説明

樹脂組成物、樹脂成形体、筐体及び樹脂成形体の製造方法

【課題】バイオマス本来の目的である植物度をなるべく損なうことなく、バイオマス材料の課題である機械強度及び耐熱性が十分に向上された樹脂成形体を得ることが可能な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】植物由来高分子化合物と、ポリイミド樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。植物由来高分子化合物としては生分解性高分子化合物であることが好ましく、特にポリ乳酸が好適に使用される。ポリイミド樹脂としては、熱可塑性ポリイミド樹脂が好適に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂成形体、筐体及び樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化、石油枯渇、廃棄物問題に代表される環境問題への取り組みや、持続型循環社会構築の考え方から、植物由来のバイオマス材料(植物由来高分子化合物)の開発が盛んに行われている。例えばポリ乳酸は、石油を一切使用せず穀物などから製造されるバイオマス材料として注目されており、農業用シートや家庭用ゴミ袋などの用途に使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸等のバイオマス材料は、硬くて脆く、耐熱性が低いといった問題を有しており、その用途は非常に狭い範囲に限定されてきた。そこで、こうした問題を改善するため、可塑性及び耐熱性を有する石油系樹脂材料とバイオマス材料とをブレンドした樹脂組成物が提案されており、この樹脂組成物を携帯型音楽プレーヤーやノートパソコン等の筐体に使用することが試みられている。このような樹脂組成物として具体的には、例えば、ポリカーボネートとポリ乳酸と衝撃改良剤とを含む樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、成形時の金型温度を高温にする方法や、一旦フィルムに成形したものを二軸延伸する方法等を用いてポリ乳酸等のバイオマス材料を結晶化することにより、その脆さを改善し、食事トレイや、DVD、CD−ROMなどのパッケージフィルム等に用いる試みがなされている。この場合、材料の植物度はほぼ100%となる。
【特許文献1】特開2005−48067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにポリ乳酸等のバイオマス材料を結晶化する方法であっても、機械強度及び耐熱性の向上が未だ不十分である。
【0006】
また、上記特許文献1に記載されているポリカーボネートとポリ乳酸とをブレンドした樹脂組成物では、ポリカーボネートによるポリ乳酸の脆さの改善効果が必ずしも十分ではなく、ポリ乳酸の脆さを改善するためにはポリカーボネートを多量にブレンドする必要があるため、樹脂組成物の植物度が低くなって、バイオマス材料本来の目的が十分に達成できなくなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、バイオマス本来の目的である植物度をなるべく損なうことなく、バイオマス材料の課題である機械強度及び耐熱性が十分に向上された樹脂成形体を得ることが可能な樹脂組成物、及びそれを用いた樹脂成形体、筐体、並びに、樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、植物由来高分子化合物と、ポリイミド樹脂と、を含有することを特徴とする樹脂組成物を提供する。
【0009】
本発明で用いるポリイミド樹脂は、極めて高い耐熱性と機械強度とを有する樹脂である。このようなポリイミド樹脂を植物由来高分子化合物と混合させることにより、樹脂成形体を形成した場合にその機械特性及び耐熱性を著しく向上させることができる。また、樹脂組成物中の植物由来高分子化合物の量を十分に高くしつつ、得られる樹脂成形体の機械特性及び耐熱性を良好なものとすることができるため、バイオマス本来の目的である植物度を十分に高くすることができる。
【0010】
また、上記特許文献1に記載されているようなポリカーボネートとポリ乳酸とをブレンドした樹脂組成物は、高温高湿環境に弱く、加水分解により樹脂成形体の変形や機械強度の低下が生じるため、例えば船輸送を伴う用途などには全く使用できないという問題を有していた。これに対し、本発明の樹脂組成物は、高温高湿環境下での加水分解の発生を十分に抑制することができ、樹脂成形体の変形や機械強度の低下を十分に抑制することができる。
【0011】
また、本発明の樹脂組成物において、上記植物由来高分子化合物が生分解性高分子化合物であることが好ましい。上記植物由来高分子化合物が生分解性高分子化合物であることにより、上記樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体が産業廃棄物になることがなく、バイオマス材料として特に有用なものとなる。
【0012】
また、本発明の樹脂組成物において、上記生分解性高分子化合物がポリ乳酸であることが好ましい。植物由来高分子化合物として生分解性高分子化合物であるポリ乳酸を用いた場合、ポリイミド樹脂との組み合わせにおいて、上記樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体の機械強度及び耐熱性を特に高めることができる。この原因については必ずしも定かではないが、ポリ乳酸末端のカルボキシル基と、ポリイミド樹脂が持つカルボニル基との相互作用により、ポリ乳酸とポリイミド樹脂の相溶性が強化されるためであると推測している。
【0013】
また、本発明の樹脂組成物において、上記ポリイミド樹脂が熱可塑性ポリイミド樹脂であることが好ましい。熱可塑性ポリイミド樹脂を用いることで、植物由来高分子化合物との相溶性をより良好なものとすることができ、上記樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体の機械強度及び耐熱性をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明の樹脂組成物において、上記ポリイミド樹脂が下記一般式(I)で表されるポリイミド樹脂であることが好ましい。
【化1】



[式中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、アリール基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、シクロアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、又は、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を示し、m及びnはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し、p及びqはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、rは1〜1000の整数を示す。]
【0015】
かかるポリイミド樹脂は、植物由来高分子化合物との相溶性が極めて高く、上記樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体の機械強度及び耐熱性をより向上させることができる。
【0016】
更に、本発明者らは、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤及び無機粒子系難燃剤からなる群より選択される少なくとも一種の難燃剤を樹脂組成物に加えることにより、ポリイミド樹脂と植物由来高分子化合物との相溶性が高められることを見出した。そして、上記構成を有する本発明の樹脂組成物によれば、上記特定の難燃剤を含むことにより、ポリイミド樹脂と植物由来高分子化合物との相溶性を非常に良好なものとすることができるとともに、両者のアンカー効果も発現して、例えば少量のポリイミド樹脂を混入しただけでも、樹脂成形体を形成した場合にその機械特性及び耐熱性を著しく向上させることができ、且つ、十分に高い難燃性を確保することが可能となる。また、樹脂組成物中の植物由来高分子化合物の量を十分に高くしつつ、得られる樹脂成形体の機械特性、耐熱性及び難燃性を良好なものとすることができるため、バイオマス本来の目的である植物度を十分に高くすることができる。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、上記難燃剤として水酸化マグネシウムを含有することが好ましい。水酸化マグネシウムは、環境負荷の点で特に優れているとともに、ポリイミド樹脂及び植物由来高分子化合物との相溶性に優れ、上記樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体の機械強度、耐熱性及び難燃性をより向上させることができる。
【0018】
本発明はまた、植物由来高分子化合物と、ポリイミド樹脂と、を含有することを特徴とする樹脂成形体を提供する。かかる樹脂成形体によれば、上述した本発明の樹脂組成物と同様に、植物由来度合い(植物度)を十分に高くすることが可能であり、環境負荷を十分に低くすることが可能であるとともに、十分な機械強度及び耐熱性を得ることができる。また、上記樹脂成形体は、高温高湿環境下での加水分解の発生を十分に抑制することができ、変形や機械強度の低下を十分に抑制することができる。
【0019】
また、本発明の樹脂成形体において、上記植物由来高分子化合物が生分解性高分子化合物であることが好ましい。上記植物由来高分子化合物が生分解性高分子化合物であることにより、樹脂成形体は産業廃棄物になることがなく、バイオマス材料として特に有用なものとなる。
【0020】
また、本発明の樹脂成形体において、上記生分解性高分子化合物がポリ乳酸であることが好ましい。植物由来高分子化合物として生分解性高分子化合物であるポリ乳酸を用いた場合、ポリイミド樹脂との組み合わせにおいて、樹脂成形体の機械強度及び耐熱性を特に高めることができる。この原因については必ずしも定かではないが、ポリ乳酸末端のカルボキシル基と、ポリイミド樹脂が持つカルボニル基との相互作用により、ポリ乳酸とポリイミド樹脂の相溶性が強化されるためであると推測している。
【0021】
また、本発明の樹脂成形体において、上記ポリイミド樹脂が熱可塑性ポリイミド樹脂であることが好ましい。熱可塑性ポリイミド樹脂を用いることで、植物由来高分子化合物との相溶性をより良好なものとすることができ、樹脂成形体の機械強度及び耐熱性をより向上させることができる。
【0022】
また、本発明の樹脂成形体において、上記ポリイミド樹脂が下記一般式(I)で表されるポリイミド樹脂であることが好ましい。
【化2】



[式中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、アリール基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、シクロアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、又は、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を示し、m及びnはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し、p及びqはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、rは1〜1000の整数を示す。]
【0023】
かかるポリイミド樹脂は、植物由来高分子化合物との相溶性が極めて高く、樹脂成形体の機械強度及び耐熱性をより向上させることができる。
【0024】
また、本発明の樹脂成形体は、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤及び無機粒子系難燃剤からなる群より選択される少なくとも一種の難燃剤を更に含有することが好ましい。本発明の樹脂成形体は、上記特定の難燃剤を含むことにより、ポリイミド樹脂と植物由来高分子化合物との相溶性を非常に良好なものとすることができるとともに、両者のアンカー効果も発現して、例えば少量のポリイミド樹脂を混入しただけでも、機械特性及び耐熱性を著しく向上させることができ、且つ、十分に高い難燃性を確保することが可能となる。また、樹脂成形体中の植物由来高分子化合物の量を十分に高くしつつ、機械特性、耐熱性及び難燃性を良好なものとすることができるため、バイオマス本来の目的である植物度を十分に高くすることができる。
【0025】
また、本発明の樹脂成形体は、上記難燃剤として水酸化マグネシウムを含有することが好ましい。水酸化マグネシウムは、環境負荷の点で特に優れているとともに、ポリイミド樹脂及び植物由来高分子化合物との相溶性に優れ、樹脂成形体の機械強度、耐熱性及び難燃性をより向上させることができる。
【0026】
本発明はまた、上述した本発明の樹脂組成物を成形してなることを特徴とする樹脂成形体を提供する。かかる樹脂成形体によれば、本発明の樹脂組成物を用いて成形されているため、植物由来度合い(植物度)を十分に高くすることが可能であり、環境負荷を十分に低くすることが可能であるとともに、十分な機械強度及び耐熱性を得ることができる。また、上記樹脂成形体は、高温高湿環境下での加水分解の発生を十分に抑制することができ、変形や機械強度の低下を十分に抑制することができる。
【0027】
また、上述した本発明の樹脂成形体は事務機器部品であることが好ましい。本発明の樹脂成形体は、機械強度及び耐熱性の双方を高水準で達成できることから、事務機器部品として非常に有用である。
【0028】
本発明はまた、上述した本発明の樹脂成形体が一部又は全部に用いられたことを特徴とする筐体を提供する。かかる筐体は、その一部又は全部に本発明の樹脂成形体が用いられているため、機械強度及び耐熱性の双方を高水準で達成することができる。
【0029】
本発明は更に、植物由来高分子化合物と、を混練してそのまま射出成形することを特徴とする樹脂成形体の製造方法を提供する。
【0030】
かかる製造方法によれば、本発明の樹脂組成物を構成する各材料同士の極めて高い相溶性を最大限に生かし、各材料同士の混練と、混練された材料の成形とを一度に行うことができるため、消費電力が極めて小さく、より環境負荷が小さくなるばかりか、製造効率も極めて高くすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、バイオマス本来の目的である植物度をなるべく損なうことなく、バイオマス材料の課題である機械強度及び耐熱性が十分に向上された樹脂成形体を得ることが可能な樹脂組成物、及びそれを用いた樹脂成形体、筐体、並びに、樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、植物由来高分子化合物と、ポリイミド樹脂と、を含有することを特徴とするものである。
【0034】
ここで、植物由来高分子化合物は、植物由来のものであれば特に限定されるものではないが、産業廃棄物を低減する観点から、生分解性高分子化合物であることが好ましい。生分解性高分子化合物としては、生分解性、即ち、土中や水中の微生物で二酸化炭素と水に分解される性質を有する高分子であれば特に限定されない。かかる分解性高分子化合物として具体的には、デンプン、キトサン、酢酸セルロース、蟻酸セルロースなどのセルロース類、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の脂肪族ポリエステル類などが挙げられる。これらの中でも、ポリイミド樹脂との相溶性に優れ、より高い機械強度、耐熱性及び難燃性を有する樹脂成形体を形成可能であることから、脂肪族ポリエステル類が好ましい。脂肪族ポリエステル類を用いることにより、微量のポリイミド樹脂を配合するだけで、得られる樹脂成形体は汎用エンジニアリングプラスチック並の十分な耐熱性が得られるとともに、優れた耐衝撃性が得られる。また、脂肪族ポリエステル類を用いた樹脂組成物によれば、ポリイミド樹脂におけるイミド末端と脂肪族ポリエステルとの重縮合性を利用した結合を有する樹脂成形体を得ることができ、高温高湿環境下での変形や機械強度の劣化をより十分に抑制することができる。更に、こうした脂肪族ポリエステル類の中でも、ポリイミド樹脂との相溶性がより優れ、樹脂成形体の機械強度、耐熱性及び難燃性をより向上できることから、ポリ乳酸が特に好ましい。これらの植物由来高分子化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
植物由来高分子化合物としてポリ乳酸を用いた場合、ポリイミド樹脂との組み合わせにおいて、特に高い機械強度、耐熱性及び難燃性を獲得することができる。この原因については必ずしも定かではないが、ポリ乳酸末端のカルボキシル基と、ポリイミド樹脂が持つカルボニル基との相互作用により、ポリ乳酸とポリイミド樹脂の相溶性が強化されるためであると推測している。
【0036】
また、本発明の樹脂組成物において、植物由来高分子化合物としてポリ乳酸を使用する場合、ポリ乳酸の重量平均分子量は1000〜200000であることが好ましく、5000〜100000であることが特に好ましい。重量平均分子量が1000未満であると、得られる樹脂成形体の機械強度が低下する傾向があり、200000を越えると、ポリ乳酸の末端基の数が減少し、ポリイミド樹脂との相溶性、アンカー効果が十分に発揮し難くなる傾向がある。
【0037】
本発明の樹脂組成物において、植物由来高分子化合物の含有量は、樹脂組成物全量を基準として5〜99質量%であることが好ましく、20〜90質量%であることがより好ましい。植物由来高分子化合物の含有量が5質量%未満であると、樹脂組成物の植物度が低下し、環境負荷低減効果が十分に得られなくなる傾向があり、99質量%を越えると、得られる樹脂成形体の機械特性、耐熱性及び難燃性が低下する傾向がある。
【0038】
本発明に用いられるポリイミド樹脂としては、公知のポリイミド樹脂を特に制限なく用いることができるが、植物由来高分子化合物との相溶性の観点から、熱可塑性ポリイミド樹脂を用いることが好ましい。
【0039】
熱可塑性ポリイミド樹脂の具体例としては、下記一般式(II)〜(IV)で表される無水カルボン酸と、p−フェニレンジアミン、各種シクロヘキサンジアミン、水添ビスフェノールA型ジアミン等の公知のジアミンと、からなるポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0040】
【化3】



【0041】
【化4】



【0042】
【化5】



[式(II)〜(IV)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、アリール基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキレン基を示し、m及びnはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。]
【0043】
こうした熱可塑性ポリイミド樹脂の中でも、下記一般式(I)で表されるポリイミド樹脂が、植物由来高分子化合物及び難燃剤との相溶性が極めて高いため好ましい。また、下記一般式(I)で表されるポリイミド樹脂において、ジアミンを水添ビスフェノールA型ジアミンから各種シクロヘキサンジアミンに変えたものも好ましい。
【0044】
【化6】



[式中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、アリール基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、シクロアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、又は、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を示し、m及びnはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し、p及びqはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、rは1〜1000の整数を示す。]
【0045】
なお、上記一般式(I)中、R及びRは水素原子であることが好ましく、R及びRはそれぞれ独立に、メチル基又はシクロヘキシル基であることが好ましく、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0046】
また、ポリイミド樹脂の重量平均分子量は5000〜200000であることが好ましく、10000〜100000であることがより好ましい。重量平均分子量が5000未満であると、機械強度及び耐熱性が低下する傾向があり、200000を越えると、植物由来高分子化合物との相溶性が低下し、機械強度が低下する傾向がある。
【0047】
これらのポリイミド樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
本発明の樹脂組成物において、ポリイミド樹脂の含有量は、樹脂組成物全量を基準として1〜95質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましい。ポリイミド樹脂の含有量が1質量%未満であると、得られる樹脂成形体の機械特性、耐熱性及び難燃性が低下する傾向があり、95質量%を越えると、樹脂組成物の植物度が低下し、環境負荷低減効果が十分に得られなくなる傾向がある。
【0049】
本発明の樹脂組成物を成形材料として用いる場合、特に家電製品や事務機器の成形材料として用いる場合には、製造者責任の立場から、これらの樹脂成形体には極めて高い難燃性が要求される。要求される難燃性のレベルは製品によって異なるが、概ねUL94規格におけるV−2相当以上の難燃性が要求されることが多い。一方、植物由来高分子化合物の殆どのものがUL94におけるV−2未満の難燃性しか有していない。また、ポリイミド樹脂についても同様である。従って、植物由来高分子化合物とポリイミド樹脂とを含む樹脂組成物に難燃性を付与するには何らかの難燃剤を添加することが好ましい。
【0050】
一般的に難燃剤として最も効果が高いと言われているのが臭素系難燃剤である。しかし、臭素系難燃剤は燃焼時に有毒ガスを発生する可能性があることから、環境負荷の点で好ましくない。一方、リン系、シリコーン系、及び、無機粒子系の難燃剤は環境負荷が小さく好ましいが、従来、高分子材料との相溶性が悪いなどの理由から、ブリードを起こしたり、機械強度の低下を招いたり、特にリン系難燃剤は加水分解性が高いといったような課題があった。そのため、従来、植物由来高分子化合物を含む樹脂組成物を用いた樹脂成形体において、難燃性と機械強度との両立を果たすことは極めて難しかった。
【0051】
しかしながら、植物由来高分子化合物とポリイミド樹脂との混合物は、リン系、シリコーン系、及び、無機粒子系の難燃剤との相溶性に極めて優れるため、特に一般には多量に添加しないと難燃効果が現れないとされる無機粒子系難燃剤であっても、添加量を抑えながら、UL94におけるV−2レベル相当以上の難燃性を容易に実現することが可能となる。
【0052】
本発明に使用する難燃剤は、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤及び無機粒子系難燃剤からなる群より選択される少なくとも一種であり、これらの好適な具体例としては、リン酸エステル系、縮合リン酸エステル系、リン重合ポリエステル系などのリン系難燃剤、シリコーンパウダー、シリコーン樹脂などのシリコーン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの無機粒子系難燃剤などが挙げられる。これらの難燃剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
これらの中でも、無機粒子系難燃剤が環境負荷の点で最も優れている。従来の樹脂組成物においては、樹脂成分と無機粒子系難燃剤との相溶性が悪いために、多量の無機粒子系難燃剤を配合しなければ十分な難燃性を確保できず、その結果、難燃性を確保するためには機械強度の極端な低下を避けられなかった。これに対し、本発明の樹脂組成物においては、樹脂組成物中に、極めて極性が高く、更に剛直構造であるがゆえに、その極性基が均一に分散しているポリイミド樹脂を含んでいるため、植物由来高分子化合物及びポリイミド樹脂と無機粒子系難燃剤との相溶性が極めて高く、少量の無機粒子系難燃剤を配合することで難燃性を十分に確保することができるとともに、植物由来高分子化合物とポリイミド樹脂との相溶性を良好なものとすることができ、得られる樹脂成形体の機械強度及び耐熱性をも向上させることができる。更に、無機粒子系難燃剤の中でも、より高い相溶性が得られることから、水酸化マグネシウムが好ましい。
【0054】
本発明の樹脂組成物において、難燃剤の含有量は、樹脂組成物全量を基準として1〜30質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。難燃剤の含有量が1質量%未満であると、難燃性の向上効果が不十分となる傾向があり、30質量%を越えると、機械強度や耐熱性が低下する傾向がある。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、上述した各成分以外に更に他の添加剤を含有していてもよい。かかる添加剤としては、例えば、相溶化剤、強化剤、酸化防止剤、耐候剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、樹脂組成物全量を基準としてそれぞれ10質量%以下であることが好ましい。
【0056】
以上説明した本発明の樹脂組成物は、植物由来高分子化合物の含有量を高めることができるため、極めて低環境負荷であり、機械強度が十分に高く、耐熱性も十分に高く、且つ、難燃性もUL−Vレベルである樹脂成形体を形成可能であり、成形材料として極めて優れた材料である。
【0057】
次に、本発明の樹脂成形体について説明する。本発明の樹脂成形体は、上記植物由来高分子化合物と、上記ポリイミド樹脂と、を含有することを特徴とするものであり、本発明の樹脂組成物と同様に、必要に応じて上記難燃剤や添加剤等を含有してなるものである。かかる樹脂成形体は、例えば、上述した本発明の樹脂組成物を成形して得られるものであり、例えば、本発明の樹脂組成物を、射出成形、射出圧縮成形、プレス成形、押出成形、ブロー成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形などの公知の方法により成形することで得ることができる。
【0058】
本発明の樹脂成形体の用途は特に制限されないが、具体例として、例えば、家電製品や事務機器などの筐体又はそれらの各種部品、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などが挙げられる。
【0059】
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物を用いて成形しているため、植物由来度合い(植物度)を十分に高くすることが可能であり、環境負荷を十分に低くすることが可能である。従来、植物度を高くした樹脂成形体は、機械強度及び耐熱性が低いため家電製品や事務機器筐体には使用できず、用途が極めて限定されていた。これに対し、本発明の樹脂成形体は、植物度を十分に高くした場合(例えば、樹脂組成物中の植物由来高分子化合物の含有量を30質量%以上とした場合)であっても、十分な機械強度、及び、十分な耐熱性を得ることができ、更に、高温高湿環境下における十分な耐久性をも得ることができる。こうした優れた特性を有する本発明の樹脂成形体は、機械強度の極めて高いポリイミド樹脂が、植物由来高分子化合物と極めて高い相溶性を示すことを見出し、本発明者らの鋭意努力によって完成したものである。本発明の樹脂成形体は、機械強度及び耐熱性が高く、高温高湿での耐久性に優れ、更に特定の難燃剤を加えることでUL−Vレベルの難燃性を容易に得ることができるため、例えば、家電製品や事務機器の筐体、各種部品などに特に好適に使用することができる。
【0060】
図1は、本発明の樹脂成形体の一実施形態に係る筐体及び事務機器部品を備える画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、ユーザーが装置内にアクセスできるよう開閉可能となっている。これにより、ユーザーは、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内でジャムが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりすることができる。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0061】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件がユーザーからの操作によって入力される操作パネル130、及び、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を自動的に搬送することができる自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置及び制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱可能なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって可能となる。
【0062】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーを補充することができる。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0063】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙トレイ136が備えられており、ここからも用紙を供給することができる。
【0064】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に当接する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙トレイ136が設けられている側と反対側に排出トレイ138が複数備えられており、これらのトレイに画像形成後の用紙が排出される。
【0065】
画像形成装置100において、フロントカバー120a,120bは、開閉時の応力及び衝撃、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。また、プロセスカートリッジ142は、着脱の衝撃、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。また、筐体150及び筐体152は、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。そのため、十分に高い機械的強度及び耐熱性を有する本発明の樹脂成形体は、画像形成装置100のフロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、及び筐体152等として用いられるのが好適である。
【0066】
本発明の樹脂成形体の製造方法については、例えば既に述べたような公知の成形方法を用いることができるが、植物由来高分子化合物と、ポリイミド樹脂と、を混練してそのまま射出成形する方法を用いることが好ましい。このように、材料の混練及び樹脂成形体の成形を連続して行う成形方法は、本発明の樹脂組成物を構成する各材料同士の極めて高い相溶性を最大限に生かした成形方法である。従来の成形方法では、例えば、各材料同士を混練して一旦ペレット化し、そのペレットを射出成形機に投入して成形するといった2段階の方法を用いていた。これに対し、本発明の樹脂成形体の製造方法では、通常2段階で実施する必要がある各材料同士の混練と、混練された材料の成形とを一度に行うことができ、消費電力が極めて小さく、より環境負荷が小さくなるばかりか、製造効率も極めて高くすることができる。
【0067】
また、特に優れた難燃性を有する樹脂成形体を得る観点から、本発明の樹脂成形体の製造方法は、植物由来高分子化合物と、ポリイミド樹脂と、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤及び無機粒子系難燃剤からなる群より選択される少なくとも一種の難燃剤と、を混練してそのまま射出成形する方法であることが好ましい。
【0068】
また、本発明の樹脂成形体の製造方法における製造条件は、材料の組成にもよるが、シリンダ温度は180〜280℃であることが好ましく、金型温度は20〜140℃であることが好ましく、冷却時間は10〜120sであることが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
ポリ乳酸樹脂(三井化学社製、レイシアH−100、重量平均分子量90000)60質量部、下記表1中の化合物(1−1)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂(重量平均分子量35000)10質量部、及び、水酸化マグネシウム(神島化学工業社製、10A)30質量部を射出成形機(日精樹脂工業社製、EX−500)に投入し、これらの材料からなる樹脂組成物を射出成形機内で混練しながら、シリンダ温度220℃、金型温度100℃の条件で射出成形して、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。
【0071】
上記ISO多目的ダンベル試験片を用いて、引張強度、破断伸び及び曲げ弾性率をインストロン試験機(東洋精機社製、ストログラフVE10D)により、シャルピー耐衝撃強度をデジタル耐衝撃試験装置(東洋精機社製、DG−C)によりそれぞれ測定した。また、上記JIS K7191−1HDT試験片を用いて、熱変形温度(0.45MPa)をHDT試験装置(東洋精機社製、Eモデル)により測定した。また、UL94―V燃焼試験は、上記UL試験片を用いて、JIS Z2391に従い垂直燃焼試験により実施した。なお、燃焼試験の結果は、合格の場合はV−0、V−1、V−2の順で高いレベルとし、これらに達しないものを不合格とした。結果を表2に示す。
【0072】
(実施例2)
ポリ乳酸樹脂(三井化学社製、レイシアH−100、重量平均分子量90000)35質量部、下記表1中の化合物(1−1)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂(重量平均分子量40000)35質量部、及び、水酸化マグネシウム(堺化学社製、MGZ5)30質量部を射出成形機(日精樹脂工業社製、EX−500)に投入し、これらの材料からなる樹脂組成物を射出成形機内で混練しながら、シリンダ温度240℃、金型温度100℃の条件で射出成形して、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0073】
(実施例3)
ポリ乳酸樹脂(三井化学社製、レイシアH−100、重量平均分子量90000)80質量部、下記表1中の化合物(1−1)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂(重量平均分子量28000)10質量部、及び、水酸化マグネシウム(堺化学社製、MGZ5)10質量部を射出成形機(日精樹脂工業社製、EX−500)に投入し、これらの材料からなる樹脂組成物を射出成形機内で混練しながら、シリンダ温度210℃、金型温度100℃の条件で射出成形して、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0074】
(実施例4)
ポリ乳酸樹脂(三井化学社製、レイシアH−100、重量平均分子量90000)40質量部、下記表1中の化合物(1−1)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂(重量平均分子量29000)10質量部、及び、水酸化マグネシウム(堺化学社製、MGZ5)50質量部を射出成形機(日精樹脂工業社製、EX−500)に投入し、これらの材料からなる樹脂組成物を射出成形機内で混練しながら、シリンダ温度220℃、金型温度100℃の条件で射出成形して、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0075】
(実施例5)
下記表1中の化合物(1−1)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂10質量部に代えて、下記表1中の化合物(1−2)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂(重量平均分子量56000)10質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0076】
(実施例6)
下記表1中の化合物(1−1)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂10質量部に代えて、下記表1中の化合物(1−3)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂(重量平均分子量12000)10質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0077】
(実施例7)
下記表1中の化合物(1−1)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂10質量部に代えて、下記表1中の化合物(1−4)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂(重量平均分子量88000)10質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0078】
(実施例8)
ポリ乳酸樹脂(三井化学社製、レイシアH−100、重量平均分子量90000)70質量部、下記表1中の化合物(1−1)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂(重量平均分子量63000)10質量部、及び、リン酸エステル系難燃剤(大八化学社製、CR−741)20質量部を射出成形機(日精樹脂工業社製、EX−500)に投入し、これらの材料からなる樹脂組成物を射出成形機内で混練しながら、シリンダ温度220℃、金型温度100℃の条件で射出成形して、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0079】
(実施例9)
ポリ乳酸樹脂(三井化学社製、レイシアH−100、重量平均分子量90000)70質量部、下記表1中の化合物(1−1)として示す構造の繰り返し単位からなるポリイミド樹脂(重量平均分子量55000)10質量部、及び、シリコーン系難燃剤(カネカ社製、カネカエースXS)20質量部を射出成形機(日精樹脂工業社製、EX−500)に投入し、これらの材料からなる樹脂組成物を射出成形機内で混練しながら、シリンダ温度220℃、金型温度100℃の条件で射出成形して、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0080】
(比較例1)
ポリ乳酸(三井化学社製、レイシアH−100、重量平均分子量90000)70質量部、及び、水酸化マグネシウム(堺化学社製、MGZ5)30質量部を射出成形機(日精樹脂工業社製、EX−500)に投入し、これらの材料からなる樹脂組成物を射出成形機内で混練しながら、シリンダ温度170℃、金型温度100℃の条件で射出成形して、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0081】
(比較例2)
ポリ乳酸(三井化学社製、レイシアH−100、重量平均分子量90000)80質量部、及び、リン系難燃剤(大八化学社製、CR−751)20質量部を射出成形機(日精樹脂工業社製、EX−500)に投入し、これらの材料からなる樹脂組成物を射出成形機内で混練しながら、シリンダ温度170℃、金型温度100℃の条件で射出成形して、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0082】
(比較例3)
ポリ乳酸(三井化学社製、レイシアH−100、重量平均分子量90000)40質量部、ポリカーボネート(帝人化成社製、パンライトL−1225Y)30質量部、及び、水酸化マグネシウム(堺化学社製、MGZ5)30質量部を射出成形機(日精樹脂工業社製、EX−500)に投入し、これらの材料からなる樹脂組成物を射出成形機内で混練しながら、シリンダ温度230℃、金型温度100℃の条件で射出成形して、ISO多目的ダンベル試験片(厚さ40mm、幅10mm)と、JIS K7191−1HDT試験片と、UL(厚さ2.0mm)試験片とを得た。これらの試験片を用い、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0083】
【表1】



【0084】
【表2】



【0085】
表2に示した結果から明らかなように、本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体(実施例1〜9)は、植物由来高分子化合物を主成分とし、環境負荷を極めて低いものとしつつ、比較例1〜3の樹脂組成物及び樹脂成形体と比較して、十分に高い機械強度を有し、耐熱性にも優れ、且つ、十分な難燃性を有していることが確認された。
【0086】
(実施例10〜18及び比較例4〜6)
実施例10〜18及び比較例4〜6のそれぞれについて、実施例1〜9及び比較例1〜3のそれぞれの組成及び条件で樹脂組成物を射出成形し、カラー複合機(富士ゼロックス社製、DocuCentre Color500)のフロントカバーを成形した。このフロントカバーについて、鋼球落下試験(50mmφ、50gの鋼球を樹脂成形体の100cm上から落下、10回行って割れた回数で評価)を行った。また、得られたフロントカバーについて、温度60℃、湿度85%で500時間の耐久試験(経時試験)を実施し、変形の有無を目視にて評価した。結果を表3に示す。
【0087】
【表3】



【0088】
表3に示した結果から明らかなように、本発明の樹脂組成物からなる樹脂成形体としての事務機器部品(実施例10〜18)は、比較例4〜6の事務機器部品と比較して、鋼球落下試験に耐える十分な機械強度を有し、高温高湿環境下での耐久性にも優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の樹脂成形体の一実施形態に係る筐体及び事務機器部品を備える画像形成装置の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0090】
100…画像形成装置、110…本体装置、120a,b…フロントカバー、142…プロセスカートリッジ、150,152…筐体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来高分子化合物と、ポリイミド樹脂と、を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
植物由来高分子化合物と、ポリイミド樹脂と、を含有することを特徴とする樹脂成形体。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の樹脂成形体が一部又は全部に用いられたことを特徴とする筐体。
【請求項5】
植物由来高分子化合物と、ポリイミド樹脂と、を混練してそのまま射出成形することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−50439(P2008−50439A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226840(P2006−226840)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】