説明

樹脂組成物及びこれを用いたプリプレグ並びに繊維強化複合材料

【課題】耐熱性と靭性に優れる樹脂組成物、及びタック性、ドレープ性に優れるプリプレグ、並びに耐熱性と靭性に優れる繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】(a)式(I)で表されるマレイミド化合物、(b)1,6−ビスマレイミド(2,2,4−トリメチル)ヘキサン、(c)ジアリルビスフェノールAを必須成分として所定の量で含む樹脂組成物を強化繊維に含浸する。


(上式中、nは平均して0.3以上0.4以下である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び靭性に優れる樹脂組成物、及びこれを用いたプリプレグ、並びに繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料のマトリクス樹脂として用いられるエポキシ樹脂は、耐熱性に乏しく、例えば、180℃を超えるような高温環境下では耐熱要求を十分に満足できない。また、耐熱性樹脂として知られているポリイミド樹脂は、耐熱性は優れるものの、プリプレグを製造する際に溶融含浸が非常に困難であり、製造したプリプレグのタックやドレープ性が全くないなどの問題がある。そのため耐熱性と製造したプリプレグのタック、ドレープ性とをバランス良く備えたマレイミド化合物が繊維強化複合材料用マトリクス樹脂として注目されている。
【0003】
しかしながら、マレイミド化合物は、工業的に利用できるそのほとんどのものが室温環境下で固体結晶であり、かつ一般的にその結晶の融解温度は高温である。しかし、これを結晶のまま樹脂組成物の成分として用いると、強化繊維へ含浸する際の大きな妨げとなり、プリプレグの品質も不安定となってしまう。この問題の解決手段として、以下の2種の方法が挙げられる。
【0004】
第一の方法としては、マレイミド化合物を溶剤中に溶解させて用いる方法である。しかし、この方法を利用して得られるプリプレグは溶剤が残存しやすく、繊維強化複合材料の性能を低下させる大きな要因となる。
【0005】
第二の方法としては、樹脂組成物の一成分として液状のアリル化合物を用い、樹脂組成物の調製過程でマレイミド化合物をこれへ溶解させる方法である。しかし、一般的にその溶解温度は高温であり、溶解操作中に樹脂組成物が反応を開始してしまうため、工業的に製造を行う場合、当該樹脂組成物の品質を一定に維持することは困難である。例えば、特許文献1では、実施例1の樹脂組成物の調製の際、140℃という高温でマレイミド化合物の溶解を行っている。
【0006】
さらに、マレイミド化合物は、結晶性が高く、溶解が不完全であると樹脂組成物中に結晶が析出してしまうという問題もある。また、この方法で調製したマレイミド化合物を主とする樹脂組成物は、一般的にアリル化合物を多量に配合しなければ高粘度であり、ポリイミドほどではないが、これを強化繊維へ含浸してなるプリプレグのタック性、ドレープ性が不足するという問題、及びこれを成形して得られる繊維強化複合材料の靭性が不足するという問題がある。
【0007】
一方、多量にアリル化合物を配合した場合、マレイミド化合物が有する良好な耐熱性を損ねてしまうという問題がある。例えば、特許文献2では、実施例としてマレイミド化合物と同量のアリル化合物を用いて樹脂組成物を調製している。粘度測定の結果から当該樹脂組成物を含浸してなるプリプレグのタック性、ドレープ性は、最低限使用可能な範囲にあると推測される。しかし、アリル化合物を多量に配合しているため、硬化後のガラス転移温度が251℃と低い。また、靭性の指標となる曲げ伸度も4.2%と低く、十分な曲げ伸度を得るにはより多くのアリル化合物の配合が必要であると考えられる。
【0008】
マレイミド化合物のアリル化合物への溶解温度の高さ、及び調製した樹脂組成物中でのマレイミド化合物の再結晶という問題を解決する方法として、特許文献3などで、あらかじめ複数のマレイミド化合物の共融混合物を調製する方法が開示されている。しかし、当該特許文献中の実施例から推測して、特許文献2と同様に、樹脂組成物の粘度、及び硬化した樹脂組成物の靭性と耐熱性とをバランスよく維持することは困難である。さらに、マレイミド化合物の共融混合物の調製の分だけ樹脂組成物を製造するコストがかさむという問題もある。
【0009】
特許文献4では、繊維強化複合材料とした際に発生するクラックが低減され、かつ耐熱性がより向上された樹脂組成物が開示されている。ここで、繊維強化複合材料とした際に発生するクラックが低減するということは、硬化した樹脂組成物の靭性が向上したことを意味する。この発明では、樹脂組成物を構成する要素の一つとして、1分子中に芳香族環を3個以上含む芳香族ビスマレイミド化合物を含むことが特徴の一つである。この成分を含むことにより、硬化した樹脂組成物の靭性が向上していると推測される。しかし、本成分を用いる場合、一般的なマレイミド化合物を用いた場合と比較して、硬化した樹脂組成物の耐熱性が低い傾向にある。そのため、高い耐熱性を維持するためには、アリル化合物等の耐熱性を下げる成分をあまり加えることができず、樹脂組成物の粘度は大変高く、この樹脂組成物を強化繊維へ含浸して成るプリプレグのタック性、ドレープ性は大変不良となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−176246号公報
【特許文献2】特開平2−110158号公報
【特許文献3】特開平2−113006号公報
【特許文献4】特開2009−263624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、耐熱性と靭性に優れる樹脂組成物、及びタック性、ドレープ性に優れるプリプレグ、並びに耐熱性と靭性に優れる繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、(a)式(I)で表されるマレイミド化合物、(b)1,6−ビスマレイミド(2,2,4−トリメチル)ヘキサン、(c)ジアリルビスフェノールAを必須成分とし、かつ各成分が式(1)から式(6)を全て満たす樹脂組成物であり、この樹脂組成物を強化繊維に含浸してなるプリプレグ、及びこのプリプレグを成形して得られる繊維強化複合材料である。本発明では、強化繊維は炭素繊維であることが好ましい。
【0013】
【化1】

(上式中、nは平均して0.3以上0.4以下である)
【0014】
a+b=100 ・・・(1)
c≧−3/2b+135/2 ・・・(2)
c≧15 ・・・(3)
30≦a≦90 ・・・(4)
10≦b≦70 ・・・(5)
c≧−1/4b+428/7 ・・・(6)
(ただし、式(1)から式(6)における単位は、質量部であり、a、b、cはそれぞれ(a)成分、(b)成分、(c)成分の量である)
【発明の効果】
【0015】
本発明により、耐熱性と靭性に優れる樹脂組成物、及びタック性、ドレープ性に優れるプリプレグ、並びに耐熱性と靭性に優れる繊維強化複合材料が提供され、この材料は宇宙・航空用途、産業用途などの高い耐熱性が要求される材料等に好適に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】G’−Tg、tanδmaxを求めるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、本発明の精神とその実施の範囲内において様々な変形が可能であることを理解されたい。
【0018】
<(a)成分>
(a)式(I)で表されるマレイミド化合物は、一般的なマレイミド化合物、例えば、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドと比較して融点が低く、それに応じて樹脂組成物の調製時におけるアリル化合物などの液状成分への溶解温度も低い。また、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドなどは結晶性が高く、樹脂組成物の調製時の溶解が不十分であると、樹脂組成物中にマレイミド化合物の結晶が析出し、物性低下の原因やプリプレグ製造時の妨げとなるが、(a)式(I)で表されるマレイミド化合物は一般的なマレイミド化合物と比較して結晶性が低く、樹脂組成物中に結晶が析出しにくい特性を有する。
【0019】
また、(a)成分のnは平均して0.3以上0.4以下である。例えば、平均してn=0.35の(a)成分は、n=0の化合物とn=1や2などの化合物との混合物である。n=0の場合の化合物は、ジフェニルメタンビスマレイミドとなり、上述したとおり結晶性が高く、融点も150℃以上と高いが、nが平均して0.3以上0.4以下である(a)成分の結晶はn=0の化合物とn=1や2などの化合物とから成っているため結晶性が低下し、結晶の融点も4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドと比較して30℃以上低い。nが小さすぎると結晶の融点はn=0のものと大きな差がなく、樹脂組成物調製時のマレイミド化合物の溶解温度も同様である。また、nが0.4より大きなものも、(a)成分と同様の効果があると考えられるが、工業的に製造が困難であり、利用できるものを入手することは難しい。
【0020】
マレイミド化合物として(a)成分のみを用いた樹脂組成物は、従来のマレイミド化合物と比較して、樹脂組成物調製時の溶解温度が低く、樹脂組成物調製後に樹脂組成物中へ結晶も析出しにくいといった利点を有する。一方で、アリル化合物を多量に配合しなければ樹脂組成物の粘度が高くなってしまい、故にこれを強化繊維へ含浸してなるプリプレグのタック性、ドレープ性は大変悪くなる。樹脂組成物の粘度を低くするためアリル化合物を多量に配合すると(a)成分が有する良好な耐熱性を損ねてしまう。
【0021】
<(b)成分>
(b)1,6−ビスマレイミド(2,2,4−トリメチル)ヘキサンは、(a)式(I)で表されるマレイミド化合物と比較してさらに融解温度が低く、それに応じて樹脂組成物調製時にアリル化合物などの液状成分への溶解温度も低い。
【0022】
マレイミド化合物として(b)のみを用いた樹脂組成物は、従来のマレイミド化合物と比較して樹脂組成物調製時の溶解温度が低く、樹脂組成物の粘度は十分に低く、プリプレグとした時に良好なタック性、ドレープ性を有す。また、これの硬化物の曲げ試験では、降伏を示す程度の良好な靭性を有している。しかし、樹脂組成物の耐熱性は、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドのような、一般的なマレイミド化合物を主とする樹脂組成物と比較して大きく劣り、さらに樹脂組成物調製後、樹脂組成物中に(b)成分の結晶が析出しやすいといった欠点を有する。
【0023】
<(a)成分と(b)成分との共用により得られる効果>
(a)式(I)で表されるマレイミド化合物、(b)1,6−ビスマレイミド(2,2,4−トリメチル)ヘキサンといった2種のマレイミド化合物を用いることで、アリル化合物を多量に配合することなく、マレイミド化合物の高い溶解温度、樹脂組成物が高粘度、低い靭性といったマレイミド化合物を主成分とした樹脂組成物が持つ欠点を改善することができる。
【0024】
<(c)成分>
(c)ジアリルビスフェノールAは、マレイミド化合物の溶解温度を下げ、樹脂組成物の粘度を低くするといった効果があり、他のアリル化合物と比較して、配合しても樹脂組成物の耐熱性低下への影響も少ない。しかし、多量に配合するとマレイミド化合物が有する良好な耐熱性を損ねてしまう。
【0025】
<式(2)、(3)>
各構成成分が前記の式(2)及び式(3)の範囲内となることで、樹脂組成物は良好な靭性を、プリプレグとした場合には良好なタック性、ドレープ性を得ることができる粘度となる。
【0026】
<式(4)、(5)>
各構成成分が前記の式(4)及び式(5)の範囲内となることで、樹脂組成物は高い耐熱性を得ることができる。樹脂組成物中に(b)成分を多量に含むと、樹脂組成物調製後、樹脂組成物中に(b)成分の結晶が析出しやすくなる。樹脂組成物に高い耐熱性を付与し、かつ構成成分の結晶析出を防ぐためには、(a)成分、(b)成分の量は、それぞれ、 40 ≦a≦85 、 15≦b≦60 の範囲にあるのが好ましい。
【0027】
<式(6)>
各構成成分が前記の式(6)の範囲内となることで、樹脂組成物は高い耐熱性を得ることができる。
【0028】
上述した理由から、(a)成分、(b)成分、(c)成分が式(1)から式(6)を全て満たすことで、高い耐熱性、良好な靭性を保持する樹脂組成物、タック性、ドレープ性に優れるプリプレグ、及び高い耐熱性、高い靭性を持つ繊維強化複合材料を得ることができる。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、(a)成分、(b)成分、(c)成分を必須成分とするものであるが、発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて(a)成分、(b)成分、(c)成分以外の公知の成分、例えば、マレイミド化合物、アリル化合物、硬化剤、硬化助剤、熱硬化性樹脂、揺変剤、充填剤、安定剤、難燃剤、顔料などを含有させてもよい。
【0030】
マレイミド化合物を主とする樹脂組成物は、反応開始温度、反応速度が共に低く、これが原因で強化繊維へ樹脂組成物を含浸させて成るプリプレグを成形する際に多量の樹脂フローが発生するが、トリフェニルホスフィン、ジクミルパーオキシドなどの公知の硬化助剤を用いることで、上記の樹脂フローを抑制することが可能である。
【0031】
本発明のプリプレグは、強化繊維に本発明のエポキシ樹脂組成物を含浸することにより得られる。強化繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などが挙げられ、中でも炭素繊維をプリプレグに使用することが、高い比強度、高い比弾性率を示しうることから特に好ましい。
【0032】
本発明のプリプレグは、積層後、積層物に圧力を付与しながら加熱硬化させることにより、本発明の繊維強化複合材料とすることができる。熱及び圧力を付与する方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、ラッピングテープ法及び内圧成形法などが挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例、比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。実施例、比較例で用いた樹脂組成物の原料、調製方法、及び各物性の測定方法を以下に示す。各樹脂組成物の組成、及び物性の測定結果を表1に示す。なお、これらは本発明の範囲を実施例に限定させるものではない。
【0034】
<原料>
本発明の実施例では、次の市販品を使用した。
(a)成分
フェニルメタンマレイミドオリゴマー(n=0.35)(商品名:BMI−2300、大和化成工業株式会社製)
(b)成分
1,6−ビスマレイミド(2,2,4−トリメチル)ヘキサン(商品名:BMI−TMH、大和化成工業株式会社製)
(c)成分
ジアリルビスフェノールA(商品名:Matrimid5292B、ハンツマン社製)
ジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日本油脂株式会社製)
2,2’−ビス−[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン(商品名:BMI−80、ケイ・アイ化成株式会社製)
4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(商品名:BMI、ケイ・アイ化成株式会社製)
【0035】
<樹脂組成物の調製(実施例1〜14及び比較例1〜8)>
表1で示した樹脂組成の比率で原料をフラスコへ秤量し、100℃以下で加熱・撹拌することで樹脂組成物を得た。ただし、原料にジクミルパーオキシドを含む場合のみ、次の調製方法で行った。ジクミルパーオキシドを除く原料をフラスコで秤量し、100℃以下で加熱・撹拌を行った。マレイミド化合物の結晶が、アリル化合物へ完全に溶解したことを確認後、70℃以下まで冷却し、得られた混合物にジクミルパーオキシドを添加し、加熱・撹拌した。
【0036】
<樹脂組成物の調製(比較例9〜12)>
表1で示した樹脂組成の比率で原料をフラスコへ秤量し、150℃以下で加熱・撹拌することで樹脂組成物を得た。調製時間は1時間以内とした。ただし、原料にジクミルパーオキシドを含む場合のみ、次の調製方法で行った。ジクミルパーオキシドを除く原料をフラスコへ秤量し、150℃以下で加熱・撹拌を行った。マレイミド化合物の結晶が、アリル化合物へ完全に溶解したことを確認後、70℃以下まで冷却し、得られた混合物にジクミルパーオキシドを添加し、加熱・撹拌した。
【0037】
<樹脂組成物の粘度測定>
樹脂組成物の粘度を以下の測定条件で測定した。
測定条件
装置:AR−G2(ティー・エー・インスツルメント社製)
使用プレート:35mmΦパラレルプレート
プレートギャップ:0.5mm
測定周波数:10rad/sec
昇温速度:2℃/min
ストレス:3000dynes/cm
【0038】
<樹脂組成物の硬化>
調製した樹脂組成物を2枚のガラス板の間で2mmのスペーサーを用いてキャストし、180℃で6時間硬化、さらにガラス板とスペーサーをはずして243℃で6時間硬化し、樹脂硬化板を作製した。
【0039】
<樹脂硬化物のガラス転移温度、及びtanδmaxの測定>
上記で作製した硬化樹脂板をサンプルとし、DMA法によりガラス転移温度(G’−Tg)、及びtanδmaxを測定した。G’−Tg、tanδmaxは図1のとおり求めた。これらを樹脂組成物の耐熱性の指標とした。ただし硬化温度が243℃のため、G’カーブは250℃付近よりシフトし始め、大きく耐熱性が劣るものを除いてG’−Tgはおおよそ270℃から280℃であった。このためtanδmaxの方が、樹脂組成物が有する耐熱性の指標としてより好ましい。
測定条件
装置:ARES−RDA(ティー・エー・インスツルメント社製)
試験片サイズ:長さ55mm、幅12.7mm、厚み2mm
昇温速度:5℃/min
測定周波数:1Hz
歪:0.5%
測定温度範囲:約30℃〜約450℃
【0040】
<樹脂硬化物の曲げ試験>
同様にして得られた硬化樹脂板をサンプルとし、3点曲げ試験を行った。
試験条件
装置:インストロン4465型(インストロン社製)
試験片サイズ:長さ60mm、幅8mm、厚み2mm
クロスヘッドスピード:2.0mm/min
スパン/厚み比:16
測定環境
温度:23℃
湿度:50%RH
【0041】
<プリプレグの作成>
樹脂組成物を炭素繊維織物へ含浸させて、プリプレグを得た。得られたプリプレグは、適当なタックとドレープ性を有しており、作業性に優れていた。炭素繊維織物として三菱レイヨン株式会社製の炭素繊維(TR50S 15L)を用いた。炭素繊維織物プリプレグの炭素繊維目付は150g/m、樹脂含有率は33wt%であった。
【0042】
<プリプレグのタック確認>
プリプレグのタックを触感により、良好か否かを確認した。タックの強さは◎、○、△、×の順に4段階で表し、◎、○であるプリプレグは良好なタックを有しているとする。
確認環境
温度:23℃
湿度:50%RH
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
各原料の組成を特定の範囲とすることで、耐熱性及び靭性に優れる樹脂組成物を得ることができた。また、これらを強化繊維へ含浸して成るプリプレグは、良好なタック性を有していた。
【0046】
比較例4〜6の硬化樹脂板に反りが生じため、曲げ試験片を作成することができなかった。(b)成分を多量に含む場合、または(c)成分を少量しか含まない場合、もしくはその両方である場合に、樹脂硬化板に反りが生じる傾向がある。それぞれの配合量を前記式(1)から式(6)を全て満たす範囲とすることで、この問題を解決できる。
【0047】
また、比較例5では、樹脂組成物調製後、樹脂組成物中にマレイミド化合物の結晶が析出してしまい、粘度測定を行うことができなかった。(b)成分が多いと、樹脂組成物中にマレイミド化合物の結晶が析出しやすくなる傾向がある。(b)成分の配合量を前記式(1)から式(6)を全て満たす範囲とすることで、この問題を解決できる。
【0048】
実施例11は、実施例1に硬化触媒としてパークミルDを添加した樹脂組成物である。樹脂組成物に硬化触媒を添加することで、これを強化繊維へ含浸してなるプリプレグを成形する際の樹脂フローを抑制することができた。硬化触媒を添加することによる樹脂物性の大きな低下は見られなかった。
【0049】
比較例9〜12は、特許文献4の特許請求の範囲に基づいて調製した樹脂組成物である。前述のとおりBMI−80を主成分の一つとして用いているため、比較例9などでは比較的良好な靭性を示す一方で、耐熱性が低く、かつ樹脂組成物の粘度が高く、プリプレグとした時のタックは不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式(I)で表されるマレイミド化合物、(b)1,6−ジマレイミド(2,2,4−トリメチル)ヘキサン、(c)ジアリルビスフェノールAを必須成分とし、かつ各成分が式(1)から式(6)を全て満たす樹脂組成物。
【化1】

(上式中、nは平均して0.3以上0.4以下である)
a+b=100 ・・・(1)
c≧−3/2b+135/2 ・・・(2)
c≧15 ・・・(3)
30≦a≦90 ・・・(4)
10≦b≦70 ・・・(5)
c≧−1/4b+428/7 ・・・(6)
(ただし、式(1)から式(6)における単位は、質量部であり、a、b、cはそれぞれ(a)成分、(b)成分、(c)成分の量である)
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物を強化繊維に含浸してなるプリプレグ。
【請求項3】
強化繊維が炭素繊維である請求項2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
請求項2または3に記載のプリプレグを成形して得られる繊維強化複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2011−162631(P2011−162631A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25541(P2010−25541)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】