説明

樹脂組成物、レーザー彫刻用印刷原版、及び印刷版

【課題】環境面に配慮されており、レーザー彫刻により高解像度なパターン形成が可能な印刷原版用の樹脂組成物、印刷原版及び当該印刷原版にパターン形成した印刷版を提供する。
【解決手段】数平均分子量が300〜300,000である樹脂(a)、重合性不飽和基を有し、数平均分子量が10,000未満である、前記樹脂(a)とは異なる有機化合物(b)、平均1次粒径が35nm以上70nm以下であり、pHが1以上6以下であるカーボンブラック(c)を含有する樹脂組成物、当該樹脂組成物の硬化物により構成されている樹脂層を有するレーザー彫刻用の印刷原版、当該印刷原版の樹脂層にレーザー彫刻により凹凸パターンを形成した印刷版を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、当該樹脂組成物により形成された印刷原版、及び当該印刷原版にパターン形成を行った印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フィルム等の軟包装に対する印刷方法として、フレキソ印刷やグラビア印刷が広汎に用いられている。
グラビア印刷においては一般に金属製の凹版が使用される。この凹版の表面には、通常、クロムメッキ層が設けられている。この金属製の凹版は磨耗に強く耐久性の高いものであるが、製版工程が非常に複雑であり、またメッキ工程等で大量の廃水処理が必要となるという問題点を有している。
特許文献1には、熱可塑性樹脂をベースとした樹脂層に対して直接レーザーで描画して凹版を作製し、この凹版を利用してグラビア印刷を行う方法が提案されている。
また、特許文献2には、フレキソ印刷分野における高解像度レーザー彫刻用印刷版として、伝導性カーボンブラックをレーザー吸収剤として使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−276837号公報
【特許文献2】国際公開第2004/091927号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、熱可塑性樹脂、ニトロセルロース、カーボンブラックを含有する組成物により樹脂層を形成する旨が記載されているが、版を形成する工程で多量の溶剤を使用するため、環境上の観点からは好ましく無く、また、厚膜の印刷版を作製することが極めて困難であるという問題を有している。
【0005】
また、特許文献2には、少なくとも150mL/100gのDBP吸油量を有する伝導性カーボンブラックを用いたフレキソ印刷版が開示されているが、伝導性カーボンブラックの1次凝集体が大きく、彫刻を行う際に1次凝集体が欠けると所望の印刷パターンが得られず、高解像度の彫刻を実現することは困難であるという問題を有している。
【0006】
また、印刷原版を製造する際に、一般的なバインダーを用いた場合、粘度が高いため、高温で成形する必要があるが、樹脂組成物中に熱重合開始剤が含有されている場合には、架橋が進行するため、所望の形状に成形することが困難な場合が多い。
樹脂組成物に熱重合開始剤を含有させない場合には、電子線等により架橋をする必要があるが、電子線を用いると架橋反応だけではなく分解反応も起きるため、硬度が低下したり、気泡が発生したりし、高解像度のレーザー彫刻を行うことが困難になるという問題がある。
【0007】
上述したことから、製版工程で溶剤を必要とせず、近赤外線以下の波長領域のレーザーにより高解像度な彫刻が可能な樹脂製印刷原版の開発が求められている。
そこで本発明においては、環境面から好ましく、かつレーザー彫刻により高解像度なパターン形成が可能な印刷原版用の樹脂組成物、印刷原版及び当該印刷原版にパターン形成した印刷版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記従来の問題を解決するために鋭意研究を行った結果、樹脂、有機化合物及びカーボンブラックの特定の組み合わせによる樹脂組成物により、上記従来技術の問題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
〔1〕数平均分子量が300〜300,000である樹脂(a)、重合性不飽和基を有し、数平均分子量が10,000未満である、前記樹脂(a)とは異なる有機化合物(b)、平均一次粒径が35nm以上70nm以下であり、pHが1以上6以下であるカーボンブラック(c)を含有する樹脂組成物を提供する。
【0010】
〔2〕熱重合開始剤(d)を、さらに含有する前記〔1〕に記載の樹脂組成物を提供する。
【0011】
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂組成物の硬化物により構成されている樹脂層を具備するレーザー彫刻用の印刷原版を提供する。
【0012】
〔4〕前記樹脂層は、前記樹脂組成物の熱硬化物により構成されている前記〔3〕に記載のレーザー彫刻用の印刷原版を提供する。
【0013】
〔5〕前記樹脂層は、前記樹脂組成物を80℃以上250℃以下で熱硬化させた熱硬化物により構成されている前記〔4〕に記載のレーザー彫刻用の印刷原版を提供する。
【0014】
〔6〕前記〔3〕乃至〔5〕のいずれか一項に記載の印刷原版の前記樹脂層に、レーザー彫刻により凹凸パターンが形成されている印刷版を提供する。
【0015】
〔7〕前記凹凸パターンが、発振波長が2μm以下のレーザー彫刻により形成されたものである前記〔6〕に記載の印刷版を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、近赤外線レーザー彫刻により高解像度のパターン形成が可能な印刷原版用の樹脂組成物、印刷原版及び当該印刷原版を用いた印刷版を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について説明するが、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0018】
〔樹脂組成物〕
本実施形態の樹脂組成物は、下記樹脂(a)、有機化合物(b)、カーボンブラック(c)を含有する樹脂組成物である。
樹脂(a):数平均分子量が300〜300,000である樹脂。
有機化合物(b):重合性不飽和基を有し、数平均分子量が10,000未満である、前記樹脂(a)とは異なる有機化合物。
カーボンブラック(c):平均一次粒径が35nm以上70nm以下であり、pHが1以上6以下であるカーボンブラック。
以下、これらについて説明する。
【0019】
(樹脂(a))
樹脂(a)は、数平均分子量が300以上30万以下、好ましくは500以上20万以下、より好ましくは1000以上10万以下の樹脂である。
数平均分子量を300以上とすることにより、後述する印刷原版及び印刷版において、繰り返し使用に対する耐久性が得られる。
また、数平均分子量を30万以下とすることにより、樹脂組成物の成形加工時における粘度の過度な上昇を抑制でき、熱重合開始反応が起こらない温度で、所望の形状、例えば円筒状に印刷原版を容易に形成できるという効果が得られる。
なお、数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0020】
樹脂(a)は、分子内に重合性不飽和基を有することが好ましい。
ここで「重合性不飽和基」とは、ラジカル重合反応又は付加重合反応に関与する重合性官能基を意味する。
重合性不飽和基の位置は、高分子主鎖の末端、高分子側鎖の末端、あるいは高分子主鎖中や側鎖中に直接結合していることが好ましい。
樹脂(a)1分子に含まれる重合性不飽和基の個数の平均は、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)による分子構造解析法で求められる。重合性不飽和基の数は、1分子あたり平均で0.3個以上が好ましい。
樹脂(a)が、1分子あたり平均で0.3個以上の重合性不飽和基を有しているものとすることにより、後述する印刷原版及び印刷版において、実用上十分な機械的強度、良好な耐久性が得られる。
また、後述する印刷原版及び印刷版において、十分な機械強度を得る観点から、樹脂(a)中の重合性不飽和基の個数は1分子あたり平均で0.5個以上がより好ましく、平均で0.7個以上がさらに好ましい。さらに、硬化後の機械的物性が向上すること、重合性不飽和基を付与するプロセスが簡便である観点から、樹脂(a)中の重合性不飽和基の個数は1分子あたり平均で2個以下が好ましい。
【0021】
樹脂(a)の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類;ポリブタジエン、ポリイソプレン等のポリジエン類;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリハロオレフィン類;ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類;ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルエーテル等のC−C連鎖高分子、その他、ポリフェニレンエーテル等のポリエーテル類;ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリアミド、ポリウレア、ポリイミド等の主鎖にヘテロ原子を有する重合体等が挙げられる。
樹脂(a)としては、上記重合体を単独で用いてもよく、2種以上の重合体を併用してもよい。2種以上の重合体を用いる場合の形態としては、共重合体であっても混合物であってもよい。
【0022】
樹脂(a)は分子内に、カーボネート結合、ウレタン結合、エステル結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を有していることが好ましい。これにより、後述する印刷原版及び印刷版の、芳香族炭化水素やエステル等の有機溶剤に対する耐溶剤性の向上効果が得られる。
【0023】
(樹脂(a)の製造方法)
樹脂(a)の製造方法については、特に限定されるものではない。
例えば、カーボネート結合を有する化合物、エステル結合を有する化合物であって、かつ、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、アルコキシカルボニル基等の反応性基を1つ又は2つ以上有する数千程度の分子量の化合物と、上記反応性基と結合し得る官能基を複数有する化合物(例えば、水酸基やアミノ基等を有するポリイソシアネート等)とを反応させ、分子量の調節及び分子末端の結合性基への変換等を行い、その後、この末端結合性基と反応し得る官能基と重合性不飽和基を有する有機化合物とを反応させて、末端に重合性不飽和基を導入する方法等が挙げられる。
分子量の調節は、反応性基を1つ又は2つ以上有する数千程度の分子量の化合物と、上記反応性基と結合し得る官能基を複数有する化合物の量比を調節することにより行う。
【0024】
樹脂(a)の製造に用いられるカーボネート結合を有する化合物としては、例えば、4,6−ポリアルキレンカーボネートジオール、8,9−ポリアルキレンカーボネートジオール、5,6−ポリアルキレンカーボネートジオール等の脂肪族ポリカーボネートジオール、芳香族系分子構造を分子内に有する脂肪族ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
なお、前記ポリカーボネートジオールは、対応するジオールから、公知の方法(例えば、特公平5−29648号公報)により製造できる。
これらの化合物が有する反応性基に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、トリフェニルメタントリイソシアネート、1−メチルベンゼン―2,4,6―トリイソシアネート、ナフタリン−1,3,7−トリイソシアネート、ビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネート等のトリイソシアネート化合物を縮合反応させることにより、ウレタン結合を導入するとともに、高分子量化させることができる。さらに、末端の水酸基やイソシアネート基等の反応性基は、重合性不飽和基を導入するために用いることもできる。
【0025】
樹脂(a)の製造に用いられるエステル結合を有する化合物としては、例えば、アジピン酸、フタル酸、マロン酸、コハク酸、イタコン酸、シュウ酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼラン酸、セバシン酸、フマル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸化合物と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ピコナール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール等の分子内に2個以上の水酸基を有する化合物とを縮合反応させて得られるポリエステル類、ポリカプロラクトン等のポリエステル類等が挙げられる。
これらの化合物が有する反応性基に、ジイソシアネート化合物を縮合反応させることにより、ウレタン結合を導入するとともに、高分子量化させることができる。さらに、末端の水酸基、カルボキシル基あるいはイソシアネート基は、重合性不飽和基を導入するために用いることもできる。
【0026】
樹脂(a)には、ガラス転移温度が20℃以下の液状樹脂成分、より好ましくはガラス転移温度0℃以下の液状樹脂成分が含有されていることが好ましい。
そのような液状樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン等の炭化水素鎖を有する化合物、アジペート、ポリカプロラクトン等のエステル結合を有するポリエステル化合物、脂肪族ポリカーボネート構造を有する化合物、ポリジメチルシロキサン骨格を有する化合物等が挙げられる。
特に、印刷原版から印刷版を製造する際の、レーザー彫刻時の生産性の観点から、ポリカーボネート構造を有する不飽和ポリウレタン類がより好ましい。
なお、液状樹脂とは、容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する高分子体を意味し、外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間に元の形状を回復する性質を有するエラストマーに対応する用語である。
【0027】
(有機化合物(b))
有機化合物(b)は、重合性不飽和基を有し、数平均分子量が10,000未満である、前記樹脂(a)とは異なる有機化合物である。
樹脂(a)との良好な相溶性を確保するために、数平均分子量は1万未満であるものとするが、5000未満がより好ましく、2000未満がさらに好ましい。
また、低揮発性等の取扱性を確保する観点から、有機化合物(b)は、数平均分子量が100以上であることが好ましい。
数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値として求められる。
「重合性不飽和基」とは、ラジカル又は付加重合反応に関与する重合性官能基である。
有機化合物(b)の数平均分子量は、有機化合物(b)を合成する際の原料比、又は反応開始剤と原料との比率、反応温度、反応時間、停止反応の制御等により調製できる。
【0028】
有機化合物(b)は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
有機化合物(b)の含有量は、上述した樹脂(a)100質量部に対して1質量部以上300質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以上250質量部以下、さらに好ましくは10質量部以上200質量部以下である。
有機化合物(b)の含有量が1質量部以上であると、後述する印刷原版において十分な機械的強度が得られる傾向にあるため好ましく、300質量部以下であると、後述する印刷原版の樹脂層において、硬化収縮が低減される傾向にあるため好ましい。
【0029】
有機化合物(b)の一例としては、ラジカル反応性化合物がある。
ラジカル反応性化合物としては、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリールアルコール、アリールイソシアネート等のアリール化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール等が挙げられる。
上記の中では、種類の豊富さ、価格、レーザー光照射時の分解性等の観点から、(メタ)アクリル酸及びその誘導体が好ましい。
アクリル酸及びその誘導体としては、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、シクロアルケン基、ビシクロアルケン基等を有する脂環族化合物、ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基、フルオレン基等を有する芳香族化合物、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、グリシジル基等を有する化合物、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールとのエステル化合物等が挙げられる。
具体的な誘導体としては、後述する印刷原版及び印刷版の強度、レーザー照射時の分解性速度を上げ、生産性の向上を図る観点から、(メタ)アクリロイル基を有し、さらに芳香族基を有する化合物が好ましい。
例えば、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンアクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレート等が挙げられる。
【0030】
また、有機化合物(b)の他の一例としては、付加重合反応するエポキシ基を有する化合物がある。
例えば、種々のジオールやトリオール等のポリオールにエピクロルヒドリンを反応させて得られる化合物、分子中のエチレン結合に過酸を反応させて得られるエポキシ化合物等が挙げられる。
具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物のジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコールアジペート)ジオールジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコールアジペート)ジオールジグリシジルエーテル、ポリ(カプロラクトン)ジオールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物が挙げられる。
【0031】
さらに、有機化合物(b)の他の一例として、多価チオール化合物がある。
多価チオール化合物としては、例えば、アルキル基にメルカプト基が結合したチオール、チオグリコール酸誘導体、及びメルカプトプロピオン酸誘導体等が挙げられる。
特に、チオグリコール酸誘導体やメルカプトプロピオン酸誘導体は、任意のポリオールとグリコール酸やメルカプトプロピオン酸とのエステル化により、さまざまな構造の多価チオールが得られる。
アルキル基にメルカプト基が結合したチオールとしては、o−,m−,p−キシレンジチオール等が挙げられる。
チオグリコール酸誘導体としては、エチレングリコールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、及びペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート等が挙げられる。
メルカプトプロピオン酸誘導体としては、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、及びトリヒドロキシエチルトリイソシアヌール酸トリスチオプロピオネート等が挙げられる。
【0032】
(カーボンブラック(c))
カーボンブラック(c)は、平均1次粒径が35nm以上70nm以下であり、pHが1以上6以下のカーボンブラックである。
平均1次粒径及びpHが上記条件を同時に満たすカーボンブラックを用いることにより、高解像度なレーザー彫刻が可能になる。
一般に、前記樹脂(a)や有機化合物(b)等の有機化合物は、近赤外線領域のレーザー発振波長に対応する吸収度が低い。
そのため、近赤外線領域に波長を持つレーザーを用いて印刷版を製造するためには、当該レーザーの波長領域に吸収を有するレーザー吸収剤を含有させる必要がある。レーザー吸収剤としては、近赤外線領域に波長を持つレーザーに対する吸光度、取扱いの容易さ等の観点から、カーボンブラックが用いられる。
なお、カーボンブラックがレーザーの彫刻時における彫刻閾値を下げることについては、例えば特許文献GB2071574A等に記載されている。
【0033】
カーボンブラック(c)の平均1次粒径は35nm〜70nmであり、好ましくは40nm〜68nmである。高解像度なレーザー彫刻を行うという観点から、カーボンブラック(c)の平均1次粒径は35nm以上70nm以下とする。
カーボンブラック(c)のpHは、1以上6以下であるものとし、好ましくは2以上5.9以下、より好ましくは2.5以上5.8以下であり、さらに好ましくは3以上5.6以下である。
高解像度なレーザー彫刻を行うという観点から、カーボンブラック(c)のpHha1以上6以下とする。
特に、カーボンブラックのpHを3以上3.5以下の範囲とすることにより、樹脂組成物の粘度が低くなり、製造効率の観点から好ましい。
【0034】
カーボンブラック(c)の平均1次粒径は、電子顕微鏡解析における算術平均径の結果から算出できる。
また、カーボンブラック(c)のpHは、ASTM D1512に準じて測定できる。
【0035】
カーボンブラックの具体例としては、東海カーボン社製TB#A700F(平均1次粒径62nm、pH3)(商標)、三菱化学社製MA220(平均1次粒径55nm、pH3)(商標)、三菱化学社製MA14(平均1次粒径40nm、pH3)(商標)、Degussa社製Special Black100(平均1次粒径50nm、pH3)(商標)、Degussa社製の「Special Black250」(商標)(平均1次粒径56nm、pH3)、東海カーボン社製シーストG−SO(平均1次粒径43nm、pH5.6)(商標)、東海カーボン社製シーストG−SVH(平均1次粒径62nm、pH5)(商標)等が挙げられる。
これらを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物中の、前記カーボンブラック(c)の含有量は、樹脂(a)100質量部に対して1質量部以上100質量部以下が好ましく、3質量部以上80質量部以下がより好ましく、5質量部以上60質量部以下がさらに好ましい。
良好なレーザー彫刻性を確保する観点から1質量部以上が好ましく、印刷原版の製造効率の観点から100質量部以下が好ましい。
カーボンブラック(c)の含有量が樹脂(a)100質量部に対して100質量部を超えると、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ、製造性が悪化する。
【0037】
(熱重合開始剤(d))
本実施形態の樹脂組成物に、熱重合開始剤(d)をさらに含有することにより、熱硬化性を付与することができる。
樹脂組成物中の熱重合開始剤(d)の含有量は、樹脂(a)100質量部に対し0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、0.3質量部以上5質量部以下がより好ましく、0.5質量部以上5質量部以下がさらに好ましい。
含有量を上記範囲とすることにより、樹脂組成物の十分な熱硬化が行われ、機械的強度の優れた熱硬化物が得られる。
本実施形態の樹脂組成物により後述する印刷原版を成形する際の温度幅を広く確保するという観点から、熱重合開始剤(d)は、高い熱安定性を有していることが好ましい。
熱重合開始剤(d)の熱安定性は、通常、10時間半減期の温度10h−t1/2の方法によって、即ち、熱重合開始剤(d)の当初の量の50%が、10時間後に分解してフリーラジカルを形成する温度で示される。
これに関する更なる詳細については、「Encyclopedia of Polymer Science and Engineering」,11巻、1頁以降、John Wiley & Sons,ニューヨーク,1988年、に示されている。
上記方法による熱安定性は、少なくとも60℃であることが好ましく、少なくとも70℃であることがより好ましく、80℃〜150℃であることがさらに好ましい。
【0038】
熱重合開始剤(d)としては、熱硬化性の観点及び樹脂組成物との相溶性の観点から、下記の有機過酸化物が好ましい例として挙げられる。
モノパーオキシカーボネート類としては、例えばt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネートが挙げられる。
パーオキシエステル類としては、例えば、過オクタン酸t−ブチル、過オクタン酸t−アミル、パーオキシイソ酪酸t−ブチル、パーオキシマレイン酸t−ブチル、過安息香酸t−アミル、ジパーオキシフタール酸ジ−t−ブチル、過安息香酸t−ブチル、過酢酸t−ブチル及び2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサンが挙げられる。
ジパーオキシケタールとしては、例えば、1,1−ジ(t−アミルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)パーシクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン及びエチル−3,3−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブチレートが挙げられる。
ジアルキルパーオキシドとしては、例えば、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド及び2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサンが挙げられる。
ジアシルパーオキシドとしては、例えば、ジベンゾイルパーオキシド及びジアセチルパーオキシドが挙げられる。
t−アルキルヒドロパーオキシドとしては、例えばt−ブチルヒドロパーオキシド、t−アミルヒドロパーオキシド、ピナンヒドロパーオキシド及びクミルヒドロパーオキシドが挙げられる。
【0039】
(微粒子)
本実施形態の樹脂組成物には、無機系微粒子、有機系微粒子、有機無機複合微粒子等の微粒子をさらに添加してもよい。
これらの微粒子を添加することにより、本実施形態の樹脂組成物を熱硬化させて得られる樹脂硬化物の機械的物性の向上、樹脂硬化物表面の濡れ性改善、樹脂組成物の粘度の調整、樹脂硬化物の粘弾性特性の調整等が可能となる。
無機系微粒子、有機系微粒子については、特に限定するものではなく、公知のものを用いることができる。
有機無機複合微粒子としては、無機系微粒子の表面に有機物層あるいは有機系微粒子を形成した微粒子、有機系微粒子表面に無機物層あるいは無機微粒子を形成した微粒子等が挙げられる。
樹脂硬化物の機械的物性を向上させる目的では、窒化珪素、窒化ホウ素、炭化珪素等の剛性の高い無機系微粒子や、ポリイミド等の有機系微粒子の添加が有効である。
さらに、本実施形態の樹脂組成物を熱硬化させて得られる樹脂硬化物の耐溶剤特性を向上させる目的では、無機系微粒子や、使用する溶剤への膨潤特性の良好な材質で形成された有機系微粒子の添加が有効である。
【0040】
また、本実施形態の樹脂組成物の硬化物により形成されている印刷原版に対し、レーザー彫刻法によりパターンを形成する際に発生する粘稠性液状残渣の吸着除去特性を発揮するためには、数平均粒子径が5nm以上10μm以下の多孔質微粒子、又は1次粒子の数平均粒子径が5nm以上100nm以下の無孔質微粒子を添加することが好ましい。
具体的には、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、シリカ−ジルコニア多孔質ゲル、ポーラスアルミナ、多孔質ガラス等が挙げられる。
【0041】
上述した微粒子の形状は、特に限定されるものではなく、球状、扁平状、針状、無定形、表面に突起のある粒子等、いずれでもよいが、耐磨耗性の観点からは球状粒子が好ましい。
また、微粒子の表面をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の有機化合物で被覆し表面改質処理を行い、より親水性化あるいは疎水性化した粒子を用いることもできる。
上述した微粒子は、一種類単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0042】
本実施形態の樹脂組成物に微粒子を添加する場合、樹脂(a)100質量部に対して、微粒子は1〜100質量部が好ましく、2〜50質量部の範囲がより好ましく、2〜20質量部がさらに好ましい。
【0043】
(安定剤)
本実施形態の樹脂組成物には、安定剤をさらに添加してもよい。
安定剤としては、樹脂材料又はゴム材料の分野において通常使用されるものを添加でき、例えば、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤等が挙げられる。
【0044】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ビタミンE、テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス〔3‐(3,5−ジ−t−ブチル−4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6−ジ−(t−ブチル)−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス−(6−t−ブチル−p−クレゾール)、1,3,5−トリス(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0045】
ホスファイト系酸化防止剤としては、例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリスデシルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルモノ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−3−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0046】
上述した酸化防止剤は、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物に上述した安定剤を添加する場合の添加量については、樹脂(a)100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.05〜7.5質量部の範囲がより好ましく、0.1〜5質量部がさらに好ましい。
【0048】
(その他の添加物)
その他の添加物としては、本実施形態の樹脂組成物に、用途や目的に応じて紫外線吸収剤、滑剤、界面活性剤、可塑剤、香料等を添加してもよい。
これらの添加量は、樹脂(a)100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜15質量部の範囲がより好ましく、1〜10質量部がさらに好ましい。
【0049】
〔樹脂組成物の粘度〕
本実施形態の樹脂組成物の粘度は、好ましくは50℃において10Pa・s以上10kPa・s以下であり、さらに好ましくは50Pa・s以上5kPa・s以下である。
粘度が50℃において10Pa・s以上であると、後述する本実施形態の樹脂組成物により作製される印刷原版の機械的強度が実用上十分なものとなり、樹脂組成物を円筒状に成形する際であっても形状を保持し、加工が容易になる。
粘度が50℃において10kPa・s以下であれば、変形し易く、加工が容易となる。
特に、厚み精度の高い印刷基材を得るためには、樹脂組成物が重力により液ダレ等の現象を起こさないように粘度は、50℃において10Pa・s以上、より好ましくは20Pa・s以上、さらに好ましくは50Pa・s以上の樹脂組成物であるものとする。
なお、樹脂組成物の粘度は、所定の粘度測定機を用いて、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0050】
〔印刷原版〕
本実施形態の印刷原版は、上述した本実施形態の樹脂組成物の硬化物により構成されている樹脂層を具備している。
前記硬化物は、熱硬化物であることが好ましい。
熱硬化温度としては、例えば、80℃以上250℃以下の温度範囲が適用できる。
【0051】
印刷原版は、所定の支持体上に上記本実施形態の樹脂組成物の硬化物の樹脂層が形成された構成とすることができる。
具体的には、上述した樹脂組成物を、(i)シート状又は円筒状の支持体上に塗布する工程、(ii)前記塗布された樹脂組成物を熱硬化して樹脂層とする工程、を含む方法により製造できる。
【0052】
前記(i)工程においては、有機溶剤を使用しないようにすることが、環境対応の観点や、塗布工程を簡略化する観点、樹脂層中に気泡の発生を防止する観点から好ましい。
樹脂組成物をシート状や円筒状の支持体上に塗布する方法としては、公知の方法が適用できる。例えば、注型法、ポンプや押し出し機等により樹脂をノズルやダイスから押し出しブレードで厚みを整える方法や、ロールによりカレンダー加工して厚みを整える方法、スプレー等を用いて噴霧する方法等が挙げられる。
なお、(i)工程においては、樹脂組成物が反応を起こさない温度範囲で加熱しながら成形を行ってもよい。また、必要に応じて圧延処理、研削処理等を施してもよい。
【0053】
(支持体)
上記支持体としては、円筒状、シート状の支持体があるが、その他グラビア印刷において用いられる金属性シリンダーも含まれる。
なお、グラビア印刷においては、研磨処理された後の金属性シリンダー上に銅メッキを施す工程、ハードクロムメッキ処理を施す工程があるが、本実施形態の印刷原版は、直接金属シリンダー上に樹脂組成物を塗布したものであってもよいし、銅メッキやハードクロムメッキ処理を施した後に樹脂組成物を塗布したものであってもよい。
【0054】
円筒状支持体としては、例えば、繊維強化プラスチック、フィルム強化プラスチック、金属、ゴム等から選択される少なくとも1種類の材料を構成成分とする円筒状支持体が好ましい。また、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の繊維で強化されたポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等のプラスチック製スリーブ、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルチューブ等の円筒状支持体でもよい。
円筒状支持体は、印刷版の軽量化、取り扱いの容易さの観点から、中空状であることが好ましい。
【0055】
支持体は、樹脂組成物の硬化物の寸法安定性を確保する機能を有している。よって、支持体の材料は、寸法安定性の高いものを選択することが好ましい。
寸法安定性の指標として線熱膨張係数を用いた場合、好ましい材料の上限値は1/10000(/K)以下、より好ましくは7/100000(/K)以下である。
【0056】
支持体の材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンチオエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂からなる液晶樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの樹脂を積層した構成としてもよい。
また、多孔質性のシート、例えば繊維を編んで形成したクロスや、不織布、フィルムに細孔を形成したもの等をシート状支持体として用いてもよい。
シート状支持体として多孔質性シートを用いる場合、樹脂組成物を孔に含浸させた後に熱硬化させることにより、樹脂組成物の硬化物層とシート状支持体とを一体化させることができ、両者間に高い接着性が得られるようになる。
クロスあるいは不織布を形成する繊維としては、例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アルミナ・シリカ繊維、ホウ素繊維、高珪素繊維、チタン酸カリウム繊維、サファイア繊維等の無機系繊維、木綿、麻等の天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド等の合成繊維が挙げられる。また、バクテリアの生成するセルロースは、高結晶性ナノファイバーであり、薄くて寸法安定性の高い不織布を作製できる。
支持体の材料としては、金属も用いることができる。例えば、鉄、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられ、低コストであり、リサイクル性が良好であることから鉄が好ましい。
【0057】
前記(ii)工程においては、シート状支持体、円筒状支持体の寸法安定性や、樹脂組成物を円筒状支持体上に塗布した場合の円筒状支持体を回転させることによる重力方向の液ダレを抑制する観点から、熱処理温度は80℃以上250℃以下とすることが好ましく、80℃以上200℃以下とすることがより好ましく、100℃以上150℃以下とすることがさらに好ましい。なお、前記熱処理温度は、樹脂組成物層の表面の温度とする。
前記(ii)工程における加熱方法としては、熱線を照射する方法、熱風を吹きつける方法、熱風が対流する雰囲気に曝す方法、加熱したロールと接触させる方法等が挙げられる。作業性の容易さの観点から、熱線を照射する方法、加熱したロールと接触させる方法が好ましい。熱線としては、近赤外線、赤外線が挙げられる。
【0058】
上述した工程により得られる印刷原版を構成する樹脂層の厚みは、その使用目的に応じて選択できるが、例えば20μm以上50mm以下の範囲で任意に設定でき、印刷原版として用いる場合には、一般的に50μm以上10mm以下の範囲が好ましい。
【0059】
(クッション層)
なお、印刷原版は、支持体と樹脂層との間に所定のクッション層を設けた構成としてもよい。
クッション層は、後述する印刷版を用いて印刷を行う工程で、振動による衝撃を吸収する機能を有している。
クッション層としては、ショアA硬度が10以上70度以下、あるいはASKER−C型硬度計で測定したASKER−C硬度が20度以上85度以下のエラストマー層が好ましい。
ショアA硬度が10度以上あるいはASKER−C硬度が20度以上である場合、適度に変形するため、高い印刷品質が確保できる。
また、ショアA硬度が70度以下あるいはASKER−C硬度が85度以下であれば、クッション層としての機能を発揮できる。
ショアA硬度の範囲は20〜60度が好ましく、ASKER−C硬度は45〜75度の範囲が好ましい。
ショアA硬度とASKER−C硬度は、クッション層に使用する材質により使い分けることが好ましい。2種類の硬度の違いは、測定に用いる硬度計の押針形状の違いに由来する。
クッション層が均一な樹脂組成である場合、ショアA硬度を用いることが好ましく、発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン等の発泡性基材のように不均一な樹脂組成の場合には、ASKER−C硬度を用いることが好ましい。
ショアA硬度は、JIS K6253規格、ASKER−C硬度は、JIS K7312規格に準拠する測定法である。
なお、クッション層が気泡を含有する構成である場合、アゾ化合物を含有させることが好ましい。アゾ化合物は、加熱により窒素の気泡を発生する機能を発揮し、熱重合開始剤と発泡剤としての効果が期待できる。アゾ化合物としては、例えば、1−(t−ブチルアゾ)ホルムアミド、2−(t−ブチルアゾ)イソブチロニトリル、1−(t−ブチルアゾ)シクロヘキサンカルボニトリル、2−(t−ブチルアゾ)−2−メチルブタンニトリル、2,2’−アゾビス(2−アセトキシプロパン)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)及び2,2’−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)等が挙げられる。
【0060】
(印刷原版の耐溶剤性)
本実施形態の印刷原版は、耐溶剤性に優れていることが好ましい。
耐溶剤性は、下記で定義される質量変化率により評価できる。
質量変化率が低いほど溶剤により侵食されにくく、溶剤による膨潤が少なく、耐溶剤性が優れていると評価できる。
具体的には、印刷原版のトルエンに対する質量変化率は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。これらの範囲であれば印刷時に版の膨潤が抑えられ、例えば数十万mのロングラン印刷を行った場合においても、印刷文字の太りが無い、優れた印刷品質を実現できる。
質量変化率は、大きさが幅2cm、長さ5cm、厚さ1mmの試験片をトルエン溶剤に温度20℃の条件下で24時間浸漬させ、浸漬前後の質量増加分として下記式(1)により定義される。
質量変化率(%)=[浸漬後の質量(g)/浸漬前の質量−1]×100・・・(1)
【0061】
(印刷原版、及び後述する印刷版の表面粗さ)
本実施形態の印刷原版及び後述する印刷版の印刷面側の中心線平均粗さRaは、0.01μm以上0.4μm以下の範囲であることが好ましく、0.02μm以上0.3μm以下であることがより好ましい。
中心線平均粗さRaは、粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値をマイクロメートル(μm)で表したものである。表面粗さ(Ra)は、JIS B0651に準拠する方法により測定できる。
グラビア印刷においては、印刷版上のインキをドクターで掻き取る工程を有しているため、印刷原版及び印刷版表面の表面粗さは、画像形成における重要な要素となる。よって表面粗さは、ドクターによるインキ掻き取り性に優れ、ドットの階調表現性が良好で、非画像部のインキ残存量が実用上問題とならない程度に低減化できる数値範囲とする。
【0062】
本実施形態の印刷原版又は印刷版の表面粗さを調整するための表面加工方法としては、切削、研削、研磨等の方法が挙げられる。
切削加工のみを用いて表面加工を行うことも可能であるが、切削工程後や研削工程後に研摩加工を併せて行うことにより、表面形状をより精密に調整できる。
切削加工方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、旋盤、ボール盤、フライス盤、形削り盤、平削り盤、NC工作機械等の刃物による加工方法が挙げられる。
また、印刷原版表面の研削による加工方法としては、砥石による加工等が挙げられる。 研削砥石の材質については、特に制限されるものではないが、例えば、アルミナ系や炭化珪素系の材質が挙げられる。砥石の材質としては、例えば、アルミナ系では褐色アルミナ、白色アルミナ、淡紅色アルミナ、解砕形アルミナ等が挙げられ、炭化珪素系では黒色炭化珪素、緑色炭化珪素等が挙げられる。
研削加工に用いられる研削砥石の砥粒の粒度については、8番以上5000番以下の砥石が好ましい。砥粒を結合させる結合剤の主要成分としては、例えば、長石可溶性粘度・フラックス、ベークライト人造樹脂、珪酸ソーダフラックス、天然・人造ゴム・硫黄、セラック天然樹脂、金属箔等が挙げられる。
研磨加工に用いる研磨体としては、例えば研磨紙、ラッピングフィルム、ミラーフィルムなどの研磨フィルム、研磨ホイールが挙げられる。
研磨紙や研磨フィルム表面上の研磨剤の材質としては、金属、セラミックス、炭素化合物から選択される少なくとも1種類の微粒子が好ましい。
金属微粒子としては、例えば、クロム、チタン、ニッケル、鉄等の比較的硬質の材料が好ましい。
セラミックスとしては、アルミナ、シリカ、窒化珪素、窒化ホウ素、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、炭化珪素等が挙げられる。
アルミナ質砥粒の素材質としては、褐色アルミナ質、解砕型アルミナ質研摩剤、淡紅色アルミナ質研摩剤、白色アルミナ質研削剤、人造エメリー研削剤等が挙げられる。
炭化珪素質砥粒の素材質としては、黒色炭化珪素質研磨剤、緑色炭化珪素質研摩剤等が挙げられる。
炭素化合物としては、ダイヤモンド、グラファイト等の化合物が挙げられる。特に、人造ダイヤモンドは研磨剤として好ましい。
他の研磨剤の材質として、ガラスビーズ等のガラス系研磨剤、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエステル、メチルメタルアクリレート等の樹脂系研磨剤、クルミ殻、杏の種、桃の種等の植物系研磨剤も用いることができる。
さらに、研磨布と上記各種研磨剤を組み合わせて用いてもよい。
上述した研磨剤は、数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下のものが好ましく、より好ましくは3μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは9μm以上30μm以下である。研磨剤の数平均粒子径が100μm以下であれば、印刷品質が良好な版面を簡易に形成できる。
特に、印刷原版の表面の凹凸を小さくすることにより、被印刷体へのインキ転移性や印刷品質が向上するため、研磨剤の数平均粒子径は20μm以下が好ましい。一方、表面加工に要する時間を短縮化し、印刷原版の生産性を向上する観点からは、研磨剤の数平均粒子径は12μm以下が好ましい。
【0063】
研磨ホイール表面の粒度としては、60番から8000番が好ましい。
研磨ホイールの材質としては、特に制限されるものではないが、鉄、アルミナ、セラミックス、炭素化合物、砥石、木、ブラシ、フェルト、コルク等が挙げられる。
【0064】
研磨紙や研磨フィルム等の支持体の厚み、材質等は特に制限するものではないが、厚みは1μm以上1000μm以下の範囲が好ましく、10μm以上500μmがより好ましく、25μm〜125μmがさらに好ましい。25μm以上125μm以下の範囲であれば巻き取り等の取り扱い性が簡便になる。
支持体の形状は、特に制限するものではないが、ロール、ディスク、シート、ベルト等のいずれであってもよい。
【0065】
研磨工程は、液体を介在させない乾式研磨でもよいが、研磨力、研磨後の印刷原版表面の均一性、粉塵の発生が少ないこと、研磨中に発生する熱の除去等の観点から、液体を介在させながら印刷原版に研磨剤を接触させて研磨を行う方法が好ましい。
使用する液体としては、特に限定するものではないが、例えば石油、機械油、アルカリ溶液、水等が挙げられる。
特に、研磨の際に介在させる液体として、水を用いることによって他の液体を用いるよりも印刷原版の変性が少なくなり、また廃液の処理も容易となる。
【0066】
印刷原版、印刷版の表面調整方法として、他の例としては、金属、セラミックス、炭素化合物等から選択される少なくとも1種類の物質からなる数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下程度の微粒子を表面に衝突させる方法も挙げられる。
微粒子を印刷原版に衝突させる方法は、特に限定されるものではないが、例えばサンドブラスト、ショットブラスト、エアーブラスト、ブロワブラスト等が挙げられる。
微粒子の材質としては、特に限定するものではないが、例えばガラスビーズ等のガラス系粒子、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエステル、メチルメタルアクリレート等の樹脂系粒子、クルミ殻、杏の種、桃の種等の植物系粒子等が挙げられる。
【0067】
〔印刷版〕
本実施形態の印刷版は、上述した印刷原版の樹脂層にレーザー彫刻により所定の凹凸パターンを形成したものである。
また、高解像度な印刷パターンが要求される場合には、発振波長2μm以下のレーザーで彫刻されることが好ましい。
【0068】
(レーザー)
レーザー彫刻法により印刷原版に凹凸パターンを形成して印刷版を得る場合、形成したい画像をデジタルデータとして、コンピューターを利用してレーザー装置を操作し、印刷原版にレリーフ画像を作成する。
レーザー彫刻に用いるレーザーは、印刷原版の樹脂層が吸収を有する波長を含むものであればどのようなものを用いてもよい。
彫刻を高速度で行うためには、高出力のものが好ましく、炭酸ガスレーザー、ファイバーレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー等の赤外線あるいは赤外線放出固体レーザーが好ましい。
レーザーの波長としては、ファイバーレーザーのようにレーザー波長が2μm以下のものが、高い解像度を実現するためには好ましい。
また、可視光線領域に発振波長を有するYAGレーザーの第2高調波、銅蒸気レーザー、紫外線領域に発振波長を有する紫外線レーザー、例えばエキシマレーザー、第3あるいは第4高調波へ波長変換したYAGレーザーは、有機分子の結合を切断するアブレージョン加工が可能であり、微細加工に好適である。
また、レーザーの照射方法は、連続照射でもパルス照射でもよい。
レーザーによる彫刻は、酸素含有ガス下、一般には空気存在下もしくは気流下に実施するが、炭酸ガス、窒素ガス下でも実施できる。
彫刻終了後、レリーフ印刷版面にわずかに発生する粉末状、液状の物質は、例えば溶剤や界面活性剤の入った水等で洗浄したり、高圧スプレー等により水系洗浄剤を照射したりする方法、高圧スチームを照射する方法等により除去できる。
【0069】
(表面処理)
本実施形態の印刷版は、研磨後もしくはレーザー彫刻後、表面に所定の改質層を形成させることにより、印刷版のタックを低減させたり、インク濡れ性を向上させたりすることができる。
改質層としては、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等の表面水酸基と反応する化合物で処理した被膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)被膜等が挙げられる。
【0070】
(印刷版の用途)
例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、レタープレス印刷、ドライオフセット印刷、ロータリースクリーン印刷等に適用できる。
また、印刷版を鋳型として使用して、印刷版表面と、所定の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂とを接触させ、凹部パターンの転写を行ってもよい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の実施例と、比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0072】
〔評価・測定方法〕
(1)カーボンブラックの平均1次粒径
カーボンブラックの平均1次粒径は、日立製作所社製透過型電子顕微鏡HF−2000を用いて1次粒径を観察し、その10点の平均値を平均1次粒径とした。電子線の加速電圧は50kVで測定を行った。
(2)カーボンブラックのpHの測定方法
ASTM D1512に準じて測定した。
【0073】
(3)ポリカーボネートジオールのOH価
無水酢酸12.5gをピリジン50mLでメスアップし、アセチル化試薬を調製した。100mLナスフラスコに、サンプルを1.0g精秤した。アセチル化試薬2mLとトルエン4mLをホールピペットで添加後、冷却管を取り付けて、100℃で1時間撹拌加熱した。蒸留水1mLをホールピペットで添加、さらに10分間加熱撹拌した。
2〜3分間冷却後、エタノールを5mL添加し、指示薬として1%フェノールフタレイン/エタノール溶液を2〜3滴入れた後に、0.5mol/Lエタノール性水酸化カリウムで滴定した。
空試験としてアセチル化試薬2mL、トルエン4mL、蒸留水1mLを100mLナスフラスコに入れ、10分間加熱撹拌した後、同様に滴定を行った。この結果をもとに、下記式(i)を用いてOH価を計算した。
OH価(mg−KOH/g)={(b−a)×28.05×f}/e ・・・(i)
a:サンプルの滴定量(mL)
b:空試験の滴定量(mL)
e:サンプル質量(g)
f:滴定液のファクター
【0074】
(4)ポリカーボネートジオールの分子量
後述する実施例、比較例中のポリカーボネートジオールの末端は、13C−NMR(270MHz)の測定により、実質的に全てがヒドロキシル基であった。また、ポリカーボネートジオール中の酸価をKOHによる滴定により測定したところ、実施例、比較例の全てが0.01以下であった。
そこで、得られたポリマーの数平均分子量を下式(ii)により求めた。
数平均分子量Mn=2/(OH価×10-3/56.11) ・・・(ii)
【0075】
(5)粘度の測定
後述する実施例、比較例において調製した樹脂組成物の粘度は、東京計器社製のB型粘度計「B8H型」(商標)を用いて50℃で測定した。
【0076】
(6)樹脂(a)の数平均分子量の測定
後述する製造例1、2で調製した樹脂(a)の平均分子量は、GPC法を用いて求めた多分散度(Mw/Mn)が1.1より大きいものであったため、GPC法で求めた数平均分子量Mnを採用した。
具体的には、樹脂(a)の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC法)を用いて、分子量既知のポリスチレンで換算して求めた。
東ソー社製の高速GPC装置「HLC−8020」(商標)と東ソー社製のポリスチレン充填カラム「TSKgel GMHXL」(商標)とを用い、テトラヒドロフラン(THF)で展開して測定した。
カラムの温度は40℃に設定した。
GPC装置に注入する試料としては、樹脂濃度が1質量%のTHF溶液を調製し、注入量10μLとした。
また、検出器としては、樹脂紫外吸収検出器を使用し、モニター光として254nmの光を用いた。
【0077】
(7)重合性不飽和基の数の測定
後述する製造例1、2で調製した樹脂(a)の分子内に存在する重合性不飽和基の平均数は、未反応の低分子成分を液体クロマトグラフ法を用いて除去した後、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法、Bruker Biospin社製「Avance 600」(商標))を用いて分子構造解析し、重合性不飽和基の平均数を求めた。
【0078】
(8)表面粗さ(Ra)の測定
表面粗さは小坂研究所社製の表面粗さ測定機「SE500」(商標)を用いて、触針R2μm、カットオフλc=0.8mm、測定長さ4mm、送り速さ0.5m/sの条件で、中心線平均粗さRaを測定し評価した。
中心線平均粗さは、粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値をマイクロメートル(μm)で表わす。
【0079】
(9)彫刻深さ
彫刻深さは、オリンパス社製の顕微鏡「BX−61」(商標)を用いて、彫刻されたグラデーションのシャドウ部セルの底と土手(未彫刻の部分)の差を測定した。
彫刻深さは、50μm以上確保されていれば、良好な印刷性能が確保できると判断した。
(10)彫刻形状
彫刻形状は彫刻領域と未彫刻領域の境界部分(エッジ)の形状が滑らかに彫刻されているか、粗く彫刻されているかを目視で判断した。
(11)印刷品質
印刷品質は、得られた印刷物の全体を目視で判断し、全体にムラがあるかどうかを判断した。
【0080】
〔印刷原版、印刷版の製造方法〕
(1)印刷原版の製造方法
支持体として東レ社製のポリエステルフィルム(PET)、商品名「U35」を使用した。
支持体上に、後述する実施例、比較例において調製した樹脂組成物を塗工し、樹脂上面に、離型処理されたPETを貼り付け、厚さが1mmになるようにプレス成形した。
プレス温度は130℃とし、30分間加熱して樹脂組成物を硬化し、レーザー彫刻用印刷原版を作製した。
次に、研磨ホイール3000番を用いて、レーザー彫刻用の印刷原版の表面を研磨した。
(2)印刷版の製造方法
この印刷原版に対し、レーザー彫刻を行い、印刷版を得た。
レーザー彫刻は、ESKO社製のファイバーレーザー彫刻機「Spark4260」(商標)(波長1μm)を用いて行った。
彫刻条件は、シリンダーの回転数112rpm、レーザー出力72W、エネルギーは24J/cm2とした。
彫刻画像は解像度2450dot per inch、線数175Lines per inchで作成した。
画像はグラビア印刷におけるセルのグラデーションパターン、細字3pt、5pt、7ptを明朝体で作製した。
【0081】
〔樹脂(a)の製造方法〕
(製造例1)
規則充填物ヘリパックパッキンNo.3を充填した、充填高さ300mm、内径30mmの蒸留塔及び分留頭を備えた500mLの四口フラスコに、ジエチレングリコール214g(2.01mol)、エチレンカーボネート186g(2.12mol)を仕込み、70℃で撹拌溶解した。
系内を窒素置換した後、触媒としてテトラブトキシチタンを0.177g加えた。
このフラスコを、フラスコの内温が145〜150℃、圧力が2.5〜3.5kPaとなるように、分留頭から還流液の一部を抜き出しながら、オイルバスで加熱し、22時間反応を行った。
その後、充填式蒸留塔を外して、単蒸留装置に取り替え、フラスコの内温170℃に上げ、圧力を0.2kPaまで落として、フラスコ内に残った、ジエチレングリコール、エチレンカーボネートを1時間かけて留去した。
その後、フラスコの内温170℃、圧力0.1kPaとし、さらに5時間反応を行った。
この反応により、室温で粘稠な液状のポリカーボネートジオールが174g得られた。
得られたポリカーボネートジオールのOH価は、60.9(数平均分子量Mn=1843)であった。
次に、撹拌機を備えた300mLのセパラブルフラスコに、上記のようにして合成したポリカーボネートジオール65.0g、リン酸モノブチル0.05gを入れ、80℃で3時間撹拌することにより、テトラブトキシチタンを失活させた。
その後、トリレンジイソシアネート4.63g、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール0.07g、アジピン酸0.01g、ジ−n−ブチルスズジラウレート0.001gを加えて、乾燥空気雰囲気で80℃の条件下で3時間撹拌した。
その後、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート2.77g、ジ−n−ブチルスズジラウレート0.001gを加えて、乾燥空気雰囲気で80℃の条件下で2時間撹拌した。
この段階で、赤外分光分析によりポリカーボネートジオールの末端水酸基がウレタン結合により連結され、かつ二重結合を有すことを確認し、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約1.8個)であり、数平均分子量約7000の樹脂(Lp−A)を調製した。
【0082】
(製造例2)
温度計、攪拌機、還流器を備えた2Lのセパラブルフラスコに旭化成株式会社製のポリカーボネートジオール「PCDL T4672」(商標)(数平均分子量2059、OH価54.5)1318gとトリレンジイソシアナート76.8gを加え、80℃加温下で約3時間反応させた。
その後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート52.6gを添加し、さらに約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約1.7個)である数平均分子量約7000の樹脂(Lp−B)を調製した。
【0083】
〔樹脂組成物調製、印刷版作製、印刷〕
(実施例1)
樹脂(a)として上述した(製造例1)により得た樹脂(Lp−A)100質量部、有機化合物(b)としてフェノキシエチルメタクリレート(数平均分子量206)18.75質量部、もう一つの有機化合物(b)としてトリメチロールプロパントリメタクリレート(数平均分子量338.4)6.25質量部を用いた。
さらに、樹脂(a)100質量部に対してレーザー吸収剤としてのカーボンブラック(c)として東海カーボン社製のカーボンブラック「TB#A700F」(商標)(平均1次粒径62nm、pH3)12.5質量部、熱重合開始剤(d)として、日本油脂株式会社製の1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)パーシクロヘキサン「パーヘキサC−75(EB)」(商標)1.25質量部、その他添加剤としてリン酸トリフェニル1.25質量部を加え、50℃の温度条件下で攪拌しながら13kPaに減圧して脱泡し、室温で粘稠な液体状の樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物を東洋精機社製のラボプラストミルで30分間さらに混練した。
その後、樹脂組成物を上述した方法により支持体上に塗工し、加熱処理を行い、印刷原版を得た。この印刷原版にレーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは56μmであり、彫刻領域と未彫刻領域の境界部分(エッジ)は滑らかに彫刻されていたことを確認した。
【0084】
(実施例2)
樹脂(a)として上述した(製造例1)により得た樹脂(Lp−A)100質量部、有機化合物(b)としてフェノキシエチルメタクリレート50質量部、もう一つの有機化合物(b)としてトリメチロールプロパントリメタクリレート16質量部を用いた。
さらに、樹脂(a)100質量部に対してレーザー吸収剤(c)として東海カーボン社製のカーボンブラック「TB#A700F」(商標)(平均1次粒径62nm、pH3)16.7質量部、熱重合開始剤(d)として、日本油脂株式会社製の1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)パーシクロヘキサン「パーヘキサC−75(EB)」(商標)1.67質量部、その他添加剤としてリン酸トリフェニル1.67質量部を加えた。
その他の条件は実施例1と同様とし、樹脂組成物を得、これを用いて印刷原版を作製し、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは56μmであり、彫刻領域と未彫刻領域の境界部分(エッジ)は滑らかに彫刻されていたことを確認した。
【0085】
(実施例3)
樹脂(a)として上述した(製造例2)により得た樹脂(Lp−B)を用いた。
その他の条件は実施例1と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは54μmであり、彫刻領域と未彫刻領域の境界部分(エッジ)は滑らかに彫刻されていたことを確認した。
【0086】
(実施例4)
カーボンブラック(c)として、三菱化学社製の「MA220」(商標)(平均1次粒径55nm、pH3)を用いた。
その他の条件は実施例1と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは55μmであり、彫刻領域と未彫刻領域の境界部分(エッジ)は滑らかに彫刻されていたことを確認した。
【0087】
(実施例5)
カーボンブラック(c)として、Degussa社製の「Special Black100」(商標)(平均1次粒径50nm、pH3)を用いた。
その他の条件は実施例1と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは54μmであり、彫刻領域と未彫刻領域の境界部分(エッジ)は滑らかに彫刻されていたことを確認した。
【0088】
(実施例6)
カーボンブラック(c)として、Degussa社製の「Special Black250」(商標)(平均1次粒径56nm、pH3)を用いた。
その他の条件は実施例1と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは52μmであり、彫刻領域と未彫刻領域の境界部分(エッジ)は滑らかに彫刻されていたことを確認した。
【0089】
(実施例7)
カーボンブラック(c)として、三菱化学社製の「MA14」(商標)(平均1次粒径40nm、pH3)を用いた。
その他の条件は実施例2と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは56μmであり、彫刻領域と未彫刻領域の境界部分(エッジ)は滑らかに彫刻されていたことを確認した。
【0090】
(実施例8)
カーボンブラック(c)として、東海カーボン社製の「シーストG−SO」(商標)(平均1次粒径43nm、pH5.6)を用いた。
その他の条件は実施例2と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは51μmであり、彫刻領域と未彫刻領域の境界部分(エッジ)は滑らかに彫刻されていたことを確認した。
【0091】
(実施例9)
カーボンブラック(c)として、東海カーボン社製の「シーストSVH」(商標)(平均1次粒径62nm、pH5)を用いた。
その他の条件は実施例2と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは50μmであり、彫刻領域と未彫刻領域との境界部分(エッジ)は滑らかに彫刻されていたことを確認した。
【0092】
(比較例1)
カーボンブラック(c)として、三菱化学社製の「#4350」(商標)(平均1次粒径50nm、pH10)を用いた。
その他の条件は実施例2と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは32μmであり、彫刻領域と未彫刻領域との境界部分(エッジ)の形状は粗くなっていることを確認した。
【0093】
(比較例2)
カーボンブラック(c)として、三菱化学社製の「#10」(商標)(平均1次粒径75nm、pH7)を用いた。
その他の条件は実施例2と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは35μmであり、彫刻領域と未彫刻領域との境界部分(エッジ)の形状は粗くなっていることを確認した。
【0094】
(比較例3)
カーボンブラック(c)として、三菱化学社製の「#3050B」(商標)(平均1次粒径50nm、pH7)を用いた。
その他の条件は実施例2と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは30μmであり、彫刻領域と未彫刻領域との境界部分(エッジ)の形状は粗くなっていることを確認した。
【0095】
(比較例4)
カーボンブラック(c)として、Degussa社製の「Printex25」(商標)平均1次粒径56nm、pH9)を用いた。
その他の条件は実施例1と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは36μmであり、彫刻領域と未彫刻領域との境界部分(エッジ)の形状は粗くなっていることを確認した。
【0096】
(比較例5)
カーボンブラック(c)として、Degussa社製の「Printex35」(商標)平均1次粒径31nm、pH9)を用いた。
その他の条件は実施例1と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは36μmであり、彫刻領域と未彫刻領域との境界部分(エッジ)の形状は粗くなっていることを確認した。
【0097】
(比較例6)
カーボンブラック(c)として、Degussa社製の「Special Black350」(商標)平均1次粒径31nm、pH9)を用いた。
その他の条件は実施例1と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは45μmであり、彫刻領域と未彫刻領域との境界部分(エッジ)の形状はやや粗かったことを確認した。
【0098】
(比較例7)
カーボンブラック(c)として、東海カーボン社製シーストG−3」(商標)平均1次粒径28nm、pH5.2)を用いた。
その他の条件は実施例1と同様として樹脂組成物を作製し、これを用いて印刷原版を得、レーザー彫刻を行い、印刷版を得、これを用いて印刷を行った。
レーザー彫刻による彫刻深さは28μmであり、彫刻領域と未彫刻領域との境界部分(エッジ)の形状はやや粗かったことを確認した。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
上記表1に示すように、実施例1〜9においては、いずれも印刷版として実用上十分な彫刻深さが得られており、彫刻形状が良好であり鮮明で高解像度のパターン形成が可能であり、良好な印刷品質が得られた。
一方、上記表2に示すように、比較例1〜7においては、カーボンブラックのpH及び/又はカーボンブラックの一次平均粒径が本発明の範囲外となっているため、レーザー彫刻において実用上十分な彫刻深さが得られず、また、彫刻形状も粗く、高解像度のパターン形成を行うことができなかった。これは、カーボンブラックが樹脂(a)及び有機化合物(b)との分散性が悪く、カーボンブラック同士の凝集度が大きいことが原因であると考えられる。
また、印刷ムラが見られ、実用上良好な印刷品質が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の樹脂組成物は、印刷原版、印刷版の版面形成用の樹脂層材料として産業上の利用可能性がある。
具体的には、グラビア、フレキソ、ドライオフセット等の印刷版用、電子部品の導体、半導体、絶縁体、パターン形成、光学部品の反射防止膜、カラーフィルター、(近)赤外線カットフィルター等の機能性材料のパターン形成、更には液晶ディスプレイあるいは有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示素子の製造における配向膜、下地層、発光層、電子輸送層、封止材層の塗膜・パターン形成用の、版面形成用の樹脂層の材料として、産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が300〜300,000である樹脂(a)、
重合性不飽和基を有し、数平均分子量が10,000未満である、前記樹脂(a)とは異なる有機化合物(b)、
平均1次粒径が35nm以上70nm以下であり、pHが1以上6以下であるカーボンブラック(c)、
を、含有する樹脂組成物。
【請求項2】
熱重合開始剤(d)を、さらに含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物の硬化物により構成されている樹脂層を具備するレーザー彫刻用の印刷原版。
【請求項4】
前記樹脂層は、前記樹脂組成物の熱硬化物により構成されている請求項3に記載のレーザー彫刻用の印刷原版。
【請求項5】
前記樹脂層は、前記樹脂組成物を80℃以上250℃以下で熱硬化させた熱硬化物により構成されている請求項4に記載のレーザー彫刻用の印刷原版。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれか一項に記載の印刷原版の前記樹脂層に、レーザー彫刻により凹凸パターンが形成されている印刷版。
【請求項7】
前記凹凸パターンが、発振波長が2μm以下のレーザー彫刻により形成されたものである請求項6に記載の印刷版。

【公開番号】特開2010−247368(P2010−247368A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96902(P2009−96902)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】