分間〜3時間、好ましくは10分間〜2.5時間である。さらに重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行うことも可能である。
【0073】
得られるエチレン系重合体(A')の分子量は、本発明の範囲内において、重合反応系中の水素濃度や重合温度を変化させることによっても調節することができる。さらに、重合触媒における助触媒の量により調節することもできる。水素を添加する場合、その量は生成するエチレン・α−オレフィン共重合体1kgあたり0.001〜5,000NL程度が適当である。
【0074】
成分(B)について
本発明の樹脂組成物は、成分(B)を含有する。成分(B)は、エチレンと酢酸ビニルの共重合体であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下においてエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')ともいう)であるか、またはそれをエチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性した変性物である。エチレン−酢酸ビニル共重合体(B')における、全重合成分単位における酢酸ビニル単位の割合が10〜47質量%であることが好ましく、13〜35質量%であることがより好ましい。
【0075】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(B')の190℃で測定されるメルトフローレート(MFR)は、3〜30g/10minであることが好ましく、5〜25g/10minであることがより好ましい。
【0076】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(B')は、エチレンおよび酢酸ビニルに加えて、他の共重合成分を含んでいてもよい。他の共重合成分の例には、ギ酸ビニル、グリコール酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニルエステル類;アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸などの不飽和カルボン酸類またはその塩;アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルなどの不飽和エステルなどが含まれる。
【0077】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(B')は、2種以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体の混合物であってもよい。例えば、酢酸ビニル含有率が異なっていたり、メルトフローレートが異なる2種以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を混合してもよい。
【0078】
前述の通り、本発明の樹脂組成物に含まれる成分(A)および成分(B)の一方または両方は、エチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性された変性物である。
【0079】
エチレン性不飽和シラン化合物(C)は、公知のものが使用でき、特に制限はない。具体的には、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシ−エトキシシラン)、γ-グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクロキシプロピルメチルジメメトキシシラン、3-メタクロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが用いられる。
【0080】
エチレン性不飽和シラン化合物(C)の好ましい例には、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、および3-アクロキシプロピルトリメトキシシランなどが含まれる。これらで変性された樹脂は、接着性能が高まりやすいからである。
【0081】
エチレン性不飽和シラン化合物(C)のさらに好ましい例には、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-アクロキシプロピルトリメトキシシランが含まれる。これらは、反応基の立体障害が小さく、エチレン系重合体(A')へのグラフト変性反応の反応効率が高いからである。そして、これらで変性された樹脂は特に接着性がよく、そのシートを各被着体とラミネートするときのラミネート時間を短くすることができる。
【0082】
変性に用いるエチレン性不飽和シラン化合物(C)の量は、成分(A)と成分(B)との合計100質量部に対して、0.1〜5質量部であり、好ましくは0.1〜4質量部であり、より好ましくは0.3〜4質量部であり、さらに好ましくは0.3〜2.5質量部であり、最も好ましくは0.5〜2.5質量部である。
【0083】
エチレン性不飽和シラン化合物(C)の配合量が上記範囲にあると、樹脂組成物の接着性を十分に高めながら、樹脂組成物の透明性、柔軟性等に悪影響を与えないため、好ましい。
【0084】
(エチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性)
前記の通り、本発明の樹脂組成物は成分(A)と成分(B)とを含有し、そのいずれか一方または両方が、エチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性された変性物である。エチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性方法は特に限定されない。例えば、1)エチレン系共重合体(A')とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')を含む樹脂組成物を調製し、得られた調製物をエチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性する方法、2)エチレン系共重合体(A')およびエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')の両方あるいはいずれか一方を、別々にエチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性した後に混合する方法、とがある。取り扱いの上では、エチレン系共重合体(A')とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')を含む樹脂組成物を、エチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性する方法が好ましい。
【0085】
エチレン系重合体(A')および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')を、エチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性するには、押出溶融変性法、溶液変性法などの従来公知の変性手法を用いることができる。なかでも、製造コストが安価であるので、押出溶融変性法が好ましい。
【0086】
押出溶融変性法による手法では、(i)エチレン系重合体(A')とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')との混合樹脂ペレットと、エチレン性不飽和シラン化合物(C)とを、有機過酸化物の存在下で押出溶融して変性する。変性とはグラフト変性でありうる。
【0087】
押出溶融変性法で用いる有機過酸化物は、エチレン系重合体(A')および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')を、エチレン性不飽和シラン化合物(C)でグラフト変性することが可能なものであればよく、その種類には特に制限はない。有機過酸化物の好ましい例には、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキセン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエートなどが含まれる。
【0088】
エチレン系重合体(A')および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')と、エチレン性不飽和シラン化合物(C)とを押出溶融変性させるには、従来公知の単軸押出機、二軸押出機等を用いうる。押出温度は、通常、エチレン系重合体(A')の融点以上であり、例えば100〜300℃であり、好ましくは150〜260℃である。溶融時間は、0.5〜10分間であることが好ましい。
【0089】
押出溶融変性法において、エチレン系重合体(A')および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')を、ラジカル重合性のエチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性させる場合には、還元性物質を添加してもよい。還元性物質を添加することで、ラジカル重合性のエチレン性不飽和シラン化合物(C)のグラフト量を向上させることができる。
【0090】
押出溶融変性法において、エチレン系重合体(A')とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')との混合樹脂ペレットの一部は、エチレン系重合体(A')とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')との混合樹脂パウダーであってもよい。ペレットとともにパウダーがあることで、エチレン性不飽和シラン化合物(C)もしくは有機過酸化物が、ペレットにもパウダーにも含浸しやすくなり、これらの濃度ムラが発生しにくくなる。
【0091】
つまり、押出溶融変性法の手法では、(ii)エチレン系重合体(A')またはエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')の樹脂ペレットと、エチレン系重合体(A')ないしエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')のパウダー状樹脂と、エチレン性不飽和シラン化合物(C)とを、有機過酸化物の存在下で押出溶融して変性してもよい。または、(iii)エチレン系重合体(A')またはエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')のペレットと、エチレン性不飽和シラン化合物(C)と有機過酸化物とを含浸したエチレン系重合体(A')またはエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')のパウダー状樹脂とを、押出溶融して変性してもよい。
【0092】
押出溶融変性におけるエチレン系重合体(A')およびエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')の合計100質量部(パウダーとペレットを用いる場合はその合計)に対する、エチレン性不飽和シラン化合物(C)の配合量は、通常は0.1〜5質量部であり、好ましくは0.1〜4質量部であり、より好ましくは0.3〜4質量部であり、さらに好ましくは0.3〜2.5質量部であり、特に好ましくは0.5〜2.5質量部である。
【0093】
押出溶融変性におけるエチレン系重合体(A')およびエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')の合計100質量部(パウダーとペレットを用いる場合はその合計)に対する、有機過酸化物の配合量は0〜1.0質量部であることが好ましく、0.01〜0.5質量部であることがより好ましい。
【0094】
本発明の樹脂組成物における、成分(B)の含有率は、成分(A)と成分(B)との合計に対して、5〜50質量%であることが好ましく、10〜45質量%であることがより好ましく、15〜35質量%であることがさらに好ましい。成分(B)の含有率が少なすぎると、樹脂組成物の柔軟性が低下する。成分(B)の含有率が多すぎると、樹脂組成物の水蒸気透過性が十分に抑制できなかったり、絶縁性が十分に得られないことがある。
【0095】
本発明の樹脂組成物において、成分(A)と成分(B)は、海島構造のモルフォロジーを形成し、成分(B)が島構造を構成していることが好ましい。
【0096】
他の成分について
本発明の樹脂組成物には、接着性付与剤が配合されていてもよい。太陽電池封止材に添加されうる接着性付与剤の好ましい例には、シランカップリング剤が含まれる。シランカップリング剤の具体例には、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-トリス-(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エトキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、およびN-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどが含まれる。接着性付与剤として用いられるシラン化合物は、シラン変性樹脂であってもよい。
【0097】
接着性付与剤の安定性という観点からは、アルコキシシラン類が好適に用いられる。アルコキシシラン類は、常温かつpHが中性の領域では、比較的安定に存在するからである。一方で、太陽電池モジュールを作製する際には、その安定性から太陽電池用封止膜の接着力が発現しにくいという問題がある。
【0098】
太陽電池封止材における、接着性付与剤として用いられるシランカップリング剤物の含有量は、重合体成分100重量部に対して、通常0.1〜3.0重量部であることが好ましく、0.2〜1.5重量部であることがより好ましい。
【0099】
前述の通り、接着性付与剤としてのシランカップリング剤は、ケイ素原子に結合している反応基(アルコキシ基やハロゲン基など)を有していることが好ましい。ケイ素原子に結合している反応基は、太陽電池モジュールにおいて太陽電池用封止膜が接する部材(すなわち、シリコンなどにより構成される太陽電池セルや、ガラスなどの無機物により構成される表面保護部材)と反応して、化学的結合または水素結合などの物理的結合を形成することができるためである。この結合により、太陽電池用封止膜と前記保護部材等との接着性が大きく向上すると考えられる。
【0100】
接着性付与剤としてのシランカップリング剤におけるケイ素原子に結合している反応基は、活性が高く、かつその基数が多いほど、太陽電池用封止材の接着性を高めることができる。一方、反応基の活性が高すぎると、太陽電池用封止材の保存時に接着性付与剤が反応してしまい、前記封止材を用いて太陽電池モジュールを製造する際に、接着性を付与することができなくなる恐れがある。
【0101】
本発明の太陽電池封止材には、その他の任意の添加剤が含有されうる。任意の添加剤の例には、着色剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、変色防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定化剤などが含まれる。
【0102】
着色剤の例には、金属酸化物および金属粉などの無機顔料;アゾ系、フタロシアニン系、アゾ系、および酸性もしくは塩基性染料系レーキなどの有機顔料が含まれる。
【0103】
紫外線吸収剤の例には、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルフォベンゾフェノン、4-ドデシロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系;2-(2'-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-ターシャルブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系;フェニルサルシレートおよびp−t−ブチルフェニルサルシレートなどのサリシレート系などが含まれる。
【0104】
光安定化剤としては、アミン系、フェノール系、ビスフェニル系およびヒンダートアミン系が含まれ、例えばジ-t-ブチル-p-クレゾールおよびビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペラジル)セバケートなどが含まれる。特に、75℃〜100℃での帯電減衰時間を長くするには、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートが好ましい。また、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体および/またはエチレン・α-オレフィン共重合体の安定性を向上させる上で、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p-ベンゾキノンおよびメチルハイドロキノンなどが含まれてもよい。
【0105】
本発明の樹脂組成物は、シート状に成形されていてもよい。成形手段は特に限定されないが、押出成形法(Tダイ押出成形法など)により得ることができる。例えば、エチレン系重合体(A')とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')とエチレン性不飽和シラン化合物(C)との混合物を溶融混練して溶融樹脂シートとして押出した後、冷却固化することによりシート成形物が得られる。シート状に押出成形するときに、エチレン系重合体(A')とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B')を、エチレン性不飽和シラン化合物(C)で変性することができる。そのため、変性工程と成形工程とを同一工程とすることができる。
【0106】
シート成形された本発明の樹脂組成物は、例えば封止用シートとして、好ましくは太陽電池封止用シートとして用いることができる。太陽電池封止用シートの厚みは、約100〜2000μmであることが好ましい。また、太陽電池封止用シートの表面は、エンボス加工されていることが好ましい。エンボスはラミネート工程におけるクッション性や脱気性を向上させる。
【0107】
本発明の太陽電池封止用シートは、太陽電池セルを封止してモジュール化するために用いられる。太陽電池モジュールは、例えば、表面側透明保護部材と、太陽電池封止部材と、該封止部材により封止された太陽電池セルと、裏面側保護部材とを有する。このように、太陽電池セルは、表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間において、封止部材によって封止されている。この封止部材を、本発明の太陽電池封止材で得ることができる。例えば、本発明の太陽電池用封止シートを、太陽電池セルの表面側および裏面側に配置して圧着封止することで、封止部材が形成されうる。
【0108】
太陽電池モジュールは、モジュールの縁を枠で固定タイプと、固定する枠を有しないタイプとがある。固定する枠を有しないタイプには、合わせガラスタイプと称されるタイプがある。合わせガラスタイプでは、2枚のガラス(表面側透明保護部材と裏面側保護部材に相当)の間に、太陽電池セルと封止部材とが挟み込まれている。
【0109】
固定する枠を有さない合わせガラスモジュールの場合、枠がないため、封止材と基板との接着性、及び封止材の耐熱性が十分にないと基板がずれるやすい可能性がある。この問題は、封止材の接着性と耐熱性(融点・軟化点)を高めることで解消されうる。
【0110】
更に、合わせガラスタイプのモジュールの場合、取り出し電極の配線材厚みによる段差部分において、段差を埋め込む(封止材を充填する)と、ガラスがその形状に追従し、少なからず変形する。その変形したガラスは元の(平坦な)形状に戻ろうとする力が働き、残留応力が発生する。この残留応力は、封止材およびその接着界面に強くかるため、ラミネート時もしくはラミネート後に、その残留応力に耐え切れない領域において剥離が発生する可能性があった。この問題は、封止部材の柔軟性を高めることで解消されうる。
【0111】
本発明の樹脂組成物は、接着性、耐熱性および柔軟性が高度に両立されているので、特にガラスタイプの太陽電池モジュールの封止部材として好適に用いられる。
【0112】
表面側透明保護部材
太陽電池モジュールの表面側透明保護部材は、特に制限はなく、太陽電池モジュールにおいて一般的に使用される表面側保護部材を使用できる。表面側透明保護部材は、太陽電池モジュールの最表層に位置するため、耐候性、撥水性、耐汚染性および機械強度をはじめとして、太陽電池モジュールの屋外暴露における長期信頼性を確保するための性能を具備していることが好ましい。また、太陽光を有効に活用するために、光学ロスの小さい、透明性の高いシートであることが好ましい。
【0113】
太陽電池モジュールの表面側透明保護部材の材料の例には、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、アクリル樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、環状オレフィン(共)重合体などからなる樹脂フィルムの他、ガラスなどが含まれる。
【0114】
表面側透明保護部材としてのガラスは、波長350〜1400nmの光の全光線透過率が80%以上、好ましくは90%以上のガラス基板である。表面側透明保護部材としてのガラスは、一般的には赤外領域の吸収の少ない白板ガラスであるが;厚さが3mm以下であれば青板ガラスであってもよく、太陽電池モジュールの出力特性への悪影響はほとんどない。
【0115】
また、表面側透明保護部材としてのガラスは、機械的強度を高めるために熱処理した強化ガラスであってもよいが、熱処理されていないフロート板ガラスであってもよい。表面側透明保護部材としてのガラスは、風圧に耐える必要があるため、一般的には約3mm厚のガラス基板であり、枠(アルミ枠)で補強される。合わせガラスタイプの太陽電池モジュールは、この枠を有さない。
【0116】
また、表面側透明保護部材と封止部材などの他の部材との接着性を高めるために、表面側透明保護部材にはコロナ処理やプラズマ処理を行うことが好ましい。さらに、表面側透明保護部材の受光面側には、通常、光の反射を抑えるために、反射防止のコーティングやエンボス加工が施される。
【0117】
裏面側保護部材
太陽電池モジュールの裏面側保護部材は、特に制限はなく、太陽電池モジュールにおいて一般的に使用される裏面側保護部材を使用できる。前記表面側透明保護部材と同様の材質で裏面側保護部材を構成してもよい。
【0118】
太陽電池モジュールの裏面側保護部材は、太陽電池モジュールへの水分の浸入を防止する機能を有する必要がある。太陽電池モジュールの封止部材は、吸水性および透湿性を有することがあるので、裏面側保護部材の水分の浸入を防止する機能は重要である。
【0119】
太陽電池モジュールの裏面側保護部材は、地面等からの反射光に対する耐光性、および60〜100℃の温度に耐えられる耐熱性などを有することが望ましい。一方、裏面側保護部材は、太陽光の通過を前提としないため、表面側保護部材で求められていた透明性は必ずしも要求されない。
【0120】
裏面側保護部に、光の反射機能または散乱機能を付与してもよい。それにより光の利用効率を向上させることができる。反射機能または散乱機能を付与するための手法に特に制限はないが、例えば、反射機能を付与するためには金属層を設置すればよく、散乱機能を付与するためには光散乱性の微粒子を添加すればよい。
【0121】
太陽電池セル
太陽電池モジュールにおける太陽電池セルは、半導体の光起電力効果を利用して発電できるものであれば特に制限はない。太陽電池セルの例には、シリコン(単結晶系、多結晶系、非結晶(アモルファス)系)太陽電池、化合物半導体(3−5族、2−6族、その他)太陽電池、湿式太陽電池、有機半導体太陽電池などが含まれる。なかでも、発電性能とコストとのバランスなどの観点から、多結晶系シリコン太陽電池が好ましい。
【0122】
シリコン太陽電池および化合物半導体太陽電池とも、太陽電池セルとして優れた特性を有しているが、外部からの応力および衝撃などにより破損しやすい。本発明の太陽電池用封止材から得られる封止部材は柔軟性に優れており、太陽電池セルへの応力および衝撃などを吸収することができ、太陽電池セルの破損を効果的に抑制する。したがって、好ましい太陽電池モジュールにおいては、本発明の太陽電池用封止材から得られる封止部材が、太陽電池セルと直接接合している。
【0123】
太陽電池セルには、発生した電気を取り出すための集電電極が配置される。集電電極とは、バスバー電極、フィンガー電極などをいう。集電電極を、太陽電池セルの表面および裏面の両面に配置してもよいが;受光面に集電電極を配置すると、集電電極が光を遮ってしまうため発電効率が低下するという問題が生じうる。
【0124】
発電効率を向上させるために、受光面に集電電極を配置する必要のないバックコンタクト型太陽電池セルを用いてもよい。バックコンタクト型太陽電池セルの一態様では、太陽電池セルの受光面の反対側に設けられた裏面側に、pドープ領域とnドープ領域とを交互に設ける。バックコンタクト型太陽電池セルの他の態様では、貫通孔(スルーホール)を設けた基板にp/n接合を形成し、スルーホール内壁および裏面側のスルーホール周辺部まで表面(受光面)側のドープ層を形成し、裏面側で受光面の電流を取り出す。
【0125】
太陽電池モジュールは、任意の部材を適宜有してもよい。典型的には、接着層、衝撃吸収層、コーティング層、反射防止層、裏面再反射層、光拡散層などを設けることができるが、これらに限定されない。これらの層を設ける位置に特に限定はなく、そのような層を設ける目的、および、そのような層の特性を考慮し、適切な位置に設けることができる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明の範囲は、実施例により制限されるものではない。
【0127】
[合成例1]エチレン系重合体(PE−1)の合成
[固体触媒成分の調製]
特開平9−328520記載の方法にて、メタロセン化合物であるジメチルシリレンビス(3−メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドを含有する固体触媒成分の調製を行った。具体的には、250℃で10時間乾燥したシリカ3.0gを50mlのトルエンで懸濁状にした後、0℃まで冷却した。その後、メチルアルミノキサンのトルエン溶液(Al=1.29ミリモル/ml)17.8mlを30分で滴下した。この際、系内の温度を0℃に保った。引き続き、0℃で30分間反応させ、次いで30分かけて95℃まで昇温し、その温度で4時間反応させた。その後60℃まで降温し、上澄み液をデカンテーション法により除去した。
【0128】
得られた固体成分をトルエンで2回洗浄した後、トルエン50mlで再懸濁化した。この系内へ、ジメチルシリレンビス(3−メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(ジアステレオ異性体の混合比1:1)のトルエン溶液(Zr=0.0103mmol/ml)11.1mlを20℃で30分かけて滴下した。次いで、80℃まで昇温し、その温度で2時間反応させた。その後、上澄み液を除去し、ヘキサンで2回洗浄することにより、1g当たり2.3mgのジルコニウムを含有する固体触媒を得た。
【0129】
[予備重合触媒の調製]
特開平9−328520記載の方法にて、予備重合触媒を得た。具体的には、上記で得られた固体触媒4gをヘキサン200mlで再懸濁した。この系内にトリイソブチルアルミニウムのデカン溶液(1mmol/ml)5.0mlおよび1-ヘキセン0.36gを加えて、35℃で2時間エチレンの予備重合を行った。これにより、固体触媒1g当り2.2mgのジルコニウムを含有し、3gのポリエチレンが予備重合された予備重合触媒を得た。
【0130】
[重合]
充分に窒素置換した内容積2リットルのステンレス製オートクレーブに、脱水精製したヘキサンを830ミリリットル装入し、系内をエチレンと水素の混合ガス(水素含量;0.7mol%)で置換した。次いで系内を60℃とし、トリイソブチルアルミニウム1.5mmol、1-ヘキセン179ml、および上記調製した予備重合触媒を、ジルコニウム原子換算で0.015mg原子となるように添加した。
【0131】
その後、上記と同様の組成を有するエチレンと水素の混合ガスを導入し、全圧3MPaGとして重合を開始した。その後、混合ガスのみを補給し、全圧を3MPaGに保ち、70℃で1.5時間重合を行った。重合終了後、得られたポリマーを濾過し、80℃で1晩乾燥し、パウダー状のエチレン系重合体(PE−1)を105g得た。
【0132】
エチレン系重合体(PE−1)をサーモ・プラスチック(株)社製単軸押出機(スクリュー径20mmφ・L/D=28)にて、ダイス温度=190℃条件下で、エチレン系重合体(PE−1)ペレットを得た。物性を下記の表に示す。
【表1】

【0133】
[合成例2]エチレン系重合体(PE−2)の合成
国際公開バンフレットWO2007/034920の記載の方法にて、触媒及び樹脂の合成を行った。
【0134】
[錯体合成〕
ジ(p-トリル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリドの合成
【0135】
(i)シクロペンタジエニル(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジ-p-トリルメタンの合成
磁気攪拌子、三方コックおよび滴下漏斗を備えた300ml二口フラスコを充分に窒素置換した後、オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレン2.98g(7.71mmol)を入れ、脱水テトラヒドロフラン60mLを加えて無色透明の溶液とした。氷水浴で冷やしながら、1.56mol/Lのn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液5.2mL(8.1mmol)を徐々に加えた後、窒素雰囲気下室温で7時間攪拌して橙色溶液を得た。メタノール/ドライアイス浴で冷やしながら、予め脱水テトラヒドロフラン30mLに溶解させた6,6-ジ-p-トリルフルベン2.40g(9.27mmol)を滴下漏斗を用いて20分間かけて徐々に加えた。その後室温まで徐々に昇温し、窒素雰囲気下室温で21時間攪拌して暗赤色溶液を得た。飽和塩化アンモニウム水溶液100mLを徐々に加え、続いてジエチルエーテル100mLを加えた。得られた二層の溶液を300mLの分液漏斗に移して数回振った後、無色透明の水層を除いた。続いて、得られた有機層を水100mLで2回、飽和食塩水100mLで1回洗い、無水硫酸マグネシウムで30分間乾燥した。固体を濾別し、ロータリーエバポレータで溶媒を留去して得た固体をヘキサンで洗浄して、白色固体としてシクロペンタジエニル(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジ-p-トリルメタンを得た。収量は3.55g(5.50mmol,収率71.3%)であった。
【0136】
シクロペンタジエニル(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジ-p-トリルメタンの同定は、H-NMRスペクトルおよびFD-MSスペクトルで行った。以下にその測定結果を示す。なお、下記のNMR帰属結果においてOMOHDBFluとはη5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル基の略称である。
【0137】
H-NMRスペクトル(270 MHz, CDCl3):d/ppm 0.8-1.7(m, Me(OMOHDBFlu), 24H), 2.1-2.4(br, CH2(OMOHDBFlu), 8H), 2.7-3.1(br, CH2(Cp), 1H), 5.2-5.4(m, CH(9-OMOHDBFlu),1H), 5.8-6.5(br, Cp, 4H), 6.7-7.5(br, Ar(OMOHDBFlu) & Ar(p-tol), 10H), 7.29(s,Ar(OMOHDBFlu), 2H)
FD-MSスペクトル:M/z 644(M+)
【0138】
(ii)ジ(p-トリル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリドの合成
滴下漏斗、磁気攪拌子を備えた100mLギルダールフラスコを充分に窒素置換した後、シクロペンタジエニル(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジ-p-トリルメタン1.10g(1.56mmol)を入れ、脱水ジエチルエーテル30mLを加えて無色透明の溶液とした。氷水浴で冷やしながら、1.56mol/Lのn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液2.1mL(3.30mmol)を徐々に加えた後、窒素雰囲気下室温で20時間攪拌して赤色の固体と赤色の溶液からなるスラリーを得た。メタノール/ドライアイス浴で冷やしながら四塩化ジルコニウム・テトラヒドロフラン錯体(1:2)0.552g(1.46mmol)を加えた後、室温まで徐々に昇温し、窒素雰囲気下室温で24時間攪拌して赤桃色の固体と赤色の溶液からなるスラリーを得た。減圧下で溶媒を留去して得られた赤色の固体をヘキサンで洗浄し、続いてジクロロメタンで抽出して赤色の溶液を得た。この溶液の溶媒を減圧下で留去し、赤桃色固体としてジ(p-トリル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリドを得た。収量は0.825g(1.02mmol,収率70.2%)であった。
【0139】
ジ(p-トリル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリドの同定は、1H-NMRスペクトルおよびFD-MSスペクトルで行った。以下にその測定結果を示す。
【0140】
H-NMRスペクトル(270 MHz, CDCl3):d/ppm 0.82(s, Me(OMOHDBFlu), 6H), 0.93(s, Me(OMOHDBFlu), 6H), 1.40(s, Me(OMOHDBFlu), 6H), 1.46(s, Me(OMOHDBFlu), 6H), 1.5-1.7(m, CH2(OMOHDBFlu), 8H), 2.32(s, Me, 6H), 5.53(t, J=2.6 Hz, Cp, 2H), 6.17(s, Ar(OMOHDBFlu), 2H), 6.25(t, J=2.6 Hz, Cp, 2H), 7.1-7.3(m, Ar(p-tol), 4H), 7.6-7.8(m, Ar(p-tol), 4H), 8.03(s, Ar(Flu), 2H)
FD-MSスペクトル:M/z 804(M+)
【0141】
[重合]
内容積1Lの完全攪拌混合型連続重合槽に、脱水n-ヘキサンを6.0L/hr、n-ヘキサンに溶解させたジ(p-トリル)メチレン(シクロペンタジエニル)(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリドのヘキサン溶液(0.16mmol/L)を0.0190mmol/hr、メチルアルミノキサン(TMAO-341:東ソー・ファインケム社製)のトルエン溶液(80mmol/L)に調製し、これをAl量で19.0mmol/hr、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(12mmol/L)を1.8mmol/hrの割合で導入した。同時に重合槽内にエチレンを680g/hr、水素を0.0291g/hr、脱水1-オクテンを0.68kg/hrで連続供給し、重合槽内が反応圧力6.9MPA-Gとなるように重合槽上部から重合溶液を連続的に抜き出し、重合温度170℃で重合反応を行った。重合槽から連続的に抜き出された重合溶液に失活剤として少量のイソプロピルアルコールを添加し、耐熱安定剤としてIrganox1076(チバスペシャリティケミカルズ社製)を0.05質量%加えた後、大気圧までフラッシュしてポリマーを析出させた。その後、N流通下で真空乾燥器にて120℃で8時間乾燥した。この重合のエチレン転化率は94.1%、エチレン系重合体収量は0.814kg/hrであった。
【0142】
上記重合により得られたエチレン系重合体(PE−2)を、サーモ・プラスチック(株)社製単軸押出機(スクリュー径20mmφ・L/D=28)にて、ダイス温度=190℃条件下で、エチレン系重合体(PE−2)のペレットを得た。物性を下記の表に示す。
【表2】

【0143】
[実施例1]
エチレン系重合体(PE−1)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(酢酸ビニル含有率28%、MFR15g/10min、引張弾性率20MPa)とを質量比4:1でブレンドしたものを100質量部と、ビニルメトキシシランを1.0質量部と、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンを0.02質量部と、2-ヒドロキシ-4-ノルマル-オクチルオキシベンゾフェノンを0.3質量部と、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートを0.1質量部と、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.025質量部と、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.025質量部とを添加し、さらにドライブレンドして、エチレン系重合体のブレンド物を得た。
【0144】
次いで、得られたエチレン系重合体のブレンド物を、サーモ・プラスチック(株)社製単軸押出機(スクリュー径20mmφ・L/D=28)で溶融混練した後、コートハンガー式T型ダイス(リップ形状;270×0.8mm)からダイス温度200℃の条件下で押出成形し、ロール温度30℃で冷却した後、巻き取り速度1.0m/minで、第1冷却ロールにエンボスロールを用いて成形した。これにより、エチレン系重合体をエチレン性不飽和シラン化合物で変性した変性体を含有するエチレン系樹脂組成物からなるシートを得た。シートの最大厚みtmaxは450μmであった。
【0145】
[実施例2]
エチレン系重合体(PE-1)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(酢酸ビニル含有率28%、MFR15g/10min、引張弾性率20MPa)を質量比3:2でブレンドする以外は、実施例1と同様に、シートの最大厚みtmax450μmシートを作製した。
【0146】
[実施例3]
エチレン系重合体(PE-2)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(酢酸ビニル含有率28%、MFR15g/10min、引張弾性率20MPa)を質量比4:1でブレンドする以外は、実施例1と全く同様に、シートの最大厚みtmax450μmシートを作製した。
【0147】
[比較例1]
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(酢酸ビニル含有率28%、MFR15g/10min、引張弾性率20MPa)を100質量部と、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを0.5質量部と、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンを0.5質量部と、第3ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネートを2.0質量部と、トリアリルイソシアヌレートを0.5質量部と、更に耐候安定剤として2-ヒドロキシ-4-ノルマル-オクチルオキシベンゾフェノンを0.3質量部と、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートを0.1質量部と、耐熱安定剤としてトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.025質量部と、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.025質量部とを添加し、含浸のため一昼夜放置して、EVAのブレンド物を得た。
【0148】
得られたEVAのブレンド物を、サーモ・プラスチック(株)社製単軸押出機(スクリュー径20mmφ・L/D=28)で溶融混練した後、コートハンガー式T型ダイス(リップ形状;270×0.8mm)からダイス温度100℃の条件下で押出成形し、ロール温度30℃で冷却した後、巻き取り速度1.0m/minで、第1冷却ロールにエンボスロールを用いて成形した。これにより、EVAシートを得た。シートの最大厚みtmaxは450μmであった。
【0149】
[比較例2]
エチレン−酢酸ビニル共重合体EVAをブレンドすることなく、エチレン系重合体(PE−1)のみを用いて、実施例1と全く同様に、シートの最大厚みtmax450μmシートを作製した。
【0150】
[比較例3]
エチレン−酢酸ビニル共重合体EVAをブレンドすることなく、エチレン系重合体(PE−2)のみを用いて、実施例1と全く同様に、シートの最大厚みtmax450μmシートを作製した。
【0151】
[比較例4]
ポリビニルブチラール(PVB)(ポリビニルアルコール含量=22.0重量%、ポリビニルアセテート含量=0.2重量%、Mw=104300g/mol)290gと、可塑剤であるジプロピレングリコールジベンゾエート(=DPGDB)210gとを混合してブレンド物を得た。混合は、研究所用ミキサー(製造者:Papenmeier、モデル:TGHKV20/KGU63;Brabender、モデル:826801)を用いて行った。
【0152】
得られたブレンド物を、スロットダイを装着した1軸スクリュー押出機(製造者:ハーケ)を用いて、メルト温度150℃で押出成形して、厚み0.8mmのフィルムを得た。
【0153】
各実施例および比較例で得られたシートについて、以下の特性を評価した。その結果を表3に示す。但し、比較例1についてのみ、架橋したシートの特性、もしくは架橋工程を含めたラミネート条件でラミネートを行った特性を示した。
【0154】
[引張弾性率]
作製したシートのMD方向(シートの引き取り方向)の引張弾性率を、JIS K7113に準拠して測定した。
【0155】
[埋め込み性]
3.2mm厚のガラス基板上に、擬似電極として幅5mm/厚み300μmのアルミ板と、450μm厚の封止シートと、3.2mm厚のガラス板とを順次積層した。得られた積層体を、真空ラミネーター内の150℃に温調したホットプレート上に載せて、3分間真空減圧した後、9分間加熱した。但し、比較例1のみ、真空ラミネーター内の125℃に温調したホットプレート上に載せて、3分間真空減圧した後、5分間加熱し、更に150℃のオーブン中で50分加熱しキュアを行った。これにより、ガラス/擬似電極/封止シート/ガラスの擬似的な合わせガラスモジュールを作製した。これを十分に冷却した後に擬似電極周辺に気泡もしくは剥離の有無を観察した。
【0156】
[接着強度]
作製したシートをガラス上に積層し、真空ラミネーター内の150℃に温調したホットプレート上に載せて、3分間真空減圧した後、9分間加熱した。但し、比較例1のみ、真空ラミネーター内の125℃に温調したホットプレート上に載せて、3分間真空減圧した後、5分間加熱し、更に150℃のオーブン中で50分加熱しキュアを行った。これにより、ガラス/封止シートの積層体を作製した。この積層体上にある封止シートを10mm幅に切断し、被着体であるガラスに対する、180度ピールによる剥離強度を測定した。180度ピールによる剥離強度は、インストロン社製引張試験機Instron1123を用いて、23℃、スパン間30mm、引張速度300mm/分で測定し、3回の測定の平均値を採用し、「接着強度」とした。
【0157】
[体積固有抵抗]
作製したシートの体積固有抵抗を、JIS K6911に準拠して、70℃の条件下で測定した。
【0158】
[水蒸気透過率]
作製したシートの水蒸気透過率を、JIS K7129に準拠して、温度40℃、相対湿度90%の条件下でモコン法を用いて測定した。
【0159】
[吸水率]
作製したシートの吸水率は、予め温度40℃、相対湿度90%の条件下で100時間養生して、カールフィッシャー法で測定を行った。
【0160】
[耐熱クリープ性]
厚み3.2mm/幅1cmのガラス上に、封止シートと、更に厚み3.2mm/幅1cmのガラスとを順次積層した。2つのガラスを、互いに一部重ねずに積層した。得られた積層体を、真空ラミネーター内の150℃に温調したホットプレート上に載せて、3分間真空減圧した後、9分間加熱した。ただし、比較例1のみ、真空ラミネーター内の125℃に温調したホットプレート上に載せて、3分間真空減圧した後、5分間加熱し、更に150℃のオーブン中で50分加熱しキュアを行った。得られたラミネート体において、2つのガラスに挟まれた封止シートの面積が1cmとなるように調整した。
【0161】
得られたラミネート体を105℃のオーブンに入れて、一方のガラスを固定し、もう一方のガラスに25g/cmとなるように重りを取り付け、荷重をかけた状態で24時間静置した。その後、積層体を取り出し、ガラスが初期の位置からずれていないか確認した。
【0162】
【表3】

【0163】
エチレン系重合体とエチレン−酢酸ビニル共重合体とをシラン変性した樹脂からなる封止材を用いた実施例1〜3では、埋め込み性の評価もよく、耐熱クリープ性の評価もよい。つまり、実施例1〜3の封止材は、柔軟性と接着性とを両立していることがわかる。そして、水蒸気透過率が十分に低く、抵抗値(電気絶縁性)は十分に高い。
【0164】
これに対して、エチレン−酢酸ビニル共重合体のみからなる封止材を用いた比較例1では架橋工程が必要とされる。さらには、水蒸気透過率が高く、抵抗値も十分に高まっていない。一方、エチレン系重合体のみからなる封止材を用いた比較例2〜3では、埋め込み性評価がよくなく、柔軟性が十分でないことがわかる。また、比較例3では耐熱クリープ性の評価がよくなく、接着性が十分でないこともわかる。ポリビニルブチラールPVBを用いた比較例4では、水蒸気透過率が高く、抵抗値も十分に高まっていない。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明の樹脂組成物は太陽電池封止材として好適に用いられうるが、特に結晶型太陽電池モジュールの裏面側の太陽電池封止材、薄膜用太陽電池モジュール、特に合わせガラスタイプのモジュールの太陽電池封止材として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要件a)〜d)のいずれをも満たすエチレン系重合体、またはそのエチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物である成分(A)と、
酢酸ビニル含有量が10〜47質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体、またはそのエチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物である成分(B)と、を含む樹脂組成物であって、
前記成分(A)および前記成分(B)のいずれか一方または両方は、前記エチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性物であり、かつ
前記成分(A)と前記成分(B)の合計に対する前記成分(B)の含有率は5〜50質量%である樹脂組成物。
a)密度が900〜940kg/m
b)DSCに基づく融解ピーク温度が90〜125℃
c)JIS K−6721に準拠して190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレ−ト(MFR2)が0.1〜100g/10分
d)Mw/Mnが1.2〜3.5
【請求項2】
前記エチレン系重合体は、以下の要件e)を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
e)金属残渣量が0.1〜50質量ppm
【請求項3】
前記エチレン性不飽和シラン化合物(C)による変性量は、前記成分(A)と前記成分(B)との合計100質量部に対して0.1〜5質量部である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなるシート成形物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる太陽電池封止材。
【請求項6】
以下の要件a)〜d)のいずれをも満たすエチレン系重合体と、酢酸ビニル含有量が10〜47質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、エチレン性不飽和シラン化合物(C)と、有機化酸化物とを含む混合物を用意する工程と、前記混合物を溶融押出成形することでシート成形物を得る工程とを含み、
前記溶融押出成形において、前記エチレン系重合体および/もしくは前記エチレン−酢酸ビニル共重合体を、前記エチレン性不飽和シラン化合物(C)でグラフト変性する、シート成形物の製造方法。
a)密度が900〜940kg/m
b)DSCに基づく融解ピーク温度が90〜125℃
c)JIS K−6721に準拠して190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレ−ト(MFR2)が0.1〜100g/10分
d)Mw/Mnが1.2〜3.5
【請求項7】
エチレン性不飽和シラン化合物(C)と有機過酸化物とを含む混合液を含浸された、酢酸ビニル含有量が10〜47質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、以下の要件a)〜d)のいずれをも満たすエチレン系重合体との混合物を、溶融押出成形することでシート成形物を得る工程を含み、
前記溶融押出成形において、前記エチレン系重合体および/もしくは前記エチレン−酢酸ビニル共重合体を、前記エチレン性不飽和シラン化合物(C)でグラフト変性する、シート成形物の製造方法。
a)密度が900〜940kg/m
b)DSCに基づく融解ピーク温度が90〜125℃
c)JIS K−6721に準拠して190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレ−ト(MFR2)が0.1〜100g/10分
d)Mw/Mnが1.2〜3.5

【公開番号】特開2012−214555(P2012−214555A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79284(P2011−79284)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】