説明

樹脂組成物およびその製造方法

【課題】高い絶縁性を維持したまま、熱伝導性および弾性率がさらに向上した樹脂組成物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】導電性ナノフィラー(A)および2種以上の樹脂(B)を含有する樹脂組成物であり、
該樹脂組成物は、前記2種以上の樹脂(B)のうちの導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)により形成された連続相と、前記樹脂(Baff)以外の樹脂(B1)により形成された分散相とを備え、
前記分散相には前記導電性ナノフィラー(A)が存在し、
前記樹脂組成物全体に対する前記分散相の割合をX(単位:容量%)、および全導電性ナノフィラー(A)に対する前記分散相中に含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)の割合をY(単位:容量%)としたとき、Y/Xが1.0以上であることを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ナノフィラーを含有する樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン系ナノフィラーに代表される導電性ナノフィラーは、電気伝導性に加えて、熱伝導性、機械的特性などの各種特性に優れることから、これを樹脂に添加することにより、樹脂にこれらの特性を付与したり、向上させたりすることが検討されている。しかしながら、熱伝導性に優れた導電性ナノフィラーを添加した場合でも、電気伝導性については比較的容易に向上させることは可能であったが、熱伝導性を大幅に向上させることは容易ではなかった。
【0003】
そこで、熱伝導性を向上させた樹脂組成物として、特開2005−54094号公報(特許文献1)には、繊維状カーボンなどのカーボンを2種以上の樹脂混合物中に分散させてなる熱伝導性樹脂材料が提案されている。この樹脂材料においては、カーボンを1種の樹脂相のみに選択的に分散させてカーボンからなる熱伝導パスを形成することによって熱伝導性を高めているが、このような熱伝導パスは電気伝導パスとしても作用し、電気伝導性も向上する。このため、この樹脂材料は熱伝導性(放熱性)と絶縁性とが要求される用途には適用できなかった。
【0004】
また、特開2005−150362号公報(特許文献2)には、汎用樹脂にカーボンナノチューブなどの熱伝導性充填材を分散させた高熱伝導性シートが開示されており、さらに、シートの電気伝導性を抑え、電気的短絡を防止するためにアルミナなどの絶縁性高熱伝導フィラーを分散させることも開示されている。しかしながら、カーボンナノチューブを分散させた高熱伝導性シートにアルミナなどの絶縁性高熱伝導フィラーを分散させても、高度な絶縁性は達成されず、また、絶縁性を向上させるためにこれらの比重が大きい絶縁性高熱伝導フィラーを多量に配合すると、シートの比重が増大したり、成形加工性が低下する傾向にあった。
【0005】
そこで、本発明者らは、比重の増大や成形加工性の低下を抑制しながら、熱伝導性と絶縁性を高水準で兼ね備える樹脂組成物として、カーボン系ナノフィラーと変性ポリオレフィン系重合体と2種以上の樹脂とを含有する樹脂組成物を提案した(特開2010−100837号公報(特許文献3))。この樹脂組成物においては、変性ポリオレフィン系重合体を添加することによって、2種以上の樹脂のうちのカーボン系ナノフィラーとの親和性がより高い樹脂(例えば、ポリオレフィン系樹脂など)からなる分散相中にカーボン系ナノフィラーを偏在させることができ、熱伝導性と絶縁性をバランスよく向上させることが可能となった。
【0006】
しかしながら、自動車用などの電気・電子系樹脂部品の用途において、このような樹脂組成物を、例えば、超薄肉の成形体や形状が複雑な成形体といった多種多様な樹脂材料に幅広く用途展開するためには、比重の増大の抑制や良好な成形加工性、高い絶縁性を維持したまま、熱伝導性や弾性率をさらに向上させることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−54094号公報
【特許文献2】特開2005−150362号公報
【特許文献3】特開2010−100837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高い絶縁性を維持したまま、熱伝導性および弾性率がさらに向上した樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、導電性ナノフィラーと2種以上の樹脂とを含有する樹脂組成物において、導電性ナノフィラーとの親和性が最も高い樹脂(以下、「高親和性樹脂」ともいう)以外の樹脂と導電性ナノフィラーとを混合した後、この混合物と前記高親和性樹脂とを混合することによって、図1A〜図1D(図中の各相の成分は主成分を描いたものであり、本発明の樹脂組成物の各相中の成分はこれに限定されるものではない。)に示すような、前記高親和性樹脂により形成された連続相と前記高親和性樹脂以外の樹脂により形成され且つ導電性ナノフィラーを含む分散相とからなる相構造が形成されることを見出し、さらに、このような相構造によって、電気的短絡が防止されて高い絶縁性が維持されるとともに、熱伝導率および弾性率がさらに向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、
導電性ナノフィラー(A)および2種以上の樹脂(B)を含有する樹脂組成物であり、
該樹脂組成物は、前記2種以上の樹脂(B)のうちの導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)により形成された連続相と、前記樹脂(Baff)以外の樹脂(B1)により形成された分散相とを備え、
前記分散相には前記導電性ナノフィラー(A)が存在し、
前記樹脂組成物全体に対する前記分散相の割合をX(単位:容量%)、および全導電性ナノフィラー(A)に対する前記分散相中に含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)の割合をY(単位:容量%)としたとき、Y/Xが1.0以上であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の樹脂組成物としては、アルコキシシリル基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基、カルボキシル基、オキセタン基およびオキサゾリン基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物(C)を、さらに含有するものが好ましい。
【0012】
このような樹脂組成物において、Yは20容量%以上であることが好ましい。また、本発明の樹脂組成物としては、熱伝導率が0.3W/(mK)以上であり且つ体積抵抗率が1013Ω・cm以上であるものが好ましい。
【0013】
また、本発明の樹脂組成物の製造方法は、
導電性ナノフィラー(A)、2種以上の樹脂(B)、および官能基を有する化合物(C)を含有する樹脂組成物の製造方法であって、
前記導電性ナノフィラー(A)の少なくとも一部と、前記2種以上の樹脂(B)のうちの導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)以外の樹脂(B1)の少なくとも一部とを混合して前記導電性ナノフィラー(A)と前記樹脂(B1)との混合物を調製した後、
前記混合物と前記樹脂(Baff)とを混合することを特徴とする方法である。本発明の樹脂組成物の製造方法において、官能基を有する化合物(C)は、前記混合物の調製時に混合してもよいし、前記混合物と前記樹脂(Baff)とを混合する際に混合してもよい。
【0014】
なお、導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)(以下、「高親和性樹脂(Baff)」ともいう。)以外の樹脂(B1)(以下、「その他の樹脂(B1)」ともいう)と導電性ナノフィラー(A)とを混合した後、この混合物と高親和性樹脂(Baff)とを混合することによって、図1A〜図1Dに示すような導電性ナノフィラー(A)1を含む分散相3と連続相4とからなる相構造が形成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(B1)との混合物に高親和性樹脂(Baff)を混合して、その他の樹脂(B1)からなる分散相3と高親和性樹脂(Baff)からなる連続相4とを形成させると、導電性ナノフィラー(A)は、予め、その他の樹脂(B1)と混合されているため、高親和性樹脂(Baff)を混合した後の初期段階においては、その他の樹脂(B1)により形成された分散相3中に取り込まれている。このとき、系内には官能基含有化合物(C)が存在しており、この官能基含有化合物(C)は、分散相3や連続相4を形成する樹脂との親和性および/または反応性が高いため、分散相3と連続相4との界面に存在しやすく、好ましくは分散相3および/または連続相4を形成する樹脂と反応したり、官能基含有化合物(C)同士が反応したりすることによって、分散相3の殻のような役割を果たす界面層が形成されると推察される。そして、この界面層は、樹脂との親和性に起因して連続相4に移動しようとする分散相3中の導電性ナノフィラー(Adsp)1を分散相3中に閉じ込めることが可能であり、その結果、その他の樹脂(B1)により形成された分散相3に導電性ナノフィラー(A)1が偏在化した相構造が形成されると推察される。
【0015】
本発明において、「導電性ナノフィラー(A)との親和性が高い樹脂(Baff)」は、2種以上の樹脂(B)のうち、導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂である。前記樹脂(Baff)とは、例えば、2種以上の樹脂を同じ容量(単位:容量%)ずつ混合し、これらの樹脂を溶融または必要に応じて溶媒を用いて溶解させた後、導電性ナノフィラー(A)を混合した場合において、最も多くの量(単位:容量%)の導電性ナノフィラー(A)が含まれる樹脂をいう。このような樹脂(Baff)としては、2種以上の樹脂(B)のうち、導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂であれば、特に制限はないが、例えば、2種以上の樹脂(B)のうち、導電性ナノフィラー(A)との間の界面エネルギーがより小さい、屈曲性がより高い、結晶性が高い、電子吸引性がより大きな官能基を有する、導電性ナノフィラー(A)との間でπ−π相互作用、CH−π相互作用、π−カチオン相互作用といった相互作用を示す構造を有する、導電性ナノフィラー(A)がカルボキシル基などの官能基を有する場合には水素結合などの相互作用を有するなどといった特性のうちの少なくとも1つの特性を有する樹脂が好ましく、このような特性のうちの2つ以上の特性を有する樹脂がより好ましい。
【0016】
また、本発明の樹脂組成物が図1A〜図1Dに示すような相構造を形成することによって熱伝導性と絶縁性とを高水準で兼ね備えるものとなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の樹脂組成物において、導電性ナノフィラー(A)は、上述したように、殻のような役割を果たす官能基含有化合物(C)により形成された界面層によって分散相3中に閉じ込められていると推察される。このような分散相3中の導電性ナノフィラー(Adsp)1は、他の分散相中や連続相4中の導電性ナノフィラー(A)と接触しにくく、電気伝導パスを形成しにくい。また、官能基含有化合物(C)2も分散相3と連続相4との界面において電気伝導を遮断する役割を果たすものと推察される。従って、これらの結果として、本発明の樹脂組成物が高い絶縁性を示すものと推察される。また、分散相3中における導電性ナノフィラー(Adsp)1同士の接触により、導電性ナノフィラー(A)と樹脂との界面の面積が減少することから、熱伝導性が低下する要因の1つである導電性ナノフィラー(A)と樹脂との界面におけるフォノンの散乱を減少させることが可能になると推察される。さらに、前記官能基含有化合物(C)2は界面の熱抵抗を低減する役割も果たすため、樹脂組成物の熱伝導性が向上するものと推察される。一方、従来の樹脂組成物においては、図2に示すように、樹脂4中に導電性ナノフィラー(A)1が分散されており、導電性ナノフィラー(A)と樹脂4との界面の熱抵抗が比較的高いため、熱伝導性は十分に向上せず、さらに導電性ナノフィラー(A)1同士の接触により電気伝導パスが形成され、絶縁性が低下する。
【0017】
さらに、本発明の樹脂組成物において熱伝導性がさらに向上する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、前記その他の樹脂(B1)は、高親和性樹脂(Baff)に比べて、導電性ナノフィラー(A)との親和性が低いものであるため、前記その他の樹脂(B1)により形成された分散相3中の導電性ナノフィラー(Adsp)1は、高親和性樹脂(Baff)により形成された分散相中の導電性ナノフィラーに比べて、分散性が低下し、分散相3中での凝集性が増大する。その結果、分散相3中においては、導電性ナノフィラー(Adsp)1同士の直接的な接触が増加し、導電性ナノフィラー(A)と樹脂との界面の面積がさらに減少してフォノンの散乱をさらに抑制することができ、導電性ナノフィラー(A)間において、さらに効率的に熱を伝えることが可能になると推察される。また、高親和性樹脂(Baff)は、その他の樹脂(B1)と比較して、構造中に環構造を含んでいたり、結晶性を有していたりすることが多い。一般に、環構造を有する樹脂や結晶性の高い樹脂は、熱伝導率が高く、このような樹脂により連続相を形成させることによって、樹脂組成物の連続相での熱伝導におけるロスが小さくなり、樹脂組成物全体の熱伝導性が向上すると推察される。
【0018】
また、本発明の樹脂組成物が高い弾性率を有するものとなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の樹脂組成物においては、上述したように、前記その他の樹脂(B1)により形成された分散相3中の導電性ナノフィラー(Adsp)1の凝集性が増大し、導電性ナノフィラー(Adsp)とその他の樹脂(B1)との界面の面積が減少する。フィラーを含有する樹脂組成物における弾性率の低下は、フィラーと樹脂との界面の存在に起因するものであるから、本発明の樹脂組成物においては、上記のように、導電性ナノフィラー(Adsp)とその他の樹脂(B1)との界面の面積が減少することによって、弾性率が増大したものと推察される。さらに、環構造を有する樹脂や結晶性の高い樹脂は、弾性率が高くなる傾向にある。上述したように、本発明の樹脂組成物においては、高親和性樹脂(Baff)が環構造を有する樹脂や結晶性の高い樹脂であることが多く、このような樹脂により連続相を形成させることによって、樹脂組成物全体の弾性率が向上するものと推察される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高熱伝導フィラーなどの充填材を使用せずに、あるいはその使用量を低減した場合でも、高い絶縁性を維持したまま、熱伝導性および弾性率がさらに向上した樹脂組成物を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】導電性ナノフィラーを含有する本発明の樹脂組成物の一実施態様を示す模式図である。
【図1B】導電性ナノフィラーを含有する本発明の樹脂組成物の他の実施態様を示す模式図である。
【図1C】導電性ナノフィラーを含有する本発明の樹脂組成物の他の実施態様を示す模式図である。
【図1D】導電性ナノフィラーを含有する本発明の樹脂組成物の他の実施態様を示す模式図である。
【図2】導電性ナノフィラーを含有する従来の樹脂組成物の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
先ず、本発明の樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物は、導電性ナノフィラー(A)および2種以上の樹脂(B)を含有するものである。この樹脂組成物においては、前記2種以上の樹脂(B)のうちの導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)により連続相が形成され、前記樹脂(Baff)以外の樹脂(B1)により分散相が形成されている。また、前記分散相内には前記導電性ナノフィラー(A)が存在している。さらに、本発明の樹脂組成物においては、官能基を有する化合物(C)が含まれていることが好ましい。
【0023】
先ず、本発明に用いられる導電性ナノフィラー(A)、2種以上の樹脂(B)および官能基を有する化合物(C)について説明する。
【0024】
(A)導電性ナノフィラー
本発明に用いられる導電性ナノフィラー(A)としては特に制限はないが、例えば、カーボン系ナノフィラー、金属系ナノフィラー、および金属や導電性高分子などで被覆されたナノフィラーなどが好ましい。これらの導電性ナノフィラーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このような導電性ナノフィラーのうち、熱伝導性および機械強度の向上という観点から、異方性導電性ナノフィラーが好ましく、異方性カーボン系ナノフィラーおよび異方性金属系ナノフィラーがより好ましく、異方性カーボン系ナノフィラーが特に好ましい。
【0025】
前記カーボン系ナノフィラーとしては、特に制限はなく、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンマイクロコイル、カーボンナノウォール、カーボンナノチャプレット、フラーレン、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノフレーク、およびこれらの誘導体などが挙げられる。これらのカーボン系ナノフィラーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このようなカーボン系ナノフィラーのうち、熱伝導性および機械強度の向上の観点から、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイル、カーボンナノコイル、カーボンナノウォール、カーボンナノチャプレット、グラファイトおよびグラフェンなどの異方性カーボン系ナノフィラーがより好ましく、熱伝導性の向上の観点から、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノウォールおよびカーボンナノチャプレットがさらに好ましく、カーボンナノファーバーおよびカーボンナノチューブが特に好ましく、カーボンナノチューブが最も好ましい。
【0026】
このようなカーボン系ナノフィラーの形状としては、1本の幹状でも多数のカーボン系ナノフィラーが枝のように外方に成長している樹枝状であってもよいが、熱伝導性、機械強度などの向上の観点から、1本の幹状であることが好ましい。また、前記カーボン系ナノフィラーには炭素以外の原子、分子などが含まれていてもよく、必要に応じて金属や他のナノ構造体を内包させてもよい。
【0027】
本発明においては、カーボン系ナノフィラーについてラマン分光光度計で測定して得られるラマンスペクトルのピークのうち、グラフェン構造での炭素原子のずれ振動に起因する約1585cm−1付近に観察されるGバンドと、グラフェン構造にダングリングボンドのような欠陥があると観測される約1350cm−1付近に観察されるDバンドの比(G/D)としては特に制限はないが、高熱伝導樹脂材料など高熱伝導性が要求される用途においては、0.1以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましく、5.0以上が特に好ましく、10.0以上が最も好ましい。G/Dが前記下限未満になると熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0028】
前記異方性カーボン系ナノフィラーのアスペクト比としては特に制限はないが、樹脂と混合した場合に、少量の添加で樹脂組成物の引張強度、衝撃強度などの機械強度、熱伝導性が向上するという観点から、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましくは、40以上が特に好ましく、80以上が最も好ましい。
【0029】
また、導電性ナノフィラー(A)としてカーボンナノチューブおよび/またはカーボンナノファイバーを使用する場合、これらは単層、多層(2層以上)のいずれのものも用いることができ、用途に応じて使い分けたり、併用したりすることができる。
【0030】
このようなカーボン系ナノフィラーは、レーザーアブレーション法、アーク合成法、HiPcoプロセスなどの化学気相成長法(CVD法)、溶融紡糸法などの従来公知の製造方法を用途に応じて適宜選択することにより製造できるが、これらの方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0031】
本発明に用いられる金属系ナノフィラーとしては、金属フィラー、ならびに金属酸化物および金属水酸化物などの金属化合物のフィラーが挙げられる。このような金属系ナノフィラーを構成する金属としては特に制限はないが、例えば、銀、銅、金、黄銅、アルミニウム、鉄、白金、スズ、マグネシウム、モリブデン、ロジウム、亜鉛、パラジウム、タングステン、クロム、コバルト、ニッケル、チタン、金属ケイ素、およびこれらの合金などが好ましい。これらの金属のうち、成形加工性の向上の観点からは、低融点金属(例えば、Sn)、低融点金属化合物(例えば、SnO)、スズ系合金(例えば、Sn/Ag、Sn/Cu、Sn/Zn、Sn/Bi、Pb/Sn、Pb/Sn/Bi、Pb/Sn/Ag)およびPb/Agといった低融点合金などが好ましい。また、熱伝導性の向上の観点からは、銀、銅、金、黄銅、アルミニウム、鉄、白金、スズ、およびこれらの合金や酸化物などが好ましい。さらに、このような金属は、熱伝導性に加えて、各金属特有の機能(例えば、銀の場合は抗菌作用など)を樹脂組成物に付与することができる。
【0032】
このような金属系ナノフィラーの形状としては特に制限はなく、例えば、粒状、平板状、ロッド状、繊維状、チューブ状などが挙げられ、中でも、熱伝導性の向上の観点から、平板状、ロッド状、繊維状、チューブ状といった異方性形状が好ましい。
【0033】
また、本発明に用いられる金属や導電性高分子などで被覆されたナノフィラーとしては特に制限はなく、例えば、銀、銅、金などの金属により被覆されたガラスビーズ、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェンまたはポリフェニレンビニレンなどの導電性高分子により被覆されたガラスビーズなどが挙げられる。
【0034】
また、本発明においては、導電性ナノフィラー(A)として、前記カーボン系ナノフィラーや金属系ナノフィラーなどの導電性ナノフィラーの構造中にカルボキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキル基、有機シリル基などの置換基、ポリ(メタ)アクリル酸エステルなどの高分子、前記導電性高分子などが化学結合により導入されたものや、前記導電性ナノフィラーを他の導電性材料で被覆したものを用いることができる。
【0035】
本発明に用いられる導電性ナノフィラー(A)の平均直径としては特に制限はないが、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましく、100nm以下が最も好ましい。導電性ナノフィラー(A)の平均直径が前記上限を超えると、導電性ナノフィラー(A)を樹脂に添加しても少量の添加では十分に熱伝導性が向上しなかったり、曲げ弾性率などの機械強度が十分に発現しない傾向にある。なお、導電性ナノフィラー(A)の平均直径の下限値としては特に制限はないが、0.4nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物において、導電性ナノフィラー(A)の含有量の下限としては特に制限はないが、樹脂組成物100容量%(以下、「樹脂組成物全体」という)に対して0.05容量%以上が好ましく、0.1容量%以上がより好ましく、0.3容量%以上がさらに好ましく、0.5容量%以上が特に好ましく、1.0容量%以上が最も好ましい。導電性ナノフィラー(A)の含有量が前記下限未満になると熱伝導性および機械強度が低下する傾向にある。また、導電性ナノフィラー(A)の含有量の上限としては絶縁性を維持できる限り特に制限はないが、樹脂組成物全体に対して50容量%以下が好ましく、25容量%以下がより好ましく、20容量%以下がさらに好ましく、10容量%以下が特に好ましく、5容量%以下が最も好ましい。導電性ナノフィラー(A)の含有量が前記上限を超えると、得られる樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向にある。
【0037】
本発明の樹脂組成物においては、このような導電性ナノフィラー(A)は、通常、前記分散相に局在化して存在しているが、一部は連続相に存在していてもよい。
【0038】
(B)樹脂
本発明においては、樹脂を2種以上(好ましくは2種)使用する。このような樹脂(B)としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性イミド樹脂、熱硬化性ポリアミドイミド、熱硬化性シリコーン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂、およびジアリルフタレート樹脂などの熱硬化性樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリ(α−メチルスチレン)、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリ(クロロメチル)スチレン、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン樹脂などの芳香族ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸、およびこれらの共重合体などのアクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−アクリル酸メチル樹脂およびアクリロニトリル−ブタジエン樹脂といったシアン化ビニル系樹脂、イミド環含有ビニル系重合体、ポリオレフィン系樹脂、酸無水物変性アクリル系エラストマー、エポキシ変性アクリル系エラストマー、シリコーン樹脂、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリ1,4−シクロヘキサンジメチルテレフタレートといったポリエステル系樹脂、ポリアリレート、液晶ポリエステル、ポリアリーレンエーテル、ポリフェニレンスルフィドなどのポリアリーレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリオキシメチレン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンおよびポリフッ化ビニルに代表されるフッ素樹脂、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルアミド、多環芳香族基含有重合体などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0039】
本発明の樹脂組成物においては、このような2種以上の樹脂(B)のうち、前記導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)(すなわち、高親和性樹脂(Baff))の一部または全部により連続相が形成され、前記高親和性樹脂(Baff)以外の樹脂(B1)(すなわち、その他の樹脂(B1))の一部または全部により分散相が形成される。このような分散相と連続相を備える樹脂組成物は、絶縁性が高く、しかも、従来の樹脂組成物(例えば、特開2010−100837号公報に記載の樹脂組成物)に比べて熱伝導性が向上したものとなる。本発明において、前記高親和性樹脂(Baff)と前記その他の樹脂(B1)との組み合わせは、使用する2種以上の樹脂(B)と導電性ナノフィラー(A)との親和性によって決まるものである。
【0040】
本発明に用いられるポリオレフィン系樹脂は直鎖状、分岐状のいずれのものでもよい。また、前記ポリオレフィン系樹脂としては特に制限はないが、オレフィン系モノマーの単独重合体および共重合体などが挙げられる。前記オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−2−ブテン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンといったモノオレフィン系モノマー;1,2-プロパジエン、メチルアレン、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、ジシクロペンタジエン、クロロプレン、1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、およびこれらのハロゲン化物といったジエン系モノマーなどが挙げられる。これらのオレフィン系モノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0041】
このようなオレフィン系モノマーの共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−5−ビニル−2−ノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン−1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン−プロピレン−1,4−シクロヘキサジエン共重合体、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック共重合体(SEP)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)−ポリスチレンブロック共重合体(SEPS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ポリスチレンブロック共重合体(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)−ポリスチレンブロック共重合体(SEEPS)、およびエチレン−1−オクテン共重合体といったエチレン系共重合体;プロピレン−1−ブテン−4−メチル−1−ペンテン共重合体およびプロピレン−1−ブテン共重合体といったプロピレン系共重合体;スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、(メタ)アクリル酸メチル−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(MABS)樹脂、1−ヘキセン−4−メチル−1−ペンテン共重合体および4−メチル−1−ペンテン−1−オクテン共重合体などが挙げられる。また、前記ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン系樹脂を使用する場合、このポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクティック、アタクティック、シンジオタクティックなどいずれのポリプロピレン系樹脂も使用することができる。
【0042】
本発明に用いられるポリアリーレンスルフィドとしては従来公知のものを用いることができ、例えば、直鎖状ポリアリーレンスルフィド、架橋ポリアリーレンスルフィドおよびこれらの混合物のいずれも用いることができる。このようなポリアリーレンスルフィドのうち、p−フェニレンスルフィド単独重合体およびm−フェニレンスルフィド(共)重合体が好ましい。
【0043】
本発明に用いられるポリアミドとしては、アミノ酸、ラクタムおよびジアミンのうちの少なくとも1種と、ジカルボン酸とを主たる原料として得られるホモポリマーおよびコポリマーが挙げられる。このようなポリアミドは公知の重縮合反応により得ることができる。
【0044】
前記アミノ酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸および12−アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸が挙げられ、前記ラクタムとしては、ε−カプロラクタムおよびω−ラウロラクタムなどが挙げられ、前記ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族または芳香族のジアミンが挙げられる。
【0045】
前記ジカルボン酸としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族または芳香族のジカルボン酸が挙げられる。
【0046】
このようなポリアミドの具体例としては、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン69)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ナイロン9T、ナイロンMXD6、ナイロン6/66コポリマー、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマー(ナイロン6/610コポリマー)、ナイロン6/6Tコポリマー、ナイロン6/66/610コポリマー、ナイロン6/12コポリマー、ナイロン6T/12コポリマー、ナイロン6T/66コポリマー、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6Iコポリマー)、ナイロン66/6I/6コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/6I/66コポリマー、ナイロン6/66/610/12コポリマー、ナイロン6T/M−5Tコポリマーなどが挙げられる。中でも、得られる樹脂組成物の熱伝導性と耐熱性が高くなるという観点から、ポリアミドとしては、芳香族基を有するポリアミドが好ましく、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンMXD6、ナイロン6/6Tコポリマー、ナイロン6T/12コポリマー、ナイロン6T/66コポリマー、ナイロン6/6Iコポリマー、ナイロン66/6I/6コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/6I/66コポリマー、ナイロン6T/M5−Tコポリマーがより好ましい。
【0047】
本発明に用いられるイミド環含有ビニル系重合体としては、イミド環含有構成単位のみからなるものでもよいし、イミド環含有構成単位とその他のビニル系モノマー単位を含むものでもよい。
【0048】
前記イミド環含有構成単位としては、下記式(I):
【0049】
【化1】

【0050】
(式(I)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、Rは水素原子、またはアルキル基、アルキニル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基などの1価の有機基を表す)
で表されるマレイミド系モノマー単位、下記式(II):
【0051】
【化2】

【0052】
(式(II)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、Rは水素原子、またはアルキル基、アルキニル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基などの1価の有機基を表す)
で表されるグルタルイミド基含有構成単位などが挙げられる。
【0053】
これらのイミド環含有構成単位は、前記イミド環含有ビニル系重合体中に1種が単独で含まれていても2種以上が含まれていてもよい。また、これらのイミド環含有構成単位のうち、得られる樹脂組成物の耐熱性が向上するという観点から、マレイミド系モノマー単位が好ましく、N−アリールマレイミドモノマー単位およびN−アルキル置換アリールマレイミドモノマー単位のうちの少なくとも1種が特に好ましい。
【0054】
前記イミド環含有ビニル系重合体を前記高親和性樹脂(Baff)として使用する場合において、前記イミド環含有ビニル系重合体におけるイミド環含有構成単位の含有率としては特に制限はないが、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。イミド環含有構成単位の含有率が前記下限未満になると、得られる樹脂組成物の耐熱性が低下する傾向にある。
【0055】
一方、前記イミド環含有ビニル系重合体をその他の樹脂(B1)として使用する場合において、前記イミド環含有ビニル系重合体におけるイミド環含有構成単位の含有率としては、導電性ナノフィラー(A)との親和性が高親和性樹脂(Baff)として使用する樹脂に比べて低くなる限り、特に制限はないが、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下が特に好ましい。また、前記イミド環含有構成単位の含有率の下限値としては特に制限はないが、得られる樹脂組成物の熱伝導性および耐熱性が向上するという観点から、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が特に好ましい。
【0056】
また、前記その他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる他のビニル系モノマーとしては、ポリアルキレンオキシド基含有ビニル系モノマー、ポリスチレン含有ビニル系モノマーおよびポリシロキサン含有ビニル系モノマーといったビニル系マクロモノマー、多環芳香族基含有ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸エステルモノマー、シアン化ビニル系モノマー、芳香族ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸モノマー、その酸無水物およびその誘導体、エポキシ基含有ビニル系モノマー、オキサゾリン基含有ビニル系モノマー、アミノ基含有ビニル系モノマー、アミド基含有ビニル系モノマー、ヒドロキシル基含有ビニル系モノマー、シロキサン構造含有ビニル系モノマー、シリル基含有ビニル系モノマーおよびオキセタニル基含有ビニル系モノマーなどが挙げられる。これらのビニル系モノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0057】
また、前記その他のビニル系モノマー以外にも、例えば、オレフィン系モノマー、ハロゲン化ビニル系モノマー、カルボン酸不飽和エステルモノマー、ビニルエーテルモノマー、カチオン性ビニル系モノマー、アニオン性ビニル系モノマー、双性イオンモノマーといったビニル系モノマーなどを用いることもできる。これらのモノマーも1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0058】
前記2種以上の樹脂(B)として例示した樹脂のうち、前記高親和性樹脂(Baff)として好適に使用される樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアリーレンスルフィド、ポリエステル系樹脂および窒素原子を含有する樹脂が挙げられ、中でも、導電性ナノフィラー(A)との親和性が高いという観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアリーレンスルフィド、ポリアミド、イミド環含有ビニル系重合体、ポリイミド、ポリエーテルイミドおよびポリアミドイミドが好ましく、ポリオレフィン系樹脂、ポリアリーレンスルフィドおよびポリアミドがより好ましく、得られる樹脂組成物の耐熱性の向上の観点から、ポリアリーレンスルフィドおよびポリアミドが特に好ましい。
【0059】
本発明の樹脂組成物において、導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)の含有量の下限としては特に制限はないが、樹脂組成物全体に対して25容量%以上が好ましく、30容量%以上がより好ましく、40容量%以上がさらに好ましく、50容量%以上が特に好ましく、60容量%以上が最も好ましい。また、前記高親和性樹脂(Baff)の含有量の上限としては、98容量%以下が好ましく、96容量%以下がより好ましく、94容量%以下がさらに好ましく、90容量%以下が特に好ましく、85容量%以下が最も好ましい。前記高親和性樹脂(Baff)の含有量が前記下限未満になると、高親和性樹脂(Baff)による連続相が形成されにくく、絶縁性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱伝導性が低下する傾向にある。
【0060】
本発明に用いられる2種以上の樹脂(B)のうち、前記高親和性樹脂(Baff)以外のその他の樹脂(B1)としては特に制限はなく、前記樹脂(B)として例示したもののうち、前記高親和性樹脂(Baff)として使用したもの以外の樹脂を好適に使用することができるが、得られる樹脂組成物の熱伝導性が向上するという観点から、例えば、芳香族ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、およびイミド環含有ビニル系重合体などが好ましい。
【0061】
本発明の樹脂組成物において、前記その他の樹脂(B1)の含有量は特に制限はないが、その下限値としては、樹脂組成物全体に対して1容量%以上が好ましく、3容量%以上がより好ましく、5容量%以上がさらに好ましく、10容量%以上が特に好ましく、14容量%以上が最も好ましい。前記その他の樹脂(B1)の含有量が前記下限未満になると、熱伝導性および絶縁性が十分に向上しにくい傾向にある。また、前記その他の樹脂(B1)の含有量の上限値としては、前記その他の樹脂(B1)により分散相が形成される限り特に制限はないが、70容量%以下が好ましく、60容量%以下がより好ましく、50容量%以下がさらに好ましく、40容量%以下が特に好ましく、30容量%以下が最も好ましい。前記その他の樹脂(B1)の含有量が前記上限を超えると、その他の樹脂(B1)による分散相が形成されにくくなり、絶縁性が低下する傾向にある。
【0062】
(C)官能基を有する化合物
本発明に用いられる官能基を有する化合物(以下、「官能基含有化合物(C)」という)は、前記高親和性樹脂(Baff)および前記その他の樹脂(B1)のうちの少なくとも1種との親和性および/または反応性を有するものであり、中でも、前記高親和性樹脂(Baff)および前記その他の樹脂(B1)のうちの少なくとも1種との反応性を有するものが好ましい。このような官能基含有化合物(C)を用いることによって導電性ナノフィラー(A)は前記その他の樹脂(B1)により形成された分散相に局在化する。なお、本発明においては、この官能基含有化合物(C)が前記高親和性樹脂(Baff)および前記その他の樹脂(B1)のうちの少なくとも1種と反応している場合には、その反応生成物も本発明にかかる官能基含有化合物(C)に含まれるものとする。
【0063】
本発明の樹脂組成物においては、前記官能基含有化合物(C)(その反応生成物を含む)は、その少なくとも一部が分散相と連続相との界面に存在していることが好ましい。これにより、官能基含有化合物(C)は分散相の殻として作用し、分散相中に導電性ナノフィラー(A)を安定して局在化させることが可能となる。また、分散相中の導電性ナノフィラー(A)の少なくとも一部分が分散相外に露出して連続相中の導電性ナノフィラー(A)と接触して電気伝導パスが形成されるのを防ぐことができる。さらに、前記界面の熱抵抗が低減され、樹脂組成物の熱伝導性が向上するとともに、前記界面の絶縁性も向上する傾向にある。
【0064】
このような官能基含有化合物(C)としては、その他の樹脂(B1)との親和性および/または反応性が高いという観点から、アルコキシシリル基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、オキセタン基およびオキサゾリン基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物が好ましい。
【0065】
このような官能基含有化合物(C)の具体例としては、
3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシランといったエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;
N−ジグリシジル−N,N−ビス(3−(メチルジメトキシシリル)プロピル)アミン、N−ジグリシジル−N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アミンといったエポキシ基とアルコキシシリル基を含有するアミン化合物;
イソシアン酸3−(トリメトキシシリル)プロピル、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピルといったアルコキシシリル基含有イソシアン酸エステル化合物;
1,3,5−N−トリス(3−トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートといったアルコキシシリル基含有イソシアヌレート化合物;
3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリエトキシシランといったアミノ基含有アルコキシシラン化合物;
ビニルトリエトキシシランといったアルコキシシリル基含有ビニル化合物;
クロロシラン、ブロモシランといったハロシランやポリハロシラン;
N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アミン、N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)エチレンジアミン、N,N−ビス((メチルジメトキシシリル)プロピル)アミン、N,N−ビス(3−(メチルジメトキシリル)プロピル)エチレンジアミンといった複数のアルコキシシリル基を含有するアミン化合物;
N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)メタクリルアミド、N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アクリルアミド、N,N−ビス((メチルジメトキシシリル)プロピル)メタクリルアミドといったアルコキシシリル基含有アミド化合物;
ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルファン、ビス(トリエトキシシリルエチルトリレン)ポリスルファンといったアルコキシシリル基含有ポリスルファン;
ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルといったビスフェノールA型エポキシ化合物;
ビスフェノールF−ジグリシジルエーテルといったビスフェノールF型エポキシ化合物;
ビスフェノールAD−ジグリシジルエーテルといったビスフェノールAD型エポキシ化合物;
フタル酸グリシジルエステルといったグリシジルエステル系エポキシ化合物;
N−グリシジルアニリンといったグリシジルアミン系エポキシ化合物
などが挙げられる。
【0066】
また、メチルメトキシシリコーンオリゴマー、ジメトキシシリコーンオリゴマーといったシリコーンオリゴマー;
アルコキシシリル基含有ポリエチレン、アルコキシシリル基含有ポリプロピレンといったアルコキシシリル基含有ポリオレフィン;
シラノール基変性ポリエチレン、シラノール基変性ポリプロピレン、シラノール基変性エチレン−プロピレン共重合体、シラノール基変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合体といったシラノール基変性ポリオレフィン;
フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂といったノボラック型エポキシ樹脂;
エポキシ基含有ポリエチレン、エポキシ基含有ポリプロピレンといったエポキシ基含有ポリオレフィン;
エポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−N−フェニルマレイミド−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン−N−フェニルマレイミド−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体など)、エポキシ基含有芳香族ビニル系ポリマー(例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン−N−フェニルマレイミド−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体など)、エポキシ基含有アクリルエラストマーといったエポキシ基含有ビニル系ポリマー;
カルボキシル基含有(メタ)アクリル系ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−N−フェニルマレイミド−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン−N−フェニルマレイミド−(メタ)アクリル酸共重合体など)、カルボキシル基含有芳香族ビニル系ポリマー(例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−N−フェニルマレイミド−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド−(メタ)アクリル酸共重合体など)、カルボキシル基含有アクリルエラストマーといったカルボキシル基含有ビニル系ポリマー;
酸無水物基含有(メタ)アクリル系ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸メチル−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−N−フェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン−N−フェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体など)、酸無水物基含有芳香族ビニル系ポリマー(例えば、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−N−フェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体など)、酸無水物基含有アクリルエラストマーといった酸無水物基含有ビニル系ポリマー;
アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル系ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル共重合体など)、アルコキシシリル基含有芳香族ビニル系ポリマー(例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル共重合体など)といったアルコキシシリル基含有ビニル系ポリマー;
アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸2−アミノエチル共重合体など)、アミノ基含有芳香族ビニル系ポリマー(例えば、スチレン−2−アミノエチル共重合体など)といったアミノ基含有ビニル系ポリマー;
オキセタン基含有(メタ)アクリル系ポリマー、オキセタン基含有芳香族ビニル系ポリマーといったオキセタン基含有ビニル系ポリマー;
オキサゾリン基含有(メタ)アクリル系ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸メチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体など)、オキサゾリン基含有芳香族ビニル系ポリマー(例えば、スチレン−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体など)といったオキサゾリン基含有ビニル系ポリマー
なども本発明にかかる官能基含有化合物(C)として使用することができる。
【0067】
さらに、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、サリチルアルコール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリメトキシシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリエトキシシランなども本発明にかかる官能基含有化合物(C)として使用することができる。
【0068】
このような官能基含有化合物(C)は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。本発明においては、分散相と連続相との界面が強化され、導電性ナノフィラー(A)が分散相中に高度に偏在化(局在化)した相構造が形成され、得られる樹脂組成物の熱伝導性および絶縁性が向上するという観点から、官能基含有化合物(C)としては、アルコキシシリル基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、オキセタン基およびオキサゾリン基からなる群から選択される1種または2種以上の官能基を有する化合物が好ましく、アルコキシシリル基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基およびカルボキシル基からなる群から選択される1種または2種以上の官能基を有する化合物がより好ましい。
【0069】
本発明の樹脂組成物において、官能基含有化合物(C)の含有量としては特に制限はないが、樹脂組成物全体に対して0.01容量%以上が好ましく、0.05容量%以上がより好ましく、0.1容量%以上がさらに好ましく、0.2容量%以上が特に好ましく、また、60容量%以下が好ましく、50容量%以下がより好ましく、40容量%以下がさらに好ましく、20容量%以下が特に好ましい。官能基含有化合物(C)の含有量が前記下限未満になると、絶縁性が十分に確保されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向にある。
【0070】
(D)充填材
本発明の樹脂組成物においては、必要に応じて充填材(D)を含有させてもよい。これにより、得られる樹脂組成物の強度、耐熱性、熱伝導性などをさらに向上させることができる。このような充填材(D)は繊維状のものであっても粒状などの非繊維状のものであってもよい。その具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、セルロース繊維、アスベスト、チタン酸カリウムウィスカ、ワラステナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、モンモリロナイトに代表される粘土鉱物、マイカ(雲母)鉱物およびカオリン鉱物に代表される層状ケイ酸塩、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウムおよびドロマイトなどが挙げられる。本発明の樹脂組成物における充填材の含有率としては、充填材の種類によって異なるため一概に規定はできないが、例えば、樹脂組成物全体に対して0.05容量%以上が好ましく、0.1容量%以上がより好ましく、1容量%以上がさらに好ましく、また、90容量%以下が好ましく、80容量%以下がより好ましく、70容量%以下がさらに好ましく、60容量%以下が特に好ましい。
【0071】
また、本発明の樹脂組成物には、充填材(D)として熱伝導性フィラーを含有させることもできる。このような熱伝導性フィラーとしては特に制限はないが、例えば、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、結晶性シリカ、溶融シリカ、ダイヤモンド、酸化亜鉛などが挙げられる。これらの形状としては特に制限はなく、例えば、粒状、平板状、ロッド状、繊維状、チューブ状などが挙げられる。これらの熱伝導性フィラーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。この熱伝導性フィラーの熱伝導率としては特に制限はないが、0.5W/(mK)以上が好ましく、1W/(mK)以上がより好ましく、5W/(mK)以上がさらに好ましく、10W/(mK)以上が特に好ましい。
【0072】
本発明の樹脂組成物における熱伝導性フィラーの含有率は特に制限されないが、樹脂組成物全体に対して、0.1容量%以上が好ましく、また、90容量%以下が好ましく、80容量%以下がより好ましく、70容量%以下がさらに好ましく、50容量%以下が特に好ましく、40容量%以下が最も好ましい。熱伝導性フィラーの含有率が前記下限未満になると得られる成形体の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると樹脂組成物の比重が増大し、流動性が低下しやすい傾向にある。
【0073】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物には、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェンおよびポリフェニレンビニレンといった導電性ポリマーなどの導電性物質、および前記導電性物質で被覆されたフィラーなどを含有させることもできる。このような導電性物質および導電性物質で被覆されたフィラーの添加量としては特に制限はないが、絶縁性(体積抵抗率が好ましくは1013Ω・cm以上)を維持できる範囲内であることが好ましい。また、前記導電性物質および前記導電性物質で被覆されたフィラーの分散状態としては特に制限はないが、絶縁性を維持したまま、これらの添加による効果を得るという観点からは、これらの少なくとも一部がその他の樹脂(B1)により形成された分散相中に含まれていることが好ましく、これらの添加量の半分以上がその他の樹脂(B1)により形成された分散相中に含まれていることがより好ましい。
【0074】
また、本発明の樹脂組成物には、その他の成分、例えば、塩化銅、ヨウ化第I銅、酢酸銅、ステアリン酸セリウムなどの金属塩安定剤、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系、アクリレート系、リン系有機化合物などの酸化防止剤や耐熱安定剤、ベンゾフェノン系、サリチレート系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤や耐候剤、光安定剤、離型剤、滑剤、結晶核剤、粘度調節剤、着色剤、シランカップリング剤などの表面処理剤、顔料、蛍光顔料、染料、蛍光染料、着色防止剤、可塑剤、難燃剤(赤燐、金属水酸化物系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、およびこれらのハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせなど)、木材粉、もみがら粉、くるみ粉、古紙、蓄光顔料、ホウ酸ガラスや銀系抗菌剤などの抗菌剤や抗カビ剤、マグネシウム−アルミニウムヒドロキシハイドレートに代表されるハイドロタルサイトなどの金型腐食防止剤を添加することができる。
【0075】
<樹脂組成物およびその製造方法>
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の樹脂組成物の製造方法としては、例えば、導電性ナノフィラー(A)、前記導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)、その他の樹脂(B1)、官能基含有化合物(C)、および必要に応じて、充填材(D)、その他の添加剤を混合した後、押出機などを用いた溶融混練により混合する方法;バンバリーミキサーやゴムロール機を用いた溶融混練により混合する方法などが挙げられる。前記押出機としては、十分な混練能力のあるものであれば特に制限はなく、一軸または多軸のベントを有するものなどが挙げられる。また、前記各成分の形状は特に制限はなく、ペレット状、粉末状、細片状などいずれの形状のものを使用してもよい。
【0076】
本発明の樹脂組成物の製造方法においては、導電性ナノフィラー(A)の少なくとも一部(好ましくは全部)とその他の樹脂(B1)の少なくとも一部(好ましくは全部)とを予め混合した後、得られた混合物と残りの成分(高親和性樹脂(Baff)、官能基含有化合物(C)、および必要に応じて充填材(D)やその他の添加剤)を混合したり、あるいは、導電性ナノフィラー(A)の少なくとも一部(好ましくは全部)とその他の樹脂(B1)の少なくとも一部(好ましくは全部)と官能基含有化合物(C)少なくとも一部(好ましくは全部)とを予め混合した後、得られた混合物と残りの成分(高親和性樹脂(Baff)、および必要に応じて充填材(D)やその他の添加剤)を混合したりする。これにより、本発明にかかる相構造が形成され、高い絶縁性を維持したまま、熱伝導性および弾性率が向上した樹脂組成物を得ることができる。
【0077】
これらの製造方法においては、導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(B1)と(後者の場合にはさらに官能基含有化合物(C)と)を予め押出機などを用いて溶融混練などにより混合した後、残りの成分を加えて溶融混練などにより混合してもよいし、導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(B1)と(後者の場合にはさらに官能基含有化合物(C)と)を予め1つまたは複数のサイドフィーダーを備える押出機の上流のホッパーから投入して溶融混練し、次いで残りの成分の各々を1つまたは複数のサイドフィーダーから投入して溶融混練を行ってもよい。
【0078】
また、導電性ナノフィラー(A)の少なくとも一部(好ましくは全部)とその他の樹脂(B1)の少なくとも一部(好ましくは全部)と、必要に応じて官能基含有化合物(C)の少なくとも一部(好ましくは全部)とを予め混合する場合には、溶媒中でこれらを混合することが好ましい。この場合、溶媒中で混合した後、溶媒を含んだ混合物を押出機などの溶融混練装置に投入して残りの成分と混合してもよいが、溶媒を含んだ混合物から溶媒を留去したり、あるいは溶媒を含んだ混合物を貧溶媒に投入して再沈殿させた後、得られた固形分を乾燥し、これを残りの成分と混合することが好ましい。
【0079】
さらに、前記残りの成分のうち、充填材(D)やその他の添加剤については、機械的特性や熱伝導性の向上の観点から、高親和性樹脂(Baff)を投入する投入口より下流のサイドフィーダーから投入することも好ましく、また、別途、単軸押出機や混練能力の弱いスクリューアレンジメントに設定した二軸押出機を用いて最後に添加することも好ましい。
【0080】
<相構造>
このようにして調製された本発明の樹脂組成物は、上述したように、前記その他の樹脂(B1)により形成された分散相と高親和性樹脂(Baff)により形成された連続相を備えており、前記分散相に導電性ナノフィラー(A)が存在するものであり、前記分散相と前記連続相との界面に官能基含有化合物(C)の少なくとも一部が存在していることが好ましい。これにより熱伝導性および絶縁性が向上する傾向にある。なお、本発明の樹脂組成物において分散相とは、前記その他の樹脂(B1)が前記高親和性樹脂(Baff)に取り囲まれた部分を意味する。
【0081】
このような相構造を備える本発明の樹脂組成物の熱伝導率としては特に制限はないが、0.3W/(mK)以上が好ましく、0.35W/(mK)以上がより好ましく、0.40W/(mK)以上が特に好ましく、0.45W/(mK)以上が最も好ましい。また、体積抵抗率としては特に制限はないが、1013Ω・cm以上が好ましく、1014Ω・cm以上がより好ましく、1015Ω・cm以上が特に好ましい。さらに、弾性率としては特に制限はないが、超薄肉の成形体や形状が複雑な成形体を作製する場合には、長期使用時の劣化を抑制するという観点から、40℃での貯蔵弾性率が3.0GPa以上が好ましく、3.5GPa以上がより好ましく、4.0GPa以上がさらに好ましく、4.3GPa以上が特に好ましい。
【0082】
なお、前記熱伝導率は以下の方法により測定された値である。すなわち、ペレット状の樹脂組成物を所定の条件(例えば、表1に示す条件)で真空乾燥した後、所定の成形条件(例えば、表1に示す条件)でプレス成形を行い、厚み2mmの成形品を作製する。この成形品から25mm×25mm×2mmの試料を切り出し、定常法熱伝導率測定装置(例えば、アルバック理工(株)製「GH−1」)を用い、40℃(上下の温度差24℃)で試料の厚み方向の熱伝導率(W/(mK))を測定する。また、前記体積抵抗率は以下の方法により測定された値である。すなわち、ペレット状の樹脂組成物を所定の条件(例えば、表1に示す条件)で真空乾燥した後、所定の成形条件(例えば、表1に示す条件)でプレス成形を行い、厚み2mmの成形品を作製する。この成形品から直径100mm、厚み2mmの円盤状の試料を切り出し、ハイレジスタンスメータ(例えば、アジレント・テクノロジー(株)製「AGILENT4339B」)を用い、JIS K6911に準拠して500Vを印加し、1分後の体積抵抗率を測定する。さらに、前記弾性率は以下の方法により測定された値である。すなわち、ペレット状の樹脂組成物を所定の条件(例えば、表1に示す条件)で真空乾燥した後、所定の成形条件(例えば、表1に示す条件)でプレス成形を行い、厚み1mmの成形品を作製する。この成形品から長さ40mm×幅5mm×厚み1mmの試料を切り出し、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御(株)製「itk DVA−220」)を用いて、温度範囲:30℃〜200℃、昇温速度:5℃/分、変形モード:引張、歪み:0.05%、測定周波数:10Hz、チャック間距離:25mmの条件で動的粘弾性測定を行い、40℃の貯蔵弾性率(GPa)を求める。
【0083】
図1A〜図1Dは、このような樹脂組成物の相構造を模式的に示したものであるが、本発明の樹脂組成物の相構造はこれに限定されるものではない。分散相3は、導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)以外の樹脂(B1)により形成されたものである。この場合、分散相3と連続相4が形成される限りにおいて、高親和性樹脂(Baff)が分散相3に含まれていてもよい。分散相3の1つあたりに含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)1の数として特に制限はなく、図1Aに示すように1本でもよいし、図1Bに示すように複数でもよい。さらに、分散相3中に導電性ナノフィラー(Adsp)1が複数存在する場合、その分散状態としては特に制限はなく、導電性ナノフィラー(Adsp)1は、互いに接触していても接触していなくてもよく、図1Bに示すように完全に孤立分散していても、図1Cに示すように個々が完全に接触していてもよいが、熱伝導性がさらに向上し、高い弾性率が得られるという観点から、導電性ナノフィラー(Adsp)1は、互いに接触していることが好ましい。分散相3の形状は特に制限はなく、真円形であっても、筋状、多角形状、楕円形などの非円形であってもよいし、導電性ナノフィラー(A)が分散相3で覆われている限り、図1Dに示されるように、分散相3が凹凸形状を有していてもよい。また、本発明の樹脂組成物においては、図1A〜図1Dで示される状態のうちの2つ以上の状態が混在していてもよい。
【0084】
連続相4は、前記高親和性樹脂(Baff)により形成されたものであるが、分散相3と連続相4が形成される限りにおいて前記その他の樹脂(B1)が含まれていてもよい。また、連続相4には、導電性ナノフィラー(A)が含まれていてもよいが、絶縁性が要求される用途においては、その含有量は樹脂組成物の絶縁性(体積抵抗率が好ましくは1013Ω・cm以上)が維持される範囲であることが好ましい。
【0085】
本発明の樹脂組成物においては、分散相3と連続相4との界面に官能基含有化合物(C)の少なくとも一部(より好ましくは全部)が存在し、これが分散相3の殻として作用することが好ましい。このように官能基含有化合物(C)が分散相3の殻として作用することによって分散相3中に導電性ナノフィラー(A)が局在化し、内包される傾向が高くなる。また、分散相3中の導電性ナノフィラー(Adsp)が溶融加工時に分散相3外に露出して連続相4中の導電性ナノフィラー(A)と接触して電気伝導パスが形成されるのを防ぐことができる。さらに、前記界面の熱抵抗がより低減され、樹脂組成物の熱伝導性がより向上するとともに、前記界面の絶縁性もさらに向上する傾向にある。
【0086】
また、前記2種以上の樹脂(B)のうちの少なくとも1種として末端反応性基などの反応性官能基を有する樹脂を用いた場合においては、熱伝導性が向上するという観点から、官能基含有化合物(C)の官能基の少なくとも一部(好ましくは全部)は、前記高親和性樹脂(Baff)および/または前記その他の樹脂(B1)中の反応性官能基と化学反応により結合していることが好ましい。これにより、分散相と連続相との界面に安定した層が形成され、分散相中に導電性ナノフィラー(A)を安定して内包することが可能となる。また、分散相と連続相との界面においては、官能基含有化合物(C)および/またはその反応生成物同士が反応していることがより好ましい。これにより、分散相と連続相との界面に形成された層がより厚く強固なものとなり、絶縁性がより向上し、界面の熱抵抗がより低減される(熱伝導率がより向上する)傾向にある。
【0087】
例えば、連続相を形成する高親和性樹脂(Baff)としてポリフェニレンスルフィドを、分散相を形成するその他の樹脂(B1)としてポリスチレンを、官能基含有化合物(C)としてスチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体を用いる場合においては、導電性ナノフィラー(A)とポリスチレンとを予め混合した後、この混合物とポリフェニレンスルフィドおよびスチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体とを混合することによって、分散相と連続相との間に、スチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体からなる界面層が形成される。このとき、ポリフェニレンスルフィドの末端基であるSNa基や、SNa基から酸処理などによって生成させたSH基、必要に応じて製造時や後処理により導入したアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、あるいは製造時に用いたN−メチルピロリドンが反応して形成された末端基、およびポリアミドの末端基であるアミノ基、カルボキシル基や主鎖のアミド基などが、溶融混練などの加工時にスチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体のエポキシ基と反応するとともに、スチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体がポリスチレンに対して高い親和性を有するため、分散相と連続相との間に安定した界面層が形成される。その結果、ポリスチレンにより形成された分散相からポリフェニレンスルフィドにより形成された連続相への導電性ナノフィラー(A)の移動が防止され、導電性ナノフィラー(A)が分散相中に安定して内包される。
【0088】
このような樹脂組成物の相構造は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡により観察することによって確認することができる。特に、官能基含有化合物(C)と高親和性樹脂(Baff)および/またはその他の樹脂(B1)との反応により界面に反応生成物が形成される場合には、その反応生成物により形成される界面層を透過型電子顕微鏡や走査フォース顕微鏡(例えば、弾性率モード等)を用いた観察によって確認することができる。
【0089】
本発明の樹脂組成物においては、樹脂組成物全体に対する前記分散相の割合をX(単位:容量%)、全導電性ナノフィラー(A)に対する前記分散相中に含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)の割合をY(単位:容量%)としたとき、これらの比(Y/X)は1.0以上である。Y/X値が前記下限未満になると絶縁性が低下する。また、絶縁性が向上しやすいという観点から、Y/X値としては1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましく、2.2以上が特に好ましく、2.4以上が最も好ましい。
【0090】
また、全導電性ナノフィラー(A)に対する前記分散相中に含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)の割合Yは20容量%以上であることが好ましい。前記割合Yが前記下限未満になると熱伝導性および絶縁性が低下する傾向にある。また、熱伝導性および絶縁性が向上しやすいという観点から、Yは40容量%以上が好ましく、50容量%以上がより好ましく、60容量%以上がさらに好ましく、80容量%以上が特に好ましく、100容量%が最も好ましい。
【0091】
さらに、本発明の樹脂組成物において、樹脂組成物全体に対する前記導電性ナノフィラー(Adsp)を含む分散相の割合Zとしては特に制限はないが、1容量%以上が好ましく、3容量%以上がより好ましく、5容量%以上がさらに好ましく、7容量%以上が特に好ましく、10容量%以上が最も好ましく、また、85容量%以下が好ましく、80容量%以下がより好ましく、70容量%以下がさらに好ましく、60容量%以下が特に好ましく、50容量%以下が最も好ましい。前記割合Zが前記下限未満になると熱伝導性および絶縁性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると樹脂組成物の流動性が低下する傾向にある。
【0092】
また、本発明の樹脂組成物において、全官能基含有化合物(C)に対する分散相と連続相との界面に存在する官能基含有化合物(C)(高親和性樹脂(Baff)および/またはその他の樹脂(B1)と反応しているものを含む)の割合Wとしては特に制限はないが、20容量%以上が好ましく、50容量%以上がより好ましく、60容量%以上がさらに好ましく、80容量%以上が特に好ましく、100容量%が最も好ましい。前記割合Wが前記下限未満になると絶縁性が低下する傾向にある。
【0093】
なお、本発明において、W、X、YおよびZの値は、以下のようにして走査型電子顕微鏡(SEM)写真に基づいて求めた値である。すなわち、本発明の樹脂組成物から所定の厚みの成形品を作製し、この成形品の中心部(表面から全厚みの40〜60%の深さの範囲)のうちの任意の部分を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、厚みが均一な印画紙に現像する。得られたSEM写真において、成形品の大きさで90μm×90μmの範囲を任意に5箇所抽出する。この抽出した範囲の質量を測定し、この抽出範囲から所定の部分(カーボン系ナノフィラー、分散相など)を切り取り、切り取った部分の写真の質量を測定して、所定の部分に関する写真の質量割合(質量%)を算出する。この写真の質量割合は、使用した印画紙の厚みが均一であるため、所定の部分に関する実際の容量割合(容量%)とみなすことができる。この容量割合を前記抽出した任意の5箇所について求め、その平均値をW、X、YまたはZの値(容量%)とする。
【0094】
また、本発明の樹脂組成物において、分散相の直径または長径の数平均値としては特に制限はないが、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、500nm以上がさらに好ましく、1μm以上が特に好ましく、2μm以上が最も好ましく、また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。分散相の直径または長径の数平均値が前記下限未満になると熱伝導性および絶縁性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると樹脂組成物の機械強度が低下する傾向にある。
【0095】
さらに、官能基含有化合物(C)の少なくとも一部が分散相と連続相との界面に存在する場合、官能基含有化合物(C)と高親和性樹脂(Baff)および/またはその他の樹脂(B1)との反応生成物の厚みとしては特に制限はないが、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましく、20nm以上が特に好ましく、50nm以上が最も好ましい。前記反応生成物の厚みが前記下限未満になると絶縁性が低下する傾向にある。
【0096】
なお、本発明において、分散相の直径または長径や前記反応生成物の厚みは、電子顕微鏡写真において成形品の大きさで90μm×90μmの範囲を任意に5箇所抽出して測定を実施し、これらの測定値を平均した値である。
【0097】
このような本発明の樹脂組成物を成形体に加工する方法としては特に制限はないが、溶融成形加工が好ましい。このような溶融成形方法としては、射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、圧縮成形またはガスアシスト成形などの従来公知の成形方法が挙げられる。また、成形加工時に磁場、電場、超音波などを印加することにより導電性ナノフィラー(A)や樹脂(B)の配向を制御することができる。
【0098】
また、本発明の樹脂組成物は、せん断下で加工を施しても各種特性(例えば、熱伝導率)に異方性が発現しにくい。ここで、せん断下とは、物体内部でずれを生じさせる力(せん断力)が付与される状態を意味し、せん断下での加工としては、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形などが挙げられる。例えば、樹脂組成物を射出成形すると、樹脂組成物が射出成形機のノズルから押し出される際に樹脂組成物には吐出方向(流れ方向)に平行且つ逆向きの力がかかり、樹脂組成物のある断面にすべりやずれが生じる。その結果、官能基含有化合物(C)を含まない従来の樹脂組成物おいては導電性ナノフィラー(A)が流れ方向に配向し、得られる成形体においては各種特性(例えば、熱伝導率)に異方性が発現する。一方、本発明の樹脂組成物においては、導電性ナノフィラー(A)を含む分散相が3次元的に均一に近い状態に分散しているため、せん断下での加工を施しても導電性ナノフィラー(A)は配向しにくく、得られる成形体においては各種特性(例えば熱伝導率)に異方性が発現しにくく、熱伝導性などの特性は3次元的に均一に近い状態となる傾向にある。
【実施例】
【0099】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、得られた樹脂組成物の物性は以下の方法により測定した。
【0100】
(1)H−NMRによる組成分析
試料を重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、30℃、400MHzの条件でH−NMR測定を実施し、得られた各構成単位のプロトンの積分値の比から各構成単位のモル比を決定し、質量比に換算した。なお、H−NMRチャートにおいて、スチレン単位のベンゼン環のプロトンは7.1〜7.45ppmに、N−フェニルマレイミド単位のフェニル基のメタ位のプロトンは7.5ppm付近に、メタクリル酸メチル単位のメチルエステル基のメチル基のプロトンは3.5ppm付近に、メタクリル酸グリシジル単位の2,3−エポキシメチル基中のエステル基に結合したメチレン基のプロトンは4.0ppm付近と4.5ppm付近に確認できる。
【0101】
(2)体積抵抗率
ペレット状の樹脂組成物を表1に示す条件で真空乾燥した後、表1に示す成形温度でプレス成形を行い、厚み2mmの成形品を得た。この成形品から直径100mm、厚み2mmの円盤状の試料を切り出し、ハイレジスタンスメータ(アジレント・テクノロジー(株)製「AGILENT4339B」)を用い、JIS K6911に準拠して500Vを印加し、1分後の体積抵抗率を測定した。
【0102】
(3)熱伝導率
ペレット状の樹脂組成物を表1に示す条件で真空乾燥した後、表1に示す成形温度でプレス成形を行い、厚み2mmの成形品を得た。この成形品から長さ25mm×幅25mm×厚み2mmの試料を切り出し、定常法熱伝導率測定装置(アルバック理工(株)製「GH−1」)を用い、40℃(上下の温度差24℃)で試料の厚み方向の熱伝導率(W/(mK))を測定した。
【0103】
(4)弾性率
ペレット状の樹脂組成物を表1に示す条件で真空乾燥した後、表1に示す成形温度でプレス成形を行い、厚み1mmの成形品を得た。この成形品から長さ40mm×幅5mm×厚み1mmの試料を切り出し、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御(株)製「itk DVA−220」)を用いて、温度範囲:30℃〜200℃、昇温速度:5℃/分、変形モード:引張、歪み:0.05%、測定周波数:10Hz、チャック間距離:25mmの条件で動的粘弾性測定を行い、40℃の貯蔵弾性率(GPa)を求めた。
【0104】
(5)Y/X値
ペレット状の樹脂組成物を表1に示す条件で真空乾燥した後、表1に示す成形温度でプレス成形を行い、厚み2mmの成形品を得た。この成形品から40mm×5mm×2mmの試料を切り出し、この試料の中央部の凍結破断面の中心部(表面から0.8〜1.2mmの範囲の部分)のうちの任意の部分を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、厚みが均一な印画紙に現像した。得られたSEM写真において、成形品の大きさで90μm×90μmの範囲を任意に5箇所抽出した。この抽出した範囲の写真の質量を測定した後、前記抽出範囲からその他の樹脂(B1)により形成された分散相に相当する部分を切り取り、切り取った部分の写真の質量を測定し、前記抽出範囲に対する前記分散相に相当する部分の写真の質量割合(質量%)を算出した。この写真の質量割合は、使用した印画紙の厚みが均一であるため、前記抽出範囲における樹脂組成物に対する分散相の容量割合(容量%)とみなすことができる。以下の実施例および比較例においては、前記抽出した任意の5箇所について前記分散相の容量割合を求め、その平均値を、樹脂組成物全体に対する分散相の割合X(単位:容量%)とした。
【0105】
また、上記と同様にしてSEM写真撮影を行い、得られたSEM写真において任意の5箇所(それぞれ、成形品の大きさで90μm×90μmの範囲)を抽出した。この抽出した範囲の写真から導電性ナノフィラー(A)に相当する部分を全て切り取り、切り取った部分の写真の総質量を測定した。また、前記導電性ナノフィラー(A)に相当する部分のうち、分散相に含まれていた導電性ナノフィラー(Adsp)に相当する部分の写真の質量を測定し、前記抽出範囲ついて全導電性ナノフィラー(A)に対する分散相中の導電性ナノフィラー(Adsp)の写真の質量割合(質量%)を算出した。この場合も上記と同様に、前記写真の質量割合を、前記抽出範囲における全導電性ナノフィラー(A)に対する分散相中の導電性ナノフィラー(Adsp)の容量割合(容量%)とみなすことができ、以下の実施例および比較例においては、前記抽出した任意の5箇所について前記分散相中の導電性ナノフィラー(Adsp)の容量割合を求め、その平均値を、樹脂組成物中の全導電性ナノフィラー(A)に対する分散相中の導電性ナノフィラー(Adsp)の割合Y(単位:容量%)とした。
【0106】
このようにして算出したXおよびYの値からY/X値を求めた。
【0107】
【表1】

【0108】
また、実施例および比較例において使用した導電性ナノフィラー(A)、樹脂(B)および官能基含有化合物(C)を以下に示す。なお、下記導電性ナノフィラー(A)のG/D値は、レーザーラマン分光システム〔日本分光(株)製「NRS−3300」〕を用い、励起レーザー波長532nmにおいて測定を行い、約1585cm−1付近に観察されるGバンドと約1350cm−1付近に観察されるDバンドのラマンスペクトルのピーク強度から求めた。
【0109】
(A)導電性ナノフィラー:
・導電性ナノフィラー(a−1)
多層カーボンナノチューブ(ナノカーボンテクノロジーズ(株)製「MWNT−7」、直径分布40〜90nm、アスペクト比100以上、G/D値8.0)。
【0110】
(Baff)導電性ナノフィラー(A)との親和性が高い樹脂:
・高親和性樹脂(baff−1)
ポリフェニレンスルフィド((株)クレハ製「フォートロンW202A」、比重1.35)。
・高親和性樹脂(baff−2)
ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製高密度ポリエチレン「ノバテックHD HY430」、JIS K6922−1に準拠して測定したメルトフローレート0.8g/10min、比重0.96)。
【0111】
(B1)その他の樹脂:
・樹脂(b1−1)
以下の方法により合成したスチレン−N−フェニルマレイミド共重合体
撹拌機と還流管を備えた反応容器に、スチレン35質量部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4質量部およびメチルエチルケトン200質量部を仕込み、この溶液を、窒素気流下、200rpmで攪拌しながら75℃まで昇温した。その後、75℃に保持しながらN−フェニルマレイミド30質量部、スチレン35質量部およびメチルエチルケトン300質量部を2時間かけて等速添加し、さらに75℃で2時間保持して重合を終了した。重合後の溶液を30℃まで冷却した後、5倍当量のメタノールに注ぎ込み、再沈殿により精製し、得られた沈殿物を真空乾燥して溶媒を完全に留去し、スチレン−N−フェニルマレイミド共重合体を得た。
【0112】
このスチレン−N−フェニルマレイミド共重合体の組成をH−NMR(重水素化溶媒:重水素化ジメチルスルフォキシド)により分析したところ、スチレン単位が60質量%、N−フェニルマレイミド単位が40質量%であった。また、このスチレン−N−フェニルマレイミド共重合体を用いて300℃の金型温度でプレス成形を行い、得られた成形品の比重を水置換法により求めたところ、1.19であった。
【0113】
・樹脂(b1−2)
ポリスチレン(Aldrich社製、製品番号430102、比重1.05)。
・樹脂(b1−3)
ポリフェニレンスルフィド((株)クレハ製「フォートロンW202A」、比重1.35)。
【0114】
(C)官能基含有化合物
・官能基含有化合物(c−1)
以下の方法により合成したメタクリル酸メチル−N−フェニルマレイミド−メタクリル酸グリシジル共重合体
メタクリル酸メチル25.5質量部、N−フェニルマレイミド72質量部、メタクリル酸グリシジル2.5質量部、n−ドデシルメルカプタン0.13質量部および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.15質量部をメチルエチルケトン(MEK)250質量部に溶解し、還流管を備えた三つ口フラスコに仕込んだ。この溶液を窒素雰囲気下で攪拌しながら60℃まで昇温し、60℃で4時間保持した後、室温まで冷却した。得られた溶液をクロロホルムで希釈した後、不溶分を取り除き、過剰量のメタノールに滴下して再沈殿により精製し、得られた沈殿物を真空乾燥してメタクリル酸メチル−N−フェニルマレイミド−メタクリル酸グリシジル共重合体を得た。
【0115】
このメタクリル酸メチル−N−フェニルマレイミド−メタクリル酸グリシジル共重合体の組成をH−NMR(重水素化溶媒:重水素化ジメチルスルフォキシド)により分析したところ、メタクリル酸メチル単位が20質量%、N−フェニルマレイミド単位が78質量%、メタクリル酸グリシジル単位が2質量%であった。また、このメタクリル酸メチル−N−フェニルマレイミド−メタクリル酸グリシジル共重合体を用いて300℃の金型温度でプレス成形を行い、得られた成形品の比重を水置換法により求めたところ、1.3であった。
【0116】
・官能基含有化合物(c−2)
以下の方法により合成したスチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体
スチレン95質量部、メタクリル酸グリシジル(GMA)5質量部、n−ドデシルメルカプタン0.13質量部および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.15質量部をメチルエチルケトン(MEK)250質量部に溶解し、還流管を備えた三つ口フラスコに仕込んだ。この溶液を窒素雰囲気下で攪拌しながら60℃まで昇温し、60℃で4時間保持した後、室温まで冷却した。得られた溶液をクロロホルムで希釈した後、不溶分を取り除き、過剰量のメタノールに滴下して再沈殿により精製し、得られた沈殿物を真空乾燥してスチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体を得た。
【0117】
このスチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体の組成をH−NMR(重水素化溶媒:重水素化ジメチルスルフォキシド)により分析したところ、スチレン単位が97質量%、メタクリル酸グリシジル単位が3質量%であった。また、このスチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体を用いて230℃の金型温度でプレス成形を行い、得られた成形品の比重を水置換法により求めたところ、1.05であった。
・官能基含有化合物(c−3)
エポキシ変性ポリエチレン(住友化学(株)製「ボンドファースト−E」、メタクリル酸グリシジル含有量12質量%、比重0.94)。
【0118】
(実施例1)
導電性ナノフィラー(a−1)4.76容量%および樹脂(b1−1)95.24容量%を配合し、ベントを備えた二軸溶融混練押出機((株)テクノベル製、スクリュ径:15mm、L/D:60)に投入して、樹脂温度300℃、スクリュ回転数100rpmの条件で溶融混練を実施した。吐出された混練物をストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターにより切断してペレットを製造した。このペレットを80℃で12時間真空乾燥した後、目的とする樹脂組成物の全成分の合計100容量%に対して、前記ペレット21容量%(導電性ナノフィラー(a−1)1容量%および樹脂(b1−1)20容量%からなるもの)、高親和性樹脂(baff−1)74容量%および官能基含有化合物(c−1)5容量%を前記二軸溶融混練押出機に投入して、樹脂温度300℃、スクリュ回転数100rpmの条件で溶融混練を実施した。吐出された混練物をストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターにより切断してペレット状の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物について、Y/X値、体積抵抗率、熱伝導率および弾性率を前記方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0119】
(実施例2)
樹脂(b1−1)の代わりに樹脂(b1−2)を95.24容量%配合し、樹脂温度を250℃に変更した以外は実施例1と同様にして、導電性ナノフィラー(a−1)と樹脂(b1−2)とを含有するペレットを作製した。導電性ナノフィラー(a−1)と樹脂(b1−1)とを含有するペレットの代わりに、このペレットを21容量%(導電性ナノフィラー(a−1)1容量%および樹脂(b1−2)20容量%からなるもの)用い、樹脂温度を290℃に変更した以外は実施例1と同様にしてペレット状の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物について、Y/X値、体積抵抗率、熱伝導率および弾性率を前記方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0120】
(比較例1)
全成分の合計100容量%に対して、導電性ナノフィラー(a−1)1容量%、高親和性樹脂(baff−1)79容量%および樹脂(b1−1)20容量%を配合し、ベントを備えた二軸溶融混練押出機(テクノベル社製、スクリュ径15mm、L/D:60)に投入して、樹脂温度300℃、スクリュ回転数は100rpmの条件で溶融混練を実施した。吐出された混練物をストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターにより切断してペレット状の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物について、Y/X値、体積抵抗率、熱伝導率および弾性率を前記方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0121】
(比較例2〜4)
表2に示す組み合わせおよび配合量で、導電性ナノフィラー、高親和性樹脂、その他の樹脂および官能基含有化合物を用いた以外は比較例1と同様にしてペレット状の樹脂組成物を得た。これらの樹脂組成物について、Y/X値、体積抵抗率、熱伝導率および弾性率を前記方法に従って測定した。その結果を表2に示す。

【0122】
(比較例5)
実施例1と同様にして導電性ナノフィラー(a−1)と樹脂(b1−1)とを含有するペレットを作製した。このペレットを80℃で15時間真空乾燥した後、目的とする樹脂組成物の全成分の合計100容量%に対して、前記ペレット21容量%(導電性ナノフィラー(a−1)1容量%および樹脂(b1−1)20容量%からなるもの)および高親和性樹脂(baff−1)79容量%を前記二軸溶融混練押出機に投入した以外は実施例1と同様にしてペレット状の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物について、Y/X値、体積抵抗率、熱伝導率および弾性率を前記方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0123】
(比較例6)
全成分の合計100容量%に対して、導電性ナノフィラー(a−1)1容量%およびその高親和性樹脂(baff−1)99容量%を配合した以外は比較例1と同様にしてペレット状の樹脂組成物を得た。これらの樹脂組成物について、体積抵抗率、熱伝導率および弾性率を前記方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
表2に示した結果から明らかなように、導電性ナノフィラー(A)、高親和性樹脂(Baff)、その他の樹脂(B1)および官能基含有化合物(C)を含有し、導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(B1)とを予め混合した後、残りの成分を混合して製造した本発明の樹脂組成物(実施例1〜2)は、Y/Xの値が高いことから、その他の樹脂(B1)により形成された分散相中に導電性ナノフィラー(A)が偏在した相構造を有するものであることが確認された。また、このような相構造を有する樹脂組成物は、絶縁性と熱伝導性とを高度に兼ね備え、さらに高い弾性率を有するものであることが確認された。
【0126】
一方、比較例1および5の樹脂組成物は官能基含有化合物(C)が含まれておらず、また、比較例2および5の樹脂組成物は各成分を一括で混合しているため、導電性ナノフィラー(A)がその他の樹脂(B1)により形成された分散相中にほとんど含まれず、高親和性樹脂(Baff)により形成された連続相中に偏在しており、上記のように官能基含有化合物(C)を含有し且つ2段で混合して製造した樹脂組成物(実施例1〜2)と比較して、絶縁性、熱伝導性および弾性率に劣るものであることがわかった。
【0127】
また、比較例3〜4の樹脂組成物は、高親和性樹脂(Baff)により形成された分散相とその他の樹脂(B1)により形成された連続相とを備えるものであり、前記分散相中に導電性ナノフィラー(A)が偏在しているため、高い絶縁性を有するものであるが、その他の樹脂(B1)により形成された分散相中に導電性ナノフィラー(A)が偏在している樹脂組成物(実施例1〜2)と比較して、熱伝導性が低く、特に弾性率に劣るものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
以上説明したように、本発明によれば、高熱伝導フィラーなどの充填材を使用せずに、あるいはその使用量を低減した場合でも、高い絶縁性を維持したまま、熱伝導性および弾性率がさらに向上した樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0129】
したがって、本発明の樹脂組成物は、熱伝導性、放熱性、絶縁性に加え、高い弾性率が要求される用途、例えば、自動車用各種部品、電気・電子機器用各種部品、高熱伝導性シート、放熱板、電磁波吸収体などの用途として有用である。
【符号の説明】
【0130】
1:導電性ナノフィラー(A)、2:官能基含有化合物(C)、3:分散相〔主として樹脂(B1))〕、4:連続相〔主として樹脂(Baff〕。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ナノフィラー(A)および2種以上の樹脂(B)を含有する樹脂組成物であり、
該樹脂組成物は、前記2種以上の樹脂(B)のうちの導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)により形成された連続相と、前記樹脂(Baff)以外の樹脂(B1)により形成された分散相とを備え、
前記分散相には前記導電性ナノフィラー(A)が存在し、
前記樹脂組成物全体に対する前記分散相の割合をX(単位:容量%)、および全導電性ナノフィラー(A)に対する前記分散相中に含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)の割合をY(単位:容量%)としたとき、Y/Xが1.0以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
アルコキシシリル基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基、カルボキシル基、オキセタン基およびオキサゾリン基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物(C)を、さらに含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
Yが20容量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記導電性ナノフィラー(A)がカーボン系ナノフィラーであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
熱伝導率が0.3W/(mK)以上であり且つ体積抵抗率が1013Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
導電性ナノフィラー(A)、2種以上の樹脂(B)、および官能基を有する化合物(C)を含有する樹脂組成物の製造方法であって、
前記導電性ナノフィラー(A)の少なくとも一部と、前記2種以上の樹脂(B)のうちの導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)以外の樹脂(B1)の少なくとも一部とを混合して前記導電性ナノフィラー(A)と前記樹脂(B1)との混合物を調製した後、
前記混合物と、前記樹脂(Baff)と、官能基を有する化合物(C)とを混合することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
導電性ナノフィラー(A)、2種以上の樹脂(B)、および官能基を有する化合物(C)を含有する樹脂組成物の製造方法であって、
前記導電性ナノフィラー(A)の少なくとも一部と、前記2種以上の樹脂(B)のうちの導電性ナノフィラー(A)との親和性が最も高い樹脂(Baff)以外の樹脂(B1)の少なくとも一部と、官能基を有する化合物(C)の少なくとも一部とを混合して前記導電性ナノフィラー(A)と前記樹脂(B1)との混合物を調製した後、
前記混合物と前記樹脂(Baff)とを混合することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−1866(P2013−1866A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136296(P2011−136296)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】