説明

樹脂組成物、ハードコート剤、フィルム、及び成型体の製造方法

【課題】硬度や耐擦傷性が高く、且つ成型性も良好な樹脂組成物、ハードコート剤、フィルム、及び成型体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物、およびアクリロイル基へ付加反応可能な化合物を含有することを特徴とする。前記アクリロイル基へ付加反応可能な化合物として、例えば、低分子量アミンやポリアミン等のアミン化合物が挙げられる。本発明の樹脂組成物は、さらに感温性触媒を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、ハードコート剤、フィルム、及び成型体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家電製品のメンブレンスイッチや自動販売機のダミー缶などにおいて、熱硬化型樹脂を塗工したフィルムが使用されてきた。
また、熱硬化型樹脂と比較して耐擦傷性に優れる紫外線硬化型樹脂を塗工・硬化させた成型用フィルムが普及してきている。特に、携帯電話、携帯音楽プレイヤー、タッチパネルなどの電子機器筐体や自動車内装材は、硬度、耐擦傷性、耐汚染性、光沢感等が要求されるため、これらの用途に、紫外線硬化型樹脂を塗工・硬化させた成型用フィルムが応用され始めている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第00/34396号パンフレット
【特許文献2】特開2005−8717号公報
【特許文献3】特開2004−305863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱硬化型樹脂を塗工したフィルムは、硬度や耐擦傷性が低く、容易に傷が入り、外観が著しく劣化してしまう。一方、紫外線硬化型樹脂を塗工・硬化させた成型用フィルムは、剛直でひび割れしやすいため、成型性に乏しく、比較的平坦な構造体の成型にしか用いることができなかった。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、硬度や耐擦傷性が高く、且つ成型性も良好な樹脂組成物、ハードコート剤、フィルム、及び成型体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
(1)本発明の樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物、およびアクリロイル基へ付加反応可能な化合物を含有することを特徴とする。
本発明の樹脂組成物は、一次硬化した状態では、成型してもひび割れしにくい柔軟性を有するともに、タックが生じにくい。また、本発明の樹脂組成物は、二次硬化した状態では、硬度や耐擦傷性に優れる。
なお、一次硬化とは、アクリロイル基への付加反応を意味する。また、二次硬化とは、紫外線や電子線等の活性エネルギー線を照射することによるラジカル重合である。
本発明に係わる2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物は、ラジカル反応性が非常に高く、速硬性と高硬度の点から優位性がある。2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物としては、例えば1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジアクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジアクリレート、アリル化シクロヘキシルジアクリレート、イソシアヌレートジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。
官能基数の多いアクリレートほど表面硬度が高くなり、好ましい。これらは単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物は、モノマーでもプレポリマーであってもよく、また、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレートなどであってもよい。
【0007】
本発明で用いるアクリロイル基へ付加反応可能な化合物は、2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物と付加反応可能な化合物である。この付加反応によって樹脂組成物が一次硬化(Bステージ化)するため、樹脂組成物のタックが消失又は減少する。これを利用し、樹脂組成物をフィルムに塗布した後に付加反応が促進される条件を与えることにより、フィルム同士のブロッキングや、成型時におけるフィルムと金型のブロッキングを防止できる。アクリロイル基へ付加反応可能な化合物は、求核性を有する化合物であればよいが、具体的にはアミン化合物が好ましい。
【0008】
アミン化合物としては、1級または2級アミンを有するもの、例えば、メチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、アニリン、フェネチルアミン、アマンタジン、ピペラジンや、アミノ基含有シランカップリング剤などの低分子量アミンが挙げられる。本発明における低分子量アミンとは、例えば、DETA(ジエチレントリアミン)、TETA(トリエチレンテトラミン)、PEHA(ペンタエチレンヘキサミン)等のエチレンジアミン誘導体を意味し、その分子量は、例えば、50〜400の範囲が好適である。
また、アミン化合物としては、アミンを繰返し構造として有するポリアミンを用いることもできる。低分子量アミンとポリアミンを併用することにより、樹脂組成物の硬化性を容易に調整できる。また、低分子量アミンとポリアミンとを併用すると、樹脂組成物が一次硬化の状態にあるときに、タックが一層生じにくい。ポリアミンの分子量は、例えば、1万〜20万の範囲が好適である。
アミン化合物の使用量は、使用するアミン化合物のアミン価に依存するが、2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物100重量部に対して、0.1〜50重量部の範囲が好ましく、0.5〜30重量部の範囲がより好ましく、5〜25重量部の範囲が特に好ましい。樹脂組成物の一次硬化が不十分な場合、アミン化合物の配合量を増やしたり、アミン化合物の中に占めるポリアミンの割合を高くすることにより、硬化性を向上できる。一方、樹脂組成物のポットライフが短い場合は、アミン化合物の配合量を減らしたり、アミン化合物の中に占めるポリアミンの割合を低くすることによりポットライフを延長できる。また、アミン価の大きい化合物であるほど、アミン化合物の反応性が大きく、アミン化合物の添加量を減らすことができ、表面物性も良好で好ましい。
【0009】
前記アクリロイル基へ付加反応可能な化合物とともに感温性触媒を配合することにより、一次硬化性と樹脂組成物のポットライフの両立が容易となる。即ち、感温性触媒は常温では触媒活性が無い(もしくは低い)ため、樹脂組成物のポットライフを長くすることができ、高温では急速に活性を発揮するため一次硬化性を向上させることができる。また、感温性触媒を配合すると、樹脂組成物が一次硬化の状態にあるときに、タックが一層生じにくい。
感温性触媒の具体例として、強塩基であるDBU(ジアザビシクロウンデセン)やDBN(ジアザビシクロノネン)の塩が特に好ましい。DBUやDBNの塩は、各種溶剤との相溶性にも優れ、従来の3級アミンや無機系の塩基性触媒を用いるよりも、より温和な条件で反応収率の向上を図ることができる。
DBUやDBNの塩としては、例えば、DBU−フェノール塩、DBU−オクチル酸塩、DBU−オレイン酸塩、DBU−p−トルエンスルホン酸塩、DBU−ギ酸塩、DBN−フェノール塩、DBN−オクチル酸塩、DBN−オレイン酸塩、DBN−p−トルエンスルホン酸塩、DBN−ギ酸塩メチルアミンなどが挙げられ、その他にアミジン塩基やグアニジン塩基の塩等が挙げられる。また、有機溶剤に可溶で脱プロトン作用する強塩基塩であれば、用いることができる。これらの感温性触媒は単独あるいは2種以上を混合して使用しても良い。さらに、アクリロイル基へ付加反応を促進できる触媒であれば、前記感温性触媒に限定されず、触媒活性を発揮できる手段とともに用いることができる。
感温性触媒の配合量は、2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物100重量部に対して、5〜20重量部の範囲が好ましい。この範囲内であることにより、樹脂組成物が一次硬化の状態にあるときに、タックが一層生じにくい。
本発明の樹脂組成物は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線を照射することにより二次硬化する。紫外線硬化を行う場合、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプ等を用い、100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域で、50〜300mJ/cm2のエネルギーを有する紫外線を照射することができる。硬化阻害を防止するため、窒素ガス等の不活性ガス下で照射を行ってもよい。
【0010】
紫外線により硬化させる場合、2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物100重量部に対して、紫外線硬化型開始剤を3〜10重量部添加することが好ましい。添加量を3重量以上とすることで熱硬化後にタックが残りにくくなり、10重量部以下とすることで過度の硬化反応を抑制して成型性を確保できる。
【0011】
紫外線硬化型開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドなどが挙げられ、市販品としてはIrgacure127、184、369、651、500、819、907、2959(以上、チバ・ジャパン社製、商品名)などが挙げられる。これらの紫外線硬化型開始剤は2種以上を併用してもよい。
【0012】
また、樹脂組成物を電子線により硬化させる場合、公知の電子線照射装置を用いることができる。電子線の照射量は10〜200kGyが好ましく、30〜100kGyがより好ましい。10kGy以上とすることで樹脂組成物を確実に硬化でき、200kGy以下とすることで電子線照射装置への負荷を低減でき、経済的である。
(2)本発明のハードコート剤
本発明のハードコート剤は、前記(1)の樹脂組成物を含むことを特徴とする。本発明のハードコート剤を用いて形成したハードコート層は、一次硬化した状態では、成型してもひび割れしにくい柔軟性を有するともに、タックが生じにくい。また、本発明のハードコート剤を用いて形成したハードコート層は、二次硬化した状態では、硬度や耐擦傷性に優れる。
本発明のハードコート剤は、前記(1)の樹脂組成物そのままであってもよいし、適宜、その他の成分を添加してもよい。
(3)本発明のフィルム(成型用フィルム)
本発明のフィルムは、フィルム基材上に、前記(1)の樹脂組成物から成るハードコート層が形成されたことを特徴とする。
本発明のフィルムは、例えば、ハードコート層が一次硬化された状態にあるものとすることができる。本発明のフィルムを構成するハードコート層は、ひび割れしにくい柔軟性を有する。そのため、本発明のフィルムは、ハードコート層にひび割れを生じさせることなく、意匠性に優れた深絞りや複雑な構造に成型することができる。
また、本発明のフィルムを構成するハードコート層は、二次硬化していない状態であってもタックが生じにくいので、フィルム同士のブロッキングや、成型時におけるフィルムと金型のブロッキングを防止できる。さらに、二次硬化後のハードコート層は、硬度や耐擦傷性に優れる。
本発明のフィルムは、ハードコート層よりも上層に保護層を備えることが好ましい。一次硬化された状態にあるハードコート層が十分な硬度を有していなくても、保護層を備えることにより、例えば、フィルムを成型するときに、ハードコート層に傷等が生じにくい。保護層は、例えば、溶媒に溶解または分散した樹脂をハードコート層に塗布した後、溶媒を揮発させることによって形成することができる。こうすることにより、粘着剤付きフィルム等から成る保護層を用いる場合のように、粘着剤がハードコート層表面に残り、外観上の問題が生じるおそれがない。
保護層を形成するために用いられる樹脂は、一次硬化状態のハードコート層を保護できるだけの硬度を有し、ハードコート層との密着性が良好で、さらにハードコート層から剥離する際に表面に残らないような樹脂が好ましい。このような樹脂として、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリビニルアルコール変性のポリビニルアセタール樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられ、溶媒に分散した樹脂として、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン酢酸ビニル(EVA)エマルジョン、アクリルエマルジョン、アクリルスチレンエマルジョン、塩化ビニリデンエマルジョン、ウレタンエマルジョン、分散型フッ素樹脂等が挙げられる。中でもポリビニルアルコールが好ましい。
【0013】
また、保護層を形成する樹脂に、染料、顔料、艶消し剤、帯電防止剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、pH調整剤、耐水化剤、架橋剤等を添加しても良い。ハードコート層上に形成された保護層は、二次硬化前に適宜除去を行うことができる。
【0014】
本発明のフィルムは、例えば、フィルム基材に離型処理を施し、ハードコート層を転写可能な転写フィルムとすることができる。この場合、他の部材(他のフィルムであってもよい)の表面にハードコート層を転写することができる。離型処理としては、例えば、シリコーン処理等が挙げられる。
本発明のフィルムは、例えば、型材に押圧され、成型されたものであってもよい。本発明のフィルムを構成するハードコート層は、成型しても、ひび割れしにくい。
本発明のフィルムは、例えば、ハードコート層が活性エネルギー線により二次硬化した状態にあってもよい。この状態のとき、ハードコート層は、硬度や耐擦傷性に優れる。
本発明のフィルムにおけるフィルム基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッソ樹脂フィルム、ナイロンフィルム、アクリル樹脂フィルム等を挙げることができる。
【0015】
尚、フィルム基材と樹脂組成物との密着性を向上させる目的で、フィルム基材に対してサンドブラスト法や溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などの表面の酸化処理などの表面処理を施してもよい。
【0016】
樹脂組成物のフィルム基材への塗布方法については特に制限はなく、公知の方法、例えば、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などを用いることができる。例えば、乾燥・硬化処理後の膜厚が1〜200μmになるように塗工し、乾燥・硬化処理する。
(4)本発明の成型体の製造方法
本発明の成型体の製造方法は、前記(3)のフィルムを型材に押圧し、脱型後、活性エネルギー線により前記ハードコート層を二次硬化させることを特徴とする。
本発明によれば、成型時にハードコート層が割れしまうようなことが起こりにくい。また、ハードコート層は、二次硬化していない状態であってもタックが生じにくいので、フィルム同士のブロッキングや、成型時におけるフィルムと金型のブロッキングを防止できる。さらに、二次硬化後のハードコート層は、硬度や耐擦傷性に優れる。
本発明に係るフィルム成型体(成型体)6の製造方法の具体例を図1に基づいて説明する。先ず、フィルム基材9に樹脂組成物1を塗布する(図1(a))。この時、樹脂組成物1は液状である。次に、樹脂組成物1を加熱・乾燥により熱硬化させ、ハードコート層2を形成し、成型用フィルム5を得る(図1(b))。この時、ハードコート層2は固体であり、一次硬化の状態にある。次いで、型材(図示せず)に成型用フィルム5を押圧し、脱型後(図1(c))、紫外線を照射してハードコート層2を2次硬化させるとフィルム成型体6が得られる(図1(d))。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】フィルム成型体の製造方法を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0019】
(a)樹脂組成物(ハードコート剤)の製造
表1〜表3に示す各成分を配合し、実施例1―1〜1−18及び比較例1〜2の樹脂組成物を製造した。なお、表1〜表3は、固形分換算での配合量を示す。樹脂組成物は、A剤、B剤の2剤式であり、A剤、B剤をそれぞれ製造した。A剤は、表1〜表3におけるA剤の欄に記載された成分を含み、MEK(メチルエチルケトン)を溶媒とする固形分40重量%の溶液である。B剤は、表1〜表3におけるB剤の欄に記載された成分を含み、トルエンを溶媒とする溶液である。
【0020】
樹脂組成物を使用するときは、A剤とB剤とを、重量比1:1で混合する。なお、B剤の固形分比は、A剤とB剤とを重量比1:1で混合したとき、樹脂組成物の配合比が、固形分換算で、表1〜表3に示す配合比となるように設定されている。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

なお、表1〜表3において、U−15HAは、新中村化学工業(株)社製のウレタンアクリレートの商品名である。ビームセット371は、荒川化学工業(株)社製のアクリルアクリレートの商品名である。アロニックスM7300Kは、東亜合成(株)社製のポリエステルアクリレートの商品名である。
【0024】
DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、U−15HA、ビームセット371、及びアロニックスM7300Kは、それぞれ、2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物に該当する。
【0025】
また、irg2959は、チバ・ジャパン製のUV開始剤の商品名である。BYK310は、ビックケミー・ジャパン(株)社製のレベリング剤の商品名である。
また、DETA(ジエチレントリアミン)、TETA(トリエチレンテトラミン)、及びPETA(ペンタエチレンヘキサミン)は、それぞれ、低分子量アミンに該当する。
【0026】
また、ポリメントNK−350及びポリメントNK−380は、それぞれ、(株)日本触媒社製のポリアミンの商品名である。
また、U−CAT SA 1は、サンアブロ(株)社製のDBU―フェノール塩の商品名である。U−CAT SA 102は、サンアブロ(株)社製のCBU―オクチル酸塩の商品名である。U−CAT 1102は、サンアブロ(株)社製のDBN−オクチル酸塩の商品名である。
【0027】
U−CAT SA 1、U−CAT SA 102、及びU−CAT 1102は、それぞれ、感温性触媒に該当する。
(b)フィルム及び成型体の製造
前記(a)で製造した樹脂組成物を、厚み100μmのPETフィルム(東洋紡績(株)社製、商品名:コスモシャインA4300―188)に、硬化後の膜厚が5μmとなるように塗布した。
【0028】
次に、塗布した樹脂組成物を110℃で3分間乾燥させ(一次硬化させ)、固体のハードコート層を形成し、成型用フィルムを得た。次に、この成型用フィルムを、型材に押圧し、脱型した。その後、紫外線照射機を用い、紫外線を200mJ/cm2の強度で照射し、ハードコート層の紫外線硬化(二次硬化)を行い、フィルム成型体を完成した。
(c)樹脂組成物及び成型用フィルムの評価
前記(a)〜(b)で製造した樹脂組成物及び成型用フィルムについて、外観、ポットライフ、タック、成型性、及び鉛筆硬度を試験した。試験方法及び評価基準は以下のとおりとした。
(外観)目視で塗膜外観を観察した。塗膜がクリアであれば○と評価し、白化していれば×と評価した。
(ポットライフ)樹脂組成物が常温下でゲル化するまでの時間を測定した。
(タック)PETフィルムに樹脂組成物を塗布し、110℃で3分間乾燥後、人差し指で樹脂組成物に触れて判断した。判断基準は以下のようにした。なお、比較例2のみについては、樹脂組成物が二次硬化した後においても、同様に試験を行った。
【0029】
5:完全にタックなし
4:殆どタックなし
3:概ねタックなし
2:若干タック有り
1:タック残存
(成型性)成型用フィルム(ハードコート層は一次硬化の状態)を成型用の金型に押し当て、クラックが生じなければ○と評価し、クラックが生じれば×と評価した。なお、比較例2のみについては、二次硬化後の成型用フィルムについても同様に試験を行った。
(鉛筆硬度)成型用フィルム(ハードコート層は二次硬化の状態)に対し、JIS K5400に準拠して鉛筆硬度試験を行った。試験は、鉛筆硬度が2Hの場合とHの場合において行った。また、それぞれの鉛筆硬度において、5回試験を行った。5回のうち、ハードコート層に傷が入らなかった回数を上記表1〜表3に記載する。
【0030】
評価結果を上記表1〜表3に示す。表1〜表3に示すように、実施例1−1〜1−18については、ハードコート層の外観は良好であり、樹脂組成物のポットライフは長く、一次硬化した状態のハードコート層にはタックが生じず、成型用フィルムの成型性も良好であった。また、二次硬化した状態のハードコート層は、硬度が高かった。
【0031】
特に、低分子量アミンとポリアミンとを併用した実施例1−1は、低分子量アミンとポリアミンのうちの一方のみを配合した実施例1−8〜1−9よりも、タックが一層生じにくかった。また、感温性触媒を配合した実施例1−1は、感温性触媒を配合していない実施例1−10に比べて、タックが一層生じにくかった。
【実施例2】
【0032】
基本的には前記実施例1の(a)〜(b)と同様にして、成型用フィルムを製造した。ただし、本実施例2では、ハードコート層を形成し、それを一次硬化させた後、ハードコート層にPVAを塗布し、保護層を形成した。その後、前記実施例1と同様にして、フィルム成型体を得た。最後に、保護層を剥がした。本実施例2では、ハードコート層の上に保護層が形成された状態で成型を行ったので、ハードコート層に傷が付きにくかった。また、保護層を剥がした後、ハードコート層の表面には全く跡が残っていなかった。
【実施例3】
【0033】
基本的には前記実施例1の(a)〜(b)と同様にして、成型用フィルムを製造した。ただし、本実施例3では、ハードコート層を形成し、それを一次硬化させた後、ハードコート層の上に粘着剤付きフィルムを貼付し、保護層を形成した。その後、前記実施例1と同様にして、フィルム成型体を得た。最後に、保護層を剥がした。本実施例3では、ハードコート層の上に保護層が形成された状態で成型を行ったので、ハードコート層に傷が付きにくかった。ただし、保護層を剥がした後、ハードコート層の表面には、やや粘着剤が残っていた。
【実施例4】
【0034】
基本的には前記実施例1の(a)〜(b)と同様にして、成型用フィルムを製造した。ただし、本実施例では、樹脂組成物を塗布するフィルム基材として、離型PETフィルム(東洋紡績(株)製、商品名:TN110)を用いた。この離型PETフィルムは離型処理が施されており、後に、樹脂組成物から成る層(ハードコート層)を容易に離型させることができる。
本実施例の成型用フィルムは、転写フィルムとして使用することができる。転写フィルムは、例えば、以下のように使用することができる。まず、成型用フィルムのうち、ハードコート層が形成された側を成型材料側に当接させ、成型を行う。このとき、ハードコート層は一次硬化した状態である。次に、離型PETフィルムを取り去る。このとき、成型材料の表面にハードコート層が貼付されている。次に、紫外線を照射し、ハードコート層を二次硬化させる。また、本実施例の成型用フィルムは、インモールド射出成型に用いることもできる。
【0035】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1・・・樹脂組成物、2・・・ハードコート層、5・・・成型用フィルム、
6・・・フィルム成型体、9・・・フィルム基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物、およびアクリロイル基へ付加反応可能な化合物を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリロイル基へ付加反応可能な化合物として、アミン化合物を含有することを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記アミン化合物として、低分子量アミンおよびポリアミンを含有することを特徴とする請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに感温性触媒を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物を含むハードコート剤。
【請求項6】
フィルム基材上に請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物から成るハードコート層が形成されたことを特徴とするフィルム。
【請求項7】
前記ハードコート層が一次硬化された状態にあることを特徴とする請求項6記載のフィルム。
【請求項8】
前記ハードコート層よりも上層に保護層を備えることを特徴とする請求項6又は7記載のフィルム。
【請求項9】
前記保護層は、溶媒に溶解または分散した樹脂を前記ハードコート層に塗布した後、前記溶媒を揮発させることによって形成されたものであることを特徴とする請求項8記載のフィルム。
【請求項10】
前記保護層を形成する樹脂として、ポリビニルアルコールを含有することを特徴とする請求項9記載のフィルム。
【請求項11】
前記フィルム基材に離型処理が行われており、前記ハードコート層を転写可能なことを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載のフィルム。
【請求項12】
型材に押圧され、成型されたことを特徴とする請求項6〜11のいずれかに記載のフィルム。
【請求項13】
前記ハードコート層が活性エネルギー線により二次硬化した状態にあることを特徴とする6〜12のいずれかに記載のフィルム。
【請求項14】
請求項6〜11のいずれかに記載のフィルムを型材に押圧し、脱型後、活性エネルギー線により前記ハードコート層を二次硬化させることを特徴とする成型体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−84120(P2010−84120A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72151(P2009−72151)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】