説明

樹脂組成物並びにこれを用いた成形品及び多層構造体並びにその製造方法

【課題】 EVOH樹脂層とポリオレフィン系樹脂層とを含む多層構造体の回収物を再使用するにあたり、新規な改質剤成分を用いることにより、ダイリップ付着物の発生を抑制することができる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)エチレン含有率が20〜60モル%のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物、(B)ポリオレフィン系樹脂、及び(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を含む樹脂組成物において、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物を(B)ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部含有し、且つ(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を前記(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物100重量部に対して、1重量部以上、100重量部未満含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(以下、「EVOH樹脂」と称することがある)層とポリオレフィン系樹脂層とを含む多層構造体のリサイクルにあたり、溶融成形する際に生じる問題を解決した樹脂組成物、及び当該樹脂組成物を用いた成形品及び当該樹脂組成物層を少なくとも1層含む多層構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂層と、ガスバリア性に優れたエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(以下、「EVOH樹脂」と称する場合がある)層とが積層された多層構造体が、食品等の包装用フィルムやボトル、カップ等の容器として利用されている。このような多層構造体の成形時には、くず、端部等のスクラップが生じる。経済的観点、廃棄物削減の観点から、このようなスクラップを回収し、かかる回収物を再溶融成形した層(以下、「リサイクル層」という)が、新たな多層構造体の一部としてリサイクルして利用されている。
【0003】
しかしながら、ポリオレフィン系樹脂とEVOH樹脂との相溶性が悪いために、上記多層構造体の回収物を再溶融成形する際に、相分離した異物が生じ、これがダイリップなどにゲル状物として付着する問題がある。また、得られる成形品のリサイクル層は、着色しているなど、新たに製造する多層構造体の品質低下の原因となったりする。
【0004】
このため、スクラップの回収物を利用するにあたっては、上記のようなリサイクルに伴って生じる問題を解決できる改質剤を添加した樹脂組成物とし、これを再溶融して成形に供することが行われている。改質剤としては、例えば、特開平3−215032号公報(特許文献1)で提案されているエチレン含有率が高いエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物や、特開平3−72542号公報(特許文献2)で提案されているハイドロタルサイト類、高級脂肪酸などがある。
【0005】
また、リサイクル樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂とEVOH樹脂との相溶性不良(ダイリップ付着物の発生)を抑制しつつ、リサイクル層の変色を抑制する技術として、特開2002−234971号公報(特許文献3)では、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)とエチレン含有率が高いEVOH樹脂の混合物に、さらに高級脂肪酸金属塩、ハイドロタルサイトを添加した改質剤が提案されている。
【0006】
さらに、特開2009−97010号公報(特許文献4)では、ダイリップ付着物の発生を抑制し、外観に優れたリサイクル成形物を得るためのリサイクル樹脂組成物の改質剤として、EVAとエチレン含有率が高いEVOH樹脂の混合比率を特定範囲内とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−215032号公報
【特許文献2】特開平3−72542号公報
【特許文献3】特開2002−234971号公報
【特許文献4】特開2009−97010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、EVOH樹脂層とポリオレフィン系樹脂層とを含む多層構造体の回収物を再使用するにあたり、新規な改質剤成分を用いることにより、ダイリップ付着物の発生を抑制することができる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意検討の結果、EVOH樹脂層とポリオレフィン系樹脂層とを含む多層構造体のリサイクルにあたり(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を含有させることにより、上記課題を解決した。
すなわち、(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を含有させることにより、EVOH樹脂が湿分と水素結合を形成することを防止することが可能となり、EVOH樹脂の吸湿による劣化の促進を抑制し、また、C成分の共存により、EVOH樹脂の溶融混練時の粘度が安定化するため、EVOH樹脂の押出機内の滞留時間や熱履歴を抑制し、熱劣化を抑制することができる。このため、相分離した異物の劣化物であるダイリップ付着物の発生を抑制することができる。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、(A)エチレン含有率が20〜60モル%のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物、(B)ポリオレフィン系樹脂、及び(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を含む樹脂組成物において、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物を(B)ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部含有し、且つ(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を前記(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物100重量部に対して1重量部以上、100重量部未満含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、さらに、(D1)エチレン−酢酸ビニル系共重合体、及び(D2)エチレン含有率70モル%以上のエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物を含有することが好ましい。この場合、前記(D2)エチレン含有率70モル%以上のエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物の含有量が、(A)エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物及び(B)ポリオレフィン系樹脂の合計量100重量部に対して0.3重量部未満であることが好ましく、また、(D2)エチレン含有率70モル%以上のエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物の含有量が、(D1)エチレン−酢酸ビニル系共重合体100重量部に対して、1〜30重量部であることが好ましい。
【0012】
本発明は、上記本発明の樹脂組成物からなる成形品、上記本発明の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む多層構造体も包含する。
【0013】
本発明の多層構造体の製造方法は、(A)エチレン含有率が20〜60モル%のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物を含有する層と(B)ポリオレフィン系樹脂を含有する層とを有する多層構造体の回収物を溶融成形して得られる樹脂組成物層からなる層を少なくとも1層有する多層構造体の製造方法において、前記回収物を、前記(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物100重量部に対して1重量部以上、100重量部未満の(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物の存在下で、溶融成形する工程を含むことを特徴とする。
【0014】
上記本発明の多層構造体の製造方法において、前記(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物は、予め前記(A)エチレン含有率20〜60モル%のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物の含有層に含まれていることが好ましい。
【0015】
本発明は、上記本発明の樹脂組成物からなる成形品、当該樹脂組成物からなる組成物層を含む多層構造体も包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の樹脂組成物は、(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を所定量含有することで、EVOH樹脂とポリオレフィン系樹脂を含む混合物を溶融成形する際の相分離した熱劣化物に起因するダイリップ付着物の発生が抑制されるので、再溶融成形品へのかかる熱劣化物の混入を抑制することが可能である。すなわち、EVOH樹脂層含有多層構造体のスクラップや回収されたEVOH樹脂含有成形品のリサイクルに有効活用できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0018】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、必須成分として、(A)エチレン含有率20〜60モル%のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物、(B)ポリオレフィン系樹脂、及び(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物を含有する。以下、詳述する。
【0019】
〔(A)EVOH樹脂〕
本発明の樹脂組成物に含有される(A)EVOH樹脂は、主として、EVOH樹脂層をガスバリア層として含む多層構造体の成形の際に生じる端部やくず等のスクラップ、場合によっては回収された成形品に含まれているEVOH樹脂に由来する。従って、一般に食品や医薬品等の包装材料として用いられる、公知のEVOH樹脂が用いられる。
【0020】
エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に用いられるビニルエステル系モノマーは、一般的には酢酸ビニルであるが、他のビニルエステル系モノマー、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0021】
エチレンとビニルエステル系モノマーの重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより製造され、得られたエチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0022】
EVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定した値で、通常20〜60モル%、好ましくは25〜50モル%、特に好ましくは27〜48モル%である。一般的に、EVOH樹脂は、エチレン含有量が低すぎる場合は、高湿時のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が不足する傾向がある。
【0023】
前記EVOH樹脂におけるビニルエステル部分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて計測した値で、通常80〜100モル%、好ましくは90〜100モル%、特に好ましくは95〜100モル%である。一般的に、EVOH樹脂は、かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0024】
前記EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常0.5〜100g/10分であり、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは2〜35g/10分である。一般的に、EVOH樹脂は、MFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融成形が困難となる傾向がある。
【0025】
(A)成分としてのEVOH樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を例えば10モル%以下にて共重合していてもよい。かかる単量体としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタアクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0026】
特に、ヒドロキシ基含有α−オレフィン類を共重合したEVOH樹脂は、溶融成形性が良好になる点で好ましく、中でも1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
【0027】
1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂とは、具体的には下記構造単位(1)を有するEVOH樹脂である。
【化1】

【0028】
[一般式(1)において、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【0029】
〜Rに用いることができる有機基としては、特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0030】
〜Rは、いずれも通常炭素数1〜30、特には炭素数1〜15、さらには炭素数1〜4の飽和炭化水素基または水素原子であることが好ましく、水素原子が最も好ましい。従って、R1〜R6がすべて水素であるものが最も好ましい。
【0031】
また、一般式(1)で表わされる構造単位中のXは、代表的には単結合である。従って、上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R〜Rがすべて水素原子であり、Xが単結合である。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
【0032】
【化1a】

【0033】
尚、一般式(1)におけるXは、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、結合鎖であってもよい。結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2)m−、−(CH2O)mCH2−等のエーテル結合部位を含む構造、−CO−、−COCO−、−CO(CH2)mCO−、−CO(C64)CO−等のカルボニル基を含む構造、−S−、−CS−、−SO−、−SO−等の硫黄原子を含む構造、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−等の窒素原子を含む構造、−HPO−等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造、−Si(OR)−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−等の珪素原子を含む構造、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−等のチタン原子を含む構造、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等のアルミニウム原子を含む構造などの金属原子を含む構造等が挙げられる(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数であり、通常1〜30、好ましくは1〜15、さらに好ましくは1〜10である。)。これらの結合鎖のうち、製造時あるいは使用時の安定性の点から、−CHOCH−、および炭素数1〜10の炭化水素鎖が好ましく、より好ましくは炭素数1〜6の炭化水素鎖、特に好ましくは炭素数1である。
【0034】
また、(A)成分としてのEVOH樹脂は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の後変性がされていてもよい。
【0035】
さらに、本発明では、EVOH樹脂自体の各種物性を向上させる目的で、上記EVOH樹脂が、予め公知のホウ素化合物、リン酸またはその塩、低級脂肪酸塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(X)を含有していても良い。
【0036】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸またはその金属塩であり、例えば、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等のリチウム塩、メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等のナトリウム塩、メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等のカリウム塩などのアルカリ金属塩;また、ホウ酸カルシウム等のカルシウム塩、オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等のマグネシウム塩、オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等のバリウム塩などのアルカリ土類金属塩;ホウ酸コバルト等のコバルト塩、ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等のマンガン塩、オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等のニッケル塩、ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等の銅塩、メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等のホウ酸銀類、四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛等の亜鉛塩、オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等のカドミウム塩、メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等の鉛塩、ホウ酸ビスマス類等のビスマス塩、ホウ酸アルミニウム・カリウム等の複塩類など;その他、メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物類などがあげられる。中でも、好適にはホウ砂、ホウ酸およびホウ酸のアルカリ金属塩であり、特に好ましくはホウ砂、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)が用いられる。
【0037】
また、上記リン酸またはその塩としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等のナトリウム塩、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム等のカリウム塩などのアルカリ金属塩;リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム等のカルシウム塩、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム等のマグネシウム塩、リン酸バリウム、リン酸水素バリウムなどのバリウム塩などのアルカリ土類金属塩;および、リン酸水素亜鉛、リン酸水素マンガン等の塩をあげられる。好適にはリン酸およびそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩であり、特に好ましくはリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素マグネシウムが用いられる。
【0038】
さらに、上記低級脂肪酸塩としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の炭素数5以下の低級脂肪酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等);アルカリ土類塩(マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等);亜鉛金属塩;およびマンガン金属塩等をあげることができる。中でも、好適には酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等の炭素数5以下の低級脂肪酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が用いられる。
【0039】
これらの上記化合物(X)の含有量としては、例えば、上記化合物(X)がホウ素化合物の場合は、EVOH樹脂に対して、ホウ素換算で通常0.001〜1重量%含有するものであり、さらには0.002〜0.5重量%、特には0.002〜0.1重量%含有することが好ましい。また、上記化合物(X)がリン酸またはその化合物の場合は、EVOH樹脂に対して、リン酸根換算で通常0.0005〜0.1重量%含有するものであり、さらには0.001〜0.05重量%、特には0.002〜0.03重量%含有することが好ましい。さらに、上記化合物(X)が低級脂肪酸塩の場合は、EVOH樹脂に対して、金属換算で通常0.001〜0.05重量%含有するものであり、さらには0.0015〜0.04重量%、特には0.002〜0.03重量%含有することが好ましい。上記化合物(X)の含有量が少なすぎた場合、成形安定性や耐層間剥離性が不充分となることがあり、逆に、多すぎた場合、得られる成形物の外観が悪化する傾向がみられる。
【0040】
上記化合物(X)として、ホウ素化合物、リン酸またはその塩、低級脂肪酸塩の中から2種以上を併用する場合は、それぞれの含有量が上記の条件を満足することが好ましい。
【0041】
これらの上記化合物(X)をEVOH樹脂に含有させる方法としては、例えば、ア)含水率20〜80重量%のEVOH樹脂の多孔性析出物を、上記成分の水溶液と接触させて、上記化合物(X)を含有させてから乾燥する方法、イ)EVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)に上記化合物(X)を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、ついで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法、ウ)EVOH樹脂と上記成分を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法、エ)EVOH樹脂の製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の酸類で中和して、残存する酢酸等の酸類や副生成する酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属塩の量を水洗処理により調整したりする方法等をあげることができる。その効果をより顕著に得るためには、酸類やその金属塩の分散性に優れるア)、イ)またはエ)の方法が好ましい。
【0042】
なお、本発明において、以上のようなEVOH樹脂は、1種又は2種以上含まれていてもよい。リサイクル原料となる多層構造体が異なる2種以上のEVOH樹脂層を含む場合、原料となる多層構造体のEVOH樹脂をリサイクル層に含有する多層構造体を用いる場合などには、これらの原料に起因して、複数種類のEVOH樹脂が含まれることになる。
【0043】
また、リサイクル原料となる多層構造体のEVOH樹脂層に、EVOH樹脂以外の熱可塑性樹脂が含まれていてもよい。この場合、他の熱可塑性樹脂の含有量は、EVOH樹脂100重量部に対して通常20重量部未満、好ましくは1〜15重量部未満である。特に、該多層構造体がレトルト処理やボイル処理に供される食品用包装材として作成されたもの、あるいはその材料である場合には、EVOH樹脂層にポリアミド系樹脂が好ましく含有されている場合がある。ポリアミド系樹脂は、アミド結合がEVOH樹脂のOH基及び/又はエステル基との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、これにより、レトルト処理やボイル処理のような熱水処理に供される包装材であっても、EVOH樹脂の溶出が防止されるという利点があるためである。
【0044】
本発明の樹脂組成物における(A)EVOH樹脂の含有率は、通常、後述するポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.1〜30重量部であり、好ましくは0.3〜25重量部であり、特に好ましくは0.5〜20重量部である。
【0045】
本発明の樹脂組成物における(A)EVOH樹脂が、EVOH樹脂層とポリオレフィン系樹脂層を含む多層構造体の回収物に由来するものである場合、その含有量は多層構造体におけるEVOH樹脂層の厚み比に依存するものである。そのため、EVOH樹脂の含有量が少なすぎる場合には、必要に応じて新たにEVOH樹脂を適当量混合して、その含有量を調節してもよい。逆に、EVOH樹脂の含有量が多すぎる場合には、ポリオレフィン系樹脂を適当量混合して、その含有量を調節することも実用上好ましい。
【0046】
〔(B)ポリオレフィン系樹脂〕
本発明の樹脂組成物で用いられるポリオレフィン系樹脂は、主として、ポリオレフィン系樹脂層及びEVOH樹脂層を含む多層構造体のスクラップに由来するポリオレフィン系樹脂である。ここで、リサイクル原料として多層構造体を用いる場合において、かかる多層構造体を構成するポリオレフィン系樹脂層由来のポリオレフィン系樹脂だけでなく、EVOH樹脂層にポリオレフィン系樹脂が添加混合されていた場合には、当該ポリオレフィン系樹脂も、本発明の樹脂組成物において、(B)ポリオレフィン系樹脂として用いられる。
【0047】
以上のように、本発明の樹脂組成物で用いられるポリオレフィン系樹脂としては、一般に食品、医薬品等の包装用材料として用いられている、公知のポリオレフィン系樹脂が用いられる。
【0048】
具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および/または側鎖に有する重合体)等のポリオレフィン系樹脂をあげることができる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いられ、中でも、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−プロピレン(ブロックまたはランダム)共重合体、ポリプロピレン(PP)およびこれらのブレンド物が、経済性や機械的特性の点で好ましく、さらにポリエチレン、ポリプロピレン(PP)やエチレン−プロピレン(ブロックまたはランダム)共重合体が、リサイクル層の変色をより一層防ぎ、本発明の効果が特に優れるという点から、特に好ましい。
【0049】
上記(B)ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2160g)は、通常0.1〜50g/10分であり、さらには0.5〜30g/10分程度のものが好ましい。
【0050】
以上のような(B)ポリオレフィン系樹脂は、本発明の樹脂組成物におけるベース樹脂となる。従って、(B)ポリオレフィン系樹脂の含有量は、通常、樹脂組成物の60重量%以上であり、好ましくは70重量%以上であり、特に好ましくは75重量%以上である。
【0051】
本発明の樹脂組成物における(B)ポリオレフィン系樹脂が、(A)EVOH樹脂層と(B)ポリオレフィン系樹脂層を含む多層構造体の回収物に由来するものである場合、その含有量は、通常、多層構造体におけるポリオレフィン系樹脂層の厚み比に依存する。通常、このような多層構造体において、ポリオレフィン系樹脂層は水分によってガスバリア性が低下しやすいEVOH樹脂層を保護するために用いられるため、EVOH樹脂層よりもポリオレフィン系樹脂層の方が厚くなっている。従って、多層構造体の回収物を原料として用いる場合、ポリオレフィン系樹脂は主成分となる。
【0052】
〔(C)多価金属硫酸塩の完全脱水物又は部分脱水物〕
(C)多価金属硫酸塩の完全脱水物又は部分脱水物は、スクラップをリサイクルする際の溶融成形時に生じる問題点を解決する新規な改質剤として含有される。すなわち、C成分を含有することで、樹脂組成物を溶融成形する際のダイリップ付着物の発生が抑制される。
【0053】
本発明で用いる(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、多価金属硫酸塩水和物を乾燥脱水した化合物を意味する。つまり、水分子を結晶水として取り込む性質を有する多価金属硫酸塩であればよい。(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、多価金属硫酸塩の飽和水和物として安定な状態となるまで、結晶水を取り込むことができるので、飽和水和物になるまで取り込める結晶水の量が多いほど、乾燥能力に優れる。
また、(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、通常、常温常圧において固体である。
【0054】
(C)成分は、具体的には、Mm(SO4)n・xH2Oで表わされる。金属Mは多価金属であるが、EVOH樹脂の粘度安定化効果の点で、好ましくは2価又は3価の金属であり、より好ましくは2価の金属であり、さらに好ましくはアルカリ土類金属であり、もっとも好ましくはマグネシウムである。よって、式中、mは好ましくは1または2であり、m=1のときはn=1、m=2のときはn=3である。xは、各々の化合物の飽和水和物よりも小さい正の値であり、金属Mの種類により異なる。なお、xが0の場合が無水物(完全脱水物)に該当する。
【0055】
具体的には、上記金属塩を形成する2価の金属Mとしては、ベリリウム(硫酸ベリリウム(BeSO4・4H2O))、マグネシウム(硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O))、カルシウム(硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O))等のアルカリ土類金属の他、銅(硫酸銅(CuSO4)・5H2O))、亜鉛(硫酸亜鉛(ZnSO4・7H2O))、鉄(硫酸鉄(FeSO4・7H2O))などの2価イオンを形成できる遷移金属などが挙げられる。また、3価の金属Mとしては、アルミニウム(硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・16H2O))、鉄などが挙げられる。なお、括弧内に示す化合物は、各金属の飽和水和物の化学式である。
【0056】
(C)成分として用いられる、多価金属硫酸塩水和物の部分脱水物は、上記に示す飽和水和物の結晶水の一部が脱水されたものであればよく、通常、飽和水和物が有する結晶水量を100重量%とした場合、結晶水量が90重量%未満の結晶水を有する水和物が該当する。常温で、飽和水和物の方が安定に存在できるような部分脱水物を用いることが好ましいことから、結晶水量の70重量%未満が脱水された部分脱水物を用いることが好ましく、より好ましくは完全脱水物である。
【0057】
このような(C)成分である部分脱水物又は完全脱水物の化合物全体に対する含水量は、例えば、硫酸マグネシウムの完全脱水物又は部分脱水物の場合、熱重量測定装置(パーキンエルマー社製、熱重量測定装置「Pyris 1 TGA」)を用いて、550℃、30分にて測定した値で、通常0〜50重量%であり、好ましくは0〜40重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。ここで、測定値としての含水率は、化合物全体に対する水分量の割合であり、550℃で30分間保持後の重量変化量を含水量として測定し、測定開始時の化合物重量に対する含水率として算出した値である。
【0058】
なお、完全脱水物(無水物に相当)の場合、理論的には含水量が0であることから、上記含水率も0重量%であるが、吸湿等により、上記熱重量測定装置で測定される値が0重量%より多くなる場合がある。例えば、硫酸マグネシウムの完全脱水物(無水物)の場合、上記熱重量測定装置で測定される値は、0〜10重量%程度となる場合がある。これらは、1水和物(理論上の含水率13重量%)よりも含水量が少なく、吸湿したためと考えられる。吸湿した場合であっても、完全脱水物としては、上記熱重量測定装置で測定される値が0〜5重量%であることが好ましい。
【0059】
以上のような多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、いずれも常温で完全水和物が安定に存在できるので、無水物、部分脱水物として樹脂組成物に含有させた場合、組成物中に含まれる水を吸収して水和物を形成し、EVOH樹脂中に水分子が取り込まれることを防止、ないしは一旦EVOH樹脂中に取り込まれた水分子を捕獲することが可能である。従って、EVOH樹脂が、水の混入によりガスバリア性が低下することを抑制できる。尚、多価金属硫酸塩の飽和水和物として安定な状態となるまで、結晶水を取り込むことができるので、飽和水和物になるまで取り込める結晶水の量が多いほど、乾燥能力に優れる。
【0060】
具体的には、例えば、硫酸カルシウムでは、半水和物(x=1/2)、二水和物(x=2)などが知られており、半水和物は吸水して二水和物を形成しやすい。従って、xは2未満の数である。
【0061】
硫酸第一鉄は、湿潤環境中では、7水和物が安定であることから、7水和物の脱水物、すなわちx<7が好ましい。また、硫酸第二鉄では、6水和物、7水和物などが安定して存在することができることから、これらの脱水物、すなわちx<7が好ましい。
硫酸銅は、5水和物が安定して存在し、完全脱水(x=0)又は部分脱水物(x<5)では、吸湿性がある。従って、xは5未満の数である。
硫酸マグネシウムでは、6水和物、7水和物などが常温で安定である。従って、xは7未満が好ましく、より好ましくは6未満、さらに好ましくは1未満であり、最も好ましくは無水物(x=0)である。
【0062】
以上のような硫酸の2価または3価の金属塩は、いずれも常温で、完全水和物が安定に存在できるので、無水物、部分脱水物として樹脂組成物に含有させた場合、組成物中に含まれる水を吸水して水和物を形成し、EVOH樹脂中に水分子が取り込まれることを防止、ないしは一旦EVOH樹脂中に取り込まれた水分子を捕獲することが可能である。
【0063】
上記多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物を製造する場合、脱水温度は、100℃以上である化合物が好ましい。100℃以下で脱水しやすい金属塩を、一部結晶水を有している状態(部分脱水物)で使用した場合、EVOH樹脂との溶融混練時に、加熱により結晶水が蒸発し、これにより発泡が生じる場合がある。
【0064】
(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、樹脂組成物において、改質剤としての役割を果たすことができる。具体的には、溶融成形時のダイリップ付着物が減少する。すなわち、C成分の共存により、EVOH樹脂が湿分と水素結合を形成することを防止し、EVOH樹脂の吸湿による劣化の促進を抑制するため、また、EVOH樹脂の溶融混練時の粘度が安定化し、EVOH樹脂の押出機内の滞留時間や熱履歴を抑制するため、熱劣化を抑制し、ダイリップ付着物を抑制することができる。
【0065】
(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物の含有量は、(A)EVOH樹脂100重量部あたり、(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、1重量部以上、100重量部未満が好ましく、より好ましくは1〜45重量部、さらに好ましくは1〜30重量部、特に好ましくは5〜25重量部含有される。
【0066】
(C)成分の含有量が多すぎる場合、透明性が損なわれたり、凝集により成形時に成型機のスクリーンメッシュが閉塞しやすくなるなどの傾向があり、少なすぎる場合には(A)EVOH樹脂に入り込んだ水分を除去する効果が不足し、ひいては溶融成形に伴う問題点(ダイリップ付着物)が解消されにくくなる。
【0067】
〔(D)その他の改質剤〕
本発明の樹脂組成物には、リサイクル用樹脂組成物の改質剤として従来より公知のものを、さらに含有してもよい。
従来より知られている改質剤としては、例えば、(D1)エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA)、(D2)エチレン含有率70モル%以上のエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物、(D3)ハイドロタルサイト類、(D4)高級脂肪酸金属塩、(D5)共役ポリエン化合物などが挙げられる。
【0068】
(D1)エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA)
エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA)とは、エチレンと酢酸ビニルを共重合した重合体をいい、必要に応じて変性したものであってもよい。EVA中の酢酸ビニルの含有量としては、通常1〜60モル%であり、さらには2〜50モル%、特には3〜30モル%であることが好ましい。また、エチレン含有量は、通常、40−99モル%であり、好ましくは50−98モル%であり、特には70−97モル%であることが好ましい。
酢酸ビニル量及びエチレン含有量が上記範囲となるような場合、改質剤効果が顕著に得られる傾向がある。
【0069】
(D1)EVAのメルトフローレート(MFR)(190℃、荷重2160g)としては、通常0.1〜100g/10分であり、さらには0.5〜50g/10分、特には1〜30g/10分であることが好ましい。MFRが小さすぎる場合も大きすぎる場合も、他樹脂と混合時の他樹脂に対する分散性不良が起こる傾向がある。
【0070】
(D1)EVAは、本発明の趣旨を阻害しない範囲で不飽和カルボン酸またはその無水物を、付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性体であってもよい。かかる変性量は、例えば具体的には10モル%以下が好ましい。上記不飽和カルボン酸またはその無水物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸や、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸やその無水物、ハーフエステル等があげられ、中でも、無水マレイン酸が好適に用いられる。
【0071】
(D1)EVAは、(A)EVOH樹脂と(B)ポリオレフィン系樹脂の相溶化剤として作用することができ、これにより、(A)EVOH樹脂と(B)ポリオレフィン系樹脂とが溶融成形時に相分離すること(ゲル状物の発生)をさらに抑制し、また、得られるフィルムの白化などを抑制することができる。また、(D1)EVAは、後述する(D2)エチレン高含有EVOH樹脂とともに含有させることが好ましい。エチレン高含有EVOH樹脂と共存することにより、相溶化改善効果が高められる。
【0072】
(D2)エチレン高含有EVOH
(D2)エチレン高含有EVOHとは、改質剤として従来より用いられているエチレン含有率が高いEVOH樹脂をいい、水酸基含有量が少なく、高度なガスバリア性を有しない点で、EVOH樹脂(A)とは異なる樹脂である。通常、エチレン含有量70〜98モル%であり、好ましくは75〜95モル%、より好ましくは80〜95モル%である。エチレン含有量が少なすぎると、改質効果が不充分となる傾向にある。
【0073】
(D2)エチレン高含有EVOHは、エチレン含有量70モル%以上のエチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化することにより得られる。当該エチレン−酢酸ビニル系共重合体は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等により製造され、上記エチレン−酢酸ビニル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得るものである。(D2)エチレン高含有EVOHのケン化度としては、通常20モル%以上であり、さらには40〜99.5モル%、特には80〜99モル%であることが好ましい。すなわち、上記ケン化度が低すぎる場合、改質効果が不充分となることがある。
【0074】
(D2)エチレン高含有EVOHは、本発明の趣旨を阻害しない範囲で不飽和カルボン酸またはその無水物を、付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性体であってもよい。かかる変性量は、例えば具体的には10モル%以下が好ましい。上記不飽和カルボン酸またはその無水物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸や、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸やその無水物、ハーフエステル等があげられ、中でも、無水マレイン酸が好適に用いられる。
【0075】
また、(D2)エチレン高含有EVOHのメルトフローレート(MFR)(190℃、荷重2160g)としては、通常0.5〜100g/10分であり、さらには1〜50g/10分、特には2〜30g/10分であることが、分散性に優れ、改質効果に優れる点で好ましい。
【0076】
(D2)エチレン高含有EVOHは、エチレン含有量、ケン化度、分子量、MFR、密度、変性基やその変性量等の異なる、2種以上のエチレン高含有EVOHを混合して用いてもよい。
【0077】
また、(D2)エチレン高含有EVOH樹脂は、特に限定しないが、(D1)成分とともに用いられることが好ましい。(D1)EVAと併用する場合、(D2)エチレン高含有EVOHの含有量は、(D1)EVA100重量部に対して1〜30重量部であることが好ましく、より好ましくは1.5〜15重量部、さらに好ましくは2〜10重量部である。(D2)高エチレン含有EVOHの含有量が(D1)EVAに対して多くなりすぎる場合、得られる成形物の変色が大きくなる傾向にあり、逆に小さすぎる場合、ダイリップ付着物抑制効果が低下する傾向がある。
【0078】
また、本発明の樹脂組成物における(D2)エチレン高含有EVOHの含有量は、ベースとなる樹脂成分である(A)EVOH樹脂と、(B)ポリオレフィン系樹脂との合計量100重量部に対して、0.3重量部未満であることが好ましく、特には、0.1重量部以下であることが好ましい。
【0079】
(D3)ハイドロタルサイト類
ハイドロタルサイトとは、化学式MgAl(OH)16CO・4HOで表される天然鉱物の呼称であるが、最近では、上記天然鉱物と基本的に近似な構造を有する下記一般式で表される複水酸化物の総称としても、一般に使用されている。
【0080】
[(M12+)y1(M22+)y2]1-xx3+(OH)2n-x/n・mH2O ……(1)
[式中M12+は、Mg,Ca,SrおよびBaから選ばれる金属の少なくとも1種、M22+は、Zn,Cd,Pb,Snから選ばれる金属の少なくとも1種、Mx3+は3価金属、An-はn価のアニオン、x,y1,y2,mはそれぞれ0<x≦0.5、0.5<y1<1、y1+y2=1、0≦m<2で示される正数である。]
【0081】
上記一般式(1)中、M12+としては、Mg,Caが好ましく、M22+としては、Zn,Cdが好ましい。さらにMx3+としては、例えば、Al,Bi,In,Sb,B,Ga,Ti等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられるが、中でもAlが実用的である。また、上記一般式(1)中、An-としては、例えば、CO32-,OH-,HCO3-,サリチル酸イオン,クエン酸イオン,酒石酸イオン,NO3-,I-,(OOC−COO)2-,ClO4-,CH3COO-,CO32-,(OOCHC=CHCOO)2-,〔Fe(CN)64-等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられるが、中でもCO32-やOH-が有用である。
【0082】
そして、上記ハイドロタルサイト系固溶体の具体例として、[Mg0.75Zn0.250.67Al0.33(OH)(CO)0.165・0.45HO、[Mg0.79Zn0.210.7Al0.3(OH)(CO)0.15、[Mg1/7Ca3/7Zn3/70.7Al0.3(OH)(OOCHC=CHCOO)0.15・0.41HO、[Mg6/7Cd1/70.7 Al0.3(OH)(CHCOO)0.3・0.34HO、[Mg5/7Pd2/70.7Al0.30(OH)(CO)0.15・0.52HO、[Mg0.74Zn0.260.68Al0.32(OH)(CO)0.16、[Mg0.56Zn0.440.68Al0.32(OH)(CO)0.16・0.2HO、[Mg0.81Zn0.190.74Al0.26(OH)(CO)0.13、[Mg0.75Zn0.250.8Al0.20(OH)(CO)0.10・0.16HO、[Mg0.71Zn0.290.7Al0.30(OH)(NO)0.30、[Mg0.71Zn0.290.7Al0.30(OH)(OOCHC=CHCOO)0.15、[Mg0.14Ca0.57Zn0.280.7Al0.30(OH)2.3・0.25HO等があげられ、中でも、[Mg0.75Zn0.250.67Al0.33(OH)(CO)0.165・0.45HO、[Mg0.79Zn0.210.7Al0.3(OH)(CO)0.15、[Mg6/7Cd1/70.7Al0.3(OH)(CHCOO)0.3・0.34HO、[Mg5/7Pd2/70.7Al0.30(OH))(CO)0.15・0.52HO等があげられる。
【0083】
また、他にも、例えば、下記の一般式(2)で表される化合物があげられる。
Al(OH)2x+3y-2z(E)z・aHO ……(2)
[式中、MはMg,CaまたはZn、EはCOまたはHPOであり、x,y,zは正数、aは0または正数である。]
【0084】
上記一般式(2)で示される化合物として、具体的には、Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HO、MgAl(OH)14CO・4HO、MgAl(OH)16CO・4HO、MgAl(OH)20CO・5HO、Mg10Al(OH)22(CO)・4HO、MgAl(OH)16HPO・4HO、CaAl(OH)16CO・4HO、ZnAl(OH)16CO・4HO等があげられる。また、以上に限らず、例えば、MgAl(OH)・3HO中のOHの一部がCOまたはHPOに置換されたような化学式の明確に示されないものや、さらには結晶水の除去されたもの(a=0)であっても同等の効果が期待できる。特に、これらのうちMがMgで、EがCOである化合物が、成形安定性や相分離により発生する相分離異物の抑制効果を示して好適に使用される。
【0085】
(D3)ハイドロタルサイト類の粒子径については、例えば、平均粒子径は通常10μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下である。すなわち、上記平均粒子径が大きすぎた場合、本発明の効果を充分に得られない傾向がみられる。なお、ここで言う平均粒子径とはLUZEX法によって測定される値である。
【0086】
以上のようなハイドロタルサイト類のなかでも、成形安定性や相分離により発生する異物(ダイリップ付着物)抑制効果および着色抑制効果が高い点から、特に上記一般式(1)で示されるハイドロタルサイト系固溶体を用いることが好ましい。
【0087】
(D3)ハイドロタルサイト類の含有量は、特に限定しないが、ベースとなる(A)EVOH樹脂と(B)ポリオレフィン系樹脂の合計量100重量部に対して、0.00001〜1重量部の範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.0001〜1重量部である。(D3)ハイドロタルサイト類が多くなりすぎると、(A)EVOH樹脂と(B)ポリオレフィン系樹脂の相溶性以外の諸物性(得られる成形物の外観、機械的特性など)が低下する傾向にある。
【0088】
(D4)高級脂肪酸金属塩
高級脂肪酸金属塩としては、例えば、炭素数8以上(さらに好ましくは炭素数12〜30、特に好ましくは炭素数12〜20)の有機酸のリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩、亜鉛、銅、コバルト、鉄、マンガン等の遷移金属塩などの金属塩をあげることができる。中でも、成形安定性や相分離により発生する相分離異物(ダイリップ付着物)の抑制効果の点で、炭素数12〜20のアルカリ土類金属塩および遷移金属塩が好ましく、特には、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸のマグネシウム、カルシウム、亜鉛塩が好ましい。
【0089】
(D4)高級脂肪酸金属塩の含有量は、特に限定しないが、ベースとなる(A)EVOH樹脂、と(B)ポリオレフィン系樹脂の合計量100重量部に対して、0.00001〜1重量部の範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.0001〜1重量部であり、特に好ましくは0.001〜1重量部である。(D4)高級脂肪酸金属塩が多くなりすぎると、高級脂肪酸金属塩のブリードが起こりやすくなる傾向にある。
【0090】
なお、以上のような高級脂肪酸塩は、溶融混練前に配合して樹脂内に練りこまれていてもよいし(内添)、溶融混練して得られたペレットに付着させてもよく(外添)、これらを併用してもよい。
【0091】
(D5)共役ポリエン化合物
共役ポリエン化合物とは、炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造であって、炭素−炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。共役ポリエン化合物(D5)は、2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエン、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエン、あるいはそれ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエン化合物であってもよい。ただし、共役する炭素−炭素二重結合の数が8個以上になると共役ポリエン化合物自身の色により成形物が着色する懸念があるので、共役する炭素−炭素二重結合の数が7個以下であるポリエンであることが好ましい。また、2個以上の炭素−炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も共役ポリエン化合物(D5)に含まれる。共役ポリエン化合物(D5)は、さらに、共役二重結合に加えてその他の官能基、例えばカルボキシル基およびその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基およびその塩、リン酸基およびその塩、フェニル基、ハロゲン原子、二重結合、三重結合等の各種の官能基を有していてもよい。
【0092】
共役ポリエン化合物(D5)の具体例としては、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3−エチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1−メトキシ−1,3−ブタジエン、2−メトキシ−1,3−ブタジエン、1−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−ニトロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素−炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン化合物;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素−炭素二重結合3個の共役構造からなる共役トリエン化合物;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素−炭素二重結合4個以上の共役構造からなる共役ポリエン化合物などが挙げられる。これらの共役ポリエン化合物(D5)は1種類の化合物を単独で用いてもよく、2種類以上の化合物を併用することもできる。
【0093】
共役ポリエン化合物(D5)の添加量は、(A)EVOH樹脂と(B)ポリオレフィン系樹脂との合計量100重量部に対して通常0.000001〜1重量部であり、好ましくは0.00001〜1重量部、特に好ましくは0.0001〜0.01重量部であることがより好ましい。
なお、かかる共役ポリエン化合物は、EVOH樹脂(A)があらかじめ含有していることが好ましい。
【0094】
以上のような改質剤(D1)〜(D5)は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。2種以上を併用する場合の配合量についても、上記の範囲内にあることが好ましい。
【0095】
〔(E)他の熱可塑性樹脂〕
原料となるEVOH樹脂層含有多層構造体は、通常、ガスバリア層としてのEVOH樹脂層、防水層としてポリオレフィン系樹脂層とを、接着性樹脂を用いて積層していることが多い。また、該多層構造体は、所望の特性が得られる目的で他の樹脂層を有する場合がある。さらに、多層構造体のEVOH樹脂層においても、所望特性を付与するために、他の樹脂が含有される場合がある。特に、上述のように、該多層構造体がレトルト処理やボイル処理に供される食品用包装材として作成されたもの、あるいはその材料である場合には、熱水処理によるEVOH樹脂の溶出防止を目的として、ポリアミド系樹脂が好ましく含有される。以上のように、本発明の樹脂組成物では、原料として用いる多層構造体に含まれ得る他の熱可塑性樹脂が含まれていてもよい。
【0096】
(A)EVOH樹脂、(B)ポリオレフィン系樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、特に限定しないが、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニルエステル系樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂、ポリスチレン等の芳香族炭化水素系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー等のエラストマー類、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。また、接着性樹脂層として用いられる不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等であり、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物であってもよい。
【0097】
また、原料として用いるスクラップや回収された成形品に含まれていない場合であっても、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂のバージン品を新たに含有させてもよい。特に、本発明の樹脂組成物をレトルト食品用包装材の構成材料の一部として用いる場合には、包装体を熱水処理した後の包装材端部における、EVOH樹脂層の溶出を防止する点で、ポリアミド系樹脂を配合することが好ましい。ポリアミド系樹脂は、アミド結合がEVOH樹脂のOH基及び/又はエステル基との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、これにより、熱水処理時のEVOH樹脂の溶出を防止することができる
【0098】
該ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができる。
例えば具体的には、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ−ω−アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられる。また共重合ポリアミド系樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ−P−フェニレンテレフタルアミドや、ポリ−P−フェニレン−3,4’ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、上記のポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等のカルボキシル基やアミノ基で末端を変性した末端変性ポリアミド等が挙げられる。
【0099】
以上のような(E)他の熱可塑性樹脂の本発明の樹脂組成物における含有量は、通常20重量%以下であり、好ましくは15重量%以下である。
【0100】
〔(F)その他の添加物〕
本発明の樹脂組成物には、上記(A)EVOH樹脂、(B)ポリオレフィン系樹脂、(C)多価金属の硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物、(D)他の改質剤、(E)他の熱可塑性樹脂の他に、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば樹脂組成物全体に対して30重量%未満)で、滑剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶核剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、酸素吸収剤、アンチブロッキング剤等の添加剤を配合したりすることも可能である。
【0101】
これらの添加物は、原料となるスクラップや回収品の多層構造体に含まれていたものであってもよいし、必要に応じて、新たに添加してもよい。
【0102】
<樹脂組成物の調製>
通常、本発明の樹脂組成物の主原料として用いられるものは、EVOH樹脂層およびポリオレフィン系樹脂層を含有する多層構造体のスクラップの回収物である。場合によって、各種包装材として使用済みの該多層構造体を利用することも可能である。一般に食品等の包装材として用いられている多層構造体は、EVOH樹脂層及びポリオレフィン系樹脂層以外にも、接着剤樹脂層やリサイクル層が含まれていてもよい。
【0103】
多層構造体の製品製造時に発生するくずや端部等の不要部分(スクラップ)、廃棄物として回収された多層構造体の回収物は、通常、粉砕した後、必要に応じて篩い等で粒度を調節し、再び押出機等で溶融成形に供される。
【0104】
まず、前記した多層構造体の回収物を再び押出機等で溶融成形に供するために、回収物を粉砕する。回収物の粉砕にあたっては、公知の粉砕機を使用することにより行うことができる。この粉砕品の形状や粒径については、公知の手法で調整することが可能であり、例えば、JIS−K6891の「5.3見かけ密度」試験方法に準拠して測定される値で、通常0.25〜0.85g/mlであり、さらには0.3〜0.7g/ml、特には0.35〜0.6g/mlであることが好ましい。この見掛け密度が小さすぎる場合、リサイクル層中のEVOHの分散が不良となり、得られる成形品のリサイクル層の溶融成形性や機械的特性が低下する傾向があり、大きすぎる場合、押出機での供給不良の発生によって得られる成形品のリサイクル層の溶融成形性が低下する傾向がある。
【0105】
この見掛け密度については、粉砕機の粉砕刃の形状、粉砕刃の回転数、粉砕の処理速度、篩として使用するメッシュの目開きの大きさ等を任意に調整することにより、コントロールすることが可能である。
【0106】
原料として用いる多層構造体におけるEVOH樹脂層とポリオレフィン系樹脂層の厚み比率、接着剤樹脂層やリサイクル層の含有比率などは、特に限定しない。
【0107】
本発明の樹脂組成物は、回収品の粉砕品に、さらに各成分((A)成分、(B)成分、(C)成分、さらに所望により(D)成分、(E)成分、(F)成分)が、所定範囲で含有されるように調整して得られる。かかる樹脂組成物は、溶融混錬により混合してペレット状の樹脂組成物を得、かかる樹脂組成物を後述する溶融成形に供することも可能であるし、(A)成分−(F)成分を適宜組み合わせて作成したペレットを、バンバリーミキサー等を用いて機械的混合法(ペレットドライブレンド)にて混合を行い、ドライブレンド物としてそのまま後述する溶融成形に供することも可能である。好ましくは溶融混練法にて混合する方法である。
【0108】
上記溶融混合方法としては、例えば、上記回収物の粉砕物に、(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物、および必要に応じて、(D)他の改質剤、(F)添加剤、さらに配合比調節するために(A)EVOH樹脂、(B)ポリオレフィン系樹脂、(E)他の熱可塑性樹脂を配合してドライブレンドしたものを再溶融混練する方法や、上記回収物を再溶融混練し、これに(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物、および必要に応じて、(D)他の改質剤、(F)添加剤、さらに配合比を調節するために(A)EVOH樹脂、(B)ポリオレフィン系樹脂、(E)他の熱可塑性樹脂を追加混合する方法等が挙げられる。
【0109】
上記溶融混練に用いる機械は特に限定せず、公知の溶融混練機を用いることができる。例えば、ニーダールーダー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、プラストミル、押出機等が挙げられる。押出機の場合、単軸または二軸の押出機等が挙げられ、必要に応じて、ベント吸引装置、ギヤポンプ装置、スクリーン装置等を設けることも好ましい。かかる溶融混練温度は、通常150〜300℃、好ましくは170〜250℃である。
【0110】
以上のようにして調製される本発明の樹脂組成物は、相溶性が乏しいEVOH樹脂とポリオレフィン系樹脂との混合物でありながら、溶融成形に際して、ダイリップ付着物の発生を抑制できる。また、(C)成分の共存により、(C)成分である多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物が溶融混練の際のEVOH樹脂の粘度安定化をもたらす効果は、樹脂組成物の製造においても、安定的に樹脂組成物を製造できるという効果をもたらす。
【0111】
尚、本発明の樹脂組成物は、多層構造体の回収品を原料として用いる場合に限定せず、上記配合組成を有するように各種のバージン樹脂を調製すればよく、そのようにして調製される樹脂組成物も、本発明に包含される。
【0112】
<成形品>
本発明の成形品は、上記本発明の樹脂組成物を溶融成形して得られるもので、樹脂組成物単独層からなる各種成形品、樹脂組成物を含む多層構造体およびその成形品が挙げられる。
【0113】
かかる溶融成形方法としては、押出成形法(T−ダイ成形押出、インフレーション成形押出、ブロー成形、異型押出等)、射出成形法が主として採用される。溶融成形温度は、通常150〜300℃の範囲から選ぶことが多い。
【0114】
本発明の多層構造体における、リサイクル層以外の層は、目的により調節可能である。EVOH樹脂層、EVOH樹脂以外の熱可塑性樹脂(他の熱可塑性樹脂)層などが含まれる。前記他の熱可塑性樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および/または側鎖に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニルエステル系樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂、ポリスチレン等の芳香族炭化水素系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー等のエラストマー類、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。
これらは多層構造体を使用する目的、用途により、適宜選択される。機械的強度を付与するためには、経済的な点からポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等の安価な樹脂が好ましく、耐熱水性を向上させるためには、ポリ環状オレフィン系樹脂が好ましい。特にポリ環状オレフィン系樹脂は疎水性樹脂として好ましく用いられる。
【0115】
多層構造体の層構成は特に限定しない。層の数はのべ数にて通常2〜15、好ましくは3〜10層である。
多層構造体の層構成は、EVOH樹脂層をa、(a1、a2、・・・)、他の熱可塑性樹脂層をb(b1、b2、・・・)、本発明の樹脂組成物からなるリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等などが挙げられる。
【0116】
なお、上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を設けることができ、かかる接着性樹脂としては、公知ものを使用すればよい。かかる接着性樹脂はbの樹脂の種類によって異なるため、適宜選択すればよいが、代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等であり、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることが可能である。
【0117】
上記の如き多層構造体は、次いで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体近傍の温度で、通常40〜170℃、好ましくは60〜160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0118】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80〜180℃、好ましくは100〜165℃で通常2〜600秒間程度熱処理を行う。
【0119】
さらに、多層構造体におけるリサイクル層の含有割合、樹脂組成物層と他の熱可塑性樹脂層との厚みの比、リサイクル層の厚み比などは、目的の成形品に応じて適宜設定される。
【0120】
また、得られる多層構造体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0121】
以上のような構成を有する本発明の樹脂組成物からなる成形品および樹脂組成物層を含む多層構造体およびその成形品は、再生品、再々生品を問わず、フィルム、シート等の膜状、カップ、トレイなどの広口容器、タンク、ボトル等の中空容器として各種用途に用いられ、特に好ましくは広口容器である。
【0122】
本発明の樹脂組成物からなる成形品、並びに当該樹脂組成物からなる層(樹脂組成物層)を含む多層構造体及びその成形品の用途としては、一般的な食品、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、スープ、飲料、化粧品、医薬品、洗剤、香粧品、工業薬品、農薬、燃料等各種の容器として有用である。特に、マヨネーズ、ケチャップ、ソース、味噌、わさび、からし、焼肉等のたれ等の半固形状食品・調味料、サラダ油、みりん、清酒、ビール、ワイン、ジュース、紅茶、スポーツドリンク、ミネラルウォーター、牛乳等の液体状飲料・調味料用のボトル状容器やチューブ状容器、フルーツ、ゼリー、プリン、ヨーグルト、マヨネーズ、味噌、加工米、調理済み食品、スープ等の半固形状食品・調味料用のカップ状容器や、生肉、畜肉加工品(ハム、ベーコン、ウインナー等)、米飯、ペットフード用の広口容器の用途に有用である。
【実施例】
【0123】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0124】
〔使用した成分〕
(A)EVOH樹脂
エチレン構造単位含有率29モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.5g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物を用いた。かかるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物は、ホウ酸をホウ素換算で0.015%、酢酸ナトリウムをナトリウム換算で0.015%、リン酸二水素カルシウムをリン酸根換算で0.005%含有する。
【0125】
(B)ポリオレフィン系樹脂
ポリプロピレン(密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分(230℃、荷重2160g)、日本ポリプロ社製の「ノバテックPP EA7A」)を用いた。
【0126】
(C)多価金属硫酸塩の無水物
富田製薬社製の硫酸マグネシウム無水物を用いた。
【0127】
(D)他の改質剤
(D1)エチレン−酢酸ビニル共重合体
東ソー社製の「ウルトラセン3B53A」を用いた。これは、酢酸ビニル含有率28重量%、190℃、荷重2160g条件下でのMFRが5.7g/10分である。
【0128】
(D2)エチレン高含有EVOH
東ソー社製の「メルセンH0051K」を用いた。これは、エチレン構造単位含有率89モル%、ケン化度99モル%、190℃、荷重2160g条件下でのMFRが6.5g/10分のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物である。
【0129】
(D3)ハイドロタルサイト類
ハイドロタルサイト固溶体(協和化学工業社製「ZHT−4A」)を用いた。
【0130】
(D4)(D'4)高級脂肪酸金属塩
(D4−1)(D4−2)として、ステアリン酸カルシウム(日本油脂社製)「ニッサンカルシウムステアレートS」を用いた。(D'4−1)として、ステアリン酸カルシウム(日東化成製)を用いた。(D4−3)として、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム (勝田化工社製)「EMS−6」を用いた。ここで、ペレットの表面に付着させる高級脂肪酸金属塩(すなわち、外添タイプ)を(D'4)と称して、ペレットに練りこんだ高級脂肪酸金属塩(すなわち、内添タイプ)(D4)と区別している。
【0131】
(E)他の熱可塑性樹脂
ポリアミド系樹脂として末端調整6ナイロン(融点220℃、末端カルボキシル基含有量20μeq/ポリマー1g)を用いた。
無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレンランダム共重合体(密度0.90g/cm3、MFR3.2g/10分(230℃、荷重2160g)、三井化学社製の「アドマーQF500」)を用いた。
【0132】
〔樹脂組成物ペレットの製造、並びに評価〕
No.1:
(A)、(C)、(D4−2)成分を表1に示すような割合で配合し、ミキシングゾーン2箇所を有する二軸押出機(φ44mm、L/D=49)に仕込み、溶融混練(230℃でスクリュー回転数450rpm、吐出量200kg/hr、樹脂の平均混練時間2分)して、ストランド状に押し出し、カットして得たEVOH樹脂ペレットに、(B)、(E)を表1に示すような割合で配合して、ドライブレンドした。得られた樹脂組成物No.1について、下記評価方法に基づきダイリップ付着物量を測定した。結果を表1に示す。
【0133】
尚、No.1では、ポリオレフィン樹脂(B)100重量部に対してEVOH樹脂(A)を4.8重量部含有し、EVOH樹脂(A)100重量部に対して多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物(C)を10重量部含有するものである。また、高級脂肪酸塩(D4)の含有量は、EVOH樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量100重量部対して、0.03重量部である。
【0134】
[ダイリップ付着物量の測定評価]
単軸押出機にて、下記条件で溶融押出を10回繰り返し、溶融押出の操作中に、ダイリップに発生したゲル状物を採取して、その積算重量を測定した。
[溶融押出条件]
・押出機:40mmD、L/D=28
・スクリュー:フルフライトタイプ、CR=3.4
・スクリーンパック:90/120/90メッシュ
・ダイ:3.5mm径×3穴 ストランドダイス
・設定温度:C1/C2/C3/C4/A/D=200℃/200℃/220℃/230℃/230℃/230℃(ここで、C1〜C4,A,Dとは押出装置の加熱部を示す。具体的には、Cは押出装置のバレル部を示し、ホッパーに近い部位からC1〜C4であり、C4はスクリュー先端部である。また、Aはアダプター部、Dはダイス部を示す。)
・スクリュー回転数:40rpm
【0135】
No.2:
(A)、(C)、(D4−2)および(E)のうちのポリアミド系樹脂を表1に示すような割合で配合し、ミキシングゾーン2箇所を有する二軸押出機(φ44mm、L/D=49)に仕込み、溶融混練(230℃でスクリュー回転数450rpm、吐出量200kg/hr、樹脂の平均混練時間2分)して、ストランド状に押し出し、カットして、ポリアミド系樹脂を含有したEVOH樹脂ペレットを作製した。作製したEVOH樹脂ペレット、(B)、及び(E)のうちの変性ポリオレフィン系樹脂を、表1に示すような割合で配合されるようドライブレンドした。得られた樹脂組成物No.2について、No.1と同様にしてダイリップ付着物量を測定した。結果を表1に示す。
【0136】
尚、No.2では、ポリオレフィン系樹脂(B)100重量部に対してEVOH樹脂(A)を4.3重量部含有し、EVOH樹脂(A)100重量部に対して多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物(C)を11重量部含有するものである。また、高級脂肪酸塩(D’4)の含有量は、EVOH樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量100重量部に対して、0.05重量部である。
【0137】
No.3:
(A)、(C)、(D4−2)を表1に示すような割合で配合し、ミキシングゾーン2箇所を有する二軸押出機(φ44mm、L/D=49)に仕込み、溶融混練(230℃でスクリュー回転数450rpm、吐出量200kg/hr、樹脂の平均混練時間2分)して、ストランド状に押し出し、カットして得たペレット(EVOH樹脂ペレット);(D1)、(D2)、(D3)、(D4−1)を表1に示すような割合で配合し、ミキシングゾーン2箇所を有する二軸押出機(φ44mm、L/D=49)に仕込み、溶融混練(230℃でスクリュー回転数450rpm、吐出量200kg/hr、樹脂の平均混練時間2分)して、ストランド状に押出し、カットして得たペレットに、高級脂肪酸塩(D4'−1)を付着させたペレット(改質剤ペレット);および(B)、(E)を表1に示すような割合で配合されるようドライブレンドした。得られた樹脂組成物No.3について、No.1と同様にしてダイリップ付着物量を測定した。結果を表1に示す。
【0138】
尚、No.3において、ポリオレフィン系樹脂(B)100重量部に対してEVOH樹脂(A)を5重量部含有し、EVOH樹脂(A)100重量部に対して多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物(C)を10重量部含有するものである。また、エチレン高含有EVOH(D2)の含有量が、EVOH樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量100重量部に対して0.08重量部であり、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(D1)100重量部に対して2.3重量部である。さらに、高級脂肪酸塩(D4+D'4)の含有量が、EVOH樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量100重量部に対して、0.25重量部である。
【0139】
No.4:
(A)、(C)、(D4−2)および(E)のうちポリアミド系樹脂を表1に示すような割合で配合し、ミキシングゾーン2箇所を有する二軸押出機(φ44mm、L/D=49)に仕込み、条件で溶融混練(230℃でスクリュー回転数450rpm、吐出量200kg/hr、樹脂の平均混練時間2分)して、ストランド状に押し出し、カットして、ポリアミド系樹脂を含有したEVOH樹脂ペレットを作製した。得られたEVOH樹脂ペレット;(D1)、(D2)、(D3)、(D4−1)を表1に示すような割合で配合し、ミキシングゾーン2箇所有する二軸押出機(φ44mm、L/D=49)に仕込み、溶融混練(230℃でスクリュー回転数450rpm、吐出量200kg/hr、樹脂の平均混練時間2分)して、ストランド状に押出し、カットして得たペレットに、高級脂肪酸塩(D4'−1)を付着させたペレット(改質剤ペレット);および(B)、(E)のうち変性ポリオレフィン系樹脂を、表1に示すような割合で配合されるようドライブレンドした。得られた樹脂組成物No.3について、No.1と同様にしてダイリップ付着物量を測定した。結果を表1に示す。
【0140】
尚、No.4において、ポリオレフィン系樹脂(B)100重量部に対してEVOH樹脂(A)を4.4重量部含有し、EVOH樹脂(A)100重量部に対して多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物(C)を11重量部含有するものである。また、エチレン高含有EVOH(D2)の含有量が、EVOH樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量100重量部に対して、0.09重量部であり、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(D1)100重量部に対して2.3重量部である。さらに、高級脂肪酸塩(D4+D'4)の含有量が、EVOH樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量100重量部に対して、0.28重量部である。
【0141】
No.5:
(C)、(D4−2)を用いなかった以外はNo.1と同様にしてブレンドして、樹脂組成物No.5を得、これについて、No.1と同様にしてダイリップ付着物量を測定した。結果を表1に示す。
尚、No.5において、ポリオレフィン系樹脂(B)100重量部に対してEVOH樹脂(A)を5.3重量部含有する。
【0142】
No.6:
(C)を用いず、(D4−2)に代えて(D4−3)12−ヒドロキシステアリン酸Mgを用いた以外は、No.2と同様にしてブレンドして、樹脂組成物No.6を得、これについて、No.1と同様にしてダイリップ付着物量を測定した。結果を表1に示す。 尚、No.6においては、ポリオレフィン系樹脂(B)100重量部に対してEVOH樹脂(A)を4.8重量部含有し、高級脂肪酸塩(D4+D'4)の含有量が、EVOH樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量100重量部に対して、0.05重量部である。
【0143】
【表1】

【0144】
No.1とNo.5、No.2とNo.6のそれぞれの比較から、硫酸マグネシウムの含有により、ダイリップ付着物の発生が抑制されることがわかる。相分離した熱劣化物に起因するダイリップ付着物の発生が抑制されるので、再溶融成形品へのかかる熱劣化物の混入を抑制することが可能である。すなわち、EVOH樹脂層含有多層構造体のスクラップや回収されたEVOH樹脂含有成形品のリサイクルに有効活用できる。
【0145】
No.3,4は、さらに従来より公知の改質剤を配合した場合であるが、所定範囲内の併用では、硫酸マグネシウムとの共存により、改善効果が相殺されていないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の樹脂組成物は、ダイリップ付着物の発生が抑制されている。また、従来より公知の改質剤と組み合わせることで、さらに外観の良好な成形品を得ることができる。従って、EVOH樹脂層含有多層構造体のスクラップや回収されたEVOH樹脂含有成形品を、本発明の樹脂組成物組成に倣って調製することにより、有用にリサイクルできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン含有率が20〜60モル%のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物、(B)ポリオレフィン系樹脂、及び(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を含む樹脂組成物において、
(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物を(B)ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部含有し、且つ(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を前記(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物100重量部に対して1重量部以上、100重量部未満含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
(D1)エチレン−酢酸ビニル系共重合体及び(D2)エチレン含有率70モル%以上のエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物を、含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(D2)エチレン含有率70モル%以上のエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物の含有量が、(A)エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物及び(B)ポリオレフィン系樹脂の合計量100重量部に対して、0.3重量部未満である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D2)エチレン含有率70モル%以上のエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物の含有量が、(D1)エチレン−酢酸ビニル系共重合体含有量100重量部に対して、1〜30重量部である請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物層からなる層を少なくとも1層含む多層構造体。
【請求項7】
(A)エチレン含有率が20〜60モル%のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物を含有する層と(B)ポリオレフィン系樹脂を含有する層とを有する多層構造体の回収物を溶融成形して得られる樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する多層構造体の製造方法において、
前記回収物を、前記(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物100重量部に対して1重量部以上、100重量部未満の(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物の存在下で、溶融成形することを特徴とする多層構造体の製造方法。
【請求項8】
前記(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物は、予め前記(A)エチレン含有率20〜60モル%のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物の含有層に含まれている請求項7に記載の多層構造体の製造方法。

【公開番号】特開2012−193327(P2012−193327A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126864(P2011−126864)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】