説明

樹脂組成物、プリプレグ、金属箔張積層板、及びプリント配線板

【課題】シアネートエステル化合物とエポキシ樹脂とを含有する樹脂組成物において、硬化時にシアネートエステル基が臭素の攻撃を受けてトリアジン環やオキサゾリン環の生成が阻害されるという問題を解消しつつ、硬化物に難燃性を付与する。
【解決手段】(A)1分子中に2つ以上のシアネートエステル基を有し、数平均分子量が300〜5000の芳香族化合物であるシアネートエステル化合物、(B)1分子中に2つ以上のエポキシ基を有し、臭素濃度が0.5質量%未満のエポキシ樹脂、及び、(C)融点が300℃以上の臭素化合物を含有する樹脂組成物を、プリプレグ、金属箔張積層板、及びプリント配線板の絶縁材料に用いると、プリプレグ、金属箔張積層板、及びプリント配線板の難燃性と高耐熱性とが確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の絶縁材料等に好適に用いられる樹脂組成物、樹脂組成物を用いたプリプレグ、プリプレグを用いた金属箔張積層板、及びプリプレグ又は金属箔張積層板を用いたプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板の絶縁材料等に好適に用いられる樹脂組成物として、シアネートエステル化合物とエポキシ樹脂とを含有するものがある(特許文献1参照)。
【0003】
一般に、シアネートエステル化合物とエポキシ樹脂とを併用すると、シアネートエステル化合物の三量化によるトリアジン環の生成、シアネートエステル化合物とエポキシ樹脂との環化反応によるオキサゾリン環の生成、エポキシ樹脂の自重合によるエポキシ自重合体の生成等が混在して起って、樹脂の架橋密度が高くなり、剛直な構造が形成され、硬化物のガラス転移温度が高くなり、硬化物の耐熱性が向上することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−302767号公報(段落0007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、硬化物に難燃性を付与するために、エポキシ樹脂として臭素化エポキシ樹脂が用いられることがある。しかし、硬化時の温度(例えば250℃付近等)によっては、臭素化エポキシ樹脂から臭素が脱離し、脱離した臭素がシアネートエステル基に作用して、シアネートエステル基が分解し、トリアジン環やオキサゾリン環の生成が阻害されて、硬化物の耐熱性が低下するという不具合がある。
【0006】
そこで、本発明は、シアネートエステル化合物とエポキシ樹脂とを含有する樹脂組成物において、硬化時にシアネートエステル基が臭素の攻撃を受けて(臭素と相互作用して)トリアジン環やオキサゾリン環の生成が阻害されるという問題を解消しつつ、硬化物に難燃性を付与することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、(A)1分子中に2つ以上のシアネートエステル基を有し、数平均分子量が300〜5000の芳香族化合物であるシアネートエステル化合物、(B)1分子中に2つ以上のエポキシ基を有し、臭素濃度が0.5質量%未満のエポキシ樹脂、及び、(C)融点が300℃以上の臭素化合物を含有する樹脂組成物である。
【0008】
この構成によれば、(A)シアネートエステル化合物と(B)エポキシ樹脂とを含有する樹脂組成物において、(C)融点が300℃以上の臭素化合物を配合するので、この臭素化合物が、融点が高く熱的に安定な臭素系の難燃材として機能する。この種の臭素系難燃材において、臭素は、一般に、燃焼時に燃焼反応の中心的な役割をするOHラジカルやHラジカルを捕捉して燃焼を抑制するように働く。
【0009】
そして、この(C)臭素化合物は、融点が300℃以上あるので、硬化時の温度(例えば250℃付近等)によっては容易に分解せず、臭素が容易に遊離しない。その結果、遊離した臭素がシアネートエステル基に作用して、シアネートエステル基が分解し、トリアジン環やオキサゾリン環の生成が阻害されて、硬化物の耐熱性が低下するという不具合が解消される。
【0010】
しかも、(A)シアネートエステル化合物は、数平均分子量が300〜5000の芳香族化合物であるから、樹脂の粘度と硬化物の耐熱性との良好な均衡が図られる。
【0011】
本発明では、樹脂組成物中の(C)臭素化合物の含有量は、10〜30質量%であることが、燃焼時の耐熱性と硬化時の臭素の遊離量との均衡の観点から好ましい。
【0012】
本発明では、(D)無機系吸着剤を含有することが好ましい。その理由は次の通りである。
【0013】
すなわち、難燃材として融点が高い臭素化合物(C)を用いても、硬化時の温度によっては、一部の臭素が臭素化合物(C)から遊離してシアネートエステル基を攻撃する(シアネートエステル基と相互作用する)可能性があるので、硬化物の耐熱性低下の問題が完全に解消されたとはいえない場合がある。そこで、難燃材として融点が高い臭素化合物(C)を配合した場合に、その臭素化合物(C)から遊離した臭素のシアネートエステル基への攻撃(シアネートエステル基との相互作用)を確実に防止して、硬化物の耐熱性低下の問題を満足に解消することがより望ましい。そのために、(D)無機系吸着剤を配合すると、この無機系吸着剤が、臭素化合物から遊離した臭素を捕捉してシアネートエステル基への攻撃(臭素とシアネートエステル基との相互作用)を確実に防止し、その結果、硬化物の耐熱性低下の問題が満足に解消することとなる。しかも、吸着剤自体が無機系なので耐熱性に優れ、硬化時の温度によって吸着能力が劣化することもない。
【0014】
本発明では、(E)硬化促進剤を含有することが、シアネートエステル化合物の三量化反応、シアネートエステル化合物とエポキシ樹脂との環化反応、エポキシ樹脂の自重合反応が促進されるので好ましい。
【0015】
本発明では、(F)無機フィラーを含有することが、硬化物の耐熱性や難燃性がより一層向上するので好ましい。
【0016】
本発明の他の局面は、上記構成の樹脂組成物が繊維質基材に含浸されて得られたプリプレグであり、該プリプレグに金属箔が積層されて得られた金属箔張積層板であり、該金属箔張積層板の金属箔が部分的に除去され回路が形成されて得られたプリント配線板であり、上記プリプレグに回路が形成されて得られたプリント配線板である。
【0017】
これらの構成によれば、プリプレグ、金属箔張積層板、及びプリント配線板の難燃性と高耐熱性とが確保される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シアネートエステル化合物とエポキシ樹脂とを含有する樹脂組成物において、硬化時にシアネートエステル基が臭素の攻撃を受けて(臭素と相互作用して)トリアジン環やオキサゾリン環の生成が阻害されるという問題を解消しつつ、硬化物に難燃性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の樹脂組成物は、基本的構成として、(A)1分子中に2つ以上のシアネートエステル基を有し、数平均分子量が300〜5000の芳香族化合物であるシアネートエステル化合物と、(B)1分子中に2つ以上のエポキシ基を有し、臭素濃度が0.5質量%未満のエポキシ樹脂と、(C)融点が300℃以上の臭素化合物とを含有する。その場合に、樹脂組成物中の(C)臭素化合物の含有量は、例えば、10〜30質量%であってよい。また、本発明の樹脂組成物は、さらに、(D)無機系吸着剤や、(E)硬化促進剤、あるいは(F)無機フィラー等を含有することもできる。
【0020】
(A)1分子中に2つ以上のシアネートエステル基を有するシアネートエステル化合物としては、例えば、1分子中に2つ以上のシアネートエステル基(−OCN)を有する、ビスフェノールA型や、ビスフェノールF型や、ビスフェノールS型等のビスフェノール型シアネートエステル化合物、フェノールノボラック型や、クレゾールノボラック型や、ビスフェノールAノボラック型や、ジシクロペンタジエンノボラック型や、ナフタレンノボラック型等のノボラック型シアネートエステル化合物、脂環式シアネートエステル化合物、複素環式シアネートエステル化合物等が挙げられる。これらは状況に応じて1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、本発明では、これらのうち、芳香族化合物であるシアネートエステル化合物を用いる。
【0021】
シアネートエステル化合物を用いることにより、樹脂の架橋密度が高くなり、剛直な構造が形成され、硬化物のガラス転移温度が高くなり、硬化物の耐熱性が向上する。また、シアネートエステル化合物は、低粘度であるため、ワニス(樹脂溶液)ひいては樹脂組成物の流動性及び基材への含浸性が向上する。
【0022】
シアネートエステル基の数は1分子中に2つ以上であるが、シアネートエステル化合物の製造や取扱いを考慮すれば、1分子中に5つ以下が好ましく、3つ以下がより好ましい。
【0023】
シアネートエステル化合物は、数平均分子量が300〜5000の芳香族化合物である。シアネートエステル化合物の数平均分子量が300未満の場合は、硬化物の耐熱性が不足気味となり、5000超の場合は、樹脂の粘度が高くなり過ぎる。また、シアネートエステル化合物が芳香族化合物であることにより、硬化物の剛直さがより一層図られる。
【0024】
(B)1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、例えば、1分子中に2つ以上のエポキシ基を有する、ビスフェノールA型や、ビスフェノールF型や、ビスフェノールS型等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型や、クレゾールノボラック型や、ビスフェノールAノボラック型や、ジシクロペンタジエンノボラック型や、ナフタレンノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレ−トや、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートや、1−エポキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂、1,3−ジグリシジル−5,5−ジメチルヒダントインや、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環式エポキシ樹脂、フタル酸ジグリシジルエステルや、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルや、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル類、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンや、トリグリシジルP−アミノフェノールや、N,N−ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミン類等が挙げられる。これらは状況に応じて1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
エポキシ樹脂の臭素濃度が0.5質量%未満なので、このエポキシ樹脂は実質的に非臭素化エポキシ樹脂であり、硬化物に難燃性を付与するものではない。したがって、硬化時の温度によってエポキシ樹脂から臭素が脱離する問題は、このエポキシ樹脂に関しては、ほとんどない。
【0026】
エポキシ基の数は1分子中に2つ以上であるが、エポキシ樹脂の製造や取扱いを考慮すれば、1分子中に5つ以下が好ましく、3つ以下がより好ましい。
【0027】
樹脂組成物中における(A)シアネートエステル化合物と(B)エポキシ樹脂との合計量(樹脂成分量)の含有量は、例えば、30〜90質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましく、50〜70質量%がさらに好ましい。
【0028】
樹脂成分中における(A)シアネートエステル化合物と(B)エポキシ樹脂との配合比率は、例えば、3:7〜7:3が好ましく、4:6〜6:4がより好ましく、5:5近傍がさらに好ましい。
【0029】
(C)融点が300℃以上の臭素化合物としては、例えば、アルベマール日本株式会社から市場で商業的に入手し得る臭素系難燃剤等が挙げられる。好ましい例としては、商品名「SAYTEX 8010」(エチレンビスペンタブロモフェニル:融点350℃)、商品名「SAYTEX BT−93」(エチレンビステトラブロモフタルイミド:融点456℃)、商品名「SAYTEX 102E」(デカブロモジフェニルオキサイド:融点304℃)、商品名「SAYTEX 120」(テトラデカブロモジフェノキシベンゼン:融点382℃)等がある。これらは状況に応じて1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
この種の臭素系難燃材において、臭素は、燃焼時に燃焼反応の中心的な役割をするOHラジカルやHラジカルを捕捉して燃焼を抑制するように働く。したがって、この臭素化合物を用いることにより、硬化物に良好な難燃性が付与される。しかも、融点が300℃以上なので、硬化時の温度(例えば250℃付近等)によって臭素化合物から臭素が遊離する問題は、この臭素化合物に関しては、ほとんどない。ただし、一部の臭素が臭素化合物から遊離する可能性は残る。しかし、たとえ遊離したとしても、後述するように、(D)無機系吸着剤によって捕捉されるため、遊離した臭素が引き起こす問題(遊離臭素がシアネートエステル化合物のシアネートエステル基を攻撃して硬化物の耐熱性が低下する不具合)は解消される。
【0031】
樹脂組成物中の(C)臭素化合物の含有量は、例えば、10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましく、20%近傍がさらに好ましい。含有量が10質量%未満の場合は、燃焼時の耐熱性が不足気味となり、含有量が30質量%超の場合は、硬化時の臭素の遊離量が多くなり過ぎる。
【0032】
なお、臭素化合物は、硬化時に臭素化合物から臭素が遊離する問題を低減する目的に照らして、後述するワニスの調製時に用いる有機溶媒に不溶性であることが好ましい。
【0033】
(D)無機系吸着剤としては、例えば、東亜合成株式会社から「IXE(登録商標)」の商品名で市場で商業的に入手し得るイオン交換体(陽イオン交換タイプ、陰イオン交換タイプ、両イオン交換タイプ:ジルコニウム系、アンチモン系、ビスマス系、マグネシウム系、アルミニウム系)や、ユニオン昭和株式会社から「ABSCENTS」、「SMELLRITE」、「HiSiv」、「DDZ−70」等の商品名で市場で商業的に入手し得るモレキュラーシーブ(シリカゼオライト系)等が挙げられる。これらは状況に応じて1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
この無機系吸着剤が、硬化時等に、臭素化合物から遊離した臭素又はエポキシ樹脂から脱離した臭素を捕捉するので、臭素がシアネートエステル化合物のシアネートエステル基を攻撃する(シアネートエステル基と相互作用する)ことが確実に防止され、硬化物の耐熱性低下の問題が満足に解消する。しかも、この吸着剤自体が無機系なので、耐熱性に優れ、硬化時の温度によって吸着能力が劣化することがない。
【0035】
樹脂組成物中の(D)無機系吸着剤の含有量は、例えば、3〜10質量%が好ましい。
【0036】
(E)硬化促進剤としては、例えば、オクタン酸や、ステアリン酸や、アセチルアセトネートや、ナフテン酸や、サリチル酸等の有機酸のZnや、Cuや、Fe等の有機金属塩、トリエチルアミンや、トリエタノールアミン等の3級アミン、2−メチルイミダゾールや、2−エチル−4−メチルイミダゾールや、2−ウンデシルイミダゾールや、2−ヘプタデシルイミダゾールや、2−フェニルイミダゾールや、2−フェニル−4−メチルイミダゾールや、2−フェニル6−4’,5’−ジヒドロキシメチルイミダゾールや、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。これらは状況に応じて1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、有機金属塩、特にオクタン酸亜鉛が高い耐熱性が得られる観点から特に好ましく用いられる。
【0037】
硬化促進剤を用いることにより、シアネートエステル化合物の三量化反応、シアネートエステル化合物とエポキシ樹脂との環化反応、エポキシ樹脂の自重合反応が促進される。
【0038】
樹脂組成物中の(E)硬化促進剤の含有量は、例えば、0.005〜0.1質量%が好ましい。
【0039】
(F)無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、酸化チタン、マイカ、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の他、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、チタン、アルミニウム、ニッケル、鉄、コバルト、クロムからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属元素を含む複合金属酸化物等が挙げられる。これらは状況に応じて1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等が難燃性に特に優れている観点から特に好ましく用いられる。
【0040】
無機フィラーを用いることにより、硬化物の耐熱性や難燃性がより一層向上する。
【0041】
樹脂組成物中の(F)無機フィラーの含有量は、例えば、20〜200質量%が好ましい。
【0042】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、さらに、難燃助剤、酸化防止剤、流動改質剤、滑剤、シランカップリング剤、着色剤等の(G)その他の添加剤が配合されてもよい。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材(繊維質基材)に含浸する目的でワニス(樹脂溶液)に調製して用いられる。このようなワニスは、例えば、次のようにして調製される。
【0044】
まず、(A)シアネートエステル化合物及び(B)エポキシ樹脂(樹脂成分)を有機溶媒に投入して溶解させる。このとき、必要に応じて、加熱してもよい。有機溶媒としては、樹脂成分を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエンやメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
【0045】
次いで、残りの(C)〜(F)成分及びその他の添加剤を投入して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、本発明の樹脂組成物のワニスが調製される。
【0046】
得られたワニスを用いてプリプレグを製造する方法としては、例えば、前記ワニスを繊維質基材に含浸させた後、乾燥させる方法が挙げられる。
【0047】
前記繊維質基材としては、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙等が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。偏平処理加工としては、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮することにより行うことができる。なお、前記繊維質基材の厚みとしては、例えば、0.04〜0.3mmのものを一般的に使用できる。
【0048】
前記含浸は、浸漬(ディッピング)、及び塗布等によって行われる。前記含浸は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の溶液を用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする組成及び樹脂成分量に調整することも可能である。
【0049】
前記樹脂組成物が含浸された繊維質基材は、所望の加熱条件、例えば、80〜170℃で1〜10分間加熱されることにより半硬化状態(Bステージ)のプリプレグが得られる。
【0050】
このようにして得られたプリプレグを用いて金属箔張積層板を作製する方法としては、前記プリプレグを一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面に銅箔(電解銅箔や圧延銅箔)等の金属箔を重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの金属箔張積層板を作製することができるものである。加熱加圧条件は、製造する積層板の厚みやプリプレグの樹脂組成物の種類等により適宜設定することができるが、例えば、温度を170〜210℃、圧力を2.0〜4.0MPa、時間を60〜150分間等とすることができる。
【0051】
そして、作製された金属箔張積層板の表面の金属箔をエッチング加工等により部分的に除去して回路を形成することによって、積層板の表面に回路として導体パターンを設けたプリント配線板を得ることができるものである。このように得られるプリント配線板は、誘電特性に優れており、かつ、高い耐熱性と難燃性とを備えたものである。
【0052】
あるいは、前記プリプレグに、直接、金属導体ペーストの印刷や金属メッキ等をして回路を形成することにより、金属箔張積層板を経由せずにプリント配線板を得ることもできる。
【0053】
以下、実施例を通して本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
はじめに、本実施例で用いた原材料をまとめて示す。
(A)シアネートエステル化合物1
・ロンザジャパン社製のビスフェノールA型シアネートエステル樹脂「BADCY」(2,2−ビス(4−シアナートフェニル)プロパン:数平均分子量350)
(A)シアネートエステル化合物2
・ハンツマンジャパン社製の「XU366」(数平均分子量550)
(B)エポキシ樹脂1
・DIC社製の非臭素化エポキシ樹脂「HP−7200」(ジシクロペンタジエン型:数平均分子量550)
(B)エポキシ樹脂2
・DIC社製の非臭素化エポキシ樹脂「EPICLON−830S」(ビスフェノールF型:数平均分子量350)
(B)エポキシ樹脂3
・DIC社製の非臭素化エポキシ樹脂「EPICLON−N775」(ノボラック型:数平均分子量600)
(B)エポキシ樹脂4
・DIC社製の臭素化エポキシ樹脂「EPICLON−153」(数平均分子量600)
(C)臭素化合物1
・アルベマール社製の高融点臭素系難燃剤「SAYTEX 8010」(エチレンビスペンタブロモフェニル:融点350℃)
(C)臭素化合物2
・アルベマール社製の高融点臭素系難燃剤「SAYTEX BT−93」(エチレンビステトラブロモフタルイミド:融点456℃)
(C)臭素化合物3
・アルベマール社製の低融点臭素系難燃剤「SAYTEX CP−2000」(テトラブロモビスフェノールA:融点181℃)
(D)無機系吸着剤1
・東亜合成社製の無機系イオン交換体「IXE(登録商標)−6107」(両イオン交換タイプ:ジルコニウム−ビスマス系)
(D)無機系吸着剤2
・ユニオン昭和社製の無機系モレキュラーシーブ「HiSiv3000」(シリカゼオライト系)
(E)硬化促進剤1
・DIC社製のオクタン酸亜鉛(亜鉛濃度18%)
(E)硬化促進剤2
・四国化成社製の「2E4MZ」(2−エチル−4−メチルイミダゾール)
(F)無機フィラー
・アドマテックス社製の「SO25R」(球状シリカSiO
(G)その他の添加剤
・アデカ社製の有機系酸化防止剤「アデカスタブAO−330」(フェノール系)
【0055】
(実施例1〜10及び比較例1、2)
表1に示した配合比率で樹脂成分(A)及び(B)をメチルエチルケトンに投入して溶解させ、次いで、表1に示した配合比率でその他の成分を投入して、ビーズミルを用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、実施例1〜10及び比較例1、2の樹脂組成物のワニス(ワニス中の樹脂組成物の含有量は50質量%)を調製した。
【0056】
得られたワニスを用いてプリプレグを作製した。すなわち、ガラスクロス(♯2116タイプ)にワニスを含浸させ、これをオーブンに投入し、150℃で3〜8分間加熱して乾燥させることにより、樹脂成分が半硬化状態(Bステージ)のプリプレグ(プリプレグ中の樹脂成分量は40〜45質量%)を作製した。
【0057】
得られたプリプレグを用いて金属箔張積層板を作製した。すなわち、プリプレグを4枚重ね、両面に銅箔(JTC、日鉱金属製)を重ね合わせて、200℃で120分間、2.94MPaでプレス成形することにより、両面銅箔張りの金属箔張積層板(厚みは0.4mm)を作製した。
【0058】
得られた金属箔張積層板を用いて、粘弾性スペクトロメータ(エスアイアイナノテクノロジ製)を用いて動的粘弾性挙動を測定し、tanδのピーク値からガラス転移温度を求めた。
【0059】
得られた金属箔張積層板を用いて、JIS C6481に準拠して供試体を作製し、この供試体について、オーブン耐熱性を評価した。すなわち、所定温度に設定した空気循環装置付き恒温槽中で60分間処理したときに、供試体の積層板や金属箔(銅箔)にふくれやはがれが生じなかったときの最高温度を決定した。
【0060】
得られた金属箔張積層板の金属箔(銅箔)をエッチングにより除去して作製した供試体について、UL−94規格準拠の試験方法にて、難燃性を評価した。
【0061】
結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、(A)1分子中に2つ以上のシアネートエステル基を有し、数平均分子量が300〜5000の芳香族化合物であるシアネートエステル化合物、(B)1分子中に2つ以上のエポキシ基を有し、臭素濃度が0.5質量%未満のエポキシ樹脂、及び、(C)融点が300℃以上の臭素化合物を含有する実施例1〜10は、すべて、高耐熱性と難燃性とが確保されていた。
【0064】
特に、(D)無機系吸着剤をさらに含有する実施例1及び2は、(F)無機フィラー等を配合しなくても、硬化物は十分高い耐熱性(オーブン耐熱性)を具備していた。これは、(D)無機系吸着剤が、(C)臭素化合物から遊離した臭素を捕捉して、(A)シアネートエステル化合物のシアネートエステル基への臭素の攻撃(臭素とシアネートエステル基との相互作用)を確実に防止したためと考察される。また、その際、(D)吸着剤自体が無機系なので、耐熱性に優れ、高温化で吸着能力が劣化することもなかったためと考察される。
【0065】
これに対し、低融点の臭素化合物を用いた比較例1と、難燃剤として臭素化合物を用いず、臭素化エポキシ樹脂を用いた比較例2とは、臭素化合物からの臭素の遊離量又は臭素化エポキシ樹脂からの臭素の脱離量が多くなったため、硬化物の耐熱性(オーブン耐熱性)が実施例1〜10に比べて顕著に低かった。
【0066】
なお、(G)その他の添加剤として有機系酸化防止剤を用いた実施例6は、ガラス転移温度の低下が見られた。これは、有機系酸化防止剤に含まれるフェノール性の水酸基が影響したものと考察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に2つ以上のシアネートエステル基を有し、数平均分子量が300〜5000の芳香族化合物であるシアネートエステル化合物、(B)1分子中に2つ以上のエポキシ基を有し、臭素濃度が0.5質量%未満のエポキシ樹脂、及び、(C)融点が300℃以上の臭素化合物を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物中の(C)臭素化合物の含有量は、10〜30質量%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(D)無機系吸着剤を含有する請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(E)硬化促進剤を含有する請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(F)無機フィラーを含有する請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の樹脂組成物が繊維質基材に含浸されて得られたプリプレグ。
【請求項7】
請求項6に記載のプリプレグに金属箔が積層されて得られた金属箔張積層板。
【請求項8】
請求項7に記載の金属箔張積層板の金属箔が部分的に除去され回路が形成されて得られたプリント配線板。
【請求項9】
請求項6に記載のプリプレグに回路が形成されて得られたプリント配線板。

【公開番号】特開2011−74210(P2011−74210A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226875(P2009−226875)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】