説明

樹脂組成物、樹脂シート、積層板、金属ベース回路基板、インバータ装置及びパワー半導体装置

【課題】金属板と絶縁層との密着性及びヒートサイクル性に優れ、十分な絶縁破壊電圧値を有する樹脂組成物、樹脂シート、積層板、金属ベース回路基板、インバータ装置及びパワー半導体装置を提供すること。
【解決手段】(A)特定構造を有するフェノキシ樹脂、(B)無機充填剤及び(C)シランカップリング剤を含み、(C)シランカップリング剤の含有量が樹脂組成物全体の1質量%以上、10質量%以下である樹脂組成物、ならびに、その樹脂組成物からなる絶縁層を用いて得られる樹脂シート、積層板、金属ベース回路基板、インバータ装置及びパワー半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂シート、積層板、金属ベース回路基板、インバータ装置及びパワー半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT;Insulated Gate Bipolar Transistor)及びダイオード等の半導体素子、抵抗、ならびにコンデンサ等の電子部品を金属ベース回路基板上に搭載して構成したインバータ装置又はパワー半導体装置が知られている。
これらの電力制御装置は、その耐圧や電流容量に応じて各種機器に応用されている。特に、近年の環境問題、省エネルギー化推進の観点から、各種電気機械へのこれら電力制御装置の使用が年々拡大している。
特に車載用電力制御装置について、その小型化、省スペ−ス化と共に電力制御装置をエンジンル−ム内に設置することが要望されている。エンジンル−ム内は温度が高く、温度変化が大きいなど過酷な環境であり、また、放熱面積の大きな基板が必要とされる。このような用途に対して、より一層放熱性に優れる金属ベース回路基板が注目されている。
【0003】
従来の金属ベース回路基板は、熱放散性や経済的な理由からアルミニウム板を用いることが多いが、実使用下で加熱/冷却が繰り返されると、アルミニウム板と電子部品、特にチップ部品との熱膨張率の差に起因して大きな熱応力が発生し、部品を固定している半田部分又はその近傍にクラックが発生するなど電気的信頼性が低下するという問題点がある。
【0004】
このような点を改良するためには、絶縁層の熱伝導性を高くし、かつ絶縁層の弾性率を低くして、さらに高レベルの耐熱性、耐湿性を達成することが必要である。
これまで、アクリルゴムを用いることにより、低弾性率化を図った樹脂組成物を絶縁層に用いることが開示されている(例えば、特許文献1、2参照。)。しかし、アクリルゴムを用いた場合は、ヒートサイクル試験において十分な性能が得られない点で、課題を残していた。
【0005】
また、他の低弾性率化手段として、シリコーン樹脂などを用いる技術が検討されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、シリコーン樹脂を用いた場合、金属板との密着性に劣るため、金属ベース板との密着力が低下し、金属板と絶縁層との間における吸湿等により、絶縁破壊電圧値が低下する点で、課題を残していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−8426号公報
【特許文献2】特開平10−242606号公報
【特許文献3】特開2005−281509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、金属板と絶縁層との密着性及びヒートサイクル性に優れ、十分な絶縁破壊電圧値を有する樹脂組成物、樹脂シート、積層板、金属ベース回路基板、インバータ装置及びパワー半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、下記[1]〜[7]項に記載の本発明により達成される。
[1] 下記一般式(1)で表わされる構造を有するフェノキシ樹脂、(B)無機充填剤及び(C)シランカップリング剤を含み、前記(C)シランカップリング剤の含有量が樹脂組成物全体の1質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】


(但し、上記一般式(1)において、n、mは互いに独立した1以上、20以下の整数である。R1〜19は、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、又はハロゲン原子であり、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは、単結合、あるいは炭素数1〜20の炭化水素基、−O−、−S−、−SO−又は−CO−である。)
[2] 前記(A)フェノキシ樹脂の含有量は、樹脂組成物全体の10質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする第[1]項に記載の樹脂組成物。
[3] 第[1]項又は第[2]項に記載の樹脂組成物からなる絶縁層を金属箔に積層してなることを特徴とする樹脂シート。
[4] 第[3]項に記載の樹脂シートを、前記絶縁層側の面が接するように金属板の少なくとも1方の面上に積層してなることを特徴とする積層板。
[5] 前記金属板の少なくとも1方の面上に第[1]項又は第[2]項に記載の樹脂組成物からなる絶縁層を介して導体回路が形成されてなることを特徴とする金属ベース回路基板。
[6] 第[5]項に記載の金属ベース回路基板上に電子部品が搭載されていることを特徴とするインバータ装置。
[7] 第[5]項に記載の金属ベース回路基板上に電子部品が搭載されていることを特徴とするパワー半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属板と絶縁層との密着性及びヒートサイクル性に優れ、かつ十分な絶縁破壊電圧値を有する樹脂組成物、樹脂シート、積層板、金属ベース回路基板、インバータ装置及びパワー半導体装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、本発明の樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物は、(A)下記一般式(1)で表わされる構造を有するフェノキシ樹脂、(B)無機充填剤及び(C)シランカップリング剤を含み、(C)シランカップリング剤の含有量が樹脂組成物全体の1質量%以上、10質量%以下である。これにより、本発明の樹脂組成物は、金属板と絶縁層との密着性及びヒートサイクル性に優れ、十分な絶縁破壊電圧値を有することができる。また、本発明の樹脂組成物は、良好な絶縁破壊電圧値を示すことができる。
【化1】


(但し、上記一般式(1)において、n、mは互いに独立した1以上、20以下の整数である。R1〜19は、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、又はハロゲン原子であり
、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは、単結合、あるいは炭素数1〜20の炭化水素基、−O−、−S−、−SO−又は−CO−である。)
【0011】
また、本発明の樹脂組成物は、無機充填剤を含有させていることで、従来からの熱放散性が優れる点、耐電圧等の電気絶縁性に優れる点等が維持され、かつ、本発明の樹脂組成物の硬化物の弾性率を下げることができる。
【0012】
本発明の樹脂組成物に用いる(A)一般式(1)で表わされる構造を有するフェノキシ樹脂は、例えば、下記一般式(2)、(3)で表わされる構造を有するフェノキシ樹脂が挙げられる。
【化2】


(但し、上記一般式(2)において、n、mは互いに独立した1以上、20以下の整数である。)
【化3】


(但し、上記一般式(3)において、n、mは互いに独立した1以上、20以下の整数である。)
【0013】
(A)フェノキシ樹脂を絶縁層に含むことにより、絶縁層と金属板との密着性が向上する。また接続信頼性が向上し、例えば、本発明の金属ベース回路基板に、電子部品等を実装したインバータ装置及びパワー半導体装置等は、急激な加熱/冷却の環境下においても、電子部品と金属ベース回路基板を接合する半田接合部、又はその近傍で、クラック等の不良が発生することはない。
【0014】
本発明の樹脂組成物に用いる(A)フェノキシ樹脂は、骨格中にイミド結合を有するため、高い耐熱性を有し、特に半田耐熱性に優れる。また分子内に窒素原子を有するため、特に金属板と絶縁層との間の密着性が優れ、金属板と絶縁層との間における吸湿等が生じず、絶縁破壊電圧値が低下しない。
【0015】
(A)フェノキシ樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体の10質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。上記下限値未満であると、弾性率を十分下げることができない場合があり、金属ベース回路基板に用いると低弾性率化が十分でなく、急激な加熱/冷却を受けても半田接続部、又は、その近傍でのクラックが発生する恐れがある。上記上限値より多いと、プレス時の流動性が悪化し、ボイド等が発生するため、金属ベース回路基板の絶縁破壊電圧値が低下する場合がある。
なお樹脂組成物全体とは、例えば、溶剤等を用いたワニスの場合は、溶剤を除く固形分を意味し、液状エポキシ、カップリング剤等の液状成分は、樹脂組成物に含まれる。
【0016】
本発明の樹脂組成物に用いる(B)無機充填剤は、特に限定されないが、例えば、水酸
化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、窒化アルミニウム、ほう酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ、炭化ケイ素などが挙げられる。
【0017】
これらの中でも、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカが、高熱伝導性の観点から好ましい。さらに好ましくは、アルミナである。アルミナを用いた場合、高熱伝導性に加え、耐熱性、絶縁性の点で好ましい。
【0018】
また、信頼性の観点からは、結晶性シリカ又は非晶性シリカが好ましい。また、結晶性シリカ又は非晶性シリカは、イオン性不純物が少ない点でも好ましい。樹脂組成物より形成される絶縁層に、結晶性シリカ又は非晶性シリカが含まれる場合、絶縁信頼性に優れる金属ベース回路基板を得ることができる。特に、結晶性シリカ又は非晶性シリカを用いた金属ベース回路基板は、プレッシャークッカテスト等の水蒸気雰囲気下で絶縁性が高く、金属、アルミ線、アルミ板等の腐食が少ない点で好適である。
【0019】
一方、難燃性の観点からは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましい。さらに、溶融粘度調整やチクトロピック性の付与の目的においては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグシウム、アルミナ、結晶性シリカ、非晶性シリカが好ましい。
【0020】
(B)無機充填剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体の40質量%以上、70質量%以下であることが好ましい。上記下限値より少ないと、熱抵抗が増大し、十分な放熱性を得ることができない場合があり、上記上限値より多いと、プレス時の流動性が悪化し、ボイド等が発生する場合がある。
【0021】
(C)シランカップリング剤は、本発明の樹脂組成物に含むことにより、金属板と絶縁層との密着性が向上し、従来よりも金属ベース回路基板の絶縁破壊電圧値が向上する。これは、(A)フェノキシ樹脂及び(B)無機充填剤との組み合わせによる相乗効果によるものと推察される。
【0022】
(C)シランカップリング剤の含有量は、樹脂組成物全体の1質量%以上、10質量%以下であることが好ましい。より好ましく、3質量%以上、7質量%以下である。含有量が上記下限値未満であると、金属板と絶縁層との密着力が低下し、金属ベース回路基板の半田耐熱性が低下する場合がある。また上記上限値を超えると、シランカップリング剤が多量に存在することにより、架橋密度が低下し、半田耐熱性が低下する場合がある。
【0023】
本発明の樹脂組成物には、改質剤として、エポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂を添加することにより、樹脂組成物の耐湿性、耐熱性、特に吸湿後の耐熱性が改善される。エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であれば、特に限定されず、例えば、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ビフェニル系、ノボラック系、多官能フェノール系、ナフタレン系、脂環式系及びアルコール系等のグリシジルエーテル、グリシジルアミン及びグリシジルエステル等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
これらの中でも、耐熱性、耐湿性、金属接着性及びプレス成形時の流動性の観点から、ビスフェノールAエポキシ樹脂が好ましく、特に常温で液状のビスフェノールAエポキシ樹脂が好ましい。常温で液状のビスフェノールAエポキシ樹脂は、プレス成形時の流動性が特に優れる上、フェノキシ樹脂との相溶性に優れ、樹脂組成物が相分離等を起こさないため、耐熱性に優れる。
【0025】
本発明の樹脂組成物には、エポキシ樹脂の硬化剤及び/又は硬化触媒を含んでも良い。硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、酸無水物、アミン化合物及びフェノール化合物等が挙げられる。また、硬化剤又は硬化触媒としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾール類及びその誘導体、第三級アミン類、ならびに第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0026】
本発明の樹脂組成物には、その他必要に応じ、任意に公知の熱可塑性樹脂、エラストマー、難燃剤及び充填剤、色素、紫外線吸収剤等を、適宜添加することができる。
【0027】
次に、本発明の樹脂シートについて説明する。本発明の樹脂シートは、前述した本発明の樹脂組成物からなる絶縁層を金属箔上に積層することにより得られる。
【0028】
より具体的には、まず、絶縁層を形成するため本発明の樹脂組成物を、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンシクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、セルソルブ系、カルビトール系、アニソール等の有機溶剤中で、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式及び自転公転式分散方式などの各種混合機を用いて溶解、混合、撹拌して樹脂ワニスを作製する。ここで、樹脂ワニス中の樹脂組成物の含有量は、特に限定されないが、45質量%以上、85質量%以下が好ましく、特に55質量%以上、75質量%以下が好ましい。
【0029】
次に樹脂ワニスを、各種塗工装置を用いて、金属箔上に塗工した後、これを乾燥する。又は、樹脂ワニスをスプレー装置により金属箔に噴霧塗工した後、これを乾燥する。これらの方法により樹脂シートを作製することができる。塗工装置としては、特に限定されないが、例えば、ロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター及びカーテンコーターなどを用いることができる。これらの中でも、ダイコーター、ナイフコーター及びコンマコーターを用いる方法が好ましい。これにより、ボイドがなく、均一な絶縁層の厚みを有する樹脂シートを効率よく製造することができる。
【0030】
本発明の樹脂シートにおける絶縁層の厚さは、50μm以上、250μmの範囲が好ましい。上記下限値未満の場合、後述する本発明の金属ベース回路基板に用いると、例えば、アルミニウム板等の金属板との熱膨張率差による熱応力の発生を絶縁層で緩和することが十分にできない。その結果、金属ベース回路基板に半導体素子、抵抗部品等を表面実装した場合、歪が大きくなり、十分な熱衝撃信頼性を得ることができなくなる場合がある。上記上限値を超えると、表面実装した部分の歪量が少なく、良好な熱衝撃信頼性を得ることができるが、熱抵抗が増大するため、十分な放熱性を得ることができない。
【0031】
本発明の樹脂シートにおける金属箔は、特に限定されないが、例えば銅及び銅系合金、アルミ及びアルミ系合金、銀及び銀系合金、金及び金系合金、亜鉛及び亜鉛系合金、ニッケル及びニッケル系合金、錫及び錫系合金、鉄及び鉄系合金等の金属箔が挙げられる。これらの中でも、金属箔をエッチングにより導体回路として用いることができる点で銅が好ましい。また、低熱膨張の観点からは、鉄−ニッケル合金が好ましい。
【0032】
尚、金属箔の製造方法は、電解法でも圧延法でもよく、金属箔上にはNiメッキ、Ni−Auメッキ、半田メッキなどの金属メッキがほどこされていてもかまわないが、絶縁層との接着性の点から導体回路の絶縁層に接する側の表面はエッチングやメッキ等により予め粗化処理されていることが一層好ましい。
【0033】
金属箔の厚さは、特に限定されないが、0.5μm以上、105μm以下であることが好ましく、1μm以上、70μm以下がより好ましく、9μm以上、35μm以下がさらに好ましい。金属箔の厚さが上記下限値未満であると、ピンホールが発生しやすく、金属箔をエッチングし導体回路として用いた場合、回路パターン成形時のメッキバラツキ、回路断線、エッチング液やデスミア液等の薬液の染み込みなどが発生する怖れがある。また、上記上限値を超えると、金属箔の厚みバラツキが大きくなったり、金属箔粗化面の表面粗さバラツキが大きくなったりする場合がある。
【0034】
また、金属箔は、キャリア箔付き極薄金属箔を用いることもできる。キャリア箔付き極薄金属箔とは、剥離可能なキャリア箔と極薄金属箔とを張り合わせた金属箔である。キャリア箔付き極薄金属箔を用いることで絶縁層の両面に極薄金属箔層を形成できることから、例えば、セミアディティブ法などで回路を形成する場合、無電解メッキを行うことなく、極薄金属箔を直接給電層として電解メッキすることで、回路を形成後、極薄銅箔をフラッシュエッチングすることができる。キャリア箔付き極薄金属箔を用いることによって、厚さ10μm以下の極薄金属箔でも、例えばプレス工程での極薄金属箔のハンドリング性の低下や、極薄銅箔の割れや切れを防ぐことができる。
【0035】
次に、本発明の積層板及び金属ベース回路基板について説明する。本発明の積層板は、特に限定されないが、例えば、金属板の片面又は両面に、前述した本発明の樹脂シートの絶縁層側の面が接するように積層し、プレス等を用い加圧・加熱硬化させて絶縁樹脂硬化層を形成することにより得ることができる。また、本発明の金属ベース回路基板は、得られた積層板の金属箔をエッチングして回路形成することにより得ることができる。尚、金属ベース回路基板を多層にする場合は、回路形成後の金属ベース回路基板上に、樹脂シートの絶縁層側の面が接するようにさらに樹脂シートを積層し、加圧・加熱硬化させた後、最外層の金属箔をエッチングして回路形成することにより多層の金属ベース回路基板を得ることができる。なお、最外層にソルダーレジストを形成し、露光・現像により半導体素子、や電子部品が実装できるよう接続用電極部を露出させても良い。
【0036】
金属板の厚みは、特に限定されないが、厚み0.5mm以上、5.0mmであることが好ましい。熱放散性に優れ、しかも経済的であるからである。
【0037】
本発明の積層板を作製する別の方法としては、金属板に樹脂ワニスを塗工し、その後、金属箔を積層し加熱・加圧する方法が挙げられる。この場合においても、得られた積層板の金属箔をエッチングし、回路形成することにより、金属ベース回路基板を得ることができる。尚、金属板に樹脂ワニスを塗工し、樹脂を硬化させた後、無電解めっき及び電解めっきにより回路形成を行っても良い。
【0038】
本発明の金属ベース回路基板は、導体回路の上に電子部品が搭載されたインバータ装置及びパワー半導体装置等の電力制御装置に応用される。ここでインバータ装置とは、直流電力から交流電力を電気的に生成する(逆変換する機能を持つ)ものである。またパワー半導体装置とは、通常の半導体素子に比べて高耐圧化、大電流化、高速・高周波化されている特徴を有し、一般的にはパワーデバイスと呼ばれ、整流ダイオード、パワートランジスタ、パワーMOSFET、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、サイリスタ、ゲートターンオフサイリスタ(GTO)、トライアックなどが挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
合成例(1)
下記一般式(2)で表わされる構造を有するフェノキシ樹脂1の合成
2官能エポキシ樹脂としてDIC製850Sを190質量部、フェノール化合物として特開2006−83128(1−2式)で表わされるイミド変性フェノールを220質量部、触媒としてテトラメチルアンモニウムクロライド0.5質量部及びシクロヘキサノン100部を耐圧反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下150℃で5時間、重合反応を行った。反応生成物から溶剤を除去し、フェノキシ樹脂1を得た。フェノキシ樹脂1の重量平均分子量は37000であった。
【化2】


(但し、上記一般式(2)において、n、mは互いに独立した1以上、20以下の整数である。)
【0041】
合成例(2)
下記一般式(3)で表わされる構造を有するフェノキシ樹脂2の合成
2官能エポキシ樹脂として三菱化学製YX−4000を190質量部、フェノール化合物として特開2006−83128(1−2式)で表わされるイミド変性フェノールを220質量部、触媒としてテトラメチルアンモニウムクロライド0.5質量部及びシクロヘキサノン100部を耐圧反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下150℃で5時間、重合反応を行った。反応生成物から溶剤を除去し、フェノキシ樹脂2を得た。フェノキシ樹脂2の重量平均分子量は23000であった。
【化3】


(但し、上記一般式(3)において、n、mは互いに独立した1以上、20以下の整数である。)
【0042】
実施例及び比較例において用いた原材料は以下の通りである。
(1)合成例1で合成したフェノキシ樹脂1
(2)合成例2で合成したフェノキシ樹脂2
(3)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC製、850S、エポキシ当量190)
(4)ジシアンジアミド(デグサ製)
(5)フェノールノボラック樹脂(DIC製、TD−2010、水酸基当量105)
(6)2−フェニルイミダゾール(四国化成製、2PZ)
(7)γ−グリシドキシプロピルトリトメキシシラン(信越シリコーン製、KBM−403)
(8)アルミナ(電気化学工業製、AS−50)
(9)窒化ホウ素(電気化学工業製、SPG−3)
(10)ビスフェノールA型フェノキシ樹脂3(三菱化学製、1256、重量平均分子量5.1×10
(11)シリコーン樹脂1(モメンティブパフォーマンズ製XE14−A0425(A
)、ポリアルケニルシロキサン)
(12)シリコーン樹脂2(モメンティブパフォーマンズ製XE14−A0425(B)、ポリアルキル水素シロキサン)
【0043】
(実施例1)
(1)樹脂ワニスの調製
フェノキシ樹脂1(合成例1で合成したもの) 16.8質量部
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC製、850S、エポキシ当量190)
19.7質量部
2−フェニルイミダゾール(四国化成製2PZ) 0.5質量部
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製KBM−403)
3.0質量部
アルミナ(電気化学工業製、AS−50) 60.0質量部
をシクロヘキサノンに溶解・混合させ、高速撹拌装置を用い撹拌して、樹脂組成物が固形分基準で70質量%の樹脂ワニスを得た。
【0044】
(2)樹脂シートの作製
金属箔として、厚さ70μmの銅箔(古河サーキットホイル製、GTSMP)を用い、銅箔の粗化面に樹脂ワニスをコンマコーターにて塗布し、100℃で3分、150℃で3分加熱乾燥し、樹脂厚100μmの樹脂付き銅箔(樹脂シート)を得た。
【0045】
(3)積層板の作製
で得られた樹脂シートの絶縁層側の面が接するように、樹脂シートと2mm厚のアルミニウム板とを張り合わせ、真空プレスで、プレス圧2.9MPaで80℃30分、200℃90分の条件下で、プレスし積層板を得た。
(4)インバータ装置の作製
得られた積層板に回路形成するため、回路以外の不要な部分をエッチングにより除去し、回路を形成後、所定の部分に試験用の電子部品を搭載し、半田接合を行うことにより、インバータ装置を得た。
【0046】
(実施例2〜6及び比較例1〜5)
表1及び表2に記載の配合表に従い樹脂ワニスを調製した以外は、実施例1と同様に樹脂ワニスを調製し、樹脂シート、積層板及びインバータ装置を作製した。
また、各実施例及び比較例により得られた金属ベース回路基板について、次の各評価を行った。評価結果を表1及び表2に示す。
【0047】
(評価方法)
各評価について、評価方法を以下に示す。
【0048】
(1)ピール強度
実施例及び比較例で得られた積層板をグラインダーソーでカットして100mm×20mmの試験片を作製し、23℃におけるアルミニウム板と樹脂硬化層とのピール強度を測定した。尚、ピール強度測定は、JIS C 6481に準拠して行った。
【0049】
(2)半田耐熱性
得られた積層板を50mm×50mmにグラインダーソーでカットした後、エッチングにより銅箔を1/4だけ残した試料を作製し、JIS C 6481に準拠して評価した。評価は、前処理をしない場合と、121℃、100%、(PCT処理)を4時間行った後の場合において、288℃の半田槽に30秒間浸漬した後で外観の異常の有無を調べた。
評価基準:異常なし
:膨れあり(全体的に膨れの箇所がある)
【0050】
(3)絶縁破壊電圧
得られた積層板を100mm×100mmにグラインダーソーでカットした後、端縁部から約30mmの位置から外側部分の銅箔をエッチングにより除去し、試料を作成した。耐電圧試験器(MODEL7473、EXTECH Electronics社製)を用いて、銅箔とアルミニウム板に電極を接触せしめて、両電極に1kV/秒の速度で電圧が上昇するように、交流電圧を印加した。積層板の樹脂硬化層が破壊した電圧を、絶縁破壊電圧とした。
【0051】
(4)熱伝導率
得られた積層板の密度を水中置換法により測定し、また、比熱をDSC(示差走査熱量測定)により測定し、さらに、レーザーフラッシュ法により熱拡散率を測定した。そして、熱伝導率を以下の式から算出した。
熱伝導率(W/m・K)=密度(kg/m)×比熱(kJ/kg・K)×熱拡散率(m/S)×1000
【0052】
(5)ヒ−トサイクル試験
で得られたインバータ装置を用い、−40℃7分、+125℃7分を1サイクルとして10000回のヒートサイクル試験を行った後、顕微鏡で半田部分のクラックの有無を観察した。半田部分のクラックの発生が10%以上あるものは不良とし、半田クラックの発生が10%未満のものを良好と判定した。
評価基準:良好
:不良(クラック発生率10%以上)
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1及び2に記載されている評価結果より、以下のことが分かった。
本発明の(A)一般式(1)で表される構造を有するフェノキシ樹脂とは異なる構造のフェノキシ樹脂3を用いた比較例1では、積層板におけるPCT処理後の半田耐熱性、ならびに、インバータ装置におけるヒートサイクル性が劣る結果となった。また、シランカップリング剤の含有量が少ない比較例2では、積層板におけるピール強度が低下し、PCT処理後の半田耐熱性も劣る結果となった。一方、シランカップリング剤の含有量が過剰な比較例3では、積層板におけるピール強度自体は低下していないものの、PCT処理後の半田耐熱性は劣る結果となった。また、無機充填剤を用いなかった比較例4では、積層板における熱伝導性が低い値となった。さらに、本発明の(A)一般式(1)で表される構造を有するフェノキシ樹脂及びエポキシ樹脂を用いる代わりにシリコーン樹脂を用いた比較例5では、積層板におけるピール強度が低下し、PCT処理後の半田耐熱性も劣る結果となった。また、絶縁破壊電圧が低い値となった。
これに対し、実施例1〜6は、(A)一般式(1)で表わされる構造を有するフェノキシ樹脂、(B)無機充填剤及び(C)シランカップリング剤を含み、(C)シランカップリング剤の含有量が樹脂組成物全体の1質量%以上、10質量%以下である樹脂組成物を用いたものであり、(A)フェノキシ樹脂の種類を変更したもの、(B)無機充填剤の種類を変更したもの、(C)シランカップリング剤の含有量を変更したもの、及び硬化剤・硬化促進剤の種類をを変更したもの等を含むものであるが、いずれにおいても、積層板におけるピール強度が高く、半田耐熱性に優れる結果となった。また、十分な絶縁破壊電圧値及び高い熱伝導率も有していた。また、インバータ装置におけるヒートサイクル性についても良好な結果が得られた。
従って、本発明による樹脂組成物を用いることにより、性能の優れた金属ベース回路基板、インバータ装置及びパワー半導体装置が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、金属板と絶縁層との密着性及びヒートサイクル性に優れ、かつ十分な絶縁破壊電圧値、高い熱伝導率を得ることができるため、本発明の樹脂組成物、樹脂シー
ト、積層板、金属ベース回路基板、インバータ装置及びパワー半導体装置は、自動車のエンジンル−ム等過酷な環境化で用いられる材料として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表わされる構造を有するフェノキシ樹脂、(B)無機充填剤及び(C)シランカップリング剤を含み、前記(C)シランカップリング剤の含有量が樹脂組成物全体の1質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】


(但し、上記一般式(1)において、n、mは互いに独立した1以上、20以下の整数である。R1〜19は、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、又はハロゲン原子であり、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは、単結合、あるいは炭素数1〜20の炭化水素基、−O−、−S−、−SO−又は−CO−である。)
【請求項2】
前記(A)フェノキシ樹脂の含有量は、樹脂組成物全体の10質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物からなる絶縁層を金属箔に積層してなることを特徴とする樹脂シート。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂シートを、前記絶縁層側の面が接するように金属板の少なくとも1方の面上に積層してなることを特徴とする積層板。
【請求項5】
前記金属板の少なくとも1方の面上に請求項1又は2に記載の樹脂組成物からなる絶縁層を介して導体回路が形成されてなることを特徴とする金属ベース回路基板。
【請求項6】
請求項5に記載の金属ベース回路基板上に電子部品が搭載されていることを特徴とするインバータ装置。
【請求項7】
請求項5に記載の金属ベース回路基板上に電子部品が搭載されていることを特徴とするパワー半導体装置。


【公開番号】特開2013−23503(P2013−23503A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156191(P2011−156191)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】