説明

樹脂組成物および樹脂成形体

【課題】
本発明は、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化第二鉄等の従来周知の光触媒を用いることなく、天然の植物由来のバイオマスにより光触媒抗菌性を付与した樹脂および樹脂成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】
利用されることなく多くは廃棄や放置されている椰子殻繊維、木粉などの廃棄物系バイオマスに注目し、セルロースを多く含むバイオマスに光触媒抗菌性があることを見出し、樹脂または樹脂成形体に分散、混合、練り込みまたは塗布することにより、光触媒抗菌性を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光触媒抗菌性を有する樹脂組成物およびその樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
光を当てることにより抗菌作用を発揮させる、いわゆる光触媒抗菌性物質には、従来周知の二酸化チタン等の光触媒を樹脂に練り込んだり、樹脂成形体の表面に塗布することにより、樹脂または樹脂成形体に光触媒抗菌性を付与していた。(特許文献1,2)
【0003】
また近年、自然環境の保全、特に廃棄物処理対策などから、植物由来の廃棄物(バイオマス)の有効利用が注目され、バイオマスを樹脂に混合するなどして樹脂成形体の強度を増したり、樹脂成形体に抗菌性を付与するなど応用されている。
【特許文献1】特開平11−56663
【特許文献2】特開2006−175685
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、光触媒抗菌性を有する樹脂および樹脂成形体は、二酸化チタンによりその機能が付与されるものが多く、植物由来の廃棄物系バイオマス自体により光触媒抗菌性を付与することはなかった。本発明は、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化第二鉄等の従来周知の光触媒を用いることなく、天然の植物由来のバイオマスにより光触媒抗菌性を付与した樹脂および樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、利用されることなく多くは廃棄や放置されている椰子殻繊維、木粉などの廃棄物系バイオマスに注目し鋭意研究した結果、セルロースを多く含むバイオマスに光触媒抗菌性があることを見出し、樹脂または樹脂成形体に分散、混合、練り込みまたは塗布することにより、光触媒抗菌性が付与されるという知見を得て本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)セルロースを多く含むバイオマスにより光触媒抗菌性を付与された樹脂組成物に関する。
(2)セルロースを多く含むバイオマスが椰子殻繊維または木粉である光触媒抗菌性樹脂組成物に関する。
(3)セルロースを多く含むバイオマスにより光触媒抗菌性を付与された樹脂組成物からなる光触媒抗菌性を有する樹脂成形体に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光触媒抗菌を有する樹脂組成物または樹脂成形体は、室内蛍光灯または窓際程度の紫外線量で抗菌作用を発揮し広範囲の用途に有用である。
【0008】
本発明によれば、従来周知の光触媒を用いることなく、光触媒抗菌性を付与した樹脂および樹脂成形体を提供できる。
【0009】
本発明によれば、天然植物由来光触媒抗菌性を付与した樹脂および樹脂成形体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の天然の植物由来である廃棄物系バイオマスについて説明する。
セルロースを多く含む廃棄物としてのバイオマスとしては、椰子殻から得られる椰子殻繊維、笹、竹、葦、ケナフ、コットンリンター、木材パルプ、バナナ繊維、サトウキビ繊維、木粉などを挙げることができる。木粉としては、トドマツ、エゾマツ、カラマツ等の松類、杉、檜、栂、桜、ナラ、ブナ、モミ、ポプラ等の原木を裁断し製材する際に発生する鋸屑やおがくず、切削細片等を粉砕したものを挙げることができる。
【0011】
一例として椰子殻から椰子殻繊維の取り出し方を説明する。
椰子殻繊維は椰子殻から得られ、椰子殻とはココ椰子、アブラ椰子等の椰子科の果実から果水(ジュース)、胚乳(果肉や油脂)を採取した後に残る繊維を多く含む残渣である。つまり椰子殻は狭義の意味での核皮を指すのではなく、広義の意味での中果皮や外果皮を指す。椰子殻から椰子殻繊維を取り出すには、所定の軟化処理を施した後、解繊機にかけて椰子殻繊維と残滓に分ける。
【0012】
所定の軟化処理とは、椰子殻を長時間水に浸漬させたり、アルカリと共にまたはアルカリ無しで蒸煮したり、さらには高温高圧で煮沸したり、高温高圧下から急減圧して破砕する(爆砕)などによって硬い椰子殻を軟化または分解させ、繊維と繊維以外の残滓とを分離しやすいようにした後、さらに解繊機に通しやすくするために、あらかじめほぐしたり、ローラーで平らにするなどの下処理をすることである。その後に解繊機を通すことによって、椰子殻繊維と繊維以外の残滓に分けて取り出すことができる。
【0013】
ここでいう蒸煮法とは、100℃付近かそれ以上の蒸気または沸騰水で、椰子殻を所定の時間蒸す又は煮る処理のことである。この際、希苛性ソーダ水溶液に浸漬してもよいし、さらに100℃以上の高温にするために高圧釜で行ってもよい。
【0014】
上記のような軟化処理を行った後、椰子殻を解繊機に通し、椰子殻繊維と椰子殻残滓に分ける。ただ、椰子殻は解繊機を通すと、繊維状の椰子殻繊維と椰子殻残滓に完全に分けられるわけではなく、椰子殻繊維には微量の残滓が、また残滓には少量の繊維が含まれている。
【0015】
セルロースを多く含む椰子殻繊維を樹脂組成物や樹脂成形体に用いる場合、そのまま混合、分散してもよいが、均質な性能、強度を得るには分級(篩い分け)して使用する方がよい。均質性を得るためには、椰子殻繊維では10メッシュ(目開き2mm,ASTM)をパスしたものが好ましく、18メッシュ(目開き1mm,ASTM)をパスしたものがさらに好ましい。
【0016】
椰子殻の種類については特に限定しないが、ココ椰子の椰子殻が好ましく、産地についても特に限定しないが、バリおよびジャワなどのインドネシア産、その他マレーシア産、ベトナム産、スリランカ産、タイ産の椰子殻が好ましく用いられる。
【0017】
椰子殻以外のその他の廃棄物系バイオマスも樹脂または樹脂成形体への充填に適するように、粉砕機や解繊機で、セルロースを多く含むように分別、粉砕する。樹脂への充填のし易さ、また樹脂成形体に均質に光触媒抗菌性を付与するには、粉砕物の粒径が数mm以下、好ましくは2mm以下がよい。木粉などは各種メッシュパス品が入手可能である。
【0018】
本発明における光触媒抗菌性とは、光の照射下で樹脂組成物または樹脂成形体の表面における細菌の増殖を抑制する性質のことをいう。また、本発明のバイオマスの光触媒抗菌機能は、樹脂または樹脂成形体に塗布、含浸、練り込みなどの方法で担持させることにより利用できる。セルロースを多く含むバイオマスとは、実質的に50重量%以上セルロースを含んでいればよく、セルロース含量が多ければ多い程よい。
【0019】
次に、本発明の光触媒抗菌性樹脂組成物について説明する。
本発明の光触媒抗菌性樹脂組成物は、上述のようにして得られた光触媒機能を有するバイオマスと下記の合成樹脂、または添加剤を含有する。
本発明に用いる合成樹脂は、すべての合成樹脂に対して適応されるが、コンパウンドのし易さや品質面また、製品形状の多様さの観点から、約300℃以下の融点又は軟化点を有する熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアセテート、ポリメタクリレート、ポリアクリルニトリル、ポリカーボネート、ナイロンなどが挙げられ、これらの共重合体でもよいし、抗菌剤と樹脂との界面接着性や流動性、含浸性の向上のために、全部または一部が変性されていてもよい。形状は液体、粉末、顆粒又はペレットのいずれでも本発明の樹脂組成物の製造に供することができる。これらのうちPETは、PET容器として使用後にリサイクル品として大量に発生するが、適度に粉砕することにより、本発明の樹脂組成物の製造に使用することができる。
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが使用できる。
これらの合成樹脂は単独で用いてもよく、2種類以上を混合してもよい。
【0020】
前記合成樹脂は、樹脂組成物の40重量%〜90重量%の範囲で使用される。このように樹脂の使用量を規定した理由は、40重量%よりも少ないと十分な強度が得られず、また90重量%を超えると、十分な光触媒抗菌作用が得られなくなるからである。
【0021】
さらに所望により、前記必須成分の他に用途や目的に応じて添加剤を加えてもよい。添加剤として、例えば、酸化防止剤、UVカット剤、滑剤、カップリング剤、着色剤、可塑剤、難燃剤、増量剤例えば炭酸カルシウム、タルク等を使用することができ、これらは商業的に入手可能なものを用いることができる。
添加剤の使用量は、樹脂成形体の光触媒抗菌性を損なわず、かつ強度が低下しない範囲において使用することができる。
【0022】
本発明の光触媒抗菌性樹脂組成物は、光触媒抗菌性を有するバイオマスと必要に応じて、上記添加剤を合成樹脂に加え、単軸または多軸の押出機のような混練機を用いて均一に混合することにより得られる。例えば、ペレット状にするにはダイより押し出された光触媒抗菌性樹脂組成物を水浴中を通して冷却し、引き取り機によって引き取りながら回転するカッターにより切断し、所望の寸法のペレットを得ることができる。
【0023】
本発明の光触媒抗菌性樹脂組成物は、バイオマスの濃度が高いマスターバッチとして調製してもよく、成形体と同じ濃度のコンパウンドとして調製してもよい。マスターバッチの場合は、成形体加工時にマスターバッチと同じ合成樹脂かまたは相溶性のある樹脂と混合し、希釈して用いる。
【0024】
本発明の光触媒抗菌性樹脂組成物には、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの常温硬化型、加熱硬化型、紫外線硬化型などの合成樹脂塗料に、光触媒抗菌性を有するバイオマスを添加したものも含まれる。

【0025】
本発明の光触媒抗菌性樹脂組成物は、光触媒抗菌性樹脂成形体の製造に用いられる。
本発明の光触媒抗菌性樹脂成形体は、コンパウンドを押出機で可塑化混練しながらダイに押出して所定の形状に成型する押出成形、混練物を加熱プレスして所定の寸法にするプレス成形、混練物を高圧でダイに射出する射出成形などの公知の方法で製造される。
【0026】
光触媒抗菌性樹脂成形体の具体例としては、食品用容器・トレー、三角コーナー、かまぼこ板、まな板、食器類、家電製品の筐体、家具・インテリア、床材、壁材、浴槽、浴室物品、便座、自動車・電車・船舶など交通機関の内外装部品、クシ、ブラシなどの整髪具、パチンコ、スロット台のような遊技台、遊具、玩具、文具などを挙げることができる。
【0027】
特に抗菌性を必要とされる乳幼児向けのすべり台、シーソー、ジャングルジム、スコップ、シャベル、バケツなどの玩具や遊具に好適に使用できる。
また、不特定多数の者が触れる電車やバスの吊革、ドアの取っ手、シートの握り、新幹線や飛行機の座席テーブルや肘掛け、飛行機内で使用されるイヤホンなどにも好適に使用できる。
【0028】
さらには、院内感染を防ぐ用途として、病院内で使用される樹脂製用品、例えば箸、スプーン、フォーク、お皿などの食器類、廊下の手すりや車椅子の部材、ドアの取っ手、エレベーターのボタンなどに好適に使用できる。
【0029】
本発明で用いられるバイオマスの樹脂成形体中の含有率を50%以上にすると、人工(合成)木材としての用途にも使用できる。
【0030】
以下に測定方法、実施例及び比較例を掲げて、本発明をより一層明らかにするが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0031】
[光触媒抗菌性試験]フィルム密着法
JIS R 1702:2006「ファインセラミックス−光照射下での光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果」10 フィルム密着法の試験方法を参考にして、試験片(50mm×50mm×1mm厚)の表面に、1/500普通ブイヨン培地(MRSAについては1/200)で調製した菌液を滴下し、PE被覆フィルム(40mm×40mm)で密着させて、室温25℃±5℃に設定した。光照射方法は、紫外線蛍光ランプ(ブラックライトブルー、FL20S BL−B 20W、松下電器産業製)を、0.25mW/cmの紫外放射照度で6時間照射した。
測定は、培養開始時及び6時間後の試験片上、および対照のガラス板上の菌液について生菌数を測定した(3検体)。使用菌株は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC−12732)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA: Staphylococcus aureus IID1677)の2菌株である。
抗菌活性値R、光照射による効果ΔRを以下の計算式で求める
R = log(B1/C1)
ΔR = log(B1/C1) − log(B2/C2)
R: 抗菌活性値
ΔR: 光照射による効果
B1: 対照(ガラス板)の6時間光照射後の生菌数の平均値(個)
C1: 光触媒抗菌加工試験片の6時間光照射後の生菌数の平均値(個)
B2: 対照(ガラス板)の6時間暗所保存後の生菌数の平均値(個)
C2: 光触媒抗菌加工試験片の6時間暗所保存後の生菌数の平均値(個)

【0032】
光触媒抗菌加工製品の抗菌効果は、製品上の6時間後の試験菌の生菌数が対照上の生菌数の1%以下(抗菌活性値R:2.0以上)となることで効果ありとする。

【0033】
[実施例1]
ココ椰子殻を100℃の沸騰水に48時間浸漬し軟化させ、プレスローラーで脱水しつつ平らにした後、天日に干して半日乾燥した。乾燥したココ椰子殻を解繊機に通して椰子殻繊維と椰子殻残滓に分離した後、椰子殻繊維を粉砕機で粉砕した。この椰子殻繊維(直径2mmスクリーンパス品、セルロース含量90重量%以上)を50重量%、ポリプロピレン(PMA20V、ペレット、サンアロマー製)を47.5重量%、添加剤として無水マレイン酸変性ポリプロピレン(ユーメックス1010、ペレット、三洋化成製)を2.5重量%として二軸押出機(KZW15TW−45HG、テクノベル製)で、バレルおよびダイ温度170℃、回転数250rpm、押出量2g/分の条件で、分散、混練して、椰子殻繊維由来の光触媒抗菌樹脂ペレットを作製した。
【0034】
[実施例2]
実施例1で作製したペレットを200℃のホットプレス機でプレスし、所定の厚さ1mmにまで到達すると直ちにコールドプレス機へ移し変えて冷却し、椰子殻繊維由来の板状の光触媒抗菌樹脂成形体を作製した。
【0035】
[実施例3]
椰子殻繊維に変えて、ベイトガの木粉(100メッシュパス品、セルロース含量80%以上)とした以外は、実施例1と同様の方法で、木粉由来の光触媒抗菌樹脂ペレットを作製した。
【0036】
[実施例4]
実施例3で作製したペレットを使用した以外は、実施例2と同様の方法で木粉由来の板状の光触媒抗菌樹脂成形体を作製した。
【0037】
[比較例]
ポリプロピレン100重量%である以外は実施例2と同様の方法で板状の樹脂成形体を作製した。
【0038】
【表1】

【0039】
椰子殻繊維を50重量%含む樹脂成形体(実施例2)では、黄色ブドウ球菌による抗菌活性値が4.1、光照射による効果が3.3となり、セルロースリッチな椰子殻繊維により、ポリプロピレン樹脂成形体に光触媒抗菌性を付与していることがわかる。
【0040】
同様に、木粉50重量%を含む樹脂成形体(実施例4)では、黄色ブドウ球菌による抗菌活性値が3.5、光照射による効果が3.4となり、また、MRSAによる抗菌活性値が3.6、光照射による効果が2.1となり、セルロースを多く含む木粉により、ポリプロピレン樹脂成形体に光触媒抗菌性を付与していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを多く含むバイオマスにより光触媒抗菌性を付与された樹脂組成物。
【請求項2】
セルロースを多く含むバイオマスが椰子殻繊維または木粉であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の光触媒抗菌性樹脂組成物を成形してなる光触媒抗菌性を有する樹脂成形体。

【公開番号】特開2010−106056(P2010−106056A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276536(P2008−276536)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】