説明

樹脂組成物およびその製造方法、並びに封止剤およびそれを用いた色素増感太陽電池

【課題】ヨウ素およびヨウ化物イオンに対して優れた耐性を示すと共に揮発、拡散抑制効果が高く、且つ極性溶剤に対して膨潤しにくく信頼性の高い封止性能を有する、封止剤に適した樹脂組成物を提供する。
【解決手段】表面にシラノール基を有するアモルファス状のシリカ微粒子、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、式(3)の分子末端にアクリロイルオキシ基を含有するトリアルコキシシラン、式(4)のジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび結晶性のシリカ粒子を含有する、樹脂組成物。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池に使用される電解質成分、特にヨウ素およびヨウ化物イオンに対して優れた耐性を示すと共に揮発、拡散抑制効果が高く、且つアセトニトリルなどの極性溶剤に対して膨潤しにくく信頼性の高い封止性能を有する樹脂組成物、および該樹脂組成物を封止剤として用いた耐久性の高い色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人口の増大とエネルギー需要の急拡大により、化石資源の枯渇が懸念されている。また、地球温暖化などの環境問題への配慮から二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーが求められている。太陽光を利用する太陽電池はクリーンなエネルギーの代表格であり、多くの研究がなされている。一般的には無機のシリコン系太陽電池が使用されるが、シリコン原料の供給問題や大掛かりな真空装置を必要とする。また、一般的な太陽電池は硬くて重いため、一般家屋の屋根に設置するために補強の必要があったり、人手が掛かるなど、プロセス面、コスト面に課題があり、安価で使いやすい太陽電池が求められている。
色素増感太陽電池は、有機色素を用いた太陽電池であり、無機太陽電池と異なり、大掛かりな真空プロセスを必要としないため、安価に太陽電池を作れる可能性がある。また、プロセスによっては印刷技術をベースにしたロールツーロールプロセスでさらに安価に大量生産できる可能性を秘めている。しかしながら、色素増感太陽電池は無機系電池と異なり、有機色素の劣化に伴う寿命の短さが問題となっている。寿命が短い原因として様々な可能性が考えられるが、一つは封止剤の性能が問題となっている。一般的に色素増感太陽電池はガラス板等の基材に挟まれた構造となっている。そのため、その接続には封止剤が用いられるが、封止性能が不十分であると、そこから水分、酸素が進入し、色素劣化の原因となる。また、色素増感太陽電池では電解質としてアセトニトリルなどの極性溶剤にヨウ素あるいはヨウ化物イオンが含まれているため、封止剤は電解質成分、特にヨウ素あるいはヨウ化物イオンに対する耐性を有する必要があると共に、ヨウ素あるいはヨウ化物イオンの揮発、拡散を抑制する必要がある。また、前記溶剤に対して封止剤が膨潤すると太陽電池の性能面への影響や耐久性に著しい問題を引き起こす。そのため、封止剤には極めて厳しい特性が求められる。
このような封止剤として、例えば特許文献1ではエポキシ樹脂を使用した封止剤が提案されている。しかし、該封止剤は、電解質溶媒に対しての耐性はあるが、封止性能が不十分でヨウ素の拡散抑制にはまだまだ問題がある。また、特許文献2では、ガラス系の封止剤を用いる方法が提案されているが、接着温度が500℃以上と非常に高く、封止プロセスに制限がある。さらに、特許文献3では、光硬化性のアクリル樹脂を使用した封止剤が提案されているが、太陽電池の効率の改善は少なく、その耐久性にも課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−200627号公報
【特許文献2】特開2009−120462号公報
【特許文献3】特開2005−302564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、色素増感太陽電池に使用される電解質成分、特にヨウ素およびヨウ化物イオンに対して優れた耐性を示すと共に揮発、拡散抑制効果が高く、且つアセトニトリルなどの極性溶剤に対して膨潤しにくく信頼性の高い封止性能を有する樹脂組成物、および該樹脂組成物を封止剤として用いた耐久性の高い色素増感太陽電池を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のシリカ微粒子と、特定のアルコキシシランと、特定の多官能アクリレートを含有する組成物を封止剤として用いると、ヨウ素およびヨウ化物イオンに対して優れた耐性を示すと共に揮発、拡散抑制効果が高く、かつアセトニトリルなどの極性溶剤に対して膨潤しにくく信頼性の高い封止性能を有し、これを色素増感太陽電池に用いると高い耐久性が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]表面にシラノール基を有するアモルファス状のシリカ微粒子、
式(1)のトリアルコキシシラン、
式(2)のジアルコキシシラン、
式(3)の分子末端にアクリロイルオキシ基を含有するトリアルコキシシラン、
式(4)の脂環式多官能アクリレートおよび
結晶性のシリカ粒子を含有する、樹脂組成物。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、RはC1−6アルキル基を示す。)
【0012】
【化4】

【0013】
[2]アモルファス状のシリカ微粒子と式(1)〜(3)のアルコキシシランが反応してシリカ微粒子含有ポリシロキサンが形成される、[1]記載の樹脂組成物。
[3]アモルファス状のシリカ微粒子の平均粒子径が1〜100nmである、[1]または[2]記載の樹脂組成物。
[4]シリカ微粒子含有ポリシロキサンと式(4)の脂環式多官能アクリレートが重合する、[2]または[3]記載の樹脂組成物。
[5]結晶性のシリカ粒子の平均粒子径が100〜1000nmである、[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]光硬化性である[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む封止剤。
[8][7]記載の封止剤を用いた色素増感太陽電池。
[9]封止剤により、電解質成分としてヨウ素およびヨウ化物イオンを含む電解質液が基板間に封入された、[8]記載の色素増感太陽電池。
[10]表面にシラノール基を有するアモルファス状のシリカ微粒子、
式(1)のトリアルコキシシラン、
式(2)のジアルコキシシランおよび
式(3)の分子末端にアクリロイルオキシ基を含有するトリアルコキシシランを反応させて、シリカ微粒子含有ポリシロキサンを得る工程と、
該シリカ微粒子含有ポリシロキサン、式(4)の脂環式多官能アクリレートおよび結晶性のシリカ粒子を混合する工程を有する、樹脂組成物の製造方法。
【0014】
【化5】

【0015】
(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【0016】
【化6】

【0017】
(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【0018】
【化7】

【0019】
(式中、RはC1−6アルキル基を示す。)
【0020】
【化8】

【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、色素増感太陽電池に使用される電解質成分、特にヨウ素およびヨウ化物イオンに対して優れた耐性を示すと共に揮発、拡散抑制効果が高く、且つアセトニトリルなどの極性溶剤に対して膨潤しにくく信頼性の高い封止性能を有する樹脂組成物が得られる。従って、該樹脂組成物を封止剤として使用することで耐久性の高い色素増感太陽電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、電解質成分としてヨウ素およびヨウ化物イオンが溶解された極性溶媒からなる電解質液を基板間に封入した色素増感太陽電池の封止剤として用いるのに適した樹脂組成物を提供するものである。
1.樹脂組成物
本発明は、表面にシラノール基を有するアモルファス状のシリカ微粒子、式(1)のトリアルコキシシラン、式(2)のジアルコキシシラン、式(3)の分子末端にアクリロイルオキシ基を含有するトリアルコキシシラン、式(4)の脂環式多官能アクリレートおよび結晶性のシリカ粒子を含有する、樹脂組成物を提供するものである。
【0023】
〔アモルファス状のシリカ微粒子〕
本発明における表面にシラノール基を有するアモルファス状のシリカ微粒子は、粒子表面のシラノール基により、後述する式(1)〜(3)のアルコキシシランと反応する。該反応により得られるシリカ微粒子含有ポリシロキサンは、化学的安定性に優れた高密度な架橋構造を有するため、アセトニトリルなどの極性溶剤に対して膨潤しにくくなり、耐溶剤性を高めることができるとともに、ガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等のポリエステル系樹脂に対する優れた密着性が得られる。
【0024】
また、本発明では、アモルファス状のシリカ微粒子を用いるため、後述する式(1)〜(3)のアルコキシシランとの反応性を確保することができる。本発明では、シリカ微粒子表面のシラノール基の反応性を高めるという観点から、アモルファス状の中でも湿式法により製造されたシリカが好ましく、特にコロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカとは、二酸化ケイ素をコロイド状に水または有機溶媒に分散させたものであり、特に限定はされないが、球状、針状または数珠状である。
また、平均粒子径は、透明性の確保と比表面積の大きさの観点から、1〜100nmが好ましく、より好ましくは1〜80nm、特に好ましくは1〜50nmである。また、透明性とヘイズ低減の観点から、シリカ微粒子の粒度分布は狭いほうが好ましく、より好ましくは一次粒子径のまま分散しているものが望ましい。なお、平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)等による電子顕微鏡写真から計測することができる。また、動的光散乱法や静的光散乱法等を利用する粒度分布計等によっても計測することができる。
【0025】
また、コロイダルシリカの固形分濃度は、生産性の観点から高いほうが好ましく、具体的には10重量%以上、より好ましくは20重量%以上である。また、コロイダルシリカの固形分濃度の上限値は、特に制限されないが、通常50重量%以下であり、好ましくは40重量%以下である。
【0026】
さらに、コロイダルシリカの粒子表面は、表面処理を施していない裸の状態であることが好ましく、その粒子表面のpH、およびコロイダルシリカの水分散液のpHは酸性側、あるいは塩基性側が好ましい。具体的に酸性側では、pH1〜4、より好ましくはpH2〜4であり、塩基性側ではpH8〜10、より好ましくはpH9〜10である。これ以上酸性側あるいは塩基性側に傾くと反応速度を制御できず、樹脂合成中にゲル化が起こる。
【0027】
また、本発明では、コロイダルシリカは市販品を使用することができ、例えば、日産化学(株)製のスノーテックスシリーズ、触媒化成工業社のカタロイド−Sシリーズ、バイエル社のレバシルシリーズ等の酸性コロイダルシリカまたは塩基性コロイダルシリカが挙げられる。
【0028】
また、樹脂組成物中のシリカ微粒子の含有量は、機械的強度を高めるという観点から、1〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%である。
【0029】
〔式(1)のトリアルコキシシラン〕
本発明におけるトリアルコキシシランとは、式(1)に表されるものである。
【0030】
【化9】

【0031】
(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【0032】
式(1)のRおよびRで示される「C1−6アルキル基」とは、炭素数1〜6の直鎖状または分枝鎖状の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル等が挙げられ、中でも、C1−3アルキル基が好ましく、特に好ましくはメチルである。
各々のRは、同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
【0033】
このようなトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン等が挙げられ、反応性の観点から、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが好ましく、特に好ましくはメチルトリメトキシシランである。
また、トリアルコキシシランの市販品としては、信越化学(株)製のKBM13(メチルトリメトキシシラン、数平均分子量136.2)、KBE13(メチルトリエトキシシラン、数平均分子量178.3)等が挙げられる。
また、樹脂組成物中のトリアルコキシシランの含有量は、シリカ微粒子の比表面積や反応性の観点から、5〜25重量%、より好ましくは10〜20重量%である。
【0034】
〔式(2)のジアルコキシシラン〕
本発明におけるジアルコキシシランとは、式(2)に表されるものである。
【0035】
【化10】

【0036】
(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【0037】
式(2)のRおよびRで示される「C1−6アルキル基」とは、炭素数1〜6の直鎖状または分枝鎖状の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル等が挙げられ、中でも、C1−3アルキル基が好ましく、特に好ましくはメチルである。
各々のRおよびRは、同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
【0038】
このようなジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン等が挙げられ、反応性の観点からジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが好ましく、特に好ましくはジメチルジメトキシシランである。
また、ジアルコキシシランの市販品としては、信越化学(株)製のKBM22(ジメチルジメトキシシラン、数平均分子量120.2)、KBE22(ジメチルジエトキシシラン、数平均分子量148.3)等が挙げられる。
また、樹脂組成物中のジアルコキシシランの含有量は、樹脂組成物への柔軟性の付与の観点から、5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0039】
〔式(3)のトリアルコキシシラン〕
本発明における分子末端にアクリロイルオキシ基を含有するトリアルコキシシランとは、式(3)に表されるものである。
【0040】
【化11】

【0041】
(式中、RはC1−6アルキル基を示す。)
【0042】
式(3)のRで示される「C1−6アルキル基」とは、炭素数1〜6の直鎖状または分枝鎖状の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル等が挙げられ、中でも、C1−3アルキル基が好ましく、特に好ましくはメチルである。
各々のRは、同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
【0043】
このようなトリアルコキシシランとしては、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリプロポキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン等が挙げられ、反応性の観点から3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが好ましく、特に好ましくは3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランである。
【0044】
また、トリアルコキシシランの市販品としては、信越化学(株)製のKBM5103(3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、数平均分子量234.3)等が挙げられる。
また、樹脂組成物中のトリアルコキシシランの含有量は、後述する式(4)の脂環式多官能アクリレートとの相溶性や光重合時の反応性の観点から、5〜30重量%、より好ましくは10〜25重量%である。
【0045】
〔式(4)の脂環式多官能アクリレート〕
本発明における脂環式多官能アクリレートとは、式(4)のジメチロールトリシクロデカンジアクリレートであり、前記アモルファス状のシリカ微粒子および式(1)〜(3)のアルコキシシランが反応して得られるシリカ微粒子含有ポリシロキサンと重合が可能である。
【0046】
【化12】

【0047】
該シリカ微粒子含有ポリシロキサンと重合が可能な成分として、アセトニトリルなどの高極性の電解質溶液に対する膨潤性を考慮すると、極性の低い脂肪族系材料が望ましいが、極性の低い長鎖脂肪族系アクリルモノマーではシリカ微粒子含有ポリシロキサンとの相溶性に問題があり、相分離を引き起こす。そのため、本発明では、該シロキサンと相溶性の高い式(4)の脂環式多官能アクリレートを使用する。また、式(4)の脂環式多官能アクリレートを用いると、アセトニトリルなどの極性溶剤に対して膨潤しにくくなり、耐溶剤性を向上させることができると共に、本発明の樹脂組成物を色素増感太陽電池に用いた場合に色素増感太陽電池の耐久性を向上させることができる。また硬化時間を低減することもできる。
【0048】
式(4)の脂環式多官能アクリレートの市販品としては、共栄社化学(株)製のライトアクリレートDCP−A、大日本インキ(株)製のLUMICURE DCA−200、日本化薬(株)製のカラヤッドR−684などが挙げられる。
また、樹脂組成物中の式(4)の脂環式多官能アクリレートの含有量は、光重合時の硬化時間(硬化性)の観点から、5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0049】
〔結晶性のシリカ粒子〕
本発明における結晶性のシリカ粒子は、ヨウ素やヨウ化物イオンの拡散を抑制して本発明の樹脂組成物にガスバリア性を付与するための成分であり、結晶性のシリカ粒子を含有させると封止性能を向上させることができる。本発明における結晶性のシリカ粒子としては、結晶性であれば特に制限されないが、ヨウ素やヨウ化物イオンの拡散をさらに抑制してガスバリア性を高める観点から、ある程度粒子サイズが小さいものが好ましく、平均粒子径が100〜1000nm、より好ましくは100〜800nmである。
また、粒子の形状は特に限定されないが、ガスバリア性と透明性の観点から、球状、あるいは破砕形状のシリカが好ましく、特に好ましくは球状シリカである。結晶性のシリカ粒子の市販品としては、球状のシリカ粒子としては電気化学(株)製のSFP−20MやSFP−30Mなどが挙げられ、破砕形状のシリカとしては、FS−3DC、FS−5DC、FS−7DCなどが挙げられる。
【0050】
また、樹脂組成物中の結晶性シリカ粒子の含有量は、ガスバリア性と樹脂組成物の粘度調整の観点から、5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0051】
〔光重合開始剤〕
本発明では、光重合開始剤を含有させて光硬化性樹脂組成物とすることができる。これによって、封止プロセスに制限されることなく、封止プロセスの自由度を高めることが可能である。本発明の光硬化性樹脂組成物に光照射すると、式(4)の脂環式多官能アクリレートと前記シリカ微粒子含有ポリシロキサンとが光重合する。
【0052】
光重合開始剤としては、紫外線照射によりラジカルを発生する光重合開始剤が好ましく、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−イソプロピルフェニル)プロパン−1−オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−ジメトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−モルホリノプロパン−1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4’−モルホリノフェニル)ブタノン−1等が挙げられる。また、光重合開始剤の市販品としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア891、イルガキュア184、イルガキュア651、メルク(株)製のダロキュア1173等が挙げられる。
【0053】
また、樹脂組成物中の光重合開始剤の含有量は、0.01〜2重量%が好ましく、より好ましくは0.01〜1重量%である。
【0054】
2.樹脂組成物の製造方法
本発明は、表面にシラノール基を有するアモルファス状のシリカ微粒子、式(1)のトリアルコキシシラン、式(2)のジアルコキシシランおよび式(3)の分子末端にアクリロイルオキシ基を含有するトリアルコキシシランを反応させて、シリカ微粒子含有ポリシロキサンを得る工程と、該シリカ微粒子含有ポリシロキサン、式(4)の脂環式多官能アクリレートおよび結晶性のシリカ粒子を混合する工程を有する、樹脂組成物の製造方法を提供するものである。
【0055】
【化13】

【0056】
(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【0057】
【化14】

【0058】
(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【0059】
【化15】

【0060】
(式中、RはC1−6アルキル基を示す。)
【0061】
【化16】

【0062】
具体的には、以下の通りである。
(i)表面にシラノール基を有するシリカ微粒子に、共溶剤として水と相溶するアルコール(メタノール、2−メトキシエタノール、2−プロパノール等)を加える。溶液のpHをpH1〜3に調整した後、式(1)および式(2)のアルコキシシランをアルコール(メタノール、エタノール、2−プロパノール等)に溶解させ、これをシリカ微粒子を含有する溶液中に加え、シリカ微粒子と40〜80℃で5〜30分間反応させる。このとき、シリカ微粒子と式(1)および式(2)のアルコキシシランが反応すると共に、式(1)のアルコキシシラン同士、式(2)のアルコキシシラン同士、および/または式(1)と式(2)のアルコキシシランが反応する。
式(1)および式(2)のアルコキシシランの配合量は、電解質成分に対する耐性の観点から、合計で金属酸化物微粒子2g(金属酸化物微粒子の分散液としては固形分濃度20重量%の場合は10g使用)に対して1〜4g、より好ましくは2〜3gである。また、式(1)および式(2)のアルコキシシランの配合比率は、シリカ微粒子表面のシラノール基との反応性の観点から3/1〜1/3、より好ましくは2/1〜1/2である。
反応終了後、溶媒を留去する。
(ii)次いで、式(1)〜(3)のアルコキシシランを、(i)の反応物に加え、40〜80℃で5分間〜2時間反応させ、シリカ微粒子含有ポリシロキサンを得る。このとき、シリカ微粒子と式(1)〜式(3)のアルコキシシランが反応すると共に、式(1)のアルコキシシラン同士、式(2)のアルコキシシラン同士、式(3)のアルコキシシラン同士、式(1)と式(2)または式(3)のアルコキシシラン、および/または式(2)と式(3)のアルコキシシランが反応する。
式(1)〜(3)のアルコキシシランの配合量は、電解質成分に対する耐性の観点から、合計で40〜80重量%、より好ましくは44〜75重量%であり、式(1)〜(3)のアルコキシシランの配合比率は、電解質成分に対する耐性の観点やクラック発生の抑制、硬化時間の短縮、後述する式(4)の脂環式多官能アクリレートとの相溶性等の観点から(式(1)+式(3))/式(2)が3/2〜3/4、より好ましくは3/2〜1/1である。
反応終了後、溶媒を留去する。
(iii)式(4)の脂環式多官能アクリレート、(ii)で得たシリカ微粒子含有ポリシロキサン、結晶性のシリカ粒子および光重合開始剤を混合し、分散処理を行うことにより本発明の樹脂組成物が得られる。
【0063】
3.色素増感太陽電池
また、本発明は、前記樹脂組成物を封止剤として用いた色素増感太陽電池を提供するものである。色素増感太陽電池は、例えば、ガラス基板(透明基板)の片面に透明導電膜が形成され、さらにその上に酸化物半導体膜が形成され、この酸化物半導体膜に色素を吸着させた作用極と、基板の片面に白金膜(導電膜)が形成された対向極を、電解質を介して対向させ、封止剤で封止した構造を有する。
封止剤で封止する際の、紫外線の照射条件は、封止剤の塗布厚等に応じて適宜選択すればよい。照射する光線の波長としては、200〜400nmの範囲が適当であり、感度の高い波長を有する照射源を適宜選択して使用することができる。
【0064】
封止剤の硬化に用いる紫外線の照射源としては、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアーク、メタルハライドランプなどを挙げることができ、照射条件は、通常、線量が50mj/cm〜10j/cmとなる範囲が適している。
【実施例】
【0065】
本明細書中の物性、特性等は以下の方法での測定値である。
<平均粒子径>
アモルファスシリカ:動的光散乱法にて測定した(ナノトラック、日機装(株)製)
結晶性シリカ:走査型電子顕微鏡(SEM)にて測定した。
【0066】
樹脂組成物合成例
〔合成例1〕
(i)攪拌機、還流冷却器および窒素導入管を備えた容器に、アモルファス状のシリカ微粒子としてコロイダルシリカ(商品名:スノーテックスO、日産化学(株)製、水分散液、固形分濃度20重量%、平均粒子径10nm、粒子表面のpH2〜4)30g、メタノール30gおよび2−メトキシエタノール5gを加え、濃硝酸を加えて液のpHを2〜3に調整した。
式(1)のトリアルコキシシランとしてメチルトリメトキシシラン(商品名:KBM−13、信越化学(株)製)3gおよび式(2)のジアルコキシシランとしてジメチルジメトキシシラン(商品名:KBM−22、信越化学(株)製)3gをメタノール6gに溶解させ、これを、80℃に昇温した、前記コロイダルシリカを含有する溶液に20分間かけて滴下した。80℃で10分間反応を行った後、減圧下、重量が半分になるまで濃縮した。次いで2−プロパノール30gを加え、均一になるまで攪拌した。
(ii)再び80℃に昇温してから、式(1)のトリアルコキシシラン(KBM−13)6g、式(2)のジアルコキシシラン(KBM−22)12gならびに式(3)の分子の末端にアクリロイルオキシ基を有するトリアルコキシシランとして3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−5103、信越化学(株)製)11gを2−プロパノール30gに溶解させ、これを(i)の反応物に、滴下ロートを用いて1時間かけて滴下し、80℃で2時間反応後、室温に冷却した。
(iii)次いで、式(4)の脂環式多官能アクリレートモノマーとしてジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(商品名:ライトアクリレートDCP−A、共栄社化学(株)製)12g、結晶性のシリカ粒子(商品名:SFP−20M、電気化学(株)製、平均粒子径:約300nm、球状シリカ)12gおよび光重合開始剤としてイルガキュア184(チバスペシャリティケミカルズ(株)製)0.1gを(ii)の反応物に加えた。超音波ホモジナイザーにて30秒間処理してシリカ粒子の分散を行った後、減圧下、溶媒を留去して樹脂組成物Aを得た。
【0067】
〔合成例2〕
実施例1において、結晶性のシリカ粒子としてSFP−20M(電気化学(株)製)12gを用いる代わりに、SFP−30M(電気化学(株)製、平均粒子径約700nm、球状シリカ)12gを用いる以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物Bを得た。
【0068】
〔色素増感太陽電池の電解質溶液の作成〕
溶媒としてアセトニトリルを用い、ヨウ素(50mM)およびヨウ化リチウム(500mM)を完全に溶解させて、ヨウ素濃度(1mM/mL)、ヨウ化リチウム濃度(1mM/mL)のアセトニトリル溶液からなる電解質溶液を作成した。
【0069】
〔実施例1〕
2枚の透明ガラス(5cm×5cm×1.5mm)の1枚の周囲に沿って、幅約2mm、厚み100μmになるように合成例1の樹脂組成物Aを塗布し、次いでもう一枚のガラスをその上に被せた。紫外線(UV光)照射装置(製品名:UVコンベアシステム、フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製)でUV光を露光して(照射条件:4J/cm2)、光硬化を行った。反応を完結させるために、100℃の乾燥機で1時間保持した。作成した試料を電解質溶液の浸入の程度の測定に用いた。
また、アセトニトリル溶媒中での膨潤度と電解質溶液への耐性を調べるために、合成例1で得られた樹脂組成物Aを、シリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製、厚さ:38μm)に、厚さ100μmになるように塗工し、上から保護用の前記PETフィルムをかぶせ、紫外線照射装置(製品名:UVコンベアシステム、フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製)でUV光を露光して(照射条件:4J/cm2)、光硬化を行い、シート片を得た。反応を完結させるために、100℃の乾燥機で1時間保持した。
【0070】
〔実施例2〕
実施例1において、樹脂組成物Aの代わりに合成例2で得られた樹脂組成物Bを用いた以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0071】
〔比較例1〕
樹脂組成物としてビスフェノールA系のエポキシ樹脂(商品名:エポトート YD−011、東都化成(株)製)とアミン系硬化剤(商品名:セイカキュアーS、和歌山精化工業(株)製)を用いた以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0072】
〔比較例2〕
樹脂組成物として、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(商品名:BPDA、JFEケミカル(株)製)とビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン(商品名:m−BAPS、和歌山精化工業(株)製)由来のポリアミド酸を用い、硬化条件としてUV露光ではなく、250℃で1時間加熱して作成した。
【0073】
次に、アセトニトリルへの膨潤度、電解質溶液への耐性、電解質溶液の浸入の程度を以下の通り測定した。結果を表1に示す。
<アセトニトリルへの膨潤度>
作成した試料をアセトニトリル中に室温で1週間浸漬させたのち、取り出して試料に付着したアセトニトリルを拭い取って、浸漬前後の重量変化率から膨潤度を算出した。
<電解質溶液への耐性>
作成した試料を電解質溶液に室温で1週間浸漬させたのち、取り出して試料に付着した電解質溶液を拭い取り、ヨウ素浸入による着色度合、および2Hの鉛筆により軽く押した時に割れが発生するか、または硬さ(鉛筆硬度)に違いがあるかを調べた。
<電解質溶液の浸入の程度>
作成した試料を電解質溶液中に1週間浸漬させて取り出したときに、ヨウ素による着色が樹脂組成物内部にまで浸入しているか否かを目視観察した。また、ガラス板から樹脂組成物が剥がれるか否かも調べた。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示す通り、実施例の樹脂組成物は、電解質溶液に対して優れた耐性を示し、アセトニトリルへの膨潤度も極めて低かった。また、電解質溶液の浸入もないため、ヨウ素およびヨウ化物イオンの揮発、拡散を抑制し得るものであり、高い封止性能を有していた。これに対し、比較例の樹脂組成物は、電解質溶液に対する耐性が低く、アセトニトリルへの膨潤度が高く、電解質溶液の浸入によりガラス板が剥離し、封止性能が不十分であった。
【0076】
色素増感太陽電池
〔実施例3〕
市販の色素増感太陽電池作成キット(ペルセル・テクノロジーズ(株)製)を用い、作用極または対向極の一方の周囲を、合成例1で作成した樹脂組成物Aを用いて塗布後(幅2mm、厚み0.1mm)、電解質を介して作用極と対向極を対向させて封止を行い、色素増感太陽電池を作成した。また、比較用として市販の色素増感太陽電池作成キット(ペルセル・テクノロジーズ(株)製)を用いて、作成手順通りの、作用極と対向極がダブルクリップで固定された色素増感太陽電池を作成した。
次に、作成した4×5cmの太陽電池を2個連結して、付属のオルゴールが鳴るか否かを調べた。
作用極と対向極がダブルクリップで固定された太陽電池を用いたものは、1週間後にはオルゴールが鳴らなくなったが、樹脂組成物Aを用いたものは1ヶ月経過してもオルゴールが鳴っており、1ヶ月経過後も初期性能をほぼ保持し、耐久性の高い色素増感太陽電池が得られた。
〔比較例3〕
実施例3において、樹脂組成物Aを用いて封止を行う代わりに、アルミテープで封止を行う他は実施例3と同様にして色素増感太陽電池を作成した。本サンプルは、3日目にはヨウ素が揮発したためか、電解質溶液の色がほとんど消失し、電池特性も全く示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にシラノール基を有するアモルファス状のシリカ微粒子、
式(1)のトリアルコキシシラン、
式(2)のジアルコキシシラン、
式(3)の分子末端にアクリロイルオキシ基を含有するトリアルコキシシラン、
式(4)の脂環式多官能アクリレートおよび
結晶性のシリカ粒子を含有する、樹脂組成物。
【化1】

(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【化2】

(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【化3】

(式中、RはC1−6アルキル基を示す。)
【化4】

【請求項2】
アモルファス状のシリカ微粒子と式(1)〜(3)のアルコキシシランが反応してシリカ微粒子含有ポリシロキサンが形成される、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
アモルファス状のシリカ微粒子の平均粒子径が1〜100nmである、請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
シリカ微粒子含有ポリシロキサンと式(4)の脂環式多官能アクリレートが重合する、請求項2または3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
結晶性のシリカ粒子の平均粒子径が100〜1000nmである、請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
光硬化性である請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の樹脂組成物を含む封止剤。
【請求項8】
請求項7記載の封止剤を用いた色素増感太陽電池。
【請求項9】
封止剤により、電解質成分としてヨウ素およびヨウ化物イオンを含む電解質液が基板間に封入された、請求項8記載の色素増感太陽電池。
【請求項10】
表面にシラノール基を有するアモルファス状のシリカ微粒子、
式(1)のトリアルコキシシラン、
式(2)のジアルコキシシランおよび
式(3)の分子末端にアクリロイルオキシ基を含有するトリアルコキシシランを反応させて、シリカ微粒子含有ポリシロキサンを得る工程と、
該シリカ微粒子含有ポリシロキサン、式(4)の脂環式多官能アクリレートおよび結晶性のシリカ粒子を混合する工程を有する、樹脂組成物の製造方法。
【化5】

(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【化6】

(式中、RおよびRはC1−6アルキル基を示す。)
【化7】

(式中、RはC1−6アルキル基を示す。)
【化8】


【公開番号】特開2011−153237(P2011−153237A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15977(P2010−15977)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】