説明

樹脂組成物、並びにこの樹脂組成物を用いた成形品、フィルム、延伸フィルム、熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、及び該ラベルを装着した容器

【課題】耐衝撃性と透明性に優れたポリ乳酸系樹脂組成物、及びポリ乳酸系フィルム、並びに該フィルムを用いた成形品、延伸フィルム、熱収縮性フィルム、及び該フィルムを装着した容器の提供。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)、及びポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)からなる樹脂組成物であって、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量%とした場合に、ポリ乳酸系樹脂(A)が30質量%以上90質量%以下、ポリオレフィン系樹脂(B)が10質量%以上70質量%以下であり、かつポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計100質量部に対し、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)1質量部以上25質量部以下を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂とポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体とからなる樹脂組成物、並びにこの樹脂組成物を主成分としてなる成形品、フィルム、延伸フィルム、熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、及び該ラベルを装着した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
石油を原料とする合成樹脂は優れた特性と低コストであるため広く使用されているが、自然環境下での分解性が低く、焼却時の発熱が大きく、かつCO2ガス排出量も多いため、近年、自然環境保護の見地より、土中、水中に存在する微生物によって分解可能な生分解性ポリマーの研究、開発が広く行われている。
【0003】
これら生分解性ポリマーのうち溶融成形が可能なものとしてポリ乳酸が知られている。ポリ乳酸は耐熱性、高強度等の優れた物性を有するため、フィルム、シート、繊維などの様々な分野で研究されている。またポリ乳酸の硬く脆い特性に耐衝撃性を付与する目的で、ポリ乳酸にポリオレフィンを混合した材料の検討が広く行われている。
【0004】
例えば、ポリ乳酸(Pla)とオレフィン系エラストマー(Oep)とを質量比、Pla/Oep=90/10〜60/40の範囲で混合することにより、硬さと耐衝撃性のバランスに優れた樹脂組成物及び成形体が特許文献1に開示されている。この成形体は、ポリ乳酸にオレフィン系エラストマーとしてエチレン−プロピレンゴム、エチレン−オクテンゴム、エチレン−ブタジエンゴムを混合させることによりポリ乳酸の耐衝撃性を改善している。しかし、特許文献1は使用されるオレフィン系エラストマーの結晶性と得られる樹脂組成物や成形体の透明性との関係について記載されていない。また使用されるポリ乳酸とオレフィン系エラストマーとの相溶性が悪いため、特許文献1に記載の樹脂組成物及び成形体では耐衝撃性と透明性の両方の特性に優れたものを得ることは困難であった。
【0005】
また、乳酸を主成分とする脂肪族ポリエステル99〜85質量%と、シンジオタクティックポリプロピレン(SPP)1〜15質量%とが混合されてなる自然分解性樹脂組成物が特許文献2に開示されている。この樹脂組成物に含まれるSPPは、従来のアイソタクティックポリプロピレンに比べ結晶性が低く、その特性により透明性を維持し、さらにポリオレフィンの柔軟性や耐衝撃性を付与することができることが記載されている。しかし、SPPは特殊なポリプロピレンであり、乳酸を主成分とする脂肪族ポリエステルに十分な耐衝撃性を付与するためには、未だ結晶性が高く、耐衝撃性と透明性の両方の特性に優れた樹脂組成物を得ることは困難であった。
【0006】
また、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂に相溶化剤を配合してなる樹脂組成物が特許文献3に開示されている。しかし、上記特許文献に記載されている相溶化剤を用いた場合、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂との親和性の向上が見られるものの、樹脂組成物の相構造における分散相の平均粒子径が大きく、耐衝撃性改良効果としては不十分である。
【0007】
一方、ポリオレフィンと親水性ポリマーのブロックポリマーと熱可塑性樹脂からなる帯電防止性樹脂組成物が特許文献4及び5に開示されている。これらの特許文献は、熱可塑性樹脂組成物の帯電防止付与を主目的とした発明に関するものであり、ポリオレフィンと親水性ポリマーのブロックポリマーにおけるポリオレフィンへの親和性に関する知見はあるものの、ブロックポリマー自身がポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂との相溶性を向上させる相溶化剤としての役割を果たすことについては開示されておらず、耐衝撃性と透明性の両方の特性に優れた樹脂組成物を得るための解決手段は示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−152162号公報
【特許文献2】特開平10−251498号公報
【特許文献3】特開2008−38142号公報
【特許文献4】特開2001−278985号公報
【特許文献5】特開2003−48990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂、及びポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体からなる、優れた外観と耐衝撃性と透明性とを有する樹脂組成物、及びこの樹脂組成物からなるフィルム、並びにこのフィルムを用いた成形品、延伸フィルム、熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、及びこの熱収縮性ラベルを装着した容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂との親和性を向上させる相溶化剤としてポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体を選択し、これをポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂に所定の割合で混合した樹脂組成物から得られる成形品及びフィルムが、優れた外観、耐衝撃性、及び透明性を有する成形品、フィルム等であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の課題は、ポリ乳酸系樹脂(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)と、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)とからなる樹脂組成物であって、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量%とした場合に、ポリ乳酸系樹脂(A)が30質量%以上90質量%以下、ポリオレフィン系樹脂(B)が10質量%以上70質量%以下であり、かつポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計100質量部に対し、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)1質量部以上25質量部以下を含有することを特徴とする樹脂組成物、又は
ポリ乳酸系樹脂(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)と、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)とからなる樹脂組成物であって、この樹脂組成物の全成分の合計を100質量%とした場合に、ポリ乳酸成分が24質量%以上90質量%以下、ポリオレフィン成分が8質量%以上72質量%以下、及びポリエーテル成分が0.2質量%以上10質量%以下である樹脂組成物により解決される。
【0012】
また、本発明の課題は、上記樹脂組成物を主成分としてなる成形品、厚み1μm当りに換算した内部ヘイズが0.40%以下であるフィルム、このフィルムを少なくとも一方向に延伸してなる延伸フィルム、80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上である熱収縮性フィルム、この熱収縮性フィルムを基材として用いたラベル、このラベルを装着した容器によっても解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)とポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)とからなる樹脂組成物であるため、本発明によれば、優れた外観、耐衝撃性、及び透明性とを有する樹脂組成物を提供することができる。
【0014】
特に本発明の樹脂組成物は、結晶化熱量ΔHcが40J/g以下のポリオレフィン系樹脂(B)を使用しているため、ポリ乳酸系樹脂(A)と屈折率を減少し、優れた透明性を得ることができる。
【0015】
さらに、本発明によれば、優れた外観、透明性、及び耐衝撃性を兼ね備えた成形品、フィルム、延伸フィルム、熱収縮性ラベル、及び該ラベルを装着した容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好ましい実施態様のTEM写真である(その1)。
【0017】
【図2】本発明の好ましい実施態様のTEM写真である(その2)。
【0018】
【図3】本発明の好ましい実施態様のTEM写真である(その3)。
【0019】
【図4】本発明の比較態様のTEM写真である(その1)。
【0020】
【図5】本発明の比較態様のTEM写真である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施態様の一例としてのポリ乳酸系樹脂(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)と、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)とからなる樹脂組成物、この樹脂組成物を主成分としてなる成形品、フィルム、延伸フィルム、熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、及びこのラベルを装着した容器について詳しく説明する。
【0022】
なお、本明細書において、主成分とは、最も多量に含有されている成分のことであり、通常、全質量を100質量%とした場合に50質量%以上、好ましくは80質量%以上100質量%以下の含有率で含まれる成分をいう。また、「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で提供されるものを称し(日本工業規格JISK6900)、「シート」とは、日本工業規格(JIS)における定義上、薄く、通常はその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品を称する。しかし、シートとフィルムの境界は定かではなく、本発明においても文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合、「シート」も含まれるものとする。
【0023】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)と、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)を主成分として含む。
【0024】
<ポリ乳酸系樹脂(A)>
本発明で使用可能なポリ乳酸系樹脂(A)は、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸である共重合体(ポリ(DL−乳酸))、及びこれら共重合体の混合物を好適に用いることができる。ポリ乳酸系樹脂(A)がD−乳酸とL−乳酸との混合物である場合、D−乳酸とL−乳酸との混合比はD−乳酸:L−乳酸=99.8:0 .2乃至75:25であるか、又はD−乳酸:L−乳酸=0.2:99.8乃至25:75であることが好ましく、D−乳酸:L−乳酸=99.5:0.5乃至80:20又はD−乳酸:L−乳酸=0.5:99.5乃至20:80であることがさらに好ましい。
【0025】
D−乳酸単独又はL−乳酸単独からなるポリ乳酸は、非常に高い結晶性を示し、融点が高く、耐熱性及び機械的物性に優れる傾向がある。しかしながら、例えばフィルムとして使用する場合には、その製造工程において印刷や溶剤を用いた処理工程が含まれるため、印刷適性と溶剤シール性を向上させる目的で、構成材料自体の結晶性を適度に下げることが必要となる。また、結晶性が過度に高い場合、延伸時に配向結晶化が進行し、収縮特性が低下する傾向がある。したがって、フィルム等の用途に応じてD−乳酸とL−乳酸との混合比を適宜選択することが望ましい。
【0026】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂(A)は、異なる共重合比を有するD−乳酸とL−乳酸とを使用することもできる。その場合には、複数の乳酸系重合体のD−乳酸とL−乳酸との共重合比を平均した値が上記範囲内に入るようにすればよい。使用用途に合わせて、D−乳酸とL−乳酸との共重合体比の異なるポリ乳酸系樹脂を二種以上混合し、結晶性を調整することにより、耐熱性と透明性のバランスをとることができる。
【0027】
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂(A)は、乳酸と、α−ヒドロキシカルボン酸や脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸との共重合体であってもよい。ここで、乳酸系樹脂に共重合される「α−ヒドロキシカルボン酸」としては、乳酸の光学異性体( L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸をそれぞれ指す)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒロドキシ3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2−ヒドロキシカプロラクトン酸などの2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸、及びカプロラクトン、ブチルラクトン、バレロラクトンなどのラクトン類が挙げられる。また、乳酸系樹脂に共重合される「脂肪族ジオール」としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。また共重合される「脂肪族ジカルボン酸」としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸などが挙げられる。乳酸と、α−ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、又は脂肪族ジカルボン酸との共重合体の共重合比は乳酸/α−ヒドロキシカルボン酸、乳酸/脂肪族ジオール、又は乳酸/脂肪族ジカルボン酸がそれぞれ90/10から10/90までの範囲であることが好ましく、より好ましくは80/20から20/80までの範囲であり、さらに好ましくは70/30から30/70までの範囲である。共重合比が上記範囲内であれば、剛性、透明性、耐衝撃性などの物性バランスの良好な樹脂組成物を得ることができる。
【0028】
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂(A)は、縮合重合法、開環重合法などの公知の重合法により作製することができる。例えば、縮合重合法であれば、D−乳酸、L−乳酸、又はこれらの混合物を直接脱水縮合重合して任意の組成を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。また、開環重合法では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤などを用いながら、所定の触媒の存在下で開環重合することにより任意の組成を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。上記ラクチドには、L−乳酸の二量体であるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成、結晶性を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。さらには、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ジエポキシ化合物、酸無水物、酸クロライドなどを使用しても構わない。
【0029】
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂(A)の重量(質量)平均分子量は、20,000以上、好ましくは40,000以上、さらに好ましくは60,000以上であり、上限が400,000以下、好ましくは350,000以下、さらに好ましくは300,000以下である。重量(質量) 平均分子量が20,000以上であれば、適度な樹脂凝集力が得られ、フィルム等に成形した場合に強伸度が不足したり、脆化したりすることを抑えることができる。一方、重量(質量)平均分子量が400,000以下であれば、溶融粘度を下げることができ、フィルム等の製造、生産性向上の観点からは好ましい。
【0030】
上記ポリ乳酸系樹脂(A)の市販品としては、例えば、「Nature Works(カーギル社製)などが挙げられる。
【0031】
上記ポリ乳酸系樹脂(A)には耐衝撃性を向上させるために、透明性と耐衝撃性を損なわない範囲内で、ポリ乳酸系樹脂(A)以外の他のゴム成分を添加することが好ましい。このゴム成分は特に限定されるものではないが、ポリ乳酸系樹脂(A)以外の脂肪族ポリエステル、芳香族−脂肪族ポリエステル、ジオールとジカルボン酸と乳酸系樹脂との共重合体やコアシェル構造ゴム、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン− アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(EMA)、エチレン−メチル(メタ)アクリル酸共重合体(EMMA)などを好適に使用できる。
【0032】
脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とを縮合して得られる脂肪族ポリエステルとしては、次に説明する脂肪族ジオール及び脂肪族ジカルボン酸の中からそれぞれ1種類又は2種類以上を選んで縮合するか、あるいは必要に応じてイソシアネート化合物などで分子量をジャンプアップして所望の高分子として得られる重合体を挙げることができる。ここで、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを挙げることができ、脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などを挙げることができる。
【0033】
また、環状ラクトン類を開環縮合した脂肪族ポリエステルとしては、環状モノマーであるε−カプロラクトン、σ−バレロラクトン、β−メチル−σ−バレロラクトンなどの開環重合体を挙げることができる。これらの環状モノマーは一種だけでなく、複数種を選択して共重合することもできる。
【0034】
また、合成系脂肪族ポリエステルとしては、環状酸無水物とオキシラン類との共重合体、例えば、無水コハク酸とエチレンオキサイドとの共重合体、プロピオンオキサイドなどとの共重合体などを挙げることができる。
【0035】
これらポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステルの代表的なものとしては、コハク酸と1,4−ブタンジオールとアジピン酸とを重合して得られる「ビオノーレ」(昭和高分子社製)を商業的に入手することができる。また、ε−カプロラクトンを開環縮合して得られるものとしては、「セルグリーン」(ダイセル化学工業社製)が挙げられる。
【0036】
次に、芳香族−脂肪族ポリエステルとしては、脂肪族鎖の間に芳香環を導入することによって結晶性を低下させたものを用いることができる。芳香族−脂肪族ポリエステルは、例えば、芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族ジオールとを縮合して得られる。
【0037】
ここで、上記芳香族ジカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、テレフタル酸が最も好適に用いられる。また、脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などが挙げられ、アジピン酸が最も好適に用いられる。なお、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸あるいは脂肪族ジオールは、それぞれ二種類以上を用いてもよい。
【0038】
芳香族脂肪族ポリエステルの代表的なものとしては、テトラメチレンアジペートとテレフタレートの共重合体、ポリブチレンアジペートとテレフタレートの共重合体などが挙げられる。テトラメチレンアジペートとテレフタレートの共重合体としてEasterBio(EastmanChemicals社製)、またポリブチレンアジペートとテレフタレートの共重合体として、Ecoflex(BASF社製)を商業的に入手することができる。
【0039】
ポリ乳酸系樹脂とジオールとジカルボン酸の共重合体の構造としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられ、いずれの構造でもよい。但し、フィルムの耐衝撃性及び透明性の観点から、ブロック共重合体又はグラフト共重合体が好ましい。具体例としては「GS−Pla」(三菱化学社製)が挙げられる。
【0040】
ポリ乳酸系樹脂とジオールとジカルボン酸の共重合体の製造方法は、特に限定されないがジオールとジカルボン酸とを脱水縮合した構造を持つポリエステルまたはポリエーテルポリオールを、ラクチドと開環重合あるいはエステル交換反応させて得る方法が挙げられる。また、ジオールとジカルボン酸とを脱水縮合した構造を持つポリエステルまたはポリエーテルポリオールを、ポリ乳酸系樹脂と脱水・脱グリコール縮合あるいはエステル交換反応させて得る方法がある。
【0041】
ポリ乳酸系樹脂とジオールとジカルボン酸の共重合体は、イソシアネート化合物やカルボン酸無水物を用いて所定の分子量に調整することが可能である。但し、加工性、機械的特性の観点から、重量(質量)平均分子量は50,000以上、好ましくは100,000以上であり、かつ300,000以下、好ましくは250,000以下のものが望ましい。
【0042】
<ポリオレフィン系樹脂(B)>
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂(B)は、透明性の観点より結晶化熱量ΔHcが40J/g以下であることが重要である。ポリオレフィン系樹脂の平均屈折率はその結晶性に影響され、結晶化熱量ΔHcが低いポリオレフィン系樹脂ほどその平均屈折率は低下する傾向にある。本発明では一般的なポリオレフィン系樹脂(結晶化熱量ΔHc>40J/gであり、通常60J/gから100J/g程度までの範囲)と比較して低い結晶化熱量を有するポリオレフィン系樹脂(B)を用いることにより、ポリ乳酸系樹脂(A)との屈折率差を減少させ、優れた透明性を維持することができる。透明性をより向上させる観点よりポリオレフィン系樹脂(B)の結晶化熱量は30J/g以下であることが好ましく、25J/g以下であることがより好ましく、20J/g以下であることがさらに好ましい。結晶化熱量が発現しない非結晶性のポリオレフィン系樹脂も好適に用いることができる。
なお、上記結晶化熱量ΔHcは、示差走査熱量計を用いて測定することができ、具体的には、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で室温まで降温したときの熱量として表わすことができる。
【0043】
上記ポリオレフィン系樹脂(B)としては、耐衝撃性と透明性の機械的物性や成形性の観点より、上記範囲の結晶化熱量ΔHcを有するポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0044】
ポリオレフィン系樹脂の場合、結晶化熱量ΔHcを上記範囲とする手段としては、オレフィンを共重合体とする方法や、立体規則性を低減させる方法などが好適に用いられる。ここで、ポリオレフィンの共重合体としては、例えばプロピレン−α−オレフィン共重合体やエチレン−α−オレフィン共重合体が好適に用いられる。前記共重合体のα−オレフィンとしては、炭素数2乃至20のものが好ましく、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどを例示することができる。本発明においては結晶化熱量及び耐衝撃性と透明性等の観点から、共重合体中のα−オレフィンの含有率は5質量%以上が好ましく、7質量%以上30質量%以下が特に好適に用いられる。また、共重合するα−オレフィンは1種のみを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いても構わない。また、ポリオレフィン系樹脂の立体規則性を低減させる方法としては、後述するポリオレフィン系樹脂の重合方法、重合触媒を適宜選択する方法を挙げることができる。
【0045】
本発明においては、ポリオレフィン系樹脂(B)として、低結晶性や耐衝撃性と耐熱性とのバランス及び工業的に比較的安価に入手可能であること等からプロピレン−エチレンランダム共重合体が好適に用いられる。
【0046】
また、上記ポリオレフィン系樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)は、特に制限されるものではないが、通常、MFR(JISK7210、温度:230℃、荷重:21.2N)が、0.5g/10分以上、好ましくは1.0g/10分以上であり、15g/10分以下、好ましくは10g/10分以下であるものが用いられる。ここで、MFRは、混練性を考慮した場合、ポリ乳酸系樹脂(A)に近い粘度の材料を選ぶことが好ましい。
【0047】
上記ポリオレフィン系樹脂(B)の製造方法は、上記結晶化熱量ΔHcを40J/g以下とすることができれば特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等、また、ラジカル開始剤を用いた塊状重合法等が挙げられる。
【0048】
上記ポリオレフィン系樹脂(B)の市販品の具体例としては、例えば、「Versify」、「Engage」、「Infuse」(ダウ・ケミカル社製)、「タフマー」(三井化学社製)、「エスプレン」(住友化学社製)等などが挙げられる。
【0049】
<ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)>
本発明で用いられるポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)は、ポリエーテルブロックとポリオレフィンブロックとが、化学結合を介して結合、又は繰り返し交互に結合した構造を有している。また、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)は、ポリエーテルブロック部やポリオレフィンブロック部が分岐構造を有していてもよい。
【0050】
上記ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)におけるポリエーテルブロックは、主としてアルキレンオキサイドが好ましく、具体的には炭素数2乃至4のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−、1,4−、2,3−又は1,3−ブチレンオキサイド及びこれらの2種以上の併用系)を用いることができる。また、上記ポリエーテルブロックは、必要に応じて他のアルキレンオキサイド又は置換アルキレンオキサイド(以下、これらも含めてアルキレンオキサイドと総称する。)、例えば炭素数5乃至12のα−オレフィン、スチレンオキサイド、エピハロヒドリン(エピクロルヒドリン等)を少しの割合(例えば、全アルキレンオキサイドの重量に基づいて30%以下)で併用することもできる。2種以上のアルキレンオキサイドを併用するときの結合形式はランダム及び/又はブロックのいずれでもよく、分岐構造を有していてもよい。中でも、ポリ乳酸系樹脂(A)との相溶性の観点から、ポリエーテルブロックは、主としてポリエチレンオキサイドから構成されることが好ましい。
【0051】
上記ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)におけるポリオレフィンブロックとしては、炭素数2乃至30のオレフィンの1種又は2種以上の混合物(好ましくは炭素数2乃至12のオレフィン、特に好ましくはプロピレン及び/又はエチレン)の重合によって得られるポリオレフィン、及び高分子量のポリオレフィン(炭素数2乃至30のオレフィン、好ましくは炭素数2乃至12のオレフィンの重合によって得られるポリオレフィン、特に好ましくはポリプロピレン及び/又はポリエチレン)の熱減成法によって得られる低分子量ポリオレフィン等が挙げられ、ポリオレフィンブロックの分子鎖末端にカルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、α,β不飽和カルボン酸(無水物)等の変性基を有していてもよい。
【0052】
上記ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)におけるポリエーテルセグメントとポリオレフィンセグメントとの比率は、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との相溶性の点から、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)の質量に基づき、ポリエーテルセグメント/ポリオレフィンセグメント=20/80から80/20までの範囲が好ましく、30/70から70/30までの範囲がより好ましい。
【0053】
上記ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)の市販品としては、例えば、「ペレスタット」(三洋化成社製)等が挙げられる。
【0054】
本発明の樹脂組成物におけるポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)とポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)のそれぞれの含有量は、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量%とした場合、ポリ乳酸系樹脂(A)は30質量%以上、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、90質量%以下、好ましくは80質量%以下である。また、ポリオレフィン系樹脂(B)は、10質量%以上、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、70質量%以下、好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。ポリ乳酸系樹脂(A)の含有量が30質量%以上、ポリオレフィン系樹脂(B)の含有量が70質量%以下であれば、本発明の樹脂組成物及びフィルムに十分な硬さや耐熱性を与えることができる。また、ポリ乳酸系樹脂(A)の含有量が90質量%以下、ポリオレフィン系樹脂(B)の含有量が10質量%以上であれば、本発明の樹脂組成物、成形体等にポリオレフィン系樹脂(B)の特徴である耐衝撃性を付与することができる。
【0055】
ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体の含有量は、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計100質量部とした場合に、1質量部以上、好ましくは2.5質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、25質量部以下、好ましくは23.75質量部以下、さらに好ましくは22.5質量部以下の範囲である。ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体の含有量が1質量部以上であれば、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との相溶効果を発揮することができ、また25質量部以下であれば、樹脂組成物を用いた成形品、フィルムに十分な剛性(硬さ、腰強さ)を付与することができる。
【0056】
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物の全成分の合計が100質量%であるとき、ポリ乳酸成分の場合、24質量%以上、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは48質量%以上であり、かつ90質量%以下、好ましくは80質量%以下である。またポリオレフィン成分の場合、8質量%以上、好ましくは16質量%以上、さらに好ましくは24質量%以上であり、かつ72質量%以下、好ましくは56質量%以下、さらに好ましくは48質量%以下である。また、ポリエーテル成分の場合、0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、かつ10質量%以下、好ましくは9.5質量%以下、さらに好ましくは9質量%以下である。ポリ乳酸成分、ポリオレフィン成分、及びポリエーテル成分の各成分が上記範囲内であれば、樹脂組成物、成形体等に十分な硬さや耐熱性を与えることができ、またポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との相溶効果を発揮でき、透明性を付与することができる。
【0057】
(透明性)
ポリマーブレンドにおける透明性は、分散相の粒径と、分散相−マトリックス相間の平均屈折率の差に影響されると言われている。分散相の粒径が可視光領域より小さい場合、その樹脂組成物は優れた透明性を示す。一方、分散相の粒径が可視光領域より大きい場合、その透明性は分散相とマトリックス相の平均屈折率差が小さいものほど優れている。ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂とは一般的には相溶性が悪く、分散粒径が大きくなるため、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂から得られる樹脂組成物や成形品の透明性は両成分の平均屈折率の差に大きく影響される。
【0058】
ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂からなる成形品、特にフィルムの透明性は、上記の観点より用いるポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂との平均屈折率の影響を大きく受ける。ポリ乳酸系樹脂の平均屈折率は1.45から1.46程度までの範囲であり、ポリオレフィン系樹脂の平均屈折率は1.50から1.51程度までの範囲であるため、その差の絶対値は0.04から0.06程度まで範囲である。この値が0.04を超える場合には、得られるフィルムは白濁する傾向にある。
【0059】
これに対し、本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂(B)は、結晶化熱量ΔHc値が40J/g以下の低結晶性のものを使用しているため、平均屈折率が1.47から1.49程度までの範囲であり、ポリ乳酸系樹脂(A)との平均屈折率差を小さくすることができる。ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の平均屈折率差の絶対値が0.04以下であれば透明性に優れた樹脂組成物とフィルムが得られ、好ましくは0.03以下であり、透明性をより向上させるためには0.02以下とすることが好ましい。
【0060】
(耐衝撃性)
本発明の樹脂組成物の相構造は、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)のいずれかが連続相及び分散相を形成するが、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)を本発明で規定する範囲内で配合することにより、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との親和性が劇的に向上し、分散相の平均粒子径を劇的に小さくすることができ、樹脂組成物や成形品の柔軟性、耐衝撃性を著しく向上させることができる。本発明の樹脂組成物は、耐衝撃性、透明性、及び外観性の点から、分散相の平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましく、500nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましく、70nm以下が最も好ましい。樹脂組成物の相構造は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて確認することができる。
【0061】
本発明の樹脂組成物は、諸物性を改良、調整する目的で、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で他の樹脂や、改質剤、充填剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤などを適宜添加することができる。添加可能な他の樹脂の例としては、ポリ乳酸系樹脂以外のポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などが挙げられる。また、改質剤の例としては、結晶造核剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、架橋補助剤が挙げられる。また充填剤の例としては、炭酸カルシウム(石灰石)、ガラス、タルク、シリカ、マイカ、金属粉、金属酸化物などが挙げられる。また、可塑剤としては、例えば、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリンジアセトモノラウレート、あるいは、アセチルクエン酸トリブチルなどが例示される。また、滑剤の例としては、シリカ、タルク、炭酸カルシウムなどの無機粒子、無機酸化物、炭酸塩、または、架橋アクリル系、架橋ポリエステル系、架橋ポリスチレン系、シリコーン系等の有機粒子などが挙げられる。また、多段階で重合せしめた多層構造を形成した有機粒子も用いることができる。また、流動パラフィン、パラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸、ステアリン酸アルコール、ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、ステアリン酸金属塩、ステアリン酸モノグリセリドやステアリルステアレート、硬化油などが挙げられる。また、帯電防止剤の例としては、ポリエーテルエステルアミド系帯電防止剤、エチレンオキシドーエピクロルヒドリン系帯電防止剤、ポリエーテルエステル系帯電防止剤などの非イオン系帯電防止剤や、ポリスチレンスルホン酸系帯電防止剤などのアニオン系帯電防止剤、四級アンモニウム塩基含有アクリレート系帯電防止剤などのカチオン型帯電防止剤、または、カーボンブラック、導電性ウィスカーなどの導電性フィラーなどが挙げられる。また、紫外線吸収剤の例としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤などが挙げられる。安定剤の例としては、ヒンダードアミン系光安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工熱安定剤、ヒドロキシルアミン系加工熱安定剤、ビタミンE系加工熱安定剤、金属不活性化剤、イオウ系耐熱安定剤が挙げられる。なお、本発明のポリエステル樹脂組成物にこれらを混合する方法は特に限定されない。
【0062】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂の強度、耐熱性とポリオレフィン樹脂の柔軟性を有しながら、高い透明性を併せ持つ高性能フィルムである。そのためシュリンクラベル、シートなどの材料としての用途として有効である。
【0063】
[成形品]
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、インブロ、発泡シート成形、及びシート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。すなわち、射出成形してなる成形体、あるいは、押出し成形してなるフィルム、シート、及びこれらフィルム、シートから加工してなる成形体、あるいは、ブロー成形してなる中空体、及びこの中空体から加工してなる成形体等とすることができる。
【0064】
本発明においては、とりわけ、射出成形法を採ることが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。本発明の樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、好ましくは170℃から250℃までの範囲、最適には170℃から230℃までの範囲とし、また、金型温度は樹脂組成物の(融点−40℃)以下とするのが適当である。シリンダ温度が低すぎると成形品にショートが発生するなど操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆に、成形温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生しやすく、ともに好ましくない場合がある。
【0065】
本発明の樹脂組成物は、成形の際に結晶化を促進させることにより、その耐熱性をさらに高めることができる。このための方法としては、例えば、射出成形時に金型内で結晶化を促進させる方法があり、その場合には、樹脂組成物のガラス転移温度以上、(融点−40℃)以下に保たれた金型内で、一定時間、成形品を保持した後、金型より取り出す方法が好適である。また、このような方法をとらずに金型より取り出された成形品であっても、あらためて、ガラス転移温度以上、(融点−40℃)以下で熱処理することにより、結晶化を促進することができる。
【0066】
本発明の成形体の具体例としては、パソコン筐体部品及び筐体、携帯電話筐体部品及び筐体、その他OA機器筐体部品、コネクター類等の電化製品用樹脂部品;バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品をはじめ、コンテナーや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品;浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品;皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器;注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品;ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品;花壇用レンガ、植木鉢等の緑化材用樹脂部品;クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー・雑貨用樹脂部品;ボールペン、定規、クリップ等の文房具用樹脂部品等が挙げられる。
【0067】
また本発明の樹脂組成物は、フィルム、シート、パイプ等の押出成形品、中空成形品等とすることもできる。その例としては、二軸延伸フィルム、熱収縮性フィルム、農業用マルチフィルム、工事用シート、各種ブロー成形ボトルなど多数挙げられる。
【0068】
[フィルム、延伸フィルム及び熱収縮性フィルム]
本発明のフィルムは、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)、及びポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)からなる樹脂組成物であって、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量%とした場合に、ポリ乳酸系樹脂(A)が30質量%以上90質量%以下、ポリオレフィン系樹脂(B)が10質量%以上70質量%以下であり、かつポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計100質量部に対し、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)1質量部以上25質量部以下を含有することを特徴とする樹脂組成物を主成分としてなり、厚み1μm当りに換算した内部ヘイズが0.40%以下である。
【0069】
本発明のフィルムにおける内部ヘイズはJIS K7105により測定することができる。内部ヘイズは厚みに依存するため、本発明のフィルムの内部ヘイズは測定値をフィルムの厚みで割り、厚み1μm当たりに換算した内部ヘイズを用いる。本発明のフィルムの内部ヘイズは、厚み1μm換算において0.40%以下であることが重要であり、0.35%以下であることがより好ましく、0.30%以下であることがさらに好ましい。厚み1μm換算の内部ヘイズが0.4%を超えると、そのフィルムの透明性は急激に失われ、白濁したフィルムとなってしまう。
【0070】
本発明のフィルムは、上記樹脂組成物を主成分としてなる単一のフィルム又は上記樹脂組成物を主成分とする層を少なくとも1層有すればよく、その他の層を構成する樹脂は特に限定されない。その他の層を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリ乳酸系樹脂層、ポリオレフィン系樹脂層、又はこれらの混合樹脂層であることが特に好ましい。
【0071】
本発明のフィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、通常10μm以上、好ましくは30μm以上であり、かつ500μm以下、好ましくは300μm以下の厚さである。ここで、厚さが10μm以上であれば、フィルムのハンドリング性が良好であり、一方、500μm以下であれば透明性や収縮加工性に優れ、経済的にも好ましい。また、必要に応じて、コロナ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面処理や表面加工、さらには、各種溶剤やヒートシールによる製袋加工やミシン目加工などを施すことができる。
【0072】
本発明のフィルムを少なくとも一方向に延伸することにより延伸フィルム及び熱収縮性フィルムを得ることができる。本発明のフィルムが熱収縮性フィルムである場合、80℃温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは30%以上であり、かつ75%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは65%以下である。また、70℃温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が5%以上、好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上であり、40%以下、好ましくは35%以下であることが望ましい。
【0073】
なお、上記「主収縮方向」とは、フィルムの縦方向(長手方向)とフィルムの横方向(幅方向)のうち熱収縮率の大きい方向を意味し、例えば、ボトルに装着する場合にはその外周方向に相当する方向を意味し、「直交方向」とは主収縮方向と直交する方向を意味する。
【0074】
上記温度における熱収縮率は、ペットボトルの収縮ラベル用途等の比較的短時間(数秒〜十数秒程度)での収縮加工工程への適応性を判断する指標となる。例えばペットボトルの収縮ラベル用途に適用される熱収縮性フィルムに要求される必要収縮率はその形状によって様々であるが一般に20%以上70%以下程度である。
【0075】
また、現在ペットボトルのラベル装着用途に工業的に最も多く用いられている収縮加工機としては、収縮加工を行う加熱媒体として水蒸気を用いる蒸気シュリンカーと一般に呼ばれているものである。さらに熱収縮性フィルムは被覆対象物への熱の影響などの点からできるだけ低い温度で十分熱収縮することが必要である。しかしながら、温度依存性が高く、温度によって極端に収縮率が異なるフィルムの場合、蒸気シュリンカー内での温度斑により収縮挙動の異なる部位が発生し易いため、収縮斑、皺、アバタなどが発生し収縮仕上がり外観が悪くなる傾向にある。これら工業生産性も含めた観点から、熱収縮率が上記条件の範囲内にあるフィルムであれば、収縮加工時間内に十分に被覆対象物に密着でき、かつ収縮斑、皺、アバタが発生せず良好な収縮仕上がり外観を得ることができるため、好ましい。
【0076】
また、本発明のフィルムが熱収縮性ラベルとして使用される場合、直交方向の収縮率は、80℃温水中で10秒間加熱したときは10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、また70℃温水中で10秒間加熱したときは、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。直交方向の熱収縮率が10%以下であれば、収縮後の直交方向の寸法自体が短くなったり、収縮後の印刷柄や文字の歪み等が生じやすかったり、角型ボトルの場合においては縦ひけ等のトラブルが発生し難く、好ましい。
【0077】
本発明のフィルムが熱収縮性フィルムとして用いられる場合、剛性(腰の強さ)の点から、フィルムの直交方向の引張弾性率が1,000MPa以上であることが好ましく、1,100MPa以上であることがさらに好ましい。また、通常使用される熱収縮性フィルムの引張弾性率の上限値は、3,000MPa程度であり、好ましくは2,900 MPa程度であり、さらに好ましくは2,800MPa程度である。フィルムの直交方向の引張弾性率が1,000MPa以上であれば、フィルム全体としての剛性を高くすることができ、特にフィルムの厚みを薄くした場合においても、ペットボトルなどの容器に製袋したフィルムをラベリングマシン等で被せる際に、斜めに被ったり、フィルムの腰折れなどで歩留まりが低下したりしやすいなどの問題点が発生し難く、好ましい。なお、各フィルムのMD及び直交方向(TD)についての引張弾性率の平均値は1,500MPa以上であることが好ましく、1,700MPa以上であることがさらに好ましい。上記引張弾性率は、日本工業規格JIS K7127に準じて、23℃の条件で測定することができる。
【0078】
また、フィルム主収縮方向の引張弾性率はフィルムの腰強さが出れば特に制限はないが、1,500MPa以上、好ましくは2,000MPa以上、さらに好ましくは2,500MPa以上であり、上限は6,000MPa以下、好ましくは4,500MPa以下、さらに好ましくは3,500MPa以下であることが好ましい。フィルムの主収縮方向の引張弾性率を上記範囲にすることにより、双方向においてフィルムの腰強さを高めることができるため好ましい。
【0079】
本発明のフィルムを熱収縮性フィルムとして使用した場合、その自然収縮率はできるだけ小さいほうが望ましい。しかしながら、一般的に熱収縮性フィルムの自然収縮率は、例えば、30℃で30日間保存した後の自然収縮率が1.5%以下、好ましくは1.0%以下であることが望ましい。上記条件下における自然収縮率が1.5%以下であれば作製したフィルムを長期保存する場合であっても容器等に安定して装着することができ、実用上問題を生じにくい。
【0080】
本発明のフィルムを熱収縮性フィルムとして使用した場合における耐破断性は、引張破断伸度により評価され、23℃環境下の引張破断試験において、特にラベル用途ではフィルムの引き取り(流れ)方向(MD)で伸び率が100%以上、好ましくは200%以上、さらに好ましくは300%以上である。23℃環境下での引張破断伸度が100%以上であれば、印刷・製袋などの工程時にフィルムが破断するなどの不具合を生じにくくなり、好ましい。また、印刷・製袋などの工程のスピードアップにともなってフィルムに対してかかる張力が増加するような際にも、引張破断伸度が200%以上あれば破断し難く、さらに好ましい。
【0081】
次に、本発明のフィルムの製造方法について説明する。
本発明のフィルムの製造方法は、特に限定されるものではないが、公知の方法、例えばTダイを用いる押出キャスト法、プレス法、カレンダー法、インフレーション法、及び射出成形などの方法を用いて、通常5〜5000μm程度の厚さに成形される。
【0082】
本発明のフィルムの製造方法において、使用するポリ乳酸系樹脂(A)は押出機内での加水分解を避けるために、予め水分が0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下になるように充分乾燥しておくことが重要である。例えば、55℃で24時間(真空乾燥)の条件で乾燥することが必要である。また、同方向二軸押出機や単軸ベント押出機を用いて真空ベントを行う、いわゆる無乾燥押出を行う方法も好適な方法として挙げられる。
【0083】
本発明の延伸フィルム及び熱収縮性フィルムは、公知の方法によって製造することができる。形態としては平面状、チューブ状の何れであってもよいが、生産性(原反フィルムの幅方向に製品として数丁取りが可能)や内面に印刷が可能という点から平面状が好ましい。平面状のフィルムの製造方法としては、例えば、押出機を用いて樹脂を溶融し、Tダイから押出し、チルドロールで冷却固化し、縦方向にロール延伸をし、横方向にテンター延伸をし、アニールし、冷却し、(印刷が施される場合にはその面にコロナ放電処理をして、) 巻取機にて巻き取ることによりフィルムを得る方法が例示できる。また、チューブラー法により製造したフィルムを切り開いて平面状とする方法も適用できる。また、複数の押出機を用いて樹脂を溶融し、Tダイから共押出し、あるいは内層を構成する樹脂及び外層を構成する樹脂を別々にシート化した後にプレス法やロールニップ法などを用いて積層してもよい。
【0084】
溶融押出された樹脂は、冷却ロール、空気、水等で冷却された後、熱風、温水、赤外線等の適当な方法で再加熱され、ロール法、テンター法、チューブラー法等の各方法により1軸又は2軸に延伸することができる。
【0085】
PETボトル用熱収縮性ラベルのようにほぼ一軸方向の収縮特性を必要とする用途の場合でも、その垂直方向に収縮特性を阻害しない範囲で延伸をすることも効果的である。その延伸温度は、積層構成や配合樹脂にも依存するが、典型的には80℃以上110℃以下である。さらにその延伸倍率については大きくなるほど耐破断性は向上するものの、それに伴い収縮率が上がってしまい良好な収縮仕上がりを得ることが困難となることより1.03倍以上1.5倍以下であることが非常に好ましい。
【0086】
[熱収縮性ラベル及び容器]
本発明のフィルム(延伸フィルム、熱収縮性フィルムを含む)は、外観特性、耐衝撃性、透明性等に優れているため、その用途が特に制限されるものではないが、必要に応じて印刷層、蒸着層その他機能層を形成することにより、ボトル(ブローボトル)、トレー、弁当箱、総菜容器、乳製品容器等で用いられる様々なラベルとして用いることができる。特に本発明のフィルムを食品容器(例えば清涼飲料水用または食品用のPETボトル、ガラス瓶、好ましくはPETボトル)用熱収縮性ラベルとして用いる場合、複雑な形状(例えば、中心がくびれた円柱、角のある四角柱、五角柱、六角柱など)であっても該形状に密着可能であり、シワやアバタ等のない美麗なラベルが装着された容器が得られる。本発明の成形品及び容器は、通常の成形法を用いることにより作製することができる。
【0087】
本発明のフィルムは、優れた耐衝撃性と透明性と優れた外観性を有するため、プラスチック成形品の熱収縮性ラベル素材のほか、熱膨張率や吸水性等が本発明の熱収縮性フィルムとは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた包装体(容器)の熱収縮性ラベル素材として好適に利用できる。
【0088】
本発明のフィルムが利用できるプラスチック包装体を構成する材質としては、上記の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック包装体は2種以上の樹脂類の混合物でも、積層体であってもよい。
【0089】
以下に本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明する。
なお、実施例に示す測定値及び評価は次のように行った。実施例では、フィルムの引き取り(流れ)方向をMD(Machine Direction)又は縦方向、その直角方向をTD(Transverse Direction)または横方向と記載する。
【0090】
(1)平均屈折率
アタゴ製アッベ屈折率計を用い、ナトリウムD線(589nm)を光源とし、JIS K7124により用いたポリ乳酸系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体の平均屈折率を測定した。
【0091】
(2)結晶化温度(Tc)、結晶融解温度(Tm)
パーキンエルマー(株)製Pyris1 DSCを用いて、用いたポリオレフィン系樹脂10mgをJIS K7121に準じて、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で室温まで降温した時に測定されたサーモグラムから結晶融解温度Tm(℃)、結晶化温度Tc(℃)を求めた。
【0092】
(3)結晶化熱量(ΔHc)
パーキンエルマー(株)製Pyris1 DSCを用いて、用いたポリオレフィン系樹脂10mgをJIS K7122に準じて、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で室温まで降温した時に測定されたサーモグラムから結晶化熱量ΔHc(J/g)を求めた。
【0093】
(4)内部ヘイズ(曇価)
JIS K7105により、得られたフィルムの内部ヘイズを測定し、フィルム厚みで除算することにより、厚み1μm当りに換算した値を記載するとともに、下記の基準により評価した結果も併記した。
○:厚み1μm当りに換算した内部ヘイズが0.4%以下
×:厚み1μm当りに換算した内部ヘイズが0.4%を越える
【0094】
(5)引張伸度
得られたフィルムをMD15mm×TD100mmに切り取り、23℃条件下において引張試験速度200mm/分として引張試験をJIS K7125により行った。また、測定された引張伸度から下記の基準で評価した。
◎:引張伸度が200%以上
○:引張伸度が50%以上200%未満
△:引張伸度が25%以上50%未満
×:引張伸度が25%未満
【0095】
(6)硬さ
得られたフィルムをMD60mm×TD4mmに切り取り、粘弾性測定装置DVA−200(アイティ計測制御(株)製)を用い、振動周波数10Hz、ひずみ0.1%、昇温速度3℃/分チャック間25mmの条件下で、MD方向について−50℃から昇温を開始し、貯蔵弾性率(E’)を測定した。得られたデータから25℃における貯蔵弾性率(E’)の値を求め、下記の通り評価した。
○:貯蔵弾性率(E’)が1.0×10Pa以上
×:貯蔵弾性率(E’)が1.0×10Pa未満
【0096】
(7)熱収縮率
得られたフィルムをMD10mm×TD100mmに切り取り、80℃の温水浴に10秒間浸漬させ、その後30秒間23℃の冷水に浸漬させた後のフィルムの主収縮方向(横方向)の収縮量を測定し、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で求めた。
【0097】
(8)外観
得られたフィルムの外観を、下記の基準で評価した。
○:フィルムに斑がほとんどなく、外観が良い
×:フィルムの斑が激しく、著しく外観が悪い
【0098】
(9)分散性
得られたペレットのTEM観察を行い、分散相として形成されるポリオレフィン系樹脂の分散状態を下記の基準で評価した。
○:分散相の平均粒子径が1μm以下
×:分散相の平均粒子径が1μmを超える
【0099】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明の具体的内容について説明する。
【0100】
(実施例1)
ポリ乳酸系樹脂(A)として、十分に乾燥させたカーギル社製の非結晶性ポリ乳酸(商品名「Nature Works NW4060」、平均屈折率=1.455)を73質量%、ポリオレフィン系樹脂(B)としてダウ・ケミカル社製の軟質ポリプロピレン(商品名「バーシファイ2400」、平均屈折率=1.478、ΔHc=6.8J/g、Tc=33.6℃、Tm=126.0℃、エチレン含有量=15質量%、MFR=2)を27質量%、及びポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計量100質量部に対し、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)として、三洋化成社製のポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマー(商品名「ペレスタット300」、平均屈折率=1.498)11質量部を配合し、二軸押出機を用いて設定温度210℃で溶融混練し、設定温度210℃のストランドダイスより押出した後、水槽にて冷却し、ストランドカッターにより切削し、ペレットとした。得られたペレットはTEM観察を実施し、分散性の評価を行った。得られたTEM写真を図1に示した。
さらに、ペレット化した樹脂組成物を単軸押出機に導入し、各押出機設定温度210℃で溶融混合後、Tダイより押出し、50℃のキャストロールで引き取り、冷却固化させて厚み200μmのフィルムを得た。
得られたペレット、及びフィルムを用いて評価した結果を表1に示した。得られた結果について総合評価を行い、評価項目の全てに対して問題がなかったフィルムを記号(○)、1つでも問題があったフィルムを記号(×)で示した。
【0101】
(実施例2)
実施例1においてポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)を「ペレスタット300」から、三洋化成社製のポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマー(商品名「ペレスタット303」、平均屈折率=1.492)に変更した以外は、実施例1と同様にしてペレット及びフィルムを得た。得られたTEM写真を図2に示した。また、各評価の結果を表1に示した。
【0102】
(実施例3)
実施例1においてポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)を「ペレスタット300」から、三洋化成社製のポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマー(商品名「ペレスタット230」、平均屈折率=1.495)に変更した以外は、実施例1と同様にしてペレット及びフィルムを得た。得られたTEM写真を図3に示した。また、各評価の結果を表1に示した。
【0103】
(比較例1)
実施例1においてポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)を配合しない以外は、実施例1と同様にしてペレット及びフィルムを得た。得られたTEM写真を図4に示した。また、各評価の結果を表1に示した。
【0104】
(比較例2)
実施例1においてポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)の代わりに、日油社製のエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名「モディパーA5200」=エチレン/アクリル酸エチル/メタクリル酸メチル共重合樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様にしてペレット及びフィルムを得た。得られたTEM写真を図5に示した。また、各評価の結果を表1に示した。
【0105】
表1及び図1から3に示すように、本発明で規定するポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)とポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)との混合樹脂組成物を用いたフィルムは、連続相(ポリ乳酸成分)における分散相(ポリオレフィン成分)の分散性が良好であり、内部ヘイズ(透明性)、引張伸度、硬さのいずれの特性もバランスが優れていることが確認できる(実施例1から3)。
【0106】
これに対して、表1、図4及び図5に示すように、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)を添加しない場合や、他の相溶化剤を用いた場合には、引張伸度が低く十分な改質に至らなかった(比較例1及び2)。これは、分散相の分散性に起因する結果であると考えられる。
【0107】
(実施例4)
ポリ乳酸系樹脂(A)として、十分に乾燥させたカーギル社製の非結晶性ポリ乳酸(商品名「Nature Works NW4060」)を73質量%、ポリオレフィン系樹脂(B)としてダウ・ケミカル社製の軟質ポリプロピレン(商品名「バーシファイ2200」、平均屈折率=1.486、ΔHc=29.5J/g、Tc=66.3℃、Tm=136.1℃、エチレン含有量=9質量%、MFR=2)を27質量%、及び、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計量100質量部に対し、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)として、三洋化成社製ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマー(商品名「ペレスタット300」)11質量部を配合し、二軸押出機を用いて設定温度210℃で溶融混練し、設定温度210℃のTダイより押出し、50℃のキャストロールで引き取り、冷却固化させて厚み200μmのフィルムを得た。得られたフィルムを用いて評価した結果を表2に示した。
【0108】
(実施例5)
実施例4においてポリオレフィン系樹脂(B)を「バーシファイ2200」から、ダウ・ケミカル社製の軟質ポリプロピレン(商品名「バーシファイ2400」)に変更し、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計量100質量部に対し、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)として、三洋化成社製ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマー(商品名「ペレスタット300」)を5質量部配合した以外は、実施例4と同様にしてフィルムを得た。各評価の結果を表2に示した。
【0109】
(比較例3)
実施例4においてポリ乳酸系樹脂(A)の含有率を94質量%、ポリオレフィン系樹脂(B)をダウ・ケミカル社製の軟質ポリプロピレン(商品名「バーシファイ2400」)に変更し、ポリオレフィン系樹脂(B)の含有率を6質量%に変更した以外は、実施例4と同様にしてフィルムを得た。各評価の結果を表2に示した。
【0110】
(比較例4)
実施例4においてポリオレフィン系樹脂(B)を「バーシファイ2200」から、ダウ・ケミカル社製の軟質ポリプロピレン(商品名「バーシファイ2400」)に変更し、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量100質量部に対し、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)として、三洋化成社製ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマー(商品名「ペレスタット300」)を30質量部配合した以外は、実施例4と同様にしてフィルムを得た。各評価の結果を表2に示した。
【0111】
(参考例1)
実施例4においてポリオレフィン系樹脂(B)を「バーシファイ2200」から、住友化学社製のポリプロピレン、商品名「ノーブレンFH3315」(平均屈折率=1.503、ΔHc=85.0J/g、Tc=103.6℃、Tm=144.6℃、エチレン含有量=3.2質量%、MFR=3)に変更した以外は、実施例4と同様にしてフィルムを得た。各評価の結果を表2に示した。
【0112】
(実施例6)
実施例1で得られたフィルムを槽内の温度を80℃とした二軸延伸装置に導入し、フィルムをエアチャックにて挟んだ後、延伸速度10mm/分にて横方向に4倍延伸した。その後、冷却固化した後、フィルムを取り出し、厚み50μmの延伸フィルムを得た。各評価の結果を表3に示した。
【0113】
表2より、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)、及びポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)との混合量が、本発明で規定する範囲内の場合、内部ヘイズ(透明性)、引張伸度、硬さ、及び外観のいずれの特性もバランスが優れていることが確認できる(実施例4及び5)。
また、表3より、本発明の樹脂組成物を主成分としてなる延伸フィルムは、熱収縮特性と各種物性バランスの良好な延伸フィルムが得られ、熱収縮性フィルムとしての用途に好適と考えられる(実施例6)。
これに対し、表2よりポリオレフィン系樹脂(B)又はポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)の含有量が本発明で規定する範囲を逸脱する場合、物性バランスが崩れ、十分な改質に至らないことが確認された(比較例3及び4)。さらにポリオレフィン系樹脂(B)の結晶化熱量ΔHcが40J/gを超える場合には、内部ヘイズ値が上がる傾向にあることが分かる。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の樹脂組成物を用いることにより、外観、透明性、及び耐衝撃性に優れた成形品、延伸フィルム、熱収縮性フィルムを作製することが可能であり、延伸フィルム及び熱収縮性フィルムは包装材、容器、医療用材、建材、電気・電子機用部材、情報記録用などのフィルム、シート材料、ラベル、粘着テープの基材として、各種の用途が期待できる。
【符号の説明】
【0118】
1 フィルム
2 分散相
3 連続相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)と、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)とからなる樹脂組成物であって、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量%とした場合に、ポリ乳酸系樹脂(A)が30質量%以上90質量%以下、ポリオレフィン系樹脂(B)が10質量%以上70質量%以下であり、かつポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計100質量部に対し、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)1質量部以上25質量部以下を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸系樹脂(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)と、ポリエーテル/ポリオレフィン系共重合体(C)とからなる樹脂組成物であって、この樹脂組成物の全成分の合計を100質量%とした場合に、ポリ乳酸成分が24質量%以上90質量%以下、ポリオレフィン成分が8質量%以上72質量%以下、ポリエーテル成分が0.2質量%以上10質量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
示差走査熱量計を用いて加熱速度10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で室温まで降温した時に測定されるポリオレフィン系樹脂(B)の結晶化熱量ΔHcが40J/g以下である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を主成分としてなることを特徴とする成形品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を主成分としてなり、厚み1μm当りに換算した内部ヘイズが0.40%以下であることを特徴とするフィルム。
【請求項6】
示差走査熱量計を用いて加熱速度10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で室温まで降温した時に測定される、前記フィルムに含まれるポリオレフィン系樹脂(B)の結晶化熱量ΔHcが40J/g以下である請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のフィルムを少なくとも一方向に延伸してなることを特徴とする延伸フィルム。
【請求項8】
請求項5又は6に記載のフィルムを少なくとも一方向に延伸してなり、80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上であることを特徴とする熱収縮性フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の熱収縮性フィルムを基材として用いた熱収縮性ラベル。
【請求項10】
請求項9に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−252062(P2011−252062A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125892(P2010−125892)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】