説明

樹脂組成物、耐火性樹脂発泡体および屋根用材料

【課題】耐火試験中の鋼板に断熱性に優れた断熱層を形成することができる耐火性樹脂発泡体を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、屈伏点1000℃以下のガラスフリット5〜200重量部と、少なくとも1種の繊維と、アンチモン系化合物とを配合してなる樹脂組成物を発泡させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐火性を有する樹脂発泡体を得るための樹脂組成物、この樹脂組成物を発泡させた耐火性樹脂発泡体、および、この耐火性樹脂発泡体を用いた屋根用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋根材に鋼板を用いた折半屋根の裏面に貼合するポリオレフィン系発泡体は、断熱や吸音などの目的で貼合されており、これらは難燃性を付与されているものが多い。しかし、難燃性を付与した発泡体であっても、耐火試験時には燃えてしまい、折半屋根は直に炎にさらされる。このため、折半屋根に用いられている鋼板の温度が上昇し、耐火試験中の鋼板強度が低下する。
【0003】
上述した問題に対し、特許文献1では、ポリオレフィン系樹脂などの樹脂成分に低融点ガラスおよび金属炭酸塩を配合することにより、低融点ガラスと金属炭酸塩との組み合わせによるガラスを発泡させ、耐火断熱層を形成する技術が提案されている。しかし、特許文献1の樹脂組成物で発泡体を形成する場合、発泡体自体の密度が小さいので、ガラス発泡体を形成可能なガラス量の添加が難しく、しかも、燃焼条件によっては、生じたガラス発泡体の密度が大きすぎ、十分な断熱性を発揮することが難しく、安定した耐火性能を具備することが困難であった。また、折半屋根の構造では鋼板が上、発泡体が下になるが、特許文献1の樹脂組成物による発泡体は、屋根材に用いられている鋼板と溶融したガラスとの密着力が弱いため、耐火試験中に鋼板からガラス発泡体が落ちてしまうという問題が合った。
【0004】
【特許文献1】特許第3978120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、耐火試験中の鋼板に断熱性に優れた断熱層を形成することができる耐火性樹脂発泡体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するため、下記(1)〜(6)の樹脂組成物、耐火性樹脂発泡体および屋根用材料を提供する。
(1)ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、屈伏点1000℃以下のガラスフリット5〜200重量部と、少なくとも1種の繊維と、アンチモン系化合物とを配合してなることを特徴とする樹脂組成物。
(2)ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、少なくとも1種の繊維を0.1〜200重量部配合したことを特徴とする(1)の樹脂組成物。
(3)ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、アンチモン系化合物を0.1〜100重量部配合したことを特徴とする(1)または(2)の樹脂組成物。
(4)(1)〜(3)の樹脂組成物を発泡させてなることを特徴とする耐火性樹脂発泡体。
(5)平均気泡径が1〜1000μm、見かけ密度が10〜200kg/mであることを特徴とする(4)の耐火性樹脂発泡体。
(6)(4)または(5)の耐火性樹脂発泡体と鋼板とを貼り合わせたことを特徴とする屋根用材料。
【0007】
本発明では、発泡体中に低融点ガラスと、少なくとも1種の繊維とを含有させることで、耐火試験中に繊維断熱層を形成させ、それを耐火試験において発生した熱で溶融したガラスにより鋼板に付着させる。このとき、アンチモン系化合物により鋼板とガラスとの密着力を高めることで、繊維断熱層を鋼板から落下させることなく形成することができる。この繊維断熱層によって耐火試験中における鋼板の温度上昇を防ぐことで、鋼板強度の低下が防止される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐火性樹脂発泡体によれば、耐火試験中の鋼板に繊維断熱層を形成し、鋼板の温度上昇を防ぐことにより、鋼板強度の低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂に対し、屈伏点1000℃以下のガラスフリットと、少なくとも1種の繊維と、アンチモン系化合物とを配合したものであり、以下各成分について説明する。
【0010】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等を用いることができる。これらの中では、エチレン−酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレンおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体と低密度ポリエチレンとを併用したものが特に好ましい。
【0011】
屈伏点1000℃以下のガラスフリットとしては、リン酸系低融点ガラス、ホウ酸系低融点ガラス、酸化ナトリウム系低融点ガラス等を用いることができる。これらはB、P、ZnO、SiO、Bi、Al、BaO、CaO、MgO、MnO、ZrO、TiO、CeO、SrO、V、SnO、LiO、NaO、KO、CuO、Fe等を屈伏点が1000℃以下になるよう成分割合を調整したものである。このガラスの屈伏点のより好ましい範囲は350〜650℃である。
【0012】
繊維としては、耐火試験中の燃焼温度において熱的に安定な繊維が用いられる。例えば、有機繊維では、アラミド繊維、酸化アクリル繊維、フェノール繊維、シリコン繊維等の防炎性、難燃性、耐熱性の高い繊維、無機繊維では、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維や、鉄繊維、チタン繊維、ボロン繊維などの金属繊維が用いられる。これらの繊維は、単一種類の繊維として使用してもよく、あるいは異なる2種類以上の混合繊維として使用してもよい。
【0013】
本発明では、発泡体中に、低融点ガラスと、少なくとも1種の繊維とを含有させることで、耐火試験中に繊維断熱層を形成させ、それを耐火試験において発生した熱で溶融したガラスにより鋼板に付着させる。このとき、アンチモン系化合物により鋼板とガラスとの密着力を高めることで、繊維断熱層を鋼板から落下させることなく形成することができる。この繊維断熱層によって耐火試験中における鋼板の温度上昇を防ぐことで、鋼板強度の低下が防止されるため、本発明で用いる繊維は、用いる低融点ガラスの屈伏点付近で熱的に安定であることがより好ましい。低融点ガラスの屈伏点付近で、繊維が熱分解したり、溶融したりして、繊維の状態を維持できなくなると、もはや断熱層としての意味をなさなくなるため、より高温に耐えられる繊維が好ましく、特に無機繊維が好適であり、経済性の観点から、さらに好ましくはガラス繊維である。ガラス繊維の中でも、シリカ(SiO)とアルミナ(Al)の成分比率を高めた耐熱性ガラス繊維が最も好ましい。
【0014】
繊維の長さとしては、短すぎると耐火試験中に形成される繊維断熱層の断熱効果が劣り、逆に長すぎると発泡性樹脂組成物中への均一な分散が困難となるばかりか、混練分散中の機械的なせん断によって繊維が破壊され、実質的に長い繊維を添加する効果が得られなくなるため、20μm〜10mmが好ましい。繊維の発泡性樹脂組成物中の含有量としては、少なすぎると耐火試験中に形成される繊維断熱層による断熱効果が十分でなく、多すぎると高倍率の発泡体が得られず、屋根材としての断熱性に劣るため、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.1〜200重量部が好ましく、さらに好ましくは10〜100重量部である。
【0015】
アンチモン系化合物としては、三酸化アンチモン、五フッ化アンチモン、硫化アンチモン等を用いることができる。これらの中では、三酸化アンチモンが特に好ましい。
【0016】
各成分の配合量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、屈伏点1000℃以下のガラスは5〜200重量部、より好ましくは20〜80重量部、少なくとも1種の繊維は0.1〜200重量部、より好ましくは10〜100重量部、アンチモン系化合物は0.1〜100重量部、より好ましくは3〜30重量部である。
【0017】
本発明の樹脂組成物を発泡させる発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p−トルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジアゾアミノベンゼン、N,N’−ジメチルN,N’−ジニトロテレフタルアミド、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。これらは単独または2種以上で用いることができ、配合量は樹脂成分100重量部に対して、10〜50重量部が望ましい。
【0018】
また、本発明の樹脂組成物には、上記成分に加え、難燃剤、結晶化核剤、結晶化促進剤、気泡化核剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、上記以外の架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤などの各種添加剤を配合してもよい。特に、難燃剤の配合は、本発明に用いる繊維との相乗効果により、耐火性を満たし、さらには、国土交通省の防火認定のいずれをも満たしうる耐火断熱材を提供することができることから、より好ましい。難燃剤の種類は特に限定されるものではないが、本発明の樹脂組成物の発泡成形性を損なわない範囲内で、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、金属水和物などの市販の難燃剤を使用することができる。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、上述した各成分を公知の方法で混練することにより得ることができる。また、本発明の耐火性樹脂発泡体は、本発明の樹脂組成物を公知の方法で成形、発泡させることにより得ることができる。
【0020】
本発明の耐火性樹脂発泡体は、平均気泡径が1〜1000μm、特に2〜500μmであることが好ましい。平均気泡径が1μm未満であると独立気泡の割合が多くなりやすく、吸音特性が悪くなり、1000μmを超えると断熱性能が悪くなる。ここでいう平均気泡径は、ASTM D3576−77に準じて求めた。すなわち、シート断面のSEM写真を撮影し、SEM写真上に水平方向と垂直方向に直線を引き、直線が横切る気泡の弦の長さtを平均した。写真の倍率をMとして、下記式に代入して平均気泡径dを求めた。なお、求めた気泡径(cm)は(μm)に換算した。
d=t/(0.616×M)
また、本発明の耐火性樹脂発泡体は、見かけ密度が10〜200kg/m、特に20〜100kg/mであることが好ましい。見かけ密度が10kg/m未満であると、耐火試験中に十分な断熱層を形成しうる灰分が得られず、200kg/mを超えると施工性が悪くなり、またコストが高くなってしまう。ここでいう見かけ密度は、発泡体シートを0.1m×0.1mの大きさに切り出し、厚さT(m)を測定し、体積をV(m)、切り出した発泡体の質量をM(Kg)として、下記式に代入して見掛け密度ρ(Kg/m)を求めた。
ρ=M/(0.1×0.1×T)
本発明の屋根材料は、上述した本発明の耐火性樹脂発泡体と鋼板とを接着剤などを用いて貼り合わせることにより得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでない。
【0022】
下記表1、2に示す成分を120℃のオープンロールで混練することにより樹脂組成物を製造した。その後、130℃のプレス機にて樹脂組成物をシート状に成形した後、220℃の恒温槽にてシートを発泡させ、実施例1〜9、比較例1〜4の評価用サンプルを得た。なお、表中のリン酸系低融点ガラスの屈伏点は357℃、ホウ酸系低融点ガラスの屈伏点は545℃、酸化ナトリウム系低融点ガラスの屈伏点は617℃である。
【0023】
実験は、鋼板のみからなる試験体と、鋼板に評価用サンプルを貼合した試験体とを用意し、図1に示すように行った。すなわち、加熱面12が100mm角になるよう加工してセラミックウール14で囲った試験体16(図中22は鋼板、24は評価用サンプルを示す)を、石膏ボード(軽量気泡コンクリート板)18に固定して小型加熱炉10の上部に設置し、バーナー20によりJIS−A1304の加熱条件にて30分間加熱し、鋼板22の温度を測定した。耐火性の評価基準は下記の通りとした。
・耐火性(温度保持)
鋼板のみからなる試験体と、鋼板に評価用サンプルを貼合した試験体とで、鋼板温度の温度差が50℃以上の評価用サンプルを合格(○)、50℃未満の評価用サンプルを不合格(×)とした。
・耐火性(試験後形状保持)
試験後の断熱層が鋼板上に80%保持されている評価用サンプルを合格(○)、80%保持されていない評価用サンプルを不合格(×)とした。
【0024】
結果を表1、2に示す。表1、2より、実施例の発泡体は、耐火試験時の温度保持性および耐火試験後の形状保持性がいずれも良好で、優れた耐火性を有することがわかる。これに対し、比較例の発泡体は、耐火試験時の温度保持性および耐火試験後の形状保持性がいずれも悪く、耐火性が劣るものであった。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例における実験を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
10 小型加熱炉
12 加熱面
14 セラミックウール
16 試験体
18 石膏ボード
20 バーナー
22 鋼板
24 評価用サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、屈伏点1000℃以下のガラスフリット5〜200重量部と、少なくとも1種の繊維と、アンチモン系化合物とを配合してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、少なくとも1種の繊維を0.1〜200重量部配合したことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、アンチモン系化合物を0.1〜100重量部配合したことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物を発泡させてなることを特徴とする耐火性樹脂発泡体。
【請求項5】
平均気泡径が1〜1000μm、見かけ密度が10〜200kg/mであることを特徴とする請求項4に記載の耐火性樹脂発泡体。
【請求項6】
請求項4または5に記載の耐火性樹脂発泡体と鋼板とを貼り合わせたことを特徴とする屋根用材料。

【図1】
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【公開番号】特開2010−18650(P2010−18650A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178006(P2008−178006)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】