説明

樹脂組成物、成形体および摺動用部材

【課題】得られる成形体において、充填材である液晶ポリエステルの脱落を抑制可能な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂70質量部以上95質量部以下と、下記(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステル5質量部以上30質量部以下と、を含む樹脂組成物。
(a)レーザー回折散乱法で測定される体積平均粒径が5μm以上30μm以下
(b)前記フッ素樹脂の融点をTx(℃)、前記液晶ポリエステルの融点をTy(℃)としたとき、0<(Ty−Tx)<20

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体および摺動用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受けやピストンリングなど、摺動部材を支持し、摺動部材と接触する摺動面を構成する部材(摺動用部材)の形成材料として、摩擦係数が低いフッ素樹脂が多く用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、摺動用部材の形成材料には、高圧が負荷される使用条件下においても強度を維持するため、フッ素樹脂の他に芳香族ポリエステルを含む樹脂組成物が用いられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−259055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フッ素樹脂に粒状の充填材を添加した樹脂組成物を用い摺動用部材を形成した場合、このような充填材は、繊維状や髭状の充填材と比べて摺動面から脱落しやすい。充填材が脱落した部分では、摺動用部材がフッ素樹脂のみで構成されることとなり、摺動特性を維持することが困難となるおそれがある。
【0005】
上述した芳香族ポリエステルを充填材とした例のように、樹脂製の充填材を用いる場合には、充填材が粉体(粒子状)であることが多く、脱落による物性の低下が問題となっていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、得られる成形体において充填材の脱落を抑制可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。また、このような樹脂組成物を形成材料として用いることにより脱落が抑制された成形体、当該成形体を用いて形成された摺動用部材を提供することを合わせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、フッ素樹脂70質量部以上95質量部以下と、下記(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステル5質量部以上30質量部以下と、を含む樹脂組成物を提供する。
(a)レーザー回折散乱法で測定される体積平均粒径が5μm以上30μm以下
(b)前記フッ素樹脂の融点をTx(℃)、前記液晶ポリエステルの融点をTy(℃)としたとき、0<(Ty−Tx)<20
【0008】
本発明においては、前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有することが望ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0009】
本発明においては、前記液晶ポリエステルが、それを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で示される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有することが望ましい。
【0010】
本発明においては、前記フッ素樹脂の体積平均粒径が、10μm以上30μm以下であることが望ましい。
【0011】
本発明の成形体は、上述の樹脂組成物を圧縮成形した後、焼成して得られるものである。
【0012】
本発明の摺動用部材は、上述の成形体を機械加工してなるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂組成物によれば、得られる成形体において充填材である液晶ポリエステルの脱落を抑制することができる。また、本発明の成形体によれば、本発明の樹脂組成物を用いることで、充填材である液晶ポリエステルの脱落を抑制し、摺動物性低下を抑制することができる。さらに、本発明の摺動用部材によれば、本発明の成形体を用いることで、使用による摺動特性の低下が少ない、高品質な部材とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る樹脂組成物、成形体、摺動用部材について説明する。
【0015】
本実施形態の樹脂組成物は、フッ素樹脂70質量部以上95質量部以下と、下記(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステル5質量部以上30質量部以下と、を含む。
(a)レーザー回折散乱法で測定される体積平均粒径が5μm以上30μm以下
(b)前記フッ素樹脂の融点をTx(℃)、前記液晶ポリエステルの融点をTy(℃)としたとき、0<(Ty−Tx)<20
【0016】
本明細書において、粉体であるフッ素樹脂および液晶ポリエステルの体積平均粒径は、樹脂粉体を分散剤(エマルゲン1150S−60、花王(株)製)を数十ppm程度溶解させた水に分散させた後、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(LMS−30、(株)セイシン企業製)を用いて測定した値のことである。
【0017】
また、本明細書において、融点は、セイコーインスツルメンツ株式会社製の示差走査熱量測定システム「DSC6200」を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で、室温(約23℃)から400℃までの熱量プロファイルを測定し、得られた熱量プロファイルから求めた値のことである。熱量プロファイルから融点を求める解析方法は、JIS K7121(1987年)の「プラスチックの転移温度測定方法」に準拠した方法を採用した。
【0018】
(フッ素樹脂)
まず、本実施形態の樹脂組成物で用いられるフッ素樹脂について説明する。
本実施形態の樹脂組成物で用いられるフッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
上記の例示の中では、より耐熱性に優れる成形体が得られる点、および入手が容易である点から、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0020】
フッ素樹脂は、上述の測定方法にて求められる体積平均粒径が、10μm以上30μm以下である粉体状のものが好ましく、15μm以上30μm以下であるものがさらに好ましい。体積平均粒径が10μm以上である場合、10μmより小さい場合と比べ、液晶ポリエステルや他の配合剤と混合する際に舞い上がりにくく、取り扱いが容易となる。一方、体積平均粒径が30μm以下である場合、30μmより大きい場合と比べ、焼成工程にて生じるガスが成形体から抜けやすく、クラック発生を抑制する傾向があり、強度に優れた成形体を得やすい。
【0021】
フッ素樹脂の配合割合は、樹脂組成物に含まれるフッ素樹脂と液晶ポリエステルとを合わせた質量を100質量部としたときに、70質量部以上95質量部以下であり、75質量部以上90質量部以下であると好ましい。
【0022】
(液晶ポリエステル)
次いで、本実施形態の樹脂組成物で用いられる液晶ポリエステルについて説明する。
本実施形態で用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0023】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0024】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシ基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシ基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシ基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0025】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)と、を有することがより好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0026】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個以下である。
【0027】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は好ましくは1〜10である。
【0028】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0029】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0030】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0031】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上70モル%以下、よりさらに好ましくは45モル%以上65モル%以下である。
【0032】
同様に、繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上30モル%以下、よりさらに好ましくは17.5モル%以上27.5モル%以下である。
【0033】
同様に、繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上30モル%以下、よりさらに好ましくは17.5モル%以上27.5モル%以下である。
【0034】
これらは、繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高く成り易く、成形温度が高くなり易い。
【0035】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0036】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは0モル%以上10モル%以下、より好ましくは0モル%以上5モル%以下である。
【0037】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、XとYとがそれぞれ酸素原子であるもの、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有すると、溶媒に対する溶解性が優れるため好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有すると、より好ましい。
【0038】
(液晶ポリエステルの重合)
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させて、所望の分子量よりも低い分子量を有する重合体とし、得られた重合体を固相重合させることにより、所望の分子量にまで重合度を高めることで製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。
【0039】
なお、以下の説明においては、モノマーを溶融重合して得られる重合体を「プレポリマー」と称し、プレポリマーを固相重合させて得られる重合体を、「液晶ポリエステル」と称することがある。
【0040】
まず、溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよい。触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、中でも含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0041】
溶融重合では、冷却することで固化する程度にまで重合度を高め、プレポリマーを得る。プレポリマーの流動開始温度は200℃以上270℃以下程度が好ましい。固化したプレポリマーを、機械粉砕し分級することにより、プレポリマーの粉体を得ることができる。
【0042】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kgf/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0043】
機械粉砕は、まず、固化したプレポリマーを粗粉砕して、比較的大きな体積平均粒径のプレポリマーの粗粒を製造し、次いで、かかる粗粒を微粉砕するといった2段階の粉砕処理により行うことが好ましい。
【0044】
まず、粗粉砕処理では、重縮合後の固化したプレポリマーを粉砕し、体積平均粒径0.2mm以上5mm以下程度の粗粒とする。かかる粗粉砕処理には、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、ロールクラッシャー、ロールクラッシャー、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、粗砕カッター等を用いることができるが、中でも粗砕カッター型粉砕機を用いることが好ましい。
【0045】
微粉砕処理では、上述の粗粒を粉砕し、後述する所望の体積平均粒径の粉体が含まれる微粉とする。かかる微粉砕処理には、ロッドミル、ボールミル、振動ロッドミル、振動ボールミル、パンミル、ローラミル、インパクトミル、円盤形ミル、攪拌摩砕ミル、流体エネルギーミル、ジェットミル等を用いることができるが、中でもジェットミルを用いることが好ましい。
【0046】
次いで、得られた微粉砕粉体を分級処理することで、希望の粒径を有するプレポリマー粉体を得ることができる。かかる分級処理には、例えば、コアンダ効果利用型分級機等の慣性分級機、自由渦又は半自由渦利用型分級機、強制渦利用型分級機、自由渦及び強制渦利用型分級機等の遠心分級機等が好ましく使用される。これらの中でも、多量の微粉砕粉体を分級処理できるという点で、遠心分級機を使用することが好ましい。
【0047】
この分級処理により、所望の体積平均粒径と比べて過大な粒径の粉体を除去することができる。分級処理では、微粉砕粉体の粒径を、好ましくは75μm以下とし、より好ましくは50μm以下とする。
【0048】
こうして得られるプレポリマーの粉体は、レーザー回折散乱法で測定される体積平均粒径が、5μm以上30μm以下であると好ましく、10μm以上25μm以下であるとより好ましい。プレポリマー粉体の体積平均粒径がこの範囲である場合、後述する固相重合後に同様の体積平均粒径を有する液晶ポリエステル粉体が得られる。
【0049】
液晶ポリエステル粉体の体積平均粒径が30μm以下であると、フッ素樹脂と混合しやすく、樹脂組成物の調整が容易となる。また、後述する焼成工程後に得られる成形体から、脱落し難い。
【0050】
(固相重合)
上記のようにして得られるプレポリマー粉体は、さらに加熱処理を行い固相重合させることで、プレポリマーよりも高い流動開始温度の液晶ポリエステル粉体にすることができる。
【0051】
加熱処理としては、例えば、不活性気体雰囲気下又は減圧下に、150℃以上350℃以下の温度で1時間以上20時間以下加熱する方法等が挙げられる。加熱処理の温度が150℃未満では、流動開始温度の向上効果が低下する傾向があり、350℃を超える温度で熱処理すると、液晶ポリエステル自体の分解反応が生じる場合がある。該不活性気体としては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガスが挙げられる。また、熱処理に使用する装置としては、例えば、乾燥機、反応機、イナートオーブン、混合機、電気炉が挙げられる。
【0052】
ここで、上記のプレポリマー粉体を熱処理する際、熱処理の昇温速度や処理温度は、プレポリマー粒子同士が融着しないように適宜最適化することが好ましい。融着が起こると、流動開始温度の向上が妨げられる傾向がある。ただし、熱処理より融着が生じ粒径が大きくなった場合は、再度解砕等の処理を行って、粒径を熱処理前と同程度に戻して使用することもできる。解砕処理としては機械粉砕が好ましい。
【0053】
このようにして得られる液晶ポリエステル粉体は、固相重合に用いるプレポリマー粉体の体積平均粒径や粒度分布などの粉体特性を反映したものとなる。液晶ポリエステルの粉体は、レーザー回折散乱法で測定される体積平均粒径が、5μm以上30μm以下であると好ましく、10μm以上25μm以下であるとより好ましい。液晶ポリエステル粉体の体積平均粒径がこの範囲である場合、上述の揮発性成分が粉体内で生じた場合にも粉体の外部に放出しやすい。そのため、後述の圧縮成形で得られた成形体を更に焼成した際に、液晶ポリエステルが脱落しにくくなる。
【0054】
脱落する粒子は、成形体の表面に存在するため、マトリックス樹脂(フッ素樹脂)と粒子との相対的な接触面積が大きいほど脱落しにくいと考えられる。したがって、液晶ポリエステル粉体の粒径(体積平均粒径)が30μm以下となるほど小さいと、マトリックス樹脂との相対的な接触面積が大きく、脱落が起こりにくいと考えられる。
【0055】
高い摺動特性維持の観点から、フッ素樹脂の融点をTx(℃)、液晶ポリエステルの融点をTy(℃)としたとき、充填材である液晶ポリエステルの融点とマトリックスであるフッ素樹脂の融点との差が、0℃より大きく、20℃より小さい(0<(Ty−Tx)<20)ことが好ましい。また、液晶ポリエステルの融点とフッ素樹脂の融点との差は、5℃より大きく15℃より小さいことがより好ましい。
【0056】
液晶ポリエステルの融点は、重合条件(重合温度、重合時間)を調節し重合度を制御することにより変更可能である。
【0057】
樹脂組成物において、フッ素樹脂の融点と、液晶ポリエステルの融点との差が、上記(b)を満たす範囲であると、後述の成形時にフッ素樹脂および液晶ポリエステルの融点より高い温度に加熱する際、フッ素樹脂と液晶ポリエステルとが互いに解け合い、充填材である液晶ポリエステルがマトリクスであるフッ素樹脂に強固に固定される。そのため、摺動面においてマトリックスであるフッ素樹脂から液晶ポリエステルが脱落し難くなり、摺動特性の低減を回避することができる。
【0058】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の液晶ポリエステルの他に、充填材や、液晶ポリエステル以外の樹脂等、その他の成分を1種以上配合して用いてもよい。
【0059】
充填材としては、例えば、ガラス繊維粉、ガラスビーズ、炭素繊維、グラファイト、二硫化モリブデン、チタン酸カリウム、青銅などが挙げられる。中でも、耐摩耗性および相手材(摺動部材)の損傷を抑制する観点から、炭素繊維、グラファイトが好ましい。
【0060】
樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホンなどが挙げられる。
【0061】
これらの成分の配合割合は、樹脂組成物に含まれるフッ素樹脂と液晶ポリエステルとを合わせた質量を100質量部としたときに、合計で20質量部以下であると好ましい。
【0062】
樹脂組成物の調製は、上述の各成分をヘンシェルミキサー、マイクロミキサー、高分散型ミキサー等を用いて混合することで行われる。
【0063】
(成形)
混合された樹脂組成物は、圧縮成形し、得られた圧縮成形体(予備成形体)を焼成することにより、成形体とすることができる。
【0064】
まず、本実施形態の樹脂組成物を、所定の成形用金型内に投入し、圧縮成形機を用いて、250℃以上400℃以下で約30MPa以上100MPa以下の成形圧に加圧し、1分以上30分以下保持することにより予備成形する。
【0065】
次いで、予備成形体を、用いた樹脂組成物に含まれるフッ素樹脂の融点(例えば、テトラフルオロエチレン樹脂の場合は327℃)以上の温度、且つ液晶ポリエステルの融点以上の温度で焼成することにより成形体とすることができる。焼成は、約350℃以上390℃以下で約1時間以上6時間以下行うことが好ましい。
【0066】
更に、得られた成形体を、工作機械を用いて所望の形状に機械加工することで、目的とする摺動用部材が得られる。機械加工としては、切削、研削、研磨など、必要に応じた加工を選択することができる。摺動用部材としては、ピストンリング、軸受、シールリング、ベアリング等が挙げられる。
【0067】
以上のような構成の樹脂組成物によれば、圧縮成型して得られる成形体において充填材である液晶ポリエステル粒子の脱落を抑制することができる。
【0068】
また、以上のような成形体によれば、上述の樹脂組成物を用いることで、充填材である液晶ポリエステルの脱落を抑制し、摺動特性の低下を抑制することができる。
【0069】
さらに、以上のような摺動用部材によれば、上述の成形体を用いることで、使用による摺動特性の低下が少ない、高品質な部材とすることができる。
【実施例】
【0070】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例においては、樹脂組成物を圧縮成形し焼成して得られる成形体について、表面から脱落する液晶ポリエステル粒子数を測定した。
【0071】
実施例および比較例で用いた測定方法、評価方法は以下のとおりである。
【0072】
〔流動開始温度〕
液晶ポリエステルの流動開始温度は、フローテスター((株)島津製作所製、CFT−500型)を用いて測定した。液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kgf/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を、流動開始温度として測定した。
【0073】
〔粉体の体積平均粒径〕
樹脂粉体を分散剤(エマルゲン1150S−60、花王(株)製)を数十ppm程度溶解させた水に分散させた後、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(LMS−30、(株)セイシン企業製)を用いて測定した。
【0074】
〔融点〕
樹脂粉体について、セイコーインスツルメンツ株式会社製の示差走査熱量測定システム「DSC6200」を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で、室温(約23℃)から400℃までの熱量プロファイルを測定し、得られた熱量プロファイルから、吸熱ピークとして観測される融点を求めた。熱量プロファイルから融点を求める解析方法は、JIS K7121(1987年)の「プラスチックの転移温度測定方法」に準拠した方法を採用した。
【0075】
〔脱落物数の測定方法〕
後述する方法で得られる成形板(寸法:100mm×100mm×3mm)を、4等分(縦50mm、横50mm、厚さ3mmの成形体が4つ)するように切断し、4つの部分成形体を得た後、これらの部分成形体の各中央部から30mm×30mm×3mmの試験片を、計4枚切り出した。
次いで、試験片を300mLの純水が注水された容量500mLのビーカーに入れ、36Hzの超音波を60秒照射し、パーティクルカウンタ(KL−11A_65、リオン(株)製)を用いて、超音波照射後の水10mLに含まれる、粒子径5μm以上の粒子の個数を測定した。
同様の測定を4枚の試験片について行い、4回の測定による測定値の平均値(算術平均)を脱落物数とした。
【0076】
(製造例1:液晶ポリエステル粉末Aの製造)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409g(2.2モル)、テレフタル酸274g(1.65モル)、イソフタル酸91g(0.55モル)及び無水酢酸1235g(12.1モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
【0077】
その後、副生する酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて300℃まで昇温した。トルクメータによりトルクの上昇が検出される時点を反応終了とみなし、溶融状態で内容物をバットの中に取り出して冷却した。
【0078】
室温程度まで冷却し固化させた重合体(プレポリマー)を竪型粉砕機(オリエントVM−16、(株)セイシン企業製)を用い、体積平均粒径が1mm以下になるまで粗粉砕した。
【0079】
得られたプレポリマーの粗粒は、280℃以上の温度では溶融状態で光学異方性を示した。また、この粗粉砕粉体の体積平均粒径は249μmであった。
【0080】
次いで、上述のプレポリマーの粗粒を、ジェットミル(STJ−200、(株)セイシン企業製)を用いて微粉砕し、精密気流分級機(N−50、(株)セイシン企業製)を用いて分級することで、体積平均粒径が10.3μm(上限40μm)であるプレポリマー粉末を得た。
【0081】
得られたプレポリマー粉末を、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、次いで250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、さらに285℃に到達した後、同温度で3時間加熱し、固相重合を行った。固相重合後の粉末を冷却して取り出した後、ジェットミルを用いて解砕処理(粉砕処理)を行った。
その結果、体積平均粒径が10.3μmであり、流動開始温度が341℃である液晶ポリエステル粉末Aが得られた。
【0082】
(製造例2:液晶ポリエステル粉末Bの製造)
製造例1と同様にして得たプレポリマーの粗粒を、ジェットミルを用いて微粉砕し、精密気流分級機を用いて分級することで、体積平均粒径が20.0μm(上限75μm)であるプレポリマー粉末を得た。
【0083】
得られたプレポリマー粉末について、実施例1と同様に固相重合を行った。固相重合後の粉末を冷却して取り出した後、ジェットミルを用いて解砕処理(粉砕処理)を行った。
その結果、体積平均粒径が20.0μmであり、流動開始温度が342℃である液晶ポリエステル粉末Bが得られた。
【0084】
(製造例3:液晶ポリエステル粉末Cの製造)
p−ヒドロキシ安息香酸830.7g(5.0モル)、テレフタル酸394.6g(2.375モル)、イソフタル酸20.8g(0.125モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル465.5g(2.5モル)及び無水酢酸1153g(11.0モル)を反応させること以外は、製造例1と同様にして、プレポリマーを重合した。
【0085】
竪型粉砕機で粉砕したプレポリマーの粗粒は、280℃以上の温度では溶融状態で光学異方性を示した。また、この粗粉砕粉体の体積平均粒径は250μmであった。
【0086】
次いで、上述のプレポリマーの粗粒を、ジェットミルを用いて微粉砕し、精密気流分級機を用いて分級することで、体積平均粒径が9.9μm(上限40μm)であるプレポリマー粉末を得た。
【0087】
得られたプレポリマー粉末を、窒素雰囲気下、室温から240℃まで1時間かけて昇温し、次いで240℃から318℃まで5時間かけて昇温し、さらに318℃に到達した後、同温度で10時間加熱し、固相重合を行った。固相重合後の粉末を冷却して取り出した後、ジェットミルを用いて解砕処理(粉砕処理)を行った。
その結果、体積平均粒径が9.9μmであり、流動開始温度が396℃である液晶ポリエステル粉末Cが得られた。
【0088】
(製造例4:液晶ポリエステル粉末Dの製造)
p−ヒドロキシ安息香酸 995g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 447g(2.4モル)、テレフタル酸 239g(1.44モル)、イソフタル酸159g(0.96モル)及び無水酢酸 1348g(13.2モル)を反応させること以外は、製造例1と同様にして、プレポリマーを重合した。
【0089】
竪型粉砕機で粉砕したプレポリマーの粗粒は、280℃以上の温度では溶融状態で光学異方性を示した。また、この粗粉砕粉体の体積平均粒径は255μmであった。
【0090】
次いで、上述のプレポリマーの粗粒を、ジェットミルを用いて微粉砕し、精密気流分級機を用いて分級することで、体積平均粒径が8.3μm(上限40μm)であるプレポリマー粉末を得た。
【0091】
得られたプレポリマー粉末を、窒素雰囲気下、室温から200℃まで1時間かけて昇温し、次いで200℃から250℃まで0.5時間かけて昇温し、さらに250℃に到達した後、同温度で10時間加熱し、固相重合を行った。固相重合後の粉末を冷却して取り出した後、ジェットミルを用いて解砕処理(粉砕処理)を行った。
その結果、体積平均粒径が8.3μmであり、流動開始温度が312℃である液晶ポリエステル粉末Dが得られた。
【0092】
(製造例5:液晶ポリエステル粉末Eの製造)
製造例1と同様にして得たプレポリマーの粗粒を、ジェットミルを用いて微粉砕し、精密気流分級機を用いて分級することで、体積平均粒径が40.1μm(上限100μm)であるプレポリマー粉末を得た。
【0093】
得られたプレポリマー粉末について、実施例1と同様に固相重合を行った。固相重合後の粉末を冷却して取り出した後、ジェットミルを用いて解砕処理(粉砕処理)を行った。
その結果、体積平均粒径が40.1μmであり、流動開始温度が342℃である液晶ポリエステル粉末Eが得られた。
【0094】
(実施例1)
製造例1で得られた液晶ポリエステル粉末Aを15g秤量し、ポリテトラフルオロエチレン(M−18F、ダイキン工業(株)製、体積平均粒径25μm)85gとブレンドした後、プレス機を用いて、プレス成形温度340℃、プレス圧力14.7MPa(150kgf/cm)、プレス時間20分の加工条件にてプレス成形を行い、予備成形板(寸法:100mm×100mm×3mm)を得た。次いで、得られた予備成形板を、370℃で3時間焼成することにより成形板を得た。成形板の寸法は、予備成形板の寸法と同じであった。
得られた成形体から、上述の方法にしたがって試験片を作成し、各試験片について脱落物数の測定を行った。
【0095】
(実施例2)
製造例2で得られた液晶ポリエステル粉末Bを用いること以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0096】
(実施例3)
製造例1で得られた液晶ポリエステル粉末Aを8g秤量し、ポリテトラフルオロエチレン(M−18F、ダイキン工業(株)製、体積平均粒径25μm)92gとブレンドした後、プレス機を用いて、プレス成形温度340℃、プレス圧力14.7MPa(150kgf/cm)、プレス時間20分の加工条件にてプレス成形を行い、予備成形板(寸法:100mm×100mm×3mm)を得た。次いで、得られた予備成形板を、370℃で3時間焼成することにより成形板を得た。成形板の寸法は、予備成形板の寸法と同じであった。
得られた成形体から、上述の方法にしたがって試験片を作成し、各試験片について脱落物数の測定を行った。
【0097】
(実施例4)
製造例2で得られた液晶ポリエステル粉末Bを用いること以外は、実施例3と同様にして成形体を得た。
【0098】
(比較例1)
製造例3で得られた液晶ポリエステル粉末Cを用いること以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0099】
(比較例2)
製造例4で得られた液晶ポリエステル粉末Dを用いること以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0100】
(比較例3)
製造例5で得られた液晶ポリエステル粉末Eを用いること以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0101】
(比較例4)
液晶ポリエステル粉末の代わりに、スミカスーパーE101S(住友化学(株)製;体積平均粒径15μm)を用いること以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0102】
(比較例5)
製造例3で得られた液晶ポリエステル粉末Cを用いること以外は、実施例3と同様にして成形体を得た。
【0103】
(比較例6)
製造例4で得られた液晶ポリエステル粉末Dを用いること以外は、実施例3と同様にして成形体を得た。
【0104】
(比較例7)
製造例5で得られた液晶ポリエステル粉末Eを用いること以外は、実施例3と同様にして成形体を得た。
【0105】
成形体からの脱落物数を測定した結果について、実施例の結果を以下の表1に、比較例の結果を以下の表2にそれぞれ示す。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
測定の結果、実施例1〜4の樹脂組成物から得られた成形板では、比較例1〜7の成形板と比べて脱落物が生じにくいことが分かった。
脱落物が少ない成形板では、脱落物が多く生じる成形板よりも、表面の摺動特性を維持しやすい。そのため、実施例1〜4の成形板を用いて得られる摺動用部材は、比較例1〜7の成形板を用いて得られる摺動用部材よりも摺動特性を維持しやすく、物性低下が抑制されることが推測される。
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂70質量部以上95質量部以下と、下記(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステル5質量部以上30質量部以下と、を含む樹脂組成物。
(a)レーザー回折散乱法で測定される体積平均粒径が5μm以上30μm以下
(b)前記フッ素樹脂の融点をTx(℃)、前記液晶ポリエステルの融点をTy(℃)としたとき、0<(Ty−Tx)<20
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有する請求項1に記載の樹脂組成物。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、それを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で示される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有する請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記フッ素樹脂の体積平均粒径が、10μm以上30μm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物を圧縮成形した後、焼成して得られる成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の成形体を機械加工してなる摺動用部材。

【公開番号】特開2013−32485(P2013−32485A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47238(P2012−47238)
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】