説明

樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、および繊維強化複合材料

【課題】硬化物に優れた靭性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性を発現させる樹脂組成物、および靱性、機械強度に優れる繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】
少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、熱可塑性樹脂とからなり、硬化反応により、島成分が熱硬化性樹脂と硬化剤との反応物を主成分とし、海成分が熱可塑性樹脂を主成分とする海島相分離構造を形成する樹脂組成物。該樹脂組成物は、相溶化剤が添加され、該熱可塑性樹脂の、樹脂組成物の全質量に対する配合割合は、5〜60質量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物およびその硬化物、マトリクス樹脂として該樹脂組成物を強化繊維に含浸させて成るプリプレグ、ならびに該プリプレグを成形加工して得られる繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維などを強化繊維として用いる繊維強化複合材料は、その比強度・比弾性率の高さから、航空機や自動車の構造材料を始めとする航空宇宙・産業用途、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿などのスポーツ・レジャー用途に広く利用されている。
【0003】
繊維強化複合材料の製造方法として、プリプレグを複数枚積層した後、加熱硬化させる方法がある。プリプレグとは、強化繊維に未硬化のマトリクス樹脂が含浸されたシート状中間材料である。
【0004】
プリプレグに用いられる代表的なマトリクス樹脂としては、耐熱性や生産性の観点から、熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0005】
一般に、熱硬化性樹脂、とりわけエポキシ樹脂は耐熱性、強化繊維との接着性、寸法安定性、耐薬品性に優れる一方で、硬くて脆い性質を有する。このため、エポキシ樹脂をマトリクス樹脂として用いる場合、繊維強化複合材料は、寸法安定、強度や剛性といった機械物性に優れるが、その一方で、エポキシ樹脂由来の靱性の低さも反映される。
【0006】
従来、マトリクス樹脂として用いられる熱硬化性樹脂の靱性や耐衝撃性を向上させるため、種々の試みがなされている。
【0007】
例えば、熱硬化性樹脂中にゴム成分や熱可塑性樹脂の微細粒子を分散させ、島成分がゴム成分や熱可塑性樹脂等であり、海成分が熱硬化性樹脂硬化物である海島相分離構造を形成する方法がある。この方法により得られるマトリクス樹脂は、島成分に由来する優れた耐衝撃強度、曲げ・引っ張り強度により、耐衝撃性が向上する。しかし、この方法では、島成分のサイズを小さくすることが難しく、エネルギーを吸収するための充分な表面積を得ることができない。従って、この方法により繊維強化複合材料を飛躍的に高靱性化させることは困難であった。
【0008】
他の方法として、二成分系または三成分系からなるブロック共重合体を用いて、ナノサイズの相分離構造を形成させる方法がある(特許文献1〜3)。例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−メタクリル酸共重合体、またはブタジエン−メタクリル酸共重合体を、特定のエポキシ樹脂に添加して用いる方法が提案される。しかし、これらの方法では、マトリクス樹脂の耐熱性の低下を招いたり、繊維強化複合材料の機械特性が依然として不十分である。また、これらのブロック共重合体は非常に高価であり、コスト競争力が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2006/077153号パンフレット
【特許文献2】特開2007−154160号公報
【特許文献3】特開2008−7682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、硬化反応により優れた靭性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性および弾性率を発現する樹脂組成物、およびその樹脂組成物を用いたプリプレグを安価に提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、そのプリプレグから得られる優れた靱性・機械強度を有する繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題について鋭意検討した結果、マトリクス樹脂を、島成分の主成分が熱硬化性樹脂と硬化剤の反応物であり、海成分の主成分が熱可塑性樹脂である海島相分離構造を有する硬化物とすることにより、上記問題を解決できることを見出した。
【0013】
上記の硬化物を得るために硬化反応させる樹脂組成物において、熱可塑性樹脂の配合割合や、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の組合せの選定を工夫し、硬化物の島成分の平均粒子径等を制御することで、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、熱可塑性樹脂とからなり、該樹脂組成物は、硬化反応により、島成分が熱硬化性樹脂と硬化剤との反応物を主成分とし、海成分が熱可塑性樹脂を主成分とする海島相分離構造を有する硬化物を形成する。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを相溶させる相溶化剤が添加されてなる樹脂組成物を包含する。
【0016】
80℃、せん断速度1000s−1における粘度が10〜1000Pa・sである樹脂組成物も包含する。
【0017】
本発明の樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂又は変性エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0018】
本発明の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂としては、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルフォン、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、これらの誘導体又はこれらの組合せであることが好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂と反応可能な官能基を有することが好ましく、特に熱硬化性樹脂と反応可能な官能基としては水酸基、カルボン酸基、イミノ基、またはアミノ基であることが好ましい。熱可塑性樹脂の配合量は、樹脂組成物の全重量の5〜60質量%であることが好ましい。
【0019】
本発明の硬化物は、上記の樹脂組成物の硬化反応により得られる硬化物であり、島成分が熱硬化性樹脂と硬化剤の反応物を主成分とし、海成分が熱可塑性樹脂を主成分とする海島相分離構造を有する。硬化物のガラス転移点は、150℃以上であることが好ましい。また、島成分の平均粒子径は、0.01〜10μmであることが好ましく、0.01〜1μmであることがより好ましい。
【0020】
本発明は、上記の樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなるプリプレグを包含する。強化繊維としては、炭素繊維、シリコンカーバイド繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、ポリベンゾオキサジン繊維、芳香族ポリエステル繊維などが挙げられ、それらの中でも、炭素繊維が特に好ましい。
【0021】
本発明は、強化繊維に本発明の硬化物が含浸されてなる繊維強化複合材料も包含する。本発明の繊維強化複合材料は、前述のプリプレグを成形加工して得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、硬化反応により、優れた靭性、耐熱性、耐薬品性および弾性率を発現する樹脂組成物、および該樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグを提供することができる。
【0023】
該硬化物をマトリクス樹脂とする本発明の繊維強化複合材料は、従来技術に比べ、耐衝撃性・層間破壊靭性強度に優れ、航空宇宙用途、産業用途、スポーツレジャー用途に適する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、熱可塑性樹脂とからなり、硬化反応により、島成分が熱硬化性樹脂と硬化剤との反応物を主成分とし、海成分が熱可塑性樹脂を主成分とする海島相分離構造を形成する。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを相溶させる相溶化剤を添加しても良い。
【0026】
相溶化剤の種類は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂のモノマー単位ユニットに近い化学構造を持つ化合物が好ましい。特に、樹脂組成物の硬化反応後に、未硬化物として相溶化剤を残存させないために、相溶化剤としては、熱硬化性樹脂と反応可能な化合物を用いることが好ましく、熱硬化性樹脂の硬化剤を用いることがより好ましい。
【0027】
相溶化剤を添加することで、樹脂組成物を硬化させた硬化物中の島成分の平均粒子径を制御出来る。相溶化剤の添加量が多いほど、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との相溶性が高くなる。その結果、島成分の平均粒子径を小さくすることができる。相溶化剤の添加量としては、樹脂組成物の全重量に対して0.01〜15質量%であることが好ましい。
【0028】
相溶化剤の添加量が0.01質量%未満であると、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を十分に相溶させることができず、島成分の平均粒子径が10μmを超える。島成分の平均粒子径が10μmを超えると、熱硬化性樹脂に由来する耐熱性、耐薬品性が発現されにくくなり、好ましくない。
【0029】
相溶化剤の添加量が15質量%を超えると、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の相溶性が高くなりすぎて両者が完全に相溶する。このため、海島相分離構造を形成することが出来ず、好ましくない。
【0030】
また、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の種類により変化するが、相溶化剤の添加量が、0.05〜10質量%の範囲であり、特に0.1〜3質量%の範囲であると、樹脂組成物を硬化させた硬化物中の島成分の平均粒子径を0.01〜1μmに制御できるため、より好ましい。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、80℃、せん断速度1000s−1における粘度が、10〜3000Pa・sであることが好ましい。10〜1500Pa・sであることがより好ましく、50〜1000Pa・sであることが更に好ましく、60〜800Pa・sであることが特に好ましい。
所定の粘度は、後に説明する熱可塑性樹脂の配合割合を調節することにより得ることができる。
【0032】
樹脂組成物の粘度と樹脂組成物を硬化させた硬化物中の島成分の平均粒子径との間には相関があり、樹脂組成物の粘度が低くなるほど、島成分の平均粒子径が大きくなる傾向にある。また、樹脂組成物の粘度が高くなるほど、島成分の平均粒子径が小さくなる傾向がある。この原因は定かでないが、相分離速度と硬化反応速度との相対関係が、島成分の平均粒子径に影響していると推測される。
【0033】
例えば樹脂組成物の粘度が高くなると、相分離速度が低下するため、相分離速度よりも硬化速度が速くなる。この場合、初期段階で硬化網目が形成されるため、熱可塑性樹脂は、島成分を形成することが出来ず、海成分になると考えられる。また、小さな分子サイズの網目構造がドメイン(島成分)になると考えられる。
【0034】
樹脂組成物の粘度が10Pa・s未満の場合、樹脂組成物を熱硬化処理しても熱可塑性樹脂が海成分を形成することが出来ない場合がある。一方、3000Pa・sを超える場合、相分離速度と硬化速度との相対関係により、熱可塑性樹脂は海成分を形成しうる。しかし、高粘度のためにハンドリング性が著しく低下し、従来の製造設備でハンドリングすることが困難になる場合がある。
【0035】
本発明の樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂としては、熱または光や電子線などの外部からのエネルギーにより硬化して、少なくとも部分的に三次元硬化物を形成する熱硬化性樹脂が好ましい。
【0036】
以下に好ましい熱硬化性樹脂を挙げる。これらの熱硬化性樹脂は、適宜選択して1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
好ましい熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などを挙げることができる。特に好ましくは、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0038】
エポキシ樹脂は、公知のエポキシ樹脂をいずれも用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂などの2官能エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0039】
ビスフェノール型に代表される2官能エポキシ樹脂は、分子量の違いにより液状から固形まで種々のグレードがあり、適宜混合して粘度調整を行う目的の成分とされる。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、ビスフェノールS型樹脂等を挙げることができる。その具体的な商品名としては、ジャパンエポキシレジン社製jER815(商品名)、jER828(商品名)、jER834(商品名)、jER1001(商品名)、jER807(商品名)、三井石油化学製エポミックR−710(商品名)、大日本インキ化学工業製EXA1514(商品名)等を例示することができる。脂環型エポキシ樹脂の具体的な商品名としては、ハンツマン社製アラルダイトCY−179(商品名)、CY−178(商品名)、CY−182(商品名)、CY−183(商品名)等を例示することができる。他のエポキシ樹脂の例として、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂や、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂やナフタレン型エポキシ樹脂や、ノボラック型エポキシ樹脂であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂や、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂や、フェノール型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0040】
ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂などの各種変性エポキシ樹脂を使用することもできる。ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂の具体的な商品名としては、旭電化製アデカレジンEPU−6(商品名)、EPU−4(商品名)等を例示することができる。フェノールノボラック型エポキシ樹脂の具体的な商品名としては、ジャパンエポキシレジン社製jER152(商品名)、jER154(商品名)、ダウケミカル社製DEN431(商品名)、DEN485(商品名)、DEN438(商品名)、DIC社製エピクロンN740(商品名)等を例示することができる。
【0041】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の具体的な商品名としては、ハンツマン社製アラルダイトECN1235(商品名)、ECN1273(商品名)、ECN1280(商品名)、日本化薬製EOCN102(商品名)、EOCN103(商品名)、EOCN104(商品名)等を例示することができる。
【0042】
本発明の樹脂組成物に含まれる硬化剤としては、熱硬化性樹脂を硬化させる公知の硬化剤を使用できる。硬化剤は熱硬化性樹脂と反応して、耐熱性、耐薬品性、高い弾性率の硬化樹脂を得るために必要な化合物である。硬化剤を相溶化剤として用いる場合、2種以上の硬化剤を併用しても良い。
【0043】
硬化剤の具体的な例としては、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタンおよびこれらの混合物が優れた力学特性を与えるため好ましい。
【0044】
コート剤によりマイクロカプセル化されたジアミノジフェニルスルホン(mc−DDS)を用いることも可能である。mc−DDSは、室温状態において熱硬化性樹脂と反応することを防止するように、物理的、化学的な結合によりDDS粒子の表層が反応性の低い物質でコートされている。DDS粒子の表層をコートするコート剤は、具体的には、ポリアミド、変性尿素樹脂、変性メラミン樹脂、ポリオレフィン、ポリパラフィン(変性品も含む)等である。これらのコート剤は、単独使用又は併用してもよく、また、前記以外の種々のコート剤でマイクロカプセル化されたDDSを用いることもできる。
【0045】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、適宜、3級アミン、イミダゾール等のアミン化合物、ホスフィン類、ホスホニウム等のリン化合物、N,N−ジメチル尿素誘導体などの硬化促進剤、反応性希釈剤、充填剤、酸化防止剤、難燃剤、顔料等の各種添加剤を含有してもよい。
【0046】
本発明の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂としては、ポリイミド、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン12、非晶性ナイロンなどのポリアミド、アラミド、アリレート、ポリエステルカーボネート、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0047】
硬化物の耐熱性を向上させる観点から、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルフォン、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、これらの誘導体又はこれらの組合せが、より好ましい。これらの熱可塑性樹脂は単独で用いてもよいし、任意の割合で二種以上を併用することもできる。
【0048】
本発明の樹脂組成物は、いわゆるLCST(下限臨界溶液温度)型の相図を形成することが好ましい。相図の低温域では、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂が相溶する。高温域では、架橋反応による熱硬化性樹脂の分子量増大に伴い、2相域が拡大し相溶域は減少する。かかる相溶域の減少過程で相分離が起り、海島相分離構造を形成する。
【0049】
本発明は、樹脂組成物の硬化反応により相分離が誘発される。LCST型の相図を形成するためには、熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂との間に水素結合を形成することが好ましい。熱硬化性樹脂と硬化剤は、窒素、酸素、硫黄、ハロゲンなどの電気陰性度の大きな原子を分子内に持つ。本発明で使用される熱可塑性樹脂は、これらの電気陰性度の大きな原子と水素結合を作りやすい官能基を有することが好ましい。
【0050】
従って、本発明の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂と反応可能な官能基を持つことが好ましい。熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂と反応することで、熱可塑性樹脂が硬化物の3次元ネットワークに取り込まれる。これにより、熱可塑性樹脂の欠点である耐薬品性を著しく改善することが出来る。
【0051】
本発明に含まれる熱可塑性樹脂は、官能基として、水酸基、カルボン酸基、イミノ基、アミノ基などの官能基を有することが好ましく、水酸基を持つことがより好ましい。熱可塑性樹脂は、これらの官能基を介して、硬化剤や、熱可塑性樹脂中に溶けた熱硬化性樹脂と結合する。これにより本発明の樹脂組成物は、硬化反応により、島成分が熱硬化性樹脂と硬化剤との反応物を主成分とし、海成分が熱可塑性樹脂を主成分とする海島相分離構造を形成する。
【0052】
官能基の数としては、熱可塑性樹脂の質量平均分子量10000〜70000に対して水酸基、カルボン酸基、イミノ基、アミノ基などの官能基を1つ持つことが好ましく、更には10000〜30000に対して官能基を1つ持つことがより好ましい。
【0053】
熱可塑性樹脂の質量平均分子量70000以上に対して官能基を1つ持つ場合、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との間の水素結合が少なくなる。その場合、樹脂組成物がLCST型の相図を取ることができず、硬化過程で海島相分離構造を形成しにくくなる。熱可塑性樹脂の質量平均分子量10000未満に対して官能基を1つ持つ場合、熱可塑性樹脂同士の分子内水素結合が支配的になる。その場合、熱硬化性樹脂との相溶性が著しく低下する傾向がある。
【0054】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を樹脂組成物全重量の5〜60質量%の配合割合とすることが好ましく、10〜55質量%がより好ましく、15〜45質量%がさらに好ましく、19〜45質量%が特に好ましく、25〜45質量%が最も好ましい。
【0055】
熱可塑性樹脂の配合割合が樹脂組成物の全重量の60質量%を超えると、樹脂組成物の粘度が高くなり、プリプレグ製造のプロセス性を悪くする傾向がある。一方、熱可塑性樹脂の配合割合が樹脂組成物の全重量の5質量%未満であると、流動性が良くプロセス性は向上する。しかし、硬化物の海相の主成分が熱硬化性樹脂と硬化剤との反応物となり、硬化物の著しい靱性低下を引き起こすため好ましくない。
【0056】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、硬化剤を添加・混練することで製造される。各成分の混練は、一段で行っても、各成分を逐次添加して多段的に行っても良い。各成分を逐次添加する場合は、任意の順序で添加することができる。各成分の混練・添加方法としては、予め、熱硬化性樹脂に、熱可塑性樹脂の一部又は全量を混練せしめて粘度調整した後に、逐次的に硬化剤、残りの熱可塑性樹脂を添加しながら混練する方法がある。混練・添加順序は特に限定されないが、樹脂組成物の保存安定性の観点から、硬化剤を最後に添加することが好ましい。
【0057】
熱可塑性樹脂は、粘度調整のために、適時固体粒子として添加しても良い。これにより、樹脂組成物の取扱性、成形性も良好に維持される。該熱可塑性樹脂の平均粒子径は、1〜100μmの範囲であることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。1μmより小さいと、嵩密度が高くなり、樹脂組成物の粘度を著しく増粘させる場合がある。100μmより大きいと、樹脂組成物中に粒子を分散させることが困難となり、熱可塑性樹脂を樹脂組成物中に概ね均一に配合することができなくなる。また、得られる樹脂組成物をシート状に形成する際、均質な厚みのシートが得られにくい場合がある。
【0058】
樹脂組成物製造時の混練温度は、10〜150℃の範囲が好ましい。150℃を超えると部分的な硬化反応が開始し、得られる樹脂組成物の保存安定性が低下する場合がある。10℃より低いと樹脂組成物の粘度が高く、実質的に混練が困難となる場合がある。好ましくは20〜120℃であり、更に好ましくは30〜100℃の範囲である。
【0059】
樹脂組成物製造時に用いる混練機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を供えた混合容器、横型混合槽などを挙げることができる。
【0060】
<硬化物>
本発明の硬化物は、上記の樹脂組成物の硬化反応により得られる、海島相分離構造を有する硬化物である。前記海島相分離構造は、島成分が熱硬化性樹脂と硬化剤との反応物を主成分とし、海成分が熱可塑性樹脂を主成分とする。
【0061】
本発明の硬化物は、海成分が熱可塑性樹脂を主成分とするため、熱可塑性樹脂に由来する耐衝撃強度、曲げ・引張り強度特性に優れ、熱硬化性樹脂に由来する靱性の低さが著しく改善される。
【0062】
海成分を構成する熱可塑性樹脂は全重量の5〜60質量%を占める。従来の海島相分離構造は、少量成分が島成分となる。しかし、本発明では、熱可塑性樹脂が全重量の5〜60質量%の範囲で海成分となり、所謂「逆海島相分離構造」を形成する。この特徴により、本発明の硬化物は、熱硬化性樹脂を海成分とする従来の硬化物では達成できない、優れた耐衝撃強度、曲げ・引張り強度特性を発現する。
【0063】
熱可塑性樹脂が全重量の5質量%未満であると、熱可塑性樹脂が海成分の主成分にならず、熱硬化性樹脂に由来する靱性の低さが顕著に現れるため好ましくない。一方、熱可塑性樹脂が全重量の60質量%を超えると、熱可塑性樹脂の欠点である低弾性率、耐薬品性の低下が顕著に現れるため好ましくない。
【0064】
本発明の硬化物は、熱硬化性樹脂と硬化剤との反応物を主成分とする島成分の平均粒子径が0.01〜10μmであることが好ましい。0.01〜5μmであることが、より好ましく0.01〜1μmであることが更に好ましく、0.01〜0.6μmであることが特に好ましい。
【0065】
島成分の平均粒子径が0.01μm未満の場合、硬化物の機械物性、熱特性がする傾向にあるため、好ましくない。島成分の平均粒子径が10μmを超えると、硬化物の機械物性、熱特性、耐薬品性が著しく低下する傾向にあるため好ましくない。
【0066】
硬化物中の島成分の平均粒子径は、樹脂組成物の製造時に、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂と、硬化剤とに相溶化剤を添加して混練することで、調節できる。相溶化剤の添加量が多いほど、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との相溶性が高くなる。その結果、島成分の平均粒子径を小さくすることができる。
【0067】
本発明の硬化物のガラス転移温度は、150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、200℃以上が更に好ましく、230℃以上が特に好ましい。ガラス転移温度が300℃を超える場合、樹脂組成物の粘度が著しく高くなり、プロセス性に悪影響を及ぼすことがある。硬化物のガラス転移温度が150℃未満であると、硬化物中に未硬化物が残存することがある。その場合、硬化物の分解、長期安定性不良、耐炎性不良、耐熱性不良などの問題を引き起こすことがあり、好ましくない。
【0068】
本発明の硬化物は、本発明の樹脂組成物を硬化反応させることにより得られるものであれば、どのような方法で製造されても良い。例えば熱硬化性樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂を混練して樹脂組成物を製造した後、該樹脂組成物を加熱処理して硬化反応させることにより製造する方法がある。この方法について以下に記載する。
【0069】
該樹脂組成物の加熱処理条件としては0.5〜20℃/分の昇温速度で120〜300℃の範囲まで昇温後、最高到達温度で0〜500分保持することが好ましい。最高到達温度としては、150〜250℃の範囲が好ましい。最高到達温度が120℃未満の場合、樹脂組成物中に残る熱可塑性樹脂の粒子が溶解しないことがある。一方、300℃を越えると熱硬化性樹脂が分解することがある。最高到達温度での保持時間は、生産性の観点から500分未満であることが好ましい。加熱処理中に0.1〜7MPaの圧力を付与しても良い。
【0070】
この方法により製造される硬化物は、島成分の主成分が熱硬化性樹脂と硬化剤の反応物であり、海成分の主成分が熱可塑性樹脂である海島相分離構造を有する。これにより、本発明の硬化物は、靱性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性および弾性率に優れる。また、海成分の主成分が熱可塑性樹脂となることで、熱硬化性樹脂を多量に含むにも拘らず、加熱により熱可塑性樹脂のように流動する。このため加熱による賦形性も有し、硬化物に亀裂が生じた場合、接着剤等を用いることなく、加熱により自己修復させることが出来る。
【0071】
<プリプレグ>
本発明のプリプレグは、本発明の樹脂組成物を強化繊維に含浸させることで得ることが出来る。
【0072】
本発明のプリプレグに使用する強化繊維としては、炭素繊維、シリコンカーバイド繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリベンゾオキサジン繊維、芳香族ポリエステル繊維などを挙げることができる。これらの中でも特に、高強度、高弾性率を有する炭素繊維が好ましい。炭素繊維にはピッチ系、PAN系のどちらの炭素繊維を用いても良い。また、これら強化繊維を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0073】
強化繊維の形態や配列は特に限定されず、例えば、一方向に引き揃えた長繊維、単一のトウ、織物、不織布、マット、ニット、組み紐等が採用できる。
【0074】
強化繊維の目付は30〜700g/mの範囲が好ましい。強化繊維の目付が30g/m未満であると、繊維強化複合材料を軽量化することが出来るが、十分な強度を持たせることが出来ず好ましくない。700g/mを超える場合、繊維強化複合材料の軽量化が困難であり好ましくない。強化繊維の目付のより好ましい範囲は50〜300g/mである。
【0075】
本発明のプリプレグにおける樹脂組成物の含有率は、25〜45質量%が好ましく、30〜40質量%がより好ましい。
【0076】
プリプレグは、樹脂組成物を、溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウエット法や、加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法(ドライ法)等、従来公知の製造方法により作成できる。中でもホットメルト法により、製造することが好ましい。ホットメルト法により得られるプリプレグは、残存溶剤の影響がなく、長い貯蔵安定性を有する。
【0077】
ホットメルト法でプリプレグを作成する場合、まず、強化繊維に含浸させる樹脂組成物を、シート状に形成する。
【0078】
樹脂組成物をシート状に形成する方法としては、従来公知の方法を特に限定することなく用いることができる。具体的には、加熱して粘度を低下させた樹脂組成物を、離型紙、離型フィルムなどの支持体上に流延、キャストをする方法がある。支持体への流延、キャストを行う場合には、ダイ、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどを用いることができる。
【0079】
支持体上に流延する際の樹脂温度としては、その樹脂組成・粘度に応じて適宜設定可能であるが、20〜160℃が好ましく、60〜145℃がより好ましく、70〜140℃が更に好ましい。
【0080】
シート状樹脂組成物の厚さは、使用する繊維強化シートの目付で異なるが、概ね8〜350μmとすることが好ましく、10〜200μmとすることがより好ましい。
【0081】
次に、上記の方法により形成されたシート状樹脂組成物を強化繊維に含浸させる。
【0082】
樹脂組成物を強化繊維に含浸させるには、まずシート状樹脂組成物とシート状の強化繊維とを積重する。続いて積重したシート状樹脂組成物とシート状の強化繊維とを加圧下で加熱する。
【0083】
このときの加圧圧力は、その樹脂組成物の粘度・樹脂フローなどを勘案し、1〜10MPaで任意の圧力とすることが出来る。
【0084】
加圧時の加熱温度の範囲は50〜160℃であり、より好ましくは、60〜155℃であり、更に好ましくは70〜145℃である。50℃未満の場合、樹脂組成物の粘度が十分低下せず、強化繊維に樹脂組成物が十分含浸しない場合がある。160℃以上の場合、樹脂組成物の硬化反応が開始され、プリプレグの保存安定性が低下したり、ドレープ性が低下したりする場合がある。
【0085】
シート状の強化繊維並びにシート状樹脂組成物のシート幅や生産速度は、特に限定されるものではないが、工業的に連続生産する場合は、生産性、経済性の観点から、以下のものが好ましい。
【0086】
シート幅は、30cm以上が好ましく、実質的に5m程度までである。5mを超えるとその生産安定性が低下する場合がある。生産速度は、1m/分以上とすることが好ましく、3m/分以上とすることがより好ましく、5m/分以上とすることが更に好ましい。
【0087】
樹脂組成物を強化繊維に含浸させる回数を、1回ではなく複数回に分けて、任意の圧力と温度で多段的に含浸させることもできる。一般的に樹脂組成物は、粘度が高くなると、強化繊維への含浸性が低下して、プリプレグのタック性向上と内部空隙率減少との両立が困難になる場合がある。この様な場合には、樹脂組成物を複数回に分けて強化繊維に含浸させることにより、プリプレグのタック性の向上と内部空隙率減少との両立を図ることが望ましい。
【0088】
樹脂組成物を複数回に分けて強化繊維に含浸させる場合、まずシート状の強化繊維に1枚目のシート状樹脂組成物を積重する。シート状樹脂組成物を積重させた強化繊維を、加圧下で50℃〜150℃に加熱して、樹脂組成物を強化繊維に含浸させる。次いで、1枚目のシート状樹脂組成物を含浸させたシート状の強化繊維の同じ面に、2枚目のシート状樹脂組成物を積重し、加圧下で50℃から90℃に加熱する。必要により、同様の操作を繰り返す。
【0089】
この操作は、シート状の強化繊維の片面だけでなく、両面で行うことができる。その場合、両面にそれぞれ1枚ずつシート状樹脂組成物を積重させて、2枚のシート状樹脂組成物を同時に含浸させることもできる。
【0090】
該樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の配合量に拘らず成形加工性に優れるため、複数回含浸させる場合において、含浸させる硬化物の組成を、一回目の含浸と二回目以降の含浸とで同一にすることができ、又は、一回目の含浸と二回目以降の含浸とで変えても良い。
【0091】
シート状硬化物を2回以上に分けて強化繊維に含浸させる方法でプリプレグを得る場合、プリプレグに、強化繊維層と樹脂層を形成させることができる。強化繊維層は、強化繊維と、強化繊維間に含浸された樹脂組成物とからなる。樹脂層は、該強化繊維層の片面または両面を被覆する層である。強化繊維層表面に形成される樹脂層は、二回目以降に積重されるシート状樹脂組成物により形成される。この構造をもつプリプレグは、タック性に優れる。
【0092】
プリプレグに樹脂層を形成させる場合、樹脂層は、強化繊維を含まず、強化繊維層の表面を所定の厚さで被覆することが好ましい。樹脂層の厚さは2〜50μmが好ましく、5〜45μmがより好ましく、10〜40μmが特に好ましい。樹脂層の厚みが2μm未満の場合、タック性が不十分となり、プリプレグの成形加工性が著しく低下する場合がある。50μmを超えると、プリプレグを均質な厚みでロール状に巻き取ることが困難となり、成形精度が著しく低下する場合がある。
【0093】
<繊維強化複合材料>
本発明の繊維強化複合材料は、該硬化物をマトリクス樹脂とする繊維強化複合材料である。
【0094】
本発明の繊維強化複合材料は、強化繊維の短繊維を硬化前の樹脂組成物に練りこみ、型にはめ込んで硬化させて製造される。また、本発明のプリプレグを複数枚積層した後、加熱硬化させても製造することができる。例えば、プリプレグを型の表面に敷設し、プリプレグをその厚さ方向に型の表面に向かって加圧した状態で加熱・硬化させることにより、繊維強化複合材料を製造することができる。加熱温度は150〜200℃、加圧圧力は0.3〜7MPaとすることが好ましい。この製造方法により得られる繊維強化複合材料は、強化繊維の配向が厳密に制御される。また積層構成の設計自由度が高いため、高性能である。
【0095】
本発明の繊維強化複合材料は、優れた機械特性を有する。特に耐衝撃性と層間靭性、耐薬品性に非常に優れる。また、本発明の硬化物を繊維強化複合材料に用いることで、硬化物が加熱により流動する。このため、賦形性も有する。従って、繊維強化複合材料に亀裂が生じた場合、自己修復させることも出来る。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、操作条件の評価、各物性の測定は以下の方法で実施した。実施例1および実施例2の評価結果および測定結果を表1に示す。比較例1ないし3および比較例5、6の評価結果および測定結果を表2に示す。
【0097】
[水酸基/カルボン酸基の検出]
本発明における熱可塑性樹脂中の水酸基、カルボン酸基、イミノ基、アミノ基などの官能基の検出は、熱可塑性樹脂をクロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、H−NMR法で測定し、官能基の結合箇所を確認した。
【0098】
[質量平均分子量]
本発明における熱可塑性樹脂の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した分子量を、標準ポリスチレンの分子量に換算した。GPC測定機器において、検出器は示差屈折計(株式会社島津製作所製RID−6A)、カラムは昭光通商(株)製SHODEXを直列に接続したものを使用した。ジメチルホルムアミドを溶離液とし、温度40℃、流速1.0mL/minであった。濃度1mg/ml(1%ヘキサフルオロイソプロパノールを含むクロロホルム)の試料を10μL注入して、分子量を測定した。
【0099】
[ガラス転移温度]
DSC測定装置(DSC2920:TAインストルメント製)を用いて、硬化物を10℃ /分の昇温速度にて室温から300℃まで昇温し、ガラス転移温度を測定した。
【0100】
[樹脂組成物の粘度測定]
樹脂組成物の80℃、1000s−1における粘度は、東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dで評価した。
【0101】
[海成分と島成分の主成分確認]
TEM−EELS分光法(日本電子製JEM2010)によって硬化物の海成分と島成分の元素マッピングを行い、各成分の主成分を確認した。
【0102】
[島成分の平均粒子径]
硬化物の断面加工を行い、高い分解能を持つ透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM2010)で、断面に現れる海島相分離構造を確認した。島成分500個の粒子径を計り、その平均値を平均粒子径とした。
【0103】
[耐溶剤試験]
硬化物の板を25℃のメチルエチルケトン中に浸け30日間放置後、目視による外観と150℃で1時間乾燥後の質量変化を測定した。
【0104】
[試験片の層間破壊靭性(GIIC)]
樹脂組成物を用いて製造したプリプレグをカットし、0°方向に10層積層した積層体を2つ作製した。初期クラックを発生させるために離型フィルム(幅80mm、長さ130mm)を2つの積層体の間にはさみ、両者を組み合わせ、積層構成[0]20のプリプレグ積層体を得た。真空オートクレーブ成形法を用い、0.5MPaの圧力下、180℃の条件で2時間前記積層体を成形した。得られた成形物を幅 12.7 mm × 長さ 304.8 mmの寸法に切断し、GIICの試験片を得た。この試験片を用いて、GIIC試験を行った。
【0105】
まず、離型フィルムにより作製したクラックが、支点から38.1mmとなる位置に試験片を配置し、2.54mm/minの速度で曲げの負荷をかけ、初期クラックを形成させた。その後にクラックが支点から25.4mmの位置に試験片を配置し、1試験片について3回のGIIC試験を実施した。GIIC試験の試験速度は、2.54mm/minとした。
【0106】
[衝撃後圧縮強度(CAI)試験]
プリプレグをカットし、プリプレグを4層積層して積層構成[+45/0/−45/90]3Sの積層体を得た。オートクレーブ成形法を用い、0.5MPaの圧力下、180℃の条件で2時間成形した。得られた成形物を幅101.6mm × 長さ152.4mmの寸法に切断し、衝撃後圧縮強度試験の試験片を得た。なお、試験片には厚さ1mm当たり6.67Jの衝撃エネルギーを与えた。この試験片を用いて30.5kJ衝撃後のCAIを測定した。
【0107】
[実施例1]
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 Ep604)100質量部に平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン(住友化学工業社製スミカエクセルPES−5003P)10質量部添加し、プラネタリミキサーで80℃にて混練して、Ep604にポリエーテルスルホンを完全に溶解したエポキシ樹脂溶液を得た。
【0108】
H−NMR法測定からポリエーテルスルホンのポリマー末端は水酸基であり、GPCで見積もった質量平均分子量は56100であった。すなわち、質量平均分子量28050あたりに水酸基を1つ持つことを確認した。
【0109】
70℃に設定したロールミルで、上述のエポキシ樹脂溶液全量と平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン129質量部とを混練した。ポリエーテルスルホンの仕込み量は全質量に対して46.1質量%であった。
【0110】
次いで、硬化剤として4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン(イハラケミカル製キュアハードMED)60.7質量部、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン2質量部を混練して樹脂組成物を得た。樹脂組成物の80℃、せん断速度1000s−1における粘度は823Pa・sであった。なお、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンは、エポキシ樹脂とポリエーテルスルホンの相溶化剤としての特性も有している。
【0111】
この樹脂組成物を金型に仕込み、オートクレーブ法で室温から3℃/分で180℃まで昇温後、同温度で60分保持することで硬化物を得た。
【0112】
硬化物の断面加工を行い透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、島成分の平均粒子径は387nmであった。
【0113】
TEM−EELS分光法測定のS,N元素マッピングからポリエーテルスルホンに由来するS元素は主に海成分で観察されることを確認した。エポキシ樹脂と硬化剤に由来するN元素は主に島成分から観察されることを確認した。このことから、島成分の主成分が熱硬化性樹脂と硬化剤であり、海成分の主成分が熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0114】
硬化物のガラス転移温度は238℃であった。
【0115】
硬化物(幅1cm、長さ5cm、厚さ2mm)の板を25℃のメチルエチルケトン中に浸け30日放置した。その後、硬化物を溶剤中から取り出し、150℃で1時間真空乾燥させた。乾燥後の硬化物の外観に変化はなく、質量変化も認められなかった。
【0116】
上述の樹脂組成物をフィルムコーターで離型フィルム上に塗布し、目付51.2g/mの離型フィルム付樹脂組成物シートを作製した。次いで、炭素繊維[東邦テナックス社製:テナックス(登録商標)UTS−50]を平行に並べ、樹脂組成物シート2枚で挟み込み、温度100℃、圧力0.3MPaで加熱することで樹脂組成物を炭素繊維間に含浸させた。その結果、炭素繊維の目付が190g/m、樹脂含有率が35質量%の一方向プリプレグを得た。プリプレグの製造は連続的に行われ、その製造速度は5m/分、製造幅は50cmであった。
【0117】
このプリプレグを用いて、前記試験法に記載した方法で繊維強化複合材料からなる試験片を作製した。得られた繊維強化複合材料の試験片の層間破壊靭性(GIIC)は4050kJ/mであり、衝撃後圧縮強度(CAI)は527MPaであり、いずれも高いものであった。
【0118】
[実施例2]
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 Ep604)100質量部に平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン(住友化学工業社製スミカエクセルPES−5003P)10質量部添加し、プラネタリミキサーで80℃にて混練して、Ep604にポリエーテルスルホンを完全に溶解したエポキシ樹脂溶液を得た。
【0119】
H−NMR法測定からポリエーテルスルホンのポリマー末端は水酸基であり、GPCで見積もった質量平均分子量は56100であった。すなわち、質量平均分子量28050あたりに水酸基を1つ持つことを確認した。
【0120】
70℃に設定したロールミルで、上述のエポキシ樹脂溶液全量と平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン30質量部とを混練した。ポリエーテルスルホンの仕込み量は全質量に対して19.8質量%であった。
【0121】
次いで、硬化剤として4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン(イハラケミカル製キュアハードMED)60.7質量部、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン1質量部を混練して樹脂組成物を得た。樹脂組成物の80℃、せん断速度1000s−1における粘度は323Pa・sであった。なお、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンは、エポキシ樹脂とポリエーテルスルホンの相溶化剤としての特性も有している。
【0122】
この樹脂組成物を金型に仕込み、オートクレーブ法で室温から3℃/分で180℃まで昇温後、同温度で60分保持することで硬化物を得た。
【0123】
硬化物の断面加工を行い、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、島成分の平均粒子径は2.1μmであった。
【0124】
TEM−EELS分光法測定のS,N元素マッピングからポリエーテルスルホンに由来するS元素は海成分で主に観察されることを確認した。エポキシ樹脂と硬化剤に由来するN元素は主に島成分から観察されることを確認した。このことから、島成分の主成分が熱硬化性樹脂と硬化剤であり、海成分の主成分が熱可塑性樹脂であることを確認した。
【0125】
硬化物のガラス転移温度は239℃であった。
【0126】
硬化物(幅1cm、長さ5cm、厚さ2mm)の板を25℃のメチルエチルケトン中に浸け30日放置した。その後、硬化物を溶剤中から取り出し、150℃で1時間真空乾燥させた。乾燥後の硬化物の外観に変化はなく、質量変化も認められなかった。
【0127】
上述の樹脂組成物をフィルムコーターで離型フィルム上に塗布し、目付51.2g/mの離型フィルム付樹脂組成物シートを作製した。次いで、炭素繊維[東邦テナックス社製:テナックス(登録商標)UTS−50]を平行に並べ、樹脂組成物シート2枚で挟み込み、温度100℃、圧力0.3MPaで加熱することで樹脂組成物を炭素繊維間に含浸させた。
【0128】
その結果、炭素繊維の目付が190g/m、樹脂組成物の含有率が35質量%の一方向プリプレグを得た。プリプレグの製造は連続的に行われ、その製造速度は5m/分、製造幅は50cmであった。
【0129】
このプリプレグを用いて、前記試験法に記載した方法で繊維強化複合材料からなる試験片を作製した。得られた繊維強化複合材料の試験片の層間破壊靭性(GIIC)は3250kJ/mであり、衝撃後圧縮強度(CAI)は437MPaであり、いずれも高いものであった。
【0130】
[比較例1]
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 Ep604)100質量部に平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン(住友化学工業社製 スミカエクセルPES−5003P)7質量部を添加した。この混合物を、プラミタリミキサーにて80℃で混練し、Ep604にポリエーテルスルホンが完全に溶解したエポキシ樹脂溶液を得た。
【0131】
H−NMR法測定からポリエーテルスルホンのポリマー末端は水酸基であり、GPCで見積もった質量平均分子量は56100であった。すなわち、質量平均分子量28050あたりに水酸基を1つ持つことを確認した。
【0132】
70℃に設定したロールミルで、上記エポキシ樹脂と硬化剤として4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン(イハラケミカル製キュアハードMED)60.7質量部とを混練して樹脂組成物を得た。なお、ポリエーテルスルホンの仕込み量は全質量に対して4.2質量%であった。また、樹脂組成物の80℃、せん断速度1000s−1における粘度は9Pa・sであった。
【0133】
この樹脂組成物を金型に仕込み、オートクレーブ法で室温から3℃/分で180℃まで昇温後、同温度で60分保持することで硬化物を得た。
【0134】
硬化物の断面加工を行い透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、島成分の平均粒子径は1.5μmであった。
【0135】
TEM−EELS分光法測定のS,N元素マッピングからポリエーテルスルホンに由来するS元素は島成分で主に観察されることを確認した。エポキシ樹脂と硬化剤に由来するN元素は、主に海成分から観察されることを確認した。このことから、実施例1および実施例2とは異なり、比較例1は、島成分の主成分が熱可塑性樹脂であり、海成分の主成分が熱硬化性樹脂と硬化剤であることを確認した。
【0136】
硬化物のガラス転移温度は243℃であった。
【0137】
硬化物(幅1cm、長さ5cm、厚さ2mm)の板を25℃のメチルエチルケトン中に浸け30日放置した。その後、硬化物を溶剤中から取り出し、150℃で1時間真空乾燥させた。乾燥後の樹脂板の外観に変化はなく、質量変化も認められなかった。
【0138】
上述の樹脂組成物をフィルムコーターにより離型フィルム上に塗布し、目付51.2g/mの離型フィルム付樹脂組成物シートを作製した。次いで、炭素繊維[東邦テナックス社製:テナックス(登録商標)UTS−50]を平行に並べ、樹脂組成物シート2枚で挟み込み、温度100℃、圧力0.3MPaで加熱することで樹脂組成物を炭素繊維間に含浸させた。その結果、炭素繊維の目付が190g/m、樹脂組成物の含有率が35質量%の一方向プリプレグを得た。プリプレグの製造は連続的に行われ、その製造速度は5m/分、製造幅は50cmであった。
【0139】
このプリプレグを用いて、前記試験法に記載した方法で繊維強化複合材料からなる試験片を作製した。得られた繊維強化複合材料の試験片の層間破壊靭性(GIIC)は1020kJ/mであり、衝撃後圧縮強度(CAI)は258MPaであり、いずれも実施例1と実施例2に比べ低いものであった。
【0140】
[比較例2]
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 Ep604)65質量部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 Ep828)15質量部と、ウレタン変性エポキシ樹脂(アデカ社製 EPU−6)20質量部に、平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン(住友化学工業社製 スミカエクセルPES−5003P)10質量部添加した。これらを、プラミタリミキサーで80℃にて混練して、エポキシ樹脂にポリエーテルスルホンが完全に溶解したエポキシ樹脂溶液を得た。
【0141】
H−NMR法測定からポリエーテルスルホンのポリマー末端は水酸基であり、GPCで見積もった質量平均分子量は56100であった。すなわち、質量平均分子量28050に対して水酸基を1つ持つことを確認した。
【0142】
70℃に設定したロールミルで、上述のエポキシ樹脂溶液全量と平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン25質量部とを混練した。その後、10質量%のメラニン樹脂微粒子をコート剤とするマイクロカプセル化された4,4’−ジアミノジフェニルスルホン45質量部を混練して樹脂組成物を得た。ポリエーテルスルホンの仕込み量は全質量に対して19.4質量%であった。また、樹脂組成物の80℃、せん断速度1000s−1における粘度は498Pa・sであった。
【0143】
この樹脂組成物を金型に仕込み、オートクレーブ法で室温から3℃/分で180℃まで昇温後、同温度で60分保持することで硬化物を得た。
【0144】
硬化物の透過型電子顕微鏡の結果、島成分の平均粒子径は9.8μmであった。
【0145】
TEM−EELS分光法測定のS,N元素マッピングからポリエーテルスルホンに由来するS元素は島成分で主に観察されることを確認した。エポキシ樹脂と硬化剤に由来するN元素は主に海成分から観察されることを確認した。このことから、実施例1および実施例2とは異なり、比較例2は、島成分の主成分が熱可塑性樹脂であり、海成分の主成分が熱硬化性樹脂と硬化剤であることを確認した。
【0146】
硬化物のガラス転移温度は213℃であった。
【0147】
硬化物(幅1cm、長さ5cm、厚さ2mm)の板を25℃のメチルエチルケトン中に浸け30日放置した。その後、硬化物を溶剤中から取り出し、150℃で1時間真空乾燥させた。乾燥後の樹脂板の外観に変化はなく、質量変化も認められなかった。
【0148】
上述の樹脂組成物をフィルムコーターにより離型フィルム上に塗布し、目付51.2g/mの離型フィルム付樹脂組成物シートを作製した。次いで、炭素繊維[東邦テナックス社製:テナックス(登録商標)UTS−50]を平行に並べ、樹脂組成物シート2枚で挟み込み、温度100℃、圧力0.3MPaで加熱することで樹脂組成物を炭素繊維間に含浸させた。その結果、炭素繊維の目付190g/m、樹脂組成物の含有率が35質量%の一方向プリプレグを得た。
【0149】
プリプレグの製造は連続的に行われ、その製造速度は5m/分、製造幅は50cmであった。このプリプレグを用いて、前記試験法に記載した方法で繊維強化複合材料からなる試験片を作製した。得られた繊維強化複合材料の試験片の層間破壊靭性(GIIC)は2203kJ/mであり、衝撃後圧縮強度(CAI)は318MPaであり、いずれも実施例1と実施例2に比べ低いものであった。
【0150】
[比較例3]
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 Ep604)100質量部に平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン(住友化学工業社製 スミカエクセルPES−5003P)5質量部を添加した。これらを、プラミタリミキサーで80℃にて混練して、Ep604にポリエーテルスルホンを完全に溶解したエポキシ樹脂溶液を得た。
【0151】
H−NMR法測定からポリエーテルスルホンのポリマー末端は水酸基であり、GPCで見積もった質量平均分子量は56100であった。すなわち、質量平均分子量28050あたりに水酸基を1つ持つことを確認した。
【0152】
70℃に設定したロールミルで、上述のエポキシ樹脂溶液全量と平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン33.4質量部とを混練した。ポリエーテルスルホンの仕込み量は全質量に対して20質量%であった。
【0153】
硬化剤として4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン(イハラケミカル製キュアハードMED)28.3質量部、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン24.9質量部を混練して、樹脂組成物を得た。樹脂組成物の80℃、せん断速度1000s−1における粘度は385Pa・sであった。
【0154】
樹脂組成物を金型に仕込み、オートクレーブ法で室温から3℃/分で180℃まで昇温後、同温度で60分保持することで透明な硬化物を得た。硬化物の断面加工を行い透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、海島相分離構造は認められなかった。
【0155】
[比較例4]
平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン(住友化学工業社製 スミカエクセルPES−5003P)をプレス成形し、幅1cm、長さ5cm、厚さ2mmの樹脂板を作製した。
【0156】
この樹脂板を25℃のメチルエチルケトン中に浸け30日放置した。その後、樹脂板を溶剤中から取り出そうとしたが、その大半が溶解し、残った一部(約10質量%)は白化し、容器に付着しており、回収することが出来なかった。
【0157】
[比較例5]
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 Ep604)100質量部に平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン(住友化学社製スミカエクセル3600P)5質量部添加し、プラミタリミキサーで80℃にて混練して、Ep604にポリエーテルスルホンを完全に溶解したエポキシ樹脂溶液を得た。
【0158】
H−NMR法測定からポリエーテルスルホンのポリマー末端は水酸基であり、GPCで見積もった質量平均分子量は14200であった。すなわち、質量平均分子量7100あたりに水酸基を1つ持つことを確認した。
【0159】
70℃に設定したロールミルで、上述のエポキシ樹脂溶液全量に平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン33.4質量部を混練した。ポリエーテルスルホンの仕込み量は全質量に対して20質量%であった。
【0160】
次に硬化剤として4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン(イハラケミカル製キュアハードMED)28.3質量部、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン24.9質量部を混練して樹脂組成物を得た。樹脂組成物の80℃、せん断速度1000s−1における粘度は235Pa・sであった。
【0161】
この硬化物を金型に仕込み、オートクレーブ法で室温から3℃/分で180℃まで昇温後、同温度で60分保持することで透明な硬化物を得た。硬化物の断面加工を行い透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、海島相分離構造は認められなかった。
【0162】
[比較例6]
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 Ep604)100質量部に平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン(住友化学工業社製スミカエクセルPES−5003P)10質量部添加し、プラネタリミキサーで80℃にて混練して、Ep604にポリエーテルスルホンを完全に溶解したエポキシ樹脂溶液を得た。
【0163】
H−NMR法測定からポリエーテルスルホンのポリマー末端は水酸基であり、GPCで見積もった質量平均分子量は56100であった。すなわち、質量平均分子量28050あたりに水酸基を1つ持つことを確認した。
【0164】
70℃に設定したロールミルで、上述のエポキシ樹脂溶液全量と硬化剤として4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン(イハラケミカル製キュアハードMED)60.7質量部、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン2質量部、平均粒子径10μmに粉砕したポリエーテルスルホン240質量部を混練して樹脂組成物を得た。ポリエーテルスルホンの仕込み量は全質量に対して60.6質量%であった。なお、樹脂組成物の80℃、せん断速度1000s−1における粘度は9732Pa・sであった。
【0165】
この樹脂組成物を金型に仕込み、オートクレーブ法で室温から3℃/分で180℃まで昇温後、同温度で60分保持することで硬化物を得ようとしたが、高粘度のため無数の気泡を抱き込み、評価可能な硬化物を得ることが出来なかった。また、上述の樹脂組成物をフィルムコーターで離型フィルム上に塗布し、目付51.2g/mの離型フィルム付樹脂組成物シートを作製しようとしたが、樹脂組成物が高粘度であるため、樹脂フィルムを製造することが出来なかった。
【0166】
【表1】

【0167】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、熱可塑性樹脂とからなり、硬化反応により、島成分が熱硬化性樹脂と硬化剤との反応物を主成分とし、海成分が熱可塑性樹脂を主成分とする海島相分離構造を形成する樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂と前記熱硬化性樹脂とを相溶させる相溶化剤が添加されてなる請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
80℃、せん断速度1000s−1における粘度が10〜1000Pa・sである請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂又は変性エポキシ樹脂である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルフォン、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、これらの誘導体又はこれらの組合せである請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、前記熱硬化性樹脂と反応可能な官能基を有する、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、水酸基、カルボン酸基、イミノ基、またはアミノ基を有する、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂を、前記樹脂組成物の全重量の5〜60質量%の配合割合で含む請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の樹脂組成物の硬化反応により得られる海島相分離構造を有する硬化物であって、
前記海島相分離構造は、島成分が熱硬化性樹脂と硬化剤との反応物を主成分とし、海成分が熱可塑性樹脂を主成分とする硬化物。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤との反応物の平均粒子径が、0.01〜10μmである請求項9に記載の硬化物。
【請求項11】
前記硬化物のガラス転移温度が、150℃以上である請求項9または請求項10に記載の硬化物。
【請求項12】
請求項1に記載の樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグ。
【請求項13】
強化繊維が、炭素繊維、シリコンカーバイド繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、ポリベンゾオキサジン繊維、芳香族ポリエステル繊維である請求項12に記載のプリプレグ。
【請求項14】
強化繊維が、炭素繊維である請求項13に記載のプリプレグ。
【請求項15】
請求項9ないし請求項11のいずれかに記載の硬化物をマトリクス樹脂とする繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2012−211255(P2012−211255A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77454(P2011−77454)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】