説明

樹脂組成物および誘電体接着用接着剤

【課題】所定のエポキシ化合物および誘電体を所定量含有することにより、硬化させた場合に所望の誘電特性、可撓性および接着性を示すことができる樹脂組成物、および所定のエポキシ化合物を含み、誘電体を電極等に接着させるために好適な誘電体接着用接着剤を提供する。
【解決手段】本発明にかかる樹脂組成物は、一般式(1)
【化1】


(式中、Rはアルキレン基を、nは3以上13以下の整数を表し、当該アルキレン基の主鎖の炭素数をm(mは1以上の整数)としたとき、(m+1)×nが9以上65以下である。)
で表されるエポキシ樹脂(A)1種類以上と、誘電体(B)とを含み、上記エポキシ樹脂(A)の含有量を100重量部としたときに、上記誘電体(B)を250重量部以上含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および誘電体接着用接着剤に関し、具体的には、所定のエポキシ化合物および誘電体を所定量含有することにより、硬化させた場合に所望の誘電特性、可撓性および接着性を示すことができる樹脂組成物、および所定のエポキシ化合物を含み、誘電体を電極等に接着させるために好適な誘電体接着用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信は固定端末を用いた有線通信に比べ、その簡便さから携帯端末での無線通信が急増している。また通信容量も、従来の文字情報から、画像、動画、リアルタイム高画質動画へと、増加する一方である。このような通信容量増大の要求に対して、高速大容量の通信方式が各種実用化されている。しかし、複数の通信方式を一つの携帯端末に搭載しようとすると、複数の高周波部品を搭載することになり端末が肥大化する恐れがある。そのため、各高周波部品の小型化ニーズは非常に高い。
【0003】
高周波部品の小型化を達成するためには、誘電性セラミックス焼結体や誘電性セラミックス粉を樹脂中に配合した誘電性樹脂などの誘電体が用いられている。これらの誘電体は比誘電率(ε)が空気の比誘電率1よりも大きな値を示すため、下記式(2)のように誘電体中の波長λは空気中の波長λよりも短縮されることが知られている。高周波部品の十分な小型化を行うためには、比誘電率は15以上であることが望まれている。
【0004】
λ=λ・(ε・μ)1/2・・・(2)
しかしながら、これらの誘電体は引張弾性率が高いため変形しづらく、落下などの衝撃を受けた場合に割れやすいという課題を有している。そのため、高周波部品での誘電体に対する期待は大きいが、取扱い上の信頼性および生産性の両立という観点においては、十分とは言えないのが現状である。
【0005】
上記課題に対して、熱可塑性エラストマーを回路構造等に結合し、可撓性と所望の誘電特性とを両立した積層構造物を提供することを目的とした技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−506305号公報(2000年5月23日公表)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマーは、柔軟性は優れるが、電極との接着性を有さないため、電子部品に適用する場合は別途接着剤を用いて固定する必要があるという問題点がある。また、接着剤を用いて接着した場合であっても、誘電体と電極との間に隙間ができるため、誘電体の効果が小さくなってしまうという問題点がある。そのため、代替技術が待ち望まれていた。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、所定のエポキシ化合物および誘電体を所定量含有することにより、硬化させた場合に所望の誘電特性、可撓性および接着性を示すことができる樹脂組成物、および所定のエポキシ化合物を含み、誘電体を電極等に接着させるために好適な誘電体接着用接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み、硬化後も十分な可撓性を有するため耐衝撃性を備え、かつ、所望の誘電特性を確保でき、しかも接着性に優れた樹脂組成物について鋭意検討を行った。その結果、所定の二官能エポキシ化合物が、所望の誘電特性を得るために必要な量の誘電体を電極等へ良好に接着でき、かつ、当該エポキシ化合物と当該誘電体とを含む樹脂組成物は、硬化後も十分な可撓性を備えていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明にかかる樹脂組成物は、一般式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rはアルキレン基を、nは3以上13以下の整数を表し、当該アルキレン基の主鎖の炭素数をmとしたとき、(m+1)×nが9以上65以下である。)
で表されるエポキシ樹脂(A)1種類以上と、誘電体(B)とを含み、上記エポキシ樹脂(A)の含有量を100重量部としたときに、上記誘電体(B)を250重量部以上含有することを特徴としている。
【0013】
エポキシ樹脂(A)は、両端にエポキシ環を備える二官能エポキシ化合物であり、分子中に占める繰り返し単位の密度と、エポキシ環の密度とのバランスが適度に調節されているため、硬化性に優れ、樹脂硬化物に強固な接着性を付与することができる。また、エポキシ樹脂(A)は分子構造が鎖状であり、繰り返し単位内に酸素原子を含む。酸素は原子価が2であり、エポキシ樹脂(A)が酸素原子を中心に回転運動しやすくなる。そのため、エポキシ樹脂(A)は硬化後の可撓性に優れるものとなる。なお、上記「繰り返し単位」とは、一般式(1)中、−R−O−で表されている部分である。
【0014】
それゆえ、本発明にかかる樹脂組成物は、誘電体の電極等への接着性と、誘電体の耐衝撃性とを大幅に向上させることができる。そのため、本発明にかかる樹脂組成物を硬化させることにより、誘電体(B)に起因する所望の誘電特性を持つとともに、接着性および耐衝撃性に優れ、かつ、電子部品の小型化に寄与できる有用な樹脂硬化物を提供することができる。すなわち、本発明にかかる樹脂組成物は、上記樹脂硬化物を得るための非常に有用な原料となる。
【0015】
本発明にかかる樹脂組成物は、さらに硬化剤を含んでいてもよい。本発明にかかる樹脂組成物を硬化させる場合、エポキシ樹脂(A)と誘電体(B)との混合物である樹脂組成物に対し、使用直前に硬化剤を配合し、硬化させてもよい(つまり、いわゆる二液性樹脂組成物であってもよい)が、予め硬化剤が配合されている、いわゆる一液性樹脂組成物であれば、例えば、配合時の軽量ミス等による硬化不良の発生等を防ぐことができる。
【0016】
本発明にかかる樹脂組成物は、一般式(1)の上記繰り返し単位に占める酸素原子の割合が高いため、上記一般式(1)において、アルキレン基がエチレン基、プロピレン基およびブチレン基からなる群から選ばれる1以上の基であることが好ましい。
【0017】
本発明にかかる樹脂組成物は、上記誘電体(B)が誘電性セラミックスであることが好ましい。上記構成によれば、本発明にかかる樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物の誘電正接を低く抑えることが可能となる。
【0018】
本発明にかかる樹脂組成物は、上記誘電体(B)がチタン酸バリウムおよび/またはチタン酸ストロンチウムであることがより好ましい。チタン酸バリウムは代表的な強誘電体であり、チタン酸ストロンチウムは代表的な常誘電体であるため、本発明にかかる樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物の比誘電率を15以上とするために好適である。それゆえ、上記構成によれば、電子部品の小型化を一層容易にすることができる。
【0019】
本発明にかかる樹脂組成物は、一般式(1)
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、Rはアルキレン基を、nは3以上13以下の整数を表し、当該アルキレン基の主鎖の炭素数をm(mは1以上の整数)としたとき、(m+1)×nが9以上65以下である。)
で表されるエポキシ樹脂(A)1種類以上と、誘電体(B)と、上記エポキシ樹脂(A)よりも誘電正接の小さいエポキシ樹脂(C)とを含み、上記エポキシ樹脂(A)の含有量とエポキシ樹脂(C)の含有量との合計を100重量部としたときに、上記誘電体(B)を250重量部以上含有する構成であってもよい。上記構成によれば、上記樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物の誘電正接を低下させることが可能となり、誘電正接をより適正化することができる。
【0022】
本発明にかかる樹脂硬化物は、本発明にかかる樹脂組成物を硬化させてなる樹脂硬化物であって、比誘電率が15以上、かつ、誘電正接が0.2以下であることを特徴としている。上記構成によれば、本発明にかかる樹脂組成物を硬化させてなるものであるので、耐衝撃性、接着性が十分なものとなっている。さらに、比誘電率が15以上であるため、高周波部品等の電子部品の十分な小型化に寄与することができる。また、誘電正接が0.2以下であるため、適正な部品設計の下で用いることによりエネルギー損失を抑制し、効率の良い放射強度を達成することができる。
【0023】
本発明にかかる電子部品は、本発明にかかる樹脂硬化物を備えることを特徴としている。当該樹脂硬化物は耐衝撃性、接着性に優れ、電子部品の小型化を達成することができる。それゆえ、上記構成によれば、電子部品に耐衝撃性を付与でき、その結果、落下等の衝撃を受けた場合に割れやすいという従来の誘電体が持つ欠点を改善することができる。また、小型ゆえに、複数の電子部品を端末に搭載可能にすることができるため、小型化のニーズに十分対応可能な電子部品を提供することができる。
【0024】
本発明にかかる誘電体接着用接着剤は、一般式(1)
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、Rはアルキレン基を、nは3以上13以下の整数を表し、当該アルキレン基の主鎖の炭素数をm(mは1以上の整数)としたとき、(m+1)×nが9以上65以下である。)
で表されるエポキシ樹脂(A)を1種類以上含むことを特徴としている。
【0027】
エポキシ樹脂(A)は、上述のように、接着性に優れ、硬化後の可撓性にも優れている。それゆえ、硬化させることによって、誘電体を電極等に強固に接着できるとともに、誘電体に耐衝撃性を付与することができる。よって、誘電体の電子部品への適用を容易にすることができる。
【0028】
本発明にかかる誘電体接着用接着剤は、さらに、硬化剤を含むことが好ましい。これにより、硬化剤を配合する手間を省くことができるので、より簡便に誘電体を電極等に接着することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかる樹脂組成物は、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)1種類以上と、誘電体(B)とを含み、上記エポキシ樹脂(A)の含有量を100重量部としたときに、誘電体(B)を250重量部以上含有する。それゆえ、硬化させることにより、所望の誘電率を持ち、かつ、接着性と耐衝撃性に優れた樹脂硬化物を提供することができるという効果を奏する。
【0030】
本発明にかかる誘電体接着用接着剤は、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)を1種類以上含む。それゆえ、硬化させることによって、誘電体を電極等に強固に接着できるとともに、誘電体に耐衝撃性を付与することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明にかかる電子部品の一例であるICパッケージにおいて、本発明にかかる樹脂硬化物をどのように利用することができるかを示した模式図である。
【図2】離型フィルムを用いて成形体を得る工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本明細書中において範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
【0033】
〔1.樹脂組成物〕
本発明にかかる樹脂組成物は、一般式(1)
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、Rはアルキレン基を、nは3以上13以下の整数を表し、当該アルキレン基の主鎖の炭素数をm(mは1以上の整数)としたとき、(m+1)×nが9以上65以下である。)
で表されるエポキシ樹脂(A)1種類以上と、誘電体(B)とを含み、上記エポキシ樹脂(A)の含有量を100重量部としたときに、上記誘電体(B)を250重量部以上含有する樹脂組成物である。
【0036】
本発明では、一般式(1)において「nは3以上13以下の整数を表し、当該アルキレン基の主鎖の炭素数をm(mは1以上の整数)としたとき、(m+1)×nが9以上65以下である」という条件(以下、本項において単に「条件」という場合がある)を満たすことによって、エポキシ樹脂(A)が優れた硬化性を示し、硬化後の樹脂硬化物に強固な接着性を付与でき、硬化後の樹脂硬化物が優れた可撓性を示すことを独自に見出した。なお、上記「アルキレン基の主鎖」とは、アルキレン基の炭素鎖のうち、両端の炭素が一般式(1)における主鎖の酸素原子と結合している炭素鎖をいう。
【0037】
上記「アルキレン基」とは、C2Q+2で表される鎖状炭化水素(アルカン)から、水素を2つ取り除いた2価の置換基のことであり、−C2Q−で表現される。上記アルキレン基としては特に限定されるものではない。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、オクチレン基、ノニレン基、ドデシレン基等を挙げることができる。
【0038】
中でも、エチレン基、プロピレン基およびブチレン基からなる群から選ばれる1以上の基であることが好ましい。エチレン基としては、1,1−エチレン基であっても1,2−エチレン基であってもよい。プロピレン基としては、1,2−プロピレン基であっても1,3−プロピレン基であってもよい。ブチレン基としては、1,2−ブチレン基であっても1,4−ブチレン基であってもよい。
【0039】
エポキシ樹脂(A)は、分子構造が鎖状であることによってある程度の可撓性を持ち、さらに繰り返し単位内に酸素原子を含むことによってより柔軟になる。よって、エポキシ樹脂(A)の主鎖は、上記条件を満たす限りにおいて、鎖長が長い方が可撓性は高くなると考えられる。また、上記条件を満たし、主鎖が同程度の長さであれば、可撓性はほぼ同程度となるが、側鎖の分子数が多くなると、分子運動は抑制される傾向が生じる。よって、アルキレン基は、側鎖が少ない方が好ましい。それゆえ、1,1−エチレン基よりも1,2−エチレン基、1,2−プロピレン基よりも1,3−プロピレン基、1,2−ブチレン基よりも1,4−ブチレン基であることが好ましい。
【0040】
エポキシ樹脂(A)1分子中に含まれるアルキレン基は1種類であってもよいが、2種類以上であってもよい。例えば、一般式(1)中の繰り返し単位において、nが2以上である場合は、Rはすべて同一であってもよいし、それぞれ異なっていても構わない。
【0041】
一般式(1)中の繰り返し数nは3以上13以下の整数を表し、4以上13以下であることが好ましく、7以上11以下であることが特に好ましい。nが3未満であると分子中に占めるエポキシ環の密度が高くなることによってエポキシ樹脂(A)の誘電正接が大きくなり、エネルギー損失が大きくなるため好ましくない。一方、nが14以上になると硬化反応が進みにくくなり、未硬化物が残りやすくなるため好ましくない。
【0042】
本発明にかかる樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)を1種類以上含む。よって、エポキシ樹脂(A)は複数種含まれていてもよい。また、エポキシ樹脂(A)は、nが3以上13以下の整数であるという条件を満たす限り、nが異なるエポキシ樹脂を混合した混合物であってもよい。本明細書では、エポキシ樹脂(A)が、nが異なる複数種のエポキシ樹脂を混合した混合物である場合、nをモル比の平均値として求める。例えば、繰り返し数がn1であるエポキシ樹脂のモル分率をM1、繰り返し数がn2であるエポキシ樹脂のモル分率をM2とする場合、混合物の繰り返し数nは次の式(3)で表現できる。
【0043】
n=M1×n1+M2×n2・・・(3)
これをx種類のエポキシ樹脂の混合に拡張すると、nは、次の式(4)で表現できる。
【0044】
【数1】

【0045】
つまり、モル比の平均値として求めたnが3以上13以下の整数であれば、nが3未満あるいは14を超えるエポキシ化合物が混合されていてもかまわない。なお、当該モル比が小数点以下を含む値となる場合は、小数点以下第1位を四捨五入した値を用いる。
【0046】
エポキシ樹脂(A)は、本発明にかかる樹脂組成物に、硬化後の可撓性および接着性を付与するために用いられる。
【0047】
エポキシ樹脂(A)は、上記条件を満たすため、1分子中に占める一般式(1)中の繰り返し単位の密度と、エポキシ環の密度とのバランスが適度に調節されたものとなる。それゆえ、優れた硬化性を持ち、樹脂硬化物に強固な接着性を付与することができる。また、分子が鎖状構造であり、主鎖中に酸素原子を含むため、硬化後の可撓性に優れる。
【0048】
上記「硬化後の可撓性」とは、硬化物が落下時の衝撃により破損しない程度の引張弾性率を有することを意味し、「耐衝撃性」「柔軟性」等の文言と置換可能に用いることができる。上記引張弾性率は、特に限定されるものではないが、例えばJIS K7161(プラスチック−引張特性の試験方法 第1部:通則)に準拠した方法で測定した引張弾性率が1000MPa以下であることが好ましい。また、「接着性」とは被着体である誘電体を目的物(例えば電極)に固着させる能力をいう。
【0049】
誘電体(B)は、本発明にかかる樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物に誘電性を付与するために用いられる。誘電体(B)としては電界を加えると誘電分極を生ずる物質であれば特に限定されるものではない。例えば誘電性セラミックス、誘電性樹脂、金属粉末、磁性粉末等を挙げることができる。中でも焼結体や粉体として樹脂中に配合することが容易であり、誘電正接を低く抑えることができるため、誘電性セラミックスであることが好ましい。
【0050】
誘電性セラミックスとしては、特に限定されるものではない。例えば、代表的な強誘電体であるチタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸バリウム等を用いることもできるし、代表的な常誘電体であるチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、チタン酸ネオジウム酸バリウム、酸化チタン等を用いることもできる。中でも、チタン酸バリウムおよび/またはチタン酸ストロンチウムであることがより好ましい。
【0051】
本発明にかかる樹脂組成物における上記誘電体(B)の含有量は、上記エポキシ樹脂(A)の含有量を100重量部としたときに250重量部以上である。電子部品を小型化するために用いることに鑑み、本発明にかかる樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物には、比誘電率が15以上であることが求められるが、誘電体(B)が上記含有量であれば、当該比誘電率が15以上という数値を達成することができる。
【0052】
誘電体(B)は、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂(A)と混合する際の作業性向上の観点から、粉体であることが好ましい。上記誘電体(B)の含有量の上限は、特に限定されるものではないが、本発明にかかる樹脂組成物が常温で流動性を保つことができる含有量であることが好ましい。
【0053】
上記樹脂組成物の常温での固化の程度は、配合される誘電体(B)の大きさ(粒径等)によって異なる。そのため、誘電体(B)の含有量の上限は一概には規定できないが、例えば、誘電体(B)が粒径1μm〜2μmの粉体である場合、誘電体(B)の含有量の上限は、エポキシ樹脂(A)の含有量(後述するエポキシ樹脂(C)を含む場合は、エポキシ樹脂(A)の含有量とエポキシ樹脂(C)の含有量との合計)を100重量部としたときに450重量部〜500重量部である。なお、「流動性を保つ」とは、完全には固化していない状態にあること、例えば液体、半固体、ペースト状、スラリー状、粘度状などの状態にあることを意味し、塗布する際の作業効率の観点から液体であることが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0054】
本発明にかかる樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂(A)と誘電体(B)とを従来公知の手法を用いて混合することによって製造することができる。本発明にかかる樹脂組成物は、硬化させると適度な可撓性を示すため、誘電体に耐衝撃性を付与することができる。それゆえ、誘電体の取り扱い性を改良でき、誘電特性を十分に利用することができる。また、本発明にかかる樹脂組成物は、硬化させると強固な接着性をも示すので、硬化させれば誘電体を電極等に十分に固定することができる。そのため、接着性を持たないという、特許文献1に記載されているスチレン系、オレフィン系エラストマーが有する問題点を解決することができる。
【0055】
本発明にかかる樹脂組成物の硬化を行う方法は特に限定されるものではない。例えば、熱硬化であってもUV硬化であってもよい。ただし、例えば、誘電体(B)がチタン酸塩であるような場合は、チタン酸塩の光の遮蔽性が高いため、表層部しか硬化しない可能性がある。このような場合、熱硬化のみで硬化させてもよいし、UV硬化後に熱硬化するプロセスを取ってもよい。
【0056】
上記熱硬化を行う方法は特に限定されるものではなく、例えば従来公知の硬化剤を用い、恒温槽内で加熱することによって行うことができる。加熱温度および加熱時間は硬化剤の種類に大きく依存するため、一概に好ましい条件は存在しない。また、UV硬化を行う方法についても特に限定されるものではなく、従来公知の硬化剤を用いて適宜UV照射することによって行うことができる。
【0057】
硬化剤は、本発明にかかる樹脂組成物を硬化させる直前に当該樹脂組成物に混合してもよいし、予め本発明にかかる樹脂組成物に混合させておいてもよい。すなわち、本発明にかかる樹脂組成物は、さらに硬化剤を含んでいてもよい。上述のように本発明にかかる樹脂組成物は液状であることが好ましいが、硬化剤を含有させることによって樹脂組成物が固体となるような場合は、使用前に予め加熱して液状とした後に、上記樹脂組成物を目的物に塗布すればよい。
【0058】
上記硬化剤としては、上記樹脂組成物を硬化させることができれば本発明の目的を達成することができるため、特に限定されるものではない。例えば脂肪族アミン系硬化剤(例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロプレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジンクロヘキシル)メタン、ジアミノジンクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、ベンジルジメチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなど)、芳香族アミン系硬化剤(例えばメタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジフェニルメタンなど)、酸無水物系硬化剤(例えば無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ドデシルコハク酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水ジクロルコハク酸、無水クロレンディック酸など)、フェノール系硬化剤、多価フェノール系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、ノボラック型フェノール系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、ジシアンジアミド、ポリチオール類(例えばトリオキサントリメチレンメルカプタンなど)、ビスフェノール系硬化剤などを用いることができる。
【0059】
本発明にかかる樹脂組成物は、硬化剤の量が少ないと硬化不足が生じ、硬化剤の配合量が多いと高粘度により作業性が低下するため、エポキシ樹脂(A)(後述するエポキシ樹脂(C)を含む場合は、エポキシ樹脂(A)の含有量とエポキシ樹脂(C)の含有量との合計)100重量部に対して硬化剤を1〜30重量部、好ましくは1〜10重量部含有させることが好ましい。
【0060】
硬化温度を低下させるため、さらに硬化促進剤を用いてもよい。硬化促進剤としては、例えば、第三アミン系硬化促進剤(例えば2,4,6−トリス(ジアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノールなど)、ヒドラジド系硬化促進剤、尿素誘導体系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤(例えば1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチルー2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾイウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2−フェニルイミダゾール イソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン イソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールなど)、アザビシクロ化合物系硬化促進剤、エポキシ樹脂アダクト化合物などが挙げられる。硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂(A)(後述するエポキシ樹脂(C)を含む場合は、エポキシ樹脂(A)の含有量とエポキシ樹脂(C)の含有量との合計)100重量部に対して硬化促進剤1〜30重量部、好ましくは1〜10重量部であることが好ましい。
【0061】
本発明にかかる樹脂組成物は、さらに、上記エポキシ樹脂(A)よりも誘電正接の小さいエポキシ樹脂(C)を含有していてもよい。一般式(1)におけるアルキレン基の炭素数が小さいほど、上記樹脂組成物の硬化物は誘電正接が大きくなる傾向にある。一方、当該硬化物の誘電正接は、当該硬化物をアンテナ等の電子部品に使用する場合、エネルギー損失を小さくするため、0.2以下であることが求められる。
【0062】
そのため、用いるエポキシ樹脂(A)の構造に起因して硬化物の誘電正接が大きくなることが予想される場合は、エポキシ樹脂(A)よりも誘電正接の小さいエポキシ樹脂を上記樹脂組成物に含有させることによって、誘電正接を低下させ、0.2以下に調整することができる。
【0063】
エポキシ樹脂(C)としては、例えば、一般的なエポキシ樹脂であるビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0064】
具体的には、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物ジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−1,2−プロピレンオキサイド2モル付加物ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、オルソフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロイソフタル酸ジグリシジルエステル、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N−ジグリシジルアニリン−3−グリシジルエーテル、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリジルアミノメチレン)シクロヘキサン、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビフェニルジグリシジルエーテル、ナフタレンジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンジグリシジルエーテルなどを用いることができる。
【0065】
エポキシ樹脂(C)の配合量としては、本発明にかかる樹脂組成物の特性を損なうものでない限り、特に限定されるものではない。例えば、本発明にかかる樹脂組成物におけるエポキシ樹脂(A)の含有量とエポキシ樹脂(C)の含有量との合計(上記エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(C)との合計重量)を100重量部とした場合に、エポキシ樹脂(A)が10重量部以上となるように、かつ、上記樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物の誘電正接を0.2以下とすることができる量を配合することができる。
【0066】
エポキシ樹脂(C)を用いる場合、本発明にかかる樹脂組成物における上記誘電体(B)の含有量は、エポキシ樹脂(A)の含有量とエポキシ樹脂(C)の含有量との合計を100重量部としたときに250重量部以上である。なお、エポキシ樹脂(C)の配合は、従来公知の手法を用いて行うことができる。
【0067】
本発明にかかる樹脂組成物には、接着性を向上させるために、エポキシ樹脂(A)およびエポキシ樹脂(C)とは異なる添加剤、例えばプライマー、カップリング剤、粘着剤等を配合しても良い。上記添加剤の配合量は、上記樹脂組成物の特性を損ねない範囲であれば特に限定されない。
【0068】
また、本発明にかかる樹脂組成物には、硬化後の硬化物に離型性を付与するために、離型剤を配合しても良い。上記離型剤の配合量は、上記樹脂組成物の特性を損ねない範囲であれば特に限定されない。
【0069】
さらに、粘度調整のために、エポキシ樹脂(A)およびエポキシ樹脂(C)とは異なる単官能グリシジルエーテルや変性シリコーンオイルを配合しても良い。配合量は、上記樹脂組成物の特性を損ねない範囲であれば特に限定されない。
【0070】
本発明にかかる樹脂組成物を、誘電体(B)を接着させたい目的物に塗布し、硬化させることによって、誘電体(B)を、耐衝撃性を持った状態で目的物に強固に接着させることができる。上記塗布の方法としては目的とする形状に塗布できる方法であれば特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ディスペンサによる塗布、注型、スクリーン印刷、押出成形などの方法を用いることができる。
【0071】
上記目的物としては、電極を備える物であればよく、例えばフレキシブルプリント基板、射出成型などによる樹脂成型体等を挙げることができる。
【0072】
〔2.樹脂硬化物、電子部品〕
上述のように、本発明にかかる樹脂組成物は、硬化させることによって、誘電体(B)を耐衝撃性を持った状態で目的物に強固に接着することができるので、誘電体(B)が持つ誘電特性を十分に発揮させることができる。一方、電子部品を十分に小型化するためには上記硬化によって得られた樹脂硬化物の比誘電率が15以上であることが求められ、電子部品のエネルギー損失を少なくするためには誘電正接が0.2以下であることが求められる。そこで、本発明にかかる樹脂硬化物は、本発明にかかる樹脂組成物を硬化させてなる樹脂硬化物であって、比誘電率が15以上、かつ、誘電正接が0.2以下という構成を備えている。
【0073】
本発明にかかる樹脂硬化物は、本発明にかかる樹脂組成物を硬化することによって得ることができる。硬化の方法については〔1.樹脂組成物〕で説明したとおりである。
【0074】
本発明にかかる樹脂硬化物は、必要に応じて適宜成形することによって、電子部品を構成する部材として用いることができる。よって、本発明には、本発明にかかる樹脂硬化物を備える電子部品も含まれる。上記電子部品としては、本発明にかかる樹脂硬化物を備えていれば特に限定されるものではない。例えば、高周波電子部品が挙げられる。本発明にかかる樹脂硬化物は、比誘電率が15以上であるため小型化が可能であり、かつ、誘電正接が0.2以下でありエネルギー損失が小さいという特性を持っているため、高周波電子部品を構成する部材として特に好適に利用することができる。
【0075】
高周波電子部品としては、アンテナ、フィルタ、ICパッケージ、高周波リレーなどを挙げることができる。本発明にかかる電子部品は、本発明にかかる樹脂硬化物を用いているため、小型化することが可能である。例えば、アンテナやフィルタの金属部に本発明にかかる樹脂硬化物を適用すれば、当該樹脂硬化物の比誘電率が15以上であるため、アンテナやフィルタを著しく小型化することができる。また、当該樹脂硬化物は耐衝撃性を備えているため、本発明にかかる電子部品は落下等の衝撃に対して耐性を有する。さらに、本発明にかかる樹脂硬化物は強固な接着性を有するので、特許文献1に記載の技術のように、誘電体と電極との間に隙間が生じるようなこともない。そのため、本発明にかかる電子部品は誘電体の持つ特性を十分に発揮することができる。
【0076】
図1は、本発明にかかる電子部品の一例であるICパッケージにおいて、本発明にかかる樹脂硬化物をどのように利用することができるかを示した模式図である。
【0077】
図1において、1はICパッケージ、2は本発明にかかる樹脂硬化物、3はフレキシブルプリント基板を表している。図1の(a)は、ICパッケージ1と基板3との間にアンダーフィルされた樹脂硬化物2によってICパッケージ1をフレキシブルプリント基板3に接着した様子を表している。これにより、ICパッケージ1を熱応力等から保護することができるとともに、強固に接着でき、かつ、樹脂硬化物2の耐衝撃性により、上記保護および接着を長期間持続させることができる。なお、上記アンダーフィルは、本発明にかかる樹脂組成物をICパッケージ1と基板3との間に例えばエッジ塗布アンダーフィルプロセス等の従来公知の方法によって導入し、当該樹脂組成物を熱硬化させることによって行うことができる。
【0078】
また、図1の(b)は、ICパッケージ1とフレキシブルプリント基板3との間のみならず、ICパッケージ1全体をポッティングする様子を表している。これにより、ICパッケージ1を十分に封止することができるとともに、樹脂硬化物2の耐衝撃性により、上記封止を長期間持続させることができる。
【0079】
このように、アンダーフィルやポッティングを行う際に本発明にかかる樹脂組成物を用いることによって、例えばICパッケージの内部にアンテナなどの高周波部品要素を包含する場合も同様に、小型化効果を得ることができる。また、放熱部材としての効果も得ることができる。
【0080】
その他、シール剤として本発明にかかる樹脂硬化物を用いた高周波リレー等を、本発明にかかる電子部品の例として挙げることができる。
【0081】
上記電子部品を製造する方法は、従来公知の方法によることができ、特に限定されるものではない。例えば、フレキシブルプリント基板等に本発明にかかる樹脂組成物を塗布し、硬化させることによって製造することができる。塗布、硬化の方法については〔1.樹脂組成物〕に記載したとおりである。
【0082】
また、樹脂硬化物を所望の形に成形した電子部品を得たい場合は、所望の形状に加工した従来公知の離型フィルムをフレキシブルプリント基板等に載置してマスキングを行い、必要な部分にのみ本発明にかかる樹脂組成物を塗布し、硬化させることによって上記電子部品を製造することができる。
【0083】
本発明にかかる樹脂硬化物は、上述のように、本発明にかかる樹脂組成物をフレキシブル基板等に塗布し、硬化させることによって電子部品を構成する部材として得ることもできるし、本発明にかかる樹脂組成物をフレキシブル基板等に塗布せず、単独で硬化させることによって得ることもできる。後者の場合は、例えば、上述の離型フィルムを用いて硬化させ成形することによって得られた樹脂硬化物を、接着剤や粘着剤によって電極等に固定し、機能させることができる。
【0084】
図2は、離型フィルムを用いて成形体を得る工程を示す模式図である。図1で示した部材と同じ部材については、図1と同じ番号を付している。図2の(a)は、離型フィルム6を用いてフレキシブルプリント基板3をマスキングし、ディスペンサ4で本発明にかかる樹脂組成物5を塗布する様子を示す模式図である。図2の(b)は、離型フィルム6を用い、フレキシブルプリント基板3のマスキングされていない部分に樹脂組成物5を塗布する様子を縦断面で示した模式図である。図2の(c)は、樹脂組成物5を硬化して樹脂硬化物2を得る様子を縦断面で示した模式図である。図2の(d)は、硬化終了後、離型フィルム6を取り外し、所望の形に成形された樹脂硬化物2(成形体)を得る様子を縦断面で示した模式図である。
【0085】
このように離型フィルムを用いることによって、樹脂硬化物を所望の形に成形した成形体を容易に得ることができる。この場合、本発明にかかる樹脂組成物には離型剤を配合しておくことが好ましい。離型フィルムとしては、従来公知の離型フィルムを用いることができる。例えば、アフレックス、旭硝子(株)製、テラシー、クレハ(株)製、ルミラー、東レ(株)製等のようなフィルムを用いることができる。また、フレキシブルプリント基板も、従来公知の基板を用いることができる。例えば、JPCA規格で示されるフレキシブルプリント基板等を用いることができる。
【0086】
〔3.誘電体接着用接着剤〕
上述のように、本発明者は、上記エポキシ樹脂(A)が、硬化させることによって優れた可撓性および接着性を発揮することを見出し、これまで耐衝撃性および接着性を同時に付与することが困難であった誘電体(B)を電極等に強固に接着させることができ、かつ、当該接着を安定に保つことができることを見出した。
【0087】
すなわち、上記エポキシ樹脂(A)は誘電体接着用の接着剤として利用することができ、上記エポキシ樹脂(A)に誘電体(B)を混合し、電極等の目的物に塗布し、硬化させることによって、誘電体(B)を目的物に接着することができる。
【0088】
本発明にかかる誘電体接着用接着剤は、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)を1種類以上含む。エポキシ樹脂(A)については〔1.樹脂組成物〕で説明したとおりである。上記接着剤を硬化させるためには、硬化剤を配合し、熱硬化させればよい。硬化剤は、上記接着剤を誘電体(B)と混合後、塗布する前に混合してもよいし、上記接着剤に予め硬化剤を配合しておいてもよい。誘電体(B)および硬化剤は、〔1.樹脂組成物〕で説明したものを用いることができる。
【0089】
上記接着剤は、エポキシ樹脂(A)を1種類以上必須成分として含むが、その他の成分として、上記接着剤の特性を損ねない範囲で〔1.樹脂組成物〕で説明したエポキシ樹脂(C)、プライマー、カップリング剤、粘着剤、離型剤、単官能グリシジルエーテル、変性シリコーンオイル等を含有していてもよい。誘電体(B)と混合する際には、エポキシ樹脂(A)100重量部に対して誘電体(B)を250重量部以上混合させる。
【0090】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔試験方法〕
以下の実施例および比較例において調製した樹脂硬化物に対して、以下に示す誘電特性試験、柔軟性試験、接着性試験を行った。
【0092】
<誘電特性試験>
樹脂硬化物の誘電特性を、IEC60377-2(Recommended methods for the determination of the dielectric properties of insulating materials at frequencies above 300MHz - part 2: resonance methods)に従い測定した。なお、比誘電率(ε)は15以上、誘電正接(tanδ)は0.2以下であることが好ましい。
【0093】
<柔軟性試験>
樹脂硬化物の柔軟性の指標として、JIS K 7161(プラスチック−引張特性の試験方法 第1部:通則)を参考にした方法により測定した引張弾性率を用いた。JIS K 7161と異なる点は、試験片としてL30×W5×T0.5(mm)の薄板を用いたことである。これは、JIS K 7161では非常に大型の試験片を用いるためである。落下時の衝撃により破損しないためには、引張弾性率は1000MPa以下であることが好ましい。なお、上記薄板は、樹脂組成物を離型フィルム状に印刷し、当該樹脂組成物を硬化させた後に当該離型フィルムを剥離することによって作製した。
【0094】
<接着性試験>
JPCA規格で示されるフレキシブルプリント基板、つまり、配線用銅張り積層板のうち、ベース材料を12.5μm厚さのポリイミド、銅はくを18μmの冷間圧延銅はくを用いたもの(以下フレキシブルプリント基板と略す)の上で硬化させた樹脂硬化物の破断応力をJIS K 6850(接着剤の引張せん断接着強さ試験方法)を参考した方法により測定した。JIS K 6850と異なる点は、フレキシブルプリント基板上にL10×W10×T5 (mm)の樹脂を硬化させ、フィルムを固定した状態で樹脂硬化物にせん断荷重をかけたことである。落下時の衝撃により剥離しないためには、破断応力は1MPa以上であることが好ましい。
【0095】
〔実施例1〕
上記エポキシ樹脂(A)であるポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;デナコールEX−821、n=4、ナガセケムテックス製)100重量部に対して、誘電体(B)であるチタン酸バリウム(商品名;BT−S、共立マテリアル)を350重量部配合し、硬化剤としてジシアンジアミドを5重量部、イミダゾール系硬化促進剤として2−フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ、四国化成(株)製品)を5重量部配合し、樹脂組成物を調製した。なお、上記ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの繰り返し単位に含まれるアルキレン基は、1,2−エチレン基である。
【0096】
次に、この樹脂組成物を、成形型中に注型し、フレキシブルプリント基板上に印刷した。槽内の温度を120℃に保持した恒温槽(SH−221、エスペック(株)製)内で3時間熱硬化反応させることにより樹脂組成物を硬化させて、上記の試験に適する形状の樹脂硬化物を得た。当該樹脂硬化物の構造、組成を表1に示した(実施例2〜11、比較例についても同様)。また、得られた樹脂硬化物に対し、上記誘電特性試験、柔軟性試験、接着性試験を行い、結果を表2に示した(実施例2〜11、比較例についても同様)。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
〔実施例2〕
上記エポキシ樹脂(A)としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;デナコールEX−839、n=9、ナガセケムテックス製)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。なお、上記ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの繰り返し単位に含まれるアルキレン基は、1,2−エチレン基である。
【0100】
〔実施例3〕
上記エポキシ樹脂(A)としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;デナコールEX−841、n=13、ナガセケムテックス製)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。なお、上記ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの繰り返し単位に含まれるアルキレン基は、1,2−エチレン基である。
【0101】
〔実施例4〕
上記エポキシ樹脂(A)としてポリイソプロピレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;デナコールEX−920、n=3、ナガセケムテックス製)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。
【0102】
〔実施例5〕
上記エポキシ樹脂(A)としてポリイソプロピレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;エポライト400P、n=7、共栄社化学製)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。
【0103】
〔実施例6〕
上記エポキシ樹脂(A)としてポリイソプロピレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;デナコールEX−931、n=11、ナガセケムテックス製)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。
【0104】
〔実施例7〕
上記エポキシ樹脂(A)としてポリn−ブチレングリコールジグリシジルエーテル(n=9)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。
【0105】
〔実施例8〕
上記エポキシ樹脂(A)としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;デナコールEX−839、n=9、ナガセケムテックス製)50重量部、上記エポキシ樹脂(C)としてビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名;EPICLON 840、DIC製)50重量部を用い、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(C)の合計量(100重量部)に対して、実施例1と同じ誘電体(B)を350重量部、硬化剤、硬化促進剤をそれぞれ5重量部配合して樹脂組成物を調製した。当該樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。
【0106】
〔実施例9〕
上記エポキシ樹脂(A)としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;デナコールEX−839、n=9、ナガセケムテックス製)、エポキシ樹脂(C)としてナフタレンジグリシジルエーテル(商品名;EPICLON HP-4032D、DIC製)を用いた以外は実施例8と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。
【0107】
〔実施例10〕
上記エポキシ樹脂(A)としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;デナコールEX−839、n=9、ナガセケムテックス製)を用い、エポキシ樹脂(C)としてジシクロペンタジエンジグリシジルエーテル(商品名;アデカレジン EP-4088S、ADEKA製)を用いた以外は実施例8と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。
【0108】
〔実施例11〕
誘電体(B)としてチタン酸ストロンチウム(商品名;ST-S、共立マテリアル製)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。
【0109】
〔比較例1〕
上記エポキシ樹脂(A)の代わりに、ジグリシジルエーテルとしてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名;デナコールEX−850、n=2、ナガセケムテックス製)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。なお、上記ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの繰り返し単位に含まれるアルキレン基は、1,2−エチレン基である。
【0110】
〔比較例2〕
上記エポキシ樹脂(A)の代わりに、ジグリシジルエーテルとしてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−861、n=22、ナガセケムテックス製)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。なお、上記ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの繰り返し単位に含まれるアルキレン基は、1,2−エチレン基である。
【0111】
〔比較例3〕
上記エポキシ樹脂(A)の代わりに、ジグリシジルエーテルとしてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−941、n=2、ナガセケムテックス製)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。なお、上記ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの繰り返し単位に含まれるアルキレン基は、1,2−エチレン基である。
【0112】
〔比較例4〕
上記エポキシ樹脂(A)の代わりに、ジグリシジルエーテルとしてビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(商品名;EPICLON 840、DIC製)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を作製し、同様の試験を実施した。
【0113】
表2に示すように、実施例1〜11の樹脂硬化物は、いずれも比誘電率が15以上、誘電正接が0.2以下という誘電特性を示した。よって、電子部品の小型化に寄与することができ、かつ、エネルギー損失が少ない樹脂硬化物であることが分かる。また、引張弾性率はいずれも1000MPa以下であり、可撓性に優れることが分かる。さらに、破断応力はいずれも10MPa以上であり、強固な接着性を有することが分かる。
【0114】
一方、比較例2の樹脂硬化物)はそもそも硬化させることができず、本発明の目的を達成することはできなかった。比較例1、3の樹脂硬化物については、誘電正接が0.2を超え、エネルギー損失が大きいものとなっていた。比較例4の樹脂硬化物については引張弾性率が非常に高く、耐衝撃性が不十分であった。
【0115】
このように、本発明にかかる樹脂組成物を硬化させることによって、比誘電率、誘電正接、引張弾性率および破断応力のいずれの特性についても、電子部品の小型化とエネルギー損失の低下を両立でき、かつ、可撓性および接着性にも優れる樹脂硬化物を提供するために十分な値が得られた。一方、本発明にかかる樹脂組成物の構成を備えない場合は、硬化させても上記特性のすべてを満足することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明にかかる樹脂組成物は、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)1種類以上と、誘電体(B)とを所定量含有するため、硬化させることによって、電子部品の小型化およびエネルギー損失の低減に必要な誘電特性、十分な可撓性、および強固な接着性を備えた樹脂硬化物を得ることができる。それゆえ、電子部品、特にアンテナ、フィルタ、ICパッケージ、リレー等の高周波電子部品を用いる電子産業全般に広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0117】
1 ICパッケージ
2 樹脂硬化物
3 フレキシブルプリント基板
4 ディスペンサ
5 樹脂組成物
6 離型フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rはアルキレン基を、nは3以上13以下の整数を表し、当該アルキレン基の主鎖の炭素数をm(mは1以上の整数)としたとき、(m+1)×nが9以上65以下である。)
で表されるエポキシ樹脂(A)1種類以上と、誘電体(B)とを含み、
上記エポキシ樹脂(A)の含有量を100重量部としたときに、上記誘電体(B)を250重量部以上含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
さらに硬化剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
上記一般式(1)において、アルキレン基がエチレン基、プロピレン基およびブチレン基からなる群から選ばれる1以上の基であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
上記誘電体(B)が誘電性セラミックスであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
上記誘電性セラミックスがチタン酸バリウムおよび/またはチタン酸ストロンチウムであることを特徴とする請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
一般式(1)
【化2】

(式中、Rはアルキレン基を、nは3以上13以下の整数を表し、当該アルキレン基の主鎖の炭素数をm(mは1以上の整数)としたとき、(m+1)×nが9以上65以下である。)
で表されるエポキシ樹脂(A)1種類以上と、誘電体(B)と、上記エポキシ樹脂(A)よりも誘電正接の小さいエポキシ樹脂(C)とを含み、
上記エポキシ樹脂(A)の含有量とエポキシ樹脂(C)の含有量との合計を100重量部としたときに、上記誘電体(B)を250重量部以上含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を硬化させてなる樹脂硬化物であって、比誘電率が15以上、かつ、誘電正接が0.2以下であることを特徴とする樹脂硬化物。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂硬化物を備えることを特徴とする電子部品。
【請求項9】
一般式(1)
【化3】

(式中、Rはアルキレン基を、nは3以上13以下の整数を表し、当該アルキレン基の主鎖の炭素数をm(mは1以上の整数)としたとき、(m+1)×nが9以上65以下である。)
で表されるエポキシ樹脂(A)を1種類以上含むことを特徴とする誘電体接着用接着剤。
【請求項10】
さらに、硬化剤を含むことを特徴とする請求項9に記載の誘電体接着用接着剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−185051(P2010−185051A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31726(P2009−31726)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】