説明

樹脂組成物および高周波同軸ケーブル

【課題】発泡樹脂絶縁層の気泡形状を独立気泡として安定化させうる樹脂組成物、ならびに良好な伝送特性の高周波同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】内部導体2の外周に、内部充実層3、発泡樹脂絶縁層4、外部導体6を順に設けた高周波同軸ケーブル1において、上記発泡樹脂絶縁層4は、密度950[kg/m3]以上かつ、せん断速度4.86×102[1/秒]における溶融粘度が140℃で1×103[Pa・s]以下、132℃で5×103[Pa・s]以上である樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡樹脂絶縁層の気泡成長過程において、連続気泡の発生を抑えうる樹脂組成物及び、電圧定在波比を小さくし、減衰量を小さくする高周波同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の回線中継のための移動体通信施設やテレビの回線中継のためのマイクロ波通信施設では、高周波の同軸ケーブルが用いられる。高周波同軸ケーブルは、通信速度と通信容量の向上を目的として、使用周波数が高くなる傾向にある。
【0003】
これに伴い、減衰量(信号減衰量のこと)を小さくすることが要求されるようになった。同軸ケーブルの減衰量は、導体径に起因する導体損失と、絶縁層材料に起因する誘電体損失とを足した値である。導体損失は高周波同軸ケーブルの形状で決定されるため、変更できない。そこで、誘電体損失を小さくすることで減衰量を小さくすることが望まれる。
【0004】
誘電体損失は、(1)式のような関係で示される。
【0005】
誘電体損失∝√ε×tanδ×f (1)
εは誘電率
tanδは誘電正接
fは周波数
【0006】
つまり、誘電体損失は誘電率の平方根、誘電正接、および周波数に比例する。従って、使用周波数が高い高周波同軸ケーブルにおいては誘電率および誘電正接を小さくすることが重要となる。
【0007】
絶縁層として、誘電率の低いポリエチレンなどの発泡樹脂材料を考えると、押出機の口金から吐出されたポリエチレン発泡樹脂絶縁層の気泡成長過程において、ポリエチレンの流動性が高いと気泡壁の流動により気泡が合一してしまい、独立した気泡が成長せずに連続気泡となりやすいという問題が起こる。このような気泡の粗大化は発泡絶縁層内のあらゆる場所で発生するが、冷却されにくい内部充実層付近で特に起こりやすい。
【0008】
この連続気泡は誘電体としての不均一性の原因となり、同軸ケーブルの電圧定在波比(VSWR)を増加させる。
【0009】
例えば、特許文献1では、導体上にオレフィン系樹脂からなる発泡体層と溶融破断張力が6〜20gであるポリオレフィン系樹脂からなる外層を形成する方法が記載されているが、導体と発泡体層の間に内部充実層が形成されていない。内部充実層がない場合には、発泡樹脂絶縁層が発泡する際の発泡剤の排出ガスが、導体側へ混入したり、異常発泡(巣状の巨大気泡ができる)が発生することがある。更に発泡樹脂絶縁層は発泡する際に外側に向けて拡径していくため、導体と発泡樹脂絶縁層との間に大きな隙間が生じ、ケーブルの電圧定在波比が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−302412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
電圧定在波比は、高周波同軸ケーブルに電流を流したときの誤差を意味し、この誤差は、連続気泡の発生により発生する。よって、高周波同軸ケーブルの特性向上を図るためには、連続気泡の発生を防止し、電圧定在波比を小さくする必要がある。
【0012】
本発明の目的は、上記課題を解決し、発泡樹脂絶縁層の気泡形状を独立気泡として安定化させうる樹脂組成物を提供すること、ならびに良好な伝送特性の高周波同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、このような連続気泡の発生を抑えた樹脂組成物を鋭意検討した結果、下記の発明に至った。
【0014】
第一の本発明は、密度950[kg/m3]以上かつ、せん断速度4.86×102[1/秒]における溶融粘度が140℃で1×103[Pa・s]以下、132℃で5×103[Pa・s]以上である樹脂組成物。
【0015】
第二の本発明は、内部導体の外周に、内部充実層、発泡樹脂絶縁層、外部導体を順に設けた高周波同軸ケーブルにおいて、上記発泡樹脂絶縁層が、密度950[kg/m3]以上かつ、せん断速度4.86×102[1/秒]における溶融粘度が140℃で1×103[Pa・s]以下、132℃で5×103[Pa・s]以上である樹脂組成物の発泡体により構成されることを特徴とする高周波同軸ケーブル。
【0016】
また、良好な伝送特性を与える同軸ケーブルの構造についての検討から、以下の発明に至った。
【0017】
上記外部導体は、コルゲート型の形状であり、上記発泡樹脂絶縁層の外径aがコルゲート波型の頂部での内径cおよび谷部での内径bと次の関係にあることが好ましい。
【0018】
1.05×b≦a≦0.98×c
【0019】
上記発泡樹脂絶縁層は、発泡剤として窒素、炭酸ガス等の不活性ガス単独あるいは混合ガスを使用することが好ましい。
【0020】
上記発泡樹脂絶縁層の発泡度は70%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高周波同軸ケーブルの伝送損失および電圧定在波比を小さくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態を示す高周波同軸ケーブルの図であり、(a)は断面図、(b)は端末部側面部である。
【図2】本発明の樹脂組成物の溶融粘度の温度依存性を示すグラフである。
【図3】本発明の高周波同軸ケーブルを製造する製造装置の要部構成図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す高周波同軸ケーブルの図であり、(a)は断面図、(b)は端末部側面部である。
【図5】本発明の一実施形態を示す高周波同軸ケーブルの縦断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態の高周波同軸ケーブルを製造する際の製造装置の押出機ヘッドの内部構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な一実施の形態を図1に基づいて詳述する。
【0024】
本発明の高周波同軸ケーブル1は、銅パイプからなる内部導体2の外周に、内部充実層3、発泡樹脂絶縁層4、外部導体6、外皮8を順に設けた高周波同軸ケーブル1において、上記発泡樹脂絶縁層4が密度950[kg/m3]以上かつ、せん断速度4.86×102[1/秒]における溶融粘度が140℃で1×103[Pa・s]以下、132℃で5×103[Pa・s]以上である樹脂組成物の発泡体からなるものである。
【0025】
外部導体6は、銅コルゲートを用いてリング状に形成され、上記発泡樹脂絶縁層4の外径aと外部導体6のコルゲート波型の頂部での内径cおよび谷部での内径bが次の関係にあることを特徴とする。
【0026】
1.05×b≦a≦0.98×c
【0027】
発泡樹脂絶縁層4の形成には、窒素、炭酸ガス等の不活性ガス単独あるいは混合ガスを発泡剤として使用し、その発泡度を70%以上とする。
【0028】
発泡度は、(2)式により求める。
【0029】
発泡度(%)=100−(発泡後の比重/発泡前の比重)×100・・(2)
【0030】
発泡後の比重、発泡前の比重は、例えば、東洋精機製自動比重計D−H−100を用い、JIS Z8807に従って測定するとよい。
【0031】
本発明の樹脂組成物の密度は、950[kg/m3]以上であること望ましい。
【0032】
巣の発生のない良好な発泡体を得るためには、樹脂組成物のせん断速度4.86×1012[1/秒]における溶融粘度が140℃で1×103[Pa・s]以下、132℃で5×103[Pa・s]以上であることが好ましい。
【0033】
樹脂組成物のせん断速度4.86×102[1/秒]における溶融粘度が140℃で1×103[Pa・s]以上であると、第二押出機22でのせん断発熱が大きくなるため、効果的に樹脂温度を低下させることができず、発泡樹脂絶縁層内に巣が発生する。
【0034】
また、樹脂組成物のせん断速度4.86×102[1/秒]における溶融粘度が132℃で5×103[Pa・s]未満であると、押出ヘッド25から押出した直後の気泡成長過程での樹脂組成物の溶融粘度が低くなるため、成長した気泡が合一してしまい、発泡樹脂絶縁層内に巣が発生する。
【0035】
本発明の発泡樹脂組成物材料としては、高密度ポリエチレン(HDPE)(密度942kg/m3以上)、中密度ポリエチレン(MDPE)(密度930〜942kg/m3)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(密度910〜929kg/m3)、低密度ポリエチレン(LDPE)(密度910〜929kg/m3)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)(密度880〜910kg/m3)などのポリエチレン、もしくはエチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体がなどのエチレン系共重合体が挙げられる。これらを単独または2種以上ブレンドして使用することができる。誘電特性と成形加工性の観点から、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンのブレンドが好適である。
【0036】
ポリエチレンを溶融状態から結晶化温度付近まで低下させると、部分的にポリエチレン結晶が形成されることにより、分子鎖の流動性が失われるため、急激に溶融粘度が増大する。高密度ポリエチレン(密度945kg/m3以上)、低密度ポリエチレン(密度910kg/m3以上930kg/m3未満)の結晶融点はそれぞれ、おおよそ125〜140℃および100〜125℃であり、ポリエチレンはいずれも密度が高いほど結晶融点は高くなる。高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンをブレンドすると、そのブレンド比率に応じて結晶融点が変化する。
【0037】
せん断速度4.86×102[1/秒]、140℃での樹脂組成物の溶融粘度が1×103[Pa・s]以下であることは、140℃で十分流動性が保たれているということである。
【0038】
このような組成物を得るためには、樹脂組成物が高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンのブレンド物からなり、ブレンド物中に低密度ポリエチレンが10質量%以上含まれていることが好ましく、かつ、樹脂流動性の指標であるメルトインデックス(MI)が0.2[g/10分]以上であることが好ましい。
【0039】
特に気泡の合一を防止できるため、高圧法により製造された低密度ポリエチレンが最も好ましい。
【0040】
高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンのブレンド物からなる樹脂組成物の溶融粘度を132℃で5×103[Pa・s]以上とするためには、ブレンドしたポリエチレン組成物の結晶融点を、高密度ポリエチレンと同レベルに保持しておくことが有効であり、前記ブレンド物中に高密度ポリエチレンが70質量%以上含まれていることが好ましい。
【0041】
溶融粘度が規定値を満たす場合、樹脂温度がプロセス温度から132℃まで冷却されることにより結晶化し固化する。従って、例えば第二押出機22の押出ヘッド25の温度を135℃程度、口金温度を130℃程度にコントロールすることにより、気泡成長後速やかに樹脂組成物を固化させ、気泡の合一や異常成長による巣の発生を効果的に抑制できる。
【0042】
また、ポリエチレンは高密度であるほど分子鎖の分岐が少ないので、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンのブレンド物からなる樹脂組成物の密度が、950[kg/m3]以上であることで樹脂組成物のtanδが小さくなる。
【0043】
溶融粘度は炉体径9.55mmのキャピラリーフローメータ(例えば東洋精機製キャピログラフなど)に内径0.5mm、長さ2.5mmのフラットキャピラリを適用し、キャピラリ部における樹脂せん断速度4.86×102[1/秒]を与えるピストン押込み速度で測定する。
【0044】
本発明に用いられる発泡核剤としてはタルク、クレー、シリカ、窒化ボロン、金属酸化物、ゼオライトなどの無機化合物や有機発泡剤を使用することができる。有機発泡剤としては4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジッド(OBSH)あるいはアゾジカルボンアミド(ADCA)を用いることができる。
【0045】
高発泡化できる発泡核剤の含有量は特に規定しないが、樹脂組成物材料100重量部に対して0.001〜0.2重量部が好適である。この範囲内であると、適度な発泡度が得られると共に、樹脂組成物の誘電正接を低く抑えることができる。
【0046】
発泡核剤の添加方法は、樹脂に対し直接規定量を混練することができる。より好適には、まず、発泡核剤の濃度が発泡コンパウンドにおける濃度の10〜100倍となる核剤マスターバッチを製造しておき、この核剤マスターバッチを樹脂組成物にドライブレンド法により添加して発泡コンパウンドを得る方法である。この方法を用いると、発泡核剤の分散が向上する。
【0047】
樹脂組成物の発泡方法には、化学発泡と物理発泡とがある。化学発泡は分解ガスで発泡するため、分解残渣が残り、この分解残渣が高周波同軸ケーブルの電気特性の悪化を招く。物理発泡には、フロンガスによる発泡、炭化水素ガスによる発泡、不活性ガスによる発泡があるが、フロンガスは環境保護の点から使用不可であり、炭化水素ガスは引火性があるので好ましくないため、不活性ガスを用いるのが好適である。
【0048】
本発明においては、窒素、炭酸ガス等の不活性ガス単独あるいは混合ガスを発泡剤として使用した。
【0049】
発泡樹脂絶縁層の発泡度は70%以上である。これにより、誘電率および誘電正接(tanδ)の低下という効果があり、同軸ケーブルの伝送損失を低減できる。発泡度は発泡絶縁層製造時の押出機へのガス注入量および樹脂の目付け量を変化させることで調整可能である。
【0050】
発泡成形においては、気泡成長過程での樹脂温度が融点に近いほど発泡体の構造が早く固定されるため、気泡成長と同時に構造を固定する必要がある。これを実現するためにはプロセス温度の低温化が有効である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
まず、本発明の高周波同軸ケーブルの製造装置を説明する。
【0053】
図3は、本発明の高周波同軸ケーブルの製造装置から外部導体6及び外皮8を設ける工程を省いたものである。
【0054】
図3の製造装置は、発泡コンパウンドを投入するホッパ24と、不活性ガスを注入するガス注入装置23と、発泡コンパウンドと不活性ガスの混練を行う第一押出機21と、その混練物を発泡に適した温度まで下げる第二押出機22と、内部導体2を送り出す送出機29と、内部導体2を引き延ばし所定のサイズに調整するための延伸機30と、内部導体2に対して内部充実層3を形成する内部充実層押出機27と、内部充実層3までが形成された中間製品に対して発泡樹脂絶縁層4を形成する押出ヘッド25と、発泡樹脂絶縁層4までが形成された中間製品を冷却する冷却水槽26と、高周波同軸ケーブル1を巻き取る巻取機31とを備える。
【0055】
次に、本発明の高周波同軸ケーブルの製造方法について説明する。
【0056】
図1に、本発明の高周波同軸ケーブルの断面図および、端末部側面図を示す。
まず、発泡核剤を低密度ポリエチレンに練り込んで核剤マスターバッチを製造し、その核剤マスターバッチを低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンの混和物に添加し、ドライブレンドして発泡コンパウンドを製造する。
【0057】
この発泡コンパウンドを図3のホッパ24より第一押出機21に投入する。ガス注入装置23から炭酸ガスを注入し、混練する。その後、第二押出機22において、その混練物を発泡に適した温度まで下げていく。
【0058】
一方、内部充実層押出機27では、内部充実層3を内部導体2の外側に被覆形成し、その中間製品を押出ヘッド25に供給する。
【0059】
その後、押出ヘッド25において、内部充実層3の外側に外径22.5mm、発泡度73±0.5%に形成した発泡樹脂絶縁層4を押し出し被覆する。
【0060】
押出ヘッド25から吐出された絶縁層7までが形成された中間製品は、吐出直後にサイジングダイにより形状を整えることができる。サイジングダイは押出ヘッド25と冷却水槽26との間または冷却水槽26の中に設けることができる。
【0061】
絶縁層7までが形成された中間製品を冷却水槽26において冷却し、周知・慣用の方法で外部導体6及び外皮8を設ける。
【0062】
外部導体6は銅またはアルミニウムのコルゲート管により構成され、その波型形状はらせん状に溝を形成したスパイラルタイプおよび同心円上に溝を形成した環状コルゲートタイプがあり、いずれも適用可能である。同軸ケーブルの伝送損失を小さくできるため、環状コルゲートタイプがより好適である。
【0063】
ケーブル構造は、内部導体2に導体径9.0mm、厚さ0.25mmの銅パイプを使用し、内部充実層3を形成し、発泡樹脂絶縁層4及び外部導体6を表3記載の&3の構造で形成した。外部導体6は厚さ0.25mmの銅テープを発泡樹脂絶縁層4を包むように縦添えした後テープエッジを溶接し、その後環状コルゲート加工を施した。コルゲートピッチは6.90mmに設定した。
【0064】
図5にケーブル縦断面構造を示す。
【0065】
上記外部導体6は、コルゲート型の形状であり、発泡樹脂絶縁層4の外径aと外部導体6のコルゲート波型の頂部での内径cおよび谷部での内径bが次の関係にあることが必要である。
【0066】
1.05×b≦a≦0.98×c
【0067】
この関係は、コルゲート波型の頂部においては外部導体6と絶縁層7の間に適当な空気層を保つことによる伝送特性の向上をもたらし、コルゲート波型の谷部においては外部導体6による絶縁層7の固定効果によりケーブルに耐屈曲性を与えるものである。発泡樹脂絶縁層4の外径aが1.05×bより小さい場合、外部導体6による絶縁層7の固定が弱くなり、ケーブルに屈曲を与えたときに絶縁層7がずれることにより伝送特性が悪化する。
【0068】
発泡樹脂絶縁層4の外径aが0.98×cより大きい場合、外部導体6と絶縁層7の間に適当な空気層を保つことが出来なくなり、伝送特性が悪化する。
【0069】
図4は、本発明の高周波同軸ケーブルの他の実施形態を示すものである。発泡樹脂絶縁層44と外部導体46の間に外部充実層45を設けたものであり、冷却時に発泡樹脂絶縁層44に水が浸入し電気特性を悪化させる場合、これを防止することが可能である。外部充実層45の材料としては、例えばHDPEがある。
【0070】
図6に高周波同軸ケーブル41を製造する際の製造装置の押出ヘッド33の内部構造を示す。高周波同軸ケーブル41を製造する際は、外部充実層45を形成する工程が必要となるため、製造装置に外部充実層押出機35が加えられる。内部導体42に対して内部充実層43を形成する内部充実層押出機34と、発泡樹脂絶縁層44を形成する第二押出機32と、外部充実層45を押し出すための外部充実層押出機35とを備える。
【0071】
この製造装置では、内部導体42を押出ヘッド33に送り込み、押出ヘッド33で内部充実層43と発泡樹脂絶縁層44と外部充実層45とを同時に押し出して絶縁層47を一括に成型する。
【0072】
外部充実層45の厚さは特に限定されるものではないが、0.01〜0.3mmが好ましい。0.01mm以下とした場合、部分的に冷却水が浸入する可能性があり、0.3mmを越える場合非発泡層の割合が多くなるため減衰量の増大を招く。
【0073】
実施例#1〜#10および比較例$1〜$6の材料を用い、上記方法で、高周波同軸ケーブルを製造し、特性評価を行った。実施例#1〜#10は本発明の条件を全て満足し、比較例$1〜$6は本発明の条件を部分的に満足しない材料である。
【0074】
それぞれのケーブルの特性を評価し、その結果を表1、表2に示す。
また、実施例#1〜#10および比較例$1〜$6の材料のせん断速度4.86×102[1/秒]における溶融粘度の温度依存性を測定し、図2にその一例を示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
以下に評価方法について説明する。
【0079】
ケーブルの伝送損失およびVSWRの測定は、アジレント社のネットワークアナライザ8757Dを用いて行い、2.2GHzでの伝送損失が6.10dB/100m未満を◎、6.14dB/100m未満を○、6.14dB/100m以上を×とした。◎および○が合格である。VSWRは2.2GHzで1.10以下を合格とした。
【0080】
ケーブルの屈曲試験は、半径350mmのマンドレルをケーブル両側に固定し、90度左右屈曲を10往復行った。その後VSWRを測定し、2.2GHzで1.10以下を合格とし、屈曲前後でVSWRの変化がないものを◎、屈曲により増大するが1.10以下のものを○とした。
【0081】
材料物性が規定値を満足する実施例#1〜#10は伝送損失、電圧定在波比(VSWR)、耐屈曲性いずれも良好であった。実施例#1〜#7及び、実施例#9、#10は、132℃、4.86×102[1/秒]での溶融粘度が5×103Pa・s以上であり、良好な伝送特性を与える発泡体が形成されており、より好適である。
【0082】
132℃、せん断速度4.86×102[1/秒]での溶融粘度が5×103Pa・s未満の比較例$1〜$4の材料、および140℃、せん断速度4.86×102[1/秒]での溶融粘度が1×103Pa・s以上である比較例$5は発泡体に巣が観察され、この影響で電圧定在波比(VSWR)が大きくなった。また密度が規定値以下の比較例$6は、伝送損失が大きくなった。これはポリエチレン材料のtanδが大きいためと推察できる。
【0083】
次に、樹脂組成物材料を実施例#2の材料に固定し、表3の構成のケーブルを作製し、ケーブルの外部導体形状の影響を評価した。
【0084】
外部導体6のコルゲート谷部の内径bを変化させた&1〜&7では、bの値が小さくa/b≧1.05となる&1〜&5において、屈曲前後のVSWRが変化せず、特に良好な耐屈曲性を確認した。
【0085】
外部導体6のコルゲート頂部の内径cを変化させた&8〜&13では、cの値が大きくa/c≦0.98となる&10〜&13において、伝送損失を小さくし得ることを見出した。
【0086】
よって、発泡樹脂絶縁層として、せん断速度4.86×102[1/秒]における溶融粘度が140℃で1×103[Pa・s]以下、132℃で5×103[Pa・s]以上である樹脂組成物を用いることで、層内の巣を抑制し、電圧定在波比を小さくすることができ、また、上記発泡樹脂絶縁層外径aと外部導体6のコルゲート波型の頂部での内径cおよび谷部での内径bが、1.05×b≦a≦0.98×cの関係にあることで、良好な伝送特性が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0087】
1 高周波同軸ケーブル
2 内部導体
3 内部充実層
4 発泡樹脂絶縁層
6 外部導体
7 絶縁層
8 外皮
9 環状コルゲート
21 第一押出機
22 第二押出機
23 ガス注入装置
24 ホッパ
25 押出ヘッド
26 冷却水槽
27 内部充実層押出機
28 外部充実層押出機
29 送出機
30 延伸機
31 巻取機
32 第二押出機
33 押出ヘッド
34 内部充実層押出機
35 外部充実層押出機
41 高周波同軸ケーブル
42 内部導体
43 内部充実層
44 発泡樹脂絶縁層
45 外部充実層
46 外部導体
47 絶縁層
48 外皮

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度950[kg/m3]以上かつ、せん断速度4.86×102[1/秒]における溶融粘度が140℃で1×103[Pa・s]以下、132℃で5×103[Pa・s]以上である樹脂組成物。
【請求項2】
内部導体の外周に、内部充実層、発泡樹脂絶縁層、外部導体を順に設けた高周波同軸ケーブルにおいて、上記発泡樹脂絶縁層が、密度950[kg/m3]以上かつ、せん断速度4.86×102[1/秒]における溶融粘度が140℃で1×103[Pa・s]以下、132℃で5×103[Pa・s]以上である樹脂組成物の発泡体により構成されることを特徴とする高周波同軸ケーブル。
【請求項3】
上記外部導体は、コルゲート型の形状であり、上記発泡樹脂絶縁層の外径aがコルゲート波型の頂部での内径cおよび谷部での内径bと次の関係にあることを特徴とする請求項2記載の高周波同軸ケーブル。
1.05×b≦a≦0.98×c
【請求項4】
上記発泡樹脂絶縁層は、窒素、炭酸ガス等の不活性ガス単独あるいは混合ガスを発泡剤として使用したものであることを特徴とする請求項2または3記載の高周波同軸ケーブル。
【請求項5】
上記発泡樹脂絶縁層の発泡度は70%以上であることを特徴とする請求項4記載の高周波同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−46574(P2012−46574A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187739(P2010−187739)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】