説明

樹脂組成物の製造方法およびそれにより製造される樹脂組成物

機械的物性に優れるポリエステル樹脂組成物を低コストで製造することができる樹脂組成物の製造方法およびそれにより製造される樹脂組成物を提供する。
ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤を含む原料組成物を水分の存在下で混練する。前記各成分を混合して原料組成物を調製した後に混練しても良いし、混練する段階で前記各成分を混合して前記原料組成物としても良い。必要に応じて前記原料組成物が植物組織由来成分や無機フィラー等の添加剤を含んでいても良い。また、必要に応じ、前記混練工程において、前記原料組成物構成成分のうち水分以外の少なくとも一つを前記原料組成物中に添加しながら混練することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の製造方法およびそれにより製造される樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂は、軽くて、強く、さらに透明性に優れるため、飲料ボトル等に大量に消費されている。日本国では容器包装リサイクル法が施行される等、プラスチックに関してはリサイクル社会へ移行する施策が進められており、今後も世界的な潮流からPETボトル等のリサイクルが益々望まれている。一方、PET樹脂のリサイクル品すなわち再生品は、強度や成形加工性の点で問題があるため、機械的物性レベルの向上が求められている。さらにはPET樹脂の未使用品においても、将来リサイクル化される場合に備えるため、同様に機械的物性レベルの向上が求められている。
【0003】
ポリエステル樹脂の機械的物性レベル向上の手法のひとつとして、他のポリマー、例えばポリオレフィン(PO)樹脂とのアロイ化が試みられている。例えば、PET樹脂(使用済)を、アイオノマー樹脂を用いてポリエチレン樹脂(使用済)やポリプロピレン樹脂(使用済)と相溶化させてポリマーアロイ化し、その機械的物性を向上させる事により、前記材料の成形品の用途拡大が図られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、さらなる成形品用途の拡大を図るために、機械的物性を一段と向上させることが求められている。
【0004】
一方、PET樹脂等のポリエステル樹脂は、吸湿等により非常に加水分解しやすく、それが成形加工性や機械的物性の低下の原因となる。そのため、ポリエステル樹脂を成形加工する際はもちろん、例えばポリマーアロイ材料等に材料加工する際には、加水分解を防ぐため、厳密な含有水分の管理、すなわち真空乾燥等の高度な乾燥工程が必須であるとされている。とりわけ、廃棄PETボトルをフレーク状に粉砕したもの等は、粉砕工程後の洗浄工程で吸収した水分を熱風乾燥等によって除去するが、完全な除去は非常に困難である。そのためPET樹脂が加水分解を起こし、溶融安定性や機械的物性の低下を招き易い。
【0005】
PET樹脂から水分を除去する方法として、除湿乾燥機を用いる方法(特許文献2)や、未乾燥のPET樹脂をベント式射出成形機に直接供給してベントロから水分を除去する方法(特許文献3および4)等が提案されている。しかし、手間が掛かる、減圧が不充分になり易く、除湿効果が減退してしまう等の問題があった。
【0006】
また、PET樹脂をその他の樹脂やフィラー等と溶融混練する揚合には、PET樹脂の加水分解を防止するために、PET樹脂やその粉砕品の乾燥のみならず、フィラー等の乾燥も充分に行なう必要があるとされている。この乾燥の困難さや乾燥にかかるコストが、再生PETを利用した多様なアロイ化や改質、高機能化への展開を阻む要因になっている。特に、植物成分系、天然繊維系フィラーや微粉状、層状無機フィラー等は含水率や吸湿性が高く、PETの加水分解を避けるための乾燥に時間とコストがかかるという問題があった。
【0007】
【特許文献1】:特開2001−220473号公報
【特許文献2】:特開平11−123719号公報
【特許文献3】:特開平6−315959号公報
【特許文献4】:特開平7−60803号公報
【発明の開示】
【0008】
したがって、本発明の目的は、機械的物性に優れるポリエステル樹脂組成物を低コストで製造することができる樹脂組成物の製造方法およびそれにより製造される樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の製造方法は、樹脂組成物の製造方法であって、前記樹脂組成物は、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤を含む原料組成物から製造され、前記原料組成物を水分の存在下で混練する混練工程を有する製造方法である。
【0010】
本発明の製造方法によれば、機械的物性に優れるポリエステル樹脂組成物を低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
前記の通り、従来は、ポリエステル樹脂およびそれを含む組成物の加工の際には加水分解を防ぐための乾燥工程が不可欠であるとされてきた。そして、この乾燥の困難さや乾燥にかかるコストが、ポリエステル樹脂製品、特に再生PET樹脂製品の機械的物性向上および用途拡大を妨げていた。
【0012】
しかし、本発明者らは、鋭意検討の結果、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤を含む原料組成物を混練して樹脂組成物を製造する際には、前記原料組成物を乾燥する必要がないばかりか、逆に水分が存在することで機械的物性に優れる樹脂組成物が得られることを見出した。この知見は従来の常識を覆すものであり、原材料の含水量や吸湿性への懸念を払拭し、かつ乾燥工程等を不要とするポリエステル樹脂組成物の製造が可能であることが判明した。
【0013】
本発明の製造方法において、水分が存在することで前記のような効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、水分の存在により、前記相溶化剤の、ポリエステル樹脂およびポリオレフィン樹脂との反応性や親和性が向上し、アロイ化がさらに促進される。同時に、水分が前記相溶化剤により消費されることでポリエステル樹脂の加水分解反応が抑制される。このため極めて優れた機械的物性や成形加工性を有する樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0014】
本発明の製造方法により、機械的物性に優れるポリエステル樹脂組成物を低コストで製造することが可能となった。そればかりか、本発明の製造方法により得られた樹脂組成物を成形加工等する際にも、前記樹脂組成物の加水分解を防ぐための厳密な含有水分管理や真空乾燥工程等の乾燥工程を全て省略することもできる。このため機械的物性に優れる樹脂製品を低コストで製造することが可能である。
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこの実施形態には限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限りあらゆる変更が可能である。
【0016】
本発明の樹脂組成物の原料組成物は、前記の通り、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤を含むが、本発明の趣旨を逸脱しない限りこれら以外の成分を適宜含んでいても良い。以下、具体的に説明する。
【0017】
本発明に使用可能なポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤は特に限定されず、公知のものを用いることができる。しかし、本発明によれば、前記の通り機械的物性に優れる樹脂組成物が得られやすいため、例えば、従来は使用困難だったリサイクル材等も使いやすい。
【0018】
前記ポリエステル樹脂は特に限定されず、公知のものを適宜用いることができるが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含むことが好ましい。PETは、周知の通り、テレフタル酸を酸成分に、エチレングリコールをグリコール成分に用いた、主鎖にエステル結合を有する高分子量の熱可塑性ポリエステルである。その他、前記ポリエステル樹脂としては、例えば、酸成分として、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シュウ酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を、グリコール成分として、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を用いたものも使用できる。これら酸成分およびグリコール成分はそれぞれ一種類ずつ用いても良いし、二種類以上共重合させても良い。具体的なポリエステル樹脂としては、例えば、PETの他に、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート等がある。また、これらポリエステル樹脂は単独で用いても良いが、異なる化学構造のものを二種類以上併用しても良く、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)とポリブチレンテレフタレート(PBT)との混合物等であっても良い。
【0019】
前記ポリエステル樹脂の形態も特に限定されず、どのような形態でも良い。例えば、PETであれば、ボトル用、射出成形用、繊維用、フィルム用、シート用等として通常市販されているものを用いることができる。その他、未使用のペレット状製品はもちろん、PETボトル由来のものに代表される、フレーク状、ペレット状、パウダー状等のリサイクル(再生)品、ケミカルリサイクル品等、形状や使用・再生経緯を限定されない。
【0020】
本発明の製造方法に用いるポリエステル樹脂は、前記の通り未使用品でも良いが、例えば、リサイクル(再生)材由来のポリエステル樹脂を含むことが、製造コスト低減および資源の有効利用等の観点から好ましい。特に、PETボトルは、回収量が多いにも関わらず、前記の通り、従来は乾燥の困難さが再利用の妨げとなっていた。しかし、本発明の製造方法を用いれば、手間やコストのかかる乾燥工程を用いなくとも機械的物性等に優れるポリエステル樹脂組成物を製造できるため、使用済PETボトル等の資源としての利用価値を大いに高めることが期待できる。
【0021】
本発明に用いるPET樹脂の重合度は、特に限定されないが、固有粘度(25℃、オルソクロロフェノール中)が0.1〜1.0のものが好ましい。なお、本発明において、数値範囲を限定している場合は、厳密にその数値範囲内であっても良いが、およそ(約)その数値範囲内であっても良い。例えば、「固有粘度0.1〜1.0」と記載している場合は、固有粘度が、厳密に0.1〜1.0でも良いが、約0.1〜1.0でも良く、「20重量部以下」と記載している場合は、厳密に20重量部以下でも良いし、約20重量部以下であっても良い。
【0022】
また、本発明に用いるポリエステル樹脂は、高純度なものを用いても良いが、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で他の樹脂を含んでいても良い。前記他の樹脂の含有量は特に限定されないが、通常は前記ポリエステル樹脂の重量を超えない程度である。前記他の樹脂の種類も特に限定されないが、例えば、ポリスチレンやアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)の様なスチレン系樹脂、エンジニアリング樹脂等の熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂等が挙げられる。さらに、本発明に使用可能なポリエステル樹脂としては、主にガスバリヤ性を改良したPETボトル(例えば温ペット、ホットペットとも称される)から再生されたPET樹脂、および、ポリアミド樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂等を混合または混練したポリエステル樹脂、ならびに、それらをPET樹脂と多層化したり、シュリンクフィルムにして包装化したPET系ボトル、その他、各種成形品からの再生品や粉砕品等も挙げられる。なお、前記ポリアミド樹脂としては、例えばナイロン6、ナイロン66(ナイロンはデュポン社の商品名)等が挙げられ、とりわけメタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合して得られるポリアミド樹脂(ポリアミドMXD6と称されることがある)がよく用いられている。
【0023】
次に、前記ポリオレフィン(PO)樹脂について説明する。本発明に使用可能なPO樹脂は特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等の各種ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体およびブロック共重合体(任意に、プロピレンおよびエチレンと共重合可能な単量体、および架橋性単量体の少なくとも一方を含んでいても良い)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(エチレンとプロピレンとの比率は特に限定されず、ジエン成分含有量も特に限定されないが例えば50重量%以下)、ポリメチルペンテン、環状構造を含むポリオレフィン(例えば、シクロペンタジエンと、エチレンおよびプロピレンの少なくとも一方との共重合体)、エチレンまたはプロピレンの少なくとも一方とその他のモノマー(例えば、酢酸ビニル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸エステル、芳香族アルキルエステル、芳香族ビニル等のビニル化合物等であり、含有量は例えばエチレンまたはプロピレンに対し50重量%以下)とのランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト重合体等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独で用いても良いし二種類以上併用しても良い。また、これらを二種類以上併用する場合、必要に応じてグラフトコポリマー等の相溶化剤を併用することもできる。上記PO樹脂の製造方法は特に制限されない。また、PO樹脂の立体規則性に関しても特に限定されず、例えば、低アイソタクチシティーのものから、メタロセン触媒により製造される高立体規則性アイソタクチックまたはシンジオタクチックのもの等が挙げられる。
【0024】
前記ポリオレフィン樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびプロピレンとエチレンとの共重合体からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。これらのなかでも、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ならびに、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体およびブロック共重合体からなる群から選択される少なくとも一つを含むことがより好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレンを含むことが特に好ましい。
【0025】
また、PO樹脂のメルトフローインデックス(MFR)は特に制限されないが、50g/10min.以下が好ましく、10g/10min.以下がより好ましい。前記MFRの下限は特に制限されないが、例えば、0.1g/10min.以上である。
【0026】
次に、前記相溶化剤について説明する。本発明に用いる相溶化剤は特に限定されず、種類や構造を問わず用いることができる。前記相溶化剤は、例えば従来と同様のものが使用可能であるが、樹脂組成物の性能を向上させる観点から、例えば、ポリエステル樹脂とPO樹脂との反応性や親和性等を高めたり、相溶、アロイ化したり、これらの樹脂間の反応を促進したり、親和性を高めたり、お互いの分散性を向上したり、適切な形態制御を発現したりするのに適した相溶化剤が好ましい。前記相溶化剤は単独で用いても二種類以上併用しても良い。
【0027】
前記相溶化剤は、例えば、エチレン系共重合体、アイオノマー樹脂、および変性水添ポリマー成分からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。なお、本発明では、「エチレン系共重合体」とは、エチレン系不飽和化合物を含む共重合体を言い、エチレン系不飽和化合物以外の共重合成分としては、例えば、酸無水基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル等の極性基を含有する(変性された)化含物が好ましい。また、前記「エチレン系不飽和化合物」とは、エチレン結合すなわち炭素−炭素間二重結合を含む化合物を言い、例えばエチレンでも良いしそれ以外の化合物でも良い。
【0028】
前記エチレン系共重合体において、エチレン系不飽和化合物と共重合する化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸およびその無水物;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、テトラヒドロ無水フタル酸ジメチル等の不飽和カルボン酸のエステル;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、p−スチリルカルボン酸グリシジル等の不飽和モノカルボン酸のグリシジルエステル;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテントリカルボン酸等の不飽和ポリカルボン酸のモノグリシジルエステルあるいはポリグリシジルエステル;アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、o−アリルフェノールのグリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル等が挙げられる。前記エチレン系不飽和化合物は、例えば、オレフィン類、炭素数2〜6の飽和カルボン酸のビニルエステル類、炭素数1〜8の飽和アルコール成分とアクリル酸またはメタクリル酸とのエステル類およびマレイン酸エステル類およびメタクリル酸エステル類およびフマル酸エステル類、ハロゲン化ビニル類、スチレン類、ニトリル類、ビニルエーテル類およびアクリルアミド類等が挙げられる。より具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン−1、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリロニトリル、イソブチルビニルエーテルおよびアクリルアミド等が挙げられる。これらの中でもエチレン、プロピレンが好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0029】
前記エチレン系共重合体は、例えば、エチレンを第2成分として酢酸ビニル、アクリルアクリル酸メチル等の第3成分を共重合したものであれば、本発明の樹脂組成物の耐衝撃性をさらに向上させることができるという理由からより好ましい。前記第3成分は単独でも二種類以上併用しても良く、その量は特に限定されないが、例えば前記エチレン系共重合体の20重量%以下、好ましくは5〜15重量%である。これらは、一般に、不飽和エポキシ化合物との二元共重合体またはエチレンおよび不飽和エポキシ化合物を含む三元共重合体として使用される。
【0030】
本発明の相溶化剤に用いるエチレン系共重合体のなかでも、とりわけ好ましいのは、エポキシ基含有エチレン系共重合体である。本発明では、「エポキシ基含有エチレン系共重合体」とは、不飽和エポキシ化合物とエチレン系不飽和化合物とを共重合成分として含む共重合体を言う。前記エポキシ基含有エチレン系共重合体の組成比率に特に限定はないが、エチレン系不飽和化合物の合計100重量部に対して、共重合された不飽和エポキシ化合物が、例えば0.1〜50重量部、好ましくは1〜30重量部である。これらのエポキシ基含有エチレン系共重合体は単独で用いても良いし二種類以上併用しても良い。
【0031】
なお、本発明では、「不飽和エポキシ化合物」とは、その分子中に、エチレン系不飽和化合物と共重合し得る不飽和基およびエポキシ基を含む化合物を言い、例えば、不飽和グリシジルエステル類、不飽和グルシジルエーテル類等が挙げられる。より具体的には、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、イタコン酸グリシジルエステル類、アリルグルシジルエーテル、2−メチルアリルグルシジルエーテル、スチレン−p−グルシジルエーテル等が挙げられる。なかでもグリシジルメタアクリレートが特に好ましい。
【0032】
次に、本発明の相溶化剤に使用可能なアイオノマー樹脂は、特に限定されないが、例えば、(i)ホスト高分子の主鎖に部分的に側鎖イオン基が存在する側鎖型、(ii)両末端に例えばカルボン酸基が存在するホスト高分子あるいはオリゴマーに金属イオンが中和する事により高分子化したテレグリック型、(iii)主鎖に陽イオンを有し、そこに陰イオンが結合したアイオネン型、の各型のアイオノマー樹脂が挙げられる。
ホスト高分子のイオン基に対する対イオンとしては、Li、Na、K等のアルカリ金属イオン、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+等のアルカリ土類金属イオン、Zn2+、Cu2+、Mn2+、Ni2+、Co2+、Co3+、Fe3+、Cr3+等の遷移金属イオンが用いられる。また、陽イオンホスト高分子に対しては、例えばハロゲン化物イオン、特にCl、Br、I等の陰イオンが用いられる。アイオノマー樹脂は、特に限定されないが、例えば、エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー、エチレン−アクリル酸共重合体アイオノマー、プロピレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー、プロピレン−アクリル酸共重合体アイオノマー、ブチレン−アクリル酸共重合体アイオノマー、エチレン−ビニルスルホン酸共重合体アイオノマー、スチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー・スルホン化ポリスチレンアイオノマー、フッ素系アイオノマー、テレケリックポリブタジエンアクリル酸アイオノマー、スルホン化エチレン−プロピレン−ジエン共重合体アイオノマー、水素化ポリペンタマーアイオノマー、ポリペンタマーアイオノマー、ポリ(ビニルピリジウム塩)アイオノマー・ポリ(ビニルトリメチルアンモニウム塩)アイオノマー、ポリ(ビニルベンジルホスホニウム塩)アイオノマー、スチレン−ブタジエンアクリル酸共重合体アイオノマー、ポリウレタンアイオノマー・スルホン化スチレン−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンサルフェイトアイオノマー、酸−アミンアイオノマー、脂肪族系アイオネン、芳香族系アイオネン等が挙げられる。これらアイオノマー樹脂は、単独で用いても良いし、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。これらアイオノマー樹脂のうち、エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー、エチレン−アクリル酸共重合体アイオノマーが好ましい。
【0033】
また、本発明の相溶化剤に使用可能な変性水添ポリマー成分は、特に限定されないが、例えば、酸無水基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル等で変性された、水添スチレンブタジエンラバー、スチレン・エチレンブチレン・ポリエチレン−ブロック共重合体、ポリエチレン・エチレンブチレン・ポリエチレン−ブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン−ブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン−ブロック共重合体等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0034】
次に、本発明の製造方法では、前記の通り、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤以外の成分を適宜用いても良いが、例えば、前記原料組成物が、目的に応じた添加剤をさらに含むことが好ましく、前記添加剤は、例えば、植物組織由来成分および無機フィラーの少なくとも一方を含むことがより好ましい。前記添加剤により、場合によっては、本発明の樹脂組成物の機械的物性をさらに向上させたり、その成形品の外観や寸法精度の向上等を図ることもできる。さらに、塗装性、難燃性や導電性等の新たな機能性等を付与することも可能である。以下、前記添加剤についてより具体的に説明する。
【0035】
前記添加剤に使用可能な植物組織由来成分としては、例えば、木材(例えば、松、杉、ヒノキ等の針葉樹材、ブナ、シイ、ユーカリ等の広葉樹材)、籾殻、麦殻、竹、紙、古紙、ダンボール、パルプ、草、茶葉、牛乳パック、落花生の殻、サトウキビの滓、果実の殻、藁、スターチ、コーヒーやココアの製造時搾り残滓等が挙げられる。これらは、必要に応じて、粉砕機、ドライパルプ製造装置、レファイナー、グラインダ、エンドミル、パルパー、解繊機等を用いて粉砕物や繊維化物とした後に用いても良い。前記植物組織由来成分としては、ヤシやビンロウジュウ等の果実繊維、コウゾウ、ミツマタ、ジュート、ケナフ等のじん皮繊維、マニラ麻、サイザル葉脈繊維その他農作物の残滓等も挙げられる。これら植物組織由来成分は単独で用いても二種類以上併用しても良く、形状、大きさ等も特に限定されない。
【0036】
前記植物組織由来成分の種類は、本発明の樹脂組成物の成形品に要求される性能等に応じて任意に選択すれば良い。例えば、得られる異形成形品に高い木質感を付与する場合は、木粉や籾殻紛が好ましい。これら粉末は、樹脂組成物が良好な表面外観を発現するためには、10メッシュ(網目幅2000μm)の金網を通過する大きさに微細化されていることが好ましく、より好ましくは50メッシュ(網目幅290μm)パス以下の大きさであり、さらに好ましくは100メッシュ(網目幅149μm)パス以下の大きさである。前記粉末の大きさの下限は特に限定されないが、例えば325メッシュ(網目幅44μm)パス以上である。
【0037】
なお、前記植物組織由来成分は一般的に吸湿性である。本発明の製造方法では、前記の通り原料組成物を水分の存在下で混練することにより機械的物性等に優れた樹脂組成物が得られるが、前記植物組織由来成分の含水率が大きすぎる場合等は、必要に応じて適宜乾燥して用いても良い。
【0038】
また、前記添加剤に使用可能な無機フィラーとしては、タルク、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、マイカ、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、カーボンブラック、ケッチェンブラック、CNT(カーボンナノチューブ)、グラファイト、シリカ、シリカ繊維、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、グラファイト繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維、金属粉、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、セピオライト、アスベスト、スラグ繊維、ゾノライト、石膏繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、酸化ジルコニウム、酸化鉄、チタン酸バリウム、白土等が挙げられ、単独で用いても二種類以上併用しても良い。例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等は樹脂組成物に難燃性を付与する目的に適しており、カーボンブラック、ケッチェンブラック、CNT(カーボンナノチューブ)、炭素繊維等は、導電性を付与する目的に適している。
【0039】
前記無機フィラーの使用にあたっては、必要に応じて集束剤、表面処理剤等を併用することが好ましい。前記集束剤および表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物が挙げられる。これらの化合物は、あらかじめ無機フィラーに表面処理、集束処理等を施すことで用いるか、または原料組成物調製の際同時に添加してもよい。
【0040】
また、前記添加剤は、例えば、発泡剤を含んでいても良い。発泡剤は特に限定されず、樹脂組成物製造に用いられる公知の発泡剤等を適宜用いることができるが、例えば、二酸化炭素、窒素、炭化水素(例えばブタン、ペンタン等)、フロン、代替フロン等の気体、これら気体の超臨界流体、アゾジカルボンアミド(ADCA)、N,N−ジニトロソペンタテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、クエン酸、重曹等の熱分解型発泡剤、空気、水等が挙げられる。これら発泡剤は、単独で用いても良いし、必要に応じて2種以上を併用しても良い。なお、これら発泡剤は、その種類や発泡機構等に応じ、前記原料組成物における前記添加剤として、混練前または混練中に添加しても良いし、または、別途、混練後に添加しても良い。このとき、発泡剤を添加する方法も特に限定されないが、例えば、混合しても良いし含浸させても良い。なお、水を発泡剤として用いる場合は、例えば、別途、混練後(アロイ化後)に添加することが好ましい。
【0041】
その他、前記添加剤としては、目的に応じた所望の特性を樹脂組成物に付与するために、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の添加剤を適宜用いても良い。このような添加剤として、例えば、酸化防止剤、加工安定剤、光安定剤や紫外線吸収剤等の各種安定剤、難燃剤、可塑剤、軟化剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃改良剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、防腐剤、防カビ剤、防蟻剤等を配合することができる。前記着色剤は特に限定されず、どのようなものでも良いが、例えば二酸化チタン、酸化コバルト、群青、紺青、弁柄、銀朱、鉛白、鉛丹、黄鉛、ストロンチウムクロメート、チタニウムイエロー、チタンブラック、ジンククロメート、鉄黒、モリブデン赤、モリブデンホワイト、リサージ、リトポン、カーボンブラック、エメラルドグリーン、ギネー緑、カドミウム黄、カドミウム赤、コバルト青、アゾ顔料、フタロシアニンブルー、イソインドリノン、キナクリドン、ジオキサジンバイオレット、ペリノンペリレン等が挙げられ、これらを単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、天然の木質感を出すためには黄色酸化チタン、弁柄(酸化鉄)等が好ましい。
【0042】
また、前記原料組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、ポリエステル樹脂およびポリオレフィン樹脂以外の他の熱可塑性樹脂(例えば、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド等)、熱硬化性樹脂、および軟質熱可塑性樹脂等を含有することもできる。
【0043】
次に、本発明の製造方法についてさらに具体的に説明する。
【0044】
本発明の製造方法は、前記原料組成物を水分の存在下で混練する以外は従来の樹脂組成物の製造方法と同様に行なっても良いし、必要に応じて適宜変更を加えても良いが、例えば以下のようにして実施することができる。
【0045】
すなわち、まず、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、相溶化剤、および必要に応じて前記添加剤等を準備し、これらを含む原料組成物を調製する。前記原料組成物中におけるポリエステル樹脂の配合量は特に限定されないが、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤の重量の合計に対し、好ましくは10〜99.8重量%、より好ましくは20〜95重量%、さらに好ましくは50〜95重量%である。前記ポリエステル樹脂配合量が10〜99.8重量%の範囲内であれば、成形加工性および樹脂組成物の機械的物性等の観点から好ましい。
【0046】
前記原料組成物中におけるポリオレフィン(PO)樹脂の配合量は特に限定されないが、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤の重量の合計に対し、好ましくは0.1〜90重量%、より好ましくは5〜80重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。前記PO樹脂配合量は0.1重量%以上が樹脂組成物の機械的物性の観点から好ましく、90重量%以下が成形性や樹脂組成物成形品の剛性等の観点から好ましい。
【0047】
前記原料組成物中における相溶化剤の配合量は特に限定されないが、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤の重量の合計に対し、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.5〜15重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。前記相溶化剤配合量は0.1重量%以上が樹脂組成物の機械的物性の観点から好ましく、20重量%以下が製造コストや樹脂組成物の成形加工性等の観点から好ましい。
【0048】
前記原料組成物中における添加剤の配合量は特に限定されないが、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤の重量の合計100重量部当たり、好ましくは1〜200重量部、より好ましくは10〜100重量部、さらに好ましくは15〜80重量部である。前記添加剤配合量は、1重量部以上が、樹脂組成物の機械的物性のさらなる向上や新たな機能の付与効果等の観点から好ましく、200重量部以下が、樹脂組成物の成形加工性や成形品の外観等の観点から好ましい。
【0049】
次に前記原料組成物を水分の存在下で混練して目的の樹脂組成物を得る。以下、混練条件等について具体的に説明する。
【0050】
本発明の製造方法では、前記各成分を混合して原料組成物を調製した後に混練しても良いし、混練する段階で前記各成分を混合して前記原料組成物としても良い。また、必要に応じ、前記混練工程において、前記原料組成物構成成分のうち水分以外の少なくとも一つを前記原料組成物中に添加しながら混練することが好ましい。例えば、前記添加剤が発泡剤を含む場合、発泡剤は、前述の通り、その種類や発泡機構等に応じ、混練前に前記原料組成物中に含有させても良いし、混練中に添加しても良い。また、発泡剤は、場合によっては、混練後に別途添加して良いことも前述の通りである。
【0051】
本発明の製造方法では、水分は、その成分内容や温度の制限は特に無く、例えば水道水、井戸水、工業用水、蒸留水、飲料専用水、自然・天然水、河川・湖水、湧出水、水蒸気等が挙げられるが、いずれも不純物の極力少ないものが好ましい。また、前記水分として、氷塊、氷粉、氷粒等を用いても良い。前記水分の温度は特に限定されず、室温でも問題ないが、より高温であれば、相溶化剤の機能を高める観点や、混練装置の運転性や効率の向上を図る観点から好ましい。具体的には、前記水分は、温度40℃以上の水および水蒸気の少なくとも一方を含むことが好ましく、80℃以上の熱水や水蒸気を含むことがより好ましい。混練方法も特に限定されないが、例えば、せん断力による練りを加えることが可能な混練装置を用いて混練することができる。前記混練装置も特に限定されないが、例えば、ロールニーダー、バンバリーミキサー、インターミックス、一軸押出機、二軸押出機等が挙げられ、好ましくは二軸押出機、より好ましくはベント(脱気口)等の孔部を一つ以上備える二軸押出機である。また、前記混練装置は一種類のみ用いても良いが、二種類以上の混練装置を用い、複数回混練しても良い。
【0052】
前記原料組成物に対する水分の添加方法も特に限定されず、例えば、あらかじめ前記原料組成物が水分を含む状態で前記混練工程に移行しても良いし、前記混練工程において、前記原料組成物中に水分を添加しながら混練しても良い。もちろん、あらかじめ前記原料組成物が水分を含む場合でも、必要に応じて前記混練工程中に適宜水分を添加して良い。特に、前記混練工程において、前記原料組成物構成成分のうち水分以外の少なくとも一つを前記原料組成物中に添加しながら混練する場合は、前記原料組成物中に水分を添加しながら混練することがより好ましい。
【0053】
前記原料組成物に対する水分の添加量は特に限定されないが、本発明の効果を充分に発揮する観点から、多すぎずかつ少なすぎない量に適宜設定することが好ましい。具体的には、前記原料組成物が水分を含む状態で前記混練工程に移行する場合、前記混練工程移行直前の前記原料組成物中の水分含有量が、水分以外の前記原料組成物構成成分の合計100重量部当たり0.01〜20重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜10重量部、さらに好ましくは0.05〜7重量部である。前記水分含有量がこのような範囲であれば本発明の効果が充分に発揮されやすく、また、混練装置が例えば押出機の場合、前記水分含有量が20重量部以下であればスクリュー後方部への水分の逆流現象等が発生し難いため好ましい。
【0054】
また、前記混練工程において、前記原料組成物中に、水分および前記原料組成物構成成分のうち水分以外の少なくとも一つを添加しながら混練する場合は、前記水分の1時間当たりの添加量は、上記と同様の観点から、水分以外の前記原料組成物構成成分の1時間当たりの添加量合計100重量部当たり0.01〜20重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜10重量部、さらに好ましくは0.05〜7重量部である。なお、水分以外の前記原料組成物構成成分の添加方法として、例えば、押出機等の混練装置の材料供給口から供給する方法を用いることができ、その場合、水分以外の前記原料組成物構成成分の添加量(供給量)を、混練押出吐出量もしくは押出吐出量、または単に押出量、吐出量等と呼ぶことがある。
【0055】
前記原料組成物に対する水分添加量の好ましい範囲は前記の通りであるが、この水分添加量は、例えば前記原料組成物における各構成成分の配合量等に応じて適宜調整すると、特に本発明の効果が発揮されやすい。前記各構成成分として使用する具体的な物質の種類等にもよるので一概には言えないが、前記原料組成物中において相溶化剤の含有率が大きい場合は水分添加量も多めにする方が本発明の効果が発揮されやすい傾向がある。また、相溶化剤ほどではないがポリオレフィン樹脂含有率も水分添加量との相関性があり、ポリオレフィン樹脂含有率が大きい場合は水分添加量を多めにする方が本発明の効果が発揮されやすい傾向がある。
【0056】
本発明の製造方法における原料組成物調製および水分添加の方法としては、より具体的には、例えば、
(i)事前にヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社の商品名)やタンブラーで所定量の水分を原料組成物に混合し、その後、前記原料組成物を混練装置へ供給する方法、
(ii)あらかじめ、水分以外の全ての原料組成物構成成分をヘンシェルミキサーやタンブラーで混合して原料組成物を調製後、あるいは、(自動)計量装置で個別に所定量の各原料組成物構成成分を混練装置の材料供給口へ供給しながら、その材料供給口から、所定量(水分以外の全原料組成物構成成分の供給量(押出吐出量)見合い)の水分を、一定量ずつ供給する方法、
(iii)あらかじめ、水分以外の全ての原料組成物構成成分を、ヘンシェルミキサーやタンブラーで混合した後、あるいは、(自動)計量装置で個別に所定量の各原料組成物構成成分を混練装置の材料供給口へ供給しながら、材料供給口以外の1ヶ所以上のベント等の孔部から、所定量(水分以外の全原料組成物構成成分の供給量(押出吐出量)見合い)の水分を一定量ずつ供給する方法、
(iv)あらかじめ、水分以外の各原料組成物構成成分の所定量を(自動)計量装置で個別に混練装置の材料供給口や他の孔部へ併行供給しながら、同時に、混練装置の材料供給口や材料供給口以外の1ヶ所以上のベント等の孔部から、所定量(水分以外の全原料組成物構成成分の供給量(押出吐出量)見合い)の水分を一定量ずつ供給する方法、等が挙げられる。
【0057】
上記以外の混練条件は特に限定されず、例えば各成分の溶融や混練がスムーズに行なわれるように適宜設定すれば良い。温度設定は、混練時において、混練装置のシリンダー等の内部温度を、例えば260℃〜310℃の範囲とすることが好ましく、270℃〜300℃の範囲がより好ましい。また、混練装置が二軸押出機等の連続押出機の場合のスクリュー回転数は、各成分を充分混練出来るレベルであれば良いが、30〜1000rpmの範囲が好ましく、50〜600rpmの範囲がより好ましい。
【0058】
このように、前記原料組成物を水分の存在下で混練して目的の樹脂組成物を得ることができるが、本発明の樹脂組成物の製造方法は、さらにその他の工程を適宜含んでいても良い。例えば、混練して得られた樹脂組成物を適宜成形する工程をさらに含むことが好ましい。成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、例えば、混練装置が押出機である場合は、混練後、そのまま押出成形により成形すれば良い。
【0059】
また、本発明の樹脂組成物の製造方法は、前記原料組成物を水分の存在下で混練した後、発泡剤を添加して発泡させる工程をさらに含んでいても良い。または、前記原料組成物が、添加剤として発泡剤を含んでいても良く、発泡剤は混練前に前記原料組成物中に含有させても良いし、混練中に添加しても良いことは前述の通りである。この場合、前記原料組成物を水分の存在下で混練することにより発泡させても良いし、または混練後に発泡させても良い。本発明の樹脂組成物の製造方法における発泡方法は特に限定されないが、例えば、超臨界流体により発泡させる方法等が好ましく、超臨界二酸化炭素および超臨界窒素のうち少なくとも一方を用いる方法が特に好ましい。また、混練後に発泡させる方法としては、例えば、いわゆる注型発泡等がある。
【0060】
以上のようにして本発明の樹脂組成物の製造方法を実施することができる。
【0061】
本発明の樹脂組成物は、本発明の製造方法により製造されることで機械的物性に優れ、低コストで製造できるが、この製造方法に限定されず、どのような製造方法で製造しても良い。また、本発明の樹脂組成物の形態も特に限定されず、あらゆる形態が可能であり、例えば、公知の熱可塑性樹脂組成物と同様の形態で用いることができる。例えば、本発明の樹脂組成物が発泡体である場合は、発泡シート、発泡ボード、発泡マット、発泡厚板、発泡トレー、発泡型物等の形態が可能である。
【0062】
本発明の樹脂組成物の用途は特に限定されず、各種樹脂製品に幅広く使用できるが、例えば、建築用材料、日常生活用品、工業部品、土木資材、農業資材、包装資材、物流資材、導電材料等に使用できる。また、本発明の樹脂組成物が発泡体である場合は、例えば、断熱材、緩衝材、軽量化材、包装材、運搬材、被覆材等に使用できる。断熱材は、例えば、建築用断熱材、工業部品用断熱材、物流資材用断熱材等であっても良い。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法およびそれにより得られる樹脂組成物の実施例について説明する。
【0064】
[I]原材料
本実施例で製造した樹脂組成物の原材料は以下に示すとおりである。
(1)ポリエステル樹脂(成分A)
A−1:三菱レイヨン製PET樹脂(商品名ダイヤナイト「KR582」、固有粘度=0.65(25℃、オルソクロロフェノール中)、未使用ペレット)
A−2:お茶用等の市販のPETボトルの空きボトルを粉砕してフレーク状にしたもの(固有粘度=0.70(25℃、オルソクロロフェノール中))
(2)ポリオレフィン(PO)樹脂(成分B)
B−1:日本ポリエチレン製、直鎖状ポリエチレン(商品名「UF440」、MFR(190℃)=1.7g/min.、未使用ペレット)
(3)相溶化剤(成分C)
C−1:エチレン−グリシジルメタクリレート(6重量%)共重合体、ペレット
C−2:エチレン−グリシジルメタクリレート(12重量%)共重合体、ペレット
C−3:エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー、ペレット
(4)添加剤(成分D)
D−1:植物組織由来成分(松の粉砕粉、平均粒度=75メツシュ(210μm))
D−2:無機フィラー(タルク、平均粒径=5μm、中国産原石を粉砕分級したもの、パウダー)
(5)水分(成分E)
E−1:室温の水(水道水)
E−2:82℃の熱水(水道水を加熱し熱水化したもの)
【0065】
[II]混練装置
本実施例で用いた混練装置は、以下に示すとおりである。
BT30(商品名):プラスチック工学研究所製、二軸押出機、スクリュー径30mm
KTX80(商品名):神戸製鋼所製、二軸押出機、スクリュー径77mm
【0066】
[III]物性評価方法
本実施例で製造した樹脂組成物の物性評価は、次に示すとおりの評価方法で行った。
(1)試験片調製:本実施例で製造した樹脂組成物をJIS標準試験片(JIS−K7162の1A型、t=4mm)に成形し、それを用いて物性評価を行なった。前記試験片は、新潟鉄工製射出成形機AN100型(商品名)を用いて成形(成形温度260℃、金型温度80℃)することにより調製した。
(2)引張強度・伸び:東洋精機製ストログラフVE10D型(商品名)で測定した。測定条件はJIS−K7161、K7162に準拠し、引張速度=50mm/min.、気温23℃および相対湿度50%条件下で測定した。
(3)曲げ弾性率:東洋精機製ストログラフVE1OD型(商品名)で測定した。測定条件はJIS−K7171に準拠し、曲げ速度=2mm/min.、気温23℃および相対湿度50%条件下で測定した。
(4)アイゾット衝撃強度:東洋精機製デジタル衝撃試験機DG−UB型(商品名)で測定した。測定条件はJIS−K7110に準拠し、ノッチ付、気温23℃および相対湿度50%条件下で測定した。
(5)ロックウェル硬度:東洋精機製デジタルロックウェル硬度計E型(商品名)で測定した。測定条件はJIS−K7202−2に準拠し、Rスケール、気温23℃および相対湿度50%条件下で測定した。
【0067】
(樹脂組成物の製造)
以下のようにして15種類の樹脂組成物を製造した。それぞれを実施例1〜11および比較例1〜4とする。すなわち、まず、各組成物製造用の原料成分を、下記表1に示す比率で準備した。表1中、成分A〜Cの各成分の配合量は、成分A〜Cの重量合計に対する重量%で示している。成分Dの配合量は、成分A〜Cの重量合計100重量部に対する重量部で示している。そして、成分Eの添加量は、混練時における1時間当たりの添加量であり、成分A〜成分C(実施例9および10は成分A〜成分D)の1時間当たりの添加量合計100重量部に対する添加量(重量部)で示している。また、表1中に成分の種類および配合量を示していない場合、その成分は用いなかったことを示す。


【0068】
次に、各成分を混合および混練するに先立ち、比較例1〜4については成分A−1を120℃で10時間乾燥した。実施例1〜11については各成分の事前乾燥は特に行なわなかった。そして、実施例1〜11および比較例1〜4のそれぞれについて、前記表1に示す配合で、成分A、成分B、および成分C(比較例1、3および4については成分Cは用いず)を、タンブラーミキサーで充分混合した。この混合物を混練押出機BT30(但し実施例11のみKTX80)中に一定量ずつ添加しながら280℃で溶融および混練し、さらに造粒し、目的とする樹脂組成物をペレットとして得た。このとき、実施例9および10においては、成分D−1、D−2は、別供給口から、自動供給装置で所定量を同時供給した。また、実施例1〜11、比較例1および2については、水分(成分E)を、材料供給口から定量供給ポンプ(東京理化器械製)を用いて所定量注入しながら、溶融、混練および造粒した。
【0069】
(物性評価)
上記のようにして得られた樹脂組成物のペレットをそれぞれ射出成形機へ供して成形し、評価用試験片を調製して評価を行った。なお、射出成形に際しては、ペレットの事前乾燥は特に行なわなかった。その評価結果を下記表2に示す。


【0070】
表2から分かる通り、実施例1〜11の樹脂組成物は、いずれも良好な機械的物性を示した。特に、実施例1〜8および11の樹脂組成物は、材料の靭性に直結する引張伸び性が極めて優れていた。具体的には、実施例1〜8および11の樹脂組成物における引張伸び数値は、相溶化剤(成分C)を加えたが水分(成分E)を加えなかった比較例2の樹脂組成物と比べて約3〜6.5倍というきわめて高い数値を示し、その他の機械的物性についても比較例2と同等以上であった。
【0071】
さらに、添加剤(成分D)を加えた実施例9および10の樹脂組成物も全体として比較例2に劣らない機械的物性を示し、曲げ弾性率ではむしろ比較例2を大きく上回っていた。すなわち、実施例9および10の樹脂組成物は、植物組織由来成分や無機フィラーを大量に加えたにも関わらず、それらを加えない従来品に劣らない機械的物性が得られたことが分かった。特に、無機フィラー(タルク)を加えた実施例10の樹脂組成物は引張伸び値においても比較例2に劣らない値を示したことから、剛性および高い靭性を要求される様々な用途に本発明の樹脂組成物が有用であることが期待できる。
【0072】
また、実施例7、9および10の樹脂組成物を、それぞれポリ塩化ビニル用異型押出機で成形して建材用モデル長尺板(概略寸法…幅120mm×平均肉厚2mm)を得た。成形性は良好で、得られた建材用モデル長尺板は、良好な外観と表面硬度、強度および寸法精度を発現した。このように、本発明によれば、例えば、機械的物性等に優れるのみならず、ポリ塩化ビニルと同様の成形性を持ち、ポリ塩化ビニルの代替として使用可能な樹脂組成物を提供することもできる。
【産業上の利用の可能性】
【0073】
以上説明した通り、本発明によれば、機械的物性に優れるポリエステル樹脂組成物を低コストで製造することができる製造方法およびそれにより製造される樹脂組成物を提供することができる。本発明の樹脂組成物の用途は特に限定されず、各種樹脂製品に幅広く使用できる。特に、本発明によれば、優れた機械的物性、成形性、外観、強度および寸法安定精度を有し、また、ポリ塩化ビニル用成形設備への適用性にも優れる樹脂組成物を提供し、各種建材や、日常生活用品、工業部品等への重要な素材として利用することも可能である。さらに、本発明によれば、大量に発生しつつあるPETボトルの破砕品等のPET樹脂リサイクル材を主原料として樹脂組成物を製造する事も出来るため、環境保護面においても重要な材料製造技術および素材を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物の製造方法であって、前記樹脂組成物は、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤を含む原料組成物から製造され、前記原料組成物を水分の存在下で混練する混練工程を有する製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂が、リサイクル(再生)材由来のポリエステル樹脂を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料組成物中における前記ポリエステル樹脂の重量が、前記ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤の重量の合計に対し、10〜99.8重量%である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびプロピレンとエチレンとの共重合体からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料組成物中における前記ポリオレフィン(PO)樹脂の重量が、前記ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤の重量の合計に対し、0.1〜90重量%である請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記相溶化剤が、エチレン系共重合体、アイオノマー樹脂、および変性水添ポリマー成分からなる群から選択される少なくとも一つを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記原料組成物中における前記相溶化剤の重量が、前記ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤の重量の合計に対し、0.1〜20重量%である請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記原料組成物が添加剤をさらに含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記添加剤が、植物組織由来成分および無機フィラーの少なくとも一方を含む請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記原料組成物中における前記添加剤の重量が、前記ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂および相溶化剤の重量の合計100重量部当たり1〜200重量部である請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記原料組成物が水分を含む状態で前記混練工程に移行する請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
前記混練工程移行直前の前記原料組成物中の水分含有量が、水分以外の前記原料組成物構成成分の合計100重量部当たり0.01〜20重量部である請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記混練工程において、前記原料組成物中に水分を添加しながら混練する請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
前記混練工程において、前記原料組成物構成成分のうち水分以外の少なくとも一つを前記原料組成物中に添加しながら混練する請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
前記混練工程において、前記原料組成物中に水分を添加しながら混練し、前記水分の1時間当たりの添加量が、水分以外の前記原料組成物構成成分の1時間当たりの添加量合計100重量部当たり0.01〜20重量部である請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記水分が、温度40℃以上の水および水蒸気の少なくとも一方を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
前記添加剤が発泡剤を含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項19】
前記原料組成物を水分の存在下で混練することにより発泡させる、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記原料組成物を混練後に発泡させる、請求項18に記載の製造方法。
【請求項21】
前記原料組成物を水分の存在下で混練した後、発泡剤を添加して発泡させる工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項22】
請求項1に記載の製造方法により製造される樹脂組成物。
【請求項23】
発泡体である、請求項22に記載の樹脂組成物。
【請求項24】
発泡シート、発泡ボード、発泡マット、発泡厚板、発泡トレーまたは発泡型物である、請求項23に記載の樹脂組成物。
【請求項25】
請求項22に記載の樹脂組成物を用いた樹脂製品。

【国際公開番号】WO2005/066245
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509644(P2005−509644)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016661
【国際出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(592248455)fA.M株式会社 (3)
【Fターム(参考)】