説明

樹脂組成物の揮発成分の定量方法

【課題】少量のサンプルで簡便に短時間で、金型汚れと相関性のある樹脂組成物の揮発成分を定量する方法を提供する。
【解決手段】樹脂組成物を、開口部と該開口部を遮蔽する透光性の蓋部材を有する容器に入れ、該樹脂組成物を加熱し揮発成分を蓋部材に付着させた後、該蓋部材のヘーズ値を測定する樹脂組成物の揮発成分の定量方法であって、
該容器の開口部と蓋部材の間に、該開口部の面積に対し0.15〜0.45%の面積の隙間を設ける樹脂組成物の揮発成分の定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の揮発成分の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物を射出成形、押出成形、プレス成形等で成形する際、成形時の加熱により樹脂組成物からの熱分解物や添加剤などの揮発成分が金型に付着し金型汚れが生じる。汚れた金型を用いて成形をおこなうと、成形品の外観不良が発生する。さらに、金型汚れの除去作業を頻繁に行わなければならず、作業効率の低下、コストアップになるため、揮発性成分が少なく金型汚れの少ない樹脂組成物の開発が求められている。
【0003】
樹脂組成物の金型汚れ性を評価する方法として、実際に樹脂組成物を成形して金型付着物の量を確認する方法があるが、金型汚れを確認するためには数百〜数千ショット成形しなければならず、多量のサンプルが必要で試験にも時間を要する。
【0004】
また、加熱抽出GC/MS法を用いて、樹脂組成物の揮発成分を定量し、金型汚れを推定する方法があるが、この方法で測定できるのは比較的低分子量の揮発成分に限られ、金型汚れの要因になり得るオリゴマー成分や高分子量の揮発成分を検出しきれず、実際の金型汚れとの相関が不十分であった。
【0005】
さらに、特許文献1には、透光性の蓋部材を有する密閉された容器にゴム組成物を収納し、容器を加熱した後、蓋部材のヘーズ値を測定することによってゴム組成物からの揮発分を定量する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2002−372494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしこの方法で樹脂組成物の揮発分を定量した場合、サンプルを入れた容器が密閉されているために、実際の成形時には金型を開き成型物を取り出す際に金型表面より揮発し金型汚れに影響しない分子量の低い揮発成分も蓋部材に付着するため、測定結果のばらつきが大きく、蓋部材のヘーズ値を測定することによって定量した揮発成分の量と、実際の金型汚れとの相関が不十分であるという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、少量のサンプルで簡便に短時間で、金型汚れと相関性のある樹脂組成物の揮発成分を定量する方法にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、樹脂組成物を、開口部と該開口部を遮蔽する透光性の蓋部材を有する容器に入れ、該樹脂組成物を加熱し揮発成分を蓋部材に付着させた後、該蓋部材のヘーズ値を測定する樹脂組成物の揮発成分の定量方法であって、該容器の開口部と蓋部材の間に、該開口部の面積に対し0.15〜0.45%の面積の隙間を設ける樹脂組成物の揮発成分の定量方法にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、少量のサンプルで簡便に短時間で、樹脂組成物を加熱成形する際の金型汚れの程度を推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の定量方法に用いる容器の一例を図1に示す。
【0011】
本発明では、測定サンプルとなる樹脂組成物を開口部2と該開口部を遮蔽する透光性の蓋部材3を有する容器1に入れ、該樹脂組成物を加熱し揮発成分を蓋部材3に付着させた後、該蓋部材3のヘーズ値を測定する。
【0012】
この際本発明では、容器1の開口部2と蓋部材3の間に、開口部2の面積に対し0.15〜0.45%の面積の隙間4を設けることが必要である。
【0013】
隙間4の面積は、実際の樹脂組成物の成形時に金型汚れに影響しない分子量の低い揮発成分が蓋部材に付着しないように容器外へ排出する観点から0.15%以上が好ましく、金型汚れの原因となる揮発成分の容器外への排出を防ぐ観点から0.45%以下が好ましい。
【0014】
開口部2と蓋部材3の間の隙間4は、例えば、隙間4が所定の面積となるように切込みを入れたテフロン(登録商標)シート5を開口部2と蓋部材3の間に挿入することで可能となる。なお、開口部2と蓋部材3の間の隙間4は、その面積の合計が規定の範囲であれば、複数設けても良い。
【0015】
また、透光性の蓋部材3としては耐熱ガラスが挙げられ、透光性の程度は、JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が0.05%以下であることが好ましい。
【0016】
測定サンプルとなる樹脂組成物としては特に制限はなく、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等に、フィラー、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色料、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、帯電防止剤、カップリング剤、発泡剤、架橋剤、結晶核剤、熱安定剤等を添加した樹脂組成物が挙げられる。
【0017】
該樹脂組成物の形態は、実際に樹脂を成形する原料の形態(ペレットまたは粉体)が好ましい。
【0018】
また本発明では、樹脂組成物を加熱し揮発成分を蓋部材3に付着させるが、該樹脂組成物の加熱方法としては、容器1に樹脂組成物を入れた後に容器1を測定温度まで加熱する方法や、あらかじめ測定温度に加熱した容器1に樹脂組成物を入れても良い。
【0019】
また、測定温度は 実際の樹脂組成物を成型する際の成形温度が好ましく、成形温度−20℃〜成形温度+30℃であれば、実際の金型汚れとの相関が良好となる。なお、該測定温度は容器1の内部温度が当該温度になるように温度センサーなどで確認して設定することが好ましい。
【0020】
樹脂組成物の加熱時間は樹脂組成物の種類により異なるが、加熱時間が短いと揮発成分が十分に蓋部材3に付着せず、逆に長すぎると樹脂が分解してしまうため、3分〜30分が好ましく、10分がより好ましい。
【0021】
容器1の加熱媒体は、容器が加温部分に密接する構造のものが好ましく、ブロックヒーター、オイルバスなど挙げられる。
【0022】
本発明では、該容器1を加熱した後、揮発成分が付着した蓋部材3のヘーズ値を測定する。ヘーズ値が大きいほど、樹脂組成物からの揮発成分が多く、金型汚れが発生しやすくなる。
【0023】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。
【0024】
樹脂組成物A〜Cとして、下記の成分を表1に示す配合量で配合し、V型ブレンダーで5分間混合し、均一化させて、φ30mmのベント式二軸押出機(池貝(株)製、PCM30)に投入し、シリンダー温度270℃で、押し出して3mm×3mm角のペレットとしたものを140℃で2時間乾燥して用いた。
【0025】
ポリブチレンテレフタレート:三菱レイヨン(株)製、タフペットN1300、還元粘度ηsp/C:1.01、酸価:42meq/kg。
【0026】
ポリエチレンテレフタレート:三菱レイヨン(株)製、ダイヤナイトMA521H−D、固有粘度[η]:0.780。
【0027】
エポキシ樹脂:住友化学工業(株)製、スミエポキシESCN−220HH、数平均分子量:1200、エポキシ当量:230。
【0028】
エポキシ基含有シアン化ビニル−芳香族ビニル系共重合体:蒸留水115質量部、第三燐酸カルシウム1質量部、デモールP(花王(株)製)0.001質量部を反応釜に仕込み、攪拌した。これに、アクリロニトリル23質量部、スチレン76.7質量部、メタクリル酸グリシジル0.3質量部、t−ドデシルメルカプタン0.5質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.17質量部、ガファックGB−520(東邦化学工業社製)0.003質量部の混合物を加え、懸濁液にした後、75℃に昇温し、240分間保持して重合を完結し、エポキシ基含有シアン化ビニル−芳香族ビニル系共重合体を得た。前記共重合体の単量体単位の比率は、アクリロニトリル/スチレン/メタクリル酸グリシジル=24.9/74.7/0.4(質量比)であった。
【0029】
無機フィラー:沈降性硫酸バリウム、堺化学工業(株)製、B−30、屈折率:1.64、平均粒子径:0.3μm。
【0030】
離型剤:モンタン酸トリグリセリド、クラリアントジャパン社製、Licowax WE4。
【0031】
酸化防止剤:ホスファイト系酸化防止剤、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、アデカ社製、アデカスタブPEP−36。
【0032】
カーボンブラック:住化カラー(株)製、ブラックEXC−8A1772。
【0033】
(ヘーズ値の測定)
ヘーズメータ(日本電色(株)製、NDH2000)を用いてはJIS7136に準拠し、全光線透過率に対する拡散透過率の比で表す。
【0034】
(金型汚れ)
樹脂組成物A〜Cのペレットを、射出成形機(東芝社製、IS80FPB)、金型(♯14000で磨き上げたもの)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形し、100mm×100mm×厚さ3mmの板(成形品)を成型し、実際の金型の汚れを確認した。目視で確認した金型汚れが少なく、金型掃除の頻度が2時間に一回以下であれば耐金型汚れ性が良好であり○、金型掃除の頻度が2時間に一回より多い場合は耐金型汚れ性が悪く×とした。
【実施例1】
【0035】
耐熱ガラス製試験管(日電理化硝子(株)製、内径25mm、外径28mm×高さ200mm、ニューリップタイプ)を、アルミブロックバス((株)サイニクス製)に、アルミブロックバスの加温部上端から開口部までの距離が11cmになるようにセットし、試験管内部が280℃になるよう加熱した。試験管内部が280℃であることは棒温度センサー(熱電対)を用いて確認した。またブロックヒーターのブロックの口径は、試験管が隙間なく入る大きさのものを用いた。
【0036】
試験管に樹脂組成物Aを5g入れ、厚さ0.2mmのテフロン(登録商標)シートを内径25mm、外径34mmのドーナツ状に切抜いたものの内円側に、隙間が試験管の開口部の面積に対する隙間面積率が0.2%になるように切込みを入れたものを、試験管の開口部の上に合わせて載せ、その上から耐熱ガラス板(テンパックスガラス55mm×55mm×厚さ3mm)で蓋をし、10分間加熱後に、耐熱ガラス板のヘーズ値をヘーズメータで測定した。
【0037】
樹脂組成物B、Cについても同様にしてヘーズ値を測定した。測定結果を表1に示す。実際の金型汚れの少ない樹脂組成物A、Bではヘーズ値が小さいが、金型汚れが多い樹脂組成物Cではヘーズ値が大きくなり、実際の金型汚れとも相関のある結果が得られた。
【実施例2】
【0038】
試験管の口部の面積に対する隙間面積率が0.3%になるように、テフロン(登録商標)シートの切込みの大きさを変えた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物A〜Cのヘーズ値の測定を行った。
【0039】
測定結果を表1に示す。実際の金型汚れの少ない樹脂組成物A、Bではヘーズ値が小さいが、金型汚れが多い樹脂組成物Cではヘーズ値が大きくなり、実際の金型汚れとも相関のある結果が得られた。
【実施例3】
【0040】
試験管の開口部の面積に対する隙間面積率が0.4%になるように、テフロン(登録商標)シートの切込みの大きさを変えた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物A〜Cのヘーズ値の測定を行った。
【0041】
測定結果を表1に示す。実際の金型汚れの少ない樹脂組成物A、Bではヘーズ値が小さいが、金型汚れが多い樹脂組成物Cではヘーズ値が大きくなり、実際の金型汚れとも相関のある結果が得られた。
【0042】
(比較例1)
テフロン(登録商標)シートを用いずに、試験管の開口部に耐熱ガラス板を載せ、試験管の開口部の面積に対する隙間面積率を0%とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物A〜Cのヘーズ値の測定を行った。
【0043】
測定結果を表1に示す。試験管が密閉されているために、金型汚れに影響しない分子量の低い揮発成分も耐熱ガラス板に付着し、ヘーズ値のばらつきが大きくなった。
【0044】
(比較例2)
容器開口部の面積に対する隙間面積率が0.1%になるように、テフロン(登録商標)シートの切込みの大きさを変えた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物A〜Cのヘーズ値の測定を行った。
【0045】
測定結果を表1に示す。隙間面積率が小さいために、金型汚れに影響しない分子量の低い揮発成分も耐熱ガラス板に付着し、ヘーズ値のばらつきが大きくなった。
【0046】
(比較例3)
容器開口部の面積に対する隙間面積率が0.5%になるように、テフロン(登録商標)シートの切込みの大きさを変えた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物A〜Cのヘーズ値の測定を行った。
【0047】
測定結果を表1に示す。隙間面積率が大きいために、金型汚れに影響する揮発成分が耐熱ガラス板に付着せずに、容器外へ揮発するために、金型汚れが多い樹脂組成物Cのヘーズ値が小さくなり、実際の金型汚れとの相関が得られなかった。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の定量方法に用いる容器の一例を示した説明図である。
【図2】本発明の定量方法に用いる容器の開口部の説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1 容器
2 開口部
3 蓋部材
4 開口部2と蓋部材3の間の隙間
5 テフロン(登録商標)シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物を、開口部と該開口部を遮蔽する透光性の蓋部材を有する容器に入れ、該樹脂組成物を加熱し揮発成分を蓋部材に付着させた後、該蓋部材のヘーズ値を測定する樹脂組成物の揮発成分の定量方法であって、
該容器の開口部と蓋部材の間に、該開口部の面積に対し0.15〜0.45%の面積の隙間を設ける樹脂組成物の揮発成分の定量方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−175455(P2010−175455A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20010(P2009−20010)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】